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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1380822
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-30 
確定日 2022-01-11 
事件の表示 特願2016−52731「分析方法および液体電極プラズマ発光分析装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年9月21日出願公開、特開2017−166991、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は平成28年3月16日を出願日とする出願であって、令和2年1月9日付けで拒絶理由通知がなされ、同年3月24日に意見書が提出され、同年7月20日付けで拒絶理由通知(最初)がなされ、同年9月10日に意見書が提出され、同年12月15日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、令和3年3月30日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同年8月6日付けで拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由通知」という。)がなされ、同年10月8日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

1 本願請求項1〜3に係る発明は、以下の引用文献1〜4、7に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 本願請求項4に係る発明は、以下の引用文献1〜7に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 引用文献等一覧
1.特許第3932368号公報
2.特開2005−233627号公報
3.特開昭56−151342号公報
4.特開2007−3510号公報
5.特開2004−93509号公報
6.特開2005−77151号公報
7.高村 禅,液体電極プラズマを用いた超小型原子発光分光分析装置の開発,JAIST 平成16年度課題 成果報告,2007年10月4日,課題番号1611,第1頁−第37頁,https://www.jst.go.jp/tt/uventure/h16seika/announce11.pdf

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

1(当審拒絶理由1;明確性)この出願は、特許請求の範囲の請求項1〜3の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1の「液状試料の物理的および化学的性状を実質的に変化させない分析法」に各種具体的な分析法の何れが含まれるか否かの境界が不明確である。(以下「当審拒絶理由1−1」という。)
(2)請求項1の「前記信号強度を測定した後の液状試料」に含まれる概念の範囲が明確でない。(以下「当審拒絶理由1−2」という。)

2(当審拒絶理由2;サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の請求項1〜3の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1の「液状試料の物理的および化学的性状を実質的に変化させない分析法」には、明細書の記載を参酌してもなお、「原子吸光分析法」のような、液体試料中のごく微量を分析に供し、失われる分析方法も含まれる。よって、発明の詳細な説明に本願発明として記載された発明ではなく、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲外の分析法である、原子吸光分析法を採用する発明を含むものであるから、この点で当該特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しない。(以下「当審拒絶理由2−1」という。)

(2)請求項1の「前記信号強度を測定した後の液状試料」に関し、請求項1の「液状試料」が測定に供された画分と同一の画分を標準濃度試料の添加対象とするものであるのに対し、発明の詳細な説明に記載された発明は、液体電極プラズマ発光分析装置を含め、当該画分が失われ得るものである。この点で、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえず、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
よって、この点において、当該特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しない。(以下「当審拒絶理由2−2」という。)

3(当審拒絶理由3;進歩性
(1)本願請求項1に係る発明は、下記引用文献8及び5に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)本願請求項2・3に係る発明は、下記引用文献8、1、5、7に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)本願請求項4に係る発明は、下記引用文献8、1、5、6、7に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(4)引用文献等一覧
引用文献1、5、6、7:原査定の引用文献として上記第2の3に列挙したとおり。
引用文献8:特開昭54−76287号公報

第4 本願発明
本願請求項1〜3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明3」という。)は、令和3年10月8日に提出された手続補正書により補正(以下「本件補正」という。)された特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりの発明である。ここで、各構成単位冒頭の「1A」などは当審で付した分説記号であり、該各構成単位について以下「構成1A」などという(以下同様)。また、下線は補正個所を示す。

「 【請求項1】
1A 測定対象試料から得られ、貯液槽に収容された液状試料の一部を、液体電極プラズマ発光分析法の検出部に導入して前記液状試料の分析対象成分濃度xに対応する信号強度を測定するステップと、
1B1 前記信号強度を測定した後の液状試料を前記検出部から前記貯液槽に返送し、
1B2 既知量の分析対象成分を含む標準液を前記貯液槽に添加し、前記xの関数として表される分析対象成分濃度を有する添加試料を得て、前記添加試料の一部を、前記検出部に導入して前記添加試料の分析対象成分濃度に対応する信号強度を測定するステップと、
1C 前記測定対象試料を、分析対象成分を含まない対照試料に置き換えて得られ、前記貯液槽に収容されたブランク試料の一部を、前記検出部に導入してブランク値としての信号強度を測定するステップと、
1D 前記液状試料、前記添加試料および前記ブランク試料それぞれの分析対象成分濃度と信号強度との関係から、前記液状試料中の分析対象成分濃度xを算出するステップと、
1E を有することを特徴とする分析方法。
【請求項2】
2A 前記液状試料が、前記測定対象試料に対して前処理を施したものである請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
3A 液体を収容する貯液槽と、
3B 液体電極プラズマ発光分析法により、液体の分析対象成分濃度に対応する信号強度を測定する検出部と、
3C 前記貯液槽内の液体の一部を前記検出部に供給し、その後前記検出部から前記貯液槽に返送する液体移送手段と、
3D 前記貯液槽に測定対象試料を供給する測定対象試料供給手段と、
3E 前記貯液槽に既知量の分析対象成分を含む標準液を供給する標準液供給手段と、
3F 前記貯液槽に分析対象成分を含まない対照試料を供給する対照試料供給手段と、
3G 前記貯液槽内の液体に対して前処理を施す前処理手段と、
3H 前記検出部、前記液体移送手段、前記測定対象試料供給手段、前記標準液供給手段、前記対照試料供給手段および前記前処理手段を制御すると共に、前記検出部で得られる信号強度が入力される演算制御部と、を備え、
3I 前記演算制御部は、
3J1 測定対象試料を前記貯液槽に供給し、前処理を施して液状試料とし、前記液状試料の一部を前記貯液槽から前記検出部に供給し、
3J2 前記液状試料の分析対象成分濃度xに対応する信号強度を測定するステップと、
3K1 前記信号強度を測定した後の液状試料を前記検出部から前記貯液槽に返送し、既知量の分析対象成分を含む標準液を前記貯液槽に供給して、前記xの関数として表される分析対象成分濃度を有する添加試料を得て、前記添加試料の一部を前記検出部に供給し、
3K2 前記添加試料の分析対象成分濃度に対応する信号強度を測定するステップと、
3L1 分析対象成分を含まない対照試料を前記貯液槽に供給し、前処理を施してブランク試料とし、前記ブランク試料の一部を前記貯液槽から前記検出部に供給し、
3L2 ブランク値としての信号強度を測定するステップと、
3M 前記液状試料、前記添加試料および前記ブランク試料それぞれの分析対象成分濃度と信号強度との関係から、前記液状試料中の分析対象成分濃度xを算出するステップと、
を行うように構成されていることを特徴とする
3N 液体電極プラズマ発光分析装置。」

