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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1381554
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-04-22 
確定日 2022-01-05 
事件の表示 特願2018−521545「生体試料における動きを光検出するための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月 4日国際公開、WO2017/071721、平成30年11月22日国内公表、特表2018−534566〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、2015年(平成27年)10月26日を国際出願日とする出願であって、令和元年7月25日付けで拒絶理由通知がなされ、同年11月1日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年5月22日付けで拒絶理由通知がなされ、同年9月8日に手続補正書及び意見書が提出され、同年12月11日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、令和3年4月22日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明

1 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和2年9月8日に提出された手続補正書により補正された請求項1に記載された、次のとおりのものである(各構成単位冒頭の「A」などは分説記号であり、以下当該構成単位を「構成A」などという。)。

「 【請求項1】
A 生体試料(1)における動きおよび/または前記生体試料(1)の成分の動きをインビトロで光検出するための方法であって、
B (a)次の構成要素
B1 (a1)前記生体試料(1)全体を照射するよう構成された、前記生体試料(1)を照射するための広視野光照射装置と、
B2 (a2)前記生体試料(1)から来る放射(9、9a、9b)を検出するための検出器であって、
B3 複数の検出領域(4a)に細分化された検出エリア(3a)を有し、また、
B4 個々の検出領域(4a)の検出信号(4c)の時間に関する微分を形成し(S1)その後でそれらを整流し(S2)、
B5 全ての前記検出領域の前記微分されて整流された検出信号を合計または平均し(S3)
B6 次いでそれらを出力信号(6c)として供給する、よう構成された検出器(3)と、
を設ける工程と、
C (b)前記広視野光照射装置を用いて前記生体試料(1)を照射する工程と、
D (c)前記検出器(3)の前記出力信号(6c)に応じて前記生体試料(1)における動きを検出する工程と、
を含む方法。」

2 本願明細書の記載事項

(1)本願明細書の記載事項
本願の明細書の翻訳文(以下単に「本願明細書」という。)には、「検出器」の具体例について次の記載がある。

「【0016】
検出器は、複数の検出領域(小領域)に細分化された1つの検出エリア(flaeche:面領域)を有する。例えば、検出器は、マトリクス状に配置された複数のピクセル(画素)素子を有する2次元ピクセル・アレイ検出器、例えばピクセル光センサとすることができる。」

「【0019】
従って、検出器は、非画像形成検出器であることが好ましい。検出器の出力信号は、アナログまたはディジタルとすることができる。」

「【0059】
・・・個々のピクセルの測定データの時間に関する微分およびその後の整流は、検出器3の集積CMOS回路5によって実行される。従って、このCMOS回路は、各ピクセルに対して微分されて整流された信号5cを出力する。CMOS回路のこれらの出力データは、その後、加算器6において加算される。
【0060】
従って、検出器3は、空間的に分解されていない信号/データ7が通って出力される1つのデータ出力6cのみを有する検出器として外側に現れる。」

(2)本願図面の記載事項
本願の願書に最初に添付された図面(以下単に「本願図面」という。)には次の記載がある。

ア 図1は次のとおりである













イ 本願図面の図3は次のとおりである。



(3)本願明細書・図面に基づく看取・認定事項
【0059】の「個々のピクセルの測定データの時間に関する微分およびその後の整流は、検出器3の集積CMOS回路5によって実行される」、「CMOS回路のこれらの出力データは、その後、加算器6において加算される。」との各記載、及び【0060】の「CMOS回路のこれらの出力データは、その後、加算器6において加算される」との記載は、それら自体からは判然としないが、図1、図3の記載を併せ読むと、検出器3の複数のピクセルは個々に検出器3内のCMOS回路に接続され、該回路によってピクセル毎に微分や整流の演算処理が行われ、検出器3内の加算機を介し1つの値として出力されることを意味しているようにも解される。

第3 原査定の拒絶の理由
本願発明に関する原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の国際出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:Review of Scientific Instruments Vol.75 No.11 (2004年11月) p.4 727〜4731
引用文献2:特開平02−102438号公報

第4 引用文献の記載事項1 引用文献1の記載
(1)引用文献1には、以下の事項が記載されている(空白文字は適宜削除し、改行は適宜「\」に置き換えた。)。

ア 「I. INTRODUCTION
Generally speaking, some biological essays (such as evaluation of drug action upon parasites or determination of sperm quality) require to determine degree of “activity” or motility of the involved microorganisms.
It is clear that direct observation under the microscope allows, even when as a first approximation, one to decide if a given sample exhibits more or less activity than another.」
(当審訳:「I.はじめに\一般的に言えば、いくつかの生物学的アッセイ(例えば、寄生生物に対する薬物作用の評価または精子の質の決定)は、関与する微生物の「活性」または運動性の程度を決定することを必要とする。\ 顕微鏡下での直接観察により、第1の近似として、所与の試料が別の試料よりも高いまたは低い活性を示すかどうかを決定することが可能になることは明らかである。」)(4727頁左欄1〜8行)

