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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C23F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C23F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C23F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C23F
管理番号 1380938
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-01-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-07 
確定日 2021-10-21 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6677448号発明「銅張積層板、及び銅張積層板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6677448号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜12〕について訂正することを認める。 特許第6677448号の請求項1、3〜12に係る特許を維持する。 特許第6677448号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6677448号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜12に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、平成27年 1月20日に出願され、令和 2年 3月17日にその特許権の設定登録がなされ、同年 4月 8日に特許掲載公報が発行された。
その後、同年10月 7日に、特許異議申立人真鍋直樹(以下、「申立人」という。)により、請求項1〜12(全請求項)に係る本件特許に対して特許異議の申立て(以下、「本件異議申立」という。)がなされ、令和 3年 3月22日付けで取消理由が通知され、これに対して、特許権者により同年 5月24日に意見書が提出されるとともに、同日に訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、申立人により同年 7月21日に意見書が提出されたものである。

第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び、訂正の内容
(1)訂正請求の趣旨
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第6677448号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、請求項1〜12について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は下記(2)のとおりである。

(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記銅層の前記第2の面には防錆処理が施されており、防錆処理された前記第2の面の純水に対する接触角が45°以上80°以下である」と記載されているのを、「前記銅層の前記第2の面には、防錆剤として有機防錆剤を用いて防錆処理が施されており、防錆処理された前記第2の面の純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下である」に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、「請求項2」とあるのを「請求項1」に訂正する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1〜4」とあるのを「請求項1、3、4」に訂正する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に、「請求項1〜5」とあるのを「請求項1、3〜5」に訂正する。

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「前記防錆処理工程においては、前記第2の面の純水に対する接触角が45°以上80°以下となるように防錆処理を実施する」と記載されているのを、「前記防錆処理工程においては、前記第2の面の純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下となるように防錆処理を実施する」に訂正する。
請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8〜12も同様に訂正する。

2 本件訂正についての当審の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
本件訂正前の請求項1は「前記銅層の前記第2の面には防錆処理が施されており、防錆処理された前記第2の面の純水に対する接触角が45°以上80°以下である」と記載され、銅層の第2の面について防錆処理を行うことと、防錆処理された第2の面の純水に対する接触角が所定の範囲内にあることのみを特定しており、防錆処理に用いる防錆剤の種類や、純水に対する接触角を測定する測定点の数等については何ら特定されていなかった。
これに対して、本件訂正後の請求項1は、銅層の第2の面について、防錆剤として有機防錆剤を用いて防錆処理を行うこと、第2の面の純水に対する接触角を5点測定した場合の最小値、及び最大値が所定の範囲にあることを具体的に特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
上記アのとおり、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
本件訂正前の請求項2には、「前記第2の面の防錆処理を行う際の防錆剤として、有機防錆剤が用いられている請求項1に記載の銅張積層板。」と記載されている。
また、明細書の【0113】に「まず、以下の実施例、比較例において作製した銅張積層板の評価方法について説明する。
(純水に対する接触角)
銅張積層板の銅層の第2の面について、自動接触角計DM−301(協和界面科学株式会社製)を用いて、滴下した純水量1.0μl、温度25℃の条件で、銅層表面と純水による水滴のなす角を5点測定し、最小値と最大値により評価した。」と記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除するものであり、特許請求の範囲を減縮するものであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
上記アのとおり、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
上記アのとおり、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正事項3〜5について
ア 訂正の目的について
訂正事項3〜5は、請求項3、5、6が請求項2の記載を引用する形式となっていたものを、訂正事項2により請求項2が削除されたことにより、請求項2を引用しないものとするためのものである。
このため、訂正事項3〜5は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
上記アのとおり、訂正事項3〜5による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
上記アのとおり、訂正事項3〜5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(4)訂正事項6について
ア 訂正の目的について
本件訂正前の請求項7は「前記防錆処理工程においては、前記第2の面の純水に対する接触角が45°以上80°以下となるように防錆処理を実施する」として、防錆処理された第2の面の純水に対する接触角が所定の範囲内にあることのみを特定しており、純水に対する接触角を測定する測定点の数等については何ら特定されていなかった。
これに対して、本件訂正後の請求項7は、第2の面の純水に対する接触角を5点測定した場合の最小値、及び最大値が所定の範囲にあることを具体的に特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
上記アのとおり、訂正事項6による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
明細書の【0113】に「まず、以下の実施例、比較例において作製した銅張積層板の評価方法について説明する。
(純水に対する接触角)
銅張積層板の銅層の第2の面について、自動接触角計DM−301(協和界面科学株式会社製)を用いて、滴下した純水量1.0μl、温度25℃の条件で、銅層表面と純水による水滴のなす角を5点測定し、最小値と最大値により評価した。」と記載されている。
したがって、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(5)一群の請求項について
本件訂正によって、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2〜6が連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項1〜6は一群の請求項である。
また、本件訂正によって、本件訂正前の請求項7を引用する請求項8〜12が連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項7〜12は一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(6)独立して特許を受けることができるかについて
本件異議申立は、全請求項(請求項1〜12)を対象に申し立てられたものであるから、本件訂正には、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件は課されない。

(7)申立人の主張について
ア 申立人は、令和 3年 7月21日提出の意見書において、「防錆剤層の不均一性を鑑みれば、物によっては、第2の面の純水に対する接触角が、ある特定の5点の測定位置では45°以上80°以下であっても、別の測定位置では、45°未満、あるいは80°超となる場合も十分考慮されます。
例えば、取消理由通知書61頁の「2 取消理由2(明確性)」で審判官殿も指摘されたとおり、本件の比較例2では、接触角の最小値が66゜であるため、測定点の取り方によっては、最大値も80°以下となる可能性があります。訂正前の本件発明1における、「錆処理された第2の面の純水に対する接触角が45°以上80°以下である」(当審注:「錆処理」は「防錆処理」の誤記である。)との記載は不明確であるにせよ、少なくとも、比較例は特許発明の範囲から除外されるはずですから、測定箇所の選択の仕方によっては、比較例2も本件発明1に包含させることになる、「防錆処理された第2の面の純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下である」との訂正は、訂正後の発明に、本件特許発明の範囲外となる銅張積層板が含まれることになるため、実質上特許請求の範囲を拡張するものであり、かかる訂正内容を含む請求項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に該当するものと思料いたします。」と主張する。

イ しかしながら、比較例2は、接触角を5点測定し、その最小値と最大値により評価されたもの(【0113】)であって、本件訂正前後のいずれにおいても比較例とされているから、本件訂正により、比較例2が本件発明に含まれることになるとはいえない。

ウ よって、申立人の上記主張は採用しない。

(8)小括
以上のとおりであるから、令和 3年 5月24日に特許権者によって請求された本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜12〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、請求項1〜12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明12」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。なお、下線は訂正された箇所を表す。

「【請求項1】
樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムの少なくとも一方の面側に形成され、前記樹脂フィルムと対向する第1の面と、前記第1の面とは反対側の面である第2の面とを有する銅層とを含み、
前記銅層の前記第2の面には、防錆剤として有機防錆剤を用いて防錆処理が施されており、防錆処理された前記第2の面の純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下である銅張積層板。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記有機防錆剤はアゾール類を含んでいる請求項1記載の銅張積層板。
【請求項4】
前記有機防錆剤はベンゾトリアゾールを含んでいる請求項3に記載の銅張積層板。
【請求項5】
前記銅層の膜厚は0.1μm以上20μm以下である請求項1、3、4のいずれか1項に記載の銅張積層板。
【請求項6】
前記樹脂フィルムはポリイミドフィルムである請求項1、3〜5のいずれか1項に記載の銅張積層板。
【請求項7】
樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムの少なくとも一方の面側に形成され、前記樹脂フィルムと対向する第1の面と、前記第1の面とは反対側の面である第2の面とを有する銅層とを含む銅張積層板の、前記第2の面を防錆処理する防錆処理工程を有し、
前記防錆処理工程においては、前記第2の面の純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下となるように防錆処理を実施する銅張積層板の製造方法。
【請求項8】
前記防錆処理工程において、防錆剤として有機防錆剤を用いる請求項7に記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項9】
前記有機防錆剤はアゾール類を含んでいる請求項8に記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項10】
前記有機防錆剤はベンゾトリアゾールを含んでいる請求項9に記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項11】
前記有機防錆剤は、アルコールを含んでいる請求項8〜10のいずれか1項に記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂フィルムの少なくとも一方の面側に乾式めっき法にて金属シード層を成膜する金属シード層形成工程と、
乾式めっき法にて金属シード層上に銅薄膜層を形成する銅薄膜層形成工程と、
電気めっき法および/または無電解めっき法にて銅めっき層を形成する銅めっき層形成工程と、を有する請求項7〜11のいずれか1項に記載の銅張積層板の製造方法。」

第4 申立理由の概要
1 申立人は、証拠方法として、いずれも本願の出願前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記甲第1〜16号証を提出して、以下の申立理由1〜5により、本件訂正前の請求項1〜12に係る特許が取り消されるべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(新規性)(取消理由として一部採用)
ア 申立理由1−1(取消理由として甲第4、5号証によるものを採用)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1〜5号証に記載された発明であるから、同発明に係る特許は特許法29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 申立理由1−2(取消理由として甲第5号証によるものを採用)
本件訂正前の請求項2〜4に係る発明は、甲第1、2及び5号証に記載された発明であるから、同発明に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 申立理由1−3(取消理由として甲第5号証によるものを採用)
本件訂正前の請求項5に係る発明は、甲第1及び5号証に記載された発明であるから、同発明に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

エ 申立理由1−4(取消理由として甲第5号証によるものを採用)
本件訂正前の請求項6に係る発明は、甲第3及び5号証に記載された発明であるから、同発明に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

オ 申立理由1−5(取消理由として甲第5号証によるものを採用)
本件訂正前の請求項7〜12に係る発明は、甲第1及び5号証に記載された発明であるから、同発明に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(進歩性)(取消理由として不採用)
ア 申立理由2−1
本件訂正前の請求項1〜12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と周知技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 申立理由2−2
本件訂正前の請求項1〜12に係る発明は、甲第5号証に記載された発明と周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 申立理由2−3
本件訂正前の請求項1〜6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

エ 申立理由2−4
本件訂正前の請求項1〜11に係る発明は、甲第6号証に記載された発明と甲第1、5及び7号証に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

オ 申立理由2−5
本件訂正前の請求項1、5及び6に係る発明は、甲第2、4及び6号証に記載された発明と周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(実施可能要件)(取消理由として不採用)
本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許に係る拒絶査定不服審判における特許権者の令和 1年12月 6日付け意見書で、防錆剤の塗布や、水洗を行う際の周囲の雰囲気の制御による条件が相違すると主張する甲第5号証と異なる水洗方法は記載されておらず、純水に対する接触角が異なる実施例1〜4における水洗条件の違いも記載されておらず、どのような水洗方法を用いれば、防錆剤層の膜厚を所望の値に調整し得るのかの説明や、水洗を行う雰囲気についての説明も記載されていない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正前の請求項1〜12に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)申立理由4(サポート要件)(取消理由として不採用)
ア 申立理由4−1
本件訂正前の請求項1及び7に係る発明では、「防錆処理」を特に限定はしておらず、あらゆる防錆処理が含まれるところ、例えば鋼の表面をクロメート処理で防錆した場合に、どのようにすれば純水に対する接触角を「45°以上80°以下」に調整し得るのか不明である。
したがって、本件訂正前の請求項1〜12に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 申立理由4−2
本件訂正前の請求項2〜4及び8〜10に係る発明において限定された防錆処理には、ベンゾトリアゾール誘導体で防錆処理を行った場合も含まれるが、例えば、甲第1号証によれば、ベンゾトリアゾールで銅の表面処理を行った場合に水に対する接触角が65度となるのに対し、5−カルボキシベンゾトリアゾールを使用した場合には30度となり、甲第8号証の表1にも、5−メチルベンゾトリアゾールで銅の表面処理を行った場合と、ベンゾトリアゾールで銅の表面処理を行った場合では、動的接触角が異なることが示されていることから、仮に防錆処理剤をベンゾトリアゾールを含むものに限定したとしても、その全ての場合について、銅層表面(第2の面)の純水に対する接触角を「45°以上80°以下」に調整し得る方法が、明細書中に記載されているとはいえない。
したがって、本件訂正前の請求項1〜12に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(5)申立理由5(明確性)(取消理由として一部採用)
ア 申立理由5−1(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1に係る発明では、「前記銅層の前記第2の面には防錆処理が施されており」、本件訂正前の請求項2に係る発明では、「前記第2の面の防錆処理を行う際の防錆剤として、有機防錆剤が用いられている」と、物としての特徴ではなく、物を製造する方法による限定(プロダクト・バイ・プロセス形式の限定)が行われており、本件訂正前の請求項3、4に係る発明も、防錆剤を限定することにより、方法をさらに限定したものであるところ、本件訂正前の請求項1〜4に係る発明及びこれらを引用する本件訂正前の請求項5、6に係る発明が、方法により物を限定することが認められる例外に該当するものであるとはいえない。
したがって、本件訂正前の請求項1〜6に係る発明が明確であるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 申立理由5−2(取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1に係る発明には、「防錆処理された前記第2の面の純水に対する接触角が45°以上80°以下である」との特徴が記載されているが、本件特許に係る願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)に記載された実施例のように、第2の面の純水に対する接触角の数値が一定の幅をもつ場合、平均値を対比すればよいのか、全面で上記の範囲に入る必要があるのかは明確でないから、本件訂正前の請求項1〜6に係る発明は明確に記載されたものではない。
また、「前記防錆処理工程においては、前記第2の面の純水に対する接触角が45°以上80°以下となるように防錆処理を実施する」との特徴を記載した本件訂正前の請求項7に係る発明及びこれを引用する本件訂正前の請求項8〜12に係る発明も、同様に不明確である。
したがって、本件訂正前の請求項1〜12に係る発明が明確であるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 証拠方法
・甲第1号証:特開2014−175308号公報
・甲第2号証:特開2000−313980号公報
・甲第3号証:特開2012−207285号公報
・甲第4号証:特開2006−173549号公報
・甲第5号証:特開2014−227585号公報
・甲第6号証:特開2009−196098号公報
・甲第7号証:特開2012−132040号公報
・甲第8号証:Richard R. Thomas et al.、 "Correlation of Surface
Wettability and Corrosion Rate for Benzotriazole-
Treated Copper"、Journal of the Electrochemical
Society、Vol.139、No.3、March 1992、p.678-685
・甲第9号証:特開2012−41574号公報
・甲第10号証:Hitoshi NAGATA and Akira KAWAI、"Characteristics
of Adhesion between Photoresist and Inorganic
Substrate"、Japanese Journal of Applied Physics、
Series 3、Proceedings of 1989 International
Symposium on MicroProcess Conference、 p.192-196
・甲第11号証:河合晃、“フォトレジストと無機基板との接着機構に関
する研究”、1992年
・甲第12号証:特開2014−197668号公報
・甲第13号証:特開昭58−66206号公報
・甲第14号証:国際公開第2014/091997号
・甲第15号証:雨宮栄、“気化性防錆剤(VCI)”、スリーボンド・テ
クニカルニュース、昭和62年7月1日発行
・甲第16号証:石井淳一 外4名、“極めて低い弾性率を有するポジ型
感光性ポリイミド−銅箔との接着性改善−”、日本接着
学会誌、Vol.46、No.4、2010年、p.137-144

以下、「甲第1号証」〜「甲第16号証」を、それぞれ「甲1」〜「甲16」という。

第5 取消理由の概要
1 令和 3年 3月22日付けで通知された取消理由の概要は次のとおりである。
(1)甲4を主たる引用例とする新規性について(申立理由1の一部を採用)
ア 本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲4に記載された発明である。

(2)甲5を主たる引用例とする新規性について(申立理由1の一部を採用)
ア 本件訂正前の請求項1〜12に係る発明は、甲5に記載された発明である。

(3)本件発明の明確性について(申立理由5の一部を採用)
ア 本件訂正前の請求項1に係る発明は、「防錆処理された前記第2の面の純水に対する接触角が45°以上80°以下である」との発明特定事項を有するが、本件明細書に記載された実施例のように、第2の面の純水に対する接触角の数値が一定の幅をもつ場合、平均値を対比すればよいのか、全面で上記の範囲に入る必要があるのかについて定義されていないから、本件訂正前の請求項1〜6に係る発明は明確ではない。

イ 本件訂正前の請求項7に係る発明は、「前記防錆処理工程においては、前記第2の面の純水に対する接触角が45°以上80°以下となるように防錆処理を実施する」との発明特定事項を有するが、当該事項が明確でないことは、上記アと同様である。
したがって、本件訂正前の請求項7〜12に係る発明は明確ではない。

第6 甲1〜16の記載事項
1 甲1の記載事項
上記甲1には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付与し、「・・・」は記載の省略を表すものであって、以下同様である。

「【請求項1】
金属アノードと正孔注入層を備えた有機電子デバイスであって、さらに前記金属アノードと前記正孔注入層の間に自己組織化単分子膜(SAM)を備えており、前記SAMが、前記金属アノードの表面上に吸着され得る部分と親水性部分とを有する化合物を含む、有機電子デバイス。」

