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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01P
管理番号 1380847
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-04-14 
確定日 2022-01-11 
事件の表示 特願2019−540054「一対の離間された構造部材上に形成された一対のマイクロ波伝送線路を電気接続するインターコネクト構造」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月 2日国際公開、WO2018/140345、令和 2年 2月20日国内公表、特表2020−505851、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年 1月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2017年 1月25日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 2年 8月 7日付け:拒絶理由通知書
令和 2年10月26日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年 3月 1日付け:拒絶査定
令和 3年 4月14日 :審判請求書の提出


第2 原査定の概要
原査定(令和 3年 3月 1日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

進歩性)この出願の請求項1〜15に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1〜6に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開2011− 61585号公報
2.特開2008−227720号公報
3.特開平 4−223703号公報(周知技術を示す文献)
4.特開平10−242715号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2002− 57529号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2016−178361号公報(周知技術を示す文献)

なお、原査定は、引用文献1に記載された発明と、引用文献2に記載された発明をそれぞれ主引例として用い、請求項1〜15に係る発明について、
・引用文献1に記載された発明に引用文献3〜6に記載された周知技術を適用すること 及び/又は
・引用文献2に記載された発明に引用文献3〜6に記載された周知技術を適用すること
によって、拒絶した。

第3 本願発明
本願請求項1〜15に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明15」という。)は、令和 2年10月26日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
ギャップによって離隔された一対の構造部材であり、当該一対の構造部材の各構造部材がマイクロ波伝送線路を有する、一対の構造部材と、
前記ギャップ内に配置されたインターコネクト構造であり、
前記一対の構造部材のうちの第1構造部材及び前記一対の構造部材のうちの第2構造部材の対向し合う側面と直に接触する両側の側面を有する充填構造、
前記充填構造上に配置されて、前記一対の構造部材のうちの前記第1構造部材の前記マイクロ波伝送線路を前記一対の構造部材のうちの前記第2構造部材の前記マイクロ波伝送線路に電気的に相互接続する相互接続マイクロ波伝送線路、及び
前記相互接続マイクロ波伝送線路の上に配置された導電部材、
を有するインターコネクト構造と、
を有し、
前記相互接続マイクロ波伝送線路は、信号導体及びグランド導体を含み、前記導電部材は、前記グランド導体に電気的に接続されている、
構造体。
【請求項2】
前記インターコネクト構造は、前記充填構造と前記相互接続マイクロ波伝送線路との間に配置された導電層を含む、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記導電層は、前記導電部材及び前記グランド導体に電気的に接続されている、請求項2に記載の構造体。
【請求項4】
前記導電部材は、前記信号導体の上に配置されている、請求項1に記載の構造体。
【請求項5】
前記インターコネクト構造は、前記充填構造と前記相互接続マイクロ波伝送線路との間に配置された導電層を含み、該導電層は、前記導電部材及び前記グランド導体に電気的に接続されている、請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
前記インターコネクト構造は、前記導電層と前記相互接続マイクロ波伝送線路との間に配置された誘電体層を含む、請求項5に記載の構造体。
【請求項7】
当該構造体は、前記インターコネクト構造の底面に配置された導電体を含み、前記導電部材は、前記インターコネクト構造の前記底面に配置された前記導電体に電気的に接続されている、請求項6に記載の構造体。
【請求項8】
前記インターコネクト構造の前記底面に配置された前記導電体は、ヒートスプレッダを有する、請求項7に記載の構造体。
【請求項9】
構造体を形成する方法であって、
一対の構造部材を、当該一対の構造部材をギャップによって離隔されて、支持体上に設け、当該一対の構造部材の各構造部材がマイクロ波伝送線路を有し、
前記ギャップ内にインターコネクト構造を設け、当該インターコネクト構造は、
絶縁材料を、前記ギャップを充填するように前記ギャップ内に配して、前記一対の構造部材のうちの第1構造部材及び前記一対の構造部材のうちの第2構造部材の対向し合う側面と直に接触させて流動させることで、充填構造を形成することと、
前記充填構造上に、前記一対の構造部材のうちの前記第1構造部材の前記マイクロ波伝送線路を前記一対の構造部材のうちの前記第2構造部材の前記マイクロ波伝送線路に電気的に相互接続する相互接続マイクロ波伝送線路を形成することと、
前記相互接続マイクロ波伝送線路の上に配置された導電部材を形成することと、
を有する方法によって形成される、
ことを有し、
前記相互接続マイクロ波伝送線路は、信号導体及びグランド導体を含み、前記導電部材は、前記グランド導体に電気的に接続される、
方法。
【請求項10】
前記相互接続マイクロ波伝送線路は、前記充填構造上へのディスペンス、噴射又はフィラメントによってプリントされる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記相互接続マイクロ波伝送線路の信号ラインの上に、ディスペンス、噴射又はフィラメントによって誘電体層を形成する、ことを含む請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記導電部材は、前記誘電体層の上にディスペンス、噴射又はフィラメントによってプリントされる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記インターコネクト構造の前記底面に配置された前記導電体を前記導電部材に電気的に接続するように前記充填構造の外側面に配置された電気相互接続層、を含む請求項7に記載の構造体。
【請求項14】
前記充填構造の外側面に電気相互接続層を形成して、前記インターコネクト構造の底面の導電体を前記導電部材に電気的に接続する、ことを含む請求項9に記載の方法。
【請求項15】
構造体を形成する方法であって、
一対の構造部材を、当該一対の構造部材をギャップによって離隔されて、支持体上に設け、当該一対の構造部材の各構造部材がマイクロ波伝送線路を有し、
3Dプリンティングを用いることを含んで、前記ギャップ内にインターコネクト構造を形成する、
ことを有し、
前記インターコネクト構造は、
前記一対の構造部材のうちの第1構造部材及び前記一対の構造部材のうちの第2構造部材の対向し合う側面と直に接触する両側の側面を有する充填構造、
前記充填構造上に配置されて、前記一対の構造部材のうちの前記第1構造部材の前記マイクロ波伝送線路を前記一対の構造部材のうちの前記第2構造部材の前記マイクロ波伝送線路に電気的に相互接続する相互接続マイクロ波伝送線路、及び
前記相互接続マイクロ波伝送線路の上に配置された導電部材、
を有し、
前記相互接続マイクロ波伝送線路は、信号導体及びグランド導体を含み、前記導電部材は、前記グランド導体に電気的に接続される、
方法。」


