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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1380936
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-01-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-11 
確定日 2021-11-02 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6660930号発明「光電子素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6660930号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1〜19]、[20〜28]について訂正することを認める。 特許第6660930号の請求項1〜5、7〜12、14〜28に係る特許を維持する。 特許第6660930号の請求項6及び13に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6660930号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜28に係る特許についての出願は、2013年(平成25年)9月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年9月18日、英国、2013年5月24日、英国。以下、最先の優先日である「2012年9月18日」を「本件優先日」という。)を国際出願日とする出願である特願2015−531644号の一部を平成29年12月15日に新たな出願としたものであって、令和2年2月13日にその特許権の設定登録がされ、令和2年3月11日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して3件の特許異議の申立てがあり、次のとおり手続が行われた。
令和 2年 9月11日 :特許異議申立人中川賢治、遠藤眞理子及び竹口美穂(以下、それぞれ「申立人1」、「申立人2」及び「申立人3」といい、総称して「申立人」という。)による請求項1〜28に係る特許に対する特許異議の申立て(以下、申立人が提出した特許異議申立書を「申立人1申立書」などという。)
令和 3年 2月12日付け:取消理由通知書(上記3事件を併合)
令和 3年 5月18日 :特許権者による訂正請求書(以下、この訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)及び意見書の提出
令和 3年 9月 3日 :申立人1〜申立人3による意見書の提出(以下、申立人が提出した意見書を「申立人1意見書」などという。)

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の内容として特許権者が主張する事項は以下のとおりである(下線は特許権者が付したものである。以下、この項において同じ。)。なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項[1〜19]、[20〜28]に対して請求されている。
(1)訂正事項1
請求項1の「前記光活性ペロブスカイト半導体が三次元結晶構造を有する」を「前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含み、前記光活性ペロブスカイト半導体が三次元結晶構造を有し、前記開口気孔を有さない前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、100nm〜700nmである」に訂正する。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜5、7〜12及び14〜19も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
請求項6を削除する。

(3)訂正事項3
請求項13を削除する。

(4)訂正事項4
請求項14の「ハロゲン化物アニオン及びカルコゲナイドアニオンから選択される2つ以上の異なるアニオンを含む混合型アニオンペロブスカイト」を「ハロゲン化物アニオンから選択される2つ以上の異なるアニオンを含む混合型アニオンペロブスカイト」に訂正する。
(請求項14の記載を直接的又は間接的に引用する請求項15〜19も同様に訂正する。)

(5)訂正事項5
請求項15の「[X]は少なくとも1つのアニオン」を「[X]は少なくとも1つのハロゲン化物アニオン」に訂正する。
(請求項15の記載を直接的又は間接的に引用する請求項16〜19も同様に訂正する。)

(6)訂正事項6
請求項16の「[X]が、ハロゲン化物アニオン及びカルコゲナイドアニオンから選択される2つ以上の異なるアニオンである」を「[X]が、ハロゲン化物アニオンから選択される2つ以上の異なるアニオンである」に訂正する。
(請求項16の記載を直接的又は間接的に引用する請求項17〜19も同様に訂正する。)

(7)訂正事項7
請求項20の「3次元結晶構造を有する、開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる緻密層を含む光活性領域」を「開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる緻密層を含む光活性領域であって、前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含み、前記光活性ペロブスカイト半導体が三次元結晶構造を有し、前記開口気孔を有さない前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、100nm〜700nmである、光活性領域」に訂正する。
(請求項20の記載を直接的又は間接的に引用する請求項21〜28も同様に訂正する。)

(8)訂正事項8
請求項27の「光活性ペロブスカイト半導体が三次元結晶構造を有する」を「前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含み、光活性ペロブスカイト半導体が三次元結晶構造を有し、前記開口気孔を有さない前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、100nm〜700nmである」に訂正する。

(9)訂正事項9
請求項28の「前記光活性ペロブスカイト半導体は三次元結晶構造を有する」を「前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含み、前記光活性ペロブスカイト半導体は三次元結晶構造を有し、前記開口気孔を有さない前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、100nm〜700nmである」に訂正する。

2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前請求項1において、「ペロブスカイト」を「前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含」むものに限定するとともに、「前記光活性ペロブスカイト半導体」を「前記開口気孔を有さない前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、100nm〜700nmである」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)には、
「本発明の光電子素子において利用するペロブスカイト半導体は、典型的には、ハロゲン化物アニオン及びカルコゲナイドアニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含む。」(【0071】)、
「本発明の光電子素子では、ペロブスカイトは、多くの場合に、第1のカチオン、第2のカチオン、及び前記少なくとも1つのアニオンを含む。」(【0073】)、
「典型的には、本発明の光電子素子では、ペロブスカイト中の第2のカチオンは、金属カチオンである。・・・」(【0075】)、
「本発明の光電子素子では、ペロブスカイト中の第1のカチオンは、通常有機カチオンである。」(【0077】)、
と記載されている(下線は当審が付した。以下同じ。)。
また、本件明細書等には、
「・・・好ましくは、開口気孔率のないペロブスカイト半導体の層の厚さは、50nmから1000nmまで、例えば、100nmから700nmまでである。・・・」(【0042】)
と記載されている。
よって、訂正事項1は、新規事項を追加するものではない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 小括
よって、訂正事項1は、訂正要件を満たす。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、次の内容からなるものと解される。
(i)訂正前請求項6を削除すること。
(ii)上記(i)の訂正に伴い、訂正前請求項7における当該削除された請求項を引用する記載が明瞭ではなくなったため、その記載を削除して明瞭にすること。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮及び同第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
訂正事項2は、訂正前請求項6の削除に係るものであるから、このことにより新たな技術的事項が導入されることはなく、よって、新規事項を追加するものではない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 小括
よって、訂正事項2は、訂正要件を満たす。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正前請求項13を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
訂正事項3は、請求項を削除するものであるから、このことにより新たな技術的事項が導入されることはなく、よって、新規事項を追加するものではない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 小括
よって、訂正事項3は、訂正要件を満たす。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4は、次の内容からなるものと解される。
(i)訂正前請求項14が訂正前請求項13を引用していたのを、訂正前請求項13を引用しないものとすること。
(ii)上記(i)の訂正により、訂正前請求項13の「前記光活性ペロブスカイト半導体が、ハロゲン化物アニオン又はカルコゲナイドアニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含む」との記載が訂正前請求項14で既に特定されている内容と重複し、両者の関係が明瞭ではなくなったため、その記載を削除して明瞭にすること。
(iii)上記(i)の訂正に加えて、訂正事項2により訂正前請求項6が削除されたことに伴い、訂正前請求項14における当該削除された請求項を引用する記載が明瞭ではなくなったため、その記載を削除して明瞭にすること。
(iv)訂正前請求項14の「ハロゲン化物アニオン及びカルコゲナイドアニオンから選択される2つ以上の異なるアニオンを含む混合型アニオンペロブスカイト」を「ハロゲン化物アニオンから選択される2つ以上の異なるアニオンを含む混合型アニオンペロブスカイト」に限定すること。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮、同第3号の明瞭でない記載の釈明及び同第4号のいわゆる引用関係の解消を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
上記ア(i)〜(iii)の訂正によっては、新たな技術的事項が導入されないことが明らかである。
上記ア(iv)の訂正は、選択肢の一方を削除するにすぎないものであって、このことにより新たな技術的事項が導入されることはない。
よって、訂正事項4は、新規事項を追加するものではない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 小括
よって、訂正事項4は、訂正要件を満たす。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5は、次の内容からなるものと解される。
(i)訂正前請求項15の「[X]は少なくとも1つのアニオン」を「[X]は少なくとも1つのハロゲン化物アニオン」に限定すること。
(ii)訂正事項2及び訂正事項3により、それぞれ、訂正前請求項6及び13が削除されたことに伴い、訂正前請求項15、17〜19における当該削除された請求項を引用する記載が明瞭ではなくなったため、その記載を削除して明瞭にすること。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮及び同第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
上記ア(i)の訂正は、本件明細書等には、「本発明の光電子素子において利用するペロブスカイト半導体は、典型的には、ハロゲン化物アニオン及びカルコゲナイドアニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含む。」(【0071】)と記載されているから、新規事項を追加するものではない。
上記ア(ii)の訂正によっては、新たな技術的事項が導入されないことが明らかである。
よって、訂正事項5は、新規事項を追加するものではない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 小括
よって、訂正事項5は、訂正要件を満たす。

(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的
訂正事項6は、訂正前請求項16の「[X]が、ハロゲン化物アニオン及びカルコゲナイドアニオンから選択される2つ以上の異なるアニオンである」を「[X]が、ハロゲン化物アニオンから選択される2つ以上の異なるアニオンである」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
訂正事項6は、選択肢の一方を削除するにすぎないものであって、このことにより新たな技術的事項が導入されることはなく、よって、新規事項を追加するものではない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 小括
よって、訂正事項6は、訂正要件を満たす。

(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的
訂正事項7は、次の内容からなるものである。
(i)訂正前請求項20の「3次元結晶構造を有する」について、当該請求項の記載では、何が「3次元結晶構造を有する」のかが明瞭でなく、しかも、「3次元結晶構造」の文言が他の請求項にある「三次元結晶構造」の文言と不統一であったのを、「前記光活性ペロブスカイト半導体が三次元結晶構造を有し」として明瞭にすること。
(ii)訂正前請求項20の「ペロブスカイト」を「前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含」むものに限定するとともに、同項の「開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる緻密層を含む光活性領域」を「前記開口気孔を有さない前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、100nm〜700nmである」ものに限定すること。
よって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮及び同第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
上記ア(i)の訂正は、「前記光活性ペロブスカイト半導体が三次元結晶構造を有」することが本件明細書等の請求項1に記載されているから、新規事項を追加するものではない。
上記ア(ii)の訂正は、上記(1)イと同様の理由により、新規事項を追加するものではない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 小括
よって、訂正事項7は、訂正要件を満たす。

(8)訂正事項8について
ア 訂正の目的
訂正事項8は、訂正前請求項27の「ペロブスカイト」を「前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含」むものに限定するとともに、同項を「前記開口気孔を有さない前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、100nm〜700nmである」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
訂正事項8は、上記(1)イと同様の理由により、新規事項を追加するものではない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 小括
よって、訂正事項8は、訂正要件を満たす。

(9)訂正事項9について
ア 訂正の目的
訂正事項9は、訂正前請求項28の「ペロブスカイト」を「前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含」むものに限定するとともに、同項を「前記開口気孔を有さない前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、100nm〜700nmである」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
訂正事項9は、上記(1)イと同様の理由により、新規事項を追加するものではない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 小括
よって、訂正事項9は、訂正要件を満たす。

3 訂正の適否の小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜19〕、[20〜28]について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明
本件訂正は、上記第2のとおり認められたので、本件訂正後の請求項1〜28に係る発明(以下「本件訂正発明1」〜「本件訂正発明28」といい、これらを総称して「本件訂正発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜28に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
[本件訂正発明1]
「開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる緻密層を含む光起電力素子であって、前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含み、前記光活性ペロブスカイト半導体が三次元結晶構造を有し、前記開口気孔を有さない前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、100nm〜700nmである、光起電力素子。」

[本件訂正発明2]
「前記開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層は、n型領域とp型領域の間に配置され、前記n型領域と前記p型領域の少なくとも一方とともにプレーナ・ヘテロ接合を形成する、請求項1に記載の光起電力素子。」

[本件訂正発明3]
「少なくとも1つのn型層を含むn型領域と、
少なくとも1つのp型層を含むp型領域と、
を含み、
前記開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層は、前記n型領域と前記p型領域の間に配置され、前記n型領域と前記p型領域の少なくとも一方とともにプレーナ・ヘテロ接合を形成する、請求項1に記載の光起電力素子。」

[本件訂正発明4]
「前記光活性ペロブスカイト半導体が光を吸収し、それにより自由電荷キャリアを生成することができる、請求項1から3までのいずれか一項に記載の光起電力素子。」

[本件訂正発明5]
「前記光活性ペロブスカイト半導体が、光増感材料であり、発光と電荷輸送の両方を行うことができる、請求項1から4までのいずれか一項に記載の光起電力素子。」

[本件訂正発明6]
(削除)

[本件訂正発明7]
「(i)多孔性材料及び前記多孔性材料の孔内に配置された光活性ぺロブスカイト半導体を含む第1の層と、
(ii)前記第1の層の上に配置されたキャッピング層であって、前記キャッピング層が前記開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層である、キャッピング層と、
を含み、
前記キャッピング層中の前記光活性ペロブスカイト半導体が、前記第1の層中の前記ペロブスカイト半導体と接触する、
請求項1から5までのいずれか一項に記載の光起電力素子。」

[本件訂正発明8]
「前記第1の層中の前記光活性ペロブスカイト半導体が、前記p型領域及び前記n型領域のうちの一方と接触し、前記キャッピング層中の前記光活性ペロブスカイト半導体が、前記p型領域及び前記n型領域のうちの他方と接触する、請求項2または3に従属する場合の請求項7に記載の光起電力素子。」

[本件訂正発明9]
「前記多孔性材料がメソポーラスである、請求項7または8に記載の光起電力素子。」

[本件訂正発明10]
「前記多孔性材料が、
電荷輸送材料と、
4.0eV以上のバンドギャップを有する誘電性材料、
のいずれかである、請求項7から9までのいずれか一項に記載の光起電力素子。」

[本件訂正発明11]
「前記n型領域が
n型層、または、
n型層及びn型エキシトン・ブロッキング層、
である、請求項2または3に記載の光起電力素子。」

[本件訂正発明12]
「前記p型領域が
p型層、または、
p型層及びp型エキシトン・ブロッキング層、
である、請求項2または3に記載の光起電力素子。」

[本件訂正発明13]
(削除)

[本件訂正発明14]
「前記ペロブスカイトが、ハロゲン化物アニオンから選択される2つ以上の異なるアニオンを含む混合型アニオンペロブスカイトである、請求項1〜5または7〜12のうちいずれか一項に記載の光起電力素子。」

[本件訂正発明15]
「前記光活性ペロブスカイト半導体が
[A][B][X]3
ここで、[A]は少なくとも1つの有機カチオン、
[B]は少なくとも1つの金属カチオン、
[X]は少なくとも1つのハロゲン化物アニオン、
で表されるペロブスカイト化合物である、請求項1〜5、7〜12、および14のうちいずれか一項に記載の光起電力素子。」

[本件訂正発明16]
「[X]が、ハロゲン化物アニオンから選択される2つ以上の異なるアニオンである、請求項15に記載の光起電力素子。」

[本件訂正発明17]
「前記光起電力素子が、
第1の電極と、
第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置された、前記開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる緻密層を含む光活性領域と、少なくとも1つの別の光活性領域、を含むタンデム接合または多接合光起電力素子である、請求項1〜5、7〜12、および14〜16のうちいずれか一項に記載の光起電力素子。」

[本件訂正発明18]
「前記p型領域がペロブスカイトを含むp型層を含む、請求項2若しくは3、または請求項2若しくは3に従属する場合の請求項4、5、7〜12、および14〜17のうちいずれか一項に記載の光起電力素子。」

[本件訂正発明19]
「前記n型領域がペロブスカイトを含むn型層を含む、請求項2若しくは3、または請求項2若しくは3に従属する場合の請求項4、5、7〜12、および14〜17のうちいずれか一項、または請求項18に記載の光起電力素子。」

[本件訂正発明20]
「第1の電極と、
第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置された、
開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる緻密層を含む光活性領域であって、前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含み、前記光活性ペロブスカイト半導体が三次元結晶構造を有し、前記開口気孔を有さない前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、100nm〜700nmである光活性領域と、
少なくとも1つの別の光活性領域、
を含む、多接合光起電力素子。」

[本件訂正発明21]
「前記少なくとも1つの別の光活性領域が少なくとも1つの半導体材料層を含む、請求項20に記載の多接合光起電力素子。」

[本件訂正発明22]
「前記半導体材料が、結晶シリコン、銅亜鉛スズ硫化物、銅亜鉛スズセレン化物、銅亜鉛スズセレン化硫化物、銅インジウムガリウムセレン化物、銅インジウムガリウム二セレン化物又は銅インジウムセレン化物の層を含む、請求項21に記載の多接合光起電力素子。」

[本件訂正発明23]
「前記半導体材料が、結晶シリコンの層を含む、請求項21または22に記載の多接合光起電力素子。」

[本件訂正発明24]
「前記少なくとも1つの別の光活性領域が、イントリンシック薄層との結晶シリコンヘテロ結合を含む、請求項20から23のいずれか一項に記載の多接合光起電力素子。」

[本件訂正発明25]
「前記半導体材料層がペロブスカイト半導体を含む、請求項21に記載の多接合光起電力素子。」

[本件訂正発明26]
「前記少なくとも1つの別の光活性領域が、開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体の緻密層からなる、請求項20に記載の多接合光起電力素子。」

[本件訂正発明27]
「第1の電極と、
第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置された複数の光活性領域であって、各光活性領域が開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる緻密層を含み、前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含み、光活性ペロブスカイト半導体が三次元結晶構造を有し、前記開口気孔を有さない前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、100nm〜700nmである、複数の光活性領域、
とを含む、請求項20に記載の多接合光起電力素子。」

