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審決分類 |
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) G01N 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G01N 審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 G01N 審判 全部申し立て 2項進歩性 G01N 審判 全部申し立て 6項4号請求の範囲の記載形式不備 G01N |
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管理番号 | 1380931 |
総通号数 | 1 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-01-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-08-05 |
確定日 | 2021-12-10 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6666171号発明「欠陥検査装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6666171号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6666171号の請求項1〜4に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成28年3月9日に出願され、令和2年2月25日にその特許権の設定登録がされ、同年3月13日に特許掲載公報が発行された。その後、同年8月5日に平賀 博(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年11月30日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和3年2月4日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年3月4日に申立人から意見書が提出され、同年3月24日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年5月31日に意見書の提出及び訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、同年6月16日に訂正拒絶理由が通知され、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からの応答はなかったものである。 第2 訂正請求について 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)〜(5)のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。) (1)訂正事項1 請求項1を「透過性を有するワークを透過してラインスキャンカメラにより撮像する第1撮像方式により撮像された前記ワークの撮像画像を第1撮像画像として取得する第1画像取得部と、 前記第1撮像方式に対して相対的にラインスキャンカメラを該ラインスキャンカメラの撮像中心を通る光軸周りに回転させて前記ワークを透過して撮像する第2の撮像方式により撮像された前記ワークの撮像画像を第2撮像画像として取得する第2画像取得部と、 前記第1撮像画像に基づいて前記ワークの欠陥を第1欠陥として検出し、該第1欠陥を濃度が低い順に暗強、暗弱、明弱、明強の4つの濃度区分のいずれかに分類するとともに、前記第1欠陥の領域の面積を示す大、小の2つの面積区分のいずれかに分類する第1欠陥検出部と、 前記第2撮像画像に基づいて前記ワークの欠陥を第2欠陥として検出し、該第2欠陥を濃度が低い順に暗強、暗弱、明弱、明強の4つの濃度区分のいずれかに分類するとともに、前記第2欠陥の領域の面積を示す大、小の2つの面積区分のいずれかに分類する第2欠陥検出部と、 前記ワークにおける前記第1欠陥の位置と前記第2欠陥の位置とが一致する場合、前記第1欠陥と前記第2欠陥を統合欠陥として統合し、前記第1欠陥について濃度区分が暗強に分類されるとともに面積区分が大に分類され、且つ前記第2欠陥について濃度区分が暗強に分類されるとともに面積区分が大に分類される場合、前記統合欠陥の種類を第1欠陥種別と決定する欠陥統合部と を備える欠陥検査装置。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3、4も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 請求項3を「前記欠陥統合部は、前記第1欠陥の領域と前記第2欠陥の領域とが一部重複する場合に前記第1欠陥と前記第2欠陥とを統合することを特徴とする請求項1に記載の欠陥検査装置。」に訂正する。 (4)訂正事項4 請求項4を「前記欠陥統合部は、前記第1欠陥について濃度区分が暗強または暗弱に分類されるとともに面積区分が小または大に分類され、且つ、前記第2欠陥について、濃度区分が暗弱に分類されるとともに面積区分が小または大に分類されるか、または、濃度区分が暗強に分類されるとともに面積区分が小に分類される場合、前記統合欠陥の種別を前記第1欠陥種別とは異なる第2欠陥種別と決定することを特徴とする請求項1に記載の欠陥検査装置。」に訂正する。 (5)訂正事項5 願書に添付した明細書の段落[0013]を「カメラ92及びカメラ94は、いずれもラインスキャンカメラであり、カメラ94に対して、カメラ92は光軸周りに回転されている点で、カメラ92とカメラ94の撮像方式が互いに異なる。なお、カメラ92はカメラ94に対して180度、360度以外の角度に回転される。以降の説明において、カメラ92による撮像方式をスジ検査撮像方式、カ メラ94による撮像方式を透過撮像方式と称する。ここでスジとは、搬送方向に伸びるシート上の傷を示す。」と訂正する。 2 訂正の適否 (1)訂正事項1について ア 訂正事項1のうち「透過性を有するワークを透過してラインスキャンカメラにより撮像する第1撮像方式により撮像された前記ワークの撮像画像を第1撮像画像として取得する第1画像取得部と、前記第1撮像方式に対して相対的にラインスキャンカメラを該ラインスキャンカメラの撮像中心を通る光軸周りに回転させて前記ワークを透過して撮像する第2の撮像方式により撮像された前記ワークの撮像画像を第2撮像画像として取得する第2画像取得部と、」について この訂正は、第1撮像方式及び第2撮像方式が、ラインスキャンカメラにより行われること、「光軸」を「該ラインスキャンカメラの撮像中心を通る光軸」とすることに、それぞれ限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 訂正事項1のうち「前記統合欠陥の種類を第1欠陥種別と決定する欠陥統合部」について この訂正は、「液だれ欠陥」を「第1欠陥種別」と訂正するものであり、欠陥種別が「液だれ欠陥」に限定されず、他の欠陥種別であってもよいことになる訂正である。つまり、欠陥種別の範囲を実質上拡張するものであるから、「第1欠陥種別」とする訂正は、実質上特許請求の範囲の拡張をするものである。 また、欠陥種別の範囲を実質上拡張するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもなく、かつ、同ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものでも、同ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもない。 