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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04C
管理番号 1381191
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-19 
確定日 2022-01-05 
事件の表示 特願2017−516050号「真空を生成するための圧送システムおよびこの圧送システムによる圧送方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月31日国際公開,WO2016/045753,平成29年10月19日国内公表,特表2017−531125号〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 経緯の概略
本願は,2014年(平成26年)9月26日を国際出願日とする出願であって,その経緯は,概ね次のとおりである。
平成29年 7月28日 手続補正書
平成30年 6月25日付け 拒絶理由通知書
平成30年10月 2日 意見書,手続補正書
平成31年 3月 8日付け 拒絶査定
令和 元年 7月19日 拒絶査定不服審判請求書,手続補正書
令和 2年 8月24日付け 拒絶理由通知書
令和 2年11月20日 意見書,手続補正書
令和 3年 2月17日付け 拒絶理由通知書
令和 3年 5月24日 意見書,手続補正書

第2 本願発明
本願の請求項1〜11に係る発明は,令和3年5月24日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。
「【請求項1】
真空を生成するための圧送システム(SP)であって,
真空チャンバ(1)に連結されたガス吸い込み入口(2)と,圧送システムの外側のガスエグゾースト出口(8)の方向においてガス真空排気導管(5)内に至るガスディスチャージ出口(4)とを有する,第1のモータ付きの乾式スクリューポンプである主真空ポンプ(3)と,
前記ガスディスチャージ出口(4)と前記ガスエグゾースト出口(8)との間に位置する逆止め弁(6)と,
前記逆止め弁(6)に並列に連結された,第2のモータ付きの補助真空ポンプ(7)と,を備え,
前記補助真空ポンプ(7)は,前記主真空ポンプ(3)と同時に始動するように,また前記主真空ポンプ(3)が前記真空チャンバ(1)に含まれるガスを圧送している間じゅうおよび前記主真空ポンプ(3)が前記真空チャンバ(1)内の所定の圧力を維持している間じゅう圧送するように設計され,
前記主真空ポンプ(3)と前記補助真空ポンプ(7)の結合は,手段,センサ又は制御ユニットを必要とせずに行われ,
前記補助真空ポンプ(7)は,乾式スクリューポンプ,クローポンプ,多段ルーツポンプ,ダイヤフラムポンプ,乾式回転羽根ポンプおよび潤滑回転羽根ポンプの中から選択される
ことを特徴とする圧送システム。」

第3 当審にて通知した拒絶の理由の概要
当審にて令和3年2月17日付けで通知した拒絶の理由の概要は次のとおりである。
1 本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。
2 本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(引用例)
引用例1 特開平6−129384号公報
引用例2 特開2003−129957号公報
引用例3 特開2003−139055号公報

第4 当審にて通知した拒絶の理由についての判断
1 引用例の記載事項
(1) 引用例1
ア 引用例1には,以下の事項が記載されている(なお,丸付き数字については,「○1」などと表記した。また,下線は当審にて付与した。)。
・「【請求項1】 吸気孔に近い方に設けられた上流側ポンプ部分と,吐出孔に近い方に設けられ,前記上流側ポンプ部分よりも排気流量の小さな下流側ポンプ部分より構成されることを特徴とする真空排気装置。」
・「【請求項2】 ハウジング内に収納された複数個のロータと,前記ロータ回転を支持する軸受と,前記ハウジングに形成された流体の吸入口及び吐出口と,前記吸入口および吐出口とそれぞれ連通する前記ハウジング内の吸入室及び吐出室と,前記ロータを回転駆動するモータと,前記ロータおよび前記ハウジングで形成される真空の容積変化を利用して容積変化を利用して容積型ポンプを形成して,前記上流側ポンプ部分とすると共に,前記ロータ及び前記ハウジングの狭いすきまの相対移動面を利用した粘性ポンプを形成して,前記下流側ポンプ部分としたことを特徴とする請求項1記載の真空排気装置。」
・「【請求項8】 下流側ポンプ部分は,前記上流側ポンプ部分とは独立したモータにより回転駆動されることを特徴とする請求項1記載の真空排気装置。」
・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は半導体製造設備の真空チャンバーなどの排気に用いられる真空ポンプに関するものである。」
・「【0004】
【発明が解決しようとする課題】以上の半導体設備の真空排気系の要請に答えるため,従来から用いられていた油回転ポンプに代り,より清浄な真空を得ることを目的として,粗引用のドライ真空ポンプが広く用いられる様になっている。しかしこのドライ真空ポンプには次の様な問題点があった。
【0005】(1)消費動力が大きい。
(2)騒音,振動が大きい。
【0006】(3)到達圧力が不十分である。」
・「【0018】本発明は従来の真空ポンプが抱える上述した課題に答えるものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため,この発明にかかる真空ポンプでは,吸気孔に近い方に設けられた第一のポンプ部分(上流側ポンプ部分)と,吐出孔に近い方に設けられ,前記第1ポンプ部分よりも排気流量の小さな第2のポンプ部分(下流側ポンプ部分)より構成されることを特徴とする。
【0020】この発明にかかる真空ポンプは,第2のポンプ部分を粘性型あるいは容積型のいずれで構成してもよい。」
・「【0026】
【作用】本発明による真空ポンプでは,
○1大きな排気量が得られる第一のポンプ部分
○2排気量は小さいが十分に低い真空圧が得られる第2のポンプ部分
上記○1○2がシリーズに連結した形で構成されている。上記○1○2のポンプでは独立して設けられていても,あるいは連続的に形成されていても効果は同様である。ポンプが真空引きを開始した直後の状態では,上記○1のポンプが有効に働き,大きな重量流量の排気を行う。真空ポンプの上流側に継ながった真空チャンバーの容積が小さければ,チャンバー内は通常数秒以内で十分に低い真空圧まで降下する。この状態で,大気側(吐出側)に継ながっているのは,排気量の小さな上記○2のポンプであり,したがってポンプの排気量(受圧面積)で決まるトルクは小さい。
【0027】上記○2のポンプは,排気流量は十分小さくてもよいため,容積型,粘性型等いずれの型式のポンプでもよい。
【0028】また上記○1のポンプを複数個のロータの組合せからなる,たとえばねじ溝式,或いはスクリュー式で構成し,この複数個のロータを電子制御による同期制御で運転すれば,ロータの高速回転が図れる。この高速回転の効果によって,上記○2のポンプの大気側から上流側への内部リークが減少する。その結果上記○1のポンプの下流側が低い真空圧を保つことができるため,一層の低トルク化が図れる。
【0029】さらに上記○1と○2のポンプの中間部にバルブを形成して吐出孔を別途設けることにより,真空チャンバーの排気時間を一層短くできる。ポンプが真空引きを開始した直後の状態では,上記○1のポンプにより大きな重量流量の排気を行ない,○1と○2の各ポンプの中間部に設けられた第1の排気孔より開放されたバルブを通過して吐出される。第1のポンプの吸気側が十分に低い真空圧に到達した段階では,上記バルブは閉じ込められており,その代わりに○2のポンプの下流に設けられた第2の排気孔だけがポンプ外部の排気側と連結することになる。このとき第1のポンプ○1の排気側は,ポンプ○2によって十分に低い真空圧となっている。したがって第1のポンプ○1を回転させるに要する動力は大幅に低減する。○2のポンプは排気量が小さいためその動力も小さい。したがってトータルとしての動力○1+○2も同様に大幅に低減することになる。
