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審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D03D
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D03D
管理番号 1380949
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-01-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-02 
確定日 2021-12-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6809736号発明「伸縮性織物、その製造方法及び製造装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6809736号の請求項1〜17、21〜25に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6809736号の請求項1〜25に係る特許についての出願は、2019年(平成31年)3月1日を国際出願日とする出願であって、令和2年12月14日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月6日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許の請求項1〜25のうち請求項1〜17、21〜25に係る特許に対し、令和3年7月2日に特許異議申立人中谷美弥子(以下「申立人」という。)により、本件特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
特許第6809736号の請求項1〜17、21〜25に係る発明(以下「本件発明1」等といい、本件発明1〜17、21〜25を「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜17、21〜25に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
緯糸が伸縮性芯糸とこれを被覆する鞘糸とを含む伸縮性複合糸を含み、経糸が化学繊維糸及び/又は天然繊維糸を含む伸縮性織物であって、
前記伸縮性芯糸はポリウレタン弾性糸であり、前記伸縮性複合糸に加工する前の前記ポリウレタン弾性糸の繊度は40〜1,300dtexであり、
前記鞘糸は、繊度10〜500dtexの化学繊維糸および繊度100〜1,000dtexの天然繊維糸のいずれかであり、
前記鞘糸の化学繊維糸を構成する繊維は、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維又はこれらの組合せから選択され、
前記鞘糸の天然繊維糸を構成する繊維は綿繊維であり、
前記伸縮性複合糸は、前記伸縮性芯糸に前記鞘糸を螺旋状に一重となるように巻きつけたシングルカバード糸であり、前記伸縮性芯糸1m当たりの前記鞘糸の巻回数は1,300〜2,500T/mであり、
前記伸縮性複合糸の伸長率は30%以上であり、
前記伸縮性複合糸の弾性回復率は70%以上であり、
製織時の前記伸縮性織物中の前記伸縮性複合糸の伸長倍率は、製織前の前記伸縮性複合糸を基準として1.30倍以下に保持されていることを特徴とする伸縮性織物。
【請求項2】
前記伸縮性複合糸の伸縮性芯糸1m当たりの鞘糸の巻回数は1,300〜2,400T/mであることを特徴とする請求項1に記載の伸縮性織物。
【請求項3】
前記伸縮性複合糸の伸縮性芯糸1m当たりの鞘糸の巻回数は1,800〜2,200T/mであることを特徴とする請求項1又は2に記載の伸縮性織物。
【請求項4】
前記鞘糸を構成する繊維は、ポリアミド繊維およびポリエステル繊維から選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の伸縮性織物。
【請求項5】
前記ポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレート繊維およびポリブチレンテレフタレート繊維から選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の伸縮性織物。
【請求項6】
前記ポリオレフィン繊維は、ポリエチレン繊維およびポリプロピレン繊維から選択されることを特徴とする請求項1〜3および5のいずれか一項に記載の伸縮性織物。
【請求項7】
緯糸方向の洗濯収縮率は5%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の伸縮性織物。
【請求項8】
前記製織時の伸縮性織物中の伸縮性複合糸の伸長倍率は1.20倍以下に保持されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の伸縮性織物。
