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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1381389
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-27 
確定日 2021-12-24 
事件の表示 特願2018−236095「偏光素子、円偏光板及びそれらの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月28日出願公開、特開2019− 49758〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2018−236095号(以下「本件出願」という。)は、平成24年7月6日に出願した特願2012−152166号(先の出願に基づく優先権主張 平成23年7月7日)の一部を、平成29年2月24日に特願2017−33060号として新たに特許出願し、さらにその一部を平成30年12月18日に新たに特許出願したものであって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成31年 1月 8日提出:手続補正書
令和 元年10月11日提出:手続補正書
令和 元年11月 7日提出:手続補正書
令和 元年11月14日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 1月22日提出:意見書
令和 2年 1月22日提出:手続補正書
令和 2年 7月29日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年10月27日提出:審判請求書
令和 2年10月27日提出:手続補正書
令和 3年 5月27日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 7月29日提出:意見書
令和 3年 7月29日提出:手続補正書


第2 本願発明
本件出願の請求項1〜4に係る発明は、令和3年7月29日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「 透明基材が第1の巻芯に巻き取られている第1ロールを準備する工程と、
該第1ロールから、該透明基材を連続的に送り出す工程と、
シンナモイル基を有するポリマーと溶剤とを含有する組成物を塗布して、該透明基材上に第1塗布膜を連続的に形成する工程と、
該第1塗布膜から該溶剤を乾燥除去することにより、該透明基材上に第1乾燥被膜を形成して、第1積層体を連続的に得る工程と、
該第1乾燥被膜に偏光UVを照射することにより、該第1積層体の搬送方向に対して、略45°の角度に配向方向を有する光配向層を形成して、第2積層体を連続的に得る工程と、
該光配向層上に、重合性スメクチック液晶化合物、二色性色素、レベリング剤及び溶剤を含有し、前記レベリング剤が重合性スメクチック液晶化合物100質量部に対して、0.5質量部以上3質量部以下である組成物を塗布して、該光配向層上に第2塗布膜を連続的に形成する工程と、
該第2塗布膜を、該第2塗布膜中に含まれる該重合性スメクチック液晶化合物が重合しない条件で乾燥することにより、該光配向層上に第2乾燥被膜を形成して第3積層体を連続的に得る工程と、
該第2乾燥被膜中に含まれる該重合性スメクチック液晶化合物をスメクチック液晶状態とした後、該スメクチック液晶状態を保持したまま、該重合性スメクチック液晶化合物を光重合させることにより、該第3積層体の搬送方向に対して、45°の角度に吸収軸を有し、厚みが0.5〜3μmの範囲である偏光層を形成して、フィルム状且つ長尺状である偏光素子を連続的に得る工程と、
連続的に得られた偏光素子を第2の巻芯に巻取り、第2ロールを得る工程と、
を有する偏光素子の製造方法。」


第3 拒絶の理由
令和3年5月27日付けで当合議体が通知した拒絶理由は、概略、本件出願の請求項1に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献1:特開2010−1368号公報
引用文献2:特開2007−34174号公報
(当合議体注:引用文献1は主引例であり、引用文献2は副引例である。)


第4 引用文献1及び引用発明
1 引用文献1の記載事項
当合議体の拒絶の理由で引用文献1として引用され、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2010−1368号公報(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付与したものであって、引用発明の認定及び判断等で活用した箇所である。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、棒状液晶単量体及び二色性色素を含有する液晶組成物に関する。また、本発明は、該組成物を用いた光吸収異方性膜、偏光素子及び液晶表示装置に関する。
・・・省略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高い二色性を有する液晶組成物、特に、ネマチック液晶性及びスメクチック液晶性、中でも特に、スメクチックB液晶性を有する液晶組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、幅広い温度において、優れた二色比を有する光吸収異方性膜、偏光素子、および表示性能に優れた液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
<1>配向かつ重合可能な棒状液晶単量体を主成分とし、下記式(1)を満足する二色性色素の少なくとも一種を含有することを特徴とする液晶組成物、
式(1)
Ld/Ll>1
[式中Llは液晶単量体の分子長軸の分子長を表し、Ldは二色性色素の分子長を表す。]
<2>前記棒状液晶単量体が下記一般式(2)で表されることを特徴とする<1>項記載の液晶組成物、
【0011】
【化1】

