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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M |
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管理番号 | 1380759 |
総通号数 | 1 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-01-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-02-24 |
確定日 | 2022-01-11 |
事件の表示 | 特願2016−185586「制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月29日出願公開、特開2018− 50423、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成28年9月23日の出願であって,令和2年4月27日付けで拒絶の理由が通知され,同年6月24日に意見書とともに手続補正書が提出され,同年11月18日付けで拒絶査定(謄本送達日同年11月24日)がなされ,これに対して令和3年2月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ,同年4月30日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和2年11月18日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項 1 ・引用文献等 1−3 ・備考 <引用文献等一覧> 1.特開2016−119770号公報 2.国際公開第2007/069371号 3.特開2012−210138号公報 第3 審判請求時の補正について 審判請求時の補正(以下,「本件補正」という。)は,特許法17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。 本件補正によって,本件補正前の請求項1に, 「スイッチング素子とダイオードとリアクトルとを有し前記第1電力ラインと前記蓄電装置が接続された第3電力ラインまたは前記第2電力ラインとに接続されると共に前記第2,第3電力ラインのうち接続されている電力ラインと前記第1電力ラインとの間で電圧の変更を伴って電力をやりとりする第2昇圧コンバータ」 とあるのを,本件補正後に, 「スイッチング素子とダイオードとリアクトルとを有し前記第1昇圧コンバータに対して並列に接続されると共に前記第2電力ラインと前記第1電力ラインとに接続されるように設けられ、または、前記蓄電装置に接続される前記第2電力ラインと異なる第3電力ラインと前記第1電力ラインとに接続されるように設けられ、接続されている前記第2、第3電力ラインのうちのいずれかの電力ラインと前記第1電力ラインとの間で電圧の変更を伴って電力をやりとりする第2昇圧コンバータ」 とする補正は,本件補正前の請求項1の「第2昇圧コンバータ」について限定的に減縮するものである。 また,本件補正によって,本件補正前の請求項1に, 「前記制御手段は、前記モータのパワー変動の周波数の1次成分が前記電流フィードバック制御の共振周波数帯内であるときには、前記第1昇圧コンバータのリアクトルの電流の位相と前記第2昇圧コンバータのリアクトルの電流の位相とがずれるように前記第1,第2昇圧コンバータのスイッチング素子を制御する」 とあるのを,本件補正後に, 「前記制御手段は、前記モータのパワー変動の周波数の1次成分が前記電流フィードバック制御の共振周波数帯外であるときには、前記第1昇圧コンバータのリアクトルの電流の位相と前記第2昇圧コンバータのリアクトルの電流の位相とが同一になるように前記第1,第2昇圧コンバータのスイッチング素子を制御し、前記モータのパワー変動の周波数の1次成分が前記共振周波数帯内であるときには、前記第1昇圧コンバータのリアクトルの電流の位相と前記第2昇圧コンバータのリアクトルの電流の位相とがずれるように前記第1,第2昇圧コンバータのスイッチング素子を制御する」 とする補正は,本件補正前の請求項1の「制御手段」について限定的に減縮するものであるから,本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして,以下第4〜第6に示すように,本件補正後の請求項1に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。 