【請求項9】
緯糸方向の洗濯収縮率は3%以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の伸縮性織物。
【請求項10】
洗濯処理後の経糸密度は15〜80本/cmであり、洗濯処理後の複合糸密度は10〜80本/cmであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の伸縮性織物。
【請求項11】
緯糸方向の定荷重伸長率(JIS−L−1096)は20%以上であり、緯糸方向の伸長回復率(JIS−L−1096)は85%以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の伸縮性織物。
【請求項12】
前記伸縮性複合糸の伸長率は50%以上であり、前記伸縮性複合糸の弾性回復率は80〜100%であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の伸縮性織物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の伸縮性織物からなることを特徴とする伸縮性衣料材料。
【請求項14】
前記伸縮性織物は綾組織を有するストレッチデニムであることを特徴とする請求項13に記載の伸縮性衣料材料。
【請求項15】
前記伸縮性織物は、綾組織を有し、前記経糸が双糸のコーマ糸を含むストレッチチノクロスであることを特徴とする請求項13に記載の伸縮性衣料材料。
【請求項16】
前記伸縮性織物はサポーター用材料であることを特徴とする請求項13に記載の伸縮性衣料材料。
【請求項17】
請求項14に記載のストレッチデニムを含むことを特徴とするストレッチジーンズ。」
「【請求項21】
製織時の前記伸縮性織物中の前記伸縮性複合糸の伸長倍率が、製織前の前記伸縮性複合糸を基準として1.30倍以下となるように、前記空気吹き付け手段により前記伸縮性複合糸に吹き付ける圧縮空気流の吐出圧力と、前記緯糸ブレーキおよび前記ウェフトテンショナーで前記伸縮性複合糸に掛ける張力とを調整することを特徴とする請求項19又は請求項19を引用する請求項20に記載の伸縮性織物の製造方法。
【請求項22】
前記空気吹き付け手段により前記伸縮性複合糸に吹き付ける圧縮空気流の吐出圧力(ゲージ圧)を200kPa以上とすることを特徴とする請求項18〜21のいずれか一項に記載の伸縮性織物の製造方法。
【請求項23】
緯糸が伸縮性芯糸とこれを被覆する鞘糸とを含む伸縮性複合糸を含み、経糸が化学繊維糸及び/又は天然繊維糸を含む伸縮性織物の製造装置であって、
前記伸縮性複合糸を把持しながら緯方向に経糸開口の中を飛走せしめられて前記緯糸を入れるプロジェクタイルと、前記伸縮性複合糸の供給側に配置され、前記飛走するプロジェクタイルにより牽引される前記伸縮性複合糸に張力を掛ける緯糸ブレーキとを少なくとも有するグリッパー織機を有し、
前記グリッパー織機は、さらに、前記伸縮性複合糸を巻回した給糸チーズと、前記緯糸ブレーキより下流側に配置され、前記給糸チーズから引き出された前記伸縮性複合糸の張力を調整するウェフトテンショナーと、さらに下流側に配置され、前記伸縮性複合糸を前記プロジェクタイルに受け渡すプロジェクタイルフィーダーと、前記飛走するプロジェクタイルを停止させる停止ブレーキとを有しており、これらは前記伸縮性複合糸の供給側から前記給糸チーズ、前記緯糸ブレーキ、前記ウェフトテンショナー、前記プロジェクタイルフィーダー及び前記停止ブレーキの順に配置されて、前記プロジェクタイルが前記プロジェクタイルフィーダーから前記停止ブレーキに向かって飛走するようになっており、
前記グリッパー織機は、さらに、前記ウェフトテンショナーと前記プロジェクタイルフィーダーとの間において、前記飛走するプロジェクタイルにより牽引される伸縮性複合糸に、その打ち込み方向とほぼ反対方向に空気を吹き付ける手段であって、前記緯糸ブレーキにより掛ける張力を低減し、製織時の前記伸縮性複合糸の延伸を抑制する空気吹き付け手段を有しており、
製織時の前記伸縮性織物中の前記伸縮性複合糸の伸長倍率が、製織前の前記伸縮性複合糸を基準として1.30倍以下となるように、前記空気吹き付け手段により前記伸縮性複合糸に吹き付ける圧縮空気流の吐出圧力と、前記緯糸ブレーキおよび前記ウェフトテンショナーで前記伸縮性複合糸に掛ける張力とが調整される
ことを特徴とする伸縮性織物の製造装置。
【請求項24】
前記伸縮性複合糸の空気吹き付け位置に、前記伸縮性複合糸を通すエアーブロワーチューブが設けられており、前記空気吹き付け手段はエアーノズルであり、前記エアーノズルのノズル口は前記エアーブロワーチューブ内に挿入され、かつ前記伸縮性複合糸の打ち込み方向とほぼ反対方向に配向されていることを特徴とする請求項23に記載の伸縮性織物の製造装置。
【請求項25】
前記空気吹き付け手段により前記伸縮性複合糸に吹き付ける圧縮空気流の吐出圧力(ゲージ圧)は200kPa以上であることを特徴とする請求項23又は24に記載の伸縮性織物の製造装置。」