第4 引用文献、引用発明等
1.特開2011− 61585号公報(以下、「引用文献1」という。)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の記載がある。(下線は当審が付与。)

「【0034】
本発明の実施形態に係る高周波装置は、信号伝播方向をx軸、信号伝播方向に垂直且つ基板に平行な方向をy軸、基板の法線方向をz軸としたとき、第1の基板(501)と、第1の基板の主面上(xy平面上)に設けられた第1のコプレーナ型伝送線路(503)と、第2の基板(511)と、第2の基板の主面上(xy平面上)に設けられた第2のコプレーナ型伝送線路(513)と、第1の基板のyz平面及び第1の基板のyz平面と対向する第2の基板のyz平面の間の空隙を充填する非導電性フィル(527)と、伝送線路とを備える。この伝送線路は、第3のコプレーナ型伝送線路(523)であって、非導電性フィル(527)上に設けられ、第1のコプレーナ型伝送線路(503)及び第2のコプレーナ型伝送線路(513)を接続する。上述のように、各々のコプレーナ型伝送線路(503、513、523)は、信号パターン(531)とグラウンドパターン(533)とから構成される。」

「【0043】
本発明は、高周波回路部品の接続に有用であって、例えばMMIC(Microwave Monolithic IC、モノリシックマイクロ波集積回路)と高周波回路基板間の接続や、MMIC同士、高周波回路基板同士の接続に利用可能である。」

