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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1381640
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-02-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-28 
確定日 2021-10-14 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6636483号発明「軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6636483号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕について訂正することを認める。 特許第6636483号の請求項1〜4に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6636483号の請求項1〜4に係る特許についての出願は、平成29年7月28日(優先権主張 平成28年12月15日)に出願され、令和元年12月27日にその特許権の設定登録がされ、令和2年1月29日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1〜4に係る特許に対し、令和2年7月28日に特許異議申立人阿部治美(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年10月20日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年12月21日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。特許権者から訂正請求があったこと及び意見書が提出されたことを、令和3年1月5日付けで特許異議申立人に通知し、特許異議申立人は、その指定期間内である同年2月10日に意見書を提出した。当審は、同年3月17日付けで取消理由(決定の予告)を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和3年5月11日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、その内容を「本件訂正」という。)を行った。特許権者から本件訂正請求があったこと及び意見書が提出されたことを、同年同月20日付けで特許異議申立人に通知し、特許異議申立人は、その指定期間内である同年6月25日に意見書を提出した。
なお、令和2年12月21日になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
本件訂正は、以下の訂正事項1及び2からなる。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「 顔料と、バインダー樹脂と、有機溶剤とを含み、
前記バインダー樹脂は、ポリウレタン樹脂を含み、
前記ポリウレタン樹脂は、バイオマスポリウレタン樹脂を含み、かつ、末端に第1級アミノ基または第2級アミノ基の少なくともいずれか一方を含み、
前記バイオマスポリウレタン樹脂の含有量は、前記ポリウレタン樹脂中、10〜100質量%であり、
前記ポリウレタン樹脂は、バイオマス由来のポリウレタン樹脂およびバイオマス由来でないポリウレタン樹脂を含み、
前記バイオマスポリウレタン樹脂は、バイオポリオール成分と、イソシアネート成分とを反応させたバイオマスポリウレタン樹脂であり、
前記バイオポリオール成分は、植物由来の炭素数が2〜4の短鎖ジオール成分と、植物由来のカルボン酸成分とを反応させたバイオポリエステルポリオール(B)であり、
前記カルボン酸成分は、セバシン酸、コハク酸およびダイマー酸からなる群から選択される少なくともいずれか1種である、軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物。」と記載されているのを、
「顔料と、バインダー樹脂と、有機溶剤と、水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体とを含み、
前記バインダー樹脂は、ポリウレタン樹脂を含み、
前記ポリウレタン樹脂は、バイオマスポリウレタン樹脂を含み、かつ、末端に第1級アミノ基または第2級アミノ基の少なくともいずれか一方を含み、
前記バイオマスポリウレタン樹脂の含有量は、前記ポリウレタン樹脂中、10質量%以上であり、
前記ポリウレタン樹脂は、バイオマス由来のポリウレタン樹脂およびバイオマス由来でないポリウレタン樹脂を含み、
前記ポリウレタン樹脂と前記水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体との合計の含有量は、軟包装用ラミネート印刷インキ組成物中に、5〜20質量%であり、
前記バイオマスポリウレタン樹脂は、バイオポリオール成分と、イソシアネート成分とを反応させたバイオマスポリウレタン樹脂であり、
前記バイオポリオール成分は、植物由来の炭素数が2〜4の短鎖ジオール成分と、植物由来のカルボン酸成分とを反応させたバイオポリエステルポリオール(B)であり、
前記カルボン酸成分は、セバシン酸、コハク酸およびダイマー酸からなる群から選択される少なくともいずれか1種である、軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2〜4も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に「水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、硝化綿およびセルロースアセテートプロピオネート樹脂からなる群から選択される少なくとも1以上の化合物をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物。」と記載されているのを、
「硝化綿およびセルロースアセテートプロピオネート樹脂からなる群から選択される少なくとも1以上の化合物をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物。」