第3 申立理由の概要
申立人は、請求項1〜17、21〜25に係る特許は、以下の理由により、取り消されるべきものである旨を主張する。

1 申立理由1(実施可能要件
本件発明の「製織時の前記伸縮性織物中の前記伸縮性複合糸の伸長倍率は、製織前の前記伸縮性複合糸を基準として1.30倍以下に保持されている」の記載について、発明の詳細な説明には、伸縮性複合糸の繊度(dtex)及び伸長倍率を算出できるように記載されていないため、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件発明1〜17、21〜25の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
よって、本件特許の請求項1〜17、21〜25に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(明確性
本件発明1〜17、21〜25の「製織時の前記伸縮性織物中の前記伸縮性複合糸の伸長倍率は、製織前の前記伸縮性複合糸を基準として1.30倍以下に保持されている」の記載が明確でない。
よって、本件特許の請求項1〜17、21〜25に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

第4 当審の判断1 申立理由1(実施可能要件)について
(1)発明の詳細な説明の記載
請求項1、21、23の「製織時の前記伸縮性織物中の前記伸縮性複合糸の伸長倍率は、製織前の前記伸縮性複合糸を基準として1.30倍以下に保持されている」の記載について、発明の詳細な説明には、次の記載がある。
「【0102】
(2)製織時の伸縮性織物中の伸縮性複合糸の伸長倍率
製織開始から長さ5mの織物を製造した時の伸縮性複合糸の消費質量(図3中、給糸チーズ1”から引き出された緯糸1の質量(g))を計測し、得られた消費質量を、伸縮性複合糸の繊度(dtex)から、同長さの織物を製造した時の伸縮性複合糸の消費長さLa(メートル)に換算した。また同長さの織物を製造した時における緯入れ回数N(回)も計測した。織機の緯糸飛走長[織り幅(筬通し幅)+捨て耳幅(メートル)]をLbとして、下記式に従い、製織時の伸縮性織物中の伸縮性複合糸の伸長倍率Esf(倍)を算出した。
Esf(倍)=(Lb×N)/La
ここで、上記「捨て耳」は、織り幅部分(筬通し幅部分)の両側に設けられるもので、一般的に、1本の緯糸を経糸の開口に挿入する毎に、捨て耳の部分を掴んで開口を閉じ、緯糸が筬打ちされる。通常、緯糸は、織り幅部分(筬通し幅部分)と、その両側に設けられた捨て耳からなる基本単位から構成される。」

(2)判断
ア 伸縮性複合糸の繊度(dtex)について
上記(1)から、「伸縮性複合糸の消費質量」と「伸縮性複合糸の繊度」から「伸縮複合糸の消費長さ(La)」を計算できる。
ここで、「伸縮性複合糸の繊度」は、「合成繊維の伸縮性かさ高加工糸」の「正量繊度」であり、「初荷重をかけて正確に長さ90cmの試料20本を取り,絶乾質量を量」って算出され(「化学繊維フィラメント糸試験方法」(JIS L 1013:2010)の「8.3.1 正量繊度」)、また、「初荷重」は「糸が伸長せず,まっすぐになる程度の荷重」をいう(「化学繊維フィラメント糸試験方法」(JIS L 1013:2010)の「5.1 初荷重」)。
そうすると、当該方法を用いて「伸縮複合糸」の「繊度」を算出することにより、「伸縮複合糸の消費質量」を「伸縮複合糸の消費長さ(La)」に換算できる。