[本件訂正発明28]
「各光活性領域が、
少なくとも1つのn型層を含むn型領域と、
少なくとも1つのp型層を含むp型領域と、
光活性ペロブスカイト半導体の緻密層、
を含み、
前記開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層は、前記n型領域と前記p型領域の間に配置され、前記n型領域と前記p型領域の少なくとも一方とともにプレーナ・ヘテロ接合を形成し、前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含み、前記光活性ペロブスカイト半導体は三次元結晶構造を有し、前記開口気孔を有さない前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、100nm〜700nmである、請求項26に記載の多接合光起電力素子。」

第4 申立人が提出した証拠方法及びその記載事項の認定
以下、証拠番号は、「甲1」のように、「第」及び「号証」を省いて表記する。また、申立人1が提出した甲1を、「申立人1甲1」などと表記することがある。
1 証拠方法
(1)申立人1が提出したもの
甲1:Zhuo Chen,et al.,“Schottky solar cells based on CsSnI3 thin−films”,Applied Physics Letters,2012年8月27日,vol.101,p.093901−1〜p.093901−4
甲2:特開2002−198551号公報
甲3:In Chung,et al.,“All−solid−state dye−sensitized solar cells with high efficiency”,Nature,2012年5月24日,vol.485、p.486〜p.490
甲4:Akihiro Kojima, et al.,“Orgnometal Halide Perovskites as Visible−Light Sensitizers for Photovoltaic Cells”,Journal of the American Chemical Society,2009年4月14日,vol.131,p.6050〜p.6051
甲5:国際公開第2012/035833号
甲6:特開2012−60075号公報
甲7:特開2004−134577号公報
甲8:Hui−Seon Kim et al.,“Lead Iodide Perovskite Sensitized All−Solid−State Submicron Thin Film Mesoscopic Solar Cell With Efficiency Exceeding 9%”,Scientific Reports,2:591,DOI:10,1038/srep00591,2012年8月21日

(2)申立人2が提出したもの
甲1:申立人甲4と同じ。
甲2:手島健次郎,「有機無機ペロブスカイト化合物を増感剤に用いた光電気化学セル」,静岡大学薄膜基板研究懇話会 第12回研究発表会講演要旨集,2009年2月,86頁
甲3:David B. Mitzi,“Synthesis, Structure, and Properties of Organic−Inorganic Perovskites and Related Materials”,Progress in Inorganic Chemistry,vol.48,1999年,p.1〜p.121
甲4:C. W. Tang,”Two−layer organic photovoltaic cell”,Applied Physics Letters,vol.48,no.2,1986年1月13日,p.183〜p.185
甲5:Dieter Weber,”CH3NH3PbX3,ein Pb(II)−System mit kubischer Perowskitstruktur”,Z. Naturforsch.,vol.33b,1978年,p.1443〜p.1445
甲6:J. F. Geisz, et al.,”LATTICE−MATCHED GaNPAs−ON−SILICON TANDEM SOLAR CELLS”,31st IEEE Photovoltaics Specialists Conference and Exhibition,2005年,p.1〜p.4
甲7:J. Rouquerol, et al.,”RECOMMENDATIONS FOR THE CHARACTERIZATION OF PORUS SOLIDS”,Pure & Appl. Chem.,Col.66,No.8,1994年,p.1739〜p.1758
参考資料1:Guangyong Li, et al.,”Recent Progress in Modeling, Simulation, and Optimization of Polymer Solar Cells”,IEEE Journal of Phtovoltaics,Vol.2,No.3,2012年7月,p.320〜p.340
参考資料2:江口潤,「P3HT:PCMB太陽電池に関する研究」,早稲田大学先進理工学部2009年度卒業論文

(3)申立人3が提出したもの
甲1:PCT/KR2013/008270(国際公開第2014/042449号、特表2015−529982号公報)
甲1(韓国出願):韓国出願10−2012−0101192
甲2:申立人1甲8と同じ。

2 各証拠に記載された事項の認定
(1)申立人1甲1
ア 申立人1甲1(以下「引用文献1」ともいう。)には以下の記載がある。
(ア)「Schottky solar cells based on CsSnI3 thin-films」(093901−1頁1行)
(当審訳:CsSnI3薄膜を用いたショットキー太陽電池)

(イ)「We describe a Schottky solar cell based on the perovskite semiconductor CsSnI3 thin-film. The cell consists of a simple layer structure of indium-tin-oxide/CsSnI3/Au/Ti on glass substrate. The measured power conversion efficiency is 0.9%, which is limited by the series and shunt resistance. The influence of light intensity on open-circuit voltage and short-circuit current supports the Schottky solar cell model. Additionally, the spectrally resolved short-circuit current was measured, confirming the unintentionally doped CsSnI3 is of p-type characteristics. The CsSnI3 thin-film was synthesized by alternately depositing layers of SnCl2 and CsI on glass substrate followed by a thermal annealing process.」(093901−1頁アブストラクト)
(当審訳:ペロブスカイト半導体CsSnI3薄膜を用いたショットキー太陽電池について述べる。この電池は、ガラス基板上にインジウム錫酸化物/CsSnI3/Au/Tiの単純な層構造で構成されている。測定された電力変換効率は、0.9%であり、直列抵抗と並列抵抗により制限されている。開放電圧及び短絡電流に対する光強度の影響は、ショットキー太陽電池モデルを支持するものである。さらにスペクトル分解された短絡電流を測定した結果、非意図的にドープされたCsSnI3はp型特性であることが確認された。CsSnI3薄膜は、ガラス基板上にSnCl2とCsIを交互に堆積させた後、熱アニール処理を行うことにより合成された。)

(ウ)「The current thin-film photovoltaic technologies can be classified by the different materials used for the light absorption layer in a solar cell. These materials include amorphous and polycrystalline silicon,1,2 CdTe,3,4 CuInxGa1-xSe2 (CIGS),5-7 GaAs,8 and photosensitive organic dyes.9,10 A transformative technology may emerge when another material is being discovered for thin-film photovoltaic applications. We reported the vacuum-based synthesis and characterization of CsSnI3 thin films11 and the preliminary results on its photovoltaic effect.12 It was confirmed that CsSnI3 possesses a direct band-gap of 1.3 eV at room temperature by optical spectroscopic methods and by first principles calculations. Recently, bulk polycrystalline CsSnI3 was synthesized by Bridgeman method, the high value of mobility for unintentionally doped holes was reported,13 and the material was used14 to replace the liquid electrolyte in dye-sensitized solar cells.」(093901−1頁左欄1行〜17行)
(当審訳:現在の薄膜太陽電池技術は、太陽電池の光吸収層に使用される様々な材料によって分類することができる。これらの材料には、アモルファスシリコン及び多結晶シリコン1,2、CdTe3,4、CuInxGa1−xSe2(CIGS)5−7、GaAs8、及び感光性有機色素9,10が含まれる。薄膜太陽電池用の新たな材料が発見されたとき、変革的な技術が生まれるかもしれない。我々は、CsSnI3薄膜11の真空合成とキャラクタリゼーションを行い、その光起電力効果に関する予備的な結果を報告した12。光学分光法と第一原理計算により、CsSnI3が室温で1.3eVの直接バンドギャップを有していることが確認された。最近、ブリッジマン法によりバルク多結晶CsSnI3を合成し、非意図的にドープされた正孔の移動度が高いことが報告された13。この材料は、色素増感型太陽電池の液体電解質の代替として利用されている14。)

(エ)「Here, we describe a Schottky solar cell based on CsSnI3. This cell consists of a simple thin layer structure of indium-tin-oxide (ITO)/CsSnI3/Au/Ti and possesses power conversion efficiency (PCE) of 0.9%. The influence of light intensity on open-circuit voltage (Voc) and short-circuit current density (Jsc) supports the Schottky solar cell model. Spectrally resolved Jsc was measured from 350 to 950 nm confirming the unintentionally doped CsSnI3 is of p-type characteristics. The spectral variation of Jsc is also compared with the photoluminescence excitation (PLE) spectrum at 300 K, revealing the photogenerated excitons are dissociated by the built-in electric field at Schottky junction and collected by external electrodes.」(093901−1頁左欄18行〜下から9行)
(当審訳:ここで我々は、CsSnI3を用いたショットキー太陽電池について述べる。この電池は、インジウム錫酸化物(ITO)/CsSnI3/Au/Tiの単純な層構造で構成されており、0.9%の電力変換効率(PCE)を有する。開放電圧(VOC)と短絡電流密度(JSC)に及ぼす光強度の影響は、ショットキー太陽電池モデルを支持するものである。スペクトル分解されたJSCは350〜950nmで測定され、非意図的にドープされたCsSnI3はp型特性であることが確認された。また、JSCのスペクトル変化と、300Kでのフォトルミネッセンス励起(PLE)を比較した所、光生成励起子は、ショットキー接合におけるビルトイン電場によって解離され、外部電極により回収されることが明らかとなった。)

(オ)「The CsSnI3 Schottky junction cell was fabricated on a Pyrex glass substrate. Thin metallic layers of Ti (100 nm) and Au (20 nm) were sequentially coated through the first shadow mask onto the glass substrate via e-beam evaporation. Six pairs of SnCl2/CsI were deposited through the second shadow mask by e-beam (for CsI) and thermal (for SnCl2) evaporation. The total thickness of the SnCl2/CsI stack was about 750 nm. The sample was brought to the ambient conditions and annealed at 175 °C on a hotplate for 1 min. The annealing process converts the SnCl2/CsI stack to a black thin-film of CsSnI3, which has intense photoluminescence peaking at 〜950 nm. The polycrystalline CsSnI3 thin-film with a typical grain size of 300 nm was dense and single-phased. The crystal quality of similar CsSnI3 thin-films was characterized and recently reported11 by scanning electron micrograph, transmission electron micrograph, x-ray diffraction patterns, and photoluminescence spectroscopy. The sample was then sent into a sputtering chamber for coating a thin ITO layer through the third shadow mask. The ITO film was measured to have a thickness of 〜80 nm and a sheet resistance of 〜50 ohm/square. A schematic diagram of the finished structure is shown in Fig. 1(a). The active area between Ti/Au, CsSnI3, and ITO is about 4 × 4 mm2. The Ti/Au and ITO pads were used for the J-V measurements.」(093901−1頁左欄下から8行〜右欄16行)
(当審訳:CsSnI3ショットキー接合電池は、パイレックスガラス基板上に作製された。Ti(100nm)とAu(20nm)の金属薄膜を、第一シャドウマスクを介して、電子ビーム蒸着によりガラス基板上に順次蒸着した。6組のSnCl2/CsIを、第二シャドウマスクを介して、電子ビーム蒸着(CsI用)と熱蒸着(CsCl2用)により成膜した。堆積したSnCl2/CsIの総厚みは、約750nmであった。サンプルを大気条件に戻し、ホットプレート上、175℃で1分間、アニールした。アニーリングプロセスにより、堆積したSnCl2/CsIは、黒色のCsSnI3薄膜に変換された。この薄膜は、〜950nmに強い発光ピークを有していた。典型的な粒径300nmの多結晶CsSnI3薄膜は、緻密で単相であった。走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、X線回折パターン、及びフォトルミネッセンス分光法により、類似のCsSnI3薄膜の結晶特性を評価し、最近報告した11。次いで、サンプルをスパッタリングチャンバーに送り、第三シャドウマスクを介して薄いITO層をコーティングした。測定されたITO膜の厚みは、〜80nmであり、シート抵抗は〜50Ω/squareであった。最終品の構造の模式図をFig.1(a)に示す。Ti/Au、CsSnI3、ITOの間の活性領域は、約4×4mm2である。J−V測定には、Ti/AuとITOのパッドを使用した。)

(カ)「FIG.1.



(キ)「There are a few main directions to further improve the CsSnI3 based solar cells. First, the polycrystalline quality of CsSnI3 can be further improved. One of ways is to use SnI2 as the precursor material instead of SnCl2 to eliminate the side product of CsCl2. In-situ thermal annealing may also improve the crystal quality. The second direction is to substantially reduce the series resistance. For example, the sheet resistance of ITO can be reduced to be less than 50 ohm/square. Detailed study of CsSnI3/ITO interface is also needed to reduce the series resistance and to enhance the shunt resistance. The third one is to find a suitable material candidate, an n-type semiconductor, to form a hetero-junction with CsSnI3, similar to the technologies of CdTe and CIGS solar cells. Perhaps, more difficult than others is to control the doping, so that the CsSnI3 based homo-pn-junction can be fabricated, fully utilizing the optimal band gap of CsSnI3.」(093901−3頁右欄25行〜下から6行)
(当審訳:CsSnI3ベースの太陽電池をさらに改良するために、いくつかの主要な方向性がある。まず、CsSnI3の多結晶性をさらに向上させることができる。一つの方法としては、CsCl2の副生成物を除去するために、SnCl2の代わりにSnI2を前駆体材料として使用することである。また、In−situ熱アニーリングにより結晶性を向上させることができるかもしれない。第2の方法は、直列抵抗を実質的に低減させることである。例えば、ITOのシート抵抗を50Ω/square未満とすることができる。また、直列抵抗の低減と並列抵抗の向上のためには、CsSnI3/ITO界面の詳細な検討が必要である。第3の方法は、CdTeやCIGS太陽電池の技術と同様に、CsSnI3とのヘテロ接合を形成するための適切な材料候補であるn型半導体を見つけることである。おそらく、他のものよりも難しいのは、CsSnI3の最適なバンドギャップを十分に利用して、CsSnI3ベースのホモpn接合を形成できるようにドーピングを制御することである。)

(ク)「In summary, experimental data are presented and discussed for the Schottky solar cells based on CsSnI3, recently identified as a direct semiconductor with an optimal band gap of 1.3 eV at room temperature for single homo-pn-junction solar cells. Although the power conversion efficiency for this prototype solar cell based on CsSnI3 is only near 1%, it provides a promising platform for thin-film based solar cells.」(093901−3頁右欄下から5行〜093901−4頁左欄2行)
(当審訳:要約すると、単一ホモpn接合太陽電池のための室温で1.3eVのバンドギャップを持つ直接半導体として最近同定されたCsSnI3をベースとしたショットキー太陽電池の実験データを示し、議論を行った。このCsSnI3を用いた試作太陽電池の電力変換効率は1%程度であるが、薄膜太陽電池の有望なプラットフォームを提供することができる。)

イ 上記アによれば、引用文献1(申立人1甲1)には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。なお、引用発明等の認定に用いた箇所を参考までに括弧内に記載してある(以下同じ。)。
「ペロブスカイト半導体CsSnI3薄膜を用いたショットキー太陽電池であって、(上記ア(イ))
ガラス基板上にインジウム錫酸化物/CsSnI3/Au/Tiの単純な層構造で構成されており、(同(イ))
CsSnI3薄膜は、6組のSnCl2/CsIを、第二シャドウマスクを介して、電子ビーム蒸着(CsI用)と熱蒸着(CsCl2用)により成膜したものであって、(同(オ))
堆積したSnCl2/CsIの総厚みは、約750nmであり、(同(オ))
サンプルを大気条件に戻し、ホットプレート上、175℃で1分間、アニールし、アニーリングプロセスにより、堆積したSnCl2/CsIは、黒色のCsSnI3薄膜に変換されたものであり、(同(オ))
この薄膜は、〜950nmに強い発光ピークを有しており、(同(オ))
典型的な粒径300nmをもつ多結晶CsSnI3薄膜は、緻密で単相である、(同(オ))
ショットキー太陽電池。」

(2)申立人1甲2
申立人1甲2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
a 「光電変換層(i層)がn型層とp型層の間に配置されている構造を備えた太陽電池」(【0003】・図7)

b 「i層の膜厚が1μm以上10μm以下であること」(【0029】)

c 「タンデム型シリコン系太陽電池(タンデム型Si太陽電池)(NIP型)」(【0046】・図5)

(3)申立人1甲3
申立人1甲3(以下「引用文献2」ともいう。)には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
a 「CsSnI3の利点は、この半導体材料の溶液相がTiO2のナノ細孔に拡散し、溶媒除去後に固相として安定化することであること」(487頁右欄20行〜27行)

b 「CsSnI3が、厚さ10μmのナノポーラスTiO2からなる電極の細孔を効果的に満たし、TiO2の表面で結晶化していること」(487頁右欄33行〜488頁左欄10行)

c 「CsSnI3−xFx(0≦x≦1)化合物が存在すること」(489頁左欄28行〜34行)

(4)申立人1甲4
申立人2甲1と同じであり、後記(9)で認定する。

(5)申立人1甲5
申立人1甲5には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「太陽電池において、半導体膜で構成される光吸収層の厚さとして、0.3〜3.0μmの範囲のもの」(【0049】・【0054】・図1)

(6)申立人1甲6
申立人1甲6には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「太陽電池において、半導体膜で構成される光吸収層の厚さとして、0.3〜3.0μmの範囲のもの」(【0049】・【0054】・図1)

(7)申立人1甲7
申立人1甲7には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「半導体層を能動層として用いる薄膜太陽電池において、半導体薄膜の膜厚を200nm以上とすることにより、太陽光を十分に吸収し発電能力の高い太陽電池を提供しうること」(請求項17・【0030】)

