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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
管理番号 1380923
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-01-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-15 
確定日 2021-11-05 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6592192号発明「プロピレンポリマー組成物で作られた二軸配向フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6592192号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし9〕について訂正することを認める。 特許第6592192号の請求項1ないし6、8及び9に係る特許を維持する。 特許第6592192号の請求項7に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6592192号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)10月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年10月16日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、令和1年9月27日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年10月16日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和2年4月15日に特許異議申立人 有江 純子(以下、「特許異議申立人A」という。)及び特許異議申立人 梯 京子(以下、「特許異議申立人B」という。)によりそれぞれ特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし9)がされ、同年同月16日に特許異議申立人 野口 操(以下、「特許異議申立人C」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし9)がされ、同年7月15日付けで取消理由が通知され、同年10月14日に特許権者 ボレアリス エージー(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年同月23日付けで特許異議申立人AないしCに対し訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年11月26日に特許異議申立人Cから意見書が提出され、同年同月27日に特許異議申立人A及びBそれぞれから意見書が提出され、令和3年2月5日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年4月20日に特許権者から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年7月16日付けで特許異議申立人AないしCに対し訂正請求書副本の送付通知がされるとともに審尋がされ、同年8月13日に特許異議申立人Bから回答書が提出され、特許異議申立人A及びCからは応答がなかったものである。
なお、令和2年10月14日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
令和3年4月20日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「(ii)0.0000001〜0.01重量%の高分子系α晶造核剤と、」とあるのを、「(ii)0.01ppm〜5ppmの高分子系α晶造核剤と、」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし6、8及び9についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)と前記(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、長鎖分岐を含まない、および、前記プロピレンポリマー組成物(A)に長鎖分岐を含むポリマーを添加しない、前記パーセンテージは前記プロピレンポリマー組成物(A)の重量に基づく、二軸配向フィルム。」とあるのを、「前記プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)と前記(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、長鎖分岐を含まない、および、前記プロピレンポリマー組成物(A)に長鎖分岐を含むポリマーを添加しない、前記パーセンテージは前記プロピレンポリマー組成物(A)の重量に基づく、厚さ0.5〜10μmの二軸配向フィルム。」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし6、8及び9についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8に「コンデンサーを作るための、請求項1〜7のいずれか一項に記載のフィルムの使用。」とあるのを、「コンデンサーを作るための、請求項1〜6のいずれか一項に記載のフィルムの使用。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1〜7のいずれか一項に記載のフィルムを含むコンデンサー。」とあるのを、「請求項1〜6のいずれか一項に記載のフィルムを含むコンデンサー。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1における「高分子系α晶造核剤」の含有量の「0.0000001〜0.01重量%」という数値範囲を、発明の詳細な説明の【0029】に「なお一層好ましくは0.000001〜0.0005重量%(または0.01ppm〜5ppm)の高分子α晶造核剤(ii)を含む。」と記載された「0.01ppm〜5ppm」(重量%では、0.000001〜0.0005重量%)へと狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2による請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1における「二軸配向フィルム」を「厚さ0.5〜10μm」のものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1及び2による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)請求項2ないし6についての訂正について
訂正事項1及び2による請求項2ないし6についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1及び2による請求項2ないし6についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)請求項7についての訂正について
訂正事項3による請求項7についての訂正は、訂正前の請求項7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3による請求項7についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)請求項8についての訂正について
訂正事項1及び2による請求項8についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4による請求項8についての訂正は、訂正前の請求項8の引用請求項から請求項7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1、2及び4による請求項8についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)請求項9についての訂正について
訂正事項1及び2による請求項9についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項5による請求項9についての訂正は、訂正前の請求項9の引用請求項から請求項7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1、2及び5による請求項9についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし5による請求項1ないし9についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

なお、訂正前の請求項2ないし9は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし9は一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1ないし5による請求項1ないし9についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
さらに、特許異議申立人AないしCによる特許異議の申立ては、いずれも、訂正前の請求項1ないし9に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし9〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
(i)93〜98%のアイソタクチックペンタッド分率の含有量および0.5〜10g/10minのメルトフローレートMFR2を有する98.2〜99.8重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマーと、(ii)0.01ppm〜5ppmの高分子系α晶造核剤と、(iv)0.1〜0.8重量%の従来の添加剤と、(iii)0.1〜1.0重量%の(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマーとを含むプロピレンポリマー組成物(A)からなる層を含む二軸配向フィルムであって、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の重量に対して0.5〜100重量ppmの前記高分子系α晶造核剤(ii)を含み、前記プロピレンポリマー組成物(A)において、前記プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)と前記(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、長鎖分岐を含まない、および、前記プロピレンポリマー組成物(A)に長鎖分岐を含むポリマーを添加しない、前記パーセンテージは前記プロピレンポリマー組成物(A)の重量に基づく、厚さ0.5〜10μmの二軸配向フィルム。
【請求項2】
前記高分子系α晶造核剤はポリビニルシクロヘキサン、ポリ(3−メチル−1−ブテン)およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の二軸配向フィルム。
【請求項3】
前記プロピレンポリマー組成物(A)は30重量ppm以下の灰分含有量を有する、請求項1または2に記載の二軸配向フィルム。
【請求項4】
前記フィルムは前記プロピレンポリマー組成物(A)からなる層を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の二軸配向フィルム。
【請求項5】
前記従来の添加剤は酸化防止剤、安定剤および酸スカベンジャーから選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の二軸配向フィルム。
【請求項6】
前記フィルムは金属層をさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の二軸配向フィルム。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
コンデンサーを作るための、請求項1〜6のいずれか一項に記載のフィルムの使用。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のフィルムを含むコンデンサー。」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
1 特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和2年4月15日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

(1)申立理由A−1(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、概要、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

<申立理由A−1の概要>
・本件特許発明は、「長鎖分岐PPを製造するプロセスより簡便なプロセスで経済的に製造でき、かつ少なくとも長鎖分岐PPを製造するプロセスで得られたフィルムと同じくらい優れた電気的および機械的特性を有するBOPPフィルムを得ること」、及び「コンデンサーに使用するのに好適で、かつ従来技術のフィルムに比較して改善された電気的および機械的特性を有するBOPPフィルムを得ること」それ自体を課題とするものであるといえる。
そして、本件特許の発明の詳細な説明において、本件特許発明の数値範囲に含まれる実施例として、実施例1〜4が記載され、本件特許発明の数値範囲に含まれない比較例として、比較例1〜8、9a、9b、10a、10b、11a及び11bが記載されている。
しかし、実施例3と、比較例7及び8とを比較すると、実施例3は、長鎖分岐PPを製造するプロセスで得られたフィルムである比較例7のフィルムより優れた電気的特性を有し、劣った機械的特性を有するフィルムを得られること、及び従来のフィルムである比較例8のフィルムと比較して同等の電気的特性を有し、劣った機械的特性を有するフィルムを得られることが示されているため、「長鎖分岐PPを製造するプロセスより簡便なプロセスで経済的に製造でき、かつ少なくとも長鎖分岐PPを製造するプロセスで得られたフィルムと同じくらい優れた電気的および機械的特性を有するBOPPフィルムを得ること」、及び「コンデンサーに使用するのに好適で、かつ従来技術のフィルムに比較して改善された電気的および機械的特性を有するBOPPフィルムを得ること」との本件特許発明が解決しようとする課題は、解決されていない。
よって、本件特許発明は、本件特許の発明の詳細な説明に記載したものではない。

(2)申立理由A−2(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、概要、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

<申立理由A−2の概要>
・請求項1には、(ii)の高分子系α晶造核剤の含有量として、「(ii)0.0000001〜0.01重量%の高分子系α晶造核剤」、及び「前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の重量に対して0.5〜100重量ppmの前記高分子系α晶造核剤(ii)を含み」と記載されている。
また、請求項1におけるプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)における(ii)の高分子系α晶造形剤の含有量の記載及びポリプロピレン組成物(A)におけるプロピレンポリマー又はコポリマー(iii)の含有量(0.1〜1.0重量%)の記載に基づけば、プロピレンポリマー又はコポリマー(iii)の含有する(ii)の高分子系α晶造形剤の含有量は、0.00000005〜0.0001重量%と算出される。
そうすると、請求項1の記載に基づけば、(ii)の高分子系α晶造形剤の含有量は、0.000001〜0.01重量%である一方、プロピレンホモポリマー又はコポリマー(iii)の含有する(ii)の高分子系α晶造形剤の含有量は、0.00000005〜0.0001重量%であり、その含有量が一致しない。
したがって、請求項1の記載に基づいても、(ii)の高分子系α晶造形剤の含有量が0.000001〜0.01重量%であるのか、0.00000005〜0.0001重量%であるのかが不明であり、(ii)の高分子系α晶造形剤の含有量を特定することができない。
また、この点は、請求項1に従属する請求項2〜9においても同様である。

(3)申立理由A−3(甲第3号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献等に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(4)証拠方法
甲第1号証:本件特許発明の実施例及び比較例のまとめ
甲第2号証:本件特許発明に関する平成30年12月18日付け意見書
甲第3号証:特開平4−209641号公報
甲第4号証:特開平6−136054号公報
甲第5号証:特開平7−118323号公報
甲第6号証:特開2014−231604号公報
甲第7号証:特開2006−143975号公報
甲第8号証:国際公開第2009/060944号
甲第9号証:特開2012−149171号公報
甲第10号証:特開平1−156305号公報
甲第11号証:特開平1−311106号公報
甲第12号証:特開平3−163111号公報
甲第13号証:国際公開第2007/094072号
甲第14号証:特開2009−57542号公報
甲第15号証:特開2014−19825号公報
甲第16号証:特開昭62−122009号公報
参考資料1:特開平5−128915号公報
参考資料2:特開2011−122142号公報
なお、参考資料1及び2は、令和2年11月27日に特許異議申立人Aが提出した意見書に添付されたものである。また、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書A及び上記意見書の記載に従った。以下、甲第1ないし16号証については、順に「甲A−1」のようにいう。

2 特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和2年4月15日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

(1)申立理由B−1(甲第1号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献等に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由B−2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、概要、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

<申立理由B−2の概要>
・本件特許発明1では、その構成を限定するための数値範囲として、以下が記載されている。
(a)(i)のアイソタクチックホモポリマーのアイソタクチックペンタッド分率
(b)(i)のアイソタクチックホモポリマーのMFR2
(c)プロピレンポリマー組成物における(i)ポリプロピレンの高アイソタクチックホモポリマーの含有量
(d)プロピレンポリマー組成物における(ii)高分子系α晶造核剤の含有量
(e)プロピレンポリマー組成物における(iv)従来の添加剤の含有量
(f)プロピレンポリマー組成物における(iii)(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマーの含有量
(g)プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)に対する分子系α晶造核剤(ii)の含有量
しかし、本件特許の発明の詳細な説明によれば、上記(a)〜(g)の数値範囲のうち、(a)の数値範囲と、二軸配向フィルムの機械的特性との関係の技術的な意味は認識できるが、その他の数値範囲と二軸配向フィルムの電気的又は機械的特性との関係の技術的な意味は認識できない。
また、本件特許発明2〜9においても、上記(a)〜(g)の数値範囲と二軸配向フィルムの電気的又は機械的特性との関係の技術的な意味は,本件特許発明1と同様に認識できない。
したがって、本件特許発明は、その構成を限定するための数値範囲の技術的意義が認識できず、所望の効果が得られると当業者において認識できないから、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(3)証拠方法
甲第1号証:特公平7−101566号公報
甲第2号証:特開2014−1265号公報
甲第3号証:特開2014−231604号公報
甲第4号証:特開2014−231584号公報
甲第5号証:国際公開第2014/148547号
甲第6号証:特公昭56−50853号公報
甲第7号証:特開2009−57542号公報
甲第8号証:本件特許の実施例のまとめ
参考資料1:Panasonic Technical Journal,2011年10月15日発行,Vol.57,No.3,51-55頁
参考文献1:特表2001−522903号公報
参考文献2:特開平3−131641号公報
なお、参考資料1は、令和2年11月27日に特許異議申立人Bが提出した意見書に添付されたものであり、参考文献1及び2は令和3年8月13日に特許異議申立人Bが提出した回答書に添付されたものである。また、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書B、上記意見書及び上記回答書の記載に従った。以下、甲第1ないし8号証については、順に「甲B−1」のようにいう。