【0030】上記いずれの場合も,第1のポンプ○1は真空中で回転するのと同じ状態となるため,従来のドライ真空ポンプの様な排気側からの気体のポンプへの逆流と,それにともなう周期的な脈動音も発生しない。また,例えばねじ溝(スクリュー)の羽根が高速回転するとき発生する風切り音もない。したがって本発明のポンプでは静音化が図れるのである。」
・「【0040】[2]ねじ溝ポンプによる第1の実施例の説明
以下本発明の実施例について,図2及び図3をもとに説明する。
【0041】ここで図3(a)は[1]排気開始直後の状態,図3(b)は[2]真空ポンプの吸気側,すなわち真空チャンバー内が十分に低い真空圧に到達した状態を示す。
【0042】50a,50bはスクリュー(ねじ溝)ロータ,51は吸気孔,52はロータ50a,50bを収納するハウジング,53は第1の排気孔である。
【0043】51,50a,50b,52,53で容積型のスクリューポンプ(第1のポンプ)を構成している。54a,54bは前記ロータ50a,50bの同軸上に形成されたスパイラルグルーブによる粘性ポンプ(第2のポンプ),55は粘性ポンプの排気側に設けられた第2の排気孔,56はバルブのスプール,57はバルブの開孔部,58はスプールに軸方向荷重を与えるためのバネである。56,57,58で制御バルブ59を構成している。60は各ロータ50a,50bの回転を支持する軸受(62a,62b,63a,63b)が収納された下部ハウジング,64a,64bは前記ロータ50a,50bと一体化した回転軸,61a,61bは各ロータのスクリュー溝の同期をとるためのタイミングギヤである。65はN2ガスパージの外部からの流入部,66は第1のポンプの排気側空隙部である。
【0044】○1排気開始直後の状態
真空チャンバー(後述する図5の100)に継ながる吸気側は,例えば大気に開放された状態にあり,吸気圧は大気圧と同オーダーである。吸気孔51から,スクリュー50a,50bによって輸送された気体は,第1のポンプの排気側である空隙部66で若干圧縮された状態となる。
【0045】スプール56前後の圧力差とバネ58の推力とのバランスによって,空隙部66の圧力が高い圧力のときには,制御バルブ59が開放状態になる様にバネ58の力が設定されている。従って密度の十分に高い気体を輸送するときには,ほとんどの気体は図3(a)の矢印の流路を経て外部へ流出することになる。
【0046】○2吸気側が低い真空圧に到達した状態
このときは空隙部66の圧力が低下しているために,バブル59は閉じた状態になる。しかし第2のポンプである粘性ポンプは常に働いているため,空隙部66に残存している気体は第2の排気孔55を経て外部へ排出される。また第一のポンプの吸気側から反応性ガス,N2が流入する場合も,前述した様に,せいぜいQ=50〜150cc/minのオーダーの微小流量である。この程度の流量ならば,粘性ポンプで十分に排出できる。従って,第1のポンプであるスクリューポンプ50a,50bの排気側(空隙部66)の圧力は十分に低圧の状態を維持することができる。」
・「【0050】[3]半導体設備における本発明の使用例
図5において100は真空チャンバー,101はロードロック室,102は上記100,101間のゲート,103は大気と上記101間のゲート,104はスロットルバルブ,105はバルブa,106はバルブb,107はバルブC,108は本発明の粗引きポンプ,109は反応性ガス源,110はマスフローコントローラ,111はN2ガス源,112は切換えバルブ,113はターボ分子ポンプ,114は吸着塔,115は工場配管である。上記設備における真空排気系の動体手順は次の様である。」
・「【0056】上述した行程において,生産が続けられる限りは,上記行程○5→○2へもどり,再度同じ行程をくり返すことになる。ここで上述した行程における粗引きポンプ108に着目して粗引きポンプの負荷状況を整理すれば,次の様である。
【0057】(1)行程○1つまり,真空チャンバー内の空気を排除する段階でのみ,粗引きポンプは大量の気体を輸送する。この行程はほんの数秒から数十秒で完了する。
【0058】(2)行程○2以降,すなわち,ターボ分子ポンプと粗引きポンプを同時に用いる段階では,粗引きポンプ108はターボ分子ポンプ113の排気側圧力を下げる目的で用いられており,輸送する気体の重量流量はごく僅かである。行程○2,○3,○4でN2ガス及び反応性ガスを輸送するが,しかし流量はせいぜいQ=50〜150cc/min程度である。
【0059】したがって,以上の一実施例で示した様に,半導体製造行程における粗引きポンプが,密度の高い気体を輸送する時間の総稼動時間に対する比率はごく僅かであり,ほとんどが大気と真空チャンバー間の圧力差を維持する目的か,あるいは上段にあるターボ分子ポンプの排気側圧力を下げる目的で用いられているのである。前述した様に,半導体設備のマルチチャンバー化によって,真空排気系に用いられる真空ポンプの数はますます増加し,また排気量も大型化する傾向にある。したがって本発明の真空ポンプの導入により,半導体工場全体の大幅な省エネルギー化が可能となるのである。」
・「【0061】図6には第2のポンプに粘性ポンプではなく容積型のスクリュー(ねじ溝)ポンプを使った場合を示す。2つのロータには,お互いに噛み合う様に溝幅,溝深さの小さいマイクロ・スクリュー300a,300bが形成されている。スクリューポンプの駆動トルクは,溝深さ,溝幅で決まる排気容積に比例するため,この場合も第2のポンプに必要な駆動トルクも小さくてすむ。従って定常運転時の大幅な動力削減の効果が得られるのである。」
・「【0082】(第7の実施例)図13〜図15は,2つのスクリューロータの同期運転に必要なタイミングギヤを第2のポンプ(ギヤポンプ)として用いることにより,ポンプ構造の大幅な簡素化を図った例である。すなわち,150a,150bの2つのギヤは,第2のポンプとして図中の矢印で示す様に微少流量の気体を圧送して,第1のポンプの排気側(空隙部66)の圧力を降下させると共に,2つのスクリューロータ50a,50bが互いに接触しないで同期回転できるタイミングギヤとしての機能も兼ねているのである。151は前記ギヤ150a,150bの上フタ,152は上部ハウジング,153は下部ハウジング,152は前記上フタ151に形成された第2のポンプの吸気孔,155は前記下部ハウジング153及び上部ハウジング152に形成した第2の排気孔である。」
・「【0084】(第9の実施例)図18は,従来の真空ポンプに対しても本発明の効果,すなわち○1低消費動力,○2到達真空圧の向上○3低騒音化等の効果が得られる様に,本発明をユニット化した場合を示す。制御ユニット350の内部に,制御バルブ,第2のポンプ(マイクロポンプ)等を内蔵することにより,従来構造の真空ポンプの内部に大きく手を加えることなく,従来真空ポンプの排気孔に制御ユニット350の吸気孔を連結するだけで,上述した本発明の効果が得られるのである。351は従来のスクリュー式の真空ポンプであり,吸気孔352,吐出孔353,スクリューロータ354a,354b,ハウジング355,タイミングギヤ356a,356bより構成される。図19(a)(b)(c)は制御ユニットの詳細を示すもので,図19(a)は(1)排気開始直後の状態,図19(b)は(2)吸気側が十分に低い真空圧に到達した状態を示す。370は吸気孔,371は排気孔,372はロータ373に形成されたスパイラルグルーブによる粘性ポンプ,374は前記ロータを駆動するためのモータ,375は電磁ソレノイド,376は前記ソレノイドのロッド,377は前記ロッド376の直線運動を支持するブッシュ,378は前記ロッド376の中間部に設けられたスプール378である。前記スプール378は前記ロッド376に摺動可能に挿入されているが,通常圧縮バネ379によって一方向に押しつけられている。380はスプールの台座である。この実施例では,真空ポンプの吸気側(あるいは真空チャンバー内)に設置された圧力センサーからの信号(図中C)により,電磁ソレノイドが駆動され,バブルが開閉する。
【0085】なを図19(c)に示す様に,ポンプの吸気側が突如大気側に開放された場合には,電磁ソレノイドの電流の印加状態に関係なく,スプール378を通常一方向に位置規制しているバネ379が圧縮されることにより,制御バルブを開放することができる。したがってポンプの緊急時の破損防止が図れる。
