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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B60C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B60C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B60C
管理番号 1380950
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-01-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-06 
確定日 2021-12-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第6809548号発明「空気入りラジアルタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6809548号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6809548号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成31年2月7日に出願した特許出願であって、令和2年12月14日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、令和3年1月6日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年7月6日に特許異議申立人 鍵 隆(以下、「特許異議申立人」という。)は、特許異議の申立て(対象請求項:請求項1〜4)を行った。

第2 本件特許発明
特許第6809548号の請求項1ないし4に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」といい、これらをあわせて「本件特許発明」という。)。
「【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルトカバー層とを有する空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ベルト層は、M本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本であり、前記スチールコードの5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上であり、前記スチールコードは前記ベルト層の層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して傾斜して配列されており、前記スチールコードの断面積S(mm2)と前記スチールコードの長手方向と直交する向きの幅50mm当たりの前記スチールコードの打ち込み本数E(本/50mm)の積として算出されるスチールコード量Aが5.0〜8.0の範囲内であり、
前記ベルトカバー層は、2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である有機繊維コードで構成され、前記有機繊維コードはタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回されていることを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記素線の本数Mが2本であり、前記スチールコードが1×2構造を有することを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記素線の本数Mが1本であり、前記スチールコードが単線構造を有することを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記有機繊維コードがポリエステル繊維で構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りラジアルタイヤ。」

第3 申立理由の概要
1 特許異議申立理由の要旨
特許異議申立人が提出した特許異議申立書において主張する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性欠如)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(甲第6号証に基づく進歩性欠如)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲第6号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(甲第8号証に基づく進歩性欠如)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲第8号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(甲第11号証に基づく進歩性欠如)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲第11号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由5(甲第12号証及び甲第3号証に基づく進歩性欠如)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲第12号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)申立理由6(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし4についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
具体的理由は、以下の通り。
ア 本件特許発明1では、「素線の本数Mが1本〜6本」と特定されている。
しかしながら、発明の詳細な説明には、上記数値範囲をサポートするための実施例として、素線の本数Mが1本〜3本の例しか記載されていない。そうすると、素線の本数Mが4本〜6本の範囲おいても、本件特許発明の作用効果が奏されるのかが不明である。
イ また、本件特許発明1では、「スチールコード量Aが5.0〜8.0の範囲内」と特定されている。
しかしながら、本件特許の明細書の発明の詳細な説明において、範囲内である実施例1、7−9と範囲外である実施例6とを比較すると、耐久性は同等であるものロードノイズ性能は実施例 1、7−9の方が実施例6よりも悪化しているものが記載されているのみである。そうすると、本件特許の「ロードノイズを効果的に低減しながら、耐久性を向上する」との発明の課題を解決するための手段が反映されているとはいえない。
(7)申立理由7(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし4についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
具体的理由は、以下の通り。
本件特許発明1には、「前記スチールコードの長手方向と直交する向きの幅50mm当たりの前記スチールコードの打ち込み本数E(本/50mm)」と記載されている。
しかしながら、「スチールコード」は、ベルト層の構成要素であり、本件特許発明1は複数層のベルト層を有するものである。そうすると、スチールコードの打ち込み本数E(本/50mm)は、ベルト層1層当たりの本数を意味するのか、複数層の合計の本数を意味するのか、多義的に解釈することができる。発明の詳細な説明を参酌しても、スチールコードの打ち込み本数E(本/50mm)が、ベルト層1層当たりの本数を意味するのか、複数層の合計の本数を意味するのか記載されておらず、ベルト層が2層の例しか記載されていないことから、技術常識に照らしても、どちらを意味するのか類推することができない。
(8)申立理由8(実施可能要件
本件特許の請求項1ないし4についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
具体的理由は、以下の通り。
本件特許の明細書の発明の詳細な説明において、表1には、従来例1、比較例1と実施例2とが記載されている。これらは、いずれも1×2×0.28という同一のスチールコードの構造を有しつつ、引張弾性率が90GPaと130GPaと異なるものが示されている。
しかしながら、発明の詳細な説明には、どのようにすれば同一のスチールコードの構造で異なる引張弾性率を実施することができるのか記載されていない。そうすると、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、その物を製造するための条件等が記載されておらず、単線のスチールコードであれば、例えば、波形のパラメータにより引張弾性率を変動させることができるという本件特許出願時の技術常識に基づいたとしても、撚り線である1×2構造のスチールコードの引張弾性率をどのように変動させるのか理解することができない。
2 証拠方法
特許異議申立人は、証拠として、以下の文献等を提出する。以下、甲各号証の番号に応じて、甲第1号証を「甲1」などという。
甲第1号証:特表2015−506874号公報
甲第2号証:特開2015―10310号公報
甲第3号証:特開2013―244782号公報
甲第4号証:特開平5―345503号公報
甲第5号証:特開2012―192826号公報
甲第6号証:特開2002―154304号公報
甲第7号証:特開2001―63312号公報
甲第8号証:特開2012―171364号公報
甲第9号証:特開2018−20607号公報
甲第10号証:特開2012−76677号公報
甲第11号証:特開2005−212524号公報
甲第12号証:特開2012−201352号公報

第4 当審の判断
1 申立理由1(甲1に基づく進歩性欠如)について
(1)証拠の記載事項等
ア 甲1の記載事項等
(ア)甲1の記載事項本件特許の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1には、「軽量化ベルト構造を有するタイヤ」について、以下の記載がされている(下線については当審において付与したものである。以下、同様。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周(X)、軸(Y)および半径(Z)の3つの主方向を特定し、トレッド(3)を搭載しているクラウン(2)、2つの側壁(4)、2つのビード(5) (各側壁(4)は各ビード(5)をクラウン(2)に連結している)、各ビード(5)内に固定され且つ各側壁(4)およびクラウン(2)内に延びているカーカス補強材(7)、クラウン(2)内で円周方向(X)に延びており且つカーカス補強材(7)とトレッド(3)の間に半径方向に配置されたクラウン補強材またはベルト(10)を含み、前記ベルト(10)は、補強材(110、120、130)の少なくとも3層の重ね合せ層を含む多層複合ラミネート(10a、10b、10c)を含み、前記補強材は、各層内で一方向性であり且つ所定厚のゴム(それぞれC1、C2、C3)内に埋込まれているラジアルタイヤ(1)であって;
・トレッド面上で、ゴム(C1)の第1層(10a)は、円周方向(X)に対して−5度〜+5度の角度アルファで配向された第1列の補強材(110)を含み、第1補強材と称するこれらの補強材(110)は熱収縮性繊維材料から製造されており;
・第1層(10a)と接触し且つこの第1層の下に配置されて、ゴム(C2)の第2層(10b)は、円周方向(X)に対して正または負の10度と30度の間の所定角度ベータで配向された第2列の補強材(120)を含み、第2補強材と称するこれらの補強材(120)は金属補強材であり;
・第2層(10b)と接触し且つこの第2層の下に配置されて、ゴム(C3)の第3層(10c)は、それ自体円周方向(X)に対して10度と30度の間の角度ガンマ(角度ベータの逆)で配向された第3列の補強材(130)を含み、第3補強材と称するこれらの補強材(130)は金属補強材であり;
一方では、
・第2(120)および第3(130)補強材はスチールモノフィラメントからなり、その直径(それぞれ、D2およびD3で示す)は、0.20mmと0.50mmの間からなり;
そして、加硫状態のタイヤのベルト中央部分において、4cmの軸幅全体に亘る正中面(M)の各側で測定した下記の特徴:
・第1補強材(110)の平均エンベロープ直径D1は、0.40mmと0.70mmの間からなる;
・軸方向(Y)において測定した、第1ゴム層(C1)中の第1補強材(110)の密度d1は、70本スレッド数/dmと130本スレッド数/dmの間からなる;
・軸方向(Y)において測定した、それぞれ第2(C2)および第3(C3)ゴム層中の第2(120)および第3(130)補強材それぞれの密度d2およびd3は、120本スレッド数/dmと180本スレッド数/dmの間からなる;
・半径方向(Z)において測定した、第1補強材(110)をこれに最も近い第2補強材(120)から分離しているゴムの平均厚Ez1は、0.25mmと0.40mmの間からなる;
・半径方向(Z)において測定した、第2補強材(120)をこれに最も近い第3補強材(130)から分離しているゴムの平均厚Ez2は、0.35mmと0.60mmの間からなる;
を満たし;
さらに、他方では、下記の不等式:

(1) CT < 7.5%
(2) 0.2 < Ez1/(Ez1+D1+D2) < 0.30
(3) 0.30 < Ez2/(Ez2+D2+D3) < 0.50

(CTは、熱収縮性繊維材料から製造した第1補強材(110)の、185℃で2分後の熱収縮である)
を満たすことに特徴を有するラジアルタイヤ(1)。
【請求項2】
直径D2およびD3が、各々、0.25mmよりも大きく且つ0.40mmよりも小さい、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
直径D1が、0.45mmと0.65mmの間からなる、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項4】
密度d1が、80本スレッド数/dmと120本スレッド数/dmの間からなる、請求項1〜3のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項5】
密度d2およびd3が、各々、130本スレッド数/dmと170本スレッド数/dmの間からなる、請求項1〜4のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項6】
厚さEz1が、0.25mmと0.35mmの間からなる、請求項1〜5のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項7】
厚さEz2が、0.35mmと0.55mmの間からなる、請求項1〜6のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項8】
熱収縮CTが、3.5%未満である、請求項1〜7のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項9】
0.225 < Ez1/(Ez1+D1+D2) < 0.275である、請求項1〜8のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項10】
0.325 < Ez2/(Ez2+D2+D3) < 0.475である、請求項1〜9のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項11】
0.325 < (Ez1+Ez2)/(Ez1+Ez2+D1+D2+D3) < 0.425である、請求項1〜10のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項12】
第2(120)および第3(130)補強材を製造するスチールが、炭素鋼である、請求項1〜11のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項13】
前記熱収縮性繊維材料が、ポリエステルである、請求項1〜12のいずれか1項記載のタイヤ。」
「【技術分野】
【0001】
1. 発明の分野
本発明は、タイヤおよびそのクラウン補強材即ちベルトに関する。本発明は、さらに詳細には、特に乗用車またはバン用のタイヤのベルトにおいて使用する多層複合ラミネートに関する。」
「【0007】
タイヤの主要部を、特にタイヤベルトおよびタイヤベルトを製造するゴム層の厚さを減じることによって軽量化する目的での努力は、如何ようにしても、また、全く自然に、一定数の困難をもたらし得る物理的限界に直面している。特に、フーピング補強材によって得られるフーピング機能および作動補強材によって得られる剛性化は、もはや互いに十分には識別されず、繊維材円周スレッドと作動プライの金属コードとの直接接触のリスクは言うまでもないことが判明し得ている。勿論、そういうことは、全て、タイヤクラウンの正確な作働に対して、さらに、タイヤの性能および全体的耐久性に対して有害である。
【発明の概要】
【0008】
3. 発明の簡単な説明
今回、研究の継続中に、本出願法人は、タイヤのベルトを目に見えて軽量化し、ひいてはタイヤの転がり抵抗性を低下させると同時に上記の欠点を軽減することを可能にする特定の構造を有する多層複合ラミネートを見出した。」
「【0021】
本発明に従うこのタイヤ(1)は、円周(X)、軸(Y)および半径(Z)の3つの垂直方向を特定しており、トレッド(3)を搭載しているクラウン(2)、2つの側壁(4)、2つのビード(5) (各側壁(4)は各ビード(5)をクラウン(2)に連結している)、各ビード(5)内に固定され且つ各側壁(4)およびクラウン(2)内に延びているカーカス補強材(7)、クラウン(2)内で円周方向(X)に延びており且つカーカス補強材(7)とトレッド(3)の間に半径方向に配置されたクラウン補強材即ちベルト(10)を含む。カーカス補強材(7)は、知られている通り、“ラジアル”と称する繊維コードによって補強されている少なくとも1枚のゴムプライから構成されており、これらのコードは、実際上、互いに平行に配置されて一方のビードから他方のビードに延びて正中円周面Mと一般に80°と90°の間からなる角度をなしている;この場合、例えば、カーカス補強材(7)は、各ビード(5)内の2本のビードワイヤー(6)の周りに巻付けられており、この補強材(7)の上返し(8)は、例えば、タイヤ1の外側に向って位置しており、この場合、その車輪リム(9)上に取付けて示している。
【0022】
本発明によれば、また、後で詳述する図2の略図によれば、上記タイヤ(1)のベルト(10)は、補強材の3層の重ね合せ層(10a、10b、10c)を含む多層複合ラミネートを含み、上記各補強材は、各層内で一方向性であり且つ所定厚のゴム(それぞれC1、C2、C3)内に埋込まれており;
・トレッド面上で、ゴム(C1)の第1層は、円周方向(X)に対して−5度〜+5度の角度アルファ(α)で配向させている第1列の補強材(110)を含み、第1補強材と称するこれらの補強材(110)は熱収縮性繊維材料から製造されており;
・第1層(C1)と接触し且つその下において、ゴム(C2)の第2層は、円周方向(X)に対して正または負の10度と30度の間からなる所定角度ベータ(β)で配向させている第2列の補強材(120)を含み、第2補強材と称するこれらの補強材(120)は金属補強材であり;
・第2層(C2)と接触し且つその下において、ゴム(C3)の第3層は、それ自体円周方向(X)に対して10度と30度の間からなる角度ガンマ(γ)(角度ベータの逆)で配向させている第3列の補強材(130)を含み、第3補強材と称するこれらの補強材(130)は金属補強材である。」
「【0025】
本発明のタイヤにおいては、第2(120)および第3(130)補強材は、定義によれば、スチールモノフィラメントからなり、その直径(それぞれD2およびD3で示す)は、0.20mmと0.50mmの間からなり、好ましくは0.25mmよりも大きく0.40mmよりも小さい。さらに好ましくは、本発明のタイヤの最適な耐久性のために、特に過酷な走行条件下においては、D2およびD3は、0.28〜0.35mmの範囲からなることが好ましい。」
「【0027】
本発明のこのタイヤは、さらなる本質的な特徴として、加硫状態のタイヤのベルト中央部分において、4cmの軸幅全体(即ち、正中面Mに対して−2cmと+2cmの間)に亘っての正中面(M)の各側面上で測定した下記の特徴を有する:
・第1補強材(110)の平均エンベロープ直径D1は、0.40mmと0.70mmの間からなる;
・軸方向(Y)において測定した、第1ゴム層(C1)中の第1補強材(110)の密度d1は、70本スレッド数/dmと130本スレッド数/dm(デシメートル、即ち、ゴム層の100mm当り)の間からなる;
・軸方向(Y)において測定した、第2(C2)および第3(C3)ゴム層中の第2(120)および第3(130)補強材それぞれのd2およびd3で示す密度は、120本スレッド数/dmと180本スレッド数/dmの間からなる;
・半径方向(Z)において測定した、第1補強材(110)(第1層C1の)をこれに最も近い第2補強材(120) (第2層C2の)から分離しているゴムの平均厚Ez1は、0.25mmと0.40mmの間からなる;
・半径方向(Z)において測定した、第2補強材(120) (第2層C2の)をこれに最も近い第3補強材(130)(第3層C3の)から分離しているゴムの平均厚Ez2は、0.35mmと0.60mmの間からなる。」
「【0036】
上記の収縮特性CTを満たす任意の熱収縮性繊維材料が適している。好ましくは、この熱収縮性繊維材料は、ポリアミド、ポリエステルおよびポリケトンからなる群から選ばれる。ポリアミドのうちでは、特に、ポリアミド4‐6、6、6‐6、11または12を挙げることができる。ポリエステルのうちでは、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)、PPT(ポリプロピレンテレフタレート)、PPN(ポリプロピレンナフタレート)を挙げることができる。例えば、アラミド/ナイロン、アラミド/ポリエステル、アラミド/ポリケトンハイブリッドコードのような、2種(少なくとも2種)の異なる材料から構成されるハイブリッド補強材も、これらのハイブリッド補強材が上記推奨CT特性を満たすことを条件として使用し得る。
【0037】
1つの特に好ましい実施態様によれば、上記熱収縮性繊維材料は、ポリエステル、特にPETまたはPEN、特にPETである。さらにより好ましくは、使用するポリエステルは、HMLS(高モジュラス低収縮(High Modulus Low Shrinkage))PETである。」
「【0042】
定義によれば、第2(120)および第3(130)補強材は、スチールモノフィラメントである。好ましくは、スチールは、タイヤ用の“スチールコード”タイプのコードにおいて使用するスチールのような炭素鋼である;しかしながら、他のスチール、例えば、ステンレススチール、または他の合金を使用することも勿論可能である。
【0043】
1つの好ましい実施態様によれば、炭素鋼を使用する場合、その炭素含有量(スチールの質量%)は、0.8%〜1.2%の範囲からなる;もう1つの好ましい実施態様によれば、上記スチールの炭素含有量は、0.6%〜0.8%の範囲からなる。本発明は、特に、標準張力(NT)または高張力(HT)鋼コードタイプのスチール、その場合好ましくは2000MPaよりも高い、より好ましくは2500MPaよりも高い引張強度(Rm)を有する炭素鋼から製造した上記(第2および第3)補強材に当てはまる。また、本発明は、スチールコードタイプの超(super)高張力(SHT)鋼、超(ultra)高張力(UHT)鋼またはメガ張力(MT)鋼、その場合好ましくは3000MPaよりも高い、より好ましくは3500MPaよりも高い引張強度(Rm)を有する炭素鋼から製造した上記(第2および第3)補強材にも当てはまる。これらの補強材の破断点全体伸び(At)は、弾性伸びと塑性伸びの和であって、好ましくは2.0%よりも大きい。」
「【実施例】
【0056】
6.発明の典型的な実施態様
以下の試験により、本発明に従う多層複合ラミネートが、その特異な構造によって、タイヤの重量を、ひいては転がり抵抗性を、ケーブル加工していないスチールモノフィラメントを使用する故により低いコストでもって低めることを可能にし、このことの全てを、何よりも先ずこれらタイヤのコーナリング剛性化または全体的耐久性を損なうことなく達成していることを実証する。
【0057】
これらの比較試験は、通常の方法で製造し、多層複合ラミネートの構造を除いては全ての点で同一であるサイズ205/55 R16の乗用車タイヤにおいて実施した。
【0058】
A)試験するタイヤ
図2の略図に従うこれらの実施例の本発明に従うタイヤにおいては、補強材(110)は、ポリアミド66製の合撚糸である;各合撚糸は、250回折返し/メートルで一緒に撚っており(直接ケーブル加工装置において)、ほぼ0.66mmに等しい直径D1を有する140texの2本の紡糸からなる;これらの合撚糸のCTはほぼ7%に等しく、これら合撚糸の収縮力Fcはほぼ28Nに等しい。
【0059】
上記繊維補強材(110)を被覆する第1のゴム層(C1)は、繊維補強材のカレンダー加工においては一般的であって、天然ゴム、カーボンブラック、加硫系および通常の添加剤をベースとするゴム組成物である;上記ポリアミド合撚糸とゴム層間の接着は、既知の方法で、例えば、“RFL”(レゾルシノール‐ホルムアルデヒドラテックス)タイプの単純な繊維接着剤を使用して確保する。
この第1層(C1)を製造するには、上記織布用合撚糸(110)を、各々ほぼ0.25mmの厚さを有する生(未加硫)状態のゴム組成物の2枚の層間で、当業者にとって周知の方法でカレンダー加工した。
【0060】
金属補強材(120)および(130)は、3650MPa程度の強度Rm (破断力258N)、2.3%の全体伸びAtおよび0.30mmの直径(D2、D3)を有するUHTタイプのマイクロアロイ型炭素鋼モノフィラメント(0.9%の炭素および0.2%のCr)である。
これらのスチールモノフィラメント(120、130)を被覆するゴムの第2(C2)および第3(C3)層は、金属タイヤベルトプライのカレンダー加工においては一般的であって、天然ゴム、カーボンブラック、加硫系、および接着促進剤としてのコバルト塩のような通常の添加剤を典型的にベースとする。
これらの2つの層(C2、C3)を製造するには、モノフィラメント(130)を、各々ほぼ0.32mmの厚さを有する生(未加硫)状態のゴム組成物の2枚の層間で、当業者にとって周知の方法でカレンダー加工した。
【0061】
上記第1層(C1)中の上記織布用合撚糸(110)の密度d1は、軸方向において測定して、ほぼ100本スレッド数/dmに等しく、第2(120)および第3(130)スチールモノフィラメントの密度(それぞれ、d2およびd3)はほぼ160本スレッド数/dmに等しい。
従って、正中面Mの各側面上の−2cmと+2cmの間に軸方向に延びる範囲内においては、ほぼ40本(即ち、各側面上に20本)の織布用合撚糸(110)並びにほぼ64本(即ち、各側面上に32本)の第2(120)および第3(130)のスチールモノフィラメントが存在する。
【0062】
これらの織布用合撚糸(110)をスチールモノフィラメント(120)から隔てているゴムの測定平均厚さEz1は、ほぼ0.31mmであ;一方、スチールモノフィラメント(120)を他のスチールモノフィラメント(130)から隔てているゴムの平均厚さEz2は、0.45mmの辺りであった。本発明に従うラミネートの全体平均厚さは、半径方向において測定して、ほぼ2.3mmであった。」
「【図1】