3 特許異議申立人Cが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和2年4月16日に特許異議申立人Cが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書Cという。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

(1)申立理由C−1(甲第1号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2−1号証ないし甲第8号証に記載された事項に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)証拠方法
甲第1号証:特表2008−540815号公報
甲第2−1号証:国際公開第99/24478号
甲第2−2号証:特表2001−522903号公報
甲第3号証:特公平7−101566号公報
甲第4号証:国際公開第2010/107052号
甲第5号証:国際公開第2014/148547号
甲第6号証:特開2009−138137号公報
甲第7−1号証:国際公開第2014/075971号
甲第7−2号証:特表2015−537083号公報
甲第8号証:特開2009−57542号公報
なお、証拠の表記は、特許異議申立書Cの記載に従った。以下、甲第1ないし8号証については、順に「甲C−1」のようにいう。

第5 取消理由(決定の予告)の概要
令和3年2月5日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要はおおむね次のとおりである。

本件特許の請求項1ないし6、8及び9に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲B−1に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6、8及び9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由(決定の予告)は、申立理由B−1のうち本件特許の請求項1ないし6、8及び9に係る発明についての理由とおおむね同旨である。

第6 取消理由(決定の予告)についての当審の判断
当審は、取消理由(決定の予告)には以下のとおり理由がないと判断する。

1 甲B−1に記載された事項及び甲B−1発明
(1)甲B−1に記載された事項
甲B−1には、「電気特性の改良されたポリプロピレン延伸フイルムよりなる電気絶縁材料」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。

・「<従来の技術およびその問題点>
ポリプロピレン延伸フィルム、特に二軸延伸フィルムは優れた電気的、機械的、化学的性質を有するためコンデンサーのような電気絶縁材料に広く使用されている。
本用途における重要な電気特性としては絶縁破壊電圧があげられる。絶縁破壊電圧の高いフィルムが得られれば、フィルム厚みを薄くすることができ、コンデンサーの小型化が図れることとなり工業上極めて重要な意味がある。
<問題点を解決するための手段>
本発明者らはかかる点に鑑み、鋭意検討した結果、非常に高い絶縁破壊電圧を有するフィルムが得られることを見い出し本発明に到達した。
即ち本発明は、炭素数6以上の3位分岐α−オレフィン及び/又はビニルシクロアルカンの重合体をモノマー単位で0.05wtppm〜10,000wtppm含有するポリプロピレンを少なくとも一軸方向に延伸してなる絶縁破壊電圧の高いポリプロピレン延伸フィルムよりなる電気絶縁材料に係るものである。
本発明で言う高い絶縁破壊電圧とは、好ましくは670V/μ以上でありさらに好ましくは680V/μ以上の破壊電圧である。
以下、本発明につき具体的に説明する。
本発明に用いられる炭素数6以上の3位分岐α−オレフィン又はビニルシクロアルカンの重合体の含有量はポリプロピレン本来の物性を変化させない為には出来るだけ少量添加するのが好ましい。よって該α−オレフィン及び/又はビニルシクロアルカン重合体含有量はモノマー単位で0.05wtppm〜10,000wtppmであり0.5wtppm〜5,000wtppmが好ましく、0.5wtppm〜1,000ppmがさらに好ましい範囲である。
本発明に用いられる炭素数6以上の3位分岐α−オレフィン又はビニルシクロアルカンの具体的化合物としては、3,3−ジメチルブテン−1、3−メチルペンテン−1、3−メチルヘキセン−1、3,5,5−トリメチルヘキセン−1、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルナン等が挙げられる。これらのうち8−メチルペンテン−1、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサンがより好ましい化合物である。」(第2欄第2行ないし第3欄第25行)

・「<実施例>
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお実施例等における特性値は以下の方法で測定した。
(1)極限粘度(〔η〕)
ウベローデ型粘度計を用いて135℃テトラリン中で測定を行なった。
(2)20℃キシレン可溶部(CXS)
ポリプロピレン5gを沸騰キシレン500mlに完全に溶解させた後、20℃に降温し、4時間放置する。
その後、これを析出物と溶液とにろ別し、ろ液を乾固して減圧下60℃で乾燥した。秤量により含有%(重量)を求めた。
(3)沸騰ヘプタン不溶部(BHIS)
(2)で得た20℃キシレン不溶部を乾燥したものを沸騰n−ヘプタンで8時間ソックスレー抽出し、溶出部を蒸発乾燥し、秤量してn−ヘプタン溶出部を求めた。そして、5gから上記n−ヘプタン溶出部及びCXS部を減じた値を5gで除した値を百分率で表わしてBHISの含有%(重量)を求めた。
(4)プロピレンアイソタクチックペンタッド分率
プロピレンアイソタクチックペンタッド分率とはA.Zambelli等によってMacromole-cules6,925(1973)に発表されている方法、即ち13C−NMRを使用して測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖、換言すればプロピレンモノマー単位が5個連続してメソ結合した連鎖中にあるプロピレンモノマー単位の分率である。
但し、NMR吸収ピークの帰属に関しては、Macromolecules8,687(1975)に基づいて行なった。
(5)絶縁破壊電圧
JIS−2330に準じ、春日電機製直流耐圧試験を用い500V/secの速度で電圧を上昇し、破壊電圧(V)を測定した。フィルム厚みをマイクロメーターで測定し、次式により絶縁破壊電圧を求めた。
・・・(略)・・・
尚、試験片数を50件として、値の高いもの、低いもの各5個を捨て、40個の平均値を求めた。
(6)灰分量
ポリプロピレン約40gを精秤し、白金ルツボに入れ、ガスバーナーで完全燃焼した後、さらに約800℃の電気炉中で1時間処理後、デシケーター中で放冷して、残った灰分の重量を精秤し灰分の含有率(重量ppm)を求めた。
実施例1
(1)固体触媒成分合成
容量200lの反応槽を窒素で置換したのち、ヘキサン26lおよびテトラブトキシチタン28.6Kgを投入した。攪拌速度120rpmで攪拌しながら内温を35℃に保った。次に、40重量%のエチルアルミニウムセスキクロリドのヘキサン溶液53Kgを系の温度を35℃に保ちながら3時間かけて徐々に滴下した。滴下終了後、35℃で30分間攪拌したのち60℃に昇温し、更に1時間熱処理を行なった。
反応液をフィルターでろ過(当審注:「ろ過」の「ろ」は「さんずい」に「戸」である。以下同様。)したのち、ヘキサン100lで3回洗浄を繰り返し、固体生成物を合成した。
次に、ヘキサン120lを仕込み、固体生成物をスラリー化したのちトリエチルアルミニウム1.5Kgを投入し、攪拌速度100rpmで攪拌しながら50℃に昇温した。次いで50℃でエチレンモノマー3.5Kgを1時間かけて徐々に供給し、予備重合処理を行なった。予備重合処理終了後、フイルターでろ過したのちヘキサン100lで1回洗浄を行ない、エチレン予備重合処理固体を合成した。
エチレン予備重合処理固体をヘプタン120lでスラリー化したのち、系の温度を30℃に保ちながらジーイソアミルエーテル16lを添加し、30℃で1時間反応した。次いで75℃に昇温し、四塩化チタン15lを加え、75℃でさらに1時間反応を行なった。
反応終了後、反応液をフィルターろ過したのち、ヘプタン100lで3回洗浄を繰り返した。
洗浄後、上記と全く同1条件でジーイソアミルエーテルおよび四塩化チタンによる処理を再び繰り返した。
反応後、ヘキサン100lで6回洗浄したのち、乾燥して固体触媒成分(1)15.2Kgを得た。
この固体触媒成分(1)中には、3価のチタン原子が22.1重量%、ジーイソアミルエーテルが6.9重量%、塩素が47.7重量%、ブトキシ基が0.4重量%含有されていた。
(2)ビニルシクロヘキサンの重合
脱水精製されたn−ヘプタン500lにジエチルアルミニウムクロライド9Kg(75mol)、実施例1−(1)で得た固体触媒成分(1)を50Kgを順次加えた後に、この混合溶液を60℃に昇温し、続いてビニルシクロヘキサン70l添加して90分間重合を行なった。
その結果固体触媒成分(1)1g当り1gのビニルシクロヘキサンが重合された固体触媒(2)が得られた。
(3)プロピレンの重合
内容積21m2の反応器に1時間当り、ヘプタン250Kg、プロピレン200Kg、実施例1−(2)で得られたポリビニルシクロヘキサンを含有する固体触媒(2)0.26Kg、ジエチルアルミニウムクロライド0.18Kgおよびε−カプロラクトンを12.5g投入し水素濃度1.5%、濃度60℃で6.2Kg/cm2Gの条件下で重合した。得られた重合スラリーにn−ブタノールを8重量%になるように投入し、75℃で脱灰し、振切り、ポリプロピレンを得た。得られたポリプロピレン中のポリビニルシクロヘキサンの含有量は650ppmであり、このポリプロピレンの〔η〕は2.5dl/gまた全灰分量は16ppmであった。
得られたポリプロピレンのCXSは0.5%、CXSの〔η〕は0.34dl/g、BHISは97.6%、BHISのプロピレンアイソタクチックペンタッド分率は0.990であった。
(4)絶縁フィルム
上記(3)で得られたポリプロピレンに2,6−ジターシャリーブチル−p−クレゾール(スミライザーBHT:住友化学製、商品名)0.3重量%、イルガノックス1010(チバガイギー社製、商品名)0.3重量%を添加して、直径65mmのスクリューを有するTダイ押出機を用いて280℃で溶融押出しを行ない、次いで35℃の冷却ロールで急冷して厚さ1mmのシートを得た。このシートを155℃で縦方向に5倍、及び横方向に6倍延伸して、150℃で熱処理し厚さ約20μの2軸延伸フィルムを得た。
このものをJIS−2330に従って絶縁破壊電圧を測定したところ、690V/μであった。
比較例1
実施例1−(1)で得られた固体触媒成分(1)を1時間当り0.13Kg投入し、実施例1−(3)と同様にしてポリプロピレンを製造した。
得られたポリプロピレンの[η]は2.7dl/g、灰分量は17ppm、またCXSは0.6%、CXSの〔η〕は0.34dl/g、BHISは97.4%、BHISのプロピレンアイソタクチックペンタッド分率は0.991であった。このポリプロピレンを用いて実施例1−(4)と同様にして、得られた厚さ約20μの2軸延伸フィルムの絶縁破壊電圧は650V/μであった。
実施例2
(1)固体触媒成分の合成
攪拌機と滴下ロートを備えた容量200lの反応槽を窒素置換したのち、n−ヘプタン、45.6lと四塩化チタン12lをフラスコに投入し、この溶液を−10℃に保った。
次にn−ヘプタン60lとエチルアルミニウムセスキクロリド29.9Kg(27.3l)によりなる溶液を、フラスコ内の温度を−5〜−10℃に保ちながら、滴下ロートから2時間かけて徐々に滴下した。滴下終了後、室温で30分攪拌したのち80℃に昇温し、80℃で1時間熱処理した。ついで室温に静置し、固液分離したのち、n−ヘプタン80lで4回洗浄を繰り返し減圧乾燥してγ型三塩化チタン含有固体生成物23.2Kgを得た。
次に攪拌機を備えた容量200lの反応槽を窒素置換したのち、n−ヘプタン110l、ジエチルアルミニウムクロリド0.97Kg(1)および前記γ型三塩化チタン含有固体生成物22Kgをフラスコに投入し、温度を50℃に保った。次に、攪拌しながら、プロピレン6Kgを50℃で30分間徐々に懸濁液中に供給し予備重合処理を行なった。処理後、固液分離し、n−ヘプタン50lで2回洗浄を繰り返したのち、減圧乾燥して予備重合処理固体27.6Kgを得た。
攪拌機を備えた容量200lの反応槽をアルゴン置換したのち、トルエン43.5lおよび予備重合処理固体16.0Kgを反応槽に投入し、温度を85℃に保った。次に攪拌しながらn−ブチルエーテル12.9lおよびトリ−n−オクチルアミン0.4lを加え、85℃で15分反応した。反応後ヨウ素1.72Kgをトルエン21.9lに溶解した溶液を添加し、更に85℃で45分反応した。反応後、固液分離し、トルエン50lで1回、n−ヘプタン50lで3回洗浄を繰り返したのち減圧乾燥して固体触媒成分(3)9.7Kgを得た。
(2)ビニルシクロヘキサンの重合
上記(1)で得られた固体触媒成分(3)を合計6バッチ分まとめたものから50Kgを脱水精製されたn−ヘプタン500Kgにジエチルアルミニウムクロライド9Kg(75mol)添加した反応液中に投入した。この混合溶液を60℃に昇温し、続いてビニルシクロヘキサン650l添加して90分間重合を行なった。その結果固体触媒成分(3)1g当り10gのビニルシクロヘキサンが重合された固体触媒(4)が得られた。
(3)プロピレンの重合
実施例1−(3)における固体触媒(2)を上記(2)で得られた固体触媒(4)に変更し、該ポリビニルシクロヘキサンを含有する固体触媒(4)を1時間当り1.4Kg投入した以外はすべて実施例1−(3)と同じ条件でプロピレン重合を行なった。
得られたポリプロピレン中のポリビニルシクロヘキサンの含有量は630ppmであった。また〔η〕は2.6dl/g、全灰分量は15ppmであった。このもののCXSは2.5%、CXSの〔η〕は0.44dl/g、BHISは93.1%、BHISのプロピレンアイソタクチックペンタッド分率は0.970であった。
(4)絶縁フィルム
実施例1−(4)と同様にして厚さ約20μの2軸延伸フィルムを得た。
このフィルムの絶縁破壊電圧は670V/μであった。
比較例2
実施例2−(1)で得られた固体触媒成分(3)を1時間当り0.13Kg投入し、実施例1−(3)と同じ条件下でポリプロピレンを合成した。得られたポリプロピレンの〔η〕は2.5dl/g、全灰分量は20ppmであった。またCXSは2.5%、CXSの〔η〕は0.39dl/g、BHISは93.2%、BHISのプロピレンアイソタクチックペンタッド分率は0.972であった。
このポリプロピレンから実施例1−(4)と同様にして厚さ約20μの2軸延伸フィルムを得た。
このフィルムの絶縁破壊電圧は630V/μであった。
実施例3
実施例1−(3)で得られたポリプロピレン0.5wt%と比較例1で得られたポリプロピレン99.5wt%をブレンドして得られるポリビニルシクロヘキサンを3.3ppm含有したポリプロピレンを用いて実施例1−(4)と同様にして二軸延伸フィルムを製膜し、その絶縁破壊電圧を測定したところ685V/μであった。
実施例4
実施例2−(3)で得られたポリプロピレン0.5wt%と比較例2で得られたポリプロピレン99.5wt%をブレンドして得られるポリビニルシクロヘキサンを32ppm含有したポリプロピレンを用いて実施例1−(4)と同様にして二軸延伸フィルムを製膜し、その絶縁破壊電圧を測定したところ677V/μであった。
〈発明の効果〉
本発明により、電気絶縁材料として好適な絶縁破壊電圧の高いポリプロピレン延伸フィルムが提供される。
本発明で得られるポリプロピレン延伸フィルムは少なくとも片面にアルミニウムなどの金属を蒸着したりあるいはアルミニウムなどの金属箔を巻込んでなる乾式や油浸式のコンデンサー等として使用される。」(第4欄第7行ないし第8欄第33行)

