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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C03B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03B
管理番号 1380939
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-01-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-04 
確定日 2021-12-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6707409号発明「シリカ焼結体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6707409号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6707409号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成28年6月30日を出願日とする出願であって、令和2年5月22日にその請求項1、2に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年6月10日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 2年12月 4日 :特許異議申立人 藤井 晴美(以下「申立
人」という。)による請求項1、2に係る
特許に対する特許異議の申立て
令和 3年 3月23日付け:取消理由通知
同年 5月20日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提

同年 7月 1日 :申立人による意見書の提出
同年 9月14日付け:訂正拒絶理由通知
同年10月27日 :特許権者による上申書及び訂正請求取下書
の提出

第2 特許異議の申立てについて
1 本件発明について
令和3年5月20日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第8項の規定に基づき、同年9月14日付けの訂正拒絶理由通知において指定された期間内に取下げられたことから、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」といい、まとめて「本件発明」という。)は、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Fe、Ni及びCuの元素の含有量の合計が0.25ppm以上2.5ppm以下であり、直径20μm以上の泡を含まず、少なくとも一部が非加工であり、かつ前記非加工面の表面粗さRaが0.1μm以下であり、300nmの光の透過率が87%以上であることを特徴とするシリカ焼結体。

【請求項2】
Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Fe、Ni及びCuの元素の含有量の合計が0.25ppm以上2.5ppm以下であり真球度90%以上のシリカ原料100wt%に対して、2.5〜5wt%のバインダーを加えて粒子状またはスラリー状とし、鋳込み成形で成形後、1300℃以上で焼成することを特徴とする請求項1記載のシリカ焼結体の製造方法。」

2 取消理由の概要
令和3年3月23日付けの取消理由は、概略、以下のとおりである。

(1)取消理由1−1(進歩性欠如)
本件発明1は、下記甲第1号証に記載された発明及び下記甲第3号証〜甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)取消理由1−2(進歩性欠如)
本件発明1は、下記甲第2号証に記載された発明及び下記甲第3号証〜甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)取消理由2(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載において、光の透過率を求める際のシリカ焼結体の厚みが特定されていないために、当該透過率を一義的に定めることができず、その記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

<甲号証一覧>
甲第1号証:特開平9−295825号公報
甲第2号証:特開2004−161607号公報
甲第3号証:特開平8−119664号公報
甲第4号証:特開2007−308365号公報
甲第5号証:特開平8−91867号公報
甲第6号証:特開平8−271393号公報

3 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由のうち、取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。

(1)申立理由1−1(進歩性欠如)
本件発明2は、下記甲第1号証に記載された発明及び下記甲第2号証〜甲第7号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本件特許の請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)申立理由1−2(進歩性欠如)
本件発明2は、下記甲第2号証に記載された発明及び下記甲第3号証〜甲第7号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本件特許の請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)申立理由2(実施可能要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が以下の申立理由2−1〜2−3の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

ア 申立理由2−1
本件明細書の発明の詳細な説明には、シリカ焼結体の「非加工面の表面粗さRa」を「0.1μm以下」にすることについて、どのような方法で実現するのか具体的な記載はなく、当業者が実施できるように記載されていない。
イ 申立理由2−2
本件明細書の発明の詳細な説明には、300nmの光の透過率が87%以上であるシリカ焼結体(実施例1、2)が開示されるものの、各実施例のシリカ焼結体に関し、「直径20μ以上の泡を含まず」、「非加工面の表面粗さが0.1μm以下」であることの記載がされておらず、如何にして300nmの光の透過率が87%以上であるシリカ焼結体を得たのか、当業者が実施できるように記載されていない。

ウ 申立理由2−3
本件明細書の発明の詳細な説明には、シリカ原料粉を鋳込んで成形体を得、焼結してシリカ焼結体を得ることが記載されているが、本件発明1のシリカ焼結体について、鋳込み以外の方法により非加工面の表面粗さRaを0.1μm以下にすることは、当業者が実施できるように記載されていない。

