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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
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管理番号 | 1381221 |
総通号数 | 2 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-02-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-01-30 |
確定日 | 2022-01-05 |
事件の表示 | 特願2016−517073「再発性神経膠腫および進行性の二次性脳腫瘍からなる群から選択される悪性腫瘍の治療用に使用するための治療薬」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月 4日国際公開、WO2014/194312、平成28年 7月14日国内公表、特表2016−520622〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2014年6月2日(パリ条約による優先権主張 2013年5月31日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は、次のとおりである。 平成29年 6月 1日 手続補正書の提出 平成30年 3月23日付け 拒絶理由通知書 同年 9月28日 手続補正書及び意見書の提出 平成31年 2月13日付け 拒絶理由通知書 令和 1年 8月19日 手続補正書及び意見書の提出 同年 9月19日付け 拒絶査定 令和 2年 1月30日 審判請求書及び手続補正書の提出 同年 3月 5日付け 前置報告書 令和 3年 2月 2日付け 拒絶理由通知書 同年 5月25日 手続補正書及び意見書の提出 第2 本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1〜6に係る発明は、令和3年5月25日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明は、以下のとおりである。 「【請求項1】 再発性神経膠腫および進行性の二次性脳腫瘍からなる群から選択される悪性腫瘍の治療用に使用するための治療薬であって、 前記再発性神経膠腫または進行性の二次性脳腫瘍は、テモゾロミドおよびベバシズマブの少なくとも1つに耐性であり、 前記治療薬は、修飾ヘキシトール誘導体であるジアンヒドロガラクチトールまたはジアセチルジアンヒドロガラクチトールであり、 前記治療薬は、21〜24日間の治療サイクルで用いられるものであり、 前記治療サイクルの初日から3日間連続で、患者に対して10mg/m2〜40mg/m2の量の修飾ヘキシトール誘導体を静脈内投与するものである、治療薬。」(以下、「本願発明」という。) 上記本願発明は、補正前の請求項6記載の治療薬に係る発明に対応するものである。 第3 当審において通知した拒絶理由 当審において令和3年2月2日付けで通知した拒絶理由のうち、理由3の要旨は以下のとおりである。 本願の請求項1〜8に係る発明は、引用文献6に記載された発明、及び引用文献6、4、3、1及びAに記載された事項に基いて、本願優先日前の当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献一覧> 6. Cancer Research,2013年4月,Vol.73,No.8,Supplement,Abstract 4672 4. ClinicalTrials.govに登録された臨床試験「NCT01478178」について2013年2月28日付けで公開された情報,[オンライン],2013年2月28日,検索日:2018年3月12日,URL,https://clinicaltrials.gov/archive/NCT01478178/2013_02_28 (なお、令和3年2月2日付け拒絶理由通知の引用文献4についての記載「URL,https://clinicaltrials.gov/archive/NCT01478178/2013_27_28」は誤記である。) 