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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1380766
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-02-26 
確定日 2021-12-07 
事件の表示 特願2019−526358「検索語句の誤り訂正方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月 8日国際公開、WO2018/040899、令和 1年 9月12日国内公表、特表2019−526142、請求項の数(20)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2017年8月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年8月31日,中国)を国際出願日とする特許出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成31年 1月28日 :翻訳文提出
令和元年 10月15日 :手続補正書の提出
令和2年 2月14日付け:拒絶理由通知書
令和2年 5月14日 :意見書,手続補正書の提出
令和2年 10月23日付け:拒絶査定
令和3年 2月26日 :審判請求書,手続補正書の提出
令和3年 9月22日付け:拒絶理由通知書
令和3年 10月 8日 :意見書,手続補正書の提出

第2 本願発明
本願請求項1−20に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」−「本願発明20」という。)は,令和3年10月8日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1−20に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1,7は,それぞれ以下のとおりの発明である。なお,符号「1A」〜「1F」,「7A」〜「7E」は,当審において付与したものであり,それぞれの構成を,「構成1A」などという。

「【請求項1】
1A 検索語句の誤り訂正方法であって,
1B 誤った検索語句を同定するステップと,
1C 前記検索語句と事前取得された流行語句との間の重み付き編集距離を,重み付き編集距離アルゴリズムを使用することによって計算するステップであって,
1D 前記重み付き編集距離の計算中,前記検索語句から前記流行語句に変換する以下の操作,文字を挿入する操作,文字を削除する操作,類似の外見または発音を有する文字によって置換する操作,非類似の外見または発音を有する文字によって置換する操作,および,文字を交換する操作のそれぞれに対して異なる重みが設定される,ステップと,
1E 前記重み付き編集距離および前記流行語句の人気に基づいて,所定数の流行語句を誤り訂正プロンプト用に選択するステップと,
1F 前記操作の重みを以下の関係,
類似の外見または発音を有する文字によって置換する操作に対する重み<文字を交換する操作に対する重み<文字を挿入する操作に対する重み=文字を削除する操作に対する重み=非類似の外見または発音を有する文字によって置換する操作に対する重み,
に基づいて設定するステップと,
を備える,
1A 方法。」

「【請求項7】
7A 重み付き編集距離を計算する方法であって,
7B ソース文字列およびターゲット文字列を取得するステップと,
7C 前記ソース文字列と前記ターゲット文字列との間の重み付き編集距離を計算するステップであって,
7D 前記重み付き編集距離の前記計算中,前記ソース文字列から前記ターゲット文字列に変換する異なる操作に対して異なる重みがそれぞれ設定される,ステップと,
を含み,
7E 前記操作の重みは,以下の関係,
類似の外見または発音を有する文字によって置換する操作に対する重み<文字を交換する操作に対する重み<文字を挿入する操作に対する重み=文字を削除する操作に対する重み=非類似の外見または発音を有する文字によって置換する操作に対する重み,
に基づいて設定されている,
7A 方法。」

また,本願発明2−6は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明8は,本願発明7を減縮した発明である。また,本願発明9は,本願発明1に対応する装置の発明であり,本願発明10−14は,本願発明9を減縮した発明である。また,本願発明15は,本願発明7に対応する装置の発明であり,本願発明16は,本願発明15を減縮した発明である。そして,本願発明17,18は,本願発明1−6を実行するための装置の発明であり,本願発明19,20は,本願発明7,8を実行するための装置の発明である。

第3 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(国際公開第2015/040793号)には,図面とともに次の事項が記載されている。なお,下線は,強調のため,当審において付与したものである(以下同じ。)。
ア「[0001] この発明は,入力された検索文字列に類似の文字列を検索結果として得ることが可能な文字列検索装置に関するものである。
背景技術
[0002] 例えば使用者が通称や略称あるいは誤って記憶した名称で住所や施設名を検索する場合や,使用者の操作ミスで入力された検索文字列に誤りが含まれる場合,またカーナビやスマートフォンなどでの音声入力による検索で入力された音声信号の認識誤りにより検索文字列に誤りが含まれる場合などでは,入力された検索文字列とは一致しないものの,検索文字列に類似する文字列を検索結果として得る類似文字列検索が必要になる。」

