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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06T
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06T
管理番号 1381533
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-24 
確定日 2022-02-01 
事件の表示 特願2020−5290号「複数のレンダーターゲット内でアクティブカラーサンプルカウントを変更することによりスクリーンの位置によって有効解像度を変動させること」拒絶査定不服審判事件〔令和2年6月11日出願公開、特開2020−91877号、請求項の数(29)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年3月23日の外国語特許出願(特願2016−560642号)の一部を令和2年1月16日に新たな特許出願としたものであって(パリ条約による優先権主張 2014年4月5日 米国)、令和2年6月24日付けの拒絶理由通知に対し、同年9月28日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、同年11月25日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされた(原査定の謄本の送達日:同年12月1日)。
これに対して、令和3年3月24日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に特許請求の範囲についての補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1〜29に係る発明(以下、請求項の番号に従い「本願発明1」等という。)は、令和3年3月24日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜29に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ディスプレイデバイスに結合されたグラフィクス処理ユニットを有するグラフィクス処理システムによるグラフィクス処理方法であって、
前記ディスプレイデバイスのスクリーンの複数の領域の中にある、前記スクリーンの特定の領域についてのアクティブサンプル構成を指定するメタデータを受信することであって、前記メタデータは、異なる解像度を有する前記スクリーンの複数の領域について異なるアクティブサンプル構成を指定するものである、前記メタデータを受信することと、
前記特定の領域内の1つまたは複数のピクセルについてピクセルデータを受信することであって、前記ピクセルデータは、各ピクセルについて同じ数のカラーサンプルを指定するものであり、前記ピクセルデータによって指定される各ピクセルについてのカラーサンプルの数は、前記スクリーンの全表面にわたって同じである、前記ピクセルデータを受信することと、
プリミティブによってカバーされる前記特定の領域内の各ピクセルについて、前記アクティブサンプル構成によってアクティブサンプルであると指定されるピクセルのカラーサンプルについてだけピクセルシェーダを呼び出すことであって、前記ピクセルシェーダのピクセルシェーディング計算は、前記プリミティブによってカバーされる前記特定の領域内の各ピクセルの各アクティブカラーサンプルについて呼び出されることによって各ピクセルをスーパーサンプリングすることであり、前記メタデータは、前記特定の領域についてのアクティブサンプルのマスクを指定し、アクティブサンプルについてだけ前記ピクセルシェーダを呼び出すことは、前記マスクと、プリミティブによってカバーされるサンプルのセットとの間で論理ANDを実施し、前記ピクセルシェーダが呼び出される前記プリミティブについて前記アクティブサンプルを決定することを含み、前記プリミティブによってカバーされるサンプルは、1つまたは複数のカラーサンプルを含む、前記ピクセルシェーダを呼び出すこととを含む、方法。
【請求項2】
前記メタデータは、前記スクリーンの中心の近くに位置する前記複数の領域の1つまたは複数の領域についてのアクティブサンプルカウントが、前記スクリーンの周辺の近くに位置する前記複数の領域の1つまたは複数の領域についてのアクティブサンプルカウントより大きいように構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記メタデータは、前記スクリーンの中心の近くに位置する前記複数の領域の1つまたは複数の領域についてのアクティブサンプルカウントが、前記スクリーンの縁の近くに位置する前記複数の領域の1つまたは複数の領域についてのアクティブサンプルカウントより大きいように構成され、前記スクリーンの前記縁の近くに位置する前記1つまたは複数の領域についての前記アクティブサンプルカウントは、前記スクリーンの角の近くに位置する前記複数の領域の1つまたは複数の領域についてのアクティブサンプルカウントより大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ディスプレイデバイスは、90°以上の視野を特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ディスプレイデバイスは、頭部搭載型ディスプレイデバイスである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ユーザが見ている前記ディスプレイデバイスのスクリーンの部分を決定することを更に含み、前記メタデータは、前記ユーザが見ている前記部分を含む前記スクリーンの1つまたは複数のサブセクションについてピクセル解像度が最も高くなるように前記ピクセル解像度を変えるように構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記メタデータは、所与の光学部品及び前記ディスプレイデバイスの所与の視野について静的である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記メタデータは、前記スクリーンの異なる領域について異なるアクティブカラーサンプルを指定するように構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記複数の領域の各領域は、前記スクリーンの固定サイズ部分に対応する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記複数の領域の各領域は、前記スクリーンの可変サイズ部分に対応する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記メタデータは、前記複数の領域の各領域を垂直及び水平方向にピクセルの範囲によって画定する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記メタデータは、前記複数の領域の各領域を或るサイズの粗いラスター化タイルによって画定する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記複数の領域の特定の領域に関連する前記メタデータの部分は、前記特定の領域についてのアクティブカラーサンプルカウントを指定する情報を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記メタデータは、メモリ及び/またはグラフィクスメモリ内のテーブルの形態で格納される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