3. JAMA,1979年,Vol.241,No.19,pp.2046−2050 1. Cancer Treat.Rep.,1978年,Vol.62,No.8,pp.1199−1200 A. Oncology,1981年,Vol.38,No.1,pp.4−6 第4 引用文献に記載された事項及び引用発明 引用文献6、4、3、1及びAには、次のとおりの記載がある。なお、原文が外国語で記載されているものについては、訳文を示す。 1 引用文献6について (1)引用文献6の記載事項 6a 「抄録4672:再発性悪性神経膠腫又は二次性脳腫瘍の患者を対象としたval−083の第I/II相試験。」(タイトル) 6b 「要約 背景:脳の再発性グリア腫瘍は、治療が最も難しい悪性腫瘍の1つである。再発性疾患の患者の生存期間中央値は、多形性膠芽腫(GBM)の場合約6か月である。これは、最前線の治療テモゾロミド(TMZ)がDNA修復タンパク質O6−メチルグアニン−DNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT)による耐性の影響を受けるからである。VAL−083は、血液脳関門を容易に通過し、脳組織に蓄積する、ファーストインクラス二官能性N7DNAアルキル化剤である。以前に発表された前臨床及び臨床研究は、VAL−083がGBMを含むさまざまな種類の腫瘍に対して活性があることを示唆している。さらに、研究によれば、VAL−083はin vitroでMGMTによる薬剤耐性を克服し、癌幹細胞に対して活性を示す。したがって、この第I/II相試験の目的は、再発性GBM又は進行性の二次性脳腫瘍の患者におけるVAL−083の安全性と最大耐量(MTD)を決定し、治療に対する薬物動態特性と腫瘍反応を調査することである。」(Abstract Background) 6c 「目的パート1: 1)VAL−083の用量制限毒性(DLT)を確立し、VAL−083の適切な用量と投与計画を特定する。 2)安全性を評価し、VAL−083に関連する毒性を特徴づける。 3)VAL−083の抗腫瘍活性に関する情報を収集する。 目的パート2: 4)より多くの患者で選択された用量/投与計画の安全性と忍容性を確認する。 5)奏効率及び無増悪生存期間によって測定される、GBMにおける抗腫瘍活性の予備的証拠を入手する。」(Abstract Objectives Part1,Objectives Part2) 6d 「方法:i)原発性WHOグレードIV悪性GBMの組織学的に確認された初期診断を有し、現在再発している患者であるか、又は、ii)進行性の二次性脳腫瘍、すなわち標準的な脳放射線療法に失敗し、少なくとも1系統の全身療法後に脳腫瘍が進行している患者におけるVAL−083の安全性、忍容性、薬物動態及び抗腫瘍活性を評価するためにデザインされた非盲検の単群第I/II相用量漸増試験。この試験では、MTD又は指定された最大用量に達するまで、3+3用量漸増デザインを利用する。患者は、21日間の各治療サイクルの1、2、及び3日目に、割り当てられた用量でVAL−083を静脈内投与される。第II相では、追加の患者がMTD(又は他の選択された最適な第II相用量)で治療され、腫瘍反応が測定される。登録されたすべての患者は、適切な場合には以前に手術及び/又は放射線治療を受けており、禁忌でない限り、ベバシズマブとTMZの両方に失敗している必要がある。」(Abstract Methods) 6e 「結果(試験進行中):コホート1(3人の患者)とコホート2(4人の患者)はDLTに到達することなく完了し、薬物関連の副作用(AE)は検出されなかった。28.5%(2/7の患者)は、定期的なMRIスキャンと検査によって評価されるように、VAL−083治療に反応して安定した疾患又は腫瘍の退縮を示している。コホート3には現在、DLTに到達せずに1人の患者が登録されている。 