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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1381486
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-02-08 
確定日 2022-01-04 
事件の表示 特願2019−120436「組成物及び表示装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月17日出願公開、特開2019−179266〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2016−145784号(以下「もとの特許出願」という。)は、平成28年7月25日(先の出願に基づく優先権主張 平成27年7月24日)の出願である。
特願2019−120436号(以下「本件出願」という。)は、もとの特許出願の一部を令和元年6月27日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和 元年 8月 8日付け:手続補正書、上申書
令和 2年 5月28日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 7月31日付け:手続補正書、意見書
令和 2年11月 2日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 3年 2月 8日付け:審判請求書
令和 3年 2月 8日付け:手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年2月8日付けの手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正についての判断
(1)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前(令和2年7月31日付け手続補正書による手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「 【請求項1】
少なくとも1種類の重合性液晶化合物と光重合開始剤組成物とを含む組成物であって、
上記光重合開始剤組成物は、少なくとも1種類の光重合開始剤を含み、
上記光重合開始剤組成物は、極大吸収波長λ(A)及び極大吸収波長λ(B)を有し、
少なくとも1種類の重合性液晶化合物の極大吸収波長をλmax(LC)としたとき、
20nm<λ(B)−λmax(LC)又は
20nm<λmax(LC)−λ(A)
を満たし、
上記少なくとも1種類の光重合開始剤が、分子内にオキシム構造を有し、
上記組成物の固形分100質量部に占める、上記重合性液晶化合物の合計の含有量が、70〜99.5質量部であり、
上記少なくとも1種類の重合性液晶化合物が、
λ(A)<λmax(LC)<λ(B)
を満たす、組成物。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
「 【請求項1】
少なくとも1種類の重合性液晶化合物と光重合開始剤組成物とを含む組成物であって、
上記光重合開始剤組成物は、少なくとも1種類の光重合開始剤を含み、
上記光重合開始剤組成物は、極大吸収波長λ(A)及び極大吸収波長λ(B)を有し、
少なくとも1種類の重合性液晶化合物の極大吸収波長をλmax(LC)としたとき、
20nm<λ(B)−λmax(LC)又は
20nm<λmax(LC)−λ(A)
を満たし、
上記少なくとも1種類の光重合開始剤が、分子内にオキシム構造を有し、
上記重合性液晶化合物100質量部に占める、上記光重合開始剤組成物の含有量が、1〜20質量部であり、
上記組成物の固形分100質量部に占める、上記重合性液晶化合物の合計の含有量が、70〜99.5質量部であり、
上記少なくとも1種類の重合性液晶化合物が、
λ(A)<λmax(LC)<λ(B)
を満たす、組成物。」

(3)本件補正の内容
本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である、「光重合開始剤組成物」の含有量を、願書に最初に添付した明細書の【0050】の記載に基づいて、「重合性液晶化合物100質量部に占める、上記光重合開始剤組成物の含有量が、1〜20質量部であり」と限定する補正である。
また、本件補正前の請求項1に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明の、産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は、同一である(本件出願の明細書の【0001】及び【0005】〜【0006】)。
そうしてみると、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に適合するとともに、同条第5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が、同条第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

2 独立特許要件(進歩性
(1)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された特開2012−21068号公報(以下「引用文献3」という。)は、先の出願前の平成24年2月2日に、日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及び光学フィルムに関する。
(中略)
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の光学フィルムでは、高湿高温の条件で保管した場合の耐性(耐湿熱性)について必ずしも十分満足できるものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決することができた本発明の組成物は、式(A)で表される化合物、酸化防止剤及び光重合開始剤を含むことを特徴とする。
【0006】
【化1】