グラフィクス処理システムであって、
グラフィクス処理ユニット(GPU)を備え、前記グラフィクス処理ユニット(GPU)は、
ディスプレイデバイスのスクリーンの複数の領域の中にある、前記スクリーンの特定の領域についてのアクティブサンプル構成を指定するメタデータを受信することであって、前記メタデータは、異なる解像度を有する前記スクリーンの複数の領域について異なるアクティブサンプル構成を指定するものである、前記メタデータを受信することと、
前記特定の領域内の1つまたは複数のピクセルについてピクセルデータを受信することであって、前記ピクセルデータは、各ピクセルについて同じ数のカラーサンプルを指定するものであり、前記ピクセルデータによって指定される各ピクセルについてのカラーサンプルの数は、前記スクリーンの全表面にわたって同じである、前記ピクセルデータを受信することと、
プリミティブによってカバーされる前記特定の領域内の各ピクセルについて、前記アクティブサンプル構成によってアクティブサンプルであると指定されるピクセルのカラーサンプルについてだけピクセルシェーダを呼び出すことであって、前記ピクセルシェーダのピクセルシェーディング計算は、前記プリミティブによってカバーされる前記特定の領域内の各ピクセルの各アクティブカラーサンプルについて呼び出されることによって各ピクセルをスーパーサンプリングすることであり、前記メタデータは、前記特定の領域についてのアクティブサンプルのマスクを指定し、前記グラフィクス処理ユニットは、前記マスクと、プリミティブによってカバーされるサンプルのセットとの間で論理ANDを実施することにより前記ピクセルシェーダがアクティブサンプルについてだけ前記ピクセルシェーダを呼び出すように構成され、前記ピクセルシェーダが呼び出される前記プリミティブについて前記アクティブサンプルが決定され、前記プリミティブによってカバーされるサンプルは、1つまたは複数のカラーサンプルを含む、前記ピクセルシェーダを呼び出すこととを実行するように構成される、システム。
【請求項16】
前記メタデータは、前記スクリーンの中心の近くに位置する前記複数の領域の1つまたは複数の領域についてのアクティブサンプルカウントが、前記スクリーンの周辺の近くに位置する前記複数の領域の1つまたは複数の領域についてのアクティブサンプルカウントより大きいように構成される、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記メタデータは、前記スクリーンの中心の近くに位置する前記複数の領域の1つまたは複数の領域についてのアクティブサンプルカウントが、前記スクリーンの縁の近くに位置する前記複数の領域の1つまたは複数の領域についてのアクティブサンプルカウントより大きいように構成され、前記スクリーンの前記縁の近くに位置する前記1つまたは複数の領域についての前記アクティブサンプルカウントは、前記スクリーンの角の近くに位置する前記複数の領域の1つまたは複数の領域についてのアクティブサンプルカウントより大きい、請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
前記ディスプレイデバイスを更に備え、前記ディスプレイデバイスは、90°以上の視野を特徴とする、請求項15に記載のシステム。
【請求項19】
前記ディスプレイデバイスを更に備え、前記ディスプレイデバイスは、頭部搭載型ディスプレイデバイスである、請求項15に記載のシステム。
【請求項20】
ユーザが見ている前記ディスプレイデバイスのスクリーンの部分を決定するように構成され、前記メタデータは、前記ユーザが見ている前記部分を含む前記スクリーンの1つまたは複数のサブセクションについてピクセル解像度が最も高くなるように前記ピクセル解像度を変えるように構成される、請求項15に記載のシステム。
【請求項21】
所与の光学部品及び前記ディスプレイデバイスの所与の視野について静的メタデータを使用するように構成される、請求項15に記載のシステム。
【請求項22】
前記メタデータは、前記スクリーンの異なる領域について異なるアクティブカラーサンプルを指定するように構成される、請求項15に記載のシステム。
【請求項23】
前記複数の領域の各領域は、前記スクリーンの固定サイズ部分に対応する、請求項15に記載のシステム。
【請求項24】
前記複数の領域の各領域は、前記スクリーンの可変サイズ部分に対応する、請求項15に記載のシステム。
【請求項25】
前記メタデータは、前記複数の領域の各領域を垂直及び水平方向にピクセルの範囲によって画定する、請求項15に記載のシステム。
【請求項26】
前記メタデータは、前記複数の領域の各領域を或るサイズの粗いラスター化タイルによって画定する、請求項15に記載のシステム。
【請求項27】
前記複数の領域の特定の領域に関連する前記メタデータの部分は、前記特定の領域についてのアクティブカラーサンプルカウントを指定する情報を含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項28】
メモリ及び/またはグラフィクスメモリを更に備え、前記メタデータは、前記メモリ及び/または前記グラフィクスメモリ内のテーブルの形態で格納される、請求項15に記載のシステム。
【請求項29】
コンピュータ実行可能命令が記録された非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記コンピュータ実行可能命令は、実行されると、ディスプレイデバイスに結合されたグラフィクス処理ユニットを有するグラフィクス処理システムにグラフィクス処理方法を実行させ、前記方法は、
前記ディスプレイデバイスのスクリーンの複数の領域の中にある、前記スクリーンの特定の領域についてのアクティブサンプル構成を指定するメタデータを受信することであって、前記メタデータは、異なる解像度を有する前記スクリーンの複数の領域について異なるアクティブサンプル構成を指定するものである、前記メタデータを受信することと、
前記特定の領域内の1つまたは複数のピクセルについてピクセルデータを受信することであって、前記ピクセルデータは、各ピクセルについて同じ数のカラーサンプルを指定するものであり、前記ピクセルデータによって指定される各ピクセルについてのカラーサンプルの数は、前記スクリーンの全表面にわたって同じである、前記ピクセルデータを受信することと、
プリミティブによってカバーされる前記特定の領域内の各ピクセルについて、前記アクティブサンプル構成によってアクティブサンプルであると指定されるピクセルのカラーサンプルについてだけピクセルシェーダを呼び出すことであって、前記ピクセルシェーダのピクセルシェーディング計算は、前記プリミティブによってカバーされる前記特定の領域内の各ピクセルの各アクティブカラーサンプルについて呼び出されることによって各ピクセルをスーパーサンプリングすることであり、前記メタデータは、前記特定の領域についてのアクティブサンプルのマスクを指定し、アクティブサンプルについてだけ前記ピクセルシェーダを呼び出すことは、前記マスクと、プリミティブによってカバーされるサンプルのセットとの間で論理ANDを実施し、前記ピクセルシェーダが呼び出される前記プリミティブについて前記アクティブサンプルを決定することを含み、前記プリミティブによってカバーされるサンプルは、1つまたは複数のカラーサンプルを含む、前記ピクセルシェーダを呼び出すこととを含む、非一時的コンピュータ可読媒体。」

