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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16F |
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管理番号 | 1380860 |
総通号数 | 1 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-01-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-04-26 |
確定日 | 2021-12-14 |
事件の表示 | 特願2016− 61215「スプリング組立体及びそれを備えたトルクコンバータのロックアップ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月28日出願公開、特開2017−172743、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年 3月25日の出願であって、令和 1年10月16日付けで拒絶理由通知がされ、同年12月10日に意見書及び手続補正書が提出され、令和 2年 2月25日付けで拒絶理由通知がされ、同年 4月30日に意見書及び手続補正書が提出され、同年 9月 8日付けで最後の拒絶理由通知がされ、同年11月 6日に意見書及び手続補正書が提出され、令和 3年 2月 3日付けで令和 2年11月 6日提出の手続補正書でした補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、令和 3年 4月26日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、同年 7月30日に上申書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 本願請求項1ないし4に係る発明は、引用文献1ないし6に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.実公平5−45846号公報 2.特開2000−326036号公報(周知技術を示す文献) 3.特許第3654701号公報(周知技術を示す文献) 4.特開平9−159006号公報(周知技術を示す文献) 5.実公昭46−8492号公報(周知技術を示す文献) 6.実願平2−109596号(実開平4−66434号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献) 第3 審判請求時の補正について 1 審判請求時の補正(令和 3年 4月26日に拒絶査定不服審判の請求と同時に提出の手続補正書でした補正。以下、「本件補正」という。)について 本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。 【請求項1】 捩り振動を吸収・減衰するためのスプリング組立体であって、 外側コイルスプリングと、 前記外側コイルスプリングの内部に配置された内側コイルスプリングと、 を備え、 前記外側コイルスプリング及び前記内側コイルスプリングには、熱処理が施されており、熱処理を施すことで前記内側コイルスプリングの表面硬度を前記外側コイルスプリングの表面硬度よりも低くし、 前記内側コイルスプリングは、前記外側コイルスプリングより自由長が短く、自由状態において前記外側スプリングが伸縮する方向に移動可能であり、両端の端面の外周縁部が面取り加工され、かつ両端の少なくとも1巻き目の外径が、他の部分の外径よりも小径である、スプリング組立体。 【請求項2】 前記内側コイルスプリングは、両端の複数巻きの外径が、両端に行くにしたがって小さくなっている請求項1に記載のスプリング組立体。 【請求項3】 フロントカバーからの動力を、タービンを含むトルクコンバータ本体を介してトランスミッションの入力軸に伝達するトルクコンバータのロックアップ装置であって、 前記フロントカバーからの動力が入力される入力回転部材と、 前記タービンに連結された出力回転部材と、 前記入力回転部材と前記出力回転部材との間に設けられたクラッチ部と、 前記入力回転部材と前記出力回転部材とを回転方向に弾性的に連結する請求項1又は2に記載のスプリング組立体と、 を備えたトルクコンバータのロックアップ装置。 2 本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の特許請求の範囲の記載は、令和 2年 4月30日に手続補正された特許請求の範囲の記載によって特定される次のとおりである。 【請求項1】 捩り振動を吸収・減衰するためのスプリング組立体であって、 外側コイルスプリングと、 前記外側コイルスプリングの内部に配置された内側コイルスプリングと、 を備え、 前記外側コイルスプリング及び前記内側コイルスプリングには、熱処理が施されており、熱処理を施すことで前記内側コイルスプリングの表面硬度を前記外側コイルスプリングの表面硬度よりも低くした、スプリング組立体。 