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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1380775
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-03 
確定日 2021-12-14 
事件の表示 特願2016−223219「書き味向上フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月24日出願公開、特開2018− 81484、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年11月16日の出願であって、令和2年5月26日付けで拒絶理由通知がされ、令和2年7月22日に意見書とともに手続補正書が提出され、令和2年12月24日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和3年3月3日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに手続補正がされ、令和3年3月26日付けで前置報告がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年12月24日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1ないし3及び5に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基いて、また、本願請求項6及び7に係る発明は、以下の引用文献1及び2に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[引用文献等一覧]
1 特開2014−232276号公報
2 特開2009−151476号公報

なお、請求項4に係る発明について、拒絶の理由は通知されていない。

第3 本件補正の適否について
1 本件補正の概要
令和3年3月3日に提出された手続補正書に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)は、以下の補正事項からなる。
(1)補正事項1
請求項1に「前記書き味向上層の表面に対し、ペン先の直径が0.5mmのハードフェルト芯を備えたタッチペンのペン先を、前記タッチペンの軸心が前記書き味向上フィルムのフィルム面と直交するように、荷重3.92Nの加圧条件で接触させながら、前記タッチペンを前記書き味向上フィルムのフィルム面と平行な任意の一方向に、速度100mm/分で移動させてペン先抵抗力を測定した場合のペン先摺動係数を0.17〜0.3の範囲内の値とする」という構成(以下、「構成X」という。)を追加する補正。
(2)補正事項2
請求項4を削除する補正。(これに伴い、本件補正前の請求項5ないし7の請求項の項番を1つ繰り上げると共に、本件補正後の請求項4ないし6が引用する請求項の最大項番を1つ繰り上げる補正。)
(3)補正事項3
明細書の【0009】の記載を、本件補正後の請求項1の記載に整合させる補正。

2 各補正事項に係る補正の適否
(1)特許法第17条の2第3項ないし第5項の要件について
補正事項1及び2は、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び第4項(シフト補正)の要件に違反しておらず、また、補正事項3は、特許法第17条の2第3項(新規事項)の要件に違反していない。
補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、補正事項2は、特許法第17条の2第5項第1号の「請求項の削除」を目的と認められる。
そうすると、本件補正後の請求項1ないし6についての補正は、限定的減縮を目的としたものを含むから、本件補正後の請求項1ないし6に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない(独立特許要件;特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項)ので、次に、独立特許要件について検討する。

(2)独立特許要件について
ア サポート要件について
前置報告において、
「補正後の請求項1に係る発明は、ペン先摺動係数についての「0.17〜0.3」という記載の上限と下限は、本願の発明の詳細な説明の実施例及び比較例(段落0081を参照)の中間の数値となっており、発明の詳細な説明の記載との対応関係が明確でない。
したがって、この出願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない」とされているので、本件補正後の請求項1ないし6に係る発明(特に、「ペン先摺動係数」を「0.17〜0.3」の範囲内の値とすること)が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしてない旨報告されている。