第4 本願発明 本願請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された,次のとおりのものと認める。 「少なくとも1つのバッテリを有する蓄電装置と、スイッチング素子とダイオードとリアクトルとを有しモータが接続された第1電力ラインと前記蓄電装置が接続された第2電力ラインとに接続されると共に前記第2電力ラインと前記第1電力ラインとの間で電圧の変更を伴って電力をやりとりする第1昇圧コンバータと、スイッチング素子とダイオードとリアクトルとを有し前記第1昇圧コンバータに対して並列に接続されると共に前記第2電力ラインと前記第1電力ラインとに接続されるように設けられ、または、前記蓄電装置に接続される前記第2電力ラインと異なる第3電力ラインと前記第1電力ラインとに接続されるように設けられ、接続されている前記第2、第3電力ラインのうちのいずれかの電力ラインと前記第1電力ラインとの間で電圧の変更を伴って電力をやりとりする第2昇圧コンバータと、を備える電源装置に搭載され、 前記第1昇圧コンバータのリアクトルの電流が第1目標電流となると共に前記第2昇圧コンバータのリアクトルの電流が第2目標電流となるように前記第1,第2昇圧コンバータのスイッチング素子を電流フィードバック制御する制御手段を備える制御装置であって、 前記制御手段は、前記モータのパワー変動の周波数の1次成分が前記電流フィードバック制御の共振周波数帯外であるときには、前記第1昇圧コンバータのリアクトルの電流の位相と前記第2昇圧コンバータのリアクトルの電流の位相とが同一になるように前記第1,第2昇圧コンバータのスイッチング素子を制御し、前記モータのパワー変動の周波数の1次成分が前記共振周波数帯内であるときには、前記第1昇圧コンバータのリアクトルの電流の位相と前記第2昇圧コンバータのリアクトルの電流の位相とがずれるように前記第1,第2昇圧コンバータのスイッチング素子を制御する、 制御装置。」 第5 引用例 1 引用例1に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2016−119770号公報(平成28年6月30日公開。以下,これを「引用例1」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。) A 「【0016】 図1は、実施形態に係るハイブリッド車の駆動系を示す概略ブロック図である。第1の直流電源であるバッテリB1の直流出力(バッテリ電圧)VL1は、第1の電力変換器である昇圧コンバータ10−1によって昇圧される。また、第2の直流電源であるバッテリB2の直流出力(バッテリ電圧)VL2は、第2の電力変換器である昇圧コンバータ10−2によって昇圧される。 【0017】 バッテリB1,B2としては、リチウムイオン電池などを採用できるが、コンデンサとしてもよい。コンデンサは高出力型でありこれを主電源として通常のモータジェネレータの駆動に使用し、バッテリを補助電源として利用することも好適である。 【0018】 そして、昇圧コンバータ10−1,10−2の出力の正極側同士および陰極側同士が接続され、両者の出力がインバータINV1,INV2に供給される。 【0019】 インバータINV1には発電用の第1モータジェネレータMG1、インバータINV2には駆動用の第2モータジェネレータMG2が接続されている。 …(中略)… 【0021】 通常は、エンジンの出力により第1モータジェネレータMG1が発電し、第2モータジェネレータMG2またはエンジンENGの出力により車両が走行する。 【0022】 制御部30は、アクセル踏み込み量、車速から決定される目標トルクなどに応じてインバータINV2を制御して第2モータジェネレータMG2の駆動を制御して車両の走行を制御する。また、エンジンENGを駆動して車両の走行を制御する。また、バッテリの充電状態(SOC)に応じて、エンジンENGを駆動すると共にインバータINV1を制御して、発電電力によりバッテリB1,B2の充電を制御する。なお、車両の減速の際には、インバータINV2を制御して、第2モータジェネレータMG2による回生制動を行い、得られた回生電力によりバッテリB1,B2を充電する。また、第1モータジェネレータMG1により回生制動を行ってもよい。」 B 「【0026】 昇圧コンバータ10−1,10−2は、同様の構成を有しており、昇圧コンバータ10−2の符号を()書きとして、以下に説明する。