【請求項2】 前記内側コイルスプリングは、前記外側コイルスプリングより自由長が短く、両端の端面の外周縁部が面取り加工され、かつ両端の少なくとも1巻き目の外径が、他の部分の外径よりも小径である、請求項1に記載のスプリング組立体。 【請求項3】 前記内側コイルスプリングは、両端の複数巻きの外径が、両端に行くにしたがって小さくなっている請求項1又は2に記載のスプリング組立体。 【請求項4】 フロントカバーからの動力を、タービンを含むトルクコンバータ本体を介してトランスミッションの入力軸に伝達するトルクコンバータのロックアップ装置であって、 前記フロントカバーからの動力が入力される入力回転部材と、 前記タービンに連結された出力回転部材と、 前記入力回転部材と前記出力回転部材との間に設けられたクラッチ部と、 前記入力回転部材と前記出力回転部材とを回転方向に弾性的に連結する請求項1から3のいずれか1項に記載のスプリング組立体と、 を備えたトルクコンバータのロックアップ装置。 3 本件補正の適否 本件補正は、請求項1の「内側コイルスプリング」について、「前記外側コイルスプリングより自由長が短く、自由状態において前記外側スプリングが伸縮する方向に移動可能であり、両端の端面の外周縁部が面取り加工され、かつ両端の少なくとも1巻き目の外径が、他の部分の外径よりも小径である」と特定することで発明特定事項を限定するものあるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものである。 当該内側コイルスプリングの構成は、願書に最初に添付した明細書の段落【0027】に、「内側コイルスプリング21は、外側コイルスプリング20の内部に配置されており、外側コイルスプリング20よりも自由長が短く設定されている。内側コイルスプリング21の両端面は、図4に一部を拡大して示すように、機械加工により面取り部21aが形成され、かつ両端の1巻き目の外径L1が他の部分の外径Lよりも小径になっている。内側コイルスプリング21は自由状態において、外側コイルスプリング20内で回転方向に移動可能である。」と記載され、同段落【0028】に、「しかし、内側コイルスプリング21の両端の少なくとも1巻き目の外径L1が、他の部分の外径Lよりも小径であるため、外側コイルスプリング20の線間と内側コイルスプリング21の端部との噛み込みを抑えることができる。また、両端の端面に形成された面取り部21aによっても、外側コイルスプリング20の線間と内側コイルスプリング21の端部との噛み込みを抑制することができる。」と記載されているから、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものである。 ここで、補正後の請求項1ないし3に係る発明は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないので、以下、検討する。 なお、本件補正は、本件補正前の請求項2を削除する、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものでもある。 4 独立特許要件について 4−1 本願発明1ないし3について 本願の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、上記第3の1のとおりである。 4−2 引用文献に記載された事項及び引用発明 (1) 引用文献1に記載された事項及び引用発明について 引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。 ア 「入力部材に連結されるドライブプレートと出力部材に連結されるハブとを、内側圧縮コイルばねに外側圧縮コイルばねを同芯に遊嵌して成る二重圧縮コイルばねにより相対回動可能に連結し、前記ドライブプレートに入力された回動力を前記二重圧縮コイルばねを介して前記ハブに伝達する捩り振動減衰装置において、前記二重圧縮コイルばねの内側圧縮コイルばねを外側圧縮コイルばねよりも軟質の材料で形成したことを特徴とする捩り振動減衰装置。」(実用新案登録請求の範囲) イ 「ところが、この回動力の伝達時には、捩り振動減衰装置が入力部材と共に高速回転するため、二重圧縮コイルばねに遠心力が作用する。通常、二重圧縮コイルばねは、円周方向両端のみがドライブプレートとハブに跨つて係合、支持されており、内側圧縮コイルばねの線径が外側圧縮コイルばねの線径よりも細く、変形抵抗が小さく構成されている。そのため、遠心力により、内側圧縮コイルばねが外側圧縮コイルばねよりも径方向外方へ大きく湾曲して、内側圧縮コイルばねの外周側が外側圧縮コイルばねの内周側に干渉する。これによつて、内側圧縮コイルばねは外周側が損傷し、外側圧縮コイルばねは内周側が損傷する場合がある。