(2)甲B−1発明
甲B−1の実施例3及び4に関する記載箇所には、プロピレンポリマー組成物に長鎖分岐を含むポリマーを添加することは記載されていない。
また、甲B−1の実施例及び比較例の二軸延伸フィルムの厚さの単位の「μ」が「μm」の意味であることは明らかである。
さらに、甲B−1の「本用途における重要な電気特性としては絶縁破壊電圧があげられる。絶縁破壊電圧の高いフィルムが得られれば、フィルム厚みを薄くすることができ、コンデンサーの小型化が図れることとなり工業上極めて重要な意味がある。」(第2欄第6ないし10行)及び「本発明により、電気絶縁材料として好適な絶縁破壊電圧の高いポリプロピレン延伸フィルムが提供される。本発明で得られるポリプロピレン延伸フィルムは少なくとも片面にアルミニウムなどの金属を蒸着したりあるいはアルミニウムなどの金属箔を巻込んでなる乾式や油浸式のコンデンサー等として使用される。」(第8欄第28ないし34行)という記載によると、甲B−1の実施例の二軸延伸フィルムがコンデンサー用であることは明らかである。

したがって、甲B−1に記載された事項を、特に実施例3及び4に関して整理すると、甲B−1には、次の発明(以下、順に「甲B−1実施例3発明」及び「甲B−1実施例4発明」という。)が記載されていると認める。

<甲B−1実施例3発明>
「BHISのプロピレンアイソタクチックペンタッド分率が99.1%(0.991)の含有量及びCSXの極限粘度[η]0.34dl/gを有する99.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーと、
3.3ppmのポリビニルシクロヘキサンと、
0.3重量%2,6−ジターシャリーブチル−p−クレゾール(ブチルヒドロキシトルエン)及び0.3重量%イルガノックス1010と、
0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーとを含む
プロピレンポリマー組成物からなる層を含むコンデンサー用二軸延伸フィルムであり、
0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーは、0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーの重量に対して、650重量ppmのポリビニルシクロヘキサンを含み、
プロピレンポリマー組成物に長鎖分岐を含むポリマーを添加しない、
前記パーセンテージは、プロピレンポリマー組成物の重量に基づく、
厚さ約20μmのコンデンサー用二軸延伸フィルム。」

<甲B−1実施例4発明>
「BHISのプロピレンアイソタクチックペンタッド分率が97.2%(0.972)の含有量及びCSXの極限粘度[η]0.39dl/gを有する99.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーと、
3.2ppmのポリビニルシクロヘキサンと、
0.3重量%2,6−ジターシャリーブチル−p−クレゾール(ブチルヒドロキシトルエン)及び0.3重量%イルガノックス1010と、
0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーとを含む
プロピレンポリマー組成物からなる層を含むコンデンサー用二軸延伸フィルムであり、
0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーは、0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーの重量に対して、630重量ppmのポリビニルシクロヘキサンを含み、
プロピレンポリマー組成物に長鎖分岐を含むポリマーを添加しない、
前記パーセンテージは、プロピレンポリマー組成物の重量に基づく、
厚さ約20μmのコンデンサー用二軸延伸フィルム。」

2 本件特許発明1について
(1)甲B−1実施例3発明との対比・判断
ア 対比
本件特許発明1と甲B−1実施例3発明を対比する。
甲B−1実施例3発明における「BHISのプロピレンアイソタクチックペンタッド分率が99.1%(0.991)の含有量及びCSXの極限粘度[η]0.34dl/gを有する99.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマー」は本件特許発明1における「(i)93〜98%のアイソタクチックペンタッド分率の含有量および0.5〜10g/10minのメルトフローレートMFR2を有する98.2〜99.8重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー」と、「(i)98.2〜99.8重量%のプロピレンのホモポリマー」という限りにおいて一致する。
甲B−1実施例3発明における「3.3ppmのポリビニルシクロヘキサン」は本件特許発明1における「(ii)0.01ppm〜5ppmの高分子系α晶造核剤」に相当する。
甲B−1実施例3発明における「0.3重量%2,6−ジターシャリーブチル−p−クレゾール(ブチルヒドロキシトルエン)及び0.3重量%イルガノックス1010」は本件特許発明1における「(iv)0.1〜0.8重量%の従来の添加剤」に相当する。
甲B−1実施例3発明における「0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマー」は本件特許発明1における「(iii)0.1〜1.0重量%の(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー」に相当する。
甲B−1実施例3発明における「プロピレンポリマー組成物」及び「プロピレンポリマー組成物からなる層を含むコンデンサー用二軸延伸フィルム」は本件特許発明1における「プロピレンポリマー組成物(A)」及び「プロピレンポリマー組成物(A)からなる層を含む二軸配向フィルム」に相当する。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(i)98.2〜99.8重量%のプロピレンのホモポリマーと、(ii)0.01ppm〜5ppmの高分子系α晶造核剤と、(iv)0.1〜0.8重量%の従来の添加剤と、(iii)0.1〜1.0重量%の(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマーとを含むプロピレンポリマー組成物(A)からなる層を含む二軸配向フィルムであって、前記プロピレンポリマー組成物(A)において、前記プロピレンポリマー組成物(A)に長鎖分岐を含むポリマーを添加しない、前記パーセンテージは前記プロピレンポリマー組成物(A)の重量に基づく、二軸配向フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B−1−1>
「(i)98.2〜99.8重量%のプロピレンのホモポリマー」に関して、本件特許発明1においては「93〜98%のアイソタクチックペンタッド分率の含有量および0.5〜10g/10minのメルトフローレートMFR2を有する高アイソタクチックホモポリマー」と特定されているのに対し、甲B−1実施例3発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点B−1−2>
本件特許発明1においては「前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の重量に対して0.5〜100重量ppmの前記高分子系α晶造核剤(ii)を含み」と特定されているのに対し、甲B−1実施例3発明においては「0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーは、0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーの重量に対して、650重量ppmのポリビニルシクロヘキサンを含み」と特定されている点。

<相違点B−1−3>
本件特許発明1においては「前記プロピレンポリマー組成物(A)において、前記プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)と前記(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、長鎖分岐を含まない」と特定されているのに対し、甲B−1実施例3発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点B−1−4>
本件特許発明1においては「厚さ0.5〜10μm」と特定されているのに対し、甲B−1実施例3発明においては「厚さ約20μm」と特定されている点。

イ 判断
そこで、事案に鑑み相違点B−1−2から検討する。
甲B−1の「本発明に用いられる炭素数6以上の3位分岐α−オレフィン又はビニルシクロアルカンの重合体の含有量はポリプロピレン本来の物性を変化させない為には出来るだけ少量添加するのが好ましい。よって該α−オレフィン及び/又はビニルシクロアルカン重合体含有量はモノマー単位で0.05wtppm〜10,000wtppmであり0.5wtppm〜5,000wtppmが好ましく、0.5wtppm〜1,000ppmがさらに好ましい範囲である。」(第3欄第10ないし17行)という記載は、ポリプロピレン全体に対しての炭素数6以上の3位分岐α−オレフィン又はビニルシクロアルカンの重合体の含有量を示す記載であり、甲B−1実施例3発明に即していえば、「99.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマー」と「0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマー」とを合わせた全体に対する「ポリビニルシクロヘキサン」の含有量を示す記載であって、「0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマー」に対する「ポリビニルシクロヘキサン」の含有量を示す記載ではない。
また、甲B−1には、「0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマー」に対する「ポリビニルシクロヘキサン」の含有量が少ない方が好ましいことを示す記載はない。
そうすると、甲B−1には、甲B−1実施例3発明において、「ポリビニルシクロヘキサン」の量を「0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーの重量」に対して「650重量ppm」よりも少量の「0.5〜100重量ppm」にする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲B−1実施例3発明において、「ポリビニルシクロヘキサン」の量を「0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーの重量」に対して「0.5〜100重量ppm」となるようにして、相違点B−1−2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、「優れた電気的特性を有する。」、「簡便で実用的なプロセスで製造することができる。」及び「優れた熱安定性および耐老化性を有する。」(本件特許の明細書の【0070】参照。)という甲B−1実施例3発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