イ「[0014] 編集距離計算部104は,辞書105を参照し,入力文字列110と辞書105に記憶された各見出し文字列との重み付き編集距離を,適用ルール記憶部103に記憶された類似文字列重みルールを用いて計算する。距離順整列部106は,編集距離計算部104が計算した重み付き編集距離の小さい順に辞書105の各見出し文字列を類似文字列リスト111として出力する。なお,類似文字列リスト111は使用者に対してディスプレイ(図示せず)等に提示されるなどの処理で使用される。
[0015] 重みルール抽出部101,編集距離計算部104および距離順整列部106は,ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアで構成したり,プロセッサを用いた専用ハードウェアとそのプロセッサにおいて実行されるソフトウェアで実現したり,汎用のコンピュータ上で動作するソフトウェアで実現したり,あるいはこれらの実現方法を組み合わせて実現したりすることが可能である。
また,ルール記憶部102,適用ルール記憶部103,辞書105は,RAM(Random Access Memory)などの揮発性の記憶媒体や,HDD(Hard Disc Drive)などの不揮発性の記憶媒体を用いて構成すればよい。あるいは,通信回線を経由して遠隔で読み書きされるように構成しても良いし,着脱可能なデバイスを用いるようにしても良い。
[0016] 図2はルール記憶部102に記憶された類似文字列重みルールの例を示すテーブルである。ルール番号201は各類似文字列重みルールを識別するために一意に付与された番号である。第1の文字列である左辺文字列202と第2の文字列である右辺文字列203は,各類似文字列重みルールで類似度を定義する文字列の組み合わせであり,類似度スコア204は左辺文字列202と右辺文字列203との類似度を示している。ここでは,類似度スコア204が小さいほど類似度が大きいことを示すこととする。
[0017] 図2の例には,発音が類似しており綴り誤りが多く発生する“PH”と“F”(ルール番号201=2)や,“C”と“K”(ルール番号201=20)などの組み合わせが含まれている。また,キーボード等での同一文字の連続入力の入力漏れなどの誤りに対応するための“A”と“AA”(ルール番号201=52)のような組み合わせも含まれている。
これらの類似文字列重みルールは事前に手作業で定義するようにしても良いし,誤入力の例などを多数収集し,機械学習などの統計的な手法を用いて構成されるようにしても良い。」

ウ「[0026] 次に,編集距離計算部104が重み付き編集距離計算を行う(ST202)。ST202の処理では,編集距離計算部104が辞書105から見出し文字列を順次読み込み,各見出し文字列と入力文字列110との重み付き編集距離を計算する。重み付き編集距離計算の処理内容については後述する。
[0027] 次に,距離順整列部106がST202で辞書105から読み出されて重み付き編集距離を計算された各見出し文字列について,重み付き編集距離の小さい順(近い)に整列し,類似文字列リスト111として出力する。出力された類似文字列リスト111は,使用者に対してディスプレイ(図示せず)等に提示されるなどの処理に使用される。
[0028] 次に,編集距離計算部104が辞書105から読み出した各見出し文字列に対して行うST202の重み付き編集距離計算の処理内容について説明する。ここでは編集距離計算にDP(Dynamic Programming)手法を用いることとする。なお,この発明は編集距離計算手法をDP手法に限るものではなく,他の手法を用いても良い。図6はST202の重み付き編集距離計算処理の処理フローである。
[0029] 入力文字列110である元の文字列(Str1とする)から各見出し文字列である目標の文字列(Str2とする)への編集距離を求める。まず,DP手法による編集距離計算に用いるテーブルの初期化を行う(ST301)。この編集距離計算用テーブルは,Str1の文字列長(以降|Str1|と表記する)とStr2の文字列長(以降|Str2|と表記する)に基づいて,M[i,j](0≦i≦|Str1|,0≦j≦|Str2|)で表される2次元配列である。ST301では,M[0,0]に0を,M[i,0](1≦i≦|Str1|)にiを,M[0,j](1≦j≦|Str2|)にjを代入して初期化する。
[0030] 次に,変数iの初期値を1とし,変数iの値を1ずつカウントアップしながら,ステップST302からステップST310までの処理を|Str1|回繰り返す。
同様に,上記の変数iに基づくループ処理内で変数jの初期値を1とし,変数jの値を1ずつカウントアップしながら,ステップST303からステップST309までの処理を|Str2|回繰り返す。
[0031] 変数iおよび変数jに基づくループ処理の詳細を説明する。なお,Str1のi番目の文字をStr1[i]のように表すこととする。まず,文字Str1[i]と文字Str2[j]の比較を行い(ST304),等しい場合は変数scoreに0を代入し(ST305),等しくない場合は変数scoreに1を代入する(ST306)。なお,このST306において1を代入するということは,Str1とStr2を同一の文字列とするためには1回の文字置換が必要であることを示すものである。
[0032] 次に,編集距離計算用テーブルのM[i,j]の値を更新する(ST307)。この処理では,M[i-1,j-1]+score,M[i-1,j]+1,M[i,j-1]+1の3つの値を比較して,最も小さい値でM[i,j]を更新する。
[0033] 次に,重み付き類似文字列重みルールを用いた編集距離計算を行う(ST308)。図7はST308の類似文字列重みルールを用いた編集距離計算処理の処理フローである。ST401からST405までの処理をNR[i]回(すなわち,入力文字110のi番目の文字のルール数206分)繰り返す。
[0034] このループ処理ではまず,Rule[i][k]の適用可否の判定(類似文字列重みルールの適用可否判定)を行う(ST402)。具体的には,Rule[i][k]に格納された類似文字列重みルールの右辺文字列203が,ここで対象としている見出し文字列であるStr2のj文字目で終わる部分文字列と合致するかどうか確認して,合致する場合に適用可と判定する。
[0035] ST402で適用可と判定した場合には,ルールの内容を取得する(ST403)。ST403では,Rule[i][k]に定義された類似度スコア204を変数rule_scoreに代入し,また,左辺文字列の文字数を変数len1に,右辺文字列の文字数を変数len2に代入する。
次に,編集距離計算用テーブルのM[i,j]の更新を行う(ST404)。この処理では,M[i,j],M[i-len1,j-len2]+rule_scoreの2つの値を比較して,小さい方の値でM[i,j]を更新する。
また,ST402で適用可と判定されなかった場合はST405に遷移する。
このようにして図6,図7に示した処理フローを終了し,最終的にM[|Str1|,|Str2|]に格納された値が,入力文字列110と見出し文字列との重み付き編集距離となる。」