第5 引用文献、引用発明等

1 引用文献8について

(1)引用文献8の記載事項
当審拒絶理由通知において引用された引用文献8には、次の記載がある。

(記載事項1−3)「発明の詳細な説明
本発明は、標準添加法を用いて試料に含まれる物質の濃度を測定、表示する原子分析装置に係り特に、原子吸光光度計、原子螢光光度計、等に用いるに好適な、標準物質を添加する前の試料に含まれる物質の濃度を精度良く測定できる原子分析装置に関する。
試料に異なる濃度の標準物質溶液を添加し、吸光度等を測定して得られる希釈系列から、標準物質を添加する前の試料に含まれる物質の濃度を算出する標準添加法は、試料の組成が不明確で、測定過程に入る化学干渉或るいは物理干渉の影響を除去することが難しく、通常の検量線法では精度よく定量できない場合に有効な定量方法としてよく用いられている。この方法は、又、試料に含まれる物質の量が測定限界程度に微量で、直接測定ではSN比が小さ過ぎ、精度良く測定できない時の間接測定法としても有効である。」(1頁左下欄〜同右下欄)

(記載事項1−4)「このような標準添加法による定量の手順を説明すると、まず等量に分けられた分析試料数個に異なる濃度の標準物質溶液を添加し、それぞれの溶液について吸光度を測定した後、横軸に添加した標準物質溶液の濃度を、縦軸に吸光度を取ったグラフ上に各データをプロットし、それらの点を平均的に通る直線を引く。この状態を示したのが第1図であり、図において、点A、点B、点C、点Dが測定点であり、これらの点を平均的に通るように引かれた直線lが横軸yと交わる点と原点との距離Xから試料の濃度を読取ることができる。間接測定として利用する場合には、y軸上の点Aの測定は行なわず、点B、点C、点Dから外挿して点A及び濃度Xを読み取る。」(1頁右下欄10行〜2頁左上欄3行)

(記載事項2−1)「このような欠点を改良したのが、第2図に示される従来の濃度直読装置で、入力信号変換器1、メモリ2、減算器3、係数器4、表示器5によって構成される。このような濃度直読装置においては、まず標準物質溶液を添加していない試料溶液の吸光度を測定する。測定結果は吸光光度計からアナログ信号で出てくるので、それを入力信号変換器1でデジタル信号に変換し、メモリ2に記憶させる。その結果、減算器3の入力端子には同一信号が入力され、出力は零に保たれ、係数器4を通って表示器5に表示されるデータも零となる。第3図は、動作の状態を示すために横軸に表示器5の表示値x1、縦軸に減算器3の出力y1をとり、測定点をプロットしたもので、最初の試料を測定して表示器に零を表示させた状態は点A1に対応する。次に、試料に適当な濃度の標準物質溶液を添加した溶液を測定し、その時の表示器5の表示値が、添加した標準物質溶液の濃度値に等しくなるように係数器4の倍率を調整する。この結果が第3図の点B’に対応し、点A’、点B’を通る直線l’が確定される。次いで、実質的に濃度零の溶液(例えば蒸留水或いは溶媒)の濃度を測定する。この時、表示器5の表示値は、第3図で点C’の横軸座標の値x。’を示しており、この符号を反転した値が、最初に測定した試料の求める濃度と一致している。」(2頁左上欄11行〜同右上欄16行)

(記載事項2−2)「この第2図の従来の濃度直読装置によれば、グラフに点をプロットする必要がなく、測定時に個人差が入るという可能性も解決されているが、次のような欠点が残されている。即ち、
(1)測定点2点のみて直線を決定しているため、直線の信頼度即ち最終的な測定値の信頼性が低い。
(2)1分析試料に関する測定のたび毎に蒸留水又は溶媒の測定が必要であり、連続測定する時の測定能率が悪い。
(3)必ず標準物質溶液を添加してない試料溶液を測定する必要があり、間接測定には適応できない。」(2頁右上欄17行〜同左下欄9行)

(記載事項3−4)「なお前記実施例はいずれも本発明を、原子吸光光度計に適用したものであるが、本発明の適用範囲がこれに限定されず、原子吸光光度計、原子螢光光度計、の原子分析装置或いは、紫外可視吸光等に代表される一般の吸光分析装置に適用されることは明らかである。」(3頁右下欄下から4行目〜4頁左上欄2行)

(第1図)






(第2図)






(第3図)
















(2)引用発明8A
上記(1)の記載事項から引用文献8には、次の発明(以下「引用発明8A」という。)が記載されていると認める。分説番号については上記のとおり。各構成単位末尾の括弧内には、根拠となる記載個所を示す(以下同様)。

「1a 液体試料に含まれる物質の濃度を測定する原子吸光分析法、原子蛍光分析法、または紫外可視吸光分析法などの一般の吸光分析法により、まず標準物質溶液を添加していない試料溶液の吸光度(蛍光強度)を測定し、それが零に保たれた表示器への表示データを得るステップと、(記載事項1−3、2−1、3−4)
1b 前記試料溶液に適当な濃度の標準物質溶液を添加した溶液を得て、
当該添加した溶液に対し吸光度(蛍光強度)を測定し、その表示器への表示データを得るステップと、(記載事項2−1)
1c 蒸留水や溶媒など実質的に濃度ゼロの溶液の吸光度(蛍光強度)を測定し、その表示器への表示データを得るステップと、(記載事項2−1)
1d 前記標準物質溶液を添加していない試料溶液、試料溶液に適当な濃度の標準物質溶液を添加した溶液、及び実質的に濃度ゼロの溶液の吸光度(蛍光強度)の前記各表示データから液体試料の濃度値を求めるステップと、(記載事項2−1)
1e を備える分析方法。」