なお、特許異議申立人Bは、令和3年8月13日に提出された回答書において、「甲B−1実施例3発明において,ポリプロピレン中のビニルシクロヘキサンの含有量は,0.00033重量%であり,甲B−1におけるポリプロピレン中のビニルシクロアルカンの重合体の含有量の具体例の下限値の約66倍となり,下限値とは大きく乖離しています。このため,甲B−1におけるポリプロピレン本来の物性を変化させない為には出来るだけ少量添加するのが好ましいとの示唆に基づき,ポリプロピレン組成物中のビニルシクロヘキサンの含有量を低減すると,ポリプロピレンホモポリマー(マスターバッチ)中のビニルシクロヘキサンの含有量は,9.8〜98重量ppm等となり,本件特許発明1の数値範囲を充足します。
つぎに,本件特許の出願時において,ppmレベルでの濃度調製では,甲B−1実施例3発明で使用されている濃度より低濃度のマスターバッチを使用することが行なわれており,甲B−1実施例3発明において,650ppmより低い濃度でポリビニルシクロヘキサンを含むポリプロピレンを使用することは,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎません。
具体的には,参考文献1(特表2001−533903号公報,特許異議申立書Cの甲第2−2号証,特許権者の公表公報)は,・・・(略)・・・参考文献1では,ppmレベルでの濃度調製において,甲B−1実施例3発明で使用されている濃度より低濃度であり,かつ本件特許発明1の数値範囲に含まれる32,33,87,及び19重量ppmのポリビニルシクロヘキサンを含有するポリプロピレン(マスターバッチ)を調製することが行なわれています。
・・・(略)・・・
また,参考文献2(特開平3−131641号公報)は,二軸延伸フィルムにも使用可能な高立体規則性ポリプロピレン組成物の製造方法に関する特許文献であり,・・・(略)・・・このため,参考文献2では,ppmレベルでの濃度調製において,甲B−1実施例3発明で使用されている濃度より低濃度である328重量ppmの結晶性ビニルシクロヘキサン重合体ブロックを含有するポリプロピレン(マスターバッチ)を使用することが行なわれているといえます。
そうすると,本件特許の出願時において,ppmレベルでの濃度調製では,甲B−1実施例3発明で使用されている濃度より低濃度のポリビニルシクロヘキサンを含有するポリプロピレン(マスターバッチ)を使用することが一般的に行なわれているといえ,かつプロピレンホモポリマーの重量に対して,19〜87ppmのポリビニルシクロヘキサンを含むもののように,本件特許発明1の範囲で使用することも行なわれているといえます。
このため,甲B−1実施例3発明において,650ppmより低い濃度でポリビニルシクロヘキサンを含むポリプロピレンをマスターバッチとして使用することは,当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎません。
したがって,甲B−1実施例3発明において,相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことであると思料します。」と主張する。
そこで、検討する。
甲B−1実施例3発明において、ポリプロピレン中のビニルシクロヘキサンの含有量の0.00033重量%が甲B−1におけるポリプロピレン中のビニルシクロアルカンの重合体の含有量の具体例の下限値の約66倍であることが、プロピレンポリマー組成物全体に対する含有量をより少量とする動機付けとなるとしても、甲B−1実施例3発明において、プロピレンポリマー組成物の一部である「0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーの重量」に対する「ポリビニルシクロヘキサン」の量をより少量の「0.5〜100重量ppm」とする動機付けになるとはいえない。
また、マスターバッチにおけるビニルシクロヘキサンの含有量を650ppmより低い濃度にすることが特許異議申立人Bの提示した参考文献1及び2に記載されているとしても、甲B−1実施例3発明において、プロピレンポリマー組成物の一部である「0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーの重量」に対する「ポリビニルシクロヘキサン」の量をより少量の「0.5〜100重量ppm」とする動機付けになるとはいえない。
したがって、甲B−1実施例3発明において、「0.5〜100重量ppm」という650ppmより低い濃度でポリビニルシクロヘキサンを含むポリプロピレンをマスターバッチとして使用することが当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎないとはいえず、特許異議申立人Bの上記主張は採用できない。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲B−1実施例3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)甲B−1実施例4発明との対比・判断
ア 対比
本件特許発明1と甲B−1実施例発明4を対比するに、両者の間には、本件特許発明1と甲B−1実施例発明3の間とほぼ同様の相当関係が成り立つから、両者の一致点は本件特許発明1と甲B−1実施例3発明との対比と同様である。

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B−1−5>
「(i)98.2〜99.8重量%のプロピレンのホモポリマー」に関して、本件特許発明1においては「93〜98%のアイソタクチックペンタッド分率の含有量および0.5〜10g/10minのメルトフローレートMFR2を有する高アイソタクチックホモポリマー」と特定されているのに対し、甲B−1実施例4発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点B−1−6>
本件特許発明1においては「前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の重量に対して0.5〜100重量ppmの前記高分子系α晶造核剤(ii)を含み」と特定されているのに対し、甲B−1実施例4発明においては「0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーは、0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーの重量に対して、630重量ppmのポリビニルシクロヘキサンを含み」と特定されている点。

<相違点B−1−7>
本件特許発明1においては「前記プロピレンポリマー組成物(A)において、前記プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)と前記(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、長鎖分岐を含まない」と特定されているのに対し、甲B−1実施例4発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点B−1−8>
本件特許発明1においては「厚さ0.5〜10μm」と特定されているのに対し、甲B−1実施例4発明においては「厚さ約20μm」と特定されている点。

イ 判断
そこで、事案に鑑み相違点B−1−6から検討する。
上記(1)イの相違点B−1−2についての判断と同様であり、甲B−1には、甲B−1実施例4発明において、「ポリビニルシクロヘキサン」の量を「0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーの重量」に対して「630重量ppm」よりも少量の「0.5〜100重量ppm」にする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲B−1実施例4発明において、「ポリビニルシクロヘキサン」の量を「0.5重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーの重量」に対して「0.5〜100重量ppm」となるようにして、相違点B−1−6に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、「優れた電気的特性を有する。」、「簡便で実用的なプロセスで製造することができる。」及び「優れた熱安定性および耐老化性を有する。」という甲B−1実施例4発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

なお、特許異議申立人Bは、令和3年8月13日に提出された回答書において、甲B−1実施例3発明についてと同様の主張をするが、上記(1)イのとおりであり、該主張は採用できない。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲B−1実施例4発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本件特許発明2ないし6、8及び9について
本件特許発明2ないし6、8及び9は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲B−1実施例3発明又は甲B−1実施例4発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 取消理由(決定の予告)についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし6、8及び9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないので、本件特許の請求項1ないし6、8及び9に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由(決定の予告)によっては取り消すことはできない。

第7 取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議の申立ての理由について
取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議の申立ての理由は、申立理由A−1(サポート要件)、申立理由A−2(明確性要件)、申立理由A−3(甲A−3に基づく進歩性)、申立理由B−2(サポート要件)及び申立理由C−1(甲C−1に基づく進歩性)である。
以下、検討する。

1 申立理由A−1(サポート要件)及び申立理由B−2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。

(2)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明には、おおむね次の記載がある。

・「【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレンポリマー組成物を含む二軸配向フィルムに関する。さらに詳しくは、本発明は、改善された電気的特性を有するコンデンサーフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンで作られたコンデンサーフィルムは、当該技術分野において周知である。
【0003】
特許文献1には、5超のMw/Mnを有する線状ポリプロピレンと長鎖分岐ポリプロピレンのブレンドを含むポリプロピレン組成物で作られた二軸配向フィルムが開示されている。このフィルムは、コンデンサーを製造するのに好適である。
【0004】
特許文献2には、特定の表面粗さを有し、かつ好ましくは0.05〜3%の長鎖分岐ポリプロピレンを含む二軸配向フィルムが開示されている。このフィルムは、優れた電気的特性を有するコンデンサーの製造に好適であると開示された。
【0005】
Fujiyamaその他(非特許文献1)は、ポリプロピレンにα晶造核剤を使用すると、造核剤を含むかまたはβ晶造核剤を含まないフィルムと比較して、表面粗さの少ない平滑フィルムが得られたことを開示している。この文書は、α晶造核剤が存在すると、劣った二軸配向PPフィルムになることを示唆する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1894715A号
【特許文献2】欧州特許出願公開第1985649A号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Applied Polymer Science, Vol.36,pages 1025−1033(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
長鎖分岐PPを含む従来技術の二軸配向PP(BOPP:biaxially oriented PP)フィルムは、優れた特性を有することが開示された。しかしながら、長鎖分岐PPを製造するためのプロセスは複雑であり、材料のコストがかさむことになる。したがって本発明の1つの目的は、従来技術のフィルムより簡便なプロセスで経済的に製造でき、かつ少なくとも従来技術のフィルムと同じくらい優れた電気的および機械的特性を有するBOPPフィルムを提供することである。
【0009】
本発明のもう1つの目的は、コンデンサーに使用するのに好適で、かつ従来技術のフィルムに比較して改善された電気的および機械的特性を有するBOPPフィルムを提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、耐久性があり、故障なく長時間作動するコンデンサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一態様から分かるように、本発明は、(i)93〜98%のアイソタクチックペンタッド分率の含有量および0.5〜10g/10minのメルトフローレートMFR2を有する90〜99.99重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマーと、(ii)0.0000001〜1重量%の高分子系α晶造核剤と、任意に、(iii)(i)以外の0〜9.99重量%のプロピレンホモポリマーまたはコポリマーと、(iv)0.01〜1.0重量%の従来の添加剤を含むプロピレンポリマー組成物(A)とを含む層を含む二軸配向フィルムであって、パーセンテージはプロピレンポリマー組成物(A)の重量に基づく、二軸配向フィルムを提供する。
【0012】
もう1つの態様から分かるように、本発明は、そうしたフィルムの、コンデンサーを作るための使用を提供する。
【0013】
さらなる態様から分かるように、本発明は、そうしたフィルムを含むコンデンサーを提供する。」

・「【0019】
プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー
プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)は、プロピレンポリマー組成物(A)の主要構成要素である。組成物(A)は、90〜99.99重量%、好ましくは95〜99.9重量%、一層好ましくは98〜99.99重量%、特に99〜99.9重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)を含む。
【0020】
プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)は、0.5〜10g/10min、好ましくは1〜7g/10minのメルトフローレートMFR2を有する。MFRが低すぎると、加工性が乏しいという結果を招く。一方、MFRが高すぎると、BOPPプロセスに使用される高温でたるみが生じるという結果を招く。
【0021】
プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)は、93〜98%、好ましくは95〜98%など94〜98%のアイソタクチックペンタッド(mmmm分率)の含有量を有する。アイソタクチックペンタッドの含有量は、全ペンタッドに対するmmmmペンタッドの割合として計算される。ペンタッド含有量が低すぎると、フィルムの最終結晶化度が低めになり、フィルムの引張特性およびモジュラスが低下するという結果を招く。一方、ペンタッドの含有量が多すぎると、フィルム配向中に一方で流れ方向に、他方でさらに詳しくはテンターオーブンの横方向に、頻繁にフィルムが破損し得るという結果を招く。
【0022】
プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)は好ましくは、30ppm以下、一層好ましくは20ppm以下、特に10ppmなど15ppm以下の灰分含有量を有する。灰分含有量が多すぎると、特に灰分が金属残留物を含む場合、フィルムの誘電特性に有害になる可能性がある。そうしたフィルムは、コンデンサーを作るのに使用できない。」