(4)申立理由3(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の申立理由3−1〜3−2の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

ア 申立理由3−1
本件明細書の発明の詳細な説明には、シリカ焼結体の「非加工面の表面粗さRa」を「0.1μm以下」にすることについて、どのような方法で実現するのか具体的な記載はない。また、本件明細書の発明の詳細な説明の【0045】において、表面粗さRaを0.2μmに粗面化した型を用いると、鋳込んだ成形体が型に密着して一部破損したことが記載されていることからみて、単に表面粗さRaを0.1μmとした型を用いるのみで、「非加工面の表面粗さRaが0.1μm以下」であるシリカ焼結体が得られるのか疑いがあり、本件発明1、2の範囲まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

イ 申立理由3−2
本件明細書の発明の詳細な説明の【0034】の「鋳込み成形」をしていない実施形態が、【参考例】として開示されていることからみて、本件発明1のシリカ焼結体は、「鋳込み成形により成形された」ことが特定されるべきところ、本件発明1にはその点が記載されておらず、発明の課題を解決できることを当業者が認識できる範囲を超えている。

(5)申立理由4(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

本件発明1、2における「Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Fe、Ni及びCuの元素の含有量の合計が0.25ppm以上2.5ppm以下であり」との記載に関し、シリカ焼結体が9種類の元素の全てを含有するものであるのか、9種類の元素のうち一部だけを含有していることを意味するのか、あるいはその両方の意味であるのか明確でない。

<甲号証一覧>
甲第1号証:特開平9−295825号公報
甲第2号証:特開2004−161607号公報
甲第3号証:特開平8−119664号公報
甲第4号証:特開2007−308365号公報
甲第5号証:特開平8−91867号公報
甲第6号証:特開平8−271393号公報
甲第7号証:特開平6−239623号公報
なお、甲第1号証〜甲第6号証は、取消理由通知における甲第1号証〜甲第6号証である。

4 甲号証の記載事項について
(1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明(当審注:下線は当審による。「…」は当審による省略を意味する。各甲号証は「甲1」などという。以下同様。)。
ア 甲1の記載事項
(ア)「【0002】
【従来の技術】
…例えば、特開平1−275438、1−270530にはアルカリ金属ケイ酸から得られた合成シリカ粉末を1〜20μmに微粉砕した粉末をプレス、鋳込みなどの成形手段で固め、焼結し透明石英ガラスとする方法が開示されている。

【0004】
上記合成シリカ微粉末を一旦成形体とし、それを加熱溶融する従来の方法は、粉末にOHなどの揮発成分が含まれる場合、気泡の多いガラスができ易い。成形により、粒子間の接触が増すため焼結が促進され、比較的低い温度で形成される閉気孔内に、高温で揮発ガス成分が放出され、気孔の消滅を妨害するためと推定される。
【0005】
また、成形そのものにも、添加剤が必要となるなどノウハウと多大の労力を要する。」

(イ)「【0014】
本発明では、顆粒の充填カサ密度はガラス密度の18.2〜45.5%の範囲であり、プレス、鋳込みなどで成形したものに比較して隙間が多いものとなる。従って、焼結が遅れ、高温まで開気孔状態が保たれるため、粉末に含まれるOHなどの揮発成分が逃げやすく、気泡の少ないガラスが得られる。また、球状顆粒を充填するため、均一組織となり、ガラスに1mm以上の大きい気泡ができない。このようにして得られたガラスを熱間静水圧プレス処理することで、無気泡ガラスとすることができる。」

(ウ)「【0019】
【実施例】
実施例1
0.5μmの球状粒子からなる市販コロイダルシリカ(扶桑シルテック社製、商品名PL−50)をエバポレ−タ−で乾燥し、800℃で2時間焼成した後、水と混合し、ナイロンポット、ボ−ルを用い粉砕した。得られた濃度50%のスラリ−をスプレ−ドライヤ−装置を用い、平均粒径60μm(粒度分布30〜100μm)の顆粒粉末に造粒した。