「【請求項14】
以下の工程:
(i)基板上に金属アノードを成膜する工程;
(ii)前記金属アノードの表面上にSAMを形成し得る化合物を成膜する工程であって、前記化合物は、前記金属アノードの表面上に吸着され得る部分と親水性部分とを有する、工程;および
(iii)該SAM上に正孔注入層を成膜する工程
を含む、有機電子デバイスの製造方法。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、金属アノードと正孔注入層を備えており、さらに前記金属アノードと前記正孔注入層の間に自己組織化単分子膜(SAM)を備えており、かつぬれ可能な腐食防止剤としての機能を果たす有機電子デバイス、および前記デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電子デバイスは、多くの潜在的な利点、例えば、さまざまな基板(ガラスおよびプラスチックなど)での安価で低温での大規模製作をもたらす。有機電子デバイスの例としては、有機発光ダイオード、有機薄膜トランジスタ、有機光起電性デバイス、有機光センサおよび有機メモリアレイデバイスが挙げられる。」

「【0018】
多種多様な腐食防止剤が当該技術分野で知られている。銅を一例に挙げると、酸化銅は、水性酢酸中に2〜3分間浸漬することによって銅表面から除去され得る。しかしながら、該酸化物はすぐに大気中で再形成を開始する。銅の場合、広く使用されている銅腐食防止剤の一例はcuprotec3であり、これはベンゾトリアゾールを含む。また、場合により銅腐食防止のための特にベンゾトリアゾール、ならびにインダゾールの使用も当該技術分野でよく知られており、例えば、ベンゾトリアゾールおよびインダゾールの使用は、J.B.Cotton,I.R.Scholes,Br.Corros.J.2(1967)1に開示および試験されている。Ngoc Huu Huynh(PhD thesis 2004,Queensland University of Technology)には、酸性水性環境における一部のいくつかの複素環式化合物の銅腐食防止剤としての使用が開示されている。一例では、腐食性環境における銅腐食防止のための4−カルボキシベンゾトリアゾールおよび5−カルボキシベンゾトリアゾールの使用が開示されている。カルボキシ基が、標的の水性腐食性環境において腐食防止を増大し得るという仮定の下で選択された。これらが、大気腐食またはエレクトロマイグレーション効果によって引き起こされる銅腐食を抑制するために使用され得るという開示も示唆もない。
【0019】
J.M.Park and J.P.Bell,Epoxy Adhesion to Copper;Adhesive Aspects of Polymer Coatings.Symposium on Adhesion Aspects of Polymeric Coatings(1981:Minneapolis,1983,205−224)には、ベンゾトリアゾール誘導体、例えば5−ヒドロキシトリアゾールを銅とエポキシ層の間に含めることによる銅−エポキシ結合の耐水性の改善が開示されている。この開示の焦点は、例えば、エポキシ樹脂が使用された銅板によって形成される接合部の水、特に沸騰水に対する抵抗性の改善である。種々のデバイス(電子デバイスなど)における銅腐食防止剤としてのさらなるベンゾトリアゾールおよび他の芳香族誘導体の使用が、例えば、US−A−2004/0217006,Vishnevs’kii,R.Fizika i Khimiya Tverdogo Tila(2006),7(4),748−750およびUS−A−2009/0239380に開示されている。これらおよび先行技術の多くでは、銅腐食の増大はベンゾトリアゾール誘導体がより疎水性となることにより起こり得ると結論付けられている。例えば、X.R.Ye et al.,Applied Surface Science 135(1998)307参照のこと。」

「【0023】
本発明者らは、有機電子デバイスおよびその作製方法に関して、アノードとしての金属トラッキングの双対問題(すなわち、第1に、多くは容易に酸化し、接触抵抗の増大のため効率が低下する;第2に、アノード上に成膜される正孔注入層は、PEDTなどの親水性化合物である化合物を含む−正孔注入化合物の水溶液を金属表面上または慣用的な腐食防止剤上に成膜させることは容易でない)に対処することを可能にするという大きな飛躍を遂げた。本発明者らは、特定の特性を有する分子の自己組織化単分子膜を金属表面と正孔注入層間に使用することにより、該金属表面の酸化を抑制するとともに、正孔注入層の分子の水溶液での被覆に理想的な環境がもたらされることを確実にする所望の親水性表面を得ることが可能であることを見出した。」

「【0033】
本発明のデバイスおよび製造方法により、有機電子デバイスの作製の潜在的にすべての(または、例えば、何がOLEDデバイスのカソード物質として使用されるかにもよるが、ほぼすべての)工程を、液相処理可能にすること、および容易に製造レベルに拡張可能にすること(液相(solution−based)成膜手法には真空が必要とされないため)が可能になる。得られるデバイスは比較的安価であり、改善された効率、例えば、本発明のデバイスに使用されたSAMによってもたらされる優れた腐食防止による低接触抵抗を有する。また、さらに、効率は、金属アノードの表面上に吸着され得る部分上の親水性部分、例えば、ヒドロキシ基またはカルボキシ基の存在の結果によっても改善される。SAMが金属アノードの表面上に吸着されたときに、このような基によって提示される水溶液からの該親水性表面上への正孔注入層の成膜により該金属表面のぬれ性が大きく改善され、優れた均一な正孔注入層が該金属表面上に成膜されることが確実になる。これにより、最適な金属−正孔注入層界面がもたらされることによって正孔注入層からの正孔の注入がさらに改善される。」

「【0035】
本発明の好ましい一実施形態では、SAMは親水性置換基を有する芳香族化合物からなる。好ましくは、前記親水性置換基を有する芳香族化合物は、ベンゾトリアゾール誘導体、インダゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体またはベンゾオキサゾール誘導体、より好ましくはベンゾトリアゾール誘導体またはインダゾール誘導体、最も好ましくはベンゾトリアゾール誘導体である。該芳香族部分は、金属アノードの表面上に吸着され得る部分としての機能を果たす。特に、芳香族環の窒素原子が吸着を担っていると考えられる。
【0036】
本発明のデバイスに存在させるSAMの化合物において、親水性置換基は、好ましくは、ヒドロキシ、カルボキシ、カルボニルおよびチオ置換基からなる群より選択され、これは、好ましくはヒドロキシルまたはカルボキシ置換基である。SAMがベンゾトリアゾール誘導体などの芳香族化合物である場合、親水性置換基は、好ましくは該芳香族環基の4位または5位、より好ましくは5位に存在させる。本発明のデバイスのSAMとしての使用のための最も好ましい化合物は、4−カルボキシベンゾトリアゾール、5−カルボキシベンゾトリアゾール、5−ヒドロキシベンゾトリアゾールおよび4−ヒドロキシベンゾトリアゾール(trizole)、最も好ましくは5−ヒドロキシベンゾトリアゾールまたは5−カルボキシベンゾトリアゾールである。」

「【0038】
上記に論考したSAMを備えた本発明の有機電子デバイスは、金属アノードを備えている。本発明のデバイスの金属アノードは、典型的には、大気中で室温(典型的には、25〜37℃)で酸化される金属である。これには、不活性金属である金、白金およびパラジウムを除き、ある程度までのほとんどの金属が包含される。金は、先行技術のデバイスにおいて、透明性が重要でない場合のデバイスのアノードの作製に常套的に使用されている。しかしながら、これは種々の問題点を有する。第1に、明らかに、これは非常に高価である。第2に、これは、熱蒸着手法によってしか成膜できないため加工が困難である。したがって、上記に論考したSAMが組み込まれた本発明のデバイスは、好ましくは、金属アノードが大気中で室温(典型的には、25〜37℃)で酸化性である。より好ましくは、これは、銅、アルミニウム、ニッケルおよび銀からなる群より選択される金属、より好ましくは銅である。好ましくは、アノードはパターン形成金属トラッキングの形態である。以下にさらに論考するように、これは、無電解めっき手法(WO−A−2004/068389に開示されたものなど)によって成膜され得る。あるいはまた、これは真空蒸着またはフォトリソグラフィによっても成膜され得る。これらの手法では、金属トラッキングの成膜が可能であり、10ミクロン未満のオーダーのトラックでの厳密なパターン形成トラッキング(例えば、非常に微細なメッシュ)を作製することが可能である。」

「【0042】
さらにより好ましくは、該デバイス、例えばOLEDは:
(i)基板;
(ii)前記基板上に金属アノード;
(iii)前記金属アノードの表面上に吸着され得る部分と親水性部分とを有する化合物からなるSAM;
(iv)前記金属アノード上に正孔注入層;
(v)有機発光層;および
(vi)前記有機発光層上にカソード
を備える。」

「【0045】
基板は、当該技術分野で慣用的に使用されている任意の物質、例えば、ガラスまたはプラスチックであり得る。好ましくは、基板は透明である。また、好ましくは、基板はデバイス内への湿気または酸素の進入を妨げるための良好なバリア特性を有する。」

「【0070】
第2の発明の第2の態様の好ましい実施形態では、金属アノードが、蒸着、スパッタリング(例えば、Leybold(登録商標)ブランケットスパッタリング(例えば、US−A−5,556,520に記載))および無電解めっきからなる群より選択されるプロセス、好ましくは無電解めっきによって基板上に成膜されるパターン形成金属トラッキングの形態である方法を提供する。無電解めっき手法は、特に好ましくは、WO−A−2004/068389に開示されたものなどの無電解めっき手法である。これは、その最も基本的な形態において、基板上への前記金属のイオンの溶液の成膜、および該金属イオンと還元剤が反応溶液中で一緒に反応して前記基板上に導電性金属領域が形成され、該基板上に導電性金属領域が形成されるような前記基板上への該還元剤の溶液の成膜を含む。該金属イオンと該還元剤の反応は、典型的には活性化剤(第1のものと異なる第2の導電性金属など)によって活性化される。使用する場合、活性化剤は、典型的には最初に基板上に成膜してパターン形成構造を得る。次いで、第1の金属イオンと還元剤を基板上にさらに成膜し、所望のパターンを有する金属トラッキングとして所望のアノードを得る。」

「【0075】
本発明によるボトムエミッション型デバイスの断面を図2に示す。ガラスまたはプラスチック基板2は、100nmオーダー厚のパターン形成金属トラッキングの形態の金属(例えば、銅)アノードを備えた透明アノード層4を支持している。これは、例えば、無電解めっき手法(WO−A−2004/068389に開示されたものなど)またはブランケットイオンスパッタリング(例えば、Leybold(登録商標)ブランケットスパッタリング)によって成膜され得る。金属トラッキング4上には、前記金属アノードの表面上に吸着され得る部分と親水性部分とを有する化合物、例えば、親水性ベンゾトリアゾール誘導体(5−ヒドロキシベンゾトリアゾールまたは5−カルボキシベンゾトリアゾールなど)からなるSAM22が成膜されている。該SAM上に正孔注入層6が成膜される。次いで、中間層8、有機発光層10およびカソード12が連続的に成膜される。正孔注入層6は、アノード層4と発光層10の正孔エネルギーレベルのマッチングを補助し、導電性の透明ポリマーを含む。カソード12は、例えば、銀、アルミニウムおよびフッ化ナトリウムの三層(triilayer)を備える。アノードおよびカソードに対するコンタクトワイヤ14と16はそれぞれ、電源18への接続をもたらす。」

「【実施例1】
【0077】
種々のSAMで処理した基材の調製および得られた被処理基材の水接触角の測定
(a)2インチ(5.08cm)の100nmの銅基板をLeybold(登録商標)ブランケットスパッタリングによって調製した。上面に成膜された銅アノードを有する得られた基板を、次いで、SAMとしての使用のために選択した分子溶液からの成膜のために調製した。その方法は以下のとおりである。
【0078】
(b)SAMインク調製物を調製した。これを行うため、10ml容バイアルをテトラヒドロフランで洗浄し、窒素ガンで吹き付け乾燥した。この10ml容バイアル内に、不活性窒素雰囲気のグローブボックス内で試験対象の所望量のSAM物質を量り入れた。適当な量の所望の溶媒(本試験ではイソプロピルアルコール)を同10ml容バイアルに、同じ条件下のこのグローブボックス内で添加した。次いで、混合物を1〜2分間ボルテックスした後、加熱ブロックに1時間または完全に溶解して溶液状態になるまで入れた。
・・・
【0082】
一連の実験は、未処理銅(オゾン処理ありまたはなし)の水接触角を測定するために実施し、これを、銅表面を以下のような種々の化合物で処理した場合の水接触角と比較した。」

「【0084】
【表1】

このように、銅表面を処理するために使用した化合物の性質、特に、芳香族基上の置換基の親水性に応じて水接触角の変化がみられることがわかる。水接触角の改変により金属の表面エネルギーが改変される。これにより、金属表面上に吸着され得る部分の結合の改善がもたらされ、親水性の改善ならびにぬれ性の増大がもたらされる。」

「【図2】



2 甲2の記載事項
上記甲2には、以下の記載がある。

「【請求項1】所定の厚さに圧延して得られた銅箔を、炭素原子数が8以上で20以下の範囲にある鎖状飽和炭化水素であって、該鎖状飽和炭化水素の成分の総量が99重量%以上からなる洗浄液で銅箔表面の油分等を洗浄し、得られた銅箔表面と水の接触角が80度以下に成るように洗浄することを特徴とする水ぬれ性に優れた圧延銅箔の製造方法。」

「【0002】
【従来の技術】従来より圧延銅箔はフレキシブルプリント配線板の回路材料や電池電極板の集電体の用途に使用されている。これらの用途では圧延銅箔が単体として使用されることはなく、圧延銅箔上に接着剤、塗料、樹脂、溶剤あるいはこれらの混合物をコーティングして使用される。フレキシブルプリント配線板の回路材料の用途では、圧延銅箔に接着剤をコーティングして樹脂フィルムを貼り合わせて配線板を形成し、さらに圧延銅箔に紫外線硬化塗料をコーティングして電気配線回路を形成する。また、電池電極板の集電体の用途では、電池の活物質、接着剤および溶剤を混合したスラリーを圧延銅箔上にコーティングして電極板を作製する。しかしながら、圧延銅箔の表面には圧延油などの油分が存在するため、銅箔と接着剤、塗料、樹脂、溶剤あるいはこれらの混合物とのぬれ性が悪く、密着性が悪く剥離やコーティングむらといった問題が生じる。従来は、圧延銅箔の表面に粗化めっき処理を行ったり、圧延ロールの表面粗さを調整して機械的に凹凸を形成して密着性を改善して用いている。」

「【0007】本発明に係る圧延銅箔は、公知の方法で銅を所定の厚さに圧延する。例えば、銅を溶解して鋳型に鋳込み、これを熱間圧延を行って厚さを3〜10mmにして、その後は冷間圧延および焼鈍を繰り返して所望の厚さに調整する。銅箔の厚さは特に規定されるものではないが、一般的に箔といえるのは0.1mm以下である。銅箔の厚さは冷間圧延を行うときは潤滑性を与えるために圧延油を使用したり、酸化を抑制するために防錆油を使用していても良い。また、銅箔の圧延工程において不可避的に混入した機械油が銅箔の表面に付着していても問題はない。このようにして製造された銅箔の表面には圧延油、防錆油や機械油などの油分が付着しているが、これらの油分が水に対して撥水性を示すので、銅箔の水ぬれ性を悪化させている。したがって、これらの油分を除去するために脱脂処理を行う。」

「【0012】ところで、銅箔を洗浄すると銅箔に付着している圧延油、防錆油や機械油などの油分が洗浄液中に移行するが、洗浄液を循環して使用すると、洗浄液中にこれらの油分が徐々に蓄積する。一般に圧延油や機械油は、鉱物油をベースにした基油に、脂肪酸類やエステル類を添加したものが用いられることが多く、基油には炭素原子数が20を越える鎖状飽和炭化水素が含まれる。また、銅の防錆油は鉱物油をベースにした基油に、ベンゾトリアゾールやベンゾイミダゾールなどのインヒビタを添加したものが用いられることが多い。これらの油分の成分で、脂肪酸、エステル類、インヒビタは分子内の極性が大きいので銅箔の表面に化学吸着しやすく、再汚染の原因になりやすい。
【0013】また、脂肪酸、エステル類、インヒビタは沸点が比較的に高いものが多く、洗浄液の乾燥時に揮発せずに銅箔の表面に残留しやすい。同様に、基油に含まれる炭素原子数が20を越える鎖状飽和炭化水素は沸点が高いので、揮発しにくく銅箔の表面に残留しやすい。銅箔に残留したこれらの成分は水ぬれ性を低下し、銅箔と水の接触角を80度以下にすることができなくなる。また、不飽和炭化水素は飽和炭化水素と比較して反応性に富むために洗浄液を変質させるので、洗浄液として用いることは好ましくない。以上のことから、銅箔の洗浄液に含まれる炭素原子数が8以上で20以下の範囲にある鎖状飽和炭化水素以外の不純物が増加すると、銅箔に残留して水ぬれ性を低下するので、炭素原子数が8以上で20以下の範囲にある鎖状飽和炭化水素の成分の総量が99重量%以上であることが望ましい。」

「【0016】これらの洗浄液は圧延油などの油分量が異なる洗浄液を各々用意し、乾燥温度を変えて水ぬれ性と変色の状態を比較した。ガスクロマトグラフ法で炭素原子数が8以上で20以下の範囲にある鎖状飽和炭化水素以外の成分の総量(不純物量)を測定した。その結果、不純物量はA液については0.1重量%、0.6重量%および1.5重量%、B液については0.4重量%と1.8重量%であった。次に洗浄液から銅箔を取り出し、直ちに表1に示す温度で保持した温風乾燥機に30秒間保持して乾燥した。以上の方法で得られた銅箔に純水を滴下し、銅箔と水の接触角をゴニオメーターを用いて測定した。また、乾燥後の銅箔の表面を目視で観察して、酸化による変色の有無を調べた。表1に各例で作製した銅箔と水の接触角および乾燥による変色の有無を調べた結果を示す。
【0017】
【表1】



