• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1380784
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-08 
確定日 2021-11-15 
事件の表示 特願2016− 11574「放熱部材及び半導体モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月 3日出願公開、特開2017−135150〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年1月25日の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 1年 9月17日付け:拒絶理由通知
令和 1年11月18日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 5月25日付け:拒絶理由通知
令和 2年 6月29日 :意見書の提出
令和 2年11月27日付け:拒絶査定
令和 3年 3月 8日 :審判請求書の提出


第2 本願発明
本件特許出願の請求項に係る発明は、令和1年11月18日の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された次の事項により特定されるものであると認める。

「【請求項1】
熱硬化性を有する樹脂と、該樹脂よりも熱伝導率の高い無機物とを含む放熱部材であって、
前記樹脂によって被着体に接着させて用いられ、該被着体に接着される第1面と、該第1面に対向する第2面とを有し、
前記無機物は、第1面側から第2面側へと連続した状態となって含まれており、
板状形状を有し、一面側に被着体に接着される前記第1面を有しており、前記無機物が厚み方向に連続しており、
厚み方向の寸法が前記板状形状よりも一回り小さい板状体を備え、該板状体が前記無機物で形成され、該板状体には複数の穴が形成されており、該穴に前記樹脂が収容され、且つ、前記板状体の一面側のみに前記樹脂で形成された皮膜が備えられ、前記板状体の他方面側では前記無機物が表面露出している放熱部材。」


第3 拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由(特許法第29条第2項違反)のうち、本願の請求項1に係る発明については以下のとおりである。

この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された引用文献2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・引用文献2:特開2008−10897号公報


第4 引用文献2の記載及び引用発明
1 引用文献2には、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
ア 「【0001】
本発明は、接着性と熱伝導性に優れた絶縁シートおよび上記絶縁シートを用いたパワーモジュールに関するものである。」

イ 「【0006】
本発明に係る絶縁シートは、複数の貫通孔を有するセラミックスシート、ガラス積層板、金属シートの少なくともいずれかのシートの上記貫通孔内に絶縁性充填材を具備する樹脂を備え、上記シートの少なくとも片面に、扁平状充填材、粒子状充填材のうち少なくともいずれかが充填された接着面領域が設けられて連続した層体を成しているものである。」

ウ 「【0008】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1の絶縁シートの説明図であり、電力半導体素子1を搭載したリードフレーム(導電部材)2とヒートシンク部材6との接着に用いた場合である。本実施の形態の絶縁シート7は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を主成分とする接着剤成分に、充填部材を分散したもので構成されるが、上記充填部材が接着剤成分に一様に分散されているのではなく、絶縁シート7を、主としてリードフレーム(導電部材)2とヒートシンク部材6との接着に寄与する領域(絶縁シート7の接着面7aから絶縁シートの内部へわたる領域で、この領域を接着面領域7bと云い、熱硬化性樹脂からなるシートにおいては接着面から0.1〜1000μm厚がこの領域に相当する。)と、上記接着面領域以外の領域(この領域を内部領域7cという。)とした場合、接着面領域7bにおける充填部材の充填率を、内部領域7cにおける充填率より小で、接着力の低下が防止される範囲とし、内部領域7cにおける充填部材の充填率を優れた熱伝導率を呈する範囲とすることにより、接着力、熱伝導性および絶縁性に優れた絶縁シートを得ることができる。

【図1】




エ 「【0012】
本実施の形態の絶縁シートに係わる充填部材としては、扁平状もしくは粒子状の充填材、または貫通孔を有するシートが用いられる。
扁平状充填材とは、立体物を押しつぶしたような扁平形状を有する充填材であり、厚さが薄く、長辺と短辺を有する長方体の形状のもので、断面は四角形に限らず、その他の多角形であっても、角が多少丸みを帯びて楕円形であってもよい。また長辺と短辺が等しい正四角形、正多角形、円形でもよい。製造工程で押しつぶして作製しても、もともとの形状であってもよく、酸化アルミニウム(アルミナ)、窒化ホウ素、炭化ケイ素、マイカなどがあり、これらを2種類以上用いてもよい。
粒子状充填材としては、略球形のものが好ましいが、粉砕されたような形状で多面形状であってもよい。材質としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ホウ素などを用いればよい。
さらに粒子状充填材としては、上記扁平状充填材や粒子状充填材を凝集させたものであってもよい。
貫通孔を有するシートとしては、貫通孔を有する導電性の金属シート、貫通孔を有するセラミックスシート、貫通孔を有し上記貫通孔が金属によりコーティングされたセラミックスシート、または貫通孔を有し上記貫通孔が金属によりコーティングされたガラス積層板が用いられ、上記貫通孔により接着剤成分が絶縁シート内で連続しており、界面が連続することによる剥離等が防止できる。なお、貫通孔を有する金属シート等の導電性の充填部材は、接着面領域に用いるより内部領域、中でも内部領域の厚さ方向の中央部領域であるコア領域に用いる方が絶縁性の安定上好ましい。