(8)申立人1甲8(申立人3甲2も同じ)
申立人1甲8には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
a 「(CH3NH3)PbI3のナノ粒子を光捕集材(ライトハーベスタ)として採用した固相メゾスコピック太陽電池を報告すること」(1頁11行〜12行)

b 「0.6mm厚のメソポーラスTiO2膜上に堆積した(CH3NH3)PbI3ペロブスカイトナノ粒子に基づく固体素子は、AM1.5G態様照射下で、9.7%のPCEに相当する17.6mA/cm2の高い短絡光電流密度、888mVの開回路電圧及び0.62のフィルファクター(FF)を示しており、このような非常に高い発電効率は、ペロブスカイトナノ粒子が有する大きな光吸収断面積と、正孔導体による完全な細孔充填を含む十分に発達した界面構造とを有するサブミクロン厚のTiO2膜によって達成することができること」(3頁左欄11行〜31行)

c 「開回路電圧(VOC)及びFFは、TiO2の膜厚が増加すると減少し、PCE(η)はTiO2の膜厚が増加するにつれ明らかに減少すること」(3頁左欄32行〜右欄3行)

d 「太陽電池の製造においては、調整したメソポーラスTiO2膜をペロブスカイト前駆体溶液でコーティングした後、100℃で15分間加熱し、その後、正孔輸送材料(HTM)溶液を(CH3NH3)PbI3増感TiO2膜にコーティングしたこと」(6頁右欄20行〜47行)

(9)申立人2甲1(申立人1甲4も同じ)
ア 申立人2甲1には以下の記載がある。
(ア)「Organometal Halide Perovskites as Visible-Light Sensitizers for Photovoltaic Cells」(タイトル)
(当審訳:光電池用可視光増感剤としてのハロゲン化有機金属ペロブスカイト)

(イ)「In this report, we show a photovoltaic function of the perovskite nanocrystalline particles self-organized on TiO2 as n-type semiconductors. Solar energy was converted with an efficiency of 3.8% on a CH3NH3PbI3-based cell, while a high photovoltage of 0.96 V was obtained with a CH3NH3PbBr3-based cell.」(6050頁左欄25行〜30行)
(当審訳:本報告において筆者らはn型半導体であるTiO2上で自己組織化したペロブスカイトナノ結晶粒子の光起電力機能を明らかにする。CH3NH3PbI3利用セルでは太陽エネルギーを3.8%の効率で変換でき、CH3NH3PbBr3利用セルでは0.96Vもの高電圧が得られた。)

(ウ)「Each photoelectrode was prepared on a fluorine-doped SnO2 transparent conductive glass (FTO, 10 Ω/sq, Nippon Sheet Glass) as a substrate, the surface of which had been pretreated by soaking in a 40 mM TiCl4 aqueous solution at 70 °C for 30 min to form a thin TiO2 buffer layer. A mesoporous film of TiO2 (n-type semiconductor) was prepared on the above-treated FTO by coating with a commercial nanocrystalline TiO2 paste (see the Supporting Information) using a screen printer and sintering at 480 °C for 1 h in air. The resultant TiO2 film had a thickness of 8-12 μm. Nanocrystalline particles of CH3NH3PbX3 (X = Br, I) were deposited on the TiO2 surface by a self-organization process starting with the coating of a precursor solution containing stoichiometric amounts of CH3NH3X and PbX2. CH3NH3Br and CH3NH3I were synthesized from HBr and HI, respectively, by reaction with 40% methylamine in methanol solution followed by recrystallization. Synthesis of CH3NH3PbBr3 on the TiO2 surface was carried out by dropping onto the TiO2 film a 20 wt % precursor solution of CH3NH3Br and PbBr2 in N,N-dimethylformamide; subsequent film formation was done by spin-coating.(8) For CH3NH3PbI3, an 8 wt % precursor solution of CH3NH3I and PbI2 in γ-butyrolactone was employed. The liquid precursor film coated on the TiO2 gradually changed color simultaneously with drying, indicating the formation of CH3NH3PbX3 in the solid state. A vivid color change from colorless to yellow occurred for CH3NH3PbBr3 and from yellowish to black for CH3NH3PbI3. X-ray diffraction analysis (Rigaku RINT-2500) for CH3NH3PbBr3 and CH3NH3PbI3 prepared on TiO2 showed that both materials have crystalline structures that can be assigned to the perovskite form. CH3NH3PbBr3 gave diffraction peaks at 14.77, 20.97, 29.95, 42.9, and 45.74°, assigned as the (100), (110), (200), (220), and (300) planes, respectively, of a cubic perovskite structure with a lattice constant of 5.9 Å.(9) CH3NH3PbI3 gave peaks at 14.00 and 28.36° for the (110) and (220) planes, respectively, of a tetragonal perovskite structure with a = 8.855 Å and c = 12.659 Å.(9) Scanning electron microscopy (SEM) observation of the CH3NH3PbBr3-deposited TiO2 showed nanosized particles (2-3 nm) that existed here and there on the TiO2 and/or CH3NH3PbBr3 surface (Figure 1).」(6050頁左欄31行〜右欄23行)
(当審訳:それぞれの光電極は、フッ素をドープしたSnO2透明導電性ガラス(FTO、10Ω/□、日本板硝子)を支持体として、その上に作成した。支持体の表面には、予め40mMのTiCl4水溶液中に70℃で30分間浸漬することで薄層TiO2バッファー層を設けておいた。このような処理をしたFTO上に、市販のナノ結晶性TiO2ペースト(下記、補足情報を参照)をスクリーンプリンターによって塗布し、空気中480℃で1時間焼成して、TiO2(n型半導体)のメソポーラス層を作成した。得られたTiO2層の厚さは8から12μmであった。化学量論量のCH3NH3XとPbX2を含む前駆体溶液を塗布すると、自己組織化プロセスが開始され、TiO2表面にCH3NH3PbX3(X=Br、I)のナノ結晶粒子が析出した。CH3NH3BrとCH3NH3Iは、それぞれ、HBrおよびHIからメチルアミンの40%メタノール溶液と反応させたのち再結晶をすることで合成した。TiO2表面上におけるCH3NH3PbBr3の合成は、CH3NH3BrとPbBr2をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させた20重量%前駆体溶液をTiO2膜に滴下し、スピンコーティングによって成膜することで行った8。CH3NH3PbI3用には、γ−ブチロラクトンにCH3NH3IとPbI2を溶解させた8重量%前駆体溶液を用いた。TiO2上に塗布した液体前駆体溶液膜は、乾燥するにつれて徐々に変色し、固体のCH3NH3PbX3が形成されたことを示した。CH3NH3PbBr3では無色から黄色に、CH3NH3PbI3では淡黄色から黒色への鮮やかな変色が起こった。TiO2上に形成されたCH3NH3PbBr3およびCH3NH3PbI3のX線回折(リガク RINT2500)によって、どちらの物質もペロブスカイト型に同定できる結晶構造を有することが分かった。CH3NH3PbBr3の回折ピークは、14.77、20.97、29.95、42.9および45.74°にあり、これらは、それぞれ、格子定数5.9Åの立方晶ペロブスカイト型構造における(100)、(110)、(200)、(220)および(300)面に同定された。CH3NH3PbI3の回折ピークは、14.00および28.36°にあり、これらは、それぞれ、a=8.855Å、c=12.659Åの四面体ペロブスカイト型構造における(110)および(220)面に相当した。CH3NH3PbBr3が析出したTiO2を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、ペロブスカイトのナノ粒子(2から3nm)が、TiO2および/またはCH3NH3PbBr3表面の上に、存在する(図1)。)

(エ)「



(オ)「Figure 1. (a) Crystal structures of perovskite compounds. (b) SEM image of particles of nanocrystalline CH3NH3PbBr3 deposited on the TiO2 surface. The arrow indicates a particle, and the scale bar shows 10 nm.」(図1の注釈)
(当審訳:図1.(a)ペロブスカイト化合物の結晶構造。(b)TiO2表面に析出したナノ結晶性CH3NH3PbBr3粒子のSEM写真。矢印は粒子を指し示し、スケールバーは10nmを表す。)

(カ)「A photovoltaic cell was constructed by combining the CH3NH3PbX3-deposited TiO2 electrode (CH3NH3PbX3/TiO2) as the photoelectrode (anode) and a Pt-coated FTO glass as the counter electrode (cathode) with insertion of a 50 μm thick separator film. The gap between the electrodes was filled with an organic electrolyte solution containing lithium halide and halogen as a redox couple; the CH3NH3PbBr3/TiO2-based cell employed an electrolyte consisting of 0.4 M LiBr and 0.04 M Br2 dissolved in acetonitrile, while the CH3NH3PbI3/TiO2-based cell employed 0.15 M LiI and 0.075 M I2 dissolved in methoxyacetonitrile.」(6050頁右欄下から14行〜下から5行)
(当審訳:光電極(アノード)としてCH3NH3PbX3が析出したTiO2電極(CH3NH3PbX3/TiO2)、対電極(カソード)としてPt被覆FTOガラス電極を、間に厚さ50μmの分離フィルムを介して組み合わせて光起電力セルを作成した。電極間には、酸化還元対としてハロゲン化リチウムとハロゲンを含有する有機電解質溶液を満たした。すなわち、CH3NH3PbBr3/TiO2を利用したセルではアセトニトリル中に0.4MのLiBrと0.04MのBr2を溶解させた電解質を用い、一方、CH3NH3PbI3/TiO2を利用したセルではメトキシアセトニトリル中に0.15MのLiIと0.075MのI2を溶解させた電解質を用いた。)

イ 上記アによれば、申立人2甲1には、次の発明(以下「申立人2甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「n型半導体であるTiO2上で自己組織化したペロブスカイトナノ結晶粒子の光起電力機能を明らかにしたものであって、(上記ア(イ))
それぞれの光電極は、フッ素をドープしたSnO2透明導電性ガラス(FTO)を支持体として、その上に作成し、支持体の表面には、薄層TiO2バッファー層を設けておき、このような処理をしたFTO上に、市販のナノ結晶性TiO2ペーストをスクリーンプリンターによって塗布し、空気中480℃で1時間焼成して、TiO2(n型半導体)のメソポーラス層を作成し、得られたTiO2層の厚さは8から12μmであり、(同(ウ))
化学量論量のCH3NH3XとPbX2を含む前駆体溶液を塗布すると、自己組織化プロセスが開始され、TiO2表面にCH3NH3PbX3(X=Br、I)のナノ結晶粒子が析出し、TiO2上に形成されたCH3NH3PbBr3およびCH3NH3PbI3のX線回折によって、どちらの物質もペロブスカイト型に同定できる結晶構造を有することが分かっており、CH3NH3PbBr3が析出したTiO2を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、ペロブスカイトのナノ粒子(2から3nm)が、TiO2および/またはCH3NH3PbBr3表面の上に、存在しており、(同(ウ))
光電極(アノード)としてCH3NH3PbX3が析出したTiO2電極(CH3NH3PbX3/TiO2)、対電極(カソード)としてPt被覆FTOガラス電極を、間に厚さ50μmの分離フィルムを介して組み合わせ、(同(カ))
電極間には、酸化還元対としてハロゲン化リチウムとハロゲンを含有する有機電解質溶液を満たして作成した(同(カ))
光起電力セル。」

(10)申立人2甲2
ア 申立人2甲2には以下の記載がある。
(ア)「有機無機ペロブスカイト化合物を増感剤に用いた光電気化学セル」(86頁1行)

(イ)「有機化合物・無機化合物が持つ望ましい特性を持つマテリアルとして有機・無機複合材料が挙げられる。これらの複合化合物ではそれぞれ固有の電子及び光学特性が観測されており、ELデバイス等への応用に関する報告もある。また、これらの化合物の中には溶液プロセスによる薄膜形成が可能な物質も存在し、そのうちの1つに有機無機ペロブスカイト化合物が挙げられる。本研究ではハロゲン化鉛系の有機無機ペロブスカイト化合物に関し、フォトルミネッセンス特性や、増感剤としての湿式太陽電池への応用について検討を進めている。
ペロブスカイト型構造(Fig.1)は、一般にABX3(A,B:陽イオン、X:陰イオン)の化学組成で表され、灰チタン石CaTiO3に代表される化合物である。Aイオンとしてはアルカリ土類金属やアルカリ金属および希土類金属、Xイオンはフッ素や塩素、酸素などが典型的であり、Bイオンに関してはAイオンやXイオンの電荷に依存し、広い種類がある。
これらの各イオンの多種多様な組み合わせにより得られる化合物はエネルギー変換機能をはじめ、強誘電性、超伝導性、電子及びイオン伝導性などの特性を示す。ハロゲン化物の中にもペロブスカイト構造をとるイト化合物は結晶性が高く低次元構造を自己組織的に構築する。現在までに、ヨウ化鉛系有機無機複合化合物において無機層が0−3次元構造をとることが知られている。」(86頁15行〜末行)

(ウ)Fig.1は次のとおりである。


イ 上記アによれば、申立人2甲2には、次の発明(以下「申立人2甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「ハロゲン化鉛系の有機無機ペロブスカイト化合物を増感剤に用いた湿式太陽電池。」

(11)申立人2甲3
申立人2甲3には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
a 「ABX3ペロブスカイトの基本構造として、3次元的なものが存在すること」(11頁1行〜3行・図5)

b 「混合カチオン系(CH3NH3)1−x(NH2CH=NH2)xSnI3は、x=0.5で合成されてきたが、この混合系は、立方晶系格子定数の関数として物理特性を研究することができること」(15頁12行〜16頁5行)

c 「真空蒸着あるいはスピンコーティングで基板上に金属ハロゲン化物の膜を形成し、この無機薄膜をヨウ化有機アンモニウムを含む室温溶液中に短時間浸漬することで、基板上に対応する有機無機ペロブスカイトの単相試料が形成されること」(79頁下から3行〜80頁6行)

d 「14族金属ハライド系における強いフォトルミネッセンスとペロブスカイトシートの面内におけるキャリアの相当程度の移動度は、エレクトロルミネッセンスが観測される可能性を示唆するところ、ITOアノード、(C6H5C2H4NH3)2PbI4発光層、OXD7電子輸送(ホールブロッキング)層及びMgAgカソードからなる発光素子が製造されたこと」(102頁下から5行〜106頁末行)

(12)申立人2甲4
申立人2甲4には、次の記載がある。
「本件の二層有機セルの物性は、より効率的な無機p−n接合太陽電池の物性とよく似ている。しかしながら、本件の二層有機セルの結果を、p−n接合の挙動という見地から単純に説明するのは適切ではないかもしれない。CuPcが、単結晶であっても薄膜であっても、室温ではp型半導体のような挙動を示す11,12ことは良く知られているが、この挙動は必ずしも、キャリア濃度が真性もしくは外因性シャロードーパントによって影響され得ることを示唆するものではない。」(184頁右欄9行〜17行)

(13)申立人2甲5
申立人2甲5には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「CH3NH3PBX3化合物として、X3がBr2.3Cl0.7、Br2.07I0.93及びBr0.45I2.55のものが存在すること」(1443頁右欄の表1)

(14)申立人2甲6
申立人2甲6には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「イントリンシック非ドープGaNPAs層を含むn−i−p上部セルと、シリコン底部セルとを積層した構造」(1頁右欄の図1)

(15)申立人2甲7
申立人2甲7には、次の記載がある。
「2.多孔質固体の定性的説明
特定の場合では、より限定的な定義が適当なことがあるかもしれないが、空隙、流路、割れ目などを含有する固体材料はどれも多孔質であると見なせるだろう。従って、多孔質固体を論じる場合、曖昧さを排除するために術語の選択には注意を払わなければならない。例えば、図1を用いて外部流体の利用しやすさに応じて気孔を分類することができる。このような観点から第一に分類される気孔は、(a)の領域のような周囲から完全に隔絶されている気孔であり、閉鎖気孔と言われるものである。これらは、かさ密度、機械的強度、熱伝導といった巨視的な物性に影響を与えるが、流体の流れや気体の吸収といった物性については影響しない。一方、(b)、(c)、(d)、(e)および(f)のような物体の外表面と連絡する連続流路を有するような気孔は開口気孔と言われるものである。これらのなかには、(b)や(f)のように、一端のみが開いているものがあるが、これらはブラインド(すなわち、行き止まり、袋状)気孔と言われる。他のものは(e)のように(気孔を通じて)両端が開いている気孔である。気孔は、その形状によって分類することもできる。すなわち、円筒型(開口気孔(c)あるいは閉鎖気孔(f))、インク瓶型(b)、漏斗型(d)、スリット型などである。(g)の近辺に表されている外表面の凹凸は、多孔性と似て非なるものである。この区別をするには、表面の凹凸が広がりよりも深くなっていない限りは、粗い表面は多孔質ではないと考えるのが便利で簡単な従来からの考え方である。」(1742頁下から13行〜1743頁4行)、




(16)申立人2参考資料1
申立人2参考資料1には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「P3HT/PCBM太陽電池セルにおける計算による光吸収の活性層膜厚(0〜800nm)依存性」(327頁左欄)