・「【0028】
高分子系α晶造核剤
プロピレンポリマー組成物(A)は、高分子系α晶造核剤(ii)を含む。高分子系α晶造核剤(ii)は、式CH2=CH−CHR6R7のビニル化合物のポリマーであり、R6およびR7は一緒になって5員または6員飽和、不飽和もしくは芳香環を形成するか、または1〜4個の炭素原子を含むアルキル基を独立に表す。好ましくは高分子系α晶造核剤(ii)は、式CH2=CH−CHR6R7のビニル化合物のホモポリマーである。
【0029】
プロピレンポリマー組成物(A)は、0.0000001〜1重量%(または0.001ppm〜10000ppm)の高分子系α晶造核剤、好ましくは0.000001〜0.01重量%(または0.01ppm〜100ppm)、特に好ましくは0.000001〜0.005重量%(または0.01ppm〜50ppm)の高分子系α晶造核剤(ii)を含む。特に、プロピレンポリマー組成物(A)は、プロピレンポリマー組成物(A)の重量に対して0.000001〜0.001重量%(または0.01ppm〜10ppm)、なお一層好ましくは0.000001〜0.0005重量%(または0.01ppm〜5ppm)の高分子系α晶造核剤(ii)を含む。」

・「【0035】
プロピレンホモポリマーまたはコポリマー
上記で論じたように、プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は典型的には、高分子系α晶造核剤(ii)のキャリアポリマーとして存在する。そのときプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は好ましくは、プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の重量に対して0.5〜200ppm、好ましくは1〜100ppmなど1〜200ppmの高分子系α晶造核剤(ii)、好ましくはポリ(ビニルシクロヘキサン)を含む。高分子系α晶造核剤(ii)がプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)を用いてプロピレンポリマー組成物(A)に導入される場合、高分子系α晶造核剤(ii)を含むプロピレンのホモポリマーまたはコポリマー(iii)の量は、プロピレンポリマー組成物(A)に対して0.1〜9.99重量%、好ましくはプロピレンポリマー組成物(A)に対して0.2〜4.99重量%、一層好ましくは0.2〜1.99重量%、特に0.2〜0.99重量%である。
【0036】
プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、どのようなプロピレンのホモポリマーまたはコポリマーでもよい。好ましくはホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)に比較的類似している。よって、ホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、プロピレンのホモポリマーであることが好ましい。さらに、ホモポリマーまたはコポリマー(iii)の特性がホモポリマー(i)のそれと実質的に異なる場合、プロピレンポリマー組成物(A)中のホモポリマーまたはコポリマー(iii)の量は、2重量%を超えないことが好ましい。
【0037】
プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は好ましくは、少なくとも0.9の分岐指数gを有する。それによりプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は好ましくは、長鎖分岐を実質的に含まない。特に、プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、検出可能な量の長鎖分岐を含まない。」

・「【0042】
高分子系α晶造核剤(ii)を含むプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)を製造するための好適なプロセスは、とりわけ国際公開第99/24479A号、国際公開第00/68315A号、欧州特許出願公開第1801157A号、欧州特許出願公開第1801155A号および欧州特許出願公開第1818365A号に開示されている。そのとき典型的にはプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、0.1〜200重量ppmの高分子系α晶造核剤(ii)、好ましくは1〜100重量ppm、一層好ましくは5〜50重量ppmの高分子系α晶造核剤(ii)を含み、ppmはプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の重量に基づく。この実施形態ではさらに、プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)がプロピレンホモポリマーであることが好ましく、かつプロピレンホモポリマーが、たとえば、少なくとも96重量%または少なくとも97重量%または少なくとも98重量%のように高い割合の冷キシレン不溶物で示される、比較的多い含有量のアイソタクチック材料を有することがさらに好ましい。」

・「【0043】
従来の添加剤
加えてプロピレンポリマー組成物(A)は、1種または複数種の従来の添加剤(iv)を含む。本発明に使用される従来の添加剤(iv)は好ましくは、酸化防止剤、酸スカベンジャーおよび安定剤からなる群から選択される。」

・「【0050】
ポリマー組成物
本ポリマー組成物は、90〜99.99重量%、好ましくは90〜99.9重量%、一層好ましくは95〜99.9重量%、特に99〜99.9重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)を含む。加えて、本ポリマー組成物は、0.0000001〜1重量%の高分子系α晶造核剤(ii)を含む。本ポリマー組成物は、0.01〜1.0重量%の従来の添加剤(iv)をさらに含む。
【0051】
場合により、好ましくは、ポリマー組成物は、0〜9.99重量%の(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)を含む。存在する場合、プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は好ましくは、プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の量に対して0.1〜200ppm、好ましくは0.5〜100ppm、特に1〜50ppmの量で高分子系α晶造核剤を含む。そのとき高分子系α晶造核剤(ii)を含むプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の量は好ましくは、0.1〜10重量%、一層好ましくは0.1〜5重量%、特に0.1〜1重量%である。
【0052】
他に言及しない限り、上記のパーセンテージはすべて、プロピレンポリマー組成物の総量に基づく。
【0053】
本組成物は好ましくは、0.5〜10g/10min、好ましくは1〜7g/10minのメルトフローレートMFR2を有する。
【0054】
好ましくはプロピレンポリマー組成物は、線状ポリプロピレンのみを含む。それにより、プロピレンホモポリマー(i)およびプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、長鎖分岐を含まない。さらに、長鎖分岐を含む別のポリマーを、プロピレンポリマー組成物に加えない。
【0055】
特に好ましくは、プロピレンポリマー組成物は、上記の量を有するプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)、高分子系α晶造核剤(ii)、プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)および従来の添加剤(iv)からなる。」

・「【0057】
さらにより好ましい実施形態によれば、プロピレンポリマー組成物(A)は、98.2〜99.8重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)、プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の0.5〜100重量ppmまたは一層好ましくは1〜50重量ppmの量で高分子系α晶造核剤(ii)を含む0.1〜1重量%のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)、および0.1〜0.8重量%の従来の添加剤(iv)を含み、好ましくはそれらからなる。」

・「【0058】
BOPPフィルム
二軸配向ポリプロピレンフィルムは、プロピレンポリマー組成物(A)を含む少なくとも1つの層を含む。加えて、フィルムは、さらなる層、たとえばフィルムが金属化されている場合、金属層をさらに含んでもよい。」

・「【0068】
フィルムは、金属層をさらに含んでもよく、好ましくは金属層を含む。金属層は、電気溶融真空蒸着、イオンビーム真空蒸着、スパッタリングまたはイオンプレーティングによるなど、当該技術分野において公知の任意のやり方でフィルム表面に堆積してもよい。そうした金属層の厚さは典型的には、100Å(0.01μm)〜5000Å(0.5μm)である。」

・「【0069】
BOPPフィルムの厚さは典型的には、0.5〜10μm、好ましくは1〜3μmなど1〜6μmである。」

・「【0070】
本発明の効果
本プロピレンポリマー組成物により、薄フィルム膜を作ることができる。このフィルムは優れた電気的特性を有する。フィルムは、簡便で実用的なプロセスにより製造することができる。フィルムは優れた熱安定性および耐老化性を有する。」

・「【実施例】
【0096】
参考例1
プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)の調製
欧州特許出願公開第2543684A号の発明例1による重合プロセスをプロピレンの重合に使用した。重合反応器のそれぞれにおいて約3.9g/10minのMFR2を有するプロピレンホモポリマーが製造されるように、水素およびプロピレンを反応器に供給した。ポリマーに4500ppmの量でIrganox 1010、1000ppmの量でBHT、および70ppmのステアリン酸カルシウムを加えた。プロピレンホモポリマーは、5.5Pa−1の多分散性指数、14の剪断減粘指数、8ppmの灰分含有量および96.2%のペンタッドアイソタクチシティを有した。
【0097】
参考例2
プロピレンホモポリマーが3.9g/10minのMFR2を有したこと以外は、参考例1の手順を繰り返した。
【0098】
参考例3
ポリマー造核剤(ii)を含むプロピレンホモポリマー(iii)の調製
(a)固体触媒成分の調製
最初に、0.1molのMgCl2×3EtOHを、不活性条件下、大気圧の反応器において250mlのデカンに懸濁させた。この溶液を−15℃の温度まで冷却し、温度を前記水準で維持しながら、300mlの冷TiCl4を加えた。次いで、スラリーの温度をゆっくりと20℃に上昇させた。この温度で、スラリーに0.02molのジオクチルフタレート(DOP)を加えた。フタレートの添加後、温度を90分の間に135℃に上げ、スラリーを60分間静置した。次いで、別の300mlのTiCl4を加え、温度を135℃で120分間維持した。この後、この液体から触媒を濾過し、80℃にてヘプタン300mlで6回洗浄した。次いで、固体触媒成分を濾過し、乾燥させた。
【0099】
(b)ビニルシクロヘキサンを用いた予備重合
トリエチルアルミニウム(TEAL)、ドナー(Do)としてのジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPDMS)、上記で製造した触媒およびビニルシクロヘキサン(VCH)を、Al/Tiが3〜4mol/mol、Al/Doも同様に3〜4mol/mol、およびVCH/固体触媒の重量比率が1/1になるような量で油、たとえばTechnol 68に加えた。この混合物を60〜65℃に加熱し、反応混合物中の未反応ビニルシクロヘキサンの含有量が1000ppm未満になるまで反応させた。最終油−触媒スラリー中の触媒濃度は10〜20wt%であった。
【0100】
(c)重合
40dm3の容積を有する撹拌槽型反応器を、28℃の温度および54barの圧力で液体充填した反応器として運転した。反応器に、反応器の平均滞留時間が0.3時間になるようにプロピレン(70kg/h)と、プロピレンに対する水素の供給比が0.1mol/kmolになるように水素と、上記の説明に従って調製した2.6g/hの重合触媒とを、共触媒としてのトリエチルアルミニウム(TEA)および外部ドナーとしてのジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPDMS)と共に、TEA/Tiのモル比が約130mol/molおよびTEA/DCPDMSが130mol/molになるように供給した。
【0101】
この予備重合反応器からスラリーを、145kg/hのプロピレンおよび水素と一緒に、プロピレンコポリマーのMFR2が3g/10minになるように、150dm3の容積を有するループ反応器に移した。ループ反応器は、80℃の温度および54barの圧力で運転した。プロピレンホモポリマーの製造速度は25kg/hであった。
【0102】
ループ反応器からポリマースラリーを、75℃の温度および27barの圧力で運転された第1の気相反応器に直接導いた。反応器に追加のプロピレンおよび水素を供給した。反応器の製造速度は22kg/hであり、反応器から取り出したコポリマーは3g/10minのメルトフローレートMFR2を有した。コポリマーのXCSは1.8%であった。気相反応器で製造されたポリマーに対するループ反応器で製造されたポリマーの割合は53:47であった。
【0103】
ポリマーを反応器から取り出し、有効量のIrgafos 168、Irganox 1010およびステアリン酸カルシウムと混合した。
【0104】
上記の説明に従い製造したポリマーと添加剤の混合物を、ZSK70押出機(コペリオン(Coperion)の製品)を35のL/Dで使用してペレットとして押し出した。比投入エネルギーは180kWh/tonであった。ダイプレートでの融解温度は265℃であった。
【0105】
ペレットを回収し、乾燥させて解析した。ペレット化したコポリマーは3.8g/10minのMFR2を有した。ポリマーは、約20ppmのポリ(ビニルシクロヘキサン)(PVCH)を含んでいた。
【0106】
参考例4
0.2g/10minのMFR2を有する粉末形態のプロピレンのホモポリマー100重量部を、0.1重量部のステアリン酸カルシウムおよび0.5重量部のビス(tert−ブチルペルオキシ)−2,5,−ジメチルヘキサンおよび1.1重量部のブタジエンと一緒に、45℃の温度で作動させた連続ミキサーに仕込んだ。これらの成分を、ミキサー内の平均滞留時間が6分になるように、窒素雰囲気でミキサーを並流、実質的な栓流で通過させた。ペルオキシドおよびブタジエンを含浸させた粉末をミキサーから、0.1重量部のテトラキス(メチレン(3,5−ジ−tert−ブチルヒドロキシルヒドロシンナメート)メタン)および0.1重量部のトリス(2,4,−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトと一緒に2軸スクリュー押出機に導入した。押出機内の融解物の温度は約235℃であった。未反応ブタジエンを除去するため水をストリッピング剤として使用して、融解物を押出機の下流端で脱気した。
【0107】
得られたポリマーは、1.0重量%の組み込まれたブタジエン単位を含み、0.85g/10minのMFR2を有していた。
【0108】
実施例1
参考例1により製造された99.5重量%のポリマーと、参考例3により製造された0.5重量%のポリマーとのペレットのブレンドをペレットとして押し出した。こうして得られたペレットを押し出し、ブルックナー・マシネンバウ(Brueckner Maschinenbau)製フィルムおよび配向ライン(Karo IV実験用延伸機:温度159℃、歪み速度400%/s)でBOPPフィルムに配向処理した。フィルムは、流れ方向に7:1の比率、および垂直方向に7:1の比率で配向処理した。フィルムの厚さは6μmであった。
【0109】
それによりプロピレンポリマー組成物は、0.1ppmのPVCHを含んでいた。フィルムのポリマーを解析に供した。データを表1に示す。
【0110】
実施例2
参考例1の樹脂の代わりに参考例2の樹脂を使用したこと以外は、実施例1の手順を繰り返した。
【0111】
比較例1
参考例3により製造されたポリマーは組成物中に存在せず、よって組成物は参考例2により製造された樹脂のみを含んでいたこと以外は、実施例2の手順を繰り返した。
【0112】
比較例2
ポリマーに、β晶造核剤としてBASFにより提供された4重量ppmのキナクリドンキノンCGNA−7588を加えたこと以外は、比較例1の手順を繰り返した。
【0113】
比較例3
参考例3により製造されたポリマーの代わりに参考例4により製造されたポリマーを、組成物の総量に対して2重量%の量で使用したこと以外は、実施例1の手順を繰り返した。
【0114】
比較例4
BASFにより提供されたキナクリドンキノンCGNA−7588の量が1重量ppmであったこと以外は、比較例2の手順を繰り返した。
【0115】
比較例5
参考例2により製造された樹脂の代わりに99.5重量%の参考例2により製造された樹脂および0.5重量%の参考例4により製造された樹脂を含むブレンドを使用したこと以外は、比較例4の手順を繰り返した。
【0116】
比較例6
ブレンドが99.75重量%の参考例2により製造された樹脂および0.25重量%の参考例4により製造された樹脂を含んでいたこと以外は、比較例5の手順を繰り返した。
【0117】
実施例1および比較例1〜6のフィルムを、破壊電圧(BDV)を測定するための試験に供した。データを表2に示す。
【0118】
【表1】