第3 原査定の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
理由1(明確性
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。



・原査定時の請求項2、18
「プリミティブによってカバーされるサンプル」と記載しているが、例えば「カラーサンプル」(原査定時の請求項1、17の「各ピクセルについて同じ数のカラーサンプルを指定する」等)を指すのか否か明確ではない。
出願人は、前記サンプルについて、カラーサンプル及び深度サンプルと主張しているが、原査定時の請求項2、18の記載では当該構成であることは特定されていない。

理由2(サポート要件)
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。



・原査定時の請求項1−33
(1) 「アクティブサンプル」、「アクティブサンプル構成」(原査定時の請求項1、17、33)の定義が、発明の詳細な説明を参照しても明らかではなく、前記構成を指定する手法が明らかではないため、当該アクティブサンプル構成を指定するメタデータの構成は不明である。
(2) また、前記アクティブサンプル構成は、特定の領域内の各ピクセルについて、当該アクティブサンプル構成によってアクティブサンプルであると指定するものであるが、前記アクティブサンプル及び前記アクティブサンプル構成は明らかではないため、当該指定がどのようになされるのか明らかでない。
(3) 本願発明はスクリーンの位置によって解像度を変更(段落0007)するものであり、課題解決の手法として、サンプルカウント(アクティブサンプルカウント)を指定(段落0029等)するとともに、マスクとプリミティブによってカバーされるサンプルとの間で論理ANDを実施し、ピクセルシェーダが呼び出されるプリミティブについてアクティブサンプルを決定(段落0030等)する構成を備えるものとしているが、原査定時の請求項1−33では当該構成が反映されていない(例えば、原査定時の請求項2または請求項3では、一部の構成しか反映されていない)。
出願人は、原査定時の請求項1、17、33に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである旨の主張をしているが、具体的な根拠を示していない。また、発明の詳細な説明の記載を参照すると、課題解決のための手段は反映されていない。
よって、原査定時の請求項1−33に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