3 甲3の記載事項
上記甲3には、以下の記載がある。

「【請求項1】
母材銅箔(未処理銅箔)の少なくとも片面表面に、付着量が0.05〜1.0mg/dm2のNiまたNi−Pの一次処理層が設けられ、該一次処理層の上に付着量が0.01〜0.10mg/dm2のZnまたはZn−Vの二次処理層が設けられ、該二次処理層の上にクロメート処理層が形成され、該クロメート処理層の上に付着量0.002〜0.02mg/dm2のシランカップリング処理層が設けられている表面処理銅箔。
・・・
【請求項4】
請求項1又は2に記載の表面処理銅箔と熱硬化性樹脂基板とを積層する銅張積層板の製造方法であって、
前記表面処理銅箔と熱硬化性樹脂基板とを式1に示すLMP値が10660以下の条件で加熱積層し、前記表面処理銅箔のシランカップリング処理層の官能基を、熱硬化性樹脂の官能基と反応させる銅張積層板の製造方法。
式1:LMP=(T+273)*(20+Logt)
ここで、20は銅の材料定数、Tは温度(℃)、tは時間(hr)、Logは常用対数である。
・・・
【請求項6】
請求項4又は5に記載の銅張積層板の製造方法で製造された銅張積層基板。
【請求項7】
請求項6に記載の銅張積層板を用いたプリント配線基板。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、特にフレキシブルプリント配線板等に用いる銅箔に関し、ファインパターンでの回路形成性や高周波域における伝送特性に優れ、かつ樹脂基材との密着性に優れる表面処理銅箔とその製造方法に関するものである。
また、本発明は前記表面処理銅箔を使用した銅張積層板とその製造方法、並びに該銅張積層板を用いたプリント配線板に関するものである。」

「【0006】
これらの問題を解消するため、ファインパターン対応や高周波対応のプリント配線板等に用いる銅箔として、粗化処理を施さずに平滑な銅箔を樹脂基材に張り付けて使用する方法がこれまで検討されてきた。(特許文献2、3、4)
しかしながら、これらの平滑な銅箔はファインパターンの回路形成性や高周波域における伝送特性には優れるものの、必ずしも、銅箔と樹脂基材との密着性を安定的に、かつ十分に高めることが困難であり、回路配線のエッチング工程あるいは回路配線の端部へのSnめっき工程において、銅箔と樹脂基材との界面で薬品の染み込みが発生することや、プリント配線板の製造工程および製品使用中の熱負荷により密着性が低下する等の課題を有している。特に、ファインパターン対応のプリント配線板では回路配線(銅箔)と樹脂基材との接合面積が極めて小さく構成されるため、薬品の染み込みや熱負荷後の密着性低下が発生すると樹脂基材から回路配線が剥離する危険性があり、樹脂基材との密着性が良好な銅箔が望まれている。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願の課題は、上記問題点を解消し、防錆効果に優れ、微細回路の形成性や高周波域における伝送特性に優れ、かつ樹脂基材との密着性に優れる表面処理銅箔を提供し、合わせて該表面処理銅箔を樹脂基材に張り付けた銅張積層板および前記銅張積層板を用いたプリント配線板を提供することにある。」

「【0018】
また、本発明では、前記NiまたはNi−P合金を付着した一次処理層表面に、防錆効果に寄与するZnまたはZn−V合金を二次処理層として設ける。二次処理層のZn付着量は0.01〜0.10mg/dm2とする。ZnまたはZn−V合金のZnとしての付着量を規定するのは、付着量が0.10mg/dm2以上であると、エッチング性が悪く、0.01mg/dm2以下であると耐酸性が悪く、ファインパターンのエッチングが期待できないためである。
【0019】
二次処理層としてはZnのみでも防錆効果は充分であるが、V(バナジウム)含有量が10%以下のZn−V合金を用いることでファインパターン加工性に影響することなく耐熱性と耐薬品性の相乗の効果が得られる。
V(バナジウム)含有量を10%以下とするのは、表面処理銅箔にファインパターン加工を施す際に用いる過酸化水素−硫酸系エッチング液にVが溶解し、エッチング液に溶解したVが該エッチング液と酸化還元反応して過酸化水素の劣化を早めるため、Vの含有量は10%以下とすることが好ましい。
また、一次処理層のNi付着量が0.2mg/dm2までなら、200℃〜350℃程度のプレス温度や加熱条件下で十分にZn成分と銅箔表面とで真鍮化し、Niが混在する真鍮(Cu/Ni/Zn)化が可能で、二次処理層を加熱して真鍮化することで、二次処理層の防錆効果は更に向上する。
【0020】
二次処理層の表面にさらにクロメート処理層(皮膜)を形成する。Zn又はZn−V合金からなる二次処理層とクロメート処理層は銅箔表面が酸化するのを防ぎ、銅箔と樹脂基材との初期密着性の向上及び高温高湿雰囲気に曝された後の密着力低下を防ぐ効果がある。
特にクロメート処理層の接触角θを小さくすることにより樹脂基材との密着性はより向上する。」

「【0022】
クロメート処理層の接触角θを小さくすることにより樹脂基材との密着性は向上する。接触角θ(親水性)は、二次処理層上に施すクロメート処理層を設ける時の電流密度を上げることによってその接触度θが低下することを実験的に突き止めた。
表1は銅箔表面に下地めっきとしてNi層、その上にZn層を設け、その表面に電流密度を種々かえてクロメート層を施し、図1に示す接触角θを求めた結果を示している。
表1に示す実験例1〜9から明らかなように、電流密度が高くなるに従ってCrの付着量も増加するが、接触角θも上昇している。
【0023】
本発明表面処理銅箔はクロメート処理層の表面にシランカップリング剤を塗布、加熱乾燥してシランカップリング処理層を設ける。
シランカップリング剤は様々な種類のものが市販されているが、それぞれに特徴があり、接着させる樹脂基材に適したものを選択する必要がある。高周波対応樹脂基板には、アミノシラン系、またはメタクリル系が有効である。また、リジッド配線板やIC用のプリント配線板には主にエポキシ系のフェノール樹脂やエポキシ樹脂を用いることが有効である。
【0024】
シランカップリング剤は、水と接すると加水分解し、生成したシラノール基が自己縮合により、前記クロメート層表面の水酸基と水素結合的に吸着し、その後の乾燥処理で負荷される熱(熱エネルギー)で、前記クロメート層上の表面上に存在する水酸基と、シラノール基とから脱水(縮合反応)反応がおこり、防錆効果が高まると考えられる。
即ち、クロメート層の表面に発生する水酸基の数をコントロールすることにより、シランカップリング剤と水素結合する水酸基の数とをあわせることにより、水素結合できない水酸基を少なくすることができる。これにより、乾燥工程を経て、余分の水酸基が少なくなり、結果として銅箔表面に酸化物の付着が少なくなり、銅箔表面の防錆効果が得られることになる。
【0025】
シランカップリング剤を塗布、加熱乾燥する過程で加熱乾燥温度が低いとクロメート層の水酸基とシランカップリング剤のシラノール基との水酸基同士の水素結合の結合エネルギーが低く、シランカップリング処理の効果が得られない。一方、加熱し過ぎると結合したシランカップリング剤が熱によって分解し、そこが脆弱な界面となって樹脂基材との接着性に悪影響を及ぼすので好ましくない。乾燥温度と乾燥時間は、装置の構成や製造工程の処理速度(ワークタイム)にも依存するが、好適な範囲としては、乾燥温度が70〜200℃、乾燥時間が15〜35秒である。
【0026】
前記考察に基づき、クロメート処理層のCr付着量(接触角θ)とシランカップリング処理層のシランカップリング剤の付着量により銅箔表面の酸化度合い(防錆効果)と熱硬化樹脂とのピール強度につき検討した結果を表1に示す。
表1から明らかなように、耐熱後のピール強度はクロメート処理層の接触角θが15°〜35°でシランカップリング剤の付着量が0.002〜0.02mg/dm2の実験例5が満足できる結果を示している。
なお、評価方法等については後述する。
【0027】
次に、表面処理を施した表面処理銅箔に樹脂基材を積層して銅張積層基板を作成した。
樹脂基材としては、種々の成分の高分子材料を用いることができる。しかし、本発明は、無機材料と有機材料をよりよく接着するため、無機材料であるクロメート処理層の親水性(接触角)を限定し、比較的低温で硬化する硬化系樹脂を選択する。このよう表面処理箔のクロメート処理層の接触角を限定し、比較的低温で硬化する硬化系樹脂を選択することで、銅箔の表面が平滑の状態であっても、高いピール強度で接合する銅張積層基板を作成することができる。
銅張積層基板を作成するには前述したように比較的低温で硬化する硬化系樹脂を選択する。比較的低温で硬化する硬化系樹脂としては260℃以下で1時間、或は式1で示すLMP値が10660以下の条件で熱硬化する熱硬化性樹脂を選択することが望ましい。
式1:LMP=(T+273)*(20+Logt)
ここで、20は銅の材料定数、Tは温度(℃)、tは時間(hr)、Logは常用対数である。」

「【0032】
実施例1〜4
(1)製箔工程
下記のめっき浴及びめっき条件で母材銅箔(未処理銅箔)を作成した。
(めっき浴及びめっき条件)
硫酸銅:銅濃度として50〜80g/L
硫酸濃度:30〜70g/L
塩素濃度:0.01〜30ppm
液温:35〜45℃
電流密度:20〜50A/dm2
作成された銅箔のRaは0.2μm以下、Rzは1.5μm以下であった。
【0033】
(2)表面処理−1
下記のめっき浴及びめっき条件で一次処理層を施した。
(Niめっき)
硫酸ニッケル6水和物:240g/L
過硫酸アンモニウム:40g/L
ホウ酸:30g/L
液温:50℃
電流密度:0.5A/dm2
【0034】
(Ni−Pめっき)
硫酸ニッケル6水和物:240g/L
過硫酸アンモニウム:40g/L
次亜リン酸ナトリウム:5g/L
ホウ酸:30g/L
液温:50℃
電流密度:0.5A/dm2
表面処理−1で施したNi又はNi−P合金におけるNiの付着量は0.05〜1.0mg/dm2の範囲である。
【0035】
(3)表面処理−2
下記のめっき浴及びめっき条件で二次処理層を施した。
(Znめっき)
硫酸亜鉛7水和物:24g/L
水酸化ナトリウム:85g/L
液温:25℃
電流密度:0.4A/dm2
【0036】
(Zn−Vめっき)
硫酸亜鉛7水和物:24g/L
水酸化ナトリウム:85g/L
メタバナジウム酸アンモニウム:5g/L
液温:25℃
電流密度:0.4A/dm2
表面処理−2で施したZn又はZn−V合金におけるZnの付着量は0.01〜0.1mg/dm2の範囲である。
【0037】
(4)クロメート処理
金属めっき層処理後に、下記のめっき浴及びめっき条件でCrめっきを施した。
(Crめっき)
無水クロム酸:0.1g/L〜100g/L
液温:20〜50℃
電流密度: 1〜2A/dm2」

「【0046】
(3)初期ピール強度(初期の密着強度の測定)
表面処理銅箔と樹脂基材との密着強度を測定した。樹脂基材としては市販の熱硬化型ポリイミド系レジストを使用した。
硬化条件:260℃、1時間 (LMP値=10660)
密着強度は、テンシロンテスター(東洋精機製作所社製)を使用して、銅箔と樹脂基材とを接着後、試験片を1mm幅の回路配線にエッチング加工し、樹脂側を両面テープによりステンレス板に固定し、回路配線を90度方向に50mm/分の速度で剥離して求めた。初期密着性は0.8kN/m以上を合格(○)とし、それ以下を不合格(×)と判定した。」

「【0052】
(9)接触角の測定
協和界面科学(株)製 DM−701を使用して図1に示す接触角θを測定した。
測定値は各試験片の表面で5箇所測定し、その平均値とした。
【0053】
【表1】



4 甲4の記載事項
上記甲4には、以下の記載がある。

「【請求項1】
圧延銅合金箔の少なくとも一方の面を光沢面に仕上げ、その面に0.3μm以上のNiもしくはNi合金めっきを施し、その表面の水の接触角が80度以下であることを特徴とするプリント配線基板用金属材料。
・・・
【請求項6】
銅合金箔の化学組成が、0.05〜0.25質量%のSn残部Cuおよび不可避的不純物であることを特徴とする請求項1〜5に記載のプリント配線基板用金属材料。」

「【0008】
さらに、樹脂や誘電体を塗布する工程では、N−メチル−2−ピロリドンやプロピレンカーボネートといった極性溶媒に溶解して使用することが多い。また、ゾルゲル法ではアルコールを溶媒としてアルコキシド金属を溶解し加水分解して生成したゾルゲルを塗布後乾燥・焼成して酸化物とする。これらの溶媒と基板用材料表面との濡れ性が悪いと、部分的に濡れ不良部が発生して、硬化や焼成したときにボイド等の欠陥が発生してキャパシタ特性が充分に得られなくなることがある。特に表面が平滑になればなるほど、見かけ上の濡れ角度が大きくなる、すなわち濡れにくくなる傾向が高いため不良が発生しやすい。」

「【発明の効果】
【0011】
本発明により、表面が平滑でかつ耐熱性を有する銅合金箔で、さらにその表面に施したNiめっきの表面が良好な濡れ性を有するものをプリント配線基板用金属材料に用いることで、プリント配線基板の内層に受動部品(例えば、インダクタ、キャパシタ、抵抗器など)の内蔵化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
限定理由を以下に示す。
(1)表面光沢度について
プリント配線基板に用いられる合金箔は、一方の面に粗化めっきが施され、樹脂と密着させる。もう一方の面には、例えば、受動部品内蔵基板の場合には、キャパシタやインダクタンス、抵抗等を実装される。
【0013】
特に、キャパシタを表面に実装するためには銅合金箔表面の平滑性が要求される。箔の表面粗さが粗い場合には、キャパシタの電極を実装する際に表面の粗さの影響を受け、キャパシタの重要な特性である電極間の安定した間隔が確保できないからである。従って、銅合金箔のキャパシタ等を実装する片面は、光沢面に仕上る必要がある。この面に下記に示すNiめっきを施した後の表面の光沢度がJIS−Z 8741に示される60度鏡面光沢度が40%を超えることが望ましい。ここで鏡面光沢度を指標として用いたのは表面の平滑度が重要であるため、一般的に表面の粗さの指標である表面粗さではその特性を充分に示すことが難適さないため、元々粗さの細かい圧延銅合金箔を用い、さらに光沢を有する状態にすることが望ましい。例えば、通常の電解銅箔は表面粗さがRa0.35μm程度、細かい特殊箔でRa0.2μm前後であるが、圧延銅合金箔ではRa0.15μm以下、通常はRa0.1μmを下回る。
したがって、平滑性の観点からは、本発明においては、平滑な表面が得られる圧延銅合金箔が望ましい。」

「【0015】
(2)Niめっき、Ni合金めっき
合金箔にNiめっきを施すことで、高温での光沢面のCu酸化を防止することができる。光沢面が酸化するとキャパシタや抵抗層の実装に悪影響を及ぼすためである。
さらに、実装に当たっては、表面の平滑性が要求されるため、Niめっきは光沢Niめっきを用いることがより好ましい。すなわち、圧延箔に光沢Niめっきを使うことで、表面の光沢度がJIS−Z 8741に示される60度鏡面光沢度が40%を超えることが容易になり、キャパシタや抵抗といった搭載部品の歩留が向上する。
【0016】
ここで、Niめっきの替わりにNi合金めっき、例えばNi−PやNi−Coといった合金めっきを適用することも可能である。とくにNi−Pめっきでは、Pの含有量により非晶質の電析形態になることが知られており、結果的に表面の光沢が得られる場合がある。さらに、粒界に起因する欠陥が少なく、耐熱性にも優れる。ただし、合金めっきでは電着応力が大きい場合があるため、電流密度、温度といっためっき条件の最適化が必要である。」