ClinicalTrials.gov識別子:NCT01478178」(Abstract Results) (2)引用文献6に記載された発明 引用文献6は、再発性悪性神経膠腫又は進行性の二次性脳腫瘍の患者を対象としたVAL−083の第I/II相試験に関する文献であって(摘記6a、6b、6d)、同引用文献6には、必要に応じて以前に手術及び/又は放射線治療を受けており、禁忌でない限り、ベバシズマブとテモゾロミドの両方に失敗している、すなわち、ベバシズマブとテモゾロミドの両方に耐性である、再発性の原発性WHOグレードIV悪性GBM(多形性膠芽腫)又は進行性の二次性脳腫瘍の患者に対し、21日間の各治療サイクルの1、2、及び3日目に、割り当てられた用量でVAL−083を静脈内投与したところ(摘記6d)、コホート1(3人の患者)とコホート2(4人の患者)はDLTに到達することなく完了し、薬物関連の副作用(AE)は検出されなかったこと、また、28.5%(7名中2名の患者)はVAL−083治療に反応して安定した疾患又は腫瘍の退縮を示したことが記載されている(摘記6e)。 VAL−083は、コホート1、2に割り当てられた用量で、安定した疾患又は腫瘍の退縮を示したのであるから、再発性の原発性グレードIV悪性GBM(多形性膠芽腫)又は進行性の二次性脳腫瘍の治療薬であるといえる。そして、再発性の原発性WHOグレードIV悪性GBM(多形性膠芽腫)は、摘記6a、6dの記載からみて、再発性悪性神経膠腫であるといえる。 以上によれば、引用文献6には、次の発明が記載されているといえる。 [引用発明6] 「再発性悪性神経膠腫又は進行性の二次性脳腫瘍の治療薬であって、VAL−083を含み、 前記再発性悪性神経膠腫又は進行性の二次性脳腫瘍は、禁忌でない限り、テモゾロミド及びベバシズマブの両方に耐性であり、 前記治療薬は、21日間の各治療サイクルの1、2、及び3日目に、割り当てられた用量でVAL−083を患者に対して静脈内投与される、治療薬。」の発明(以下、「引用発明6」という。) 2 引用文献4について 4a 「2013_02_28におけるNCT01478178の概要 ClinicalTrials識別子:NCT01478178 更新日:2013_02_28」(1/3 タイトル) 4b 「再発性悪性神経膠腫又は進行性の二次性脳腫瘍の患者を対象としたVAL−083の安全性試験 再発性悪性神経膠腫又は進行性の二次性脳腫瘍の患者を対象としたVAL−083の非盲検の単群、安全性及び忍容性の用量漸増試験」(1/3 Brief title, Official title) 4c 「この第1/2相、非盲検の単群試験の目的は、再発性悪性神経膠腫又は進行性の二次性脳腫瘍の患者におけるVAL−083の安全性と最大耐量(MTD)を決定することである。薬物動態(PK)特性が調査され、治療に対する腫瘍の反応が評価される。」(1/3 Brief summary) 4d 「ジアンヒドロガラクチトール(DAG)は、脳脊髄液(CSF)と血液脳関門の両方に急速に浸透し、脳組織に蓄積する。GBM又は進行性の二次性脳腫瘍の患者を対象としたDAGの臨床試験が必要である。」(1/3 Detailed description 第3段落) 4e 「この試験では、MTD又は指定された最大用量に達するまで、標準の3+3用量漸増デザインを利用する。第2相では、GBM又は進行性の二次性脳腫瘍の追加の患者がMTD(又は他の選択された最適な第2相用量)で治療され、治療に対する腫瘍の反応が測定される。」(1/3 Detailed description 第4段落) 4f 「評価:最大耐量(MTD)の決定 時間枠:研究35日目 安全性問題?:あり 説明:MTDの決定は、各用量群の治療の最初のサイクルからの耐性データの分析に基づいて行われる。」(1/3〜2/3 Detailed description Primary outcome) 4g 「評価:再発性悪性神経膠腫又は進行性の二次性脳腫瘍の患者の腫瘍反応を評価する 時間枠:60日ごと 安全性問題?:なし 説明:患者が応答するか又は安定した疾患を示し続け、かつ治療に耐えうる限り、1つおきの治療サイクルで腫瘍を評価する。 評価:サイクル1の血漿薬物動態の特性評価 時間枠:サイクル1:0、0.25、0.5、1、2、4、6時間、及びサイクル1の2日目の投与の直前 安全性問題?:なし 説明:血漿を分析して、適切なPKパラメーター(Cmax、Tmax、AUC、排泄半減期、薬物クリアランス、平均滞留時間、及び分布容積)を推定する。」(2/3 Detailed description Secondary outcome) 4h 「薬物:VAL−083 群ラベル:VAL−083 1.5mg/m2 IVの開始用量での静脈内注入によって与えられるVAL−083。