【図2】



(イ)甲1に記載された発明
甲1の【請求項1】及び【請求項13】の特に下線部から、以下の発明が記載されているといえる。
「円周(X)、軸(Y)および半径(Z)の3つの主方向を特定し、トレッド(3)を搭載しているクラウン(2)、2つの側壁(4)、2つのビード(5) (各側壁(4)は各ビード(5)をクラウン(2)に連結している)、各ビード(5)内に固定され且つ各側壁(4)およびクラウン(2)内に延びているカーカス補強材(7)、クラウン(2)内で円周方向(X)に延びており且つカーカス補強材(7)とトレッド(3)の間に半径方向に配置されたクラウン補強材またはベルト(10)を含み、前記ベルト(10)は、補強材(110、120、130)の少なくとも3層の重ね合せ層を含む多層複合ラミネート(10a、10b、10c)を含み、前記補強材は、各層内で一方向性であり且つ所定厚のゴム(それぞれC1、C2、C3)内に埋込まれているラジアルタイヤ(1)であって;
・トレッド面上で、ゴム(C1)の第1層(10a)は、円周方向(X)に対して−5度〜+5度の角度アルファで配向された第1列の補強材(110)を含み、第1補強材と称するこれらの補強材(110)は熱収縮性繊維材料から製造されており;
・第1層(10a)と接触し且つこの第1層の下に配置されて、ゴム(C2)の第2層(10b)は、円周方向(X)に対して正または負の10度と30度の間の所定角度ベータで配向された第2列の補強材(120)を含み、第2補強材と称するこれらの補強材(120)は金属補強材であり;
・第2層(10b)と接触し且つこの第2層の下に配置されて、ゴム(C3)の第3層(10c)は、それ自体円周方向(X)に対して10度と30度の間の角度ガンマ(角度ベータの逆)で配向された第3列の補強材(130)を含み、第3補強材と称するこれらの補強材(130)は金属補強材であり;
一方では、
・第2(120)および第3(130)補強材はスチールモノフィラメントからなり、その直径(それぞれ、D2およびD3で示す)は、0.20mmと0.50mmの間からなり;
・軸方向(Y)において測定した、それぞれ第2(C2)および第3(C3)ゴム層中の第2(120)および第3(130)補強材それぞれの密度d2およびd3は、120本スレッド数/dmと180本スレッド数/dmの間からなり;
前記熱収縮性繊維材料が、ポリエステルである
ラジアルタイヤ(1)。」(以下、「甲1発明」という。)

イ 甲2の記載事項
本件特許の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2には、「タイヤ用コード、タイヤ用補強材及び空気入りタイヤ」について、以下の記載がされている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の素線を撚り合わせてなるタイヤ用コードであって、
該素線のうち少なくとも1本の素線が、金属性の制振材料からなる制振素線であることを特徴とする、タイヤ用コード。
【請求項2】
前記2本の素線が共に前記制振素線であることを特徴とする、請求項1に記載のタイヤ用コード。
【請求項3】
前記制振素線のヤング率が50GPa〜500GPaであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のタイヤ用コード。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、騒音性を低減させつつ、軽量化した空気入りタイヤを提供することを可能にするタイヤ用コード及びタイヤ用補強材、並びに騒音性を低減させつつ、軽量化した空気入りタイヤに関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の空気入りタイヤでは、振動減衰性が未だに十分ではなく、そのため、タイヤ転動時に発生する騒音を十分に低減することは困難であった。また、タイヤの軽量化も未だに十分ではなかった。
そのため、空気入りタイヤについて、軽量化と騒音性とを両立することは困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、タイヤ転動時に発生する騒音を十分に低減させつつ、タイヤ重量を低減させることを可能にするタイヤ用コード及びタイヤ用補強材、並びに空気入りタイヤを提供することを目的とする。」
「【0010】
更に、本発明のタイヤ用コードでは、前記制振素線のヤング率が50GPa〜500GPaであることが好ましい。ヤング率を上記範囲とすれば、上記騒音低減の効果を十分に得つつ、タイヤにかかる入力に対する耐久性を十分にすることができる。
なお、ヤング率は、JIS L1017に従って、試験コードに対して引張荷重を与え、荷重−伸長曲線を描いたときの、初期傾きから算出した値を指す。」
「【0021】
(タイヤ用コード)
図1に、本発明の一例のタイヤ用コード1を示す。本発明の一例のタイヤ用コード1は、一般的な乗用車用タイヤ、重荷重車用タイヤ、二輪車用タイヤ等に適用することができるタイヤ用コードである。そして、本発明の一例のタイヤ用コード1は、2本の素線2(2a、2b)を撚り合わせてなる(1×2)構造のタイヤ用コードであり、少なくとも1本の素線2a(図1では2本の素線2a、2b)が金属性の制振材料からなる制振素線であることを必要とする。」
「【0039】
そして、この空気入りタイヤ100は、トレッド101において、本発明の一例のタイヤ用補強材10を用いた2層のベルト105b、105cを、カーカス104のタイヤ径方向外方に備える。ここで、本発明のタイヤ用コードの延在方向がタイヤ周方向に、タイヤ用補強材10の幅方向がタイヤ軸線方向に向くように設けられ、この空気入りタイヤ100のベルト105が形成される。
また、この空気入りタイヤ100は、サイドウォール部102において、本発明の一例のタイヤ用補強材10を用いた2層のショルダー補強層106(106a、106b)を、カーカス104のタイヤ軸線方向外方の二箇所に備える(図3参照)。ここで、例えば、本発明のタイヤ用コードの延在方向がタイヤ径方向に向くように設けられ、この空気入りタイヤ100のサイドウォール部102が形成される。」
「【0048】
【表1】


「【符号の説明】
【0050】
1:タイヤ用コード、2:素線、2a:素線、2b:素線、10:タイヤ用補強材、11:ゴム、12:コード層、100:空気入りタイヤ、101:トレッド、102:サイドウォール部、103:ビード部、104:カーカス、105:ベルト、105a:ベルト層、105b:ベルト層、105c:ベルト層、106:ショルダー補強層、106a:ショルダー補強層、106b:ショルダー補強層
【図1】

【図3】



ウ 甲3の記載事項
本件特許の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3には、「乗用車用空気入りラジアルタイヤ」について、以下の記載がされている。
「【請求項1】
クラウン領域のカーカス層のタイヤ径方向外側に、タイヤ周方向に対して15〜45°の角度でスチールコードが埋設されたベルトプライを互いに交差する向きに2層重ね合わせた主ベルト層を有する乗用車用空気入りラジアルタイヤにおいて、ベルト補助層として、タイヤ周方向に対して80〜90°の角度でスチールコードを埋設したプライを、幅狭の主ベルト層の幅方向両端部から、それぞれタイヤ赤道側に30mm離間した位置にその一部がかかるようにカーカス層と内側主ベルト層間に配置するとともに、該ベルト補助層は、幅が30mm以上で、かつ該ベルト補助層の初期剛性値が前記主ベルト層の初期剛性値よりも大きいものであることを特徴とする乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記ベルト補助層は、その初期剛性値が前記主ベルト層の初期剛性値の1.03倍以上1.5倍以下であることを特徴とする請求項1記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記主ベルト層を構成するスチールコードが、スチールモノフィラメントであることを特徴とする請求項1または2記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記主ベルトを構成するスチールコードが、該スチールモノフィラメントの2〜5本を一組とする束状ワイヤとしてベルト層中に配設されていることを特徴とする請求項3記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項5】
前記ベルト補助補強層を構成するスチールコードが、2本以上のスチールワイヤを撚り合わせたスチールコードであることを特徴とする請求項1または2記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項6】
前記主ベルトを構成するスチールコードの断面積と50mm幅あたりの該コード打ち込み本数の積が4.4mm2以上、6.8mm2以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項7】
前記主ベルトを構成するスチールコードの断面積と50mm幅あたりの該コード打ち込み本数の積が4.4mm2以上、6.1mm2以下であり、強度が3200Pa以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項8】
前記主ベルトを構成するスチールコードの断面積と50mm幅あたりの該コード打ち込み本数の積が4.4mm2以上、5.5mm2以下であり、強度が3500Pa以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。」
「【0001】
本発明は、乗用車用空気入りラジアルタイヤに関する。
【0002】
更に詳しくは、操縦安定性を低下させることなく高度に維持できるとともに、転がり抵抗を顕著に低減することができ、それにより低燃費化を実現する、環境負荷低減に優れた効果を有する乗用車用空気入りラジアルタイヤに関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の目的は、上述したような点に鑑み、転がり抵抗の低減化を図ってベルトコードを削減するときであっても、操縦安定性を高度に維持できる乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供することにある。」
「【0016】
図1、図2は、いずれも本発明の乗用車用空気入りラジアルタイヤを示したものであり、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部、CLはタイヤ赤道である。左右一対のビード部3、3間には一層のカーカス層4が装架され、カーカス層4の端部はビードコア5の周りにタイヤ内側から外側に折り返されている。ビードコア5の外周側にはゴムからなる断面が三角形状のビードフィラー6が配置されている。クラウン領域のカーカス層4のタイヤ径方向外側には、2層の主ベルト層10(11、12)がタイヤ全周にわたって配置されている。この主ベルト層10(11、12)は、スチールコードからなるベルトコード11a、12aをゴム中に埋設して構成されている。該ベルトコード11a、12aは、タイヤ周方向に対して低角度で傾斜しており、本発明では、タイヤ周方向に対して15〜45°の角度でスチールコードが埋設されたベルトプライを互いに交差する向きに2層重ね合わせて主ベルト10を構成している。」
「【0021】
ベルト補助層の初期剛性値Xと、主ベルト層の初期剛性値Yは、それぞれ以下の式で定義される値である。
・ベルト補助層の初期剛性値X=Ex×Sx×Nx
ここで、Ex:ベルト補助層コードの初期弾性率(5N〜50N負荷時伸びより算出)
Sx:ベルト補助層コードの素線断面積の和
Nx:50mm幅あたりの補助層コード打ち込み本数
・主ベルト層の初期剛性値Y=Ey×Sy×Ny
ここで、Ey:主ベルトコードの初期弾性率(5N〜50N負荷時伸びより算出)
Sy:主ベルトコードの素線断面積の和
Ny:主50mm幅あたりの主ベルトコード打ち込み本数
なお、主ベルト層が2層であるとき、各主ベルト層ごとの初期剛性値Yを求めて、平均値をとる。」
「【0024】
一方、また、主ベルト層11、12を構成するスチールコード11a、12aは、スチールモノフィラメントであることが好ましい。スチールモノフィラメントには、スパイラル形状や平面波形状の癖付けを施すことができるが、各種の波癖付けを施していない真直なモノフィラメントを用いることが好ましい。真直なモノフィラメントを用いることで主ベルト層をより薄くすることが可能となり、転がり抵抗の低減効果がより大きく得られる。この場合の主ベルト層の断面モデル図を図4(a)に例示した。
【0025】
一方、主ベルト層11、12を構成するスチールコード11a、12aが、スチールモノフィラメントの2〜5本を一組の束とした束単位でベルト層中に配設して形成されることも好ましい。これは、束状ワイヤとしてベルト層中に配設することにより、コード間のフレッティングによる振動減衰効果により、乗り心地に劣りがちな剛直な単線ベルト層の場合の乗り心地を改善することができる。また、ベルト層内のワイヤ間隔(束と束の間隔)が大きくなり、接地変形における層内のゴムのせん断歪が緩和されることで転がり抵抗低減の観点からより好ましい。この場合の、スチールモノフィラメントの3本で1束の単位でコードを構成した主ベルト層の断面モデル図を図4(b)に例示した。」
「【表3】


「【符号の説明】
【0052】
1:トレッド部
2:サイドウォール部
3:ビード部
4:カーカス層
5:ビードコア
6:ビードフィラー
10、11、12:主ベルト層
11a、12a:主ベルトコード
11b:幅狭の主ベルト層の幅方向両端部
20:ベルト補助層
21:ベルト補助層の分割片
P:幅狭の主ベルト層11の幅方向両端部11bから、それぞれタイヤ赤道CL側に30mm離間した位置
【図2】