「【0017】
(3)表面濡れ性について
本発明の用途では、誘電体樹脂を直接銅箔上に塗布後硬化させて電極を形成してキャパシタとする方法や、誘電体成分を溶剤に分散させて直接銅箔上に塗布後乾燥して成膜する方法等が用いられる。そこで、用いられる銅箔及び銅合金箔の表面濡れ性が重要となる。
濡れ性の評価は塗布の際に用いられる溶媒で行うことが一般的であるが、極性溶媒の場合には水濡れ性で代替できることが多い。本発明に用いられる溶媒は極性溶媒がほとんどであるため、濡れ性評価に水濡れ性の代表的な指標である水の接触角を用いた。
本発明の用途では、好ましい水の接触角が80度以下であることを見出した。すなわち、80度を超えると、銅合金箔の水濡れ性が悪いため、塗布した誘電体樹脂等が均一にならず、不具合が発生しやすくなる。さらに水の接触角が40度以下であれば、より好ましい。
【0018】
表面濡れ性はNiおよびNi合金めっきの表面粗さ、酸化程度、合金成分の濃度により変化する。ただし、表面粗さや合金成分といった値は前述の表面光沢や耐熱性といった性能を実現するために必要なものであるため、表面濡れ性を改善するために変化させることが難しい。表面の酸化状態を変える手法としては、特開2000−22317にあるようなプラズマ処理や、オゾン処理等による酸化や大気酸化がある。ただし、これら酸化状態を変える方法はその後の水分の吸着や大気中のごみ等による表面汚染のため、濡れ性を維持することが難しく、塗布処理直前の前処理として用いることが有効である。
【0019】
一方、表面に親水性の物質を薄くコーティングする方法もある。例えばシランカップリング剤で官能基が親水性のものを用いる方法である。一般的にはシランカップリング剤を用いると疎水性になることが多いが、官能基がアミノ基のような親水性のものを用いることで親水性を付与できる。
【0020】
さらには、特開2004−307888に示されているような、テトラエトキシシランやテトラメトキシシランといった加水分解性の高いシラン化合物を用いて表面処理し、親水性を高める方法がある。これらシラン化合物を用いた場合では、必要とする厚さは非常に薄いため、厚さを測定することが難しい。そこで、厚さの代わりにSiの付着重量で評価することができ、10μg/m2以上の付着量で充分であることがわかった。付着重量は、銅合金箔を溶解してその溶液中のSiをICP分析することで測定可能である。
・・・
【0021】
また、シラン処理をした後にコロナ放電、プラズマ処理、UVオゾン処理を行うと有機物を分解してシリコン酸化物とすることが可能であり、より親水性を高めることができる。
・・・
【0023】
これらの技術を適用することで親水性を高めることが可能である。
同様にチタンカップリング剤やチタニウムアルコキシドを用いて親水性を高めることが可能である。・・・
【0024】
さらには、コロナ放電、プラズマ処理、UVオゾン処理を行うことでカップリング剤やアルコキシドに含まれる有機物が分解することが可能であり、水濡れ性を飛躍的に改善することができることを見出した。」

「【0036】
鏡面光沢度は、JIS−Z8741の鏡面光沢度測定法の60度鏡面光沢度を用いて測定した。
水の接触角は接触角測定器(協和界面科学、CA−D)により、マイクロシリンジから試料表面に水滴を滴下して測定した。
これらの銅合金箔を用いてキャパシタ部品を組み込み、その性能を確認した。その結果を表4に示す。
【0037】
【表4】



5 甲5の記載事項
上記甲5には、以下の記載がある。

「【請求項9】
板状体としての長尺樹脂フィルムに、乾式めっき法でニッケルもしくはニッケル合金からなる金属シード層を形成し、さらに乾式めっき法で前記金属シード層の上に銅層を積層する工程と、電気めっき法で銅層を厚膜化して金属導電体層を有する樹脂フィルムを形成する工程と、前記金属導電体層を有する樹脂フィルムを複数のローラーを用いて搬送しながら大気中において塗布または浸漬により有機防錆剤を含んだ水溶液で表面処理する工程とからなる金属化樹脂フィルムの製造方法であって、 大気との接触により前記液状物の溶媒が蒸発して結晶が析出し始めてから該液状物がローラーに接触するのを防止すべく、前記塗布または浸漬が行われる位置から少なくともその直ぐ後段に位置するローラーまでの搬送経路の大気雰囲気の温度を25〜35℃に、且つその気流の風速を0.0〜0.5m/sに制御することを特徴とする金属化樹脂フィルムの製造方法。」

「【0016】
また、本発明の金属化樹脂フィルム基板の製造方法は、板状体としての長尺樹脂フィルムに、乾式めっき法でニッケルもしくはニッケル合金からなる金属シード層を形成し、さらに乾式めっき法で前記金属シード層の上に銅層を積層する工程と、電気めっき法で銅層を厚膜化して金属導電体層を有する樹脂フィルムを形成する工程と、前記金属導電体層を有する樹脂フィルムを複数のローラーを用いて搬送しながら大気中において塗布または浸漬により有機防錆剤を含んだ水溶液で表面処理する工程とからなる金属化樹脂フィルムの製造方法であって、大気との接触により前記液状物の溶媒が蒸発して結晶が析出し始めてから該液状物がローラーに接触するのを防止すべく、前記塗布または浸漬が行われる位置から少なくともその直ぐ後段に位置するローラーまでの搬送経路の大気雰囲気の温度を25〜35℃に、且つその気流の風速を0.0〜0.5m/sに制御することを特徴としている。」

「【0027】
塗布装置12で使用する防錆剤には、ベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、イミダゾール等の有機防錆剤を使用するのが好ましく、特にベンゾトリアゾールが好適である。これら有機防錆剤を水溶液にして金属化樹脂フィルムに対して塗布または浸漬を行うことにより防錆効果が得られるが、有機防錆剤は水への溶解度が小さいため、アルコールを添加した水溶液とするのが好ましい。添加するアルコールとしては、メタノールまたはエタノールを主成分とするものが好適である。有機防錆剤の濃度は、金属化樹脂フィルムの用途に応じて適宜設定すればよい。」

「【0043】
上記した少なくとも一部に金属表面を有する板状体のうち、例えば接着剤層を使用せずに形成される金属化樹脂フィルムの場合は、長尺樹脂フィルムに蒸着法やスパッタ法を用いた乾式めっき法でニッケル、クロム等からなる金属シード層を形成し、この金属シード層の上に銅などを積層して金属被膜を形成することができる。その後、前述した電気めっき法もしくは無電解めっき法、またはこれら両者を組み合わせた方法を用いて、金属導電体層である銅層の厚付けが行われる。
【0044】
上記長尺樹脂フィルムには、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンテレナフタレート(PEN)等のポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、または液晶ポリマー系フィルム等の中から、耐熱性、誘電体特性、電気絶縁性やプリント配線基板の製造工程やその後工程での耐薬品性、および用途等を考慮に入れて適宜選択される。また、その厚さも用途に応じて適宜選択されるが、主として10〜50μmのものが使われる。」

「【0046】
金属シード層の膜厚は、該金属シード層を形成する金属または合金の種類や組成、フレキシブルプリント配線板での配線の加工性、配線に要求される密着性や絶縁信頼性から適宜選択されるものであるが、3〜50nmとすることが好ましい。金属シード層の膜厚が3nm未満では、配線部以外の金属層(金属導電体層と金属シード層)をフラッシュエッチングなどで除去して配線パターンを形成する際、エッチング液が絶縁フィルムと金属層の間に染み込みやすくなり、配線が浮き上がってしまう問題が生じるおそれがある。一方、金属シード層の膜厚が50nmを超えると、フラッシュエッチングなどで最終的に配線パターンを形成する際、金属層が完全に除去されずに残存し、配線間の絶縁不良を発生させるおそれがある。
【0047】
金属シード層に乾式めっき法で積層する銅層の膜厚は0.01〜1μmが好ましく、0.1〜0.5μmが特に好ましい。この銅層の厚さが0.01μm未満では、フレキシブルプリント配線板上の配線部の電気導電性に問題が発生しやすくなったり、強度上の問題が生じたりする場合がある。一方、乾式めっき法による成膜速度は電気めっき法による成膜速度に比べて遅いため、乾式めっき法により1μmを超えて成膜しようとすると、生産性が低下する。
【0048】
電気めっき法もしくは無電解めっき法、またはこれら両者を組み合わせた方法で金属導電体層である銅層を厚膜化する場合の膜厚は、フレキシブルプリント配線板の配線パターニングにおいて、サブトラクティブ法またはセミアディティブ法のどちらを選択するかにより決まるものである。すなわち、銅層の膜厚は、サブトラクティブ法によって配線を形成する場合には5〜12μm、セミアディティブ法によって配線を形成する場合には0.5〜4μmとするのが好ましい。なお、電気めっき法は特に限定されることはなく、たとえば、硫酸銅水溶液中で公知の電気めっき方法を使用することができる。」

「【0050】
すなわち、銅箔とポリイミドフィルムを接着剤により貼り合せた金属化ポリイミドフィルムや、銅箔にポリイミドワニスを塗布して加熱によりポリイミドフィルム層を形成するキャスティング法や、ポリイミドフィルムに熱可塑性のポリイミド系接着剤を塗布して銅箔と加熱圧着させるラミネート法で得られる金属化ポリイミドフィルムにおいて、金属導電体層に防錆剤の表面皮膜を形成する場合にも、防錆剤を塗布する工程に本発明の表面処理方法を適用してもよい。さらに、上記金属化ポリイミドフィルムを製造するために用いられる銅箔に、防錆剤による皮膜を形成する場合にも、本発明の表面処理方法を適用することができる。」

「【0052】
(実施例1)
図1に示すような連続電気めっき装置を用いて、ロール状に巻回された長尺の金属化樹脂フィルムFを巻出しロール1から巻出し、連続的に搬送しながら、電気めっき部2で処理して銅層が厚膜化された金属化樹脂フィルムFを得た後、めっき液の除去装置3で金属化樹脂フィルムFに付着しためっき液を除去し、さらに後処理部4で防錆剤の塗布と乾燥を行ってから巻取りロール5で巻取った。
【0053】
巻出しロール1から巻き出す金属化樹脂フィルムFには、厚み38μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製、商品名カプトン(登録商標))の表面に、予めスパッタリング法で膜厚10nmのニッケル−20質量%クロム合金膜を成膜し、さらにこの合金膜の表面に膜厚100nmの銅層を積層したものを用いた。
【0054】
電気めっき部2では、硫酸を100g/L、硫酸銅を180g/L含み、塩素含有量50質量ppmのめっき液を用い、これに銅めっき皮膜の平滑性等を確保する目的で添加剤を添加した。この電気めっき部2に、金属化樹脂フィルムFを3m/min.の搬送速度で導入することにより、金属化樹脂フィルムFの銅層を8μmまで厚膜化した。後処理部4の防錆剤には、ベンゾトリアゾールを0.4質量%以下、アルコールを1.0容量%以下に調整した水溶液を用いた。めっき液の除去装置3および水洗装置13の洗浄液には純水を用いた。
【0055】
そして、後処理部4全体を略直方体形状のカバーで覆うと共にその内部に空調機を設置し、設定温度を28℃にした。このようにして、防錆処理が施された金属化樹脂フィルムFを作製した。作製している際のカバーの内部空間の温度は28.1℃、気流の風速は0.0m/s、湿度は40%であった。得られた金属化樹脂フィルムの表面を検査した結果、巻取りロール5でロール状に巻回された金属化樹脂フィルムの500ロールに対して微小凸部は発生しておらず、良好な結果が得られた。」

「【図1】

【図2】



6 甲6の記載事項
上記甲6には、以下の記載がある。

「【請求項1】
非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも片面に熱可塑性ポリイミド層を有する熱融着性フィルムと金属箔とを、加熱加圧装置により連続的に貼り合わせるフレキシブル金属積層板の製造方法であって、加熱加圧装置の加圧面と被積層材料との間に保護材料を配置し加熱加圧を行い、該保護材料と金属箔の剥離力が0.1N/cm以下であることを特徴とするフレキシブル金属積層板の製造方法。」

「【0012】
本発明に用いられる金属箔としては、電子電気機器用のフレキシブル金属積層板に用いることができれば特に限定はされないが、一般的には、厚み1〜50μmの圧延銅箔、電解銅箔などが挙げられる。また、金属箔のラミネート面およびその反対面は必要に応じて、防錆処理、コブ付け処理、易接着処理等が施されていても構わない。また、レジスト面の表面粗さRzは、剥離シワや横段などの発生をより効果的に抑制し、より外観良好なフレキシブル金属積層板を得るため1.0〜2.0μmが好ましい。さらに好ましくは1.0〜1.5μmである。また、厚み1〜5μmの極薄銅箔については、搬送用のキャリア層が積層されていても構わない。」

「【0034】
【表1】



7 甲7の記載事項
上記甲7には、以下の記載がある。

「【請求項1】
金属表面を有機化合物薄膜で被覆する金属の腐食防止剤であって、被覆された金属表面の水に対する接触角を90度以上とし、かつ該薄膜が0.1〜10nmの厚さで形成され、はんだ濡れ性を実質的に低下させないことを特徴とする金属の腐食防止剤。」

「【背景技術】
【0002】
電気機器或いは電子機器には金属の部材、例えば、電気配線材、コネクタ、ばねなどが使用され、ケースに入れられている場合も含め、外気に金属部が晒された状態で使用される。屋外に設置されたり、使用されたりする電子機器については、例えば、携帯電話・デジタルカメラ・ポータブルナビゲーションなどがあり、それらは、昨今の電子機器の軽薄短小化により、従来のものと比較すると、加速度的にダウンサイジングが進んでいる。
その際に、従来に増して重要な特性として挙げられるのが、外気の、特に腐食性成分、例えば塩分を含む水などに対する耐食性である。このような耐食性を検証する試験としては複数あるが、中でも塩水噴霧試験が代表例といえる。特に、軽薄短小化する電子機器を構成する部品を構成する金属材料として銅または銅合金に求められる耐食性も日々シビアなものとなってきている。銅または銅合金のように塩水に対して耐腐食性を有しない金属材料の場合、たとえ合金などに代えて耐腐食性能を改善しようとしても、満足の得られるような結果が得られなかった。
【0003】
このような問題を解決するために、塩水に対して耐腐食性を有しない金属材料、例えば銅または銅合金の腐食を抑制・阻害するために、有機材料または無機材料により金属表面を被覆して守る処理が検討されている。例えば、ベンゾトリアゾールやエポキシシランを用いた表面処理剤がよく用いられている。しかし、従来の表面処理では、金属表面を処理し皮膜を形成することによって、表面の金属としての特性の劣化、その一つの指標として、はんだ濡れ性が劣化する傾向が見られた。」

「【0035】
実施例1〜24、比較例1〜13
表1に記載した銅または銅合金薄膜に、表1に記載の成分を水に溶解させた腐食防止剤を用い、表1に記載の処理条件により浸漬処理を行った。
尚、実施例8、9、10で用いた含フッ素有機化合物の極性基−N2C3H3、−N3C2H2、−N4CHは、それぞれ1−イミダゾリル基、1,2,3−トリアゾル−1−イル基、1−テトラゾリル基である。
尚、表1中、主成分R1、R2、nは、上記一般式で表されるリン酸エステルにおけるR1、R2、nを示し、リン酸エステルは、モノエステルとジエステルの1:1混合物を用いた。用いたリン酸エステルのR1のアルキル基、アルケニル基はすべて直鎖状であり、実施例17、18におけるアルケニル基は、中央に二重結合を有する10−エイコセニル基、11−ドコセニル基である。
また、表1中、浴組成における「−」は添加しないことを示す。
【0036】
得られた銅箔または銅合金箔について、耐塩水腐食性とはんだ濡れ性を下記のように評価した。
耐塩水腐食性
JISZ2371に基づく塩水噴霧試験を72時間行った後に、かさのある腐食物を柔らかい紙でふき取り除去した後の単位面積あたりの重量減少量(腐食減肉量)を求めた。
はんだ濡れ性
JISC0053に基づいたはんだ槽平衡法による濡れ時間(ゼロクロスタイム)を求めた。はんだはSn−3Ag−0.5Cuの鉛フリーはんだを使用し、フラックスとしてはタムラ化研NA−200を用いた。
結果を表1に示す。」

「【0045】
【表1−9】



8 甲8の記載事項
上記甲8には、以下の記載がある。

(8a)「



(678ページ左欄下から2行〜右欄下から10行)
(当審訳:銅系金属に対しては、最も広く研究され、また使われている防食剤は、ベンゾトリアゾール(1H−BTA)である。ベンゾトリアゾールは銅の表面(または自然酸化物) と反応してCu(I)BTAを形成し、これが重合してしっかりと表面に付着することにより、防食剤として機能すると報告されている(1)。)

(8b)「


(678ページ右欄下から4行〜最下行)
(当審訳:本研究は、過剰のベンゾトリアゾールの有無にかかわらず効果があることがわかっている(9)Cu−BTAフィルムの防食作用が、表面濡れ性の変化に反映されるかどうかを調べることを目的とする。)

(8c)「


(679ページ左欄9〜14行)
(当審訳:多様な表面処理をサンプルに施すことにより、この測定は、不働態化フィルムの特性の理解に寄与し、最終的に多様な不働態化処理をうけた銅表面の相対的安定性を予測することを可能とする。)

(8d)「


(680ページ左欄下から10行〜下から4行)
(当審訳:ベンゾトリアゾールの防食作用は、二つの点で特別である。(i)そのCuとの反応の大部分(バルク)は、吸着によるものではなく、Cu−BTA高分子層を銅の上に形成するBTAとCu+の反応によるものである。(ii)一旦このフィルムが形成されると、ベンゾトリアゾールのない環境中においても、非常に効果的かつ耐性の高い保護を提供する。)

(8e)「


(680ページ右欄3〜19行)
(当審訳:Cu−BTAフィルムの成長は、表面酸化物の形成に関して記述されるものと同様のイオンのマイグレーションによって生じる。ごく単純なフィルム形成は、自然酸化物を有する銅を1H−BTAの0.01M水溶液に暴露することにより得られる。Cu−BTAは、ゆっくりと対数成長則にしたがい、最初の数秒で1、2分子層の厚さ(約0.8nm)に到達し、10分間で約2nmとなる。還元された銅の表面では、Cu−BTAの成長はやや早く、時間に対して放物線状となるが、なおフィルムを介したイオン拡散に制約される。インヒビタと10分間接触した後、pH7ではCu−BTAフィルムの厚みはおよそ7nmとなり、pH2では、およそ20nmとなる。飛行時間型二次イオン質量分析計による分析と電気化学的手法により、低いpHで形成されたCu−BTAは、重合度が低く、中性のpHで形成されたフィルムよりも酸素を透過しやすいことがわかった。よって、低いpHでは厚めのフィルムが形成されがちではあるが、これらのフィルムは最終的に防食性が低い(8、9)。)