(3)引用発明8B
上記(1)の記載事項から、引用文献8には、さらに、次の発明(以下「引用発明8B」という。)が記載されていると認める。

「3b液体試料に含まれる物質の濃度を測定する原子吸光分析法、原子蛍光分析法、または紫外可視吸光分析法などの一般の吸光分析法により分析する吸光または蛍光分析装置と、(記載事項1−3、2−1、3−4)
3h 前記吸光または蛍光分析装置からの信号が入力される、メモリ・減算器・係数器などからなる濃度直読装置と、を備え、
3i 前記吸光または蛍光分析装置及び濃度直読装置は、
3j2 液体試料に含まれる物質の濃度を測定する原子吸光分析法、原子蛍光分析法、または紫外可視吸光分析法などの一般の吸光分析法により、まず液体試料の吸光度(蛍光強度)を測定し、その表示器への表示データを得るステップと、
3k2 前記液体試料に適当な濃度の標準物質溶液を添加した溶液を得て、当該添加した溶液に対し吸光度(蛍光強度)を測定し、その表示器への表示データを得るステップと、
3l2 蒸留水や溶媒など実質的に濃度ゼロの溶液の吸光度(蛍光強度)を測定し、その表示器への表示データを得るステップと
3m 前記液体試料、添加した溶液、及び実質的に濃度ゼロの溶液の吸光度(蛍光強度)の前記各表示データから液体試料の濃度値を求めるステップと、を行う
3n 吸光または蛍光分析装置。」

2 引用文献1の記載事項
引用文献1には次の記載がある。

「【請求項7】
絶縁性材料で形成された流路に該流路の断面積よりも著しく小さい断面積を有する狭小部を設け、該流路および狭小部に、元素の同定または定量を行うための導電性液体を満たした後、前記狭小部に電界が通過するように該狭小部に電界を印加し、前記狭小部でプラズマを発生させ、発生したプラズマから生じる光を分光する元素分析方法。」

「【0009】
すなわち、本発明の要旨は、(1)絶縁性材料で形成された流路に該流路の断面積よりも著しく小さい断面積を有する狭小部を設け、該流路および狭小部に導電性液体を満たした後、前記狭小部に電界が通過するように該狭小部に電界を印加し、前記狭小部でプラズマを発生させるプラズマの発生方法、(2)絶縁性材料で形成された流路に該流路の断面積よりも著しく小さい断面積を有する狭小部を設け、該流路および狭小部に、元素の同定または定量を行うための導電性液体を満たした後、前記狭小部に電界が通過するように該狭小部に電界を印加し、前記狭小部でプラズマを発生させ、発生したプラズマから生じる光を分光する元素分析方法、(3)導電性液体中でプラズマを発生させる装置であって、絶縁性材料で形成された流路に該流路の断面積よりも著しく小さい断面積を有する狭小部が配設され、前記狭小部に電界が通過するように該狭小部に電界を印加するための手段が配設されてなるプラズマの発生装置、ならびに(4)前記プラズマの発生装置を有する発光分光分析装置に関する。」

「【0030】
流路および狭小部に導電性液体を満たす。導電性液体として、分析される液体試料が用いられる。導電性液体に用いられる電解質としては、例えば、硝酸、酢酸、塩酸などが挙げられるが、これらのなかでは、分析に障害を発生させがたいことから、硝酸が好ましい。試料は、硝酸など分析に支障を生じない元素からなる電解質で導電性を付与することが好ましい。
【0031】
次に、前記狭小部に電界が通過するように、例えば、狭小部に沿って電界を印加するなどの方法により、該狭小部に電界を印加する。これにより、前記狭小部で気泡が生じ、生じた気泡中にプラズマを発生させることができる。」

3 引用文献5の記載事項
引用文献5には次の記載がある。

「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前述した特許文献1の装置は、JIS−K0102の全窒素測定法および全りん測定法に準拠して試料水中に含まれる全窒素および全りんをそれぞれ測定できるものではなかった。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、JIS法に準拠して試料水中に含まれる全窒素および全りんの測定を行うことができる全窒素・全りん測定装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記目的を達成するため、下記(1)〜(9)の全窒素・全りん測定装置を提供する。

【0007】
(1)試料水にアルカリ性ペルオキソ二硫酸カリウムを加え、120℃付近で試料水中の所定成分を加熱分解し、次いで試料水のpHを調整した後、波長220nmの吸光度を測定して試料水中の全窒素を定量する全窒素測定手段と、試料水にペルオキソ二硫酸カリウムを加え、120℃付近で試料水中の所定成分を加熱分解し、次いで試料水に発色試薬および還元試薬を添加した後、波長880nmの吸光度を測定して試料水中の全りんを定量する全りん測定手段と、吸光度測定のための分光分析計とを具備する全窒素・全りん測定装置であって、前記分光分析計は、光源部と、回折格子および少なくとも波長220nm以上880nm以下の波長域(検出波長域)の光を検出可能な光検出器を有する分光検出部とを具備し、少なくとも波長220nmの光および波長880nmの光の特性を測定するものであり、かつ前記検出波長域を、220nm以上440nm未満の第1分割波長域と、440nm以上880nm以下の第2分割波長域とに分割するとともに、前記各分割波長域に対応する光をそれぞれ照射可能な複数の光源を別個に点灯させることにより、前記各分割波長域のスペクトルをそれぞれ取得し、これら各分割波長域のスペクトルを合成して前記検出波長域のスペクトルを得るものであることを特徴とする全窒素・全りん測定装置。」