【0012】
[式中、Q1およびQ2は、それぞれ独立に、重合性基であり;X1およびX2は、それぞれ独立に、アルキレン基または置換アルキレン基であり;L1およびL4は、それぞれ独立に、単結合または−O−、−CO−、−NR−、アルキレン基、置換アルキレン基およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であって、Rは水素原子またはアルキル基であり;L2およびL3は、それぞれ独立に、単結合または−O−、−CO−、−NR−およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であって、Rは水素原子またはアルキル基であり;Y1、Y2およびY3は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表し;n1、n2およびn3は、それぞれ独立に、0乃至4の整数であり;そして、mは0乃至4の整数である]、
<3>前記液晶組成物がネマチック相およびスメクチック相のいずれも形成可能なことを特徴とする<1>または<2>項に記載の液晶組成物、
<4>前記スメクチック相がスメクチックB相であることを特徴とした<3>項に記載の液晶組成物、
・・・省略・・・
【発明の効果】
【0017】
本発明の液晶組成物は、ネマチック液晶性及びスメクチック液晶性、特に、スメクチックB液晶性を有し、且つ偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有するものとすることができる。また、本発明の光吸収異方性薄膜および偏光素子は、幅広い温度において、優れた二色比を有するものとすることができる。また、本発明の液晶表示装置は表示性能に優れる。
【0018】
本発明の液晶組成物は、棒状液晶単量体を主成分とし、該組成物が下記式(1)を満足する二色性色素の少なくとも一種を含有する。
式(1)
Ld/Ll>1
[式中Llは液晶単量体の分子長軸の分子長を表し、Ldは二色性色素の分子長を表す。]
【0019】
[棒状液晶単量体]
まず、棒状液晶単量体について説明する。棒状液晶は、液晶性化合物の分子構造において、よく知られている概念であり、(液晶便覧編集委員会編、「液晶便覧」、丸善(株)、2000年発行;および岩柳茂夫著、「液晶」、共立出版、1984年発行)に記載されている。
本発明では、棒状液晶をネマチック相からスメクチック相に転移させたのち、重合することが好ましいため、ネマチック相とスメクチック相、特にスメクチックB相の双方を発現できる棒状液晶が好適に用いられる。
【0020】
本明細書において、スメクチック相とは、一方向に揃った分子が層構造を有している状態をいう。ここで、棒状スメクチック液晶とは、スメクチック液晶相を示す温度範囲を有する棒状液晶である。
【0021】
一般に棒状液晶は、複数の環(例、芳香族環)が連結した剛直性に富むユニット(メソゲン基)と、その両端を置換した炭化水素鎖(側鎖部)からなる。側鎖部の炭化水素鎖の僅かな相違により、液晶相の種類や相転移温度が極めて敏感に変化する。
同一のメソゲン基を有する場合には、その炭化水素鎖が長いものほどスメクチック相を示すことが一般的である。
【0022】
スメクチック相を示す棒状液晶のメソゲン基の例は、アゾメチン、アゾキシベンゼン、ビフェニル、フェニルエステル、安息香酸エステル、シクロヘキサンカルボン酸フェニル、フェニルシクロヘキサン、フェニルピリミジン、フェニルジオキサンを含む。
スメクチック相を示すメソゲン基は、ビフェニル、安息香酸エステル、フェニルピリミジンが好ましく、三環以上のフェニル基を有する安息香酸エステル(特開平11−322678号公報記載)がさらに好ましい。
【0023】
スメクチック相を示す棒状液晶の炭化水素鎖(側鎖部)は、炭素原子数が3乃至20の炭化水素基が好ましく、炭素原子数が6乃至14の炭化水素基がさらに好ましい。
特に好ましい棒状液晶は、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類である。低分子液晶に代えて、または加えて、高分子液晶を用いてもよい。
【0024】
本発明の棒状液晶単量体は、重合性基を有することが好ましい。
重合性基は、ラジカル重合性基(例、エチレン性不飽和基)または開環重合性基(例、エポキシ基、オキセタン基)が好ましく、ラジカル重合性基がさらに好ましい。
【0025】
重合性基を有する棒状液晶単量体は、下記式(2)で表されることが好ましい。
【0026】
【化4】
一般式(2)

・・・省略・・・
【0034】
以下に、前記一般式(2)で表される棒状液晶単量体の具体例をあげるが、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。
【0035】
【化5】
・・・省略・・・


・・・省略・・・
【0040】
次に、二色性色素について詳細に説明する。
本発明の二色性色素は下記式(1)の関係を満たす限り特に限定されないが、好ましくは、アゾ系色素、シアニン系色素、アゾ金属錯体、フタロシアニン系色素、ピリリウム系色素、チオピリリウム系色素、アズレニウム系色素、スクワリリウム系色素、キノン系色素、トリフェニルメタン系色素、およびトリアリルメタン系色素などを挙げることができる。
式(1)
Ld/Ll>1
[式中Llは液晶単量体の分子長軸の分子長を表し、Ldは二色性色素の分子長を表す。]
本発明の二色性色素として、より好ましくはアゾ色素またはキノン系色素があげられる。アゾ色素及びキノン系色素としてさらに好ましくは特開2003−96461号公報及び特開2007−41260号公報で挙げられたアゾ色素及びキノン系色素を挙げることができる。
【0041】
本発明の二色性色素として特に好ましくは下記一般式(3)で表されるアゾ色素である。
【0042】
【化7】

【0043】
[式中、D1およびD2は各々独立してアゾ色素の発色団を表し、L1およびL2は各々独立して連結基を表し、n1およびn2は各々独立して0または1を表し、Qは下記一般式(Q)で表される2価基を表す。]
・・・省略・・・
【0070】
前記一般式(3)で表されるアゾ色素の具体例を以下に示すが、本発明は以下の具体例によってなんら制限されるものではない。
・・・省略・・・
【0072】
【化14】