さらに、本件特許の願書に添付した、明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)には、「前記第1欠陥について濃度区分が暗強に分類されるとともに面積区分が大に分類され、且つ前記第2欠陥について濃度区分が暗強に分類されるとともに面積区分が大に分類される場合」の欠陥種別として「液だれ欠陥」以外の欠陥についての記載はないから、前記訂正は、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、特許明細書等の記載の範囲内においてしたものとはいえない。 ウ 小括 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項の規定、及び同条第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に違反する。 (2)訂正事項4について ア 訂正事項4は、「前記統合欠陥の種別をヤケ欠陥と決定すること」を「前記統合欠陥の種別を前記第1欠陥種別とは異なる第2欠陥種別と決定すること」に訂正するものであり、欠陥種別が「ヤケ欠陥」に限定されず、他の欠陥種別であってもよいことになる訂正である。つまり、欠陥種別の範囲を実質上拡張するものであるから、「前記第1欠陥種別とは異なる第2欠陥種別」とする訂正は、実質上特許請求の範囲の拡張するものである。 また、欠陥種別の範囲を実質上拡張するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもなく、かつ、同ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものでも、同ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもない。 さらに、特許明細書等には、「前記欠陥統合部は、前記第1欠陥について濃度区分が暗強または暗弱に分類されるとともに面積区分が小または大に分類され、且つ、前記第2欠陥について、濃度区分が暗弱に分類されるとともに面積区分が小または大に分類されるか、または、濃度区分が暗強に分類されるとともに面積区分が小に分類される場合」の欠陥種別として「ヤケ欠陥」以外の欠陥についての記載はないから、前記訂正は、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、特許明細書等の記載の範囲内においてしたものとはいえない。 イ 小括 したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項の規定、及び同条第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に違反する。 (3)訂正の適否のまとめ 訂正前の請求項3、4は、請求項1を引用するものであると共に、訂正前の請求項3は、請求項2を引用するものであるから、訂正前の請求項1〜4は、一群の請求項を構成するものである。 よって、訂正後の請求項1、4についての訂正事項1、4は、上記(1)、(2)で検討したとおり、特許法第120条の5第2項の規定、及び同条第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に違反し、訂正が認められないから、他の訂正事項について判断するまでもなく、一群の請求項を構成する訂正後の請求項1〜4についての本件訂正は認められない。 第3 取消理由の概要 1 請求項1〜4に係る特許に対して、当審が令和2年11月30日付けの取消理由通知において特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)理由1(明確性) 請求項1、3及び4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 (2)理由2(実施可能要件) 請求項1〜4に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 (3)理由3(進歩性) 請求項2、3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2、3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 甲第1号証:特開2010−223597号公報(以下「甲1」という。) 甲第2号証:特開2014− 32058号公報(以下「甲2」という。) 甲第3号証:特開2004−109069号公報(以下「甲3」という。) 2 請求項1〜4に係る特許に対して、当審が令和3年3月24日付けの取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 理由2(実施可能要件) 請求項1、3、4に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 第4 判断 1 本件発明 本件特許の請求項1〜4に係る発明(以下、「本件発明1」等、あるいはまとめて「本件発明」という。)は、上記のとおり本件訂正は認められないことから、それぞれ、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 透過性を有するワークを透過して撮像する第1撮像方式により撮像された前記ワークの撮像画像を第1撮像画像として取得する第1画像取得部と、 前記第1撮像方式に対して相対的に撮像装置を光軸周りに回転させて前記ワークを透過して撮像する第2の撮像方式により撮像された前記ワークの撮像画像を第2撮像画像として取得する第2画像取得部と、 前記第1撮像画像に基づいて前記ワークの欠陥を第1欠陥として検出し、該第1欠陥を濃度が低い順に暗強、暗弱、明弱、明強の4つの濃度区分のいずれかに分類するとともに、前記第1欠陥の領域の面積を示す大、小の2つの面積区分のいずれかに分類する第1欠陥検出部と、 前記第2撮像画像に基づいて前記ワークの欠陥を第2欠陥として検出し、該第2欠陥を濃度が低い順に暗強、暗弱、明弱、明強の4つの濃度区分のいずれかに分類するとともに、前記第2欠陥の領域の面積を示す大、小の2つの面積区分のいずれかに分類する第2欠陥検出部と、 前記ワークにおける前記第1欠陥の位置と前記第2欠陥の位置とが一致する場合、前記第1欠陥と前記第2欠陥を統合欠陥として統合し、前記第1欠陥について濃度区分が暗強に分類されるとともに面積区分が大に分類され、且つ前記第2欠陥について濃度区分が暗強に分類されるとともに面積区分が大に分類される場合、前記統合欠陥の種類を液だれ欠陥と決定する欠陥統合部と を備える欠陥検査装置。 【請求項2】 金属シート素材であるワークの表面を撮像する第1撮像方式により撮像された前記ワークの撮像画像を第1撮像画像として取得する第1画像取得部と、 前記ワークの裏面を撮像する第2の撮像方式により撮像された前記ワークの撮像画像を第2撮像画像として取得する第2画像取得部と、 前記第1撮像画像に基づいて前記ワークの欠陥を第1欠陥として検出し、該第1欠陥を濃度が低い順に暗強、暗弱、明弱、明強の4つの濃度区分のいずれかに分類するとともに、前記第1欠陥の領域の面積を示す大、小の2つの面積区分のいずれかに分類する第1欠陥検出部と、 前記第2撮像画像に基づいて前記ワークの欠陥を第2欠陥として検出し、該第2欠陥を濃度が低い順に暗強、暗弱、明弱、明強の4つの濃度区分のいずれかに分類するとともに、前記第2欠陥の領域の面積を示す大、小の2つの面積区分のいずれかに分類する第2欠陥検出部と、 前記ワークにおける前記第1欠陥の位置と前記第2欠陥の位置とが一致する場合、前記第1欠陥と前記第2欠陥を統合欠陥として統合し、前記第1欠陥について濃度区分が暗強または明強に分類されるとともに面積区分が大に分類され、且つ前記第2欠陥について濃度区分が暗強または明強に分類されるとともに面積区分が大に分類される場合、前記統合欠陥の種類を重度の陥没または貫通穴と決定する欠陥統合部と を備える欠陥検査装置。 【請求項3】 前記欠陥統合部は、前記第1欠陥の領域と前記第2欠陥の領域とが一部重複する場合に前記第1欠陥と前記第2欠陥とを統合することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の欠陥検査装置。 