• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
管理番号 1381633
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-02-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-05-12 
確定日 2021-10-22 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6604408号発明「有機溶剤系グラビアインキおよび印刷物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6604408号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜7〕について訂正することを認める。 特許第6604408号の請求項1及び3〜7に係る特許を維持する。 特許第6604408号の請求項2に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6604408号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜7に係る特許についての出願は、平成30年9月12日〔優先権主張 平成29年9月22日(JP)日本国〕の出願であって、令和元年10月25日に特許権の設定登録がされ、令和元年11月13日に特許掲載公報が発行され、その請求項1〜7に係る発明の特許に対し、令和2年5月12日に阿部治美(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て以後の手続の経緯は次のとおりである。
令和2年 7月28日付け 取消理由通知
同年 9月30日(受理日) 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年10月 6日付け 訂正請求があった旨の通知
同年11月10日 意見書(特許異議申立人)
令和3年 1月27日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 4月14日 面接
同年 4月28日(受理日) 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 5月12日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 6月15日 意見書(特許異議申立人)

なお、令和2年9月30日提出の訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第7項の規定により取下げされたものとみなされる。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和3年4月28日提出の訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は「特許第6604408号の明細書及び特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜7について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1〜12からなるものである(なお、訂正箇所に下線を付す。)。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の「顔料、バインダー樹脂、炭化水素系ワックスおよび塩素化ポリオレフィン樹脂を含有し、下記(1)、(2)および(3)を満たす、有機溶剤系グラビアインキ。」との記載部分を、
訂正後の請求項1の「顔料、バインダー樹脂、炭化水素系ワックスおよび塩素化ポリオレフィン樹脂を含有し、下記(1)、(2)および(3)を満たす、有機溶剤系グラビアインキであって、包装材料に用いられる基材の表刷り印刷用である有機溶剤系グラビアインキ(ただし、導電成分としてBET比表面積800〜1500m2/gでありDBP吸油量300〜600ml/100gであるカーボンブラックを、熱可塑性樹脂に分散してなることを特徴とする導電性インキ組成物を除く。)。」との記載に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜7も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項1の「(1)炭化水素系ワックスのJISK2207で規定された25℃における硬度(針入度)が、0.5〜12であり、」との記載部分を、
訂正後の請求項1の「(1)炭化水素系ワックスのJISK2207で規定された25℃における硬度(針入度)が、0.5〜9.5であり、」との記載に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜7も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項1の「(3)バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂、並びに、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、セルロース系樹脂およびロジン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂を含有する。」との記載部分を、
訂正後の請求項1の「(3)バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂及びセルロース系樹脂を、95:5〜30:70の質量比で含有する(ただし、ポリウレタン樹脂及びセルロース誘導体を95:5〜5:95の固形分量比率で含有する場合を除く。)。」との記載に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜7も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(5)訂正事項5
訂正前の請求項3の「請求項1または2に記載の有機溶剤系グラビアインキ。」との記載部分を、
訂正後の請求項3の「請求項1に記載の有機溶剤系グラビアインキ。」との記載に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4〜7も同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
訂正前の請求項5の「請求項1〜3いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ」との記載部分を、
訂正後の請求項5の「請求項1又は3いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ」との記載に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6〜7も同様に訂正する。)。

(7)訂正事項7
訂正前の請求項5の「請求項1〜4いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ。」との記載部分を、
訂正後の請求項5の「請求項1又は3〜4いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ。」との記載に訂正する(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6〜7も同様に訂正する。)。

(8)訂正事項8
訂正前の請求項6の「請求項1〜5いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ。」との記載部分を、
訂正後の請求項6の「請求項1又は3〜5いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ。」との記載に訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4〜7も同様に訂正する。)。

(9)訂正事項9
訂正前の請求項7の「請求項1〜6いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキからなる印刷層を有する印刷物。」との記載部分を、
訂正後の請求項7の「請求項1又は3〜6いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキからなる印刷層を有する印刷物。」との記載に訂正する。

(10)訂正事項10
本件特許明細書の段落0008の記載について、訂正前の「下記(1)、(2)および(3)を満たす、有機溶剤系グラビアインキに関する。」との記載部分を、訂正後の「下記(1)、(2)および(3)を満たす、有機溶剤系グラビアインキであって、包装材料に用いられる基材の表刷り印刷用である有機溶剤系グラビアインキ(ただし、導電成分としてBET比表面積800〜1500m2/gでありDBP吸油量300〜600ml/100gであるカーボンブラックを、熱可塑性樹脂に分散してなることを特徴とする導電性インキ組成物を除く。)に関する。」との記載に訂正し、
訂正前の「(1)炭化水素系ワックスのJISK2207で規定された25℃における硬度(針入度)が、0.5〜9.5であり、」との記載部分を、訂正後の「(1)炭化水素系ワックスのJISK2207で規定された25℃における硬度(針入度)が、0.5〜9.5であり、」との記載に訂正し、
訂正前の「(3)バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂、並びに、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、セルロース系樹脂およびロジン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂を含有する。」との記載部分を、訂正後の「(3)バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂及びセルロース系樹脂を、95:5〜30:70の質量比で含有する」との記載に訂正する。

(11)訂正事項11
本件特許明細書の段落0009を削除する。

(12)訂正事項12
本件特許明細書の段落0067について、訂正前の「なお、実施例1〜20、27は参考例である。」との記載部分を訂正後の「なお、実施例1〜20、27および実施例28〜47、54は参考例である。」との記載に訂正する。

2.本件訂正による訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の範囲から、取消理由通知において引用された甲第1号証に記載された事項を除外することを明示して、その範囲を限定するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項1は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1の「炭化水素系ワックスのJISK2207で規定された25℃における硬度(針入度)」の数値範囲の上限を「12」から「9.5」に下方修正するものであって、本件特許明細書の段落0086の【表1】には「9.5」との記載があるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項2は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項1の範囲から、取消理由通知において引用された参考文献Bに記載された事項を除外することを明示して、その範囲を限定するとともに、訂正前の請求項1の「ポリアミド樹脂、並びに、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、セルロース系樹脂およびロジン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂」を、本件特許明細書の段落0023の「ポリアミド樹脂/セルロース樹脂は…質量比で95/5〜30/70であることが好ましい。」との記載を根拠に「ポリアミド樹脂及びセルロース系樹脂を、95:5〜30:70の質量比で含有する」に限定するものであって、本件特許明細書の段落0087の【表2】の実施例21〜26(並びに参考例1〜20及び27)で「ポリアミド樹脂」と「セルロース系樹脂」が併用されていることから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項3は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4〜9について
訂正事項4は、訂正前の請求項2を削除するものであり、訂正事項5〜9は、訂正前の請求項3〜7のうち請求項2を引用する場合のものを削除するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項4〜9は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項4〜9は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項10〜12について
訂正事項10〜12は、訂正事項1〜9に係る訂正後の特許請求の範囲の記載に、明細書の記載の整合させるためのものであるから「明瞭でない記載の釈明」を目的として訂正するものに該当し、訂正事項1〜9に示した理由と同様の理由により、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてなされているものと認められる。
そして、訂正事項10〜12は、明細書の内容を訂正するものであって、発明特定事項の用語の定義を拡張ないし変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項10〜12は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(6)一群の請求項について
訂正事項1〜9に係る訂正前の請求項1〜7について、その請求項2〜7はいずれも直接又は間接的に請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1〜7に対応する訂正後の請求項1〜7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正事項10〜12による明細書の訂正に係る請求項は、訂正前の請求項1〜7であって、訂正事項1〜9に関係する一群の請求項が請求の対象とされているから、訂正事項10〜12による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。
したがって、訂正事項1〜12による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に適合するものである。

3.まとめ
以上総括するに、訂正事項1〜12による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、なおかつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜7〕について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1及び3〜7に係る発明(以下「本1発明」及び「本3発明」〜「本7発明」ともいう。)は、令和3年4月28日提出の訂正特許請求の範囲の請求項1及び3〜7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
顔料、バインダー樹脂、炭化水素系ワックスおよび塩素化ポリオレフィン樹脂を含有し、下記(1)、(2)および(3)を満たす、有機溶剤系グラビアインキであって、包装材料に用いられる基材の表刷り印刷用である有機溶剤系グラビアインキ(ただし、導電成分としてBET比表面積800〜1500m2/gでありDBP吸油量300〜600ml/100gであるカーボンブラックを、熱可塑性樹脂に分散してなることを特徴とする導電性インキ組成物を除く。)。
(1)炭化水素系ワックスのJISK2207で規定された25℃における硬度(針入度)が、0.5〜9.5であり、炭化水素系ワックスをグラビアインキ総量中に0.1〜2.5質量%含有する。
(2)塩素化ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、5,000〜100,000であり、グラビアインキ総量中に0.1〜2.5質量%含有する。
(3)バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂及びセルロース系樹脂を、95:5〜30:70の質量比で含有する(ただし、ポリウレタン樹脂及びセルロース誘導体を95:5〜5:95の固形分量比率で含有する場合を除く。)。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂とセルロース系樹脂を含み、セルロース系樹脂は、窒素分10.5〜12.5のニトロセルロース樹脂を含有する、請求項1に記載の有機溶剤系グラビアインキ。
【請求項4】
ポリアミド樹脂の軟化点は、80〜140℃であり、ポリアミド樹脂の重量平均分子量は、2,000〜50,000である、請求項1又は3いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ。
【請求項5】
ポリアミド樹脂は、ダイマー酸あるいは重合脂肪酸に由来する構造をポリアミド樹脂中に50質量%以上含有する、請求項1又は3〜4いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ。
【請求項6】
更に、金属キレートを含有する、請求項1又は3〜5いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ。
【請求項7】
基材上に、請求項1又は3〜6いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキからなる印刷層を有する印刷物。」

第4 取消理由通知の概要
令和3年1月27日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知された取消理由は、次の理由1からなるものである。

〔理由1〕本件特許の請求項1〜7に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
甲第1号証:特開2009−46522号公報
甲第2号証:特許第5487492号公報
甲第3号証:特開2002−294128号公報
甲第4号証:特開2002−20668号公報
甲第5号証:特開平7−258593号公報
甲第6号証:社団法人日本印刷学会編、「印刷工学便覧」、第1版、技報堂出版株式会社、1987年7月20日、第811〜815頁
甲第7号証:「色材用ポリマーの設計と応用」、株式会社シーエムシー出版、2002年3月29日、第262〜264頁
甲第8号証:相原次郎著、「印刷インキ入門」、初版、印刷学会出版部、昭和63年7月20日、第35、38〜40、46〜47及び104〜107頁
甲第9号証:浦田啓司、“塩素化ポリオレフィン「スーパークロン低塩素化銘柄」の特徴”、JETI、株式会社ジェティ、平成9年9月1日、第45巻、第10号、第131〜133頁
参考文献A:特開2005−154493号公報
参考文献B:特開2017−25256号公報
参考文献C:特開平6−65534号公報

第5 当審の判断
1.引用刊行物の記載事項
甲第1号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1〜2
「【請求項1】
導電成分としてBET比表面積800〜1500m2/gでありDBP吸油量300〜600ml/100gであるカーボンブラックを、熱可塑性樹脂に分散してなることを特徴とする導電性インキ組成物。
【請求項2】
熱可塑性樹脂が、ポリウレタン、ポリエステルウレタン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリアミド、セルロース誘導体、アクリル樹脂、変性ポリオレフィンから選ばれる少なくとも1つの樹脂であることを特徴とする請求項1記載の導電性インキ組成物。」

摘記1b:段落0001、0008、0014、0017〜0018、0026、0028及び0029
「【0001】
本発明は、各種プラスチックフィルム、プラスチックシート、合成樹脂成形品、又は紙上に被覆させることにより各種基材の表面抵抗値を制御できる溶剤型印刷用導電性インキに関する。更に本発明は、基材表面に被覆させることで導電性を発現させることができ、ICや電子部品を搬送するトレーなどの用途に使用することができる導電性インキに関する。…
【0008】
本発明は、グラビア印刷方式などの薄膜塗工印刷機により印刷された基材表面の表面抵抗値を107Ω/□以下にすることが可能なインキであり、かつ印刷適性、印刷効果に優れる導電性インキを提供することを目的とする。又、樹脂系の選定により耐アルコール性を付与することが可能である導電インキ組成物を提供することを目的とする。…
【発明の効果】
【0014】
本発明により、グラビア印刷方式等の薄膜塗工印刷機により印刷された基材表面の表面抵抗値を107Ω/□以下にすることが可能であり、かつ印刷適性、印刷効果に優れる導電性インキを提供することができた。又、樹脂系の選定により耐アルコール性を付与することが可能である導電インキを提供することができた。…
【0017】
本発明の導電性インキ組成物は、上記カーボンブラックを熱可塑性樹脂に分散してなることを特徴とする。熱可塑性樹脂は、本発明の導電性インキ組成物のバインダー成分として使用し、各種基材との密着性などから選ばれる。
【0018】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリエステルウレタン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、変性ポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド、アクリル樹脂、ポリエステル、アルキッド樹脂、ポリ塩化ビニル、ロジン系樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ケトン樹脂、環化ゴム、塩化ゴム、ブチラール、石油樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、セルロース誘導体、ポリイミド等を挙げることができ、単独又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、ポリウレタン、ポリエステルウレタン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリアミド、セルロース誘導体、アクリル樹脂、変性ポリオレフィンから選ばれる少なくとも1つの樹脂を使用することが、カーボンブラックの分散性やインキの安定性を向上させることから好ましい。…
【0026】
インキ組成物として必要とされる機能を有するため、…ワックス、…などの添加剤を使用することもできる。…
【0028】 基材としては、各種プラスチックフィルム、プラスチックシート、合成樹脂成形品又は紙などが用いられる。又、成型加工可能なプラスチックシート、例えばHIPS(耐衝撃性ポリスチレン)、A−PET(非晶質ポリエチレンテレフタレート)、PP、ポリカーボネート等が使用できる。
【0029】
インキ組成物の塗工方法としては、特に限定されず、リバースコーター、ドクターナイフコーターやグラビアコーターなどの公知の塗工法が使用できる。」

