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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47L
管理番号 1380808
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-22 
確定日 2021-12-24 
事件の表示 特願2017− 66819「油脂除去シート、油脂除去方法及びキット」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月 1日出願公開、特開2018−166846〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成29年3月30日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。

令和2年10月15日付け 拒絶理由通知書
令和2年11月12日 意見書、手続補正書
令和2年12月25日付け 拒絶査定
令和3年 3月22日 審判請求書、手続補正書


第2 令和3年3月22日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年3月22日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の請求項1の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「表面に油脂が付着した被着体に貼付した後、前記被着体から剥離し、前記被着体表面に付着した前記油脂を除去するのに用いられ、
基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の側に設けられた粘着剤層と、を備え、帯電防止剤を有し、
前記基材フィルムと前記粘着剤層との間に、前記帯電防止剤を含有する帯電防止層を備え、
前記粘着剤層が、アルキル基の炭素数が10〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体を含有する、油脂除去シート。」

(2)本件補正前の請求項1の記載
本件補正前の、令和2年11月12日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「表面に油脂が付着した被着体に貼付した後、前記被着体から剥離し、前記被着体表面に付着した前記油脂を除去するのに用いられ、
基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の側に設けられた粘着剤層と、を備え、帯電防止剤を有し、
前記基材フィルムと前記粘着剤層との間に、前記帯電防止剤を含有する帯電防止層を備える、油脂除去シート。」

2 補正の適否
(1)本件補正の目的
本件補正が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
本件補正後の請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1に係る発明(以下、「補正前発明」という。)を特定するために必要な事項である「前記基材フィルムの一方の側に設けられた粘着剤層」について、「前記粘着剤層が、アルキル基の炭素数が10〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体を含有する」と限定するものであって、補正前発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、この補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)本件補正発明
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(3)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定(令和2年12月25日付けの拒絶査定)の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である国際公開第2013/015075号(2013年1月31日国際公開。以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は注目箇所を示すために当審で付したものである。)

