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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B23K
管理番号 1380879
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-05-21 
確定日 2022-01-07 
事件の表示 特願2019−522466「継手性能が良好な亜鉛めっき高張力鋼の抵抗スポット溶接方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月11日国際公開、WO2018/082425、令和 1年12月19日国内公表、特表2019−536631、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)9月30日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2016年11月4日、中国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年 7月30日付け:拒絶理由通知
令和2年11月 9日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年 1月18日付け:拒絶査定(原査定)
令和3年 5月21日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願の請求項1に係る発明は、以下の引用文献1−2に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、請求項2に係る発明は、拒絶査定の対象とはなっていない。

引用文献
1.Rouholah Ashiri,Liquid metal embrittlement-free welds of Zn-coated twinning induced plasticity steels,Scripta Materialia ,2016年 3月15日,Vol.114,p.41-47
2.国際公開第2008/058675号

第3 本願発明
本願の請求項1−2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」−「本願発明2」という。)は、令和3年5月21日に提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1−2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、このうち、本願発明1は、以下のとおりである。

「【請求項1】
継手性能が良好な亜鉛めっき高張力鋼の抵抗スポット溶接方法であって、
3つの溶接パルスが1つのスポット溶接計画内で使用され、
第1の溶接パルスおよび第2の溶接パルスが、ナゲットの生成および液体金属ぜい化割れの発生の抑制に使用され、
前記第1の溶接パルスは、直径3.75T1/2〜4.25T1/2(式中、Tは鋼板の板厚を表す)を有するナゲットを生成し、
前記第2の溶接パルスは、第1の溶接パルスよりも短時間での印加により前記第1の溶接パルスの印加によるナゲットの生成よりも該ナゲットをゆっくり成長させ、
焼戻しパルスである第3の溶接パルスが、溶接スポットの塑性を改善するのに使用され、
前記第1の溶接パルスの時間t1が設定され、かつ前記第1の溶接パルスの溶接電流I1が試験を行うことにより得られ、前記第1の溶接パルスの前記溶接電流I1は直径3.75T1/2〜4.25T1/2を有する前記ナゲットを生成する際の溶接電流であり、
前記第2の溶接パルスの溶接電流I2および時間t2、ならびに前記第3の溶接パルスの溶接電流I3および時間t3が、前記第1の溶接パルスの前記溶接電流I1および前記時間t1によって算出される、
ことを特徴とする抵抗スポット溶接方法。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(括弧内は当審訳。下線は当審で付した。)。

ア「Our results have shown that Zn-coated TWIP steels are susceptible to liquid metal embrittlement (LME) induced by liquid zinc when they are subjected to the resistance spot welding process [24]. This susceptibility can influence the reliability and corrosion resistance of the welds and needs to be suppressed. In the absence of any solution for this challenge, this work aims to develop an innovative pathway to obtain LME-free welds of Zn-coated TWIP steels. Our results demonstrate that a smart management of heating is critically required to obtain LME-free reliable welds and also to extend the weldable current range of TWIP steels. We believe that the method developed here can easily be used to obtain LME-free reliable welds of other susceptible advanced high strength steels which are susceptible to embrittlement induced by liquid zinc.」(第41ページ右欄第13行−第25行)
(私たちの結果は、亜鉛コーティングされたTWIP鋼は、抵抗スポット溶接プロセスにかけられたときに、液体亜鉛によって引き起こされる液体金属脆化(LME)の影響を受けやすいことを示しています[24]。この感受性は、溶接部の信頼性と耐食性に影響を与える可能性があるため、抑制する必要があります。この課題に対する解決策がない場合、この作業は、亜鉛コーティングされたTWIP鋼のLMEフリー溶接を得るための革新的な経路を開発することを目的としています。その結果、LMEフリーの信頼性の高い溶接を実現し、TWIP鋼の溶接可能な電流範囲を拡大するには、スマートな加熱管理が非常に重要であることが分かりました。今回開発した方法は、液体亜鉛による脆化の影響を受けやすい他の高強度鋼においても、LMEフリーの信頼性の高い溶接を容易に実現できると考えています。)