しかしながら、一般に圧縮コイルばねは外周側よりも内周側の方が高い応力分布を示すので、内周側の損傷の方が外周側の損傷よりも耐久性に大きな影響を与える。従つて、外側圧縮コイルばねが内周側の損傷部分に応力集中を生じて早期に折損し、二重圧縮コイルばねの耐久性を損なう恐れを有している。」(第2欄第7〜26行) ウ 「このうち、二重圧縮コイルばね7は、ハブプレート3に形成した窓9と、この窓9に対応して形成したドライブプレート4a,4bの窓10とに、円周方向に隙間なく係合してある。一方、二重圧縮コイルばね8は、ドライブプレート4a,4bに形成した窓12には円周方向に隙間なく係合するが、この窓12に対応して形成したハブプレート部3の窓11には円周方向に所定の隙間をもつて遊嵌してある。そして、これらの二重圧縮コイルばね7,8は、内側圧縮コイルばね7a,8aと外側圧縮ばね7b,8bとをそれぞれ同芯に遊嵌してあり、内側圧縮コイルばね7a,8aの材料を外側圧縮コイルばね7b,8bの材料(例えば炭素鋼オイルテンパ線;ビツカース硬度(HV)≒595)よりも軟質の材料(例えばピアノ線;ビツカース硬度(HV)≒530)で形成してある。」(第3欄第21〜37行) エ 「 」(第1図) オ 「 」(第2図) カ 特に、第2欄第9〜12行の「通常、二重圧縮コイルばねは、円周方向両端のみがドライブプレートとハブに跨つて係合、支持されており」(「(2)」参照。)との記載、及び第1及び2図の記載から、「二重圧縮コイルばね7、8」は、円周方向両端のみが「ドライブプレート4a、4b」と「ハブプレート部3」に跨つて係合、支持されていて、特に第1図の記載から、「内側圧縮コイルばね7a、8aと外側圧縮コイルばね7b、8bとはその円周方向長さが等しい」ことが看取できる。 キ したがって、上記摘記事項アないしオ及び認定事項カから、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものといえる。 (引用発明) 「捩り振動減衰装置の二重圧縮コイルばね7、8であって、 外側圧縮コイルばね7b、8bと、 前記外側圧縮コイルばね7b、8bと同芯に遊嵌された内側圧縮コイルばね7a、8aと、 から成り、 前記内側圧縮コイルばね7a、8aを前記外側圧縮コイルばね7b、8bよりも軟質の材料で形成し、 前記内側圧縮コイルばね7a、8aと外側圧縮コイルばね7b、8bとはその円周方向長さが等しい、 二重圧縮コイルばね7、8。」 (2) 引用文献2に記載された事項について 引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「【0010】本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、高強度で、耐疲労性および生産性に優れた冷間成形コイルばねの製造方法を提供することを目的とする。」 イ 「【0012】そこで、本発明者らは従来とは全く異なる視点に立ち、線材の絞りを増加させて冷間コイリング成形を容易としつつ、その後に、高周波焼入れを行うことで、従来以上に高強度及び高耐疲労性を有するコイルばねの製造方法を思い付くに至ったものである。すなわち、本発明の冷間成形コイルばねの製造方法は、コイルばね用鋼材を伸線加工した後、オイルテンパー処理して絞り38%以上の線材とし、該線材を冷間でコイリング成形し、その後、少なくとも高周波誘導加熱装置を用いて焼入れをおこなうことを特徴とする。」 ウ 「【0043】更にその後、高靱性とすべく焼戻しを行うのが望ましい。焼戻し温度は、所望の硬度に合わせて選択する。この後、ガス窒化処理を行っても良い。コイルばねの表面層の硬度を上げることができると共に、圧縮残留応力が加わって、耐疲労性の向上に有効である。また、後に行うショットピーニングと併せれば、表面粗さも良好に保てる効果があり、表層部の圧縮残留応力が一層増加して好都合である。」 (3) 引用文献3に記載された事項について 引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。 「【0009】 コイルスプリング8は、プレート2,3からフランジ7にトルクを伝達するとともに、両部材間で捩じり振動の伝達を遮断するための部材である。プレート2,3とフランジ7とが相対回転すると、コイルスプリング8は回転方向に圧縮される。図2に示すコイルスプリング8は螺旋状に延びる巻き線からなり、両端に切断で形成された平坦面を有する。コイルスプリング8は、材料の選定や製造工程により高強度・高硬度の特性を有している。 【0010】 コイルスプリング8において、図2から明らかなように、中心側の巻き線8aのピッチP1は、両端側の巻き線8b(破線で囲んだ2巻)のピッチP2より長い。また、このコイルスプリング8では、中心側の巻き線8aの硬度は両端側の巻き線8bの硬度より高い。 次に、コイルスプリング8の製造方法について説明する。初めに、延伸された鋼線を高温で加熱してコイリング機で螺旋状に成形する。