「[0001] 本発明は、埃や汚れを除去するための粘着クリーナーに関し、詳しくは、ポータブルPCや高機能携帯電話に設けられた表示面/入力面のような平滑なプレート表面から皮脂その他の有機物からなる汚れを除去するための粘着クリーナーに関する。」
「[0005] 本発明は、かかる従来の課題を解決すべく創出されたものであり、その目的とするところは、上述したポータブル機器における表示部/入力部(タッチパネル部)のような平滑なプレート表面(表示面)に付着した塵や埃のみならず有機物からなる汚れ(例えば手垢、化粧品、皮脂汚れ)をも簡易に効率よく除去できるクリーナーを提供することである。」
「[0006] 上記目的を実現するべく、本発明によって、再剥離性の粘着剤を有する粘着体を備え、平滑な表面を有するプレートの該平滑なプレート表面に上記粘着体を接触させることによって該プレート表面に付着している有機物からなる汚れを取り除くために使用されるプレート表面用粘着クリーナーが提供される。好ましい一態様では、上記粘着体を支持する支持体を備える。
ここで開示されるプレート表面用粘着クリーナー(汚れ取り具)は、再剥離性の粘着剤を有する粘着体によってプレート表面の有機物からなる汚れ(例えば人の手垢や皮脂汚れ、あるいは化粧品)を除去することを特徴とする。かかる構成のクリーナーによると、上記粘着体をプレート表面に接触させることによって該プレート表面に付着した埃や有機物からなる汚れ(例えば人の手垢や皮脂汚れ)が粘着体に捕捉され、プレート表面から除去される。このため、上記洗浄剤を使用する場合のように煩雑な操作(例えば洗浄液を含む組成液の調製)を行うことなく、容易にプレート表面の汚れ、特に人の皮脂汚れを除去することができる。
したがって、ここで開示されるプレート表面用粘着クリーナーは、平滑なプレート表面としてガラス製または合成樹脂製の表示面(タッチパネル方式等では入力面ともいえる。)を備えるポータブル機器の該表示面に付着している有機物からなる汚れを取り除くために使用される。また、ここで開示されるプレート表面用粘着クリーナーは、有機物からなる汚れとして特にヒトの皮脂汚れを取り除くために好適に使用される。
なお、『有機物からなる汚れ』には、上述のように皮膚から分泌される皮脂が含まれることから明らかなように、ナトリウムやカリウム、それらの塩等の無機物も含まれていてよい。」
「[0019] 図4に示すように、本実施形態に係るクリーナー10の粘着体(粘着シートロール)30は、長尺シート状(帯状)の基材36と、該基材36の一方の面36Aに粘着剤が保持されて形成された粘着剤層32とを備える二層構造であり、その粘着剤層32の外表面(すなわち粘着面)32Aが外側(すなわちロールの外周側)を向くようにして、支持体20の周囲にロール状に巻回されて構成されている。
基材36は、典型的には、種々の合成樹脂、不織布、あるいは紙で構成される。また、布、ゴムシート、発泡体シート、金属箔、これらの複合体、等であってもよい。
・・・(中略)・・・基材36には、必要に応じて、充填剤(無機充填剤、有機充填剤等)、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、着色剤(顔料、染料等)等の各種添加剤が配合されてもよい。・・・(中略)・・・
基材36の厚さは、目的に応じて適宜選択することができ、特に限定されない。一般的には、基材36の厚さを凡そ20μm〜200μm(典型的には凡そ30μm〜100μm)程度とすることが適当である。」
「[0026] 上記のような本発明の目的に好ましい粘着力を備え、かつ、平滑なプレート表面2に付着した有機物からなる汚れ(例えば人の手垢や皮脂汚れ、あるいは化粧品成分の付着)を簡易に効率よく除去できるのに適する限りにおいて、粘着体30(粘着剤層32)を構成する粘着剤の組成(成分)は特に限定されない。
例えば、好適な粘着剤としては、種々の溶剤系粘着剤、水系(エマルジョン系)粘着剤等が挙げられる。人の皮脂汚れを除去する目的には、特に溶剤系粘着剤が好ましい。
ベースポリマー別には、好適な粘着剤として、アクリル系粘着剤、天然ゴム系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤、等が挙げられる。特にアクリル系粘着剤、天然ゴム系粘着剤、ウレタン系粘着剤が好ましい。
[0027] なかでも、粘着剤は、ベースポリマー(ポリマー成分のなかの主成分、主たる粘着性成分)として、アクリル系ポリマーを含有するアクリル系粘着剤であることが好ましい。ここで『アクリル系ポリマー』とは、典型的には、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主モノマーとして含み、この主モノマーと共重合性を有する副モノマーをさらに含んでよいモノマー原料(単一モノマーまたはモノマー混合物)を重合することによって合成された重合体(共重合体)である。なお、『(メタ)アクリレート』とは、アクリレートおよびメタクリレートを包括的に指す意味である。同様に、『(メタ)アクリロイル』はアクリロイルおよびメタクリロイルを、『(メタ)アクリル』はアクリルおよびメタクリルを、それぞれ包括的に指す意味である。
[0028] 上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば式:
CH2=CR1COOR2
で表わされる化合物を好適に用いることができる。
ここで、上記式中のR1は水素原子またはメチル基である。また、R2は炭素原子数1〜20のアルキル基(以下、このような炭素原子数の範囲を『C1−20』と表すことがある。)である。粘着剤の貯蔵弾性率等の観点から、R2がC1−14(例えばC1−10)のアルキル基である(メタ)アクリル酸アルキルエステルであってもよい。なお、上記アルキル基は、直鎖状または分岐状であり得る。
[0029] 上記C1−20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソノニルが好ましい。例えばこれらの1種または2種以上が合計50質量%を超える(例えば60質量%以上99質量%以下、典型的には70質量%以上98質量%以下の)割合で共重合されたアクリル系ポリマーとすることができる。」
「[0040] なお、粘着剤層を構成する粘着剤には、さらに、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、着色剤(顔料、染料など)等の各種添加成分を配合することができる。これら必須成分ではない添加剤の種類や配合量は、この種の粘着剤における通常の種類および配合量と同様とすることができる。」