【請求項4】 前記欠陥統合部は、前記第1欠陥について濃度区分が暗強または暗弱に分類されるとともに面積区分が小または大に分類され、且つ、前記第2欠陥について、濃度区分が暗弱に分類されるとともに面積区分が小または大に分類されるか、または、濃度区分が暗強に分類されるとともに面積区分が小に分類される場合、前記統合欠陥の種別をヤケ欠陥と決定することを特徴とする請求項1に記載の欠陥検査装置。」 2 理由2(実施可能要件)について (1)本件発明1について 本件発明1は、透過性を有するワークの液だれ欠陥を決定する欠陥検査装置の発明である。 一方、発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。 「【0010】 (第1の実施形態) まず、第1の実施形態に係る欠陥検査装置が組み込まれた生産ラインについて説明する。図1は、第1の実施形態に係る欠陥検査装置が組み込まれた生産ラインを示す概略図である。 【0011】 図1に示すように、第1の実施形態に係る欠陥検査装置10が組み込まれた生産ライン9は、製造工程から検査工程を経て評価工程まで、一定幅を有するワークを一方向に搬送し、製造工程においてワークを搬送方向に連続的に生産し、検査工程において欠陥検査を行い、評価工程において欠陥検査に基づく欠陥評価を行う。第1の実施形態においては、ポリエチレンなどを原材料とする透明または半透明のシート状のフィルムがワークとして製造、搬送されるものとする。 【0012】 生産ライン9は、検査工程において、製造工程により連続的に製造されたフィルムを搬送する複数の搬送用ロール91、少なくとも1つの搬送用ロール91に取り付けられ、搬送用ロール91の回転変位量を処理してフィルムの位置を検出するロータリエンコーダ91a、フィルムの表面を撮像するカメラ92、カメラ92による撮像範囲を裏面から照らす照明93、ワークの表面を撮像するカメラ94、カメラ94による撮像範囲を裏面から照らす照明95を備える。 【0013】 カメラ92及びカメラ94は、いずれもラインスキャンカメラであり、カメラ94に対して、カメラ92は光軸周りに回転されている点で、カメラ92とカメラ94の撮像方式が互いに異なる。以降の説明において、カメラ92による撮像方式をスジ検査撮像方式、カメラ94による撮像方式を透過撮像方式と称する。ここでスジとは、搬送方向に伸びるシート上の傷を示す。 ・・・ 【0018】 図3に示すように、欠陥分類テーブルは、シートにおける正常部分の濃度である地合に対して相対的に設定された濃度である4つの区分、“暗強”、“暗弱”、“明弱”、“明強”と、これらの区分に該当する領域の面積を示す“小”、“大”との組み合わせと、欠陥の種類とを対応付けるものである。撮像画像の濃度に基づく4つの区分は、“暗強”、“暗弱”、“明弱”、“明強”の順に濃度が低く、撮像画像の画素の濃度がこれらの区分それぞれに対応する範囲内にある場合に該当する区分に分類され、同一区分にある画素がラベリングされて該当する区分に属する領域と判定される。これら区分の領域は、その面積、即ち領域に属する画素数が予め設定された閾値以下である場合に“小”と判定され、閾値より大きい場合に“大”と判定される。 【0019】 図4に示すように、検出欠陥テーブルは、ワークであるシートを一意に示す“製品ID”と、第1欠陥検出部102または第2欠陥検出部104により検出された欠陥を一意に示す“欠陥ID”と、欠陥が検出された撮像画像の撮像方式を示す“撮像方式”と、シートの幅方向における欠陥の位置を示す“X座標値”と、シートの搬送方向における欠陥の位置を示す“Y座標値”と、シートの幅方向における欠陥の大きさを示す“幅”と、シートの搬送方向における欠陥の大きさを示す“長さ”と、欠陥分類テーブルに基づいて分類された欠陥の種類を示す“欠陥種別”とを対応付けるものである。ここで、“X座標値”はシートの幅方向一端を0とし、“Y座標値”はシートの搬送方向先端を0とする。また、欠陥の幅は欠陥を囲う矩形のX方向の大きさとし、欠陥の長さは矩形のY方向の大きさとする。“X座標値”、“Y座標値”、“幅”及び“長さ”によればシート上における欠陥が占める領域が示される。 【0020】 図5に示すように、欠陥統合テーブルは、第1欠陥検出部102により分類された欠陥の種類を示す“スジ検査撮像による欠陥種別”と、第2欠陥検出部104により分類された欠陥の種別である“透過撮像による欠陥種別”と、これら2つの欠陥種別の組み合わせに対応する欠陥の種類を示す“統合欠陥種別”とを対応付けるものであり、図5においては、一部の組み合わせとこれに対応する統合欠陥の種類が示される。この統合欠陥の種類には、ゲル状の欠陥に強く尾をひいたようなスジを含む“ヤケ欠陥”と、広範囲の汚れ異物である“液ダレ欠陥”とがある。この欠陥統合テーブルによれば、“スジ検査撮像による欠陥種別”が暗強・大且つ“透過撮像による欠陥種別”が暗強・大である場合に“液ダレ欠陥”と判定され、“液ダレ欠陥”と判定される場合を除いて、“スジ検査撮像による欠陥種別”が暗弱または暗強且つ“透過撮像による欠陥種別”が暗弱または暗強である場合に“ヤケ欠陥”と判定される。」 以上のように、発明の詳細な説明には、“液ダレ欠陥”とは、広範囲の汚れ異物の欠陥であることが記載され、“スジ検査撮像による欠陥種別”が暗強・大且つ“透過撮像による欠陥種別”が暗強・大である場合に“液ダレ欠陥”と判定されることが記載されている。 しかしながら、“液ダレ欠陥”以外にも欠陥として多様な形態があるところ、“スジ検査撮像による欠陥種別”が暗強・大且つ“透過撮像による欠陥種別”が暗強・大である場合に、他の欠陥ではなく、“液ダレ欠陥”と判定されることになるのか不明である。さらに、濃度区分として「暗強」が、どの程度の濃度であるかの具体的記載はない。また、面積の大小を分ける閾値についても具体的記載はない。 してみると、濃度の程度及び面積の大小の閾値が不明な条件を基に、どうして、他の欠陥と区別して液だれ欠陥であることを決定することができるのか、当業者にとって理解し得るものではない。 よって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 (2)本件発明4について 本件発明4は、透過性を有するワークのヤケ欠陥を決定する欠陥検査装置の発明である。 一方、発明の詳細な説明には、“ヤケ欠陥”とは、ゲル状の欠陥に強く尾をひいたようなスジを含む欠陥であることが記載され、“液ダレ欠陥”と判定される場合を除いて、“スジ検査撮像による欠陥種別”が暗弱または暗強且つ“透過撮像による欠陥種別”が暗弱または暗強である場合に“ヤケ欠陥”と判定されることが記載されている。 しかしながら、濃度区分として「暗弱または暗強」が、どの程度の濃度であるかの具体的記載はない。また、面積の大小を分ける閾値についても具体的記載はない。 してみると、濃度の程度及び面積の大小の閾値が不明な条件を基に、どうして、他の欠陥と区別して“ヤケ欠陥”であることを決定することができるのか、当業者にとって理解し得るものではない。 よって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 (3)本件発明2について 本件発明2は、金属シート素材であるワークの重度の陥没または貫通穴を決定する欠陥検査装置の発明である。 一方、発明の詳細な説明には、 「【0038】 (第2の実施形態) 次に、第1の実施形態とは、ワークの種類及び撮像方式が異なる第2の実施形態について説明する。まず、第2の実施形態に係る欠陥検査装置が組み込まれた生産ラインについて説明する。図11は、第2の実施形態に係る欠陥検査装置が組み込まれた生産ラインを示す概略図である。 ・・・ 【0043】 また、第2の実施形態の欠陥統合テーブルは、図13に示すように、第1欠陥検出部102により分類された欠陥の種類を示す“表面撮像による欠陥種別”と、第2欠陥検出部104により分類された欠陥の種類を示す“裏面撮像による欠陥種別”と、これら2つの欠陥種別の組み合わせに対して設定される欠陥の種類を示す“統合欠陥種別”とを対応付けるものであり、図13においては、一部の組み合わせとこれらに対応する統合欠陥の種類が示される。