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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F |
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管理番号 | 1380786 |
総通号数 | 1 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-01-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-03-08 |
確定日 | 2021-12-07 |
事件の表示 | 特願2016−242430「書き味向上フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月21日出願公開、特開2018− 97670、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年12月14日の出願であって、令和2年8月14日付けで拒絶理由が通知され、令和2年10月13日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年11月30日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和3年3月8日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、令和3年5月18日に前置報告がされたものである。 第2 原査定及び前置報告の概要 原査定(令和2年11月30日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願請求項1及び2に係る発明は、以下の点において、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。 本願請求項1及び2に係る発明において、「高さが1μm以上、3μm以下であり、かつ、平面方向の断面の最大断面積が10.2μm2以上である突起」(以下、本願明細書の【0014】の記載に従って、「大突起」という。)の数が「8個以上」であることは、本願明細書の【0083】【表2】の記載に対応しておらず、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。 なお、前置報告書において、審判請求時の手続補正により補正された請求項1及び2に係る発明、特に、「大突起」の数が「8個以上」から「9個以上」である構成に補正された点について、審判請求書における請求人の主張に対して、「「実施例4」の「10個」と「比較例2」の「7個」との間で、どのような評価が得られるのかなんら具体的な記載がないから、この主張は原査定時の「8個以上」との記載と同様に、採用できない。」との報告がなされている。 第3 本願発明 本願請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、令和3年3月8日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。なお、下線は、補正された箇所を示す。 「 【請求項1】 表面における10925.76μm2 の面積の範囲内に、高さが1μm以上、3μm以下であり、かつ、平面方向の断面の最大断面積が10.2μm2以上である突起が、9個以上、20個以下存在するとともに、高さが0μm超、1μm未満である突起が、18個以上存在する書き味向上層を有することを特徴とする書き味向上フィルム。 【請求項2】 前記書き味向上層が、硬化性成分と、微粒子とを含有するコーティング組成物を硬化させてなる層であることを特徴とする請求項1に記載の書き味向上フィルム。」 第4 当審の判断 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 以下、上記法規範(知財高裁大合議判決(平成17年(行ケ)第10042号)))に基づいて検討する。 本願の課題は、本願明細書の【0007】に記載されているように「タッチペンによる書き味に優れる書き味向上フィルムを提供すること」、すなわち、タッチペンによる書き味を向上させることであると理解できる。 まず、本願明細書には、「大突起」の数について、次のように記載されている。 「【0015】 上記のように、書き味向上フィルム1の表面に、大突起および小突起がそれぞれ上記の密度で存在すると、通常、大突起同士の谷の部分に小突起が位置するようになる。書き味向上フィルム1の表面がかかる形状を有すると、タッチペンによる書き味に、好ましい抵抗感・摩擦感が付与される。これらの感覚が相俟って、タッチペンの書き味が、鉛筆やペン等で紙に書くときの感覚に近くなり、優れたものとなる。 【0016】 なお、タッチペンとしては、例えば、ペン先直径が0.1〜5mmのハードフェルト芯のタッチペンの他、ポリアセタール芯のタッチペンなどを使用することができ、いずれのタッチペンを使用しても、上記の効果が得られる。また、本明細書において書き味の基準とする「ペン」には、ボールペン、フェルトペン、万年筆等が含まれるが、好ましくは万年筆を基準とする。 【0017】 上記の効果の観点から、書き味向上フィルム1の表面における10925.76μm2の面積の範囲内に、大突起が、8個以上存在することが好ましく、特に9個以上存在することが好ましい。