昇圧コンバータ10−1(10−2)は、直列接続された2つのスイッチング素子S1,S2(S3,S4)と、スイッチング素子S1,S2(S3,S4)の中間点に接続された1つのリアクトルL1(L2)から構成されている。各スイッチング素子S1,S2(S3,S4)は、IGBTなどのトランジスタと、このトランジスタの逆方向電流を流すダイオードD1〜D4の並列接続からなっている。 【0027】 バッテリB1(B2)の正極にリアクトルL1(L2)の一端が接続され、リアクトルL1(L2)の他端がスイッチング素子S1,S2(S3,S4)の中間点に接続されている。スイッチング素子S1(S3)は、トランジスタのコレクタが第1および第2インバータINV1,INV2の正極母線に接続され、エミッタがスイッチング素子S2(S4)のトランジスタのコレクタに接続されている。スイッチング素子S2(S4)のトランジスタのエミッタは、バッテリB1(B2)の負極および第1および第2インバータINV1,INV2の負極母線に接続されている。 【0028】 また、リアクトルL1(L2)に流れるリアクトル電流IL1(IL2)を計測する電流センサA1(A2)が設けられている。そこで、昇圧前電圧センサV1,V2、電圧センサV3、電流センサA1(A2)で検出したバッテリ電圧VL1(VL2)、昇圧電圧VH、リアクトル電流IL1(IL2)が制御部30に供給される。」 C 「【0033】 そして、制御部30は、昇圧コンバータ10−1,10−2のスイッチング素子S1〜S4のスイッチングを制御して、昇圧電圧VHが目標値になるように制御する。この制御は、基本的に電圧センサV3で検出した昇圧電圧VHが目標値に一致するようにフィードバック制御することで行われる。一方、昇圧電圧VHは、第1および第2インバータINV1,INV2に流れる電流量と、上述したリアクトル電流IL1,IL2から決定できる。そこで、制御部30は、昇圧電圧VHを目標値にする際に、そのために必要なリアクトル電流IL1,IL2を計算し、このリアクトル電流IL1,IL2が目標値になるように制御する。」 D 「 図1」 2 引用発明 ア 上記記載事項Aの「第1の直流電源であるバッテリB1の直流出力(バッテリ電圧)VL1は、第1の電力変換器である昇圧コンバータ10−1によって昇圧され…(中略)…第2の直流電源であるバッテリB2の直流出力(バッテリ電圧)VL2は、第2の電力変換器である昇圧コンバータ10−2によって昇圧される」との記載から,引用例1には,“第1の直流電源であるバッテリB1の直流出力(バッテリ電圧)VL1は,第1の電力変換器である昇圧コンバータ10−1によって昇圧され,第2の直流電源であるバッテリB2の直流出力(バッテリ電圧)VL2は,第2の電力変換器である昇圧コンバータ10−2によって昇圧され”ることが記載されているといえる。 イ 上記記載事項Aの,昇圧コンバータ10−1,10−2の出力の正極側同士および陰極側同士が接続され、両者の出力がインバータINV1,INV2に供給され…(中略)…インバータINV1には発電用の第1モータジェネレータMG1、インバータINV2には駆動用の第2モータジェネレータMG2が接続され」との記載,及び上記記載事項Dの図1の回路図から,引用例1には,“昇圧コンバータ10−1及び昇圧コンバータ10−2は並列に接続されると共に,両者の出力がインバータINV1,INV2に供給され,インバータINV1には発電用の第1モータジェネレータMG1,インバータINV2には駆動用の第2モータジェネレータMG2が接続され”ることが記載されているといえる。 ウ 上記記載事項Bの,「昇圧コンバータ10−1,10−2は、同様の構成を有しており…(中略)…昇圧コンバータ10−1(10−2)は、直列接続された2つのスイッチング素子S1,S2(S3,S4)と、スイッチング素子S1,S2(S3,S4)の中間点に接続された1つのリアクトルL1(L2)から構成され…(中略)…各スイッチング素子S1,S2(S3,S4)は、IGBTなどのトランジスタと、このトランジスタの逆方向電流を流すダイオードD1〜D4の並列接続からなっている」との記載,及び上記記載事項Dの図1の回路図から,引用例1には,“昇圧コンバータ10−1及び昇圧コンバータ10−2は,直列接続された2つのスイッチング素子と,前記2つのスイッチング素子の中間点に接続された1つのリアクトル及びダイオードから構成され”ることが記載されているといえる。 