イ「In that, the first pulse is responsible for the formation of minimum required nugget size and also for producing a strong corona bond (a tight mechanical seal around the outer periphery of the molten nugget formed at the end of the first pulse), and the second pulse in- creases the nugget size, which should make the expulsion at the maximum nugget diameter without LME and also should extend the weldable current range.」(第44ページ右欄第12行−第45ページ左欄第4行)
(その中で、最初のパルスは、必要最小限のナゲットサイズの形成と、強力なコロナ結合(最初のパルスの終了時に形成された溶融ナゲットの外周の周りの緊密な機械的シール)の生成に関与し、2番目のパルスはナゲットのサイズを大きくします。これにより、LMEなしにナゲットの最大直径で排出が行われ、溶接可能な電流範囲が拡張されます。)

ウ「Our established impulse welding can produce critical nugget diameter for LME simultaneous or even after the expulsion. The base impulse schedule (see Fig. 3a) can be defined as a two-pulse schedule in which both pulses have similar welding current; the base impulse current should provide the first step of heat input required to form minimum nugget diameter, 4√t, during resistance spot welding. Then, the second pulse current can be increased up to current where LME or/and expulsion occur.」(第45ページ右欄第2行−第9行)
(私たちの確立されたインパルス溶接は、LMEの発生と同時にまたは排出後にも臨界ナゲット直径を生成することができます。基本の溶接計画(図3aを参照)は、両方のパルスが同程度の溶接電流を持つ2パルスの計画として定義できます。基本のパルス電流は、抵抗スポット溶接中に最小ナゲット直径4√tを形成するために必要な入熱の最初のステップを提供する必要があります。次に、2番目のパルス電流をLMEまたは/および排出が発生する電流まで増加させることができます。)

エ「According to the definition of the base impulse, its current (the current of the first pulse) should be high enough to make a minimum 4√t nugget diameter. Therefore, the second pulse determines the weldable current range. A certain amount of heat generation (H = RI2t; where R is electrical resistance of the specimen, I and t are the current and time of the welding, respectively) is required to increase the size of the minimum required nugget (4√t) to the critical nugget diameter for LME during the second pulse of welding. As shown in Fig. 3b, the base impulse with short-time second pulse should have a slower rate of the nugget growth and because of its shorter time it experiences a wider weldable current range before LME and expulsion, which can satisfy the automotive industry requirements.」(第46ページ左欄下から第4行−右欄第9行)
(基本のインパルスの定義によると、その電流(最初のパルス電流)は、最小4√tのナゲット直径を作るのに十分な大きさである必要があります。したがって、2番目のパルスが溶接可能な電流範囲を決定します。最小必要ナゲットのサイズを(4√t)から溶接の2番目のパルス中にLMEの臨界ナゲット直径まで大きくするには、ある程度の発熱(H = RI2t、Rは試験片の電気抵抗、Iとtはそれぞれ溶接の電流と時間)が必要です。図3bに示すように、2番目の短時間のパルスを使用した基本のインパルスは、ナゲットの成長速度が遅く、時間が短いため、LMEと排出の前に溶接可能な電流範囲が広くなり、自動車業界の要件を満足させることができます。)

オ 上記アより、引用文献1には、亜鉛めっきのTWIP鋼(Zn-coated TWIP steels)の抵抗スポット溶接方法に関するものが記載され、液体金属ぜい化(LME)抑制の実現を目的とすることが記載されているといえる。

カ 上記イより、引用文献1には、第1パルスが必要最小限のナゲットサイズを形成し、第2パルスが、LMEなしでナゲットサイズを拡大することが記載されており、第2パルスはLMEをなくすために使用されていることが記載されているといえる。