に訂正する。

2 一群の請求項についての説明
訂正前の請求項1〜4について、請求項2〜4は、請求項1を直接的または間接的に引用しているものであって、訂正事項1により記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、本件訂正請求は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項について請求されたものである。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正後の請求項1に記載の発明は、訂正前の請求項1に記載のバイオマスポリウレタン樹脂の含有量が「10〜100質量%であり」と規定されていたものを、「10質量%以上であり」と訂正したものである。これは、訂正前の請求項1に記載の発明を特定する事項である「前記ポリウレタン樹脂は、バイオマス由来のポリウレタン樹脂およびバイオマス由来でないポリウレタン樹脂を含み」と「前記バイオマス由来のポリウレタン樹脂の含有量は・・100質量%であり」とが論理的に矛盾していたことから、バイオマス由来でないポリウレタン樹脂を含まない態様が訂正前の請求項1に記載の発明に含まれていると解する余地が生じて不明確であったのに対し、訂正後の請求項1に記載の発明は、必ずバイオマス由来のポリウレタン樹脂およびバイオマス由来でないポリウレタン樹脂を含むことを明確にしたものである。
また、訂正後の請求項1に記載の発明において、訂正前の請求項4に記載の「水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体・・・をさらに含む」との発明特定事項を盛り込むとともに、出願当初の明細書[0056]を根拠として、「前記ポリウレタン樹脂と、前記水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体との合計の含有量は、軟包装用ラミネート印刷インキ組成物中に、5〜20質量%であり」との発明特定事項を規定する訂正を行うものである。
したがって、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明のみを目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2〜4の記載についても実質的に訂正するものであるが、上記アの理由から明らかなように、訂正後の請求項1の記載は、訂正前の請求項1との関係で特許請求の範囲を実質的に拡張し、または変更するものには該当せず、また、訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載以外に、訂正前の請求項2〜4の記載について何ら訂正するものではなく、本件訂正発明2〜4のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。
したがって、訂正事項1は、訂正前の請求項2〜4との関係で実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更する訂正ではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
(ア)「前記ポリウレタン樹脂中、10質量%以上であり」について
願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0050】
バイオマスポリウレタン樹脂は、環境面から、ポリウレタン樹脂中、固形分換算で、10質量%以上含まれることが好ましく、40質量%以上含まれることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。」、
「【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、特に制限のない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0071】
<ポリウレタン樹脂ワニスA(バイオマスポリウレタンでないもの、アミン価3.2)の製造例>
攪拌機、冷却管および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、平均分子量2000の3−メチル−1,5−ペンチレンアジペートジオールの200質量部、イソホロンジイソシアネートの17.6質量部、水添MDIの21.0質量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら100〜105℃で6時間反応させた。室温近くまで放冷し、酢酸エチルの400質量部、イソプロピルアルコールの171質量部を加えた後、イソホロンジアミンの8.2質量部を加えて鎖伸長させ、さらにモノエタノールアミンの0.35質量部を加え反応させ、その後、イソホロンジアミンの1.3質量部、ジエチレントリアミンの0.6質量部を加えて反応停止させてポリウレタン樹脂ワニスA(固形分30質量%、アミン価3.2)を得た。
【0072】
<ポリウレタン樹脂ワニスB(バイオマスポリウレタンでないもの、アミン価0)の製造例>
攪拌機、冷却管および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、平均分子量2000の3−メチル−1,5−ペンチレンアジペートジオールの200質量部、イソホロンジイソシアネートの17.6質量部、水添MDIの21.0質量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら100〜105℃で6時間反応させた。室温近くまで放冷し、酢酸エチルの406質量部、イソプロピルアルコールの175質量部を加えた後、イソホロンジアミンの9.2質量部を加えて鎖伸長させ、さらにモノエタノールアミンの0.7質量部を加えて反応停止させ、ポリウレタン樹脂ワニスB(固形分30質量%、アミン価0)を得た。
【0073】
<ポリウレタン樹脂ワニスC(バイオマスポリウレタン、アミン価3.2)の製造例>