オ 「【0014】
実施の形態2.
図4は本発明の実施の形態2の絶縁シート7を模式的に示した説明図であり、扁平状充填材71と粒子状充填材72からなる充填部材を接着剤成分70に分散したものからなり、絶縁シート7が両面に接着面7aを有する場合であるため、絶縁シート7の上下面領域が接着面領域7bとなり、接着面領域7bにおける充填部材の充填率が、内部領域7cにおける充填率より小さく、接着面領域7bと内部領域7cの熱伝導率が実施の形態1に示す範囲となるように充填部材の充填率が調整されている。
なお、図4(a)は上記充填部材の充填率が絶縁シートの接着面から内部方向(中央部)に離れると順次連続的に増加するように充填されている。
また、図4(b)は、充填部材の扁平状充填材71と粒子状充填材72からなる充填部材の総体積に対する充填率を調整して接着面領域7bと内部領域7cの熱伝導率を段階的に変化させた構造で、接着面領域7bにおける充填部材の充填率が内部領域7cよりも小で、接着面領域7bと内部領域7cの熱伝導率を実施の形態1に示す熱伝導率の範囲とする。
上記の構成により本実施の形態の絶縁シート7は、熱硬化性樹脂成分が十分な接着面領域7bにより接着性が維持され、内部領域7cでは熱伝導性を確保できる。そのため、高い熱伝導率を得るために充填部材を高充填することにより接着性や絶縁性能の著しく低下した絶縁シートを単独で用いるよりも、接着性と高熱伝導性を両立した絶縁シートを得ることができる。
図5は本発明の実施の形態2の別の絶縁シート7を模式的に示した説明図であり、絶縁シート7の一方の面にのみ接着面7aを有する場合で、接着面側が接着面領域7b、他方の面側が内部領域7cであり、片面にのみ接着性を必要とするシート構造として好適に用いられる。

【図5】




カ 「【0016】
実施の形態4.
図7は本発明の実施の形態4の絶縁シート7を模式的に示す説明図であり、図7(a)は、熱伝導率が実施の形態1における接着面領域における範囲となるように、接着剤成分70に充填材71、72が一様に充填された絶縁シートにおいて、内部領域7cにおいて厚さ方向の中央部領域であるコア領域に、充填部材として貫通孔74を有する熱伝導性に優れた金属シート73を配置したもの、図7(b)は実施の形態2の絶縁シートの内部領域7cの中央部(コア領域)に充填部材として上記金属シート73を設けた構造であり、特に上記金属シート73等の導電性の充填部材は、接着面領域に用いるより内部領域、中でもコア領域に用いる方が絶縁性の安定上好ましい。また、本実施の形態では、いずれも金属シート73の貫通孔において樹脂が連続しているため、絶縁シート内での金属シートと熱硬化性樹脂との界面が連続せず界面における剥離が防止できる。

【図7】



2 上記1の記載から次のことがいえる。
(1)上記アによれば、引用文献2は、パワーモジュールに用いる接着性と熱伝導性に優れた絶縁シートに関するものである。

(2)上記ウによれば、絶縁シートは、熱硬化性樹脂を主成分とする接着剤成分に、充填部材を分散したもので構成されるものである。
そして、絶縁シートは、電力半導体素子を搭載したリードフレーム(導電部材)とヒートシンク部材との間に配置され、当該リードフレーム(導電部材)に接着される接着面を含んだ「接着面領域」とそれ以外の領域である「内部領域」とで構成されているものである。ここで、上記ウには「接着面領域における充填部材の充填率を、内部領域7cにおける充填率より小で、接着力の低下が防止される範囲」とする記載が認められるから、内部領域のみならず接着面領域にも充填部材は含まれるものである。

