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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H02H
審判 全部申し立て 2項進歩性  H02H
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H02H
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H02H
管理番号 1381634
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-02-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-05-19 
確定日 2021-11-30 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6607562号発明「電源保護装置及びそれを備えた空気調和システム並びに電源保護装置の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6607562号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3〕について訂正することを認める。 特許第6607562号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6607562号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成27年11月20日に出願され、令和1年11月1日にその特許権の設定登録がされ、令和1年11月20日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して特許異議の申立てがあり、次のとおりに手続が行われた。
令和2年 5月19日 :特許異議申立人佐藤浩子(以下、「特許異議申立人」という。)による特許異議の申立て
令和2年 9月 4日付け:取消理由通知書
令和2年11月 6日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年12月22日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和3年 3月10日付け:訂正拒絶理由通知書
令和3年 4月15日 :特許権者による意見書及び訂正請求取下書の提出
令和3年 6月 4日 :特許異議申立人による上申書の提出
令和3年 6月15日 :特許権者と面接
令和3年 6月25日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和3年 8月27日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年10月12日 :特許異議申立人による意見書の提出


第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和3年8月27日になされた訂正請求の趣旨は、特許第6607562号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3〕について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。

(1)訂正事項1
請求項1に係る「前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及び前記第3バリスタの容量が等しい」を「前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及び前記第3バリスタが同一仕様である」と訂正する。なお、請求項2は請求項1を引用しているから、訂正事項1に係る訂正は一群の請求項〔1、2〕に対して請求されたものである。
(2)訂正事項2
請求項3に係る「前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及びフィルタの前後に接続される第3バリスタの容量を等しくする」を「前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及びフィルタの前後に接続される第3バリスタを同一仕様とする」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
バリスタにおける仕様とは、バリスタの有する様々な特性について各々の仕様があり、それらが集まって部品としてのバリスタの仕様を構成していることから、バリスタが同一仕様であると言うことは、バリスタが有する特性の少なくとも一つが同じであるということにとどまらないと考えるのが自然である。
そして、「同一仕様」に関連して発明の詳細な説明には以下の記載がある。(下線は当審で付した。)

ア「【0005】
・・・・・・
しかしながら、上記特許文献4の方法では、バリスタZR1,ZR2が、こうした耐電圧試験に耐えられず、電源回路が破壊されるという問題があった。また、特許文献4では、バリスタZR2のバリスタ電圧は1200[V]程度とし、バリスタZR3のバリスタ電圧は400〜600[V]程度のものによって実現することが記載されており、バリスタの仕様が異なることによりコストが増大するという問題もあった。」

イ「【0018】
・・・・・・本実施形態においては、第1回路10の第2バリスタZR2とアースラインとの間にアレスタAR1を設けているので、この位置にアレスタを設けない場合と比較して、直列に接続される第1バリスタZR1およびZR2の容量を小さくすることができる。
そのため、第3バリスタZR3と、第1バリスタZR1と、第2バリスタZR2とに同一仕様のバリスタを用いることができる。
・・・・・・
【0020】
本実施形態においては、ノイズ除去フィルタL1と並列には第3バリスタZR3を設けていること、及び第1回路10ではアレスタ電圧3[kV]以上のアレスタを設けていること等から、第1バリスタZR1、第2バリスタZR2、及び第3バリスタZR3の容量は等しいものを用いることができるので、生産上効率がよい。」