攪拌機、冷却管および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、セバシン酸(ひまし油由来)と1,3−プロパンジオール(植物由来)から得られる平均分子量2000のポリエステルジオールの200質量部、イソホロンジイソシアネートの17.6質量部、水添MDIの21.0質量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら100〜105℃で6時間反応させた。室温近くまで放冷し、酢酸エチルの400質量部、イソプロピルアルコールの171質量部を加えた後、イソホロンジアミンの8.2質量部を加えて鎖伸長させ、さらにモノエタノールアミンの0.35質量部を加え反応させ、その後、イソホロンジアミンの1.3質量部、ジエチレントリアミンの0.6質量部を加えて反応停止させてポリウレタン樹脂ワニスC(固形分30質量%、アミン価3.2)を得た。
【0074】
<ポリウレタン樹脂ワニスD(バイオマスポリウレタン、アミン価3.2)の製造例>
攪拌機、冷却管および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、ダイマー酸(植物由来)と1,3−プロパンジオール(植物由来)から得られる平均分子量2000のポリエステルジオールの200質量部、イソホロンジイソシアネートの17.6質量部、水添MDIの21.0質量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら100〜105℃で6時間反応させた。室温近くまで放冷し、酢酸エチルの400質量部、イソプロピルアルコールの171質量部を加えた後、イソホロンジアミンの8.2質量部を加えて鎖伸長させ、さらにモノエタノールアミンの0.35質量部を加え反応させ、その後、イソホロンジアミンの1.3質量部、ジエチレントリアミンの0.6質量部を加えて反応停止させてポリウレタン樹脂ワニスD(固形分30質量%、アミン価3.2)を得た。
【0075】
<ポリウレタン樹脂ワニスE(バイオマスポリウレタン、アミン価3.2)の製造例>
攪拌機、冷却管および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、セバシン酸(ひまし油由来)/コハク酸(植物由来)=70/30(質量比)と1,3−プロパンジオール(植物由来)から得られる平均分子量2000のポリエステルジオールの200質量部、イソホロンジイソシアネートの17.6質量部、水添MDIの21.0質量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら100〜105℃で6時間反応させた。室温近くまで放冷し、酢酸エチルの400質量部、イソプロピルアルコールの171質量部を加えた後、イソホロンジアミンの8.2質量部を加えて鎖伸長させ、さらにモノエタノールアミンの0.35質量部を加え反応させ、その後、イソホロンジアミンの1.3質量部、ジエチレントリアミンの0.6質量部を加えて反応停止させてポリウレタン樹脂ワニスE(固形分30質量%、アミン価3.2)を得た。
【0076】
<ポリウレタン樹脂ワニスF(バイオマスポリウレタン、アミン価0)の製造例>
攪拌機、冷却管および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、セバシン酸(ひまし油由来)と1,3−プロパンジオール(植物由来)から得られる平均分子量2000のポリエステルジオールの200質量部、イソホロンジイソシアネートの17.6質量部、水添MDIの21.0質量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら100〜105℃で6時間反応させた。室温近くまで放冷し、酢酸エチルの406質量部、イソプロピルアルコール
の175質量部を加えた後、イソホロンジアミンの9.2質量部を加えて鎖伸長させ、さらにモノエタノールアミンの0.7質量部を加えて反応停止させ、ポリウレタン樹脂ワニスF(固形分30質量%、アミン価0)を得た。
【0077】
<実施例1〜10、比較例1、2、参考例1:軟包装用ラミネート用白色印刷インキ組成物の調製>
顔料(酸化チタンR−960、デュポン社製)、上記ポリウレタン樹脂ワニスA〜E、塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂(ソルバインTA−3,日信化学工業(株)製)を、レッドデビル社製のペイントコンデショナーを用いて混練し、さらに溶媒を加えて、表1に示した実施例1〜10、比較例1、2、参考例1の軟包装用ラミネート用白色インキ組成物を得た。
【0078】
<実施例11、12:軟包装用ラミネート用藍色インキ組成物の製造例>
顔料(フタロシアニンブルー、C.I.15:4)、ポリウレタン樹脂ワニスAとC、塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂(ソルバインTA−3、日信化学工業(株)製)を、レッドデビル社製のペイントコンデショナーを用いて混練し、さらに溶媒を加えて、表1に示した実施例11、12の軟包装用ラミネート用藍色インキ組成物を得た。
【0079】
【表1】

よって、「前記ポリウレタン樹脂中、10質量%以上であり」とする訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかである。
(イ)「水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体とを含み、
・・・
前記ポリウレタン樹脂と前記水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体との合計の含有量は、軟包装用ラミネート印刷インキ組成物中に、5〜20質量%であり」について
「【請求項4】
水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、硝化綿およびセルロースアセテートプロピオネート樹脂からなる群から選択される少なくとも1以上の化合物をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物。」
「【0056】
末端に第1級アミノ基または第2級アミノ基を有するアミン価1〜13のポリウレタン樹脂と塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体との合計の含有量は、軟包装用ミネート用印刷インキ組成物中に、5〜20質量%であることが好ましい。」との記載がなされている。