【0021】
この粉末を高純度処理カ−ボン容器に厚さ10mmとなるように充填し、上から高純度処理カ−ボン板を荷重3.54g/cm2となるように載せた。…カ−ボン抵抗加熱炉に設置し、真空度を10−3torrまで減圧し、300℃/hrで1800℃まで昇温し、10分間保持した後、減圧を解除し、窒素ガスを2kgf/cm2となるまで導入し、さらに5分間保持した。保持中の真空度は1torrであった。得られた透明シリカガラスの密度は2.205g/cm3であった。
【0022】
次に、このガラスを熱間静水圧プレス装置に入れ、Arガスを圧力媒体とし、400℃/時間で1300℃まで上げ、圧力150MPaをかけた状態で1hr保持した。
【0023】
得られたガラスの密度を測定したところ、2.218g/cm3であった。」

(エ)「【0025】
実施例2
アルカリケイ酸塩水溶液を酸処理し、水洗して不純物を抽出除去し、1200℃で焼成したシリカを水溶媒中で石英ガラス製ポットとボ−ルを用い粉砕し、平均粒径3μmとなるように調製した。得られた濃度45%のスラリ−をスプレ−ドライヤ−装置を用い、平均粒径50μm(粒度分布30〜100μm)の球状顆粒粉末に造粒した。粉末を化学分析した結果は表3の通りであった。
【0026】
【表3】

【0027】
この粉末を高純度処理カ−ボン容器に厚さ5mmとなるように充填し、上から高純度処理カ−ボン板を荷重1.77g/cm2となるように載せた。この状態での粉末充填カサ密度は0.8g/cm3であった。これを実施例1と同様の方法で透明石英ガラスとし、熱間静水圧プレス処理をArを圧力媒体とし1300℃、150MPa、4時間行った。
【0028】
熱間静水圧プレス処理前後のガラスの気泡量を測定し、表4に示す結果を得た。
【0029】
【表4】

【0030】
表4から明らかなように、処理により無気泡となったことが判った。」

イ 甲1に記載された発明
上記ア(エ)の【表3】によると、シリカ粉末中のNaは0.1ppm、Feは0.5ppm、Alは0.3ppm、K、Mg、Caの含有量はそれぞれ0.1ppm未満であるから、Na、K、Mg、Ca、Fe、Alの合計含有量は、0.90ppm以上1.2ppm未満であるといえる。
また、上記ア(ウ)、(エ)によると、実施例2において、透明石英ガラスを製造する過程で何ら加工していないから当該石英ガラスは非加工であり、また、熱間静水圧プレス処理後に得られた透明石英ガラスは無気泡であるといえる。
したがって、これらの記載を、本件発明1の記載にならって整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「原料としてNa、K、Mg、Ca、Fe、Alの合計含有量が0.90ppm以上1.2ppm未満であるシリカ粉末を使用し、泡を含まず、非加工である、透明石英ガラス。」

(2)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
ア 甲2の記載事項
(ア)「【請求項1】
(A)比表面積が3〜30m2/gの範囲の球状シリカが68重量%以上であるシリカと水の混合物を、摩砕機を用いて分散処理してシリカ分散液を調製する工程、
(B)該シリカ分散液のpHを10以上に調整する工程、
(C)pHを調整したシリカ分散液を鋳型の中でゲル化させて湿潤ゲル体を作製する工程、
(D)該湿潤ゲル体を乾燥させて乾燥ゲル体を作製する工程、
(E)該乾燥ゲル体を酸化雰囲気中500〜1000℃の範囲で焼成することによって有機物を除去する工程、
(F)有機物を除去した乾燥ゲル体をハロゲン含有ガス中500〜1200℃の範囲で処理することによって高純度化する工程、
(G)さらに高純度化した乾燥ゲル体をヘリウムガス雰囲気もしくは真空中で1200〜1800℃の温度範囲で焼結する工程、
を経ることを特徴とする透明石英ガラス体の製造方法。」