キ 上記ウより、引用文献1には溶接計画が2つの溶接パルスの計画で定義されることが記載されており、1つの溶接計画内で2つの溶接パルスが用いられることが記載されているといえる。また、引用文献1には、パルス電流の最初のステップ、つまり第1パルスが最小ナゲット直径4√tを形成することが記載されているといえる。

ク 上記エより、引用文献1には第1パルスの溶接電流が最小ナゲット直径4√tを形成するのに十分な電流であること、また、時間が短い第2溶接パルスにより、ナゲットの成長速度が遅くなることが記載されているといえる。

(2)上記(1)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「亜鉛めっきのTWIP鋼の抵抗スポット溶接方法であって(上記ア、エ参照。)
2つの溶接パルスが1つの溶接計画内で使用され、(上記、ウ、キ参照)
第1の溶接パルス及び第2の溶接パルスが、ナゲットの生成およびLMEをなくすために使用され、(上記、イ、カ参照)
前記第1の溶接パルスは、最小直径4√tを有するナゲットを生成し、
時間が短い第2溶接パルスにより、ナゲットの成長速度が遅くなる
ことを特徴とする抵抗スポット溶接方法」

第5 当審の判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「亜鉛めっきのTWIP鋼」は、TWIP鋼が高張力鋼に分類されることから、亜鉛めっき高張力鋼である点で、本願発明1の「継手性能が良好な亜鉛めっき高張力鋼」と共通している。
イ 引用発明1の「2つの溶接パルスが1つの溶接計画内で使用され」と、本願発明1の「3つの溶接パルスが1つのスポット溶接計画内で使用され」とは、「複数の溶接パルスが1つの溶接計画内で使用され」るという点に限り一致する。
ウ 引用発明1の「第2の溶接パルス」は、LMEをなくすために使用されており、本願発明1の「第2の溶接パルス」と同様にLME割れの発生の抑制に使用されていることは明らかである。
エ 引用発明1の「前記第1の溶接パルスは、最小直径4√tを有するナゲットを生成し」は、tが板厚(引用文献1の第42ページ右欄17行−18行参照)であり、直径4√tを有するナゲットを生成する点で、本願発明1の「前記第1の溶接パルスは、直径3.75T1/2〜4.25T1/2(式中、Tは鋼板の板厚を表す)を有するナゲットを生成し」に相当する。
オ 引用発明1の「時間が短い第2パルスにより、ナゲットの成長速度が遅くなる」ことは、第1溶接パルスより第2溶接パルスの印加の時間が短く、ナゲットの成長速度を遅くするものであるので、本願発明1の「前記第2の溶接パルスは、第1の溶接パルスよりも短時間での印加により前記第1の溶接パルスの印加によるナゲットの生成よりも該ナゲットをゆっくり成長させ」に相当する。
カ 上記ア−オより、本願発明1と引用発明1との一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
亜鉛めっき高張力鋼の抵抗スポット溶接方法であって、
複数の溶接パルスが1つのスポット溶接計画内で使用され、
第1の溶接パルスおよび第2の溶接パルスが、ナゲットの生成および液体金属ぜい化割れの発生の抑制に使用され、
前記第1の溶接パルスは、直径4T1/2(式中、Tは鋼板の板厚を表す)を有するナゲットを生成し、
前記第2の溶接パルスは、第1の溶接パルスよりも短時間での印加により前記第1の溶接パルスの印加によるナゲットの生成よりも該ナゲットをゆっくり成長させる
ことを特徴とする抵抗スポット溶接方法。
[相違点1]
亜鉛めっき高張力鋼が、本願発明1では、「継手性能が良好」であるのに対して、引用発明1では、「継手性能が良好」か否か明らかでない点。
[相違点2]
本願発明1では、3つの溶接パルスを1つのスポット溶接計画内で使用して、焼き戻しパルスである第3の溶接パルスにより、溶接スポットの塑性を改善するのに対して、引用発明1では、2つの溶接パルスを1つのスポット溶接計画内で使用するが、焼き戻しパルスである第3の溶接パルスの使用については記載のない点。
[相違点3]
本願発明1では、「前記第1の溶接パルスの時間t1が設定され、かつ前記第1の溶接パルスの溶接電流I1が試験を行うことにより得られ、前記第1の溶接パルスの前記溶接電流I1は直径3.75T1/2〜4.25T1/2を有する前記ナゲットを生成する際の溶接電流であり、前記第2の溶接パルスの溶接電流I2および時間t2、ならびに前記第3の溶接パルスの溶接電流I3および時間t3が、前記第1の溶接パルスの前記溶接電流I1および前記時間t1によって算出される」のに対して、引用発明1では、第1の溶接パルスは、最小直径4√tを有するナゲットを生成するものではあるが、第2の溶接パルス及び第3の溶接パルスの溶接電流及び時間が第1のパルスの溶接電流及び時間によって算出されるものではない点。