理由3(進歩性
本願の原査定時の請求項1、3〜17、19〜33に係る発明は、下記の引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:特表2002−503855号公報
引用文献2:特表2009−520307号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1
(1) 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用する引用文献1(特表2002−503855号公報)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付した。)。
「【0012】
画像の現実感をさらに高めるために、従来技術のグラフィックス・システムの中には、ピクセル毎に2つ以上のサンプルを生成するものもある。本明細書で使用された如く、用語「サンプル」は、対象または画面の特定点についての色、深度、透明度、潜在的に、他の情報を指示する計算色情報をいう。例えば、サンプルは、次の成分値を含む。すなわち、赤色値、緑色値、青色値、z値、およびアルファ値(例えば、サンプルの透明度を表現する)である。サンプルはまた、例えば、z深度値、青色値、強度値、高輝度情報、およびサンプルが色情報ではなく制御情報(すなわち、「サンプル制御情報」)から部分的または完全に構成されるインジケータ等の他の情報を含む。ピクセル数よりも多くのサンプルを計算する(すなわち、スーパーサンプリングする)ことにより、表示装置に表示されるよりもより詳細な画像が計算される。例えば、グラフィックス・システムは、表示装置へ出力される各ピクセルに対して、4つのサンプルを計算する。サンプルが計算された後、サンプルは組み合わされ、またはフィルタリングされ、ピクセルを形成し、フレーム・バッファに記憶され、その後、表示装置へ伝達される。このようにして形成されたピクセルを使用して、より現実感のある最終画像が作成される。過度に急激な画像の変化は、フィルタリング・プロセスによって平滑化される。」
「【0018】
サンプル−ピクセル計算ユニットは、それぞれの出力ピクセルを生成するために使用されたサンプル数を変化させるようにプログラムされる。例えば、使用されたサンプル数は、出力ピクセルの位置、例えば、観察者の窩点から出力ピクセルの距離に応じて変化する。本明細書で使用された用語「窩点(pointof foveation)」は、観察者の眼の視界の中心が集束される点(例えば、表示画面上の点)をいう。この点は、観察者の眼の移動とともに移動する。例えば、(観察者の眼が移動する時移動する)窩点は、観察者が画面の中心において表示された小物体に焦点を合わせる時、表示画面の完全な中心に位置する。
【0019】
人の視覚系は、変化レベルの鋭さを有し、最高レベルの鋭さは、網膜の小窩の付近にある。窩領域は、窩点から受光し、一般に、人の視界の中心から数度にある。こうして、人の視覚系に最良に整合するためには、グラフィックス・システムは、幾つかの実施態様において、観察者の窩点が表示装置に関してどこにあるかを検出するように構成される。これにより、グラフィックス・システムは、サンプル濃度を人の眼の鋭さに整合させることができる。こうして、人の視覚系の最高に鋭い領域によって知覚される表示装置の領域へ割り当てられるサンプル数(および処理能力)が増大される。同様に、人の視覚系の鋭くない領域によって知覚される領域へ配分されるサンプル数および処理能力は低下される。しかし、整合されるのは眼の桿状体と錐状体の濃度ではない。他の因子も、レンズ系、色収差、および眼への神経経路等、人の視覚系の知覚に影響を与える。人の網膜の知覚にコンピュータのディスプレイを整合させる目的のために、人の脳の視覚入力に対する処理限界は、将来のグラフィックス・システムが一致または超過しようとして追求する有益な目標を与える。」
「【0036】
グラフィックス・システム−図3
図3を参照すると、グラフィックス・システム112の一実施形態の詳細を示すブロック図が示される。図示された如く、グラフィックス・システム112は、1つまたは複数のグラフィックス・プロセッサ90、1つまたは複数のスーパーサンプリング用サンプル・バッファ162、および1つまたは複数のサンプル−ピクセル計算ユニット170A〜Dを含む。グラフィックス・システム112はまた、1つまたは複数のディジタル/アナログ・コンバータ(DAC)178A〜Bを含む。グラフィックス・プロセッサ90は、適切なタイプの高性能プロセッサ(例えば、特殊グラフィックス・プロセッサまたは計算ユニット、マルチメディア・プロセッサ、DSP、または汎用プロセッサ)である。一実施形態において、グラフィックス・プロセッサ90は、1つまたは複数のレンダリング・ユニット150A〜Dを含む。しかし、示された実施形態において、グラフィックス・プロセッサ90はまた、1つまたは複数の制御ユニット140、1つまたは複数のデータ・メモリ152A〜D、および1つまたは複数のスケジュール・ユニット154を含む。サンプル・バッファ162は、図示された如く、1つまたは複数のサンプル・メモリ160A〜160Nを含む。」
「【0039】
B.レンダリング・ユニット
レンダリング・ユニット150A〜D(ここでは描写ユニットとも呼ばれる)は、制御ユニット140からグラフィックス命令とデータを受け取り、的確な実装に依存して、多数の機能を行うように構成される。例えば、レンダリング・ユニット150A〜Dは、グラフィックス・データ内で生ずるいろいろなグラフィックス・プリミティブに対して、(データが圧縮されているならば)圧縮解除、変換、クリッピング、ライティング、テクスチャリング、デプス・キューイング、透明度処理、設定、および画面空間レンダリングを行うように構成される。これらの各機能は、以下で別々に記載される。」
「【0045】
画面スペース・レンダリングは、表示される各ピクセルを生成するために使用されるデータを実際に計算するために行われる計算をいう。従来技術のシステムにおいて、各ピクセルは、計算されると、フレーム・バッファに記憶される。フレーム・バッファの内容は、表示装置へ出力され、最終画像を作成する。しかし、図示されたグラフィックス・システム112の実施形態において、レンダリング・ユニット150A〜Dは、実ピクセル・データの代わりに、「サンプル」を計算する。これにより、レンダリング・ユニット150A〜Dは、「スーパーサンプリング」し、ピクセル当たり2以上のサンプルを計算することができる。スーパーサンプリングは、以下でより詳細に記載される。レンダリング・ユニット150A〜Bは、例えば、分離設定/圧縮解除ユニットおよびライティング・ユニット等の多数の小機能ユニットを含むことに注意されたい。」
「【0102】
一実施形態において、グラフィックス・システム112は、可変解像度スーパーサンプリングを実施することにより、これらの潜在的な障害物を克服するように構成される。この実施形態において、グラフィックス・システム112は、画面における1つまたは複数の第1位置(例えば、画面上の窩点)においてピクセル当たり高位数のサンプルを割り当てることにより、人の眼の特性を擬態し、画面における1つまたは複数の第2位置(例えば、窩点から遠い領域)に対してピクセル当たりサンプル数の降下がある。実現により、窩点は、いろいろな手法で決定される。一実施形態において、窩点は、画面上に表示されたある物体の回りの所定の領域である。例えば、コンピュータ・ゲームにおける移動カーソルまたは主キャラクタの回りの領域は、窩点に指定される。別の実施形態において、画面上の窩点は、ヘッド・トラッキングまたはアイ・トラッキングによって決定される。アイ/ヘッド/ハンド・トラッキング、カーソル・ベースまたは主キャラクタベースの窩点は実現されないとしても、窩点は、画面の中心において固定され、ここで、多数の観察者の注目が、大部分の時間に集中される。可変解像度スーパーサンプリングは、以下に詳細に記載される。」
「【0104】
可変解像度スーパーサンプリング用サンプル・バッファにおいて、出力ピクセル当たりの計算サンプルの数は、領域ベースで変化する。こうして、最大関心の領域における出力ピクセルは、非常に多数のサンプルを使用して計算され、かくして、この領域において解像度を向上させ、関心のうすい領域における出力ピクセルは、少数のサンプルを使用して、計算され、こうして、この領域において解像度を低下させる。
【0105】
前記の如く、実施形態の中には、グラフィックス・システム112が、可変解像度スーパーサンプリング用サンプル・バッファを構成される。可変解像度スーパーサンプリングを実現するために、サンプル・バッファ162は、領域と呼ばれる小部分へ分割される。これらの領域のサイズ、位置および他の属性は、フレーム毎ベースでランタイム・レジスタによってパラメータ化される如く、動的に変化するように構成される。
【0106】
図15を参照すると、サンプル・バッファ162を分割するための1つの可能な技法の図が示される。この実施形態において、サンプル・バッファ162は、次の3つの入れ子領域に分割される。すなわち、窩領域354、中間領域352、および周辺領域350である。これらの各領域は、矩形状外側境界を有するが、中間領域と周辺領域は、その中心において矩形状の穴を有する。各領域は、ある一定の(フレーム毎の)特性、例えば、ピクセル・ビンの一定濃度サンプル濃度と一定サイズを有するように構成される。一実施形態において、全濃度範囲は256である。すなわち、領域は、16画面ピクセル(4×4)毎に1サンプルと1画面ピクセル毎に16サンプルとの間をサポートする。他の実施形態において、全濃度範囲は、他の値、例えば、64に限定される。一実施形態において、サンプル濃度は、それぞれの領域にわたって線形または非線形に変化する。また、他の実施形態において、ディスプレイは、複数の一定サイズ領域(例えば、4×4ピクセルのサイズまたは40×40ピクセルのサイズの方形)に分割されることに注意されたい。」