【0086】この様に第2のポンプとバルブの部分をユニット化することにより,第2のポンプのロータ径を小さくできるため,第2のポンプの高速化が容易となる。またロータ部分のクリアランスも小さくできるため,第2のポンプの真空到達圧の点でも有利となる。このロータ373を支持する軸受に,動圧流体軸受,磁気軸受等の非接触軸受を用いれば,一層の高速化を図ることができる(図示せず)。
【0087】なを実施例では,ユニットに制御バルブを内蔵しているが,本装置の対象とする真空チャンバーの容積が十分小さく,真空ポンプの大気側が突然開放される等の危険性が少ない場合は,この制御バブルを省略してもよい。」
・「【0101】なお,本発明の実施例では,第1のポンプにねじ溝式のスクリューポンプを適用した場合について説明したが,図23〜図27に示す様な各種異形ロータの組合せにするポンプ(クロー,ギヤ,スクリュー)等も勿論適用することができる。第1のポンプに1ロータ型の遠心ポンプ,粘性ポンプも適用できる。」
・「【0105】また,第2のポンプも用途に合せて,図23〜27で示すポンプの種類を選択できる。」
・「【図5】本発明を適用した半導体工場における真空排気系のシステム構成図」
イ 上記記載から,引用例1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
・真空ポンプの吸気側には,真空チャンバーが連結している(【0041】)。
・吸気孔352,スクリューロータ354a,スクリューロータ354b,ハウジング355,吐出孔353で容積型のスクリューポンプを構成している(【0084】)。
・真空ポンプは,モータにより回転駆動される容積型のスクリューポンプ(第1のポンプ)と,第1のポンプとは独立したモータにより回転駆動されるスパイラルグルーブによる粘性ポンプ(第2のポンプ)とを含む(【請求項2】,【請求項8】,【0084】)。
・制御バルブとスパイラルグルーブによる粘性ポンプ(第2のポンプ)とは,容積型のスクリューポンプ(第1のポンプ)に対して,並列に連結されている(【0084】,図18,19)。
・真空チャンバー100,引用例1に記載された発明の粗引きポンプ108等より,半導体工場における真空排気系のシステムが構成されている(【0050】,【図5】)。
そうすると,引用例1には次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明1」という。)。
(引用発明1)
「真空排気系のシステムであって,
真空チャンバー100に連結された吸気孔352と,真空排気系のシステムの外側の方向において制御バルブを含む導管部分に至る吐出孔353とを有する,モータにより回転駆動される容積型のスクリューポンプである第1のポンプと,
前記吐出孔353と外部との間に位置する制御バルブと,
前記制御バルブに並列に連結された,第1のポンプとは独立したモータ374により回転駆動される第2のポンプと,を備え,
前記第2のポンプは,スパイラルグルーブの粘性ポンプである
真空排気系のシステム。」
(2) 引用例2
ア 引用例2には,以下の事項が記載されている。
・「【請求項3】 主ポンプと,この主ポンプの吐出側に接続され前記主ポンプから大気側へのガスの流れのみを許容する逆止弁と,前記主ポンプの吐出側に前記逆止弁に対して並列的に配置され前記主ポンプよりも排気容量の小さい補助ポンプとを備えた真空排気装置であって,
前記補助ポンプが,前記主ポンプの吸入圧力が400Paにおける前記主ポンプの排気速度の3%以下の排気速度で運転されるポンプであることを特徴とする真空排気装置。」
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,例えばスパッタリング装置や真空蒸着装置などの半導体製造装置用の真空ポンプ,特にドライ真空ポンプの消費電力の低減を図った真空排気方法および真空排気装置に関する。」
・「【0020】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記公報によれば確かに主ポンプの消費電力を低減することは可能となるが,補助ポンプを含めた真空排気系全体から見た場合に必ずしも常に効率の良い省エネ化を図ることができるとは限らない。つまり,主ポンプの低消費電力化が達成されたとしても,主ポンプの低消費電力化に寄与する補助ポンプの運転状態によっては,補助ポンプの消費電力が大きくなって真空排気系全体としての省エネ効果が減殺されることがわかった。
【0021】本発明は上述の問題に鑑みてなされ,主ポンプ及びその補助ポンプを含めた真空排気系全体の効率の高い省エネ効果を得ることができる真空排気方法および真空排気装置を提供することを課題とする。」
・「【0022】
【課題を解決するための手段】以上の課題を解決するに当たり,本発明は,主ポンプの吸入圧力が400Paにおける補助ポンプの排気速度を,主ポンプの排気速度の3%以下とする。これにより,補助ポンプの大型化およびその消費電力の増大を抑制し,真空排気系全体としての設置スペースの低減と,効率的な省エネ化を図ることができる。」
・「【0024】図1は本発明の実施の形態による真空排気装置の概略配管構成を示している。真空処理室1は,排気配管5を介して単一のドライ真空ポンプで構成される主ポンプ2に連絡している。主ポンプ2の吐出側には,大気と連絡する配管6a,6bが接続され,これら配管6a,6b間には,主ポンプ2側から大気側へのガスの流れを許容しその反対の流れを禁止する逆止弁4が設けられている。また,主ポンプ2の吐出側を排気する補助ポンプ3が,逆止弁4をバイパスするバイパス配管7a,7b間に配置されている。」
・「【0026】主ポンプ2の構成を図2および図3を参照して説明する。本実施の形態における主ポンプ2は容積移送式のルーツ型ドライ真空ポンプで構成されるが,勿論これに限られず,クロー型やスクリュー型といった他の容積移送式あるいは容積移動型のドライ真空ポンプを用いることも可能である。
【0027】主ポンプとしてのルーツ型ドライ真空ポンプ2は公知の構成を備えている。すなわち,ハウジング20内に軸受26,27によって支持される一対の回転軸21,22が相隣接して収容され,各回転軸21,22にはその軸方向に沿って図3に示す形状の三葉の複数のロータ21a,21bが設けられている。各段におけるロータ21a,21b間には互いに僅かな隙間が形成され,DCブラシレスモータ25によりタイミングギヤ28(ここでは一対のギヤの片側のみ図示)を介して各回転軸を互いに逆方向へ同期回転させることによって,排気配管5が接続される吸入口23から吸入したガスを前段側のロータから後段側のロータへ順次移送し,配管6aが接続される吐出口24へ,移送したガスを送り出すようになっている。これにより,真空処理室1が所定の真空度にまで真空排気される。ここでは最大排気速度が150m3/Hr(3000Pa)で2Paの到達圧力が得られるルーツ型ドライ真空ポンプが用いられている。」
・「【0029】補助ポンプ3には,消費電力の小さい効率の良い構造のポンプが必要である。すなわち,ポンプ構造として,ポンプの圧縮行程において排気ガスの体積が減少する構造のものがよい。具体的には,回転翼型(ゲーデ型),ピストン型,ダイアフラム型(メンブラン型),スクロール型が適している。」
・「【0032】以上の説明から明らかなように,回転翼型(ゲーデ型),ピストン型,ダイアフラム型(メンブラン型),スクロール型といった構造の真空ポンプを補助ポンプ3として用いることによって,本発明に係る真空排気装置の高い省エネ効果を得ることが可能となる。」
・「【0041】真空処理室1は,主ポンプ2によって大気圧から所定の真空度にまで粗引き排気される。補助ポンプ3は,主ポンプ2が運転しているときは常時運転される。主ポンプ2の排気ガス量が多いために補助ポンプ3で主ポンプ2の吐出側を排気しても大気圧以下とならない場合は,逆止弁4が開いて排気ガスを図1において矢印aで示す方向に排出する。一方,真空処理室1の排気作用が進むと,ドライ真空ポンプ2の吸入圧力は低下し,これに伴って主ポンプ2の吐出口24のガス量が低下する。
【0042】主ポンプ2の吐出側が補助ポンプ3の排気作用によって大気圧以下とすることができるガス流量となると,逆止弁4は開閉を繰り返す脈動状態となる。本実施の形態では,上述のように逆止弁4を脈動に対する追従性を高めた構造となっているので,本発明の真空排気装置を高い信頼性を確保して運転することができる。