よって、「水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体とを含み、
・・・
前記ポリウレタン樹脂と前記水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体との合計の含有量は、軟包装用ラミネート印刷インキ組成物中に、5〜20質量%であり」とする訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであるといえる。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項4に記載の「水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、硝化綿およびセルロースアセテートプロピオネート樹脂からなる群から選択される少なくとも1以上の化合物」の選択枝から、「水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体」を削除する訂正を行うものである。
したがって、当該訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、訂正前の請求項4に記載の「水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、硝化綿およびセルロースアセテートプロピオネート樹脂からなる群から選択される少なくとも1以上の化合物」の選択枝から、「水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体」を削除する訂正を行うものである。
したがって、訂正事項2は、訂正前の請求項4の記載に基づくものである。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであるといえる。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項〜第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項1〜4について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1〜4に係る発明は、令和3年5月11日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件特許発明1」〜「本件特許発明4」、まとめて「本件特許発明」ともいう。)である。

「【請求項1】
顔料と、バインダー樹脂と、有機溶剤と、水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体とを含み、
前記バインダー樹脂は、ポリウレタン樹脂を含み、
前記ポリウレタン樹脂は、バイオマスポリウレタン樹脂を含み、かつ、末端に第1級アミノ基または第2級アミノ基の少なくともいずれか一方を含み、
前記バイオマスポリウレタン樹脂の含有量は、前記ポリウレタン樹脂中、10質量%以上であり、
前記ポリウレタン樹脂は、バイオマス由来のポリウレタン樹脂およびバイオマス由来でないポリウレタン樹脂を含み、
前記ポリウレタン樹脂と前記水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体との合計の含有量は、軟包装用ラミネート印刷インキ組成物中に5〜20質量%であり、
前記バイオマスポリウレタン樹脂は、バイオポリオール成分と、イソシアネート成分とを反応させたバイオマスポリウレタン樹脂であり、
前記バイオポリオール成分は、植物由来の炭素数が2〜4の短鎖ジオール成分と、植物由来のカルボン酸成分とを反応させたバイオポリエステルポリオール(B)であり、
前記カルボン酸成分は、セバシン酸、コハク酸およびダイマー酸からなる群から選択される少なくともいずれか1種である、軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物。
【請求項2】
前記イソシアネート成分は、植物由来のバイオイソシアネートである、請求項1記載の軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物。
【請求項3】
前記バイオマスポリウレタン樹脂およびバイオマスポリウレタン樹脂以外のポリウレタン樹脂は、末端に第1級アミノ基または第2級アミノ基の少なくともいずれか一方を含む、請求項1または2記載の軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物。
【請求項4】
硝化綿およびセルロースアセテートプロピオネート樹脂からなる群から選択される少なくとも1以上の化合物をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
令和2年12月21日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜4に係る特許に対して、当審が令和3年3月17日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

理由1(進歩性) 本件特許の請求項1〜4に係る発明は、本件特許優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2016−150942号公報
甲第2号証:特開2015−38162号公報
甲第3号証:特開2011−225863号公報

2 甲号証の記載について
(1)甲第1号証(以下、「甲1」という。)
1a「【請求項1】
高分子ポリオールと、ジイソシアネートとを反応させてなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、有機ジアミンと反応させてなるポリウレタンウレア樹脂、および
有機溶剤を含有するグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物であって、
下記(1)〜(3)であることを特徴とするグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物。