イ 「II. WORKING PRINCIPLE
A. Fundamentals of speckle
The measuring principle of the described apparatus relies on dynamic speckle interferometry.
A speckle diagram arises when coherent light is reflected by a rough surface (in comparison with the wavelength of light).
In this way, multiple wavelets, randomly dephased to each other, interfere at the observation plane giving rise to an (also) random granular figure.
・・・
Additionally, if light is scattered by objects showing some kind of activity, the resulting speckle pattern exhibits a temporal variation in local intensities with the visual appearance of a boiling liquid. This is called a dynamic speckle pattern and can be caused by changes in refractive index, movement of the scatterers, or optical activity, among others. Some reported applications of this phenomenon include determination of parasite motility, measuring the activity of seeds, bruising of fruits, etc.」
(当審訳:「II.動作原理\A.スペックルの原理\ 記載された装置の測定原理は、動的スペックル干渉法に依存する。スペックル図は、コヒーレント光が(光の波長と比較して)粗い表面によって反射されるときに生じる。このようにして、互いにランダムに位相をずらされた複数のウェーブレットが観察面で干渉し、(また)ランダムな粒状の形状を生じさせる。・・・加えて、光がある種の活動を示す物体によって散乱される場合、結果として生じるスペックルパターンは、沸騰している液体の視覚的外観と共に局所的強度の時間的変化を示す。これは、動的スペックルパターンと呼ばれ、とりわけ、屈折率の変化、散乱体の移動、または光学活性によって引き起こされ得る。この現象のいくつかの報告された用途には、寄生虫の運動性の決定、種子の活性の測定、果実の傷、などが含まれる。」)(4727頁右欄15〜34行)

ウ 「 B. Measurement algorithm
For determining the degree of activity of the phenomenon which gives rise to the dynamic speckle, the temporal change in the speckle patterns needs to be assessed.
To obtain a numerical value of this degree of change we used a generalized correlation algorithm based on the intensity difference between patterns.
The algorithm can be applied to any phenomenon producing dynamic speckle patterns but we will refer to that concerned with microorganism motility.
The experimental setup for this purpose is shown in Fig. 1 and consists basically of inserting the organisms which activity must be tested between a ground glass (which originates the speckle pattern) and the detection system (a CCD camera producing a gray levels image).
The coherent illumination is provided by a diode laser.
As stated above, it is necessary to quantify the temporal change in the speckle patterns.
To this end, as a first step, a short movie of the dynamic speckle pattern is acquired at video rate (usually 30 frames/s) and a set of successive frames (typically 30) are stored.
Depending on the frame grabber, the time interval between them can be chosen, but it is usually set to the normal value of τ= 1/30s.
Given both, the intensity I (gray level) reaching the CCD detector at pixel (i,j) at time t and the intensity at the same pixel at time t+τ, the required evaluation of temporal change can be obtained from


which is a modified version of a temporal correlation. N is a proper normalization factor and summation is done over the entire image.
Accordingly with this last equation, very active speckle patterns, that is speckle patterns produced by organisms moving fast (and/or by high concentrations of organisms) will produce (for a given τ) significative intensity variations and thus D(τ) will be large.
On the contrary, organisms moving slowly (and/or low concentrations of organisms) will produce small values of D(τ) (the speckle pattern remains almost the same).
The highest motility (concentration) detectable depends on the speed of the camera, but, in general, the standard rate of 30 frames/s is enough.Even when computation of Eq. (1) does not require long processing time for images as large as 512×512 pixels, imagesize can be substantially reduced without altering the final result.」(4727頁右欄下から3行目〜4728頁右欄2行)
(当審訳:「B.測定アルゴリズム\ 動的スペックルを生じさせる現象の活性度を決定するために、スペックルパターンの時間的変化を評価する必要がある。この変化度の数値を得るために、パターン間の強度差に基づく一般化相関アルゴリズムを使用した。アルゴリズムは、動的スペックルパターンを生成する任意の現象に適用することができるが、微生物の運動性に関するものを参照する。この目的のための実験装置を図2に示す。この方法は、図1に示されており、基本的に、すりガラス(スペックルパターンを発生させる)と検出システム(グレーレベル画像を生成するCCDカメラ)との間に、活性を試験しなければならない生物を挿入することからなる。コヒーレント照明は、ダイオードレーザによって提供される。\ 上述したように、スペックルパターンの時間変化を定量化する必要がある。この目的のために、第1のステップとして、動的スペックルパターンの短い動画がビデオレート(通常30フレーム/秒)で取得され、一連の連続フレーム(典型的には30)が記憶される。フレームグラバーに応じて、それらの間の時間間隔を選択することができるが、通常はτ=1/30sの通常の値に設定される。時間tにおいて画素(i,j)でCCD検出器に到達する強度I(グレーレベル)と、時間t+τにおける同じ画素での強度との両方が与えられると、時間変化の必要な評価は、




から得ることができる。これは、時間相関の修正版である。Nは適切な正規化係数であり、総和は画像全体にわたって行われる。したがって、この最後の式では、非常に活発なスペックルパターン、すなわち、速く(および/または高濃度の生物によって)移動する生物によって生成されるスペックルパターンは、(所与のτに対して)有意な強度変動を生成し、したがって、D(τ)は大きくなる。反対に、ゆっくりと移動する生物(および/または低濃度の生物)は、小さな値のD(τ)を生成する(スペックルパターンはほとんど同じままである)。検出可能な最高の運動性(濃度)は、カメラの速度に依存するが、一般に、30フレーム/秒の標準速度で十分である。式(1)の演算が512×512ピクセルの大きさの画像に対して長い処理時間を必要としなくても、画像サイズは、最終結果を変更することなく実質的に低減され得る。」)