【0043】主ポンプ2の吐出側が大気圧以下となると逆止弁4は完全に閉じ,以後,図1における矢印aの方向のガスの流れはなくなり,補助ポンプ3の排気作用による矢印bの方向への排気のみとなる。これにより,主ポンプ2の吐出圧は低下し始め,主ポンプ3への逆流ガス量が低減するので,主ポンプ2の消費電力は減少する。」
・「【0045】図5は,排気速度150m3/Hrの主ポンプ2の後段(吐出側)に排気速度1.8m3/Hrの補助ポンプ3を取り付けた真空排気装置の,主ポンプ2の吸入圧力に対する消費電力(主ポンプ2+補助ポンプ3)特性を示している。主ポンプ2は上述したように最終段の排気容量が1段目の排気容量に対して25%に設定された省エネタイプのポンプである。図5において一点鎖線は補助ポンプ3を取り付けない場合を示し,実線は補助ポンプ3および逆止弁4を取り付けた場合を示している。なお,横軸(吸入圧力)は対数目盛としている。
【0046】図5に示すように,補助ポンプ3を取り付けることで,1kPa以下の圧力範囲では消費電力は急激に下がり,補助ポンプ3を取り付けない場合と比較すると,到達圧力時においては1.35kWの消費電力が0.32kWとなり,約76%の省エネ率(消費電力削減率)が得られている。また,主ポンプ2の吸入圧力が400Paの場合には,補助ポンプ無しの場合の消費電力が1.4kWに対し,補助ポンプ3を付けたときの消費電力は0.67kWとなり,省エネ率は約52%となる。
【0047】なお,補助ポンプ3の排気速度を大きくすると,主ポンプ2の消費電力が減少を開始する圧力が図示する1kPa近傍から図中右側,すなわち吸入圧力が高い方に移動し,省エネが有効となる圧力範囲が広がる。しかし,補助ポンプ3の排気速度を大きくすると補助ポンプの消費電力が増大し,省エネ効果が小さくなる。一般に半導体製造装置で使用される真空排気系では,少量のプロセスガスを真空処理室1に流し込み,所定の圧力を維持しながら成膜等の処理を行う。その際の主ポンプ2の吸入圧力は,高い場合でも1500Pa程度であることから,3000Pa程度以下の吸入圧力範囲で省エネ効果が得られれば本発明の目的は達成される。
【0048】次に,図6は,主ポンプとしてのドライ真空ポンプをターボ分子ポンプの後段側ポンプとして使用した場合を想定して,互いに排気速度が異なる主ポンプと補助ポンプとを組み合わせたときの排気速度比と消費電力比との関係を示している。主ポンプの吸入圧力は,400Paである。ここで,排気速度比とは補助ポンプの排気速度と主ポンプの排気速度との比をいい,消費電力比とは,補助ポンプ使用時の消費電力と補助ポンプ非使用時の消費電力との比をいい,従って消費電力比100%は省エネ効果が全くない場合をいう。なお,補助ポンプ使用時の消費電力は主ポンプと補助ポンプの総計の消費電力を,補助ポンプ非使用時の消費電力は主ポンプの消費電力をそれぞれ意味する。
【0049】図6から,排気速度比が大きくなればなるほど消費電力比は低くなり,よって省エネ効果が高まることがわかる。また,排気速度比が3%付近になると消費電力比の低減率が小さくなることが認められるが,その理由については後述する。以上から,主ポンプの吸入圧力が400Paの時,当該主ポンプの排気速度に対して3%以下の排気速度を持つ補助ポンプを使用することにより省エネ化を効率良く達成することができる。本実施の形態においては,主ポンプ2と補助ポンプ3の排気速度比は1.2%であるので,上記条件を満足する。
【0050】主ポンプに対する補助ポンプの排気速度比を大きくすることにより主ポンプの省エネ効果が現れる吸入圧力は上述のとおり高圧側に移行するが,反面,補助ポンプの消費電力は大きくなり,主ポンプと補助ポンプとを合わせた消費電力は,補助ポンプを使用しない場合の消費電力より大きくなってしまう。このことを図7及び図8を参照して説明する。
【0051】ここで,図7は,補助ポンプとして使用できるポンプの排気速度に対する消費電力の代表的な値を示したものである。また,図8は,本実施の形態における主ポンプ2としての150m3/Hrの排気速度のドライ真空ポンプを例にとり,主ポンプ吸入圧力400Paの排気速度に対する図7に示した特性の補助ポンプの排気速度比を変化させた場合の消費電力を示したものである。
【0052】図8において,一点鎖線は主ポンプ2のみの消費電力で,補助ポンプの排気速度比を大きくすることで急激に消費電力を減少するが,排気速度比4%程度以上では主ポンプ2のメカニカルロスの値に収斂する。破線は図7に示した特性の補助ポンプの消費電力を排気速度比との関係に置き換えて示したものである。そして,実線はこれらの和で,これが真空排気装置としての消費電力となる。
【0053】図8の実線で示す結果から,主ポンプ2に対する上記補助ポンプの排気速度比3%程度が最も低い消費電力を示すことがわかる。主ポンプ2の吸入圧力400Paにおいて省エネ率50%(図5参照)を得る場合を検討すると,上記排気速度比は1.2%又は9.4%のどちらでもよいことになるが,排気速度比9.4%での補助ポンプは,1.2%の補助ポンプ(すなわち本実施の形態における補助ポンプ3)より大型となり,設置スペースおよびポンプを製造するためのエネルギーの比較においては不具合を生ずることになる。したがって,排気速度比が3%以下の補助ポンプを選択すれば,全体的に省エネ率の高い真空排気装置を得ることができる一方,排気速度比が3%超の補助ポンプでは,逆に省エネ効果が減殺されることがわかる。」
・「【0054】一方,図5に実線で示したように,10Pa以下の吸入圧力範囲では消費電力はほぼ水平となっている。この状態は,主ポンプ2の吐出部圧力が低くなりポンプ室内の圧縮仕事が無視できるほど小さくなった場合で,ここでの消費電力は,主ポンプ2の軸受26,27や,DCモータ25の回転駆動力を各回転軸21,22へ伝達するタイミングギヤなどの機械損(メカニカルロス)を表している。主ポンプ2の吸入圧力を徐々に高めていくと消費電力も徐々に上昇する。このことは,主ポンプ2の最終段で圧縮仕事(ここでは,逆流ガスを押し戻す仕事)が目に見えるかたちとなってきたことを示している。主ポンプ2の消費電力は,吐出部圧力と比例的関係を持つので,図5の実線で示す低い消費電力を得るには,補助ポンプがここでの測定時の吐出圧まで排気できる能力を持っていなければならないことになる。
【0055】そこで,種々の排気速度の異なるドライポンプを使用して到達圧力時の消費電力から10%消費電力が上昇する吸入ガス量の設定を行い,このときの補助ポンプの圧力を調べると,6.5kPaから20kPaの値が得られた。このことは,補助ポンプ3として20kPa以下の圧力まで排気できる能力を持ったポンプを使用しないと,到達圧力時において主ポンプ2のメカニカルロスと等しい消費電力が得られないことを示している。
【0056】続いて,図9の実線は本実施の形態における真空排気装置の排気速度特性を,一点鎖線で示す補助ポンプがない場合の排気速度特性と比較して示している。1kPa以下の吸入圧力では,補助ポンプがない場合に比べて約10%排気速度が大きくなっている。更に,到達圧力は2Paから1Paに向上している。これは,主ポンプ2の吐出口圧力が低下したことで逆流ガス量が小さくなり,容積効率が高まったことによる。補助ポンプ3の付加は,消費電力の削減のみの効果に止まらず,排気速度および到達圧力の向上にも効果がある。」
・「【0057】以上のように,本実施の形態によれば,小さい排気能力を持った補助ポンプで主ポンプの消費電力を効率良く低減することができるので,真空排気装置全体としての効率的な省エネ化を図ることができる。一例を挙げるならば,φ200mmのウェーハを月産10000枚加工する半導体工場においてドライ真空ポンプ(主ポンプ)が概略300台使用されていると,本発明の対象となるライトプロセスに使用されているドライ真空ポンプが全体の30%を占めるとすると,その数は90台となる。これらに補助ポンプ無しのドライ真空ポンプが使用されていて,これらを本発明の補助ポンプ付きのドライ真空ポンプと置き換えるとともに,当該補助ポンプとして上記実施の形態の補助ポンプ3の特性(排気速度比)を具備するポンプを選定することによって,一台当たり1kWの電力が削減できることとなることから,一年当たりの電気料金は一工場当たり1182万円節約できることとなる(1kW=15円として計算)。更に,二酸化炭素の排出量を求めると276tの削減効果が得られる。