連続投与コホートで投与される用量の漸増。」(2/3 Intervention) 4i 「資格基準 選択基準 ・患者は18歳以上でなければならない。 ・原発性WHOグレードIV悪性神経膠腫(神経膠芽腫)の組織学的に確認された初期診断を受けて、現在再発しているか、又は、進行性の続発性脳腫瘍を患っており、標準的な脳放射線療法に失敗し、少なくとも1系統の全身療法後に脳腫瘍が進行している。 ・GBMの場合、適切な場合には以前に手術及び/又は放射線療法でGBMの治療を受けており、いずれか又は両方が禁忌でない限り、ベバシズマブ(アバスチン)とテモゾロミド(テモダール)の両方に失敗している必要がある。 ・・・ ・最後の化学療法又はベバシズマブ(アバスチン)療法から少なくとも4週間(ニトロソ尿素又はマイトマイシンCの場合は6週間)、又は継続的または毎週投与され、毒性の遅延の可能性が限られている化学療法レジメンの場合、最後の投与から少なくとも2週間。 ・・・ ・平均余命が少なくとも12週間である必要がある。」(2/3〜3/3 Inclusion Criteria) 3 引用文献1について 1a 「悪性神経膠腫におけるジアンヒドロガラクチトールの第II相試験」(タイトル) 1b 「8人の患者が手術と放射線療法の補助としてDAGを受けた。」(p.1199右欄6〜7行) 1c 「DAGは、約1時間にわたって150mg/m2 ivの用量で投与され、21日間隔で再治療された。有意な骨髄抑制があった患者の用量は130mg/m2に減少し、毒性作用が最小限又は全くなかった患者のDAG用量は170mg/m2に増加した。」(p.1199右欄下から10行〜8行) 4 引用文献3について 3a 「ジアンヒドロガラクチトールと放射線療法 テント上神経膠腫の治療」(タイトル) 3b 「照射に加えてジアンヒドロガラクチトールを投与された患者は、照射のみを受けた患者よりも生存期間の中央値が有意に長かった(67週対35週)。」(p.2046 要約の項 5〜7行) 3c 「第I相試験中のジアンヒドロガラクチトールによる累積的な血液毒性影響に関する懸念から、我々は、他の第II相試験で推奨されている用量よりもわずかに低い用量を使用した。」(p.2046左欄下から3行〜中欄4行) 3d 「化学療法は、術後1年目は5週間ごとに、2年目は10週間ごとに、静脈内注入により、ジアンヒドロガラクチトールを、25mg/m2/日、5日間から構成された。」(p.2046右欄下から12行〜8行) 5 引用文献Aについて Aa 「再発性脳腫瘍のためのジアンヒドロガラクチトールをベースとする組合せ化学療法についての第II相試験」(タイトル) Ab 「上記のネズミ上衣芽腫システムにおいては、ジアンヒドロガラクチトール(DAG;NSC 132313)が最も活性の高い薬剤であった。」(p.1左欄9〜11行) Ac 「VP−16(NSC 141540)は、中期停止と有糸分裂への細胞侵入の阻害の両方を引き起こす半合成エピポドフィロトキシン誘導体である[2]。」(p.1左欄15〜18行) Ad 「トリアジネート(TZT;Baker’s Antifol;NSC 139105)は、メトトレキサートと同様に、デヒドロ葉酸レダクターゼを阻害するトリアジン葉酸拮抗薬である[4]。」(p.1右欄3〜5行) Ae 「DAGの使用時及び非使用時の脳照射試験が実施されていた期間中、我々は、放射線照射後に再発したテント上頭蓋内腫瘍の患者を対象とした2つの連続した非無作為化第II相試験において、DAG+VP−16+TZT(DVT)とDAG+VP−16(DV)の組み合わせを順次評価した。」(p.1右欄10〜16行) Af 「薬剤用量とスケジュールは次のとおりである:DV−DAG 20mg/m2、1〜5日目、10分の静脈内注入及びVP−16 75mg/m2、1、3、5日目、30分の静脈内注入;DVT−DAG 15mg/m2、1〜5日目、VP−16 75mg/m2、1、3、5日目及びTZT 75mg/m2(最初の2名の患者)若しくは125mg/m2(残りの13名の患者)、1〜3日目、60分の注入。DV及びDVTともに5〜6週間ごとに繰り返される。」(p.5左欄14〜20行) 第5 対比・判断 1 本願発明と引用発明6との対比 引用文献6には、同引用文献記載の臨床試験が、「ClinicalTrials.gov識別子:NCT01478178」であることが記載されている(摘記6e)。 