・・・省略・・・
【0084】
[液晶組成物の添加剤]
本発明の液晶組成物には、前記の棒状液晶単量体及び二色性色素の他に、任意の添加剤を併用することができる。本発明の液晶組成物を用いて光吸収異方性膜を形成する場合の添加剤の例としては、風ムラ防止剤、ハジキ防止剤、配向膜のチルト角(光吸収異方性膜/配向膜界面での棒状液晶単量体及び二色性色素の傾斜角)を制御するための添加剤、空気界面のチルト角(光吸収異方性膜/空気界面での棒状液晶単量体及び二色性色素の傾斜角)を制御するための添加剤、重合開始剤、配向温度を低下させる添加剤(可塑剤)、重合性モノマー、糖類、防黴、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤等が挙げられる。以下、各添加剤について説明する。
【0085】
[風ムラ防止剤]
棒状液晶単量体及び二色性色素とともに使用して、塗布時の風ムラを防止するための材料としては、一般にフッ素系ポリマーを好適に用いることができる。使用するフッ素系ポリマーとしては、棒状液晶単量体及び二色性色素のチルト角変化や配向を著しく阻害しない限り、特に制限はない。風ムラ防止剤として使用可能なフッ素ポリマーの例としては、特願2002−364034号公報、特願2003−129354号公報、特願2003−394998号公報、特願2004−12139号公報に記載がある。棒状液晶単量体及び二色性色素とフッ素系ポリマーとを併用することによって、ムラを生じることなく表示品位の高い画像を表示することができる。さらに、ハジキなどの塗布性も改善される。棒状液晶単量体及び二色性色素の配向を阻害しないように、風ムラ防止目的で使用されるフッ素系ポリマーの添加量は、棒状液晶単量体及び二色性色素に対して一般に0.1〜2質量%の範囲であるのが好ましく、0.1〜1質量%の範囲にあるのがより好ましく、0.4〜1質量%の範囲にあるのがさらに好ましい。
・・・省略・・・
【0113】
[光吸収異方性膜]
本発明の光吸収異方性膜は、上記の本発明の液晶組成物を用いて形成されたものである。
【0114】
[塗布溶剤]
本発明の光吸収異方性膜は、本発明の棒状液晶単量体及び二色性色素を含有する液晶組成物の塗布液を用いて形成するのが好ましい。塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。2種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0115】
[塗布方式]
棒状液晶単量体及び二色性色素含有液晶組成物塗布液の配向膜表面への塗布は、通常の方法(例えば、ワイヤバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法、インクジェット法)により実施できる。また、棒状液晶単量体及び二色性色素含有液晶組成物塗布液における棒状液晶単量体及び二色性色素含有液晶組成物の含有量は1〜40質量%が好ましく、1〜30質量%がより好ましく、1〜20質量%がさらに好ましい。
・・・省略・・・
【0125】
[光吸収異方性膜の特性]
光吸収異方性膜の厚さは、0.1〜10μmであることが好ましく、0.1〜5μmであることがさらに好ましく、1〜5μmであることが最も好ましい。
【0126】
本発明の棒状液晶単量体及び二色性色素含有液晶組成物塗布液を配向膜上に適用すると、棒状液晶単量体及び二色性色素は配向膜との界面では配向膜のチルト角で配向し、空気との界面では空気界面のチルト角で配向する。本発明の棒状液晶単量体及び二色性色素含有液晶組成物塗布液を配向膜の表面に塗布後、棒状液晶単量体及び二色性色素を均一配向(モノドメイン配向)させることで、水平配向を実現することができる。
棒状液晶単量体及び二色性色素を水平配向させ、且つその配向状態に固定することによって形成された光吸収異方性膜は、偏光素子として利用することができる。
・・・省略・・・
【0129】
[配向膜]
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で、設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。配向膜上に設けられる光吸収異方性膜の棒状液晶単量体及び二色性色素に所望の配向を付与できるのであれば、配向膜としてはどのような層でもよいが、本発明においては、配向膜のプレチルト角の制御し易さの点から、特にポリマーのラビング処理により形成する配向膜が特に好ましい。ラビング処理は、一般にはポリマー層の表面を、紙や布で一定方向に数回擦ることにより実施することができるが、特に本発明では液晶便覧編集委員会編、「液晶便覧」(丸善(株)、2000年発行)に記載されている方法により行うことが好ましい。
配向膜の厚さは、0.01〜10μmであることが好ましく、0.05〜1μmであることがさらに好ましい。
配向膜に用いられるポリマーは、多数の文献に記載があり、多数の市販品を入手することができる。光学補償フィルム用の配向膜ではポリビニルアルコール及びその誘導体が好ましく用いられる。特に好ましくは、疎水性基が結合している変性ポリビニルアルコールが特に好ましい。配向膜についてはWO01/88574A1号公報の43頁24行〜49頁8行の記載を参照することができる。
・・・省略・・・
【0133】
[支持体]
本発明に使用する支持体は透明であっても、着色等により不透明化した支持体であってもよいが、透明な支持体(透明支持体)であるのが好ましく、光透過率が80%以上であるのが好ましい。光学的等方性のポリマーフィルムを用いるのが好ましい。ポリマーの具体例および好ましい態様は、特開2002−22942号公報の段落番号[0013]の記載を適用できる。また、従来知られているポリカーボネートやポリスルホンのような複屈折の発現しやすいポリマーであっても国際公開WO00/26705号公報に記載の分子を修飾することで該発現性を低下させたものを用いることもできる。
・・・省略・・・
【0143】
[光吸収異方性膜の用途]
本発明の光吸収異方性膜は、光吸収の異方性を利用し直線偏光、円偏光、楕円偏光等を得る偏光膜として機能する他、膜形成プロセスと基材や色素を含有する組成物の選択により、屈折異方性や伝導異方性などの各種異方性膜として機能化が可能となり、様々な種類の、多様な用途に使用可能な偏光素子とすることができる。
【0144】
[偏光素子]
本発明の偏光素子は、例えば、(1)支持体、または該支持体上に形成された配向膜をラビングする工程、(2)ラビング処理した支持体または配向膜上に、有機溶媒に溶解した本発明の棒状液晶単量体及び二色性色素含有液晶組成物を塗布する工程、(3)前記有機溶媒を蒸発させる工程、(4)ネマチック相温度以上に加熱した後スメクチック相温度まで降温する工程、により製造することができる。前記(1)〜(4)の工程の詳細については、前述の通りである。
【0145】
本発明の光吸収異方性膜を基材上に形成し偏光素子として使用する場合、形成された光吸収異方性膜そのものを使用してもよく、また上記の様な保護層のほか、粘着層或いは反射防止層、配向膜、位相差フィルムとしての機能、輝度向上フィルムとしての機能、反射フィルムとしての機能、半透過反射フィルムとしての機能、拡散フィルムとしての機能、光学補償フィルムとしての機能などの光学機能をもつ層など、様々な機能をもつ層を湿式成膜法などにより積層形成し、積層体として使用してもよい。
これら光学機能を有する層は、例えば以下の様な方法により形成することが出来る。
・・・省略・・・
【0156】
[液晶表示装置]
本発明の液晶表示装置は上記の本発明の光吸収異方性膜または偏光素子を備えてなるものである。
本発明の液晶表示装置の製造方法の一例として、前記光吸収異方性膜または偏光素子からなる光学異方性層を、転写材料から転写して形成することを含む方法が挙げられる。転写材料を用いて光学異方性層を形成することにより、工程数を軽減して、簡易な方法で良好な表示特性の液晶表示装置を作製することができる。」

