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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B65H
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 B65H
管理番号 1381434
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-18 
確定日 2022-01-13 
事件の表示 特願2016−138252「印刷装置および印刷装置の制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月18日出願公開、特開2018− 8779〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年7月13日の出願であって、令和元年5月15日に手続補正書が提出され、令和2年4月20日付けで拒絶理由が通知され、同年6月15日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月30日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して同年12月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 令和2年12月18日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和2年12月18日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和2年6月15日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1へと補正することを含むものである。(下線は当審決で付した。以下同じ。)
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
媒体にインクで印刷を行う印刷ユニットと、
前記印刷ユニットで印刷された前記媒体を前記媒体の一端辺が揃うようにスタッカーに載置し、前記スタッカーに載置された前記媒体に後処理を行う後処理ユニットと、
前記印刷ユニットで印刷された前記媒体を、前記後処理ユニットに搬送可能な搬送経路を有する中間ユニットと、
を備え、
前記搬送経路に、前記媒体に前記搬送経路に沿った張力を付与する張力付与機構が設けられており、
前記印刷ユニットは、前記中間ユニットへ、カールしつつある前記媒体を搬送し、
前記張力付与機構は、前記張力により、前記媒体を平面状に保持かつ矯正することを特徴とする印刷装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
媒体にインクで印刷を行う印刷ユニットと、
前記印刷ユニットで印刷された前記媒体を前記媒体の一端辺が揃うようにスタッカーに載置し、前記スタッカーに載置された前記媒体に後処理を行う後処理ユニットと、
前記印刷ユニットで印刷された前記媒体を、前記後処理ユニットに搬送可能な搬送経路を有する中間ユニットと、
を備え、
前記搬送経路に、前記媒体に前記搬送経路に沿った張力を付与する張力付与機構が設けられており、
前記印刷ユニットは、前記中間ユニットへ、前記インクによりカールしつつある前記媒体を搬送し、
前記張力付与機構は、前記張力により、前記媒体を平面状に保持かつ矯正することを特徴とする印刷装置。」

2 本件補正の適否について
本件補正により、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「カールしつつある前記媒体」について、「前記インクによりカールしつつある前記媒体」との限定を付加するものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、本願の願書に最初に添付した明細書の
「【0102】
次に、本実施形態の後処理ユニット300に係る課題について説明する。上記したように、印刷ユニット100がインクを液滴として吐出する記録ヘッド111を備えたインクジェットプリンターである場合、印刷ユニット100で画像が印刷された用紙Mのインク(水分)の乾燥が不十分であると、用紙Mの表面に水分が残ることにより、用紙M表面の摩擦抵抗が高くなる。このため、印刷ユニット100(インクジェットプリンター)で画像が印刷された用紙Mをスタッカー328に順次載置していった場合、先に載置された用紙Mの表面の摩擦抵抗が高くなると、後から搬送される用紙Mが先に載置された用紙Mに引っ掛かり用紙Mの端部が不揃いとなる整列不良が発生してしまう虞がある。また、印刷ユニット100で画像が印刷された用紙Mは、インク(水分)の吸収やインクの乾燥等に伴ってカール(用紙が湾曲する状態や用紙が丸まる状態)することがある。このため、スタッカー328において、先に載置された用紙Mのカールの程度が大きくなると、後から搬送される用紙Mが先に載置された用紙Mのカールによりスタック不良が発生してしまう虞がある。」
の記載に基づいており、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