(イ)引用文献1から理解できる事項
上記(ア)の段落[0026]〜[0029]から、粘着剤層32を構成する粘着剤として、アルキル基の炭素数が10、11、12、・・・、18、19、20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルのいずれか1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることが理解できる。

(ウ)引用発明
上記(ア)〜(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「表面に皮脂汚れが付着した平滑なプレートに再剥離性の粘着剤を有する粘着体を接触させることによって、前記平滑なプレートの表面に付着した前記皮脂汚れを除去するのに用いられ、
基材36と、前記基材36の一方の面36Aに形成された粘着剤層32と、を備え、帯電防止剤を有し、
前記帯電防止剤は、前記基材36や前記粘着剤層32に配合されており、
前記粘着剤層32が、アルキル基の炭素数が10〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体を含有する、皮脂汚れを除去する粘着シートロール。」

イ 引用文献2
(ア)原査定(令和2年12月25日付けの拒絶査定)の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開2004−113362号公報(平成16年(2004年)4月15日出願公開。以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は注目箇所を示すために当審で付したものである。)

「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、粘着除塵クリーナーに関する。」
「【0011】粘着除塵クリーナーとしては、発泡粘着剤層が外側となるように芯材に巻回されたロール状の形態を有していることが好ましい。」
「【0066】粘着除塵クリーナーが、基材(特に、プラスチックフィルム)の少なくとも片面に発泡粘着剤層が形成された構成を有している場合、図1で示されるように、発泡粘着剤層と基材との間に、帯電防止層が形成されていてもよい。帯電防止層を形成することにより、粘着除塵クリーナー使用時の除去対象物への帯電や、使用後に、例えば、粘着除塵クリーナーの外周1周分を剥離除去するときの剥離帯電を抑制又は防止することができる。図1は本発明の粘着除塵クリーナーの一例を部分的に示す概略断面図である。図1において、1は粘着除塵クリーナー、2は発泡粘着剤層、3は帯電防止層、4は基材である。粘着除塵クリーナー1は、基材4の片面に、帯電防止層3、発泡粘着剤層2がこの順で積層された構成を有している。
【0067】帯電防止層3は、帯電防止剤により形成することができる。・・・」
「【0072】本発明の粘着除塵クリーナーは、どのような方式の粘着除塵クリーナーとしても利用することが可能であり、具体的には、図2(a)で示されるようなハンドローラー方式、図2(b)で示されるような直写方式、図2(c)で示されるような転写方式、図2(d)で示されるような貼り付け方式の粘着除塵クリーナーとして利用することができる。・・・」

(イ)引用文献2に記載された事項
上記(ア)から、引用文献2には次の技術事項が記載されていると認められる。
「ハンドローラー方式の粘着除塵クリーナーにおいて、粘着除塵クリーナー使用時の除去対象物への帯電や、使用後に、例えば、粘着除塵クリーナーの外周1周分を剥離除去するときの剥離帯電を抑制又は防止するための帯電防止層を、発泡粘着剤層と基材との間に形成すること。」