(17)申立人2参考資料2
申立人2参考資料2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「p型材料にP3HT、n型材料にPCBMを用いた有機薄膜太陽電池デバイスにおいて活性層の膜厚として70nm、120nm、190nm及び250nmのものを製造し、当該膜厚とともに変換効率が上昇することが見いだされたこと」(9頁の表2.1・22頁1行〜11行)

(18)申立人3甲1及び申立人3甲1(韓国出願)
申立人3甲1は、2013年9月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年9月12日、韓国)を国際出願日とする国際出願(以下「先願4」という。なお、先願4は国内公表されている。)に係るものであるところ、先願4は、本件優先日前に優先権主張された外国語特許出願であって、本件特許に係る出願後に国際公開がされたものであるから、先願4の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「先願4当初明細書等」という。)に記載された発明に基づいて本件訂正発明の特許性を否定するためには、その発明が、先願4の優先権主張の基礎となる出願(以下「先願4基礎出願」という。)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(申立人3甲1(韓国出願)であり、以下「先願4基礎出願当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内であることを要する。そこで、以下、摘記は、先願4当初明細書等に加えて、先願4基礎出願当初明細書等についても行うこととする。
ア 先願4当初明細書等には、次の記載がある。なお、先願4当初明細書等は韓国語で表されているため、以下、原文の摘記を省き、国内公表に係る特表2015−529982号公報に基づく訳文を記載することとして、記載箇所は、当該公報の段落番号をもって特定する。
(ア)「第1電極と、
第1電極上に位置し、光吸収体が取り込まれた複合層と、
前記複合層の上部に位置し、光吸収体からなる光吸収構造体と、
前記光吸収構造体の上部に位置する正孔伝導層と、
前記正孔伝導層の上部に位置する第2電極と、を含む太陽電池。」(【請求項1】)、
「光吸収構造体は、光吸収体ピラー、光吸収体薄膜、または光吸収体薄膜上に突出した光吸収体ピラーを含む、請求項1に記載の太陽電池。」(【請求項5】)、
「前記複合層は、光吸収体が取り込まれた多孔性金属酸化物層を含む、請求項1に記載の太陽電池。」(【請求項13】)

(イ)「複合層の上部に突出して存在するピラーによる複合層表面カバレッジ(=Cov/Surf)は、光吸収構造体が位置する複合層の上部表面の全体表面積を基準として、表面積の5%(Cov/Surf=0.05)以上を覆う程度である場合、ピラーによる発電効率の増加が現われ、好ましくは10%(Cov/Surf=0.1)以上である。ピラーによる複合層表面カバレッジが25%(Cov/Surf=0.25)以上である場合、太陽電池が10%以上の発電効率を有し、ピラーによる複合層表面カバレッジが70%(Cov/Surf=0.70)以上である場合、太陽電池が15%以上の発電効率を有することができる。この際、ピラーの密度が極めて高い場合、光吸収構造体は、互いに離間して独立したピラーの形態でなく、多孔膜または緻密膜に近い光吸収体薄膜構造に該当するため、ピラーによる複合層表面カバレッジの上限は100%(Cov/Surf=1)に至ることができる。しかし、連続体の形成有無を基準として、非常に高い密度のピラーと多孔膜を分けようとする場合、すなわち、ピラーを、連続体でなく互いに離間して独立した突出構造(互いに離間して独立したピラー)に限定する場合には、ピラーの具体的な大きさおよび形状によって変わるが、ピラーによる複合層表面カバレッジの上限は80%(Cov/Surf=0.80)、具体的には75%(Cov/Surf=0.75)、より具体的には70%(Cov/Surf=0.70)であることができる。」(【0100】)

(ウ)「多孔性電極に備えられる第1電極は、電子伝達体(金属酸化物)とオーミックコンタクトされる伝導性電極であればよく、光の透過を向上させるためには透明伝導性電極が好ましい。・・・」(【0117】)

(エ)「詳細に、複合層の光吸収体および前記光吸収構造体の光吸収体は、互いに独立して、下記化学式4乃至7を満たす化合物から選択される1つまたは2つ以上であることができる。」(【0163】)、
「一例として、化学式4または化学式5中、R1は、C1−C24のアルキル、好ましくはC1−C7アルキル、より好ましくはメチルであることができる。具体的な一例として、ペロブスカイト構造の化合物は、CH3NH3PbIxCly(0≦x≦3である実数、0≦y≦3である実数、およびx+y=3)、CH3NH3PbIxBry(0≦x≦3である実数、0≦y≦3である実数、およびx+y=3)、CH3NH3PbClxBry(0≦x≦3である実数、0≦y≦3である実数、およびx+y=3)、およびCH3NH3PbIxFy(0≦x≦3である実数、0≦y≦3である実数、およびx+y=3)から選択される1つまたは2つ以上であることができ、また、(CH3NH3)2PbIxCly(0≦x≦4である実数、0≦y≦4である実数、およびx+y=4)、CH3NH3PbIxBry(0≦x≦4である実数、0≦y≦4である実数、およびx+y=4)、CH3NH3PbClxBry(0≦x≦4である実数、0≦y≦4である実数、およびx+y=4)、およびCH3NH3PbIxFy(0≦x≦4である実数、0≦y≦4である実数、およびx+y=4)から選択される1つまたは2つ以上であることができる。」(【0173】)

イ 先願4基礎出願当初明細書等には、次の記載がある。なお、先願4基礎出願当初明細書等は韓国語で表されているため、以下、原文の摘記を省き、当審の訳を記載する。
(ア)「多孔性電極に光吸収体が取り込まれた複合層、前記複合層の上部に位置し、前記複合層から延びた光吸収体薄膜、光吸収体ピラー(pillar)、又は光吸収体薄膜上に突出した光吸収体ピラーの形態を有する光吸収構造体、前記光吸収構造体の上部に位置する正孔導電層、及び前記正孔導電層の上部に位置する第2電極を含む、太陽電池。」(【請求項1】)

(イ)「前記多孔性電極は、第1電極、及び前記第1電極の上部に形成された多孔性金属酸化物層を含む、請求項1に記載の太陽電池。」(【請求項10】)

(ウ)「【発明が解決しようとする課題】」、
「本発明は、光の吸収により生成された光電子及び光正孔の分離効率に優れ、再結合による光正孔の損失が防止され、光正孔の方向性のある移動が可能であり、厚みの薄い光電極においても高い光吸収度を有し、光吸収体と電子輸送体及び正孔輸送体が非常に広い比表面積で接し、簡単かつ容易な方法で製造可能であるため、安価で大量生産が可能な、新規な構造の太陽電池を提供する。」(【0019】)

(エ)「本発明の一実施形態に係る太陽電池において、光を吸収して光正孔及び光電子の対を生成する光吸収体は、複合層及び光吸収構造体に存在するが、このような構造により、非常に薄い薄膜型太陽電池においても高い光吸収率を有し得る。」(【0063】)、
「本発明の一実施形態に係る太陽電池において、光吸収構造体は、複合層から延びた構造を有していてもよい。延びた構造とは、複合層に含有された光吸収体と光吸収構造体とが一体になった構造を意味することができる。詳しくは、光吸収構造体は、単一工程によって複合層に含有された光吸収体と同時に形成されたものであるか、又は複合層に含有された光吸収体から成長したものであってもよい。前述のように、光吸収構造体が複合層から延びた構造を有することにより、複合層と光吸収層との間で光正孔が移動する際にスキャタリング・・・による損失を防止することができる。すなわち、前述の延びた構造は、ピラーの一端が複合層と結合された構造、又は薄膜の一表面が複合層と結合された構造を意味することができ、前記光吸収構造体と前記複合層が一体になった構造を意味することができ、前記光吸収構造体が前記複合層に含有された光吸収体と一体になった構造を意味することができ、前記光吸収構造体が前記複合層から成長して形成されたことを意味することができ、前記光吸収構造体が前記複合層に含有された光吸収体から成長して形成されたことを意味することができる。」(【0064】)、
「本発明の一実施形態に係る太陽電池において、光吸収構造体は、ピラーのような凹凸構造を有することが好ましい。」(【0065】)、
「ピラーを含む光吸収構造体が備えられる場合、光吸収体で生成された光電子は、複合層の電子輸送体或いは光吸収体の支持体として機能する多孔性電極と光吸収体との広い接触面積により、極めて円滑で効果的に電子の分離及び移動が行われることができ、光吸収体で生成された光正孔は、複合層から突出して延びたピラーにより、一定の方向、つまり第2電極方向に移動することができ、電極(第2電極)と平行な面への移動が最小化されることで光正孔の効果的な移動が可能であり、再結合による損失を防止することができる。」(【0066】)、
「すなわち、前記光吸収体から光を吸収し、一定の光正孔を生成したとしても、光正孔が第2電極に移動する前に再結合により消滅してしまうため、全体的な光電変換効率を減少させることがある。しかし、前記複合層から延びたピラーによって制限的な光正孔の移動経路を提供することで、光吸収体で生成された光正孔の移動方向が第2電極方向へと制限され、電極に平行な方向には移動が防止されるため、再結合による損失を最小限に抑えることができる。」(【0067】)、
「また、光吸収構造体の上部に有機系の正孔伝達物質を含む正孔導電層をさらに形成する場合、ピラーによる凹凸によって第2電極又は正孔輸送物質と光吸収体(光吸収構造体の光吸収体)との接触面積が広くなり、光正孔を極めて効果的に分離でき、光正孔の効果的な移動を確実にすることができる。また、光電流の損失を防止できるとともに、増大された光活性領域を有し、光電子、光正孔の効果的な分離及び移動が可能であるため、同一出力の太陽電池を設計する場合、より小型化された太陽電池を具現化できる。」(【0068】)、
「・・・ピラーの厚さは、10nm〜1,000nmであってもよい。・・・」(【0087】)、
「ピラーの密度が極めて高い場合、光吸収構造体は、互いに離隔した島(island)状ではなく、多孔性膜又は緻密膜の光吸収体薄膜構造に該当するため、ピラー密度の上限は100%に至り得る。しかし、互いに離隔して位置する島(island)状のピラー構造において、ピラーの密度は、複合層の上部表面の全体表面積を基準として、80%以下であり得る。」(【0089】)、
「本発明の一実施形態に係る太陽電池において、光吸収構造体は、複合層から延びた光吸収体薄膜又は前述の光吸収体ピラーが形成された光吸収体薄膜であってもよい。この際、光吸収体薄膜の厚さは、10nm〜1,000nmであってもよい。」(【0097】)、
「本発明の一実施形態に係る太陽電池において、前述のように、第2電極の対極であってもよく、光電子を伝達する電子輸送体或いは光吸収体を支持する支持体として機能することができる。そのために、多孔性電極は、第2電極の対極である第1電極、及び第1電極の上部に形成され、電子輸送体或いは光吸収体の支持体として機能する多孔性金属酸化物層を含んでいてもよく、前記多孔性電極は、前記第1電極と前記多孔性金属酸化物層との間に位置する金属酸化物薄膜をさらに含んでいてもよい。」(【0099】)、
「本発明の一実施形態に係る太陽電池において、多孔性電極に備えられる前記第1電極は、前記多孔性金属酸化物層とオーミックコンタクトされる透明導電性電極であればよい。・・・」(【0100】)、
「本発明の一実施形態に係る太陽電池において、前記複合層の光吸収体及び前記光吸収構造体の光吸収体は、互いに独立して、下記化学式3〜6を満たす化合物から1つ又は2つ以上選択されてもよい。」(【0124】)、
「(化学式3)」(【0125】)、
「(R1−NH3+)MX3」(【0126】)、
「(化学式4)」(【0128】)、
「(R1−NH3+)2MX4」(【0129】)、
「より詳しくは、前記化学式3又は化学式4中、R1は、メチルであってよい。実質的な一例として、前記ペロブスカイト構造の化合物は、CH3NH3PbIxCly(0≦x≦3、0≦y≦3、及びx+y=3)、CH3NH3PbIxBry(0≦x≦3、0≦y≦3、およびx+y=3)、CH3NH3PbClxBry(0≦x≦3、0≦y≦3、およびx+y=3)、及びCH3NH3PbIxFy(0≦x≦3、0≦y≦3、およびx+y=3)から1つ又は2つ以上選択されてもよ・・・い。」(【0138】。当審注:「H3NH3PbIxCly」は「CH3NH3PbIxCly」の明らかな誤記と認められるので、誤記を正して摘記した。)、

(オ)「図1は、本発明の一実施形態に係る太陽電池の断面図を図示した一例であり、図1(a)は、光吸収構造体200が互いに離隔配列された島状の光吸収体である場合、すなわち、光吸収構造体200が光吸収体ピラーからなる場合を図示した例であり、図1(b)は、光吸収構造体200が光吸収体薄膜からなる例を図示した例であり、図1(c)は、光吸収構造体200が光吸収体薄膜220及び前記光吸収体薄膜220上に光吸収体薄膜から延びて突出した光吸収体ピラー210からなる場合を図示した例である。」(【0156】)、


」、
「図1に図示したように、本発明の一実施形態に係る太陽電池は、多孔性電極に光吸収体が取り込まれた複合層100、前記複合層100から延びて光吸収体からなる光吸収構造体200、前記光吸収構造体200が形成された複合層100の上部に位置する正孔導電層300、及び第2電極400を含んでいてもよい。」(【0157】)