(1)前記高分子ポリオールは、ポリエステルポリオールを前記高分子ポリオールに対して50重量%以上含有する。
(2)前記ポリエステルポリオールは、グリコールと二塩基酸との反応からなる。
(3)前記ポリエステルポリオールの全グリコールは、2−メチル−1,3−プロパンジオールと、3−メチル−1,5−ペンタンジオールとを前記ポリエステルポリオールの全グリコールに対してそれぞれ20重量%以上含有する。
【請求項2】
請求項1記載のポリウレタンウレア樹脂組成物を用いてなる印刷インキ組成物。」
1b「【0011】
本発明におけるポリウレタンウレア樹脂は、高分子ポリオールと、ジイソシアネートとを反応させてなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、有機ジアミンと反応させてなる。つまり、ポリウレタンウレア樹脂の合成法は、まずプレポリマー反応として高分子ポリオールとジイソシアネート化合物を、必要に応じイソシアネート基に不活性な溶媒を用い、また、更に必要であれば触媒を用いて10〜100℃の温度で反応させ、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造し、次いで、鎖延長反応としてウレタンプレポリマーと有機ジアミンとを、10〜80℃で反応させる。プレポリマー反応および鎖延長反応の終点は、粘度測定、IR測定によるNCOピ−ク、滴定によるアミン価測定等により判断される。」
1c「【0015】
上記範囲内であれば、MPO、MPD以外に、公知のグリコールを併用することもできる。例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,4−ブチンジオール、1,4−ブチレンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、ソルビトール、ペンタエスリトール等が挙げられる。
【0016】
二塩基酸としては、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、こはく酸、しゅう酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等が挙げられる。」
1d「【0026】
本発明におけるウレタンウレア樹脂組成物を用いたグラビア印刷インキには、用途や基材に応じて、様々な樹脂を併用することができる。用いられる樹脂の例としては、上記記載以外のポリウレタン樹脂およびポリウレタンウレア樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ニトロセルロース樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ロジン系樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、テルペン樹脂、フェノール変性テルペン樹脂、ケトン樹脂、環化ゴム、塩化ゴム、ブチラール、石油樹脂、およびこれらの変性樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂は、単独で、または2種以上を混合して用いることができ、その含有量は、インキの総重量に対して5〜25重量%が好ましい。
【0027】
本発明におけるグラビア印刷インキは、顔料をバインダー樹脂等により分散機を用いて有機溶剤中に分散し、得られた顔料分散体にバインダー樹脂、各種添加剤や有機溶剤等を混合して製造できる。分散機としては一般に使用される、例えばローラーミル、ボールミル、ペブルミル、アトライター、サンドミルなどを用いることができる。顔料分散体における顔料の粒度分布は、分散機の粉砕メディアのサイズ、粉砕メディアの充填率、分散処理時間、顔料分散体の吐出速度、顔料分散体の粘度などを適宜調節することにより、調整することができる。また、本発明においては顔料を含有しないメジウム等に関しても適用できる。」
1e「【0048】
(ポリエステルポリオールの合成)
[合成例1−1]
攪拌機、温度計、分水器および窒素ガス導入管を備えた丸底フラスコに、2−メチル−1,3−プロパンジオール(以下MPOとも略す)9.546部、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(以下MPDとも略す)37.556部、アジピン酸52.896部、テトラブチルチタネート0.002部を仕込み、窒素気流下に230℃で縮合により生じる水を除去しながらエステル化を8時間行った。ポリエステルの酸価が15以下になったことを確認後、真空ポンプにより徐々に真空度を上げ反応を終了した。これにより水酸基価56.1mgKOH/g (水酸基価から算出される数平均分子量2000)、酸価0.3mgKOH/gのポリエステルポリオ−ル(A1)を得た。」
1f「【0051】
(ポリウレタンウレア樹脂組成物の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、ポリエステルポリオ−ル(A1)22.887部、イソホロンジイソシアネート(以下IPDIとも略す)5.087部、酢酸エチル7.500部、2−エチルヘキサン酸スズ0.003部を仕込み、窒素気流下に120℃で6時間反応させ、酢酸エチル7.500部を加え冷却し、末端イソシアネートプレポリマーの溶液を得た。次いでイソホロンジアミン(以下IPDAとも略す)2.026部、酢酸エチル34.000部およびイソプロピルアルコール(以下IPAとも略す)21.000部を混合したものへ、得られた末端イソシアネートプレポリマーの溶液を室温で徐々に添加し、次に50℃で1時間反応させ、固形分30.0%、重量平均分子量35000、アミン価4.0mgKOH/樹脂1gのポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)を得た。」
1g「【0055】
(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニスの調製)
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(日信化学工業株式会社製ソルバインTA5R)30部を、酢酸エチル70部に混合溶解させて、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニスを調整した。