エ 上記記載事項Bの,「リアクトルL1(L2)に流れるリアクトル電流IL1(IL2)を計測する電流センサA1(A2)が設けられ…(中略)…電流センサA1(A2)で検出したバッテリ電圧VL1(VL2)、昇圧電圧VH、リアクトル電流IL1(IL2)が制御部30に供給される」との記載から,引用例1には,“前記リアクトルに流れるリアクトル電流を計測する電流センサが設けられ,前記電流センサで検出したバッテリ電圧,昇圧電圧,リアクトル電流が制御部30に供給され”ることが記載されているといえる。 オ 上記記載事項Cの,「制御部30は、昇圧コンバータ10−1,10−2のスイッチング素子S1〜S4のスイッチングを制御して、昇圧電圧VHが目標値になるように制御する。この制御は、基本的に電圧センサV3で検出した昇圧電圧VHが目標値に一致するようにフィードバック制御することで行われ…(中略)…制御部30は、昇圧電圧VHを目標値にする際に、そのために必要なリアクトル電流IL1,IL2を計算し、このリアクトル電流IL1,IL2が目標値になるように制御する」との記載から,引用例1には,“制御部30は,昇圧コンバータ10−1及び昇圧コンバータ10−2のスイッチング素子のスイッチングを制御して,昇圧電圧が目標値になるように制御し,この制御は,基本的に電圧センサで検出した昇圧電圧が目標値に一致するようにフィードバック制御することで行われ,昇圧電圧を目標値にする際に,そのために必要なリアクトル電流を計算し,このリアクトル電流が目標値になるように制御”することが記載されているといえる。 カ 上記記載事項Aの,「制御部30は…(中略)…インバータINV2を制御して第2モータジェネレータMG2の駆動を制御…(中略)…インバータINV1を制御して、発電電力によりバッテリB1,B2の充電を制御する」との記載から,引用例1には,“制御部30は,インバータINV2を制御して第2モータジェネレータMG2の駆動を制御すると共に,インバータINV1を制御して,発電電力によりバッテリB1,B2の充電を制御”することが記載されているといえる。 キ 上記記載事項Dの図1の回路図において,昇圧コンバータ10−1及び昇圧コンバータ10−2の出力側に接続された,「VH」と記載された電力ラインは,インバータINV1,INV2を通じて,第1モータジェネレータMG1及び第2モータジェネレータMG2に接続されているから,“モータが接続された第1の電力ライン”といい得,昇圧コンバータ10−1の入力側に接続された,「VL1」と記載された電力ラインは,“バッテリB1が接続された第2の電力ライン”といい得,昇圧コンバータ10−2の入力側に接続された,「VL2」と記載された電力ラインは,“バッテリB2が接続された第3の電力ライン”といい得るから,引用例1には,“昇圧コンバータ10−1は,モータが接続された第1電力ライン及びバッテリB1が接続された第2電力ラインに接続され,昇圧コンバータ10−2は,前記第1電力ライン及びバッテリB2が接続された第3電力ラインに接続され”ることが記載されているといえる。 ク 上記記載事項Aの,「図1は、実施形態に係るハイブリッド車の駆動系を示す概略ブロック図である」との記載,及び上記記載事項Dの図1の回路図から,引用例1には,“ハイブリッド車の駆動系に係る電源装置”が記載されているといえる。 ケ 以上,ア〜クより,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「第1の直流電源であるバッテリB1の直流出力(バッテリ電圧)VL1は,第1の電力変換器である昇圧コンバータ10−1によって昇圧され,第2の直流電源であるバッテリB2の直流出力(バッテリ電圧)VL2は,第2の電力変換器である昇圧コンバータ10−2によって昇圧され, 昇圧コンバータ10−1及び昇圧コンバータ10−2は並列に接続されると共に,両者の出力がインバータINV1,INV2に供給され,インバータINV1には発電用の第1モータジェネレータMG1,インバータINV2には駆動用の第2モータジェネレータMG2が接続され, 昇圧コンバータ10−1及び昇圧コンバータ10−2は,直列接続された2つのスイッチング素子と,前記2つのスイッチング素子の中間点に接続された1つのリアクトル及びダイオードから構成され, 前記リアクトルに流れるリアクトル電流を計測する電流センサが設けられ,前記電流センサで検出したバッテリ電圧,昇圧電圧,リアクトル電流が制御部30に供給され, 制御部30は,昇圧コンバータ10−1及び昇圧コンバータ10−2のスイッチング素子のスイッチングを制御して,昇圧電圧が目標値になるように制御し,この制御は,基本的に電圧センサで検出した昇圧電圧が目標値に一致するようにフィードバック制御することで行われ,昇圧電圧を目標値にする際に,そのために必要なリアクトル電流を計算し,このリアクトル電流が目標値になるように制御し, 制御部30は,インバータINV2を制御して第2モータジェネレータMG2の駆動を制御すると共に,インバータINV1を制御して,発電電力によりバッテリB1,B2の充電を制御し, 昇圧コンバータ10−1は,モータが接続された第1電力ライン及びバッテリB1が接続された第2電力ラインに接続され,昇圧コンバータ10−2は,前記第1電力ライン及びバッテリB2が接続された第3電力ラインに接続される, ハイブリッド車の駆動系に係る電源装置。」 