エ「[0043] なお,辞書が非常に多くのデータを含み,重み付き編集距離を計算する見出し文字列が大量である場合には,重み付き編集距離の計算の前に例えば特許文献1に示されているtf-idf(term frequency - inverse document frequency)重みを用いた絞り込みのような何らかの事前絞り込みの手段を設けることとしても良い。」

オ「[図2]



(2)引用発明の認定
上記(1)ア,イ,オによれば,引用文献1には,「入力された検索文字列に類似の文字列を検索結果として得ることが可能な文字列検索装置」が記載されており,「辞書105を参照し,入力文字列110と辞書105に記憶された各見出し文字列との重み付き編集距離を,適用ルール記憶部103に記憶された類似文字列重みルールを用いて計算する編集距離計算部104」と,「編集距離計算部104が計算した重み付き編集距離の小さい順に辞書105の各見出し文字列を類似文字列リスト111として出力する距離順整列部106」とを備えることが記載されている。また,「類似文字列重みルール」として,第1の文字列と第2の文字列の組み合わせに対して「類似度スコア」を設定すること,及び,文字列の組み合わせとして,「発音が類似しており綴り誤りが多く発生する“PH”と“F”や,“C”と“K”などの組み合わせ」や,「キーボード等での同一文字の連続入力の入力漏れなどの誤りに対応するための“A”と“AA”(ルール番号201=52)のような組み合わせ」が含まれることが記載されている。

上記(1)ウ,エによれば,引用文献1の「編集距離計算部104」は,「辞書105から見出し文字列を順次読み込み,各見出し文字列と入力文字列110との重み付き編集距離を計算する」ものであることが記載され,また,辞書が非常に多くのデータを含み,重み付き編集距離を計算する見出し文字列が大量である場合には,重み付き編集距離の計算の前に,何らかの事前絞り込みの手段を設けることが記載されている。
したがって,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「入力文字列に類似の文字列を検索結果として得ることが可能な文字列検索装置の処理方法であって,
編集距離計算部が,辞書から見出し文字列を順次読み込み,各見出し文字列と入力文字列との重み付き編集距離を,類似文字列重みルールを用いて計算し,
距離順整列部が,編集距離計算部が計算した重み付き編集距離の小さい順に辞書の各見出し文字列を類似文字列リストとして出力し,
前記類似文字列重みルールは,文字列の組み合わせに対して,類似度スコアが設定され,
前記文字列の組み合わせには,発音が類似しており綴り誤りが多く発生する組み合わせや,キーボード等での同一文字の連続入力の入力漏れなどの誤りに対応するための組み合わせを含み,
重み付き編集距離を計算する見出し文字列が大量である場合には,計算前に絞り込みを行う,
文字列検索装置の処理方法。」

2 引用文献2について
(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(中国特許出願公開第102831177号明細書)には,図面とともに次の事項が記載されている。
ア「