【0056】
(藍色印刷インキ組成物の調製)
[実施例1]
銅フタロシアニン藍(トーヨーカラー株式会社製LIONOL BLUE FG−7330)12.0部、ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)10.0部、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニス10.0部、混合溶剤(ノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール=75/25(重量比))10.0部を撹拌混合しサンドミルで練肉した後、ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)20.0部、混合溶剤(ノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール=75/25(重量比))38.0部を攪拌混合し、藍色印刷インキ(C1)を得た。」
1h「【0061】
[印刷物の作成]
印刷インキの粘度をノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール混合溶剤(重量比70/30)で希釈し、ザーンカップ#3(離合社製)で15秒(25℃)に調整し、版深35μmグラビア版を備えたグラビア校正機により、片面コロナ処理OPPフィルム(東洋紡株式会社製パイレンP2161)、コロナ処理PETフィルム(東洋紡株式会社製E5100#12)に印刷して40〜50℃ で乾燥し、印刷物を得た。」
1i「【0065】
[レトルト適性]
上記のPETフィルムの印刷物に、ドライラミネート用接着剤(東洋モートン株式会社製TM−550/CAT−RT37)を塗工し、ライン速度40m/分でドライラミネート機を用いて、CPPフィルム(東レ株式会社製ZK93KM)と張り合わせ、ラミネート物を得た。得られたラミネート物は40℃で48時間エージングを行った。その後、CPP面を内側としてヒートシール(温度:190℃、圧:2kgf、時間:1秒)して袋体を作り、得られた袋体に、1:1:1スープ(ケチャップ:酢:水=重量比で1:1:1)を充填し、120℃30分のレトルト処理を行い、外観の変化を以下の基準で目視評価した。○が実用レベルである。
○:外観に変化は見られなかった。
×:外観にブリスター痕またはラミネート浮きが見られた。」

(2)甲第2号証(以下、「甲2」という。)
2a「【請求項1】
炭素数8以上の直鎖状ジカルボン酸及び/又はジオール(I)を10〜90質量%、
炭素数4以上の分岐状ジカルボン酸及び/若しくはジオール(II−1)を5〜80質量%、並びに/又は、3以上の官能基を有するポリオール、ポリカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1の多官能単量体(II−2)を2〜40質量%
を含有する単量体組成物の重合によって得られたものであり、
数平均分子量が500〜5000であり、非晶質であることを特徴とするポリエステル樹脂。
・・・
【請求項5】
ジカルボン酸単量体は、コハク酸及びセバシン酸からなる群から選択される少なくとも1のジカルボン酸(a)を含有し、
ジオール単量体は、1,4−ブタンジオール及び/又は1,3−プロパンジオール(b)を含有し、
3以上の官能基を有するポリオール、ポリカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1の多官能単量体(c)を含有し、
植物由来の原料を全樹脂原料に対して40〜95質量%の割合で含有する単量体組成物から得られ、
数平均分子量(Mn):500〜5000
であり、非晶質であることを特徴とするポリエステル樹脂。」
2b「【0027】
このような植物由来の高分子は、かつては生分解性という機能を期待して検討がなされてきたものであり、土中で微生物等によって分解される性能が求められていた。しかし、近年は二酸化炭素排出量の低減という観点からの検討が重要視されるようになりはじめている。このため、生分解性とは異なる観点から植物由来の高分子を検討する必要が生じ始めた。更に、塗料や化粧品用途において使用される樹脂粒子や、エネルギー線硬化型塗料の材料としても植物由来の高分子成分の利用が望まれている。第1の本発明のポリエステル樹脂は、その化学構造において植物由来の原料から得られるものを主要な構成単位とすることができるため、植物由来の原料の割合を高くすることができ、これによって二酸化炭素排出量の低減という課題をも達成することができるものである。・・・
【0031】
上記炭素数8以上の直鎖状ジカルボン酸及び/又はジオール(I)は、一部又は全部がセバシン酸であることが特に好ましい。セバシン酸は、植物由来のものの入手が比較的容易であり、得られる樹脂において、耐傷付性、耐水性、耐湿性、耐候性、硬度という物性が優れていることから、特に好ましいものである。」
2c「【0051】
なお、本発明においては、植物由来の原料を全樹脂原料に対して40〜95質量%の割合で含有するものである限りにおいて、石油原料を用いて得られたコハク酸、セバシン酸、1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオールを原料として併用してもよい。但し、より好ましくは、植物由来の原料より得られたコハク酸、セバシン酸、1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオールを全樹脂原料に対して40〜95質量%の割合で含有するものであることが好ましい。」
2d「【実施例】
【0161】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。また実施例中、「部」、「%」は特に断りのない限り「質量部」、「質量%」を意味する。
【0162】
合成例1