(カ)「以下、本発明の一実施形態に係る太陽電池の製造方法について詳しく説明する。」(【0163】)、
「前記複合層は、第1電極の上部に多孔性金属酸化物を形成して多孔性電極を製造した後、多孔性電極の多孔性金属酸化物層の気孔に光吸収体を形成することにより製造することができる。・・・」(【0164】)、
「第1電極に多孔性金属酸化物層を形成して多孔性電極を製造した後、光吸収体形成段階を行ってもよい。」(【0174】)、
「光吸収体形成段階は、多孔性電極の開気孔内に光吸収体が形成されるようにする複合体形成段階、及び光吸収体ピラー形成段階の複数の段階により行ってもよく、又は、多孔性電極の開気孔内に光吸収体を形成すると同時に光吸収体ピラーを形成する一つの段階により行ってもよい。」(【0175】)、
「複数の段階で光吸収体を形成する場合、複合体形成段階は、化学溶液溶出法(CBD;・・・)、又は連続イオン層吸着及び反応法(SILAR;・・・)を用いて多孔性電極に光吸収体を形成してもよく、ピラー形成段階は、光吸収体が取り込まれた多孔性電極の一表面を覆う光吸収体薄膜を形成して光吸収構造体を製造するか、形成された光吸収体薄膜を膜の厚さ方向に部分エッチングすることで光吸収体ピラーが離隔配列された光吸収構造体を製造するか、又は形成された光吸収体薄膜を膜の厚さ方向に部分エッチングすることで、下部は薄膜で、上部は互いに離隔配列されたピラー状である光吸収構造体を形成してもよい。」(【0176】)、
「前記光吸収構造体形成段階は、複合層の上部に光吸収体薄膜を形成するか、又は光吸収体薄膜を形成した後、光吸収体薄膜を厚さ方向にエッチングすることで行ってもよい。・・・」(【0179】)、
「この際、光吸収体薄膜の厚さを調節して、製造しようとするピラーの長さを制御することができ、乾式エッチングの際に、光吸収体の上部にエッチングマスクを形成して、ピラーの大きさ、形状、及び密度を制御できることは言うまでもない。」(【0180】)、
「一つの段階で光吸収体を形成する場合、複合体の形成及び光吸収構造体の形成は単一の段階で行うことができ、光吸収体が溶解された溶液の塗布及び乾燥という、極めて簡単かつ容易な方法(以下、溶液塗布法)を用いて複合体及び光吸収構造体を形成することができる。」(【0181】)、
「詳しくは、溶液塗布法は、光吸収体が溶媒に溶解された光吸収体溶液を多孔性電極に塗布した後、乾燥することで行うことができる。光吸収体溶液の溶媒としては、光吸収体を溶解し、乾燥する際に容易に揮発除去される溶媒であればよい。一例として、溶媒は、非水系極性有機溶媒であってもよく、例えば、ガンマ−ブチロラクトン、・・・ジメチルホルムアルデヒド、・・・から選択される1つ又は2つ以上のものであってもよい。光吸収体溶液の塗布方法としては、半導体工程で用いられる通常の液状塗布法であれば用いることができるが、多孔構造の電極であるため、均一に液を塗布するために、スピンコート法を用いるのが好ましい。」(【0182】)、
「この際、光吸収体溶液に含有される光吸収体の濃度、塗布量、塗布方法(スピンコート時の回転速度)及び乾燥条件から選択される1つ又は2つ以上の因子を制御することで、複合体内の光吸収体の含有量、光吸収構造体の形状(フィルム又はピラー)、光吸収構造体の厚さ(フィルム)、ピラーの大きさ、密度及び/又は形状を制御することができ、光吸収体溶液の塗布及び乾燥を一つの単位工程として、前記単位工程を繰り返し行うことで、複合体内の光吸収体の含有量、光吸収構造体の形状(フィルム又はピラー)、光吸収構造体の厚さ(フィルム)、ピラーの大きさ、密度及び/又は形状を制御することができる。」(【0183】)、
「詳しくは、溶液内の光吸収体の濃度を調節することで、光吸収構造体の形成有無、複合体内の光吸収体の含有量、光吸収構造体の形状(フィルム又はピラー)、フィルム状の光吸収構造体の厚さ、ピラーの大きさ及び/又は密度を制御することができる。光吸収構造体の濃度が低いと、複合体内の気孔に形成される光吸収体の分率が低くなり、光吸収体の濃度が高いと、複合体の表面上にピラーが形成される。」(【0216】)、
「詳しくは、溶液内の光吸収体の塗布量を調節することで、光吸収構造体の形成有無、複合体内の光吸収体の含有量、光吸収構造体の形状(フィルム又はピラー)、フィルム状の光吸収構造体の厚さ、ピラーの大きさ及び/又は密度を制御することができる。塗布量が少ないと、複合体内の気孔に形成される光吸収体の分率が低くなり、塗布量が多いと、複合体の表面上にピラーが形成される。これらの塗布量は、多孔性金属酸化物層の気孔の体積を基準にして決めてもよい。」(【0217】)、
「詳しくは、乾燥条件を調節することで、複合体内の光吸収体の含有量、光吸収構造体の形状(フィルム又はピラー)、フィルム状の光吸収構造体の厚さ、ピラーの大きさ及び/又は密度を制御することができる。乾燥速度が遅いほど低い密度の粗大なピラーを製造することができる。」(【0218】)、
「詳しくは、塗布する際にスピンコート法を用いる場合、スピン速度を調節することで、光吸収体ピラーの大きさ及び密度を制御することができる。スピン速度が遅いほど粗大なピラーを形成することができる。」(【0219】)、
「製造方法の容易性及び制御因子によるより厳密な制御という面で、光吸収体溶液に含有される光吸収体の濃度、塗布量及び/又は前記単位工程の繰り返し程度によって、光吸収構造体の形成有無、光吸収構造体の種類(フィルム又はピラー)を制御することが好ましく、これとともに、塗布方法(スピンコート時の回転速度)及び/又は乾燥条件によって、光吸収構造体の厚さ(フィルム)、ピラーの大きさ、密度及び/又は形状を制御することが好ましい。」(【0220】)、
「より具体的に、フィルム状の光吸収構造体は、前記単位工程の繰り返しによって形成することがより容易である。単位工程の繰り返し回数は、一つの単位工程で塗布される溶液の量及び濃度を考慮して適宜設計すればよく、単位工程の繰り返し回数を調節することで、フィルム状の光吸収構造体の厚さも容易に調節することができる。」(【0221】)、
「より具体的に、1回の塗布及び乾燥工程により、多孔性金属酸化物層に光吸収体を形成すると同時に一体をなすピラー状の光吸収構造体を形成するために、塗布する溶液の量及び濃度を調節することが好ましい。」(【0222】)、
「詳しくは、塗布する溶液の量は、多孔性電極の気孔の体積、詳しくは、多孔性電極の多孔性金属酸化物層の気孔の体積を考慮して決めてもよく、下記関係式1を満たすように溶液を塗布してもよく、関係式1を満たすように溶液を塗布する際、塗布する溶液の光吸収体の濃度は、関係式2を満たすことができる。」(【0223】)、
「(関係式)」(【0224】)、
「Vp≦Vs」(【0225】)、
「前記Vpは、多孔性電極の総気孔体積であり、前記Vsは、多孔性電極に塗布される光吸収体溶液の総体積である。」(【0226】)、
「すなわち、関係式1のように、少なくとも多孔性電極の総気孔体積と同じであるか、又は気孔体積を上回る量の光吸収体溶液を塗布してもよい。この際、スピンコート法を用いて光吸収体溶液を塗布する場合、多孔性電極の総気孔体積を上回る量が塗布されても、スピンコートを行う際の回転力によって総気孔体積を超える余分の光吸収体溶液は除去され得る。」(【0227】)、
「スピンコート法を用いて塗布する際に、塗布される光吸収体溶液の総塗布量は、関係式1を満たせばよいが、大面積においてもより均一に塗布できるように、総気孔体積を上回る量を塗布することが好ましく、具体的には、10Vp≦Vsの関係式を満たすように塗布してもよい。」(【0228】)、
「関係式1において、塗布される光吸収体溶液の総体積の上限は、製造しようとする光吸収構造体の厚さ、大きさ、形状によって適宜調節してもよいが、スピンコート法を用いて塗布する場合、実質的に総気孔体積を超える余分の光吸収体溶液は回転力によって除去され得るため、大面積の多孔性電極の気孔に、容易に、均一かつ均質に光吸収体溶液が注入できる程度の溶液を塗布すればよい。・・・」(【0229】)、
「(関係式2)」(【0230】)、
「5重量%≦Ws≦60重量%」(【0231】)、
「前記Wsは、光吸収体溶液に含有された光吸収体の重量%である。」(【0232】)、
「関係式2は、前記関係式1を満たすように光吸収体溶液が塗布される間、多孔性金属酸化物層の気孔内に光吸収体が形成されるのと同時に、多孔性金属酸化物層の表面に光吸収構造体を形成できる濃度である。すなわち、関係式1及び関係式2を満たすように光吸収体溶液が塗布されることで、多孔性電極に形成される光吸収体と一体で延びて突出した柱状のピラーが複数個離隔配列されるか、フィルム状の光吸収構造体を製造することができる。」(【0233】)、
「より詳しくは、ピラーの直径が100nm〜100,000nmであり、ピラーの厚さが10nm〜1,000nmであり、光吸収構造体が位置する複合層の上部表面の全体表面積を基準として、表面積の5%〜30%がピラーにより覆われるピラー密度を有する光吸収構造体を、単一の塗布及び乾燥工程により形成するために、光吸収体溶液の濃度(重量%)は、15重量%≦Ws≦50重量%、具体的には、20重量%≦Ws≦40重量%であってもよい。」(【0234】、
「この際、関係式1及び関係式2を満たすように光吸収体溶液が塗布される際、塗布方法はスピンコート法を用いて行ってもよく、スピンコートの回転速度は500〜5000rpm、乾燥は60〜150℃の温度及び常圧で3〜100分間行ってもよい。」(【0235】)、
「前記複数又は一つの段階の工程により、光吸収体形成段階が行われた後、前記複合層から突出して延びた光吸収体ミラー、又は前記複合層から延びて形成された光吸収体薄膜を乾式エッチングする、エッチング段階がさらに行われてもよい。これは、ピラーをより微細化するためであり、複合層から粗大な大きさの光吸収体が突出形成された場合、この光吸収体を微細なピラー凝集体に製造するためである。乾式エッチングは、プラズマエッチングを含んでもよく、エッチングに用いられるプラズマは、真空又は常圧で形成される如何なるプラズマも使用可能である。この際、プラズマエッチング時のエッチングパワー、エッチング時間、プラズマ形成ガスの種類及び量を調節することで、図5又は図6に図示したのと類似したピラー凝集体を形成することができる。この際、既に複合層から延びて突出した光吸収体を微細化する工程であるため、エッチングマスクなしに単純プラズマエッチングを行っても、エッチングの方向性及び不均一性によってピラー凝集体が製造され得る。・・・」(【0236】)、
「前記光吸収構造体形成段階又は選択的に前記プラズマエッチング段階を行った後、正孔導電層形成段階を行ってもよい。」(【0237】)、
「正孔導電層形成段階を行った後、第2電極を形成する段階が行われてもよい。・・・」(【0240】)

(キ)「製造例1」(【0241】)、
「光吸収体溶液の製造」(【0242】)、
「メルチアンモニウムヨージド(CH3NH3I)とリードジョージド(PbI2)を1:1のモル比でガンマブチロラクトンに溶解した後、60℃で12時間攪拌して40重量%のメチルアンモニウムリードトリヨージド(・・・、CH3NH3PbI3)溶液を製造した。・・・」(【0243】)、
「実施例1」(【0244】)、
「製造された多孔性電極に、製造例1で製造された30重量%のメチルアンモニウムリードトリョージド溶液を約1ml(多孔性電極の総気孔体積を基準として600%)を塗布し、2000rpmで60秒及び3000rpmで60秒間スピンコートし、100℃の温度及び常圧条件で10分間乾燥して、ペロブスカイト光吸収体を形成した。」(【0249】)、
「前記実施例1に係る複合層上に形成されたピラーの光学顕微鏡写真及び走査電子顕微鏡写真は、それぞれ図7及び図8に図示した。この際、図8の右側の図面は、左側の図面の四角形部分を拡大して観察した写真である。前記実施例1によるピラーは、多角柱の形状をしており、直径が10,000nm〜30,000nm、長さが200nm〜300nmであって、複合層の表面積を基準として約40%程度の密度を有することがわかる。」(【0253】)、



」、
「実施例2」(【0254】)、
「前記実施例1において、ペロブスカイト光吸収体を形成した後、複合層上に形成されたピラーを微細化するために、さらに常圧プラズマ処理(350WのRFパワー、6slmのアルゴンflow、2秒間プラズマ露出後、2秒間非露出の繰り返し回数30回)を行ったことを除き、前記実施例1と同様に実施して太陽電池を製造した。」(【0255】)、
「前記実施例2に係る複合層上に形成されたピラーの常圧プラズマ処理後の走査電子顕微鏡写真を図9に図示した。この際、図9の右側の図面は、左側の図面の四角形部分を拡大して観察した写真である。常圧プラズマ処理により、複合層上に、気孔を有さない直径10,000nm〜30,000nmの多角ピラーが、直径10〜100nm及び長さ200〜300nmのピラーに変形されたことが分かる。」(【0256】)、


」、
「比較例1」(【0258】)、
「前記実施例1において、30重量%の光吸収体溶液の代わりに、3重量%の光吸収体溶液を使用したことを除き、前記実施例1と同様に実施して太陽電池を製造した。」(【0259】)、
「前記比較例1に係る複合層表面に光学顕微鏡写真を図11に図示した。前記光学顕微鏡写真は、前記比較例に係る複合層表面にはピラーが形成されないことを示している。」(【0260】)、




ウ 上記ア及びイによれば、先願4当初明細書等には、先願4基礎出願当初明細書等に記載された事項の範囲内において、次の発明(以下「先願4当初明細書等発明」という。)が記載されていると認められる。
「第1電極と、
第1電極上に位置し、光吸収体が取り込まれた複合層と、
前記複合層の上部に位置し、光吸収体からなる光吸収構造体と、
前記光吸収構造体の上部に位置する正孔伝導層と、
前記正孔伝導層の上部に位置する第2電極と、を含む太陽電池であって、(【請求項1】、先願4基礎出願当初明細書等の【請求項1】)
光吸収構造体は、光吸収体ピラー、光吸収体薄膜、または光吸収体薄膜上に突出した光吸収体ピラーを含む、(【請求項5】、先願4基礎出願当初明細書等の【請求項1】)
太陽電池。」

(19)申立人3甲2
申立人1甲8と同じであり、上記(8)で認定した。

第5 取消理由通知に記載した取消理由に対する当審の判断
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1〜28に係る特許に対して、当審が令和3年2月12日付けで特許権者に通知した取消理由(以下、単に「取消理由」といい、この通知を「取消理由通知」という。)の要旨は、次のとおりである。
(1)新規性欠如
本件訂正前の請求項1、4〜6、13に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該請求項に係る発明についての特許は、同法同条同項の規定に違反してされたものである。
(2)進歩性欠如
本件訂正前の請求項1〜6、11〜14、17〜28に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1〜3に記載された発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)拡大先願同一
本件訂正前の請求項1〜28に係る発明は、本件優先日前に優先権主張された外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、その出願後に国際公開がされた外国語特許出願である先願4の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許に係る出願の発明者が上記外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許に係る出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法第184条の13の規定により読み替えられて適用される同法第29条の2の規定に違反してされたものである。
(4)サポート要件違反
本件訂正前の請求項1〜28に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

引 用 文 献 等 一 覧
1.引用文献1(申立人1甲1)
2.引用文献2(申立人1甲3)
3.申立人1甲2(周知例)
4.先願4(申立人3甲1)

2 引用文献1に記載された発明に基づく新規性欠如・引用文献1に記載された発明を主引用発明とする進歩性欠如について
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「ショットキー太陽電池」は、「ガラス基板上にインジウム錫酸化物/CsSnI3/Au/Tiの単純な層構造で構成されて」いるものであるから、引用発明1では、「ペロブスカイト半導体CsSnI3薄膜」が、本件訂正発明1でいう「光活性」のあるものとされていると解される。
引用発明1の「ペロブスカイト半導体CsSnI3薄膜」は、本件訂正発明1でいう「ペロブスカイト半導体」からなるものといえる。
引用発明1の「ペロブスカイト半導体CsSnI3薄膜」は、「緻密」であるから、本件訂正発明1の「緻密層」に相当する。
引用発明1の「ショットキー太陽電池」は、本件訂正発明1の「光起電力素子」に相当する。
引用発明1の「ペロブスカイト半導体CsSnI3薄膜」は、「典型的な粒径300nmをもつ多結晶CsSnI3薄膜」であるから、「結晶構造」を有するものといえる。
本件訂正発明1と引用発明1とは、「前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、」所定の厚さである点で一致する。

イ 一致点及び相違点の認定
上記アによれば、本件訂正発明1と引用発明1とは、
「光活性ペロブスカイト半導体からなる緻密層を含む光起電力素子であって、前記光活性ペロブスカイト半導体が結晶構造を有し、前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、所定の厚さである、光起電力素子。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
「光活性ペロブスカイト半導体からなる緻密層」が、本件訂正発明1は「開口気孔を有さない」のに対し、引用発明1はそうであるのか不明である点。

[相違点2]
「光活性ペロブスカイト半導体」の「結晶構造」が、本件訂正発明1は「三次元結晶構造」であるのに対し、引用発明1はそうであるのか不明である点。

[相違点3]
「ペロブスカイト」が、本件訂正発明1は、「有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含」むものであるのに対し、引用発明1は、「CsSnI3」からなる点。

[相違点4]
「前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さ」が、本件訂正発明1は、「100nm〜700nm」であるのに対し、引用発明1は、「アニーリングプロセスにより、」「黒色のCsSnI3薄膜に変換され」る前の、「堆積したSnCl2/CsIの総厚みは、約750nm」である点。

ウ 相違点3の判断
(ア)事案に鑑み、相違点3より判断する。
引用発明1を記載する引用文献1(申立人1甲1)は、「CsSnI3薄膜を用いたショットキー太陽電池」と題する論文であって、要旨、(i)薄膜太陽電池技術は、光吸収層に使用される様々な材料によって分類することができ、薄膜太陽電池用の新たな材料が発見されたとき、変革的な技術が生まれ得ること、(ii)著者が、単一ホモpn接合太陽電池のための室温で1.3eVのバンドギャップを持つ直接半導体として最近同定されたCsSnI3をベースとしたショットキー太陽電池の実験データを示し、議論を行ったこと、(iii)このCsSnI3を用いた試作太陽電池の電力変換効率は1%程度であるが、薄膜太陽電池の有望なプラットフォームを提供できること、(iv)CsSnI3ベースの太陽電池をさらに改良するための方向性として、多結晶性のさらなる向上、直列抵抗の実質的な低減、及び、CsSnI3とのヘテロ接合を形成するための適切な材料候補であるn型半導体の発見があること、を開示していると認められる。
このように、引用文献1は、薄膜太陽電池の光吸収層としてCsSnI3薄膜に着目し、その実験データを示した上で、その可能性及び改良の方向性を開示するものであるから、引用文献1に記載された技術的事項においては、薄膜太陽電池における光吸収層の材料として、もっぱら、「CsSnI3」が想定されているといえる。
そうすると、引用発明1において、「CsSnI3」を相違点3に係る材料に置換する動機はなく、むしろ、その置換には阻害要因があるというべきであるから、引用発明1から出発した当業者が、相違点3に係る構成に至ることはない。

(イ)これに対し、申立人は、以下のように主張するが、いずれも失当である。
a 申立人は、有機カチオンを含むペロブスカイトを太陽電池の吸収層に使用することは技術常識(申立人1甲4)であり、それを採用することにより顕著な効果はない旨主張する(申立人1意見書11頁15行〜末行、申立人1申立書31頁下から3行〜32頁6行、申立人3意見書5頁3行〜11行)が、上記(ア)で判断したとおりであって、引用発明1から出発した当業者が、光吸収層の材料を相違点3に係る材料に置換する変更に至ることはない。

b 申立人は、CsSnI3の有機類似体が引用文献2(申立人1甲3)に開示されている旨主張する(申立人3意見書4頁下から8行〜5頁2行、5頁下から5行〜6頁2行)が、仮にそうであるとしても、上記(ア)の判断を左右するものではない。

c よって、申立人の主張は、いずれも失当である。

(ウ)相違点3の判断の小括
そして、申立人が提出した他の証拠を考慮しても、上記の判断を左右しない。
よって、相違点3に係る構成は、引用発明1、申立人1甲1〜申立人1甲8、申立人2甲1〜申立人2甲7、申立人2参考資料1、申立人2参考資料2及び申立人3甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。