上記アの記載によれば、バリスタの仕様が異なることによりコストが増大するから、同一仕様のバリスタとすることによりコストが低減することを示唆している。また上記イの記載によれば、第1バリスタZR1及び第2バリスタZR2の容量を小さくするできることから、第3バリスタZR3と、第1バリスタZR1と、第2バリスタZR2とに同一仕様のバリスタを用いることができ、生産上効率がよくなっていることが記載されている。
そうしてみると、第1バリスタZR1、第2バリスタZR2、及び第3バリスタZR3を同一仕様のバリスタとすることによりコストを低減し、生産上の効率を上げられることから、技術常識に照らして同一仕様とは部品の共通化によりコストの低減や生産上の効率向上が図れることを意味しており、単にいずれかの特性に係る仕様が同一であることではないと解するのが相当である。
そうしてみると、訂正事項1の「前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及び前記第3バリスタの容量が等しい」との記載を「前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及び前記第3バリスタが同一仕様である」とする訂正は、単に容量が等しいとしたのでは、必ずしも容量の技術的意味が明らかではなかったものを、「同一仕様である」と訂正することにより、部品としての仕様が同一であり、部品の共通化が可能であることを明確にした訂正であるから、訂正事項1は明瞭ではない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記イに摘記したように、発明の詳細な説明の段落【0018】に「第3バリスタZR3と、第1バリスタZR1と、第2バリスタZR2とに同一仕様のバリスタを用いることができる。」と記載されていることから、訂正事項1は願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
なお、特許異議申立人は、令和3年10月12日に提出した意見書において、「同一仕様」とする訂正では、バリスタの数ある特徴の仕様の少なくとも一つでも同一であれば同一仕様に該当するとして限定的減縮を目的とする訂正には当たらない旨主張している。しかしながら、上述したようにバリスタが「同一仕様である」と言うことは、バリスタが有する特性の少なくとも一つが同じであるということにとどまらず、部品の共通化によりコストの低減や生産上の効率向上が図れることを意味しており、また、訂正事項1は明瞭ではない記載の釈明を目的とする訂正であるから、特許異議申立人の主張は採用できない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は請求項3に関し「前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及びフィルタの前後に接続される第3バリスタを同一仕様とする」と訂正するものであるから、訂正事項1と同様の訂正であり、上記(1)のとおり、明瞭ではない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3〕について訂正することを認める。


第3 本件発明
上記「第2」のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるものである。なお、下線部は訂正箇所を示す。

「【請求項1】
電源と前記電源から電力を供給される負荷との間に接続される電源保護装置であって、
前記電源と並列に接続された第1バリスタと、
前記第1バリスタの一端とアースラインとの間に接続された第2バリスタと、
前記第2バリスタと前記アースラインとの間に接続されたアレスタと、
前記電源と前記負荷との間に接続され、電源ラインのノイズを除去するフィルタと、
前記負荷と接続される前記電源ラインの少なくとも一方において、前記フィルタの前後に端子をそれぞれ接続された第3バリスタとを備え、
前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及び前記第3バリスタが同一仕様である電源保護装置。

【請求項2】
室外機と室内機とを備える空気調和装置と、
前記室内機に設けられる請求項1に記載の電源保護装置と、
を具備する空気調和システム。

【請求項3】
電源と並列に接続された第1バリスタと、前記第1バリスタの一端とアースラインとの間に接続された第2バリスタと、前記電源と負荷との間に接続され、電源ラインのノイズを除去するフィルタとを備え、前記電源と前記電源から電力を供給される前記負荷との間に接続される電源保護装置の製造方法であって、
前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及びフィルタの前後に接続される第3バリスタを同一仕様とする工程と、
前記第2バリスタと前記アースラインとの間にアレスタを接続する工程と、
前記負荷と接続される前記電源ラインの少なくとも一方において、前記フィルタの前後に前記第3バリスタの端子をそれぞれ接続する工程と、
を有する電源保護装置の製造方法。」


第4 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし3に係る特許に対して、当審が令和3年6月25日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

請求項1ないし3に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

特許請求の範囲の請求項1において、「前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及び前記第3バリスタの容量が等しい」と記載されているところ、「容量」との記載だけではどのような特性値を意味するのか不明確であり、明細書を参酌しても「容量」の定義が明確に記載されていないから、「容量」が具体的にどのような特性値であるのか特定できない。したがって、第1ないし第3バリスタの何が等しいのか不明であり、第1バリスタ、第2バリスタ、及び第3バリスタがどのような関係を有するのか明確ではない。
したがって、請求項1に係る発明は明確ではない。
同様の記載を有する請求項3、及び請求項1を引用する請求項2に係る発明についても同様である。