(8f)「


(680ページ右欄下から23行〜下から17行)
(当審訳:「エリプソメー夕、X線光電子分光(XPS)、および電気化学的データは、すべての例で、Cu−BTAフィルムが実質的にCu表面の全面を覆うことを示している。中性溶液で形成されたサンプルの残余の腐食速度は未処理銅の腐食速度の0.1〜0.2%であり、少なくとも99.8%が被覆されていることは確実である。」

9 甲9の記載事項
上記甲9には、以下の記載がある。

「【請求項3】
Ag、Sn、Cr、Fe、Zn及びZrよりなる群から選択される合金元素の1種又は2種以上を合計で0〜1質量%含有し残部が銅及び不可避的不純物からなるタフピッチ銅ベースまたは無酸素銅ベースの圧延銅箔である請求項1又は2に記載のフレキシブルプリント配線板用銅箔。」

10 甲10の記載事項
上記甲10には、以下の記載がある。





(195ページ右欄下から9行〜196ページ右欄4行)
(当審訳:要約すると、接着現象は、基板の表面エネルギーの極性成分βsの値に依存している。空気中における接着強度は、βs値の増加とともに増大し、分散成分αsに対する依存性はない。現像液中での接着強度は、βs値の減少とともに増大し、分散成分αsに対する依存性はない。空気中の接着強度のβs値依存性は、現像液中での依存性と逆である。空気中の条件下でも、現像液中の条件下でも、クーロン力が接着のファクターに支配的であり、良好な接着強度を得るためには、βs値の制御が重要である。)

11 甲11の記載事項
上記甲11には、以下の記載がある。





(21ページ下から12行〜22ページ3行)



」(22ページ)




(31ページ1〜10行)




(32ページ下から6〜4行)




(36ページ)




(37ページ)




(39ページ3〜5行)

12 甲12の記載事項
上記甲12には、以下の記載がある。

「【請求項1】
(−M−O−)nリンケージ(式中、Mは3族〜14族の金属であり、n>1である)を有する無機ドメインを含むハードマスク層の表面を処理するためのプロセスであって、表面処理組成物とハードマスクの表面を接触させてハードマスク表面をコーティングし、表面処理組成物が有機溶媒および表面活性部分を含む表面処理剤を含む、プロセス。」

「【0004】
硬化したオキシ金属ハードマスクフィルムは、多くの場合、続いて適用される有機層(フォトレジスト等)よりもはるかに高い表面エネルギー(またはより少ない水接触角)を有する。かかる表面エネルギーのミスマッチは、オキシ金属ハードマスク層と続いて適用される有機層との間で接着不良を引き起こす。続いて適用されるフォトレジスト層のケースにおいて、かかる表面エネルギーのミスマッチは深刻なパターン崩壊をもたらす。」

「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(−M−O−)nリンケージ(式中、Mは3族〜14族の金属であり、n>1である)を有する無機ドメインを含むオキシ金属ハードマスク層の表面を処理するためのプロセスであって、表面処理組成物とハードマスクの表面を接触させてハードマスク表面をコーティングし、表面処理組成物が有機溶媒および表面処理部分を含む表面処理剤を含むプロセスを提供する。かかる処理は、ハードマスク表面エネルギーがその後に適用される有機層へ実質的にマッチするように、ハードマスク表面エネルギーを変化(低下)させる。好ましくは、ハードマスク層は電子装置基板上に配置される。オキシ金属ハードマスク層は、(−M−O−)nリンケージ(式中、Mは3族〜14族の金属であり、n>1である)を有する多数の無機ドメインを含むことが好ましい。表面処理組成物との接触前に、ハードマスク表面は第1の水接触角を有し、かかる接触後に第2の水接触角を有し、第2の水接触角は第1の水接触角より大きい。好ましくは、第2の水接触角は、≧55°、より好ましくは55〜70°、およびなおより好ましくは60〜70°である。」

「【0035】
オキシ金属ハードマスク層は、典型的には、エッチング選択性を提供し、特に電子装置の製造において、下層反射防止コーティング(BARC)スタックの一部として使用される。本組成物によるオキシ金属ハードマスクの処理に続いて、有機コーティング層は典型的には処理されたハードマスク表面上に堆積される。好適な有機層は、反射防止コーティング、フォトレジスト、誘電体コーティング、永久接着剤、一時的接着剤および同種のものを限定されずに含む。好ましくは、後続する有機コーティング層は、1つまたは複数の反射防止コーティング、フォトレジストおよび誘電体コーティングから、ならびにより好ましくは反射防止コーティングおよびフォトレジストから選択される。典型的には、フォトレジスト層は60〜70°の静水接触角を有する。好適な有機コーティングの任意の種類を、任意の好適な方法(表面処理組成物のための上記のもの等)によって、処理されたハードマスク層へ適用することができる。スピンコーティングは好ましい方法である。例示的な反射防止コーティングには、Brewer ScienceからのARCブランド下で入手可能なもの、およびAR(商標)ブランド下で入手可能なもの(Dow Electronic Materials(Marlborough、Massachusetts)から入手可能なAR(商標)137反射防止剤等)が含まれる。幅広い種類のフォトレジストは好適であり、例えば193nmリソグラフィーにおいて使用されるもの(Dow Electronic Materialsから入手可能なEPIC(商標)ブランド下で販売されるもの等)である。好適なフォトレジストはポジティブトーン現像レジストまたはネガティブトーン現像レジストのいずれかであり得る。1つの好ましい実施形態において、フォトレジスト層は処理されたハードマスク層上に配置される。第2の好ましい実施形態において、反射防止コーティング層は処理されたハードマスク層上に配置され、フォトレジスト層は反射防止コーティング層上に配置される。処理されたハードマスク層上のコーティングに続いて、有機コーティング層に後続する加工を行なうことができる。例えば、フォトレジスト層は次いでパターン形成された化学線照射を使用してイメージング(露光)され、次いで露光されたフォトレジスト層を適切な現像液を使用して現像してパターン形成されたフォトレジスト層を提供する。パターンは、次に、当該技術分野において公知の適切なエッチング技法によって(プラズマエッチング等によって)、フォトレジスト層から下にあるハードマスク層および基板へ移される。エッチングに続いて、フォトレジスト層、任意の存在する反射防止コーティング材料層、およびハードマスク層は、従来の技法を使用して除去される。次いで電子装置基板は従来の手段に従って加工される。」

13 甲13の記載事項
上記甲13には、以下の記載がある。

「1. ネサ膜の表面を含フツ素クロロシランと接触させることにより、上記ネサ膜とホトレジストとの接着性を増大させることを特徴とするネサ膜の表面処理法。」(特許請求の範囲)

「周知のように、ネサ膜(SnO膜)は、透明で、高い電気伝導度を有しているため、ビデイコンをはじめ各種撮像管などの透明配線と(当審注:「と」は、取消線により削除)に、最も多く使用されている。
ネサ膜によって透明配線を形成するためには、ガラス基板などの上に被着されたネサ膜を、ホトエツチングによって所望の形状に加工する必要がある。
しかし、ネサ膜はホトレジスト膜との接着性がよくないため、所望の形状を有する透明配線を高い精度で形成するのは困難である、という問題があった。
すなわち、ネサ膜とホトレジスト膜の接着性が低いため、ネサ膜上のホトレジスト膜の所望部分に露光した後、現象を行なうと、本来ならば、ネサ膜上に残らなければならない部分までが、一部除去されてしまい、得られるホトレジストパターンの形状は、極めて不正確なものになってしまう。」(1ページ右欄9行〜2ページ左上欄6行)

「本発明の目的は、上記従来の問題を解決し、ネサ膜からなる透明電極を高い精度で形成することを可能とするため、ネサ膜とホトレジスト膜との間の接着性を向上させる方法を提供することである。」(2ページ左上欄11〜15行)

「これらの含フツ素クロロシランがネサ膜と接触すると、ネサ膜表面とクロロアルキル基が反応して、表面を疎水性(親油性)に改質し、非水系ホトレジストとの接着性は著しく改善される。」(3ページ左上欄16〜19行)

「ネサ膜がホトレジストに対して良好な接層性を有するためには、ネサ膜表面と水との接触角θが、ほぼ55〜70°の範囲内にあることが、実用上好ましい。接触角θがほぼ70°以上になると、疎水性が強くなりすぎ、ネサ膜がホトレジストによってよく濡れないため、良好なホトレジスト膜をネサ膜に形成するのが困難になる。また、接触角θがほぼ55°より小さくなると、接着力が不足し、本来なら現像後に残るべき部分までが、現像によって一部除去されてしまう。」(3ページ右上欄10〜19行)

14 甲14の記載事項
上記甲14には、以下の記載がある。

「[0002] 半導体集積回路、液晶表示素子、プリント配線板等の電子部品のパターニング等に利用される画像形成方法として、ノボラック型フェノール樹脂と1、2−キノンジアジド化合物とを含有するポジ型感光性樹脂組成物を原料としたポジ型フォトレジストを利用する方法が知られている(例えば、特許文献1〜6)。」

「[0008] そこで、本発明は、各種金属への密着力に優れると共に、露光部の現像性及び未露光部の耐現像液性に十分に優れ、弱アルカリ性現像液で繰り返し現像が可能な感光層を形成するポジ型感光性樹脂組成物及びこれを用いた感光性フィルムを提供することを目的とする。」

「[0103] 感光層4は、上記感光性樹脂組成物を液状レジストとして支持体フィルム2上に塗布することで形成することができる。感光性樹脂組成物を支持体フィルム2上に塗布する際には、必要に応じて、上記感光性樹脂組成物を所定の溶剤に溶解して固形分20〜90質量%の溶液としたものを塗布液として用いてもよい。
[0104] かかる溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、オクタン、デカン、石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ、アセトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリルアミド、テトラメチレンスルホン、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酢酸ベンジル、n−ブチルアセテート、エトキシエチルプロピオナート、3−メチルメトキシプロピオナート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の有機溶剤、又はこれらの混合溶剤が挙げられる。」

「[0112] レジストパターンを形成する基材としては、例えば、金属用途のエッチング液に溶解されない素材から構成される基板の上に、2層以上の金属層を備える基材等を用いることができる。上記基板としては、例えば、ガラス、酸化チタン、アルミナ等の金属酸化物、シリコン等の半導体、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリカーボネート等の有機化合物などから構成されるものを用いることができる。金属層としては、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、鉄、タングステン、モリブデン、チタン、ニッケル等の金属、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛等の金属酸化物からなる層が挙げられる。金属層は、これらの金属又は金属酸化物を、真空蒸着、スパッタリング、電解めっき、無電解めっき、プラズマを用いた化学気相成長により、上記基板の上に積層することで形成できる。」

「[0180](実施例13)
実施例1で調製した感光性樹脂組成物をスピンコーター(ダイトロンテクノロジー株式会社製)を用いて、300rpmで10秒間、次いで500rpmで30秒間の条件で、銅基板に直接塗布し、コンベア式乾燥機(RCPオーブンライン、大日本スクリーン株式会社製)にて、95℃で5分間乾燥を行い、ポジ型フォトレジスト積層体を得た。得られたポジ型フォトレジスト積層体を用いて、上記工程1〜3の操作を行い、感光層を露光・現像した。」

15 甲15の記載事項
上記甲15には、以下の記載がある。




(2ページ左欄1〜3行)




(2ページ右欄19〜21行)





(4ページ右欄11〜15行)

16 甲16の記載事項
上記甲16には、以下の記載がある。




(142ページ左欄2〜21行)

第7 当審の判断
1 取消理由について
(1)取消理由1(甲4を主たる引用例とする新規性)について
ア 甲4に記載された発明
(ア)上記第6の4の摘示から、甲4には以下の事項が記載されているものと認められる。

a 【0012】及び【0013】の記載から、プリント配線基板に用いられる合金箔の一面は、粗化めっきが施され、樹脂と密着させるものであって、当該合金箔の他方の一面は、キャパシタやインダクタンス、抵抗等を実装するために平滑性が要求されることから光沢面に仕上げる必要があるものである。つまり、プリント配線基板に用いられる合金箔の一方の面は光沢面に仕上げられ、もう一方の面は、粗化めっきが施され、樹脂と密着させるものであって、樹脂と密着させたプリント配線基板に用いられる合金箔は、プリント配線基板となるものと認められる。

b また、【0015】及び【0016】の記載から、合金箔に施されるNiめっきは、高温での光沢面の酸化を防止することができるものであって、Niめっきの替わりにNi合金めっきを適用することも可能なものである。

c 加えて、【0017】には、銅合金箔に塗布した誘電体樹脂が均一となるように、銅合金箔表面の水の接触角を80度以下とすること記載されている。

(イ)よって、上記第6の4の請求項1のプリント配線基板用金属材料に着目し、上記(ア)によれば、当該プリント配線基板用金属材料となる圧延銅合金箔において、その一面に粗化めっきが施され、他方の一面が光沢面に仕上げられ、上記粗化めっきした面に樹脂を密着させることによって、プリント配線基板となるものであるから、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲4発明>
圧延銅合金箔の一方の面を光沢面に仕上げ、その面に0.3μm以上の、高温での光沢面のCu酸化を防止することができるNiもしくはNi合金めっきを施し、その表面の水の接触角が80度以下であるプリント配線基板用金属材料とし、上記プリント配線基板用金属材料のもう一方の面に粗化めっきが施され、粗化めっきが施された上記もう一方の面に樹脂を密着させることによって形成された、プリント配線基板。

イ 本件発明1について
(ア)本件発明1との対比
本件発明1と甲4発明を対比すると、甲4発明の「圧延銅合金箔の少なくとも一方の面」及び「粗化めっきが施された上記もう一方の面に樹脂を密着させ」た「プリント配線基板用金属材料」は、それぞれ、本件発明1の「銅層」の「第2の面」及び「樹脂フィルムの少なくとも一方の面側に形成され、前記樹脂フィルムと対向する第1の面」「を有する銅層」に相当する。
また、「酸化防止」は、「防錆」に含まれるものであるから、甲4発明の「高温での光沢面のCu酸化を防止することができるNiもしくはNi合金めっきを施し」は、本件発明1の「防錆処理が施され」に相当する。

してみると、本件発明1と甲4発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「樹脂と、
前記樹脂の少なくとも一方の面側に形成され、前記樹脂と対向する第1の面と、前記第1の面とは反対側の面である第2の面とを有する銅層とを含み、
前記銅層の前記第2の面には防錆処理が施されており、防錆処理された前記第2の面の純水に対する接触角が80°以下である銅張積層板。」である点。

<相違点4−1>
「樹脂」について、本件発明1は、「樹脂フィルム」であるのに対し、甲4発明は、「フィルム」であることが特定されていない単なる「樹脂」である点。

<相違点4−2>
「防錆処理された」「面の純水に対する接触角」の下限について、本件発明1は「45°以上」であるのに対し、甲4発明は、下限が特定されていない点。

<相違点4−3>
接触角の測定について、本件発明1は「5点測定した場合」の「最小値及び最大値」であるのに対し、甲4発明は測定条件が不明である点。

<相違点4−4>
「防錆処理」の具体的手段について、本件発明1は、「防錆剤として有機防錆剤を用い」るのに対し、甲4発明は、「NiもしくはNi合金めっき」である点。

(イ)相違点についての判断
a 相違点4−1について
プリント配線基板として、フレキシブル基板又はリジッド基板が用いられ、前者のフレキシブル基板に樹脂フィルムが用いられることは、プリント配線基板の技術分野における周知の技術的事項であって、甲4発明のプリント配線基板においても、基板として、樹脂フィルムであるフレキシブル基板が含まれることは明らかであるから、相違点4−1は、実質的なものではない。

b 相違点4−2について
甲4の【0037】の【表4】の実施例7〜10には、光沢Niめっき及びシランカップリング処理又はチタンカップリング処理した圧延銅箔並びにNi−Pめっき及びチタンカップリング処理した圧延銅箔について、水接触角が78度や74度であるとして、45度以上であることが示されているから、相違点4−2も実質的なものではない。

c 相違点4−3について
甲4の【0036】には、接触角の測定について、「水の接触角は接触角測定器(協和界面科学、CA−D)により、マイクロシリンジから試料表面に水滴を滴下して測定した。」と記載されるにとどまり、その測定がどのように行われているか不明であるから、相違点4−3は実質的なものである。

d 相違点4−4について
有機防錆剤による処理とめっき処理とは、異なるものであるから、相違点4−4も実質的なものである。

ウ 甲4を引用例とするものについての小括
よって、本件発明1は、甲4に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

(2)取消理由1(甲5を主たる引用例とする新規性)について
ア 甲5に記載された発明
(ア)甲5の請求項9に着目すると、甲5には、次の発明(以下「甲5A発明」という。)が記載されている。

<甲5A発明>
板状体としての長尺樹脂フィルムに、乾式めっき法でニッケルもしくはニッケル合金からなる金属シード層を形成し、さらに乾式めっき法で前記金属シード層の上に銅層を積層する工程と、電気めっき法で銅層を厚膜化して金属導電体層を有する樹脂フィルムを形成する工程と、前記金属導電体層を有する樹脂フィルムを複数のローラーを用いて搬送しながら大気中において塗布または浸漬により有機防錆剤を含んだ水溶液で表面処理する工程とからなる金属化樹脂フィルムの製造方法。

(イ)また、甲5A発明は「金属化樹脂フィルムの製造方法」であるところ、当該方法により製造された物である次の発明(以下「甲5B発明」という。)も甲5には記載されているといえる。