「【0020】
本例の全窒素・全りん測定装置は、下記ステップにより、JIS法に準拠して試料水中に含まれる全窒素および全りんの測定を行うものである(図2および図3参照)。
1.パルスポンプP11で試料液槽304中の試料水332をリザーバータンクT2に吸引送液する。
2.電磁弁SV1、SV2を切り替えて、パルスポンプP11でリザーバータンクT2中の試料水を反応槽302に移送する。この試料水はりん測定用試料となる。
3.ペルオキソ二硫酸カリウム溶液306を反応槽302に注入し、試料水と混合する。
4.エアーポンプP7〜加熱分解器(りんライン)328〜反応槽302が導通状態になるようバルブを切り替え、バブリングする。
5.混合後、反応槽302〜加熱分解器(りんライン)328〜パルスポンプP11が導通状態になるようバルブを切り替え、パルスポンプP11で吸引移送する。
6.加熱分解器328内の流路が、空気/試料水/空気の状態になるタイミングでパルスポンプP11を停止する。
7.加熱分解を開始し、30分間加熱する。
8.送液ポンプP8、パルスポンプP11により反応槽302を純水で洗浄する。
9.パルスポンプP11でリザーバータンクT2中の試料水を反応槽302に移送する。
この試料水は窒素測定用試料となる。
10.ペルオキソ二硫酸カリウム溶液306および水酸化ナトリウム溶液308を反応槽302に注入し、試料水と混合する。
11.エアーポンプP7〜加熱分解器(窒素ライン)328〜反応槽302が導通状態になるようバルブを切り替え、バブリングする。
12.混合後、反応槽302〜加熱分解器(窒素ライン)328〜パルスポンプP11が導通状態になるようバルブを切り替え、パルスポンプP11で吸引移送する。
13.加熱分解器328内の流路が、空気/試料水/空気の状態になるタイミングでパルスポンプP11を停止する。
14.加熱分解を開始し、30分間加熱する。
15.送液ポンプP8、パルスポンプP11により反応槽302を純水で洗浄する。
16.送液ポンプP9により純水を検出器330〜反応槽302間を循環させながらブランク測定する。
17.パルスポンプP11でりん測定用試料水を反応槽302に戻し、L−アスコルビン酸溶液312を注入し、混合する。
18.送液ポンプP9により試料水を検出器330〜反応槽302間を循環させながらブランク測定する。
19.送液ポンプP9により試料水を循環している状態で、反応槽302にモリブデン酸アンモニウム溶液314を注入し、混合する。
20.送液ポンプP9により試料水を検出器330〜反応槽302間を循環させながら全りんを測定する。
21.測定終了後、送液ポンプP8により排液を行う。
22.送液ポンプP8、パルスポンプP11により反応槽302を純水で洗浄する。
23.パルスポンプP11で窒素測定用試料水を反応槽302に戻し、タンク310内の塩酸溶液を注入し、混合する。
24.送液ポンプP9により試料水を検出器330〜反応槽302間を循環させながら全窒素を測定する。
25.測定終了後、送液ポンプP8により排液を行う。
26.送液ポンプP8、パルスポンプP11により反応槽302を純水で洗浄する。」

4 引用文献6の記載事項
引用文献6には次の記載がある。

「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料液にペルオキソ二硫酸カリウムを反応させる紫外線吸光光度法による全窒素測定方法、特に、試料液に妨害成分である臭化物イオンが含まれる場合における全窒素測定方法に関する。
・・・
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(測定装置)
図1は、本発明の方法を実施するための全窒素自動測定装置の要部構成図である。図1の測定装置は、加熱分解器1、pH調整槽2、検出器3とを備えている。
加熱分解器1には、試料液、ゼロ標準液又はスパン標準液の何れかが選択的に導入されると共に、水酸化ナトリウム水溶液、ペルオキソ二硫酸カリウム水溶液が、各々所定の量導入されるようになっている。
・・・
【0009】
まず、試料液は、試料液入口11から、切替弁12、ポンプ13を経由して加熱分解器1に導入されるようになっている。また、ゼロ標準液タンク15内のゼロ標準液、及びスパン標準液タンク16内のスパン標準液も、各々切替弁12の切替により、ポンプ13を作動させて加熱分解器1に導入されるようになっている。なお、試料液入口11の上流側に、受水槽、フィルター、希釈装置等を適宜設けてもよい。
・・・
【0010】
加熱分解器1で加熱分解後の反応液は、pH調整槽2に導入されるようになっている。
このpH調整槽2には、塩酸溶液タンク25内の塩酸溶液がポンプ26によって導入され、これにより、反応液のpHが調整されるようになっている。
そして、pH調整後の反応液は、ポンプ27によって検出器3に導入された後にpH調整槽2に戻るようになっている。この検出器3は、紫外線吸光光度を計測するフローセルタイプの検出器で、フローセル、光源、及び受光器から基本的に構成されている。
また、検出器3で紫外線吸光光度を計測した後の反応液は、最終的には排出口28から排出されるようになっている。
【0011】
(試料液及び標準液)本発明において好適な試料液としては、海水や、汽水域と呼ばれる海水と淡水とが混在する河口付近の河川水等が挙げられる。測定対象である。
・・・
【0012】
本発明に用いる標準液は、1種類でも良いが、より正確な測定を行うためには窒素濃度の異なる2種類以上の標準液を用いることが好ましい。通常は、ゼロ標準液、スパン標準液と呼ばれる2種類の標準液を使用する。
・・・
【0014】
(標準液測定工程)
JISK0102の規定に準じて、ゼロ標準液、スパン標準液の紫外線吸光光度を計測する。まず、切替弁12をゼロ標準液タンク15側に切替え、ポンプ13で所定量のゼロ標準液(全窒素濃度C0)を加熱分解装置1に導入する。また、ポンプ22、ポンプ24を作動させ、所定量の水酸化ナトリウム水溶液及びペルオキソ二硫酸カリウム水溶液を加熱分解装置1に導入する。そして、加熱分解装置1において30分間120℃で加熱する。
次いで、加熱分解装置1内の反応液をpH調整槽2に移し、ここで温度50℃まで放冷する。放冷後、ポンプ25を作動させて所定量の塩酸溶液をpH調整槽2に導入し、反応液のpHを調整する。
次いで、ポンプ27を作動させて検出器3内に反応液を循環させ、この反応液の紫外線吸光光度A0を計測する。
以上のようにしてゼロ標準液の紫外線吸光光度を計測した後、スパン標準液の紫外線吸光光度を計測する。まず、切替弁12をスパン標準液タンク16側に切替え、ポンプ13で所定量のスパン標準液(全窒素濃度Cs)を加熱分解装置1に導入する。以後は、上記 ゼロ標準液の場合と同様にして、反応液の紫外線吸光光度Asを計測する。
【0015】
(試料液測定工程)
まず、切替弁12をスパン試料液入口11側に切替え、ポンプ13で所定量の試料液)を加熱分解装置1に導入する。以後は、上記ゼロ標準液、スパン標準液の場合と同様にして、反応液の紫外線吸光光度Axを計測する。なお、試料液測定工程では、試料液中の窒素が、加熱分解装置1において硝酸に分解される。」