(2)当審の判断
ア 請求項1、2について
当審が通知した取消理由通知は、請求項1において「前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及び前記第3バリスタの容量が等しい」と記載されているところ、「容量」が何を意味するのか不明瞭であり、第1ないし第3バリスタがどのような関係を有するのか明確ではないというものだが、本件訂正により「容量が等しい」との記載が「同一仕様である」と訂正された。
そして、上記「第2」の「2(1)訂正事項1について」において検討したように、バリスタが同一仕様であるとは、バリスタの容量以外の他の特性の仕様も含めて同一であることを特定するものであり、その結果としてコストの低減や生産上の効率向上を図ったものであるから、記載に不明瞭なところはなく、請求項1に係る発明は明確である。また請求項1を引用する請求項2の記載も明確である。
したがって、請求項1及び2に係る発明は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反して特許されたものではない。

イ 請求項3について
請求項3についても請求項1と同様に「同一仕様とする」と訂正されたことにより発明が明確になった。したがって、請求項3に係る発明は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反して特許されたものではない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立て理由について
(1)異議理由2(実施可能要件
異議理由2は、請求項1に係る発明について、本件訂正前の「前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及び前記第3バリスタの容量が等しい」との記載があることを前提として、発明の詳細な説明には「(a)パッケージエアコンの耐電圧試験及び雷サージに対する試験の電圧1500V、1800Vが印加される第1バリスタZR1、第2バリスタZR2、(b)ACラインノイズフィルタ回路によってサージ電圧が増幅され、5〜10[kV]程度の電圧が印加される第3バリスタZR3の容量を等しくすることで本件特許発明1の解決課題を解決するための具体的構成が記載されていない」から、特許法第36条第4項第1号の規定に違背して特許されたものというものである。(請求項2、3に係る発明についても同様)
しかしながら、本件訂正により請求項1の「前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及び前記第3バリスタの容量が等しい」との記載は「前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及び前記第3バリスタが同一仕様である」と訂正された。そしてバリスタが同一仕様となることにより、上記「第2」の「2(1)」において検討したように、コストの低減や生産上の効率向上が図れるという効果を奏するものであるから、特許法第36条第4項第1号の規定に違反して特許されたものではない。

(2)異議理由3(進歩性
ア 請求項1について
a.特許異議申立人の主張の概要
請求項1に対する異議理由3は、「甲1発明に対し、甲2〜甲8に記載された周知慣用技術を適用し、アレスタをバリスタに組合わせてアース側に接続すること、及び2次的に発生するサージ電圧の高低に応じてバリスタの種類、バリスタ電圧などの仕様を選択し、同じ容量のバリスタを使用して、
(相違点1):(1D)前記第2バリスタと前記アースラインとの間に接続されたアレスタと、
(相違点2):(1G)前記第バリスタ、前記第2バリスタ、及び前記第3バリスタの容量が等しい
構成を採用し本件発明1とすることは当業者がなす日々の設計において適宜採用することができる程度の設計的事項にすぎず、当業者において格別の困難性はない。したがって、本件発明1は特許法第29条第2項の規定に違背して特許された」というものである。

b.本件発明1について
本件発明1は上記「第3 本件発明」に示したとおりである。

c.引用発明
甲第1号証(特開平11−27856号公報)には以下の記載がある。
「【請求項1】 交流電源と、前記交流電源と並列に接続された第1のバリスタZR1と、前記第1のバリスタZR1の一端側とアースライン側との間に接続された第2のバリスタZR2と、前記交流電源と負荷側との間に接続されて電源供給ラインのノイズを除去するラインフィルタL1と、前記電源ラインの一方のラインであって前記ラインフィルタL1の前後に各端子をそれぞれ接続した第3のバリスタZR3と、を具備したことを特徴とする電源保護装置。」

「【0009】一例を挙げると、図2の従来回路では、例えばバリスタZR12のバリスタ電圧を1200V程度のものを使用した場合には、バリスタZR13のバリスタ電圧は1600V〜1800V程度のものが必要となる。一方、図1の電源保護装置においては、同様にバリスタZR2のバリスタ電圧を1200V程度のものを使用した場合には、バリスタZR3のバリスタ電圧は400〜600V程度のものの使用で実現できるようになる。なお、これらの数値は一例を示したものであり、電源回路に用いる他の素子の定数が異なればそれに応じて異なり、電源ラインに用いるコードの種類、アース回路の状態によって異なるのはもちろんのことである。」

(図1)