エ 甲4の記載事項
本件特許の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4には、「空気入りラジアルタイヤ」について、以下の記載がされている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 トレッドのカーカス層外周側に配置したベルト層をスチールコードから構成した空気入りラジアルタイヤにおいて、前記スチールコードを、炭素含有量が0.90〜1.10重量%、クロム含有量が0.1重量%以上で、少なくとも引張強度が320kgf/mm2以上であり、かつ直径dが0.28〜0.60mmの単線ワイヤに、その長手方向に沿って二次元の波形を型付けした構成にすると共に、前記単線ワイヤの直径d及び波形の高さh、波形のピッチ長Pから特定されるパラメーターF=(h−d)/Pを
0.01≦F≦0.06
に設定し、かつ該スチールコードを、その波形の二次元面がトレッド面に平行になるように配置した空気入りラジアルタイヤ。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、スチールコードからなるベルト層を使用しながら軽量化した空気入りラジアルタイヤに関する。」
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、単線ワイヤコードを使用することによって、撚り線コード使いに比べて軽量化しながら、ベルト耐久性等のタイヤ性能を撚り線コード使い並み、又はそれ以上にする空気入りラジアルタイヤを提供することにある。」
「【0008】以下、図面を参照して本発明の構成について具体的に説明する。図1において、1はトレッド部、2はカーカス層で、その両端部は左右一対のビードコア5の周りにタイヤ内側から外側に折り返され巻き上げられている。このカーカス層2のタイヤ周方向E,E’に対するコード角度は実質的に90度になっている。トレッド部1のカーカス層2の外周側には、タイヤ周方向E,E’に対するコード角度が5〜40°で、かつ互いに交差するスチールコード40で補強された2層の内側ベルト層4と外側ベルト層4’がそれぞれタイヤ全周にわたって配置されている。トレッド部1の表面には、タイヤ周方向E,E’に延びる主溝6と、これに対して交差する副溝7とが設けられている。
【0009】本発明において、上記ベルト層4,4’を補強するスチールコード40は、図3のように、二次元の波形を型付した単線ワイヤから構成され、その単線ワイヤは、少なくとも引張強度が320kgf/mm2以上、直径dを0.28mm〜0.60mmとすることにより、撚り線コードと同等以上の十分な補強効果を発揮させることが可能になる。このような高引張強度を可能にするには、ワイヤの炭素含有量が0.90〜1.10重量%で、クロム含有量が0.1重量%以上の高炭素鋼から製作する。炭素とクロムの含有量を上記範囲にすることにより、単線ワイヤの引張強度のみならず、靭性と耐疲労性を向上することができる。クロム含有量の上限は、特に限定されるものではないが、余りに多くなりすぎるとワイヤ製作時の熱処理が困難になり、製作コストが高くなるので、通常は0.4重量%以下にするのがよい。」
「【0015】一方、図4は、直径=0.30mm、波形のピッチP=0.4mmの単線ワイヤが有する二次元の波形のパラメーターFと引張弾性率との関係を示したものである。この図4から、パラメーターFを大きくするほど引張弾性率が低下していくことがわかる。単線ワイヤが有すべき引張弾性率としては、ベルト層に基づくコーナリングパワーとの関係から、少なくとも約1.3×104kgf/mm2にする必要があるのでパラメーターFの上限は0.06であることがわかる。」
「【符号の説明】
1 トレッド部 4 内側ベルト層
4’ 外側(最外側)ベルト層 6 主溝
40 スチールコード(単線ワイヤ)d ワイヤ直径
h 波形の高さ P 波形のピッチ長
【図1】



(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「トレッド(3)を搭載しているクラウン(2)」、「側壁(4)」、「ビード(5)」、「カーカス補強材(7)」、「タイヤ(1)」は、それぞれ、本件特許発明1の「トレッド部」、「サイドウォール部」、「ビード部」、「カーカス層」、「空気入りラジアルタイヤ」に相当する。また、甲1発明における「熱収縮性繊維材料」である「ポリエステル」から製造される「第1補強材(110)」、「スチールモノフィラメント」からなる「第2補強材(120)」及び「第3補強材(130)」、「第1層(10a)」、「第2層(10b)」及び「第3層(10c)」は、それぞれ、本件特許発明1の「有機繊維コード」、「スチールコード」、「ベルトカバー層」、「ベルト層」に相当する。
また、甲1発明における「スチールモノフィラメント」は1×1構造を意味するから、甲1発明は、本件特許発明1の「M本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本」である事項を備える。また、甲1発明の「第3補強材(130)」は、10度と30度の間の角度ガンマ(「第2補強材(120)」の角度ベータの逆)で配向されていることから、甲1発明は、本件特許発明1の「前記スチールコードは前記ベルト層の層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して傾斜して配列されている」事項を備える。
そして、甲1発明は、スチールモノフィラメントの断面積(mm2)が、0.12×π≒0.031と0.252×π≒O.196の間からなり、幅50mm当たりのスチールモノフィラメントの打ち込み本数E(本/50mm)が、60と90の間にあることから、スチールコード量Aが0.031×60≒1.9〜0.196×90≒17.6となる。
してみると、両発明は、以下の点で一致する。
<一致点>
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルトカバー層とを有する空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ベルト層は、M本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本であり、前記スチールコードは前記ベルト層の層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して傾斜して配列されている空気入りラジアルタイヤ。

そして、両者は、以下の点で相違或いは一応相違する。
<相違点1−1>
スチールコードの物性について、本件特許発明1は「5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」と特定されているのに対し、甲1発明はそのような特定がされていない点。
<相違点1−2>
スチールコードの断面積S(mm2 )と前記スチールコードの長手方向と直交する向きの幅50mm当たりの前記スチールコードの打ち込み本数E(本/50mm)の積として算出されるスチールコード量A(以下、「スチールコード量A」という。)について、本件特許発明1は「5.0〜8.0の範囲内」であるのに対し、甲1発明は「1.9〜17.6」である点。
<相違点1−3>
有機繊維コードの物性について、本件特許発明1は「2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である」と特定されているのに対し、甲1発明はそのような特定がされていない点。
<相違点1―4>
ベルトカバー層について、本件特許発明1は「有機繊維コードはタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回されている」と特定されているのに対し、甲1発明はそのような特定がされていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
<相違点1−1>について
甲2には、タイヤ転動時に発生する騒音を十分に低減させつつ、タイヤ重量を低減させることを可能にするタイヤ用コード及びタイヤ用補強材、並びに空気入りタイヤを提供することを目的(段落【0007】)とした、ヤング率が50GPa〜500GPaの素線を撚り合わせてなる(1×2)構造のタイヤコード(【請求項3】)について記載されている。
甲3には、転がり抵抗の低減化を図ってベルトコードを削減するときであっても、操縦安定性を高度に維持できる乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供することを目的(段落【0009】)とした技術が記載されているところ、その実施例10は、【表3】より、初期剛性値Y=1111kN/50mm幅、Sy×Ny=5.55mm2/50mm幅であり、
主ベルト層の初期剛性値Y=Ey×Sy×Ny
ここで、Ey:主ベルトコードの初期弾性率(5N〜50N負荷時伸びより算出)
Sy:主ベルトコードの素線断面積の和
Ny:主50mm幅あたりの主ベルトコード打ち込み本数 の関係式から、
Ey:主ベルトコードの初期弾性率(5N〜50N負荷時伸びより算出)=1111/5.55=200GPaであるものが記載されている。
また、甲4には、単線ワイヤコードを使用することによって、撚り線コード使いに比べて軽量化しながら、ベルト耐久性等のタイヤ性能を撚り線コード使い並み、又はそれ以上にする空気入りラジアルタイヤを提供することを目的(段落【0005】)とした技術が記載されているところ、段落【0015】に、単線ワイヤの引っ張り弾性率が少なくとも約1.3×104kgf/mm2、すなわち約127GPa以上であるものが記載されている。
しかしながら、甲2ないし4には、ベルトカバー層を設けることはおろか、ベルトカバー層が「2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である」有機繊維を用いた場合に、ベルト層のスチールコードとして、「5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」のものを用いることでベルト層とベルトカバー層との間のセパレーションを防止する技術的事項について記載も示唆もされておらず、その他の証拠を見ても、当該技術的事項について記載や示唆もない。
そして、甲1発明の目的は、「タイヤのベルトを目に見えて軽量化し、ひいてはタイヤの転がり抵抗性を低下させると同時に上記の欠点(タイヤの性能および全体的耐久性)を軽減することを可能にする」こと(甲1の段落【0007】、【0008】)であって、ロードノイズを効果的に低減しながら、耐久性を向上することではない。
そうすると、甲1発明におけるスチールコードとして、「5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」の物性を有するものを採用する動機付けは、甲1及びその他の証拠にはなく、甲1及びその他の証拠を参酌したとしても、<相違点1−1>に係る発明特定事項を当業者が容易になし得ることはできない。
そして、本件特許発明1は、「2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である有機繊維コード」で構成されるベルトカバー層と、「M本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本であり、前記スチールコードの5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」であるベルト層を組み合わせることにより、ロードノイズ性能を向上しながら、耐久性を向上することができるという効果(本件特許明細書段落【0021】)を奏するものであり、仮に、「空気入りラジアルタイヤの技術分野において、引張弾性率が130GPa以上のスチールコードでベルト層を構成すること」が当業者の周知技術であったとしても、上記効果は、甲1発明及び当該周知技術、さらにその他の証拠を参酌しても予測し得るものとはいえない。
よって、本件特許発明1は、その余の相違点について検討するまでもなく、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は請求項1を直接あるいは間接的に引用する発明であり、本件特許発明1の特定事項をすべて有するものである。
よって、上記アのとおり、本件特許発明2ないし4も、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記<相違点1−1>について、「空気入りラジアルタイヤの技術分野において、引張弾性率(ヤング率又は初期弾性率)が130GPa以上のスチールコードでベルト層を構成することは、当業者にとって周知技術(例えば、甲2、甲3及び甲4を参照。)に過ぎない。また、引張弾性率を得るための条件として、5N〜50N負荷時に基づき求めることは、例えば、甲3証にも記載されていることであり、当業者が適宜決定し得る設計事項に過ぎない。そして、甲1発明には、ベルト層を構成するスチールコードとして、超(super)高張力(SHT)鋼、超(ultra)高張力(UHT)鋼またはメガ張力(MT)鋼が記載されている(甲1の段落0043参照。)ことから、甲1発明にこれらの鋼材の引張弾性率の範囲を含む上記周知技術(甲2ないし4)を適用して、上記相違点1に係る技術事項を想到することは、当業者であれば容易になし得たものである。」と主張している。
上記主張について検討するに、空気入りラジアルタイヤの技術分野において、ベルト層に用いるスチールコードとして、引張弾性率(ヤング率又は初期弾性率)が130GPa以上の素材が公知ないしは周知の物であったとしても、上記イで示したように、甲2ないし4には、「ベルトカバー層が2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である有機繊維を用いた場合に、ベルト層のスチールコードとして、5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上のものを用いることにより、ベルト層とベルトカバー層との間のセパレーションを防止する」技術については記載も示唆もされておらず、その他の証拠や当業者の技術常識を参酌しても、当該技術が当業者の周知技術であったとも言えない。
そして、上記アで示したように、甲1発明におけるスチールコードとして、「5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」の物性を有するものを採用する動機付けは、甲1ないしその他の証拠にはないと言え、甲1及びその他の証拠を参酌したとしても、<相違点1−1>に係る発明特定事項を当業者が容易になし得ることはできない。
よって、特許異議申立人の上記主張を首肯することができない。

(3)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、申立理由1によっては取り消すことはできない。

2 申立理由2(甲6に基づく進歩性欠如)について
(1)証拠の記載事項等
ア 甲6の記載事項等
(ア)甲6の記載事項
本件特許の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲6には、「空気入りラジアルタイヤ」について、以下の記載がされている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】トレッド部からサイドウォール部をへてビード部のビードコアに至るカーカスと、トレッド部の内方かつカーカスの外側に配されるベルト層と、このベルト層の外側に配されるバンド層とを具えた空気入りラジアルタイヤであって、
前記バンド層は、バンドコードをタイヤ周方向に対して5度以下の角度で配列した1枚以上のバンドプライからなり、
前記バンドコードは、コード太さDが500〜3200dtexの片撚り構造の有機繊維コードからなるとともに、前記コード太さの平方根√Dに10cm当たりのコード撚り数Nを掛けた撚り係数T(=N・√D)を150〜750、かつ2.7g/dtexの荷重を負荷したときの伸び率を4.0〜8.0%とするとともに、
内圧を充填しない無負荷状態のタイヤにおいてバンドコード1本にかかる力Lsを4〜25N、かつバンド層のコードと直角方向の層巾1cm当たりのコード打ち込み本数Mを5〜25本、しかも前記力Lsとコード打ち込み本数Mとの積(Ls×M)であるバンド締め付け指数LIを50〜250としたことを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、バンド層の改良に係わり、低コスト化や軽量化を達成しながら、高速走行時の操縦安定性、高速耐久性、およびノイズ性能を向上しうる空気入りラジアルタイヤに関する。」
「【0006】本発明は、この片撚り構造のバンドコードの改良に係わり、撚り係数、伸び率、バンドコードの残留張力、コード打ち込み本数などを適宜に設定することにより、バンド層の締め付け力を高めうるとの見地に基づきなされたもであり、低コスト化や軽量化を達成しながら、高速走行時の操縦安定性、高速耐久性、およびノイズ性能を向上させた空気入りラジアルタイヤの提供を目的としている。」
「【0010】図においてタイヤ1は、トレッド部2と、その両側からタイヤ半径方向内方にのびる一対のサイドウォール部3と、各サイドウォール部3の内方端に位置するビード部4とを具える。又タイヤ1には、前記ビード部4、4間を跨るトロイド状のカーカス6と、トレッド部2の内方かつ前記カーカス6の外側に配されるベルト層7と、このベルト層7のさらに外側に配されるバンド層9とを設けている。
・・・
【0013】また前記ベルト層7は、高弾性のベルトコードをタイヤ周方向に対して10゜〜35゜の角度で傾斜配列した2枚以上、本例では2枚のベルトプライ7A、7Bから形成される。各ベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードがプライ間相互で交差するように傾斜の向きを違えて重置され、これによるコードのトライアングル構造によってベルト剛性を高め、トレッド部2の略全巾を補強する。ベルトコードとしては、スチールコード特に単線コードが好適に使用されるが、スチールに近い強度を有する例えば芳香族ポリアミド繊維、芳香族ポリエステル繊維等の高弾性繊維コードも要求等に応じて採用しうる。
【0014】次に、前記バンド層9は、バンドコード10をタイヤ周方向に対して5度以下の角度、通常は実質的に0゜の角度で配列した1層以上のバンドプライ11からなり、前記ベルト層7の少なくとも両端部7Eを覆うことにより、この両端部7Eのリフティング(遠心力によるせり上がり)を抑え、高速耐久性を高める。
・・・
【0016】前記バンドプライ11は、バンドコード10を引き揃えた巾狭(通常2〜10cm巾)のゴム引きストリップを螺旋状に複数回巻回することにより、或いは、バンドコード10を引き揃えた巾広のゴム引きシートをタイヤ周方向に一周巻きすることにより形成するが、タイヤのユニフォーミティ、タガ効果、高速耐久性等の観点からは、前記螺旋巻きが好ましい。
【0017】そして、本願では、前記バンドコード10に、片撚り構造の有機繊維コードを採用するとともに、この有機繊維コードのコード太さD(直径とは異なる)を500〜3200dtex、前記コード太さの平方根√Dに10cm当たりのコード撚り数Nを掛けた撚り係数T(=N・√D)を150〜750、かつ2.7g/dtexの荷重を負荷したときの伸び率を4.0〜8.0%としたことを第1の特徴としている。・・・
【0022】又前記バンコード10は、2.7g/dtexの荷重を負荷したときの伸び率を、従来よりも小さい4.0〜8.0%の範囲に減じ、その締め付け力を高めている。この伸び率は、JISL1017の7.7.1項の「標準時試験」に準じて測定した一定荷重(2.7g/dtex)での伸び率である。該伸び率が4.0%より小さいと、締め付け力の点では有利であるが、伸びが小さすぎてタイヤの動きに追従できなくなり、又8.0%をこえると、締め付け力が不十分となり、高速走行時の操縦安定性、及び高速耐久性の向上が望めなくなる。従って前記伸び率は、4.5〜7.0%の範囲が好ましい。・・・
【0031】又バンドコード10としては、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の低弾性率の有機繊維、特にナイロン繊維コードが主に用いられるが、要求によりポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、芳香族ポリアミド等の高弾性率の有機繊維コードも適宜使用できる。」
「【0035】
【実施例】図1の構造をなすタイヤサイズ195/65R15のタイヤを、表1の仕様により試作するとともに、各試供タイヤの経済性、タイヤ重量、騒音性、操縦安定性、及び高速耐久性をテストし互いに比較した。なお表1以外は、以下のとうりで、同仕様である。
・カーカス
プライ数−−2枚
コード−−ポリエステル(1100dtex/2)
コード角度−−+88度/−88度
・ベルト層
プライ数−−2枚
コード−−スチール(1×1×0.42)
コード角度−−+20度/−20度
【0036】(1) 経済性
使用したバンドコードの製造コストを比較し、比較例1と同等の場合は×、低コストの場合は○とした。
【0037】(2) タイヤ重量
タイヤ1本当たりの重量を測定し、比較例1との重量差を示す、マイナス(−)表示は比較例より軽量である。
【0038】(3) 騒音性
試供タイヤをリム(6J×15)、内圧(200kPa)で、乗用車(2000cc)に装着し、スムース路面を速度80km/hにて走行させ、運転席の耳元に設置したマイクロフォンにて200Hzでの騒音レベルを測定した。
【0039】(3) 高速操縦安定性
前記と同1条件の車両を用い、ドライアスファルト路面のテストコースを高速走行し、その時のハンドル応答性、剛性感、グリップ等に関する特性をドライバーの官能評価により比較例1を100とする指数で表示している。指数の大きい方が良好である。
【0040】(4) 高速耐久性
ドラム試験機を用い、周辺温度25±5゜Cに制御し、試供タイヤをリム(6J×15)、内圧(280kPa)、荷重(JATMAで規定する空気内圧条件に対応する荷重(492kgf)の80%)のもとで、走行速度を170km/hから、10分毎に10km/hずつ(200km/hからは20分毎)段階的に上昇させ、故障が発生するまで走行させる。そして故障が発生するまでの走行距離を、従来例1を100とする指数でで表示している。指数が大きいほど高速耐久性に優れている。
【0041】
【表1】