特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

以下、上記法規範(知財高裁大合議判決(平成17年(行ケ)第10042号))に基づいて検討する。

本願の課題は、本願明細書の【0008】に記載されているように「筆記振動を所定の範囲に安定的に制御して、紙に鉛筆で筆記したときの書き味を効果的に再現することができる書き味向上フィルムを提供すること」と認められる。
そして、本願明細書の【0041】には、
「(3)書き味特性
(3)−1 ペン先摺動係数
…(中略)…
かかるペン先摺動係数が0.05未満の値となると、ペン先が過度に滑りやすくなって、ペン先のコントロール性が低下しやすくなり、紙に鉛筆で筆記したときの書き味を再現することが困難になる場合がある…一方、かかるペン先摺動係数が0.5を超えた値となると、ペン先が過度に引っかかりやすくなって、逆にペン先のコントロール性が低下しやすくなり、紙に鉛筆で筆記したときの書き味を再現することが困難になる場合がある…
したがって、ペン先摺動係数の下限値を、0.17以上の値とすることがより好ましく、0.19以上の値とすることがさらに好ましい。
また、ペン先摺動係数の上限値を、0.3以下の値とすることがより好ましく、0.5以下の値とすることがさらに好ましい。」
と記載されているように、「書き味」を決定する特性としての「ペン先摺動係数」の下限値を「0.17」以上、上限値を「0.3」以下とすることが好ましいことが記載されている。
よって、本願明細書には、少なくとも形式的には、上記課題を解決するための構成として、「ペン先摺動係数」の範囲を「0.17〜0.3」とすることが記載されているといえる。
また、補正後の請求項1ないし6に係る発明は、「不定形シリカ粒子」を「(B)成分」の「フィラー」として使用するものであるが、本願明細書の【0081】の【表1】には、「(B)成分」の「種類」の欄が「不定形シリカ微粒子」である例として「実施例1」ないし「実施例3」及び「比較例1」が記載され、【表1】の「書き味」の欄に記載した「ペン先引っかかり感」を含む4種類の各評価を参照すると、「実施例1」ないし「実施例3」は、上記課題を解決しているものであり、「比較例1」は、上記課題を解決していないものと認められる。
そして、【表1】の「ペン先摺動係数」の欄に着目すると、「実施例1」ないし「実施例3」における「ペン先摺動係数」の下限値は「0.18」(実施例1)であり上限値は「0.21」(実施例2)であるから、「ペン先摺動係数」が0.18〜0.21の範囲のものは、上記課題を解決したものであることは明白である。そして、上記「書き味」の評価は、明細書の【0067】によれば、「パネラー」に「筆記作業」をさせた結果であるから、人の感覚によるものである。そうすると、人の感覚の誤差等に鑑みれば、「ペン先摺動係数」の前記下限値「0.18」に近い「0.17」を、良好な評価が得られる下限値と推定して採用することは合理的である。
上限値については、「実施例2」の「0.21」と「比較例1」の「0.32」の間のどの値を採用するのが妥当であるのかが問題となる。ここで、上述したように、上記「書き味」の評価は、人の感覚によるものであるから、人によって相当の差があることを考慮すれば、上記課題を解決できるといえる範囲をどこに設定するのかは、相当程度の幅が許容されると認められる。そうすると、「比較例1」の「0.32」の近辺の値は、上記課題を解決できる範囲とはいえないとしても、「0.32」よりもペン先摺動係数が少し低い「0.3」であれば、「ペン先引っかり感」などが「比較例1」よりは改善されて、上記課題の関係からすれば、相当程度の人が許容できる範囲内となることが想定できる。よって、本願明細書の【0041】を参照すれば、【表1】に基づいて、本願明細書の【0041】に記載のように、「ペン先摺動係数」の上限値として「0.3」を、上記課題を解決できる範囲として設定し得るものといえる。
よって、「ペン先摺動係数」を「0.17〜0.3」の範囲内の値とすることにより本願の課題を解決し得ることは本願明細書の記載から当業者が認識し得るものである。
以上より、本件補正後の請求項1ないし6に係る発明において、「ペン先摺動係数」を「0.17〜0.3」の範囲内の値とすることは、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているといえる。
本件補正後の請求項1ないし6の他の記載についても同様である。
したがって、本件補正後の請求項1ないし6に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているといえる。

イ 他の拒絶の理由について
本件補正後の請求項1ないし6に係る発明において、上記構成Xは、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2のいずれにも記載されておらず、また、本願出願時における技術常識であったということもできない。
また、本件補正後の請求項1ないし6に係る発明について、他の拒絶の理由も見当たらない。

ウ 小括
以上より、本件補正後の請求項1ないし6に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないとはいえない。

3 まとめ
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に合致するものであり、適法なものである。

第4 本願発明
本願請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。なお、下線は、本件補正により補正された箇所を示す。

「 【請求項1】
基材フィルムと、書き味向上層と、を含むタッチパネル用の書き味向上フィルムであって、
前記書き味向上層が、(A)成分としての活性エネルギー線硬化性樹脂と、(B)成分としてのフィラーと、を含む書き味向上層形成用組成物の硬化物からなるとともに、
前記(B)成分としてのフィラーが不定形シリカ粒子を含み、
前記不定形シリカ粒子の算術平均粒子径を0.5〜2.5μmの範囲内の値とし、かつ、
前記不定形シリカ粒子のCv値を70〜100%の範囲内の値とし、
前記書き味向上層の表面に対し、ペン先の直径が0.5mmのハードフェルト芯を備えたタッチペンのペン先を、前記タッチペンの軸心が前記書き味向上フィルムのフィルム面と直交するように、荷重3.92Nの加圧条件で接触させながら、前記タッチペンを前記書き味向上フィルムのフィルム面と平行な任意の一方向に、速度100mm/分で移動させてペン先抵抗力を測定した場合のペン先摺動係数を0.17〜0.3の範囲内の値とすることを特徴とする書き味向上フィルム。

なお、本願発明2ないし6は、本願発明1を減縮した発明である。

第5 原査定についての判断
本件補正により本件補正後の請求項1に追加された上記構成Xは、本件補正前の請求項4に記載されていた事項であり、また、本件補正前の請求項4に係る発明は、原査定の拒絶の理由の対象とはされていない。
よって、本願発明1ないし6は、原査定において拒絶の理由が通知されたものではないから、そもそも原査定を維持することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-11-24 
出願番号 P2016-223219
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
P 1 8・ 537- WY (G06F)
P 1 8・ 575- WY (G06F)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 稲葉 和生
特許庁審判官 林 毅
野崎 大進
発明の名称 書き味向上フィルム  
代理人 江森 健二  

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