以上によれば、甲第1号証は、以下の発明(以下「引用発明」という。)を開示していると認められる。
「交流電源と、前記交流電源と並列に接続された第1のバリスタZR1と、
前記第1のバリスタZR1の一端側とアースライン側との間に接続された第2のバリスタZR2と、
前記交流電源と負荷側との間に接続されて電源供給ラインのノイズを除去するラインフィルタL1と、
前記電源ラインの一方のラインであって前記ラインフィルタL1の前後に各端子をそれぞれ接続した第3のバリスタZR3と、
を具備した電源保護装置。」

d.対比・判断
本件発明1を引用発明と対比すると、
・引用発明の「交流電源」は本件発明1の「電源」に相当する。
・引用発明の「前記交流電源と並列に接続された第1のバリスタZR1」は、本件発明1の「前記電源と並列に接続された第1バリスタ」に相当する。
・引用発明の「前記第1のバリスタZR1の一端側とアースライン側との間に接続された第2のバリスタZR2」は、本件発明1の「前記第1バリスタの一端とアースラインとの間に接続された第2バリスタ」に相当する。
・引用発明の「前記交流電源と負荷側との間に接続されて電源供給ラインのノイズを除去するラインフィルタL1」は、本件発明1の「前記電源と前記負荷との間に接続され、電源ラインのノイズを除去するフィルタ」に相当する。
・引用発明の「電源ライン」は「負荷」に接続されていることは明らかであることを踏まえると、引用発明の「前記電源ラインの一方のラインであって前記ラインフィルタL1の前後に各端子をそれぞれ接続した第3のバリスタZR3」は、本件発明1の「前記負荷と接続される前記電源ラインの少なくとも一方において、前記フィルタの前後に端子をそれぞれ接続された第3バリスタ」に相当する。
・引用発明における「電源保護装置」は「交流電源」と「負荷側」との間に接続されているといえるから、引用発明と本件発明1とは「電源と前記電源から電力を供給される負荷との間に接続される電源保護装置」である点で共通する。
・本件発明1が「前記第2バリスタと前記アースラインとの間に接続されたアレスタ」を有しているのに対して引用発明は当該構成を有していない点で相違する。
・本件発明1が「前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及び前記第3バリスタが同一仕様」に構成されているのに対して、引用発明は当該構成を有していない点で相違する。

そうしてみると、本件発明1は引用発明と以下の点で一致し、相違する。

(一致点)
「電源と前記電源から電力を供給される負荷との間に接続される電源保護装置であって、
前記電源と並列に接続された第1バリスタと、
前記第1バリスタの一端とアースラインとの間に接続された第2バリスタと、
前記電源と前記負荷との間に接続され、電源ラインのノイズを除去するフィルタと、
前記負荷と接続される前記電源ラインの少なくとも一方において、前記フィルタの前後に端子をそれぞれ接続された第3バリスタとを備える電源保護装置。」

(相違点1)
本件発明1が「前記第2バリスタと前記アースラインとの間に接続されたアレスタ」を有しているのに対して引用発明は当該構成を有していない点

(相違点2)
本件発明1が「前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及び前記第3バリスタが同一仕様」に構成されているのに対して、引用発明は当該構成を有していない点