(2)「【実施例】
【0173】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
なお、以下の実施例中、光吸収異方性膜の光学特性に関する測定は下記の通り実施した。
【0174】
<二色比>
二色比は、ヨウ素系偏光素子を入射光学系に配した分光光度計で光吸収異方性膜の吸光度を測定した後、次式により計算した。
二色比(D)=Az/Ay
Az:光吸収異方性膜の吸収軸方向の偏光に対する吸光度
Ay:光吸収異方性膜の偏光軸方向の偏光に対する吸光度
【0175】
また、以下の実施例中、棒状液晶単量体及び二色性色素の分子長軸の分子長は、密度汎関数法により各配座の構造最適化計算を行ったのち、安定コンフォメーションで計算を行った。計算はGaussian03(米・ガウシアン社)を用いた。
用いた棒状液晶単量体の分子長(Ll)と二色性色素の分子長(Ld)を表1に示す。
【0176】
【表1】

【0177】
(実施例1)
クロロホルム80質量部に棒状液晶単量体No.(11)を19.6質量部及び二色性アゾ色素No.(18)を0.4質量部加え、撹拌溶解後濾過して液晶組成物の塗布液を得た。次に、ガラス基板上に形成しラビングした配向膜上に、前記塗布液を塗布し、室温でクロロホルムを自然乾燥した後、155℃で1分間加熱熟成し、ネマチック相で配向させた。この後、80℃まで降温してスメクチックB相で光吸収異方性膜を作製した。配向膜としては、ポリイミド(日産化学社製SE−150)を使用した。
【0178】
得られた光吸収異方性膜における色素膜面内の吸収軸方向に振動面を有する偏光に対する吸光度(Az)、および色素膜面内の偏光軸方向に振動面を有する偏光に対する吸光度(Ay)とから求めた二色比(D)、二色性色素の分子長(Ld)と棒状液晶単量体の分子長(Ll)の比(Ld/Ll)、極大吸収波長(λmax)、および相転移温度を表2に示す。組成物は、ネマチック液晶性及びスメクチック液晶性、特に、スメクチックB液晶性を有しており、且つ偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0179】
(実施例2)
アゾ色素をNo.(19)に変更した以外、実施例1と同様に光吸収異方性膜を作製した。
得られた光吸収異方性膜の二色比(D)、分子長比(Ld/Ll)、極大吸収波長(λmax)、および相転移温度を表2に示す。組成物は、ネマチック液晶性及びスメクチック液晶性、特に、スメクチックB液晶性を有しており、且つ偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0180】
(実施例3)
クロロホルム80質量部に棒状液晶単量体No.(11)を18.8質量部及び二色性アゾ色素No.(19)を0.4質量部及び重合開始剤としてIragacure OXE−01(Ciba Speciality Chemicals 社製)を0.8質量部加え、撹拌溶解後濾過して液晶組成物の塗布液を得た。このものを実施例2と同様の条件で塗布し、155℃で1分間加熱熟成してネマチック相で配向させた後、80℃まで降温してスメクチックB相で2Jの紫外線を照射して配向状態を固定化した。得られた光吸収異方性膜の二色比(D)、分子長比(Ld/Ll)、極大吸収波長(λmax)、および相転移温度を表2に示す。組成物は、ネマチック液晶性及びスメクチック液晶性、特に、スメクチックB液晶性を有しており、得られた異方性色素膜は偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有する異方性色素膜であった。
【0181】
(比較例1)
アゾ色素をWO2007/000705記載の下記アゾ色素(A)に変更した以外、実施例1と同様に光吸収異方性膜を作製した。
得られた光吸収異方性膜の二色比(D)、分子長比(Ld/Ll)、極大吸収波長(λmax)、および相転移温度を表2に示す。組成物は、ネマチック液晶性及びスメクチック液晶性、特に、スメクチックB液晶性を有していたが、スメクチックB相への降温により全面に配向欠陥が発生し、二色比が著しく低下した。
【0182】
【表2】

【0183】
K:結晶相
SB:スメクチックB相
SC:スメクチックC相
SA:スメクチックA相
N:ネマチック相
I:アイソトロピック相」

2 引用発明
引用文献1の【0144】には、偏光素子の製造方法として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「 (1)支持体上に形成された配向膜をラビングする工程、(2)ラビング処理した配向膜上に、有機溶媒に溶解した棒状液晶単量体及び二色性色素含有液晶組成物を塗布する工程、(3)前記有機溶媒を蒸発させる工程、(4)ネマチック相温度以上に加熱した後スメクチック相温度まで降温する工程、により製造する、偏光素子の製造方法。」


