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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1381564
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-04-30 
確定日 2022-01-06 
事件の表示 特願2017− 25014「光学フィルム、これを用いた偏光板及びディスプレイ部材」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月23日出願公開、特開2018−132592〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2017−25014号(以下「本件出願」という。)は、平成29年2月14日を出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和2年10月22日付け:拒絶理由通知書
令和2年12月25日提出:意見書
令和2年12月25日提出:手続補正書
令和3年 1月27日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和3年 4月30日提出:審判請求書
令和3年 4月30日付け:手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年 4月30日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の(令和2年12月25日にした手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「 【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートからなる透明基材の少なくとも一方面に、プライマー層と、活性エネルギー線硬化樹脂からなる光学機能層とを設けた光学フィルムにおいて、
前記透明基材の面内リタデーションが600nm以下、かつ、厚み方向リタデーションが3000〜8000nmであり、
前記透明基材の厚みが12〜40μmであり、
前記光学機能層の厚みが1〜20μmであり、
前記光学機能層の屈折率Bが、1.46〜1.56であり、
前記プライマー層の厚みが60〜120nmであり、
前記透明基材の屈折率をAとし、前記光学機能層の屈折率をBとしたとき、前記プライマー層の屈折率が、{(A+B)/2−0.02}〜{(A+B)/2+0.02}の範囲内であることを特徴とする、光学フィルム。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
なお、下線は補正箇所を示す。
「【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートからなる透明基材の少なくとも一方面に、プライマー層と、活性エネルギー線硬化樹脂からなる光学機能層とを設けた光学フィルムにおいて、
前記透明基材の面内リタデーションが600nm以下、かつ、厚み方向リタデーションが3000〜8000nmであり、
前記透明基材の厚みが12〜40μmであり、
前記光学機能層の厚みが1〜20μmであり、
前記光学機能層の屈折率Bが、1.46〜1.56であり、
前記プライマー層の厚みが60〜120nmであり、
前記透明基材の屈折率をAとし、前記光学機能層の屈折率をBとしたとき、前記プライマー層の屈折率が、1.53〜1.62(ただし、1.59を除く)の範囲内であり、かつ、{(A+B)/2−0.02}〜{(A+B)/2+0.02}の範囲内であることを特徴とする、光学フィルム。」

(3)本件補正の内容
本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「プライマー層の屈折率」について、「1.53〜1.62(ただし、1.59を除く)の範囲内であり」とさらに限定して、本件補正後の請求項1に係る発明とすることを含む。
本件補正は、本件出願の最初に添付された明細書の【0023】の「プライマー層3の屈折率を1.53〜1.62の範囲内とすることができる」という記載に基づいて、「1.53〜1.62」という範囲を記載すると共に当該範囲から原査定の拒絶の理由で引用した特開2004−345333号公報に記載される発明との重なり部分(プライマー層の屈折率が1.59であるもの)を除外するものであって、それによって新たな技術的事項を導入するものではない。そして、本件補正前の請求項1に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は、同一である(本件出願の明細書の【0001】、【0006】〜【0008】)。
そうしてみると、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に適合するものであり、また、同条5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものといえる。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が、同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

2 独立特許要件についての判断
(1)引用文献及び引用発明等
ア 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1(特開2011−112928号公報)は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。

なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す(以下、同様である。)。

(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示セルの視認側に偏光板が配置された画像表示装置に関する。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ポリエステルフィルムのように機械特性や耐薬品性、水分遮断性に優れたフィルムを偏光子保護フィルムとして用いた場合においても、虹ムラの発生が抑制された画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、発生した虹ムラを解消することよりも、むしろ虹ムラの発生自体を抑制することに着目し、虹ムラの発生原理に関して考察を重ねた結果、所定の光学特性を有するフィルムを偏光子保護フィルムとして用いた偏光板を画像表示セルの視認側に配置することによって、機械特性や耐薬品性、水分遮断性といったフィルムの特性を失うことなく、虹ムラの発生が抑制されることを見出し、本発明に至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明は、画像表示セルと、画像表示セルの視認側に配置された第1の偏光板とを少なくとも備え、前記第1の偏光板が、偏光子の視認側主面に第1の保護フィルムを備える画像表示装置に関する。
本発明の画像表示装置において、前記第1の保護フィルムは、下記(i)〜(iii)
の条件を満たす。
(i) 0nm≦Re1≦3000nm
(ii) Nz1≧ 7
(iii)Rth1>2500nm
( ただし、Re1、Rth1、Nz1は、第1の保護フィルムの厚みをd1、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率をnx1、面内の進相軸方向の屈折率をny1、厚み方向の屈折率をnz1とした場合に、それぞれ、Re1=(nx1−ny1)×d1、Rth1=(nx1−nz1)×d1、Nz1=Rth1/Re1、で定義される値である。)
【0012】
本発明の画像表示装置においては、第1の保護フィルムは芳香族ポリエステルを主成分とするものであることが好ましく、中でもポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートを主成分とするものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の画像表示装置によれば、偏光子保護フィルムとして、前記所定の光学特性を有する偏光板を用いているため、虹ムラの発生が抑制され、視認性を向上することができる。」