「【図3】


「【図15】



(2) 引用発明の認定
上記(1)に摘記した記載内容及び図示内容を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「画像の現実感をさらに高めるために、ピクセル毎に2つ以上のサンプル(対象または画面の特定点についての色、深度、透明度、潜在的に、他の情報を指示する計算色情報をいう。)を生成するグラフィックス・システムであって、ピクセル数よりも多くのサンプルを計算する(すなわち、スーパーサンプリングする)ことにより、表示装置に表示されるよりもより詳細な画像が計算され、例えば、表示装置へ出力される各ピクセルに対して、4つのサンプルが計算された後、サンプルは組み合わされ、またはフィルタリングされ、ピクセルを形成し、フレーム・バッファに記憶され、その後、表示装置へ伝達されるグラフィックス・システムにおいて、(【0012】)
人の視覚系の最高に鋭い領域によって知覚される表示装置の領域へ割り当てられるサンプル数(および処理能力)が増大され、人の視覚系の鋭くない領域によって知覚される領域へ配分されるサンプル数および処理能力は低下されることにより、サンプル濃度を人の眼の鋭さに整合させることができるようにしたものであり、(【0019】)
グラフィックス・システム112は、1つまたは複数のグラフィックス・プロセッサ90、1つまたは複数のスーパーサンプリング用サンプル・バッファ162、および1つまたは複数のサンプル−ピクセル計算ユニット170A〜Dを含み、グラフィックス・プロセッサ90は、1つまたは複数のレンダリング・ユニット150A〜Dを含み、(【0036】)
レンダリング・ユニット150A〜Dは、グラフィックス・データ内で生ずるいろいろなグラフィックス・プリミティブに対して、(データが圧縮されているならば)圧縮解除、変換、クリッピング、ライティング、テクスチャリング、デプス・キューイング、透明度処理、設定、および画面空間レンダリングを行うように構成され、(【0039】)
レンダリング・ユニット150A〜Dは、実ピクセル・データの代わりに、「サンプル」を計算することにより、「スーパーサンプリング」し、ピクセル当たり2以上のサンプルを計算することができ、(【0045】)
グラフィックス・システム112は、画面における1つまたは複数の第1位置(例えば、画面上の窩点)においてピクセル当たり高位数のサンプルを割り当てることにより人の眼の特性を擬態し、画面における1つまたは複数の第2位置(例えば、窩点から遠い領域)に対してピクセル当たりサンプル数の降下がある可変解像度スーパーサンプリングを実施し、(【0102】)
可変解像度スーパーサンプリング用サンプル・バッファにおいて、出力ピクセル当たりの計算サンプルの数は、領域ベースで変化し、最大関心の領域における出力ピクセルは、非常に多数のサンプルを使用して計算され、この領域において解像度を向上させ、関心のうすい領域における出力ピクセルは、少数のサンプルを使用して計算され、この領域において解像度を低下させ、(【0104】)
可変解像度スーパーサンプリングを実現するために、サンプル・バッファ162は、領域と呼ばれる小部分へ分割され、(【0105】)
サンプル・バッファ162は、窩領域354、中間領域352、および周辺領域350の3つの入れ子領域に分割される、(【0106】)
グラフィックス・システム。」