「【図5】


「【図6】



したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「MMIC(Microwave Monolithic IC、モノリシックマイクロ波集積回路)と高周波回路基板間の接続や、MMIC同士、高周波回路基板同士の接続に利用可能な高周波装置であって(【0043】)、
信号伝播方向をx軸、信号伝播方向に垂直且つ基板に平行な方向をy軸、基板の法線方向をz軸としたとき、第1の基板(501)と、第1の基板の主面上(xy平面上)に設けられた第1のコプレーナ型伝送線路(503)と、第2の基板(511)と、第2の基板の主面上(xy平面上)に設けられた第2のコプレーナ型伝送線路(513)と、第1の基板のyz平面及び第1の基板のyz平面と対向する第2の基板のyz平面の間の空隙を充填する非導電性フィル(527)と、伝送線路とを備え、
この伝送線路は、第3のコプレーナ型伝送線路(523)であって、非導電性フィル(527)上に設けられ、第1のコプレーナ型伝送線路(503)及び第2のコプレーナ型伝送線路(513)を接続し、
各々のコプレーナ型伝送線路(503、513、523)は、信号パターン(531)とグラウンドパターン(533)とから構成される(【0034】)、
高周波装置。」


2.特開2008−227720号公報(以下、「引用文献2」という。)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の記載がある。(下線は当審が付与。)

「【0001】
本発明は、例えばマイクロストリップ型伝送線路やコプレーナ型伝送線路等の基板間接続部分の特性インピーダンスを安定させて伝送損失を軽減する伝送線路接続構造に関するものである。」

「【0027】
図4または図5に示すように、第2形態の伝送線路接続構造は、高周波ノイズなどの不要な電波などを遮断するようにシールドされた接地導体(GND)を兼ねる金属製のケース2bを導電性基材としている。この導電性基材をなすケース2bの上には、誘電体からなる一対のコプレーナ線路基板8a,8bが所定間隔のエアーギャップBを空けて固着して取り付けられている。コプレーナ線路基板8aの上面中央部分には、マイクロ波またはミリ波を伝送するための中心導体4cが設けられている。また、この中心導体4cの両側には、所定間隔を空けて接地導体9a,9bが設けられている。同様に、コプレーナ線路基板8bの上面中央部分にも、マイクロ波またはミリ波を伝送するための中心導体4dが中心導体4cと対向して設けられている。また、この中心導体4dの両側にも、所定間隔を空けて接地導体9c,9dが接地導体9a,9bと対向して設けられている。そして、この一対のコプレーナ線路基板8a,8bの上面に設けられた中心導体4c,4dの端点間、接地導体9a,9cの端点と9b,9dの端点との間は、例えば導体ワイヤや導体リボン等の導電性を有する線路接続導体5(図4の例では5本)によってそれぞれ接続されている。」

「【0030】
ところで、コプレーナ線路としては、上記第2形態における接地導体9a,9b,9c,9d以外に、導電性基材としての金属製のケース2cが接地導体(GND)を兼ねたグランデッドコプレーナ線路基板8c,8d(グランデッドCPW)も知られている。この構成では、接地導体9a,9b,9c,9dだけでなく、ケース2cにも中心導体4c,4dからの電波が及ぶので、図6に示すように、接着剤7が全ての線路接続導体5をまとめて被覆するだけでなく、ケース2cの表面に及ぶように一対のグランデッドコプレーナ線路基板8c,8d間のエアーギャップ6Bにも接着剤7を充填する。」

「【図4】



「【図6】



したがって、上記引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「コプレーナ型伝送線路の基板間接続部分の特性インピーダンスを安定させて伝送損失を軽減する伝送線路接続構造であって、
高周波ノイズなどの不要な電波などを遮断するようにシールドされた接地導体(GND)を兼ねる金属製のケース2bの上には、誘電体からなる一対のコプレーナ線路基板8a,8bが所定間隔のエアーギャップBを空けて固着して取り付けられ、
コプレーナ線路基板8aの上面中央部分には、マイクロ波またはミリ波を伝送するための中心導体4cが設けられ、
この中心導体4cの両側には、所定間隔を空けて接地導体9a,9bが設けられ、
コプレーナ線路基板8bの上面中央部分にも、マイクロ波またはミリ波を伝送するための中心導体4dが中心導体4cと対向して設けられ、
この中心導体4dの両側にも、所定間隔を空けて接地導体9c,9dが接地導体9a,9bと対向して設けられ、
この一対のコプレーナ線路基板8a,8bの上面に設けられた中心導体4c,4dの端点間、接地導体9a,9cの端点と9b,9dの端点との間は、導体ワイヤや導体リボン等の導電性を有する線路接続導体5によってそれぞれ接続されている伝送線路接続構造において、
接地導体9a,9b,9c,9d以外に、導電性基材としての金属製のケース2cが接地導体(GND)を兼ねたグランデッドコプレーナ線路基板8c,8d(グランデッドCPW)の構成では、接地導体9a,9b,9c,9dだけでなく、ケース2cにも中心導体4c,4dからの電波が及ぶので、接着剤7が全ての線路接続導体5をまとめて被覆するだけでなく、ケース2cの表面に及ぶように一対のグランデッドコプレーナ線路基板8c,8d間のエアーギャップ6Bにも接着剤7を充填する伝送線路接続構造。」