統合欠陥種別には、衝撃などに起因する金属シート素材の凹凸である陥没、または貫通穴を示す“陥没/穴”と、特に大きな陥没または穴を示す“陥没/穴(重度)”とがある。この欠陥統合テーブルによれば、“表面撮像による欠陥種別”が暗強・大または明強・大且つ“裏面撮像による欠陥種別”が暗強・大または明強・大である場合に“陥没/穴(重度)”と判定され、“陥没/穴(重度)”と判定される場合を除いて、“表面撮像による欠陥種別”が大小に拘りなく暗強または明強、且つ“裏面撮像による欠陥種別”が大小に拘りなく暗強または明強である場合に“陥没/穴”と判定される。」 ことが記載されている。 しかしながら、濃度区分として「暗強または明強」が、どの程度の濃度であるかの具体的記載はない。また、面積の大小を分ける閾値についても具体的記載はない。 してみると、濃度の程度及び面積の大小の閾値が不明な条件を基に、どうして“陥没/穴(重度)”と判定することができるのか、当業者にとって理解し得るものではない。 また、穴の場合、穴の中の背景がどのような状態かで、穴の中の濃度は変化するところ、濃度区分として「暗強または明強」だけで穴であることに対応付けができるのか不明であり、陥没の場合、照明の関係で撮像される濃度に分布が生じるものであるところ、「暗強または明強」とは、画素ごとの濃度を意味するのか、領域に含まれる画素の濃度を平均化したものを意味するのか不明であり、濃度に分布がある場合に、欠陥の領域の面積の大小をどのように判定するのか(暗強、明強が共に分布する場合、図13のように、それぞれの濃度区分の画素数だけで大小を判断すると、欠陥の領域の一部しか欠陥の領域の面積として反映されないことになる。)不明である。さらに、陥没と穴とは、撮像される画像が異なるところ、分類する条件として、同じ濃度区分及び面積の大小の閾値を用いることができる理由も不明である。 よって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 (4)本件発明3について 本件発明3は、請求項1または請求項2を引用するものである。 よって、上記(1)(3)に記載した理由と同様の理由により、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 (5)特許権者の主張について 特許権者は、令和3年2月4日付け意見書の第2頁〜3頁において、「(5)理由2(実施可能要件)について」において、「ワークの種類やワークの生産ラインが設けられる環境は様々であることから、濃度区分、面積区分に関する閾値は、状況に応じて適宜決定されるものであることは、当業者にとって自明であります。 本件の発明の詳細な説明には、相対的に区分された分類の組み合わせによって、欠陥を特定種類の欠陥に相対的に分類するものであり、欠陥の種類の分類についても、ある欠陥が他の種類の欠陥であるよりも特定の種類の欠陥である可能性が高いものとして、相対的になされるものであることは当業者には自明であります。 当業者であれば、濃度区分や面積区分に係る閾値は、ワーク係る状況に応じて調整されるものであることは当然であり、したがって、本件の発明の詳細な説明は、当業者が本件請求項1、4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであります。」と主張している。 しかしながら、欠陥としては、多様な形態の欠陥があることは当該技術分野における技術常識であるところ(本件特許明細書中に先行技術文献として引用されている「特開平8−145907号公報」など参照。)、濃度の程度及び面積の大小だけの条件で、他の欠陥ではなく、“液ダレ欠陥”及び“ヤケ欠陥”と判定されることになるのか不明である。さらに、濃度区分及び面積の大小としてどの程度の濃度、面積であるかの具体的記載は発明の詳細な説明にないから、上記主張を考慮しても、依然として濃度の程度及び面積の大小の閾値が不明な条件を基に、他の欠陥ではなく、“液ダレ欠陥”及び“ヤケ欠陥”であることを決定することができるのか、当業者にとって理解し得るものではない。 なお、本件特許明細書中に先行技術文献として引用されている「特開平8−145907号公報」には、以下の記載がある。 「【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の欠陥検査装置では、二値化処理に代表される単一の画像処理によって検査が実行されているのが一般的であるから、様々に発生する欠陥の全てに対応することは不可能であった。例えば、液晶ディスプレイ用のカラーフィルタでは染色ムラ等に起因してカラーフィルタの一部分がぼんやりと明るくなったり、暗くなったりするムラ欠陥が発生する場合があるが、このムラは、単純な二値化処理では検出できない。また、ノイズの多い画像データを処理する場合には二値化では精度の良い検査はできない。さらに、ピンホール欠陥等のように1画素以下の欠陥を検出するためには二値化処理では不可能である。」 「【0051】図15、図16には、各種の欠陥名と、その原画像、濃度断面、判定結果、処理画面の一例が示されている。この例では、(1)極小穴(ピンホール)、(2) 穴、(3) 大穴、(4) 薄い汚れ、(5) 汚れ、(6) 濃い汚れ、に対する本実施例装置による判定結果を模式的に示したものである。」 「【0059】<スジ状欠陥検出処理>図17は、スジ状欠陥検査部の一構成例を示しており、このスジ状欠陥検査部151は、前記画像データ入力部3の後段に、キズ検査部5等と並列に設けられる。 【0060】初めに原理的な説明をする。鋼板、帯鋼、樹脂シート、紙等の連続したシート物製品や1枚1枚切り離された枚葉製品には、欠陥検出の困難な製品の搬送方向(流れ方向)に沿った図18(1)に示すような低コントラストのスジ状欠陥や図18(2)に示すような微細幅のスジ傷が発生する場合がある。 【0061】図18(1)に示すような低コントラストのスジ状欠陥の一ラインにおける濃度断面は、図18(3)に示すようにスジ部分の幅が広く、かつノイズが比較的少ないものとなっている。一方、図18(2)に示すような微細幅のスジ傷の濃度断面では、図18(4)に示すようにスジ幅は狭く、かつランダムに発生するノイズ分が多い。これらの各画像データを流れ方向(搬送方向)に積分すると、図18(1)の低コントラストのスジでは、図19(1)に示すように、その濃度加算値は、スジ部分で鮮明となり、あるしきい値で切ることによりスジ部分の検出が可能となる。ところが、図18(2)の微細幅のスジ傷のある画像データの濃度加算値は、図19(2)に示すように、ノイズが多いために、スジ部分とノイズ部分との区別がつかず判定が困難となる。したがって、単純に画像データ(濃度値)を積分する手法では、微細幅のスジ傷は検出できない。」 (下線は、当審が付与した。) 以上の記載にもあるように、欠陥としては、多種多様な欠陥があり(例えば、(1)極小穴(ピンホール)、(2) 穴、(3) 大穴、(4) 薄い汚れ、(5) 汚れ、(6) 濃い汚れ)、一部分がぼんやりと明るくなったり、暗くなったりするムラ欠陥は、単純な二値化処理では検出できない欠陥であり、単に「スジ状欠陥」といっても、スジ部分の幅、ノイズの有無で多種多様な欠陥がある。 (6)まとめ したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1〜4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 3 理由1(明確性)について 本件請求項1には、第2の撮像方式について、「第1撮像方式に対して相対的に撮像装置を光軸周りに回転させて前記ワークを透過して撮像する」ことが記載されている。 ここで、「光軸」とはどの軸を特定しているのか明確ではない。 そして、「光軸」としては、以下の様な複数の態様が解釈されうる。 ・照明の照射方向中心を通る軸を「光軸」とした場合。 ・撮像装置の撮像中心を通る軸を「光軸」とした場合。 ・照明が、ワークの搬送方向と垂直方向に伸びる線状の光源であり、光源の線状の軸を「光軸」とした場合など。 上記それぞれの態様によって、撮像装置の配置は異なることになるから、「光軸」と同様に、請求項1の記載は、光軸周りに回転させられる撮像装置の配置関係も明確ではない。 請求項1を引用する請求項3及び4の記載についても、同様に、明確ではない。 したがって、本件発明1、3、4は明確でない。 4 理由3(進歩性)について (1)甲各号証 ア 甲1 甲1には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、金属帯の表面の欠陥を検出する表面欠陥検査装置及び表面欠陥検査方法に関する。」 (イ)「【0035】 <2.第1実施形態> (2−1.表面欠陥検査装置の構成) まず、図1を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係る表面欠陥検査装置の構成等について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る表面欠陥検査装置の構成について説明するための説明図である。 【0036】 図1に示すように、本実施形態に係る表面欠陥検査装置10は、大きく分けて、上流検査装置100と、下流検査装置200と、判定結果記憶装置300と、表示装置400とを有する。 【0037】 上流検査装置100は、第1検出装置の一例であり、下流検査装置200は、第2検出装置の一例である。そして、上流検査装置100は、長手方向を搬送方向として搬送される金属帯Fから疵を、下流検査装置200よりも上流にて検出する。なお、この上流検査装置100と下流検査装置200とは、互いに異なる面を検出するように配置される。つまり、上流検査装置100は、図1に示す例では、上流側にて金属帯Fの上面から疵を検出し、下流検査装置200は、図1に示す例では、下流側にて金属帯Fの下面から疵を検出する。 【0038】 なお、上流検査装置100が金属帯Fの下面を検出し、下流検査装置200が金属帯Fの上面を検出することも可能である。更に言えば、上流検査装置100と下流検査装置200とは、搬送方向でずらして配置される必要は必ずしもなく、金属帯Fの同一位置を挟んで互いに対向して配置されてもよい。しかしながら、本実施形態では、説明の便宜上、上流検査装置100が、下流検査装置200よりも搬送方向で上流において疵を検出する場合について説明する。 【0039】 上流検査装置100は、撮像部101と、画像処理部102と、特徴抽出部103と、遅延メモリ110と、受信バッファメモリ120と、最近接特定部131と、判定部132とを有する。一方、下流検査装置200は、撮像部201と、画像処理部202と、特徴抽出部203と、判定部232とを有する。 【0040】 上流検査装置100が有する撮像部101は、第1撮像部の一例であり、下流検査装置200が有する撮像部201は、第2撮像部の一例である。この撮像部101,201としては、例えば、ラインセンサカメラやエリアセンサカメラなどを使用することができるが、金属帯Fの上面又は下面を撮像可能であれば特に限定されるものではない。 【0041】 撮像部101は、金属帯Fの上面(金属帯の両側表面のいずれか一面である第1面の一例)側に配置され、その上面を撮像する一方、撮像部201は、金属帯Fの下面(金属帯の両側表面の他面である第2面の一例)側に配置され、その下面を撮像する。この際、撮像部101及び撮像部201は、搬送ロール(図示せず)に取り付けられたパルスジェネレータ等の距離測定装置により金属帯Fが一定距離搬送される毎に撮像を行うように制御される。更に、この撮像部101及び撮像部201は、金属帯Fの同一位置の表裏を撮像するように制御される。 【0042】 本実施形態に係る撮像部201は、上面側の撮像部101の撮像位置よりも搬送方向下流側において下面を撮像するように、間隔ΔLだけ下流側に配置される。従って、本実施形態では、撮像部101が金属帯Fのある長手方向位置の上面を撮像した後、撮像部201は、金属帯Fが間隔ΔLだけ搬送された後に金属帯Fの当該長手方向位置の下面を撮像することになる。 【0043】 画像処理部102は、撮像部101により撮像された上面側の撮像画像(以下「第1画像」という。)に対して、疵候補の抽出が容易になるような所定の画像処理を行う。一方、画像処理部202は、撮像部201により撮像された下面側の撮像画像(以下「第2画像」という。)に対して、疵候補の抽出が容易になるような所定の画像処理を行う。なお、この画像処理部102,202が行う画像処理の例としては、例えば、輝度ムラを補正するシェーディング補正、特定方向の輝度変化を検出する空間フィルタリング処理などが挙げられる。 【0044】 そして、画像処理部102,202は、画像処理後、更に、他の画像処理として疵候補を検出する検出処理を行う。検出処理としては、例えば、画像輝度の二値化が挙げられる。二値化処理では、画像処理部102,202は、疵が形成されていない領域の輝度値(例えば平均値などであってもよい。)に対する高低両者の閾値を予め設けておき、この閾値に基づいて、それぞれ対応した第1画像又は第2画像を二値化する。より具体的には、高低両閾値の間の輝度値については「正常」として「0」とし、高閾値を超えたり、低閾値未満の輝度値については「異常」として「1」とする。その結果、画像処理部102,202は、疵候補を抽出することができる。なお、ここで「疵候補」とは、金属帯Fに形成された疵であることが予想される輝度値を取る領域を意味し、必ずしも疵だけでなく、汚れなど撮像され得るものが含まれることになる。 【0045】 特徴抽出部103は、第1抽出部の一例であり、画像処理部102で処理された第1画像を取得する。一方、特徴抽出部203は、第2抽出部の一例であり、画像処理部202で処理された第2画像を取得する。この際、特徴抽出部103,203は、それぞれ疵候補を検出する検出処理(例えば二値化など)が行われる前後の第1画像及び第2画像を取得することが望ましい。 【0046】 そして、特徴抽出部103,203は、画像処理部102,202により疵候補であるとされた領域の各画像における情報(ここでは「特徴情報」とも言う。)を抽出する。特徴情報としては、例えば、金属帯Fの各面における疵候補の位置(疵候補の外接長方形の中心又は二値画像の重心など。)を表す位置情報(幅方向座標x及び長手方向座標y)と、各画像から抽出可能な疵候補の特徴量を表す特徴量情報とが含まれる。また、特徴量情報としては、例えば、疵候補の幅方向座標xにおける幅・疵候補の長手方向座標yにおける長さ・疵候補の面内における形状・疵候補位置の最高輝度・最低輝度・疵候補の輝度の分布のヒストグラムなどが挙げられる。」 (ウ)「【0056】 なお、本実施形態において、最近接特定部131は、上流側の疵候補つまり上面側の疵候補を基準として、その疵候補に対して最も近接した下流側の疵候補つまり下面側の疵候補を特定する。」 (エ)「【0069】 このように表裏の疵候補同士を対応付けた最近接特定部131は、更に、今度はバイアスをかけずに両疵候補間の幅方向座標xの偏差と、長手方向座標yの偏差とを算出する。そして、最近接特定部131は、対応付けた表裏両疵候補の特徴情報と、幅方向座標x及び長手方向座標yの偏差とを、判定部132に出力する。ただし、最近接特定部131は、上流側疵候補Duに対応する下流側疵候補Ddが存在しない場合、上流側疵候補Duの特徴情報と、対応する下流側疵候補Ddが存在しない旨を表す情報とを、判定部132に出力することになる。 【0070】 判定部132は、一側判定部の一例であり、上流側の疵候補の特徴情報だけでなく、その疵候補に対応付けられた下流側の疵候補の特徴情報にも基づいて、上流側の疵候補の種類及び程度の少なくとも一方を判定する。 【0071】 この際、判定部132による判定は、上記判定部232の判定で使用された分類アルゴリズムと同様のアルゴリズムによる方向により実現することが可能である。