【0058】一方,補助ポンプ3は取付スペースが小さく,主ポンプ2の吐出配管へ接続されるバイパス配管7a,7bも10mm程度の細い配管で構成することができ,しかも,電気制御系も必要としないことから,既存のドライ真空ポンプを容易かつ安価にここでの省エネ型ポンプ(真空排気装置)に改造することができる。これにより,半導体製造コストの削減および環境への付加低減に大きく寄与することができる。」
・「【0061】また,以上の実施の形態では補助ポンプ3を単一の主ポンプ2の吐出側に接続する構成について説明したが,例えば図10に示すように,複数台(図では3台)並列的に配置された主ポンプ2A〜2Cの吐出側を一台の補助ポンプ3で排気する構成も,本発明は適用可能である。図示する例は,主ポンプ2A〜2C各々に対して逆止弁4A〜4Cを設けるとともに補助ポンプ3との間に開閉弁11A〜11Cを設けている。各主ポンプ2A〜2Cは互いに異なる真空処理室に連絡しているものとする。この場合,主ポンプ2A〜2Cの動作台数によって補助ポンプ3の吸入ガス量が変動するので,主ポンプ2A〜2Cの動作台数に応じて補助ポンプの排気速度(回転数)を可変とするのが望ましい。」
イ 上記記載から,引用例2には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
・主ポンプ2の吸入側には,真空処理室1が連結している(【0024】)。
・主ポンプ2として,スクリュー型ドライ真空ポンプを用いることができる(【0026】)。
・主ポンプ2は吸入口23,吐出口24を含み,DCブラシレスモータ25により回転駆動される(【0027】)。
・逆止弁4と補助ポンプ3とは,主ポンプ2に対して,並列に連結されている(【0024】,図1,2)。
そうすると,引用例2には次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明2」という。)。
(引用発明2)
「真空排気装置であって,
真空処理室1に連結された吸入口23と,真空排気装置の外側の方向において配管6a,6b内に至る吐出口24とを有する,DCブラシレスモータ25により回転駆動されるスクリュー型ドライ真空ポンプである主ポンプ2と,
前記吐出口24と外部との間に位置する逆止弁4と,
前記逆止弁4に並列に連結された,補助ポンプ3と,を備え,
前記補助ポンプ3は,前記主ポンプ3が運転しているときは常時運転されるように設計され,
前記補助ポンプ3は,回転翼型(ゲーデ型),ピストン型,ダイアフラム型(メンブラン型),スクロール型の真空ポンプの中から選択される
真空排気装置。」
(3) 引用文献3
引用文献3には,以下の事項が記載されている。
・「【0016】一方,補助ポンプ30は,ダイアフラムポンプ,ベーンポンプ,ピストンポンプ,スクロールポンプ,ネジ溝ポンプ,多段ルーツポンプ等の容積移送型ポンプであって,ドライ真空ポンプ20とは独立した駆動源を有し,回転数により排気能力を調整することができるポンプであればよい。補助ポンプ30の運転状態は,制御装置33によって制御される。」

2 引用発明1に基づく検討
(1) 対比
ア 本願発明と引用発明1とを,その機能に照らして対比する。
(ア) 引用発明1の「真空排気系のシステム」は,本願発明の「真空を生成するための圧送システム」に相当する。
(イ) 引用発明1の「真空チャンバー100」は,本願発明の「真空チャンバ」に相当し,引用発明1は真空チャンバー100内の気体を外部に排出するものであるから,本願発明の「ガスエグゾースト出口」に相当する出口が,真空排気系のシステム(圧送システム)の外側に存在することは自明である。
そうすると,引用発明1の「吸気孔352」,「制御バルブを含む導管部分」,「吐出孔353」,「モータ」,「容積型のスクリューポンプである第1のポンプ」は,それぞれ,本願発明の「ガス吸い込み入口」,「ガス真空排気導管」,「ガスディスチャージ出口」,「第1のモータ」,「主真空ポンプ」に相当する。
また,引用発明1は,「ドライ真空ポンプ」を使用することを前提とした発明であると認められ(引用例1【0004】〜【0006】,【0018】),流路中に油又は液体を使用しているとは認められないから,引用発明1の「容積型のスクリューポンプである第1のポンプ」は,本願発明の「主真空ポンプ」と同様に,「乾式スクリューポンプ」である。
(ウ) 引用発明1の「制御バルブ」は,その配置位置,機能に照らすと,本願発明の「逆止め弁」に対応し,両者は制御弁である点で共通している。
(エ) 引用発明1の「第2のポンプ」は,大きな排気量が得られる第1のポンプよりも排気量の小さいものであるから(同【請求項1】,【0019】,【0026】),第1のポンプに対し補助的な機能を発揮しているといえる。
よって,引用発明1の「第1のポンプとは独立したモータ374」,「第2のポンプ」は,その配置位置,機能に照らすと,それぞれ,本願発明の「第2のモータ」,「補助真空ポンプ」に相当する。
イ 以上のことからすると,本願発明と引用発明1とは,次の点で一致し相違すると認められる。
(一致点)
「真空を生成するための圧送システムであって,
真空チャンバに連結されたガス吸い込み入口と,圧送システムの外側のガスエグゾースト出口の方向においてガス真空排気導管内に至るガスディスチャージ出口とを有する,第1のモータ付きの乾式スクリューポンプである主真空ポンプと,
前記ガスディスチャージ出口と前記ガスエグゾースト出口との間に位置する制御弁と,
前記制御弁に並列に連結された,第2のモータ付きの補助真空ポンプと,を備える
圧送システム。」
(相違点1)
「制御弁」について,本願発明は「逆止め弁」であるの対し,引用発明1は「制御バルブ」である点。
(相違点2)
「補助真空ポンプ」について,本願発明は,「主真空ポンプと同時に始動するように,また主真空ポンプが真空チャンバ内に含まれるガスを圧送している間じゅうおよび主真空ポンプが真空チャンバ内の所定の圧力を維持している間じゅう圧送するように設計され(る)」のに対し,引用発明1は,当該構成について明らかでない点。
(相違点3)
「主真空ポンプ」及び「補助真空ポンプ」について,本願発明は「主真空ポンプと補助真空ポンプの結合は,手段,センサ又は制御ユニットを必要とせずに行われ(る)」のに対し,引用発明1は,当該構成について明らかでない点。
(相違点4)
「補助真空ポンプ」について,本願発明は,「補助真空ポンプ」が「乾式スクリューポンプ,クローポンプ,多段ルーツポンプ,ダイヤフラムポンプ,乾式回転羽根ポンプおよび潤滑回転羽根ポンプの中から選択される」のに対し,引用発明1は,「第2のポンプ」が,「スパイラルグルーブの粘性ポンプである」点。
(2) 判断
ア 相違点1について
引用例1には,当該制御弁に対応する部位に,逆止弁(「制御バルブ59」)を設けた実施例が記載されている(第1の実施例(【0040】〜【0048】,図2,3)等参照)。
また,排気開始直後(図19(a))及び吸気側が十分に低い真空圧に到達した状態(図19(b))における当該制御弁の機能は,他の実施例における逆止弁(「制御バルブ59」)と同等の機能を発揮していることや,図19(c)に示される状態では逆止弁として機能していることに照らせば,引用発明1において,「制御バルブ」として,逆止弁を設けることは,当業者が適宜になし得ることである。
イ 相違点2について
引用例1には,第1のポンプと第2のポンプとを同軸上に形成した実施例が記載されているところ(第1の実施例(【0040】〜【0048】,図2,3)等参照),両ポンプが同時に始動することは構成上自明である。引用発明1において,第2のポンプが始動する時機は明らかでないが,排気開始直後の状態からしても(【0084】,図19(a)),第1のポンプと同時に始動することが窺えるし,あえて始動する時機を異ならせる理由も特段ないことから,引用例1に開示のその他の実施例を参考に,第2のポンプを第1のポンプと同時に始動するよう構成することは,当業者にとって格別困難なことではない。