【0042】実施例のタイヤは、低コスト化や軽量化を達成しながら、高速操縦安定性、高速耐久性、及びノイズ性能を向上しうるのが確認できる。」
「【0043】
【発明の効果】叙上の如く本発明は、バンドコードに片撚り構造を採用する一方、その撚り係数、伸び率、バンド締め付け指数等を、所定範囲に規制しているため、低コスト化や軽量化を達成しながら、バンド層の締め付け力の増加が図れ、高速走行時の操縦安定性、高速耐久性、さらにはノイズ性能を向上することができる。」
「【図1】本発明の一実施例のタイヤの断面図である。
【符号の説明】
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 ビード部
5 ビードコア
6 カーカス
7 ベルト層
9 バンド層
10 バンドコード
11、11A、11B バンドプライ
【図1】



(イ)甲6に記載された発明
甲6の実施例1を、【請求項1】、段落【0010】の記載にならって整理すると、以下の発明が記載されているといえる。
「トレッド部2と、その両側からタイヤ半径方向内方にのびる一対のサイドウォール部3と、各サイドウォール部3の内方端に位置するビード部4とを具え、トレッド部からサイドウォール部をへてビード部のビードコアに至るカーカスと、トレッド部の内方かつカーカスの外側に配されるベルト層と、このベルト層の外側に配されるバンド層とを具えた空気入りラジアルタイヤであって、
前記カーカスが
プライ数−−2枚
コード−−ポリエステル(1100dtex/2)
コード角度−−+88度/−88度であり、
前記ベルト層が
プライ数−−2枚
コード−−スチール(1×1×0.42)
コード角度−−+20度/−20度
であり、
前記バンド層は、バンドコードをタイヤ周方向に対して5度以下の角度で配列した1枚以上のバンドプライからなり、
前記バンドコードは、コード太さDが1400dtexの片撚り構造の有機繊維(ナイロン6,6)コードからなるとともに、前記コード太さの平方根√Dに10cm当たりのコード撚り数Nを掛けた撚り係数T(=N・√D)を748、かつ2.7g/dtexの荷重を負荷したときの伸び率を6.1%とするとともに、
内圧を充填しない無負荷状態のタイヤにおいてバンドコード1本にかかる力Lsを5.6N、かつバンド層のコードと直角方向の層巾1cm当たりのコード打ち込み本数Mを9.8本、しかも前記力Lsとコード打ち込み本数Mとの積(Ls×M)であるバンド締め付け指数LIを60とする空気入りラジアルタイヤ。」(以下、「甲6発明」という。)

イ 甲2ないし4の記載事項等
上記1(1)イないしエに記載のとおりである。

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲6発明とを対比する。
甲6発明の「バンド層」は、本件特許発明1の「ベルトカバー層」に相当する。また、甲6発明の「ベルト層」は、コードがスチールで1×1構造であるから、本件特許発明1の「ベルト層は、M本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本」である事項を備えると共に、コード角度が+20度/−20度であることから、本件特許発明1の「前記スチールコードは前記ベルト層の層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して傾斜して配列されている」事項を備えるものである。
してみると、両発明は、以下の点で一致する。
<一致点>
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルトカバー層とを有する空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ベルト層は、M本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本であり、前記スチールコードは前記ベルト層の層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して傾斜して配列されており、
前記ベルトカバー層は、有機繊維コードで構成されている空気入りラジアルタイヤ。

そして、両者は、以下の点で相違或いは一応相違する。
<相違点6−1>
スチールコードの物性について、本件特許発明1は「5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」と特定されているのに対し、甲6発明はそのような特定がされていない点。
<相違点6−2>
スチールコードの断面積S(mm2)と前記スチールコードの長手方向と直交する向きの幅50mm当たりの前記スチールコードの打ち込み本数E(本/50mm)の積として算出されるスチールコード量Aについて、本件特許発明1は「5.0〜8.0の範囲内」であるのに対し、甲6発明はそのような特定がされていない点。
<相違点6−3>
有機繊維コードの物性について、本件特許発明1は「2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%」と特定されているのに対し、甲6発明は「2.7g/dtexの荷重を負荷したときの伸び率が6.1%」である点。
<相違点6―4>
ベルトカバー層について、本件特許発明1は「有機繊維コードはタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回されている」と特定されているのに対し、甲6発明はそのような特定がされていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
<相違点6ー1>について
<相違点6ー1>は、上記1(2)アの<相違点1ー1>と実質同じである。
上記1(2)アで示したとおり、甲2ないし4には、ベルトカバー層を設けることはおろか、ベルトカバー層が「2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である」有機繊維を用いた場合に、ベルト層のスチールコードとして、「5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」のものを用いることでベルト層とベルトカバー層との間のセパレーションを防止する技術的事項について記載も示唆もされておらず、また、その他の証拠を見ても、当該技術的事項について記載や示唆もない。
そうすると、有機繊維コードについて2.7g/dtexの荷重を負荷したときの伸び率が6.1%の物性を有するものの、当該物性が「2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%」の範囲となるのか定かでない甲6発明において、スチールコードとして、「5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」の物性を有するものを採用する動機付けは、甲6及びしその他の証拠にはなく、甲6及びその他の証拠を参酌したとしても、<相違点6−1>に係る発明特定事項を当業者が容易になし得ることはできない。
そして、本件特許発明1は、「2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である有機繊維コード」で構成されるベルトカバー層と、「M本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本であり、前記スチールコードの5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」であるベルト層を組み合わせることにより、ロードノイズ性能を向上しながら、耐久性を向上することができるという効果を奏するものであり、仮に、「空気入りラジアルタイヤの技術分野において、引張弾性率が130GPa以上のスチールコードでベルト層を構成すること」が当業者の周知技術であったとしても、上記効果は、甲6及び当該周知技術、さらにその他の証拠を参酌しても予測し得るものとはいえない。
よって、本件特許発明1は、その余の相違点について検討するまでもなく、甲6発明、すなわち甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は請求項1を直接あるいは間接的に引用する発明であり、本件特許発明1の特定事項をすべて有するものである。
よって、上記アのとおり、本件特許発明2ないし4も、甲6発明、すなわち甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記<相違点6ー1>について、上記1(2)アの<相違点1ー1>についての主張と同様の主張をしているが、上記ア及び上記1(2)ウで検討したのと同様、特許異議申立人の主張を首肯することができない。

(3)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、申立理由2によっては取り消すことはできない。

3 申立理由3(甲8に基づく進歩性欠如)について
(1)証拠の記載事項等
ア 甲8の記載事項等
(ア)甲8の記載事項
本件特許の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲8には、「空気入りラジアルタイヤ」について、以下の記載がされている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のビードコア間にわたりトロイド状をなして跨る少なくとも1枚のカーカス層からなるカーカスと、該カーカスのクラウン領域のタイヤ径方向外側に配設されて接地部を形成するトレッド部と、該トレッド部と前記カーカスのクラウン領域との間に配置されて補強部を形成する、少なくとも2枚のベルト層からなるベルトと、該ベルトのタイヤ半径方向外側にタイヤ周方向に対し実質的に平行に配列された有機繊維コードのゴム引き布からなるベルト補強層を備える空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ベルト層を構成する補強材が、2本のコードを撚らずに揃えた束であり、かつ、前記スチールコードを構成する全てのフィラメントの径が同径であり、その径をa(mm)としたとき、隣り合う前記束同士の間隔が、前記コードの外接円を用いて表した間隔よりも期待値としてa/6(mm)以上増加し、
前記有機繊維コード1本当りの初期引張抵抗度が20GPa以下であり、かつ、前記ベルト補強層の全領域において、有機繊維コード1本当りの初期引張抵抗度に単位幅あたりに存在する有機繊維コード本数を乗じた、見かけのトリート初期引張抵抗度が400GPa/cm以下であることを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りラジアルタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、剛性を悪化させることなく耐久性および軽量性に優れ、かつ、転がり抵抗も向上した空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、乗用車用ラジアルタイヤの骨格をなすカーカスの補強部材、特にカーカスのクラウン部の補強部材として一般に用いられているベルトは、主としてタイヤの赤道面に対し傾斜配列されたスチールコードのゴム引き層からなるスチールベルト層を2枚以上用い、これらベルト層中のスチールコードが互いに交差するようにして構成されている。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車の高性能化に伴って、タイヤに対して、ますます高い性能が求められるようになってきている。また、自動車の燃費向上のためには、タイヤの軽量化も重要な課題となってきている。このような現状においては、特許文献1および2記載のベルト構造では、タイヤの耐久性および軽量性について、必ずしも十分なものとは言えなくなってきている。また、乗り心地性や操縦安定性などの性能面からもベルトには高い剛性を確保する必要があり、さらに、燃費向上については、タイヤの軽量化のみならず、転がり抵抗についても検討が必要となる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、剛性を悪化させることなく耐久性および軽量性に優れ、かつ、転がり抵抗も向上した空気入りラジアルタイヤを提供することにある。」
「【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1に本発明の一好適例の空気入りラジアルタイヤの断面図を示す。図示するタイヤは、カーカスのクラウン領域に配設されて接地部を形成するトレッド部1と、このトレッド部1の両側部に連続してタイヤ半径方向内方へ延びる一対のサイドウォール部2と、各サイドウォール部2の内周側に連続するビード部3とを備えている。
【0013】
トレッド部1、サイドウォール部2およびビード部3は、一方のビード部3から他方のビード部3にわたってトロイド状に延びる一枚のカーカス層からなるカーカス4により補強されている。また、トレッド部1は、以下で詳述する、カーカス4のクラウン領域のタイヤ径方向外側に配設した少なくとも2層、図示する例では2層の第1ベルト層5aと第2ベルト層5bとからなるベルトにより補強されている。また、ベルト5の全幅にタイヤ周方向に対し実質的に平行に配列された有機繊維コードのゴム引き布からなるベルト補強層6が配置されている。ここで、カーカス4のカーカス層は複数枚としてもよく、タイヤ周方向に対してほぼ直交する方向、例えば、70〜90°の角度で延びる有機繊維コードを好適に用いることができる。
【0014】
まず、本発明の空気入りラジアルタイヤのベルト層5について説明する。
本発明においては、第1ベルト層5a、第2ベルト層5bを構成する補強材は、2本のコードを撚らずに揃えた束である。補強材をコード2本の束とすることにより、コードを束としない場合と比べて、ベルト層中の補強材の間隔が広くなり、ベルト幅方向端部のコード端を起点としたゴム剥離が容易に隣り合うコード間に伝播する、BESを抑制することができる。これにより、ベルトの耐久性を向上させることができる。また、本発明においては、コードを構成する全てのフィラメントの径を同径とし、その径をa(mm)としたとき、隣り合う束同士の間隔が、コードの外接円を用いて表した間隔よりも期待値としてa/6(mm)以上、好ましくは4a/11(mm)以上増加する。図2(a)〜(c)は、ベルト層の補強材として、(1×2)構造のコード2本を束7とした場合、図3(a)〜(c)は、(1+1)構造のコード2本を束17とした場合のコード束の断面の変化の例を示す断面図であり、以下、図2および図3を用いてコード径の変化について説明する。
【0015】
通常、コード径Dcは、図2(a)に示す様に、フィラメント8の外接円9の直径により表わされている。しかしながら、(1×2)構造のコードは2本のフィラメント8を撚り合わせたコードであるため、コード内(外接円9内)でフィラメント8の位置が連続的に変化している。例えば、フィラメント8の位置が図2(b)、(c)のように45°ずつ変化すると、水平方向における実際のコード径は、外接円9より減少することになる。(1+1)構造のコードについても同様であり、図3(a)〜(c)に示す様に、フィラメント18の位置が、図3(b)、(c)のように45°ずつ変化すると、水平方向における実際のコード17の径は、外接円19より減少することになる。
【0016】
本発明の空気入りラジアルタイヤは、ベルトの補強材として、コードを2本束にして用いているが、上述のように、ベルト幅方向でコード径が変化すると、隣り合う束同士の間隔も、コード径の変化に合わせて、連続的に変化することになる。すなわち、隣り合う束同士の間隔に広い部分と狭い部分が現れることになる。この束同士の間隔が広い部分が存在することにより、ベルト幅方向端部のコード端を起点としたゴム剥離が容易に隣り合うコード間に伝播するBESを、より効果的に抑制することができる。その結果、ベルトの耐久性がさらに向上することになる。また、束同士の間隔が狭い部分が存在するため、ベルトの剛性を維持することができる。
【0017】
次に、束間隔の増加量の期待値の算出方法について説明する。図4および図5は、(1×2)構造のコード2本を束とした場合の、束間隔の増加量の期待値を算出するための説明図である。まず、図4(a)に示す様に、隣り合う束7同士の近接するコードの一方をコードX、他方をコードYとし、コードXとコードYのそれぞれの外接円間の距離をWとする。次に、水平方向において、コードXおよびコードYの外接円間の距離と、コードXおよびコードYのフィラメント間距離と、が等しい状態をコードXおよびコードYの基本状態(図4(a))とする。図4(a)〜(h)は、例として、コードXが1ピッチで360°回転する場合において、基本状態からコードXを45°ずつ回転させた場合の断面形状をそれぞれ示す。図4(b)を参照するに、基本状態からコードXを45°回転させることにより、コードXとコードYの実際の間隔は、Wよりxz2だけ増加する。さらに、コードXを45°ずつ回転させると(図4(c)〜(h))、コードXとコードYの実際の間隔の増加量は、xz3〜xz8だけ変化する。なお、基本状態(図4(a))および基本状態から180°回転した状態(図4(e))のxz1およびxz5は0である。
【0018】
コードYについても同様に、コードYが1ピッチで360°回転する場合において、コードYを45°ずつ回転させた場合の断面形状を、図5(a)〜(h)としてそれぞれ示す。図示するように、基本状態(図5(a))からコードYを45°回転させることにより(図5(b))、コードXとコードYの実際の間隔は、Wよりyz2だけ増加する。さらに、45°ずつ回転させると(図5(c)〜(h))、コードXとコードYの実際の間隔の増加量は、yz3〜yz8だけ変化することになる。
【0019】
ここまでは、束間隔の増加量の算出の方法として、コードXおよびコードYを45°ずつ回転させた場合を例に挙げて説明してきたが、本発明においては、同様の考え方に基づき、コードXおよびコードYが1ピッチで360°回転する場合において、コードXおよびコードYを基本状態から1°ずつ回転させ、xz1〜xz360およびyz1〜yz360を求める。得られた値を基に、下記式、