つまり、例えば、判定処理としては、if thenルール・ニューラルネット・決定木・サポートベクターマシンなどが挙げられるが、これら以外の分類アルゴリズムを使用することももちろん可能である。これらの分類アルゴリズムでは、上流側の疵候補だけでなく下流側の疵候補の特徴情報を入力値として、所定のアルゴリズムで疵候補の種類及び程度を出力することができる。この分類アルゴリズムを確立するために、判定部132は、種類及び程度の少なくとも一方が既知の疵候補に対する特徴情報と、その特徴情報に対する正しい判定結果とを含む教師情報が、複数入力されてその分類アルゴリズムを確立する。なお、この教師情報として、判定部232とは異なり、正しい判定結果には、疵候補の種類及び程度だけでなく、対応付けられた両面の疵候補同士が同一疵であるか否かという結果もが含まれることが望ましい。そして、このような教師情報で構築された分類アルゴリズムによれば、両面の疵候補の特徴情報(片面の判定結果を含んでもよい。)から、両面の疵候補が同一疵であるか否かと、その疵候補の種類及び程度とを出力することができる。」 (オ)「【0091】 (2−4−1.押し疵) 押し疵は、搬送用のロールRなどに付着した硬質の異物により金属帯Fが塑性変形して発生する。この場合、図6に示すように、金属帯Fに対して当てる光の向きと撮像部101,201が撮像する方向とに応じて、疵候補が撮像される領域の半分が周囲より白く(輝度値が高く)、もう半分が黒く(輝度値が低く)なるように撮影される。 【0092】 このような場合、仮に片面ごとに判定したのでは、通常黒と白が搬送方向に隣接して存在し、外接長方形が正方形に近いという条件で押し疵か否かの判定を行うことになる。そして、撮像部101,201としてラインカメラを使用して図5に示したようなロールRへの捲き付け部位で金属帯Fを撮像する場合、ブリキのような薄鋼板では捲き付けロールRに軟質の異物があっても、押し疵のような画像が撮影されることがある。 【0093】 この際、軟質の異物の場合、金属帯Fは、弾性変形の範囲で変形することが多く、捲き付けロールRを通過後は元の平坦な形状に戻る。このような場合、片面だけの判定では誤検出となる。これに対して、本実施形態に係る上流検査装置100は、判定部132により両面の判定を行うため、弾性変形による疵候補を、押し疵であると誤検出する可能性を低減することができる。 【0094】 一方、実際に塑性変形した押し疵について言えば、押し疵が撮像部101,201から見て凹であるか凸であるかは、図6(A)及び(B)に示すように、疵の上下のどちらが白いかで判定することができる。そこで、特徴抽出部103,203は、特徴量として(疵の上流側半分の輝度平均値)−(疵の下流側半分の輝度平均値)を計算する。すると、この特徴量が正のときは凸の押し疵であり、負のときは凹の押し疵であることが、判定部232で判定できる。従って、本実施形態に係る判定部132では、この判定部232による判定結果又は上記算出した特徴量を、上流側疵候補の特徴情報と共に判定に使用することにより、上流側で正・下流側で負、あるいはその逆となった場合は、上下面ともに同一の押し疵があると判定することができる。 【0095】 更にまた、押し疵の程度が比較的軽い場合は、濃淡が薄くなるため、隣接した白・黒のうち、どちらか片方だけしか疵候補として認識されない場合がある。この場合、片面だけの判定では汚れなどと判定されてしまう恐れがある。そこで、上流側・下流側での位置の偏差を判定に加えることで、本実施形態に係る判定部132は、位置の偏差が疵と同程度の大きさならば、軽度押し疵と判定することができ、判定精度を向上することができる。 【0096】 (2−4−1.穴) 例えば鋼などのように、金属帯Fの中の異物が圧延された後に脱落した場合、金属帯Fに穴があくことがある。これは、きわめて有害な欠陥であるため精度良く検出することが望まれる。 【0097】 この場合、図5に示したような捲き付け部位においては、穴を通してロールRが撮像される。しかし、捲き付けロールRが金属の場合には、金属帯Fの表面と似たような外観となり、判別が難しい場合がある。詳しく言えば、穴のふちの部分のみが黒く又は白く見え、穴の中は板表面と同じような画像(輝度値)になる。 【0098】 穴は不定形であるため、片面だけの特徴量では汚れ等の不定形な欠陥との区別が難しい。このような場合、特徴抽出部103,203は、穴の形をあらわすいくつかの特徴量(例えば、外接長方形の縦横比、疵候補の丸み度合(=4×π×面積/(周囲長)2)など)を抽出する。そして、判定部132は、両面の位置情報が近似していることに加えて、上記特徴量もが近似しているという条件を、分類アルゴリズムに付加することにより、両面で同一の形をした欠陥があると判定することができ、穴を確実に判定することができる。なお、上記疵候補の丸み度合は、疵候補が円に近ければ近いほど1以下で1に近づき、円と異なれば異なるほど1以下で小さくなる。 (2−5.第1実施形態による効果の例) 以上、本発明の第1実施形態に係る表面欠陥検査装置10について説明した。 この表面欠陥検査装置10によれば、最近接特定部131により疵候補間の距離dに基づいて、同一疵である可能性が高い表裏の疵候補を対応付けることができる。従って、対応付けられる表裏の疵候補同士が同一の疵である可能性を高めることができる。なお、この際、最近接特定部131は、最近傍探索を行う際に、疵候補同士の距離dとして、長手方向座標yにバイアスがかけられた距離を使用する。従って、例えば、同一の疵が表裏で、金属帯Fの幅方向よりも長手方向に大きくずれ、偏差Δyが偏差Δx等に比べて大きい場合であっても、両疵候補を正確に対応付けることが可能である。」 (カ)以上の記載から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。なお、根拠とした引用箇所の段落番号を括弧内に示す。 「表面欠陥検査装置10は、上流検査装置100と、下流検査装置200と、判定結果記憶装置300と、表示装置400とを有し、(【0036】) 上流検査装置100は、上流側にて金属帯Fの上面から疵を検出し、下流検査装置200は、下流側にて金属帯Fの下面から疵を検出し、(【0037】) 上流検査装置100は、撮像部101と、画像処理部102と、特徴抽出部103と、遅延メモリ110と、受信バッファメモリ120と、最近接特定部131と、判定部132とを有し、一方、下流検査装置200は、撮像部201と、画像処理部202と、特徴抽出部203と、判定部232とを有し、(【0039】) 撮像部101及び撮像部201は、金属帯Fの同一位置の表裏を撮像するように制御され、(【0041】) 画像処理部102,202は、高低両閾値の間の輝度値については「正常」として「0」とし、高閾値を超えたり、低閾値未満の輝度値については「異常」として「1」とし、その結果、画像処理部102,202は、金属帯Fに形成された疵であることが予想される輝度値を取る領域を意味する「疵候補」を抽出し、(【0044】) 特徴抽出部103,203は、疵候補であるとされた領域の各画像における情報(ここでは「特徴情報」とも言う。)を抽出し、特徴情報としては、位置情報(幅方向座標x及び長手方向座標y)と、各画像から抽出可能な疵候補の特徴量を表す特徴量情報とが含まれ、特徴量情報としては、疵候補の幅方向座標xにおける幅・疵候補の長手方向座標yにおける長さ・疵候補の面内における形状・疵候補位置の最高輝度・最低輝度・疵候補の輝度の分布のヒストグラムなどが挙げられ、(【0046】) 最近接特定部131は、上面側の疵候補を基準として、その疵候補に対して最も近接した下面側の疵候補を特定し、(【0056】) 更に、両疵候補間の幅方向座標xの偏差と、長手方向座標yの偏差とを算出し、対応付けた表裏両疵候補の特徴情報と、幅方向座標x及び長手方向座標yの偏差とを、判定部132に出力し、(【0069】) 判定部132による判定処理としては、疵候補の特徴情報を入力値として、所定のアルゴリズムで疵候補の種類及び程度を出力するものであり、(【0071】) 押し疵は、金属帯Fに対して当てる光の向きと撮像部101,201が撮像する方向とに応じて、疵候補が撮像される領域の半分が周囲より白く(輝度値が高く)、もう半分が黒く(輝度値が低く)なるように撮影され、(【0091】) 判定部132は、上下面ともに同一の押し疵があると判定することができ、(【0094】) 金属帯Fに穴があくと、(【0096】) 穴のふちの部分のみが黒く又は白く見え、穴の中は板表面と同じような画像(輝度値)になり、(【0097】) 判定部132は、両面で同一の形をした欠陥があると判定すると、穴と判定する、(【0098】) 表面欠陥検査装置(【0035】)。」 