<甲5B発明>
板状体としての長尺樹脂フィルムに、乾式めっき法でニッケルもしくはニッケル合金からなる金属シード層を形成し、さらに乾式めっき法で前記金属シード層の上に銅層を積層する工程と、電気めっき法で銅層を厚膜化して金属導電体層を有する樹脂フィルムを形成する工程と、前記金属導電体層を有する樹脂フィルムを複数のローラーを用いて搬送しながら大気中において塗布または浸漬により有機防錆剤を含んだ水溶液で表面処理する工程とからなる方法により製造された金属化樹脂フィルム。

イ 本件発明1について
(ア)本件発明1との対比
a 本件発明1と甲5B発明を対比すると、甲5B発明における「乾式めっき法で前記金属シード層の上に銅層を積層する工程と、電気めっき法で銅層を厚膜化し」た「金属導電体層」、「有機防錆剤を含んだ水溶液で表面処理」及び「金属化樹脂フィルム」は、それぞれ、本件発明1における「銅層」、「防錆剤として有機防錆剤を用い」た「防錆処理」及び「銅張積層板」に相当する。

b また、甲5B発明において、「金属導電体層」が「樹脂フィルム」の少なくとも一方の面側に形成されるのは明らかなことである。

c さらに、甲5B発明において、金属導電体層が有機防錆剤を含んだ水溶液で表面処理されることから、当該表面処理される面が、本件発明1における「第2の面」であり、その反対側の面が本件発明1における「第1の面」であって、それが樹脂フィルムと対向する面であるといえる。

d してみると、本件発明1と甲5B発明とは、以下の一致点及び相違点を有している。

<一致点>
「樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムの少なくとも一方の面側に形成され、前記樹脂フィルムと対向する第1の面と、前記第1の面とは反対側の面である第2の面とを有する銅層とを含み、
前記銅層の前記第2の面には、防錆剤として有機防錆剤を用いて防錆処理が施された銅張積層板。」である点。

<相違点5−1>
本件発明1は、「防錆処理された前記第2の面の純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下」であるのに対し、甲5B発明は、防錆処理された第2の面の純水に対する接触角が不明である点。

(イ)相違点についての判断
a 本件発明1と甲5B発明の製造方法について
甲5B発明に係る金属化樹脂フィルムの具体的な製造方法は、上記第6の5に摘示した【0052】〜【0055】のとおりであって、当該製造方法は、本件明細書の【0113】〜【0119】に記載された本件発明1の実施例における具体的な製造方法において明示されている事項と以下の点で異なっている。

(a)甲5では、防錆処理および乾燥処理を施す後処理部4全体をカバーで覆い、空調機を設置して内部空間の温度を28.1℃、気流の風速を0.0m/s、湿度を40%としている(【0055】)のに対し、本件明細書には、同様の記載がない点。

(b)甲5では、防錆剤について「ベンゾトリアゾールを0.4質量%以下、アルコールを1.0容量%以下に調整した水溶液を用いた。」(【0054】)と記載されているのに対し、本件明細書の実施例1〜4(【0118】、【0121】〜【0125】)では、ベンゾトリアゾールの添加量を、0.4質量%、0.2質量%、0.05質量%、0.6質量%の特定の量に限定し、水溶液に添加するアルコールをメチルアルコール1.0質量%に特定している点。

さらに、本件特許に係る査定不服審判(不服2018−14322号)において、請求人(本件特許の特許権者)が提出した令和 1年12月 6日付け意見書では、上記(a)及び(b)と同旨の主張とともに、当該意見書の第5ページ第5〜12行において、概略次のような主張をしている(なお、当該意見書における「引用文献2」は、甲5のことである。)。

(c)甲5では、【0054】に防錆剤塗布後に水洗を行う記載はあるものの、その条件は記載されていないのに対し、本件発明1の製造方法は、防錆処理された銅層の第2の面の純水に対する接触角が所定の範囲となるように水洗条件を選択するものである点。

b a(a)の点について
本件発明1と甲5B発明の製造方法とが異なる上記a(a)の点について、防錆処理及び乾燥処理を施す後処理部の雰囲気として、甲5に記載されている温度を28.1℃、気流の風速を0.0m/s、湿度を40%とする条件は、一般的な室内環境の範囲内ということができるし、本件明細書には、これと異なる雰囲気の条件も記載されておらず、さらに、本件明細書には、後処理部の雰囲気を調整することによって防錆剤層の膜厚を調整し、銅層の第2の面の純水に対する接触角を所定の範囲にできることも記載されていないから、本件発明1と甲5B発明における接触角を調整する方法として、上記a(a)の点で両者が異なるとはいえない。

c a(b)の点について
本件発明1と甲5B発明の製造方法とが異なる上記a(b)の点について、甲5の【0054】には、「後処理部4の防錆剤には、ベンゾトリアゾールを0.4質量%以下、アルコールを1.0容量%以下に調整した水溶液を用いた。」と記載されているところ、甲5の【0027】の記載から見て、アルコールはメタノールまたはエタノールを主成分とするものと認められるが、いずれにせよベンゾトリアゾールの溶解度を上げるために微量に添加されたものであり、ベンゾトリアゾールが溶解する限りにおいてエタノールかメタノールかの区別や、1.0容量%以下の範囲で実際にどの程度添加されたのかにより、ベンゾトリアゾールの膜厚に影響を及ぼすとは認められない。
また、ベンゾトリアゾールを0.4質量%以下との記載からは、どの程度添加されるのかは不明であるが、本件明細書において、ベンゾトリアゾールの添加量が0.6質量%の実施例4で接触角の最大値が68°(【0125】〜【0126】)、ベンゾトリアゾールの添加量が0.2質量%の実施例2で接触角の最大値が59°(【0121】〜【0122】)となっていることから、ベンゾトリアゾールの添加量が0.4質量%のときの接触角の最大値は、上記二つの最大値の中間値である64°程度と概算されるので、ベンゾトリアゾールの添加量が0.4質量%以下の条件では、「第2の面の純水に対する接触角が80°以下」との条件を満足する蓋然性が高い。
一方、甲5の実施例、比較例は、防錆剤塗布後の温度、気流、湿度等を制御することにより、金属化樹脂フィルム表面へのベンゾトリアゾールの析出物の形成を回避し得るかどうかを検証するために行われているものであるが、ベンゾトリアゾールの濃度が0.05質量%未満とならないかは不明である。そして、本件明細書の実施例3では、ベンゾトリアゾールの量を0.05質量%として接触角の最小値が47°となっているが(【0123】〜【0124】)、甲5の実施例1で作製される金属化樹脂フィルムは、ベンゾトリアゾールの濃度が0.05質量%程度で製造されたとは必ずしもいえないから「第2の面の純水に対する接触角が45°以上」となるかは不明である。

d a(c)の点について
本件発明1と甲5B発明の製造方法とが異なる上記a(c)の点について、本件明細書に記載の実施例2〜4及び比較例1では、防錆処理工程で用いた有機防錆剤の水溶液中のべンゾトリアゾールの量を変えた以外は、実施例1と同一の条件で銅張積層板を作成したとのことから、表1に示された実施例1〜4及び比較例1の接触角の違いに、水洗条件は関与していないようにみえる。
しかし、本件明細書に、
「【0103】
防錆剤の塗布後、水洗手段242により銅張積層板Sを水洗し、水切り手段243により水洗で用いた水を切り、乾燥手段244により銅張積層板Sを乾燥させることができる。
【0104】
防錆剤塗布後の水洗は銅層に付着もしくは吸着しない過剰な防錆剤が銅層表面に残留しないようにする目的で実施することができる。・・・
【0107】
また、後処理部24で用いる防錆剤の濃度や、水洗、水切り、乾燥等の条件は特に限定されるものではなく、防錆処理された銅層の純水に対する接触角が、所定の範囲内となるように適宜設定すればよい。・・・
【実施例】・・・
【0116】
そして、めっき液の除去部23で銅張積層板Sに付着しためっき液を除去し、さらに後処理部24で有機防錆剤の塗布した(防錆処理工程)。防錆処理工程の後は、水洗、水切り、加熱した空気による乾燥を行ってから巻取りロール25で巻取った。」と記載されているように、水洗条件は接触角の違いに関与し得るものと認められる。
また、甲8には 、「Cu−BTAフィルムの成長は、表面酸化物の形成に関して既述されるものと同様のイオンのマイグレーションによって生じる。極単純なフィルムの形成は、自然酸化物を有する銅を1H−BTAの0.01M水溶液に暴露することにより得られる。Cu−BTAは、ゆっくりと対数成長則に従い、最初の数秒で1、2分子層の厚さ(約0.8nm)に到達し、10分間で約2nmとなる。」(第680ページ右欄第3〜7行)と記載されており、ベンゾトリアゾールと、銅層との反応は、徐々に進行し、2nmの反応層を形成するのに10分程度要するものであるから、所望の厚さの反応層とし、所望の純水の接触角とするために、反応の進行の程度に応じて、所望のタイミングで水洗により反応源となる防錆剤を除去することで、反応層の形成を停止し、その膜厚を制御できることは明らかである。
一方、甲5には、水洗の条件が何ら記載されていないわけであるから、甲5B発明に係る金属化樹脂フィルムの具体的な製造方法と、本件明細書に記載された本件発明1の実施例における具体的な製造方法とが、同一であるかは不明である。

(ウ)本件発明1についての小括
したがって、甲5B発明における防錆処理された面は、本件発明1と同じく「純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下」となるとはいえないから、相違点5−1は実質的なものであり、本件発明1は、甲5に記載された発明ではない。

ウ 本件発明3〜6について
上記のとおり、相違点5−1は実質的なものであるから、本件発明1を引用する本件発明3〜6も、甲5に記載された発明ではない。

エ 本件発明7について
(ア)本件発明7との対比
a 本件発明7と甲5A発明とを対比すると、甲5A発明における「乾式めっき法で前記金属シード層の上に銅層を積層する工程と、電気めっき法で銅層を厚膜化し」た「金属導電体層」、「有機防錆剤を含んだ水溶液で表面処理する工程」及び「金属化樹脂フィルム」は、それぞれ、本件発明7における「銅層」、「防錆処理工程」及び「銅張積層板」に相当する。

b また、甲5A発明において、「金属導電体層」が「樹脂フィルム」の少なくとも一方の面側に形成されるのは明らかなことである。

c さらに、甲5A発明において、金属導電体層が有機防錆剤を含んだ水溶液で表面処理されることから、当該表面処理される面が、本件発明7における「第2の面」であり、その反対側の面が本件発明7における「第1の面」であって、それが樹脂フィルムと対向する面であるといえる。

d してみると、本件発明7と甲5A発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの少なくとも一方の面側に形成され、前記樹脂フィルムと対向する第1の面と、前記第1の面とは反対側の面である第2の面とを有する銅層とを含む銅張積層板の、前記第2の面を防錆処理する防錆処理工程を有する銅張積層板の製造方法。」である点。

<相違点5−2>
「防錆処理工程」について、本件発明7は、「第2の面の純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下となるように防錆処理を実施する」のに対し、甲5A発明は、そのように防錆処理を実施するのか不明である点。

(イ)相違点についての判断
a 本件発明7と甲5A発明に係る製造方法の違いについては、上記イ(イ)のとおりであって、甲5A発明における防錆工程も、「純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下となるように防錆処理を実施」しているとはいえないから、相違点5−2は実質的なものである。

(ウ)本件発明7についての小括
よって、本件発明7は、甲5に記載された発明ではない。

オ 本件発明8〜12について
上記のとおり、相違点5−2は実質的なものであるから、本件発明7を引用する本件発明8〜12も、甲5に記載された発明ではない。

カ 甲5を引用例とするものについての小括
以上のとおり、本件発明1〜12は、甲5に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

(3)取消理由2(明確性)について
ア 本件発明1〜6について
本件訂正前の請求項1に係る発明は、「防錆処理された前記第2の面の純水に対する接触角が45°以上80°以下である」との発明特定事項を有するが、本件明細書に記載された実施例のように、第2の面の純水に対する接触角の数値が一定の幅をもつ場合、平均値を対比すればよいのか、全面で上記の範囲に入る必要があるのかについて定義されていないから、明確ではなかった。
一方、本件発明1は、「防錆処理された前記第2の面の純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下である」との発明特定事項により、接触角の数値が一定の幅をもつ場合であっても、「接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下」と特定されたため、本件発明1は明確である。
したがって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2〜6は明確である。

イ 本件発明7〜12について
本件訂正前の請求項7に係る発明は、「前記防錆処理工程においては、前記第2の面の純水に対する接触角が45°以上80°以下となるように防錆処理を実施する」との発明特定事項を有していたため、当該事項が明確でなかったことは、上記アと同様である。
しかし、本件訂正により、本件発明7も「接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下」と特定されたため、本件発明1と同様に明確となった。
したがって、本件発明7及び本件発明7を引用する本件発明8〜12は明確である。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、令和 3年 7月21日付け意見書において、「ある部分での純水に対する接触角は45°以上80°以下の範囲に入り、別の部分では、接触角が45°未満、または80°超となる金属張積層板では、選択される測定位置に応じて、ある場合には、「接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が 45°以上80°以下」となり、別の場合には、最小値または最大値が上記の範囲外となります。
・・・
例えば、仮に、本件比較例2で測定される最大値84°がロールツーロール方式で製造された長尺の銅張積層板の幅中心で測定された値であり、最小値66°が側縁部で測定された値であるとすると、銅層の第2の面の純水に対する接触角を、側縁部で長手方向に沿って5 箇所測定した場合には、最小値と最大値は、45°以上80°以下の範囲に収まる蓋然性が高いと思量されます。つまり、ある一つの銅張積層板について、測定点の選択に応じて、ある場合には本件発明1の範囲に属し、ある場合には本件発明の範囲外となるとの結果が得られることになります。」と主張する。

(イ)申立人の主張するとおり、測定点の選択によっては、ある場合には本件発明の範囲に属し、ある場合には本件発明の範囲外となるとの結果が得られることも起こりえるが、このように、本件発明の範囲内か範囲外かが明確に理解できる以上、本件発明が明確でないということはできない。

(ウ)よって、申立人の上記主張は採用しない。

エ 取消理由2(明確性)についての小括
よって、本件発明1〜12は明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

2 取消理由では採用しなかった理由について
(1)申立理由1(新規性)について
ア 申立理由1−1(本件発明1:甲1を主たる引用例とするもの)
(ア)甲1に記載された発明
a 上記第6の1の摘示から、甲1には以下の事項が記載されているものと認められる。
(a)【0033】、【0035】、【0038】、【0045】の記載から、SAMは、ベンゾトリアゾール誘導体からなり、これにより、優れた防食効果が得られ、金属アノードは銅膜であり、基板はプラスチックであり得、また、プラスチックは樹脂である。そして、【0084】の表1には、ベンゾトリアゾールを用いたときの接触角が65度であったことが記載されている。

b 上記(a)を踏まえて、【0042】の記載を整理すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲1発明>
樹脂;
前記樹脂上に銅膜;
前記銅膜の表面上にベンゾトリアゾールからなるSAM(自己組織化単分子膜);
前記銅膜上に正孔注入層;
有機発光層;および
前記有機発光層上にカソードを備え、
前記SAMの水接触角が65度であるデバイス。

(イ)本件発明1との対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「銅膜」及び「ベンゾトリアゾール」は本件発明1の「銅層」及び「有機防錆剤」に相当し、甲1発明の「銅膜」の樹脂と接する面と「SAM」が設けられる面は、それぞれ、本件発明1の「第1の面」と「第2の面」に相当する。

してみると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「樹脂と、
前記樹脂の少なくとも一方の面側に形成され、前記樹脂と対向する第1の面と、前記第1の面とは反対側の面である第2の面とを有する銅層とを含み、
前記銅層の前記第2の面には、防錆剤として有機防錆剤を用いて防錆処理が施されており、防錆処理された前記第2の面の水に対する接触角が65°である積層物。」である点。

<相違点1−1>
「樹脂」について、本件発明1は、「樹脂フィルム」であるのに対し、甲1発明は、「フィルム」であることが特定されていない単なる「樹脂」である点。

<相違点1−2>
防錆処理された第2の面の接触角について、本件発明1は、「純水に対する」ものであるのに対し、甲1発明は、「水に対する」ものである点。

<相違点1−3>
水に対する接触角の測定について、本件発明1は「5点測定した場合」の「最小値及び最大値」が測定されるのに対し、甲1発明は測定条件が不明である点。

<相違点1−4>
本件発明1は、積層物が「銅張積層板」であるのに対し、甲1発明は、積層物が「デバイス」である点。

(ウ)相違点についての判断
a 相違点1−1について
甲1には、基板のプラスチックがフィルム状であると解することができる記載はないから、相違点1−1は実質的なものである。

b 相違点1−2について
接触角の測定に当たり、低純度の水を使うことは考え難いから、甲1においても純水が用いられていると解するのが自然である。
よって、相違点1−2は実質的なものではない。

c 相違点1−3について
甲1には、接触角の測定について具体的な測定方法が記載されておらず、接触角の測定がどのように行われているか不明であるから、相違点1−3は実質的なものである。

d 相違点1−4について
「銅張積層板」と「デバイス」は、明らかに異なるものであるから、相違点1−4は実質的なものである。

(エ)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書において、上記相違点1−1、1−4に関し、具体的な説明をすることなく一致点としているため、該相違点を一致点と認めることはできない。

(オ)小括
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

イ 申立理由1−2(本件発明3、4:甲1を主たる引用例とするもの)
上記のとおり、相違点1−1、1−3、1−4は実質的なものであるから、本件発明1を引用する本件発明3、4も、甲1に記載された発明ではない。