3 独立特許要件について
本件補正の目的が、特許請求の範囲の減縮を目的としているので、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】に記載したとおりのものと認める。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由において引用された特開2012−240773号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が示されている。
ア 「【0013】
本実施形態の画像形成装置100では、所謂マルチシャトル・シリアル印刷方式を採用しており、不図示のキャリッジに搭載され主走査方向に移動しながらヘッド19で記録紙1に画像を形成し所定の搬送経路を通して排出ローラ46から記録紙1を排出する画像形成部を、装置本体の上下方向に配置している。」
イ 「【0020】
切換爪17の搬送方向下流側近傍には拍車ローラ対9Bが設けられており、搬送路は図中下方から左方向へ屈曲するようにガイド板10Bとガイド板11Bとによって記録紙1が案内される。そのため、多少の搬送抵抗が生じるが、拍車ローラ対9Bにより、ヘッド19Bの手前の作像入口拍車12Bの加圧と、作像入口ローラ13Bの搬送力により確実な搬送力が与えられ、
なおかつ、スリップしないよう拍車の加圧による拘束がされており、正確な副走査速度の同期と、記録紙1の平面性が確保された状態となる。」
ウ 「【0021】
そして、記録紙1の先端と後端の通過タイミングをセンサ18Bにて検知し、その検知結果に応じて、ヘッド19Bと対向する位置で記録紙1を間欠的に搬送しつつ、不図示のキャリッジに搭載されたヘッド19Bを不図示の駆動手段によって記録紙1の搬送方向と直交する方向である主走査方向に往復移動させながら、記録紙1のおもて面である第1面にインクを吐出して画像を形成する。」
エ 「【0024】
記録紙1をさらに用紙搬送方向下流側へ搬送すると、作像出口拍車22Bからの加圧力と作像出口ローラ23Bからの搬送力とを受ける。
これにより、記録紙1はヘッド19Bの用紙搬送方向上流側と下流側とで拘束されながら搬送される。そのため、高い平面性が保たれたままヘッド19Bによって記録紙1に作像することができ、安定した画像品質を保つことができる。」
オ 「【0027】
作像出口ローラ23Bよりも搬送方向下流側には、記録紙1の搬送方向を切り換える切換爪26Bが回動可能に設けられている。切換爪26Bを回動させて姿勢を変えることにより、所望の搬送路を開放させ、その開放する方向に応じて記録紙1を上方に向かわせる搬送経路である円弧搬送路39Bと、記録紙1をほぼ水平方向に向かわせる搬送経路である、拍車ローラ対27Bのある搬送路とに搬送方向を切り換える。」
カ 「【0028】
ここではまず、切換爪26Bで記録紙1の搬送方向を切り換えて円弧搬送路39Bを選択した場合について説明する。」
キ 「【0029】