(イ)「【0015】
[画像表示装置の概略構成]
図1Aに、本発明の一実施形態による画像表示装置の概略断面図を示す。画像表示装置100は、画像表示パネル50を有し、画像表示パネル50は、画像表示セル5 の視認側に第1の偏光板10を備える。画像表示セル5としては、液晶セルや有機ELセルが用いられる。
・・・中略・・・
【0019】
[第1の偏光板]
第1の偏光板10は、画像表示セル5の視認側の偏光板である。第1の偏光板10は、図2Aに示すように、偏光子11の一方主面に第1の保護フィルム12を備えている。本発明の画像表示装置においては、この第1の保護フィルム12が偏光子11の視認側となるように、第1の偏光板が配置される。また、一般には図2Bに示すように、偏光板10は、偏光子11の第1の保護フィルムが備えられる側と反対側の主面、すなわち偏光子11の画像表示セル5側の面に第2の保護フィルム13を備えているが、本発明においてはかかる第2の保護フィルムを省略することもできる。
【0020】
[偏光子]
偏光子11は、自然光や偏光から任意の偏光に変換し得るフィルムである。偏光子としては、任意の適切なものが採用され得るが、自然光又は偏光を直線偏光に変換するものが好ましく用いられる。このような偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。また、米国特許5,523,863号等に開示されている二色性物質と液晶性化合物とを含む液晶性組成物を一定方向に配向させたゲスト・ホストタイプのO型偏光子、米国特許6,049,428号等に開示されているリオトロピック液晶を一定方向に配向させたE型偏光子等も用いることができる。
【0021】
このような偏光子の中でも、高い偏光度を有するという観点、並びに偏光子保護フィルムとの接着性の観点から、ヨウ素を含有するポリビニルアルコール系フィルムによる偏光子が好適に用いられる。
【0022】
[第1の保護フィルム]
(材料)
本発明の画像表示装置において、偏光子11の視認側に備えられた第1の保護フィルム12は、機械特性に優れるものが用いられる。このように機械特性に優れるフィルムとしては、例えば(半)結晶性の材料を主成分とするものが好適である。その代表的なものとしてはポリエステルを主成分とするものが好ましい。ポリエステルは加熱等によって結晶化を進行させることによって結晶化度が上昇し、これによって機械強度や寸法安定性、耐熱性を高めることができる。そのため、これを偏光子保護フィルムとして用いることによって、偏光板の機械強度や加熱耐久性を高めることができる。また、ポリエステルは、従来より偏光子保護フィルムとして広く用いられているトリアセチルセルロース(TAC)に比して高いガスバリア性を有し、特に水蒸気透過率が小さいために、偏光子保護フィルムとして用いることによって、偏光板の加湿耐久性を高めることができる。
【0023】
前記ポリエステルとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルスルホンカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、3,3−ジエチルコハク酸、グルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカジカルボン酸等のジカルボン酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、デカメチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等のジオールを、それぞれ1種を重縮合してなるホモポリマー、又はジカルボン酸1種以上とジオール2種以上を重縮合してなる共重合体、あるいはジカルボン酸2種以上と1種以上のジオールを重縮合してなる共重合体、及びこれらのホモポリマーや共重合体を2種以上ブレンドしてなるブレンド樹脂のいずれかのポリエステル樹脂を挙げることができる。中でも、ポリエステルが結晶性を示す観点から、芳香族ポリエステルが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、あるいはポリエチレンナフタレート(PEN)が特に好ましく用いられる。
・・・中略・・・
【0026】
(位相差特性)
第1の保護フィルムは、その厚みをd1、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率をnx1、面内の進相軸方向の屈折率をny1、厚み方向の屈折率をnz1とした場合に、それぞれ、 Re1=(nx1−ny1)×d1、Rth1=(nx1−nz1)×d1、Nz1=Rth1/Re1で定義される正面レターデーションRe1、厚み方向レターデーションRth1およびNz1が、下記(i)〜(iii)の条件を満たすことを特徴とする。
(i) 0nm≦Re1≦3000nm
(ii) Nz1≧7
(iii)Rth1>2500nm
【0027】
本発明の画像表示装置は、視認側偏光板である第1の偏光板10の視認側の保護フィルム12として、結晶性ポリエステルフィルムのように高い複屈折を有するものを用いた場合でも、上記位相差特性を有することによって虹ムラの発生が抑制されるとの特徴を有している。従来よりポリエステルフィルムは機械強度等に優れるとの利点に加えて、比較的安価であることから、偏光子保護フィルムへの適用が提案されてはいたものの、高い複屈折による虹ムラの影響により、その使用が制限されていたが、本発明はポリエステルフィルムの光学特性を所定範囲とすることで、上記ポリエステルフィルムの利点を失うことなく、虹ムラを抑制し得るとの新たな知見に基づくものである。
【0028】
上記(i)に示したように、第1の保護フィルムの正面レターデーションRe1は3000nm以下である。正面レターデーションが高くなると、虹ムラの発生が顕著となる傾向があるため、Re1は小さい方が好ましい。具体的にはRe1は2000nm以下であることが好ましく、1000nm以下であることが好ましく、450nm以下であることがさらに好ましく、400nm以下であることが特に好ましく、350nm以下であることが最も好ましい。正面レターデーションをさらに小さな値とすることで虹ムラは抑制される傾向にあるため、Re1の下限値は特に制限されない。一方で、芳香族ポリエステルのように固有複屈折の大きい材料を主成分とするフィルムの正面レターデーションを小さく制御するためには、延伸倍率を低く抑えたり、フィルムの厚みを小さくする必要があるため、フィルムの機械強度を高めることが困難となる傾向がある。また、高度に延伸工程を制御することによって正面レターデーションの発生を抑制することも不可能ではないが、ポリエステルフィルムが高価となる傾向がある。かかる観点から、フィルムの生産性等を考慮した場合、Re1は10nm以上であることが一般的であり、30nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。
【0029】
上記(ii)に示したように、第1の保護フィルムのNz1、すなわち、正面レターデーションRe1に対する厚み方向レターデーションRth1の比は7以上である。Nzが大きいほど虹ムラが抑制される傾向があることから、Nz1は大きいことが好ましく、具体的には10以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。なお、Nzの値は上記正面レターデーションRe1とRth1の値により一義的に定まるものであるが、その上限は理論的には、無限大であり(Re1=0の場合)、実現可能な範囲において上限値は特に制限されない。
【0030】
上記(iii)に示したように、第1の保護フィルムの厚み方向レターデーションRth1は2500nmより大きい。厚み方向レターデーションを正面レターデーションに比してより大きな値とすることで前述のNz1が大きくなるため、虹ムラが抑制される傾向にある。また、厚み方向レターデーションが大きいことは、フィルムの面内における分子の配向度が高いことと相関しており、ポリエステルフィルムにおいては、分子配向が高まることによって結晶化が促進される傾向がある。そのため、フィルムの機械強度や寸法安定性の観点からも、Rth1は高いことが好ましい。Rth1は4000nm以上であることが好ましく、5000nm以上であることが好ましく、6000nm以上であることがさらに好ましく、7000nm以上であることが特に好ましく、8000nm以上であることが最も好ましい。一方、それ以上にRth1を高めるためには、フィルム厚みを大きくする必要があるため、フィルム厚みが増してコストが増大したり、偏光板や画像表示装置の厚みが増大する傾向がある。かかる観点からは、Rth1は16000nm以下であることが好ましく、15000nm以下であることがより好ましく、14000nm以下であることがさらに好ましい。
【0031】
(厚み)
第1の保護フィルムは、前記(i)〜(iii)の位相差特性を有していれば、厚みは特に限定されないが、厚みが、10〜200μmであることが好ましく、15〜150μmであることがより好ましく、20〜100μmであることがさらに好ましい。フィルムの厚みが過度に小さいと、フィルムの機械特性が不足したり、フィルムのハンドリング性に劣る等、偏光子保護フィルムとしての機能が不十分となる場合がある。また、フィルムの厚みが過度に大きいと、正面レターデーションを小さく抑制することが困難となったり、コストが増大する傾向がある。
【0032】
(その他の特性)
厚み方向レターデーションRth1は、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率nx1とフィルム厚み方向の屈折率nz1との差、すなわち厚み方向複屈折(nx1−nz1)と、厚みd1との積で表されるが、厚み方向複屈折(nx1−nz1)は分子のフィルム面内の配向度と相関している。すなわち、(nx1−nz1)が大きいほど、分子の面内配向度が高く、結晶化も促進されるためにフィルム強度が高くなる傾向があり、逆に(nx1−nz1)が小さいと、フィルム強度が小さくなる傾向がある。画像表示装置における虹ムラの発生を抑制しつつ、第1の保護フィルムに偏光子保護フィルムとして実用し得る機械強度を付与し、さらに、フィルム厚みを小さくして、コストや画像表示装置の厚みが増すことを抑制する観点からは、(nx1−nz1)は大きいことが好ましい。(nx1−nz1)は、0.04以上であることがより好ましく、0.06以上であることがさらに好ましい。また、(nx1−nz1)は固有複屈折の値を超えることはできないため、その上限は自ずと定まるが、例えばポリエチレンテレフタレートでは一般に0.25以下であり、0.20以下であることが好ましい。
【0033】
第1の保護フィルムのヘイズは、25%未満であることが好ましく、10%未満であることがより好ましく、5%未満であることがさらに好ましい。視認側に配置される第1の保護フィルムのヘイズが過度に高いと、画像表示セルからの出射光の後方散乱が多くなるため、画像表示装置の輝度が低下する傾向がある。一方、第1の保護フィルムのヘイズ率を上記範囲とすることで、後方散乱による光のロスが抑制され、画像表示装置の輝度を高く保つことが可能となる。また、第1の保護フィルムは、偏光子との接着性を向上するための易接着層を設けたものや、偏光子と接着しない側、すなわち視認側となる面に反射防止、アンチグレア、ハードコート等の各種表面処理を施したものや、表面処理層を設けたものを用いてもよい。
【0034】
[虹ムラの解消原理]
第1の保護フィルムが上記光学特性を有することによって画像表示装置の虹ムラの発生が抑制されることに関して、その推定原理に基づいて以下に説明する。
【0035】
<虹ムラの発生原理>
図3A〜Dは、偏光状態を模式的に表す図であり、図3Aは自然光、図3Bは紙面内に振動面を有する偏光、図3Cは紙面と直交する面内に振動面を有する偏光、図3Dは楕円偏光を表している。
【0036】
図4は、紙面を入射面として、画像表示セル5から所定の偏光状態で出射した光が、紙面方向に透過軸を有し、紙面直交方向に吸収軸を有する偏光子11により吸収されて、紙面内に振動方向を有する直線偏光として偏光子から射出され、第1の保護フィルム12を伝播して視認側に射出され様子を模式的に表している。なお、偏光子11から第1の保護フィルム12に光が入射する際にも、その界面での反射が生じるが、当該界面における反射光については図示していない。
【0037】
また、図4および後述する図5A、図5B、図6、図7Aおよび図7Bにおいては、伝播光や反射光として、一つの偏光成分を有するものを図示しているが、これは本願発明の原理を模式的に説明するための概念図であり、実際の光が単一の偏光成分のみを有することを意味するものではない。
【0038】
第1の保護フィルム12の正面レターデーションRe1が略ゼロである場合、あるいは第1の保護フィルムの遅相軸方向と直線偏光r1の偏光方向(すなわち偏光子11の透過軸方向)とが平行または直交である場合、偏光子11から射出されて第1の保護フィルムのフィルム面法線方向(すなわち画像表示装置の画面正面方向)に伝播するp偏光成分のみを有する直線偏光r1は、第1の保護フィルムを伝播する間も複屈折の影響を受けず、直線偏光r3として第1の保護フィルムの視認側界面に到達する。」