3.特開平 4−223703号公報(以下、「引用文献3」という。)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、次の記載がある。(下線は当審が付与。)

「【0016】
【課題を解決するための手段】第1図は、本発明の原理図であり、図中、10は第1の誘電体層、11は第2の誘電体層、12は内導体(信号線路)、13,14は導体、15,16は外導体、17は積層面を示す。
【0017】本発明の高周波伝送線路は、上記の目的を達成するため、第1の誘電体層10と、第2の誘電体層11との積層体から成り、前記積層体の積層面17には、信号線路としての内導体12と、この内導体12の両側に、所定の間隔をあけて配置した2つの導体13,14を設けると共に、上記第1、第2の誘電体層10,11における積層面17と反対側の面上に、それぞれ外導体15,16を設けたものである。
【0018】
【作用】本発明は上記のように構成したので、次のような作用がある。
【0019】図1において、高周波伝送線路を使用する際は、内導体12を高周波信号の伝送路として用い、導体13,14、及び外導体15,16を同電位にして使用する。
【0020】このようにすると、内導体12は、上下方向(厚み方向)と、横方向(幅方向)を、同電位の導体で挾むような構造となる。
【0021】高周波信号の伝送時には、内導体12からの電界の内、上下方向の電界は、外導体15,16に向い、横方向の電界は、導体13,14に向う。
【0022】従って、高周波伝送線路の幅を狭くしても、電界はシールドされるので、放射損失は低減できる。」

「【図1】




したがって、上記引用文献3には、

「第1の誘電体層10と、第2の誘電体層11との積層体から成り、前記積層体の積層面17には、信号線路としての内導体12と、この内導体12の両側に、所定の間隔をあけて配置した2つの導体13,14を設けると共に、上記第1、第2の誘電体層10,11における積層面17と反対側の面上に、それぞれ外導体15,16を設けた高周波伝送線路において、
内導体12を高周波信号の伝送路として用い、導体13,14、及び外導体15,16を同電位にして使用すると、
高周波伝送線路の幅を狭くしても、電界はシールドされるので、放射損失は低減できること。」(以下、「引用文献3記載技術」という。)

が記載されている。

4.特開平10−242715号公報(以下、「引用文献4」という。)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、次の記載がある。(下線は当審が付与。)

「【0021】この実施の形態1のマイクロ波回路はこれら各構成要素を備え、主線路1、接地導体2およびスロット3で構成されるコプレーナ線路7が誘電体基板5の表面上に形成され、コプレーナ線路7を構成する接地導体2と誘電体基板5の裏面の裏面接地導体6とが誘電体基板5の端面で金属薄膜11により接続され、さらにコプレーナ線路7、誘電体基板5および裏面接地導体6で構成される基板が板状接地導体10にマウントされている。そして、コプレーナ線路7は第1誘電体4、第2誘電体9で覆われており、第2誘電体9は導体膜8で覆われているとともに金属薄膜11に接続した構成である。」

「【0024】また、コプレーナ線路7を構成する接地導体2と誘電体基板5の裏面に形成した裏面接地導体6間を誘電体基板5の端面で金属薄膜11により接続し、同じ端面でコプレーナ線路7上の第1誘電体4を覆う導体膜8も金属薄膜11に接続することにより接地導体としているため、導体膜8はシールドとして作用して空間に放射する電磁界を遮蔽して空間へのマイクロ波の放射による損失の少ないマイクロ波回路が得られる効果がある。」