温度調節計、攪拌翼、窒素導入口、ディーンスタークトラップ、還流管を備えた1Lのセパラブルフラスコに、トリメチロールプロパン135g、ネオペンチルグリコール156g、セバシン酸404g、キシレン42g、p−トルエンスルホン酸1.2gを仕込んだ。また、ディーンスタークトラップにはキシレンを上限まで満たした。窒素気流下、系内の温度を140℃に上昇させて1時間保持し、更に195℃に昇温して5時間、縮合反応を継続し、樹脂酸価が4mgKOH/g(樹脂固形分)になったのを確認して冷却を開始した。冷却後、酢酸ブチルを添加して、固形分率を75%に調節した。
・・・
【0185】
(植物化度)
植物由来光硬化性材料の原料の中に占める植物由来原料の割合から算出した。
・・・
【0208】
合成例20〜22
合成例1と同様の反応器に、表10に示した配合で各成分を混合し、120℃で5時間反応させて、IRスペクトルにてイソシアネート基の消失を確認し、樹脂溶液を得た。なお、表中の単位はgである。
【0209】
【表10】

【0210】
実施例17
(グラビアインキの調製と評価)
合成例20で得られた樹脂溶液120部と、ベータ型フタロシアニン顔料30部、ポリエチレンワックス3部、イソプロピルアルコール30部および酢酸エチル120部を混合し、横型サンドミルを用いて分散し、グラビア印刷インキを調製した。得られた印刷インキを酢酸エチルとイソプロピルアルコールの混合溶剤(質量比40:60)でザーンカップNo.3で18秒に調整し、175線/インチのヘリオ版を使用したグラビア印刷機によりコロナ処理延伸ポリプロピレンフィルム及び、コロナ処理ポリエステルフィルムに印刷して50℃で乾燥し、印刷物を得た。得られた印刷物について、テープ接着試験による接着性、耐ブロッキング性を評価した。その結果を表11に示す。
・・・
【0215】
【表11】

【0216】
上記表11の結果から、実施例17のグラビアインキは、優れた性能を有することが明らかである。」

(3)甲第3号証(以下、「甲3」という。)
3a「【請求項1】
植物由来の短鎖ジオール成分(a)と、石油由来のカーボネート成分(b)又は植物由来のカルボン酸成分(c)とを用いて合成されてなる、バイオポリカーボネートポリオール(A)又はバイオポリエステルポリオール(B)、植物由来の短鎖ジオール成分(a)を用いて合成されてなるバイオポリエーテルポリオール(C)、のいずれかのポリオールと、イソシアネート成分(d)とを反応させてなるバイオポリウレタン樹脂であって、上記バイオポリウレタン樹脂100質量%に対して植物由来成分の含有量が28〜95質量%であることを特徴とするバイオポリウレタン樹脂。
・・・
【請求項4】
前記短鎖ジオール成分(a)が、植物由来の、エチレングリコール、1,3−プロパンジオールおよび1,4−ブタンジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイオポリウレタン樹脂。
【請求項5】
前記カルボン酸成分(c)が、植物由来の、ひまし油誘導体からなるセバシン酸および/または植物由来のコハク酸である請求項1〜4のいずれか1項に記載のバイオポリウレタン樹脂。
・・・
【請求項7】
前記イソシアネート成分(d)が、石油由来のイソシアネート(d1)または/および植物由来のイソシアネート(d2)である請求項1〜6のいずれか1項に記載のバイオポリウレタン樹脂。」
3b「【0002】
近年、枯渇性資源でない産業資源として「バイオマス」が注目されているが、かかる観点からの「バイオマス」の定義は、「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」とされている。従来から、木綿、ウール、絹、でんぷん、天然ゴムなどの天然系やその誘導体は、古典的なバイオマスポリマーとして使用されてきている。また、環境保全を目的に、1980年代から、バイオマスを原材料とする、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカン酸などの生分解性を重視するバイオマスポリマーの開発が盛んに行われてきている。その後、バイオマスである、1,3−プロパンジオール、コハク酸、キチン・キトサンをベースに、石油系モノマーを反応させてバイオマスポリマー(バイオベースポリマー)に転換させることについての開発が行われてきている。これらのバイオベースポリマーは、地球環境温暖化防止策として有用と考えられており、成形加工、繊維、不織布、包装、トナー、インキ、塗料、フィルム・シート、フォーム、コーティング、接着剤など、多種多様な製品の素材として期待されている。その応用分野も、複合素材、繊維、自動車、エレクトロニクス、建築、農業、漁業、医療、化粧品、食品、物流等、全ての産業分野への展開が期待され、一部では実用化もされている。しかしながら、バイオマスポリマーは、用途によっては、従来の石油系のポリマーと比較して物性面が十分であると言い難い場合があり、機械強度、耐熱性、加水分解性、柔軟性、難燃性、生分解性など、改良の余地がある。
【0003】
ここで、汎用性の石油系ポリマーの一つであるポリウレタン系樹脂(ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリウレタン−ポリウレア樹脂の総称。以下同じ。)は、耐摩耗性、屈曲性、可撓性、柔軟性、加工性、接着性、耐薬品性などの諸物性に優れたものが得られ、かつ、各種加工法への適性にも優れるため、各種コーティング剤、インキ、塗料などのバインダーとして、或いは、フィルム、シートおよび各種成形物用材料として広く使用されている。このため、これらの様々な用途に適した物性のポリウレタン系樹脂が種々提案されている。
【0004】
ポリウレタン系樹脂は、基本的には、高分子量ポリオール成分、有機ポリイソシアネート成分、さらには必要に応じて鎖伸長剤成分を反応させて得られるものであるが、これらの各成分の種類、組み合わせを変化させることによって、種々の性能(物性)を有するポリウレタン系樹脂の提供を可能としている。
【0005】
しかしながら、上記ポリウレタン系樹脂は、石油資源からの原材料調達、素材製造、使用、ゴミとして焼却するライフサイクルが大半であり、この点から、エコロジーを考慮した改善が求められている。すなわち、近年、ゴミの焼却によって発生する、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)等の温室効果ガス発生における地球温暖化や、石油資源の枯渇などは社会問題となっている。これらの温室効果ガスは、地表から熱が宇宙空間に逃げる作用を妨げる働きがあり、温室効果ガスの増加に伴って生じる、地球全体の海面の上昇や、温度上昇による生態系や農林業への影響が指摘されており、改善が求められている。また、原材料調達、素材製造、使用、廃棄までのライフサイクルにおいて、少なくとも、従来の石油由来の原材料を使用し続ける状態は、環境に配慮したものとは言えない。