3 引用例2に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,国際公開第2007/069371号(平成19年6月21日公開。以下,これを「引用例2」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。 E 「[0018] 以上説明のトランス2a、スイッチング素子2bおよびダイオード2cとで形成する一方の昇圧回路2Aに対し、他方の昇圧回路2Bを形成するトランス2d、スイッチング素子2eおよびダイオード2fについても同様に動作し、スイッチング素子2eには図3(c)の波形のスイッチング電流(ドレイン電流)Ifbが流れ、ダイオード2fには図3(d)の波形のダイオード電流Idbが流れる。同様に、ダイオード2fのカソード側には直流電源1からの直流電圧を昇圧した直流電圧が出力される。 ここで、前述のように、スイッチング制御信号Sa1とスイッチング制御信号Sb1とは同一周波数であるが位相をずらしてある。このため、図3(a)のスイッチング電流Ifaと図3(c)のスイッチング電流Ifbとは図示のように同一周波数であるが位相がずれており、従って、図3(b)のダイオード電流Idaと図3(d)のダイオード電流Idbとは位相がずれている。これら図3(b),(d)に示すように、一方のダイオード電流が流れていない間に他方のダイオード電流が流れる位相関係となっている。このような位相関係になるようにスイッチング制御信号Sa1とスイッチング制御信号Sb1との位相関係を設定しておく。」 F 「 図3」 4 引用例3に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2012−210138号公報(平成24年10月25日公開。以下,これを「引用例3」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。 G 「【0033】 一方、電圧変換ユニット30aは、各入出力端子T1〜T4に電圧変換ユニット30に対して並列に接続されている。これにより、2個の電圧変換ユニット30,30aは、相互に独立して駆動することができる。すなわち、電圧変換ユニット30,30aは、相互に相違する位相で駆動することも可能であり、低出力時に一方を停止するような制御も可能である。」 H 「 図1」 第6 対比・判断 1 本願発明について (1)対比 本願発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「第1の直流電源であるバッテリB1」及び「第2の直流電源であるバッテリB2」は,本願発明の「少なくとも1つのバッテリ」に相当するから,引用発明と本願発明とは,“少なくとも1つのバッテリを有する蓄電装置”を有する点で一致する。 引用発明の,「スイッチング素子」,「リアクトル」及び「ダイオード」は,本願発明の「スイッチング素子」,「リアクトル」及び「ダイオード」にそれぞれ相当する。 引用発明の「モータが接続された第1電力ライン」及び「バッテリB1が接続された第2電力ライン」は,本願発明の「モータが接続された第1電力ライン」及び「前記蓄電装置が接続された第2電力ライン」にそれぞれ相当する。 引用発明の「第1の電力変換器である昇圧コンバータ10−1」は,「第1の直流電源であるバッテリB1の直流出力(バッテリ電圧)VL1」が,当該「昇圧コンバータ10−1によって昇圧され」ると共に,「直列接続された2つのスイッチング素子と,前記2つのスイッチング素子S1,S2の中間点に接続された1つのリアクトル及びダイオードから構成され」,さらに,「モータが接続された第1電力ライン及びバッテリB1が接続された第2電力ラインに接続され」るものである。 