円弧搬送路39Bは、ヘッド19Bによって記録紙1の第1面に作像した後、記録紙1を反転排紙させるために設けた搬送路である。円弧搬送路39Bの途中には拍車ローラ対40Bが設けられており、円弧搬送路39Bに搬送された記録紙1が拍車ローラ対40Bから搬送力を付与される。」
ク 「【0030】
円弧搬送路39Bの搬送方向下流側端部近傍には、記録紙1の搬送方向を切り換える切換爪41Bが設けられており、切換爪41Bによって記録紙1は案内され、まずは一旦、ヘッド19Bの上方に配置されている直線的な断面形状の直線搬送路である反転搬送路44Bへ導かれる。この際、記録紙1の後端が確実に切換爪41Bを通過し終えるまで記録紙1の搬送がなされるように、拍車ローラ対42Bと拍車ローラ対43Bとを駆動制御して、反転搬送路44Bへ記録紙1を導く。」
ケ 「【0032】
本実施形態では、反転搬送路44Bに記録紙1が完全収容された時点で一旦、拍車ローラ対42Bと拍車ローラ対43Bとによる記録紙1の搬送を停止し、反転搬送路44B内で記録紙1を所定時間待機させる。そして、所定時間経過後、拍車ローラ対42Bと拍車ローラ対43Bとを、反転搬送路44Bに記録紙1を進入させたときの回転方向とは逆方向に回転させるとともに、拍車ローラ対42Bと排紙ローラ対46Bとの間に設けられた排紙搬送路45Bに向かって記録紙1が搬送されるように、切換爪41Bで記録紙1の搬送方向を切り換える。」
コ 「【0033】
また、排紙搬送路45Bも反転搬送路44Bと同様に、拍車ローラ対42Bと排紙ローラ対46Bとの間で直線的な断面形状をなしている。排紙搬送路45Bの搬送方向下流側端部には、装置外部に設けられた排紙トレイ55に記録紙1を排紙する排紙ローラ対46が設けられている。また、排紙ローラ対46の近傍で搬送方向上流側に記録紙1を検知するセンサ47Bが設けられている。」
サ 「【0035】
反転搬送路44Bから排紙搬送路45Bを通る搬送経路をたどって記録紙1が搬送された場合には、ヘッド19Bにより作像された記録紙1の第1面が、排紙トレイ55へスタックされる際に下を向く。そのため、排紙トレイ55にスタックされた記録紙1の頁順序性が保たれる。このようなスタックでは、数頁にわたる記録紙1を1頁から順に出力しても、頁がめくられたときに第1面が1頁から順次視認されるような状態で、記録紙1を頁順にスタックすることができる。」
シ 「【0076】
同様に、本実施形態の方式で排紙動作を行って、下側画像形成部80Bのヘッド19Bで作像し終えた記録紙1を、前記直線搬送路である反転搬送路44Aで記録紙1を所定時間待機させる場合には、記録紙1の先端部分またはその近傍を拍車ローラ対42Bで挾持し、記録紙1の後端部分またはその近傍を拍車ローラ対43Bで挾持して、記録紙1を最低でも2箇所の副走査位置(搬送方向の位置)で挾持する。これにより、反転搬送路44Bで記録紙1の先端部分と後端部分とをそれぞれ拍車ローラ対42B,43Bで挾持して所定時間保持されるので、記録紙1に張力を与えてより平坦な状態で安定させてインクを乾かすことができる。よって、記録紙1のカールをより低減させることができ、排紙トレイ55に記録紙1をより良好に積載することができる。」