第5 対比
1 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)第1塗布膜を連続的に形成する工程、第1積層体を連続的に得る工程、第2積層体を連続的に得る工程について
引用発明は、「(1)支持体上に形成された配向膜をラビングする工程」を具備する。
引用発明の「支持体」が透明であることは明らかである。そうしてみると、引用発明の「支持体」は、本願発明の「透明基材」に相当する。
また、引用発明の「配向膜」は、配向方向を有する層を形成するといえる。そうしてみると、引用発明の「配向膜」は、本願発明の「光配向層」と、「配向層」の点で共通する。また、引用発明の「支持体上に形成された配向膜」(以下「積層体a」という。)は、本願発明の「第2積層体」に相当する。
さらに、引用発明の「(1)支持体上に形成された配向膜をラビングする工程」は、本願発明の「シンナモイル基を有するポリマーと溶剤とを含有する組成物を塗布して、該透明基材上に第1塗布膜を連続的に形成する工程と、該第1塗布膜から該溶剤を乾燥除去することにより、該透明基材上に第1乾燥被膜を形成して、第1積層体を連続的に得る工程と、該第1乾燥被膜に偏光UVを照射することにより、該第1積層体の搬送方向に対して、略45°の角度に配向方向を有する光配向層を形成して、第2積層体を連続的に得る工程」と、「透明基材上に配向方向を有する配向層を形成して、第2積層体を得る工程」の点で共通する。

(2)第2塗布膜を連続的に形成する工程について
引用発明は、(2)ラビング処理した配向膜上に、有機溶媒に溶解した棒状液晶単量体及び二色性色素含有液晶組成物を塗布する工程、(3)前記有機溶媒を蒸発させる工程、(4)ネマチック相温度以上に加熱した後スメクチック相温度まで降温する工程」を具備する。
上記組成及び工程からみて、引用発明の「二色性色素」及び「有機溶媒」は、それぞれ、本願発明の「二色性色素」及び「溶剤」に相当する。
また、上記組成及び工程からみて、引用発明の「棒状液晶単量体」は、本願発明の「重合性スメクチック液晶化合物」に相当する。また、引用発明の「有機溶媒に溶解した棒状液晶単量体及び二色性色素含有液晶組成物」は、本願発明の「組成物」に相当する。さらに、引用発明の「ラビング処理した配向膜上に」「塗布した」「有機溶媒に溶解した棒状液晶単量体及び二色性色素含有液晶組成物」が膜を形成することは明らかである。そうしてみると、引用発明の「ラビング処理した配向膜上に、有機溶媒に溶解した棒状液晶単量体及び二色性色素含有液晶組成物を塗布」した膜(以下「塗布膜a」という。)は、本願発明の「第2塗布膜」に相当する。
さらに、引用発明の「(2)ラビング処理した配向膜上に、有機溶媒に溶解した棒状液晶単量体及び二色性色素含有液晶組成物を塗布する工程」は、本願発明の「該光配向層上に、重合性スメクチック液晶化合物、二色性色素、レベリング剤及び溶剤を含有し、前記レベリング剤が重合性スメクチック液晶化合物100質量部に対して、0.5質量部以上3質量部以下である組成物を塗布して、該光配向層上に第2塗布膜を連続的に形成する工程」と、「該配向層上に、重合性スメクチック液晶化合物、二色性色素、及び溶剤を含有する組成物を塗布して、該配向層上に第2塗布膜を形成する工程」の点で共通する。

(3)第3積層体を連続的に得る工程について
上記(2)の組成及び工程からみて、引用発明は、「(3)前記有機溶媒を蒸発させる工程」により「塗布膜a」を乾燥するものであるといえる。そうしてみると、引用発明の「塗布膜a」を乾燥した膜(以下「乾燥膜a」という。)は、引用発明の「第2乾燥被膜」に相当する。また、引用発明の「積層体a」に「塗布膜a」を乾燥して得られた積層体(以下「積層体b」という)は、本願発明の「第3積層体」に相当する。
さらに、引用発明の「(3)前記有機溶媒を蒸発させる工程」は、本願発明の「該第2塗布膜を、該第2塗布膜中に含まれる該重合性スメクチック液晶化合物が重合しない条件で乾燥することにより、該光配向層上に第2乾燥被膜を形成して第3積層体を連続的に得る工程」と、「該第2塗布膜を、乾燥することにより、該配向層上に第2乾燥被膜を形成して第3積層体を得る工程」の点で共通する。

(4)偏光素子を連続的に得る工程について
上記(2)の組成及び工程からみて、引用発明の「積層体b」を「(4)ネマチック相温度以上に加熱した後スメクチック相温度まで降温する工程」により得られた偏光素子が、スメクチック液晶状態となり、層をなすことは明らかである。また、引用発明の「偏光素子」は、その文言どおり、本願発明の「偏光素子」に相当する。
そうしてみると、引用発明の「(4)ネマチック相温度以上に加熱した後スメクチック相温度まで降温する工程」は、本願発明の「該第2乾燥被膜中に含まれる該重合性スメクチック液晶化合物をスメクチック液晶状態とした後、該スメクチック液晶状態を保持したまま、該重合性スメクチック液晶化合物を光重合させることにより、該第3積層体の搬送方向に対して、45°の角度に吸収軸を有し、厚みが0.5〜3μmの範囲である偏光層を形成して、フィルム状且つ長尺状である偏光素子を連続的に得る工程」と、「該第2乾燥被膜中に含まれる該重合性スメクチック液晶化合物をスメクチック液晶状態とした後、偏光層を形成して、偏光素子を得る工程」の点で共通する。