摘記1c:段落0030、0033〜0034
「【0030】
以下に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、実施例における「部」は、「重量部」を表す。…
【0033】
(製造例3)
<ポリアミドワニスの調製>
ポリアミド樹脂(アミン価3mgKOH/g、酸価5mgKOH/g、軟化点115℃)35部を、酢酸エチル部15、イソプロピルアルコール25部、メチルシクロヘキサン25部に混合溶解させて、ワニスCを得た。
【0034】
(製造例4)
<ニトロセルロースワニスの調製>
ニトロセルロース(NC RS−2 KCNC、KOREA CNC LTD製)20部を、酢酸エチル26部とイソプロピルアルコール20部、メチルシクロヘキサン34部に混合溶解させて、ワニスDを得た。」

摘記1d:段落0046、0061、0063、0066、0075及び0076
「【0046】
[実施例4]
ワニスC 26.5部、ワニスD 28.5部、カーボン[ケッチェンブラックEC600JD、ケッッチェン・ブラック・インターナショナル(株)製]2.9部、混合溶剤(酢酸エチル/N−プロピルアセテート/イソプロピルアルコール/メチルシクロヘキサン=20/20/20/40)39.22部、ベンズイミダゾロン塩基性誘導体0.28部の混合物を均一に撹拌混合した後、直径1mmのガラスビーズを用いて、アイガーミルで10分練肉後、塩素化ポリオレフィン:スーパークロンC[日本製紙(株)製]1部、テトライソプロポキシチタン[三菱瓦斯化学(株)製]1.6部を混合し印刷インキ4を得た。…
【0061】
[比較例2]
ワニスC 29.5部、ワニスD 26.5部、カーボン(リーガル99R、キャボット社製)11部、混合溶剤(酢酸エチル/N−プロピルアセテート/イソプロピルアルコール/メチルシクロヘキサン=20/20/20/40)30部の混合物を均一に撹拌混合した後、直径1mmのガラスビーズを用いて、アイガーミルで10分練肉後、塩素化ポリオレフィン:スーパークロンC[日本製紙(株)製]1部、テトライソプロポキシチタン[三菱瓦斯化学(株)製]2部を混合し印刷インキ19を得た。…
【0063】
印刷インキ4、19は、印刷時の粘度に調整するため、メチルシクロヘキサン40部、n−プロピルアセテート20部、酢酸エチル20部、イソプロピルアルコール20部からなる混合溶剤を用いて、25℃においてザーンカップNo.3で測定した粘度が16秒となるようにそれぞれ希釈し希釈印刷インキ4’、19’を得た。…
【0066】
希釈印刷インキ1’〜4’、18’、19’を、グラビア校正機を利用して版深30ミクロンの腐蝕版を用い厚さ25μmのコロナ放電処理ポリエチレンテレクタレートフィルム「E5100」(東洋紡績社製)のコロナ放電処理面に印刷し印刷物(1)〜(4)、(18)、(19)を得た。…
【0075】
【表1】

【0076】 表1に示すように、実施例1〜17の導電性インキ組成物は、比較例1、2に比べて低い表面抵抗値を示し、導電性に優れていることがわかった。更に、実施例5〜13、17の導電性インキ組成物は、耐アルコール性やインキの安定性も優れていることがわかった。」

甲第2号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記2a:段落0053及び0059
「【0053】
本発明に使用する印刷インキ組成物には、凝集力向上剤としてチタンキレート用いることができる。…
【0059】
また、表刷り用グラビア印刷インキでは、耐熱性、耐油性や耐摩擦性の向上を目的として、架橋剤やワックス成分を含有させることができる。ワックスとしては、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックスなどの既知の各種ワックスが利用できる。」

甲第3号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記3a:段落0037〜0039及び0041
「【0037】さらに、本発明では、接着性や耐性の向上を目的として、各種ハードレジン、架橋剤、ワックスを添加する事ができる。
【0038】ここで、ハードレジンとしては、…塩素化ポリプロピレン…が挙げられる。これらハードレジンを利用すると、特に表面処理の行われていないプラスチックフィルムに対して、接着性の向上効果が期待できる。
【0039】また、表刷り用グラビア印刷インキでは、耐熱性や耐摩擦性の向上を目的として、架橋剤やワックス成分を含有させることができる。…
【0041】一方、ワックスとしては、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックスなどの既知の各種ワックスが利用できる。」

甲第4号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記4a:段落0015及び0022
「【0015】…本発明の印刷インキに使用する結着樹脂は、従来のグラビアインキ…に通常使われているものを使用することができる。具体的には…ポリアミド、ポリウレタン…等を挙げることができる。…
【0022】
<グラビアインキ−1の調製>
アルミニウム蒸着膜細片スラリー−1 30部
ウレタン樹脂(大日本インキ化学製「ハ゛ーノックL7−617」) 30部
塩素化ポリプロピレン(日本製紙製「スーハ゜ークロン803M」) 2部
下記組成ポリエチレンワックスコンパウンド 3部
三井化学製「ハイワックス210P」 20%
ニトロセルロース(HIG7) 10%
酢酸エチル 70%
酢酸エチル 30部
上記を混合し、グラビアインキ−1を調製した」

甲第5号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記5a:段落0018
「【0018】実施例1
温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた反応槽に、重合脂肪酸〔一塩基酸:6〜8%、二塩基酸:74〜77%、三塩基酸:17〜18%;ハリマ化成(株)製「ハリダイマー200」〕276.5部、トール油脂肪酸〔ハリマ化成(株)製「ハートールFA−1」〕11.2部、エチレンジアミン30部、両末端カルボキシル変性ポリジメチルシロキサン〔信越化学工業(株)製「X−22−162A」〕4部を仕込み、窒素ガス雰囲気中、210℃で2時間反応させた後、ロジンエステル〔酸価:10〜16,軟化点:155〜170℃,荒川化学工業(株)製「ペンセルD−160」〕80部を仕込み,更に210℃で3時間反応させ淡褐色固体のポリアミド樹脂組成物(PA1)を得た。該PA1の分析値および物性値を表1に示す。」

甲第6号証の刊行物には、次の記載がある(当審注:要部を抜粋した)。
摘記6a:第814〜815頁
「 表−4.6 被印刷基材,インキタイプ,用途の関係
───────┬───────────────┬─┬────────
被印刷基材 │インキタイプおよび主なバインダ│…│ 用 途
───────┼───────────────┼─┼────────
… │ … │…│ …
───────┼───────────────┼─┼────────
ポリオレフィン│ポリアミド,塩素化PP │…│表刷り(処理用)
───────┼───────────────┼─┼────────
… │ … │…│ …
───────┴───────────────┴─┴────────


甲第7号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記7a:第262〜264頁
「1.4 グラビアインキに用いられる樹脂の種類
樹脂は着色剤をインキ中に分散,安定させ基材に固着させる機能を担うとともに,インキ皮膜の機械的強度や後加工適性,印刷適性を決定づける重要な要素であり,樹脂の選択がインキ設計上で大きなウエイトを占める。グラビアインキ用として使用可能な樹脂は,ロジンおよびその誘導体,ニトロセルロースおよびセルロース誘導体などの天然樹脂系,ゴム系樹脂,塩酢ビ樹脂,ポリアミド樹脂,塩素化ポリオレフィン樹脂,ポリウレタン樹脂等の合成樹脂が挙げられ,グラビアインキで使用される溶剤に溶ける全ての樹脂がその対象となる。…
1.4.2 ポリアミド樹脂1)
グラビアインキには多塩基酸と多価アミンとを重縮合して得られる熱可塑性ポリアミドが使用される。…
グラビアインキに使用されるポリアミド樹脂には,重量平均分子量が5,000〜50,000のものが好適に用いられる。分子量が5,000未満では皮膜強度が十分でないために,印刷された際に耐摩擦性,耐引っ掻き性の低下を招く可能性がある。また分子量が50,000より大きい場合はインキの安定性が低下することがある。
またグラビアインキに使用されるポリアミド樹脂の軟化点は80〜150℃の範囲が好ましく,軟化点が80℃未満の場合は,印刷後のインキ皮膜が硬くなり,接着性や揉み性の低下を招くので好ましくない。ポリアミド樹脂は柔軟性があり各種プラスチックフィルムに対して接着性が良い。また顔料分散性が良く,グロスのあるインキが得られることから,プラスチックフィルム用表刷りインキに用いられる。一方で,耐熱性,低温安定性が悪く,また樹脂皮膜にタック感があるため,これらの欠点を補うためにニトロセルロースと併用される。…
1.4.4 塩素化ポリプロピレン
ポリプロピレンを塩素化したもので,グラビアインキには塩素化度が15〜45のものが用いられる。…さらに,塩素化ポリプロピレンの重量平均分子量は5,000〜100,000の範囲のものが用いられる。重量平均分子量が3,000未満では耐ブロッキング性および基材への密着性が低下し,100,000以上では他の併用樹脂との相溶性が悪くなる。塩素化ポリプロピレンも塩酢ビ樹脂と同様に脱塩素化の方向にある。」

甲第8号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記8a:第35頁
「(まる8(当審注:「○」の中に「8」))塩素化ポリプロピレン
低塩素化ポリプロピレンは,耐油性,耐熱性,耐薬品性,ラミネート適性などがすぐれ,処理および未処理のポリプロピレンフィルムに対する密着性が良好なため,ラミネート用ポリプロピレンフィルムのグラビアインキの樹脂として使用される。」

摘記8b:第106頁
「〔処理ポリエチレン用インキの処方例〕
有機顔料 14
ポリアミド樹脂 20
ニトロセルロース(L型,1/2秒または1/4秒) 3
イソプロピルアルコール(IPA) 46
酢酸エチル 5
トルエン 10
ポリエチレンワックス 2
100 」

甲第9号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記9a:第132頁の第3図




摘記9b:第133頁の第2表




参考文献Aには、次の記載がある。
摘記A1:段落0019及び0023〜0024
「【0019】本発明におけるポリエチレンワックス(A)の60℃における針入度が5以下であるものが良好な耐摩擦性を与えるため好ましい。ワックスがこれより柔らかい(針入度の値が大きい)と耐摩擦性が低下する。尚、針入度の測定はASTM D1321の方法により行う。…
【0023】本発明の水性インキ用添加剤はフレキソインキ、グラビアインキ、オーバープリンティングニス等特に限定はなく全ての水性インキに用いることができる。
【0024】本発明の水性インキ用添加剤は水性インキに対して、0.1〜10重量%好ましくは1〜5重量%の範囲で添加される。」

参考文献Bには、次の記載がある。
摘記B1:請求項1
「【請求項1】顔料、バインダー樹脂、キレート剤および有機溶剤を含有する表刷り用グラビア印刷インキ組成物であって、上記バインダー樹脂としてポリウレタン樹脂(A)及びセルロース誘導体(B)及び/又は塩化ビニル酢酸ビニル共重合体(C)を、(A):((B)+(C))=95:5〜5:95の固形分質
量比率で含有し、上記キレート剤の含有量が、表刷り用グラビア印刷インキ組成物中、0.1〜8.0質量%であり、さらに、質量平均分子量500〜10,000のポリアミド樹脂を表刷り用グラビア印刷インキ組成物中に0.1〜3.0質量%含有させることを特徴とする表刷り用グラビア印刷インキ組成物。」

摘記B2:段落0033〜0034及び0037
「【技術分野】
【0001】
本発明は、高速印刷適性、プラスチックフィルムへの接着性、および耐アルコール性、耐熱性、耐油性、延伸性、耐ブロッキング性等の皮膜物性に優れ、とりわけ、ポリウレタン樹脂とセルロース誘導体及び/又は塩化ビニル酢酸ビニル共重合体とを含むバインダー樹脂からなるインキでは困難な、軟質透明抗菌等の特殊な塩化ビニルシートに対する高温高湿における耐ブロッキング性においても、特定の質量分子量を有するポリアミドを含有させることによって高い効果を発揮させた、表刷り用グラビア印刷インキ組成物及びそれを印刷した表刷りグラビア印刷物に関する。…
【0033】…本発明の表刷り用グラビア印刷インキ組成物に必要に応じて使用するハードレジンとしては…塩素化ポリプロピレン…等が挙げられる。これらハードレジンを利用すると、特に表面処理の行なわれていないプラスチックフィルムに対して、接着性の向上を期待できる。そして、本発明の表刷り用グラビア印刷インキ組成物中におけるハードレジンを含有させる際の含有量は、5.0質量%未満が適量である。
【0034】…さらに、本発明の表刷り用グラビア印刷インキ組成物には、耐摩擦性の向上を目的として、本発明の表刷り用グラビア印刷インキ組成物の性能が低下しない範囲で、ワックスを添加することができる。ワックスとしては、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックスなどの既知の各種ワックスが利用できる。…
【0037】…印刷される基材としては、金属、木材、紙及びプラスチックのいずれでも良いが、中でもプラスチックフィルムが好ましい。このようなプラスチックフィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの延伸および無延伸ポリオレフィンフィルム、ポリエステル、ナイロン、セロファン、ビニロン等のフィルムを挙げることができる。…そして、ポリアミド樹脂を含有しながら、高速印刷が可能という特長から、短時間のうちに多量の印刷物を得ることができ、日配食品を個包装するための印刷物の製造に好適に利用されるものである。」

摘記B3:段落0039、0044、0046及び0060
「【0039】…ポリウレタン樹脂ワニス2(固形分30%)を得た。…
【0044】…ポリマイド−S300(三洋化成工業社製、質量平均分子量5,000)…
【0046】(実施例1〜25、及び比較例1〜10の表刷り用グラビア印刷インキ組成物の調製)
表1に示す材料をペイントコンディショナーで混練し、実施例1〜18、比較例1〜5の表刷り用グラビア印刷インキ組成物の白色インキ組成物、実施例19〜25、比較例6〜10の表刷り用グラビア印刷インキ組成物の藍インキ組成物を調製した。なお、表1に記載の数値は質量%である。また、(ジイソシアネート化合物のモル当量/ジオール化合物のモル当量)をイソシアネート比率とした。…
【0060】【表1】…



参考文献Cには、次の記載がある。
摘記C1:段落0008及び0015
「【0008】本発明に係わるグラビア印刷インキの構成材料は次の通りである。バインダ−としてはポリアミド樹脂、ニトロセルローズ樹脂を使用する。ポリアミド樹脂は、分子量が3,000〜20,000のものが好ましい。ニトロセルローズ樹脂は、窒素分が10〜13、平均置換度が1.5〜3.0のものが好ましい。…
【0015】実施例1
二酸化チタン 0.0 重量パ−セント
ファイカ−ブH 0.5 重量パ−セント
バインダ− 20.0 重量パ−セント
有機溶剤 49.0 重量パ−セント
ポリエチレンワックス 0.5 重量パ−セント
上記混合物をビーズミルで練肉し、本発明に係わるグラビア印刷インキを得た。」