そうすると、上記事項ア〜シより、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が示されているものと認められる。
「記録紙1に、ヘッド19Bの手前の作像入口拍車12Bの加圧と、作像入口ローラ13Bの搬送力により確実な搬送力が与えられ、ヘッド19Bと対向する位置で記録紙1を間欠的に搬送しつつ、キャリッジに搭載されたヘッド19Bを駆動手段によって記録紙1の搬送方向と直交する方向である主走査方向に往復移動させながら、記録紙1のおもて面である第1面にインクを吐出して画像を形成し、記録紙1をさらに用紙搬送方向下流側へ搬送すると、作像出口拍車22Bからの加圧力と作像出口ローラ23Bからの搬送力とを受け、作像出口ローラ23Bよりも搬送方向下流側には、記録紙1の搬送方向を切り換える切換爪26Bが回動可能に設けられており、切換爪26Bで記録紙1の搬送方向を切り換えて、ヘッド19Bによって記録紙1の第1面に作像した後、記録紙1を反転排紙させるために設けた搬送路である円弧搬送路39Bを選択した場合、円弧搬送路39Bに搬送された記録紙1が拍車ローラ対40Bから搬送力を付与され、円弧搬送路39Bの搬送方向下流側端部近傍には、記録紙1の搬送方向を切り換える切換爪41Bが設けられており、切換爪41Bによって記録紙1は案内され、まずは一旦、ヘッド19Bの上方に配置されている直線的な断面形状の直線搬送路である反転搬送路44Bへ導かれ、反転搬送路44Bに記録紙1が完全収容された時点で一旦、拍車ローラ対42Bと拍車ローラ対43Bとによる記録紙1の搬送を停止し、反転搬送路44B内で記録紙1を所定時間待機させ、反転搬送路44Bで記録紙1の先端部分と後端部分とをそれぞれ拍車ローラ対42B,43Bで挾持して所定時間保持し、記録紙1に張力を与えてより平坦な状態で安定させてインクを乾かすことで、記録紙1のカールをより低減させ、所定時間経過後、拍車ローラ対42Bと拍車ローラ対43Bとを、反転搬送路44Bに記録紙1を進入させたときの回転方向とは逆方向に回転させるとともに、拍車ローラ対42Bと排紙ローラ対46Bとの間に設けられた排紙搬送路45Bに向かって記録紙1が搬送されるように、切換爪41Bで記録紙1の搬送方向を切り換え、排紙搬送路45Bの搬送方向下流側端部には、装置外部に設けられた排紙トレイ55に記録紙1を排紙する排紙ローラ対46が設けられており、排紙ローラ対46の近傍で搬送方向上流側に記録紙1を検知するセンサ47Bが設けられており、反転搬送路44Bから排紙搬送路45Bを通る搬送経路をたどって記録紙1が搬送された場合には、ヘッド19Bにより作像された記録紙1の第1面が、排紙トレイ55へスタックされる際に下を向く画像形成装置100。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明1とを対比すると、
後者の「画像形成装置100」は、「記録紙1に、ヘッド19Bの手前の作像入口拍車12Bの加圧と、作像入口ローラ13Bの搬送力により確実な搬送力が与えられ、ヘッド19Bと対向する位置で記録紙1を間欠的に搬送しつつ、キャリッジに搭載されたヘッド19Bを駆動手段によって記録紙1の搬送方向と直交する方向である主走査方向に往復移動させながら、記録紙1のおもて面である第1面にインクを吐出して画像を形成」するものであることからすると、前者の「印刷装置」と後者の「画像形成装置100」とは、「媒体にインクで印刷を行う印刷ユニット」を備える点で共通する。
また、後者の「画像形成装置100」は、画像が形成された記録紙1を「排紙トレイ55」に、「切換爪26B」、「円弧搬送路39B」、「拍車ローラ対40B」、「切換爪41B」、「拍車ローラ対42B,43B」、「反転搬送路44B」、「排紙搬送路45B」、「排紙ローラ対46」及び「センサ47B」が有する搬送路(「円弧搬送路39B」、「反転搬送路44B」及び「排紙搬送路45B」)を通じて搬送可能であることから、前者の「印刷装置」と後者の「画像形成装置100」とは、「前記印刷ユニットで印刷された前記媒体を」「搬送可能な搬送経路を有する中間ユニット」を備える点で共通する。
そして、後者の「画像形成装置100」は、「反転搬送路44Bで記録紙1の先端部分と後端部分とをそれぞれ拍車ローラ対42B,43Bで挾持して所定時間保持し、記録紙1に張力を与えてより平坦な状態で安定させてインクを乾かすことで、記録紙1のカールをより低減させ」るものであって、「記録紙1」は、「ヘッド19Bにより作像され」ることにより「カール」し、「反転搬送路44Bへ導かれ」るものと認められる。
してみると、後者の「画像形成装置100」は、「前記印刷ユニットは、前記中間ユニットへ、前記インクによりカールしつつある前記媒体を搬送し」という構成を有していると言える。
さらに、後者の「反転搬送路44B内で記録紙1を所定時間待機させ、反転搬送路44Bで記録紙1の先端部分と後端部分とをそれぞれ拍車ローラ対42B,43Bで挾持して所定時間保持し、記録紙1に張力を与えてより平坦な状態で安定させてインクを乾かすことで、記録紙1のカールをより低減させ」は、前者の「前記媒体を搬送し、前記張力付与機構は、前記張力により、前記媒体を平面状に保持かつ矯正する」に相当する。