により、束間隔の増加量の期待値を算出する。なお、コード構造が(1×2)構造を例として説明したが、他の構造のコードについても同様の手順で算出することができる。
【0020】
上記式により算出された束間隔の増加量の期待値が、a/6(mm)以上、好ましくは4a/11(mm)以上増加するコードを、2本束としてベルトの補強材として用いることにより、剛性を悪化させることなく耐久性および軽量性に優れた空気入りラジアルタイヤを得ることができる。上記関係を満足するコード構造としては、(1×2)構造、(1+1)構造等が挙げられる。
【0021】
本発明においては、ベルト層への補強材の打込み数は35〜65本/50mmであることが好ましい。打込み数を、上記範囲とすることにより、ベルト強度とBES抑制を高度に両立することができる。より好ましくは40〜59本/50mmである。
【0022】
また、本発明においては、タイヤの軽量化と耐久性の向上の観点から、ベルト層の厚みは0.70mmより大きく1.20mm未満であることが好ましい。ベルト層の厚みを上記範囲にすることで、耐久性と軽量性を良好に得ることができる。より好ましくは0.80〜1.10mmである。
【0023】
さらに、本発明においては、ベルト補強コードを構成するフィラメントのフィラメント径は0.23〜0.30mmであることが好ましい。フィラメント径を上記範囲とすることにより、ベルト強度と軽量性を良好に得ることができる。
【0024】
なお、本発明においては、フィラメントの撚り方向、撚りピッチ等の条件については、特に制約されるものではなく、用途に応じて、常法に従い適宜構成することが可能である。また、フィラメントの材質等については特に制限はないが、スチールフィラメントが好適である。スチールフィラメントとしては、引張り強さは、好適には2700N/mm2以上のものを好適に用いることができる。高い抗張力を有するモノフィラメントコードとしては、少なくとも0.72質量%、特には少なくとも0.82質量%の炭素を含有するものを、好適に用いることができる。
【0025】
続いて、本発明の空気入りラジアルタイヤのベルト補強層6について説明する。
一般に、ベルト補強層6を設けることで、高速耐久性、摩耗性、トレッドカットなどにより生じた外傷から浸入した水分による錆などに対する耐久性(市場耐久性)を向上させることができることが知られている。ベルト補強層6は高剛性であるほど、ロードノイズ低減や高速耐久性に優れており、低剛性であるほど、転がり抵抗低減に優れていることも知られている。しかしながら、ベルト補強層6を配置することによって、走行中ベルト層5bとベルト補強層6間でせん断歪みが生じ、セパレーションの発生核となり早期故障を誘発する原因となるという問題を有している。
【0026】
本発明の空気入りラジアルタイヤは、ベルト層5の補強材として、束間隔の増加量の期待値が、a/6(mm)以上のコードを用いている。このようなコードは、コード径が幅方向のみが変化するものではなく、タイヤ半径方向についても同様にコード径が変化する。従って、ベルト補強層6を有するタイヤにおいては、図6に示すように、例えば、ベルト補強コードとして1×2構造のコードを用いた場合、ベルト層5bのコードの束27とベルト補強層6の有機繊維コード10との実際の間隔が局所的に広い部分と狭い部分が存在する。層間ゲージの狭い部分が存在すると層間の局所的な歪みが大きくなり、上記セパレーションの問題が顕著となる。
【0027】
ベルト層とベルト補強層間のせん断歪は、ベルト補強層のコード剛性およびベルト層のコード剛性が大きいほど大きくなるため、これらは小さい方が好ましい。そこで、本発明においては、ベルト補強層6を構成する有機繊維コード10の1本当りの初期引張抵抗度を20GPa以下とし、かつ、ベルト補強層6の全領域において、有機繊維コード10の1本当りの初期引張抵抗度に単位幅あたりに存在する有機繊維コード本数を乗じた見かけのトリート初期引張抵抗度を400GPa/cm以下とする。
【0028】
有機繊維コード10の1本あたりの初期引張抵抗度を20GPa以下とすることで、ベルト層5bとベルト補強層6間に生じるせん断歪みを軽減しつつ、転がり抵抗を向上させることができる。また、有機繊維コード1本の初期引張抵抗度が20GPaより大きいとタイヤ加硫時のベルトへの拘束力が高いため、ベルト補強層補強コードとベルト補強コードの距離が短くなり、かえってセパレーションの発生核となってしまう。好適には3?7GPaである。また、見かけのトリート初期引張抵抗度が400GPa/cmより大きいと、有機繊維コードの打込み本数が増大し、コード間距離が小さくなり、やはりセパレーションが発生しやすくなる。好適には、100〜150GPaである。なお、一般的に上記セパレーション現象はベルト端近傍で発生する。そこで、本発明においては、図1に示す様にベルト補強層6はベルト5の全幅を覆う構造としてもよい(いわゆる、キャップ構造)が、ベルト5の端部をベルト補強層6で覆う構造としてもよい(いわゆる、レイヤー構造)。この場合、ベルト補強層6は、最小のベルト幅を有するベルト層の端部より幅方向内側から最大のベルト幅を有するベルト層の端部より幅方向外側の範囲に配置することが好ましい。
【0029】
上記有機繊維コードとしては、ナイロン繊維からなるコードやポリエチレンテレフタレート(PET)からなるコードを好適に用いることができ、これらの複合コードを用いてもよい。また、有機繊維コードは上記物性を満足するものであればコード径や、コード構造、撚り数等については特に制限されるものではない。なお、ベルト補強層6は、その配設幅より狭い幅寸法を持ち、1本以上の補強コードをゴム引きしてなるリボン状シートを、複数回螺旋巻回することにより、好適に形成することができる。」
「【実施例】
【0031】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例1〜3および比較例1〜4>
図1に示すタイヤと同様のタイプのタイヤを、タイヤサイズ205/55R16にて作製した。ベルト層は、下記表1および2に示す構造のスチールコードを2本束としたベルト補強材を用いて作製した。ベルト補強層は、同表中の構造を有する有機繊維コードを補強材として用いて作製した。ベルトは2枚のベルト層の積層構造であり、ベルト角度はタイヤ周方向に対して±30°とした。ベルト補強層は周方向に対して実質平行とし、ベルト全面を覆うように配置した。得られた各タイヤについて、下記の手順に従い、耐摩耗性(剛性)、耐久性、タイヤ重量、市場耐久性および転がり抵抗の評価を行った。
【0032】
<耐摩耗性>
実車耐久走行(限界走行モードにて1周3.5kmの既設サーキットを20周走行)後のタイヤ残溝深さ(センターリブ溝)を測定し、比較例1のタイヤを100として指数評価した。この値が100±2の場合は従来品と同等として△、102より大きければ○、98より小さければ×とした。結果を表1および2に併記する。なお、耐摩耗性が小さいということは、トレッド接地面積が小さいことを意味し、ベルトの剛性の判断基準となる。
【0033】
<耐久性>
各供試タイヤを、6.5J×16のリムに取り付け、規定内圧を充填し、乗用車に装着した。舗装路を40000km走行した後、タイヤを解剖して、ベルト端部のセパレーション長さを調査した。結果は、値が小さいほど良好な結果を示す。また、比較例1のタイヤと同等以上の場合を○、劣っている場合を×とした。結果を表1および2に併記する。
【0034】
<タイヤ重量>
各タイヤ1本当たりの重量を測定し、比較例1のタイヤを100として指数評価した。この値が100未満の場合を○、100以上の場合を×とした。結果を表1および2に併記する。
【0035】
<市場耐久性>
得られたタイヤ4本を6.5J×16のリムに取り付け、規定内圧を充填し、4輪車に装着した。5万km実地走行した後、4輪をドラムにて時速120kmとなる様に回転させ、故障するまでの時間を計測し、タイヤ4本の平均値を算出した。得られた数値を比較例1を100とする指数とした。この数値が大きいほど市場耐久性に優れている。得られた結果を表1および2に示す。
【0036】
<転がり抵抗>
外径1707.6mm、幅350mmのスチール平滑面を有する回転ドラムを用い、4500N(460kg)の荷重の作用下で、80km/hの速度で回転させた時の惰行法をもって測定した。得られた値につき、比較例1を100とする指数で表した。この値が小さいほど転がり抵抗に優れていることを示す。得られた結果を表1および2に示す。・・・
【0038】
【表2】


※1:有機繊維コード1本の初期引張抵抗度
※2:見かけのトリート初期引張抵抗度
※4:ポリエチレンテレフタレート」
「【符号の説明】
【0040】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス
5a 第1ベルト層
5b 第2ベルト層
6 ベルト補強層
7,17 束
8,18 フィラメント
9,19 外接円
10 有機繊維コード
【図1】



(イ)甲8に記載された発明
甲8の実施例2を、【請求項1】、段落【0002】【0012】【0029】の記載にならって整理すると、以下の発明が記載されているといえる。
「クラウン領域に配設されて接地部を形成するトレッド部1と、このトレッド部1の両側部に連続してタイヤ半径方向内方へ延びる一対のサイドウォール部2と、各サイドウォール部2の内周側に連続するビード部3とを備えており、左右一対のビードコア間にわたりトロイド状をなして跨る少なくとも1枚のカーカス層からなるカーカスと、該トレッド部と前記カーカスのクラウン領域との間に配置されて補強部を形成する、少なくとも2枚のベルト層からなるベルトと、該ベルトのタイヤ半径方向外側にその配設幅より狭い幅寸法を持ち、1本以上の有機繊維コードをゴム引きしてなるリボン状シートを、複数回螺旋巻回することにより形成されるベルト補強層を備える空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ベルト層を構成する補強材が、2本のコードを撚らずに揃えた束であり、かつ、前記スチールコードを構成する全てのフィラメントの径が同径であり、その径をa(mm)としたとき、隣り合う前記束同士の間隔が、前記コードの外接円を用いて表した間隔よりも期待値としてa/6(mm)以上増加し、スチールコードは構造が1×2、フィラメント径0.25mmであり、打ち込み数が58.5本/50mmであり、ベルトは2枚のベルト層の積層構造であり、ベルト角度はタイヤ周方向に対して±30°とし、ベルト層中のスチールコードが互いに交差するようにして構成されており、
前記有機繊維コードがPET(1100dtex/2)であり、前記有機繊維コード1本当りの初期引張抵抗度が12GPaであり、かつ、前記ベルト補強層の全領域において、有機繊維コード1本当りの初期引張抵抗度に単位幅あたりに存在する有機繊維コード本数を乗じた、見かけのトリート初期引張抵抗度が120GPa/cmである、空気入りラジアルタイヤ。」(以下、「甲8発明」という。)

イ 甲2ないし4の記載事項等
上記1(1)イないしエに記載のとおりである。

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲8発明とを対比する。
甲8発明の「ベルト層」は、スチールコードの構造が1×2であるから、本件特許発明1の「ベルト層はM本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本である」事項を備えると共に、2枚のベルト層の積層構造であり、ベルト角度はタイヤ周方向に対して±30°となっており、ベルト層中のスチールコードが互いに交差するようにして構成されていることから、本件特許発明1の「前記スチールコードは前記ベルト層の層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して傾斜して配列されている」事項を備えるものである。
また、甲8発明のスチールコードのフィラメント径が0.25mm、打込み本数が58.5本/50mmであることから、
スチールコード量A=S(0.1252×π×2)×E(58.5本/50mm)=5.74となり、本件特許発明1の「スチールコード量Aが5.0〜8.0の範囲内」という事項を備えるものである。
そして、甲8発明の「ベルト補強層」は、本件特許発明1の「ベルトカバー層」に相当し、甲8発明の「ベルト補強層」は、「その配設幅より狭い幅寸法を持ち、1本以上の有機繊維コードをゴム引きしてなるリボン状シートを、複数回螺旋巻回することにより形成される」ものであるから、本件特許発明1の「前記有機繊維コードはタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回されている」事項を備えるものである。
してみると、両発明は、以下の点で一致する。
<一致点>
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルトカバー層とを有する空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ベルト層は、M本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本であり、前記スチールコードは前記ベルト層の層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して傾斜して配列されており、スチールコード量Aが5.0〜8.0の範囲内であり、
前記ベルトカバー層は、有機繊維コードで構成され、前記有機繊維コードはタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回されている空気入りラジアルタイヤ。

そして、両者は、以下の点で相違或いは一応相違する。
<相違点8−1>
スチールコードの物性について、本件特許発明1は「5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」と特定されているのに対し、甲8発明はそのような特定がされていない点。
<相違点8−3>
有機繊維コードの物性について、本件特許発明1は「2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%」と特定されているのに対し、甲8発明はそのような特定がされていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
<相違点8ー1>について
<相違点8ー1>は、上記1(2)アの<相違点1ー1>と実質同じである。
上記1(2)アで示したとおり、甲2ないし4には、ベルトカバー層を設けることはおろか、ベルトカバー層が「2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である」有機繊維を用いた場合に、ベルト層のスチールコードとして、「5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」のものを用いることでベルト層とベルトカバー層との間のセパレーションを防止する技術的事項について記載も示唆もされておらず、その他の証拠を見ても、当該技術的事項について記載や示唆もない。また、甲8発明の目的は、「剛性を悪化させることなく耐久性および軽量性に優れ、かつ、転がり抵抗も向上した空気入りラジアルタイヤを提供すること」(甲8の段落【0006】)であって、ロードノイズを効果的に低減しながら、耐久性を向上することではない。
そうすると、甲8発明におけるスチールコードとして、「5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」の物性を有するものを採用する動機付けは、甲8及びその他の証拠にはなく、甲8及びその他の証拠を参酌したとしても、<相違点8−1>に係る発明特定事項を当業者が容易になし得ることはできない。
そして、本件特許発明1は、「2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である有機繊維コード」で構成されるベルトカバー層と、「M本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本であり、前記スチールコードの5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」であるベルト層を組み合わせることにより、ロードノイズ性能を向上しながら、耐久性を向上することができるという効果を奏するものであり、仮に、「空気入りラジアルタイヤの技術分野において、引張弾性率が130GPa以上のスチールコードでベルト層を構成すること」が当業者の周知技術であったとしても、上記効果は、甲8及び当該周知技術、さらにその他の証拠を参酌しても予測し得るものとはいえない。
よって、本件特許発明1は、その余の相違点について検討するまでもなく、甲8発明、すなわち甲8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は請求項1を直接あるいは間接的に引用する発明であり、本件特許発明1の特定事項をすべて有するものである。
よって、上記アのとおり、本件特許発明2ないし4も、甲8発明、すなわち甲8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記<相違点8ー1>について、上記1(2)アの<相違点1ー1>についての主張と同様の主張をしているが、上記ア及び上記1(2)ウで検討したのと同様、特許異議申立人の主張を首肯することができない。

(3)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、申立理由3によっては取り消すことはできない。

4 申立理由4(甲11に基づく進歩性欠如)について
(1)証拠の記載事項等
ア 甲11の記載事項等
(ア)甲11の記載事項
本件特許の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲11には、「空気入りタイヤとリムとの組立体」について、以下の記載がされている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
リムと、このリムに装着される空気入りタイヤとからなる空気入りタイヤとリムとの組立体であって、
前記空気入りタイヤとリムとがなすタイヤ内腔に、スポンジ材からなり、かつ、前記タイヤ内腔の全体積の0.4〜20%の体積を有してタイヤ周方向に実質的に同一の断面形状でのびる帯状体が配され、
前記帯状体は、少なくとも一部が前記タイヤ内腔に固定されており、
しかも前記空気入りタイヤは、シー比が20〜35%であることを特徴とする空気入りタイヤとリムとの組立体。
【請求項2】
前記空気入りタイヤは、ラジアル構造のカーカスと、そのタイヤ半径方向外側かつトレッド部の内部に配されたスチールコードの少なくとも1枚のベルトプライからなるベルト層とが設けられるとともに、
前記ベルトプライは、前記スチールコードの断面積(mm2)とベルトプライ巾5cm当たりのベルトコード打ち込み本数との積であるスチール量が5.5〜9.1(mm2/5cm)であることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤとリムとの組立体。
【請求項3】
前記空気入りタイヤは、前記ベルト層のタイヤ半径方向の外側かつ少なくとも両側のショルダ部に有機繊維のバンドコードをタイヤ周方向に配列したバンドプライからなるバンド層が設けられるとともに、
前記バンドコードの断面積(mm2)と、前記バンドコードの2%モジュラス(N/mm2)と、前記バンドプライの巾1cm当たりのバンドコードの打ち込み本数(本/cm)との積を1000で除したバンドプライのモジュラス係数が8.0〜41.5であることを特徴とする請求項1又は2記載の空気入りタイヤとリムとの組立体。
・・・
【請求項5】
前記空気入りタイヤは、前記カーカスがトレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアで折り返された1枚のカーカスプライで構成され、
前記ビード部には、JISA硬さが80〜98゜のゴム組成物からなるビードエーペックスゴムが配されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の空気入りタイヤとリムとの組立体。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、走行時の騒音を低減しうる空気入りタイヤとリムとの組立体に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、前記帯状体を特定のシー比を有する空気入りタイヤと組み合わせること等を基本として、走行時において耳障りな音を低減し、乗員のフィーリングを向上するのに役立つ空気入りタイヤとリムとの組立体を提供することを目的としている。」
「【0017】
またタイヤ2は、図3に示されるように、トレッド部2tからサイドウォール部2sを経てビード部2bに至るカーカス6と、そのタイヤ半径方向外側かつトレッド部2tの内部に配されたベルト層7と、このベルト層7のタイヤ半径方向の外側かつ少なくとも両側のショルダ部に配されたバンド層9とで補強されたチューブレスタイプの乗用車用ラジアルタイヤが例示される。
・・・
【0019】
前記ベルト層7は、本例ではタイヤ半径方向内、外で重ねられた2枚のベルトプライ7A、7Bにより構成される。各ベルトプライ7A、7Bは、スチールコードをタイヤ赤道Cに対して例えば10〜30°程度の角度で傾けて配列されたゴム引きプライからなり、互いにスチールコードが交差する向きに重ね合わされている。
【0020】
前記バンド層9は、前記ベルト層7のタイヤ半径方向外側に該ベルト層7と実質的に等しい幅の1枚のバンドプライ9Aを配して構成されたいわゆるフルバンド(以下、FBと略示する場合がある。)が例示される。バンドプライ9Aは、有機繊維コードからなるバンドコードを実質的にタイヤ周方向(例えばタイヤ周方向に対して5°以下)に配列して形成される。このバンド層9は、特に高速走行時におけるベルト層7の動き(リフティング)を抑制しロードノイズを低減するのに役立つ。なおショルダ部は、ベルト層7のタイヤ軸方向の外端と該外端からベルト層の幅の10%を隔てた位置との間の領域とする。またバンド層9の具体的な形状などは例示の態様に限定されるものではなく、例えば、ベルト層7のショルダ部のみを覆ういわゆるエッジバンド(以下、EBと略示する場合がある。)、さらにはフルバンドとエッジバンドとを組み合わせたもの(FB+EB)など、種々の態様が採用できる。」
「【0038】
上述したタイヤ2のシー比の限定とともに、前記ベルトプライ7A及び7Bのスチール量を限定することも好ましいものである。ベルトプライのスチール量は、スチールコードの断面積(mm2)とベルトプライ巾5cm当たりのベルトコード打ち込み本数との積で表され、このスチール量を5.5〜9.1(mm2/5cm)とすることが望ましいものである。発明者らの実験の結果、ベルトプライのスチール量を限定した場合、周波数1kHz付近のノイズ、より具体的には車室内で「シャー」と聞こえるノイズが低減されることが確かめられている。前記「シャー」と聴取されるノイズは、トレッド溝の中の空気の共鳴によるものである。ベルトプライのスチール量を増加させることにより、該ベルトプライの振動が抑制され、その結果、トレッド溝に伝わる振動を減少させ、前記シャー音を低減しうる。このスチール量の限定による効果については、後の実施例において明らかにする。」
「【実施例】
【0041】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
サイズ195/65R15 91Hの乗用車用ラジアルタイヤと、サイズ15×6JJのリム、及び共通仕様の帯状体とを用いてノイズ測定テストを行った。帯状体は、比重0.0016のエーテル系ポリウレタンスポンジを使用したもので、その大きさは幅7cm×高さ4cm×長さ185cmとした。これを前記タイヤ(タイヤ内面にはブラダーによる凸部が形成されていない)の内面のトレッド領域(図2の通り)に接着剤を用いて固着した。帯状体は、タイヤ内腔の全体積に対し10%の体積とした。また、タイヤの基本仕様は、次の通りである。
【0042】
<カーカス>
プライ数:2
折返し部の高さha:75(mm)
コード :ポリエステル
カーカスコードのエンズ:50(本/5cm)
<ベルト層>
プライ数:2
コード :スチールコード
コード構成:1×8(素線径0.23mm)
エンズ :24本/5cm プライ5cmあたりのスチール量:7.98(mm2 /5cm)
<バンド層>
プライ数:1(フルバンド)
コード :ナイロンコード(断面積0.248mm2 )
コードの2%モジュラス:3228(N/mm2 )
バンドプライ巾1cm当たりのコード打ち込み本数:10(本/cm)
バンドプライのモジュラス係数:8.0
<トレッドゴム>
JISA硬さ:67゜
<ビードエーペックス>
JISA硬さ:86゜
高さhb:40mm
なおビード部にはフィラー等の補強層は設けられていない。
【0043】
またノイズテストは、タイヤを内圧200kPaでリム組みして車両(国産2000cm3 のFF車)の全輪に装着し、1名乗車にて計測路を所定の速度で走行するとともに、ドライバーの官能により10点法で評価を行った。数値が大きいほど良好である。なおテストノイズと、走行路、走行速度との関係は次の通りである。
【0044】
<ロードノイズ>
評価音の種類:「こもり音」(約80〜100Hz)、「ゴー音」(約125〜200Hz)、「空洞共鳴音」(約220〜240Hz)
走行路:アスファルト粗面路、走行速度:60km/H
<パターンノイズ>
評価音の種類:「ピッチ音」(約200Hz以上)
走行路:アスファルトスムース路面、走行速度:60km/H
評価音の種類:「シャー音」(約1kHz以上)
走行路:アスファルトスムース路面、走行速度:80km/H
テストの結果として、先ず表1を示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1には、タイヤのシー比を変えたテスト結果が示されている。
先ず比較例1は、図4のパターンを持ったタイヤを用いた組立体であって帯状体を具えていない。タイヤのシー比は42%と比較的大きい。比較例2は、比較例1の組立体に帯状体を付加したものである。これらのテスト結果を比較すると、比較例2は、比較例1に比べて空洞共鳴音を大幅に低減しているものの、この音が低減されたことによって、却ってロードノイズ(ゴー音、ガー音)と、パターンノイズ(ピッチ音、シャー音)が悪化している。その結果、比較例2は空洞共鳴音を消したにも関わらず、総合官能評点が悪化している。
【0047】
一方、比較例2のタイヤの主溝の溝幅を7.4%、横溝の溝幅を33.3%それぞれ小さくし、シー比を35%とした実施例1では、ピッチ音、シャー音が殆ど気にならず、総合官能評点を向上している。さらにタイヤを図5のパターン(シー比:29%)に変更した実施例2では、さらにピッチ音、シャー音が低下しており、総合官能評点は6.5まで向上した。
【0048】
図5のパターンをベースとして、ピッチ音に影響する横溝成分と、シャー音に影響する主溝成分のシー比をそれぞれ変化させて確認した結果、実施例2ないし6のように、シー比を20〜35%とすることにより、総合官能評点を向上させ得ることが確認できた。このテストでは、特に好ましくは、横溝のシー比を3〜10%、主溝のシー比を20〜26%の範囲で良好な結果が得られた。
・・・
【0052】
次に、実施例2の組立体をベースとして、ベルトプライのスチール量を変化させノイズ性能の変化を確かめた(実施例2、10、11及び12)。その結果は表3に示される。
【0053】
【表3】