(3)上記エによれば、充填部材としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ホウ素の扁平状もしくは粒子状の充填材が用いられるものである。
また、充填部材として、複数の貫通孔を有する金属シート、複数の貫通孔を有するセラミックシートも用いることができるものである。

(4)上記カによれば、接着剤成分に充填材が一様に充填された絶縁シートであって、内部領域に貫通孔を有する熱伝導性に優れた金属シートを配置したものが、実施の形態4として記載されている。
そして、金属シートの貫通孔には樹脂が連続しているものであるところ、図7(b)を参照すると、充填剤71及び72が貫通孔内に存在することが認められる。
また、上記カには「熱伝導率が実施の形態1における接着面領域における範囲となるように」との記載が認められるから、実施の形態1の構成を説明した上記(2)にも記載したように、接着面領域にも充填部材が含まれているものである。さらに図7を参照しても、充填剤71及び72が接着面領域7bと内部領域7cに存在していることが認められる。
3 上記2の(1)ないし(4)によれば、引用文献2には、実施の形態4に着目すると次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「熱硬化性樹脂を主成分とする接着剤成分に充填部材を分散した絶縁シートであって、
リードフレーム(導電部材)とヒートシンク部材との間に配置され、接着面を含んだ接着面領域とそれ以外の領域である内部領域とで構成され、
充填部材は、接着面領域と内部領域に含まれており、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ホウ素からなる扁平状もしくは粒子状であり、
更に、複数の貫通孔を有する熱伝導性に優れた金属シートを内部領域に配置し、貫通孔には樹脂が連続して形成されてなる
パワーモジュールに用いる熱伝導性に優れた絶縁シート。」


第5 対比
1 本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「熱硬化性樹脂を主成分とする接着剤成分」は、本願発明の「熱硬化性を有する樹脂」に相当する。
また、引用発明の「充填部材」は、「酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ホウ素」からなるものであるから、本願発明の「樹脂よりも熱伝導率の高い無機物」に相当する。
そして、引用発明の「絶縁シート」は、リードフレーム(導電部材)とヒートシンク部材との間に配置され、熱伝導性に優れたものであるから、本願発明の「放熱部材」に相当する。
よって、本願発明と引用発明は、「熱硬化性を有する樹脂と、該樹脂よりも熱伝導性の高い無機物とを含む放熱部材」である点で共通する。

(2)引用発明の「接着面」は、接着面領域にあるから接着剤成分を含んでおり、当該接着面でリードフレーム(導電部材)と接着するから、本願発明の「前記樹脂によって被着体に接着させて用いられ、該被着体に接着される第1面」に相当する。
そして、引用発明の絶縁シートは、リードフレームとヒートシンク部材との間に配置されるものであり、引用文献2の第1図を参酌すると、引用発明の絶縁シートは、接着面と対向する面(ヒートシンク部材側の面)を備えているから、本願発明の「第2面」に相当する構成も備えているといえる。
よって、本願発明と引用発明とは、「前記樹脂によって被着体に接着させて用いられ、該被着体に接着される第1面と、該1面に対向する第2面とを有」する点で共通する。

(3)引用発明の絶縁シートは、「接着面領域」と「内部領域」で形成されているところ、これらの領域には「充填部材」が含まれている。ここで上記(1)のとおり、引用発明の「充填部材」は本願発明の「無機物」に相当する。
しかしながら、本願発明は「前記無機物は、第1面側から第2面側へと連続した状態となって含まれて」いるのに対し、引用発明は無機物である充填部材が全体(接着面領域と内部領域)に含まれているものの、第1面側から第2面側へと「連続」している旨の特定がない点で相違する。

(4)引用発明の樹脂シートは、引用文献2の第1図を参照すると、所定の厚みを有した形状であるから、本願発明でいう「板状形状を有し」ているといえる。
また上記(2)のとおり、引用発明の「接着面」は本願発明の「被着体に接着される第1面」に相当する。
よって、本願発明と引用発明は「板状形状を有し、一面側に被着体に接着される前記第1面を有して」いる点で共通する。
但し、上記(3)と同様に、本願発明は「前記無機物が厚み方向に連続して」いるのに対し、引用発明はその旨の特定がない点で相違する。