エ 本件訂正発明1についての小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、引用発明1ではなく、また、引用発明1、申立人1甲1〜申立人1甲8、申立人2甲1〜申立人2甲7、申立人2参考資料1、申立人2参考資料2及び申立人3甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件訂正発明2〜5、7〜12、14〜28について
これらの各発明は、いずれも、引用発明1との間に相違点3を含むものであるから、上記(1)と同様の理由により、引用発明1ではなく、また、引用発明1、申立人1甲1〜申立人1甲8、申立人2甲1〜申立人2甲7、申立人2参考資料1、申立人2参考資料2及び申立人3甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)引用文献1に記載された発明に基づく新規性欠如・引用文献1に記載された発明を主引用発明とする進歩性欠如についての小括
以上のとおりであるから、この取消理由によっては、本件訂正発明1〜5、7〜12、14〜28に係る特許を取り消すことはできない。

4 拡大先願同一について
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と先願4当初明細書等発明とを対比する。
先願4当初明細書等発明の「光吸収体ピラー、光吸収体薄膜、または光吸収体薄膜上に突出した光吸収体ピラーを含む」「光吸収体からなる光吸収構造体」は、本件訂正発明1の「開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる緻密層」とは、「光活性構造体」である点で一致する。
先願4当初明細書等発明の「太陽電池」は、本件訂正発明1の「光起電力素子」に相当する。

イ 一致点及び相違点の認定
上記アによれば、本件訂正発明1と先願4当初明細書等発明とは、
「光活性構造体を含む光起電力素子である、光起電力素子。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点5]
「光活性構造体」が、本件訂正発明1は、「開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる緻密層を含」み、「前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含み」、「前記光活性ペロブスカイト半導体が三次元結晶構造を有」するのに対し、先願4当初明細書等発明は、「光吸収構造体は、光吸収体ピラー、光吸収体薄膜、または光吸収体薄膜上に突出した光吸収体ピラーを含」む点。

[相違点6]
本件訂正発明1は「前記緻密層の厚さは、100nm〜700nm」であるのに対し、先願4当初明細書等発明はそうではない点。

ウ 相違点5の判断
(ア)上記第4の2(18)の冒頭で説示したとおり、先願4当初明細書等に記載された発明に基づいて本件訂正発明1の特許性を否定するためには、その発明が、先願4基礎出願当初明細書等に記載された事項の範囲内であることを要するのであるから、以下、先願4基礎出願当初明細書等の記載を検討する。
a 先願4基礎出願当初明細書等には、上記第4の2(18)イで摘記したとおり、光吸収体ピラーの密度が極めて高い場合、光吸収構造体は、互いに離隔した島状ではなく、多孔性膜又は緻密膜の光吸収体薄膜構造に該当するため、ピラー密度の上限は100%に至り得ること(【0089】)、ペロブスカイト構造の化合物は、CH3NH3PbIxCly(0≦x≦3、0≦y≦3、及びx+y=3)、CH3NH3PbIxBry(0≦x≦3、0≦y≦3、およびx+y=3)、CH3NH3PbClxBry(0≦x≦3、0≦y≦3、およびx+y=3)、及びCH3NH3PbIxFy(0≦x≦3、0≦y≦3、およびx+y=3)から1つ又は2つ以上選択されてもよいこと(【0138】。以下、この化合物を「先願4基礎出願化合物」といい、当該化合物に係るペロブスカイト構造を「先願4基礎出願ペロブスカイト化合物構造」という。)が記載されている。
そうすると、相違点5が実質的でないというためには、先願4当初明細書等発明において、光吸収構造体の材料・構造につき、先願4基礎出願ペロブスカイト化合物構造を選択し、さらに、光吸収構造体の形態につき、ピラーの密度が極めて高く、多孔膜ではなく緻密膜に近い光吸収体薄膜構造を選択した態様が、先願4基礎出願当初明細書等に記載されていることを少なくとも要するといえる。ここで、先願4基礎出願ペロブスカイト化合物構造は、本件訂正発明1でいう「有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含」む「ペロブスカイト」からなるものということができるが、加えて、「三次元結晶構造」を有するとみる余地がある。

b しかしながら、先願4基礎出願当初明細書等は、そのような態様に係る実施例等を開示するものではないし、先願4基礎出願ペロブスカイト化合物構造からなる緻密膜の製造方法を具体的に開示するものでもない。
すなわち、まず、先願4基礎出願当初明細書等に記載された実施例等についてみると、実施例1及び実施例2として、先願4基礎出願化合物に該当するCH3NH3PbI3を用いたペロブスカイト光吸収体が使用されて複合層上にピラーが形成された例(【0244】・【0249】・【0253】・【0254】・【0255】)が記載されており、また、比較例1として、実施例1で使用された光吸収体溶液の濃度を30重量%から3重量%にしてピラーが形成されなかった例(【0258】〜【0260】)が記載されている。しかしながら、これらの例で形成されたものは緻密膜とはいえない。この点、比較例1は、ピラーが形成されなかったものであるが、薄膜(フィルム)となっているとの明記はないし、仮に、そうなっているとしても、多孔膜にとどまる可能性があるため、緻密膜になっているとはいえない。
次に、先願4基礎出願当初明細書等に記載された光吸収構造体の製造方法についてみると、当該製造方法には溶液塗布法があること(【0181】)、溶液塗布法は、光吸収体が溶媒に溶解された光吸収体溶液を多孔性電極に塗布した後、乾燥することで行うものであること(【0182】)、光吸収体溶液に含有される光吸収体の濃度、塗布量、塗布方法(スピンコート時の回転速度)及び乾燥条件から選択される1つ又は2つ以上の因子を制御することで、複合体内の光吸収体の含有量、光吸収構造体の形状(フィルム又はピラー)、光吸収構造体の厚さ(フィルム)、ピラーの大きさ、密度及び/又は形状を制御することができること(【0183】)、Vp(多孔性電極の総気孔体積)≦Vs(塗布される光吸収体溶液の総体積)と5重量%≦Ws(光吸収体溶液に含有された光吸収体の重量%)≦60重量%を満たすように光吸収体溶液が塗布されることで、柱状のピラーが複数個離隔配列されるか、フィルム状の光吸収構造体を製造できること(【0224】〜【0233】)が記載されている。しかしながら、これらの記載は、光吸収構造体の形態として、先願4基礎出願ペロブスカイト化合物構造からなり、かつ、ピラーではなくフィルム状のものを製造するための具体的な条件を明らかにするものではないし、多孔膜ではなく緻密膜を製造するための具体的な条件を明らかにするものでもない。このように、先願4基礎出願当初明細書等には、「緻密膜」との記載はあるものの、その具体的な記載はないのであり、このことは、光吸収構造体としてピラーを用いることが、光正孔の効果的な移動を可能にする等の観点で好ましい旨記載されている(【0065】〜【0068】)ことからも首肯できるものである。

c そして、太陽電池の技術分野において、先願4基礎出願ペロブスカイト化合物構造からなる緻密膜を用いることが技術常識であることを示す証拠もない。

d そうすると、先願4基礎出願当初明細書等には、光吸収構造体が先願4基礎出願ペロブスカイト化合物構造からなる緻密膜となっている態様が記載されているとはいえない。

(イ)上記(ア)dによれば、先願4当初明細書等についても、先願4基礎出願当初明細書等に記載された事項の範囲内においてみれば、光吸収構造体が先願4基礎出願ペロブスカイト化合物構造からなる緻密膜となっている態様が記載されていないことになる。
よって、先願4当初明細書等発明において、光吸収構造体が先願4基礎出願ペロブスカイト化合物構造からなる緻密膜となっている態様は、先願4基礎出願当初明細書等に記載された事項の範囲内においては、先願4当初明細書等に記載されていない。

(ウ)これに対し、申立人は、以下のように主張するが、いずれも失当である。
a 申立人は、先願4基礎出願当初明細書等の図1における「光吸収構造体200」は、相違点5でいう「開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる緻密層」であって、「前記光活性ペロブスカイト半導体が三次元結晶構造を有」するものに該当する旨主張し、その根拠として、先願4基礎出願当初明細書等には、光吸収構造体200について、図1(a)には、光吸収体ピラー210からなる場合が、図1(b)には、光吸収体薄膜からなる場合が、図1(c)には、光吸収体薄膜220、及び前記光吸収体薄膜220上に光吸収体薄膜から延びて突出した光吸収体ピラー210からなる場合が、それぞれ開示されていることを挙げる(申立人3意見書9頁16行〜下から4行)。
しかしながら、これらの図は、単なる模式図にすぎず、光吸収構造体の形態として先願4基礎出願ペロブスカイト化合物構造からなる緻密膜を読み取れるものではない。

b 申立人は、先願4基礎出願当初明細書等には、実施例1として「開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる緻密層」が記載されている旨主張し、その根拠として、当該実施例1には「気孔を有さない直径10,000nm〜30,000nm、長さ200〜300nmの多角柱形状のピラー」が形成されており、このような直径は、本技術領域において十分に大きいサイズであることを挙げる(申立人3意見書11頁10行〜下から4行)。
しかしながら、本件訂正発明1が「光起電力素子」に係るものであることからすれば、当該実施例1も「光起電力素子」を構成しているものが何かという点から検討されるべきである。そして、当該実施例1において「光起電力素子」を構成しているものは、1つのピラーではなく、複数のピラーの集合体であることが明らかである。このように、当該実施例1は、1つのピラーが仮に「緻密」といえるとしても、「光起電力素子」としてみれば、複数のピラーの集合体にほかならないのであり、そうであるならば、当該実施例1が開示する「光起電力素子」は、「緻密膜」といえるものではない。

c 申立人は、先願4基礎出願当初明細書等の実施例1における複合層上に形成されたピラーの製法(30%のメチルアンモニウムとハロゲン化鉛の混合物のDMF溶液をスピンコートする。)は、本件訂正発明の緻密層の製法とほぼ同じであり、結果として得られる緻密層も、先願4基礎出願当初明細書等の実施例1と同様の形状を有する旨主張する(申立人3意見書11頁下から3行〜12頁2行)。
この点、本件訂正後の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件訂正明細書等」という。)【0396】には、ペロブスカイト前駆物質の溶液堆積及び半導体ペロブスカイト薄膜の形成の条件について、(i)30%の体積濃度のジメチルホルムアミド(ヨウ化メチルアンモニウム塩化鉛(II)(CH3NH3PbCl2I))中のペロブスカイト前駆物質溶液の40μlをメソポーラス電極膜の上へ投与したこと、(ii)不活性窒素環境において60sの間1500rpmでスピンコートしたこと、(iii)冷却の前に、コートした膜を、100℃に設定したホットプレート上に設置し、窒素中で60分間そのままにしたこと、が記載されている。しかしながら、これらの条件は、先願4基礎出願当初明細書等【0249】に記載された条件との間で、少なくとも、スピンコートの回転速度やそのときの環境、ペロブスカイト前駆物質溶液の投与量において異なるものであるから、本件訂正明細書等において製造された緻密膜が、先願4基礎出願当初明細書等の実施例1のようなピラー状になっているとはいえない。そして、本件訂正明細書等の他の記載をみても、この認定を左右するものは見当たらない。

d よって、申立人の主張はいずれも失当である。

(エ)相違点5の判断の小括
したがって、相違点5は実質的である。

エ 本件訂正発明1についての小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、先願4基礎出願当初明細書等に記載された事項の範囲内における先願4当初明細書等発明と同一ではない。

(2)本件訂正発明2〜5、7〜12、14〜28について
これらの各発明は、いずれも、先願4当初明細書等発明との間に相違点5を含むものであるから、上記(1)と同様の理由により、先願4基礎出願当初明細書等に記載された事項の範囲内における先願4当初明細書等発明と同一ではない。

(3)拡大先願同一についての小括
以上のとおりであるから、この取消理由によっては、本件訂正発明1〜5、7〜12、14〜28に係る特許を取り消すことはできない。

5 サポート要件違反について
取消理由通知は、本件訂正前の請求項1に記載された「光活性ペロブスカイト半導体」は、本件訂正前の請求項13の記載を踏まえれば、アニオンとして「カルコゲナイドアニオンから選択される」態様を含むものであるが、当該態様については実施例の開示がないため、本件特許に係る出願時の技術常識に照らして、当該請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨説示したものである。
しかしながら、本件訂正により、請求項1は、「前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含」むものに限定されることとなった。そして、本件訂正発明の記載がサポート要件を満たすことは、後記第6の1(3)アのとおりである。
よって、この取消理由によっては、本件訂正発明1〜5、7〜12、14〜28に係る特許を取り消すことはできない。

6 取消理由通知に記載した取消理由に対する当審の判断の小括
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件訂正発明1〜5、7〜12、14〜28に係る特許を取り消すことはできない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
明確性要件違反、サポート要件違反、実施可能要件違反について
(1)「開口気孔を有さない」についての特許異議申立理由
ア 申立人は、請求項1〜3、7、17、20、26〜28の「開口気孔を有さない」の記載について、本件訂正明細書等には、当該記載はなく、「開口気孔率のない」との記載があり、両者の異同が説明されていないから、「開口気孔を有さない」についての発明は本件訂正明細書等に記載されていない旨主張する(申立人2申立書20頁下から3行〜21頁5行)。
しかしながら、「開口気孔」の意味は、本件訂正明細書等【0031】によれば、材料が曝される流体によりアクセス可能な気孔であると解され、また、「気孔」の意味は、その字義が「溶岩や陶器、またパンなどが固まる際、ガスの逃げたあとに残った孔。」(広辞苑第六版)であることや、同【0030】に、それが内部に配列した材料を「多孔質」と呼ぶ旨記載されていることから、特段の困難なく理解できるものである。そして、「開口気孔を有さない」とは、そのような「開口気孔」を有さないということで、自然に理解できる。よって、「開口気孔を有さない」との記載は明確であり、また、「開口気孔を有さない」ことについての発明は、本件訂正明細書等に記載されているといえる。
さらに、申立人は、開口気孔について、その形状は概念としては理解できるが、その大きさは不明であって定量的には理解できないから、発明が明確であるとはいえない旨、本件訂正明細書等【0030】の説明は「多孔質」についてのものであってペロブスカイト半導体層に関するものではなく、本件訂正明細書等には、当該層中における気孔の大きさについて例示すら見当たらない旨、「開口気孔」と固体表面にある凹凸との境界も不明確である旨主張する(申立人2申立書21頁下から10行〜23頁6行)が、上記のとおり「気孔」の意味を理解することに差し支えがあるとはいえないから、申立人が主張する事情をもって、「開口気孔」の文言が、第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確であるとまではいえない。

イ 申立人は、本件訂正明細書等の発明の詳細な説明に記載された「開口気孔率のない」は、「率」であるにもかかわらず、高低ではなく、「ない」と表現している点で理解できず、また、高低であるとしても、本件訂正明細書等には、その測定方法等が明示されていないから、特許請求の範囲に記載された発明は、当業者であっても実施できるものではない旨主張する(申立人2申立書21頁6行〜12行)。
しかしながら、上記アのとおり、請求項に記載された「開口気孔を有さない」との記載は明確である。申立人の主張は、請求項に記載されていない事項をもって、記載不備を主張するものであり、もとより失当である。

(2)「緻密」についての特許異議申立理由
ア 申立人は、請求項1〜3、7、17、20、26〜28の「緻密層」の記載について、「緻密」は、一般的には「細工が細かい」などの意味を有するが、科学技術分野では密度が高いことを意味すると解するのが一般的であるところ、本件訂正明細書等には、ペロブスカイト半導体層の密度に関する記載がないから、当該層が緻密であることが確かめられておらず、よって、「緻密」についての発明は、本件訂正明細書等に記載されておらず、また、明確でもない旨主張する(申立人2申立書23頁7行〜17行)。
しかしながら、当該各請求項においては、「開口気孔を有さない」「緻密層」と記載されており、その記載に関連して、本件訂正明細書等【0005】には、「発明者は、・・・光活性ペロブスカイトの緻密な薄膜を使用することによって優れた素子効率を得ることが可能であることを予期せずに見出した。開口多孔質ペロブスカイト構造が、典型的には、この材料を用いてバルク・ヘテロ接合を形成するためにp型又はn型材料で浸透され得るとはいえ、本発明において利用する密なペロブスカイト層は、一般にp型層及び/又はn型層とプレーナ・ヘテロ接合を形成する。」と記載され、同【0034】には、「開口気孔率がない」ことの意味について、「層中のペロブスカイト半導体は、n型領域内のn型材料、又はn型材料のいずれによっても浸透されない・・・。むしろ、その層中のペロブスカイト半導体は、典型的には、n型領域若しくはp型領域とプレーナ・ヘテロ接合を形成する・・・」と記載されている。そうすると、本件訂正明細書等の上記記載が「開口気孔率がない」であって「開口気孔を有さない」ではないとしても、「開口気孔を有さない」ことの意味は上記アのとおり理解でき、「開口気孔を有さない」「緻密層」の意味は、典型的にはプレーナ・ヘテロ接合を形成するということで理解できる。
そうだとすれば、「開口気孔を有さない」「緻密」の文言が、第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確であるとまではいえないのであり、よって、「緻密」の文言についても、第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確であるとまではいえず、また、「緻密」についての発明は、本件訂正明細書等に記載されているといえる。ペロブスカイト半導体層の密度について本件訂正明細書等に記載がないことは、この判断を左右するものではない。