(イ)「【0001】
本発明は、新規な透明石英ガラス体の製造方法に関する。詳しくは、重金属による汚染が少なく、シリカの分散状態に優れた高濃度のシリカ分散液を利用した透明石英ガラス体の製造方法を提供し、さらに、該シリカ分散液を生産性良く製造する方法を提供する。」

(ウ)「【0024】
円形度=(4・π・S)1/2/L
S:画像処理で得られた粒子の面積
L:粒子の周囲長
本発明においては、球状シリカの円形度は、上記式で算出した値が0.8以上、好ましくは0.9以上、さらに好ましくは0.93以上であることが好ましい。
【0025】
上記のような球状シリカを具体的に説明すると、…具体的には、トクヤマ製エクセリカSE−1やSH−03等を挙げることができる。」

(エ)「【0075】

(透明ガラス体中の気泡)
上記歩留まり判定における合格品を用いて透明石英ガラス体を作製し、該透明ガラス体中の気泡(目視で観察できる直径1mm以上の気泡)の数を調べた。気泡の数が該透明ガラス体1個当たりの平均値で、0.5個未満の場合:○、0.5個以上〜2個未満の場合:△、2個以上の場合:×とした。
実施例1〜3及び比較例1〜2
特許文献2記載の方法に基づき、シリカゲル成形体を作製し、さらに透明石英ガラス体を作製した。
(A)シリカ分散液の製造工程
シリカには、トクヤマ製エクセリカSE−1(比表面積:15.3m2/g)を用い、溶媒には純水を使用した。なお、上記シリカの円形度は0.96であった。

【0083】
次に、上記で製造したシリカ分散液を用いてゲル体を作製し、さらに透明石英ガラス体を作製した。

(G)焼結工程
最後に、上記高純度化処理を行なったゲル体をゾーン型の電気炉を用いて焼結し、透明石英ガラス体を得た。

【0084】
ゲル体の歩留りと透明石英ガラス体中の気泡の数を調べた結果を表1に示す。
【0085】
シリカ濃度が68重量%以上の実施例においてはゲル体の歩留りは非常に良好であった。…一方、透明体にしたときの気泡の数は、シリカ濃度が72重量%以上の場合は全く発生しなかったが、シリカ濃度が68重量%の実施例1ではサンプルによっては若干の気泡の発生が認められた。シリカ濃度が62重量%以下の比較例においては、どのサンプルにも3個以上の気泡が発生し、実用には供し得ないことがわかった。

【0090】
【表1】



イ 甲2に記載された発明
上記ア(ウ)、(エ)によると、透明石英ガラス体の原料として球状シリカであるトクヤマ製エクセリカSE−1を用いている。
また、上記ア(エ)によると、実施例において、シリカ濃度を72重量%以上にすることで、透明石英ガラス体に1mm以上の気泡は全く発生しなかったことが示されている。
さらに、上記ア(ア)によると、透明石英ガラスを製造する過程で何ら加工していないから、当該石英ガラスは非加工であるといえる。
したがって、これらの記載を、本件発明1の記載にならって整理すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「原料として球状シリカであるトクヤマ製エクセリカSE−1を使用し、1mm以上の泡を含まず、非加工である、透明石英ガラス体。」

(3)甲3の記載事項
甲3には、Li、Na、Mg、Ca、K、Al、Ti、Cr、Ni、Zn、Zr、Mo、Fe及びClの含有量がそれぞれ1ppm以下である高純度透明石英ガラスが記載されており、それぞれの含有量が1ppmを越えると紫外線領域の光透過率が低下する傾向が大きくなることが記載されている(【0008】、【0009】)。