(ウ)「【0057】
<虹ムラの解消原理>
このような現色偏光による呈色を抑制する観点からは、第1の保護フィルム12として複屈折の小さい材料を用いて、第1の保護フィルムの複屈折によって偏光状態が変化することを抑制することが考えられる。その一方で、ポリエステルフィルムにおいては複屈折が小さい無延伸の状態ではフィルムの機械強度が十分ではなく、ポリエステルの材料特性が発揮されないという問題がある。そのため、ポリエステルフィルムの特性を発揮させるためには、延伸が不可欠であり、偏光子保護フィルムとして機能し得る厚みおよび機械強度を有するように作製したポリエステルフィルムにおいて、全視角における見かけ上のレターデーションを350nmより小さくすることは実質的に不可能であるといえる。
【0058】
本発明は、かかる虹ムラの発生原理に鑑み、上記(i)のように第1の保護フィルムの正面レターデーションRe1を小さくすることで、(ii)のようにNz1の値を大きくすれば、(iii)のように厚み方向レターデーションRth1が大きい場合でも現色偏光による虹ムラの発生が抑制できることを見出したことに基づくものである。
【0059】
正面レターデーションが略ゼロであり、ある程度(例えば100nm程度以上)の厚み方向レターデーションを有しているフィルムは一般に「Cプレート」と称されるが、このようなCプレートに対して斜め方向に光を入射させた場合、その見かけ上の遅相軸方向は、視角方向に対して方位角90°の角度をなすことが知られている。視角に対して方位角90°の方向はs偏光の振動方向に等しいことから、Cプレートを透過する光に対しては、見かけ上の遅相軸方向はs偏光の振動面に包含される。それと同様にCプレートの見かけ上の進相軸方向は、p偏光の振動面に包含される。
【0060】
そのため、第1の保護フィルムがCプレートであれば、図5Bに模式的に示す光r13B、r13G、およびr13R、ならびに図7Bに模式的に示す光r62B、r63B、r62G、r63G、およびr62R、およびr63Rのように、第1の保護フィルム12を伝播する光は複屈折の影響を受けず、偏光状態が実質的に変換されない。そのため、厚み方向レターデーションRth1が大きな値であっても現色偏光による呈色を生じず、虹ムラが発生しないこととなる。
【0061】
かかる観点から、虹ムラを抑制するためには、第1の保護フィルムの正面レターデーションRe1は小さい方が好ましいことが理解される。一方、前述のごとく、虹ムラの発生が大きな問題となるのは視角θ2が大きい場合であるから、このような範囲において、第1の保護フィルムの見かけ上の遅相軸方向が上記Cプレートと略同等の挙動を示せば、虹ムラは抑制される。このように、視角θ2が大きい場合において見かけ上の遅相軸方向がCプレートと略同等の挙動を示すとの観点から、Nz1は大きいことが好ましい。
【0062】
また、前述のごとく、視角θ2が小さい正面方向付近においては、現色偏光による虹ムラの発生は、視角θ2の大きい領域に比して顕著ではない。一方、大画面テレビやインフォメーションディスプレイ等の大型の画像表示装置では、画面を斜め方向、すなわち視角θ2の大きい領域から視認する機会が多くなる。視角θ2が大きいと、反射率が高くなるため、図7Aに示すような外光反射偏光の影響も強くなる。本発明においては、第1の保護フィルムがある程度の正面レターデーションRe1を有している場合でも、Nz1が例えば7以上と大きいために、視角θ2の大きい範囲では第1の保護フィルムの見かけ上の遅相軸方向はCプレートと略同等の挙動を示す。そのため、Re1、Rth1およびNz1が所範囲内であれば、図5Bおよび図7Bに模式的に示す原理によって、虹ムラは視認されない。そして、このような許容し得る位相差の範囲を表したのが上記(i)、および(iii)の条件である。なお、このような範囲において、虹ムラの発生が抑制されることは、後の実施例において明らかにされる。」