そして、「ClinicalTrials.gov識別子:NCT01478178」の臨床試験計画に関する文献である引用文献4(摘記4a)には、試験の目的はVAL−083の安全性と最大耐量を決定すること(摘記4c)及びジアンヒドロガラクチトール(DAG)が血液脳関門に急速に浸透し、GBM(多形性膠芽腫)又は進行性の二次性脳腫瘍の患者を対象としたDAGの臨床試験が必要であることが記載されており(摘記4d)、該記載によれば、引用文献4に記載のVAL−083は、ジアンヒドロガラクチトールであると理解することができる。 そうすると、引用発明6の「VAL−083」は、ジアンヒドロガラクチトールであるから、本願発明の「修飾ヘキシトール誘導体であるジアンヒドロガラクチトール」に相当する。 また、引用発明6の「21日間の各治療サイクルの1、2、及び3日目に」、「患者に対して静脈内投与される」は、本願発明の「21〜24日間の治療サイクルで用いられるものであり」「治療サイクルの初日から3日間連続で」、「患者に対して」「静脈内投与するものである」に相当するといえる。 そして、再発性悪性神経膠腫、進行性の二次性脳腫瘍が悪性腫瘍であることは明らかであるし(必要であれば、摘記6b)、また、本願発明の「テモゾロミドおよびベバシズマブの少なくとも1つに耐性であ」るは、上記医薬の両方に耐性である場合を含むものである。 そうすると、引用発明6の「再発性悪性神経膠腫又は進行性の二次性脳腫瘍は、禁忌でない限り、テモゾロミド及びベバシズマブの両方に耐性であ」る治療薬は、本願発明の「再発性神経膠腫および進行性の二次性脳腫瘍からなる群から選択される悪性腫瘍の治療用に使用するための治療薬であって」、「再発性神経膠腫または進行性の二次性脳腫瘍は、テモゾロミドおよびベバシズマブの少なくとも1つに耐性であ」る治療薬に相当する。 以上によれば、本願発明と引用発明6との一致点、相違点は以下のとおりである。 <一致点> 再発性神経膠腫および進行性の二次性脳腫瘍からなる群から選択される悪性腫瘍の治療用に使用するための治療薬であって、 前記再発性神経膠腫または進行性の二次性脳腫瘍は、テモゾロミドおよびベバシズマブの少なくとも1つに耐性であり、 前記治療薬は、修飾ヘキシトール誘導体であるジアンヒドロガラクチトールまたはジアセチルジアンヒドロガラクチトールであり、 前記治療薬は、21〜24日間の治療サイクルで用いられるものであり、 前記治療サイクルの初日から3日間連続で、患者に対して修飾ヘキシトール誘導体を静脈内投与するものである、治療薬。 <相違点> 本願発明が、修飾ヘキシトール誘導体の量について、10mg/m2〜40mg/m2と特定しているのに対して、引用発明6には、かかる特定がなされていない点 2 判断 (1)相違点について ア 引用文献6の摘記6b、6cの1)、4)及び6dの記載によれば、同引用文献記載の第1/II相試験は、再発性神経膠腫又は進行性の二次性脳腫瘍の患者において、VAL―083の、安全性、忍容性、薬物動態及び抗腫瘍活性を評価するためにデザインされた試験であって、最大耐量(MTD)、用量制限毒性(DLT)及び適切な用量と投与計画を特定すること等を具体的な目的とするものと理解できる。引用文献6には、さらに、第II相では、追加の患者がMTD(又は他の選択された最適な第II相用量)で治療されることが記載されている(摘記6d)。 そして、上記1において説示のとおり、引用文献6記載の第I/II相試験「ClinicalTrials.gov識別子:NCT01478178」の臨床試験計画に関する引用文献4(摘記4a)には、静脈内注入するVAL−083の用量を1.5mg/m2から開始し、用量を漸増することが記載されている(摘記4e、4f、4h)。 ところで、本願優先日当時、研究開発された薬物の臨床における有用性を評価するために、ヒトへ薬物を投与する臨床試験を行うに際し、ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して初回投与量とし、次に段階的に用量を増しながら、用量増加に関連した薬理作用、薬物動態、副作用を調べ、これらの成績に基づいて、最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような用量の検討を行うことが、技術常識となっていたと認められる(必要であれば、「新医薬品の臨床評価に関する一般指針について」平成4年6月29日薬新薬第43号各都道府県衛生主管部長宛厚生省薬務局新医薬品課長通知 〔別添〕新医薬品の臨床評価に関する一般指針 の第一章 1〜3行、第二章第八1 1〜2行、同章第十○ 1〜2行、第五章第二2 3) 1〜11行 https://www.pmda.go.jp/files/000206739.pdf 参照)。 