[式(A)中、X1は、−S−、−O−又は−NR1−を表す。R1は、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。
Y1は、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、又は、炭素数3〜12の芳香族複素環式基を表す。
Q1及びQ2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜20の脂環式炭化水素基、1価の炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、−NR2R3又は−SR2を表し、Q1及びQ2は、互いに結合して芳香環又は芳香族複素環を形成していてもよい。R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基を表す。
D1及びD2は、それぞれ独立に、単結合、−CO−O−、−CS−O−、−CR4R5−、−CR4R5−CR6R7−、−O−CR4R5−、−CR4R5−O−CR6R7−、−CO−O−CR4R5−、−O−CO−CR4R5−、−CR4R5−O−CO−CR6R7−、−CR4R5−CO−O−CR6R7−、−NR4−CR5R6−又は−CO−NR4−を表す。
R4、R5、R6及びR7は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。
G1及びG2は、それぞれ独立に、炭素数5〜8の2価の脂環式炭化水素基を表し、該脂環式炭化水素基に含まれる−CH2−は、−O−、−S−又は−NH−で置き換っていてもよく、該脂環式炭化水素基に含まれる−CH(−)−は、−N(−)−で置き換っていてもよい。
L1及びL2は、それぞれ独立に、1価の有機基を表し、L1及びL2からなる群から選ばれる少なくとも1種が、重合性基を有する基を表す。]
(中略)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐湿熱性に優れた光学フィルムを得ることができる。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0014】
1.組成物
本発明の組成物は、式(A)で表される化合物(以下「化合物(A)」という場合がある)、酸化防止剤(B)及び光重合開始剤(C)を含む。
【0015】
1−1.化合物
本発明の組成物は、化合物(A)を含む。
(中略)
【0196】
1−2.酸化防止剤(B)
本発明の組成物は、酸化防止剤(B)を含む。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤およびアミン系酸化防止剤が挙げられる。中でも、光学フィルムの着色が少ないという点で、フェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0197】
前記フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、
(中略)
等が挙げられる。
(中略)
【0206】
1−3.光重合開始剤(C)
本発明の組成物は光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、光の作用により活性ラジカルを発生し、化合物(A)の重合を開始しうる化合物である。光重合開始剤としては、アルキルフェノン化合物、ベンゾイン化合物、ベンゾフェノン化合物、オキシム化合物等が挙げられる。
【0207】
前記アルキルフェノン化合物としては、α−アミノアルキルフェノン化合物、α−ヒドロキシアルキルフェノン化合物、α−アルコキシアルキルフェノン化合物が挙げられる。前記α−アミノアルキルフェノン化合物としては、2−メチル−2−モルホリノ−1−(4−メチルスルファニルフェニル)プロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−2−ベンジルブタン−1−オン、2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−2−(4−メチルフェニルメチル)ブタン−1−オン等が挙げられ、好ましくは2−メチル−2−モルホリノ−1−(4−メチルスルファニルフェニル)プロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−2−ベンジルブタン−1−オン等が挙げられる。前記α−アミノアルキルフェノン化合物は、イルガキュア(登録商標)369、379EG、907(以上、BASFジャパン(株)製)、セイクオール(登録商標)BEE(精工化学社製)等の市販品を用いてもよい。
【0208】
前記α−ヒドロキシアルキルフェノン化合物としては、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル〕プロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−〔4−(1−メチルビニル)フェニル〕プロパン−1−オンのオリゴマー等が挙げられる。前記α−ヒドロキシアルキルフェノン化合物は、イルガキュア184、2959、127(以上、BASFジャパン(株)製)、セイクオールZ(精工化学社製)等の市販品を用いてもよい。前記α−アルコキシアルキルフェノン化合物としては、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。前記α−アルコキシアルキルフェノン化合物は、イルガキュア651(以上、BASFジャパン(株)製)等の市販品を用いてもよい。
【0209】
前記アルキルフェノン化合物としては、α−アミノアルキルフェノン化合物が好ましく、式(C−1)で表される化合物がより好ましい。これらの化合物であると、得られる光学フィルムの耐熱性、耐湿熱性に優れる。
【0210】
【化128】