エ 「III. CONSTRUCTION DETAILS
Figure 2(a) shows a schema of the main components of the apparatus manufactured accordingly with the experimental setup of Fig. 1, while Fig. 2 (b) is a photograph of the actual device. It consists basically of three main modules.
In the first module (the emission or illumination module), a 3 mW laser diode (LD) operating at l=670 nm provides coherent illumination.
・・・ A ground glass provides a fully developed speckle pattern. In the second module, the organisms to be tested are placed in 0.3 cm3 cylindrical wells of about 5 mm diameter. These are standard laboratory wells mounted together in a 1×8 strip.・・・Speckle grains are considered to be well resolved by the CCD array if they extend
over several pixels (10 can be considered a good guiding rule) on the detector. Figure 2(c) shows a close-up picture of this module.
The third module contains a CCD camera which detects the speckle patterns in a free space configuration (no image formation is required). The camera is placed about 25 cm away from the wells.
・・・
The final processing is carried out in a PC.」(4728頁右欄13〜50行)
(当審訳:「III.構造の詳細\図2(a)は、図1の実験構成に従って製造された装置の主要構成要素の概略図を示し、図2(b)は実際の装置の写真である。それは基本的に3つの主モジュールからなる。\第1のモジュール(発光または照明モジュール)は、λ=670nmで動作する3mWレーザダイオード(LD)がコヒーレント照明を提供する。・・・すりガラスは、完全に発達したスペックルパターンを提供する。\第2のモジュールでは、試験する生物を直径約5mmの0.3cm3の円筒形ウェルに入れる。これらは、1×8ストリップに一緒に取り付けられた標準的な実験室ウェルである。・・・スペックル粒子は、それらが検出器上のいくつかのピクセル(10個は良好な誘導ルールと考えることができる)にわたって延びる場合、CCDアレイによって十分に分解されると考えられる。図2(c)はこのモジュールの拡大図である。\第3のモジュールは、自由空間構成でスペックルパターンを検出するCCDカメラを含む(画像形成は不要である)。カメラをウェルから約25cm離して配置する。\最終処理はPCで行われる。」

オ 「IV. SOFTWARE
Handling and processing of the images needs, depending on the laboratory equipment, some tedious operations which can be also time consuming. A typical motility measurement goes through three basic steps: (1) acquisition of a movie (lasting about 1 s), (2) cutting the movie in individual frames, and (3) evaluation accordingly with Eq. (1).
・・・
The main menu has three components: (1) the Device menu, which allows to select the desired acquisition device.
・・・
(2) The Configuration menu consists of two parts.The first one is related to the analysis options. With this menu it is possible to choose the image size.
・・・
The second part of this menu gives the operator the option of recording or not the temporary data being produced during processing. ・・・As default, the numerical results for the motility are kept in a directory named after the date and time of measurement.
・・・
After all options have been selected, the Analyze button initiates the process
accordingly with the algorithm described above.
For large image sizes (512×512 pixels)and small time steps (1/30s) the whole task of acquiring the movie, cutting the images and processing them lasts about 5 s. Numerical results are ordered after appearance in a column at the right of the screen.」(4729頁左欄下から8行目〜4730頁左欄最下行)
(当審訳:「IV.ソフトウェア\ 画像の扱いと処理には、実験装置によっては、時間のかかる面倒な操作が必要である。典型的な運動性測定は、3つの基本的なステップを経る:(1)ムービーの取得(約1秒続く)、(2)個々のフレームでのムービーのカット、および(3)式(1)による評価。
・・・
メインメニューには3つのコンポーネントがある。(1)デバイスメニュー。目的の取得デバイスを選択できる。
・・・
(2)設定メニューは2つの部分で構成されている。最初の部分は分析オプションに関連しています。 このメニューでは、画像サイズを選択することができる。
・・・
このメニューの2番目の部分では、処理中に生成される一時データを記録するかどうかをオペレーターが選択できる。・・・デフォルトでは、運動性の数値結果は、測定日時にちなんで名付けられたディレクトリに保存される。・・・すべてのオプションを選択した後、[分析]ボタンで上記のアルゴリズムに従ったプロセスを開始する。\大きな画像サイズ(512×512ピクセル)と小さな時間ステップ(1/30秒)の場合、ムービーの取得、画像の切り取り、処理の全タスクは約5秒続く。数値結果は、画面右側の列に表示された後に並べられる。」)

カ 「 V. RESULTS AND DISCUSSION
We have constructed a device that, applying the principles of dynamic speckle, allows the evaluation of microorganism motility.
・・・
Among the most important applications of our device is the investigation of the effect of different drugs on microorganisms, since this directly affects their motility.
Thus, we tested the equipment by investigating the effect of drugs on L3 stage larvae of Haemonchus contortus as a function of time.
Results are shown in Fig.4 and LVM (Sigma-Aldrich, Steinheim, Germany) was used as a typical drug for controlling this type of parasite.
A concentration of 2μg m1-1 (which is a pharmacologically relevant) was used, obtained from previously reported studies. It should be noticed, that the curve in Fig.4 is normalized to the motility value just before drug action starts, irrespective of parasite concentration provided that it lies in the linear region shown in Fig. 3.」(4730頁右欄1行〜4731頁左欄最終行)
(当審訳:「V.結果および考察\本発明者らは、動的スペックルの原理を適用し、微生物の運動性の評価を可能にする装置を構築した。・・・本発明の装置の最も重要な用途の中には、微生物に対する異なる薬剤の効果の調査がある。\したがって、本発明者らは、Haemonchus contortusのL3期幼虫に対する薬物の効果を時間の関数として調査することによって、装置を試験した。\結果を図4に示す。LVM(Sigma-Aldrich,Steinheim,Germany)を、このタイプの寄生虫を制御するための典型的な薬物として使用した。前記考察から得た2μgml−1の濃度(薬理学的に関連する)を使用した。図4の曲線は、図3に示す線形領域にある場合、寄生虫の濃度に関係なく、薬物作用が開始する直前の運動性の値に正規化されていることに留意すべきである。」)