2 引用文献2
(1) 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用する引用文献2(特表2009−520307号公報)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付した。)。
「【0021】
レンダリングパイプライン概要
[0027]図2は本発明の実施形態による図1のGPU122で実施され得るレンダリングパイプライン200のブロック図である。本実施形態では、レンダリングパイプライン200は、適用可能なバーテックスシェーダープログラム、ジオメトリシェーダープログラム、及び、ピクセルシェーダープログラムが、本明細書で「マルチスレッド型コアアレイ」202と呼ばれる同じ並列処理ハードウェアを使用して実行されるアーキテクチャを使用して実施される。マルチスレッド型コアアレイ202は後述されている。」
「【0026】
[0032]状態情報及びレンダリングコマンドは、レンダリングパイプライン200の種々のステージの処理パラメータ及びアクションを定義する。フロントエンド204は、状態情報及びレンダリングコマンドを、(明示的に示されていない)制御経路を介して、レンダリングパイプライン200の他のコンポーネントへ導く。当分野で公知のように、これらのコンポーネントは、処理中にアクセスされる種々の制御レジスタ中の値を記憶又は更新することにより、受信された状態情報に応答でき、パイプライン中で受信されたデータを処理することにより、レンダリングコマンドに応答できる。」
「【0033】
[0039]セットアップモジュール208は、各プリミティブ(PRIM)をラスタライザ210へ供給する。一般的に従来型の設計でもよいラスタライザ210は、たとえば、従来型の走査変換アルゴリズムを使用して、プリミティブによって覆われた(もしあるとしたら)画素を判定する。本明細書で使用されているように、「画素」(又は「フラグメント」)は、一般的に、単一のカラー値が決定されるべき2次元スクリーン空間内の領域を指し、画素の個数及び配置はレンダリングパイプライン200の設定可能なパラメータでもよく、特有の表示装置のスクリーン解像度と相関していても相関していなくてもよい。当分野で公知のように、画素カラーは(たとえば、従来型のスーパーサンプリング技術又はマルチサンプリング技術を使用して)画素内の複数の場所でサンプリングされることがあり、一部の実施形態では、スーパーサンプリング又はマルチサンプリングはピクセルシェーダー内で取り扱われる。
【0034】
[0040]プリミティブによって覆われた画素を判定した後、ラスタライザ210は、プリミティブによって覆われた画素のスクリーン座標(X,Y)のリストと共に、プリミティブ(PRIM)をカラーアセンブリモジュール212に供給する。カラーアセンブリモジュール212は、プリミティブ、及び、ラスタライザ210から受信されたカバレッジ情報をプリミティブの頂点の属性(たとえば、色成分、テクスチャ座標、表面法線)と関連付け、スクリーン座標空間内の位置の関数として属性の一部又は全部を定義する平面方程式(又はその他の適当な式)を生成する。
【0035】
[0041]これらの属性式は、プリミティブ内の任意の場所で属性の値を補間するためピクセルシェーダープログラムにおいて有利に使用でき、従来型の技術は式を生成するために使用され得る。たとえば、一実施形態では、カラーアセンブリモジュール212は、属性U毎に、U=Ax+By+Cという形式の平面方程式の係数A、B及びCを生成する。
【0036】
[0042]カラーアセンブリモジュール212は、少なくとも1個の画素を覆うプリミティブ毎の属性式(たとえば、平面方程式の係数A、B及びCを含んでもよいEQS)と覆われた画素のスクリーン座標(X,Y)のリストとをマルチスレッド型コアアレイ202内のピクセルモジュール224へ供給する。ピクセルモジュール224は、プリミティブによって覆われた画素毎に、フロントエンド204によって供給された状態情報に応答して選択される1つ以上のピクセルシェーダープログラムを実行するようにマルチスレッド型コアアレイ202内の(明示的に示されていない)プログラマブル処理エンジンに命令する。バーテックスシェーダープログラム及びジオメトリシェーダープログラムの場合と同様に、レンダリングアプリケーションは、所与の画素の組のため使用されるべきピクセルシェーダープログラムを指定することが可能である。ピクセルシェーダープログラムは、照明及び陰影効果と、反射と、テクスチャブレンディングと、手続き型テクスチャ生成などを含む多種多様な視覚効果を実施するために使用され得る。このような画素当たり演算の多数の実施例は技術的に公知であり、詳細な説明は本発明の理解に重要ではないので省かれている。ピクセルシェーダープログラムは、画素及びその他のデータに広範囲の数学演算及び論理演算を使用してアルゴリズムを実施可能であり、プログラムは、条件付き実行経路又は分岐実行経路と、直接及び間接メモリアクセスとを含んでもよい。」
「【図2】



(2) 周知技術の認定
上記(1)に摘記した記載内容及び図示内容から、次の3つの技術事項は、当業者にとって周知であったものと認められる。
以下、これら3つの技術事項をそれぞれ「周知技術1」、「周知技術2」及び「周知技術3」という。
[周知技術1]
「GPUで実施されるレンダリングパイプラインにおいて、状態情報及びレンダリングコマンドは、レンダリングパイプラインの種々のステージの処理パラメータ及びアクションを定義するものであり、フロントエンドから制御経路を介して、状態情報及びレンダリングコマンドをレンダリングパイプラインの他のコンポーネントへ導き、これらのコンポーネントは、処理中にアクセスされる種々の制御レジスタ中の値を記憶又は更新することにより、受信された状態情報に応答でき、パイプライン中で受信されたデータを処理することにより、レンダリングコマンドに応答できること。」
(【0021】、【0026】)

[周知技術2]
「GPUで実施されるレンダリングパイプラインにおいて、画素の個数及び配置は、特有の表示装置のスクリーン解像度と相関するように設定可能なパラメータであること。」(【0021】、【0033】)

[周知技術3]
「GPUで実施されるレンダリングパイプラインにおいて、画素カラーは、ピクセルシェーダープログラム内で取り扱われるスーパーサンプリング技術を使用して画素内の複数の場所でサンプリングされたものであり、プリミティブによって覆われた画素毎に、フロントエンドによって供給された状態情報に応答して選択される1つ以上のピクセルシェーダープログラムが実行されること。」(【0021】、【0033】、【0036】)

第5 対比・判断
1 本願発明15について
(1) 対比
本願発明15と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「ピクセル毎に2つ以上のサンプル(対象または画面の特定点についての色、深度、透明度、潜在的に、他の情報を指示する計算色情報をいう。)を生成するグラフィックス・システム」は、本願発明15の「グラフィクス処理システム」に相当する。

イ 引用発明の「グラフィックス・システム112」に含まれる「1つまたは複数のグラフィックス・プロセッサ90」は、本願発明15の「グラフィクス処理ユニット(GPU)」に相当するから、本願発明15と引用発明は、「グラフィクス処理システム」が「グラフィクス処理ユニット(GPU)を備え」る点で一致する。