[式(C−1)中、Q3は、水素原子又はメチル基を表す。]
【0211】
前記ベンゾイン化合物としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。
前記ベンゾフェノン化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’−テトラ(tert−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン等が挙げられる。
前記オキシム化合物としては、N−ベンゾイルオキシ−1−(4−フェニルスルファニルフェニル)ブタン−1−オン−2−イミン、N−ベンゾイルオキシ−1−(4−フェニルスルファニルフェニル)オクタン−1−オン−2−イミン、N−アセトキシ−1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]エタン−1−イミン、N−アセトキシ−1−[9−エチル−6−{2−メチル−4−(3,3−ジメチル−2,4−ジオキサシクロペンタニルメチルオキシ)ベンゾイル}−9H−カルバゾール−3−イル]エタン−1−イミン等が挙げられる。イルガキュアOXE−01、OXE−02(以上、BASFジャパン社製)、N−1919(ADEKA社製)等の市販品を用いてもよい。
【0212】
前記光重合開始剤は、前記アセトフェノン化合物、前記ベンゾイン化合物、前記ベンゾフェノン化合物、前記オキシム化合物等を、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも光重合開始剤としてアセトフェノン化合物を用いることが好ましい。前記アセトフェノン化合物の使用量は、光重合開始剤全量に対して、90質量部以上であることが好ましく、光重合開始剤全量がアセトフェノン化合物であることがより好ましい。」

ウ 「【実施例】
【0270】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、例中の「%」及び「部」は、特記ない限り、質量%及び質量部である。
(中略)
【0280】
2.組成物の調製
表1に示す各成分を混合し、得られた溶液を80℃で1時間攪拌した後、室温まで冷却して組成物を調製した。
(合議体注:上記「表1」は、「表2」の誤記である。)
【0281】
【表2】

【0282】
表中のA11−1、v−1、B−1、B−2、C−1〜C−10、BYK361Nは以下の化合物を表す。
【0283】
化合物(A);
A11−1:合成例1で得られた化合物(A11−1)
v−1:式(v−1)で表される化合物
【0284】
【化134】

【0285】
光重合開始剤(B);
B−1:式(B−1)で表される化合物(イルガキュア369;BASFジャパン(株)製)
【0286】
【化135】

(中略)
【0289】
酸化防止剤(C);
C−1:2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール(東京化成工業製)
(中略)
レベリング剤;
BYK361N(ビックケミージャパン社製)」

(2)引用文献3に記載された発明
上記「(1)ウ」の表2に基づけば、実施例1に係る「組成物」は、化合物(A)として「A11−1」を27質量%、光重合開始剤(B)として「B−1」を2.7質量%、酸化防止剤(C)として「C−1」を0.3質量%、レベリング剤として「BYK361N」を0.1質量%、溶剤として「シクロペンタノン」を69.9質量%の各成分を混合して得られたものと理解できる。
ここで、「A11−1」及び「B−1」は、それぞれ【0284】及び【0286】に、「C−1」及び「BYK361N」は、ともに【0289】に記載されたとおりのものである。
そうしてみると、引用文献3には、実施例1として、以下の組成物の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「以下に示す各成分を混合して得られた溶液を80℃で1時間攪拌した後、室温まで冷却して調製した組成物。
化合物(A);以下の式で表されるA11−1を27質量%

光重合開始剤(B);B−1:式(B−1)で表される化合物(イルガキュア369;BASFジャパン(株)製)を2.7質量%

酸化防止剤(C);C−1:2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール(東京化成工業製)を0.3質量%
レベリング剤;BYK361N(ビックケミージャパン社製)を0.1質量%
溶剤;シクロペンタノンを69.9質量%」

(3)引用文献4の記載
原査定の拒絶の理由において引用され、先の出願前の平成15年6月30日に、頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、大和真樹著,「光重合開始剤の現状と課題」,日本印刷学会誌,社団法人日本印刷学会発行,2003年,第40巻,第3号,168頁〜175頁(以下「引用文献4」という。)には、以下の記載がある。

ア 「


(172頁右欄4行〜10行)

イ 「


(170頁)