そして,引用発明1は,真空チャンバー内の大量の気体を輸送した後,大気と真空チャンバー間の圧力差を維持するものであるところ(【0057】〜【0059】),排気開始直後から吸気側が低い真空圧に到達するまで,第1のポンプにより,制御バルブを介しての大量の気体を輸送している(圧送している)間(制御バルブが閉じるまでの間),第2のポンプは常に駆動されているのであるから(【0084】,図19(a)),第1のポンプが真空チャンバーに含まれるガスを圧送している間じゅう,第2のポンプも気体を圧送しているものである。
また,吸気側が低い真空圧に達した状態においても,第2のポンプが常に働く構成であるから(【0084】,図19(b)),真空チャンバーが真空圧に達した後,第1のポンプが当該真空圧を維持した状態で(所定の圧力を維持している間じゅう),第2のポンプが圧送しているものと認められる。
そうすると,引用発明1において,相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得た事項である。
ウ 相違点3について
相違点3に係る本願発明の構成は,必ずしも明確でない。そこで,発明の詳細な説明の記載をみるに,以下の記載がある(請求人も補正の根拠である旨主張している(令和3年5月24日付け意見書)。)。
・「【0011】
本発明の方法により,特別の手段や装置(例えば,圧力,温度,電流などのためのセンサ),サーボ制御,データ管理を必要とせずにかつ計算も行わずに,乾式スクリュー形の主真空ポンプおよび補助ポンプの結合が成し遂げられる。」
発明の詳細な説明におけるこのような記載を参酌すると,相違点3に係る本願発明の構成は,主真空ポンプと補助真空ポンプの結合が,特別の手段や装置(例えば,圧力,温度,電流などのためのセンサ),サーボ制御,データ管理を必要とせずにかつ計算も行わずに成し遂げられるものを意味する,又は少なくとも含むと認められる。
相違点3に係る本願発明の構成をこのように解して,検討を進める。
引用例1には,引用発明1の第1のポンプと第2のポンプと間で,特別の手段や装置(例えば,圧力,温度,電流などのためのセンサ),サーボ制御,データ管理を必要とする点や計算を行う点について,特段記載はない。引用例1には,引用発明1の制御弁を,真空ポンプの吸気側(あるいは真空チャンバー内)に設置された圧力センサーからの信号により開閉する点が記載されているが(【0084】),第2のポンプ自体について何らかの制御を行うものではない。
また,制御弁を,真空ポンプの吸気側に設置された圧力センサーからの信号により開閉する点についてみても,既に述べたとおり,引用発明1において,「制御弁」として逆止弁を設けることは,当業者が適宜になし得ることであるところ,逆止弁によれば,圧力センサーからの信号を必要とせず計算も行わずに,排気開始直後から吸気側が十分に低い真空圧に達した際の流路の切り換えが可能であることは技術的に明らかである。
そうすると,制御弁に関する点を考慮しても,引用発明1において,相違点3に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得た事項である。
エ 相違点4について
引用例1によれば,第2のポンプを粘性型,容積型のいずれで構成してもよく(【0020】),第2のポンプとして容積型のスクリューポンプを使用することができるとともに(【0061】),各種異形ロータの組合せにするポンプを選択できるものである(【0101】,【0105】,【図23】〜【図27】)。
このように,引用発明1は,第2のポンプとして,各種の真空ポンプを採用し得るものであるから,引用発明1において,乾式スクリューポンプ,クローポンプ,多段ルーツポンプ,ダイヤフラムポンプ,乾式回転羽根ポンプおよび潤滑回転羽根ポンプの中から選択されるようにすることは,当業者にとって格別困難なことではない。
そうすると,引用発明1において,相違点4に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到できた事項である。
オ 本願発明の奏する効果をみても,引用発明1から予測の範囲内であって格別のものではない。
カ(ア) 請求人は,次のように主張している(令和3年5月24日付け意見書)。
a 本願発明は,補助真空ポンプの作動と主真空ポンプの作動との調整を,特定の手段又は装置(例えば,,圧力,温度,電流センサ)も,データ管理も,計算も必要とせずに行うことができる,自動的に作動する非常に単純な真空ポンプシステムである。これにより,本願発明は,極めて少ない数の構成要素だけを含むことができ,非常な簡潔さを有することができ,既存のシステムより著しく少ないコストで実現できる(本願明細書【0011】)。
これに対し,引用例1における課題は,消費電力を削減できる,半導体材料の製造に適した真空ポンプシステムを提供することである(【0001】,【0005】,【0018】)。引用例1のポンプシステムの出力(kW)は,吸引圧力が102Torrを超えると大幅に増加するため(【0049】,図4),電力を節約するために,必然的に吸引圧力を102Torr未満に維持する必要があり,そのためには,一次ポンプの吸引圧を測定する圧力センサが必要である。
b 引用例1では,吸引圧力を102Torr未満に維持するために,一次ポンプの吸引圧力の制御システムを必要としているために,圧力センサを必要とし,第9の実施例では,圧力センサからの信号によって制御されて電磁ソレノイド375により開閉する制御弁としての「電磁ソレノイド弁」を備えたシステムとなっている。
このように,引用例1では,一次ポンプの吸引圧力の制御システムを必要としている。このため,第9の実施例に基づく真空ポンプシステムにおいては,制御弁としての「電磁ソレノイド弁」を「逆止弁」に置換する動機付けがない。
c 引用例1の第1の実施形態の真空排気装置の構成は,第9の実施例の真空排気装置の構成とは全く異なっているから,当業者が第1の実施形態と第9の実施例とを組み合わせる動機付けがなく,引用例1には,かかる組合せを実現する方法を示唆する記載もない。第1の実施例の制御バルブ59は,いったん閉じると閉じたままになってしまうため,引用例1には,第1の実施例の制御バルブ59を,第9の実施例の電磁ソレノイド弁に置き換えることによって,真空ポンプシステムを製造する動機付けも記載されていない。
d 引用例1には,第1のポンプと第2のポンプを同時に始動させることについても,何も記載も示唆もされておらず,第1のポンプと第2のポンプを同時に始動させても,エネルギー消費量の最小化には貢献しないと考えられるから,引用例1では,2つのポンプを同時に始動することは示唆も推奨もされていない。
本願発明では,主真空ポンプと補助真空ポンプとを同時に始動させ,圧送システム及び圧送方法をより容易にすることを意図しているが,引用例1では,このようなことは意図されていない。
このように,引用例1には,本発明による単純な真空ポンプシステム,すなわち,制御ユニットを必要とせず,補助ポンプが主真空ポンプと同時に自動的に始動し,主真空ポンプが真空チャンバに含まれるガスを圧送している間じゅう圧送するシステムを製造する動機付けがない。
(イ)a しかしながら,既に述べたとおり,引用例1には,引用発明1の第1のポンプと第2のポンプと間で,特別の手段や装置(例えば,圧力,温度,電流などのためのセンサ),サーボ制御,データ管理を必要とする点や計算を行う点について特段記載はなく,制御弁を,真空ポンプの吸気側(あるいは真空チャンバー内)に設置された圧力センサーからの信号により開閉する点が記載されているものの,第2のポンプ自体について何らかの制御を行うものではない。
また,既に述べたとおり,引用発明1において,「制御弁」として逆止弁を設けることは,当業者が適宜になし得ることで,逆止弁によれば,圧力センサーからの信号を必要とせず計算も行わずに,排気開始直後から吸気側が十分に低い真空圧に達した際の流路の切り換えが可能であることは技術的に明らかであるから,制御弁に関する点を考慮しても,引用発明1において,圧力センサーを含まないものとすることは,当業者が容易になし得た事項である。
引用例1図4には,第1の実施例と従来例との関係で,真空ポンプの吸気圧に対する消費動力の特性の一例が示されているが,第1の実施例は圧力センサーを必要とするものではないから,図4の開示内容から当然に圧力センサーが必要であるとはいえない。