「【図1】



したがって、上記引用文献4には、

「主線路1、接地導体2およびスロット3で構成されるコプレーナ線路7が誘電体基板5の表面上に形成され、コプレーナ線路7を構成する接地導体2と誘電体基板5の裏面の裏面接地導体6とが誘電体基板5の端面で金属薄膜11により接続され、さらにコプレーナ線路7、誘電体基板5および裏面接地導体6で構成される基板が板状接地導体10にマウントされており、
コプレーナ線路7は第1誘電体4、第2誘電体9で覆われており、第2誘電体9は導体膜8で覆われているとともに金属薄膜11に接続したマイクロ波回路において、
コプレーナ線路7上の第1誘電体4を覆う導体膜8も金属薄膜11に接続することにより、導体膜8はシールドとして作用して空間に放射する電磁界を遮蔽して空間へのマイクロ波の放射による損失の少ないマイクロ波回路が得られる効果があること。」(以下、「引用文献4記載技術」という。)

が記載されている。

5.特開2002− 57529号公報(以下、「引用文献5」という。)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、次の記載がある。(下線は当審が付与。)

「【0021】
【発明の実施の形態】図3は、本発明の一実施例の構造内部を示した斜視図である。誘電体基板31の表面には発振部用のマイクロストリップ線路14、該基板31の裏面には出力部用のスロット線路19が形成されており、マイクロストリップ線路14の上には、図1に示したような表面実装型のガンダイオード13が、図2に示したような形態で搭載されている。
【0022】金属筐体20の内部は導波管となっており、誘電体基板31はヒートシンクを兼ねる支持台18によって支持され金属筐体20の内部ほぼ中央位置に置かれている。図示されていないが、金属筐体20の左側端部には短絡板が、右側端部には外部導波管との接続用の結合部が設けられている。」

「【図3】



したがって、上記引用文献5には、

「誘電体基板31の表面には発振部用のマイクロストリップ線路14、該基板31の裏面には出力部用のスロット線路19が形成されており、
誘電体基板31は、ヒートシンクを兼ねる支持台18によって支持されること。」(以下、「引用文献5記載技術」という。)

が記載されている。

6.特開2016−178361号公報(以下、「引用文献6」という。)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6には、次の記載がある。(下線は当審が付与。)

「【0019】
上記構成のアンテナ1では、マイクロストリップ線路19から給電された高周波エネルギ(電流)は、同軸線路23から導電体20における導波路16の内部に位置された部分に至り、当該部分から電磁波として放射される。このとき、本実施形態では、導電体20の延部20bが螺旋状であるので、電磁波は、横成分と縦成分を有した円偏波となる。すなわち、アンテナ1は、円偏波を励振することができる。そして、導電体20から放射された電磁波は、導波路16に沿って進み、開口部17から放射される。また、このようなアンテナ1は、円偏波の電磁波を受信することができる。上記構成のアンテナ1は、例えば、例えば、3Dプリンタ等によって製造することができる。」

したがって、上記引用文献6には、

「マイクロストリップ線路19等を含む構成のアンテナ1は、3Dプリンタ等によって製造することができること。」(以下、「引用文献6記載技術」という。)

が記載されている。


第5 対比・判断
1.本願発明1と引用発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。

(ア)『ギャップによって離隔された一対の構造部材であり、当該一対の構造部材の各構造部材がマイクロ波伝送線路を有する、一対の構造部材』について

引用発明1の「第1のコプレーナ型伝送線路(503)」が設けられた「第1の基板(501)」と、「第2のコプレーナ型伝送線路(513)」が設けられた「第2の基板(511)」とは、「第1の基板のyz平面及び第1の基板のyz平面と対向する第2の基板のyz平面の間の空隙(ギャップ)」を有するから、『ギャップによって離隔された一対の構造部材』ということができる。
また、引用発明1は、「MMIC(Microwave Monolithic IC、モノリシックマイクロ波集積回路)と高周波回路基板間の接続や、MMIC同士、高周波回路基板同士の接続に利用可能である」ことから、「第1のコプレーナ型伝送線路(503)」と「第2のコプレーナ型伝送線路(513)」は、『マイクロ波伝送線路』といえる。
してみると、本願発明1と引用発明1とは、『ギャップによって離隔された一対の構造部材であり、当該一対の構造部材の各構造部材がマイクロ波伝送線路を有する、一対の構造部材』を有する点で共通する。