5 引用文献7の記載事項

(1)引用文献7には次の記載がある。

(記載事項1)「












」(1頁)


(記載事項2)「












」(4頁)

(記載事項3)「












」(13頁)

(2)認定事項
ア(認定事項1)上記記載事項3は、記載事項1・2に照らし、液体電極プラズマを用いた原子発光分光分析装置により、標準添加法を用いて試料を分析した結果を示したものであることが明らかであるといえる。

イ(認定事項2)上記記載事項3の各グラフは、「標準添加法」と表記されていること、及び、技術常識である標準添加法の一般的な測定手順からみて、横軸を未知試料に添加した標準試料の成分濃度(標準添加濃度)とし、縦軸を分析装置の出力として、各標準添加濃度に対する分析装置の出力値をプロットし、その直線回帰グラフを外挿して横軸に交差する位置の横軸座標値から、未知試料の成分濃度を求めたものであると認められる。

第6 対比・判断

1 本願発明1について

(1)対比
本願発明1と引用発明8Aとを対比すると、次のことがいえる。

ア 構成1aの「液体試料」、「試料溶液の吸光度(蛍光強度)表示値」はそれぞれ、構成1Aの「測定対照試料」、「液状試料の分析対象成分濃度xに対応する信号強度」に相当する。

イ(ア)構成1bの「適当な濃度の標準物質溶液」は構成1B2の「既知量の分析対象成分を含む標準液」に相当する。
(イ)構成1bにおいて、液体試料の物質濃度は未知であるが、これに加える「標準物質溶液の標準物質濃度」は「適当な濃度」即ち既知であるから、これを添加した後の「添加した溶液」中の物質の濃度は、前記未知の液体試料の物質濃度の関数として表現できることが明らかである。よって、構成1bの「前記試料溶液に適当な濃度の標準物質溶液を添加した溶液」は構成1B2の「前記xの関数として表される分析対象成分濃度を有する添加試料」に相当する。
(ウ)構成1a及びbでは、何れも「吸光度」を「測定」しているが、引用発明8Aが属する標準添加法の技術常識に照らし、前記「測定」にあたり、構成1aでは「液体試料」を《測定を行う箇所》に導入し、構成1bでは「添加した溶液」を、構成1aにおいて「液体試料」を導入した《測定を行う箇所》に導入する態様が、少なくとも当該態様が構成1a〜1bに含まれることが明らかである。
そうすると、該《測定を行う箇所》は、構成1A・1B2の「検出部」に相当する。
(エ)上記(ウ)から、技術常識に照らし、構成1aの「吸光度」・「表示データ」は、共に、測定手段の受光信号の強度に由来していることが明らかであるから、構成1aの「まず液体試料の吸光度・・・を測定し、その表示器への表示データを得る」ことは、構成1Aの「定対象試料から得られ・・・た液体試料・・・を検出部に導入して前記液状試料の分析対象成分濃度xに対応する信号強度を測定する」ことに相当するといえる。
(オ)同様に、構成1bの、「添加した溶液に対し吸光度・・・を測定し、その表示器への表示データを得る」ことは、構成1B2の「前記xの関数として表される分析対象成分濃度を有する添加試料・・・の一部を、前記検出部に導入して前記添加試料の分析対象成分濃度に対応する信号強度を測定する」ことに相当するといえる。

ウ(ア)構成1cの「蒸留水や溶媒など実質的に濃度ゼロの溶液」は構成1Cの「分析対象成分を含まない対照試料」及び「ブランク試料」に相当する。
(イ)また、構成1cの「蒸留水や溶媒など実質的に濃度ゼロの溶液」を「溶液の吸光度(蛍光強度)表示値を測定するステップ」に際し、構成1bでの上記《測定を行う箇所》に対し、構成1bの工程で導入された「試料溶液に適当な濃度の標準物質溶液を添加した溶液」から、工程1cの「蒸留水や溶媒など実質的に濃度ゼロの溶液」への《置き換え》がなされていることが明らかであり、該《置き換え》は構成1Cの「前記測定対象試料を、分析対象成分を含まない対照試料に置き換え」ることに相当するといえる。
(ウ)上記イ(エ)・(オ)及び上記(ア)・(イ)を踏まえ、構成1cの「蒸留水や溶媒など実質的に濃度ゼロの溶液の吸光度(蛍光強度)を測定し、その表示器への表示データを得る」ことは、構成1Cの「前記測定対象試料を、分析対象成分を含まない対照試料に置き換え・・・たブランク試料・・・を、前記検出部に導入してブランク値としての信号強度を測定する」ことに相当するといえる。

エ 構成1dの「前記標準物質溶液を添加していない試料溶液、試料溶液に適当な濃度の標準物質溶液を添加した溶液、及び実質的に濃度ゼロの溶液の吸光度(蛍光強度)の表示データから液体試料の濃度値を求める」ことは、構成1Dの「前記液状試料、前記添加試料および前記ブランク試料それぞれの分析対象成分濃度と信号強度との関係から、前記液状試料中の分析対象成分濃度xを算出する」ことに相当する。