b 引用例1の記載全体を総合的にみれば,引用例1に記載された真空排気装置において,圧力センサーが必須の構成でないことは明らかで,第9の実施例は,従来構造の真空ポンプの内部に大きく手を加えることなく,制御ユニットを連結するだけで,その他の実施例と同様の効果を得るといったものであるから,圧力センサーの信号により開閉する制御弁が当然に必要とは認められず,第1の実施例のように通常の逆止弁を採用する動機付けは十分に認められる。
c 引用例1の第1の実施例と第9の実施例は第1のポンプに関しては同様の構成を有しており,その下流に,制御弁と第2のポンプを並列に配置する点でも類するものであって,第1の実施例と第9の実施例は非常に類似する技術であるから,引用発明1において十分に参考になるものである。
そして,引用発明1の制御弁と第1の実施例の逆止弁(制御バルブ59)との機能の類似性に鑑みれば,引用発明1において,逆止弁を採用することの動機付けは十分に認められる。
d 引用発明1における排気開始直後の状態からしても,第1のポンプと第2のポンプを同時に始動させることが窺えるし,引用例1の第1の実施例等の構成には示唆が十分に認められる。同時に始動させることで,消費動力の少ない低い圧力に早期に到達可能となるから,消費動力の観点からも,十分に示唆があると認められる。
e よって,請求人の主張は採用することができない。
キ 以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明1に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 引用発明2に基づく検討
(1) 対比
ア 本願発明と引用発明2とを,その機能に照らして対比する。
(ア) 引用発明2の「真空排気装置」は,本願発明の「真空を生成するための圧送システム」に相当する。
(イ) 引用発明2の「真空処理室1」は,本願発明の「真空チャンバ」に相当し,引用発明2は真空処理室1内の気体を外部に排出するものであるから,本願発明の「ガスエグゾースト出口」に相当する出口が,真空排気装置(圧送システム)の外側に存在することは自明である。
そうすると,引用発明2の「吸入口23」,「配管6a,6b」,「吐出口24」,「DCブラシレスモータ25」,「スクリュー型ドライ真空ポンプ」,「主ポンプ2」は,その機能に照らすと,それぞれ,本願発明の「ガス吸い込み入口」,「ガス真空排気導管」,「ガスディスチャージ出口」,「第1のモータ」,「乾式スクリューポンプ」,「主真空ポンプ」に相当する。
(ウ) 引用発明2の「逆止弁4」は,本願発明の「逆止め弁」に相当する。
(エ) 引用発明2の「補助ポンプ3」は,本願発明の「補助真空ポンプ」に相当し,「前記主ポンプ3が運転しているときは常時運転されるように設計され(る)」ものであるから,本願発明の「補助真空ポンプ」と,「主真空ポンプが真空チャンバ内に含まれるガスを圧送している間じゅうおよび主真空ポンプが真空チャンバ内の所定の圧力を維持している間じゅう圧送するように設計され(る)」点で共通する。
また,引用発明2は,回転翼型(ゲーデ型),ピストン型,ダイアフラム型(メンブラン型),スクロール型の真空ポンプの中から選択されるものであるから,本願発明と,「ダイヤフラムポンプ」,「回転羽根ポンプ」が選択される点で共通する。
イ 以上のことからすると,本願発明と引用発明2とは,次の点で一致し相違すると認められる。
(一致点)
「真空を生成するための圧送システムであって,
真空チャンバに連結されたガス吸い込み入口と,圧送システムの外側のガスエグゾースト出口の方向においてガス真空排気導管内に至るガスディスチャージ出口とを有する,第1のモータ付きの乾式スクリューポンプである主真空ポンプと,
前記ガスディスチャージ出口と前記ガスエグゾースト出口との間に位置する逆止め弁と,
前記逆止め弁に並列に連結された,補助真空ポンプと,を備え,
前記補助真空ポンプは,主真空ポンプが真空チャンバ内に含まれるガスを圧送している間じゅうおよび主真空ポンプが真空チャンバ内の所定の圧力を維持している間じゅう圧送するように設計され,
前記補助真空ポンプは,ダイヤフラムポンプ,回転羽根ポンプが選択される圧送システム。」
(相違点5)
「補助真空ポンプ」について,本願発明は,「第2のモータ付きの補助真空ポンプ」であるのに対し,引用発明2においては,その点が明らかでない点。
(相違点6)
「補助真空ポンプ」について,本願発明は,「主真空ポンプと同時に始動するように」,「設計され(る)」のに対し,引用発明2は,その点が明らかでない点。
(相違点7)
「主真空ポンプ」及び「補助真空ポンプ」について,本願発明は「主真空ポンプと補助真空ポンプの結合は,手段,センサ又は制御ユニットを必要とせずに行われ(る)」のに対し,引用発明2は,当該構成について明らかでない点。
(相違点8)
「補助真空ポンプ」について,本願発明は,「補助真空ポンプ」が「乾式スクリューポンプ,クローポンプ,多段ルーツポンプ,ダイヤフラムポンプ,乾式回転羽根ポンプおよび潤滑回転羽根ポンプの中から選択される」のに対し,引用発明2は,「補助ポンプ3」が,「回転翼型(ゲーデ型),ピストン型,ダイアフラム型(メンブラン型),スクロール型の真空ポンプの中から選択される」点。
(2) 判断
ア 相違点5について
引用例2の図2の記載からすると,補助ポンプ3はその配置位置からして,主ポンプ2とは別のモータにより回転駆動されることは明らかであるし,主ポンプ2を回転駆動するDCブラシレスモータ25により駆動する旨の記載もない(複数台並列的に配置された主ポンプの吐出側を一台の補助ポンプで排気する構成に関し,補助ポンプの排気速度(回転数)を可変とする旨記載されていることからしても(【0061】,図10),主ポンプとは別のモータにより回転駆動することが想定されているものと解される。)。
そうすると,この点において引用発明2は本願発明と実質的に相違するものではない。
また,引用例3には,補助ポンプを主ポンプとは独立した駆動源を有するものとする点が記載されており(【0016】),仮に相違するとしても,引用発明2にこの点を適用し,当業者が容易になし得たものと認められる。
イ 相違点6について
引用発明2において,補助ポンプ3が始動する時機は明らかでないが,主ポンプ2が運転しているときは常時運転されるものであるから,主ポンプ2と同時に始動することが窺えるし,あえて始動する時機を異ならせる理由も特段ないことから,この点において引用発明2は本願発明と実質的に相違するものではない。
仮に相違するとしても,引用発明2において,補助ポンプ3を主ポンプ2と同時に始動するよう構成することは,当業者にとって格別困難なことではなく,引用発明2において,相違点6に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得た事項である。
ウ 相違点7について
相違点7に係る本願発明の構成は,必ずしも明確でないが,発明の詳細な説明の記載(【0011】)を参酌すると,相違点7に係る本願発明の構成は,主真空ポンプと補助真空ポンプの結合が,特別の手段や装置(例えば,圧力,温度,電流などのためのセンサ),サーボ制御,データ管理を必要とせずにかつ計算も行わずに成し遂げられるものを意味する,又は少なくとも含むと認められるから(前記2(2)ウ),相違点7に係る本願発明の構成をこのように解して,検討を進める。
まず,引用例2には,引用発明2の主ポンプ2と補助ポンプ3と間で,特別の手段や装置(例えば,圧力,温度,電流などのためのセンサ),サーボ制御,データ管理を必要とする点や計算を行う点について,特段記載はない。
引用例2に記載された真空排気装置は,補助ポンプが,主ポンプの吸入圧力が400Paにおける主ポンプの排気速度の3%以下の排気速度で運転されるポンプであることを特徴とするものであるが(【請求項3】,【0022】),そのような補助ポンプを選択,選定すれば,省エネ率の高い真空排気装置を得ることができる旨記載されていること(【0053】,【0057】),電気制御系も必要としない旨記載されていること(【0058】)からすると,引用発明2の主ポンプ2と補助ポンプ3と間で,特別の手段や装置(例えば,圧力,温度,電流などのためのセンサ),サーボ制御,データ管理を必要とするものではなく,計算を行うものではないことがわかる。