(4)対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

ア 重合性液晶化合物
引用発明の「化合物(A);以下の化合物であるA11−1」は、その化学構造からみて、本件補正後発明の「重合性液晶化合物」に相当する。

イ 光重合開始剤
引用発明の「光重合開始剤(B);B−1:式(B−1)で表される化合物(イルガキュア369;BASFジャパン(株)製)」は、技術的にみて、本件補正後発明の「光重合開始剤」に相当する。
また、本件出願の明細書の【0043】には、「本発明では、光重合開始剤組成物を使用する。光重合開始剤組成物は、1種の光重合開始剤のみを含んでもよいし、2種以上の光重合開始剤を含んでもよい。」と記載されている。上記記載によれば、引用発明のように、光重合開始剤が1種のみの場合、本件補正後発明でいう「光重合開始剤組成物」は、当該光重合開始剤そのものを意味すると解される。そうしてみると、引用発明の「光重合開始剤(B);B−1:式(B−1)で表される化合物(イルガキュア369;BASFジャパン(株)製)」は、本件補正後発明の「光重合開始剤組成物」に相当するともいえる。

ウ 組成物
引用発明の「組成物」は、上記「化合物(A);以下の化合物であるA11−1」及び「光重合開始剤(B);B−1:式(B−1)で表される化合物(イルガキュア369;BASFジャパン(株)製)」を含むものである。
上記アの対比結果も考慮すると、引用発明の「組成物」は、本件補正後発明において、「少なくとも1種類の重合性液晶化合物と光重合開始剤組成物とを含む組成物であって、上記光重合開始剤組成物は、少なくとも1種類の光重合開始剤を含み」との要件を満たす、「組成物」に相当する。

エ 含有量
引用発明の「組成物」は、「化合物(A);以下の化合物であるA11−1を27質量%」、「光重合開始剤(B);B−1:式(B−1)で表される化合物(イルガキュア369;BASFジャパン(株)製)を2.7質量%」、「酸化防止剤(C);C−1:2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール(東京化成工業製)を0.3質量%」、「レベリング剤;BYK361N(ビックケミージャパン社製)を0.1質量%」及び「溶剤;シクロペンタノンを69.9質量%」の各成分を混合し、得られた溶液を80℃で1時間攪拌した後、室温まで冷却して調製した」ものである。
上記組成及び上記イの対比結果によれば、引用発明の「組成物」は、本件補正後発明の「上記重合性液晶化合物100質量部に占める、上記光重合開始剤組成物の含有量が、1〜20質量部であり、上記組成物の固形分100質量部に占める、上記重合性液晶化合物の合計の含有量が、70〜99.5質量部であり」との要件を満たす。
(当合議体注:引用発明の「光重合開始剤(B)」及び「重合性液晶化合物の合計」の含有量は、それぞれ、重合性液晶化合物100質量部に対して10質量部、組成物の固形分100質量部に対して89.7質量部と計算される。)

(5)一致点及び相違点
上記(4)によれば、本件補正後発明と引用発明とは、
「少なくとも1種類の重合性液晶化合物と光重合開始剤組成物とを含む組成物であって、
上記光重合開始剤組成物は、少なくとも1種類の光重合開始剤を含み、
上記重合性液晶化合物100質量部に占める、上記光重合開始剤組成物の含有量が、1〜20質量部であり、
上記組成物の固形分100質量部に占める、上記重合性液晶化合物の合計の含有量が、70〜99.5質量部である、
組成物。」である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

(相違点1)
「光重合開始剤組成物」が、本件補正後発明は、「極大吸収波長λ(A)及び極大吸収波長λ(B)を有し」、少なくとも1種類の重合性液晶化合物の極大吸収波長をλmax(LC)としたとき、「20nm<λ(B)−λmax(LC)」又は「20nm<λmax(LC)−λ(A)」を満たすとともに、少なくとも1種類の重合性液晶化合物が、「λ(A)<λmax(LC)<λ(B)」を満たすのに対し、引用発明は、「化合物(A);以下の化合物であるA11−1」及び「光重合開始剤(B)」の極大吸収波長が一応明らかでなく、上記各要件を満たすものであるかも不明である点。