イ 甲2 甲2には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【請求項1】 金属板の表面欠陥を検査する光学式表面欠陥計を用いた表面欠陥検査方法であって、 金属板の表面および裏面を撮影した画像を受信し、 受信画像の画像処理により表面疵および裏面疵検出を行い、 検出した前記疵の欠陥等級が、軽度か重度かどうかの1次判定を行い、 軽度と1次判定されたものの内、表面および裏面のほぼ同じ位置に疵を検出した場合には、重度と2次判定することを特徴とする表面欠陥検査方法。 【請求項2】 に記載の表面欠陥検査方法において、 前記1次判定にあたっては、 疵長さ、疵幅、疵面積、および疵輝度を元に前記疵の欠陥等級を行い、 前記2次判定にあたっては、 軽度の表面疵を含有する外接長方形をオモテ疵エリアとして設定し、これに予め定めた許 容範囲を加えたオモテ疵許容エリアを設定し、 軽度の裏面を含有する外接長方形をウラ疵エリアとして設定し、 オモテ疵許容エリアとウラ疵エリアの両エリアが位置的に重なり合う部分がある場合には、重度と判定することを特徴とする表面欠陥検査方法。」 (イ)「【技術分野】 【0001】 本発明は、金属板(金属帯を含む)の表面欠陥を検査する、表面欠陥検査方法に関するものである。」 (ウ)「【0017】 そして、Step03にて、1次判定、すなわちオモテ疵およびウラ疵の欠陥等級判定を行う。疵長さ(y方向長さ)、疵幅(x方向長さ)、疵面積、疵輝度を元に疵の欠陥等級を判定する。」 ウ 甲3 甲3には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、欠点判別装置に関する。 紙シートや合成樹脂製のフィルムシート、アルミ箔、アルミ板、銅板等の非鉄金属シート、並びに、これらのシートにコーティング加工やラミネート加工されたシートを生産する場合、シートにしわや凹凸状の傷がはいったり、明るさが正常な地合の明るさより明るい又は暗い、異物、汚れなどの欠点が生じる。しわや異物等の軽微な欠点の場合には、欠点の範囲が許容範囲であれば生産を継続しても構わない。しかし、重大な欠点の場合には大量の製品ロスを招来する危険性があるので、生産を中止し原因を特定し除去する必要がある。重大な欠点には、例えば「虫」、「穴」、「スジ」と呼ばれる種類の欠点がある。虫と呼ばれる欠点は、文字どおり、虫がシートに貼り付いてしまったものであり、食品材や衛生材に使用するものであれば大問題に発展する可能性が高く、絶対に検出することが必要である。 穴と呼ばれる欠点は、特定箇所にのみインキが印刷されず、印刷柄に穴が空いているような印象の欠点である。穴が生じるのは、生産ラインのロール上に付着している異物が原因であったり、検査機が設置されている生産ラインより上工程の生産ラインに原因があったり、原料そのものに原因があったりすることが多い。 スジと呼ばれる欠点は、シートにその走行方向に沿ってスジ状の塗工ムラが発生したものであったり、傷が連続的に発生したものであったりする。スジが生じるのは、塗工ロールそのものまたはその他生産ラインでのロールの周面に付着した異物が原因であったりるすることが多い。」 (イ)「【0010】 つぎに、特徴量抽出部30を説明する。 特徴量抽出部30は、画像検出部10で検出された検出画像Gから、この検出画像Gの明濃度や暗濃度などを、検出画像Gの特徴量Cとして抽出する処理部である。検出画像Gの特徴量Cの個数は、1個だけでなく複数個でもよく、任意である。そこで、特徴量抽出部30で抽出される特徴量を、特徴量C1〜Cnで示す。 なお、特徴量抽出部30で抽出される特徴量C1〜Cnは、明濃度や暗濃度だけでなく、図2に示すように、欠点Dにおける欠点幅Wや欠点長さL、面積A、面積A/(欠点幅W×欠点長さL)、欠点長さL/欠点幅Wなど、種々の量を抽出してもよい。」 (2)本件発明2について ア 対比 本件発明2と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「金属帯」は、本件発明2の「金属シート素材」に相当する。 そして、「金属帯Fの上面」、「金属帯Fの下面」は、それぞれ本件発明2の「金属シート素材であるワークの表面」、「ワークの裏面」に相当する。 (イ)甲1発明の「上流検査装置100は、撮像部101」を有し、「上流側にて金属帯Fの上面から疵を検出」するものであるから、「上流検査装置100」の「撮像部101」は、本件発明2の「金属シート素材であるワークの表面を撮像する第1撮像方式により撮像された前記ワークの撮像画像を第1撮像画像として取得する第1画像取得部」に相当する。 (ウ)甲1発明の「下流検査装置200は、撮像部201」を有し、「下流側にて金属帯Fの下面から疵を検出」するものであるから、「下流検査装置200」の「撮像部201」は、本件発明2の「前記ワークの裏面を撮像する第2の撮像方式により撮像された前記ワークの撮像画像を第2撮像画像として取得する第2画像取得部」に相当する。 (エ)甲1発明において、「撮像部101及び撮像部201は、金属帯Fの同一位置の表裏を撮像するように制御され、」「画像処理部102,202は、高低両閾値の間の輝度値については「正常」として「0」とし、高閾値を超えたり、低閾値未満の輝度値については「異常」として「1」とし、その結果、画像処理部102,202は、金属帯Fに形成された疵であることが予想される輝度値を取る領域を意味する「疵候補」を抽出」するから、甲1発明の「画像処理部102,202」と、本件発明2の「前記第1撮像画像に基づいて前記ワークの欠陥を第1欠陥として検出し、該第1欠陥を濃度が低い順に暗強、暗弱、明弱、明強の4つの濃度区分のいずれかに分類するとともに、前記第1欠陥の領域の面積を示す大、小の2つの面積区分のいずれかに分類する第1欠陥検出部」と、「前記第2撮像画像に基づいて前記ワークの欠陥を第2欠陥として検出し、該第2欠陥を濃度が低い順に暗強、暗弱、明弱、明強の4つの濃度区分のいずれかに分類するとともに、前記第2欠陥の領域の面積を示す大、小の2つの面積区分のいずれかに分類する第2欠陥検出部」とは、「前記第1撮像画像に基づいて前記ワークの欠陥を第1欠陥として検出する第1欠陥検出部」と「前記第2撮像画像に基づいて前記ワークの欠陥を第2欠陥として検出する第2欠陥検出部」の点で共通する。 (オ)甲1発明において、「上面側の疵候補を基準として、その疵候補に対して最も近接した下面側の疵候補を特定し」、「表裏両疵候補」を「対応付け」る「最近接特定部131」は、本件発明2の「前記ワークにおける前記第1欠陥の位置と前記第2欠陥の位置とが一致する場合、前記第1欠陥と前記第2欠陥を統合欠陥として統合」する「欠陥統合部」に相当する。 (カ)甲1発明の「押し疵」、「穴」は、それぞれ本件発明2の「陥没」、「貫通穴」に相当する。 (キ)甲1発明における「押し疵は、金属帯Fに対して当てる光の向きと撮像部101,201が撮像する方向とに応じて、疵候補が撮像される領域の半分が周囲より白く(輝度値が高く)、もう半分が黒く(輝度値が低く)なるように撮影され、判定部132は、上下面ともに同一の押し疵があると判定することができ、金属帯Fに穴があくと、穴のふちの部分のみが黒く又は白く見え、穴の中は板表面と同じような画像(輝度値)になり、判定部132は、両面で同一の形をした欠陥があると判定すると、穴と判定する」ことと、本件発明2の「前記第1欠陥について濃度区分が暗強または明強に分類されるとともに面積区分が大に分類され、且つ前記第2欠陥について濃度区分が暗強または明強に分類されるとともに面積区分が大に分類される場合、前記統合欠陥の種類を重度の陥没または貫通穴と決定する」とは、「前記統合欠陥の種類を陥没または貫通穴と決定する」の点で共通する。 (ク)以上の対応関係から、本件発明2と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 金属シート素材であるワークの表面を撮像する第1撮像方式により撮像された前記ワークの撮像画像を第1撮像画像として取得する第1画像取得部と、 前記ワークの裏面を撮像する第2の撮像方式により撮像された前記ワークの撮像画像を第2撮像画像として取得する第2画像取得部と、 前記第1撮像画像に基づいて前記ワークの欠陥を第1欠陥として検出する第1欠陥検出部と、 前記第2撮像画像に基づいて前記ワークの欠陥を第2欠陥として検出する第2欠陥検出部と、 前記ワークにおける前記第1欠陥の位置と前記第2欠陥の位置とが一致する場合、前記第1欠陥と前記第2欠陥を統合欠陥として統合し、前記統合欠陥の種類を陥没または貫通穴と決定する欠陥統合部と を備える欠陥検査装置。 (相違点1) 本件発明2は、第1欠陥及び第2欠陥を濃度が低い順に暗強、暗弱、明弱、明強の4つの濃度区分のいずれかに分類するとともに、前記第1欠陥及び第2欠陥の領域の面積を示す大、小の2つの面積区分のいずれかに分類するのに対し、甲1発明は、輝度に関し、押し疵の場合、半分が周囲より白く(輝度値が高く)、もう半分が黒く(輝度値が低く)、穴の場合、穴のふちの部分のみが黒く又は白く見え、穴の中は板表面と同じような画像(輝度値)に区別され、いずれの場合も3つの濃度区分に分類され、面積の大小で区分していない点。 (相違点2) 本件発明2は、第1欠陥について濃度区分が暗強または明強に分類されるとともに面積区分が大に分類され、且つ第2欠陥について濃度区分が暗強または明強に分類されるとともに面積区分が大に分類される場合、欠陥の種類を重度の陥没または貫通穴と決定するのに対し、甲1発明は、黒、白の輝度の情報から、上下面(両面)で同一の疵と判定し、押し疵又は穴であることを判定している点。 イ 判断 相違点1、2について併せて検討する。 輝度に関し、甲1発明は、押し疵、穴共に、輝度に応じて、黒く見える部分、周囲又は穴の中の部分、白く見える部分の3つの区分で区別している。 本件発明2は、濃度が低い順に暗強、暗弱、明弱、明強の4つの濃度区分で区分しているが、欠陥の種類の決定にあたっては、濃度区分が暗強または明強に分類されるか否かで判断していることから、「暗弱」と「明弱」の境界に意義は認められない。 なお、本件発明2とはワークの状況が異なる本件発明1において、4つの濃度区分のうち暗弱と暗強との境界に意義はあるものの、他の区分け(境界)に意義は見いだせず、同様に、本件発明4において、明弱と明強との境界に意義は見いだせないことから、4つの濃度区分が意義を有するのは、液だれ欠陥、ヤケ欠陥、重度の陥没または貫通穴を網羅的に決定する「欠陥検査装置」である場合だけである。 してみると、本件発明2においては、上記したような網羅的な欠陥検査装置とは限定されていないから、濃度区分については、実質的に濃度が低い順に「暗強」、「暗弱、明弱」、「明強」の3つの濃度区分といえる。ここで、甲1発明の黒く見える部分、周囲又は穴の中の部分、白く見える部分は輝度に応じたものではあるが、甲1発明における3つの区分を撮像した画像を見る場合には濃度の違いとして現れることは明らかであるから、実質的に濃度に応じたものということができる。したがって、甲1発明の当該3つの区分は、本件発明2の3つの濃度区分と相違するとはいえない。 また、大小の面積区分に分類することは、甲1の段落0099に有害度が高い疵、低い疵を検出することが記載されていることから、甲1発明においても、「所定のアルゴリズムで疵候補の種類及び程度を出力する」際の、「程度」について、有害度が高いか低いかで分類する動機付けがあるといえ、また、甲1には、疵候補の特徴を表す特徴量情報として、疵候補の幅方向座標xにおける幅・長手方向座標yにおける長さを抽出することが記載されていること、さらに一般的に、疵長さ(y方向長さ)、疵幅(x方向長さ)とともに疵面積を欠陥等級の判定に用いられること(甲2の段落0017、甲3の段落0010等参照。)を踏まえると、甲1発明において、黒く見える部分、周囲又は穴の中の部分、白く見える部分の3つの濃度区分に加え、面積の大小により分類するようにし、相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものといえる。また、甲1発明において、押し疵又は穴と判定する場合に、暗強、明強に相当する黒、白の輝度と共に、面積が大とされる欠陥を有害度が高い、つまり重度の押し疵又は穴として判定し、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものといえる。 したがって、本件発明2は、甲1発明及び甲2、甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到することができものである。 (3)本件発明3について 本件発明3は、本件発明2の欠陥統合部を、前記第1欠陥の領域と前記第2欠陥の領域とが一部重複する場合に前記第1欠陥と前記第2欠陥とを統合するものであることに限定した発明である。 甲1発明は、最近接特定部131において、上面側の疵候補を基準として、その疵候補に対して最も近接した下面側の疵候補を特定し、対応付けしているところ、甲2(請求項1、2等参照。)に、表面及び裏面のほぼ同じ位置の疵を、疵(許容)エリアに重なり合う部分がある場合で判断することが記載されていることに鑑み、甲1発明の最も近接した疵候補の判断に、疵候補エリアに重なり合う部分がある場合で判断するようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 したがって、本件発明3は、甲1発明及び甲2、甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到することができものである。 (4)まとめ したがって、本件発明2、3は、甲1発明及び甲2、甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到することができものである。 第5 むすび 以上のとおり、本件発明1〜4に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 また、本件発明1、3、4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 さらに、本件発明2、3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反した特許出願に対してなされたものである。 したがって、本件発明1〜4に係る特許は、特許法第113条第2号、第4号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
異議決定日 | 2021-10-27 |
出願番号 | P2016-045467 |
審決分類 |
P
1
651・
854-
ZB
(G01N)
P 1 651・ 537- ZB (G01N) P 1 651・ 538- ZB (G01N) P 1 651・ 841- ZB (G01N) P 1 651・ 121- ZB (G01N) |
最終処分 | 06 取消 |
特許庁審判長 |
三崎 仁 |
特許庁審判官 |
井上 博之 伊藤 幸仙 |
登録日 | 2020-02-25 |
登録番号 | 6666171 |
権利者 | 株式会社東芝 東芝デジタルソリューションズ株式会社 |
発明の名称 | 欠陥検査装置 |
代理人 | 赤澤 日出夫 |
代理人 | 赤澤 日出夫 |