(5)引用発明の「金属シート」は、絶縁シートの構成の一部である内部領域に配置されているから、絶縁シート全体の厚みより小さい寸法で構成されているものである。ここで引用文献2の第7図を参照すると、引用発明の「金属シート」は、板状形状といえる絶縁シート内に所定の厚みをもって形成されていることから、本願発明でいう「板状体」に相当するといえる。
よって、本願発明と引用発明は「厚み方向の寸法が前記板状形状よりも一回り小さい板状体を備え」ている点で共通する。
但し、板状体について、本願発明は「無機物」で形成されているのに対し、引用発明は「金属」で形成されている点で相違する。

(6)引用発明の「金属シート」の「複数の貫通孔」は、本願発明の「板状体」の「複数の穴」に相当する。そして、引用発明の「貫通孔には樹脂が連続して形成されてなる」ことは、本願発明の「該穴に前記樹脂が収納され」ていることに相当する。
よって、本願発明と引用発明は、「該板状体には複数の穴が形成されており、該穴に前記樹脂が収納され」ている点で共通する。

(7)本願発明は「前記板状体の一面側のみに前記樹脂で形成された皮膜が備えられ」ているのに対して、引用発明にはその旨の特定がない点。

(8)本願発明は「前記板状体の他方面側では前記無機物が表面露出している」のに対して、引用発明にはその旨の特定がない点で相違する。

2 したがって、上記(1)ないし(8)によれば、本願発明と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「熱硬化性を有する樹脂と、該樹脂よりも熱伝導率の高い無機物とを含む放熱部材であって、
前記樹脂によって被着体に接着させて用いられ、該被着体に接着される第1面と、該第1面に対向する第2面とを有し、
前記無機物が含まれており、
板状形状を有し、一面側に被着体に接着される前記第1面を有しており、
厚み方向の寸法が前記板状形状よりも一回り小さい板状体を備え、該板状体には複数の穴が形成されており、該穴に前記樹脂が収容されている放熱部材。」

(相違点1)
放熱部材に含まれる無機物について、本願発明は「第1面側から第2面側へと連続した状態となって含まれており」、「厚み方向に連続して」いるのに対し、引用発明にはその旨の特定がない点。

(相違点2)
板状体について、本願発明は「無機物」で形成されているのに対し、引用発明は「金属」で形成されている点。

(相違点3)
本願発明は「前記板状体の一面側のみに前記樹脂で形成された皮膜が備えられ」ているのに対して、引用発明にはその旨の特定がない点。

(相違点4)
本願発明は「前記板状体の他方面側では前記無機物が表面露出している」のに対して、引用発明にはその旨の特定がない点。


第6 判断
1 相違点1について
引用発明は、「接着力の低下が防止され、熱伝導性」「に優れた絶縁シートを得ることを目的とする」(引用文献2の段落【0005】を参照。)ものであり、絶縁シート全体(接着面領域および内部領域)に充填部材(無機物)を含ませたものである。つまり、無機物が本願発明でいう「第1面側」や「第2面側」にも含まれているものである。
そして、樹脂と無機充填材を主成分とする放熱部材において、無機充填材を連続的に接触して配置し、熱伝導性の向上を図ること(特開平3−020068号公報の請求項1、特開2004−165281号公報の段落【0094】、特開2013−039834の段落【0179】を参照)、厚み方向に連続して配すること(特開平5−102355号公報の図1及び段落【0013】参照)は周知の技術事項である。
そうすると、引用発明において、発熱体(リードフレーム)が発する熱を速やかに放熱するべく、絶縁シートにおける熱伝導性の高い無機物を厚み方向に連続的に配置して相違点1の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

2 相違点2について
引用発明の板状体は「金属」で形成されている。しかしながら、引用文献2の記載である上記「第4」の「1」の「イ」(引用文献2の段落【0006】)および「エ」(同段落【0012】)には、板状体に相当するシートは「金属シート」と「セラミックスシート」選択できる旨の記載が認められる。
よって、引用発明における「金属シート」を「セラミックシート(無機物)」に変更し相違点2の構成を採用することは、当業者が容易になし得たものである。

3 相違点3、相違点4について
(1)「第4」の「1」の「イ」(引用文献2の段落【0006】)に「上記シートの少なくとも片面に」接着面領域が設けられる旨、同「オ」(同段落【0014】)に「接着面側が接着面領域7b、他方の面側が内部領域7cであり、片面のみ接着性を必要とするシート構造」が記載されているように、引用文献2には一方の面にのみ接着面領域を有する絶縁シートも記載されている。ここで、樹脂で形成された皮膜を備えていることは当然である。そして、金属シートやセラミックシートを含んだ絶縁シートは、接着面領域を必ず両面に設けなければならない記載もない。よって、引用発明において、板状体の一面側のみに接着面領域を備えることは、適宜設計し得た事項である。