そうすると、引用発明6の治療薬におけるジアンヒドロガラクチトールの用量について、最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような用量の検討を行うこと、その際に、上記1のとおり、再発性悪性神経膠腫又は進行性の二次性脳腫瘍の患者に対するジアンヒドロガラクチトールの開始用量として引用文献4に記載されている1.5mg/m2から又はそれに近似する用量から開始し、徐々にその用量を増しながら治療に適した用量を導きだして、上記相違点に係る発明特定事項とすることは、当業者が格別の創意を要することなくなし得たものと認める。 イ また、ジアンヒドロガラクチトールの静脈内への注入用量についてみると、引用文献1には、悪性神経膠腫の患者に、21日の治療サイクルで、1サイクル当たり150mg/m2の量を約1時間で投与することが(摘記1a〜1c)、引用文献3には、テント上神経膠腫の患者に、5週間の治療サイクルで、1サイクル当たり25mg/m2/日の量を5日間投与することが(摘記3a、3d)、また、引用文献Aには、再発性脳腫瘍の患者に、5〜6週間の治療サイクルで、1サイクル当たり20mg/m2/日又は15mg/m2/日の量を5日間投与することが(摘記Aa〜Af)それぞれ記載されている。 そうすると、本願優先日当時、神経膠腫等の脳腫瘍の患者において、ジアンヒドロガラクチトールの静脈内への注入用量を、1日に投与する量として15〜150mg/m2程度、1サイクルで投与する累積量として75〜150mg/m2程度の用量を用いることが知られていたといえる。 そして、上記の神経膠腫等の脳腫瘍の患者に投与されるジアンヒドロガラクチトール用量は、引用発明6における再発性悪性神経膠腫又は進行性の二次性脳腫瘍の患者における用量の目安となるものと解される。 したがって、引用発明6におけるジアンヒドロガラクチトールの治療に適した用量を導き出す過程において、「初日から3日間連続で、患者に対して10〜40mg/m2の量」という数値は、当業者が当然考慮し得る数値の範囲内であったものといえる。 (2)効果について ア 本願明細書には、同明細書記載の発明が、再発性悪性神経膠腫、特に多形性膠芽腫を治療するための、及び進行性の二次性脳腫瘍、特に乳腺腺癌、小細胞肺癌、又は黒色腫の転移に起因する腫瘍を治療するための有効な方法及び組成物を提供すること、特に、悪性腫瘍がテモゾロミド又はベバシズマブなどの治療薬に耐性であることが分かっている状況における処置のための新しい治療手順を提供すること、及びこれらの方法及び組成物は、十分に忍容され、有意な副作用を引き起こさないこと(【0451】、【0448】)が記載されている。 イ 本願明細書には、再発性の主要なWHOグレードIVの悪性GBM又は進行性の二次性脳腫瘍の患者に対し、各21日の処置サイクルの1日目、2日目、及び3日目に、3+3用量漸増設計に従い、MTD又は最大の特定用量に達するまで割り当てられた用量でジアンヒドロガラクチトールを静脈内投与して非盲検の単群第I/II相用量漸増試験を行ったところ(【0434】、【表3】)、薬物関連の重篤な有害事象が検出されておらず、最大耐量(MTD)は、30mg/m2までの用量ではMTDに到達しなかったこと、40mg/m2の用量について評価が進行中であること、初期のコホートで報告された応答(安定疾患又は部分応答)を示す2人の患者は、試験とは無関係な有害事象による中止の前に、28サイクル(84週間)の最大応答の臨床徴候を改善したこと、現在までに、コホート6(30mg/m2)の2人の患者の1人は、1サイクルの処置後に安定した疾患を示したことが記載されている(【0435】、【0449】)。 これら記載によれば、ジアンヒドロガラクチトールは30mg/m2までの用量で、上記患者の処置において、安全性、忍容性及び抗腫瘍活性を有するものであることが理解される。 