オ 構成ieの「分析方法」は構成1Eの「分析方法」に相当する。

(2)一致点・相違点
上記(1)のとおりであるから、本願発明1と引用発明8Aとは、下記アの点で一致し、下記イの各点で相違する。

ア 一致点
「1A’ 測定対象試料から得られた液状試料を、検出部に導入して前記液状試料の分析対象成分濃度xに対応する信号強度を測定するステップと、
1B2’ 既知量の分析対象成分を含む標準液を前記貯液槽に添加し、前記xの関数として表される分析対象成分濃度を有する添加試料を得て、前記添加試料を、前記検出部に導入して前記添加試料の分析対象成分濃度に対応する信号強度を測定するステップと、
1C’ 前記測定対象試料を、分析対象成分を含まない対照試料に置き換えて得られたブランク試料を、前記検出部に導入してブランク値としての信号強度を測定するステップと、
1D 前記液状試料、前記添加試料および前記ブランク試料それぞれの分析対象成分濃度と信号強度との関係から、前記液状試料中の分析対象成分濃度xを算出するステップと、
1E を有することを特徴とする分析方法。」

イ 相違点

(ア)相違点1−1(構成1A)
本願発明1の検出部が行う分析方法は液体電極プラズマ発光分析法であるのに対し、引用発明8Aでは「原子吸光分析法、原子蛍光分析法、または紫外可視吸光分析法などの一般の吸光分析法」である点。

(イ)相違点1−2(構成1A、1B1、1B2、1C)
本願発明1では、
工程a 「検出部に導入」される液状試料、添加試料、ブランク試料が、貯液槽に収容されたうちの一部であり、
工程b 「前記信号強度を測定した後の液状試料」が「前記検出部から・・・返送」された「前記貯液槽」に対して「既知量の分析対象成分を含む標準液を・・・添加し、前記xの関数として表される分析対象成分濃度を有する添加試料を得」る工程を備え、
工程c ブランク試料が「前記測定対象試料を、分析対象成分を含まない対照試料に置き換えて得られ、前記貯液槽に収容された」ものである、
即ち、共通の貯液槽について、液状試料の収容、該収容した液状試料の一部の検出部への導入、測定後の液状試料の返送、該返送後の貯液槽に対する標準液の添加、該添加後の添加試料の一部の検出部への導入を行う、
のに対し、引用発明8Aは貯液槽の存在を前提とせず、前記工程a〜cに相当する構成を備えない点。

(3)相違点の検討

ア 相違点1−1について
液体電極プラズマ発光分析法自体は、上記引用文献1(上記第5の2(【請求項7】、【0009】、【0031】))、引用文献7(上記第5の5((記載事項1)・(記載事項2)))にも記載されたとおり、液体の成分分析法として周知のものである。
液体セルを用いる点に注目しても引用発明8Aは液体セルを用い得る「紫外可視吸光分析法などの一般の吸光分析法」を含み、発光分析法で或ることに注目しても引用発明8Aが発光分析の一種である「原子蛍光分析法」を含むことに照らし、引用発明8Aの「原子吸光分析法、原子蛍光分析法、または紫外可視吸光分析法などの一般の吸光分析法」を周知の「液体電極プラズマ発光分析法」に単に置き換えて相違点1−1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点1−2について

(ア)引用発明8Aが対象とする、液体試料に対する「原子吸光分析法、原子蛍光分析法、または紫外可視吸光分析法などの一般の吸光分析法」においても、また、液体電極プラズマ発光分析法においても、貯液槽と検出部との間で上記相違点1−2の工程a〜cのような液体試料・添加試料・ブランク試料に対する一連の測定工程、特に、工程a・bに係る、貯液槽の液体の一部を検出器に導入し、測定後それを貯液槽に返送する、という工程を実施することは、当審拒絶理由通知において提示した引用文献1、5〜8の何れにも記載がない。
(イ)また、前記一連の測定工程については、原査定で提示した引用文献2〜4にもそれに相当する記載は見出せず、他に、それが引用発明8Aや液体電極プラズマ発光分析法の属する技術分野において周知であるといえるに足る証拠もない。
(ウ)よって、引用発明8Aにおいて、相違点1−2の構成とすることは、引用文献1・5〜7に記載された事項、さらに原査定の引用文献2〜4に記載された事項、並びに周知技術に基づいても、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(4)小括
上記(3)のとおりであるから、本願発明1は、当業者であっても引用発明8A、引用文献1・5〜7に記載された事項、さらに原査定の引用文献2〜4に記載された事項、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は本願発明1の構成1A〜1Cと同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明8A、引用文献1・5〜7に記載された事項、さらに原査定の引用文献2〜4、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明3について

(1)対比

ア 上記1(1)イ(ウ)の説示と同様に、構成3bにおいて、「液体試料に含まれる物質の濃度を測定する原子吸光分析法、原子蛍光分析法、または紫外可視吸光分析法などの一般の吸光分析法により、まず液体試料の吸光度(蛍光強度)を測定」するにあたり、液体試料を何らかの《測定を行う箇所》に導入する態様が少なくとも含まれることが明らかであるといえる。
そして、前記《測定を行う箇所》は構成3Bの「検出部」に相当する。
よって、構成3bの「液体試料に含まれる物質の濃度を測定する原子吸光分析法、原子蛍光分析法、または紫外可視吸光分析法などの一般の吸光分析法により分析する吸光または蛍光分析装置」は、構成3Bの「液体の分析対象成分濃度に対応する信号強度を測定する検出部」に相当する。

イ(ア)構成3hの「前記検出部で得られる信号強度が入力される」ことは、構成3Hの「検出部で得られる信号強度が入力される」ことに相当する。
(イ)構成3j2の「液体試料に含まれる物質の濃度を測定する原子吸光分析法、原子蛍光分析法、または紫外可視吸光分析法などの一般の吸光分析法により、まず液体試料の吸光度(蛍光強度)を測定し、その表示器への表示データを得る」ことは、上記1(1)イ(エ)と同様の理由で、構成3J2の「前記液状試料の分析対象成分濃度xに対応する信号強度を測定する」ことに相当する。
(ウ)構成3j・3iの「濃度直読装置」は、上記(ア)・(イ)に挙げた構成3h、3j2の機能を備える点で、構成4H・4Iの「演算制御装置」と共通する。