(2)また、「第4」の「1」の「カ」(同段落【0016】)には、「上記金属シート73等の導電性の充填部材は、接着面領域に用いるより内部領域、中でもコア領域に用いるほうが絶縁性の安定上好ましい」と記載されているように、内部領域における金属シートの配置はコア領域に必ずしも限定されるものではない。そうすると、内部領域の表面側(接着面領域との境界)に金属シートを配置することは、引用文献2において特に妨げておらず、当業者が適宜設計し得たことである。なお、引用文献において「金属シート」を「セラミックシート」に変更することは、上記「2」で記載したとおり適宜変更可能である。
そして、上記(1)で説示したとおり、引用発明において、一方の接着面領域を除去し、板状体の一面側のみに接着面領域を備えるよう構成することは当業者が容易になし得たことである。そうすると、このように構成した場合には、接着面領域を除去した面側に金属シート(セラミックシート)が露出したものとなる。

(3)以上によれば、引用発明において、金属シート(セラミックシート)の一面側のみに接着面領域を備え、金属シート(セラミックシート)を内部領域の接着面領域を除去した側の表面に設け、相違点3及び相違点4の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

5 まとめ
したがって、上記1ないし4によれば、本願発明は、引用文献2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものである。


第7 審判請求人の主張について
(1)令和3年3月8日の審判請求書において、以下のとおり主張している。
この引用文献2は、絶縁シートの概ね全体を金属シート(73)で構成することが開示されているとは考えにくいものになっております。
そして、少なくとも、本願発明が「前記板状体の一面側のみに前記樹脂で形成された皮膜が備えられ、前記板状体の他方面側では前記無機物が表面露出している」という構成要件を備えているのに対し、引用発明2は、このような構成要件が備えられていない点で相違しています。
即ち、引用文献2の段落0016での「また、本実施の形態では、いずれも金属シート73の貫通孔において樹脂が連続しているため、・・・」との記載における「貫通孔において樹脂が連続」とは、金属シートの一面側の樹脂と他面側の樹脂とが貫通孔において連続した状態になっていることを意味するものとして解されるのが自然な解釈であると認められ、一面側において金属シートを露出させる場合も「貫通孔において樹脂が連続している」とは考え難いものであります。

(2)上記主張についての検討
引用文献2に記載された発明は、「本発明は、接着性と熱伝導性に優れた絶縁シートおよび上記絶縁シートを用いたパワーモジュールに関するものである。」(段落【0001】)を目的とし、「本発明に係る絶縁シートは、複数の貫通孔を有するセラミックスシート、ガラス積層板、金属シートの少なくともいずれかのシートの上記貫通孔内に絶縁性充填材を具備する樹脂を備え、上記シートの少なくとも片面に、扁平状充填材、粒子状充填材のうち少なくともいずれかが充填された接着面領域が設けられて連続した層体を成しているものである。」(段落【0006】という構成を備えているものである。
ここで、段落【0016】に記載された「金属シート73の貫通孔において樹脂が連続しているため、絶縁シート内での金属シートと熱硬化性樹脂との界面が連続せず界面における剥離が防止できる」ことは、実施の形態4に係る構成、すなわち内部領域のコア領域に貫通孔を備えた金属シートを配置し、この内部領域の両面に接着面領域を備えた一実施形態のものに限定される効果であって、「界面における剥離が防止できる」ことが引用文献2において選択し得る全ての構成における目的や効果ではない。
そして、実施の形態4に係る構成を相違点3及び4のように変更し得ることが容易であることは、上記「第6」「3」で記載したとおりである。
なお、「この引用文献2は、絶縁シートの概ね全体を金属シート(73)で構成することが開示されているとは考えにくいものになっております。」との主張は、本願発明も放熱部材の概ね全体を無機物(板状体)で構成するよう特定されていないので、何と比較したいのか不明である。
したがって、請求人の主張は採用することができない。


第8 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-09-08 
結審通知日 2021-09-10 
審決日 2021-09-28 
出願番号 P2016-011574
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 山田 正文
山本 章裕
発明の名称 放熱部材及び半導体モジュール  
代理人 特許業務法人藤本パートナーズ  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