(2)図面の記載事項

ア FIG.1は次のとおりである。




イ FIG.2は次のとおりである。












ウ FIG.4は次のとおりである。













(3)看取・認定事項

ア 上記(1)エには「レーザダイオード(LD)がコヒーレント照明を提供する。・・・すりガラスは、完全に発達したスペックルパターンを提供する。」と記載され、FIG.1からは、レーザー光源から出射した光束がビームエキスパンダーにより拡幅されて拡散板を介しウェルのほぼ全体を照射することを看取できる。ここで、FIG.1の拡散板が、FIG.2及び上記エの「すりガラス」に対応することが明らかである。
また、上記エには「試験する生物を直径約5mmの0.3cm3の円筒形ウェルに入れる。」と記載されることから、FIG.1のウェルには微生物試料が入れられていることが明らかである。
また、FIG.2では、すりガラス(Ground glass)に対しウェルが1/3程度の断面幅で描かれ、FIG.1でも拡散板からの光束がウェルの全幅に指向していることから、レーザーからの照射光は微生物試料が入れられたウェルの全域を照射するものであることが理解できる。

イ (1)ウには「動的スペックルパターンの短い動画がビデオレート(通常30フレーム/秒)で取得され、一連の連続フレーム(典型的には30)が記憶される。\ フレームグラバーに応じて、それらの間の時間間隔を選択することができるが、通常はτ=1/30sの通常の値に設定される。\ 時間tにおいて画素(i,j)でCCD検出器に到達する強度I(グレーレベル)と、時間t+τにおける同じ画素での強度との両方が与えられると、時間変化の必要な評価は、」式(1)「から得ることができる。」との記載がある。ここで、式(1)は、時間tにおける時間変化の評価値(運動性の値)D(τ)を、CCDの各ピクセル(画素;座標i,j)の信号強度Iのビデオレートτの時間間隔における差の絶対値を全画素について加算し、正規化係数Nで除したものと定義するものである。また、D(τ)は各「時間tにおいて」定義されるものであるから、時間tの関数であると理解できる。

ウ FIG.4は、上記(1)カで「L3期幼虫に対する薬物の効果を時間の関数として調査することによって、装置を試験した。」「結果を図4に示す。」、「図4の曲線は・・・薬物作用が開始する直前の運動性の値に正規化されている。」と説明されることから、微生物に対し薬物を投与してからの経過時間を横軸とし、縦軸は薬物投与前の運動性の値D(τ)で正規化した値として描いた、微生物の運動性の値D(τ)の薬物投与後の経時変化をグラフ化したものである。このことから、引用文献1の装置は、画像のビデオレート間隔で、各画像につき一つ得られるスカラー量D(τ)について、その時系列を取得・出力するものであることが理解できる。このことは、上記イにおいてD(τ)が時間tの関数であると理解できるとしたことと整合する。

エ FIG.1からは、CCDに画像処理装置(Image processing unit)が接続されることが、FIG.2からはCCDにホストコンピュータが接続されることが看取でき、上記記載事項(1)エには「第3のモジュールは、自由空間構成でスペックルパターンを検出するCCDカメラを含む(画像形成は不要である)。・・・最終処理はPCで行われる。」、「CCDアレイ」との記載があることから、CCD(カメラ)はCCDアレイを備え、画像形成機能は備えず、CCDカメラのCCDアレイからの信号は、CCDカメラに接続された画像処理装置としてのPCにおいて処理される態様を少なくとも含むと理解される。

オ 上記(1)オの「処理中に生成される一時データを記録するかどうかをオペレーターが選択できる。・・・デフォルトでは、運動性の数値結果は、測定日時にちなんで名付けられたディレクトリに保存される。」における「運動性の数値結果」及び同「数値結果は、画面右側の列に表示された後に並べられる」の「数値結果」が何れも、上記(1)ウのD(τ)及び上記(1)カの「運動性の値」に対応することは、(1)オのソフトウェアが「式(1)による評価」というステップを備えることからみても明らかである。

(4)引用発明1
上記(1)〜(3)から、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる(各構成単位冒頭の「a」などは分説記号であり、以後当該構成単位につき「構成a」などという。また、各構成単位末尾の括弧内は、引用元の記載事項や看取・認定事項を示す。)。

「a ウェル中の微生物の運動性をCCDカメラで検出する方法であって、(記載事項(1)ア、ウ、エ)
b1 微生物が入れられたウェルの全体を照射するように構成された、レーザー光源から出射した光束をビームエキスパンダと拡散板とを介して拡幅し、微生物の入れられたウェルの全体に照射する照明光学系と、(看取・認定事項(3))
b2 微生物の入れられたウェルからのスペックルパターンを検出する第3のモジュールであって、(記載事項1(1)エ)
b3 前記第3のモジュールはCCDカメラを含み、該CCDカメラのCCDはいくつかのピクセル、例えば512×512のピクセルを備え、(記載事項(1)ウ、エ)
b4 CCDの各ピクセルの信号強度I(i,j)のビデオレートτの時間間隔における差を算出し、その絶対値を算出し、(看取・認定事項1(3)イ)
b5 CCDの全画素について前記I(i,j)の時間間隔τにおける差の絶対値を加算して正規化し、(看取・認定事項(3)イ)
b6 前記I(i,j)の時間間隔τにおける差の絶対値を加算して正規化した値を運動性の値D(τ)として取得し、その時系列データをディレクトリに保存する、第3のモジュールを設け、(記載事項(1)オ、看取・認定事項(3)ウ・オ)
c 前記照明光学系を用いて微生物の入れられたウェルの全体に照射し、(看取・認定事項(3))
d 運動性の値D(τ)に基づいて、微生物に対する薬物の効果を時間の関数として調査する、方法。(記載事項(1)カ)」