(イ)『前記ギャップ内に配置されたインターコネクト構造であり、
前記一対の構造部材のうちの第1構造部材及び前記一対の構造部材のうちの第2構造部材の対向し合う側面と直に接触する両側の側面を有する充填構造、
前記充填構造上に配置されて、前記一対の構造部材のうちの前記第1構造部材の前記マイクロ波伝送線路を前記一対の構造部材のうちの前記第2構造部材の前記マイクロ波伝送線路に電気的に相互接続する相互接続マイクロ波伝送線路、及び
前記相互接続マイクロ波伝送線路の上に配置された導電部材、
を有するインターコネクト構造』について

引用発明1の「非導電性フィル(527)」は、「第1の基板のyz平面及び第1の基板のyz平面と対向する第2の基板のyz平面の間の空隙」を充填する構造であり、「充填」すれば直に接触することは明かであるから、引用発明1の「非導電性フィル(527)」は、本願発明1の『前記一対の構造部材のうちの第1構造部材及び前記一対の構造部材のうちの第2構造部材の対向し合う側面と直に接触する両側の側面を有する充填構造』に相当する。
また、引用発明1の「第3のコプレーナ型伝送線路(523)」は、「非導電性フィル(527)」上に設けられ、「第1のコプレーナ型伝送線路(503)」及び「第2のコプレーナ型伝送線路(513)」を接続しているから、本願発明1の『前記充填構造上に配置されて、前記一対の構造部材のうちの前記第1構造部材の前記マイクロ波伝送線路を前記一対の構造部材のうちの前記第2構造部材の前記マイクロ波伝送線路に電気的に相互接続する相互接続マイクロ波伝送線路』に相当する。
そうすると、引用発明1の「第3のコプレーナ型伝送線路(523)」と「非導電性フィル(527)」は、「第1の基板(501)」と「第2の基板(511)」を接続する『前記ギャップ内に配置されたインターコネクト構造』を形成しているといえるから、本願発明1と引用発明1とは、
「前記ギャップ内に配置されたインターコネクト構造であり、
前記一対の構造部材のうちの第1構造部材及び前記一対の構造部材のうちの第2構造部材の対向し合う側面と直に接触する両側の側面を有する充填構造、
前記充填構造上に配置されて、前記一対の構造部材のうちの前記第1構造部材の前記マイクロ波伝送線路を前記一対の構造部材のうちの前記第2構造部材の前記マイクロ波伝送線路に電気的に相互接続する相互接続マイクロ波伝送線路
を有するインターコネクト構造」を有する点で一致する。

(ウ)『前記相互接続マイクロ波伝送線路は、信号導体及びグランド導体を含み、前記導電部材は、前記グランド導体に電気的に接続されている、』について

引用発明1において、「各々のコプレーナ型伝送線路(503、513、523)は、信号パターン(531)とグラウンドパターン(533)」とから構成されるから、「第3のコプレーナ型伝送線路(523)」は、本願発明1の『相互接続マイクロ波伝送線路』と同様に『信号導体及びグランド導体』を含むものといえる。

(エ)『構造体』について

引用発明1の『高周波装置』は、上記(ア)から(ウ)で述べたとおりの構造を有するものであるから、『構造体』といえる。


上記(ア)から(エ)で対比した事項を踏まえると、本願発明1と引用発明1とは、次の一致点、相違点がある。

(一致点)
「ギャップによって離隔された一対の構造部材であり、当該一対の構造部材の各構造部材がマイクロ波伝送線路を有する、一対の構造部材と、
前記ギャップ内に配置されたインターコネクト構造であり、
前記一対の構造部材のうちの第1構造部材及び前記一対の構造部材のうちの第2構造部材の対向し合う側面と直に接触する両側の側面を有する充填構造、
前記充填構造上に配置されて、前記一対の構造部材のうちの前記第1構造部材の前記マイクロ波伝送線路を前記一対の構造部材のうちの前記第2構造部材の前記マイクロ波伝送線路に電気的に相互接続する相互接続マイクロ波伝送線路、
を有するインターコネクト構造と、
を有し、
前記相互接続マイクロ波伝送線路は、信号導体及びグランド導体を含む、
構造体。」

(相違点)
本願発明1が、『前記相互接続マイクロ波伝送線路の上に配置された導電部材』を有し、『前記導電部材は、前記グランド導体に電気的に接続されている』のに対し、引用発明1には、『導電部材』に対応する構成がない点。