ウ 引用発明の「画面における1つまたは複数の第1位置(例えば、画面上の窩点)」及び「画面における1つまたは複数の第2位置(例えば、窩点から遠い領域)」は、本願発明15の「ディスプレイデバイスのスクリーンの複数の領域」に相当する。
そして、引用発明の「画面における1つまたは複数の第1位置(例えば、画面上の窩点)」は、「ピクセル当たり高位数のサンプルを割り当て」られて「解像度」が「向上」し、「画面における1つまたは複数の第2位置(例えば、窩点から遠い領域)」は、「ピクセル当たりサンプル数の降下」があり「解像度」が「低下」しているから、上記「画面における1つまたは複数の第1位置(例えば、画面上の窩点)」及び「画面における1つまたは複数の第2位置(例えば、窩点から遠い領域)」は、本願発明15の「異なる解像度を有する前記スクリーンの複数の領域」に相当する。

エ 引用発明の「グラフィックス・プロセッサ90」に含まれる「レンダリング・ユニット150A〜D」が実施する「可変解像度スーパーサンプリング」は、本願発明15の「各ピクセルをスーパーサンプリングすること」に相当する。

オ 上記ウ及びエの検討内容を踏まえると、本願発明15と引用発明は、「前記グラフィクス処理ユニット(GPU)は、ディスプレイデバイスのスクリーンの複数の領域が異なる解像度を有するように、各ピクセルをスーパーサンプリングする」という点で共通する。

以上ア〜オの検討内容をまとめると、本願発明15と引用発明とは、以下の一致点において一致し、以下の相違点1〜3において相違する。
[一致点]
「グラフィクス処理システムであって、
グラフィクス処理ユニット(GPU)を備え、前記グラフィクス処理ユニット(GPU)は、ディスプレイデバイスのスクリーンの複数の領域が異なる解像度を有するように、各ピクセルをスーパーサンプリングする、
グラフィクス処理システム。」

[相違点1]
本願発明15では、「ディスプレイデバイスのスクリーンの複数の領域の中にある、前記スクリーンの特定の領域についてのアクティブサンプル構成を指定するメタデータを受信することであって、前記メタデータは、異なる解像度を有する前記スクリーンの複数の領域について異なるアクティブサンプル構成を指定するものである、前記メタデータを受信すること」を実行するのに対して、引用発明では、このような「スクリーンの特定の領域についてのアクティブサンプル構成を指定するメタデータを受信すること」を実行しない点。

[相違点2]
本願発明15では、「前記特定の領域内の1つまたは複数のピクセルについてピクセルデータを受信することであって、前記ピクセルデータは、各ピクセルについて同じ数のカラーサンプルを指定するものであり、前記ピクセルデータによって指定される各ピクセルについてのカラーサンプルの数は、前記スクリーンの全表面にわたって同じである、前記ピクセルデータを受信すること」を実行するのに対して、引用発明では、「前記ピクセルデータによって指定される各ピクセルについてのカラーサンプルの数は、前記スクリーンの全表面にわたって同じである、前記ピクセルデータを受信すること」を実行しない点。

[相違点3]
本願発明15では、「プリミティブによってカバーされる前記特定の領域内の各ピクセルについて、前記アクティブサンプル構成によってアクティブサンプルであると指定されるピクセルのカラーサンプルについてだけピクセルシェーダを呼び出すことであって、前記ピクセルシェーダのピクセルシェーディング計算は、前記プリミティブによってカバーされる前記特定の領域内の各ピクセルの各アクティブカラーサンプルについて呼び出されることによって各ピクセルをスーパーサンプリングすること」を実行し、「前記メタデータは、前記特定の領域についてのアクティブサンプルのマスクを指定し、前記グラフィクス処理ユニットは、前記マスクと、プリミティブによってカバーされるサンプルのセットとの間で論理ANDを実施することにより前記ピクセルシェーダがアクティブサンプルについてだけ前記ピクセルシェーダを呼び出すように構成され、前記ピクセルシェーダが呼び出される前記プリミティブについて前記アクティブサンプルが決定され、前記プリミティブによってカバーされるサンプルは、1つまたは複数のカラーサンプルを含む、前記ピクセルシェーダを呼び出すこと」を実行するのに対して、引用発明では、アクティブサンプルであると指定されるピクセルのカラーサンプルについてだけピクセルシェーダを呼び出すことを実行しない点。

(2) 判断
相違点1〜3を合わせて検討する。
ア 本願発明15は、「ピクセルデータによって指定される各ピクセルについてのカラーサンプルの数は、前記スクリーンの全表面にわたって同じである」(相違点1)ことを前提として、「ディスプレイデバイスのスクリーンの複数の領域の中にある、前記スクリーンの特定の領域についてのアクティブサンプル構成を指定」(相違点2)し、「アクティブサンプル構成によってアクティブサンプルであると指定されるピクセルのカラーサンプルについてだけピクセルシェーダを呼び出す」(相違点3)ものであるから、要するに、各ピクセルをスーパーサンプリングするにあたって、ピクセル当たりのカラーサンプルの数をスクリーンの領域によって変更せずにスクリーンのどこでも同じにして、ピクセル当たり同じ数に設定されたカラーサンプルのうち、ピクセルシェーダが呼び出されるカラーサンプルをアクティブサンプルとして抽出したものである。