(4)甲4の記載事項
甲4には、金属不純物Li、Na、K、Ca、Mg、Fe、Cr、Ni、Cu、Al、またはTiの少なくとも1つの濃度が0.01ppm未満である合成石英ガラスのレンズが記載されており、これら金属不純物は紫外線に対するレンズの透過性を低下させることが開示されている(請求項61、62、【0001】、【0023】)。

(5)甲5の記載事項
ア「【0009】
前記紫外光透過用合成石英ガラス中に、前記した不純物以外に金属不純物が含有されていると、紫外光及び真空紫外光の透過率が低下するために好ましくなく、アルカリ金属は合計で100ppb以下、アルカリ土類金属は合計で100ppb以下、遷移金属(Ti、Cr、Ni、Fe、Cu、Ce)は合計で50ppb以下であるのが好ましい。また、塩素以外のハロゲン元素(F、Br)の含有量も少ない必要があり、合計で100ppb以下が好ましい。」

イ「【図4】
従来の合成石英ガラスの厚さをパラメータとした紫外域における透過率と波長との関係を示したグラフである。




(6)甲6の記載事項
ア「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は光学素材、例えば多成分光学ガラス、合成石英ガラス、結晶材料等の透過率、例えば内部透過率(反射損失を含まない分光透過率)の高精度な測定に用いるサンプル及びその作製方法、測定方法に関するものである。」

イ「【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、光学素材の透過率の測定方法において、透過率測定サンプルの規格及び作製方法に起因する測定誤差を鋭意研究した。そして、サンプルに起因する測定誤差要素を検討した結果、サンプルの研磨面の平行度、面精度、表面粗さが問題となることが解った。」

ウ「【0023】
そこで、図1及び図2に測定波長248nm及び193nmでのサンプルの表面粗さと散乱損失を除外した理論透過率の関係を示す。表面粗さに起因する、表面の散乱損失を除外した理論透過率T(散)は以下の近似式を用いて算出される。
【0024】
【数5】



エ「【図1】




オ「【図2】



5 当審の判断
(1)取消理由1−1(進歩性欠如)について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
上記4(1)ア(エ)【表4】によれば、0.01mm(10μm)以上の気泡を測定対象とし、当該気泡が熱間静水圧プレス処理後に0になったことが示されているから、甲1発明の「泡を含まず」は、本件発明1の「直径20μm以上の泡を含まず」に相当する。
甲1発明の「非加工である」は、本件発明1の「少なくとも一部が非加工であり」に相当する。
そして、甲1発明の「透明石英ガラス」は、上記4(1)ア(ウ)、(エ)によると、焼結することより得られたものに他ならないから、本件発明1の「シリカ焼結体」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「直径20μm以上の泡を含まず、少なくとも一部が非加工であるシリカ焼結体。」の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1−1>
本件発明1は、「シリカ焼結体」の「Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Fe、Ni及びCuの元素の含有量の合計が0.25ppm以上2.5ppm以下」であることが特定されているのに対し、甲1発明は、原料としてNa、K、Mg、Ca、Fe、Alの合計含有量が0.90ppm以上1.2ppm未満であるシリカ粉末を使用することが特定されているものの、「透明石英ガラス」におけるNa、Mg、Al、K、Ca、Cr、Fe、Ni及びCuの元素の含有量の合計は明らかでない点。
<相違点1−2>
本件発明1は、「前記非加工面の表面粗さRaが0.1μm以下」であることが特定されるのに対し、甲1発明は、非加工面の表面粗さの特定がない点。
<相違点1−3>
本件発明1は、「300nmの光の透過率が87%以上である」ことが特定されるのに対して、甲1発明は、透過率の特定がない点。