(5)偏光素子の製造方法
上記(1)〜(4)を総合すると、引用発明の「偏光素子を製造する方法」は、本願発明の「偏光素子の製造方法」に相当する。

2 一致点及び相違点
(1)一致点
以上の対比結果を踏まえると、本願発明と引用発明は、以下の点で一致する。

「 透明基材上に配向方向を有する配向層を形成して、第2積層体を得る工程と、
該配向層上に、重合性スメクチック液晶化合物、二色性色素、及び溶剤を含有する組成物を塗布して、該配向層上に第2塗布膜を形成する工程と、
該第2塗布膜を、乾燥することにより、該配向層上に第2乾燥被膜を形成して第3積層体を得る工程と、
該第2乾燥被膜中に含まれる該重合性スメクチック液晶化合物をスメクチック液晶状態とした後、偏光層を形成して、偏光素子を得る工程と、
を有する偏光素子の製造方法。」

(2)相違点
本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明は、「透明基材が第1の巻芯に巻き取られている第1ロールを準備する工程」「を有する」のに対して、引用発明は、このような工程を有しない点。

(相違点2)
本願発明は、「該第1ロールから、該透明基材を連続的に送り出す工程」「を有する」のに対して、引用発明は、このような工程を有しない点。

(相違点3)
本願発明は、「シンナモイル基を有するポリマーと溶剤とを含有する組成物を塗布して、該透明基材上に第1塗布膜を連続的に形成する工程」「を有する」のに対して、引用発明は、このような工程を有しない点。

(相違点4)
本願発明は、「該第1塗布膜から該溶剤を乾燥除去することにより、該透明基材上に第1乾燥被膜を形成して、第1積層体を連続的に得る工程」「を有する」のに対して、引用発明は、このような工程を有しない点。

(相違点5)
本願発明は、「該第1乾燥被膜に偏光UVを照射することにより、該第1積層体の搬送方向に対して、略45°の角度に配向方向を有する光配向層を形成して、第2積層体を連続的に得る工程」「を有する」のに対して、引用発明は、「(1)支持体上に形成された配向膜をラビングする工程」であって、「配向膜」を連続的に得るものではない点。

(相違点6)
「第2塗布膜を形成する工程」が、本願発明は、「該光配向層上に、重合性スメクチック液晶化合物、二色性色素、レベリング剤及び溶剤を含有し、前記レベリング剤が重合性スメクチック液晶化合物100質量部に対して、0.5質量部以上3質量部以下である組成物を塗布して、該光配向層上に」「連続的に形成する工程」であるのに対して、引用発明の「(2)ラビング処理した配向膜上に、有機溶媒に溶解した棒状液晶単量体及び二色性色素含有液晶組成物を塗布する工程」は、「有機溶媒に溶解した棒状液晶単量体及び二色性色素含有液晶組成物」がレベリング剤を含有せず、「配向層」が「ラビングした配向膜」であって、「塗布膜a」を連続的に形成するものではない点。

(相違点7)
「第3積層体を得る工程」が、本願発明は、「該第2塗布膜を、該第2塗布膜中に含まれる該重合性スメクチック液晶化合物が重合しない条件で乾燥することにより、該光配向層上に第2乾燥被膜を形成して」「連続的に得る」のに対して、引用発明の「(3)前記有機溶媒を蒸発させる工程」は、「棒状液晶単量体」が重合しているかどうかが明らかでなく、「積層体b」を連続的に得るものではない点。

(相違点8)
「偏光素子を得る工程」が、本願発明は、「該第3積層体の搬送方向に対して、45°の角度に吸収軸を有し、厚みが0.5〜3μmの範囲である偏光層を形成して、フィルム状且つ長尺状である偏光素子を連続的に得る工程」であるのに対して、引用発明の「(4)ネマチック相温度以上に加熱した後スメクチック相温度まで降温する工程」は、「偏光素子」の吸収軸及び厚みが明らかでなく、「偏光素子」を連続的に得るものではない点。