【0119】
実施例1および2ならびに比較例1および5のフィルム製造中にサンプルを、配向前、冷却ロール後に250μmシートから採取した。データを表2に示す。
【0120】
【表2】

【0121】
【表3】


【0122】
実施例3
配向ステップを最終フィルムが3μmの厚さを有するように変えたこと以外は、実施例2の手順を繰り返した。データを表4に示す。
【0123】
比較例7
配向ステップを最終フィルムが3μmの厚さを有するように変えたこと以外は、比較例5の手順を繰り返した。データを表4に示す。
【0124】
比較例8
配向ステップを最終フィルムが3μmの厚さを有するように変えた以外は、比較例1の手順を繰り返した。データを表4に示す。
【0125】
【表4】

・・・(略)・・・
【0140】
上記から分かるように、本発明のフィルムは改善された引張特性および低下した収縮率を有するだけでなく、本発明のフィルムは短縮されたアニール時間も有する。よって、本フィルムは製造後すぐに加工することができる。」

(3)サポート要件の判断
ア 発明の課題
本件特許の発明の詳細な説明の【0001】ないし【0013】によると、本件特許発明1ないし6の解決しようとする課題(以下、「発明の課題1」という。)は、「従来技術のフィルムより簡便なプロセスで経済的に製造でき、かつ少なくとも従来技術のフィルムと同じくらい優れた電気的および機械的特性を有するBOPPフィルムを提供すること」であり、本件特許発明8の解決しようとする課題(以下、「発明の課題2」という。)は「従来技術のフィルムより簡便なプロセスで経済的に製造でき、かつ少なくとも従来技術のフィルムと同じくらい優れた電気的および機械的特性を有するBOPPフィルムのコンデンサーを作るための使用を提供すること」であり、本件特許発明9の解決しようとする課題(以下、「発明の課題3」という。)は「従来技術のフィルムより簡便なプロセスで経済的に製造でき、かつ少なくとも従来技術のフィルムと同じくらい優れた電気的および機械的特性を有するBOPPフィルムを含むコンデンサーを提供すること」である。

イ 本件特許発明1ないし6について
本件特許の発明の詳細な説明の【0019】ないし【0022】に「(i)93〜98%のアイソタクチックペンタッド分率の含有量および0.5〜10g/10minのメルトフローレートMFR2を有する98.2〜99.8重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー」について具体的に記載され、【0028】及び【0029】に「(ii)0.01ppm〜5ppmの高分子系α晶造核剤」について具体的に記載され、【0043】に「(iv)0.1〜0.8重量%の従来の添加剤」について具体的に記載され、【0036】及び【0037】に「(iii)0.1〜1.0重量%の(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー」について具体的に記載され、【0051】ないし【0055】及び【0057】に「プロピレンポリマー組成物(A)」について具体的に記載され、【0058】、【0068】及び【0069】に「二軸配向フィルム」について具体的に記載されている。
また、本件特許の発明の詳細な説明において、「(i)93〜98%のアイソタクチックペンタッド分率の含有量および0.5〜10g/10minのメルトフローレートMFR2を有する98.2〜99.8重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマーと、(ii)0.0000001〜0.01重量%(0.001ppm〜100ppm)の高分子系α晶造核剤と、(iv)0.1〜0.8重量%の従来の添加剤と、(iii)0.1〜1.0重量%の(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマーとを含むプロピレンポリマー組成物(A)からなる層を含む二軸配向フィルムであって、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の重量に対して0.5〜100重量ppmの前記高分子系α晶造核剤(ii)を含み、前記プロピレンポリマー組成物(A)において、前記プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)と前記(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、長鎖分岐を含まない、および、前記プロピレンポリマー組成物(A)に長鎖分岐を含むポリマーを添加しない、前記パーセンテージは前記プロピレンポリマー組成物(A)の重量に基づく、二軸配向フィルム。」に含まれる実施例3が、従来技術のフィルムより簡便なプロセスで経済的に製造でき、従来技術のフィルムと同じくらい優れた電気的および機械的特性を有することを確認している。
そうすると、当業者は「(i)93〜98%のアイソタクチックペンタッド分率の含有量および0.5〜10g/10minのメルトフローレートMFR2を有する98.2〜99.8重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマーと、(ii)0.0000001〜0.01重量%(0.001ppm〜100ppm)の高分子系α晶造核剤と、(iv)0.1〜0.8重量%の従来の添加剤と、(iii)0.1〜1.0重量%の(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマーとを含むプロピレンポリマー組成物(A)からなる層を含む二軸配向フィルムであって、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の重量に対して0.5〜100重量ppmの前記高分子系α晶造核剤(ii)を含み、前記プロピレンポリマー組成物(A)において、前記プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)と前記(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、長鎖分岐を含まない、および、前記プロピレンポリマー組成物(A)に長鎖分岐を含むポリマーを添加しない、前記パーセンテージは前記プロピレンポリマー組成物(A)の重量に基づく、二軸配向フィルム。」は発明の課題1を解決できると認識でき、本件特許発明1は当該「二軸配向フィルム」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題1を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
また、本件特許発明2ないし6についても同様であり、本件特許発明2ないし6に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。

なお、特許異議申立人Aは、実施例3は、長鎖分岐PPを製造するプロセスで得られたフィルムである比較例7のフィルムより優れた電気的特性を有し、劣った機械的特性を有するフィルムを得られること、及び従来のフィルムである比較例8のフィルムと比較して同等の電気的特性を有し、劣った機械的特性を有するフィルムを得られることが示されているため、発明の課題を解決されていない旨主張する(上記第4 1(1))が、実施例3が比較例7及び8と比べて機械的特性が多少劣っているとしても、この程度であれば、「同じくらい優れた」といえるので、該主張は採用できない。
また、特許異議申立人Bは、本件特許発明1の構成を限定するための数値範囲と二軸配向フィルムの電気的又は機械的特性との関係の技術的な意味は認識できない旨主張する(上記第4 2(2))が、上記のとおり、当業者は「(i)93〜98%のアイソタクチックペンタッド分率の含有量および0.5〜10g/10minのメルトフローレートMFR2を有する98.2〜99.8重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマーと、(ii)0.0000001〜0.01重量%(0.001ppm〜100ppm)の高分子系α晶造核剤と、(iv)0.1〜0.8重量%の従来の添加剤と、(iii)0.1〜1.0重量%の(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマーとを含むプロピレンポリマー組成物(A)からなる層を含む二軸配向フィルムであって、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の重量に対して0.5〜100重量ppmの前記高分子系α晶造核剤(ii)を含み、前記プロピレンポリマー組成物(A)において、前記プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)と前記(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、長鎖分岐を含まない、および、前記プロピレンポリマー組成物(A)に長鎖分岐を含むポリマーを添加しない、前記パーセンテージは前記プロピレンポリマー組成物(A)の重量に基づく、二軸配向フィルム。」は発明の課題1を解決できると認識でき、本件特許発明1は当該「二軸配向フィルム」をさらに限定したものであるので、該主張も採用できない。

ウ 本件特許発明8について
本件特許の発明の詳細な説明の記載の【0012】には、「コンデンサーを作るための」「フィルムの使用」について記載されている。
また、上記イのとおり、当業者は「(i)93〜98%のアイソタクチックペンタッド分率の含有量および0.5〜10g/10minのメルトフローレートMFR2を有する98.2〜99.8重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマーと、(ii)0.0000001〜0.01重量%(0.001ppm〜100ppm)の高分子系α晶造核剤と、(iv)0.1〜0.8重量%の従来の添加剤と、(iii)0.1〜1.0重量%の(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマーとを含むプロピレンポリマー組成物(A)からなる層を含む二軸配向フィルムであって、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の重量に対して0.5〜100重量ppmの前記高分子系α晶造核剤(ii)を含み、前記プロピレンポリマー組成物(A)において、前記プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)と前記(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、長鎖分岐を含まない、および、前記プロピレンポリマー組成物(A)に長鎖分岐を含むポリマーを添加しない、前記パーセンテージは前記プロピレンポリマー組成物(A)の重量に基づく、二軸配向フィルム。」は発明の課題1を解決できると認識できる。
そうすると、当業者は「(i)93〜98%のアイソタクチックペンタッド分率の含有量および0.5〜10g/10minのメルトフローレートMFR2を有する98.2〜99.8重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマーと、(ii)0.0000001〜0.01重量%(0.001ppm〜100ppm)の高分子系α晶造核剤と、(iv)0.1〜0.8重量%の従来の添加剤と、(iii)0.1〜1.0重量%の(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマーとを含むプロピレンポリマー組成物(A)からなる層を含む二軸配向フィルムであって、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の重量に対して0.5〜100重量ppmの前記高分子系α晶造核剤(ii)を含み、前記プロピレンポリマー組成物(A)において、前記プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)と前記(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、長鎖分岐を含まない、および、前記プロピレンポリマー組成物(A)に長鎖分岐を含むポリマーを添加しない、前記パーセンテージは前記プロピレンポリマー組成物(A)の重量に基づく、二軸配向フィルム」の「コンデンサーを作るための」「使用」は発明の課題2を解決できると認識でき、本件特許発明8は当該「使用」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明8は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題2を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明8に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。