イ 申立人は、請求項に特定された「開口気孔を有さない」「緻密層」は、本件訂正明細書等に記載されておらず、また、本件訂正明細書等の記載に基づいて当業者は「開口気孔を有さない」「緻密層」を実施することができない旨主張し、その根拠として、本件訂正明細書等【0396】で記載されたペロブスカイト層の形成方法が申立人2甲1に記載された方法と相違がなく、そして、後者の方法ではナノ分子間に間隙を有する開口構造が得られることを挙げる(申立人2申立書23頁下から9行〜24頁16行)。
しかしながら、本件訂正明細書等の当該段落には、「冷却の前に、コートした膜を、100℃に設定したホットプレート上に設置し、窒素中で60分間そのままにした。」と記載されている一方、申立人2甲1には、それに相当する工程が記載されていないなど、両者に記載された方法に相違がないとはいえないから、申立人の主張は、その前提が失当である。

(3)本件訂正明細書等には、本件訂正発明の実施例等として特定の態様のみが記載されていることを理由としたサポート要件違反の特許異議申立理由
ア 申立人は、本件訂正明細書等には、光活性ペロブスカイト半導体(本件訂正発明15では[A][B][X]3と表記されている。)について、実施例として開示されているものが、[A]がメチルアンモニウムイオン又はホルムアミジニウムイオン、[B]が鉛イオン、[X]がヨウ素イオン、臭素イオン、塩素イオンの組み合わせのみであり、そのうち特性が評価されているものが、[A]がメチルアンモニウムイオン、[B]が鉛イオン、[X]がヨウ素イオンのペロブスカイト半導体のみであるところ、本件訂正発明が規定するペロブスカイト半導体には膨大な種類が存在し、種類が異なればその特性も大きく異なることから、実施例に係るペロブスカイト半導体以外の半導体を採用したときに、実施例に係るペロブスカイト半導体と同程度の特性を示すとは認識できない旨主張する(申立人1申立書35頁2行〜15行)。
しかしながら、本件訂正明細書等の記載によれば、本件訂正発明の解決しようとする課題は、増感剤として使用されたペロブスカイトを用いた液体電解質光電気化学セルにおいては、ペロブスカイト吸収材は、急速に崩壊し、太陽電池はたった10分後に性能が低下したということ(【0003】)を含むものであり、その解決手段は、光活性ペロブスカイトの緻密な薄膜を使用すること(【0005】)にあるといえる。そして、本件訂正発明には、ペロブスカイトが有機カチオン、金属カチオン及びハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含むことが特定されているとともに、光活性ペロブスカイト半導体が、開口気孔を有さずに緻密層を形成することが特定されている。そうすると、当業者であれば、本件訂正発明で特定された手段によって、上記課題を解決できることが認識できるといえる。申立人の主張は、本件訂正発明の記載のサポート要件の判断を左右するものではない。

イ 申立人は、本件訂正発明が、ペロブスカイト構造ABX3について、Aが有機カチオン、Bが金属カチオン、Xがハロゲン化物アニオンであることを特定していることに対して、本件訂正明細書等に記載された実施例では、有機カチオンとして比較的イオンサイズの小さい「メチルアンモニウムカチオン」及び「ホルムアミジニウムカチオン」のみが使用されている一方、ペロブスカイト構造は有機カチオンの種類によってその結晶構造が変化することが技術常識であって、比較的イオンサイズの大きい有機カチオンを用いた場合、ペロブスカイト半導体は2次元構造となることが知られているから、当業者は、実施例に係る有機カチオン以外の有機イオンを使用した場合に、ペロブスカイト半導体が「三次元構造」を有することや、有するとしても実施例と同様の効果を奏することは認識できない旨主張する(申立人1意見書15頁下から12行〜16頁5行)。
しかしながら、ペロブスカイト構造が有機カチオンの種類によってその結晶構造が変化することは、申立人が主張するとおり技術常識なのであるから、当業者は、本件訂正発明で特定された組成を有し、三次元結晶構造を有する光活性ペロブスカイト半導体がいかなるものであるのかを認識することができるといえる。実施例と同様の効果を奏するか否かは、本件訂正発明の記載のサポート要件の判断を左右するものではない。

ウ 申立人は、本件訂正発明が、ペロブスカイトとして「ハロゲン化物アニオン」を含む旨特定していることに対して、「2つ以上の異なるハロゲン化物アニオン」に限定されるべきである旨主張し、その根拠として、本件訂正明細書等【0092】には、「ハロゲン化物アニオン」に関して、「ペロブスカイトは、通常、混合型ハロゲン化物ペロブスカイトであ」ると記載されており、「混合型ハロゲン化物ペロブスカイト」以外の態様をほとんど考慮していない記載となっていること、同【0461】には、「混合型ハロゲン化物ペロブスカイトの大きな拡散長は、100nmを超える厚さを有するペロブスカイトの層を有する光起電力素子を作ることを可能にし、これは優れた素子効率を示す。」と記載されており、「緻密層の厚さが100nm〜700nm」を実現するためには、混合型ハロゲン化物ペロブスカイトが必要であることを挙げる(申立人3意見書15頁下から5行〜16頁10行)。
しかしながら、当該【0092】は、「通常」とあることから、「ハロゲン化物アニオン」を混合型ハロゲン化物アニオンに限定までする記載とはいえないし、当該【0461】にも「三ヨウ化物ペロブスカイト膜・・・は100nm前後の拡散長を有する」と記載されているから、「緻密層の厚さが100nm〜700nm」であるときに、ハロゲン化物アニオンが混合型でないものを採用したとしても、素子効率が劣ることがあり得るのは格別、光起電力素子として機能しないとまではいえない。そして、本件訂正発明の記載がサポート要件を満たすことは、上記アで説示したとおりである。

エ 申立人は、本件訂正発明の「緻密層の厚さは、100nm〜700nmである」との特定に対して、本件訂正明細書等には、実施例(【0408】)として、光ペロブスカイト半導体層の厚さが221〜659nmのものしか記載されていないから、緻密層の厚さを当該範囲内とすることで本件訂正発明の効果が発揮されることが実施例によりサポートされていない旨主張する(申立人3意見書15頁10行〜下から7行)が、本件訂正明細書等【0043】には、ペロブスカイト層の厚さが光吸収の程度に依存している旨記載されているから、その技術的意義は理解できるものである。そして、本件訂正発明の記載がサポート要件を満たすことは、上記アで説示したとおりである。
また、申立人は、本件訂正前の請求項6において「緻密層の厚さ」が「10nmから100μm」であることが特定されていたことに対して、本件訂正明細書等には、実施例として、光ペロブスカイト半導体層の厚さが221〜659nmのものしか記載されておらず(【0408】)、また、当該特定をする意義が記載されていないことから、当該請求項に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張する(申立人3申立書23頁下から7行〜末行)が、上記と同様である。

オ 申立人は、本件訂正発明3の「n型層」及び「p型層」並びに本件訂正発明7の「多孔性材料」に対して、本件訂正明細書等の実施例としては特定の物質のものしか開示されていない一方、「n型層」及び「p型層」並びに「多孔質材料」の選択により太陽電池の光起電力性能が異なるから、実施例で使用されている以外の物質を使用した場合に、実施例と同程度の特性を示すとは認識できない旨主張する(申立人1申立書35頁16行〜36頁17行)が、上記アと同様の理由で、申立人の主張は、本件訂正発明の記載のサポート要件の判断を左右するものではない。

(4)その他のサポート要件違反の申立理由
ア 申立人は、特許権者が意見書において引用文献1(申立人1甲1)に記載されているショットキー太陽電池は電力変換効率(PCE)の数値が0.9%とかなり低いものである旨主張したことを根拠に、本件訂正発明が、かなり低いPCEという課題を解決する発明であるとした上で、本件訂正発明は、PCEが0.9%と同等以下の効果しか奏さない態様も含むものであるから、本件訂正発明には、課題を解決することができない発明も含まれている旨主張する(申立人1意見書16頁6行〜18頁4行)。
しかしながら、本件訂正発明の課題は、本件訂正明細書等の記載に基づき認定されるものであり、特許権者が意見書で主張した内容によって左右されるものではないから、申立人の主張は、その前提が失当である。そして、本件訂正発明の記載がサポート要件を満たすことについては、上記(3)アで説示したとおりである。

イ 申立人は、本件訂正発明9の「多孔性材料がメソポーラスである」との特定に対して、本件訂正明細書等の実施例には、多孔性材料がメソポーラスである場合とそうでない場合との対比がなされていないから、本件訂正明細書等には、当該特定による意義が説明されていない旨主張する(申立人3申立書26頁1行〜5行)が、当該主張は、上記(3)アで説示した本件訂正発明の記載のサポート要件の判断を左右するものではない。

ウ 申立人は、本件訂正発明10の「多孔性材料」が「4.0eV以上のバンドギャップを有する誘電性材料」であるとの特定に対して、本件訂正明細書等の実施例には、多孔性材料が4.0eV以上のバンドギャップを有する誘電性材料である場合と、4.0eV未満のバンドギャップを有する誘電性材料である場合との対比がなされていないから、本件訂正明細書等には、当該特定による意義が説明されていない旨主張する(申立人3申立書26頁下から7行〜末行)が、当該主張は、上記(3)アで説示した本件訂正発明の記載のサポート要件の判断を左右するものではない。

エ 申立人は、本件訂正発明11の「n型領域」が「n型層及びn型エキシトン・ブロッキング層」であるとの特定に対して、光活性ペロブスカイト半導体からエキシトンが発生しないことは学術的に知られているから、n型エキシトン・ブロッキング層は不要であるし、本件訂正明細書等の実施例においても、当該特定に係る実施例が記載されておらず、その効果も何ら記載されていない旨主張する(申立人3申立書27頁11行〜19行)が、光活性ペロブスカイト半導体からエキシトンが発生しないとしても、そのことをもってn型エキシトン・ブロッキング層の存在が上記アで説示した本件訂正発明の課題の解決を阻害することはないから、当該主張は、上記(3)アで説示した本件訂正発明の記載のサポート要件の判断を左右するものではない。
申立人は、本件訂正発明12の「p型領域」が「p型層及びp型エキシトン・ブロッキング層」であるとの特定についても同様の主張をする(申立人3申立書28頁3行〜11行)が、上記と同様である。

オ 申立人は、本件訂正発明18の「p型領域がペロブスカイトを含むp型層」及び本件訂正発明19の「n型領域がペロブスカイトを含むn型層」を含むことに対して、本件訂正明細書等には実施例が記載されておらず、その効果についても何ら記載されていない旨主張する(申立人3申立書32頁2行〜6行、同頁下から9行〜下から5行)が、当該主張は、上記(3)アでした本件訂正発明の記載のサポート要件の判断を左右するものではない。

(5)実施可能要件違反の申立理由
申立人は、本件訂正発明17の「タンデム接合または多接合光起電力素子」に対して、本件訂正明細書等には実施例が記載されていないから、本件訂正明細書等の記載は当業者が本件訂正発明17の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない旨主張する(申立人3申立書31頁11行〜17行)が、太陽電池の技術分野においてタンデム接合又は多接合のものは例示するまでもなく技術常識にすぎないものであるから、本件訂正明細書等の記載は本件訂正発明17について実施可能要件を満たしている。
申立人は、本件訂正発明20及びこれを引用する本件訂正発明21〜28の「多接合光起電力素子」との特定に対しても同様の主張をする(申立人3申立書33頁下から4行〜34頁4行)が、上記と同様である。

2 申立人2甲1に記載された発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
申立人2甲1発明の「TiO2表面に」「析出し」た「CH3NH3PbX3(X=Br、I)のナノ結晶粒子」は、「光起電力機能」を有するとともに、「ペロブスカイト型に同定できる結晶構造を有する」ことを踏まえれば、本件訂正発明1の「光活性ペロブスカイト半導体」とは、「光活性ペロブスカイト」である点で一致する。
申立人2甲1発明の「光起電力セル」は、本件訂正発明1の「光起電力素子」に相当する。
申立人2甲1発明の「CH3NH3PbX3(X=Br、I)」は、「ペロブスカイト型に同定できる結晶構造を有する」ことを踏まえれば、本件訂正発明1でいう「有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含」むものといえる。

イ 一致点及び相違点の認定
上記アによれば、本件訂正発明1と申立人2甲1発明とは、
「光活性ペロブスカイトを含む光起電力素子であって、前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含む、光起電力素子。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点7]
「光活性ペロブスカイト」であって、「前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含む」ものが、本件訂正発明1は、「半導体」であって、「開口気孔を有さない」「緻密層を含」み、「三次元結晶を有」するのに対し、申立人2甲1発明は、「TiO2表面に」「析出し」た「CH3NH3PbX3(X=Br、I)のナノ結晶粒子」である点。

[相違点8]
本件訂正発明1は、「前記開口気孔を有さない前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、100nm〜700nmであ」るのに対し、申立人2甲1発明は、「緻密層」すら有さない点。

ウ 相違点7の判断
(ア)申立人2甲1発明は、「ペロブスカイトナノ結晶粒子」であって、「TiO2表面に」「析出し」た「CH3NH3PbX3(X=Br、I)のナノ結晶粒子」を用いるものであるから、相違点7を解消するためには、当該ペロブスカイトの形態を「ナノ結晶粒子」から「開口気孔を有さない」「緻密膜」へ少なくとも変更する必要がある。
しかしながら、申立人2甲1は、「n型半導体であるTiO2上で自己組織化したペロブスカイトナノ結晶粒子の光起電力機能を明らかにする」ことを記載するものであって、当該ペロブスカイトの形態として「ナノ結晶粒子」以外のものを記載も示唆もするものではない。実際、申立人2甲1発明の「ペロブスカイトナノ結晶粒子」は、申立人2甲1のタイトルが「光電池用可視光増感剤としてのハロゲン化有機金属ペロブスカイト」であることからみて、いわゆる色素増感太陽電池における増感剤に相当する役割をもつといえるところ、色素増感太陽電池においては、効率のよい電子注入のために、増感剤がTiO2といった電子が注入される物質に直接接触しているのが一般的であるから、申立人2甲1発明において、当該ペロブスカイトとして緻密膜の形態が想定されているとはいえない。そして、太陽電池の技術分野において、「CH3NH3PbX3(X=Br、I)」からなるペロブスカイトの開口気孔を有さない緻密膜が用いられることが技術常識であることを示す証拠もない。
したがって、申立人2甲1発明から出発した当業者が、当該ペロブスカイトの形態を「ナノ結晶粒子」から「開口気孔を有さない」「緻密膜」へ変更する動機を有することはなく、相違点7に係る構成に至ることはない。