すなわち,真空排気装置を構成するに当たり,予め主ポンプの吸入圧力が400Paにおける主ポンプの排気速度の3%以下の排気速度で運転されるポンプを補助ポンプとして選択,選定すればよく,真空排気装置の動作中に当該補助ポンプについて調整するものとは認められない。当該補助ポンプを用いることで,当然に,真空排気装置の動作中に,主ポンプ2と補助ポンプ3と間で,特別の手段や装置(例えば,圧力,温度,電流などのためのセンサ),サーボ制御,データ管理が必要となる,計算を行わなければならなくなる,といった事情は認められない。
また,本願発明において,補助真空ポンプとして,主ポンプの吸入圧力が400Paにおける主ポンプの排気速度の3%以下の排気速度で運転されるポンプを採用することを排除しているとも解されない。
そうすると,この点において引用発明2は本願発明と実質的に相違するものではない。
仮に相違するとしても,引用例2に電気制御系も必要としない旨記載されていること(【0058】)に照らしても,引用発明2の主ポンプ2と補助ポンプ3と間で,特別の手段や装置(例えば,圧力,温度,電流などのためのセンサ),サーボ制御,データ管理を必要とせず計算も行わないものとすることは,当業者にとって格別困難なことではなく,引用発明2において,相違点7に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得た事項である。
エ 相違点8について
引用発明2は,「前記補助ポンプ3は,回転翼型(ゲーデ型),ピストン型,ダイアフラム型(メンブラン型),スクロール型の真空ポンプの中から選択される」ものであるところ,少なくとも,ダイヤフラムポンプ又は回転羽根ポンプを選択している点で本願発明と一致しているから,この点において,引用発明2は本願発明と実質的に相違するものではない。
また,その他の形式のポンプについて考慮するとしても,補助ポンプ3として,各種の真空ポンプを採用し得るものであるから,引用発明2において,乾式スクリューポンプ,クローポンプ,多段ルーツポンプ,ダイヤフラムポンプ,乾式回転羽根ポンプおよび潤滑回転羽根ポンプの中から選択されるようにすることは,当業者にとって格別困難なことではない。
そうすると,引用発明2において,相違点8に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到できた事項である。
オ 本願発明の奏する効果をみても,引用発明2,引用例3に記載された事項から予測の範囲内であって格別のものではない。
カ(ア) 請求人は,次のように主張している(令和3年5月24日付け意見書)。
a 引用例2【0021】,【0022】を参照すると,引用例2では,真空排気系全体の消費電力を節約するために,主ポンプの吸入圧力が400Paのときに,補助ポンプの排気速度が主ポンプの排気速度の3%になるようにシステムが構成されている。
これに対し,本願発明は,主真空ポンプの吸入圧力が400Paのときに,補助真空ポンプの排気速度が主ポンプの排気速度の3%になるように設定することによって,主真空ポンプと補助真空ポンプとを結合するようには構成されておらず,本願発明は,圧力,温度,電流センサなどの制御システムが含まれていない非常に単純なシステムであり,主真空ポンプと補助真空ポンプの結合を制御する必要がない。
そして,本願発明では,「前記補助真空ポンプ(7)は,前記主真空ポンプ(3)と同時に始動するように,また前記主真空ポンプ(3)が前記真空チャンバ(1)に含まれるガスを圧送している間じゅうおよび前記主真空ポンプ(3)が前記真空チャンバ(1)内の所定の圧力を維持している間じゅう圧送」する。
このように,本願発明は,補助真空ポンプの作動と主真空ポンプの作動との調整を,特定の手段又は装置(例えば,圧力,温度,電流センサ)も,データ管理も,計算も必要とせずに行うことができる,自動的に作動する非常に単純な真空ポンプシステムである。これにより,本願発明は,極めて少ない数の構成要素だけを含むことができ,非常な簡潔さを有することができ,既存のシステムより著しく少ないコストで実現できる(本願明細書【0011】)。
b これに対し,全ての真空ポンプ装置では,補助ポンプと主ポンプの結合を調整する必要がある。
引用例2の真空排気装置では,流量が4%を超えると,補助ポンプによって消費される電力が,主ポンプによって消費される電力よりも大きくなってしまうため,主ポンプに対する補助ポンプの流量を正確に調整する必要がある(図8)。さらに,引用例2の真空排気装置では,最大20kPa以下の限界圧力まで排気できる能力を持った補助ポンプが必要である(【0055】)。
引用例2の記載に従えば,当業者は,主ポンプの吸引圧力が400Paのときに,補助ポンプと主ポンプの流量の比率を3%に維持するために,主ポンプの流量に応じて,異なるタイプのポンプを製造するか,または,主ポンプの吸引圧力が400Paのときに補助ポンプと主ポンプの流量の比率を3%に維持できる圧力制御システムを備えたポンプシステムを製造することになる。
したがって,引用例2には,主真空ポンプと補助真空ポンプの間に制御システムがない,製造が容易な単一範囲のポンプを製造するように当業者を動機付ける記載はない。
(イ) しかしながら,既に述べたとおり,引用例2には,引用発明2の主ポンプ2と補助ポンプ3と間で,特別の手段や装置(例えば,圧力,温度,電流などのためのセンサ),サーボ制御,データ管理を必要とする点や計算を行う点について特段記載はなく,主ポンプの吸入圧力が400Paにおける主ポンプの排気速度の3%以下の排気速度で運転される補助ポンプを選択,選定すれば,省エネ率の高い真空排気装置を得ることができる旨,電気制御系も必要としない旨記載されていることからすると,引用発明2の主ポンプ2と補助ポンプ3と間で,特別の手段や装置(例えば,圧力,温度,電流などのためのセンサ),サーボ制御,データ管理を必要とするものではなく,計算を行うものではないと認められる。真空排気装置を構成するに当たり,予め当該特性の補助ポンプを選択,選定すれば足り,真空排気装置の動作中に当該補助ポンプについて調整するものとは認められない。
また,本願発明において,補助真空ポンプとして,主ポンプの吸入圧力が400Paにおける主ポンプの排気速度の3%以下の排気速度で運転されるポンプを採用することを排除しているとも解されないから,この点で引用発明2は本願発明と実質的に相違しない。
仮に相違するとしても,引用例2に電気制御系も必要としない旨記載されていることに照らせば,主ポンプ2と補助ポンプ3の間に制御システムがない,製造が容易な単一範囲のポンプを製造する動機付は十分に認められる。
よって,請求人の主張は採用することができない。
キ 以上のとおりであるから,本願発明は,引用例2に記載された発明である,又は引用発明2及び引用文献3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明1に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
また,本願発明は,引用例2に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,又は引用発明2及び引用文献3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,同法29条2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは,この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は,その日数を附加します。)以内に,特許庁長官を被告として,提起することができます。

審判長 佐々木 芳枝
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-07-21 
結審通知日 2021-07-27 
審決日 2021-08-18 
出願番号 P2017-516050
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (F04C)
P 1 8・ 121- WZ (F04C)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 窪田 治彦
田合 弘幸
発明の名称 真空を生成するための圧送システムおよびこの圧送システムによる圧送方法  
代理人 特許業務法人平和国際特許事務所  

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