ウ 申立理由1−3(本件発明5:甲1を主たる引用例とするもの)
上記のとおり、相違点1−1、1−3、1−4は実質的なものであるから、本件発明1を引用する本件発明5も、甲1に記載された発明ではない。

エ 申立理由1−5(本件発明7〜12:甲1を主たる引用例とするもの)
本件発明7は、甲1発明に対し本件発明1と同様の相違点を有するものであり、この相違点は、上記ア(ウ)で検討したとおり実質的なものであるから、本件発明7は、甲1に記載された発明ではない。また、本件発明7を引用する本件発明8〜12も同様である。

オ 申立理由1−1(本件発明1:甲2を主たる引用例とするもの)
(ア)甲2に記載された発明
a 上記第6の2の摘示から、甲2には以下の事項が記載されているものと認められる。
(a)甲2の請求項1に係る発明は、圧延銅箔の製造方法に関する発明であるが、甲2には、その製造方法により製造された圧延銅箔も記載されていると認められ、【0002】の記載から、その圧延銅箔は、樹脂フィルムと張り合わされて、配線板となるものである。また、表1の実施例には、接触角が65度以上77度以下となることも記載されている。

b 上記(a)を踏まえると、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲2発明>
所定の厚さに圧延して得られた銅箔を、炭素原子数が8以上で20以下の範囲にある鎖状飽和炭化水素であって、該鎖状飽和炭化水素の成分の総量が99重量%以上からなる洗浄液で銅箔表面の油分等を洗浄し得られた、銅箔表面と水の接触角が65度以上77度以下である圧延銅箔と樹脂フィルムとを貼り合わせた配線板。

(イ)本件発明1との対比
本件発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の「圧延銅箔」は本件発明1の「銅層」に相当し、甲2発明の「圧延銅箔」の樹脂フィルムが張り合わされた面とその面と反対の面は、それぞれ、本件発明1の「第1の面」と「第2の面」に相当する。また、甲2発明の「配線板」は圧延銅箔を含む積層板であるから本件発明1の「銅張積層板」に相当する。

してみると、本件発明1と甲2発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムの少なくとも一方の面側に形成され、前記樹脂と対向する第1の面と、前記第1の面とは反対側の面である第2の面とを有する銅層とを含み、
前記銅層の前記第2の面の水に対する接触角が65°以上77°以下である銅張積層板。」である点。

<相違点2−1>
本件発明1は、銅層の第2の面には、防錆剤として有機防錆剤を用いて防錆処理が施されているのに対し、甲2発明は、炭素原子数が8以上で20以下の範囲にある鎖状飽和炭化水素であって、該鎖状飽和炭化水素の成分の総量が99重量%以上からなる洗浄液で銅層表面の油分等を洗浄している点。

<相違点2−2>
接触角について、本件発明1は、「純水に対する」ものであるのに対し、甲2発明は、「水に対する」ものである点。

<相違点2−3>
水に対する接触角の測定について、本件発明1は「5点測定した場合」の「最小値及び最大値」が測定されるのに対し、甲2発明は測定条件が不明である点。

(ウ)相違点についての判断
a 相違点2−1について
上記のとおり、銅層の第2の面に対するそれぞれの表面処理は明らかに異なるから、相違点2−1は実質的なものである。

b 相違点2−2について
接触角の測定に当たり、低純度の水を使うことは考え難いから、甲2においても純水が用いられていると解するのが自然である。
よって、相違点2−2も実質的なものではない。

c 相違点2−3について
甲2には、接触角の測定について具体的な測定方法が記載されておらず、接触角の測定がどのように行われているか不明であるから、相違点2−3は実質的なものである。

(エ)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書において、甲2の【0012】の「銅の防錆油は鉱物油をベースにした基油に、ベンゾトリアゾールやベンゾイミダゾールなどのインヒビタを添加したものが用いられることが多い。」との記載を根拠に、甲2発明の洗浄液にも防錆油経由のベンゾトリアゾールが含まれており、それにより防錆性が発揮される蓋然性が高い旨の主張をしているが、甲2には、実施例に記載される洗浄液に、ベンゾトリアゾールが含まれていることを示す記載はないから、申立人の上記主張は採用しない。

(オ)小括
よって、本件発明1は、甲2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

カ 申立理由1−2(本件発明3、4:甲2を主たる引用例とするもの)
上記のとおり、相違点2−1、2−3は実質的なものであるから、本件発明1を引用する本件発明3、4も、甲2に記載された発明ではない。

キ 申立理由1−1(本件発明1:甲3を主たる引用例とするもの)
(ア)甲3に記載された発明
a 上記第6の3の摘示から、甲3には以下の事項が記載されているものと認められる。
(a)【0022】の記載から、甲3の銅箔の両面には、銅箔側から順にNi層、Zn層及びクロメート処理層が設けられており、【0020】の記載から、これらの層はそれぞれ銅箔が酸化されるのを防止するものである。また、【0023】の記載から、クロメート処理後の銅箔にはシランカップリング処理層が設けられ、その後、銅箔の一方の面と樹脂基板が接着されるものである。そして、【請求項4】の記載から、表面処理された銅箔と樹脂基板とを積層されたものが銅張積層板であり、【0001】の記載から、該銅張積層板はフレキシブルプリント配線板に用いられるから、樹脂基板はフィルム状であると認められる。

(b)また、【0026】の記載から、【0053】の表1に記載の実験例7〜9の接触角(親水性)は、クロメート処理層の接触角を測定したもので、その測定値は、36°〜50°であり、【0052】の記載から、接触角は5箇所測定され、その平均値から求められている。また、表1の「接触角(親水性)」との記載から、接触角は水に対する接触角であると認められる。

b 上記(a)を踏まえると、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲3発明>
樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムの少なくとも一方の面側に形成され、前記樹脂フィルムと対向する第1の面と、前記第1の面とは反対側の面である第2の面とを有する銅箔とを含み、
前記銅箔の前記第2の面には、銅箔側から順にNi層、Zn層及びクロメート処理層が設けられており、前記第2の面の水に対する接触角を5点測定した場合に、その平均値が36°〜50°である銅張積層板。

(イ)本件発明1との対比
本件発明1と甲3発明を対比すると、甲3発明の「銅箔」は本件発明1の「銅層」に相当し、甲3発明において、Ni層、Zn層及びクロメート処理層はそれぞれ、酸化防止(防錆)のために設けられている。

してみると、本件発明1と甲3発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムの少なくとも一方の面側に形成され、前記樹脂フィルムと対向する第1の面と、前記第1の面とは反対側の面である第2の面とを有する銅層とを含み、
前記銅層の前記第2の面には、防錆処理が施されており、前記第2の面の水に対する接触角が特定の範囲である銅張積層板。」である点。

<相違点3−1>
本件発明1は、銅層の第2の面には、防錆剤として有機防錆剤を用いて防錆処理が施されているのに対し、甲3発明は、Ni層、Zn層及びクロメート処理層が設けられている点。

<相違点3−2>
接触角について、本件発明1は、「純水に対する」ものであるのに対し、甲3発明は、「水に対する」ものである点。

<相違点3−3>
接触角の測定について、本件発明1は「5点測定した場合」の「最小値及び最大値」であるのに対し、甲3発明は、「5点測定した場合」の「平均値」である点。

<相違点3−4>
接触角について、本件発明1は「45°以上80°以下」であるのに対し、甲3発明は、「36°〜50°」である点。

(ウ)相違点についての判断
a 相違点3−1について
上記のとおり、銅層の第2の面に対するそれぞれの表面処理は明らかに異なるから、相違点3−1は実質的なものである。

b 相違点3−2について
接触角の測定に当たり、低純度の水を使うことは考え難いから、甲3においても純水が用いられていると解するのが自然である。
よって、相違点3−2は実質的なものではない。

c 相違点3−3について
上記のとおり、接触角の測定方法(算出方法)は明らかに異なるから、相違点3−3は実質的なものである。

d 相違点3−4について
接触角について、本件発明1と甲3発明とは重複部分を有するものの、甲3には、具体的な接触角が記載されていないから、甲3発明における接触角が45°以上50°以下の範囲にあるかは不明である。
よって、相違点3−4は実質的なものである。

(エ)小括
よって、本件発明1は、甲3に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

ク 申立理由1−4(本件発明6:甲3を主たる引用例とするもの)
上記のとおり、相違点3−1、3−3、3−4は実質的なものであるから、本件発明1を引用する本件発明6も、甲3に記載された発明ではない。

(2)申立理由2(進歩性)について
ア 申立理由2−1(甲1を主たる引用例とするもの)
(ア)本件発明1について
上記(1)ア(イ)の本件発明1と甲1発明との相違点について、進歩性の有無を検討する。

<相違点1−1>
「樹脂」について、本件発明1は、「樹脂フィルム」であるのに対し、甲1発明は、「フィルム」であることが特定されていない単なる「樹脂」である点。

<相違点1−2>
防錆処理された第2の面の接触角について、本件発明1は、「純水に対する」ものであるのに対し、甲1発明は、「水に対する」ものである点。

<相違点1−3>
水に対する接触角の測定について、本件発明1は「5点測定した場合」の「最小値及び最大値」が測定されるのに対し、甲1発明は測定条件が不明である点。

<相違点1−4>
本件発明1は、積層物が「銅張積層板」であるのに対し、甲1発明は、積層物が「デバイス」である点。

(イ)相違点についての判断
a 相違点1−1について
甲1には、基板のプラスチックがフィルム状であると解することができる記載はなく、基板のプラスチックをフィルム状とする動機付けも存在しないから、甲1発明の「樹脂」を「樹脂フィルム」とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。

b 相違点1−2について
接触角の測定に当たり、低純度の水を使うことは考え難いから、甲1においても純水が用いられていると解するのが自然である。
よって、相違点1−2は実質的なものではない。

c 相違点1−3について
表面特性のばらつきをどのような評価指標で評価するかは、当業者が求める特性に応じて設定し得るものと認められるから、甲1発明において、接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値で評価することは、当業者が容易になし得ることである。

d 甲1には、「積層物」であるデバイスが、「銅張積層板」あると解することができる記載はなく、デバイスを銅張積層板とする動機付けも存在しないから、甲1発明の「デバイス」を「銅張積層板」とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
a 申立人は特許異議申立書の57ページにおいて、「甲第1号証に記載された、表面をSAMで処理された銅張積層板は、アノードと正孔注入層を備えた有機金属デバイスの中間製品として記載されているのに対し、本件特許発明1は、表面にフォトレジストパターンが形成され、フレキシブル配線板に加工される基板として製造されたものである。しかし、上記の用途の相違は、請求項の文言に反映されていないことに 加え、上で論じたように、表面にフォトレジストを塗布する銅張積層板として水に対する接触角を80°以下とすることが好ましいことは周知であるから、当業者が甲第1号証の記載する中間製品が、回路基板材料としての銅張積層板にも適したものであると気づくのは容易であり、その場合、甲第1号証の記載に基づいて回路基板材料としての銅張積層板を容易に製造することができる。」と主張する。

b しかしながら、本件発明1と甲1発明の用途の違いを考慮することなく、表面にフォトレジストを塗布する銅張積層板として水に対する接触角を80°以下とすることが好ましいことが周知であることのみを動機付けとして、甲1発明のデバイスを銅張積層板とすることが容易であるとはいえない。

(エ)小括
よって、本件発明1は甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(オ)本件発明3〜6について
上記のとおり、本件発明1は甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1を引用する本件発明3〜6も、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(カ)本件発明7〜12について
本件発明7は、甲1発明に対し本件発明1と同様の相違点を有するものであり、この相違点を解消することは、上記(イ)で検討したとおり、当業者が容易になし得ることとはいえないから、本件発明7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。また、本件発明7を引用する本件発明8〜12も同様である。

イ 申立理由2−2(甲5を主たる引用例とするもの)
(ア)本件発明1について
上記1(2)イ(ア)の本件発明1と甲5B発明との相違点について、進歩性の有無を検討する。

<相違点5−1>
本件発明1は、「防錆処理された前記第2の面の純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下」であるのに対し、甲5B発明は、防錆処理された第2の面の純水に対する接触角が不明である点。

(イ)相違点についての判断
a 甲5には、銅層表面の接触角を設定することが記載されていないから、甲5B発明に基づいて本件発明1とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
a 申立人は特許異議申立書の61ページにおいて、「フォトレジストの塗膜の接着性も考慮して、銅表面の水に対する接触角を80°以下とすべきことは周知技術であるから、甲5−2発明の方法に従い、甲5−1発明の金属張積層板の製造を試みる当業者が、甲第5号証の実施例1の「ベンゾトリアゾールを0.4質量% 以下、アルコールを1.0容量%以下に調整した水溶液」との記載から、ベンゾトリアゾールを0.1〜0.4質量%の所定量、メタノール、またはエタノールを1.0容量%以下の所定量使用して防錆処理を行った後に、水に対する接触角が80°以下となるよう調整した場合、あるいは、さらに一般的なフォトレジストの表面エネルギーを考慮して、水に対する接触角が55°以上70°以下となるよう調整した場合、「防錆処理された前記第2の面の純水に対する接触角が45°以上80°以下である」との条件は容易に達成されるものと認められる。」と主張する。

b しかしながら、上記1(2)イ(イ)cで述べたとおり、「ベンゾトリアゾールを0.4質量% 以下」を含む水溶液で防錆処理を行った場合であっても、純水に対する接触角が45°以上となるかは不明であり、また、甲5には、ベンゾトリアゾールの下限値を0.1質量%に設定することも記載されていないから、水に対する接触角を80°以下とすることが周知技術であったとしても、甲5からは、水に対する接触角の下限値を45°以上とすることは導き出せないから、申立人の上記主張は採用しない。

(エ)小括
よって、本件発明1は甲5B発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(オ)本件発明3〜6について
上記のとおり、本件発明1は甲5B発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1を引用する本件発明3〜6も、甲5B発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(カ)本件発明7について
上記1(2)エ(ア)の本件発明7と甲5A発明との相違点について、進歩性の有無を検討する。

<相違点5−2>
「防錆処理工程」について、本件発明7は、「第2の面の純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下となるように防錆処理を実施する」のに対し、甲5A発明は、そのように防錆処理を実施するのか不明である点。

(キ)相違点についての判断
a 甲5には、銅層表面の接触角を設定することが記載されていないから、甲5A発明に基づいて本件発明7とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。

(ク)小括
よって、本件発明7は甲5A発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(ケ)本件発明8〜12について
上記のとおり、本件発明7は甲5A発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明7を引用する本件発明8〜12も、甲5A発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

ウ 申立理由2−3(甲2を主たる引用例とするもの)
(ア)上記(1)オ(イ)の本件発明1と甲2発明との相違点について、進歩性の有無を検討する。

<相違点2−1>
本件発明1は、銅層の第2の面には、防錆剤として有機防錆剤を用いて防錆処理が施されているのに対し、甲2発明は、炭素原子数が8以上で20以下の範囲にある鎖状飽和炭化水素であって、該鎖状飽和炭化水素の成分の総量が99重量%以上からなる洗浄液で銅層表面の油分等を洗浄している点。

<相違点2−2>
接触角について、本件発明1は、「純水に対する」ものであるのに対し、甲2発明は、「水に対する」ものである点。

<相違点2−3>
水に対する接触角の測定について、本件発明1は「5点測定した場合」の「最小値及び最大値」が測定されるのに対し、甲2発明は測定条件が不明である点。

(イ)相違点についての判断
a 相違点2−1について
甲2発明は、所定の洗浄液で銅箔表面を洗浄し、その表面と水の接触角が65度以上77度以下とする発明であるから、その表面に防錆剤として有機防錆剤を用いて防錆処理が施す動機付けがあるとはいえない。

b 相違点2−2について
接触角の測定に当たり、低純度の水を使うことは考え難いから、甲2においても純水が用いられていると解するのが自然である。
よって、相違点2−2も実質的なものではない。

c 相違点2−3について
表面特性のばらつきをどのような評価指標で評価するかは、当業者が求める特性に応じて設定し得るものと認められるから、甲2発明において、接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値で評価することは、当業者が容易になし得ることである。

(ウ)小括
よって、本件発明1は甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(エ)本件発明3〜6について
上記のとおり、本件発明1は甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1を引用する本件発明3〜6も、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

エ 申立理由2−4(甲6を主たる引用例、甲1、甲5、甲7を副引例とするもの)
(ア)甲6に記載された発明
a 上記第6の6の摘示から、甲6には以下の事項が記載されているものと認められる。
(a)【0012】には、請求項1の金属箔は、厚みが1〜50μmの銅箔であり、該銅箔は防錆処理が施されていても構わないと記載され、また、【0034】の表1には、銅箔の具体的な厚みが12μm、18μmであることが記載されている。

b 上記(a)を踏まえると、甲6には、次の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲6発明>
熱融着性フィルムと、
前記熱融着性フィルムの少なくとも一方の面側に形成され、前記熱融着性フィルムと対向する第1の面と、前記第1の面とは反対側の面である第2の面とを有する銅箔とを含み、
前記銅箔の前記第2の面には防錆処理が施されている、
金属積層板であって、
前記銅箔の膜厚は、1〜50μm、例えば1〜18μmであり、
前記熱融着性フィルムはポリイミドフィルムである、金属積層板。

(イ)本件発明1との対比
本件発明1と甲6発明を対比すると、甲6発明の「熱融着フィルム」、「銅箔」及び「金属積層板」は本件発明1の「樹脂フィルム」、「銅層」及び「銅張積層板」に相当する。