(相違点2)
「少なくとも1種類の光重合開始剤」が、本件補正後発明は、「分子内にオキシム構造を有し」ているのに対し、引用発明は、「式(B−1)で表される化合物(イルガキュア369;BASFジャパン(株)製)」であって、分子内にオキシム構造を有さない点。

(6)判断
技術的関連性に鑑み、相違点1及び2をまとめて検討する。
ア A11−1のλmax(LC)
引用発明の「化合物(A);以下の化合物であるA11−1」は、本件出願の明細書段落【0158】〜【0160】の記載に基づけば、本件出願の実施例及び比較例において用いられる「重合性液晶A」と同一の化学構造を有するものであるから、その極大吸収波長λmax(LC)は、「350nm」であると理解される。

イ イルガキュア369の極大吸収波長λ(A)とλmax(LC)の関係
上記「2(3)イ」の図7(引用文献4)の記載に基づけば、引用発明の「光重合開始剤(B);B−1:式(B−1)で表される化合物(イルガキュア369;BASFジャパン(株)製)」は、少なくとも320nm付近に極大吸収波長を有していると認められる。
(当合議体注:本件出願の表1からも確認できる事項である。)
また、引用発明の「化合物(A);以下の化合物であるA11−1」の極大吸収波長λmax(LC)は、上記アのとおり、「350nm」であるから、引用発明における、化合物(A)の極大吸収波長である「λmax(LC)」と光重合開始剤(B)の極大吸収波長「λ(A)」との差「λmax(LC)−λ(A)」は、「30nm」である。
そうすると、引用発明の「光重合開始剤(B);B−1:式(B−1)で表される化合物(イルガキュア369;BASFジャパン(株)製)」と「化合物(A);以下の式で表されるA11−1」とは、本件補正後発明における「極大吸収波長λ(A)」を有しているとの要件及び「20nm<λmax(LC)−λ(A)」との要件(すなわち、本件補正後発明の「少なくとも1種類の重合性液晶化合物の極大吸収波長をλmax(LC)としたとき、20nm<λ(B)−λmax(LC)又は20nm<λmax(LC)−λ(A)を満たし」との要件)及び「λ(A)<λmax(LC)」との要件を満たしている。

ウ 分子内にオキシム構造を有する光重合開始剤の併用
(ア)上記「2(1)イ」によれば、引用文献3には、光重合開始剤について、「本発明の組成物は光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、光の作用により活性ラジカルを発生し、化合物(A)の重合を開始しうる化合物である。光重合開始剤としては、アルキルフェノン化合物、ベンゾイン化合物、ベンゾフェノン化合物、オキシム化合物等が挙げられる。」(【0206】)、「前記オキシム化合物としては、N−ベンゾイルオキシ−1−(4−フェニルスルファニルフェニル)ブタン−1−オン−2−イミン、N−ベンゾイルオキシ−1−(4−フェニルスルファニルフェニル)オクタン−1−オン−2−イミン、N−アセトキシ−1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]エタン−1−イミン、N−アセトキシ−1−[9−エチル−6−{2−メチル−4−(3,3−ジメチル−2,4−ジオキサシクロペンタニルメチルオキシ)ベンゾイル}−9H−カルバゾール−3−イル]エタン−1−イミン等が挙げられる。イルガキュアOXE−01、OXE−02(以上、BASFジャパン社製)、N−1919(ADEKA社製)等の市販品を用いてもよい。」(【0211】)及び「前記光重合開始剤は、前記アセトフェノン化合物、前記ベンゾイン化合物、前記ベンゾフェノン化合物、前記オキシム化合物等を、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。」(【0212】)と記載されている。ここで、光重合開始剤として、2種以上の化合物を併用した光重合開始剤組成物を用いることは、周知の技術である。