(エ)「【0084】
[実施例1]
(ポリエステルフィルムの作成)
厚み200μmの無延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(非晶性)を製造時の機械方向に延伸比2.8倍に自由端一軸延伸(縦延伸)した後、テンター延伸機により幅方向に延伸比2.9倍に固定端一軸延伸(横延伸)し、結晶性ポリエステルフィルムを作成した。このポリエステルフィルムを「保護フィルムA」とする。
【0085】
(ポリエステルフィルムへの易接着層の付設)
上記保護フィルムAの表面をコロナ処理した後、ポリエステル系水分散ウレタン接着剤(第一工業製薬製 商品名「スーパーフレックスSF210」)を、メッシュ#200のグラビアロールを備える塗布試験機を用いて塗布し、150℃で1分乾燥して、該フィルム上に厚み0.3μmの易接着層を付設した。
【0086】
(偏光子の作成)
平均重合度2700、厚み75μmのポリビニルアルコールフィルムを周速の異なるロール間で染色しながら延伸搬送した。まず、30℃の水浴中に1分間浸漬させてポリビニルアルコールフィルムを膨潤させつつ搬送方向に1.2倍に延伸した後、30℃のヨウ化カリウム濃度0.03重量%、ヨウ素濃度0.3重量%の水溶液中で1分間浸漬することで、染色しながら、搬送方向に、全く延伸していないフィルム(原長)を基準として3倍に延伸した。次に、60℃のホウ酸濃度4重量%、ヨウ化カリウム濃度5重量%の水溶液中に30秒間浸漬しながら、搬送方向に、原長基準で6倍に延伸した。次に、得られた延伸フィルムを70℃で2分間乾燥することで偏光子を得た。なお、偏光子の厚みは30μm、水分率は14.3重量%であった。
【0087】
(接着剤の調製)
アセトアセチル基を有するポリビニルアルコール系樹脂(平均重合度1200、ケン化度98.5%モル%、アセトアセチル基変性度5モル%)100重量部に対して、メチロールメラミン50重量部を30℃の温度条件下で純水に溶解し、固形分濃度3.7重量%の水溶液を調製した。この水溶液100重量部に対して、正電荷を有するアルミナコロイド(平均粒子径15nm)を固形分濃度10重量%で含有する水溶液18重量部を加えて金属コロイド含有接着剤水溶液を調製した。接着剤溶液の粘度は9.6mPa・sであり、pHは4〜4.5の範囲であり、アルミナコロイドの配合量は、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して74重量部であった。なお、アルミナコロイドの平均粒子径は、粒度分布計(日機装製 製品名「ナノトラックUAP150」)により、動的光散乱法(光相関法)により測定したものである。
【0088】
(偏光板の作成)
前記偏光子の一方主面に、前記易接着層を付設した保護フィルムAを、偏光子の他方主面に、光学補償層兼偏光子保護フィルムとして、セルロース系樹脂からなる位相差フィルム(富士フィルム製 商品名「WVBZ」)を、それぞれ、乾燥後の接着剤層厚みが80nmとなるように前記接着剤を塗布して、ロール機を用いて貼り合わせ、70℃で6分間乾燥させて偏光板を作成した。なお、保護フィルムAと偏光子の貼り合わせは、保護フィルムAの易接着層形成面と偏光子が対向するようにおこなった。このようにして得られた光学補償層付きの偏光板を「偏光板A」とする。
・・・中略・・・
【0093】
[実施例2〜5、比較例1〜6]
(ポリエステルフィルムの作成)
前記実施例1のポリエステルフィルムの作製において、縦延伸および横延伸の倍率を表1に示すように変更して、それぞれの位相差特性が異なる結晶性ポリエステルフィルムを作成した。これらのポリエステルフィルムをそれぞれ「保護フィルムB〜J」とする。また、前記実施例1のポリエステルフィルムの作製における延伸前のポリエチレンテレフタレートフィルム(非晶性)を「保護フィルムK」とする。
【0094】
(偏光板の作製)
前記実施例1において、保護フィルムAを用いる代わりに、それぞれ保護フィルムB〜Kを用いた以外は実施例1と同様に、ポリエステルフィルムに易接着層を付設し、これを用いて偏光板の作成を行った。得られた偏光板をそれぞれ「偏光板B〜K」とする。
【0095】
(液晶パネルの形成)
前記比較例1において、偏光板Aを用いる代わりに、それぞれ偏光板B〜Kを用いた以外は実施例1と同様にして、液晶セルの視認側主面にそれぞれ偏光板B〜K、光源側主面に偏光板Xが配置された液晶パネルを得た。
【0096】
(液晶表示装置の作製)
上記のそれぞれの液晶パネルを、元の液晶表示装置に組込み、液晶表示装置の光源を点灯させて30分後に目視にて虹ムラの発生有無を評価した。
【0097】
上記実施例および比較例の液晶表示装置における虹ムラの評価結果を、各保護フィルムの位相差特性とともに表1に一覧として示す。また、実施例1および比較例1の液晶表示装置を斜め方向(視認側偏光板の吸収軸方向に対して方位角15°、極角60°付近の方向)から見た場合の表示状態(写真)を、それぞれ図8および図9に示す。
【0098】

【0099】
比較例1の液晶表示装置(図8)は、画面を斜め方向からみた場合に、虹状の着色が見られる(写真の上側から下側にかけて、画面が赤みががった部分と緑みがかった部分が交互に現れている)のに対して、実施例においては、そのような着色が見られず、均一な表示が得られていることがわかる。
【0100】
また、表1から明らかなように、第1の保護フィルムの正面レターデーション、厚み方向レターデーション、およびNzが所定の範囲内である実施例の液晶表示装置においては、比較例1〜5の液晶表示装置に比して虹ムラが抑制されている。実施例の中でも、第1の保護フィルムのNzが大きいほど、虹ムラの発生が抑制されていることがわかる。一方、無延伸のポリエステルフィルム(保護フィルムK)を用いた比較例6では、虹ムラは抑制される傾向にあるものの、厚み方向レターデーションが小さく、保護フィルムの機械強度および耐薬品性に劣るものであった。」

イ 引用発明
引用文献1の【0084】に記載される「保護フィルムA」は、「偏光板A」を構成する、無延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを延伸して作成された「保護フィルム」である(同文献【0088】を参照。)。同文献の【表1】を参照すると、「偏光板A」に用いられる保護フィルム(第1の保護フィルム)の「Re」の値は「500」nmであり、「Rth」の値が「6800」nmであることが見て取れる(当合議体注:同文献の【0026】等に記載に鑑みて、単位がnmであることは明らかである。)。
また、当該「Re」、「Rth」は、同文献【0026】に記載される定義式からみて、それぞれ、「面内リタデーション」、「厚み方向リタデーション」を意味すると解される(当合議体注:引用文献1には、「面内リタデーション」、「厚み方向リタデーション」でなく「正面レターデーション」、「厚み方向レターデーション」と記載されているが、この差異は表記の揺れにすぎない。また、同文献【0026】等に記載される「Re1」、「Rth1」の「1」は、それぞれ、表1中の「Re」、「Rth」と同じものを指すと解される。)。
また、引用文献1の【0026】〜【0027】及び【0100】を参照すると、「保護フィルムA」は、面内リタデーション、厚み方向リタデーションを上記値としたことによって虹ムラの発生が抑制されたものであると理解できる。
以上勘案すると、引用文献1には、実施例1の「偏光板A」を構成する、ポリエステルフィルムとして、次の「保護フィルム」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、「第1の保護フィルム」及び「保護フィルムA」は、用語を後者に統一した。

「偏光板Aを構成する保護フィルムAであって、
厚み200μmの無延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(非晶性)を製造時の機械方向に延伸比2.8倍に自由端一軸延伸(縦延伸)した後、テンター延伸機により幅方向に延伸比2.9倍に固定端一軸延伸(横延伸)して作成される結晶性ポリエステルフィルムであり、
面内リタデーションが500nmであり、厚み方向リタデーションが6800nmであり、
面内リタデーション、厚み方向リタデーションを上記の値としたことによって液晶表示装置における虹ムラの発生が抑制された保護フィルムA。」

ウ 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由において引用された本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2004−345333号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、干渉斑を防止し、視認性を向上させたプラスチックフイルムに関する。特に、三波長蛍光灯下でも干渉斑がほとんど見えないハードコートフイルム、粘着剤層付きプラスチックフイルム、さらにはこれらのプラスチックフイルムの中間製造物であるプライマー層付きプラスチックフイルム、及び機能性層を積層した機能性プラスチックフイルムに関する。
本発明は、また、本発明のプラスチックフイルムを備えた画像表示装置にも関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、透明プラスチック基材はプラスチック製品、LCDなどのプラスチック表面ディスプレイ、携帯電話や携帯ゲームの表示板、タッチパネル等に貼合し耐擦傷性の付与、ガラス製品やCRT、PDPなどのガラス製ディスプレイ表面の飛散防止、反射防止、防汚性等の機能付与のためのハードコートフイルムや反射防止フイルム等の基材として需要が伸びている。
なかでも、ポリエステル樹脂系フイルム、特にポリエチレンテレフタレート(PET)の二軸延伸フイルムは、優れた機械的性質、耐燃性または耐薬品性等を有するため上記の機能性フイルムの基材フイルムとして、需要の伸びは著しい。
【0003】
これらの透明プラスチック基材を用いて機能性プラスチックフイルムを形成する場合、多くは基材上に直接または薄膜の易接着層等を介して有機化合物樹脂からなる数μmから50μm程度の機能性層、例えば、ハードコート層などの硬化層が形成される。PETフイルムの屈折率(面方向)は約1.65に対し、例えばアクリル樹脂等の有機化合物で形成されるハードコート層の屈折率は通常1.53を中心に1.50〜1.56であり、0.10以上の屈折率差がある。このため、基材がPETの機能性フイルムは、▲1▼界面での反射率が高い、▲2▼界面での反射光と表面での反射光との光の干渉で干渉斑が発生する、▲3▼PET表裏面の反射光の干渉で干渉斑が発生する、と言う問題を有し、この▲1▼▲2▼▲3▼の3つの問題から、貼合した画像表示装置などの物品の視認性を悪化させたり、高級感を損なわせたりする。」