2.刊行物に記載された発明
(1)甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
摘記1cの「実施例における「部」は、「重量部」を表す。…ポリアミドワニスの調製…ポリアミド樹脂(アミン価3mgKOH/g、酸価5mgKOH/g、軟化点115℃)35部を、酢酸エチル部15、イソプロピルアルコール25部、メチルシクロヘキサン25部に混合溶解させて、ワニスCを得た。…ニトロセルロースワニスの調製…ニトロセルロース(NC RS−2 KCNC、KOREA CNC LTD製)20部を、酢酸エチル26部とイソプロピルアルコール20部、メチルシクロヘキサン34部に混合溶解させて、ワニスDを得た。」との記載、及び
摘記1dの「比較例2…ワニスC 29.5部、ワニスD 26.5部、カーボン(リーガル99R、キャボット社製)11部、混合溶剤(酢酸エチル/N−プロピルアセテート/イソプロピルアルコール/メチルシクロヘキサン=20/20/20/40)30部の混合物を均一に撹拌混合した後、直径1mmのガラスビーズを用いて、アイガーミルで10分練肉後、塩素化ポリオレフィン:スーパークロンC[日本製紙(株)製]1部、テトライソプロポキシチタン[三菱瓦斯化学(株)製]2部を混合し印刷インキ19を得た。…印刷インキ4、19は、印刷時の粘度に調整するため、…希釈し希釈印刷インキ4’、19’を得た。…希釈印刷インキ…4’…19’を、グラビア校正機を利用して…印刷し印刷物…(4)…(19)を得た。」との記載からみて、甲第1号証には、比較例2について、次のようなグラビア校正機に用いられる希釈印刷インキ19’が記載されていると認められる。
「ポリアミド樹脂(アミン価3mgKOH/g、酸価5mgKOH/g、軟化点115℃)35重量部を、酢酸エチル15重量部、イソプロピルアルコール25重量部、メチルシクロヘキサン25重量部に混合溶解させたワニスC 29.5重量部、
ニトロセルロース20重量部(NC RS−2 KCNC、KOREA CNC LTD製)を、酢酸エチル26重量部、イソプロピルアルコール20重量部、メチルシクロヘキサン34重量部に混合溶解させたワニス D26.5重量部
カーボン(商品名:リーガル99R、キャボット製)11重量部、及び、
混合溶剤(酢酸エチル/N−プロピルアセテート/イソプロピルアルコール/メチルシクロヘキサン=20/20/20/40)30重量部の混合物を均一に撹拌混合した後、直径1mmのガラスビーズを用いて、アイガーミルで10分練肉後、塩素化ポリオレフィン(商品名:スーパークロンC)1重量部、及び、テトライソプロポキシチタン(三菱瓦斯化学(株)製)2重量部を混合して印刷インキ19を得て、
上記印刷インキ19を、メチルシクロヘキサン40部、n−プロピルアセテート20部、酢酸エチル20部、イソプロピルアルコール20部からなる混合溶剤を用いて、25℃においてザーンカップNo.3で測定した粘度が16秒となるように希釈して得られた、グラビア校正機に用いられる希釈印刷インキ19’。」(以下「甲1発明」という。)

(2)参考文献Bに記載された発明(参B発明)
参考文献Bの請求項1(摘記B1)には、
「顔料、バインダー樹脂、キレート剤および有機溶剤を含有する表刷り用グラビア印刷インキ組成物であって、上記バインダー樹脂としてポリウレタン樹脂(A)及びセルロース誘導体(B)及び/又は塩化ビニル酢酸ビニル共重合体(C)を、(A):((B)+(C))=95:5〜5:95の固形分質量比率で含有し、上記キレート剤の含有量が、表刷り用グラビア印刷インキ組成物中、0.1〜8.0質量%であり、さらに、質量平均分子量500〜10,000のポリアミド樹脂を表刷り用グラビア印刷インキ組成物中に0.1〜3.0質量%含有させた表刷り用グラビア印刷インキ組成物。」についての発明(以下「参B発明」という。)が記載されているといえる。

3.甲第1号証を主引用例とした場合の検討
(1)対比
本1発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ワニスC」における「ポリアミド樹脂(アミン価3mgKOH/g、酸価5mgKOH/g、軟化点115℃)」(以下、単に「ポリアミド樹脂」ということもある。)と「ワニスD」における「ニトロセルロース(NC RS−2 KCNC、KOREA CNC LTD製)」(以下、単に「ニトロセルロース」ということもある。)は、甲第1号証の段落0017〜0018(摘記1b)の「熱可塑性樹脂は、本発明の導電性インキ組成物のバインダー成分として使用し、…ポリアミド、…セルロース誘導体、…等を挙げることができ」との記載にあるように、甲1発明においては「バインダー成分」として用いられるものである。そして、その質量比は、1032.5:530(=[35重量部(ポリアミド樹脂)×29.5重量部(ワニスC)]:[20重量部(ニトロセルロース)×26.5重量部(ワニスC)])と求められ、この質量比は、本1発明で規定する「ポリアミド樹脂及びセルロース系樹脂」の質量比である「95:5〜30:70」の範囲内のものである。
また、甲1発明のインク組成物の組成には、「ポリウレタン樹脂」は含有されていない。
そうすると、甲1発明の「ポリアミド樹脂」及び「ニトロセルロース」は、本1発明の「バインダー樹脂」に相当し、しかも、「(3)バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂及びセルロース系樹脂を、95:5〜30:70の質量比で含有する(ただし、ポリウレタン樹脂及びセルロース誘導体を95:5〜5:95の固形分量比率で含有する場合を除く。)」構成を充足する。

甲1発明の「カーボン(商品名:リーガル99R、キャボット製)」は、甲第1号証の段落0075(摘記1d)の表1の見出し欄の「顔料/樹脂(W/W%)」の数値からみて、「顔料」として用いられていることが明らかであり、本1発明の「顔料」に相当する。

甲1発明の「塩素化ポリオレフィン(商品名:スーパークロンC)」は、本1発明の「塩素化ポリオレフィン樹脂」に相当する。

甲1発明の「グラビア校正機に用いられる希釈印刷インキ19’」は、「導電成分としてBET比表面積800〜1500m2/gでありDBP吸油量300〜600ml/100gであるカーボンブラック」が含まれておらず、「メチルシクロヘキサン40部、n−プロピルアセテート20部、酢酸エチル20部、イソプロピルアルコール20部からなる混合溶剤」で希釈され、「グラビア校正機に用いられる」ものであるからグラビアインキといえるものであって、本1発明の「有機溶剤系グラビアインキ(ただし、導電成分としてBET比表面積800〜1500m2/gでありDBP吸油量300〜600ml/100gであるカーボンブラックを、熱可塑性樹脂に分散してなることを特徴とする導電性インキ組成物を除く。」に相当する。

してみると、本1発明と甲1発明は「顔料、バインダー樹脂および塩素化ポリオレフィン樹脂を含有し、下記(3)を満たす有機溶剤系グラビアインキ(ただし、導電成分としてBET比表面積800〜1500m2/gでありDBP吸油量300〜600ml/100gであるカーボンブラックを、熱可塑性樹脂に分散してなることを特徴とする導電性インキ組成物を除く。)。
(3)バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂及びセルロース系樹脂を、95:5〜30:70の質量比で含有する(ただし、ポリウレタン樹脂及びセルロース誘導体を95:5〜5:95の固形分量比率で含有する場合を除く。)。」という点で一致し、次の(α)、(x1)及び(x2)の点において相違する。

(α)本1発明は、「炭化水素系ワックス」を含み、「(1)炭化水素系ワックスのJISK2207で規定された25℃における硬度(針入度)が、0.5〜9.5であり、炭化水素系ワックスをグラビアインキ総量中に0.1〜2.5質量%含有する。」という条件を満たすのに対して、甲1発明は「炭化水素系ワックス」を含まない点。
(x1)用途について、本1発明は「包装材料に用いられる基材の表刷り印刷用」であるのに対して、甲1発明の用途は規定されていない点。
(x2)塩素化ポリオレフィン樹脂について、本1発明は「(2)塩素化ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、5,000〜100,000であり、グラビアインキ総量中に0.1〜2.5質量%含有する」ものであるのに対し、甲1発明の「塩素化ポリオレフィン(商品名:スーパークロンC)」の重量平均分子量及び含有量は不明な点。

(2)判断
事案に鑑み、相違点(x1)、相違点(α)について順に検討する。
ア.相違点(x1)について
甲第1号証の【0008】には、「本発明は、グラビア印刷方式などの薄膜塗工印刷機により印刷された基材表面の表面抵抗値を107Ω/□以下にすることが可能なインキであり、かつ印刷適性、印刷効果に優れる導電性インキを提供することを目的とする。」と記載されているところ、【0075】の【表1】には、比較例2の表面抵抗値は「8.80E+09」(=8.80×108)Ω/□と記載され、この値は107Ω/□より大きいことから、甲1発明は、上記【0008】に記載されたような「印刷適性、印刷効果に優れる導電性インキ」ではない。
そうすると、甲1発明は、甲第1号証においては、実施例に対する比較対照のために示された具体例というべきであり、その用途は明らかではなく、どのような用途に用いることができるのかは不明というほかない。
してみると、甲1発明を包装材料に用いられる基材の表刷り印刷用に使用することは想定されているとはいえず、また、そのような用途に用いることの動機付けは見出すことはできない。
したがって、相違点(x1)に係る構成を導き出すことが当業者にとって容易であるとはいえない。

イ.相違点(α)について
甲1発明は、上述したように比較例であって、どのような特性が必要なのかは明らかではないことから、甲1発明にさらに「炭化水素系ワックス」を配合すること、及びその硬度と配合量として、本1発明の範囲のものを選択することが、当業者において動機づけられないことは明らかである。
したがって、相違点(α)に係る構成を導き出すことが当業者にとって容易であるとはいえない。

ウ.本1発明の効果について
本1発明は、接着性及び耐摩擦性のみならずインキの経時安定性や印刷適性も十分に確保して、産業上利用できるインキを提供することができるという効果を奏するものであって、その作用効果は、実施例48〜53において示されている。特に、一般的に接着性及び耐摩擦性が劣る基材であるコロナ処理されていない未延伸ポリプロピレン(CPP)に対しても、本1発明は、優れた接着性及び耐摩擦性を奏することが確認されている。
したがって、本1発明の上記効果が当業者にとって容易に予測できるといえる根拠は存在しない。

エ.特許異議申立人の主張について
令和3年6月15日付けの意見書の第1〜3頁において、特許異議申立人は「(1−1)…上記意見書において特許権者が提示した参考例1〜9は…「(1)、(2)および(3)の条件にある数値範囲の臨界的な意義を理解できる比較実験データ」に該当しないことが明らかである。よって、本1発明に対応する本件発明1の全てに格別の効果があるとは認められず、本件発明1は依然として進歩性を有さず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」と主張する。
しかしながら、上記参考例1及び6〜7では、(2)の塩素化ポリオレフィンに関して、本1発明の重量平均分子量の上限値(10万)の近傍の「16万」である場合に(分子量が10万の追試例2に比して)経時安定性と接着性の性能が極端に悪化し、本1発明の含有量の下限値(0.1質量%)の近傍の「0質量%」と上限値(2.5質量%)の近傍の「3質量%」で(0.2質量%の追試例8及び2.3質量%の追試例9に比して)接着性又は経時安定性の性能が極端に悪化することが示されており、
上記参考例2〜5では、(1)の炭化水素系ワックスに関して、本1発明の硬度(針入度)の上限値(9.5)の近傍の「17」及び下限値(0.5)の近傍の「0.1」で(硬度9.5の追試例3に比して)耐擦傷性などの性能が極端に悪化し、本1発明の含有量の上限値(2.5質量%)の近傍の「3質量%」と下限値(0.1質量%)の近傍の「0質量%」で(0.1質量%の追試例4及び2.5質量%の追試例5に比して)経時安定性又は耐擦傷性の性能が極端に悪化することが示されており、
上記参考例8及び9では、(3)のバインダー樹脂の質量比に関して、本1発明の上限値(95:5)の近傍の「100:0」と下限値(30:70)の近傍の「0:100」で耐擦傷性又は接着性の性能が極端に悪化することが示されているので、
本1発明の数値範囲内のものに顕著な作用効果があることは明らかであり、上記特許異議申立人の主張は採用できない。
また、同意見書の第3〜4頁において、特許異議申立人は「(1−2)…グラビアインキを扱う当業者が、甲第1号証に記載されたグラビア印刷に適した具体的なインキ組成物に接すれば、かかるインキ組成物の特性を改良すべく試行錯誤することは容易であると言わざるを得ず、インキ組成物が比較例であるか実施例であるかについては関係がなく、炭化水素系ワックスを添加したことによって得られる効果が自明であることからすれば、試行錯誤を阻害する要因にもなりえない。」と主張する。
しかしながら、甲第1号証の【0028】には、「基材としては、各種プラスチックフィルム、プラスチックシート、合成樹脂成形品又は紙などが用いられる。又、成型加工可能なプラスチックシート、例えばHIPS(耐衝撃性ポリスチレン)、A−PET(非晶質ポリエチレンテレフタレート)、PP、ポリカーボネート等が使用できる。」と記載されており、基材は様々な材質のものに亘ることが示され、ポリカーボネートといった包装材料に用いられる基材としては用いられない基材も示されており、甲1発明をどのような特性を有するものに改良すればいいのかは明らかではない。また、甲1発明に、炭化水素系ワックスを添加することが望ましいかどうかも不明である。
したがって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