イ これに対して、引用発明は、画面上の窩点の領域においては、ピクセル当たりのカラーサンプル数が多く割り当てられ、窩点から遠い領域においては、ピクセル当たりカラーサンプル数は少なく割り当てられているから、各ピクセルをスーパーサンプリングする際のピクセル当たりのカラーサンプルの数は、スクリーンの領域によって変更されており、スクリーンのどこでも同じには設定されていない。
すなわち、引用発明では、各領域においてピクセル単位で割り当てられたカラーサンプルは、すべて当該ピクセルのスーパーサンプリングに貢献するように予めカラーサンプルの数を領域によって変更しているから、当該ピクセル内に属するカラーサンプルのうち、スーパーサンプリングに貢献するものとしないものを区別し、貢献する方のカラーサンプルを「アクティブサンプル」とするような方式をそもそも採用していない。

ウ この点に関し、GPUで実施されるレンダリングパイプラインにおいて、画素の個数及び配置は、特有の表示装置のスクリーン解像度と相関するように設定可能なパラメータであることは、周知な技術であり、また、画素カラーは、ピクセルシェーダープログラム内で取り扱われるスーパーサンプリング技術を使用して画素内の複数の場所でサンプリングされたものであり、プリミティブによって覆われた画素毎に、フロントエンドによって供給された状態情報に応答して選択される1つ以上のピクセルシェーダープログラムが実行されることは、周知な技術である(前記第4の2(2)の周知技術2、3を参照。)。

エ しかしながら、これらの周知技術に照らしてみても、引用発明において、予めカラーサンプルの数を領域によって変更することに代えて、ピクセル当たりのカラーサンプルの数は、スクリーンの領域によって変更せずにスクリーンのどこでも同じにした上で、ピクセルシェーダが呼び出されるカラーサンプルをアクティブサンプルとして抽出するように構成することは、当業者といえども困難であるというべきである。

オ したがって、本願発明15は、各ピクセルをスーパーサンプリングする際のピクセル当たりのカラーサンプルの数の設定手法において、引用発明と根本的に相違するから、引用発明及び周知技術1〜3に基づいて当業者であっても容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明1〜14、16〜29について
本願発明16〜28も、上記相違点1〜3に係る本願発明15の構成と同じものを含むから、本願発明15と同様の理由により、当業者であっても容易に発明をすることができたものとはいえない。
本願発明1〜14、29も、上記相違点1〜3に係る本願発明15の構成に対応するものを含むから、本願発明15と同様の理由により、当業者であっても容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 小括
上記1及び2において検討したとおりであるから、本願発明1〜29は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 原査定について
1 理由1(明確性)について
原査定時の請求項2、18には、「プリミティブによってカバーされるサンプル」と記載されており、これが、原査定時の請求項1、17の「カラーサンプル」を指すのか否か明確ではなかった。
この点について、審判請求時の補正(令和3年3月24付けの補正)により、請求項1、15に「前記プリミティブによってカバーされるサンプルは、1つまたは複数のカラーサンプルを含む」という構成が追加されたため、「プリミティブによってカバーされるサンプル」には「カラーサンプル」が含まれることが明らかになった。
よって、原査定の理由1を維持することはできない。

2 理由2(サポート要件)について
原査定時の請求項1、17、33の「アクティブサンプル」、「アクティブサンプル構成」の定義が、発明の詳細な説明を参照しても明らかではなく、前記構成を指定する手法が明らかではないため、当該アクティブサンプル構成を指定するメタデータの構成は不明であった。
また、前記アクティブサンプル構成は、特定の領域内の各ピクセルについて、当該アクティブサンプル構成によってアクティブサンプルであると指定するものであるが、前記アクティブサンプル及び前記アクティブサンプル構成は明らかではないため、当該指定がどのようになされるのか明らかではなかった。
そして、本願発明はスクリーンの位置によって解像度を変更(段落0007)するものであり、課題解決の手法として、サンプルカウント(アクティブサンプルカウント)を指定(段落0029等)するとともに、マスクとプリミティブによってカバーされるサンプルとの間で論理ANDを実施し、ピクセルシェーダが呼び出されるプリミティブについてアクティブサンプルを決定(段落0030等)する構成を備えるものとしているが、原査定時の請求項1−33では当該構成が反映されていなかった。
これらの点について、審判請求時の補正(令和3年3月24日付けの補正)により、請求項1、15、29に「前記メタデータは、前記特定の領域についてのアクティブサンプルのマスクを指定し、アクティブサンプルについてだけ前記ピクセルシェーダを呼び出すことは、前記マスクと、プリミティブによってカバーされるサンプルのセットとの間で論理ANDを実施し、前記ピクセルシェーダが呼び出される前記プリミティブについて前記アクティブサンプルを決定することを含み、前記プリミティブによってカバーされるサンプルは、1つまたは複数のカラーサンプルを含む、前記ピクセルシェーダを呼び出すこととを含む、」という構成が追加されたため、アクティブサンプル構成を指定するメタデータの構成が明らかになり、当該指定がどのようになされるのかも明らかになるとともに、アクティブサンプルカウントを指定するとともに、マスクとプリミティブによってカバーされるサンプルとの間で論理ANDを実施し、ピクセルシェーダが呼び出されるプリミティブについてアクティブサンプルを決定する構成が請求項の記載に反映された。
よって、原査定の理由2を維持することはできない。

3 理由3(進歩性)について
前記第5の3において説示したとおり、本願発明1〜29は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由3を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2022-01-17 
出願番号 P2020-005290
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06T)
P 1 8・ 537- WY (G06T)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 濱野 隆
清水 靖記
発明の名称 複数のレンダーターゲット内でアクティブカラーサンプルカウントを変更することによりスクリーンの位置によって有効解像度を変動させること  
代理人 森下 賢樹  
代理人 森下 賢樹  

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