イ 「【0013】
【発明が解決しようとする課題】
上記の状況を鑑み、本発明の目的は、基材上にハードコート層や粘着剤層などの機能性層を設けたプラスチックフイルムにおいて、干渉斑を抑制したプラスチックフイルムを提供することにある。特に、干渉斑が低減された、ハードコートフイルム、低ヘイズの粘着剤層付きプラスチックフイルム、及び機能性プラスチックフイルムの基材として適したプライマー層付きプラスチックフイルムを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記プラスチックフイルムを基材とし、各種機能性を有した機能性プラスチックフイルム、特に反射率の低い反射防止フイルムを提供することにあり、さらに該プラスチックフイルムを備えた画像表示装置を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討の結果、透明プラスチック基材上の物性を適性化することにより、機械的強度の低下やヘイズ上昇等の性能上の大きな問題を招くことなく、干渉斑をなくすことができることを見出した。
【0015】
具体的には、下記の手段により上記課題を達成できることを見出した。
・・・中略・・・
【0016】
2.上記1に記載の平均反射率が0.01%以下であることを特徴とする上記1に記載のプラスチックフイルム。
3.上記1に記載の平均反射率が0.005%以下であることを特徴とする上記1に記載のプラスチックフイルム。
【0017】
4.透明プラスチック基材の少なくとも片面にプライマー層及び機能性層をこの順に積層してなり、透明プラスチック基材の屈折率nS及び機能性層の屈折率nHが数式(1):0.03≦|nS−nH|
を満足し、かつ
プライマー層が下記数式(2)及び数式(3)を満足する屈折率nP及び膜厚dPを有すること特徴とするプラスチックフイルム。
数式(2)
【0018】

【0019】
数式(3)dP=(2N−1)×λ/(4nP)ただし、λは可視光の波長で450nm〜650nmの範囲のいずれかの値、Nは自然数。」

ウ 「【0035】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のプラスチックフイルムは、特に可視域に特定の波長の輝線成分を含む光源、例えば蛍光灯下で観察されやすい干渉斑を抑えたプラスチックフイルムである。具体的にはハードコート層を有するハードコートフイルム、粘着剤層を有する粘着剤層付きプラスチックフイルム、及び該フイルムに至る中間製造物であるプライマー層付きプラスチックフイルムであり、該フイルムに機能性層を設けた機能性プラスチックフイルム、さらに反射防止層を設けた反射防止フイルムも本発明の干渉斑を抑えたプラスチックフイルムに相当する。
【0036】
本発明で取り上げている干渉斑は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)に代表される高屈折率基材フイルム上に、ハードコート層や粘着剤層など基材との屈折率差が大きい層を設けた場合に、該層と基材との界面での反射率が高くなり、該界面からの反射光とフイルム表面での反射光との干渉により発生するものである。干渉はハードコート層など基材に設けられる層や基材の微妙な膜厚変化の影響を受け、縞状または斑(まだら)状に観察される斑(むら)を発生させる。公開特許や文献によってはこの現象を干渉縞、ニュートンリングと表現しているが、同じメカニズムで発生するむらの見え方が、必ずしも縞状やリング状とは限らず、特に膜厚が薄い(数μm以下)層があると、斑(まだら)状に観察されることもある。本発明ではこの状況を踏まえて干渉斑(かんしょうむら)と表現することとした。
・・・中略・・・
【0049】
以下、本発明のプラスチックフイルムについて詳細に説明する。
本発明に用いられる基材は、透明プラスチック基材であり、フイルム状やシート、板状のものが好ましい。本発明で言う「フイルム」とは、基材としてフイルム状のみならず、シート状、板状ものを使用した場合も含むものである。
【0050】
ハードコート層や粘着剤層の屈折率は通常1.53近辺なので、本発明では屈折率の高い(1.56以上の)基材を用いるのが好ましい。この場合、基材の屈折率は、1.56以上1.90未満であることが好ましく、1.60以上1.70未満であることが更に好ましい。屈折率が高いポリマーから形成するプラスチックフイルムであることが好ましく、屈折率が高いポリマーの例には、ポリカーボネート、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−1,2−ジフェノキシエタン−4,4'−ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート)ポリスルホン、ポリアリレートおよびポリスチレン(例、シンジオタクチックポリスチレン)が挙げられる。なかでも、ポリカーボネートおよびポリエチレンテレフタレートが好ましい。
・・・中略・・・
【0055】
基材の厚みは、基材がフイルム状の場合、20〜300μmが好ましく、80〜200μmがより好ましい。基材フイルムの厚みが薄すぎると膜強度が弱く、厚いと剛性が大きくなり過ぎる。シート状の場合に基材の厚みは、透明性を損なわない範囲であればよく、300μm以上数mmのものが使用できる。
基材の厚みが1mm以下、特に300μm以下の場合、可視光域に輝線成分を含む光源、例えば三波長蛍光灯下では基材表面と裏面の反射光の干渉で干渉斑が見えることがある。本発明では、プライマー層を両面に設けることによりこの基材表裏面の干渉斑を低減することができる。一般に合成樹脂レンズでは厚みが大きく、表裏面の反射光による干渉斑は発生しない。この点は合成樹脂レンズとフイルムの根本的違いである。
【0056】
本発明は、前記したように、ハードコート層や粘着剤層など機能性層と基材との界面に反射防止プライマー層(プライマー層P、プライマー層Q)を設けることにより該界面での反射率を大幅に減少させ、干渉斑をほとんど見えなくするものである。
【0057】
本発明のハードコートフイルムの場合、プライマー層Pは、基材の屈折率nSとハードコート層の屈折率nHとの差が0.03以上である時に干渉斑が発生し、対策効果が現われる。この屈折率差が0.06以上である時により効果は大きく、0.10以上であると更に効果は大きい。
【0058】
プライマー層Pの屈折率nPは、下記の数式(2)を満足することにより、膜厚dPを特定の値(数式(3))とすることと相俟って、ハードコート層/基材の界面での反射率を大幅に低減することができ、干渉斑を抑えることができる。数式(2)
【0059】

・・・中略・・・
【0064】
プライマー層Pの膜厚dPは、以下の数式(3)を満たすことが必要である。
数式(3) dP=(2N−1)×λ/(4nP)
ここで、λは可視光の波長で450nm〜650nmの範囲のいずれかの値、Nは自然数。
・・・中略・・・
【0069】
上記数式を満足させる具体的な例として、基材がPETでハードコート層の屈折率が1.53程度の場合には、以下の屈折率と膜厚を有するプライマー層が好ましい。(e)屈折率が1.58以上1.60以下。(f)膜厚が74nm以上98nm以下または222nm以上294nm以下。」