オ.まとめ
以上総括するに、甲第1〜9号証及び参考文献A〜Cに記載された技術事項を、どのように組み合わせたとしても、上記(x1)及び(α)の相違点に係る構成を導き出すことが当業者にとって容易であるとはいえず、本1発明は、上記(x1)及び(α)の相違点に係る構成を具備することにより格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、相違点(x2)について検討するまでもなく、本1発明は、甲第1〜9号証及び参考文献A〜Cに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4.参考文献Bを主引用例とした場合の検討
(1)対比
本1発明と参B発明とを対比する。
参B発明の「顔料」、「セルロース誘導体(B)」、「ポリアミド樹脂」及び「表刷り用グラビア印刷インキ組成物」は、本1発明の「顔料」、「セルロース系樹脂」、「ポリアミド樹脂」及び「表刷り印刷用である有機溶剤系グラビアインキ」にそれぞれ相当する。
また、参B発明の組成に「導電成分としてBET比表面積800〜1500m2/gでありDBP吸油量300〜600ml/100gであるカーボンブラック」が含まれていない。
そして、本1発明と参B発明とは、バインダー樹脂にポリアミド樹脂及びセルロース系樹脂が含まれる点で共通する。
そうすると、本1発明と参B発明は「顔料、バインダー樹脂、を含有する有機溶剤系グラビアインキであり、
(3)バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂及びセルロース系樹脂を含有する、表刷り印刷用である有機溶剤系グラビアインキ(ただし、導電成分としてBET比表面積800〜1500m2/gでありDBP吸油量300〜600ml/100gであるカーボンブラックを、熱可塑性樹脂に分散してなることを特徴とする導電性インキ組成物を除く。)」である点で一致し、次の(β)、(γ)、(y)の点で相違が認められる。
(β)本1発明は「炭化水素系ワックス」を含有し、「(1)炭化水素系ワックスのJISK2207で規定された25℃における硬度(針入度)が、0.5〜9.5であり、炭化水素系ワックスをグラビアインキ総量中に0.1〜2.5質量%含有する。」のに対して、参B発明は「炭化水素系ワックス」を含有しない点。
(γ)本1発明は「塩素化ポリオレフィン樹脂」を含有し、「(2)塩素化ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、5,000〜100,000であり、グラビアインキ総量中に0.1〜2.5質量%含有する。」のに対して、参B発明は「塩素化ポリオレフィン樹脂」を含有するものではない点。
(y)バインダー樹脂について、本1発明は「(ただし、ポリウレタン樹脂及びセルロース誘導体を95:5〜5:95の固形分量比率で含有する場合を除く。)」としているのに対して、参B発明は「バインダー樹脂としてポリウレタン樹脂(A)及びセルロース誘導体(B)及び/又は塩化ビニル酢酸ビニル共重合体(C)を、(A):((B)+(C))=95:5〜5:95の固形分質量比率で含有」するものである点。

(2)判断
事案に鑑み、相違点(β)及び(γ)について順に検討する。
ア.相違点(β)について
参考文献Bには、ワックスに関し、「耐摩擦性の向上を目的として、本発明の表刷り用グラビア印刷インキ組成物の性能が低下しない範囲で、ワックスを添加することができる」(段落0034)と記載されているものの、耐摩擦性の向上を目的として、表刷り用グラビア印刷インキ組成物の性能が低下しない範囲で、どのようなワックスを添加できるかは明らかではない。また、参考文献Bには、その硬度や配合量の選択に関して記載も示唆もない。
さらに、取消理由通知で引用したいずれの文献にも、ポリアミド樹脂及びセルロース系樹脂を95:5〜30:70の質量比で含有するバインダー樹脂を含む表刷り用グラビア印刷インキ組成物において、炭化水素系ワックスのJISK2207で規定された25℃における硬度(針入度)が、0.5〜9.5であり、炭化水素系ワックスをグラビアインキ総量中に0.1〜2.5質量%含有させることで、耐摩擦性が向上することを示すことは示されていない。
したがって、相違点(β)に係る構成を導き出すことが当業者にとって容易であるとはいえない。
イ.相違点(γ)について
参考文献Bには、塩化ポリプロピレンを含む様々な種類のハードレジンを配合することにより「特に表面処理の行われていないプラスチックフィルムに対して、接着性の向上を規定できる。」との記載はあるが、特定の重量平均分子量の塩素化ポリオレフィンを選択することに関し記載も示唆もない。
さらに、取消理由通知で引用したいずれの文献にも、ポリアミド樹脂及びセルロース系樹脂を95:5〜30:70の質量比で含有するバインダー樹脂を含む表刷り用グラビア印刷インキ組成物において、塩素化ポリオレフィン樹脂を含有させ、その重量平均分子量は、5,000〜100,000であり、グラビアインキ総量中に0.1〜2.5質量%とすることで、接着性が向上することは示されていない。
したがって、相違点(γ)に係る構成を導き出すことが当業者にとって容易であるとはいえない。

ウ.本1発明の効果について
上述したように、本1発明は、接着性及び耐摩擦性のみならずインキの経時安定性や印刷適性も十分に確保して、産業上利用できるインキを提供することができるという効果を奏するものである。

エ.特許異議申立人の主張について
令和3年6月15日付けの意見書の第4〜5頁において、特許異議申立人は「『除くクレーム』とすることによって進歩性欠如の拒絶理由が解消されることはほとんどないと考えられ…上記訂正後の本件発明1は依然として進歩性を有さず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」と主張する。
しかしながら、引用発明としての甲1発明は「ポリウレタン樹脂及びセルロース誘導体を95:5〜5:95の固形分量比率で含有する」という技術的思想に立脚したものであるのに対して、本1発明は「ポリウレタン樹脂及びセルロース誘導体を95:5〜5:95の固形分量比率で含有する」という技術的思想のものを除くものであるから、本1発明と甲1発明の両者は「技術的思想としては顕著に異なる発明」といえるので、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

オ.まとめ
以上総括するに、甲第1〜9号証及び参考文献A〜Cに記載された技術事項を、どのように組み合わせたとしても、上記(β)及び(γ)の相違点に係る構成を導き出すことが当業者にとって容易であるとはいえず、本1発明は、上記(β)及び(γ)の相違点に係る構成を具備することにより格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、相違点(y)について検討するまでもなく、本1発明は、甲第1〜9号証及び参考文献A〜Cに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.本件特許の請求項3〜7に係る発明について
本件特許の請求項2に係る発明は、本件訂正により削除されたところ、本件特許の請求項3〜7に係る発明は、本1発明を引用し、さらに限定したものであるから、本1発明の進歩性が甲第1〜9号証及び参考文献A〜Cによって否定できない以上、本件特許の請求項3〜7に係る発明が、甲第1〜9号証及び参考文献A〜Cに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえない。

6.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立て理由について
(1)申立理由1(進歩性)について
特許異議申立人が主張する申立理由1(進歩性)は、本件特許発明1は、甲第1号証の実施例4及び比較例2、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、及び甲第8号証に記載の発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明2〜7は、甲第1号証〜甲第8号証に記載の発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるため、特許法第29条第2項(同法113条第2号)の規定により、本件特許は取り消されるべきであるというものであるところ、甲第1号証の比較例2については、上記第4〔理由1〕において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。

そこで、甲第1号証の実施例4を主たる引用発明とした場合について検討する。
甲第1号証には、上記実施例4として、甲1A発明の認定と同様にして、次のものが記載されていると認められる。
「ポリアミド樹脂(アミン価3mgKOH/g、酸価5mgKOH/g、軟化点115℃)35重量部を、酢酸エチル15重量部、イソプロピルアルコール25重量部、メチルシクロヘキサン25重量部に混合溶解させたワニスC 26.5部、
ニトロセルロース(NC RS−2 KCNC、KOREA CNC LTD製)20重量部を、酢酸エチル26重量部、イソプロピルアルコール20重量部、メチルシクロヘキサン34重量部に混合溶解させたワニスD 28.5部、
カーボン(ケッチェンブラックEC600JD、ケッッチェン・ブラック・インターナショナル(株)製)11部、及び、
混合溶剤(酢酸エチル/N−プロピルアセテート/イソプロピルアルコール/メチルシクロヘキサン=20/20/20/40)39.22部、ベンズイミダゾロン塩基性誘導体0.28部の混合物を均一に撹拌混合した後、直径1mmのガラスビーズを用いて、アイガーミルで10分練肉後、
塩素化ポリオレフィン(商品名:スーパークロンC[日本製紙(株)製])1部、
テトライソプロポキシチタン(三菱瓦斯化学(株)製)1.6部を混合して印刷インキ4を得て、
印刷インキ4を、メチルシクロヘキサン40部、n−プロピルアセテート20部、酢酸エチル20部、イソプロピルアルコール20部からなる混合溶剤を用いて、25℃においてザーンカップNo.3で測定した粘度が16秒となるように希釈して得られた、グラビア校正機に用いられる希釈印刷インキ4’。」(以下「甲1A発明」という。)

ここで、本1発明と甲1A発明とを対比する。
甲1A発明のポリアミド樹脂とニトロセルロースの質量比は、927.5:570(=[35重量部(ポリアミド樹脂)×26.5重量部(ワニスC)]:[20重量部(ニトロセルロース)×28.5重量部(ワニスC)])と求められ、この質量比は、本1発明で規定する「ポリアミド樹脂及びセルロース系樹脂」の質量比である「95:5〜30:70」の範囲内のものである。
また、甲1A発明のインク組成物の組成には、「ポリウレタン樹脂」は含有されていない。
そうすると、甲1A発明の「ポリアミド樹脂」及び「ニトロセルロース」は、本1発明の「バインダー樹脂」に相当し、しかも、「(3)バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂及びセルロース系樹脂を、95:5〜30:70の質量比で含有する(ただし、ポリウレタン樹脂及びセルロース誘導体を95:5〜5:95の固形分量比率で含有する場合を除く。)」構成を充足する。

甲1A発明の「カーボン(商品名:リーガル99R、キャボット製)」は、甲第1号証の段落0075(摘記1d)の表1の見出し欄の「顔料/樹脂(W/W%)」の数値からみて、「顔料」として用いられていることが明らかであり、本1発明の「顔料」に相当する。

甲1A発明の「塩素化ポリオレフィン(商品名:スーパークロンC)」は、本1発明の「塩素化ポリオレフィン樹脂」に相当する。

甲1A発明の「グラビア校正機に用いられる希釈印刷インキ4’」は、「メチルシクロヘキサン40部、n?プロピルアセテート20部、酢酸エチル20部、イソプロピルアルコール20部からなる混合溶剤」で希釈され、「グラビア校正機に用いられる」ものであるからグラビアインキといえるものであって、本1発明の「有機溶剤系グラビアインキ」に相当する。

してみると、本1発明と甲1A発明は「顔料、バインダー樹脂および塩素化ポリオレフィン樹脂を含有し、下記(3)を満たす有機溶剤系グラビアインキ。
(3)バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂及びセルロース系樹脂を、95:5〜30:70の質量比で含有する(ただし、ポリウレタン樹脂及びセルロース誘導体を95:5〜5:95の固形分量比率で含有する場合を除く。)。」という点で一致し、次の(α’)、(x1’)、(x2’)及び(x3’)の点において相違する。

(α’)本1発明は、「炭化水素系ワックス」を含み、「(1)炭化水素系ワックスのJISK2207で規定された25℃における硬度(針入度)が、0.5〜9.5であり、炭化水素系ワックスをグラビアインキ総量中に0.1〜2.5質量%含有する。」という条件を満たすのに対して、甲1A発明は「炭化水素系ワックス」を含まない点。
(x1’)用途について、本1発明は「包装材料に用いられる基材の表刷り印刷用」であるのに対して、甲1A発明の用途は規定されていない点。
(x2’)塩素化ポリオレフィン樹脂について、本1発明は「(2)塩素化ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、5,000〜100,000であり、グラビアインキ総量中に0.1〜2.5質量%含有する」ものであるのに対し、甲1A発明の「塩素化ポリオレフィン(商品名:スーパークロンC)」の重量平均分子量及び含有量は不明な点。
(x3’)本1発明は、「(ただし、導電成分としてBET比表面積800〜1500m2/gでありDBP吸油量300〜600ml/100gであるカーボンブラックを、熱可塑性樹脂に分散してなることを特徴とする導電性インキ組成物を除く。)」ことが規定されているのに対し、甲1A発明は、このようなことは規定されていない点。

ここで、事案に鑑み、相違点(x1’)、相違点(α’)について順に検討する。
相違点(x1’)について
甲第1号証の【0008】には、「本発明は、グラビア印刷方式などの薄膜塗工印刷機により印刷された基材表面の表面抵抗値を107Ω/□以下にすることが可能なインキであり、かつ印刷適性、印刷効果に優れる導電性インキを提供することを目的とする。」と記載されており、甲1A発明は、導電性インキとして使用されるものであることが理解される。
また、甲第1号証の【0028】には、「基材としては、各種プラスチックフィルム、プラスチックシート、合成樹脂成形品又は紙などが用いられる。又、成型加工可能なプラスチックシート、例えばHIPS(耐衝撃性ポリスチレン)、A−PET(非晶質ポリエチレンテレフタレート)、PP、ポリカーボネート等が使用できる。」と記載されており、基材は様々な材質のものに亘ることが示され、ポリカーボネートといった包装材料に用いられる基材としては用いられない基材も示されている。
そして、一般に、包装材料に用いられる基材として導電性インキが用いられるものではないことから、甲1A発明を包装材料に用いられる基材として用いることの動機付けは見出すことはできない。
したがって、相違点(x1’)に係る構成を導き出すことが当業者にとって容易であるとはいえない。

相違点(α’)について
甲1A発明は、上述したように包装材料に用いられる基材として用いることの動機付けは見出すことはできず、包装材料に用いられる基材に適した特性が必要となるのかどうかは明らかではないことから、甲1A発明にさらに「炭化水素系ワックス」を配合すること、及びその硬度と配合量として、本1発明の範囲のものを選択することが、当業者において動機づけられないことは明らかである。
また、特許異議申立書において提示されたいずれの文献にも、ポリアミド樹脂及びセルロース系樹脂を95:5〜30:70の質量比で含有するバインダー樹脂を含む表刷り用グラビア印刷インキ組成物において、炭化水素系ワックスのJISK2207で規定された25℃における硬度(針入度)が、0.5〜9.5であり、炭化水素系ワックスをグラビアインキ総量中に0.1〜2.5質量%含有させることで、耐摩擦性が向上することを示すことは示されていない。
したがって、相違点(α’)に係る構成を導き出すことが当業者にとって容易であるとはいえない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本1発明は甲1A発明から当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。本3〜7発明についても同様である。