(2)相違点についての判断
引用文献3記載技術及び引用文献4記載技術は、本願発明1でいう『第1構造部材』や『第2構造部材』にあたる基板上の信号線路をシールドするため、当該信号線路の上に導電性の部材を配置するものである。
これに対して、本願発明1は、『ギャップ内に配置されたインターコネクト構造』における『相互接続マイクロ波伝送線路』をシールドするために『導電部材』を配置するものであり、『インターコネクト構造』をシールドする技術思想は、引用文献1、3〜6には記載も示唆もされていないし、周知でもないから、信号線路をシールドする技術思想を「インターコネクト構造」における伝送線路に適用することは、当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、本願発明1は、当業者といえども、引用発明1及び引用文献3〜6記載技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

本願発明2〜8、13も、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献3〜6記載技術に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

本願発明9、15は、本願発明1を形成する方法の発明を特定したものであって、本願発明1に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献3〜6記載技術に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

本願発明10〜12、14も、本願発明9と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献3〜6記載技術に基いて発明をすることができたものとはいえない。


2.本願発明1と引用発明2について
(1)対比
本願発明1と引用発明2とを対比する。

(ア)『ギャップによって離隔された一対の構造部材であり、当該一対の構造部材の各構造部材がマイクロ波伝送線路を有する、一対の構造部材』について

引用発明2の「一対のコプレーナ線路基板8a,8b」は、「ケース2b」の上に、「所定間隔のエアーギャップBを空けて固着して取り付けられ」たものであるから、本願発明1の『ギャップによって離隔された一対の構造部材』に対応する。
また、「コプレーナ線路基板8a」の上面には、「マイクロ波またはミリ波を伝送するための中心導体4c」と「接地導体9a,9b」が設けられ、これらと対向して、「コプレーナ線路基板8b」の上面にも、「マイクロ波またはミリ波を伝送するための中心導体4d」と「接地導体9c,9d」がそれぞれ設けられており、中心導体4c、4d及び接地導体9a,9b,9c,9dは、『マイクロ波伝送線路』を構成しているものといえる。
してみると、本願発明1と引用発明2とは、『ギャップによって離隔された一対の構造部材であり、当該一対の構造部材の各構造部材がマイクロ波伝送線路を有する、一対の構造部材』を有する点で共通する。

(イ)『前記ギャップ内に配置されたインターコネクト構造であり、
前記一対の構造部材のうちの第1構造部材及び前記一対の構造部材のうちの第2構造部材の対向し合う側面と直に接触する両側の側面を有する充填構造、
前記充填構造上に配置されて、前記一対の構造部材のうちの前記第1構造部材の前記マイクロ波伝送線路を前記一対の構造部材のうちの前記第2構造部材の前記マイクロ波伝送線路に電気的に相互接続する相互接続マイクロ波伝送線路、及び
前記相互接続マイクロ波伝送線路の上に配置された導電部材、
を有するインターコネクト構造』について

引用発明2の「導電性を有する線路接続導体5」は、「一対のコプレーナ線路基板8a,8bの上面に設けられた中心導体4c,4dの端点間、接地導体9a,9cの端点と9b,9dの端点との間」を接続するものであるから、『前記一対の構造部材のうちの前記第1構造部材の前記マイクロ波伝送線路を前記一対の構造部材のうちの前記第2構造部材の前記マイクロ波伝送線路に電気的に相互接続する相互接続マイクロ波伝送線路』に対応する。
また、引用発明2は、「接地導体9a,9b,9c,9d以外に、導電性基材としての金属製のケース2cが接地導体(GND)を兼ねたグランデッドコプレーナ線路基板8c,8d(グランデッドCPW)の構成」では、「全ての線路接続導体5をまとめて被覆するだけでなく、ケース2cの表面に及ぶように一対のグランデッドコプレーナ線路基板8c,8d間のエアーギャップ6Bにも接着剤7を充填する」ものであるから、1.(1)(イ)と同様、『前記一対の構造部材のうちの第1構造部材及び前記一対の構造部材のうちの第2構造部材の対向し合う側面と直に接触する両側の側面を有する充填構造』を有しているといえる。
そうすると、引用発明2の「線路接続導体5」と「接着剤7」による充填構造は、『前記ギャップ内に配置されたインターコネクト構造』を形成しているといえるから、本願発明1と引用発明2とは、
「前記ギャップ内に配置されたインターコネクト構造であり、
前記一対の構造部材のうちの第1構造部材及び前記一対の構造部材のうちの第2構造部材の対向し合う側面と直に接触する両側の側面を有する充填構造、
前記一対の構造部材のうちの前記第1構造部材の前記マイクロ波伝送線路を前記一対の構造部材のうちの前記第2構造部材の前記マイクロ波伝送線路に電気的に相互接続する相互接続マイクロ波伝送線路
を有するインターコネクト構造」を有する点で一致する。