次に、鋼線を油槽に入れて急冷する。続いて、焼きもどしを行う。さらに、鋼線に浸炭窒化処理を行い全体の硬度を高くする。次に、高周波加熱装置を用いて鋼線の両端側の巻き線8bを部分的に高周波焼きもどしする。最後に、ばねの表面にショットピーニングを行い、圧縮の残量応力を発生させる。 【0011】 コイルスプリング8の両端側の巻き線8bは、高周波焼きもどしにより中心側の巻き線8aに比べて硬度が低い。そのため、両端側の巻き線8bはねばり強さが増す。その結果、コイルスプリング8の両端部は、全体が高硬度であっても、フランジ7やプレート2,3の窓部に当接しても一部が欠けたりする等の破損が生じにくい。以上の理由で、スプリングシートを用いる必要がない。」 (4) 引用文献4に記載された事項について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】図3に示すように端面支承部材25の内部でスペーサ34の間に外側スプリング32Yを介挿し、その内部に長さの短い内側スプリング32Xを挿入したものでは、外側スプリング32Yを湾曲させて保持したり、回転中スプリングが遠心力で湾曲するように設計されている。ところが、このような従来の装置では図4ならびに図4のA部の拡大図である図5に示すように、作動中直線状の内側スプリング32Xの両端部が外側スプリング32Yのピッチ間の隙間に入り込み、乗り上げてしまうという不具合が発生し、ダンパー特性が不安定となり耐久寿命が低下する。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明は、前記の課題を解決するために、外側スプリングに比して長さの短い内側スプリングを外側スプリング内に介挿したものにおいて、内側スプリングの両端部分の径を中央部の径より小径としたトルクコンバータ用ロックアップクラッチのスプリングダンパー装置を得たものである。 【0007】 【発明の実施の形態】図6ないし図8は本発明による両端部分を小径にした内側スプリング32Xの異なる実施態様を示した図であり、図9は本発明のスプリングダンパー装置の圧縮された状態を示す。図6に示す内側スプリング32Xは中央の大径部Lに対し、両端の小径部Sは端部の数ピッチが次第に径が小さくなっている。図7に示す別の実施態様では両端の数ピッチが小径部Sとなっている。図8に示すさらに別の実施態様では、中央の大径部Lから両端の小径部Sまでコイルの径が次第に小さくなるように形成されている。図9に示すように外側スプリング32Yはピストン22の外周フランジ28の内側に円弧状にリテーナプレートで保持されている。内側スプリング32Xは外側スプリング32Yより長さが短く、巻方向が逆で外側スプリング32Yの内部に移動可能に挿入されている。 【0008】ピストン22からの捩りトルクがリテーナプレート、外側スプリング、ドリブンプレートと伝達される際、内側スプリングの両端部分Sのコイル径を中央部Lのコイル径より小径とすることにより、図9に示すように内側スプリングの端部が外側スプリングに乗り上げることがなく、安定した特性を得ることができ、耐久寿命が向上する。」 (5) 引用文献5に記載された事項について 引用文献5には、図面とともに次の事項が記載されている。 「本考案は内燃機関の弁ばねのばね座の両側縁の尖つた角部を小さく面取りし、よつてその末端附近が折損しないようにしたものである。 次に図面について説明する。 1は内燃機関の吸排気弁に附設されるコイル状弁ばねであつて、その両端には従来普通のように軸線に直角のばね座2,2が構成される。しかして従来の弁ばねにおいてはばね座2,2の両側縁には第3図に示すように、集中応力が発生する尖つた角部A,Aが形成されるが、本考案はその部分を小さく面取り3,3したものであつて、このようにすれば亀裂が発達することがなく折損が回避される。又その面取り手段は電解研磨によるほか機械的手段によることもできる。そして電解研磨によるときは、ばね座2,2およびばねの螺旋部表面の細かい条痕類も同時に除去される。」(第1欄第23行〜第2欄第7行) (6) 引用文献6に記載された事項について 引用文献6には、図面とともに次の事項が記載されている。 「第1図〜第3図は本項案の一実施例であって、図中第4図と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は第4図に示す従来のものと同様であるが、本実施例の特長とするところは、第1図〜第3図に示す如く、バルブスプリング1のロアシート9に対する下端面5の内外周部に面取り部15,16を形成した点にある。 前述の如く構成したので、バルブスプリング1の下端面5内外周部に出ていたバリ等が除去されると共に、面取り部15,16を形成した分、ロアシート9に対する下端面5の接触面積が減少するため、バルブスプリング1がロアシート9に対し回転しやすくなり、バルブ2が同じ位置でとどまることなく回転しつつ開閉動作を行うようになる。」