(イ)また、光のエネルギーを無駄なく重合反応エネルギーに変換して、光重合反応を強化するために、光重合開始剤の極大吸収波長を、他の成分の極大吸収波長と異ならせることは技術常識であったと認められる。(必要ならば、特開2015−110728号公報の【0129】、引用文献4の172頁右欄4行〜10行及び特開2009−98664号公報の【0009】<1>及び【0218】〜【0219】等の記載を参照。)
そうすると、引用発明に基づいてさらに、その光重合開始剤を、2種以上を併用した組成物とすることを当業者が検討するときは、光源(紫外線)の限られた波長範囲のうちから「化合物(A);以下の化合物であるA11−1」の極大吸収波長λmax(LC)と、「光重合開始剤(B);B−1:式(B−1)で表される化合物(イルガキュア369;BASFジャパン(株)製)」の極大吸収波長λ(A)とを除外した波長範囲に、極大吸収波長λ(B)を有することが、併用する光重合開始剤を選択する際の条件となる。ここで、λ(A)<λmax(LC)である引用発明に関しては、少なくとも「λmax(LC)<λ(B)」あるいはλ(B)<λ(A)を満たす波長範囲にλ(B)を有する光重合開始剤が、当該条件を満たすことは直ちに理解できることである。

(ウ)そして、先の出願当時において、オキシム化合物が特に感度に優れる光重合開始剤であることは技術常識であったと認められる。(必要ならば、例えば、特開2010−152217号公報の【0204】〜【0208】、参考文献1の102頁の「2.1 高感度化へのアプローチ」(図3を含む。)及び参考文献2の234頁左上欄1行〜9行(図5を含む。)等の記載を参照。)
なお、上記参考文献1及び2は以下のとおりである。

参考文献1:田町知也,「高感度・高解像度な新規重合開始剤の開発」,第29回エレクトロニクス実装学会春季講演大会,2015年3月,102頁〜104頁
参考文献2:清水正晶,「新規な光重合開始剤の開発」,第26回エレクトロニクス実装学会春季講演大会,2012年3月,233頁〜235頁

さらに、例えば、特開2015−69125号公報には、「オキシム化合物は、350nm〜500nmの波長領域に極大吸収波長を有することが好ましく、360nm〜480nmの波長領域に吸収波長を有するものであることがより好ましく、365nm及び455nmの吸光度が高いものが特に好ましい。・・・(中略)・・・オキシム化合物としては、IRGACURE OXE01、及び、IRGACURE OXE02などの市販品(いずれも、BASF社製)、TR−PBG−304(常州強力電子新材料有限公司社製)も好適に使用できる。」(【0177】)と記載されており、特開2014−153592号公報には、「このような、波長370〜450nmの光に感度を有する光重合開始剤としては、上記した光重合開始剤のなかでも、アシルフォスフィンオキシド系化合物、オキシムエステル系化合物、鉄アレーン錯体系化合物、チタノセン系化合物などが、好ましい光重合開始剤である。」(【0079】)と記載されている。
これらの記載に基づけば、先の出願前において、「イルガキュアOXE−02」等の分子内にオキシム構造を有する光重合開始剤が、少なくとも「化合物(A)」の極大吸収波長である350nmより長波長側に極大吸収波長λ(B)を有することは、当業者に既に知られていたことが理解される。

(エ)以上(ア)〜(ウ)を総合すると、引用発明の光重合開始剤について、引用文献3の記載や周知技術に基づいて、2種以上の光重合開始剤を併用した光重合開始剤組成物とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。そして、併用する光重合開始剤の選択にあたり、引用発明が用いている重合性液晶化合物や光重合開始剤「イルガキュア369」を考慮して、市販品であり、且つ、極大吸収波長(λ(B))が他の成分の極大吸収波長(λmax(LC)、λ(A))と異なることが知られていた「イルガキュアOXE−02」等のオキシム化合物を採用することは、上記の各技術常識に基づいて当業者が設計的になし得たことである。その結果、引用発明を設計変更した「組成物」は、「λmax(LC)<λ(B)」との要件も満たし、本件補正後発明の相違点1及び2に係る構成を具備したものとなる。