エ 「【0095】
本発明のハードコートフイルムとは、後述する鉛筆硬度試験によりH以上の表面硬度を有するフイルムのことであり、ハードコート層とはこの鉛筆硬度を達成させるための層である。ハードコートフイルムとしては、ハードコート層を設けることにより、ハードコート側表面の鉛筆硬度が3H以上とするのが好ましく、4H以上とするのが更に好ましく、5H以上とするのが特に好ましい。
【0096】
本発明のハードコート層の形成方法はいかなるものであってもかまわないが、生産性の観点から活性エネルギー線の照射により硬化する硬化性組成物を塗布、該活性エネルギー線の照射により硬化する硬化性樹脂からなる層であることが好ましい。
【0097】
高屈折率基材フイルムを用いる場合のハードコート層を構成する樹脂の屈折率は、好ましくは1.45〜1.6、より好ましくは1.50〜1.55であるものを用いることができる。
活性エネルギー線の照射により硬化する硬化性樹脂としては、同一分子内に2個以上のアクリル基を有する硬化性樹脂が好ましい。具体例としては、エチレングリコールジアクリレート、1,6−へキサンジオールジアクリレート、ビスフェノール−Aジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のポリオールポリアクリレート類、ポリイソシアネート硬化性樹脂とヒドロキシエチルアクリレート等の水酸基含有アクリレートの反応によって得られる多官能のウレタンアクリレートやポリエポキシ硬化性樹脂とヒドロキシエチルアクリレート等の水酸基含有アクリレート(メタアクリレート)の反応によって得られる多官能のエポキシアクリレート等を挙げることができる。エチレン性不飽和基を側鎖に有するポリマーを用いることもできる。
・・・中略・・・
【0105】
ハードコート層の膜厚も特に制限はないが、10μmを超えると前述したコヒーレント長の関係から干渉斑が薄くなり、特に20μm以上だと本発明のプライマー層と組み合わせると干渉斑を完全になくし易くなる。したがって、この点からハードコートの膜厚は10μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上である。一方、厚みを厚くすると干渉斑が薄くなるが、フイルムを曲げることが難しくなり、さらに曲げによる割れが発生し易くなることから、好ましくは60μm以下、より好ましくは50μm以下である。
好ましいハードコートの厚みは10〜60μmであり、より好ましくは20〜50μmであり、特に、好ましくは30〜50μmである。ハードコートは1層からなるものであり、2層以上の形態も可能である。
・・・中略・・・
【0129】
(ハードコート層の塗布)
厚さ100μmのPET(面方向の屈折率1.65の2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルム)の両面をコロナ処理し、上記塗布液を乾燥後の膜厚が5μmになるように片面塗布した。」

オ 「【0133】
<実施例>
(プライマー層付きPETベースの作製−基材1〜6)
厚さ100μmのPET(2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルム、屈折率1.65)の両面をコロナ処理し、屈折率1.53、ガラス転移温度55℃のポリエステル樹脂からなるラテックス(ペスレジンA−520、高松油脂(株)製)と酸化錫・酸化アンチモン複合酸化物(SN−38、石原産業(株)製)を乾燥後の屈折率と膜厚が表2に記載の値になるように混合し、片面(A)または両面(B)に塗布しプライマー層を形成した。
・・・中略・・・
【0138】
【表2】

【0139】
表2における設計λとは、プライマー層の膜厚を式(3)に従い決定する際に採用した波長λの値であり、なお、その際に式(3)中の自然数NはN=1とした。
【0140】
(ハードコート層塗布液(h−1)の調製)
メチルエチルケトン(MEK)中にグリシジルメタクリレートを溶解させ、熱重合開始剤を滴下しながら80℃で2時間反応させ、得られた反応溶液をヘキサンに滴下し、沈殿物を減圧乾燥して得たポリグリシジルメタクリレート(ポリスチレン換算分子量は12,000)をメチルエチルケトンに50質量%濃度になるように溶解した溶液100質量部に、トリメチロールプロパントリアクリレート(ビスコート#295;大阪有機化学工業(株)製)150質量部と光ラジカル重合開始剤(イルガキュア184、チバガイギー社製)6重量部と光カチオン重合開始剤(ロードシル2074、ローディア社製)6質量部を30質量部のメチルイソブチルケトンに溶解したものを撹拌しながら混合し、ハードコート層塗布液を作製した。なお、硬化後のハードコート層の屈折率は、1.53になるよう調整した。
・・・中略・・・
【0142】
(ハードコートフイルムの作製)
上記で作製したプライマー層付きフイルムのプライマー層P上に上記ハードコート層用塗布液を表3に記載の厚みになるように、エクストルージョン方式で塗布、乾燥し、紫外線を照射(700mJ/cm2)してハードコート層を硬化させ、ハードコートフイルムを作製した。
【0143】
得られたハードコートフイルムに対して以下の方法で評価を行った。評価結果を表3に示す。
鉛筆硬度試験;鉛筆引っ掻き試験の硬度は、作製したハードコートフイルムを温度25℃、相対湿度60%の条件で2時間調湿した後、JIS−S−6006が規定する試験用鉛筆を用いて、JIS−K−5400が規定する鉛筆硬度評価方法に従い、9.8Nの荷重にて傷が認められない鉛筆の硬度の値である。
ヘイズの評価;作製したハードコートフイルムのヘイズをヘイズメーターMODEL 1001DP(日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
干渉斑については、前記予備実験と同様な方法で評価した。
【0144】

【0145】
表3における界面の反射率とは、ハードコート層/基材界面での平均反射率であり、プライマー層上下面の振幅反射率をフレンネルの式より計算し、プライマー層の膜厚と波長から得られる位相差を考慮して2つの反射波を合成し、540〜550nmに対し1nm毎に求めたエネルギー反射率から計算した平均値である。
【0146】
表3に示される結果から以下のことが明らかである。基材がPETフイルムで屈折率が1.53の有機化合物から形成されたハードコート層を有するハードコートフイルムでは、本発明のプライマー層を設けた実施例1A〜7Aのハードコートフイルムは三波長蛍光灯下で干渉斑が見えないが、プライマー層がなかったり(比較例1と2)、従来のプライマー層(比較例4Bと5B)を設けた場合、干渉斑が非常に強く見える。
基材がTACフイルムで屈折率が1.60の高屈折率ハードコート層を有するハードコートフイルムでは、本発明のプライマー層を設けた実施例9Aのハードコートフイルムは三波長蛍光灯下で干渉斑が見えないが、プライマー層がない場合(比較例8)は干渉斑が非常に強く見える。
また、プライマー層の膜厚の設計λをλ=540nmとすると(実施例1A,1B,7A,9A)、干渉斑は全く見えず、可視光のうち緑の光に合わせてプライマー層を設計するのが好ましいことが分かる。
また、同じ基材を用いた場合、ハードコート層の膜厚が厚いものほど干渉斑が見え難く、10μm以上のハードコート層と本発明のプライマー層の組合せは干渉斑対策に有効である。(実施例3A、実施例6A、実施例8Aの比較,比較例1と比較例2の比較。)
【0147】
〔ハードコートフイルムの反射防止フイルムへの応用〕
(反射防止層の作製)
(1)高屈折率層塗布液(a−1)の調製
二酸化チタン微粒子(TTO−55B、石原産業(株)製)30.0質量部、カルボン酸基含有モノマー(アロニクスM−5300東亞合成(株)製)4.5質量部およびシクロヘキサノン65.5質量部を、サンドグラインダーミルにより分散し、質量平均径55nmの二酸化チタン分散液を調製した。前記二酸化チタン分散物にジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA、日本化薬(株)製)と、光ラジカル重合開始剤(イルガキュア184、チバガイギー社製、モノマーの合計量(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アニオン性モノマーの合計量)に対し5質量%)とを混合し、高屈折率層の屈折率が1.85になるように調整した。
【0148】
(2)低屈折率層塗布液(a−2)の調製
ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA、日本化薬(株)製)60質量部、光ラジカル重合開始剤(イルガキュア184、チバガイギー社製)2質量部、メガファック531A(C8F17SO2N(C3H7)CH2CH2OCOCH=CH2、大日本インキ化学工業(株)製)9質量部、およびメチルエチルケトンを混合、攪拌して、低屈折率層の塗布液を調製した。
屈折率の調整は、二酸化ケイ素微粒子(アエロジル200、日本アエロジル(株)製)30.0質量部、カルボン酸基含有モノマー(アロニクスM−5300東亞合成(株)製)4.5質量部およびシクロヘキサノン65.5質量部を、サンドグラインダーミルにより分散調整した、質量平均径12nmの二酸化ケイ素微粒子分散液を添加して屈折率が1.53となるよう行った。
【0149】
次に、表3に記載のハードコートフイルムのハードコート層上に、それぞれの層の膜厚、屈折率が表4に記載の値になるように塗布液を調整、塗布、露光し、反射防止ハードコートフイルムA〜D(CおよびDは、比較)を作製した。これらの反射防止ハードコートフイルムの特性を表4に示す。塗布液の塗布および露光はハードコート層の形成と同様に行った。
【0150】