よって、特許異議申立人の甲第1号証の実施例4を主たる引用例とする、本件発明の進歩性欠如の主張は採用することができない。

(2)申立理由2(実施可能要件、サポート要件)について
ア.申立理由2の概要
特許異議申立人が主張する申立理由2は、本件明細書の実施例に具体的に開示された内容を、本件特許発明1〜7の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえず、本件特許発明7の全てにわたって本件発明の効果を達成できるともいえないから、特許法第36条第4項第1号(同法113条第4号)、特許法第36条第6項第1号(同様113条第4号)の規定により、本件特許は取り消されるべきである、というものである。
そして、(4−4−1)本件明細書において実施例をもって「炭化水素系ワックスの硬度(針入度)」が具体的に開示されているのは、「1.0」(実施例25、26)、「2.0」(実施例22、24)、及び「7.0」〔実施例21、23)の3点に限られ、
(4−4−2)本件明細書において実施例をもって「炭化水素系ワックスの含有量」が具体的に開示されるのは、「0.5質量%」(実施例25、26)及び「0.8質量%」(実施例21−24)の2点に限られ、
(4−4−3)本件明細書において実施例をもって「塩素化ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量」が具体的に開示されるのは、「10,000」(実施例21−24)及び「18,000」(実施例25、26)の2点に限られ、
(4−4−4)本件明細書において実施例をもって「塩素化ポリオレフィン樹脂の含有量」が具体的に開示されるのは、「0.5質量%」(実施例21−26)の1点に限られ、
(4−4−5)本件明細書において実施例をもって「バインダー樹脂の種類」が具体的に開示されるのは、「ポリアミド樹脂とセルロース系樹脂の組み合わせ」(実施例21−26)の1点に限られ、さらに、「バインダー樹脂中のセルロース系樹脂の含有量」が具体的に開示されるのは、「25質量%」(実施例21、22、25、26)及び「26.7質量%」(実施例23、24)の2点に限られ、
(4−4−6)本件明細書において実施例をもって「ポリアミド樹脂の軟化点」が具体的に開示されるのは、「116℃」(実施例21−26)の1点に限られ、
(4−4−7)本件明細書において実施例をもって「ポリアミド樹脂の重量平均分子量」が具体的に開示されているのは、「6,000」(実施例21−26)の1点に限られ、
本件明細書の実施例に具体的に開示された内容を、本件特許発明1(又は4)の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえず、本件特許発明1(又は4)の全てにわたって本件発明の効果を達成できるともいえない、と主張する。

イ.判断
(ア)本件特許発明の解決しようとする課題について
本件特許明細書の段落0007を含む発明の詳細な説明の記載からみて、本件特許の請求項1及び3〜7に係る発明の解決しようとする課題は「基材の表面処理の有無や延伸の有無が異なる基材においても耐擦傷性および接着性を両立することができ、かつ印刷適性の優れた有機溶剤系グラビアインキの提供」にあるものと認められる。

(イ)炭化水素系ワックスの硬度(針入度)について
本件特許明細書の段落0044には「炭化水素系ワックスの硬度(針入度)…の値が0.5〜12…の範囲内の場合、バインダー樹脂との親和性・相溶性が良好となり、更に塩素化ポリオレフィン樹脂との相乗効果で、各種基材に対する接着性および耐擦傷性が双方向上する。」と記載され、同段落0087及び0089には、その下限値近傍の1.0の実施例25及び26、並びにその上限値近傍の7.0の実施例21及び23のものが、経時安定性、ドクタースジ、耐擦傷性、及び接着性の評価において、全て「5」となっていることから、炭化水素系ワックスの硬度(針入度)が0.5〜9.5であれば同様の効果が得られることを、十分に認識することができる。

(ウ)炭化水素系ワックスの含有量について
本件特許明細書の段落0043には「炭化水素系ワックスはグラビアインキ中に0.1〜2.5質量%含有する。基材への接着性、耐擦傷性およびインキの経時安定性が両立するため0.3〜2.5質量%で含有することが好ましい。」と記載され、同段落0087及び0089には、その下限値近傍の0.5質量%の実施例25及び26、並びにその上限値近傍の0.8質量%の実施例21〜24(及びその上限値近傍の2.5質量%の参考例12)のものが、経時安定性、ドクタースジ、耐擦傷性、及び接着性の評価において、全て「5」となっていることから、炭化水素系ワックスの含有量が0.1〜2.5質量%であれば同様の効果が得られることを、十分に認識することができる。

(エ)塩素化ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量について
本件特許明細書の段落0049には「塩素化ポリオレフィンの重量平均分子量は、5,000〜100,000であるとバインダー樹脂との相溶性および炭化水素系ワックスとの親和性が良好である。」と記載され、同段落0087及び0089には、その下限値近傍の10,000の実施例21〜24、並びにその上限値近傍の18,000の実施例25及び26(及びその上限値近傍の55,000の参考例4)のものが、経時安定性、ドクタースジ、耐擦傷性、及び接着性の評価において、全て「5」となっており(ただし、参考例12を使用した参考例31のCPPに対する接着性のみ「4」となっている)、令和2年9月29日付けの意見書の第7頁第7〜8行では「本件発明1は、塩素化ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量の数値限定に臨界的な意義がある発明ではなく、好ましい数値範囲を特定したものである。」とされていることから、塩素化ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が5,000〜100,000であれば同様の効果が得られることを、十分に認識することができる。

(オ)塩素化ポリオレフィン樹脂の含有量について
本件特許明細書の段落0049には「耐ブロッキング性とのバランスの観点から、塩素化ポリオレフィン樹脂はインキ100質量%中に0.1〜2.5質量%含有し、好ましくは0.2〜2.3質量%である。」と記載され、同段落0087及び0089には、その下限値近傍の0.2質量%の参考例13、及びその上限値近傍の2.3質量%の参考例14のものが、経時安定性、ドクタースジ、耐擦傷性、及び接着性の評価において、「5」又は「4」となっていることから、塩素化ポリオレフィン樹脂の含有量が0.1〜2.5質量%であれば同様の効果が得られることを、十分に認識することができる。

(カ)バインダー樹脂の種類及び含有量について
本件訂正により、訂正後の請求項1及びその従属項に係る発明は「(3)バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂及びセルロース系樹脂を、95:5〜30:70の質量比で含有する」ものに限定されており、本件特許明細書の段落0023には「ポリアミド樹脂/セルロース系樹脂は、それぞれ質量比で95/5〜30/70であることが好ましい。…この配合比および組み合わせのとき、後述する炭化水素系ワックスを併用することにより、印刷層の耐ブロッキング性および接着性が向上する。」と記載されていることから、バインダー樹脂の種類及び含有量についてサポート要件及び実施可能要件を満たさないとはいえない。

(カ)ポリアミド樹脂の軟化点及び重量平均分子量について
令和2年9月29日付けの意見書の第10頁第1〜2行では「本件発明4は、ポリアミド樹脂の軟化点と重量平均分子量の数値限定に臨界的な意義がある発明ではなく、好ましい数値範囲を特定したものである」とされており、ポリアミド樹脂の軟化点及び重量平均分子量は、本件特許の請求項1に「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項」として記載されていないので、本件特許発明の解決しようとする課題は、ポリアミド樹脂の軟化点及び重量平均分子量の範囲の如何によらず、解決できると認識することができる。