(2)判断
事案に鑑みて、上記相違点2−3から先に検討する。
ア 相違点2について
引用文献2には、抵抗スポット溶接において、第2の電流パルス及び第3の電流パルスを印加し、第3の電流パルスにより焼き戻しを行う(「temper」)技術が記載されている。(引用文献2の第4ページ第22行−第5ページ第2行、図1等。特に図1に図示された第1〜第3の電流パルスによる3段階の電流パルスの印加、及び「The weld is again allowed to cool, and in step 3 reheated with a final current pulse, but during this step the temperature of the weld must be lower than the Aci temperature to temper the martensite weld material. In this way, the hardness of the weld is lowered.」の記載を参照。)
鋼の割れ防止のために引用文献2記載のような抵抗スポット溶接のプロセスの中において焼き戻しを行うことは慣用技術であるところ、出願人も明細書の段落【0005】で自認するとおり抵抗スポット溶接の技術分野において、溶接スポットのぜい性を考慮して、溶接スポットの塑性を改善することは周知の課題であるから、引用発明1において、溶接スポットの塑性を改善するために引用文献2記載の技術を適用し、相違点2に係る本願発明1の構成を採用することは、当業者によって容易に想到し得ることである。

イ 相違点3について
上記アで検討したとおり、引用文献2には、抵抗スポット溶接において、第2の電流パルス及び第3の電流パルスを印加し、第3の電流パルスにより焼き戻しを行う技術が記載されており、抵抗スポット溶接のプロセスの中において焼き戻しを行うことは慣用技術といえるが、引用文献2には、第2の溶接パルス及び第3の溶接パルスの溶接電流及び時間が第1のパルスの溶接電流及び時間によって算出することが記載も示唆もされていない。また当業者にとって、このように第2の溶接パルス及び第3の溶接パルスの溶接電流及び時間を第1のパルスの溶接電流及び時間によって算出することが自明なものであるとも認められず、引用発明1において第2の溶接パルス及び第3の溶接パルスを第1の電流パルスの電流及び時間により算出する様に構成する動機付けが認められない。
したがって、引用発明1に、引用文献2に記載された事項を適用して、上記相違点3の構成とすることが当業者にとって容易になし得たということはできない。

(3)小括
以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたということができない。

2 本願発明2について
本願発明2は、原査定において拒絶の対象となっていない。なお、本願発明2は、本願発明1の構成を全て備えるものであって、引用発明1との間には相違点3を有するから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-12-21 
出願番号 P2019-522466
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B23K)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 見目 省二
特許庁審判官 田々井 正吾
松原 陽介
発明の名称 継手性能が良好な亜鉛めっき高張力鋼の抵抗スポット溶接方法  
代理人 奥山 尚一  
代理人 松島 鉄男  
代理人 西山 春之  
代理人 小川 護晃  
代理人 有原 幸一  
代理人 関谷 充司  

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