(4)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「皮脂汚れ」は本件補正発明の「油脂」に相当し、引用発明の「平滑なプレート」は本件補正発明の「被着体」に相当する。
(イ)引用発明における「再剥離性の粘着剤を有する粘着体」は、当該粘着剤の粘着成分により、平滑なプレートに接触した際に貼付され、その後、剥離することが可能であることが自明であるから、引用発明の「表面に皮脂汚れが付着した平滑なプレートに再剥離性の粘着剤を有する粘着体を接触させることによって、前記平滑なプレートの表面に付着した前記皮脂汚れを除去する」は、本件補正発明の「表面に油脂が付着した被着体に貼付した後、前記被着体から剥離し、前記被着体表面に付着した前記油脂を除去する」に相当する。
(ウ)「フィルム」とは、一般に「薄い膜(デジタル大辞泉)」を意味する用語であるところ、本件補正発明の「基材フィルム」の厚さは「例えば15〜300μmが好ましく、30〜200μmがより好ましく、40〜100μmがさらに好ましい」(本願明細書の段落【0012】参照。)ものであって、引用発明の「基材36」の厚さは「凡そ20μm〜200μm(典型的には凡そ30μm〜100μm)程度」(引用文献1の段落[0019] 参照。)であるから、両者は同程度の厚さを有していると認められる。したがって、引用発明の「基材36」は本件補正発明の「基材フィルム」に相当する。
(エ)引用発明の「一方の面36A」は、本件補正発明の「一方の側」に相当し、以下同様に、「形成された」は「設けられた」に、「粘着剤層32」は「粘着剤層」に、「帯電防止剤」は「帯電防止剤」に、それぞれ相当する。
(オ)引用発明における「アルキル基の炭素数が10〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステル」は本件補正発明における「アルキル基の炭素数が10〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステル」に包含されるから、引用発明の「前記粘着剤層32が、アルキル基の炭素数が10〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体を含有する」は、本件補正発明の「前記粘着剤層が、アルキル基の炭素数が10〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体を含有する」に相当する。
(カ)引用発明の「皮脂汚れを除去する粘着シートロール」は、本件補正発明の「油脂除去シート」に相当する。

イ 一致点及び相違点
以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「表面に油脂が付着した被着体に貼付した後、前記被着体から剥離し、前記被着体表面に付着した前記油脂を除去するのに用いられ、
基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の側に設けられた粘着剤層と、を備え、帯電防止剤を有し、
前記粘着剤層が、アルキル基の炭素数が10〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体を含有する、油脂除去シート。」

<相違点>
本件補正発明では、「前記基材フィルムと前記粘着剤層との間に、前記帯電防止剤を含有する帯電防止層を備え」ているのに対し、引用発明では、帯電防止剤は、基材36や粘着剤層32に配合されており、前記のような帯電防止層を備えていない点。