事案に鑑み、相違点1−2について検討する。
まず、甲1発明の「透明石英ガラス」は、高純度処理カ−ボン容器にシリカ粉末を充填して加熱して得た透明シリカガラスに対し熱間静水圧プレス処理したものであり(上記4(1)ア(ウ)参照)、当該「透明石英ガラス」の非加工面の表面粗さRaに関して具体的な数値の記載はなく、当該数値を算出するための根拠となる記載もないから、相違点1−2は実質的なものである。
次に、上記相違点1−2に係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討する。上記4(6)のア、ウ〜オによれば、甲6には、石英ガラスの表面粗さが大きくなると石英ガラス表面での透過率が低下することが記載されているものの、上記4(6)のイによると、甲6の上記記載は、研磨面における表面粗さに関するものであることは明らかである。
一方、甲1発明の「透明石英ガラス」は、鋳込み等の使用形態に応じた形状の型を用いて作製されたものではないし、非加工のまま使用することを前提としたものとも解されない。そうすると、甲1発明において、研磨面での表面粗さについて記載された甲6の技術的事項に基いて、「透明石英ガラス」の透過率を向上させるために研磨加工してその表面粗さを低減することは当業者であれば容易に想到し得るとしても、研磨等の加工を一切することなくその表面粗さを0.1μm以下にすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
また、甲3〜甲5にも、ガラスの非加工面の表面粗さRaを0.1μm以下とすることは記載も示唆もされていない(上記4(3)〜(5)参照)。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲3〜6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、取消理由1−1に理由はない。

(2)取消理由1−2(進歩性欠如)について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「非加工である」は、本件発明1の「少なくとも一部が非加工であり」に相当する。
また、甲2発明の「透明石英ガラス体」は、上記4(2)ア(ア)によると、焼結することより得られたものに他ならないから、本件発明1の「シリカ焼結体」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「少なくとも一部が非加工であるシリカ焼結体。」の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点2−1>
本件発明1は、「シリカ焼結体」の「Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Fe、Ni及びCuの元素の含有量の合計が0.25ppm以上2.5ppm以下」であることが特定されているのに対し、甲2発明は、原料としてトクヤマ製エクセリカSE−1を使用」していることが特定されているものの、「透明石英ガラス体」におけるNa、Mg、Al、K、Ca、Cr、Fe、Ni及びCuの元素の含有量の合計は明らかでない点。
<相違点2−2>
本件発明1は、「前記非加工面の表面粗さRaが0.1μm以下」であることが特定されるのに対し、甲2発明は、非加工面の表面粗さの特定がない点。
<相違点2−3>
本件発明1は、「300nmの光の透過率が87%以上である」ことが特定されるのに対して、甲2発明は、透過率の特定がない点。
<相違点2−4>
本件発明1は、「直径20μm以上の泡を含ま」ないことが特定されるのに対し、甲2発明は、直径1mm以上の泡を含まないことが特定されている点。

事案に鑑み、相違点2−4について検討する。
まず、甲2発明の「透明石英ガラス体」は、直径1mm以上の気泡を有しないものであるが(上記4(2)ア(エ)参照)、これは目視で観察したもので、直径1mm未満の気泡については観察対象としていないから、上記相違点2−4は実質的なものである。
次に、上記相違点2−4に係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討する。ガラスの製造において微細気泡を皆無とするのは、一般に、製造上の困難を伴うことが通常であり、上述のように直径1mm以上の気泡が発生しなかったからといって、同じ製造条件によって直径20μm程度の微細気泡を皆無にできると直ちにいうことはできない。
また、甲3〜6の記載(上記4(3)〜(6)参照)を参酌しても、甲2発明において、直径20μm以上の泡を含まないようにすることは、容易想到な事項といえない。
加えて、例えば甲1には、熱間静水圧プレス処理を組み合わせることで、直径10μm以上の気泡が0にできることが示されているものの(上記4(1)ア(エ)の【表4】)、甲1発明は、原料として顆粒を用いることにより、鋳込みなどと比較して隙間が多い成形体とすることを前提にするものであるのに対し(上記4(1)ア(イ))、甲2発明は、新規な透明石英ガラス体の製造方法に関し、高濃度のシリカ分散液を鋳込むことを前提にするものであるから(上記4(2)ア(ア)、(イ))、甲2発明において、甲1に記載されるような工程を採用することには阻害要因がある。
そうすると、直径1mm未満の気泡を観察対象としていない甲2発明において、例えば甲1に記載に記載される熱間静水圧プレス処理を採用するなどして、直径20μm以上の気泡を皆無にすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明及び甲3〜6に記載された技術的事項、あるいは甲2に記載された発明及び甲1、3〜6に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、取消理由1−2に理由はない。