(明細書第4頁第20行〜第5頁第15行) 4−3 対比・判断 (1) 本願発明1について ア 対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 本願発明1における「前記内側コイルスプリングは、前記外側コイルスプリングより自由長が短く、自由状態において前記外側スプリングが伸縮する方向に移動可能であ」る構成からすると、本願発明1の「内側コイルスプリング」及び「外側コイルスプリング」は圧縮コイルスプリングといえるから、引用発明における「捩り振動減衰装置の二重圧縮コイルばね7、8」は、本願発明1における「捩り振動を吸収・減衰するためのスプリング組立体」に相当する。 同様に、引用発明における「外側圧縮コイルばね7b、8b」、「外側圧縮コイルばね7b、8bと同芯に遊嵌された」及び「内側圧縮コイルばね7a、8a」は、それぞれ本願発明1における「外側コイルスプリング」、「外側コイルスプリングの内部に配置された」及び「内側コイルスプリング」に相当する。 また、引用発明における「前記内側圧縮コイルばね7a、8aを前記外側圧縮コイルばね7b、8bよりも軟質の材料で形成し」た態様は、「所定の材料とそれよりも軟質の材料で形成することで、前記内側圧縮コイルばね7a、8aの表面硬度を前記外側圧縮コイルばね7b、8bよりも低くし」た態様といえるから、結局、本願発明1における「前記外側コイルスプリング及び前記内側コイルスプリングには、熱処理が施されており、熱処理を施すことで前記内側コイルスプリングの表面硬度を前記外側コイルスプリングの表面硬度よりも低くし」た態様と、引用発明における「前記内側圧縮コイルばね7a、8aを外側圧縮コイルばね7b、8bよりも軟質の材料で形成し」た態様とは、「内側コイルスプリングの表面硬度を前記外側コイルスプリングの表面硬度よりも低くし」た態様との限りにおいて一致している。 したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「捩り振動を吸収・減衰するためのスプリング組立体であって、 外側コイルスプリングと、 前記外側コイルスプリングの内部に配置された内側コイルスプリングと、 を備え、 前記前記内側コイルスプリングの表面硬度を前記外側コイルスプリングの表面硬度よりも低くした、 スプリング組立体。」 (相違点) (相違点1) 「内側コイルスプリングの表面硬度を前記外側コイルスプリングの表面硬度よりも低くし」た態様に関し、本願発明1は「前記外側コイルスプリング及び前記内側コイルスプリングには、熱処理が施されており、熱処理を施すことで」その態様としているのに対し、引用発明は「所定の材料とそれよりも軟質の材料で形成することで」その態様としてる点。 (相違点2) 本願発明1は「前記内側コイルスプリングは、前記外側コイルスプリングより自由長が短く、自由状態において前記外側スプリングが伸縮する方向に移動可能であり、両端の端面の外周縁部が面取り加工され、かつ両端の少なくとも1巻き目の外径が、他の部分の外径よりも小径である」という構成を備えるのに対し、引用発明は「前記内側圧縮コイルばね7a、8aと外側圧縮コイルばね7b、8bとはその円周方向長さが等しい」のであって、そのような構成を備えていない点。 イ 判断 事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討する。 本願発明1に関し、本願明細書には以下の記載がある。 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 特許文献1に記載された親子ばねを用いたスプリング組立体では、内側コイルスプリングの自由長が外側コイルスプリングよりも短く設定されているため、内側コイルスプリングが外側コイルスプリングの内部で回転方向に移動可能になっている。 【0006】 このような構成では、内側コイルスプリングは、捩り振動によって圧縮される際に遠心力によって外周側に移動することで、外側コイルスプリングの内周面に摺動する。このとき、内側コイルスプリングの摺動により、外側コイルスプリングの内周面が磨耗してしまう。また、摺動によって内側コイルスプリングの端部が外側コイルスプリングの線間に噛み込むと、内側コイルスプリングの両端1巻から3巻が摺れてバリが発生し、バリが異物として摺動部等に混入してしまうおそれがある。 【0007】 本発明の課題は、外側コイルスプリングの線間と内側コイルスプリングの端部との噛み込みを抑えることにより、内側コイルスプリングの両端1巻から3巻のバリ発生を防止すること、および内側コイルスプリングの摺動による外側コイルスプリングの内周面の磨耗を抑制することにある。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明の一側面に係るスプリング組立体は、捩り振動を吸収・減衰するためのものであり、外側コイルスプリングと、外側コイルスプリングの内部に配置される内側コイルスプリングと、を備えている。