・・・中略・・・
【0162】
(2)プライマー層付きPETフイルムの作製
100μmPETに実施例21、比較例24と同様に第1層目のプライマー層を設けた上に、塗布液p−2を乾燥膜厚が2μmになる様に塗布したものをそれぞれ実施例29、比較例26用プライマー層付きPETフイルムとした。
【0163】
上記実施例21〜29および比較例21〜26のプライマー層付きPETフイルムのプライマー層積層側に離型紙付きアクリル系粘着剤層(屈折率1.53、厚み30μm、ヘイズ0.1%)を貼合し、粘着剤層付き透明プラスチックフイルムを完成した。
【0164】
(干渉斑の評価)
ここで、干渉斑は以下の方法により評価した。干渉斑の評価;粘着剤層付き上記透明プラスチックフイルム実施例21〜29および比較例21〜26の離型紙をはがし、1mm(厚み)のガラス板に貼合し、机の上に置いた黒紙の上にガラス板を下におき、30cm上から三波長蛍光灯(ナショナルパルック蛍光灯FL20SS・EX−D/18)でサンプルを照らし、干渉斑を観察し、下記の基準により評価した。結果を表1に示した。
◎ :干渉斑が全く見えない
〇 :干渉斑がほとんど見えない
△ :干渉斑が弱く見える
× :干渉斑が強く見える
××:干渉斑が非常に強く見える
【0165】
(ヘイズの評価)
ヘイズの評価;粘着剤層付き上記透明プラスチックフイルム(実施例21〜29および比較例21〜26)の離型紙をはがし、1mm(厚み)のガラス板に貼合しヘイズをヘイズメーターMODEL 1001DP(日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
【0166】
【表6】

【0167】
表6における設計λとは、プライマー層の膜厚を式(6)に従い決定する際に採用した波長λの値である。なお、その際に式(6)中の自然数NはN=1とした。
また界面の反射率とは、粘着剤層/基材界面での平均反射率であり、プライマー層上下面の振幅反射率をフレンネルの式より計算し、プライマー層の膜厚と波長から得られる位相差を考慮して2つの反射波を合成し、540〜550nmに対し1nm毎に求めたエネルギー反射率から計算した平均値である。
【0168】
表6に示される干渉斑の結果から以下のことが明らかである。
ガラス板に貼合した本発明の粘着剤層付き透明プラスチックフイルムは三波長蛍光灯下では干渉斑は見えないが、プライマー層がなかったり(比較例21,22)、従来のプライマー層(比較例24)を設けたりしたフイルムを基材として用いた場合、干渉斑が非常に強く見える。
透明プラスチックフイルム基材の厚みが薄いと干渉斑が強く観察される。(実施例24と25の比較、比較例21と22の比較)
プライマー層の膜厚設計λ=547nmとすると(実施例21,22,27,28)、干渉斑は全く見えず、可視光のうち緑の光に合わせてプライマー層を設計するのが好ましいことが分かる。
実施例28,29は三波長蛍光灯下で干渉斑は見えないが、屈折率が1.55のプライマー層を基材に積層し、その上にもう1層のプライマー層をつけた場合(比較例25,26)は干渉斑が非常に強く見える。
【0169】
【発明の効果】
本発明によれば、特定の屈折率と膜厚を有するプライマー層を高屈折率基材フイルム上に形成することにより、三波長蛍光灯下でも干渉斑が見えず視認性が良好なプラスチックフイルムを得ることができる。本発明のプラスチックフイルムを用いることにより、三波長蛍光灯下でも干渉斑のない透明機能性フイルムを提供することができる。本発明のプラスチックフイルムは、ガラス飛散防止フイルム、粘着テープ、透明ステッカーの基材、また、上記の透明機能性フイルムはCRT、LCD、PDP、FED等の画像表示装置の表面やタッチパネル、ガラス板やプラスチック板等の保護フイルムとして好適である。」

(2)対比
本件補正後発明と引用発明を対比する。
ア ポリエチレンテレフタレートからなる透明基材
引用発明の「保護フィルムA」は、「厚み200μmの無延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(非晶性)を製造時の機械方向に延伸比2.8倍に自由端一軸延伸(縦延伸)した後、テンター延伸機により幅方向に延伸比2.9倍に固定端一軸延伸(横延伸)し」「作成」された「結晶性ポリエステルフィルム」である。
上記作成方法及び材質から引用発明の「保護フィルムA」は、ポリエチレンテレフタレートからなり、光学的に透明であって、偏光板Aにおいて基材の役割を担っていることは当業者に自明である。
さらに、引用発明の「保護フィルムA」は、「面内リタデーションが500nmであり、厚み方向リタデーションが6800nmであ」る。そうしてみると、引用発明の「保護フィルムA」の「面内リタデーション」は600nm以下であり、かつ、「厚み方向リタデーション」は3000〜8000nmの範囲内のものである。
以上総合すると、引用発明の「保護フィルムA」は、本件補正後発明の「透明基材」に相当し、本件補正後発明の「ポリエチレンテレフタレートからなる」との要件及び「前記透明基材の面内リタデーションが600nm以下、かつ、厚み方向リタデーションが3000〜8000nmであり」との要件を満たす。

イ 光学フィルム
引用発明の「保護フィルムA」は、「偏光板Aを構成する」ものであって、「液晶表示装置における虹ムラの発生が抑制された保護フィルムA」である。
上記機能から、引用発明の「保護フィルムA」は、光学的な機能を有するフィルムといえる。
そうしてみると、引用発明の「保護フィルムA」は、本件補正後発明の「光学フィルム」に相当する。

(3)一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「 ポリエチレンテレフタレートからなる透明基材の面内リタデーションが600nm以下、かつ、厚み方向リタデーションが3000〜8000nmである、
光学フィルム。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
「光学フィルム」が、本件補正後発明においては、「ポリエチレンテレフタレートからなる透明基材の少なくとも一方面に、プライマー層と、活性エネルギー線硬化樹脂からなる光学機能層と」が「設け」られたものであり、「前記光学機能層の厚みが1〜20μmであり、前記光学機能層の屈折率Bが、1.46〜1.56であり、前記プライマー層の厚みが60〜120nmであり、前記透明基材の屈折率をAとし、前記光学機能層の屈折率をBとしたとき、前記プライマー層の屈折率が、1.53〜1.62(ただし、1.59を除く)の範囲内であり、かつ、{(A+B)/2−0.02}〜{(A+B)/2+0.02}の範囲内である」のに対し、引用発明においては、プライマー層及び光学機能層を備えていない点。
(以下、「プライマー層の屈折率が、1.53〜1.62(ただし、1.59を除く)の範囲内であり、かつ、{(A+B)/2−0.02}〜{(A+B)/2+0.02}の範囲内である」との要件を、「本件要件」という。)