してみると、本件発明1と甲6発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムの少なくとも一方の面側に形成され、前記樹脂と対向する第1の面と、前記第1の面とは反対側の面である第2の面とを有する銅層とを含み、
前記銅層の前記第2の面には、防錆処理が施されている銅張積層板。」である点。

<相違点6−1>
「銅層の第2の面」について、本件発明1は、「防錆剤として有機防錆剤を用いて防錆処理が施されており、防錆処理された第2の面の純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下である」のに対し、甲6発明は、防錆剤が特定されておらず、純水に対する接触角が不明である点。

(ウ)相違点についての判断
a 相違点6−1について(甲1を副引例とするもの)
(a)甲1には、上記2(1)ア(ア)bのとおり、甲1発明が記載されている。甲1発明において、銅膜の表面上に形成されたベンゾトリアゾールからなるSAM(自己組織化単分子膜)は、その水接触角が65度であるが、これは、SAM上に形成される正孔注入層のために設定されたものである(【0033】)。

(b)一方、甲6発明には、防錆処理が施された銅箔の表面に正孔注入層を形成する動機付けが認められないから、甲1の記載に基いて、甲6発明の銅層の表面の純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。

(c)小括
よって、本件発明1は甲6発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

b 相違点6−1について(甲5を副引例とするもの)
(a)甲5には、銅層表面の接触角を設定することが記載されていないから、甲6発明と甲5に記載された事項を組み合わせても、本件発明1とすることはできない。

(b)小括
よって、本件発明1は甲6発明及び甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

c 相違点6−1について(甲7を副引例とするもの)
(a)甲7には、「金属表面を有機化合物薄膜で被覆する金属の腐食防止剤であって、被覆された金属表面の水に対する接触角を90度以上とし、かつ該薄膜が0.1〜10nmの厚さで形成され、はんだ濡れ性を実質的に低下させないことを特徴とする金属の腐食防止剤。」が記載されている(請求項1)。

(b)一方、甲7には、表1−9の比較例3に、ベンゾトリアゾールとエポキシシランの水溶液により、水に対する接触角が52度と樹脂との接着に適した防錆層が得られることが示されている。

(c)ここで、甲6発明と甲7に記載された事項を組み合わせる際に、耐食性の低い比較例3を積極的に選択する理由は見いだせないから、これらを組み合わせて、本件発明1とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。

(d)小括
よって、本件発明1は甲6発明及び甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(エ)本件発明3〜6について
上記のとおり、本件発明1は甲6発明及び甲1、甲5、甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1を引用する本件発明3〜6も、甲6発明及び甲1、甲5、甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(オ)本件発明7〜12について
本件発明7は、甲6発明に対し本件発明1と同様の相違点を有するものであり、この相違点を解消することは、上記(ウ)で検討したとおり、当業者が容易になし得ることとはいえないから、本件発明7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。また、本件発明7を引用する本件発明8〜12も同様である。

オ 申立理由2−5(甲6を主たる引用例、甲2、甲4を副引例とするもの)
(ア)本件発明1について
上記エ(イ)の本件発明1と甲6発明との相違点について、進歩性の有無を検討する。

<相違点6−1>
「銅層の第2の面」について、本件発明1は、「防錆剤として有機防錆剤を用いて防錆処理が施されており、防錆処理された第2の面の純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下である」のに対し、甲6発明は、防錆剤が特定されておらず、純水に対する接触角が不明である点。

(イ)相違点についての判断
a 相違点6−1について
(a)甲6において、防錆処理は、必要に応じて施される、コブ付け処理、易接着処理と並記される処理であるから、この記載から、防錆処理として有機防錆剤を用いたものを選択する動機付けがあるとはいえない。

(b)また、甲2の【0013】には、銅箔と水の接触角を80度以下とすることで水濡れ性を改善することが、甲4の請求項1には、圧延銅合金箔上にNiもしくはNi合金めっきを施し、その表面の水の接触角を80度以下とすることで水濡れ性を改善することが、それぞれ記載されている。

(c)しかしながら、これらの記載から、有機防錆剤を用いて防錆処理が施した上で、その表面の接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下とする動機付けがあるとはいえない。

(d)よって、甲6発明において、防錆処理として有機防錆剤用いたものを選択し、その上で、防錆処理された表面の接触角を特定範囲とすることが、当業者が容易になし得ることとはいえない。

(ウ)小括
よって、本件発明1は甲6発明及び甲2、甲4に記載された事項基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(エ)本件発明5、6について
上記のとおり、本件発明1は甲6発明及び甲2、甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1を引用する本件発明5、6も、甲6発明及び甲2、甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(3)申立理由3(実施可能要件)について
ア 本件明細書には以下の事項が記載されている。
(ア)「【0073】
防錆処理工程において、銅層12の第2の面12bに防錆剤を供給した後、必要に応じて水洗を行い、過剰な防錆剤を除去することもできる。なお、水洗を実施した場合には水切り、乾燥を併せて実施することが好ましい。」

(イ)「【0101】
後処理部24は銅層が厚付けされた銅張積層板Sの表面に防錆剤の被膜を形成する部分
であり、防錆剤の塗布、水洗、水切り、及び乾燥の順に処理され、最終的に巻取りロール25にて銅張積層板Sはロール状に巻き取られる。
・・・
【0103】
防錆剤の塗布後、水洗手段242により銅張積層板Sを水洗し、水切り手段243により水洗で用いた水を切り、乾燥手段244により銅張積層板Sを乾燥させることができる。
【0104】
防錆剤塗布後の水洗は銅層に付着もしくは吸着しない過剰な防錆剤が銅層表面に残留しないようにする目的で実施することができる。また、水切り及び乾燥は水分の除去が不十分なままで銅張積層板Sが巻取りロール25でロール状に巻き取られると、乾燥の過程で防錆剤が再凝集して部分的に濃化することがあるので、これを抑える目的で実施できる。
・・・
【0107】
また、後処理部24で用いる防錆剤の濃度や、水洗、水切り、乾燥等の条件は特に限定されるものではなく、防錆処理された銅層の純水に対する接触角が、所定の範囲内となるように適宜設定すればよい。」

イ 上記ア(ア)、(イ)の記載から、「水洗」が過剰な防錆剤を除去するために必要に応じて行われる工程であることが理解でき、上記1(2)イ(イ)dで判断したとおり、ベンゾトリアゾールと、銅層との反応は、徐々に進行し、2nmの反応層を形成するのに10分程度要するものであるから、所望の厚さの反応層とし、所望の純水の接触角とするために、反応の進行の程度に応じて、所望のタイミングで水洗により反応源となる防錆剤を除去することで、反応層の形成を停止し、その膜厚を制御できることは明らかである。

ウ したがって、本件明細書は、本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。

(4)申立理由4(サポート要件)について
ア 本件明細書には以下の事項が記載されている。
(ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述したように、銅張積層板はサブトラクティブ法またはセミアディティブ法によりフレキシブル配線板に加工されるが、いずれの方法を用いる場合でもフォトレジストの塗布、露光、現像の各処理が施される。
【0012】
しかしながら、防錆処理を施した銅張積層板を用いた場合、フォトレジストのパターンが基板である銅張積層板から剥がれてしまい、配線加工ができなくなる不具合が発生することがあった。
【0013】
上記従来技術の問題に鑑み、本発明の一側面では防錆処理がなされており、フォトレジストパターンを配置した場合でも、フォトレジストのパターンが剥がれることを抑制できる銅張積層板を提供することを目的とする。」

(イ)「【0042】
そして、本発明の発明者らの検討によれば、防錆処理を施した銅層12の第2の面12bの純水に対する接触角は、45°以上80°以下であることが好ましく、45°以上70°以下であることがより好ましい。
【0043】
これは、防錆処理を施した銅層12の第2の面12bの純水に対する接触角が45°以上の場合、十分な防錆効果を示すためである。
【0044】
ただし、銅層12の第2の面12bに形成された防錆剤層は、銅張積層板を基板として例えばフレキシブル配線板を作製する工程において、フォトレジストを塗布、露光、現像した後のフォトレジストのパターンと銅層の密着性を低下させる要因となる。このため、防錆剤層の膜厚が厚くなりすぎるとフォトレジストのパターンが剥がれてしまう現象が発生することがある。そして、本発明の発明者らの検討によれば、防錆処理した銅層12の第2の面12bにおける純水に対する接触角を上述のように80°以下とすることで、フォトレジストのパターンが銅層12から剥離することを抑制できるため、好ましい。」

(ウ)「【実施例】
【0112】
以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0113】
まず、以下の実施例、比較例において作製した銅張積層板の評価方法について説明する。
(純水に対する接触角)
銅張積層板の銅層の第2の面について、自動接触角計DM−301(協和界面科学株式会社製)を用いて、滴下した純水量1.0μl、温度25℃の条件で、銅層表面と純水による水滴のなす角を5点測定し、最小値と最大値により評価した。
(長期保管試験)
作製した銅張積層板を室温にて500時間保管し、銅層の表面の錆発生の有無を肉眼にて確認した。
(フォトレジストのパターンの剥がれ試験)
銅張積層板に液状フォトレジストを塗布し、図3に示すパターンを有するマスクを介して紫外線照射して露光した。次に現像を行いフォトレジストのパターンを形成した。この現像の際に、銅層からのフォトレジストのパターンの剥がれの有無を確認した。
[実施例1]
厚み38μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製、商品名カプトン(登録商標))の表面に、金属シード層としてスパッタリング法にて膜厚10nmのニッケル−20質量%クロム合金膜を成膜した(金属シード層形成工程)。
【0114】
次に、金属シード層の表面にさらにスパッタリング法にて膜厚100nmの銅薄膜層を積層した(銅薄膜層形成工程)。樹脂フィルム上に銅薄膜層を形成した金属化樹脂フィルムFは、ロール状に巻回した。
【0115】
作製した金属化樹脂フィルムFを、図2に示すような電気めっき・防錆処理装置を用いて、巻出しロール21から巻出し、連続的に搬送しながら、電気めっき部22で処理して銅めっき層を形成し(銅めっき層形成工程)、銅層が厚膜化された銅張積層板Sを得た。
【0116】
そして、めっき液の除去部23で銅張積層板Sに付着しためっき液を除去した。さらに後処理部24で有機防錆剤を塗布し、水洗、水切り、加熱した空気による乾燥(防錆処理工程)を行ってから巻取りロール25で巻取った。
【0117】
電気めっき部22では、硫酸を100g/L、硫酸銅を180g/L含み、塩素含有量50質量ppmのめっき液を用い、これに銅めっき皮膜の平滑性等を確保する目的で添加剤を添加した。この電気めっき部22に、金属化樹脂フィルムFを3m/min.の搬送速度で導入することにより、金属化樹脂フィルムFの銅層を8μmまで厚膜化した。
【0118】
後処理部24の有機防錆剤の水溶液としては、ベンゾトリアゾールが0.4質量%、メチルアルコールが1.0質量%となるように添加、調整した水溶液を用いた。
【0119】
めっき液の除去部23で洗浄水の吹き付け装置232から吹き付ける洗浄水、及び後処理部24で水洗する際に水洗手段242から吹き付ける洗浄液には純水を用いた。
【0120】
得られた銅張積層板の銅層の純水に対する接触角を測定すると最小値が59°、最大値が61°であった。
【0121】
また、銅張積層板の長期保管試験を実施したが、発錆しないことが確認できた。さらにフォトレジストのパターンの剥がれ試験を実施したが、フォトレジストパターンの剥がれも生じないことを確認できた。
[実施例2]
防錆処理工程で用いた有機防錆剤の水溶液中のベンゾトリアゾールの量を0.2質量%とした以外は、実施例1と同一の条件で銅張積層板を作製した。
・・・
[実施例3]
防錆処理工程で用いた有機防錆剤の水溶液中のベンゾトリアゾールの量を0.05質量%とした以外は、実施例1と同一の条件で銅張積層板を作製した。
・・・
[実施例4]
防錆処理工程で用いた有機防錆剤の水溶液中のベンゾトリアゾールの量を0.6質量%とした以外は、実施例1と同一の条件で銅張積層板を作製した。
・・・
[比較例1]
防錆処理工程で用いた有機防錆剤の水溶液中のベンゾトリアゾールの量を0.9質量%とした以外は、実施例1と同一の条件で銅張積層板を作製した。
・・・
[比較例2]
防錆処理工程で用いた有機防錆剤の水溶液中のベンゾトリアゾールの量を0.6質量%とし、防錆処理工程において加熱した空気による乾燥を行わなかった以外は、実施例1と同一の条件で銅張積層板を作製した。
・・・
[比較例3]
有機防錆剤の塗布、及び有機防錆剤の塗布後の水洗を行わなかった点以外は、実施例1と同一の条件で銅張積層板を作製した。
・・・
【0137】
これらの結果を表1にまとめて示す。
【0138】
【表1】



イ 申立理由4−1、4−2
上記ア(ア)〜(ウ)の記載から、本件発明は、一側面では防錆処理がなされており、フォトレジストパターンを配置した場合でも、フォトレジストのパターンが剥がれることを抑制できる銅張積層板を提供すること解決しようとする課題としている。
そして、有機防錆剤を用いて防錆処理された第2の面の純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下とすることで、フォトレジストのパターンの剥がれのない銅張積層板を提供し、本件発明の解決しようとする課題を解決している。
そうすると、本件発明は、本件明細書に記載された発明である。

ウ 申立人の主張について
申立人は特許異議申立書の第65ページにおいて、概略、任意の防錆処理を選択した場合であっても、防錆処理された面の純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下となることが発明の詳細な説明に記載されていなければならない旨を主張している。
しかしながら、発明の詳細な説明において開示された具体例を拡張ないし一般化できるとはいえない場合、すなわち、何らかの防錆処理された面の純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下とならない場合は、その具体例は、本件発明ではないから、そのような防錆処理が、発明の詳細な説明に開示されなければならないとの理由はない。
よって、申立人の上記主張は採用しない。

エ 小括
よって、本件発明は、本件明細書に記載された発明であるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

(5)申立理由5(明確性)について
ア 申立理由5−1
本件発明1には、「前記銅層の前記第2の面には、防錆剤として有機防錆剤を用いて防錆処理が施されており」との発明特定事項を有しており、この特定は、物の発明についての請求項に「その物の製造方法が記載されている場合」に該当する。
一方、申立人が特許異議申立書の66ページ キ(ア)で「甲第8号証にも示されるように、防錆処理層の状態を、化学組成(ベンゾトリアゾールを用いる場合であればCu−BTA) 、膜厚、腐食速度等、物としての特徴によって定義することが可能である」と述べるとおり、本件明細書の記載や出願時の技術常識を考慮すると、上記特定は、「当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは物性を表しているか」が明らかであると認められるから、上記特定は明確でないとはいえない。
したがって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明3〜6が明確であるから、本件発明1、3〜6は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

第8 まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立書の申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件請求項1、3〜12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、3〜12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正によって特許異議の申立てがされた請求項2は削除され、特許異議の申立ての対象となる請求項2は存在しないものとなったから、請求項2に係る特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムの少なくとも一方の面側に形成され、前記樹脂フィルムと対向する第1の面と、前記第1の面とは反対側の面である第2の面とを有する銅層とを含み、
前記銅層の前記第2の面には、防錆剤として有機防錆剤を用いて防錆処理が施されており、防錆処理された前記第2の面の純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45°以上80°以下である銅張積層板。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記有機防錆剤はアゾール類を含んでいる請求項1に記載の銅張積層板。
【請求項4】
前記有機防錆剤はベンゾトリアゾールを含んでいる請求項3に記載の銅張積層板。
【請求項5】
前記銅層の膜厚は0.1μm以上20μm以下である請求項1、3、4のいずれか1項に記載の銅張積層板。
【請求項6】
前記樹脂フィルムはポリイミドフィルムである請求項1、3〜5のいずれか1項に記載の銅張積層板。
【請求項7】
樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムの少なくとも一方の面側に形成され、前記樹脂フィルムと対向する第1の面と、前記第1の面とは反対側の面である第2の面とを有する銅層とを含む銅張積層板の、前記第2の面を防錆処理する防錆処理工程を有し、
前記防錆処理工程においては、前記第2の面の純水に対する接触角を5点測定した場合に、最小値及び最大値が45゜以上80°以下となるように防錆処理を実施する銅張積層板の製造方法。
【請求項8】
前記防錆処理工程において、防錆剤として有機防錆剤を用いる請求項7に記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項9】
前記有機防錆剤はアゾール類を含んでいる請求項8に記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項10】
前記有機防錆剤はベンゾトリアゾールを含んでいる請求項9に記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項11】
前記有機防錆剤は、アルコールを含んでいる請求項8〜10のいずれか1項に記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂フィルムの少なくとも一方の面側に乾式めっき法にて金属シード層を成膜する金属シード層形成工程と、
乾式めっき法にて金属シード層上に銅薄膜層を形成する銅薄膜層形成工程と、
電気めっき法および/または無電解めっき法にて銅めっき層を形成する銅めっき層形成工程と、を有する請求項7〜11のいずれか1項に記載の銅張積層板の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-10-12 
出願番号 P2015-008911
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C23F)
P 1 651・ 536- YAA (C23F)
P 1 651・ 121- YAA (C23F)
P 1 651・ 113- YAA (C23F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 磯部 香
佐藤 陽一
登録日 2020-03-17 
登録番号 6677448
権利者 住友金属鉱山株式会社
発明の名称 銅張積層板、及び銅張積層板の製造方法  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

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