内側コイルスプリングは、外側コイルスプリングよりも自由長が短く、両端の端面が面取り加工され、かつ両端の少なくとも1巻き目の外径が他の部分の外径よりも小径である。 【0009】 このため、外側コイルスプリングの線間に内側コイルスプリングの端部が噛み込みにくくなり、内側コイルスプリングの両端1巻から3巻のバリ発生を抑えることができる。」 すなわち、本願発明1は「前記内側コイルスプリングは、前記外側コイルスプリングより自由長が短く、自由状態において前記外側スプリングが伸縮する方向に移動可能であ」ることから、少なくとも外側コイルスプリングの線間と内側コイルスプリングの端部との噛み込みを抑えることにより、内側コイルスプリングの両端1巻から3巻のバリ発生を防止すること、および内側コイルスプリングの摺動による外側コイルスプリングの内周面の磨耗を抑制することを本発明の課題として、「前記内側コイルスプリングは、」「両端の端面の外周縁部が面取り加工され、かつ両端の少なくとも1巻き目の外径が、他の部分の外径よりも小径である」構成を備えるものといえる。 ところが、引用発明は「前記内側圧縮コイルばね7a、8aと外側圧縮コイルばね7b、8bとはその円周方向長さが等しい」のであって、「内側圧縮コイルばね7a、8aは、外側圧縮コイルばね7b、8bより自由長が短く、自由状態において前記外側圧縮コイルばね7b、8bが伸縮する方向に移動可能であ」るものでないから、少なくとも本願発明1の「外側コイルスプリングの線間と内側コイルスプリングの端部との噛み込みを抑える」(本願明細書段落【0007】)との課題が生じ得ない。そうすると、引用発明は、その課題解決のための手段といえる本願発明1の「前記内側コイルスプリングは、」「両端の端面の外周縁部が面取り加工され、かつ両端の少なくとも1巻き目の外径が、他の部分の外径よりも小径である」構成を備える動機づけがあるとはいえない。 さらに、引用発明の「前記内側圧縮コイルばね7a、8aと外側圧縮コイルばね7b、8bとはその円周方向長さが等しい」構成をして、本願発明1の「前記内側コイルスプリングは、前記外側コイルスプリングより自由長が短く、自由状態において前記外側スプリングが伸縮する方向に移動可能であ」る構成とすることは、引用発明のばね定数が一定であるものを伸縮により変わるものへと変更することであって、その機能を変更することになるが、引用発明には、その動機があるとはいえない。 その上、相違点2に係る本願発明1の上記構成は、上記引用文献1ないし6には記載されておらず、本願出願前において周知技術であるともいえない。 したがって、本願発明1は、相違点1を検討するまでもなく、当業者であっても引用発明及び引用文献2ないし6に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2) 本願発明2及び3について 本願発明2及び3も、相違点2に係る本願発明1の上記構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2ないし6に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない 5 小括 以上のとおりであるから、本願発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ではなく、その他の拒絶理由も発見できないから、特許出願の際独立して特許を受けることができる発明であるので、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合する。 第4 原査定について 本件補正により、本願発明1ないし3は相違点2に係る本願発明1の上記構成の「前記内側コイルスプリングは、前記外側コイルスプリングより自由長が短く、自由状態において前記外側スプリングが伸縮する方向に移動可能であり、両端の端面の外周縁部が面取り加工され、かつ両端の少なくとも1巻き目の外径が、他の部分の外径よりも小径である」という事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1ないし6に基いて、容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-11-24 |
出願番号 | P2016-061215 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(F16F)
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最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
間中 耕治 |
特許庁審判官 |
田村 嘉章 中村 大輔 |
発明の名称 | スプリング組立体及びそれを備えたトルクコンバータのロックアップ装置 |
代理人 | 新樹グローバル・アイピー特許業務法人 |