とりわけ、紙への鉛筆の書き味を得る観点からは、11個以上存在することが好ましい。一方、上記大突起は、30個以下存在することが好ましく、特に20個以下存在することが好ましい。…(以下省略)」 よって、本願明細書には、少なくとも形式的には、書き味を向上させるために、「大突起」の数が「9個以上」であることが好ましいことが記載されているといえる。 また、本願明細書の【0082】の【表1】及び【0083】の【表2】は次のものである。 「【表1】 」 「【表2】 」 上記各表において、実施例1ないし実施例4は、書き味の評価が高く、本願の課題を解決するものであり、一方、比較例1ないし比較例3は、書き味評価のいずれかの項目の評価が低く、本願の課題を解決していないものと認められる。 ここで、【表2】において、「大突起の数」が「10」である実施例4と、「大突起の数」が「7」である比較例2とは、【表1】を参酌すると、コーティング組成物の材料である「硬化性成分」と「微粒子」との両方が異なるため、そのいずれが「大突起の数」に影響しているのかを判断することが困難である。一方、実施例4と、「大突起の数」が「4」である比較例3とは、「微粒子」の配分比が異なる以外は同じである。そして、実施例4における「微粒子」の配分比は「15」であるのに対し、比較例3における「微粒子」の配分比は「7」であることからすれば、他の条件が同じであれば、「微粒子」の配分比が大きいほど「大突起の数」が大きくなるという線形的な関係を想定することができる。(実際、「大突起の数」が影響する機械的な「ペン摺動試験」の各項目(振動の平均値、最大振動値、振幅数)の値はすべて、比較例3より実施例4の方が大きくなっている。) そして、官能試験に基づく「書き味評価」の複数の項目のうち、「ペン先引っ掛かり感」の評価は、実施例4と比較例3はいずれも「◎」であり、「ペン先流れ感」及び「振動」の評価は、実施例4は「◎」であるのに対し、比較例3は「△」であり、「引掻き音」の評価は、実施例4は「−」であるのに対して、比較例3は「×」である。 なお、本願明細書の【0080】を参酌すれば、実施例4の「引掻き音」の前記評価「−」とは、筆記音がほとんどせず、万年筆の書き味としては良好であることを示す評価である。そして、本願においては、実施例4を書き味が良いものと評価しており、また、本願明細書の【0016】において、書き味の基準に好ましい「ペン」として「万年筆」を挙げていることからすれば、万年筆の書き味として良好な場合も、良い評価に含まれると理解することができる。そうすると、比較例3の「引掻き音」の前記評価「×」は、本願明細書の【0079】の記載によれば、「サラサラとした音が聞こえない」という「鉛筆」の書き味についての悪い評価にすぎず、筆記音が聞こえないのであるから、「万年筆」の書き味としては、むしろ良い評価であると考えられる。 以上からすると、「微粒子」の配合比の変化量に応じて、「大突起の数」が連続的に変化し、また、「大突起の数」の変化量に応じて、書き味の評価が徐々に変化するものと想定することができる。よって、仮に、実施例4の「微粒子」の配合比のみを少し減らすことにより「大突起の数」を「10個」から「9個」に減少した場合に、その減少の分だけ、機械的な「ペン摺動試験」の各項目の値が小さくなり、その分だけ「書き味評価」が若干低くなることが想定できるとしても、「ペン先流れ感」及び「振動」の評価が「◎」から直ちに(「○」ではなく)比較例3と同じ「△」になったり、「引掻き音」の評価が、万年筆の書き味としても悪い評価となったりすることは考えにくく、むしろ良い評価の範囲内にとどまることを期待することができるといえる。 したがって、「大突起の数」が「9個以上」である場合も、本願の課題を解決できる程度に(特に万年筆の)書き味として良い評価が得られることは、本願明細書に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし認識できる範囲のものと理解できる。 そうすると、本願発明1及び2はいずれも、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を越えるものではなく、発明の詳細な説明に記載されたものである。 よって、本願発明1及び2は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 第5 原査定について 審判請求時の補正により、補正前の請求項1及び2に係る「8個以上」という記載は、「9個以上」に補正されている。 したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第6 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-11-16 |
出願番号 | P2016-242430 |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(G06F)
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最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
稲葉 和生 |
特許庁審判官 |
林 毅 野崎 大進 |
発明の名称 | 書き味向上フィルム |
代理人 | 早川 裕司 |
代理人 | 村雨 圭介 |