したがって、両者は、
「媒体にインクで印刷を行う印刷ユニットと、
前記印刷ユニットで印刷された前記媒体を、搬送可能な搬送経路を有する中間ユニットと、を備え、
前記搬送経路に、前記媒体に前記搬送経路に沿った張力を付与する張力付与機構が設けられており、
前記印刷ユニットは、前記中間ユニットへ、前記インクによりカールしつつある前記媒体を搬送し、
前記張力付与機構は、前記張力により、前記媒体を平面状に保持かつ矯正することを特徴とする印刷装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明は、印刷ユニットで印刷された媒体を前記媒体の一端辺が揃うようにスタッカーに載置し、前記スタッカーに載置された前記媒体に後処理を行う後処理ユニットを備えるのに対し、引用発明1は、そのような特定を有していない点。

[相違点2]
本願補正発明は、中間ユニットが、印刷ユニットで印刷された媒体を、後処理ユニットに搬送可能な搬送経路を有するものであるのに対し、引用発明1は、「切換爪26B」、「円弧搬送路39B」、「拍車ローラ対40B」、「切換爪41B」、「拍車ローラ対42B,43B」、「反転搬送路44B」、「排紙搬送路45B」、「排紙ローラ対46」及び「センサ47B」をあわせたものが、印刷された「記録紙1」を、「排紙トレイ55」に搬送可能な搬送経路を有するものであるものの、「後処理ユニット」に搬送可能な搬送経路を有するものではない点。

(4)判断
上記相違点1、2について、以下検討する。
上記相違点1及び上記相違点2は何れも、後処置ユニットに関わる発明特定事項であることから、以下、上記相違点1及び上記相違点2を合わせて検討する。
特開2001−240304号公報(段落[0074]、[0075]、[0089]、[0090]、図1等を参照)に記載されているように、印刷ユニットで印刷された媒体に後処理を行う後処理ユニットを設け、後処理ユニットにおいて、媒体の一端辺が揃うようにスタッカーに載置し、スタッカーに載置された媒体に後処理を行う技術は周知技術である。
そして、引用発明1は、「装置外部に設けられた排紙トレイ55に記録紙1を排紙する」ものであることからすれば、引用発明1において、当該周知技術を適用し、「排紙トレイ55」に替えて、印刷された記録紙1を、記録紙1の一端辺が揃うようにスタッカーに載置し、スタッカーに載置された記録紙1に後処理を行う「後処理ユニット」を設けることは、当業者が容易になし得たものと言える。
そして、「排紙トレイ55」に替えて、「後処理ユニット」を設けることとなったのであるから、引用発明1の「円弧搬送路39B」、「反転搬送路44B」及び「排紙搬送路45B」は、印刷された「記録紙1」を、「後処理ユニット」に搬送可能な搬送経路と言える。
してみると、引用発明1において、上記周知技術を適用し、上記相違点1及び2の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、本願補正発明は、引用発明1及び上記周知技術から、当業者が容易に想到し得たものである。

(5)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、
ア 「本願発明は、印刷ユニットで印刷された媒体が、中間ユニットを経て後処理ユニットのスタッカーへ搬送される場合に、印刷に用いたインクにより媒体のカールが進行し、中間ユニットを経てもなおスタッカーでのスタック不良が生じうることを技術的課題としております[段落0102]。
そこで、中間ユニットが備える張力付与機構により、スタッカーでのスタック不良の発生を低減するという顕著な技術的効果を奏します[段落0033]。
さらに、中間ユニットが張力付与機構を備えることにより、印刷ユニットや後処理ユニットを低価格・小型とすることができます[段落0181]。
これに対し、引用文献1に記載の発明においては、画像形成装置100が備える排紙トレイ55へ記録紙1を積載する際のカールを課題としており、上述しました本願の課題については何ら触れられておりません。」

イ 「この引用文献1の技術的思想に対して、両面印刷のための第3媒体供給路33をプリンター部12が備える引用文献2を適用したとしても、引用文献1の画像形成装置100に、引用文献2の媒体搬送ユニット15およびフィニッシャー16が連なるだけあり、引用文献1における「記録紙1のインクを乾かすために記録紙1を所定時間待機させる」処理も画像形成装置100にて行われるに留まると思料いたします。特に、この処理を引用文献2の媒体搬送ユニット15にて行う場合には、画像形成装置100が備える排紙トレイ55へ記録紙1を積載する際のカールという引用文献1の課題が解決されず、このような組み合わせには阻害要因があると思料いたします。」
と主張する。