2 引用文献2の記載事項
原査定において引用された引用文献2(特開平2−102438号公報)には、次の記載がある。

(1)明細書の記載事項
「第2図に示されたセンサーのヘッド12は、耐圧カプセル中の光源15と、並べて配置された複数の受光器17(光アレイ)に光源15からの反射光の像を形成するレンズ系16と、受光器に連結された評価電子回路18とから成る。評価電子回路の機能を第3図を参照して記載する。
液体の表面で反射された光は受光器17によって検出される。反射された光ビームの強度は、液体における表面波によって変調される。表面波は、上記の滴下装置14によって人工的に生成されるか、あるいは経験が示すように、他の目的のために設置されたモーター又はポンプによって化学生産工場において頻繁に生ずる振動又は機械的な衝撃により発生する。経験により、完全に静かな液体表面を要求することは、逆に、化学工場において問題を発生させることが示された。それ故、検出方法の機能のために必要な表面波は、実際にすでに存在し、そして特殊な場合にのみ人工的に生成されなければならない。
受光器17に適用された走査信号は増幅され(プリアンプ19)、帯域フィルター20を経て微分要素21に送られ、そして整流される(整流器22)。回路19.20.21,22は、各受光器に割り当てられている。即ち、光電子走査信号(第2図による4つの受光器)は、別々に増幅され、濾過され、微分され、そして整流される。時間に関する微分は、こうして、表面波に帰せられる変化した光の成分のみを検出する。反対に、常に存在する一定の光は除去される。
整流された変化した光の成分は加算回路23によって合計され、そして合計値が比較器24において予め設定された閾値と比較される。比較器24は、実際の値が設定された閾値よりも低下又は超過するとき、制御信号を発する。必要とされるであろう時間遅れを調整するために、遅れ要素25が比較器24の下流に設けられる。例えば、供給管路7.8又は濾液排出口5における弁又は他の制御要素を作動させるために、遅れさせられた制御信号を、最終的に出力増幅器26によって更に増幅することができる。」(3ページ右下欄3行〜4頁右上欄2行)

(2)図面の記載事項

ア 図2は次のとおりである。














イ 図3は次のとおりである。












(3)引用文献2の看取・認定事項
上記(1)、(2)から、引用文献2には次の事(以下「引用文献2技術事項」という。)項が記載されていると認められる。

「複数の受光器(光センサ)を備えたセンサーのヘッドにおいて、個々の受光器の受光信号を、受光器に連結されたアナログの評価回路に含まれる微分要素及び整流器によって微分・整流し、次いで各受光器について前記微分・整流した信号を加算回路で加算したものを、後続の処理回路へ出力する、センサーのヘッド。」

第5 対比

1 本願発明と引用発明1との比較

(1)構成aの「微生物」、「運動性」、「CCDカメラで検出」すること、検出対象の「微生物」が「ウェル中」のものであること、はそれぞれ、構成Aの「生体試料(1)」または「生体試料(1)の成分」、「動き」、「光検出」、「インビトロ」に相当する。

(2)構成b1の「レーザー光源から出射した光束をビームエキスパンダと拡散板とを介して拡幅し、微生物の入れられたウェルのほぼ全体に照射する照明光学系」、それが「微生物が入れられたウェルの全体を照射する」ことは、それぞれ構成B1の「広視野光照明装置」、それが「前記生体試料(1)全体を照射するよう構成され」ること、に相当する。

(3)構構成b2の「微生物の入れられたウェルからのスペックルパターンを検出する第3のモジュール」は、構成B2の「前記生体試料(1)から来る放射(9、9a、9b)を検出するための検出器」に相当する。

(4)構成b3の「前記第3のモジュールはCCDカメラを含み、該CCDカメラのCCDはいくつかのピクセル、例えば512×512のピクセルを備え」ることは、構成B3の、検出器が「複数の検出領域(4a)に細分化された検出エリア(3a)を有」することに相当する。ここで、構成b3の個々の「ピクセル」は構成B3の「検出領域」に相当する。

(5)構成b4の「CCDの各ピクセルの信号強度I(i,j)」、「絶対値を算出」はそれぞれ、構成B4の「個々の検出領域(4a)の検出信号(4c)」、「整流」すること、に相当する。
また、構成b4の「CCDの各ピクセルの信号強度I(i,j)ビデオレートτの時間間隔における差」は、構成B4の「個々の検出領域(4a)の検出信号(4c)の時間に関する微分」と、検出信号の差分量に関する値である点で共通する。

(6)構成b5の「CCDの全画素」、「加算」はそれぞれ、構成B5の「全ての前記検出領域」、「合計」に相当する。

(7)構成b6の、「運動性の値D(τ)」の「時系列データをディレクトリに保存し、また、画面に表示する」ことは、構成B6の「出力信号(6c)として供給する」ことに相当する。

(8)上記(2)から、構成cの「前記照明光学系を用いて微生物の入れられたウェルの全体に照射」することは、構成Cの「前記広視野光照射装置を用いて前記生体試料(1)を照射する」ことに相当する。

(9)構成dの「運動性の値D(τ)」、「微生物に対する薬物の効果を時間の関数として調査する」こと、はそれぞれ、構成Dの「前記検出器(3)の前記出力信号(6c)」、「前記生体試料(1)における動きを検出する工程と」に相当する。