【0054】
テストの結果では、ベルトプライのスチール量を増加させることによってパターンノイズの内の1kHz付近ないしそれ以上の周波数を持つ「シャー音」を低減しうることが分かる。実施例10のように、ベルトプライのスチール量を5.5(mm2 /5cm)まで低下させても、総合官能評点を6.3まで向上できる。他方、ベルトプライのスチール量が多すぎると、重量増加、乗り心地の悪化などの背反性能が懸念されるためその上限は9.2(mm2 /5cm)とするのが望ましい。
【0055】
次に、実施例2の組立体をベースとして、バンドプライのモジュラス係数を変化させノイズ性能の変化を確かめた(実施例2、13、14、15及び16)。その結果は表4に示される。
【0056】
【表4】

【0057】
テストの結果では、バンドプライのモジュラス係数を増加させることによって、ロードノイズ、とりわけ「ゴー」と聴取されるノイズと、「ガー」と聴取されるノイズとを効果的に低減させる。一方、バンドプライのモジュラス係数の増加によって、周波数1kHz付近の「シャー」と聴取されるノイズが悪化する傾向があるばかりか、バンドの拘束力が強くなりすぎ、タイヤ生産時に生カバーの成長を妨害するといった不具合がある。このような両特性をバランス良く満足させるために、バンドプライのモジュラス係数は、8.0〜42.0、より好ましくは27〜42の範囲とするのが望ましい。なおバンド材料には、実施例10〜12のように、ナイロン、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(以下、「PEN」ということがある。)及び/又はアラミドなどが特に好適である。」
「【符号の説明】
【0068】
1 空気入りタイヤとリムとの組立体
2 空気入りタイヤ
3 リム
4 タイヤ内腔
4S タイヤ内腔面
5 帯状体
5A 帯状体の底面
5B 帯状体の先端」
「【図3】



(イ)甲11に記載された発明
甲11の実施例10を、【特許請求の範囲】、段落【0019】にならって整理すると、以下の発明が記載されているといえる。
「トレッド部と、サイドウォール部と、ビード部と、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアで折り返された1枚のカーカスプライで構成されるラジアル構造のカーカスと、そのタイヤ半径方向外側かつトレッド部の内部に配されたスチールコードの少なくとも1枚のベルトプライからなるベルト層とが設けられるとともに、前記ベルト層のタイヤ半径方向の外側かつ少なくとも両側のショルダ部に有機繊維のバンドコードをタイヤ周方向に配列したバンドプライからなるバンド層が設けられるとともに、前記ベルト層7は、タイヤ半径方向内、外で重ねられた2枚のベルトプライ7A、7Bにより構成され、各ベルトプライ7A、7Bは、スチールコードをタイヤ赤道Cに対して10〜30°程度の角度で傾けて配列されたゴム引きプライからなり、互いにスチールコードが交差する向きに重ね合わされており、さらに以下の構成を有する空気入りラジアルタイヤ。
<カーカス>
プライ数:2
折返し部の高さha:75(mm)
コード :ポリエステル
カーカスコードのエンズ:50(本/5cm)
<ベルト層>
プライ数:2
コード :スチールコード
コード構成:1×8(素線径0.23mm)
エンズ :24本/5cm プライ5cmあたりのスチール量:7.98(mm2 /5cm)
<バンド層>
プライ数:1(フルバンド)
コード :ナイロンコード(断面積0.248mm2 )
コードの2%モジュラス:3228(N/mm2 )
バンドプライ巾1cm当たりのコード打ち込み本数:10(本/cm)
バンドプライのモジュラス係数:8.0
<トレッドゴム>
JISA硬さ:67゜
<ビードエーペックス>
JISA硬さ:86゜
高さhb:40mm」(以下、「甲11発明」という。)

イ 甲2ないし4の記載事項等
上記1(1)イないしエに記載のとおりである。

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲11発明とを対比する。
甲11発明の「ベルト層」は、スチールコードの構造が1×1構造であるから、本件特許発明1の「ベルト層は、M本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本である」事項を備え、「タイヤ半径方向内、外で重ねられた2枚のベルトプライ7A、7Bにより構成され、各ベルトプライ7A、7Bは、スチールコードをタイヤ赤道Cに対して10〜30°程度の角度で傾けて配列されている」ことから、、本件特許発明1の「前記スチールコードは前記ベルト層の層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して傾斜して配列されており」なる事項を備えると共に、「プライ5cmあたりのスチール量:5.54(mm2 /5cm)」であることから、本件特許発明1の「スチールコードA量が5.0〜8.0の範囲内であり」なる事項を備える。
甲11発明の「バンド層」は、本件特許発明1の「ベルトカバー層」に相当し、甲11発明の「バンド層」は、「有機繊維のバンドコードをタイヤ周方向に配列したバンドプライからなる」ものであるから、本件特許発明1の「前記有機繊維コードはタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回されている」事項を備える。
してみると、両発明は、以下の点で一致する。
<一致点>
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルトカバー層とを有する空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ベルト層は、M本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本であり、前記スチールコードは前記ベルト層の層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して傾斜して配列されており、スチールコード量Aが5.0〜8.0の範囲内であり、
前記ベルトカバー層は、有機繊維コードで構成され、前記有機繊維コードはタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回されている空気入りラジアルタイヤ。

そして、両者は、以下の点で相違或いは一応相違する。
<相違点11−1>
スチールコードの物性について、本件特許発明1は「5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」と特定されているのに対し、甲11発明はそのような特定がされていない点。
<相違点11−3>
有機繊維コードの物性について、本件特許発明1は「2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%」と特定されているのに対し、甲11発明はそのような特定がされていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
<相違点11ー1>について
<相違点11ー1>は、上記1(2)アの<相違点1ー1>と実質同じである。
上記1(2)アで示したとおり、甲2ないし4には、ベルトカバー層を設けることはおろか、ベルトカバー層が「2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である」有機繊維を用いた場合に、ベルト層のスチールコードとして、「5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」のものを用いることでベルト層とベルトカバー層との間のセパレーションを防止する技術的事項について記載も示唆もされておらず、その他の証拠を見ても、当該技術的事項について記載や示唆もない。また、甲11発明の目的は、「走行時において耳障りな音を低減し、乗員のフィーリングを向上するのに役立つ空気入りタイヤとリムとの組立体を提供すること」(甲11の段落【0006】)であって、ロードノイズを効果的に低減しながら、耐久性を向上することではない。
そうすると、甲11発明におけるスチールコードとして、「5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」の物性を有するものを採用する動機付けは、甲11ないしその他の証拠にはなく、甲11及びその他の証拠を参酌したとしても、<相違点11−1>に係る発明特定事項を当業者が容易になし得ることはできない。
そして、本件特許発明1は、「2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である有機繊維コード」で構成されるベルトカバー層と、「M本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本であり、前記スチールコードの5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」であるベルト層を組み合わせることにより、ロードノイズ性能を向上しながら、耐久性を向上することができるという効果を奏するものである。そして、当該効果は、仮に、「空気入りラジアルタイヤの技術分野において、引張弾性率が130GPa以上のスチールコードでベルト層を構成すること」が当業者の周知技術であったとしても、甲11及び当該周知技術、さらにその他の証拠を参酌しても予測し得るものとはいえない。
よって、本件特許発明1は、その余の相違点について検討するまでもなく、甲11発明、すなわち甲11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は請求項1を直接あるいは間接的に引用する発明であり、本件特許発明1の特定事項をすべて有するものである。
よって、上記アのとおり、本件特許発明2ないし4も、甲11発明、すなわち甲11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 異議申立人の主張について
異議申立人は、上記<相違点11ー1>について、上記1(2)アの<相違点1ー1>についての主張と同様の主張をしているが、上記ア及び上記1(2)ウで検討したのと同様、異議申立人の主張を首肯することができない。

(4)申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、申立理由4によっては取り消すことはできない。

5 申立理由5(甲12及び甲3に基づく進歩性欠如)について
(1)証拠の記載事項等
ア 甲12の記載事項等
(ア)甲12の記載事項
本件特許の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲12には、「空気入りタイヤ」について、以下の記載がされている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のビードコア間にわたりトロイド状をなして跨る少なくとも1枚のカーカス層からなるカーカスと、該カーカスのクラウン領域のタイヤ径方向外側に配設されて接地部を形成するトレッド部と、該トレッド部と前記カーカスのクラウン領域との間に配置されて補強部を形成する、少なくとも2枚のベルト層からなるベルトと、該ベルトのタイヤ径方向外側に有機繊維コードを周方向に螺旋巻きしてなるベルト補強層と、を備える空気入りタイヤにおいて、
前記ベルトが少なくとも1層の傾斜ベルト層を有し、該傾斜ベルト層を構成する補強材が、2本のコードを撚らずに揃えた束であり、かつ、前記コードを構成する全てのフィラメントの径が同径であり、その径をa(mm)としたとき、隣り合う前記束同士の間隔が、前記コードの外接円を用いて表した間隔よりも期待値としてa/6(mm)以上増加し、
前記ベルト補強層のタイヤ中央部から取り出した前記有機繊維コード1本の5%伸び時の引張り強さF(N)と、タイヤ中央部の5cm幅当たりの打込み数N(本/5cm)と、が下記式、
F×N>2500
で表わされる関係を満足することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記有機繊維コードが、ナイロン、ポリエステル、アラミド、レーヨン、リヨセルおよびポリケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維からなるコードである請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記有機繊維コード1本の5%伸び時の引張り強さが30N以上である請求項1または2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記有機繊維コード1本の切断伸度が10%以上である請求項1〜3のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、タイヤ諸性能を維持しつつ軽量性に優れ、かつ、悪路走行性能が向上した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、乗用車用タイヤの骨格をなすカーカスの補強部材、特にカーカスのクラウン部の補強部材として一般に用いられているベルトは、主としてタイヤの赤道面に対し傾斜配列されたスチールコードのゴム引き層からなるスチールベルト層を2枚以上用い、これらベルト層中のスチールコードが互いに交差するようにして構成されている。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車の高性能化に伴い、タイヤ諸性能に対してますます高い性能が求められるようになってきている。また、自動車の燃費向上のために、タイヤの軽量化も重要な課題となってきている。このような現状においては、特許文献1および2記載のベルト構造では、必ずしも十分なものとは言えなくなってきている。さらに、路上の石や縁石等の凸形状物を踏んだ際のトレッド部分の破壊に対しても、より高度な対策も必要である。
【0006】
そこで本発明の目的は、タイヤ諸性能を維持しつつ軽量性に優れ、かつ、悪路走行性能が向上した空気入りタイヤを提供することにある。」
「【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1に、本発明の一好適例の空気入りタイヤの断面図を示す。図示するタイヤは、カーカスのクラウン領域に配設されて接地部を形成するトレッド部1と、このトレッド部1の両側部に連続してタイヤ半径方向内方へ延びる一対のサイドウォール部2と、各サイドウォール部2の内周側に連続するビード部3と、を備えている。
【0013】
トレッド部1、サイドウォール部2およびビード部3は、一方のビード部3から他方のビード部3にわたってトロイド状に延びる一枚のカーカス層からなるカーカス4により補強されている。カーカス4のクラウン領域のタイヤ径方向外側には少なくとも2枚のベルト層からなるベルト5が配設されており、ベルト5は補強材がタイヤ周方向に対して傾斜する少なくとも1層、図示する例では2層の第1ベルト層5aと第2ベルト層5bを有する。ベルト5のタイヤ径方向外側には有機繊維コードを周方向に螺旋巻きしてなるベルト補強層6がベルト全幅にわたって配設されている。ここで、カーカス4のカーカス層は複数枚としてもよく、タイヤ周方向に対してほぼ直交する方向、例えば、70〜90°の角度で延びる有機繊維コードを好適に用いることができる。
【0014】
本発明においては、第1ベルト層5a、第2ベルト層5bを構成する補強材は、2本のコードを撚らずに揃えた束である。補強材をコード2本の束とすることにより、コードを束としない場合と比べてベルト層中の補強材の間隔が広くなり、BESを抑制することができる。これにより、ベルトの耐久性を向上させることができる。また、本発明においては、コードを構成する全てのフィラメントの径を同径とし、その径をa(mm)としたとき、隣り合う束同士の間隔が、コードの外接円を用いて表した間隔よりも期待値としてa/6(mm)以上、好ましくはa/4以上、より好ましくは4a/11(mm)以上増加する。図2(a)〜(c)は、ベルト層の補強材として、(1×2)構造のコード2本を束7とした場合、図3(a)〜(c)は、(1+1)構造のコード2本を束17とした場合のコード束の断面の変化の例を示す断面図であり、まず、図2および図3を用いてコード径の変化について説明する。」
「【0021】
本発明においては、ベルトへの補強材の打込み数は35〜65本/50mmであることが好ましく、より好ましくは40〜59本/50mmである。打込み数が、上記範囲未満の場合は、引張強度を確保することができなくなる場合があり好ましくなく。一方、打込み数が上記範囲より多いと、束間隔を確保することが困難になり、有効にBESを抑制することが困難になり、耐久性が低下する場合があるため、やはり好ましくない。
・・・
【0023】
本発明においては、コードを構成するフィラメントのフィラメント径は0.23〜0.30mmであることが好ましい。フィラメント径が0.23未満であると、十分な強力を発揮することができない場合がある。一方、フィラメント径が0.30より大きいと、ベルトが厚くなってしまい、十分な軽量効果を得ることができないことがある。
・・・
【0026】
本発明においては、有機繊維コードは上記関係を満足するものであれば、いずれでも使用可能であり、例えば、ナイロン、ポリエステル、アラミド、レーヨン、リヨセルおよびポリケトンからなるコードや、これら2種以上からなる複合コードを良好に用いることができる。また、これらコードのコード構造や撚り数等についても、上記関係式を満足するものであれば特に制限はない。
【0027】
また、本発明においては、有機繊維コード1本の5%伸び時の引張り強さFが30N以上であることが好ましい。有機繊維コード1本の5%伸び時の引張り強さFが30N未満であると、F×N>2500の関係を満足するために有機繊維コードの打込み数Nが大きくなるため好ましくない。一方、5%伸び時の引張強さFの上限については、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限はないが、好適には30〜400N、より好ましくは100〜400Nである。」
「【実施例】
【0030】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例1〜5>
下記表1および2に示す構造のスチールコードをベルトの補強材とし、同表に示す構造を有する有機繊維コードをベルト補強層の補強材として、図1に示すタイプのタイヤを、タイヤサイズ215/45R17XLにて作製した。ベルト補強材の打込み角度はタイヤ周方向に対して±26°とし、ベルト補強層の補強材である有機繊維コードは周方向に沿うように螺旋巻回して配設した。得られた各タイヤについて、下記の手順に従い、耐摩耗性(剛性)、耐久性、タイヤ重量および破壊エネルギーの評価を行った。
・・・
【0034】
<耐久性>
各供試タイヤを7J×17のリムに装着後、JATMA YEAR BOOKにおける最大負荷能力に対応する内圧を充填し、乗用車に装着した。舗装路を40000km走行した後、タイヤを解剖して、ベルト端部のセパレーション長さを調査した。結果は、値が小さいほど良好な結果を示す。また、従来例のタイヤと同等以上の場合を○、劣っている場合を×とした。結果を1および2に併記する。
【0035】
<タイヤ重量>
各供試タイヤ1本当たりの重量を測定し、従来例のタイヤを100として指数評価した。この値が100未満の場合を○、100以上の場合を×とした。結果を1および2に併記する。
【0036】
<破壊エネルギー>
各供試タイヤを7J×17のリムに組み付けた後、200kPaの内圧を充填した。その後、円形の突起(φ20mm)を各供試タイヤのセンター部のブロックに押し込み、トレッド部が破壊するのに必要なエネルギーを算出した。得られた値を比較例1のタイヤを100とした指数にて表わした。この数値が大きいほど、悪路走行性能に優れている。この値が100より大きい場合を○、100以下の場合を×とした。結果を表1および2に示す。
【0037】
【表1】