しかし、相違点に係る用量が、ジアンヒドロガラクチトールの用量として当業者が考慮し得る範囲のものといえることは上記(1)で説示のとおりであり、当該用量に特定したことにより、本願発明がその他の用量から予測し得ない治療効果を奏したものとも認められない。 また、本願発明の上記安全性、忍容性についてみても、引用文献3におけるジアンヒドロガラクチトールの用量(1日当たり25mg/m2の5日間投与を1サイクルとする5週間毎の投与スケジュール(摘記3d、上記(1)イ))を、ジアンヒドロガラクチトールの蓄積性の血液毒性への懸念から採用したとの記載(摘記3c)に照らすと、本願明細書記載の上記効果は本願優先日当時の先行技術から予測し得るものにすぎない。 そして、本願発明の上限用量である40mg/m2で投与した場合の副作用については、まだ解析が進行中であり(【0435】、【0449】)、副作用がないか否かは未だ不明な状況であり、上記副作用に関する効果は、本願発明の全ての範囲について確認されたものでもない。 ウ 本願明細書には、上記に加え、ジアンヒドロガラクチトールが、用量依存性の血漿−濃度プロファイルを示すこと(【0438】、【0449】、【図2】)、手術、X線照射、テモゾロミド、ベバシズマブの前治療を受けたGBM患者8名、乳腺腺癌、小細胞肺癌、黒色腫患者の計6名の患者が、各々、25%、17%の全体腫瘍応答を示したこと、両患者ともに重篤な有害事象(SAE)も用量制限毒性(DLT)もなく、順に、25%、17%の全体腫瘍応答を示したこと(【0440】、【表1】)、並びに、2サイクルのジアンヒドロガラクチトール処置後、ヒト対象のMRIスキャン結果から異常亢進の太いコンフルエント領域が減少したこと(【0447】、【図3】)が記載されている。 まず、ジアンヒドロガラクチトールの血漿−濃度プロファイルは、薬物動態特性を示すデータであり、また、薬物動態特性は引用文献6に記載されている引用発明6がその目的の一つとするものであるから(摘記6b)、用量漸増に際し、参考にすることができるデータであるといいえても、それ自体はなんらの効果を示すものでもない。 また、表1及び図3に示されている抗腫瘍効果は、ジアンヒドロガラクチトール投与の用法・用量や、前治療が標準的治療であった患者群についてはさらにその腫瘍タイプについて本願明細書に記載がなく不明であるから、当該試験結果を本願発明の効果であるとはいえない。 仮に、本願発明の効果であるといえるとしても、ジアンヒドロガラクチトールがベバシズマブとテモゾロミドの両方に耐性である、再発性悪性神経膠腫又は進行性の二次性脳腫瘍の患者に対し、治療効果を奏するものであることが引用文献6に記載されているといえることは上記「第4 1(2)」において説示のとおりであるから、本願明細書記載の本願発明の上記効果は、予測し得る効果について、それを応答率等の数値データやMRI等の画像データとして計測し表記したにすぎない。 エ 本願明細書には、ジアンヒドロガラクチトールが、インビトロでのMGMT関連化学療法耐性とは無関係であり、TMZ耐性GBMに有効である可能性を有することが記載されている(【0428】、【0432】、【0437】及び図1) しかし、VAL−083、すなわちジアンヒドロガラクチトールが、in vitroでMGMTによる薬剤耐性を克服することを示す研究があることが引用文献6に記載されているように(摘記6b)、ジアンヒドロガラクチトールがMGMT関連化学療法耐性と関係しないことは本願優先日当時すでに知られている事項である。また、ベバシズマブとテモゾロミドの両方に耐性である、再発性の原発性WHOグレードIV悪性GBM又は進行性の二次性脳腫瘍の患者に対し、ジアンヒドロガラクチトールがコホート1、2における用量で投与された場合に、安定した疾患又は腫瘍の退縮を示し、治療効果を奏することも引用文献6に具体的に記載されている(「第4 1(2)」)。 以上のとおりであるから、本願発明が引用発明6又は本願優先日当時の先行技術から予測し得ない顕著な効果を奏するものであるとはいえない。 (3)小括 したがって、本願発明は、引用文献6に記載された発明及び引用文献6、4、1、3及びAに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認める。 