(相違点9)
本願発明は、「連続的に得られた偏光素子を第2の巻芯に巻取り、第2ロールを得る工程」「を有する」のに対して、引用発明は、このような工程を有しない点。


第6 判断
1 相違点についての判断
上記相違点について検討する。

(1)相違点3〜5について
上記相違点3〜5は、いずれも光配向層についての工程であるから、まとめて検討する。
まず、光配向層について、引用文献1の【0129】には、「光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。配向膜上に設けられる光吸収異方性膜の棒状液晶単量体及び二色性色素に所望の配向を付与できるのであれば、配向膜としてはどのような層でもよい」と記載されている。たしかに、引用文献1の【0129】には、「ラビング処理により形成する配向膜が特に好ましい。」と記載されていて、実施例においてもラビング処理により形成する配向膜のみが記載されている。しかしながら、上記【0129】の記載に接した当業者であれば、光配向層を用いる周知技術の採用も想起するものである。そして、シンナモイル基を有する光配向層は先の出願前に周知技術であるところ、偏光層が液晶材料であれば(ネマチック規則性を有する液晶であれスメクチック規則性を有する液晶であれ)シンナモイル基を有する光配向層が好適に用いられることも、当業者に知られていた(特開2007−86399号公報(【0035】、【0075】−【0076】等)、国際公開第2006/093131号([0042]、[0050]等)。
光配向層について、さらに、上記国際公開第2006/093131号の[0040]に「ラビングによる配向方法に比べて静電気や塵埃の発生がなく、大面積でも均一に配向させることが可能であり、更に長尺状基材に対して任意の配向角を設定することが容易」と記載され、また、特開2006−202628号公報の【0049】、【0052】に「長尺状の樹脂基材上に形成されているものであっても良い」、「長尺状であっても、高度に平行化された光を用いることなく、連続して一定の配向能が付与され、効率的に生産されるものである。」と記載されているように、光配向層を用いる配向方法については(ラビングによる方法に比較して)基材として長尺状の樹脂基材を用いることにより、連続して配向層が形成できる利点があることも、当業者に知られていた。加えて、国際公開第2006/077723号の[0023]に記載されているように、二量化反応(例:シンナモイル基)を利用した光配向層が「配向性に優れ、重合性液晶化合物を簡単に配向させる」効果を有していることは、技術常識であった。
してみれば、上述したとおり引用文献1の上記【0129】の記載に接した当業者が光配向層を用いる周知技術の採用を想起するとき、併せて、シンナモイル基を有する光配向層が重合性液晶化合物をより好適に配向させることや、基材として長尺状の樹脂基材を用いることにより連続して配向層が形成できるという、光配向層による配向方法の利点も想起するものである。
そして、引用文献1には、支持体(透明基材)として「ポリマーフィルムを用いるのが好ましい」(【0133】)ことも記載されているから、引用発明において、その支持体を長尺状のポリマーフィルムとしつつ、連続してシンナモイル基を有する光配向層を形成するようにすることは、光配向層に関して当業者が有していた上述のような技術的知見に基づいて、容易になし得たことである。
長尺状の樹脂基材を用いて連続して配向膜を形成する際の具体的な製造工程としては、引用文献2(特開2007−34174号公報)に、「搬送ローラにより搬送される長尺帯状のトリアセチルセルロース(TAC)フィルムからなる透明基材シート」(【0039】)の上に、「シンナモイル基を持つポリマーを含有する光配向層用液状組成物(塗工液)を厚さ0.1μmとなるように塗工し、100℃で3分間加熱乾燥し」(【0040】)、「光配向層用組成物の塗膜に対して偏光紫外線を、その偏光方向が透明基材シートの流れ方向(塗工方向)に対して45°の方向に照射して光配向層を形成」する工程(【0046】)が記載されている。
そうしてみると、引用発明において、上述のとおり、その支持体を長尺状のポリマーフィルムとしつつ、連続して光配向膜を形成する技術を適用するにあたり、具体的な製造工程として、引用文献2に記載されたような公知の工程を採用すること、すなわち、「シンナモイル基を有するポリマーと溶剤とを含有する組成物を塗布して、透明基材上に第1塗布膜を連続的に形成する工程」、「第1塗布膜から溶剤を乾燥除去することにより、透明基材上に第1乾燥被膜を形成して、第1積層体を連続的に得る工程」、「第1乾燥被膜に偏光UVを照射することにより、第1積層体の搬送方向に対して、略45°の角度に配向方向を有する光配向層を形成して、第2積層体を連続的に得る工程」を採用することに、何ら格別の困難性はない。
そうしてみると、引用発明に引用文献2に記載された事項を適用して上記相違点3〜5に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点1、2及び9について
上記相違点1、2及び9は、いずれも基材等の搬送に関する工程であるから、まとめて検討する。
上記(1)で検討したとおり、引用発明において、その支持体を長尺状のポリマーフィルムとしつつ、連続してシンナモイル基を有する光配向層を形成するようにすることは、光配向層に関して当業者が有していた技術的知見に基づいて、容易になし得たことである。
引用文献2に記載された具体的な製造工程については上記(1)で検討したとおりであるところ、引用文献2にはさらに「所謂ロール・ツー・ロールの製造装置に組み込まれて用いられる」(【0015】)ことが記載されているように、「透明基材が第1の巻芯に巻き取られている第1ロールを準備する工程」、「該第1ロールから、該透明基材を連続的に送り出す工程」及び「連続的に得られた偏光素子を第2の巻芯に巻取り、第2ロールを得る工程」を併せて採用することも、周知技術である。
そうしてみると、上記周知技術による工程を併せて採用し、上記相違点1、2及び9に係る本願発明の構成とすることは、容易に想到し得たことである。

(3)相違点6〜8について
上記相違点6〜8は、いずれも偏光素子についての工程であるから、まとめて検討する。
まず、第2塗布膜について、引用文献1の【0085】には、「棒状液晶単量体及び二色性色素とともに使用して、塗布時の風ムラを防止するための材料としては、一般にフッ素系ポリマーを好適に用いることができる。・・・棒状液晶単量体及び二色性色素の配向を阻害しないように、風ムラ防止目的で使用されるフッ素系ポリマーの添加量は、棒状液晶単量体及び二色性色素に対して一般に0.1〜2質量%の範囲であるのが好ましく、0.1〜1質量%の範囲にあるのがより好ましく、0.4〜1質量%の範囲にあるのがさらに好ましい。」と記載されている。ここで、風ムラ防止の目的で使用されるフッ素系ポリマーがレベリング剤として機能することは明らかであり、また、どの程度の添加量とするかは、当業者にとって適宜選択可能な設計事項である。
次に、引用文献1の【0125】には、「光吸収異方性膜の厚さは、0.1〜10μmであることが好ましく、0.1〜5μmであることがさらに好ましく、1〜5μmであることが最も好ましい。」と記載されていて、光吸収異方性膜(偏光膜)の膜厚を0.3〜5μmの範囲内とすることは、当業者にとって適宜選択可能な設計事項である。
具体的な製造方法に関しては、引用文献1の【0019】には、「本発明では、棒状液晶をネマチック相からスメクチック相に転移させたのち、重合することが好ましいため、ネマチック相とスメクチック相、特にスメクチックB相の双方を発現できる棒状液晶が好適に用いられる。」と記載されていて、実施例においても、引用文献1の【0180】には、「クロロホルム80質量部に棒状液晶単量体No.(11)を18.8質量部及び二色性アゾ色素No.(19)を0.4質量部及び重合開始剤・・・を0.8質量部加え、撹拌溶解後濾過して液晶組成物の塗布液を得た。このものを・・・塗布し、155℃で1分間加熱熟成してネマチック相で配向させた後、80℃まで降温してスメクチックB相で2Jの紫外線を照射して配向状態を固定化した。」と記載されている。上記記載からみて、引用発明においても、「(3)前記有機溶媒を蒸発させる工程」及び「(4)ネマチック相温度以上に加熱した後スメクチック相温度まで降温する工程」では、棒状液晶単量体は重合しないものであり、また、偏光素子を製造する際には、スメクチック相を保持したまま、棒状液晶単量体を重合させるといえる。
また、やはり引用文献2に、液晶層形成用組成物を連続的に塗布・加熱・配向・乾燥・硬化させる工程を採用する(【0040】、【0046】)ことによって、「重合性の液晶分子が透明基材シート11’の流れ方向Tと傾斜する配向方向Rに沿って配向してなる液晶層13を形成する」(【0030】)ことも記載されている。してみると、上記(1)及び(2)で検討したように、引用発明において、その支持体を長尺状のポリマーフィルムとしつつ、ロール・ツー・ロールの製造装置に組み込まれて連続して製造する工程を採用するにあたり、流れ方向(塗工方向)に対して45°の方向に傾斜する配向方向(光配向層の配向方向)に沿って配向してなる液晶層(偏光層)を得る工程についても、連続的な工程を併せて採用することは、当然になし得たことである。
そうしてみると、引用発明に引用文献2に記載された事項を適用して上記相違点6〜8に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