上記相違点1、2についてあわせて検討する。
甲2号証ないし甲6号証の記載によれば、サージ電圧保護のための構成としてバリスタとアレスタを直列接続した構成を用いることは周知の技術である。(甲2号証(特開2006−197729号公報)の【0018】段落及び図1〜6参照。甲3号証(特許第2549149号公報)の2頁左欄12〜35行及び図4(c)参照。甲4号証(特開2007−209138号公報)の【0013】段落及び図3参照。甲5号証(特開平7−39136号公報)の【0012】【0014】段落及び図1参照。甲6号証(特開2001−286057号公報)の【0008】段落及び図5参照。)
そうしてみると、引用発明において「第1バリスタの一端とアースラインとの間に接続された第2バリスタ」に替えて、サージ電圧保護のために用いられる周知のバリスタとアレスタを直列接続した構成を用いることは、当業者であれば適宜設計変更できた事項といえ、またバリスタにアレスタを直列に接続することによって、印加された電圧を分圧することによりバリスタの耐圧を小さくできることも技術常識に照らして当業者に明らかな事項であるといえる。
しかしながら、引用発明の「第2のバリスタZR2」にアレスタを直列接続することによってバリスタの耐圧を小さくできたとしても、本件発明1のように「前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及び前記第3バリスタ」を「同一仕様」とすることが容易であるということはできない。また、甲7号証(特開2007−189776号公報)、甲8号証(特表2014−517668号公報)を参照しても容易であるということはできない。そして、本件発明1は第1ないし第3バリスタを同一仕様とすることによりコストの低減や生産上の効率向上という格別の効果を奏するものである。したがって、上記相違点2とした構成は、引用発明に甲2ないし甲8号証記載の周知技術を適用することにより容易に発明できたものとはいえない。
なお、特許異議請求人が令和2年5月19日に提出した
甲9号証:「バリスタの安全な使い方」2014年10月20日、電子情報技術産業協会(https://www.jeita.or.jp/japanese/exhibit/2012/1117/pdf/varistor.pdf)
甲10号証:特開2008−206263号公報
甲11号証:特開平3−97309号公報
甲12号証:特開2004−172368号公報
特許異議請求人が令和2年12月22日に提出した
甲13号証:特開2007−116868号公報
甲14号証:特開昭61−204903号公報
甲15号証:特表2014−517668号公報
甲16号証:「解説 最近のバリスタの進歩」、小笠原正、素材物性学雑誌、第25巻、20ないし23頁、日本素材物性学会発行、2013年6月
特許異議請求人が令和3年10月12日に提出した
甲17号証:「製品情報 バリスタ」株式会社KOA、https://www.koaglobal.com/product/category/varistor の印刷物、令和3年9月17日印刷
甲17の2号証:「製品検索」株式会社KOA、https://www.koaglobal.com/Parametric/public/ParametricSearch.aspx の印刷物、令和3年9月17日
を参照しても、第1ないし第3バリスタを同一仕様とする記載も示唆も見い出せない。
本件発明2、3についても同様である。
したがって、本件発明1ないし3は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源と前記電源から電力を供給される負荷との間に接続される電源保護装置であって、
前記電源と並列に接続された第1バリスタと、
前記第1バリスタの一端とアースラインとの間に接続された第2バリスタと、
前記第2バリスタと前記アースラインとの間に接続されたアレスタと、
前記電源と前記負荷との間に接続され、電源ラインのノイズを除去するフィルタと、
前記負荷と接続される前記電源ラインの少なくとも一方において、前記フィルタの前後に端子をそれぞれ接続された第3バリスタとを備え、
前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及び前記第3バリスタが同一仕様である電源保護装置。
【請求項2】
室外機と室内機とを備える空気調和装置と、
前記室内機に設けられる請求項1に記載の電源保護装置と、
を具備する空気調和システム。
【請求項3】
電源と並列に接続された第1バリスタと、前記第1バリスタの一端とアースラインとの間に接続された第2バリスタと、前記電源と負荷との間に接続され、電源ラインのノイズを除去するフィルタとを備え、前記電源と前記電源から電力を供給される前記負荷との間に接続される電源保護装置の製造方法であって、
前記第1バリスタ、前記第2バリスタ、及びフィルタの前後に接続される第3バリスタ を同一仕様とする工程と、
前記第2バリスタと前記アースラインとの間にアレスタを接続する工程と、
前記負荷と接続される前記電源ラインの少なくとも一方において、前記フィルタの前後に前記第3バリスタの端子をそれぞれ接続する工程と、
を有する電源保護装置の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-11-18 
出願番号 P2015-227463
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (H02H)
P 1 651・ 851- YAA (H02H)
P 1 651・ 537- YAA (H02H)
P 1 651・ 121- YAA (H02H)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 山田 正文
特許庁審判官 酒井 朋広
山本 章裕
登録日 2019-11-01 
登録番号 6607562
権利者 三菱重工サーマルシステムズ株式会社
発明の名称 電源保護装置及びそれを備えた空気調和システム並びに電源保護装置の製造方法  
代理人 藤田 考晴  
代理人 川上 美紀  
代理人 藤田 考晴  
代理人 三苫 貴織  
代理人 川上 美紀  
代理人 三苫 貴織  

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