(キ)サポート要件と実施可能要件のまとめ
以上総括するに、本件特許の請求項1及びその従属項に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることは明らかなので、本件特許の請求項1及びその従属項の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえない。
また、本件特許明細書の実施例に具体的に開示された内容を、本件特許の請求項1及びその従属項の範囲まで拡張ないし一般化できるか否か、及び本件特許の請求項1及びその従属項の全てにわたって本件特許発明の効果を達成できるか否かは、当業者が当該請求項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されているか否かと関係がないので、本件特許の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に適合しないとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、訂正後の本件特許の請求項1及び3〜7に記載された発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件特許の請求項1及び3〜7に記載された発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、訂正前の請求項2は削除されているので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】有機溶剤系グラビアインキおよび印刷物
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤系グラビアインキおよびその印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種プラスチック基材を包装材料に使用する場合、通常基材の装飾または表面保護のために印刷インキを用いた印刷が施される。印刷を施した基材は、その後スリット工程を経て、最終的には食品包装用、化粧品包装、その他あらゆる用途に向けたパッケージとなる。
【0003】
フィルム基材に印刷される多くの場合には輪転印刷方式、すなわちフレキソまたはグラビア印刷方式が採用されている。特にグラビア印刷方式に用いられる版は文字や模様などの部分が凹版であり、このセルにインキが入る程度に版にインキを浸し、版を回転させながら、表面をドクターブレードにより余分なインキを掻き落とし、グラビアインキを基材へ印刷され、これは一度に連動した動作で行われる。グラビア印刷方式は高精細印刷かつ高速印刷が可能であるため大量生産に向いている。ただし、印刷における作業環境改善の推進が成されてきており、トルエンなどの芳香族溶剤を含有しないノントルエン系溶剤のインキが好まれる。一方、食品メーカーやコンバーターなどからは包装物の多様化、包装技術の高度化に伴い、印刷インキに対して高度の品質が要求されている。
【0004】
フィルム基材への表刷り印刷の分野においてのグラビアインキに求められる特性としては、包装袋の最外面に印刷層が形成されるため、インキそのものの印刷適性に加えて印刷層の被膜物性が重要となる。特には基材への密着性と耐擦傷性の高いレベルでの両立が求められる。一般的に表刷り印刷用グラビアインキはポリプロピレン基材などのポリオレフィン基材、特殊な基材では防曇基材などが知られている。当該基材は種類ごとに極性、親水性、硬さ、更には延伸基材と未延伸基材など様々なので、あらゆる基材において一様に接着性や被膜特性を得ることが難しく、それらを同時に高いレベルで耐擦傷性および基材への接着性を両立して維持するには困難を伴うものであった。
【0005】
そこで、特許文献1などではポリアミド樹脂とセルロース樹脂をバインダーとする印刷インキが開示されているが、ポリアミド樹脂を主なバインダーとするインキはインキ被膜が脆いため、印刷機のガイドロールとの摩擦によりインキが転移し、印刷物の外観を損ねてしまう問題があった。そこで特許文献2のようにポリウレタン系で高速印刷に適したインキが提案され、更には高速印刷かつ耐ブロッキング性を改善したポリウレタン系グラビアインキでは、キレート化剤、アミドワックス成分を使用することが例示されている(特許文献3、4、5)。また、特許文献6では網点再現性、接着性と臭気に優れた紙用グラビアインキが例示されている。しかしながら、印刷性能や物性は更に高レベルなものが必要とされており、印刷適性、インキ被膜物性を満足するものは未だ発明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−296143号公報
【特許文献2】特開2012−012597号公報
【特許文献3】特開2013−127038号公報
【特許文献4】特開2015−205993号公報
【特許文献5】特開2016−043600号公報
【特許文献6】特開2014−058653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は基材の表面処理の有無や延伸の有無が異なる基材においても耐擦傷性および接着性を両立することができ、かつ印刷適性の優れた有機溶剤系グラビアインキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、以下に記載のグラビアインキを用いることで上記課題を解決することを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、
下記(1)、(2)および(3)を満たす、有機溶剤系グラビアインキであって、包装材料に用いられる基材の表刷り印刷用である有機溶剤系グラビアインキ(ただし、導電成分としてBET比表面積800〜1500m2/gでありDBP吸油量300〜600ml/100gであるカーボンブラックを、熱可塑性樹脂に分散してなることを特徴とする導電性インキ組成物を除く。)に関する。
(1)炭化水素系ワックスのJISK2207で規定された25℃における硬度(針入度)が、0.5〜9.5であり、炭化水素系ワックスをグラビアインキ総量中に0.1〜2.5質量%含有する。
(2)塩素化ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、5,000〜100,000であり、グラビアインキ総量中に0.1〜2.5質量%含有する。
(3)バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂及びセルロース系樹脂を、95:5〜30:70の質量比で含有する(ただし、ポリウレタン樹脂及びセルロース誘導体を95:5〜5:95の固形分量比率で含有する場合を除く。)。
【0009】(削除)
【0010】
また、本発明は、バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂とセルロース系樹脂を含み、セルロース系樹脂は、窒素分10.5〜12.5のニトロセルロース樹脂を含有する、請求項1または2に記載の有機溶剤系グラビアインキに関する。
また、本発明は、ポリアミド樹脂の軟化点は、80〜140℃であり、ポリアミド樹脂の重量平均分子量は、2,000〜50,000である、請求項1〜3いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキに関する。
また、本発明は、ポリアミド樹脂は、タイマー酸あるいは重合脂肪酸に由来する構造をポリアミド樹脂中に50質量%以上含有する、請求項1〜4いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキに関する。
【0012】
また、本発明は、更に、金属キレートを含有する、前記有機溶剤系グラビアインキに関する。
【0013】
また、本発明は、基材上に、前記有機溶剤系グラビアインキからなる印刷層を有する印刷物に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、基材の表面処理の有無や延伸の有無が異なる基材においても耐擦傷性および接着性を両立することができ、かつ印刷適性の優れた有機溶剤系グラビアインキを提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
【0016】
本発明の有機溶剤系グラビアインキは以下、単に「グラビアインキ」または「インキ」と略記する場合があるが同義である。また、有機溶剤系グラビアインキが印刷された層は「印刷層」、「インキ層」または「インキ被膜」と記載する場合があるが同義である。
【0017】
本明細書において、「表刷り」とは、プラスチック基材に印刷した場合、インキ層側からみて印刷模様や絵柄が確認できる印刷方法をいう。なお、包装袋とした場合は袋の外面がインキ層となる。
【0018】
本発明の一実施態様は、顔料、バインダー樹脂、炭化水素系ワックスおよび塩素化ポリオレフィン樹脂を含有し、有機溶剤系グラビアインキであって下記(1)および(2)を満たすものである。
(1)炭化水素系ワックスのJIS K 2207で規定された25℃における硬度(針入度)が0.5〜12であり、炭化水素系ワックスをグラビアインキ総量中に0.1〜2.5質量%含有する。
(2)塩素化ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は5,000〜100,000であり、グラビアインキ総量中に0.1〜2.5質量%含有する。
【0019】
本発明者らは、グラビアインキ100質量%(総量)中に、JIS K 2207における硬度(針入度)が0.5〜12である炭化水素系ワックスを0.1〜2.5質量%含有、および重量平均分子量は5,000〜100,000である塩素化ポリオレフィン樹脂を0.1〜2.5質量%含有することで、異なる性質の基材であっても耐擦傷性と接着性を両立できることを見出した。また炭化水素系ワックスおよび塩素化ポリオレフィンの組み合わせにより印刷適性が良好であることを見出した。
【0020】
<バインダー樹脂>
バインダー樹脂とは本発明のグラビアインキにおける結着樹脂をいい、有機溶剤に可溶な熱可塑性樹脂であることが好ましい。バインダー樹脂はガラス転移温度が−60℃以上40℃未満である樹脂と、ガラス転移温度が40℃以上200℃以下である樹脂とを併用することが好ましい。更に好ましくは、ガラス転移温度が−50℃〜0℃である樹脂と、ガラス転移温度が50℃〜190℃である樹脂とを併用することである。なお、本明細書においてガラス転移温度とは、示差走査熱量計(DSC)における測定値である。
【0021】
バインダー樹脂の例としては、以下に限定されるものではないが、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−アクリル系共重合樹脂、ロジン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ダンマル樹脂、スチレン−マレイン酸共重合樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、テルペン樹脂、フェノール変性テルペン樹脂、ケトン樹脂、環化ゴム、塩化ゴム、ブチラール、ポリアセタール樹脂、石油樹脂、およびこれらの変性樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂は、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。なお、バインダー樹脂には塩素化ポリオレフィン樹脂は含まれないものとする。
【0022】
上記の中でも、ポリウレタン系樹脂および/またはポリアミド樹脂を含有することが好ましい。バインダー樹脂総量中、ポリウレタン系樹脂および/またはポリアミド樹脂を合計で30〜95質量%含有することが好ましい。基材への接着性が良好となるためである。バインダー樹脂は、更にセルロース系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、およびロジン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂を含有することが好ましい。耐ブロッキング性が良好となるためである。
【0023】
また、バインダー樹脂は少なくとも2種の樹脂を含有することが好ましい。好ましくは、ポリウレタン樹脂/塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリウレタン樹脂/セルロース系樹脂、ポリアミド樹脂/セルロース系樹脂、から選ばれるいずれかの組み合わせであり、バインダー樹脂100質量%中、前記組み合わせ2種の樹脂を合計で70〜100質量%含むことが好ましく、さらに好ましくは90〜100質量%である。
更に、ポリウレタン樹脂/塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリウレタン樹脂/セルロース系樹脂、ポリアミド樹脂/セルロース系樹脂、は、それぞれ質量比で95/5〜30/70であることが好ましい。より好ましくは質量比で90/10〜50/50である。この配合比および組み合わせのとき、後述する炭化水素系ワックスを併用することにより、印刷層の耐ブロッキング性および接着性が向上する。
【0024】
また更に塩化ビニル−アクリル共重合樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレン−マレイン酸共重合樹脂、ダンマル樹脂、ケトン樹脂および環化ゴムなどを含有することが好ましいが、これらに限定されない。
【0025】
<ポリウレタン樹脂>
ポリウレタン樹脂は、重量平均分子量が10,000〜100,000のものが好ましく、ガラス転移温度が0℃以下であることが好ましい。−60℃〜0℃であることがなお好ましく、−40〜−5℃であることが更に好ましい。炭化水素系ワックスおよび塩素化ポリオレフィン樹脂との親和性が良好となるためである。
また、ポリウレタン樹脂は、アミン価および/または水酸基価を有するものが好ましく、アミン価は0.5〜30mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは1〜20mgKOH/gである。また、水酸基価は0.5〜30mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは1〜20mgKOH/gである。上記範囲であると、基材への接着性が向上する。
【0026】
ポリウレタン樹脂は、ポリエーテルポリオールおよび/またはポリエステルポリオール由来の構造単位を含むものが好ましく、その含有量の合計は、ポリウレタン樹脂固形分100質量%中、5〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜60質量%であり、更に好ましくは10〜50質量%である。
【0027】
ポリウレタン樹脂は特に制限はなく、公知の方法により適宜製造される。ポリオールとポリイソシアネートからなるポリウレタン樹脂や、ポリオールとポリイソシアネートからなる末端イソシアネートのウレタンプレポリマーと、アミン系鎖延長剤を反応させることにより得られるポリウレタン樹脂などが好ましい。製造方法としては例えば、特開2013−256551号公報に記載の方法などが挙げられる。
【0028】
ポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ひまし油ポリオール、水素添加ひまし油ポリオール、ダイマージオール、水添ダイマージオールなどが挙げられる。好ましくはポリエーテルポリオールおよび/またはポリエステルポリオールである。
【0029】
ポリエーテルポリオールは、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリトリメチレングリコールなどが挙げられる。数平均分子量は200〜5000であることが好ましい。数平均分子量は、末端を水酸基として水酸基価から計算するものであり、(式1)により求められる。
(式1)ポリオールの数平均分子量=1000×56.1×水酸基の価数/水酸基価
【0030】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、二塩基酸とジオールとのエステル化反応により得られる縮合物等が挙げられる。二塩基酸としては、アジピン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸、グルタル酸、1、4−シクロヘキシルジカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸等が挙げられる。ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3,3,5−トリメチルペンタンジオール、2、4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,12−オクタデカンジオール、1,2−アルカンジオール、1,3−アルカンジオール、1−モノグリセライド、2−モノグリセライド、1−モノグリセリンエーテル、2−モノグリセリンエーテル、ダイマージオール、水添ダイマージオール等が挙げられる。