(3)取消理由2(明確性要件違反)
同じ材料でもその厚みが異なれば光の透過率は異なるから、一般に材料の厚みが特定されていない場合には、透過率を一義的に定めることはできない。
一方、本件発明1の場合、シリカ焼結体の厚みは特定されていないものの、本件明細書の発明の詳細な説明の記載(特に、【0034】〜【0039】の記載など)を参照すれば、300nmの光における透過率の測定対象が、厚み0.2mmの成形体を焼結したものであることが理解できる。
また、甲5において、石英ガラスの紫外域における透過率と波長の関係を示したグラフが示されるように(上記4(5)のイ)、紫外光透過性の石英ガラスにおいて、300nm程度の波長における透過率に与える厚みの影響は大きくないことは技術常識であるところ、本件発明1のシリカ焼結体の厚みが、焼結条件(例えば温度、時間など)によって変動し得るとしても、上記技術常識に鑑みれば、当該厚みの変動が300nmにおける透過率に与える影響は無いか、仮にあったとしても非常に小さいものと推認される。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明において、シリカ焼結体が厚み0.2mmの成形体を焼結したものであることが明示されている以上、本件発明1において、シリカ焼結体の厚みを特定していないことをもって、「300nmの光の透過率」の意味が不明確になるとはいえない。
したがって、取消理由2に理由はない。

(4)申立理由1−1(進歩性欠如)
請求項2は請求項1を引用するものであるから、本件発明2は本件発明1に対する上記(1)の検討と事情は同じである。
そして、甲7にも、ガラスの非加工面の表面粗さRaを0.1μm以下とすることは記載も示唆もされていない。
よって、本件発明2は、甲1に記載された発明及び甲3〜7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)申立理由1−2(進歩性欠如)
請求項2は請求項1を引用するものであるから、本件発明2は本件発明1に対する上記(2)の検討と事情は同じである。
そして、上記(2)で検討したとおり、甲2発明において、直径20μm程度の微細気泡を皆無にできると直ちにいうことはできないから、甲7の記載を参酌しても、甲2発明において、直径20μm以上の泡を含まないようにすることは、容易想到な事項といえない。
よって、本件発明1は、甲2に記載された発明及び甲3〜7に記載された技術的事項に基いて、あるいは甲2に記載された発明及び甲1、3〜7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)申立理由2(実施可能要件違反)
ア 申立理由2−1
本件明細書の発明の詳細な説明には、シリカ焼結体の「非加工面の表面粗さRa」を「0.1μm以下」にすることについて、どのような方法で実現するのか具体的な記載はない。
しかしながら、本件特許の審査段階において提出された令和1年12月24日提出の意見書において、「(i)本願出願前公知である特許第3434865号公報に記載の発明は、セラミックスの射出成型に関するものですが、…段落【0011】には「金型内面の表面粗さは、そのまま成形体に写し取られることから、最終焼結体の焼き上げ面の表面粗さ(Ra)を0.2μm以下とするためには、金型内面の表面粗さ(Ra)も0.2μm以下とする必要があり」と説示されるように、型の内面状態が成形体の表面状態に影響を与えることは明らかであり、当業者であれば、鋳型内面を極めて滑らかな面とするなどして、シリカ焼結体の「非加工面の表面粗さRa」を小さくできることを理解できる。
したがって、申立理由2−1に理由はない。