(7)本件補正後発明1の効果について
本件補正後発明1の効果は、本件出願の明細書の【0010】の記載に基づけば、「転写時の転写欠陥が少ない光学異方性層を形成することができる」というものであると認められる。
一方、引用発明を設計変更した「組成物」も、本件補正後発明と同じ重合性液晶化合物と、本件補正後発明における「20nm<λmax(LC)−λ(A)」との要件を満たす光重合開始剤を含む組成物である。そして、本件出願の明細書の「λ(A)<λ(B) 20nm<λ(B)−λmax(LC)又は20nm<λmax(LC)−λ(A)」及び「上記式を満たすことにより、上記光重合開始剤及び重合性液晶化合物に光を照射した場合に、重合性液晶化合物の光吸収に阻害されることなく、光重合開始剤の光吸収が行われ、重合反応を開始するのに十分な量のラジカルが発生するため、重合反応を好適に行うことができる。」(【0049】)、「本発明によれば、重合性液晶化合物が十分に硬化することができる。従って、転写時の転写欠陥が少ない光学異方層を形成することができる組成物、及び光学異方層を備える表示装置等を提供することができる。」(【0173】)との記載に基づけば、引用発明も、光を照射した場合に、重合性液晶化合物の光吸収に阻害されることなく、光重合開始剤の光吸収が行われ、重合反応を開始するのに十分な量のラジカルが発生するため、重合反応を好適に行うことができるものであり、その結果、重合性液晶化合物が十分に硬化することができるものである。
そうすると、本件補正後発明の上記効果は、引用発明を設計変更した発明も具備する効果であって、格別顕著なものでもない。
また、重合性液晶化合物が十分に硬化して配向がより強固に固定するのであるから、転写に伴う配向欠陥も本願発明と同程度に抑制され得ることは、当業者であれば予測し得る範囲内の事項である。

(8)請求人の主張について
審判請求人は、令和3年2月8日の審判請求書(4頁下から6行〜5頁16行)において、次の点を主張している。
ア 「少なくとも1種類の重合性液晶化合物が、λ(A)<λmax(LC)<λ(B)を満たす」という要件を充足することにより、転写性に優れ、転写欠陥の少ない光学異方層を備え得ること(本願実施例19および20は、本願実施例17および18と比較して、転写性が悪化していること)
イ 「重合性液晶化合物100質量部に占める光重合開始剤組成物の含有量が20質量部を超え」ると、得られる光学異方層は、配向欠陥を有すること(本願実施例21および22は、本願実施例17および18と比較して、転写性が悪化していること)
しかしながら、上記アについては、上記(7)で説示したとおりである。
また、上記イについては、そもそも、本件補正後発明の「1〜20質量部」という数値範囲は、通常の光重合開始剤の含有量の範囲を広く包含するものであって、たとえば、20質量部を超えて光重合開始剤組成物を使用すると、主成分(液晶化合物)の重合を阻害しかねないことは当業者であれば十分に予測可能な事項である。
したがって、審判請求人の上記主張は採用の限りでない。

(9)小括
本件補正後発明は、引用文献3に記載された発明及び周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定についてのむすび
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明は、上記「第2[理由]1(1)」に記載したとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

2 原査定の拒絶の理由
(理由3:進歩性)本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2012−21068号公報(引用文献3)に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含む。

3 引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献の記載及び引用発明は、上記「第2 [理由]2(1)及び(2)」に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、前記「第2[理由]2」において検討した本件補正後発明から、前記「第2[理由]1(3)」で述べた限定事項を省略したものである。
また、本願発明の構成を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正後発明が、前記「第2[理由]2(4)〜(8)に記載したとおり、引用文献3に記載された発明並びに周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうしてみると、本願発明も、引用文献3に記載された発明及び周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-09-30 
結審通知日 2021-10-05 
審決日 2021-11-10 
出願番号 P2019-120436
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 里村 利光
関根 洋之
発明の名称 組成物及び表示装置  
代理人 鶴田 健太郎  
代理人 長谷川 和哉  

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