【0031】
ジオールは、なかでも分岐構造を有するジオールが好ましい。分岐構造とは、ジオールに含まれるアルキレン基の水素原子の少なくとも1つがアルキル基によって置換された、アルキル側鎖を有するジオールを意味し、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ペンクンジオール、3−メチル−1,5−ペンクンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−1,4−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオ−ル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、および2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。これらは、印刷適性、印刷効果、耐ブロッキング性を向上させるため特に好ましい。
これらのポリエステルポリオールは単独で、または2種以上を混合して用いることができる。なお、二塩基酸としてはセバシン酸、アジピン酸が特に好ましい。また、ヒドロキシル基を3個以上有するポリオール、カルボキシル基を3個以上有する多価カルボン酸を併用することもできる。
【0032】
ポリエステルポリオールの数平均分子量は、好ましくは200〜5000である。数平均分子量は、前記(式1)により求めることが可能である。
【0033】
ポリイソシアネートとしては、ポリウレタン樹脂の製造に一般的に用いられる各種公知の芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートなどが挙げられる。
芳香族ジイソシアネートとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’−ジベンジルイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどが好ましい。脂肪族ジイソシアネートとしては、エチレンジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどが好ましい。脂環族ジイソシアネートとしてはイソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、水素添加キシリレンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどが好ましい。これらは3量体となってイソシアヌレート環構造となっていてもよい。これらのポリイソシアネートは単独で、または2種以上を混合して用いることができる。中でも好ましくはトリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体である。
【0034】
アミン系鎖延長剤としては、以下に限定されるものではないが、分子量500以下が好ましく、ジアミン系、多官能アミン系等が挙げられる。ジアミン系鎖延長剤としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメクン−4,4’−ジアミン、p−フェニレンジアミンなどが挙げられ、他に、2−ヒドロキシエチルエチレンジアミンなどの水酸基を有するジアミン系鎖延長剤も用いることが出来る。これらの鎖伸長剤は単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
<ポリアミド樹脂>
ポリアミド樹脂は以下に限定されるものではないが、好ましくは多塩基酸と多価アミンとを重縮合して得ることができる有機溶剤に可溶な熱可塑性ポリアミドである。特に、重合脂肪酸および/またはダイマー酸を含有する酸成分と、脂肪族および/または芳香族ポリアミンの反応物を含むポリアミド樹脂であることが好ましく、更には一級および二級モノアミンを一部含有するものが好ましい。
【0036】
ポリアミド樹脂の原料で使用される多塩基酸としては、以下に限定されるものではないが、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、スベリン酸、クルタル酸、フマル酸、ピメリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、テレフタル酸、1、4−シクロヘキシルジカルボン酸、トリメリット酸、タイマー酸、水添ダイマー酸、重合脂肪酸などが挙げられ、その中でもタイマー酸あるいは重合脂肪酸に由来する構造を主成分(ポリアミド樹脂中に50質量%以上)含有するポリアミド樹脂が好ましい。ここで、重合脂肪酸とは、不飽和脂肪酸脂肪酸の環化反応等により得られるもので、一塩基性脂肪酸、二量化重合脂肪酸(タイマー酸)、三量化重合脂肪酸等を含むものである。なお、タイマー酸あるいは重合脂肪酸を構成する脂肪酸は大豆油由来、パーム油由来、米糠油由来など天然油に由来するものを好適に挙げることができ、オレイン酸およびリノール酸から得られるものが好ましい。
多塩基酸には、モノカルボン酸を併用することもできる。併用されるモノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。
【0037】
多価アミンとしては、ポリアミン、一級または二級モノアミンなど挙げることができる。ポリアミド樹脂に使用されるポリアミンとしてはエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メチルアミノプロピルアミン等の脂肪族ジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族ポリアミンを挙げることができ、脂環族ポリアミンとしては、シクロヘキシレンジアミン、イソホロンジアミン等を挙げることができる。また、芳香脂肪族ポリアミンとしてはキシリレンジアミン、芳香族ポリアミンとしてはフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等を挙げることができる。さらに、一級及び二級モノアミンとしては、n−ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミンなどを挙げることができる。
【0038】
また、ポリアミド樹脂は軟化点が80〜140℃であることが好ましく、当該範囲においてインキ被膜が強くなる。また、ポリアミド樹脂の溶解性の観点から重量平均分子量は2,000〜50,000の範囲であることが好ましい。2,000〜10,000であることがなお好ましい。軟化点が80℃以上の場合は、印刷物のインキ被膜の表面タック切れが良好となり、ブロッキングを防ぐ。軟化点が140℃以下の場合はインキ被膜が柔軟となり基材への接着性が向上する。重量平均分子量の範囲はとしては2,000以上の場合はインキの被膜強度が良好となり、耐擦傷性、耐熱性、高速印刷適性が向上する。分子量が50,000以下の場合はインキの粘度が低粘度化でき、貯蔵安定性が良好となる。
なお、軟化点はJISK2207(環球法)で測定された値を表す。
【0039】
<セルロース系樹脂>
セルロース系樹脂としては、例えばセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートその他のセルロースエステル樹脂、ニトロセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、およびカルボキシアルキルセルロース等が挙げられる。セルロースエステル樹脂はアルキル基を有することが好ましく、当該アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、更にアルキル基が置換基を有していてもよい。
セルロース系樹脂としては、上記のうちセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、およびニトロセルロースが好ましい。特に好ましくはニトロセルロースである。分子量としては重量平均分子量で5,000〜200,000のものが好ましく、10,000〜50,000が更に好ましい。また、ガラス転移温度が120℃〜180℃であるものが好ましい。ポリウレタン樹脂またはポリアミド樹脂との併用で耐ブロッキング性、耐擦傷性その他のインキ被膜物性が向上するためである。
【0040】
(ニトロセルロース)
上記ニトロセルロースは、天然セルロースと硝酸とを反応させて、天然セルロース中の無水グルコピラノース基の6員環中の3個の水酸基を、硝酸基に置換した硝酸エステルとして得られるものが好ましく、平均重合度20〜200、更には30〜150の範囲のものが好ましい。平均重合度が20以上の場合、インキ被膜の強度が向上し、耐擦傷性が向上するため好ましい。又、平均重合度が200以下の場合、溶剤への溶解性、インキの低温安定性、併用樹脂との相溶性が向上するため好ましい。また、窒素分は10.5〜12.5質量%であることが好ましい。
【0041】
<塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂>
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂としては、塩化ビニルと酢酸ビニルが共重合したものであれば、特段限定されない。分子量としては重量平均分子量で5,000〜100,000のものが好ましく、10,000〜70,000が更に好ましい。塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂の固形分100質量%中、酢酸ビニルモノマー由来の構造は1〜30質量%が好ましく、塩化ビニルモノマー由来の構造は70〜95質量%であることが好ましい。この場合有機溶剤への溶解性が向上、更に基材への密着性、被膜物性、耐擦傷性等が良好となる。
また、有機溶剤への溶解性が向上するため、ケン化反応、変性反応あるいは共重合でビニルアルコール構造由来の水酸基を含むものが更に好ましく、水酸基価として20〜200mgKOH/gであることが好ましい。また、ガラス転移温度は50℃〜90℃であることが好ましい。
【0042】
<ロジン系樹脂>
ロジン系樹脂は、ロジン骨格を有する樹脂であれば特に限定されないが、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジンエステル、ロジンフェノール、重合ロジンなどが好ましい。軟化点(環球法による)が90〜200℃であることが好ましい。耐ブロッキング性を向上させるためである。またロジン系樹脂はポリウレタン樹脂と併用することが好ましい。
【0043】
<炭化水素系ワックス>
炭化水素系ワックスは、硬度(針入度)が0.5〜12である炭化水素系ワックスをいう。以下に限定されるものではないが、ポリエチレンワックス、およびフィッシャー・トロプシュ・ワックス、パラフィンワックス、マイクロスタリンワックス、ポリプロピレンワックス等が挙げられる。中でも、ポリエチレンワックスおよび/またはフィッシャー・トロプシュ・ワックスを含む炭化水素系ワックスが好ましい。当該炭化水素系ワックスはグラビアインキ中に0.1〜2.5質量%合有する。基材への接着性、耐擦傷性およびインキの経時安定性が両立するため0.3〜2.5質量%で含有することが好ましい。
【0044】
炭化水素系ワックスの硬度(針入度)とは、JISK2207における測定値をいう。その値が0.5〜12(単位:10−1mm)の範囲内の場合、バインダー樹脂との親和性・相溶性が良好となり、更に塩素化ポリオレフィン樹脂との相乗効果で、各種基材に対する接着性および耐擦傷性が双方向上する。炭化水素系ワックスは、JISK7112(B法)に規定された23℃における密度が、900〜990kg/m3であることが好ましい。更に好ましくは925〜990kg/m3である。この密度範囲で適切な結晶性を示しバインダー樹脂および塩素化ポリオレフィン樹脂とより親和するためである。また、炭化水素系ワックスは、DSC測定における融点が90〜150℃であることが好ましく、更に好ましくは100〜125℃である。炭化水素系ワックスの融点は、DSC昇温曲線における吸熱ピークのピークトップ(極小値)の融点を表す。
またグラビアインキ印刷層の光沢および印刷適性(例えばドクタースジ)が向上するため、平均粒子径が0.5〜12μmであることが好ましく、1〜10μmであることがなお好ましい。また、2〜8μmが更に好ましい。なお、炭化水素系ワックスにおける平均粒子径とは、レーザー回折・光散乱法での測定におけるD50の値を表す。
【0045】
炭化水素系ワックスと、塩素化ポリオレフィン樹脂との質量比率は、炭化水素系ワックス:塩素化ポリオレフィン樹脂が90:10〜10:90であることが好ましく、より好ましくは85:15〜15:85である。
【0046】
ポリエチレンワックスは、特に限定されるわけではないが、例えば、高密度重合ポリエチレン、低密度重合ポリエチレン、酸化ポリエチレン、酸変性ポリエチレン、および特殊モノマー変性ポリエチレン等が挙げられる。ポリエチレンワックスは、JISK7112(B法)に規定された23℃における密度が、925〜990kg/m3であることが好ましく、JISK6862に準拠して測定された140℃における溶融粘度が、50〜8000mPa・sであることが好ましい。また、ポリエチレンワックス(b1)は、酸価を有していてもよい。酸価を有する場合、酸価は0.5〜70mgKOH/gであることが好ましい。また、ポリエチレンワックス(b1)は、DSC測定における融点が90〜150℃であることが好ましく、更に好ましくは100〜125℃である。
【0047】
フィッシャー・トロプシュ・ワックスとは、フィッシャー・トロプシュ製法により一酸化炭素と水素を原料に製造されたワックスであり、ほぼ飽和の、分枝を有しない直鎖の分子構造からなる。その直鎖構造により、高融点、低粘度、硬質である。フィッシャー・トロプシュ・ワックスは長期間熱に晒されても劣化がほとんどなく、極めて高い熱安定性を示す。フィッシャー・トロプシュ・ワックスは、数平均分子量が400〜2000であることが好ましい。また、フィッシャー・トロプシュ・ワックスは、JISK7112(B法)に規定された23℃における密度が、925〜990kg/m3であることが好ましい。また、フィッシャー・トロプシュ・ワックスは、酸価を有していてもよい。酸価を有する場合、好ましくは0,5〜50mgKOH/gである。また、フィッシャー・トロプシュ・ワックスは、DSC測定における融点が90〜130℃であることが好ましく、更に好ましくは100〜120℃である。
【0048】
炭化水素系ワックスのグラビアインキへの添加方法は特に制限は無く、インキの顔料分散工程において顔料、バインダー樹脂と共に炭化水素系ワックスを混合して分散してもよいし、あらかじめ炭化水素系ワックスを有機溶剤で分散したものをグラビアインキ中に添加して含有させてもよい。分散の方法は特に制限は無く、ディスパー、ローラーミル、ボールミル、ペブルミル、アトライクー、サンドミルなどを用いることができる。
【0049】
<塩素化ポリオレフィン樹脂>
本願における塩素化ポリオレフィン樹脂とは、水素原子の少なくとも一部が塩素原子により置換されたポリオレフィン樹脂をいう。塩素化ポリオレフィンの重量平均分子量は、5,000〜100,000であるとバインダー樹脂との相溶性および炭化水素系ワックスとの親和性が良好である。5,000〜70,000であることがなお好ましく7,000〜50,000であることが更に好ましい。また、塩素化ポリオレフィン樹脂は基材への接着性向上するため、その塩素含有率が25〜45質量%であることが好ましい。なお、ノントルエン有機溶剤への溶解性の観点から、塩素含有率は26〜43質量%であることが更に好ましい。ここで、塩素含有率とは、塩素化ポリオレフィン樹脂100質量%中の塩素原子の含有質量%をいう。また、耐ブロッキング性とのバランスの観点から、塩素化ポリオレフィン樹脂はインキ100質量%中に0.1〜2.5質量%含有し、好ましくは0.2〜2.3質量%である。
【0050】
本明細書において、塩素化ポリオレフィン樹脂とは、下記一般式(2)で示されるα−オレフィンの重合体の水素を塩素置換した構造を有するものが好ましい。
一般式(2)