エ 本件特許発明9について
本件特許の発明の詳細な説明の記載の【0013】には、「フィルムを含むコンデンサー」について記載されている。
また、上記イのとおり、当業者は「(i)93〜98%のアイソタクチックペンタッド分率の含有量および0.5〜10g/10minのメルトフローレートMFR2を有する98.2〜99.8重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマーと、(ii)0.0000001〜0.01重量%(0.001ppm〜100ppm)の高分子系α晶造核剤と、(iv)0.1〜0.8重量%の従来の添加剤と、(iii)0.1〜1.0重量%の(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマーとを含むプロピレンポリマー組成物(A)からなる層を含む二軸配向フィルムであって、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の重量に対して0.5〜100重量ppmの前記高分子系α晶造核剤(ii)を含み、前記プロピレンポリマー組成物(A)において、前記プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)と前記(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、長鎖分岐を含まない、および、前記プロピレンポリマー組成物(A)に長鎖分岐を含むポリマーを添加しない、前記パーセンテージは前記プロピレンポリマー組成物(A)の重量に基づく、二軸配向フィルム。」は発明の課題1を解決できると認識できる。
そうすると、当業者は「(i)93〜98%のアイソタクチックペンタッド分率の含有量および0.5〜10g/10minのメルトフローレートMFR2を有する98.2〜99.8重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマーと、(ii)0.0000001〜0.01重量%(0.001ppm〜100ppm)の高分子系α晶造核剤と、(iv)0.1〜0.8重量%の従来の添加剤と、(iii)0.1〜1.0重量%の(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマーとを含むプロピレンポリマー組成物(A)からなる層を含む二軸配向フィルムであって、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の重量に対して0.5〜100重量ppmの前記高分子系α晶造核剤(ii)を含み、前記プロピレンポリマー組成物(A)において、前記プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)と前記(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、長鎖分岐を含まない、および、前記プロピレンポリマー組成物(A)に長鎖分岐を含むポリマーを添加しない、前記パーセンテージは前記プロピレンポリマー組成物(A)の重量に基づく、二軸配向フィルム」を「含むコンデンサ−」は発明の課題3を解決できると認識でき、本件特許発明9は当該「コンデンサー」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明9は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題3を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明9に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。

(4)申立理由A−1及び申立理由B−2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし6、8及び9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A−1及び申立理由B−2によっては取り消すことはできない。

2 申立理由A−2(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。

(2)明確性要件の判断
ア 本件特許発明1について
本件特許の請求項1の記載は、上記第3のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、また、本件特許の明細書には、本件特許発明1の各発明特定事項について具体的に記載されており、本件特許の請求項1の記載は本件特許の明細書の記載とも整合するから、当業者は本件特許発明1を明確に理解することができる。
したがって、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載及び願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。

なお、特許異議申立人Aは、請求項1の記載に基づいても、(ii)の高分子系α晶造形剤の含有量が0.000001〜0.01重量%であるのか、0.00000005〜0.0001重量%であるのかが不明であり、(ii)の高分子系α晶造形剤の含有量を特定することができない旨主張する(上記第4 1(2))が、高分子系α晶造核剤の含有量は、「(ii)0.01ppm〜5ppmの高分子系α晶造核剤」と「前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の重量に対して0.5〜100重量ppmの前記高分子系α晶造核剤(ii)」の両方の条件を満たすものと当業者は理解するから、高分子系α晶造核剤の含有量は特定することができないとはいえないので、該主張は採用できない。

イ 本件特許発明2ないし6、8及び9について
本件特許発明2ないし6、8及び9についても同様であり、本件特許発明2ないし6、8及び9に関して、特許請求の範囲の記載及び願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。

(3)申立理由A−2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし6、8及び9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A−2によっては取り消すことはできない。

3 申立理由A−3(甲A−3に基づく進歩性)について
(1)甲A−3に記載された事項及び甲A−3発明
ア 甲A−3に記載された事項
甲A−3には、「プロピレン重合体組成物」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0006】
【発明が解決しようとする課題】これら3−メチル−1−ブテン重合体を核剤として用いる方法は、確かに剛性、透明性に関しては比較的改良されているが、得られた組成物を成形品とした時、3−メチル−1−ブテン重合体によるフィッシュアイが発生するため成形品の外観が不良となるなどの問題があった。」

・「【0011】3−メチル−1−ブテン重合体含有プロピレン重合体中のプロピレン重合体又はプロピレン−αオレフィン共重合体と3−メチル−1−ブテン重合体との重量比は40以上であり、40に満たない場合は透明性、剛性の改良効果が小さく、又、成形品のフィッシュアイも多いので好ましくない。」

・「【0019】触媒製造例−1
室温において、充分に窒素置換した容量1リットルのオートクレーブに精製トルエン515ミリリットルを入れ、攪拌下、n−ブチルエーテル65.1g(0.5モル)、四塩化チタン94.9g(0.5モル)及びジエチルアルミニウムクロリド28.6g(0.24モル)を添加し、褐色の均一溶液を得た。次いで30℃に昇温した。30分を経過した後、40℃に昇温し、そのまま2時間、40℃を保持した。その後32gの四塩化チタン(0.17モル)及び15.5gのトリデシルメタクリレート(0.058モル)を添加し98℃に昇温した。98℃で2時間保持した後、粒状紫色固体を分離しトルエンで洗浄して固体三塩化チタンを得た。この固体触媒成分のAl/Tiの原子比は0.004であった。
【0020】実施例−1
精製アルゴンで充分置換した1リットルの誘導攪拌式オートクレーブにアルゴンシール下、室温で精製n−ヘキサン500ミリリットル、触媒製造例−1で得られた固体触媒成分2.0g、ジエチルアルミニウムクロリド0.78gを仕込んだ。次いで70℃に昇温し、3−メチル−1−ブテンを100g圧入し、3時間3−メチル−1−ブテンを重合した。その後60℃で3−メチル−1−ブテンをパージし、チタン触媒成分1g当り、3メチル−1−ブテンを50g重合した3−メチル−1ブテン重合体含有触媒を得た。
【0021】精製アルゴンで充分置換した2リットル誘導攪拌式オートクレーブにアルゴンシール下室温で、精製n−ヘキサン1リットル、ジエチルアルミニウムクロリド3.0ミリモル、メチルメタクリレート0.1ミリモル、上記3−メチル−1−ブテン重合体含有触媒をTi触媒成分として78.8mg仕込んだ。次で水素を0.3kg/cm2Gになるよう圧入し、その後、70℃に昇温した。昇温プロピレンの分圧が10kg/cm2Gになるよう連続的にプロピレンを加えながら、プロピレンの単独重合を行い、3時間後プロピレンをパージし、イソブタノール/n−ヘキサン混合溶媒により触媒を除去し、3−メチル−1−ブテン重合体を含め253gの3−メチル−1−ブテン重合体含有プロピレン重合体を得た。該重合体中のプロピレン電合体と3−メチル−1−ブテン重合体の重量比は66であり、この重合体のMFIは1.9g/10分であった。
【0022】上記3−メチル−1−ブテン重合体含有プロピレン重合体0.5重量部および安定剤としてステアリン酸カルシウム0.1重量部、BHT(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)0.2重量部、イルガノックス1010(イルガノックス又は登録商標){チバガイギー社製酸化防止剤、テトラキス〔メチレン−3(3’,5’−ジ−t−ブチル−4‘−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン}0.08重量部を三菱化成(株)製プロピレンホモポリマー1220F(MFI:1.9g/10分)99.5重量部に加えヘンシェルミキサーで混合した後50mmφ押出機で造粒ペレット化した。得られたペレットを50mmφシ一ト押出機にて285℃で押出し60℃の冷却ロールにてシートとし、テンター式逐次二軸延伸装置にて縦方向に延伸温度145℃で5倍延伸を行い、引き続いて延伸温度165℃で横方向に8倍延伸を行い厚さ約30μmの二軸延伸フィルムを得た。フィルムの平行光線透過率はmax 86.6%、min 83.0%であり、フィッシュアイの数は53ケ/1500cm2であった。」

・「【0032】
【発明の効果】本発明の重合体組成物は透明性及び成形品の外観に優れており各種の包装材、その他の用途に使用でき実用的効果は大きい。」

イ 甲A−3発明
甲A−3に記載された事項を、特に実施例−1に関して整理すると、甲A−3には、次の発明(以下、「甲A−3発明」という。)が記載されていると認める。

<甲A−3発明>
「3−メチル−1−ブテン重合体含有プロピレン重合体0.5重量部および安定剤としてステアリン酸カルシウム0.1重量部、BHT(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)0.2重量部、イルガノックス1010(イルガノックス又は登録商標){チバガイギー社製酸化防止剤、テトラキス〔メチレン−3(3’,5’−ジ−t−ブチル−4‘−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン}0.08重量部を三菱化成(株)製プロピレンホモポリマー1220F(MFI:1.9g/10分)99.5重量部に加えヘンシェルミキサーで混合した後50mmφ押出機で造粒ペレット化し、得られたペレットを50mmφシ一ト押出機にて285℃で押出し60℃の冷却ロールにてシートとし、テンター式逐次二軸延伸装置にて縦方向に延伸温度145℃で5倍延伸を行い、引き続いて延伸温度165℃で横方向に8倍延伸を行い得た厚さ約30μmの二軸延伸フィルム。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲A−3発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(i)98.2〜99.8重量%のプロピレンのホモポリマーと、(ii)0.01ppm〜5ppmの高分子系α晶造核剤と、(iv)0.1〜0.8重量%の従来の添加剤と、(iii)0.1〜1.0重量%の(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマーとを含むプロピレンポリマー組成物(A)からなる層を含む二軸配向フィルムであって、前記プロピレンポリマー組成物(A)において、前記プロピレンポリマー組成物(A)に長鎖分岐を含むポリマーを添加しない、前記パーセンテージは前記プロピレンポリマー組成物(A)の重量に基づく、二軸配向フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A−3−1>
「(i)98.2〜99.8重量%のプロピレンのホモポリマー」に関して、本件特許発明1においては「93〜98%のアイソタクチックペンタッド分率の含有量および0.5〜10g/10minのメルトフローレートMFR2を有する高アイソタクチックホモポリマー」と特定されているのに対し、甲A−3発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点A−3−2>
本件特許発明1においては「前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の重量に対して0.5〜100重量ppmの前記高分子系α晶造核剤(ii)を含み」と特定されているのに対し、甲A−3発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点A−3−3>
本件特許発明1においては「前記プロピレンポリマー組成物(A)において、前記プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)と前記(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、長鎖分岐を含まない」と特定されているのに対し、甲A−3発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点A−3−4>
本件特許発明1においては「厚さ0.5〜10μm」と特定されているのに対し、甲A−3発明においては「厚さ約30μm」と特定されている点。