(当審訳)
「[0034] S152:見つけた類似する語句情報に基づき,第一語句情報の各単語を訂正するために必要なコスト及び前記単語に対応する重みを計算し,訂正後の語句情報の総コストを得る。
[0035] このステップにおいて,機械学習エラー訂正アルゴリズム(改良型の編集距離アルゴリズム,貪欲アルゴリズム及びROC曲線分析を含む)を使用して語句情報に対する誤り訂正を完了する必要がある。従来の編集距離アルゴリズムは,各単語に対して追加,削除,置換操作を行うことができ,追加操作の編集コストはAであり,削除操作の編集はDであり,置換操作の編集コストはRであり,編集総コストはT=A*個数+D*個数+R*個数である。
[0036] 本発明は従来の編集距離アルゴリズムを改良し,重み定数を導入し,すなわち追加,削除,置換の各操作はそれぞれ各自の重みa,d,rを有する。本発明の改良型の編集距離アルゴリズムを利用し,取得した編集総コストはT=A*個数*a+D*個数*d+R*個数*rである。」

イ「


(当審訳:中国語表記の例示部は省略)
「[0039] 語句情報を識別する時,本発明は4種類の組み合わせ型の中国語表記を用い,表記する時に各単語の声母及び声調を考慮する必要がある:
1.原始中国語漢字
例:(略)
2.原始中国語漢字+各単語の声母
例:(略)
3.原始中国語漢字+各単語に対応するピンイン
例:(略)
4.原始中国語漢字+各単語に対応するピンイン+声調
例:(略)
各組み合わせ(例におけるマーク)に対していずれも改良型の編集距離アルゴリズムを用いることができ,第一データベースにおけるデータに基づき,類似する語句を計算し且つ見つける。ここで声母+文字の組み合わせが最も好ましく,特にいくつかのエラーが多い場合である。例えば:(略),(声母が間違って発音され,韻母も間違って発音される)は,声母+文字を抽出する方式を用いると,より良好な性能表現を有するが,ピンイン+文字方式を用いると,例えば,(略)は,(略),に対応し,上記エラーがより深刻であるため,正確なエラー訂正ができない可能性がある。」

ウ「


(当審訳)
「[0058]上記ステップS155〜S157の実施により,第一データベース(知識ベース)に動的に追加する機能を実現することができる。このように,第一データベースにおける語句情報にその正確性を保持させるだけでなく,且つ第一データベースに最新のネットワーク語句,流行語句の意味データベースを記憶させる。このように,ユーザが入力した語句情報が流行語又はネットワーク語であれば,基準とする第一データベースは流行語句,ネットワーク語句等を正確に識別することができ,それによりメモリ内の語句情報は出現した単語に対して自動的に誤り訂正を行ってユーザ体験に影響を与えることがない。」

(2)引用文献2に記載された技術事項
引用文献2には,「機械学習訂正アルゴリズムによって,語句情報を訂正するのに必要なコストを計算し,語句情報に対する誤り訂正を行うこと」及び「追加,削除,置換の各操作はそれぞれ各自の重みa,d,rを有する」こと(上記(1)ア),「第一データベースによって,類似した語句を発見すること」(同イ),及び,「第一データベース(知識ベース)に動的に追加する機能を実現すること,第一データベースは,流行語句やネットワーク語句などを正確に識別することができること」(同ウ)が記載されていると認められる。

3 引用文献3について
(1)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(中国特許出願公開第102915314号明細書)には,図面とともに次の事項が記載されている。

ア「


(当審訳:数式部分は省略)
「[0031] ステップS102において,隣接する検索語が誤り訂正ペアである信頼度を計算する。
[0032] 信頼度は信頼度,信頼度レベル又は信頼度係数と呼ばれてもよく,特定の個体が特定の命題の真正性を信用する程度を指し,本発明の実施例において,隣接する検索語における後の時点の検索語は前の時点の検索語の誤り訂正後の検索語(即ち2者が1つの誤り訂正ペアを構成する)の信頼度係数であり,ユーザの後の時点の検索語の検索結果に対するクリックデータに基づいて信頼度の計算を行うことができ,信頼度に影響を与える要素を信頼度計算の要素とすることもでき,例えば,保存されたユーザ嗜好情報等であり,好ましくは,隣接する検索語における前の時点の検索語及び後の時点の検索語をそれぞれ第一検索語及び第2とする検索語であって,それぞれ第一検索語及び第2検索語がクリックされ且つその検索結果が閲覧された回数を取得し,取得された第一検索語及び第2検索語がクリックされ且つその検索結果が閲覧された回数に基づいて,第一検索語及び第2検索語が誤り訂正ペアである確信度を計算し,具体的には,以下の式。
[0033](略)」