(ウ)『前記相互接続マイクロ波伝送線路は、信号導体及びグランド導体を含み、前記導電部材は、前記グランド導体に電気的に接続されている、』について

引用発明2の「中心導体4c、4d」は、「マイクロ波またはミリ波を伝送する」ためのものであるから、『信号導体』といえ、「接地導体9a,9b,9c,9d」は、『グランド導体』に相当する。
してみると、本願発明1と引用発明2とは、「前記相互接続マイクロ波伝送線路は、信号導体及びグランド導体を含む」点で共通する。

(エ)『構造体』について

引用発明2の「伝送線路接続構造」は、本願発明1の『構造体』に対応する。

上記(ア)から(エ)で対比した事項を踏まえると、本願発明1と引用発明2とは、次の一致点、相違点がある。

(一致点)
「ギャップによって離隔された一対の構造部材であり、当該一対の構造部材の各構造部材がマイクロ波伝送線路を有する、一対の構造部材と、
前記ギャップ内に配置されたインターコネクト構造であり、
前記一対の構造部材のうちの第1構造部材及び前記一対の構造部材のうちの第2構造部材の対向し合う側面と直に接触する両側の側面を有する充填構造、
前記一対の構造部材のうちの前記第1構造部材の前記マイクロ波伝送線路を前記一対の構造部材のうちの前記第2構造部材の前記マイクロ波伝送線路に電気的に相互接続する相互接続マイクロ波伝送線路、
を有するインターコネクト構造と、
を有し、
前記相互接続マイクロ波伝送線路は、信号導体及びグランド導体を含む、
構造体。」

(相違点)
(相違点1)
本願発明1の『相互接続マイクロ波伝送路』が、『充填構造』上に配置されるのに対し、引用発明2の接着剤7は、「ケース2cの表面に及ぶように一対のグランデッドコプレーナ線路基板8c,8d間のエアーギャップ6Bにも接着剤7を充填する」が、「全ての線路接続導体5をまとめて被覆」もしてているから、「線路接続導体5」は、「充填構造」内に配置されている点。

(相違点2)
本願発明1が、『前記相互接続マイクロ波伝送線路の上に配置された導電部材』を有し、『前記導電部材は、前記グランド導体に電気的に接続されている』のに対し、引用発明2には、『導電部材』に対応する構成がない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記(相違点2)について検討する。
引用文献3記載技術及び引用文献4記載技術は、本願発明1でいう『第1構造部材』や『第2構造部材』にあたる基板上の信号線路をシールドするため、当該信号線路の上に導電性の部材を配置するものである。
これに対して、本願発明1は、『ギャップ内に配置されたインターコネクト構造』における『相互接続マイクロ波伝送線路』をシールドするために『導電部材』を配置するものであり、『インターコネクト構造』をシールドする技術思想は、引用文献2〜6には記載も示唆もされていないし、周知でもないから、信号線路をシールドする技術思想を「インターコネクト構造」における伝送線路に適用することは、当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明2及び引用文献3〜6記載技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

本願発明2〜8、13も、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明2及び引用文献3〜6記載技術に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

本願発明9、15は、本願発明1を形成する方法の発明を特定したものであって、本願発明1に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明2及び引用文献3〜6記載技術に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

本願発明10〜12、14も、本願発明9と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献3〜6記載技術に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-12-13 
出願番号 P2019-540054
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01P)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 吉田 隆之
特許庁審判官 佐藤 智康
伊藤 隆夫
発明の名称 一対の離間された構造部材上に形成された一対のマイクロ波伝送線路を電気接続するインターコネクト構造  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

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