そして,引用発明の「制御部30」は,「インバータINV2を制御して第2モータジェネレータMG2の駆動を制御すると共に,インバータINV1を制御して,発電電力によりバッテリB1,B2の充電を制御」することから,「モータが接続された第1電力ライン」と「バッテリB1が接続された第2電力ライン」との間で,“電圧の変更を伴って電力のやりとり”をしているといえるから,以上を総合して,引用発明と本願発明とは,“少なくとも1つのバッテリを有する蓄電装置と,スイッチング素子とダイオードとリアクトルとを有しモータが接続された第1電力ラインと前記蓄電装置が接続された第2電力ラインとに接続されると共に前記第2電力ラインと前記第1電力ラインとの間で電圧の変更を伴って電力をやりとりする第1昇圧コンバータ”を備える点で一致する。 イ 引用発明の「昇圧コンバータ10−2」は,「直列接続された2つのスイッチング素子と,前記2つのスイッチング素子の中間点に接続された1つのリアクトル及びダイオードから構成され」ると共に,「昇圧コンバータ10−1」に「並列に接続されると共に,両者の出力がインバータINV1,INV2に供給され,インバータINV1には発電用の第1モータジェネレータMG1,インバータINV2には駆動用の第2モータジェネレータMG2が接続され」,「前記第1電力ライン及びバッテリB2が接続された第3電力ラインに接続される」ものである。さらに,上記アでも示したとおり,引用発明の「制御部30」は,「インバータINV2を制御して第2モータジェネレータMG2の駆動を制御すると共に,インバータINV1を制御して,発電電力によりバッテリB1,B2の充電を制御」することから,以上総合すると,引用発明と本願発明とは,“スイッチング素子とダイオードとリアクトルとを有し前記第1昇圧コンバータに対して並列に接続されると共に前記第2電力ラインと前記第1電力ラインとに接続されるように設けられ,または,前記蓄電装置に接続される前記第2電力ラインと異なる第3電力ラインと前記第1電力ラインとに接続されるように設けられ,接続されている前記第2,第3電力ラインのうちのいずれかの電力ラインと前記第1電力ラインとの間で電圧の変更を伴って電力をやりとりする第2昇圧コンバータ”を備える点で一致する。 ウ 引用発明は,「前記リアクトルに流れるリアクトル電流を計測する電流センサが設けられ,前記電流センサで検出したバッテリ電圧,昇圧電圧,リアクトル電流が制御部30に供給され,」「制御部30は,昇圧コンバータ10−1及び昇圧コンバータ10−2のスイッチング素子のスイッチングを制御して,昇圧電圧が目標値になるように制御し,この制御は,基本的に電圧センサで検出した昇圧電圧が目標値に一致するようにフィードバック制御することで行われ,昇圧電圧を目標値にする際に,そのために必要なリアクトル電流を計算し,このリアクトル電流が目標値になるように制御」することから,引用発明と本願発明とは,“前記第1昇圧コンバータのリアクトルの電流が第1目標電流となると共に前記第2昇圧コンバータのリアクトルの電流が第2目標電流となるように前記第1,第2昇圧コンバータのスイッチング素子を電流フィードバック制御する制御手段”を備える点で一致する。 エ 引用発明の「ハイブリッド車の駆動系に係る電源装置」は,上記ア及びイに示したとおり,第1昇圧コンバータ及び第2昇圧コンバータとを備える電源装置といえる。 そして,引用発明の「制御部30」は,本願発明の「制御手段を備える制御装置」に相当することから,引用発明と本願発明とは,下記の相違点で相違するものの,“電源装置に搭載される制御装置”を有する点で一致する。 オ 以上,ア〜エの検討から,引用発明と本願発明とは,次の一致点及び相違点を有する。 〈一致点〉 少なくとも1つのバッテリを有する蓄電装置と,スイッチング素子とダイオードとリアクトルとを有しモータが接続された第1電力ラインと前記蓄電装置が接続された第2電力ラインとに接続されると共に前記第2電力ラインと前記第1電力ラインとの間で電圧の変更を伴って電力をやりとりする第1昇圧コンバータと,スイッチング素子とダイオードとリアクトルとを有し前記第1昇圧コンバータに対して並列に接続されると共に前記第2電力ラインと前記第1電力ラインとに接続されるように設けられ,または,前記蓄電装置に接続される前記第2電力ラインと異なる第3電力ラインと前記第1電力ラインとに接続されるように設けられ,接続されている前記第2,第3電力ラインのうちのいずれかの電力ラインと前記第1電力ラインとの間で電圧の変更を伴って電力をやりとりする第2昇圧コンバータと,を備える電源装置に搭載され, 前記第1昇圧コンバータのリアクトルの電流が第1目標電流となると共に前記第2昇圧コンバータのリアクトルの電流が第2目標電流となるように前記第1,第2昇圧コンバータのスイッチング素子を電流フィードバック制御する制御手段を備える制御装置。 