「【符号の説明】
【0040】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス
5a 第1ベルト層
5b 第2ベルト層
6 ベルト補強層
7,17 束
8,18 フィラメント
9,19 外接円
【図1】



(イ)甲12に記載された発明
甲12の実施例3を、【請求項1】、段落【0002】、【0012】の記載にならって整理すると、以下の発明が記載されているといえる。
「クラウン領域に配設されて接地部を形成するトレッド部1と、このトレッド部1の両側部に連続してタイヤ半径方向内方へ延びる一対のサイドウォール部2と、各サイドウォール部2の内周側に連続するビード部3とを備えており、左右一対のビードコア間にわたりトロイド状をなして跨る少なくとも1枚のカーカス層からなるカーカスと、該トレッド部と前記カーカスのクラウン領域との間に配置されて補強部を形成する、少なくとも2枚のベルト層からなるベルトと、該ベルトのタイヤ半径方向外側にタイヤ周方向に対し実質的に平行に配列された有機繊維コードのゴム引き布からなるベルト補強層を備える空気入りタイヤにおいて、
前記ベルトが少なくとも2層の傾斜ベルト層を有し、該傾斜ベルト層を構成する補強材が、2本のコードを撚らずに揃えた束であり、かつ、前記コードを構成する全てのフィラメントの径が同径であり、その径をa(mm)としたとき、隣り合う前記束同士の間隔が、前記コードの外接円を用いて表した間隔よりも期待値としてa/6(mm)以上増加し、前記傾斜ベルト層を構成する補強材をスチールコードとし、その構造が1×2、フィラメント径0.25mmであり、打ち込み数が58.5本/50mmであり、前記補強材の打込み角度はタイヤ周方向に対して±26°とし、ベルト層中のスチールコードが互いに交差するようにして構成されており、
前記ベルト補強層のタイヤ中央部から取り出した前記有機繊維コード1本の5%伸び時の引張り強さF(N)と、タイヤ中央部の5cm幅当たりの打込み数N(本/5cm)と、が下記式、
F×N>2500
で表わされる関係を満足し、
ベルト補強層の補強材である有機繊維コード(PET、1100dtex/2、5%伸び時の引張強さFが80N)は周方向に沿うように螺旋巻回して配設されている、空気入りタイヤ。」(以下、「甲12発明」という。)

イ 甲3の記載事項等
上記1(1)ウに記載のとおりである。

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲12発明とを対比する。
甲12発明における「空気入りタイヤ」は、本件特許発明1の「空気入りラジアルタイヤ」に相当する。
甲12発明の「ベルト層」は、スチールコードの構造が1×2であるから、本件特許発明1の「ベルト層はM本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本である」事項を備えると共に、2枚のベルト層の積層構造であり、ベルト角度はタイヤ周方向に対して±26°となっており、ベルト層中のスチールコードが互いに交差するようにして構成されていることから、本件特許発明1の「前記スチールコードは前記ベルト層の層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して傾斜して配列されている」事項を備えるものである。
また、甲12発明のスチールコードのフィラメント径が0.25mm、打込み本数が58.5本/50mmであることから、
スチールコード量A=S(0.1252×π×2)×E(58.5本/50mm)=5.74となり、「スチールコード量Aが5.0〜8.0の範囲内」である事項を備えるものである。
そして、甲12発明の「ベルト補強層」は、本件特許発明1の「ベルトカバー層」に相当し、甲12発明の「ベルト補強層」は、「ベルト補強層の補強材である有機繊維コード(PET、1100dtex/2、5%伸び時の引張強さFが80N)は周方向に沿うように螺旋巻回して配設されている」ものであるから、本件特許発明1の「前記有機繊維コードはタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回されている」事項を備えるものである。
さらに、甲12発明の「有機繊維コード」は、PETの1100dtex/2構造の5%伸び時の引張強さFが80N=8000cNであることから、8000/(1100×2) ≒3.6cN/dtex負荷時の伸びが5.0%であり、2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.8%となり、本件特許発明1の「2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0〜4.0%である有機繊維コード」なる事項を備えるものである。
してみると、両発明は、以下の点で一致する。
<一致点>
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルトカバー層とを有する空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ベルト層は、M本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本であり、前記スチールコードは前記ベルト層の層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して傾斜して配列されており、スチールコード量Aが5.0〜8.0の範囲内であり、
前記ベルトカバー層は、2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0〜4.0%である有機繊維コードで構成され、前記有機繊維コードはタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回されている空気入りラジアルタイヤ。

そして、両者は、以下の点で相違或いは一応相違する。
<相違点12−1>
スチールコードの物性について、本件特許発明1は「5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」と特定されているのに対し、甲12発明はそのような特定がされていない点。

そこで、上記<相違点12ー1>について検討する。
甲3には、転がり抵抗の低減化を図ってベルトコードを削減するときであっても、操縦安定性を高度に維持できる乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供することを目的(段落【0009】)とした技術が記載されているところ、その実施例10は、【表3】より、初期剛性値Y=1111kN/50mm幅、Sy×Ny=5.55mm2/50mm幅であり、
主ベルト層の初期剛性値Y=Ey×Sy×Ny
ここで、Ey:主ベルトコードの初期弾性率(5N〜50N負荷時伸びより算出)
Sy:主ベルトコードの素線断面積の和
Ny:主50mm幅あたりの主ベルトコード打ち込み本数 の関係式から、
Ey:主ベルトコードの初期弾性率(5N〜50N負荷時伸びより算出)=1111/5.55=200GPaであるものが記載されている。しかしながら、甲3には、ベルトカバー層を設けることはおろか、ベルトカバー層が「2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である」有機繊維を用いた場合に、ベルト層のスチールコードとして、「5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」のものを用いることでベルト層とベルトカバー層との間のセパレーションを防止する技術的事項について記載も示唆もされていない。そうすると、甲12発明におけるスチールコードとして、「5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」の物性を有するものを採用する動機付けは、甲12及び甲3にはなく、その他の証拠を参酌したとしても、<相違点12−1>に係る発明特定事項を当業者が容易になし得ることはできない。
そして、本件特許発明1は、「2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である有機繊維コード」で構成されるベルトカバー層と、「M本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本であり、前記スチールコードの5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」であるベルト層を組み合わせることにより、ロードノイズ性能を向上しながら、耐久性を向上することができるという効果(本件特許明細書段落【0021】)を奏するものであり、仮に、甲12発明に甲3に記載された技術事項を組み合わせられたとしても、上記効果は、甲12及び甲3、さらにその他の証拠を参酌しても予測し得るものとはいえない。
よって、本件特許発明1は、その余の相違点について検討するまでもなく、甲12発明及び甲3に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は請求項1を直接あるいは間接的に引用する発明であり、本件特許発明1の特定事項をすべて有するものである。
よって、上記アのとおり、本件特許発明2ないし4も、甲12発明及び甲3に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記<相違点12−1>について、「甲第3号証には、5N〜50N負荷時の初期弾性率が200GPa(130GPa以上)のスチールコードでベルト層を構成することが記載されている。そして、甲12発明と甲第3号証とは、スチールコードを束にして用いるベルト層を備えた空気入りラジアルタイヤという関連する技術分野に属し、低燃費性能と走行性能との両立という共通の課題を有することから、甲12発明のスチールコードに甲第3号証に記載の初期弾性率を適用して上記相違点15に係る技術事項を想到することは、当業者であれば容易になし得たものである。また、本件特許発明1が奏する作用効果は、甲12発明に甲第3号証記載事項を適用したものでも同様に奏する蓋然性が高く、当業者が予測できないものとまではいえないし、格別顕著なものということもできない。」と主張している。
しかしながら、上記イで示したように、甲12発明におけるスチールコードとして、「5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上」の物性を有するものを採用する動機付けは、甲12及び甲3ないしその他の証拠にはなく、相違点15(<相違点12−1>)に係る発明特定事項を当業者が容易になし得ることはできない。また、本件特許発明1の奏する効果は、甲12及び甲3、さらにその他の証拠を参酌しても予測し得るものとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張を首肯することができない。

(3)申立理由5についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、申立理由5によっては取り消すことはできない。