(相違点2)
「透明基材の厚み」が、本件補正後発明においては、「12〜40μmであ」るのに対し、引用発明においては、厚みが定かでない点。

(4)判断
以下、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者」のことを「当業者」という。
ア 相違点1について
引用文献1の【0033】には、「第1の保護フィルムは、偏光子との接着性を向上するための易接着層を設けたものや、偏光子と接着しない側、すなわち視認側となる面に反射防止、アンチグレア、ハードコート等の各種表面処理を施したものや、表面処理層を設けたものを用いてもよい。」と記載されている。
上記記載は、引用発明の「保護フィルムA」を、ハードコート機能を有する表面処理層を備えたものとすることについての示唆といえる。
また、引用文献2の【0001】〜【0002】、【0057】〜【0059】、【0064】及び【0096】の記載によれば、同文献には、透明プラスチック基材にプライマー層及び活性エネルギー線硬化樹脂からなるハードコート層をこの順に積層してなるハードコートフイルムにおいて、下記数式(2)及び下記数式(3)を満足することにより、界面での反射率を低減させ、干渉斑が生じることを防止し、画像表示装置の視認性を向上させるという技術的事項(以下「引用文献2記載事項」ということがある。)が記載されていると認められる。
数式(2):

数式(3): dP=(2N−1)×λ/(4nP)

さらに、引用文献2の【0069】には、「上記数式を満足させる具体的な例として、基材がPETでハードコート層の屈折率が1.53程度の場合には、以下の屈折率と膜厚を有するプライマー層が好ましい。
(e)屈折率が1.58以上1.60以下。
(f)膜厚が74nm以上98nm以下または222nm以上294nm以下。」と記載されている。
そして、引用発明及び引用文献2記載事項に係る光学フィルムは、いずれも二軸延伸ポリエチレンテレフタレートからなる透明基材を備える光学フィルムに関するものであるとともに、干渉斑の発生を抑制して視認性を向上することを課題とする点でも共通するものである。
そうしてみると、引用発明において、引用文献1の上記示唆にしたがって、引用文献2記載事項の採用を試みる動機は十分にあるといえ、その際に、引用文献2の【0069】に記載された上記「具体的な例」に着目して、「ポリエステルフィルム」(透明基材)、プライマー層及び活性エネルギー線硬化樹脂からなるハードコート層を選択してみることは当業者がまずは試みる技術的事項といえる。そして、そのように設計変更されたプライマー層は、本件要件を満たすこととなる。
(当合議体注:例えば、ハードコート層の屈折率を1.53程度、ポリエステルフィルムとして、本件出願時に市販されていた、二軸延伸PETフィルム(東洋紡の「コスモシャイン」シリーズ等の屈折率(1.60〜1.62程度))を採用した場合、引用文献2記載事項の数式(2)を満たすプライマー層(の屈折率)は、本件要件を満たす。)
また、光学機能層(ハードコート層)に関し、引用文献2の【0105】には、好ましい厚みとして「10〜60μm」が明記されているから、上記記載を考慮して材料として適切なものを選択し、膜厚についても最適化又は好適化を行うことで、相違点1に係る本件補正後発明に係る数値範囲に設定することは、当業者であれば容易になし得たことである。
なお、引用文献2には、【0069】の他にも、光学機能層(ハードコート層)及びプライマー層の屈折率が本件補正後発明で規定される範囲内の値である実施例も複数記載されており(例えば、同文献の【表2】、【表3】、【表6】を参照。)、これらの値を参考にして材料を選択することも当業者であれば適宜なし得ることである。
以上のことから、相違点1に係る本件補正後発明の構成は、引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
引用文献1の【0031】には、保護フィルムの厚みについて、「位相差特性を有していれば、厚みは特に限定されないが、厚みが、10〜200μmであることが好ましく」と記載されており、「10〜200μm」が好ましいことが記載されており、また、同文献【0032】には、保護フィルムの厚みを小さくしてコストや画像表示装置の厚みが増すことを抑制することが示唆されている。
上記記載によれば、引用発明の「保護フィルムA」(透明基材)の厚みを10〜200μmの範囲内でできるだけ小さいものとなるよう調整することは、当業者の通常の創作能力の発揮の範疇であるといえる。さらに、特開2016−6530号公報の【0046】、【0078】〜【0085】及び【0087】〜【0093】、特開2012−185519号公報の【0142】、【0247】等に記載されるように、ポリエチレンテレフタレートからなる保護フィルムの厚みとして12〜40μmは一般的なものであって、本件出願時の当業者にとって入手可能なものであったと理解することができる。以上の点に鑑みても保護フィルム(透明基材)の厚みを、相違点2に係る本件補正後発明の「12〜40μm」とすることが格別なことであるともいえない。
以上のことから、相違点2に係る本件補正後発明の構成は、引用発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

(5)発明の効果について
本件補正後発明は、「本発明によれば、耐久性に優れ、ニジムラ及び干渉縞が抑制されて視認性が高く、かつ、薄型化が可能な光学フィルム、並びに、これを用いた偏光板及びディスプレイ部材を提供できる」(【0011】)という効果を奏するものである。
しかしながら、当該効果は引用発明及び引用文献2記載事項に基づき容易に推考される発明も奏する効果であるか、少なくとも容易に推考される構成から予測可能な範囲内のものであって、その効果の程度が、格別顕著であるともいえない。

(6)請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書の4.において、
「引用文献2には、透明プラスチック基材上に、プライマー層及び機能性層を設けたプラスチックフィルムにおいて、プライマー層の屈折率及び膜厚を、透明プラスチック基材及び機能性層の屈折率から定まる特定の値とすることが記載されている(要約、特許請求の範囲、段落[0056]〜[0064])・・・中略・・・
しかしながら、これらの実施例5B、6A及び8Aのプライマー層の屈折率はいずれも1.59であり、本願発明のプライマー層の屈折率の範囲と重複しない。
このように、引用文献1及び2のいずれにも補正後の請求項1に記載のプライマー層の屈折率の範囲が記載されていない。したがって、本願発明は、当業者が引用文献1及び2に基づいて容易になし得たものには該当しない。」と主張している。
しかしながら、上記(4)にも記載したように、引用文献2にはプライマー層の屈折率の好ましい範囲として「1.58以上1.60以下」とすることが記載されているに過ぎず、必ずしも屈折率を1.59丁度とする必要はない。
(当合議体注:引用文献2には、プライマー層の屈折率が1.59でない実施例も記載されている(例えば、実施例2A)ことからも理解できる事項である。)
さらに、屈折率1.59の場合を除くことに格別な技術的意義があるともいえない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

(7)小括
本件補正後発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 補正の却下の決定のむすび
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載された事項によって特定されるとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、引用文献1(特開2011−112928号公報)に記載された発明及び引用文献2(特開2004−345333号公報)に記載された事項に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用文献の記載及び引用発明
引用文献1及び2の記載並びに引用発明は、前記「第2」[理由]2(1)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から、「プライマー層の屈折率」が、「1.53〜1.62(ただし、1.59を除く)の範囲内であり」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正後発明が、前記「第2」[理由]2に記載したとおり、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-10-28 
結審通知日 2021-11-02 
審決日 2021-11-18 
出願番号 P2017-025014
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 関根 洋之
下村 一石
発明の名称 光学フィルム、これを用いた偏光板及びディスプレイ部材  
代理人 特許業務法人 小笠原特許事務所  
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