イ 判断
相違点A−3−1について検討する。
甲A−3には、甲A−3発明における「三菱化成(株)製プロピレンホモポリマー1220F(MFI:1.9g/10分)」の「アイソタクチックペンタッド分率の含有量」を「93〜98%」にする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
また、甲A−3に記載された事項(【0006】、【0011】及び【0032】)によると、甲A−3発明は透明性に優れたフィルムを得ることを課題とするものであるといえるが、「アイソタクチックペンタッド分率の含有量」を高くすると結晶度が高くなり、不透明になると考えられるから、甲A−3発明における「三菱化成(株)製プロピレンホモポリマー1220F(MFI:1.9g/10分)」の「アイソタクチックペンタッド分率の含有量」を「93〜98%」にすることには阻害要因があるといえる。
したがって、甲A−3発明において、「三菱化成(株)製プロピレンホモポリマー1220F(MFI:1.9g/10分)」の「アイソタクチックペンタッド分率の含有量」を「93〜98%」となるようにして、相違点A−3−1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、「優れた電気的特性を有する。」、「簡便で実用的なプロセスで製造することができる。」及び「優れた熱安定性および耐老化性を有する。」という甲A−3発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A−3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明2ないし6、8及び9について
本件特許発明2ないし6、8及び9は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲A−3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)申立理由A−3についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし6、8及び9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないので、本件特許の請求項1ないし6、8及び9に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由A−3によっては取り消すことはできない。

4 申立理由C−1(甲C−1に基づく進歩性)について
(1)甲C−1に記載された事項及び甲C−1発明
ア 甲C−1に記載された事項
甲C−1には、「高結晶化度を有するプロピレンポリマー」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、優れた剛性−加工性バランスを有することを特徴とする新規なプロピレンポリマーをさらに開発する継続的な必要が存在し、該優れた剛性−加工性バランスは、それをある最終用途、たとえばフィルム、とりわけ包装物品にまたは電気用途物品、たとえばキャパシターフィルムに使用される二軸配向フィルムに適したものにする。
【0006】
そこで、本発明の目的は、要求の厳しい最終用途におけるポリプロピレン材料の製品の窓を広げることである。より特には、本発明の目的は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム用途を包含する特にフィルム用途のための非常に有利な剛性−加工性バランスを有するプロピレンポリマーを提供することである。」

・「【0014】
プロピレンポリマーが高結晶化度を有することが、本発明にとって重要である。高結晶化度を達成するためには、プロピレンポリマーは高アイソタクチシティを有さなければならない。したがって、プロピレンポリマーは、13C−NMRによって測定された、少なくとも97%の、より好ましくは少なくとも97.5%のmmmmペンタッドで表現されたアイソタクチシティを有することが好まれる。」

・「【0019】
MFR2は2〜6g/10分、好ましくは2〜5g/10分であることが好まれる。」

・「【0054】
得られたプロピレンポリマーはさらに仕上げられることができ、たとえばプロピレンポリマーは従来技術で知られた押出機を使用することによってペレット化される。さらに、当業者には明らかなように慣用の添加剤が使用されることもできる。」

・「【0058】
上記のように、核剤もプロピレンポリマーに添加されることができる。プロピレンポリマーの重合プロセスの際に、これらは好ましくは添加される。核剤を添加する一つの様式は、従来技術で知られた核剤変性触媒系、たとえば国際特許出願公開第9924478号および国際特許出願公開第9924479号に記載されたものを使用することである。」

・「【実施例】
【0101】
[実施例1および2]
【0102】
重合
【0103】
両重合に使用された触媒は、米国特許第5234879号に従って調製された、公知の最新の高収率、すなわち高活性で立体特異性の、エステル交換されたMgCl2担持チーグラー・ナッタ触媒であった。触媒は、助触媒としてのトリエチルアルミニウム(TEAL)および外部供与体(ジシクロペンチルジメトキシシラン)と接触され、次に別途の予備重合段階でプロピレンおよび助触媒の存在下に公知の様式で予備重合された。実施例1および2の両方において、Al/Ti比は200モル/モルであり、Al/供与体比は5モル/モルであった。
【0104】
ループ反応器および流動床気相反応器を含んでいるパイロット規模の連続多段階プロセスで、重合は実施された。プロピレンおよび水素は、活性化された触媒と一緒に表1に示された条件においてバルク反応器として稼動されているループ反応器中へと供給された(上記の段階(a)、すなわち第一プロピレンポリマー成分の製造)。次に、ポリマースラリー流は、ループ反応器から気相反応器中へと供給され、追加のプロピレンおよび水素が気相反応器に供給された(上記の段階(b)、すなわち段階(a)の反応生成物の存在下に第二プロピレン成分を製造して、本発明のプロピレンポリマーを得る段階)。気相における重合条件も表1に示される。表1は、ループ、気相および最終の生成物のポリマー特性も示す。
【0105】
[比較例1および2]
【0106】
比較例1および2のポリマーは、商業的に入手できるグレードであり、これらは両方とも公知の第二世代チーグラー・ナッタ触媒を使用して製造された。これらの比較物質の特性は表2および図1〜3に示される。
【表1】

【表2】



イ 甲C−1発明
甲C−1に記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲C−1には次の発明(以下、「甲C−1発明」という。)が記載されていると認める。

<甲C−1発明>
「mmmmペンタッド97.65%のアイソタクチシティ、3.6g/10分のMFR2を有するポリプロピレンを含む二軸延伸ポリプロピレンフィルム。」

なお、特許異議申立人Cは、特許異議申立書Cにおいて、甲C−1の【0058】の記載を根拠にして、甲C−1には次の発明が記載されている旨主張する。
「(B)0.0032、0.0033又は0.0019重量%(32、33又は19重量ppm)のポリビニルシクロヘキサンと、
(D’)99.99重量%(wt%)のプロピレンホモポリマーとを含む
(E’)プロピレンポリマー組成物からなる層を含む二軸延伸フィルムであり、
(F)(D)のプロピレンホモポリマーは、(D)のプロピレンホモポリマーの重量に対して、32、33又は19重量ppmのポリビニルシクロヘキサンを含み、
(G’)(E)のプロピレンポリマー組成物に長鎖分岐を含むポリマーを添加しない、
(H)前記パーセンテージは、(E)のプロピレンポリマー組成物の重量に基づく、
(I’)二軸延伸フィルム。」
そこで、検討する。
甲C−1の【0058】には、「核剤」をプロピレンポリマーに添加することができること並びに「核剤」を添加する一つの様式として、国際特許出願公開第9924478号及び国際特許出願公開第9924479号に記載されたものを使用することができることが記載されているにすぎないから、甲C−1に「ポリビニルシクロヘキサン」という具体的な核剤が記載されているとはいえないし、「プロピレンホモポリマーの重量に対して、32、33又は19重量ppm」という具体的な含有量も記載されているとはいえないので、上記のような発明の認定をすることはできない。
したがって、特許異議申立人Cの上記主張は採用できない。

(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲C−1発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(i)93〜98%のアイソタクチックペンタッド分率の含有量および0.5〜10g/10minのメルトフローレートMFR2を有するプロピレンの高アイソタクチックホモポリマーを含むプロピレンポリマー組成物(A)からなる層を含む二軸配向フィルム二軸配向フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点C−1―1>
本件特許発明1においては「(i)93〜98%のアイソタクチックペンタッド分率の含有量および0.5〜10g/10minのメルトフローレートMFR2」を有する「プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー」の「プロピレンポリマー組成物(A)の重量に基づくパーセンテージ」が「98.2〜99.8重量%」であると特定されているのに対し、甲C−1発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点C−1−2>
本件特許発明1においては「(ii)0.01ppm〜5ppmの高分子系α晶造核剤」を含むと特定されているのに対し、甲C−1発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点C−1−3>
本件特許発明1においては「(iv)0.1〜0.8重量%の従来の添加剤」を含むと特定されているのに対し、甲C−1発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点C−1−4>
本件特許発明1においては「(iii)0.1〜1.0重量%の(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマーとを含む」と特定され、さらに「前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の重量に対して0.5〜100重量ppmの前記高分子系α晶造核剤(ii)を含み」と特定されているのに対し、甲C−1発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点C−1−5>
本件特許発明1においては「前記プロピレンポリマー組成物(A)において、前記プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)と前記(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、長鎖分岐を含まない」と特定されているのに対し、甲C−1発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点C−1−6>
本件特許発明1においては「厚さ0.5〜10μm」と特定されているのに対し、甲C−1発明においてはそのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、事案に鑑み相違点C−1−4から検討する。
甲C−1発明は、「ポリプロピレン」としては「mmmmペンタッド97.65%のアイソタクチシティ、3.6g/10分のMFR2を有するポリプロピレン」だけを含むものであり、甲C−1には、「mmmmペンタッド97.65%のアイソタクチシティ、3.6g/10分のMFR2を有するポリプロピレン」に加えて、これ以外の「ポリプロピレン」を「0.1〜1.0重量%」含ませる動機付けとなる記載はないし、まして、その「ポリプロピレン」にその「ポリプロピレン」の重量に対して「0.5〜100重量ppm」の「高分子系α晶造核剤(ii)」を含ませる動機付けとなる記載もない。また、他の証拠にもそのような記載はない。
そして、本件特許発明1は、「優れた電気的特性を有する。」、「簡便で実用的なプロセスで製造することができる。」及び「優れた熱安定性および耐老化性を有する。」という甲C−1発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲C−1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明2ないし6、8及び9について
本件特許発明2ないし6、8及び9は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲C−1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)申立理由C−1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし6、8及び9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないので、本件特許の請求項1ないし6、8及び9に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由C−1によっては取り消すことはできない。

第8 結語
上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし6、8及び9に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立人AないしCが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし6、8及び9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項7に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人AないしCによる請求項7に係る特許異議の申立ては、いずれも、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。



 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)93〜98%のアイソタクチックペンタッド分率の含有量および0.5〜10g/10minのメルトフローレートMFR2を有する98.2〜99.8重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマーと、(ii)0.01ppm〜5ppmの高分子系a晶造核剤と、(iv)0.1〜0.8重量%の従来の添加剤と、(iii)0.1〜1.0重量%の(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマーとを含むプロピレンポリマー組成物(A)かちなる層を含む二軸配向フィルムであって、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、前記プロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)の重量に対して0.5〜100重量ppmの前記高分子系α晶造核剤(ii)を含み、前記プロピレンポリマー組成物(A)において、前記プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)と前記(i)以外のプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(iii)は、長鎖分岐を含まない、および、前記プロピレンポリマー組成物(A)に長鎖分岐を含むポリマーを添加しない、前記パーセンテージは前記プロピレンポリマー組成物(A)の重量に基づく、厚さ0.5〜10μmの二軸配向フィルム。
【請求項2】
前記高分子系α晶造核剤はポリビニルシクロヘキサン、ポリ(3−メチル−1−ブテン)およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の二軸配向フィルム。
【請求項3】
前記プロピレンポリマー組成物(A)は30重量ppm以下の灰分含有量を有する、請求項1または2に記載の二軸配向フィルム。
【請求項4】
前記フィルムは前記プロピレンポリマー組成物(A)からなる層を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の二軸配向フィルム。
【請求項5】
前記従来の添加剤は酸化防止剤、安定剤および酸スカベンジャーから選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の二軸配向フィルム。
【請求項6】
前記フィルムは金属層をさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の二軸配向フィルム。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
コンデンサーを作るための、請求項1〜6のいずれか一項に記載のフィルムの使用。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のフィルムを含むコンデンサー。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2021-10-25 
出願番号 P2018-515867
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08J)
P 1 651・ 537- YAA (C08J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 植前 充司
加藤 友也
登録日 2019-09-27 
登録番号 6592192
権利者 ボレアリス エージー
発明の名称 プロピレンポリマー組成物で作られた二軸配向フィルム  
代理人 林 一好  
代理人 岩池 満  
代理人 林 一好  
代理人 芝 哲央  
代理人 岩池 満  
代理人 芝 哲央  

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