2 効果について
本願発明に関して、本件明細書の【0006】には、「本発明によれば、特定の偏光層と、光配向層とが設けられた、新規な偏光素子、及び当該偏光素子を含む新規な円偏光板を提供できる。」と記載されている。
しかしながら、このような効果は、偏光層については引用文献1に記載された偏光層、光配向層については引用文献2に記載された光配向層が、それぞれ備える効果であり、当業者が予測できる範囲内のものである。

3 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和3年7月29日提出の意見書において、「引用文献1は、上記の通り、配向膜上に二色性色素を含有する液晶組成物を塗布して得られる偏光素子の製造方法において、引用文献1に係る発明の課題である偏光素子の光学性能を効果的に得るためには、ラビング配向膜を用いる必要があることを教示しており、そのうえ、連続的製法が開示されていないだけでなく、そもそもラビング処理を前提としていることから連続的製法は何ら想定されていません。一方、引用文献2には、上記の通り、光配向規制層を形成するロール・ツー・ロール方式について開示されてはいます。しかし、引用文献2は、偏光素子に関する発明ではなく、二色性色素や重合性スメクチック液晶化合物を含まないネマチック液晶層を含む光学素子に関する発明です。しかも、引用文献1は、単に一般的な配向膜の形成方法が羅列されており、その中の1つに光配向という用語が含まれていますが、引用文献1に係る発明の課題及び効果を得るためにはラビング配向膜を用いる必要があることの教示に加え、実施例でも全てラビング配向膜を用いています。当業者は、優れた偏光性能を有する偏光素子を形成するにあたり、引用文献1の教示に反し、偏光素子とは関係のない異なる液晶を配向させる引用文献2の光配向膜のみに着目し、これを引用文献1のラビング配向膜に適用しようとはしないと思料します。」、「本願発明では、上記の特徴の中でも、特に光配向層を形成するための組成物として、シンナモイル基を有するポリマーを用いることと、偏光層を形成するための組成物として、重合性スメクチック液晶化合物を用いて該化合物を光重合させることとを組み合わせることにより、商業的な製造方法、すなわち、上記一連の工程を連続的に行う方法においても、優れた偏光性能を有する偏光素子が得られます(本願明細書の段落[0019]、[0103]、[0106]〜[0116]など)。」と主張している。
しかしながら、「ラビング配向膜を用いる必要があることを教示している」との主張については、引用文献1の【0129】の記載では「配向膜上に設けられる光吸収異方性膜の棒状液晶単量体及び二色性色素に所望の配向を付与できるのであれば、配向膜としてはどのような層でもよいが」としていて、ラビング配向膜を用いることが必須の条件であると理解されるとはいえず、同じ段落に例示された「光照射により、配向機能が生じる配向膜」を採用することに当業者が想起することを、引用文献1の記載が妨げているとはいえない。
また、スメクチック相の液晶状態を用いたことによる効果(優れた偏光性能)は、引用発明が有している効果である。また、シンナモイル基を有する光配向層を用いる配向方法を採用することが、「所謂ロール・ツー・ロールの製造」に適していること、及び「配向性に優れ、重合性液晶化合物を簡単に配向させる」効果を奏することは、上記1(1)に説示したとおり先の出願前に知られていたことであるから、スメクチック相の液晶状態に配向された液晶層(偏光層)の優れた効果が、所謂ロール・ツー・ロールの製造によっても有効に発現されることは、当業者が予想できた範囲のことであり、その効果の程度が格別顕著なものであるとは、本件出願の明細書及び図面に徴しても認められない。
そのほか、上記1及び2のとおりであるから、審判請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。

4 小括
以上から、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本件出願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-10-25 
結審通知日 2021-10-26 
審決日 2021-11-08 
出願番号 P2018-236095
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 井口 猶二
関根 洋之
発明の名称 偏光素子、円偏光板及びそれらの製造方法  
代理人 松谷 道子  
代理人 中山 亨  
代理人 森住 憲一  
代理人 坂元 徹  
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