イ 伸長倍率
上記(1)から、「伸長倍率(Esf)」は、「織機の緯糸飛走長(Lb)(メートル)」及び「織物を製造した時における緯入れ回数N(回)」及び「伸縮複合糸の消費長さ(La)(メートル)」から算出される。
ここで、「織機の緯糸飛走長(Lb)(メートル)」及び「織物を製造した時における緯入れ回数N(回)」については、「伸縮性織物」を作成する上で、当業者が決め得る事項である。
また、「伸縮性複合糸の消費長さLa(メートル)」については、緯糸として使用する「伸縮性複合糸」の選択、緯糸にかける張力等により決め得る事項である。
そうすると、発明の詳細な説明の上記記載を参考にして、「伸縮複合糸の消費質量(g)」と「伸縮性複合糸の繊度(dtex)」から算出される「伸縮性複合糸の消費長さ(La)」と、「織機の緯糸飛走長(Lb)(メートル)」と、「織物を製造した時における緯入れ回数N(回)」とを調整することによって、「Esf(倍)=(Lb×N)/La」で算出される「製織時の伸縮性織物中の伸縮性複合糸の伸長倍率Esf(倍)」を1.30以下とすることができる。

(3)申立人の主張について
申立人は、「伸縮性複合糸の消費質量」を「織物を製造した時の伸縮性複合糸の消費長さ(La)」に換算するのに必要な「伸縮性複合糸の繊度(dtex)」を算出することができないため、「製織時の伸縮性織物中の伸縮性複合糸の伸長倍率(Esf)」が計算できない旨を主張している(申立書9ページ2〜4行)。
申立人の上記主張は、「伸縮性複合糸の繊度」が、「伸縮性複合糸が巻き取られた延伸状態を保ったままの正量繊度」であることを前提としている(申立書9ページ10〜21行)。
しかしながら、本件発明1〜17、21〜25の「伸縮性複合糸の伸長率」を算出するのに必要となる「伸縮性複合糸の消費長さ(La)」を、「伸縮複合糸の消費質量(g)」から換算するための「伸縮性複合糸の繊度」は、「化学繊維フィラメント糸試験方法」(JIS L 1013:2010)において定義されたものであって、「糸が伸長せず、まっすぐになる程度の荷重」をかけて、「絶乾質量を量」って算出されるものであるから、「伸縮性複合糸の繊度」が、「伸縮性複合糸が巻き取られた延伸状態を保ったままの正量繊度」であるとした前提に誤りがあり、申立人の主張は採用できない。

(4)小括
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、21及び23、並びに本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2〜17、本件発明21を引用する本件発明22、及び本件発明23を直接的又は間接的に引用する本件発明24、25の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

2 申立理由2(明確性)について
請求項1、21、23の「製織時の前記伸縮性織物中の前記伸縮性複合糸の伸長倍率は、製織前の前記伸縮性複合糸を基準として1.30倍以下に保持されている」の記載について、「製織時の前記伸縮性織物中の前記伸縮性複合糸」の長さが、「製織前の前記伸縮性複合糸」の長さの「1.30倍以下に保持されている」ことを意味することは明らかである。
そうすると、請求項1、21、23に記載された「製織時の前記伸縮性織物中の前記伸縮性複合糸の伸長倍率は、製織前の前記伸縮性複合糸を基準として1.30倍以下に保持されている」の記載は明確である。
よって、本件発明1、21、23、及びこれら発明を引用する本件発明2〜17、22、24、25は明確である。

第5 むすび
以上のとおり、申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1〜17、21〜25に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜17、21〜25に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-12-03 
出願番号 P2019-565134
審決分類 P 1 652・ 537- Y (D03D)
P 1 652・ 536- Y (D03D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 矢澤 周一郎
藤井 眞吾
登録日 2020-12-14 
登録番号 6809736
権利者 カイハラ産業株式会社
発明の名称 伸縮性織物、その製造方法及び製造装置  
代理人 竹沢 荘一  
代理人 横堀 芳徳  
代理人 竹ノ内 勝  

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