2 一致点
上記1によれば、本願発明と引用発明1とは、次の点で一致する。

「A 生体試料(1)における動きおよび/または前記生体試料(1)の成分の動きをインビトロで光検出するための方法であって、
B (a)次の構成要素
B1 (a1)前記生体試料(1)全体を照射するよう構成された、前記生体試料(1)を照射するための広視野光照射装置と、
B2 (a2)前記生体試料(1)から来る放射(9、9a、9b)を検出するための検出器であって、
B3 複数の検出領域(4a)に細分化された検出エリア(3a)を有し、また、
B4’ 個々の検出領域(4a)の検出信号(4c)の時間に関する差分に関する量を形成し(S1)その後でそれらを整流し(S2)、
B5’ 全ての前記検出領域の前記差分に関する量を整流された検出信号を合計または平均し(S3)
B6 次いでそれらを出力信号(6c)として供給する、よう構成された検出器(3)と、
を設ける工程と、
C (b)前記広視野光照射装置を用いて前記生体試料(1)を照射する工程と、
D (c)前記検出器(3)の前記出力信号(6c)に応じて前記生体試料(1)における動きを検出する工程と、
を含む方法。」

3 相違点
両発明は次の点で相違する。

(1)相違点1(構成B4)
本願発明は、「整流」の対象値である「個々の検出領域(4a)の検出信号(4c)の時間に関する差分に関する量」として「時間に関する微分」を形成するものであるのに対し、引用発明1は、整流(絶対値算出)の対象がCDの各ピクセルの信号強度I(i,j)のビデオレートτの「時間間隔における差」である点。

(2)仮の相違点2(構成B2〜B6)

ア 構成B2の「検出器(3)」について、その内部構造について特段の特定事項を伴わないことから、上記1(3)では構成b2の、CCD(カメラ)及びPCからなる「第3のモジュール」が構成B2の「検出器」に相当するとし、構成B2〜B6を、上記(1)の相違点1に関する点を除き一致する構成と認定した。

イ この点、本願明細書において、「検出器(3)」について、上記第2の1(1)、(2)の各記載がある。
(ア)該各記載のうち、【0016】、【0019】、【0060】の記載は、それぞれ引用発明1の構成b3、構成b6、構成b6が相当するものである。
(イ)一方、本願明細書【0059】、【0060】の各記載、及び図1、図3からは、上記第2の2(3)で述べた看取・認定事項のとおり、「検出器3の複数のピクセルは個々に検出器3内のCMOS回路に接続され、該回路によってピクセル毎に微分や整流の演算処理が行われ、検出器3内の加算器を介し1つの値として出力される」ような態様を意味しているとも解される。
(ウ)ただし、本願明細書には、上記イ(イ)の態様による有利な効果について特段の記載はなく、個々のピクセルとCMOSや加算器との接続関係についてのこれ以上の具体的な説明もない。
(エ)また、構成B2〜B6において「検出器(3)」の装置構成について、特定の処理回路を備えるなどの限定事項を伴うものではなく、個々の検出領域の検出信号に対し微分、整流、それらの加算または平均、の処理が順に行われることを特定するのみである。

ウ 以上からみて、仮に、本願発明が当該態様に基づいて限定解釈されるならば、次の点で引用発明1と相違する。

エ 仮の相違点2
構成B2〜B6の検出器は、構成B4、B5における微分、整流、合計(平均)なる各信号処理を、PCではなく個々の検出領域後段の、個々の処理回路によって行われる態様を伴うのに対し、引用発明の第3のモジュールは、CCDの信号をPCによって処理するものである点。

第6 判断

1 相違点1について

(1)周知技術について
上記相違点1について判断するにあたり、相違点1に係る周知技術について把握すべく、例えば、以下の周知文献を参照した。

ア 周知文献3の記載事項
本願出願日前に公知となった特開2012−149914号公報(以下「周知文献3」という。)には、次の記載がある。

「【0120】
波形演算部161は、A/Dコンバータ153によって測定電圧波形のデータに基づいた種々の波形を生成する。波形演算部161は、第1の微分演算部165、第2の微分演算部167とインピーダンス変換部166とを含む。
【0121】
第1の微分演算部165は、A/Dコンバータ153によって測定電圧波形のデータを時間微分する。なお、第1の微分演算部165に入力された測定電圧波形はデジタルデータであるので、微分は差分商で近似できる。」

イ 周知文献4の記載事項
本願出願日前に公知となった特開2015−70416号公報(以下「周知文献4」という。)には、次の記載がある。

「【0073】
次に、MPU25は、電流制御回路22の出力電圧Vbiasと光検出器の出力電圧Vを取得し(S12)、VPDを微分する(S14)。具体的には、MPU25は、APD/D変換器を内蔵しており、所定のサンプリングレートでVbiasとVPDを取得し、これらをA/D変換したデジタルデータをメモリー26に記憶し、VPDのデジタルデータの時間微分(実際には、1つ前にサンプリングしたデータとの差分)を計算する。」