〈相違点〉 本願発明の「制御手段」が,「前記モータのパワー変動の周波数の1次成分が前記電流フィードバック制御の共振周波数帯外であるときには、前記第1昇圧コンバータのリアクトルの電流の位相と前記第2昇圧コンバータのリアクトルの電流の位相とが同一になるように前記第1,第2昇圧コンバータのスイッチング素子を制御し、前記モータのパワー変動の周波数の1次成分が前記共振周波数帯内であるときには、前記第1昇圧コンバータのリアクトルの電流の位相と前記第2昇圧コンバータのリアクトルの電流の位相とがずれるように前記第1,第2昇圧コンバータのスイッチング素子を制御する」のに対し,引用発明は,そのような構成を有しない点。 (2)相違点についての判断 上記相違点について検討する。 引用発明は,電気自動車(EV)や,ハイブリッド車(HV)において,直流電源(バッテリ)の電圧を電力変換器(昇圧コンバータ)で昇圧し,得られた昇圧電圧(高電圧)をインバータを介しモータジェネレータに供給する場合,昇圧電圧が適切なものとなるように昇圧コンバータがフィードバック制御される際に,昇圧電圧をより適切に制御するために,昇圧コンバータに含まれるリアクトルに流れるリアクトル電流を計測し,これが目標値になるようにフィードバック制御することが行われていることを背景とし(引用例1の段落【0002】),リアクトル電流のフィードバック制御が行われる場合に,計測したリアクトル電流が正しいことが要求されるところ,リアクトル電流を検出する電流センサに故障が生じた場合に,これを確実に検出することを課題として(同【0004】),リアクトル電流を検出する電流センサの故障をより確実に検出することを目的としてなされたものである(同【0008】)。 一方,本願発明は,第1,第2バッテリと,第1,第2昇圧コンバータと,を備える電源装置に搭載される制御装置において,第1,第2昇圧コンバータのそれぞれのリアクトルの電流がそれぞれの目標電流となるように第1,第2昇圧コンバータを電流フィードバック制御するに際し(本願明細書の段落【0002】),モータのパワー変動の周波数が第1,第2昇圧コンバータの電流フィードバック制御の共振周波数に近づくと,第1,第2リアクトル電流が大きく変動するため,モータに接続された第1電力ラインの電圧が大きく変動してしまうことを課題とし(同【0004】),モータが接続された第1電力ラインの電圧の変動を抑制することを主な目的としてなされたものである(同【0005】)。 引用発明を記述する引用例1には,電流フィードバック制御の共振周波数帯についての記載も,昇圧コンバータ10−1のリアクトル及び昇圧コンバータ10−2のリアクトルに流れる電流の位相を制御することの記載も示唆もなく,また,相違点に係る構成は,その他上記引用例2及び3にも記載されていないばかりか,当該技術分野における周知技術ともいえない。 したがって,引用発明からは,当業者といえども上記相違点に係る構成を導き出すことは容易とはいえず,本願発明は,当業者であっても,引用発明並びに引用例2及び引用例3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第7 原査定について <特許法第29条第2項について> 審判請求時の補正により,本願発明は上記相違点に係る事項のうち,「前記モータのパワー変動の周波数の1次成分が前記電流フィードバック制御の共振周波数帯外であるときには、前記第1昇圧コンバータのリアクトルの電流の位相と前記第2昇圧コンバータのリアクトルの電流の位相とが同一になるように前記第1,第2昇圧コンバータのスイッチング素子を制御」することを含むものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1〜引用文献3(上記第5の引用例1〜引用例3)に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-12-21 |
出願番号 | P2016-185586 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H02M)
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最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
篠原 功一 |
特許庁審判官 |
山崎 慎一 山澤 宏 |
発明の名称 | 制御装置 |
代理人 | 特許業務法人アイテック国際特許事務所 |