そこで、前記各主張について以下、検討する。

上記主張アについて
引用例1の段落[0076]には、「反転搬送路44Bで記録紙1の先端部分と後端部分とをそれぞれ拍車ローラ対42B,43Bで挾持して所定時間保持されるので、記録紙1に張力を与えてより平坦な状態で安定させてインクを乾かすことができる。よって、記録紙1のカールをより低減させることができ、排紙トレイ55に記録紙1をより良好に積載することができる。」と記載されており、引用発明1も「スタッカー」の一種である「排紙トレイ55」におけるスタック不良の発生を低減することが記載されているから、引用発明1も、本願補正発明と同様の技術的課題を解決するものであると言え、引用発明1においても「中間ユニット」に相当する「切換爪26B」、「円弧搬送路39B」、「拍車ローラ対40B」、「切換爪41B」、「拍車ローラ対42B,43B」、「反転搬送路44B」、「排紙搬送路45B」、「排紙ローラ対46」及び「センサ47B」をあわせたものに「張力付与機構」が設けられていると言えるから、請求人が主張する「中間ユニットが備える張力付与機構により、スタッカーでのスタック不良の発生を低減するという顕著な技術的効果」は、引用発明1が奏する効果に過ぎないと言える。
また、引用発明1も「中間ユニット」に相当する「切換爪26B」、「円弧搬送路39B」、「拍車ローラ対40B」、「切換爪41B」、「拍車ローラ対42B,43B」、「反転搬送路44B」、「排紙搬送路45B」、「排紙ローラ対46」及び「センサ47B」をあわせたものに「張力付与機構」が設けられており、中間ユニットに相当する部分以外の部分に「張力付与機構」を設ける必要がないものであるから、請求人が主張する「中間ユニットが張力付与機構を備えることにより、印刷ユニットや後処理ユニットを低価格・小型とすることができます」という効果も、引用発明1が奏する効果から当業者が予測可能な程度のものである。
よって、請求人の主張アは採用できない。

上記主張イについて
まず、原査定において引用された引用文献2は、原査定において反転経路を後処理装置へ用紙を送る中間ユニットに設ける技術が周知技術であることを示すために引用された文献にすぎず、引用発明1において、引用文献2に記載された発明をそのまま適用することを前提とした上記請求人の主張イは採用できない。
また、上述したとおり、本願補正発明は引用発明1及び周知技術から当業者が容易に想到し得たものであり、引用発明1の画像形成装置100に連なるように媒体搬送ユニットを設け、当該媒体搬送ユニットに「張力付与機構」を設けることを前提とした上記請求人の主張イは採用できない。

よって、請求人の主張ア及びイは採用できない。

したがって、本願補正発明は、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができない発明であって、特許出願の際、独立して特許を受けることが出来ないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してされたものである。

(6)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和2年6月15日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】
媒体にインクで印刷を行う印刷ユニットと、
前記印刷ユニットで印刷された前記媒体を前記媒体の一端辺が揃うようにスタッカーに載置し、前記スタッカーに載置された前記媒体に後処理を行う後処理ユニットと、
前記印刷ユニットで印刷された前記媒体を、前記後処理ユニットに搬送可能な搬送経路を有する中間ユニットと、
を備え、
前記搬送経路に、前記媒体に前記搬送経路に沿った張力を付与する張力付与機構が設けられており、
前記印刷ユニットは、前記中間ユニットへ、前記インクによりカールしつつある前記媒体を搬送し、
前記張力付与機構は、前記張力により、前記媒体を平面状に保持かつ矯正することを特徴とする印刷装置。」(以下「本願発明」という。)

2 原査定の拒絶の理由
原査定の理由は、
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用例1.特開2012−240773号公報

3 引用例
令和2年4月20日付けの拒絶理由通知に引用された引用例1、及び、その記載内容は上記「第2 3 (2)引用例」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、実質的に、本願補正発明の「前記インクによりカールしつつある前記媒体」から「前記インクにより」との限定を省くものである。

したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-11-02 
結審通知日 2021-11-09 
審決日 2021-11-24 
出願番号 P2016-138252
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B65H)
P 1 8・ 56- Z (B65H)
P 1 8・ 121- Z (B65H)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 吉村 尚
佐々木 創太郎
発明の名称 印刷装置および印刷装置の制御方法  
代理人 松岡 宏紀  
代理人 仲井 智至  
代理人 今村 真之  

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