ウ 周知文献5の記載事項
本願出願日前に公知となった再公表特許WO3006/051651号公報(以下「周知文献5」という。)には、次の記載がある。

「【0009】
図1は、本発明の方法を実施するモーション制御装置の構成を示すブロック図である。
図において1は位置指令Xrefを発生する指令発生器となっている。また2は、制御器を表し、位置指令と位置検出値Xfbおよび速度検出値Vfbをもとに制御演算を行い電流Iを出力する。制御器2内部の演算はどのようなものでも良いが、本実施例では、位置指令Xrefと位置検出値Xfbをもとに速度指令Vrefを出力する位置制御器7と速度指令Vrefと速度検出値Vfbをもとにトルク指令値Trefを出力する速度制御器8とトルク指令値通りに電流が流れるように制御を行う電流制御器9から構成されている。ここで、速度検出値は位置検出値を時間微分したものでも良く、デジタル制御時には、時間微分演算として、差分後制御周期で除算した近似微分を用いてもよい。3は電動機であり、4の機械は電動機3に結合されている。5は電動機3の位置および速度を検出する検出器を表す。6は同定器となっており、トルク指令Trefおよび速度検出値Vfbをもとに制御対象のイナーシャ同定値J_hatおよび粘性摩擦係数同定値D_hatおよび一定外乱同定値C_hatを算出する。」

(2)引用発明1は、構成b4として、CCDから取得間隔τで得られた時系列の信号値から、該時間間隔τの差分値を求める演算工程を備える。
引用発明1は当該演算をデジタル処理によって行うものであるが、時系列信号からデジタル処理によって時間微分を求める際には、隣接または所定の時間間隔の時系列データ間の差分または差分商(差分値を時間間隔値で除算したもの)を計算することにより行われることは、上記周知文献3〜5の記載によっても裏付けられるとおり、技術常識である。

(3)また、引用発明1の前記演算工程を含む、b4〜b6の工程について、引用文献1においては、「スペックルパターンの時間的変化を評価する」、「時間変化の必要な評価」(共に第4の1(1)ウの記載事項)と位置づけていることから、ピクセルの信号強度値の時間差分値を算出する演算の目的が、ピクセルの信号強度値の時間的変化を求めることにあるといえ、信号強度値の時間的変化とは信号強度値の時間微分と概念上軌を一にするものである。

(4)また、構成b4において、CCDの各ピクセルの信号強度I(i,j)のビデオレートτの時間間隔における差」のτによる除算工程の存非が明白でない点に注目するとしても、デジタル信号処理における時間微分の演算を、時間間隔値による除算を行わない単なる時間差分を計算することで行うことも、例えば周知文献5の記載によっても裏付けられるとおり、周知慣用の演算手法に過ぎないといえる。

(5)また、構成b4〜b6の工程において、時間間隔τはビデオレートに依拠するものであるから、運動性の値D(τ)の時系列データを取得等するにあたり一定値をとるものであり、構成b4で、「τ間隔の時間間隔における差」を時系列信号に対し算出する際に、該差の値を定数であるτで都度除算するか否かは、比例係数上の相違を生むにすぎず、そのことに数学上または物理学上の意味の相違を伴うものではないから、時間間隔値による除算の有無は、そこに相違を演算処理上の都合に応じ当業者が適宜選択すべき設計上の事項にすぎないといえる。

(6)また、上記のとおり本願明細書の【0019】には、「検出器の出力信号はアナログまたはデジタル」であると記載されているが、なんらかの事情により構成B4〜B5の「微分を形成」、することが、前記のうちアナログで行われるものに限定解釈されるとしても、光アレイセンサにおいて、センサに連結されたアナログの評価回路によってセンサ(ピクセル)毎に微分処理を行うことは、上記「引用文献2技術事項」として認定したとおり引用文献2に記載された公知技術である。
ここで、引用文献2は、「液体の表面で反射された光は受光器17によって検出される。反射された光ビームの強度は、液体における表面波によって変調される」ことを光検出器アレイによって検出するものであり、被写体からの光の変動を光センサアレイによって経時的に測定する技術である点で、引用発明1の技術と目的及び前提構成が共通する。

(7)上記(2)〜(5)のとおりであるから、引用発明1における構成b4で「CCDの各ピクセルの信号強度I(i,j)のビデオレートτの時間間隔における差を算出」していることは、技術常識に照らし、構成B4で「個々の検出領域(4a)の検出信号(4c)の時間に関する微分を形成」する手順との間に実質的差異は認められず、よって相違点1は実質的なものではない。
また、仮に、構成b4の「CCDの各ピクセルの信号強度I(i,j)のビデオレートτの時間間隔における差を算出」することが、時間間隔の定数τでの除算を伴わない点で構成B4の「微分を形成」することと相違するとしても、上記(4)のとおり、定数値での除算を行うか否かは算出値についての一定の比例係数上の相違に過ぎず、構成b4の「時間間隔における差」をτで除して微分値相当値とすることは、当業者が都合に応じ適宜選択すべき程度の設計上の事項にすぎず、やはり、実質的な相違点であるとは認められないし、そうでないとしても当業者が容易に選択し得た事項にすぎない。
さらに、上記(5)で説示したように、構成B4〜B5の「微分」、「整流」、「合計または平均」なる演算処理がアナログ回路による処理で行われるものに限定解釈されるとしても、光アレイセンサにおいて、センサに連結されたアナログの微分、整流、加算回路によって同様の処理を行うことは、上記「引用文献2技術事項」として認定したとおり、引用発明1と技術的に共通する引用文献2に記載された公知技術であるから、それを引用発明1に適用してPCを用いずにセンサに連結されたアナログ回路によって等価な処理を行うようにすることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。

(8)小括
以上のとおりであるから、相違点1は実質的なものではなく、仮に構成B4が実施例の記載に基づいて限定的に解釈されるとしても、相違点1は設計的事項の範囲内か、あるいは共通分野における公知技術の範囲内のことにすぎないから、当業者が容易に想到し得たことといえる。