ウ 上記1(1)イ(オ)の説示をふまえ、構成3k2の「前記液体試料に適当な濃度の標準物質溶液を添加した溶液を得て、当該添加した溶液に対し吸光度(蛍光強度)を測定し、その表示器への表示データを得る」ことは、構成3K1〜3K2の「前記信号強度を測定した・・・液状試料」に「既知量の分析対象成分を含む標準液を・・・供給して、前記xの関数として表される分析対象成分濃度を有する添加試料を得て、前記添加試料・・・を前記検出部に供給し、前記添加試料の分析対象成分濃度に対応する信号強度を測定する」ことに相当するといえる。

エ 上記1(1)ウの説示をふまえ、構成3l2の「蒸留水や溶媒など実質的に濃度ゼロの溶液の吸光度(蛍光強度)を測定し、その表示器への表示データを得る」ことは、構成3L1〜3L2の「分析対象成分を含まない対照試料を・・・ブランク試料とし、前記ブランク試料・・・を・・・前記検出部に供給し、ブランク値としての信号強度を測定する」ことに相当する。

オ 上記1(1)エの説示をふまえ、構成3mの「前記液体試料、添加した溶液、及び実質的に濃度ゼロの溶液の吸光度(蛍光強度)の表示データから液体試料の濃度値を求める」ことは、構成3Mの「前記液状試料、前記添加試料および前記ブランク試料それぞれの分析対象成分濃度と信号強度との関係から、前記液状試料中の分析対象成分濃度xを算出する」ことに相当する。

カ 構成3nは構成3Nと、ともに「分析装置」である点で共通する。

(2)一致点・相違点
上記(1)のとおりであるから、本願発明3と引用発明8Bとは、下記アの点で一致し、下記イの各点で相違する。

ア 一致点
「3B’ 液体の分析対象成分濃度に対応する信号強度を測定する検出部と、
3H’ 前記検出部で得られる信号強度が入力される演算制御部と、
3J1’ 液状試料を前記検出部に供給し、
3J2 前記液状試料の分析対象成分濃度xに対応する信号強度を測定するステップと、
3K1’ 前記信号強度を測定した液状試料に既知量の分析対象成分を含む標準液を供給して、前記xの関数として表される分析対象成分濃度を有する添加試料を得て、前記添加試料を前記検出部に供給し、
3K2 前記添加試料の分析対象成分濃度に対応する信号強度を測定するステップと、
3L1’ 分析対象成分を含まない対照試料をブランク試料とし、前記ブランク試料を前記検出部に供給し、
3L2 ブランク値としての信号強度を測定するステップと、
3M 前記液状試料、前記添加試料および前記ブランク試料それぞれの分析対象成分濃度と信号強度との関係から、前記液状試料中の分析対象成分濃度xを算出するステップと、
を行うように構成されていることを特徴とする
3N’ 分析装置。」

イ 相違点

(ア)相違点3−1(構成3C〜3G・3J1・3K1・3L1)
本願発明3が「液体を収容する貯液槽」を備え、上記1(2)イ(イ)の工程a〜cに対応する構成3J1・3K1・3L1に特定される、液体・標準液・対照試料を前記貯液槽に供給したり、もしくは貯液槽から液体の一部を検出部に供給し、それを測定後貯液槽に返送し、または貯液槽内の液体に対し前処理を施したりする一連の動作(機能)(以下「各移送・供給・処理機能」という。)を順次行う、構成3C〜3Gに特定される「液体移送手段」、「測定対象試料供給手段」、「標準液供給手段」、「対照試料供給手段」、「前処理手段」(以下「各移送・供給・処理手段」という。)を備えるのに対し、引用発明8Bは「貯液槽」に相当する手段を備えず、「貯液槽」の存在を前提とする構成3C〜3Gに特定される前記各移送・供給・処理手段も備えず、前記各移送・供給・処理機能」という。)も備えない点。

(イ)相違点3−2(構成3I・3J1・3K1・3L1)
本願発明3は、上記(ア)の各移送・供給・処理手段及び「検出部」の制御を行い、「前記検出部で得られる信号強度が入力」される「演算制御部」を備えるのに対し、引用発明8Bは「メモリ・減算器・係数器」なる個別の測定信号処理手段は備えるものの、制御機能を担う手段を明示的に備えず、さらには制御の対象となる前記各移送・供給・処理手段も上記(ア)で相違点3−1に挙げたとおり備えない点。

(ウ)相違点3−3(構成4A・4N)
本願発明3は、検出部による測定が「液体電極プラズマ発光分析法」により行われる「液体電極プラズマ発光分析装置」であるであるのに対し、引用発明8Aは「原子吸光分析法、原子蛍光分析法、または紫外可視吸光分析法などの一般の吸光分析法により分析する吸光または蛍光分析装置」である点。

(3)相違点の検討

ア 相違点3−1について
(ア)上記1(3)イ(ア)・(イ)の説示と同様に、貯液槽の存在を前提とする上記各移送・供給・処理手段やそれらが担う上記一連の各移送・供給・処理機能、特に、上記工程a・bに係る、貯液槽の液体の一部を検出器に導入し、測定後それを貯液槽に返送する、という工程に対応する機能及びそれを実施する手段を設けることについて、当審拒絶理由通知において提示した引用文献1、5〜8の何れにも記載がなく、原査定で提示した引用文献2〜4にもそれに相当する記載は見出せず、他に、それが引用発明8Bや液体電極プラズマ発光分析法の属する技術分野において周知であるといえるに足る証拠もない。
(イ)よって、引用発明8Bにおいて、相違点3−1の構成とすることは、引用文献1・5〜7に記載された事項、さらに原査定の引用文献2〜4に記載された事項、並びに周知技術に基づいても、当業者が容易になし得たこととはいえない。

イ 相違点3−2について
(ア)引用発明8Bの「メモリ・減算器・係数器」なる個別の測定信号処理手段を総合すると「演算制御部」の「演算」機能に相当し得る。
(イ)しかし、上記アで説示したとおり、制御の対象となる上記各移送・供給・処理手段やそれらを利用した制御の実現である上記各移送・供給・処理機能について、引用文献1〜8の何れにも記載がなく、周知技術であるともいえない。
(ウ)よって、引用発明8Bにおいて、相違点3−2の構成とすることは、引用文献1・5〜7に記載された事項、さらに原査定の引用文献2〜4に記載された事項、並びに周知技術に基づいても、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ウ 相違点3−3について
上記1(3)アに説示したものと同様の理由により、引用発明8Bの「原子吸光分析法、原子蛍光分析法、または紫外可視吸光分析法などの一般の吸光分析法」を、周知の「液体電極プラズマ発光分析法」に単に置き換えて相違点3−3の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