(2)引用文献3に記載された技術事項
上記(1)アによれば,引用文献3には,「検索語の検索結果のクリックデータに基づいて,検索語の誤り訂正に対する信頼度を計算すること」が記載されていると認められる。

第4 対比・判断
1 本願発明7について
(1)対比
本願発明7と引用発明とを対比する。引用発明は,「文字列検索装置の処理方法」であるが,その一部として,「編集距離計算部」により「重み付き編集距離を計算する」処理手順を含むから,当該処理手順に着目しつつ,本願発明7と対比すると,引用発明の「入力文字列」,「見出し文字列」,「類似度スコア」は,それぞれ,本願発明7の「ソース文字列」,「ターゲット文字列」,「重み」に相当するから,引用発明と本願発明7とは,以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「重み付き編集距離を計算する方法であって,
ソース文字列およびターゲット文字列を取得するステップと,
前記ソース文字列と前記ターゲット文字列との間の重み付き編集距離を計算するステップと,を含む,
方法。」

(相違点)
本願発明7は,ソース文字列からターゲット文字列に変換する「異なる操作に対して異なる重み」がそれぞれ設定されており,「操作の重み」は,「類似の外見または発音を有する文字によって置換する操作に対する重み<文字を交換する操作に対する重み<文字を挿入する操作に対する重み=文字を削除する操作に対する重み=非類似の外見または発音を有する文字によって置換する操作に対する重み」という関係に基づいて設定されているのに対し,引用発明は,そのような構成を備えていない点。

(2)相違点についての判断
本願発明7の上記相違点に係る構成に関連して,引用発明は,重み付き編集距離の計算に用いる「類似文字列重みルール」として,「発音が類似しており綴り誤りが多く発生する組み合わせ」や,「キーボード等での同一文字の連続入力の入力漏れなどの誤りに対応するための組み合わせ」について,個別の文字列の組み合わせのそれぞれに対して設定した類似度を使用するものである。
しかしながら,本願発明7の構成7Dのごとく,「異なる操作に対して異なる重み」を設定すること,とりわけ,構成7Eの「類似の外見または発音を有する文字によって置換する操作に対する重み<文字を交換する操作に対する重み<文字を挿入する操作に対する重み=文字を削除する操作に対する重み=非類似の外見または発音を有する文字によって置換する操作に対する重み」という関係に基づいて,「操作の重み」を設定することについては,引用文献1には,記載も示唆もなされておらず,また,引用発明から自明な構成ともいえない。
また,引用文献2,3にも,上記相違点に係る構成,特に,構成7Eは,記載も示唆もされておらず,また,当業者にとって周知の技術であるということもできない。
したがって,本願発明7は,当業者であっても,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術事項に基づいて,容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明1−6,9−14,17,18について
本願発明1は,構成1D及び1Fとして,本願発明7の上記相違点に係る構成に相当する構成を備えるものであるから,本願発明7と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術事項に基づいて,容易に発明できたものであるとはいえない。
また,本願発明2−6は,本願発明1を減縮した発明であるから,本願発明1の構成1D及び1Fを備えており,また,本願発明1に対応する装置の発明である本願発明9,及び,これを減縮した本願発明10−14,ならびに,本願発明1−6を実行するための装置の発明である本願発明17,18も,本願発明1の構成1D及び1Fに対応する構成を備えているから,本願発明1と同様に,当業者であっても,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術事項に基づいて,容易に発明できたものであるとはいえない。

3 本願発明8,15,16,19,20について
本願発明8は,本願発明7を減縮した発明であり,本願発明15は,本願発明7に対応する装置の発明である本願発明15,及び,これを減縮した本願発明16,ならびに,本願発明7,8を実行するための装置の発明である本願発明19,20も,本願発明7の上記相違点に係る構成を備えているといえるから,本願発明7と同様に,当業者であっても,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術事項に基づいて,容易に発明できたものであるとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は,請求項1−20について,引用文献1−3に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら,令和3年10月8日付けの手続補正により補正された請求項1−20は,上記のとおり,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
当審では,請求項3,11に記載した“状態遷移式”が明確でない旨の拒絶理由と,明細書の段落【0067】及び【0102】の記載が,明細書の他の記載並びに特許請求の範囲の記載と対応しない旨の拒絶理由とを通知しているが,令和3年10月8日付けの手続補正により,特許請求の範囲及び明細書が補正された結果,これらの拒絶理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明1−20は,当業者が引用発明及び引用文献2,3に記載された技術事項ならびに周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-11-17 
出願番号 P2019-526358
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 金子 秀彦
篠原 功一
発明の名称 検索語句の誤り訂正方法および装置  
代理人 特許業務法人快友国際特許事務所  
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