イ 申立理由2−2
不純物濃度、表面粗さ及び気泡が光の透過率に影響を与えることは、光学ガラスの技術分野において技術常識であるし、300nmの光の透過率が87%程度の光学ガラスは従来から知られていたから(例えば、上記4(5)イの【図4】)、本件発明のシリカ焼結体が、不純物濃度を所定範囲にしたこと、20μm以上の泡をなくしたこと、及び非加工面の表面粗さRaを0.1μm以下とすることにより、300nmの光の透過率を87%程度にできたことは理解できる。
したがって、申立理由2−2に理由はない。

ウ 申立理由2−3
上記アの「申立理由2−1」で検討したとおり、型の内面状態が成形体の表面状態に影響を与えることは明らかであり、鋳込み以外の方法として、例えばプレス成形などを採用した場合においても、当業者であれば、プレス金型の内面を極めて滑らかな面とするなどして、シリカ焼結体の「非加工面の表面粗さRa」を小さくできることを理解できる。
したがって、申立理由2−3に理由はない。

(7)申立理由3(サポート要件違反)
ア 申立理由3−1
本件発明の課題は、本件特許明細書の【0008】に記載されたとおり、「紫外・可視域の光透過性に優れたシリカ焼結体であって、従来のシリカ焼結体に比べて、安価に製造することができ、かつ、種々の形状に形成可能なシリカ焼結体を提供すること」であると認められる。
本件発明1には、300nmの光の透過率が87%以上であるシリカ焼結体とするために、Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Fe、Ni及びCuの元素の含有量の合計が0.25ppm以上2.5ppm以下であり、直径20μm以上の泡を含まず、少なくとも一部が非加工であり、かつ前記非加工面の表面粗さRaが0.1μm以下であることが特定されているところ、このうち、シリカ焼結体の「非加工面の表面粗さRa」を「0.1μm以下」にできることは、上記(6)アの「申立理由2−1」で検討したとおりである。
そして、上記(6)イの「申立理由2−2」で検討したとおり、不純物濃度、表面粗さ及び気泡が、光の透過率に影響を与えるものであることは知られており、本件発明1、2においてはこれらが具体的に特定されているのだから、上記課題を解決できるものと認識できる範囲である。
したがって、申立理由3−1に理由はない。

イ 申立理由3−2
上記(6)ウの「申立理由2−3」で検討したとおり、鋳込み以外の方法では、シリカ焼結体の「非加工面の表面粗さRa」を小さくできないと認められるに足る証拠はなく、本件明細書の発明の詳細な説明の【0034】において、プレス成形した実施形態が、【参考例】として記載されていることのみをもって、鋳込み成形したことを特定しない本件発明1が、発明の課題を解決できることを当業者が認識できる範囲を超えているとはいえない。
そして、上記(6)イの「申立理由2−2」で検討したとおり、不純物濃度、表面粗さ及び気泡は光の透過率に影響を与えるものであり、本件発明1ではこれらが具体的に特定されているのだから、上記課題を解決できるものと認識できる。
したがって、申立理由3−2に理由はない。

(8)申立理由4(明確性要件違反)
本件発明1における「Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Fe、Ni及びCuの元素の含有量の合計が0.25ppm以上2.5ppm以下であり」なる記載は、文言上、シリカ焼結体は、9種類の元素の全てを含有するもの、9種類の元素のうち一部だけを含有するもの、のいずれの場合も含み得るものであり、且つ本件明細書の発明の詳細な説明において当該解釈と異なる定義もされていないから、本件発明1における「不純物の含有量」に係る上記記載は明確である。
したがって、申立理由4に理由はない。

第3 むすび
以上のとおりであるから、請求項1、2に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由、及び、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-12-01 
出願番号 P2016-129870
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C03B)
P 1 651・ 536- Y (C03B)
P 1 651・ 537- Y (C03B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 関根 崇
後藤 政博
登録日 2020-05-22 
登録番号 6707409
権利者 クアーズテック株式会社
発明の名称 シリカ焼結体  
代理人 澤田 優子  
代理人 木下 茂  

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