(イ)これに対し、申立人は、以下のように主張するが、いずれも失当である。
a 申立人は、申立人2甲1発明の「TiO2表面に」「析出し」た「CH3NH3PbX3(X=Br、I)のナノ結晶粒子」は、本件訂正発明1でいう「開口気孔を有さない」「緻密膜」に相当する旨主張し、その根拠として、ペロブスカイトについて、申立人2甲1で記載された方法(前駆体を含む溶液を塗布する。)と本件訂正発明1で記載された方法(【0396】記載のCH3NH3PbCl2Iの前駆体溶液をスピンコートする。)とが実質的に同じ方法であることを挙げる(申立人2申立書25頁2行〜下から7行、26頁下から9行〜27頁13行)。
しかしながら、上記1(2)イで説示したとおり、両者の方法が実質的に同じであるとはいえない。

b 申立人は、申立人2甲1発明には、連続的な、つまり緻密で開口を有さないCH3NH3PbBr3層が存在する旨主張し、その根拠として、当該発明においては「ペロブスカイトのナノ粒子(2から3nm)が、TiO2および/またはCH3NH3PbBr3表面の上に、存在する」と特定されているから、「CH3NH3PbBr3表面」が存在するのであり、そして、このような「表面」が存在する以上、緻密で開口を有さないCH3NH3PbBr3層が存在すること、申立人2甲1では、ペロブスカイトの形成を色の変化によって確認しており、特許権者が本件特許に係る出願の審査段階で主張したように、ナノ粒子がここかしこにのみ存在するのであれば、そのような目視確認は不可能であると考えられること、を挙げる(申立人2申立書26頁1行〜下から10行)。
しかしながら、申立人2甲1には、CH3NH3PbBr3が層になっていることの明記はなく、むしろ、ナノ粒子となっていることが記載されるのみであるから、「CH3NH3PbBr3表面」が存在するとしても、「CH3NH3PbBr3」のナノ粒子の「表面」にすぎないとも考えられるから、申立人が提示した記載をもって「CH3NH3PbBr3」の「層」があるとはいえない。また、申立人2甲1発明において、ペロブスカイトの形成が色の変化の目視確認によるとしても、ペロブスカイトの形態がナノ粒子のみである場合に色の変化を目視確認できないとの技術常識を示す証拠はないから、そのことによって、申立人2甲1発明の「CH3NH3PbBr3」が層の形態となっているということはできない。

c 申立人は、申立人2甲3には、基材上に金属ハライドを真空蒸着又はスピンコーティングにより堆積させた後、有機アンモニウムヨウ化物を含む溶液に数秒〜5分間浸漬することで、ペロブスカイト層を形成させることが記載されており、さらに、ペロブスカイト半導体を発光素子として用いることが記載されているから、発光素子と光起電力素子とが基本的に同一構造であることを考慮すれば、申立人2甲1発明に申立人2甲3に記載された技術的事項を採用することにより、相違点7は当業者が容易に想到し得るものである旨主張する(申立人2申立書27頁下から10行〜28頁6行)。
しかしながら、この特許異議申立理由における主引用発明は申立人2甲1発明なのであるから、発光素子と光起電力素子とが基本的に同一構造かどうかが問題なのではなく、主引用発明である申立人2甲1発明の「光起電力セル」と申立人2甲3に記載された発光素子とが基本的に同一構造かどうかが検討されるべきである。そして、申立人2甲1発明の「ペロブスカイト」の「ナノ粒子」は、上記(ア)で説示したとおり、色素増感太陽電池における増感剤に相当する役割をもつとされており、当該ナノ粒子とTiO2とが直接接触する構成が一般的であるところ、実際、そのことが申立人2甲1の図1bの写真からも見て取れる。そうすると、ペロブスカイトの層を発光素子として用いる構成が申立人2甲3に記載されているとしても、申立人2甲1発明に係る「光起電力セル」がそれと基本的に同一構造ということはできない。そして、申立人2甲1発明から出発した当業者が、相違点7に係る構成に至ることはないことは、上記(ア)で説示したとおりである。

d 申立人は、申立人1甲8においては、(CH3NH3)PbI3及び正孔輸送材料(HTM)が細孔内に充填されたメソポーラスTiO2の層と前記層の上に形成されたHTMの層とが確認されること、当該構造は、(CH3NH3)PbI3溶液をメソポーラスTiO2にコーティングし、その後、さらにHTMでコーティングして得られること、メソポーラスTiO2の膜厚を薄くするほど、PCEが向上すること、が開示されているところ、メソポーラスTiO2の膜厚を小さくすると、(CH3NH3)PbI3溶液がTiO2の表面に堆積し、層を形成することになる旨主張する(申立人1意見書12頁下から16行〜13頁7行)。
しかしながら、申立人1甲8には、高い発電効率が、正孔導体による完全な細孔充填を含む十分に発達した界面構造を有するサブミクロン厚のTiO2膜によって達成されることが記載されており、正孔導体がTiO2膜に接するとされている。そうすると、当業者が、(CH3NH3)PbI3溶液がTiO2の表面に堆積し、層を形成する構成に至ることは、その接する状態を妨げることになる以上、容易とはいえない。

e 申立人は、「開口気孔を有さない光活性ペロブスカイトからなる緻密層」に関し、その厚さを「100nm〜700nm」とすることに対して、申立人2参考資料1及び2において活性層はペロブスカイト半導体を含むものではないが、これらの証拠をみて、そこにペロブスカイト半導体を組み合わせることは当業者が自然に考えることである旨主張する(申立人2意見書第3葉の19行〜24行)が、活性層の材料が異なる以上、直ちにそのように言うことはできない。

f よって、申立人の主張は、いずれも失当である。

(ウ)相違点7の判断の小括
そして、申立人が提出した申立人1甲1〜申立人1甲8、申立人2甲1〜申立人2甲7、申立人2参考資料1、申立人2参考資料2及び申立人3甲2に記載された技術的事項をみても、上記の判断を左右するものではない。
よって、相違点7に係る構成は、申立人2甲1発明並びに申立人1甲1〜申立人1甲8、申立人2甲1〜申立人2甲7、申立人2参考資料1、申立人2参考資料2及び申立人3甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。

エ 本件訂正発明1についての小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、申立人2甲1発明ではなく、また、申立人2甲1発明並びに申立人1甲1〜申立人1甲8、申立人2甲1〜申立人2甲7、申立人2参考資料1、申立人2参考資料2及び申立人3甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件訂正発明2〜5、7〜12、14〜28について
これらの各発明は、いずれも、申立人2甲1発明との間に相違点7を含むものであるから、上記(1)と同様の理由により、申立人2甲1発明ではなく、また、申立人2甲1発明並びに申立人1甲1〜申立人1甲8、申立人2甲1〜申立人2甲7、申立人2参考資料1、申立人2参考資料2及び申立人3甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)申立人2甲1に記載された発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如についての小括
以上のとおりであるから、この特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1〜5、7〜12、14〜28に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立人2甲2に記載された発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
申立人2甲2発明の「増感剤」として「用い」られた「ハロゲン化鉛系の有機無機ペロブスカイト化合物」は、これが「湿式太陽電池」に係るものであることを踏まえれば、本件訂正発明1の「光活性ペロブスカイト半導体」とは、「光活性ペロブスカイト」である点で一致する。
申立人2甲2発明の「ハロゲン化鉛系の有機無機ペロブスカイト化合物」は、本件訂正発明1でいう「前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、及びハロゲン化物アニオンから少なくとも1つのアニオンを含」むものといえる。
申立人2甲2発明の「湿式太陽電池」は、本件訂正発明1の「光起電力素子」に相当する。

イ 一致点及び相違点の認定
上記アによれば、本件訂正発明1と申立人2甲2発明とは、
「光活性ペロブスカイトを含む光起電力素子であって、前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含む、光起電力素子。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点9]
「光活性ペロブスカイト」であって、「前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含む」ものが、本件訂正発明1は、「半導体」であって、「開口気孔を有さない」「緻密層」を含み、「三次元結晶構造を有」するのに対し、申立人2甲2発明は、そうではない点。

[相違点10]
本件訂正発明1は、「前記緻密層の厚さは、100nm〜700nm」であるのに対し、申立人2甲2発明はそうではない点。

ウ 相違点9の判断
(ア)申立人2甲2発明では、「湿式太陽電池」として用いられる「ハロゲン化鉛系の有機無機ペロブスカイト化合物」が「増感剤」として用いられているから、上記2(1)ウ(ア)で説示したように、効率のよい電子注入のために、増感剤がTiO2といった電子が注入される物質に直接接触しているのが一般的であって、当該ペロブスカイトとして緻密膜の形態が想定されているとはいえない。そして、太陽電池の技術分野において、ハロゲン化鉛系の有機無機ペロブスカイトの開口気孔を有さない緻密膜が用いられることが技術常識であることを示す証拠もない。
したがって、申立人2甲2発明から出発した当業者が、当該ペロブスカイトの形態を「ナノ結晶粒子」から「開口気孔を有さない」「緻密膜」へ変更する動機はなく、相違点9に係る構成に至ることはない。

(イ)これに対し、申立人は、以下のように主張するが、いずれも失当である。
a 申立人は、申立人2甲2には、「これらの化合物の中には溶液プロセスによる薄膜形成が可能な物質も存在し、そのうちの1つに有機無機ペロブスカイト化合物が挙げられる。」と記載されているから、申立人2甲2発明は、本件訂正発明と同じ方法でペロブスカイト半導体層を形成していることになり、相違点9を満たす旨主張する(申立人2申立書28頁12行〜19行)が、当該記載は一般的なものにすぎず、そのような層を備えた太陽電池を製造したことを明らかにするものとはいえないから、当該記載の存在によって、上記(ア)の判断が左右されることはない。

b 申立人は、申立人2甲2のFig.1に記載された結晶構造は「三次元結晶構造」である旨主張する(申立人2申立書28頁10行〜11行)が、当該記載の位置付けは上記aと同様であるから、当該記載の存在によって、上記(ア)の判断が左右されることはない。

c 申立人は、申立人2甲2発明に申立人2甲3に記載された技術的事項を採用することにより、「開口気孔を有さない」「緻密層」を含むようにすることは当業者が容易に想到し得るものである旨主張する(申立人2申立書29頁5行〜9行)が、上記2(1)ウ(イ)cの説示と同様の理由が成り立つ。

d 申立人は、申立人2甲2には、ペロブスカイト薄膜を溶液プロセスによって形成可能なことが記載されているが、詳細な方法が記載されていないところ、申立人2甲1に溶液法によるペロブスカイト薄膜の形成方法が記載されているから、申立人2甲2に記載された発明に申立人2甲1に記載された技術的事項を採用することにより、相違点9は容易に想到し得る旨主張する(申立人2申立書28頁末行〜29頁4行)が、上記2(1)ウ(イ)aで説示したとおり、申立人2甲1には、溶液法によるペロブスカイト薄膜の形成方法は記載されていないから、申立人の主張は、その前提が失当である。

e よって、申立人の主張は、いずれも失当である。

(ウ)相違点9の判断の小括
そして、申立人が提出した申立人1甲1〜申立人1甲8、申立人2甲1〜申立人2甲7、申立人2参考資料1、申立人2参考資料2及び申立人3甲2に記載された技術的事項をみても、上記の判断を左右するものではない。
よって、相違点9に係る構成は、申立人2甲2発明並びに申立人1甲1〜申立人1甲8、申立人2甲1〜申立人2甲7、申立人2参考資料1、申立人2参考資料2及び申立人3甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。

エ 本件訂正発明1についての小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、申立人2甲2発明ではなく、また、申立人2甲2発明並びに申立人1甲1〜申立人1甲8、申立人2甲1〜申立人2甲7、申立人2参考資料1、申立人2参考資料2及び申立人3甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件訂正発明2〜5、7〜12、14〜28について
これらの各発明は、いずれも、申立人2甲2発明との間に相違点9を含むものであるから、上記(1)と同様の理由により、申立人2甲2発明ではなく、また、申立人2甲2発明並びに申立人1甲1〜申立人1甲8、申立人2甲1〜申立人2甲7、申立人2参考資料1、申立人2参考資料2及び申立人3甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)申立人2甲2に記載された発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如についての小括
以上のとおりであるから、この特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1〜5、7〜12、14〜28に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての小括
以上のとおり、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1〜5、7〜12、14〜28に係る特許を取り消すことはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載された取消理由並びに特許異議申立書及び申立人意見書に記載された特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1〜5、7〜12、14〜28に係る特許を取り消すことはできない。そして、他に、本件訂正発明1〜5、7〜12、14〜28に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件訂正発明6及び13に係る特許は、本件訂正により削除され、申立人1〜3による特許異議の申立てについて、当該各発明に係る特許に対する申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる緻密層を含む光起電力素子であって、前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含み、前記光活性ペロブスカイト半導体が三次元結晶構造を有し、前記開口気孔を有さない前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、100nm〜700nmである、光起電力素子。
【請求項2】
前記開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層は、n型領域とp型領域の間に配置され、前記n型領域と前記p型領域の少なくとも一方とともにプレーナ・ヘテロ接合を形成する、請求項1に記載の光起電力素子。
【請求項3】
少なくとも1つのn型層を含むn型領域と、
少なくとも1つのp型層を含むp型領域と、
を含み、
前記開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層は、前記n型領域と前記p型領域の間に配置され、前記n型領域と前記p型領域の少なくとも一方とともにプレーナ・ヘテロ接合を形成する、請求項1に記載の光起電力素子。
【請求項4】
前記光活性ペロブスカイト半導体が光を吸収し、それにより自由電荷キャリアを生成することができる、請求項1から3までのいずれか一項に記載の光起電力素子。
【請求項5】
前記光活性ペロブスカイト半導体が、光増感材料であり、発光と電荷輸送の両方を行うことができる、請求項1から4までのいずれか一項に記載の光起電力素子。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
(i)多孔性材料及び前記多孔性材料の孔内に配置された光活性ペロブスカイト半導体を含む第1の層と、
(ii)前記第1の層の上に配置されたキャッピング層であって、前記キャッピング層が前記開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層である、キャッピング層と、
を含み、
前記キャッピング層中の前記光活性ペロブスカイト半導体が、前記第1の層中の前記ペロブスカイト半導体と接触する、
請求項1から5までのいずれか一項に記載の光起電力素子。
【請求項8】
前記第1の層中の前記光活性ペロブスカイト半導体が、前記p型領域及び前記n型領域のうちの一方と接触し、前記キャッピング層中の前記光活性ペロブスカイト半導体が、前記p型領域及び前記n型領域のうちの他方と接触する、請求項2または3に従属する場合の請求項7に記載の光起電力素子。
【請求項9】
前記多孔性材料がメソポーラスである、請求項7または8に記載の光起電力素子。
【請求項10】
前記多孔性材料が、
電荷輸送材料と、
4.0eV以上のバンドギャップを有する誘電性材料、
のいずれかである、請求項7から9までのいずれか一項に記載の光起電力素子。
【請求項11】
前記n型領域が
n型層、または、
n型層及びn型エキシトン・ブロッキング層、
である、請求項2または3に記載の光起電力素子。
【請求項12】
前記p型領域が
p型層、または、
p型層及びp型エキシトン・ブロッキング層、
である、請求項2または3に記載の光起電力素子。
【請求項13】(削除)
【請求項14】
前記ペロブスカイトが、ハロゲン化物アニオンから選択される2つ以上の異なるアニオンを含む混合型アニオンペロブスカイトである、請求項1〜5または7〜12のうちいずれか一項に記載の光起電力素子。
【請求項15】
前記光活性ペロブスカイト半導体が
[A][B][X]3
ここで、[A]は少なくとも1つの有機カチオン、
[B]は少なくとも1つの金属カチオン、
[X]は少なくとも1つのハロゲン化物アニオン、
で表されるペロブスカイト化合物である、請求項1〜5、7〜12、および14のうちいずれか一項に記載の光起電力素子。
【請求項16】
[X]が、ハロゲン化物アニオンから選択される2つ以上の異なるアニオンである、請求項15に記載の光起電力素子。
【請求項17】
前記光起電力素子が、
第1の電極と、
第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置された、前記開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる緻密層を含む光活性領域と、少なくとも1つの別の光活性領域、を含むタンデム接合または多接合光起電力素子である、請求項1〜5、7〜12、および14〜16のうちいずれか一項に記載の光起電力素子。
【請求項18】
前記p型領域がペロブスカイトを含むp型層を含む、請求項2若しくは3、または請求項2若しくは3に従属する場合の請求項4、5、7〜12、および14〜17のうちいずれか一項に記載の光起電力素子。
【請求項19】
前記n型領域がペロブスカイトを含むn型層を含む、請求項2若しくは3、または請求項2若しくは3に従属する場合の請求項4、5、7〜12、および14〜17のうちいずれか一項、または請求項18に記載の光起電力素子。
【請求項20】
第1の電極と、
第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置された、
開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる緻密層を含む光活性領域であって、前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含み、前記光活性ペロブスカイト半導体が三次元結晶構造を有し、前記開口気孔を有さない前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、100nm〜700nmである、光活性領域と、
少なくとも1つの別の光活性領域、
を含む、多接合光起電力素子。
【請求項21】
前記少なくとも1つの別の光活性領域が少なくとも1つの半導体材料層を含む、請求項20に記載の多接合光起電力素子。
【請求項22】
前記半導体材料が、結晶シリコン、銅亜鉛スズ硫化物、銅亜鉛スズセレン化物、銅亜鉛スズセレン化硫化物、銅インジウムガリウムセレン化物、銅インジウムガリウム二セレン化物又は銅インジウムセレン化物の層を含む、請求項21に記載の多接合光起電力素子。
【請求項23】
前記半導体材料が、結晶シリコンの層を含む、請求項21または22に記載の多接合光起電力素子。
【請求項24】
前記少なくとも1つの別の光活性領域が、イントリンシック薄層との結晶シリコンヘテロ結合を含む、請求項20から23のいずれか一項に記載の多接合光起電力素子。
【請求項25】
前記半導体材料層がペロブスカイト半導体を含む、請求項21に記載の多接合光起電力素子。
【請求項26】
前記少なくとも1つの別の光活性領域が、開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体の緻密層からなる、請求項20に記載の多接合光起電力素子。
【請求項27】
第1の電極と、
第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置された複数の光活性領域であって、各光活性領域が開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる緻密層を含み、前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含み、光活性ペロブスカイト半導体が三次元結晶構造を有し、前記開口気孔を有さない前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、100nm〜700nmである、複数の光活性領域、
とを含む、請求項20に記載の多接合光起電力素子。
【請求項28】
各光活性領域が、
少なくとも1つのn型層を含むn型領域と、
少なくとも1つのp型層を含むp型領域と、
光活性ペロブスカイト半導体の緻密層、
を含み、
前記開口気孔を有さない光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層は、前記n型領域と前記p型領域の間に配置され、前記n型領域と前記p型領域の少なくとも一方とともにプレーナ・ヘテロ接合を形成し、前記ペロブスカイトは、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンから選択される少なくとも1つのアニオンを含み、前記光活性ペロブスカイト半導体は三次元結晶構造を有し、前記開口気孔を有さない前記光活性ペロブスカイト半導体からなる前記緻密層の厚さは、100nm〜700nmである、 請求項26に記載の多接合光起電力素子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-10-14 
出願番号 P2017-240862
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01L)
P 1 651・ 536- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 山村 浩
吉野 三寛
登録日 2020-02-13 
登録番号 6660930
権利者 オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッド
発明の名称 光電子素子  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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