6 申立理由6(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細の記載は次のとおりである。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維コードからなるベルトカバー層を備えた空気入りラジアルタイヤに関し、更に詳しくは、ロードノイズを効果的に低減しながら、耐久性を向上することを可能にした空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車用又は小型トラック用の空気入りラジアルタイヤにおいては、一対のビード部間にカーカス層が装架され、トレッド部におけるカーカス層の外周側に複数層のベルト層が配置され、ベルト層の外周側にタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回された複数本の有機繊維コードを含むベルトカバー層が配置されている。このようなベルトカバー層に使用される有機繊維コードはナイロン繊維コードが主流であるが、近年、ナイロン繊維コードに比べて高弾性であり、かつ安価なポリエチレンテレフタレート繊維コード(以下、PET繊維コードと言う)を使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような高弾性のPET繊維コードからなるベルトカバー層を用いた場合、走行時に空気入りタイヤに生じる振動の周波数が車両と共振を起こしにくい帯域にずれる傾向があり、その結果、中周波ロードノイズを効果的に抑制することができる。
【0003】
一方で、ベルトカバー層に高弾性のPET繊維コードを用いた場合、隣接するベルト層を構成する補強コードとの物性差(弾性率や荷重負荷時の伸びの違い)に起因して、ベルト層とベルトカバー層との間でセパレーションが生じやすくなる虞がある。そのため、ベルトカバー層(高弾性のPET繊維コード)による前述のロードノイズ抑制効果を得ながら、ベルト層とベルトカバー層との間のセパレーションに対する耐久性を向上する対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−63312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、有機繊維コードからなるベルトカバー層を備えた空気入りラジアルタイヤであって、ロードノイズを効果的に低減しながら、耐久性を向上することを可能にした空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りラジアルタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルトカバー層とを有する空気入りラジアルタイヤにおいて、前記ベルト層は、M本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本であり、前記スチールコードの5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上であり、前記スチールコードは前記ベルト層の層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して傾斜して配列されており、前記スチールコードの断面積S(mm2 )と前記スチールコードの長手方向と直交する向きの幅50mm当たりの前記スチールコードの打ち込み本数E(本/50mm)の積として算出されるスチールコード量Aが5.0〜8.0の範囲内であり、前記ベルトカバー層は、2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である有機繊維コードで構成され、前記有機繊維コードはタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、ベルトカバー層に2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である有機繊維コードを用いることで、走行時に空気入りタイヤに生じる振動の周波数を車両と共振を起こしにくい帯域にずらすことができ、中周波ロードノイズを低減し、騒音性能を向上することができる。一方で、ベルト層として、上述の構造と物性を有して初期伸びの小さいスチールコードを用いているので、ベルト層とベルトカバー層との層間のセパレーションを効果的に防止することができ、耐久性を向上することができる。
【0008】
本発明においては、スチールコードの断面積S(mm2 )とスチールコードの長手方向と直交する向きの幅50mm当たりのスチールコードの打ち込み本数E(本/50mm)の積として算出されるスチールコード量Aは5.0〜8.0の範囲内である。これにより、ベルト層の構造が良好になるので、ベルト層とベルト補強層との層間のセパレーションを防止して、耐久性を向上するには有利になる。
【0009】
本発明においては、素線の本数Mが2本であり、スチールコードが1×2構造を有する仕様にすることが好ましい。或いは、素線の本数Mが1本であり、スチールコードが単線構造を有する仕様にすることが好ましい。いずれの仕様であっても、その構造によって初期伸びを効果的に小さくすることができるため、ベルト層とベルト補強層との層間のセパレーションを防止して、耐久性を向上するには有利になる。
【0010】
本発明においては、有機繊維コードがポリエステル繊維で構成されることが好ましい。このようにポリエステル繊維を用いることで、その優れた物性(高弾性率)により、効果的にロードノイズ性能を高めることができる。」
「【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0014】
図示の例では、トレッド部1の外表面にタイヤ周方向に延びる複数本(図示の例では4本)の主溝が形成されているが、主溝の本数は特に限定されない。また、主溝の他にタイヤ幅方向に延びるラグ溝を含む各種の溝やサイプを形成することもできる。
【0015】
左右一対のビード部3間にはタイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含むカーカス層4が装架されている。各ビード部には、ビードコア5が埋設されており、そのビードコア5の外周上に断面略三角形状のビードフィラー6が配置されている。カーカス層4は、ビードコア5の廻りにタイヤ幅方向内側から外側に折り返されている。これにより、ビードコア5およびビードフィラー6はカーカス層4の本体部(トレッド部1から各サイドウォール部2を経て各ビード部3に至る部分)と折り返し部(各ビード部3においてビードコア5の廻りに折り返されて各サイドウォール部2側に向かって延在する部分)とにより包み込まれている。カーカス層4の補強コードとしては、例えばポリエステル繊維コードが好ましく使用される。
【0016】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図示の例では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コード7Cを含み、かつ層間で補強コード7Cが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コード7Cのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コード7Cとしてはスチールコードが使用される(以下の説明では、「補強コード7C」を「スチールコード7C」という場合がある)。
【0017】
特に、本発明では、ベルト層7を構成するスチールコード7Cは、図2に示すように、M本の素線7sからなる1×M構造(図示の例では1×2構造)を有する。本発明において、素線7sの本数Mは1本〜6本である。つまり、本発明のスチールコード7Cは、1本の素線7sからなる1×1構造(即ち、単線構造)を有するか、或いは、M本(2〜6本)の素線7sを撚り合わせて構成された1×M構造を有する。特に、1×1構造(単線構造)や図示の1×2構造は、撚り構造に起因する初期伸びが小さく、素線7sとそのコートゴムとの間に生じる応力が小さくなるため、好適に採用することができる。
【0018】
また、本発明のスチールコード7Cは、5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上、好ましくは150GPa〜200GPaである。尚、スチールコード7Cの5N〜50N負荷時の引張弾性率とは、タイヤから採取したスチールコード7Cの引張試験を行ったときに得られる荷重−歪み曲線の荷重5N〜50Nの範囲における傾き(荷重/歪み)を、コードを構成する素線7sの断面積の和で割ることで得た数値である。
【0019】
ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上とロードノイズの低減を目的として、ベルトカバー層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°〜5°に設定されている。本発明では、ベルトカバー層8は、ベルト層7の全域を覆うフルカバー層8aを必ず含み、任意でベルト層7の両端部を局所的に覆う一対のエッジカバー層8bを含む構成にすることができる(図示の例では、フルカバー層8aおよびエッジカバー層8bの両方を含む)。ベルトカバー層8は、少なくとも1本の有機繊維コードを引き揃えてコートゴムで被覆したストリップ材をタイヤ周方向に螺旋状に巻回して構成するとよく、特にジョイントレス構造とすることが望ましい。
【0020】
特に、本発明では、ベルトカバー層8を構成する有機繊維コードとして、2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である有機繊維コードが使用される。有機繊維コードを構成する有機繊維の種類は特に限定されないが、例えばポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維などを用いることができ、なかでもポリエステル繊維を好適に用いることができる。また、ポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)、ポリエチレンナフタレート繊維(PEN繊維)、ポリブチレンテレフタレート繊維(PBT)、ポリブチレンナフタレート繊維(PBN)を例示することができ、PET繊維を好適に用いることができる。尚、本発明において、2.0cN/dtex負荷時の伸びは、JIS−L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施し、2.0cN/dtex負荷時に測定される試料コードの伸び率(%)である。
【0021】
このように、特定の構造および物性を有するスチールコード7Cからなるベルト層7と、特定の物性を有する有機繊維コードからなるベルトカバー層8を組み合わせて用いることで、ロードノイズ性能を向上しながら、耐久性を向上することができる。即ち、ベルトカバー層8においては、有機繊維コードの物性によって、走行時に空気入りタイヤに生じる振動の周波数を車両と共振を起こしにくい帯域にずらすことができ、ロードノイズ性能を向上することができる。一方、ベルト層7においては、上述の構造と物性を有して初期伸びの小さいスチールコード7Cを用いているので、ベルト層7とベルトカバー層8との層間のセパレーションを効果的に防止することができ、耐久性を向上することができる。
【0022】
このとき、ベルト層7を構成するスチールコード7Cの素線7sの本数Mが6本を超えると撚り構造が安定せず、初期伸びが悪化する。ベルト層7を構成するスチールコード7Cの5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa未満であると、スチールコード7Cの初期伸びを低減することができず、ベルト層7とベルトカバー層8との層間のセパレーションを防止する効果が得られない。ベルトカバー層8を構成する有機繊維コードの2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%未満であると、有機繊維コードの耐疲労性が低下し、ベルト層7とベルトカバー層8との層間のセパレーションに対する耐久性が低下する。ベルトカバー層8を構成する有機繊維コードの2.0cN/dtex負荷時の伸びが4.0%を超えると、ロードノイズ性能を充分に向上することができない。
【0023】
スチールコード7Cの断面積S(mm2 )とスチールコード7Cの長手方向と直交する向きの幅50mm当たりのスチールコード7Cの打ち込み本数E(本/50mm)との積をスチールコード量Aと定義すると、このスチールコード量Aは好ましくは5.0〜8.0の範囲内であるとよい。これにより、ベルト層の構造が良好になるので、ベルト層とベルト補強層との層間のセパレーションを防止して、耐久性を向上するには有利になる。スチールコード量Aが5.0未満であると、ベルト層7に占めるスチールコード7Cの割合が減少するため、操縦安定性が低下する虞がある。スチールコード量Aが8.0を超えると、ベルト層7とベルトカバー層8との層間のセパレーションを防止する効果が充分に得られない。スチールコード7Cの断面積Sや打ち込み本数Eの個々の数値範囲は特に限定されないが、スチールコード7Cの断面積Sは例えば0.08mm2 〜0.30mm2 、打ち込み本数Eは例えば20本/50mm〜60本/50mmに設定することができる。
【0024】
ベルト補強層8を構成する有機繊維コードとして、ポリエチレンテレフタレート繊維コード(PET繊維コード)を用いる場合、100℃における44N負荷時の弾性率が3.5cN/(tex・%)〜5.5cN/(tex・%)の範囲にあるPET繊維コードを用いることが好ましい。このように特定の物性のPET繊維コードを用いることで、空気入りラジアルタイヤの耐久性を良好に維持しながら、ロードノイズを効果的に低減することができる。PET繊維コードの100℃における44N負荷時の弾性率が3.5cN/(tex・%)未満であると、中周波ロードノイズを十分に低減することができない。PET繊維コードの100℃における44N負荷時の弾性率が5.5cN/(tex・%)を超えると、コードの耐疲労性が低下してタイヤの耐久性が低下する。尚、本発明において、100℃での44N負荷時の弾性率[N/(tex・%)]は、JIS−L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施し、荷重―伸び曲線の荷重44Nに対応する点における接線の傾きを1tex当たりの値に換算することで算出される。
【0025】
ベルト補強層8を構成する有機繊維コードとして、ポリエチレンテレフタレート繊維コード(PET繊維コード)を用いる場合、更に、PET繊維コードの100℃における熱収縮応力が0.6cN/tex以上であることが好ましい。このように100℃における熱収縮応力を設定することで、空気入りラジアルタイヤの耐久性を良好に維持しながら、ロードノイズを効果的に低減することができる。PET繊維コードの100℃における熱収縮応力が0.6cN/texよりも小さいと走行時のタガ効果を充分に向上することができず、高速耐久性を十分に維持することが難しくなる。PET繊維コードの100℃における熱収縮応力の上限値は特に限定されないが、例えば2.0cN/texにするとよい。尚、本発明において、100℃での熱収縮応力(cN/tex)は、JIS−L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、試料長さ500mm、加熱条件100℃×5分の条件にて加熱したときに測定される試料コードの熱収縮応力である。
【0026】
上述のような物性を有するPET繊維コードを得るために、例えばディップ処理を適正化すると良い。つまり、カレンダー工程に先駆けて、PET繊維コードには接着剤のディップ処理が行われるが、2浴処理後のノルマライズ工程において、雰囲気温度を210℃〜250℃の範囲内に設定し、コード張力を2.2×10-2N/tex〜6.7×10-2N/texの範囲に設定することが好ましい。これにより、PET繊維コードに上述のような所望の物性を付与することができる。ノルマライズ工程におけるコード張力が2.2×10-2N/texよりも小さいとコード弾性率が低くなり、中周波ロードノイズを十分に低減することができず、逆に6.7×10-2N/texよりも大きいとコード弾性率が高くなり、コードの耐疲労性が低下する。」
「【実施例】
【0027】
タイヤサイズが225/60R18であり、図1に例示する基本構造を有し、ベルト層を構成するスチールコードの構造、スチールコードの5N〜50N負荷時の引張弾性率、スチールコードの断面積Sとスチールコードの長手方向と直交する向きの幅50mm当たりのスチールコードの打ち込み本数Eとの積として算出されるスチールコード量A、ベルトカバー層を構成する有機繊維コードに用いられた有機繊維の種類、有機繊維コードの2.0cN/dtex負荷時の伸びを、表1〜2のように異ならせた従来例1、比較例1〜4、実施例1〜10のタイヤを製作した(尚、スチールコード量Aが「5.0〜8.0」の範囲から外れる実施例6および10はそれぞれ参考例である)。
【0028】
いずれの例においても、ベルトカバー層は、1本の有機繊維コード(ナイロン66繊維コードまたはPET繊維コード)を引き揃えてコートゴムで被覆してなるストリップをタイヤ周方向に螺旋状に巻回したジョイントレス構造を有している。ストリップにおけるコード打ち込み密度は50本/50mmである。また、有機繊維コード(ナイロン66繊維コードまたはPET繊維コード)はそれぞれ1100dtex/2の構造を有する。
【0029】
表1,2の「有機繊維の種類」の欄については、ナイロン66繊維コードの場合を「N66」、PET繊維コードの場合を「PET」と表示した。
【0030】
これら試験タイヤについて、下記の評価方法により、ロードノイズ性能、ベルト層とベルトカバー層とのセパレーションに対する耐久性、操縦安定性を評価し、その結果を表1,2に併せて示した。
【0031】
ロードノイズ性能
各試験タイヤをリムサイズ18×7Jのホイールに組み付けて、排気量2500ccの乗用車(前輪駆動車)の前後車輪として装着し、空気圧を230kPaとし、運転席の窓の内側に集音マイクを設置し、アスファルト路面からなるテストコースを平均速度50km/hの条件で走行させた際の周波数315Hz付近の音圧レベルを測定した。評価結果としては、従来例を基準とし、その基準に対する変化量(dB)を示した。尚、変化量が0dB〜−1dBでは、実質的にロードノイズの低減効果が得られていないことを意味する。
【0032】
耐久性
各試験タイヤをリムサイズ18×7Jのリムに装着し、内圧280kPaで酸素封入した状態で、室温70℃に保持されたチャンバー内に2週間保持した後、内部の酸素を解放し、空気を170kPaにて充填する。このように前処理された試験タイヤを、直径が1707mmの室内ドラム試験機を用い、周辺温度を38±3℃に制御し、走行速度50km/h、スリップ角0±3°、JATMA最大荷重の70%±40%の変動条件下で、荷重とスリップ角を0.083Hzの矩形波で変動させて100時間、5000km走行させた。走行後に、タイヤを分解してベルト層とベルトカバー層との層間におけるセパレーションの量(mm)を測定した。評価結果は、セパレーションの量が3mm以下の場合を「良」、セパレーションの量が3mm超5mm以下の場合を「可」、セパレーションの量が5mm超の場合を「不可」とする3段階で示した。評価結果が「良」または「可」であれば充分な耐久性が得られたことを意味し、「良」の場合は特に優れた耐久性を示したことを意味する。
【0033】
操縦安定性
各試験タイヤをリムサイズ18×7Jのホイールに組み付けて、排気量2500ccの乗用車(前輪駆動車)の前後車輪として装着し、空気圧を230kPaとし、乾燥路面からなるテストコースにて、操縦安定性について5人のテストドライバーによる官能評価を行った。評価結果は、従来例1の結果を3点(基準)とする5点法で採点し、最高点と最低点を除いた3名のテストドライバーの点数の平均値を示した。この点数が大きいほどロードノイズ性能(官能測定)が優れることを意味する。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】


【0036】
表1,2から判るように、実施例1〜10のタイヤは、基準となる従来例1との対比において、ロードノイズ性能を向上し、且つ、耐久性および操縦安定性を維持または向上した。一方、比較例1は、ベルト層を構成するスチールコードの引張弾性率が小さいため、ベルト層とベルトカバー層とのセパレーションを防止できず、充分な耐久性が得られなかった。比較例2は、ベルトカバー層を構成する有機繊維コードの2.0cN/dtex負荷時の伸びが大きすぎるため、ロードノイズ性能の改善効果が得られなかった。比較例3は、ベルトカバー層の2.0cN/dtex負荷時の伸びが小さすぎるため、ベルト層とベルトカバー層とのセパレーションを防止できず、充分な耐久性が得られなかった。比較例4は、ベルトカバー層の2.0cN/dtex負荷時の伸びが大きすぎるため、ロードノイズ性能の改善効果が充分に得られず、また操縦安定性が低下した。」
「【符号の説明】
【0037】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
7C 補強コード(スチールコード)
7s 素線
8 ベルトカバー層
CL タイヤ赤道
【図1】


【図2】



(4) サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の段落【0005】によると、本件特許発明1ないし4の解決しようとする課題(以下、「本件特許発明の課題」という。)は、「有機繊維コードからなるベルトカバー層を備えた空気入りラジアルタイヤであって、ロードノイズを効果的に低減しながら、耐久性を向上することを可能にした空気入りラジアルタイヤを提供すること」である。
一方、同段落【0007】には、「本発明では、ベルトカバー層に2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である有機繊維コードを用いることで、走行時に空気入りタイヤに生じる振動の周波数を車両と共振を起こしにくい帯域にずらすことができ、中周波ロードノイズを低減し、騒音性能を向上することができる。一方で、ベルト層として、上述の構造と物性を有して初期伸びの小さいスチールコードを用いているので、ベルト層とベルトカバー層との層間のセパレーションを効果的に防止することができ、耐久性を向上することができる。」と記載され、さらに同【0021】及び【0022】には、「このように、特定の構造および物性を有するスチールコード7Cからなるベルト層7と、特定の物性を有する有機繊維コードからなるベルトカバー層8を組み合わせて用いることで、ロードノイズ性能を向上しながら、耐久性を向上することができる。即ち、ベルトカバー層8においては、有機繊維コードの物性によって、走行時に空気入りタイヤに生じる振動の周波数を車両と共振を起こしにくい帯域にずらすことができ、ロードノイズ性能を向上することができる。一方、ベルト層7においては、上述の構造と物性を有して初期伸びの小さいスチールコード7Cを用いているので、ベルト層7とベルトカバー層8との層間のセパレーションを効果的に防止することができ、耐久性を向上することができる。
このとき、ベルト層7を構成するスチールコード7Cの素線7sの本数Mが6本を超えると撚り構造が安定せず、初期伸びが悪化する。ベルト層7を構成するスチールコード7Cの5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa未満であると、スチールコード7Cの初期伸びを低減することができず、ベルト層7とベルトカバー層8との層間のセパレーションを防止する効果が得られない。ベルトカバー層8を構成する有機繊維コードの2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%未満であると、有機繊維コードの耐疲労性が低下し、ベルト層7とベルトカバー層8との層間のセパレーションに対する耐久性が低下する。ベルトカバー層8を構成する有機繊維コードの2.0cN/dtex負荷時の伸びが4.0%を超えると、ロードノイズ性能を充分に向上することができない。」と記載されている。
以上を踏まえると、当業者は、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルトカバー層とを有する空気入りラジアルタイヤにおいて、前記ベルト層は、M本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本であり、前記スチールコードの5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上であり、前記スチールコードは前記ベルト層の層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して傾斜して配列されており、前記ベルトカバー層は、2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である有機繊維コードで構成され、前記有機繊維コードはタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回されている空気入りラジアルタイヤは、本件特許発明の課題を解決できると認識するものである。
そして、本件件特許発明1は、上記空気入りラジアルタイヤをさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
また、本件特許発明2ないし4についても同様である。
よって、本件特許発明1ないし4に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。

(5) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第3 1(6)ア及びイの主張をしているので、以下検討する。
ア 主張アについて
実施例には、素数の本数Mが1本〜3本の例しかないとしても、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0022】に、「このとき、ベルト層7を構成するスチールコード7Cの素線7sの本数Mが6本を超えると撚り構造が安定せず、初期伸びが悪化する。」と記載されているし、素数の本数Mが4本〜6本の場合に、本件特許発明の課題を解決出来ないことを示す証拠もない。
よって、特許異議申立人の主張は首肯することができない。
イ 主張イについて
上記4で示したように、「スチールコード量Aが5.0〜8.0の範囲内」なる事項は、本件特許発明の課題を解決するための必須の発明特定事項ではない。
よって、特許異議申立人の主張は首肯することができない。

(6) 申立理由6についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由6によっては取り消すことはできない。

7 申立理由7(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものである。

(2)特許請求の範囲及び明細書の発明の詳細な説明の記載
上記第2及び上記6(3)に記載のとおりである。

(3)検討
当業者の技術常識(例えば、特開2016−068904号公報の段落【0011】、【表1−1】、特開2007ー161027号公報の段落【0025】、【0030】、特開2015−199389号公報の段落【0052】、【表1】、特開2009−208726号公報の段落【0062】の記載)を参酌すると、「スチールコードの打ち込み本数E(本/50mm)」が、ベルト層1層当たりの本数を意味することは明らかである。
そうすると、特許請求の範囲1の記載及びこれを引用する請求項2ないし4の記載は不明確ではなく、かつ、本件特許明細書の記載も特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載と矛盾するものではないから、当業者の出願日における技術常識の基礎として、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。

(3)申立理由7についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、申立理由7によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。

8 申立理由8(実施可能要件)について
(1)判断基準
本件特許発明1ないし4は何れも物の発明であるところ、物の発明の実施とは、その物の生産及び使用等をする行為であるから、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。

(2)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明の記載は、上記6(3)のとおりである。

(3)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の段落【0012】ないし【0026】には本件特許発明1ないし4に使用する材料並びに製造方法について具体的な記載があり、同【0027】ないし【0036】には、実施例1ないし10として、本件特許発明1ないし4の発明特定事項を備える空気入りラジアルタイヤが記載されている。
したがって、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし4に係る物を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし4に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。

(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第3 1(8)の主張をしている。
しかしながら、スチールコードの引張り弾性率は、素材により変化するものであるところ、引張り弾性率が130GPa以上の物は、特許異議申立人が証拠として示しているように公知のものであって、当業者が適宜入手可能なものである。このため、当業者は、本件特許出願時の技術常識に基づいて、撚り線である1×2構造のスチールコードの引張弾性率を変動させるのか理解することができる。
よって、特許異議申立人の上記主張は首肯できない。

(5)申立理由8についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由8によっては、取り消すことはできない。

第5 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-11-18 
出願番号 P2019-020582
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B60C)
P 1 651・ 537- Y (B60C)
P 1 651・ 536- Y (B60C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 相田 元
細井 龍史
登録日 2020-12-14 
登録番号 6809548
権利者 横浜ゴム株式会社
発明の名称 空気入りラジアルタイヤ  
代理人 清流国際特許業務法人  

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