2 仮の相違点2について

ア 引用文献2には、上記第4の2(3)で認定したとおりの「引用文献2技術事項」が記載されている。

イ また、そもそも、CCDの出力値の演算処理を、PC等にてデジタル的に行うか、アナログの処理回路を連結して行うかは、何れも周知であり、これらが相互に必要に応じ可換な技術であることも技術常識である。

ウ 例えば、上記イの技術常識に関し、本願出願日前に公知となった特開平6−180220号公報(以下「周知文献6」という。)には、次の記載がある。

「【0012】これに対して、図5の輝度分布を距離で微分したものが図6である。ここで、各々のコーナ部に対して正負のピークが各々1つずつ観察され、コーナ部の位置は加熱の対称性から正負のピークの位置のほぼ中間である。さらに精度良くコーナ位置を決定するためには、素材肉厚と輝度分布の微分信号との関係を求めておいて、両ピーク間のどこにコーナ部が位置するかを決定することも勿論可能である。また、実際には輝度分布のものとなる映像信号は、走査方向を素材の移動方向と直交する方向に取った場合には、距離と時間が1対1に対応することから、輝度分布を距離で微分する代わりに、映像信号の強さを時間で微分することも等価であり、本発明に包含されるものである。
【0013】溶接部近傍の輝度分布を測定する手段としては、通常の撮像管、あるいはCCDカメラを用いることができる。これらの出力信号は、通常は輝度の強弱に応じたアナログ信号であるが、これを微分するに際しては、アナログ微分回路を適用してアナログ信号のまま微分した情報を得ても良いし、アナログ信号としての輝度分布をアナログ?ディジタル変換器によってディジタル信号に変換した後に、コンピュータ等によって数値的に微分しても良く、いずれによっても精度に問題はなく、必要性に応じて選択することができる。また、アナログ信号をアナログ微分回路で微分した後の信号をアナログ?ディジタル変換してコンピュータに取り込み、必要な処理や制御をする事も勿論可能であり、目的に応じて適用することができる。」

エ そうすると、仮の相違点2が存在するとしても、引用発明1において、CCDの出力をPCでデジタル的に処理することに替えて、CCDに連結したアナログの処理回路によって行うかは、周知文献6の記載によっても裏付けられる技術常識に照らし、当業者が必要に応じて選択すべき設計上の事項に過ぎないし、引用発明1の構成b4〜b6と同様に、ピクセル毎に微分及び整流し、さらに全ピクセルの整流後の値を加算処理するという処理を行う場合に限っても、光センサアレイに連結したアナログ処理回路によってそれら処理を行うことは、を引用文献2技術事項として公知であるから、引用発明1に、上述のとおり目的及び前提構成が共通する引用文献2技術事項を適用して仮の相違点2の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

オ 以上のとおりであるから、引用発明1において、CCDの信号処理について、PCによる処理に替えて仮の相違点2の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

3 請求人の主張について

(1)請求人は審判請求書において、主として下記の主張をしている。

ア 構成b4の「CCDの各ピクセルの信号強度I(i,j)のビデオレートτの時間間隔における差」は除数がなく微分とは異なる物理量を求めるものであること。

イ 引用文献2の検出対象や手法が本願発明と相違すること。

ウ 請求項1についての補正案

(ア)請求項1、3、16、18において、出願人(請求人)は、必要であ
れば、「時間に関する微分を形成し」を、例えば、「時間に関する導関数を形成し」、「時間に関する微分係数を形成し」と補正すること。

(イ)請求項1および16に従属請求項14の「前記検出器の前記検出エリアの直径が9mm以下である」点(この場合、細分化された「検出領域」は径約4.5mm以下となる)を追加すること。

(ウ)請求項1および16に「前記広視野光照射装置がコヒーレント光を生成する」点を追加すること。

(2)請求人の上記各主張について

ア 上記(1)アについては上記第6の1で説示したとおりである。

イ 上記(1)イについては、相違点2の存在自体が本願発明の限定解釈を前提とするものであることを含め、上記第6の2、及び同1の一部において説示したとおりである。

ウ 上記(1)ウ(ア)の補正案については、上記第6の1で説示したとおり、構成b4の「CCDの各ピクセルの信号強度I(i,j)のビデオレートτの時間間隔における差」がデジタル処理における微分演算に該当することから、当該補正案によっても判断は変わらない。

エ 上記(1)ウ(イ)の補正案については、引用文献1にも上記第4の1(1)エで抜記したとおり、ウェル径を5mmとする旨の記載があり、数値範囲に差異があるとしても設計事項の範囲のものであり、格別な相違点を新たに形成するとはいえない。

オ 上記(1)ウ(ウ)の補正案については、引用発明1も構成b1として「レーザー光源から出射した光束をビームエキスパンダと拡散板とを介して拡幅し、微生物の入れられたウェルの全体に照射する」(第4の1(1)エ)構成を備えており、レーザー光源からのコヒーレント光は、「すりガラスは、完全に発達したスペックルパターンを提供する。」と記載されるとおり、ビームエキスパンダや拡散板を介しても、干渉性が残存、即ちコヒーレント性を完全には失っていないと解されるから、当該補正案によっても、新たな相違点が形成されるとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1ならびに引用文献2技術事項、周知技術、及び技術常識に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 三崎 仁
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-08-02 
結審通知日 2021-08-04 
審決日 2021-08-23 
出願番号 P2018-521545
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 樋口 宗彦
▲高▼見 重雄
発明の名称 生体試料における動きを光検出するための方法および装置  
代理人 川上 光治  
代理人 川本 学  

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