第6 請求人の主張について 1 請求人は、引用文献4は、「10mg/m2〜40mg/m2の量の修飾ヘキシトール誘導体を患者に提供するために3日間連続で静脈内投与すること」や、「テモゾロミド及びベバシズマブの少なくとも1つに耐性である再発性神経膠腫又は進行性の二次性脳腫瘍」に罹患した患者に対して投与することについて一切開示していないから、引用文献4と引用文献6とを組み合わせることで、本願発明に容易に想到することはできない旨を主張する(令和3年5月25日提出の意見書4.(2)(i))。 引用文献6記載の試験に登録された全ての患者は、「禁忌でない限り、ベバシズマブとDMZの両方に失敗している患者」(摘記6d)であるから、、「テモゾロミド及びベバシズマブの少なくとも1つに耐性である再発性神経膠腫又は進行性の二次性脳腫瘍」に罹患した患者は、引用文献6に記載されている事項であり、また、引用文献4にも、GBM患者である場合において、同趣旨の記載がある(摘記4i)。 また、用量については、研究開発された薬物について、その用量を段階的に増しながら、臨床において最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような用量の検討を行うことが、本願優先日当時の技術常識になっていたと認められることから、該技術常識に基づいて、当業者が好適な用量を検討する十分な動機付けがあるといえることは、すでに上記「第5 2(1)ア」で説示したとおりであり、「10mg/m2〜40mg/m2」との数値自体の記載がないからといって、治療用量を導き出せないとはいえない。 2 請求人は、引用文献4、3、1、Aはジアンヒドロガラクチトールを他の薬剤又は放射線と併用して用いることを前提とした上で決定した投与量を記載しているにすぎず、ジアンヒドロガラクチトールを単独で使用しようとする引用文献6において、引用文献4、3、1、Aに記載の投与量及び連続投与日数などを参考にしようとは、到底思い至らないから、上記引用文献の開示内容を参酌しても、複数の薬剤の組合せによる併用療法と単独使用の場合の治療方法は全く異なるため、引用文献6と本願発明との相違点を埋め合わせることはできない旨を主張する(令和3年5月25日提出の意見書4.(2)(ii)、5.)。 まず、引用文献4は、ジアンヒドロガラクチトールを他の薬剤又は放射線と併用して用いることについて何らの記載もないので、請求人の引用文献4についての上記主張は、根拠がない。 そして、引用文献3、1、Aに記載された治療用量が、他の薬剤又は放射線と併用するための用量であるとしても、ジアンヒドロガラクチトールの静脈内注入による神経膠腫等の脳腫瘍の治療において通常採用されている程度の用量であることに変わりはないから、第5 2(1)アで説示のとおり、本願優先日当時技術常識であったと認められる、最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような薬物の用量を検討するに当たり、段階的に用量を増やしていく際に参考とし得る用量であるといえる。 以上のとおり、請求人のいずれの主張も、上記「第5 2」で説示した判断に影響するものではない。 第7 むすび 以上のように、本願請求項1に係る発明は、引用文献6に記載された発明、並びに引用文献6、4、1、3及びAに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 審判長 藤原 浩子 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |
審理終結日 | 2021-07-20 |
結審通知日 | 2021-07-27 |
審決日 | 2021-08-18 |
出願番号 | P2016-517073 |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(A61K)
P 1 8・ 121- WZ (A61K) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
藤原 浩子 |
特許庁審判官 |
渕野 留香 穴吹 智子 |
発明の名称 | 再発性神経膠腫および進行性の二次性脳腫瘍からなる群から選択される悪性腫瘍の治療用に使用するための治療薬 |
代理人 | 特許業務法人アイミー国際特許事務所 |