(5)判断
ア 相違点について
以下、相違点について検討する。
引用文献2には、上記(3)イ(イ)に示したように、ハンドローラー方式の粘着除塵クリーナーにおいて、粘着除塵クリーナー使用時の除去対象物への帯電や、使用後に、例えば、粘着除塵クリーナーの外周1周分を剥離除去するときの剥離帯電を抑制又は防止するための帯電防止層を、発泡粘着剤層と基材との間に形成することが記載されている。
引用発明と、引用文献2に記載された事項とは、いずれも、除去対象物を粘着層により除去する粘着クリーナーという同一の技術分野に属し、ロール状の形態をしている点で共通している。そして、粘着シートに帯電防止性能を付与する手段として、帯電防止剤を基材や粘着剤層に配合することも、帯電防止層を設けることも、例えば、特開2014−91791号公報の段落【0003】に示されているように、従来から選択的に用いられている事項であるから、引用発明において、帯電防止剤を基材36や粘着剤層32に配合することに代えて、引用文献2に記載された帯電防止層を採用し、基材36と粘着剤層32との間に配置することは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 請求人の主張
請求人は審判請求書において、
「この度の補正にて、『前記粘着剤層が、アルキル基の炭素数が10〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体を含有する』との限定を行いました。
粘着剤層が、炭素数が10〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体を含有することで、優れた油脂除去効果を発揮することができます(本願段落[0015]参照)。
引用文献1の段落[0028]には、各種のアクリル酸アルキルエステルが例示されています。しかし、引用文献1の実施例で使用されているのは、アクリル酸2−エチルヘキシル(アルキル基の炭素数8)のみであり、段落[0028]でも炭素数の例示が段階的に小さい数値へと限定されています。よって、引用文献1において、優れた油脂除去効果を発揮させるためにアルキル基の炭素数を高めるという技術思想はありません。
また、ご指摘の他のいずれの引用文献の実施例にも、アルキル基の炭素数が10〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体を含有した粘着剤層は、記載されていません。」
と主張している。
しかしながら、粘着剤層が、炭素数が10〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体を含有することで、優れた油脂除去効果を発揮する点については、本願明細書の段落【0015】に、「油脂除去性能を向上させるという観点から、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基は、炭素数5〜30が好ましく、炭素数8〜25がより好ましく、炭素数10〜20がさらに好ましい。」と記載されているのみであって、炭素数が「10〜30」の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体を含有したものが、これ以外の炭素数のものの共重合体を含有したものと比較して、優れた油脂除去効果を発揮することについて、理論的な裏付けも実験的な裏付けも記載されていないから、炭素数が「10〜30」の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体を含有させることの効果が格別とはいえない。
また、本件補正発明における「アルキル基の炭素数が10〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体」とは、「アルキル基の炭素数」が「10、11、12、・・・、28、29、30」である「(メタ)アクリル酸アルキルエステル」のいずれか1種を単独で、もしくは2種以上を混合して用い共重合体としたものと解されるから、例えば「アルキル基の炭素数」が12の(メタ)アクリル酸ドデシルを単独で用い共重合体としたものを含むものである(本願明細書の段落【0015】、【0016】参照。)。そして、引用文献1の段落[0029]には、同じく、(メタ)アクリル酸ドデシルを単独で用い共重合体としたもの等、「アルキル基の炭素数が10〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体」が開示されている。すると、本件補正発明の「アルキル基の炭素数が10〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体」には、引用発明の「アルキル基の炭素数が10〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体」が含まれており、本件補正発明がアルキル基の炭素数を21〜30に限定したものではない以上、本件補正発明の「アルキル基の炭素数が10〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体」は、引用文献1に開示されているといえるから請求人の主張を採用することはできない。

さらに、請求人は審判請求書において、
「また、拒絶理由通知において審査官殿は、『引用文献1に記載された発明と引用文献2に記載された発明とは、表面のほこりを除去するクリーナという同一の技術分野に属し』、と認定されていますが、本願及び引用文献1での油脂除去の作用と、引用文献2でのほこりの除去とは、異なるものであり、これら文献が同一の技術分野に属するとの認定は失当であると思料いたします。
したがって、油脂除去性能の向上について記載も示唆もない、引用文献2の帯電防止層の構成を採用する動機付けはありません。」
と主張している。
引用発明は塵や埃だけでなく皮脂汚れも除去するものであり、引用文献2に記載された事項は塵埃(のみ)を除去するものであるとしても、帯電を防止するという課題は除去対象物に因らず生じるものであって、上記アで示したとおり、引用発明に、引用文献2に記載された事項を適用する動機付けは存在するといえるから、この点においても請求人の主張を採用することはできない。

ウ 本件補正発明の作用効果について
本件補正発明の作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された事項から当業者が予測できる範囲のものである。

エ まとめ
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
令和3年3月22日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和2年11月12日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についてのものは、この出願の請求項1に係る発明は、日本国内又は外国において、その出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第2013/015075号
引用文献2:特開2004−113362号公報

3 引用文献及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び引用文献2の記載事項は、上記第2[理由]2(3)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記粘着剤層が、アルキル基の炭素数が10〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体を含有する」という事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2[理由]2(4)(5)で検討したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、「前記粘着剤層が、アルキル基の炭素数が10〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体を含有する」という事項が削除された本願発明についても、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-10-25 
結審通知日 2021-10-26 
審決日 2021-11-08 
出願番号 P2017-066819
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A47L)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 柿崎 拓
特許庁審判官 木戸 優華
田合 弘幸
発明の名称 油脂除去シート、油脂除去方法及びキット  
代理人 加藤 広之  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 西澤 和純  

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