CH2=CH−R3
(式中、R3は炭素数1以上のアルキル基である。)

塩素化ポリオレフィン樹脂は、柔軟性を持つアルキル基を分枝構造として有するため、低温下でも柔軟な樹脂であり、上記使用量にて基材接着性を向上させる。塩素化ポリオレフィン樹脂におけるポリオレフィン樹脂の構造は、特に制限はない。例えば、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィン系不飽和炭化水素の単独重合体又は共重合体を含有する樹脂が好ましい。中でもポリプロピレン構造(すなわち塩素化ポリプロピレン構造)を含むものが特に好ましい。この場合、炭化水素系ワックスとの併用による相乗効果で各種基材への接着力が向上する。
【0051】
<脂肪酸アミド>
本発明の有機溶剤系グラビアインキでは、更に脂肪酸アミドを含有することが好ましい。使用する脂肪酸アミドは、炭素数10〜25の脂肪族炭化水素基とアミド基を有するものが好ましい。脂肪酸アミドは、グラビアインキ中では溶解、あるいは分散されているが、印刷後にはインキ被膜の表面に配向し、滑り性を発現させて耐ブロッキング性を向上させると考えられる。
【0052】
脂肪酸アミドとしては、ラウリン酸アミド(融点87℃)、パルミチン酸アミド(融点100℃)、ステアリン酸アミド(融点101℃)、ベヘン酸アミド(融点110℃)、ヒドロキシステアリン酸アミド(融点107℃)、オレイン酸アミド(融点75℃)、エルカ酸アミド(融点81℃)等が挙好ましい。脂肪酸アミドの含有量は、グラビアインキ100質量%中0.0.1〜2.5質量%であることが好ましく、0.1〜2質量%であることがより好ましい。
【0053】
<顔料>
本発明のグラビアインキは、顔料を含む。バインダー樹脂と顔料の質量比率(バインダー樹脂/顔料)は99/1〜10/90であることが好ましい。更には80/20〜20/80であることがより好ましい。なお、顔料は、有機顔料、無機顔料、体質顔料のいずれでも使用は可能であるが、無機顔料では酸化チタンを含むもの、体質顔料としては、シリカ、硫酸バリウム、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどが好ましい。有機顔料では、有機化合物、有機金属錯体からなるものの使用が好ましい。ただし、当該顔料はニトロセルロースからなる被覆層を有するアルミニウム蒸着膜細片である場合を除く。
【0054】
有機顔料は、以下の例には限定されないが、溶性アゾ系、不溶性アゾ系、アゾ系、フタロシアニン系、ハロゲン化フタロシアニン系、アントラキノン系、アンサンスロン系、ジアンスラキノニル系、アンスラピリミジン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、アゾメチンアゾ系、フラバンスロン系、ジケトピロロピロール系、イソインドリン系、インダンスロン系、カーボンブラック系などの顔料が挙げられる。また、例えば、カーミン6B、レーキレッドC、パーマネントレッド2B、ジスアソイエロー、ピラゾロンオレンジ、カーミンFB、クロモフタルイエロー、クロモフタルレッド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ジオキサジンバイオレット、キナクリドンマゼンタ、キナクリドンレッド、インダンスロンブルー、ピリミジンイエロー、チオインジゴボルドー、チオインジゴマゼンタ、ペリレンレッド、ペリノンオレンジ、イソインドリノンイエロー、アニリンブラック、ジケトピロロピロールレッド、昼光蛍光顔料等が挙げられる。
【0055】
本発明のグラビアインキにおける色相は、必要に応じて他の色相のグラビアインキ(基本色として、黄、紅、藍、墨、白の合計5色、プロセスガマット外色として赤(橙)、草(緑)、紫の3色、更に透明黄、牡丹、朱、茶、パール)と混合して使用してもよい。
【0056】
一方、無機顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、シリカなどの白色無機顔料が挙げられる。無機顔料の中では酸化チタンの使用が特に好ましい。酸化チタンは、白色を呈し、着色力、隠ぺい力、耐薬品性、耐候性の点から好ましく、印刷性能の観点から該酸化チタンはシリカおよび/またはアルミナ処理を施されているものが好ましい。
【0057】
白色以外の無機顔料としては、例えば、アルミニウム粒子、マイカ(雲母)、ブロンズ粉、クロムバーミリオン、黄鉛、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、群青、紺青、ベンガラ、黄色酸化鉄、鉄黒、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられ、アルミニウムは粉末またはペースト状であるが、取扱い性および安全性の面からペースト状で使用するのが好ましく、リーフィングタイプまたはノンリーフィングタイプいずれでもよい。
【0058】
顔料は、グラビアインキの濃度・着色力を確保するのに充分な量、すなわちインキ組成物の総質量に対して1〜50質量%、インキ組成物中の固形分質量比では10〜90質量%の割合で含まれることが好ましい。また、これらの顔料は単独で、または2種以上を併用して用いることができる。
【0059】
<有機溶剤>
本発明のグラビアインキは、有機溶剤を含む。以下に限定されるものではないが、使用される有機溶剤としては、トルエン、キシレンといった芳香族系有機溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンといったケトン系有機溶剤、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、エステル系有機溶剤、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどのアルコール系有機溶剤、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶剤など公知の有機溶剤を使用でき、混合して使用してもよい。中でも炭化水素系ワックスを含有した場合のグラビアインキの経時安定性が良好となるため、トルエン、キシレンといった芳香族系有機溶剤を含まない有機溶剤(ノントルエン系有機溶剤)が好ましく、エステル系有機溶剤とアルコール系有機溶剤を質量比50:50〜90:10で含有する混合有機溶剤がより好ましい。更にインキ100質量%中、5質量%以下の量でグリコールエーテル系有機溶剤を含んでよい。
【0060】
<添加剤>
本発明のグラビアインキは、添加剤として従来公知のものを適宜含むことができ、グラビアインキの製造においては必要に応じて添加剤、例えば顔料誘導体、分散剤、湿潤剤、接着補助剤、レベリング剤、消泡剤、帯電防止剤、粘度調整剤、金属キレート、トラッピング剤、ブロッキング防止剤、上記以外のワックス成分、イソシアネート系硬化剤、シランカップリング剤などを使用することができる。
【0061】
<金属キレート>
本発明のグラビアインキには、金属キレートを使用することが好ましい。金属キレートとしてはチタンキレートが好ましい。例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのチタンアルコキシド、トリエクノールアミンチタネート、チタニウムアセチルアセテトナート、チタニウムテトラアセチルアセトナート、テトライソプロポキシチタン、チタニウムエチルアセトアセテテート、チタニウムラクテート、オクチレングリコールチタネート、n−ブチルリン酸エステルチタン、プロパンジオキスチタンビス(エチルアセチルアセテート)などのチタンキレートを挙げることができる。金属キレートのなかでも、架橋反応後にアセチルアセトンを発生しない金属キレートが、環境上の観点から好ましい。
バインダー樹脂の有する活性水素と架橋するため、金属キレートの含有量はグラビアインキ中、0.1〜5質量%であることが好ましく、0.5〜2質量%であればさらに好ましい。含有量が0.1質量%以上であると耐熱性、耐油性、耐塩ビブロッキング性が向上し、5質量%以下の場合は、インキの経時安定性が良好となる。これらの金属キレートを使用することによって、特にプラスチック基材や表面コートされた紙基材に対する接着性が高くなるとともに、形成されたインキ被膜の強度が向上する。
【0062】
<グラビアインキの製造>
本発明のグラビアインキは、バインダー樹脂、炭化水素系ワックス等を液状媒体中に溶解および/または分散することにより製造することができる。例えば、顔料、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレンワックスおよび必要に応じて分散させておき、顔料分散体に、ポリウレタン樹脂、ポリエチレンワックス分散体、必要に応じて有機溶剤、その他樹脂や添加剤などを配合することによりグラビアインキを製造することができる。また、グラビアインキの粘度や色味は分散機の粉砕メディアのサイズ、粉砕メディアの充填率、分散処理時間、顔料分散体の吐出速度、顔料分散体の粘度などを適宜調節することにより、調整することができる。
なお、本発明に使用する炭化水素系ワックスは有機溶剤にあらかじめ微分散させておき、 適宜グラビアインキの製造工程中に添加することが好ましい。
分散機としては一般に使用される、例えばローラーミル、ボールミル、ペブルミル、アトライター、サンドミルなどを用いることができる。サンドミルを用いて製造することが好ましい。
【0063】
グラビアインキの粘度は、グラビアインキの経時安定性の観点から、B型粘度計での25℃における粘度が40〜500cpsの粘度範囲であることが好ましい。より好ましくは50〜400cpsである。この粘度範囲は、ザーンカップ#4での粘度が9秒〜40秒程度に相当する。なお、グラビアインキの粘度は、使用される原材料の種類や量、例えば顔料、バインダー樹脂、有機溶剤などの量を適宜選択することにより調整することができる。また、インキ中の有機顔料の粒度および粒度分布を調節することによりインキの粘度を調整することもできる。
【0064】
<印刷物>
基材上に、本発明のグラビアインキを用いて印刷した後、揮発成分を除去することによって印刷層を形成し、印刷物を得ることができる。印刷方法としてはグラビア印刷方式であり、例えば、グラビア印刷に適した粘度及び濃度にまで希釈溶剤で希釈され、単独でまたは混合されて各印刷ユニットに供給され、塗布される。その後、オーブンによる乾燥によって被膜を定着することで得ることができる
【0065】
<基材>
基材は特に限定されないが、フィルム基材であることが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン基材、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ乳酸などのポリエステル基材、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂などのポリスチレン系基材、ナイロン基材、ポリアミド基材、ポリ塩化ビニル基材、ポリ塩化ビニリデン基材、セロハン基材などのフィルム基材、およびこれらの複合材料からなるフィルム基材が挙げられる。プラスチック基材は、コロナ処理されていてもよいし、未処理であってもよい。また、延伸された基材であってもよいし、未延伸の基材であってもよい。基材は更にシリカ、アルミナ、アルミニウムなどの金属あるいは金属酸化物が蒸着されていても良く、更に蒸着面をポリビニルアルコールなどの塗料でコーティング処理を施されていてもよい。一般的に、印刷される基材表面はコロナ処理などの表面処理が施されている場合が多く、さらに予め防曇剤の塗工、練り込み、マット剤の表面塗工、練り込みなどプラスチックフィルムを加工して得られるフィルムも使用する事が可能である。
また、基材は、単層でもよいし、2つ以上の基材が積層された積層体(基材層)であってもよい。基材層を構成する基材は、同じでも異なっていてもよい。
【0066】
防曇剤は界面活性剤が好ましく、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどの多価アルコール脂肪酸エステルやエチレンオキサイド付加物などのイオン系界面活性剤を1種あるいは複数用いられる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、部および%は、特に注釈の無い場合、それぞれ質量部および質量%を表わす。なお、実施例1〜20、27および実施例28〜47、54は参考例である。
【0068】
(水酸基価)
JIS K0070に従って求めた。
(酸価)
JlS K0070に従って求めた。
(アミン価)
アミン価は、樹脂1g中に含有するアミノ基を中和するのに必要とする塩酸の当量と同量の水酸化カリウムのmg数でJISK0070に準じて以下の方法に従って求めた。
試料を0.5〜2g精秤した(試料固形分:Sg)。精秤した試料にメタノール/メチルエチルケトン=60/40(質量比)の混合溶液50mLを加え溶解させた。得られた溶液に指示薬としてブロモフェノールブルーを加え、得られた溶液を0.2mol/Lエタノール性塩酸溶液(力価:f)で滴定を行なった。溶液の色が緑から黄に変化した点を終点とし、この時の滴定量(AmL)を用い、下記(式2)によりアミン価を求めた。
(式2)アミン価=(A×f×0.2×56.108)/S[mgKOH/g]
【0069】
(重量平均分子量)
重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフイー)装置(東ソー株式会社製HLC−8220)を用いて分子量分布を測定し、ポリスチレンを標準物質に用いた換算分子量として求めた。下記に測定条件を示す。
カラム:下記カラムを直列に連結して使用した。
東ソー株式会社製ガードカラムHXL−H
東ソー株式会社製TSKge1G5000HXL
東ソー株式会社製TSKge1G4000HXL
東ソー株式会社製TSKge1G3000HXL
東ソー株式会社製TSKge1G2000HXL
検出器:RI(示差屈折計)
測定条件:カラム温度40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/分
【0070】
(ガラス転移温度)
ガラス転移温度(Tg)は、DSC(示差走査熱量測定測定)により求めた。なお、測定機は株式会社リガク製DSC8231を使用し、測定温度範囲−70〜250℃、昇温速度10℃/分、DSC曲線におけるガラス転移に基づく吸熱開始温度と終了温度との中点をガラス転移温度とした。
【0071】
(合成例1)[ポリウレタン樹脂PU1]
数平均分子量700のポリプロピレングリコール(以下「PPG700」)200部、イソホロンジイソシアネート(以下「IPDI」)127部、および酢酸エチル81.8部を窒素気流下にて80℃で4時間反応させ、末端イソシアネートウレタンプレポリマーの樹脂溶液を得た。次いでイソホロンジアミン(以下「IPDA」)49.5部、2−エタノールアミン3部、酢酸エチル/イソプロパノール(以下「IPA」)=50/50(質量比)の混合溶剤803.9部を混合したものに、得られた末端イソシアネートウレタンプレポリマーの樹脂溶液を40℃で徐々に添加し、次に80℃で1時間反応させ、固形分30%、アミン価3.5mgKOH/g、水酸基価7.3mgKOH/g、重量平均分子量40000のポリウレタン樹脂溶液PU1を得た。ガラス転移温度は−32℃であった。
【0072】
(合成例2)[ポリウレタン樹脂PU2]
アジピン酸と3−メチル−1,5−ペンタンジオールとの反応により得られる数平均分子量1000のポリエステルポリオール(以下「PMPA」)150部、PPG700を50部、IPDI103.4部、および酢酸エチル75.8部を窒素気流下に80℃で4時間反応させ、末端イソシアネートウレタンプレポリマーの樹脂溶液を得た。次いでIPDA44.6部、酢酸エチル/IPA=50/50(質量比)の混合溶剤736.2部を混合したものに、上記末端イソシアネートウレタンプレポリマーの樹脂溶液を40℃で徐々に添加し、次に80℃で1時間反応させ、固形分30%、アミン価9.5mgKOH/g、水酸基価0.0mgKOH/g、重量平均分子量50000のポリウレタン樹脂溶液PU2を得た。ガラス転移温度は−21℃であった。
【0073】
(実施例1)[グラビアインキS1の作製]
バインダー樹脂として、ポリウレタン樹脂溶液PU1(固形分30%)を30部、炭化水素系ワックスとしてポリエチレンワックス(ハネウェル社製A−C400A)を固形分換算で0.8部、塩素化ポリプロピレン樹脂(日本製紙社製 製品名:370M塩素含有率30%固形分50%)を固形分換算で0.5部、藍顔料であるC.I.ピグメントブルー15:4を10部、メチルエチルケトン(以下「MEK」)/酢酸n−プロピル(以下「NPAC」)/IPA=40/40/20(質量比)の溶液58.7部を混合し、アイガーミルで15分間分散し、グラビアインキS1を得た。
【0074】
以下の実施例に用いた炭化水素系ワックスは表1−1に記載のものを用いた。また、比較例に用いた炭化水素系ワックスは表1−2に記載のものを用いた。なお、
・硬度(針入度)は、JIS K2207に従い、25℃において測定した。
・密度は、JIS K7112(B法)に従い、23℃において測定した。
・融点は、DSC(示差走査熱量測定測定)により融点を求めた。なお、測定機は株式会社リガク製DSC8231を使用して求めた。(測定温度範囲25〜180℃、昇温速度10℃/分)
・平均粒子径は、炭化水素系ワックスに酢酸エチルを添加・分散した固形分10%の分散液を、レーザー回折・散乱法にて測定し、D50の値を平均粒子径とした。なお、D50とは体積基準の累積分布におけるメジアン径を表す。なお、測定機はマイクロトラックベル社製マイクロトラックMT3000IIを用いた。
【0075】
(実施例2〜27)[グラビアインキS2〜S27の作成]
表2に記載された原料および配合に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、グラビアインキS2〜S27をそれぞれ得た。表中の略称は以下を表す。
・ポリアミドA:オレイン酸およびリノール酸を原料とするタイマー酸由来の構造単位を50質量%以上含有する、アミン価3.5mgKOH/gであるポリアミド樹脂軟化点116℃重量平均分子量6,000(固形分30%イソプロパノール溶液)
・ソルバインTAO:日信化学社製塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂組成:塩化ビニル/酢酸ビニル/ビニルアルコール=91/2/7(質量比)の共重合樹脂(固形分30%酢酸エチル溶液)ガラス転移温度78℃
・マルキードNo.5:荒川化学社製ロジン変性マレイン酸樹脂軟化点145℃(固形分30%酢酸エチル溶液)
・DLX5−8:ICINovelenterprises社製ニトロセルロース窒素分12.0%ガラス転移温度150℃(固形分30%イソプロパノール溶液)
・814B:日本製紙社製塩素化ポリプロピレン樹脂重量平均分子量18,000 塩素含有率41%
・370M:日本製紙社製塩素化ポリプロピレン樹脂重量平均分子量10,000 塩素含有率30%
・803LT:日本製紙社製塩素化ポリオレフィン樹脂重量平均分子量55,000 塩素含有率26.5%
・ラウリン酸アミド:脂肪酸アミド融点99℃
【0076】
(実施例28)<グラビアインキの印刷>
上記で得られたグラビアインキS1を、MEK/NPAC/IPA=40/40/20(質量比)からなる混合溶剤により、粘度が16秒(25℃、ザーンカップNo.3)となるように希釈しヘリオ175線グラデーション版(版式コンプレストグラデーション100%〜3%)を備えたグラビア印刷機により、以下の基材(OPPの場合はコロナ放電処理面)に、印刷を印刷速度80m/分で行い、印刷物J1(OPP)、K1(CPP)を得た。
<基材>
・OPP:片面コロナ放電処理の2軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム(フタムラ化学社製FOR厚さ25μm)
・CPP:コロナ処理無の未延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム(三井化学東セロ社製CP−S厚さ30μm)
【0077】
(実施例29〜54)
表2に記載されたグラビアインキS2〜S27について、表4に記載の印刷構成にて印刷を行い、印刷物J2〜J27(OPP)、K2〜K27(CPP)を得た。
【0078】
(比較例1〜11)[グラビアインキT1〜T11の作製]
表3に示す原料を使用する以外は上記実施例1と同様の方法にてグラビアインキT1〜T11を得た。表中の略称は以下を表す。
・803M:日本製紙社製 塩素化ポリプロピレン樹脂 重量平均分子量16万 塩素含有率30%(スーパークロン803M)
【0079】
(比較例12〜22)
表3に記載されたグラビアインキT1〜T11について、表5に記載の印刷構成にて実施例28と同様の方法で表刷り印刷を行い、印刷物JJ1〜JJ11(OPP)、KK1〜KK11(CPP)を得た。
【0080】
<評価>
グラビアインキS1〜S27、T1〜T11、および印刷物J1〜J27(OPP)、印刷物K1〜K27(CPP)、印刷物JJ1〜JJ11(OPP)、印刷物KK1〜KK11(CPP)を用いて、以下の評価を行った。
【0081】
<インキの経時安定性>
グラビアインキS1〜S27、T1〜T11についてそれぞれを密閉容器に入れ、40℃で10日間保存を行った。その後、粘度を測定して保存前との粘度変化を評価した。なお粘度の測定は25℃でザーンカップNo.4の流出秒数にて行った。なお、いずれのインキも保存前のB型粘度計における粘度は40〜500cps(25℃)の範囲内であった。
[判定基準]
5.粘度変化が2秒未満(良好)
4.粘度差が2秒以上5秒未満(実用可)
3.粘度差が5秒以上10秒未満(やや不良)
2.粘度差が10秒以上15秒未満(不良)
1.粘度差が15秒以上(極めて不良)
なお、5、4は実用上問題がない範囲である。
【0082】
<ドクタースジ評価>
グラビアインキS1〜S27、T1〜T11についてドクタースジ評価を行った。なお、希釈溶剤はMEK:NPAC:IPA=40:40:20とし、粘度をザーンカップ#3で16秒(25℃)とし、印刷機における版の空転100m/分で60分後の、ドクタースジの面積を目視判定し、評価を行った。なおドクターブレードはセラミック製の市販品を使用して評価した。
なおドクタースジとは、回転する版からインキをドクターブレードで掻き取った際に、版上に回転方向で発生しうる、インキに由来する細いスジ状の印刷不具合をいう。
[判定基準]
5.ドクタースジが無い若しくは薄いドクタースジが1〜2本程度である(良好)
4.薄いドクタースジが3〜5本程度である(実用可)
3.薄いドクタースジが5〜10本である(やや不良)
2.濃いドククースジが1〜3本である(不良)
1.濃いドクタースジが4本以上である(極めて不良)
なお、5、4は実用上問題がない範囲である。
【0083】
<耐擦傷性>
印刷物J1〜J27(OPP)、印刷物K1〜K27(CPP)、印刷物JJ1〜JJ11(OPP)、印刷物KK1〜KK11(CPP)を用いて、印刷層表面を爪で3ヶ所を擦り、印刷層の傷つき度合を評価した。
[判定基準]
5.印刷層の傷つきなし(良好)
4.印刷層の傷はつかないが僅かに爪の跡が残る。(実用可)
3.印刷層の傷がつき、印刷層表面が僅かに抉れる。(やや不良)
2.印刷層の傷がつき、基材が僅かに見える。(不良)
1.印刷層の傷がつき、基材がはっきり見える。(極めて不良)
なお、5、4は実用上問題がない範囲である。
【0084】
<接着性>
印刷物J1〜J27(OPP)、印刷物K1〜K27(CPP)、印刷物JJ1〜JJ11(OPP)、印刷物KK1〜KK11(CPP)について、それぞれ印刷3時間後に、印刷面に幅12mmの粘着テープ(ニチバン社製セロハンテープ)を貼り付け、これを急速に剥がしたときの印刷面の外観の状態を目視判定した。尚、判定基準は以下の通りとした。
[判定基準]
5.印刷面のインキ被膜が全く剥離しないもの(良好)
4.インキ被膜の剥離面積が1%以上5%未満であるもの(実用可)
3.インキ被膜の剥離面積が5%以上20%未満のもの(やや不良)
2.インキ被膜の剥離面積が20%以上50%未満のもの(不良)
1.インキ被膜が50%以上剥がれるもの(極めて不良)
なお、5、4は実用上問題がない範囲である。
【0085】
本発明の有機溶剤系グラビアインキは、極性など表面性質が異なる基材、および延伸または未延伸の基材においても一様に耐ブロッキング性および接着性を満たし、特性を両立することができた。更に炭化水素ワックス粒子を含有した場合でもドクタースジなどが無く、印刷適性優れたグラビアインキを提供することができた。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
【表5】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、バインダー樹脂、炭化水素系ワックスおよび塩素化ポリオレフィン樹脂を含有し、下記(1)、(2)および(3)を満たす、有機溶剤系グラビアインキであって、包装材料に用いられる基材の表刷り印刷用である有機溶剤系グラビアインキ(ただし、導電成分としてBET比表面積800〜1500m2/gでありDBP吸油量300〜600ml/100gであるカーボンブラックを、熱可塑性樹脂に分散してなることを特徴とする導電性インキ組成物を除く。)。
(1)炭化水素系ワックスのJISK2207で規定された25℃における硬度(針入度)が、0.5〜9.5であり、炭化水素系ワックスをグラビアインキ総量中に0.1〜2.5質量%含有する。
(2)塩素化ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、5,000〜100,000であり、グラビアインキ総量中に0.1〜2.5質量%含有する。
(3)バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂及びセルロース系樹脂を、95:5〜30:70の質量比で含有する(ただし、ポリウレタン樹脂及びセルロース誘導体を95:5〜5:95の固形分量比率で含有する場合を除く。)。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂とセルロース系樹脂を含み、セルロース系樹脂は、窒素分10.5〜12.5のニトロセルロース樹脂を含有する、請求項1に記載の有機溶剤系グラビアインキ。
【請求項4】
ポリアミド樹脂の軟化点は、80〜140℃であり、ポリアミド樹脂の重量平均分子量は、2,000〜50,000である、請求項1又は3に記載の有機溶剤系グラビアインキ
【請求項5】
ポリアミド樹脂は、タイマー酸あるいは重合脂肪酸に由来する構造をポリアミド樹脂中に50質量%以上含有する、請求項1又は3〜4いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ。
【請求項6】
更に、金属キレートを含有する、請求項1又は3〜5いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ。
【請求項7】
基材上に、請求項1又は3〜6いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキからなる印刷層を有する印刷物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2021-10-13 
出願番号 P2018-170463
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09D)
P 1 651・ 536- YAA (C09D)
P 1 651・ 121- YAA (C09D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 木村 敏康
亀ヶ谷 明久
登録日 2019-10-25 
登録番号 6604408
権利者 東洋インキSCホールディングス株式会社 東洋インキ株式会社
発明の名称 有機溶剤系グラビアインキおよび印刷物  
代理人 三好 秀和  
代理人 三好 秀和  
代理人 三好 秀和  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