4 小括
以上1〜3のとおりであるから、本願発明1〜3は、引用文献1〜8及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

第7 記載不備について

明確性要件(当審拒絶理由1)について

(1)当審拒絶理由1−1について
ア 本件補正により、本件補正前の請求項1の「測定対象試料から得られた液状試料について、前記液状試料の物理的および化学的性状を実質的に変化させない分析法により前記液状試料の分析対象成分濃度xに対応する信号強度を測定するステップと、」は、本件補正後の構成1A「測定対象試料から得られ、貯液槽に収容された液状試料の一部を、液体電極プラズマ発光分析法の検出部に導入して前記液状試料の分析対象成分濃度xに対応する信号強度を測定するステップと、」に補正された。
イ 上記アの補正により、明確性要件欠如が指摘されていた「液状試料の物理的および化学的性状を実質的に変化させない分析法」なる特定事項は、「液体電極プラズマ発光分析法」なる明確な特定事項へと減縮補正されたため、当審拒絶理由1−1は解消した。

(2)当審拒絶理由1−2について
ア 本件補正により、本件補正前の請求項1の「前記信号強度を測定した後の液状試料に対し・・・既知量の分析対象成分を含む標準液を添加し」なる工程は、本件補正後の構成1B1〜1B2の「前記信号強度を測定した後の液状試料を前記検出部から前記貯液槽に返送し・・・既知量の分析対象成分を含む標準液を前記貯液槽に添加し」なる工程に補正された。
イ 上記アの補正により、「前記信号強度を測定した後の液状試料」が、検出部に一部を供した後の残りの液体試料、であり得る場合が排され、曖昧さが解消されたため、当審拒絶理由1−2は解消した。

2 サポート要件(当審拒絶理由2)について

(1)当審拒絶理由2−1について
上記1(1)で説示したとおり、「液状試料の物理的および化学的性状を実質的に変化させない分析法」は、本件補正により「液体電極プラズマ発光分析」と特定されたため、当審拒絶理由2−1は解消した。

(2)当審拒絶理由2−2について
上記(1)及び上記1(1)・(2)で説示したとおり、本件補正により、「液状試料の物理的および化学的性状を実質的に変化させない分析法」は、本件補正により「液体電極プラズマ発光分析」と特定され、本件補正前の請求項1の「前記信号強度を測定した後の液状試料に対し・・・既知量の分析対象成分を含む標準液を添加し」なる工程は、本件補正後の構成1B1〜1B2の「前記信号強度を測定した後の液状試料を前記検出部から前記貯液槽に返送し・・・既知量の分析対象成分を含む標準液を前記貯液槽に添加し」なる工程に補正されたことにより、当審拒絶理由2−2は解消した。

第8 原査定についての判断

1 本願発明1、2について
ア 本件補正により、補正前の請求項1〜3は、補正前の請求項1が減縮されて補正後の請求項1となり、補正前の請求項2は削除され、補正前の請求項1の従属項である補正前の請求項3は、従属関係を維持したまま補正後の請求項2に繰り上げられた。
イ そして、本件補正後の請求項1・2(本願発明1・2)は、構成1A〜1Cとして、a 「検出部に導入」される液状試料、添加試料、ブランク試料が、貯液槽に収容されたうちの一部であり、
b 「前記信号強度を測定した後の液状試料」が「前記検出部から・・・返送」された「前記貯液槽」に対して「既知量の分析対象成分を含む標準液を・・・添加し、前記xの関数として表される分析対象成分濃度を有する添加試料を得」る工程を備え、
c ブランク試料が「前記測定対象試料を、分析対象成分を含まない対照試料に置き換えて得られ、前記貯液槽に収容された」ものである、
即ち、共通の貯液槽について、液状試料の収容、該収容した液状試料の一部の検出部への導入、測定後の液状試料の返送、該返送後の貯液槽に対する標準液の添加、該添加後の添加試料の一部の検出部への導入を行う、
との技術的事項を有するものとなった。
ウ しかし、「貯液槽」の存在を前提とする上記a〜cの技術事項は、上記第6の1(3)イで説示したとおり、原査定における引用文献1〜7には記載されておらず、本願出願日前における周知技術でもない。
エ 原査定は引用文献1に記載された発明を主引用発明とする拒絶の理由に基づくが、上記ウの点は、主引用発明が引用文献1・8の何れに基づくものであるかに左右されない。
オ よって、本願発明1〜2は、当業者であっても、原査定における引用文献1〜7に基づいて容易に発明できたものではない。

2 本願発明3について
ア 本件補正により、補正前の請求項4は減縮されて補正後の請求項3(本願発明3)となった。
イ そして、本件補正後の本願発明3は、「貯液槽」なる手段を前提とする上記「各移送・供給・処理手段」、上記「各移送・供給・処理機能」及び前記機能を担う「演算制御部」なる手段を備えるものとなった。
ウ しかし、前記各手段・機能について、上記第6の3(3)ア・イで説示したとおり、原査定における引用文献1〜7には相当する構成が記載されておらず、本願出願日前における周知技術でもない。
エ 原査定は引用文献1に記載された発明を主引用発明とする拒絶の理由に基づくが、上記ウの点は、主引用発明が引用文献1・8の何れに基づくものであるかに左右されない。
オ よって、本願発明3は、当業者であっても、原査定における引用文献1〜7に基づいて容易に発明できたものではない。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっても、当審拒絶理由によっても、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。



 
審決日 2021-12-21 
出願番号 P2016-052731
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01N)
P 1 8・ 537- WY (G01N)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
樋口 宗彦
発明の名称 分析方法および液体電極プラズマ発光分析装置  
代理人 柳井 則子  
代理人 加藤 広之  
代理人 及川 周  
代理人 伏見 俊介  

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