【0006】
一方、植物由来の原材料は、植物が生育する際にCO2を吸収するために、例え焼却された場合でもCO2はゼロとカウントすることができ、植物由来の原材料は、地球温暖化対策に貢献できるという考え方がある。しかし、例えば、従来から知られている植物由来のポリ乳酸は、土壌微生物分解によって廃棄物削減に貢献できるとの立場から用途の拡大が推進されてきたが、その耐久性が低いために、限定された部位にしか使用できないという課題がある。
【0007】
前記したように、ポリウレタン系樹脂は、諸物性に優れ、かつ、各種加工法への適性にも優れるため、種々の用途への適応がなされているが、植物由来の原材料を用いてバイオポリウレタン樹脂とする場合には、植物由来の原料利用率(含有量)が高いものであると同時に、下記の要求を満足する実用化が可能なものであることが望まれる。すなわち、従来のポリウレタン系樹脂では、例えば、耐久性を必要とする、自動車関連、家具用関連に使用する素材としては、さらなる基材との接着性、柔軟性、耐水性が求められている。また、前記したような事情から、より地球環境に配慮した素材の提供が求められている。
【0008】
これに対し、石油から誘導したポリオールの少なくとも一部を植物由来のヒドロキシレートで置き換えた、再生可能な成分で製造されたポリウレタン発泡体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、化石燃料ポリオールと植物由来の高級脂肪酸とを縮合反応させてなる植物由来のポリオール、または、該植物由来のポリオールとイソシアネートとを反応させて末端にイソシアネート基を有するポリイソシアネートプレポリマーを原料として用いた軟質ポリウレタン発泡体についての提案がある(特許文献2参照)。そして、軟質ポリウレタン発泡体の物性を良好に維持することができると共に、難燃剤を用いることなく低燃焼性を発現することができるとしている。これらの文献は、ウレタン樹脂の製造原料の一部として植物由来の原料を用いることができることを提案しているが、未だ十分なものとは言い難く、諸物性に優れたポリウレタン樹脂を得、実用化が可能な技術とするためには、詳細に検討していく必要があることを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−291205号公報
【特許文献2】特開2009−167255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えば、各種コーティング剤などの用途に使用されるポリウレタン系樹脂は、環境問題に対する対策対応については、殆ど考慮されていないといった現状があり、植物由来の原料を積極的に使用することが望まれる。その一方で、使用用途にもよるが、一般的に、各種コーティング剤に要求される諸物性として、以下のことが要求されるため、環境問題に対する対策は、これらの諸物性を満足するものであることが前提となる。すなわち、原則として要求される耐久物性として、耐加水分解性、耐光性、耐熱性、耐ガス変色性、耐黴性、耐オレイン酸性(人間の汗成分)などを満足できる材料であることが要求される。
【0011】
本発明は、以上のような従来型技術における種々の問題に鑑みてなされたものである。その目的は、植物由来の原材料を高い比率で使用したバイオポリウレタン樹脂において、これを適用した場合に、各種コーティング剤、各種塗料、印刷インキ、成形体、フィルム、シート類に要求されている耐久性や、その性能などが従来のものと遜色がないか、或いはむしろ向上させることができ、しかも、環境問題に対する対応策ともなるエコロジー素材であるバイオポリウレタン樹脂を提供することにある。」

3 甲1に記載された発明
甲1の【請求項1】には、「高分子ポリオールと、ジイソシアネートとを反応させてなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、有機ジアミンと反応させてなるポリウレタンウレア樹脂、および
有機溶剤を含有するグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物であって、
下記(1)〜(3)であることを特徴とするグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物。
(1)前記高分子ポリオールは、ポリエステルポリオールを前記高分子ポリオールに対して50重量%以上含有する。
(2)前記ポリエステルポリオールは、グリコールと二塩基酸との反応からなる。
(3)前記ポリエステルポリオールの全グリコールは、2−メチル−1,3−プロパンジオールと、3−メチル−1,5−ペンタンジオールとを前記ポリエステルポリオールの全グリコールに対してそれぞれ20重量%以上含有する。」、【請求項2】には「請求項1記載のポリウレタンウレア樹脂組成物を用いてなる印刷インキ組成物。」が、記載されている。
そして、甲1の実施例1についてみると、甲1の【0056】には、「藍色印刷インキ組成物の調製」に関する実施例1として、銅フタロシアニン藍12.0部、ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)10.0部、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニス10.0部、混合溶剤100部を撹拌混合しサンドミルで練肉した後、ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)20.0部 、混合溶剤38.0部を攪拌混合し、藍色印刷インキ(C1)を得たことが記載されている。
ここで、当該実施例1のポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)は、【0048】に記載された「ポリエステルポリオールの合成」に従って合成された「ポリエステルポリオール」を用いて、【0051】に記載された「ポリウレタンウレア樹脂組成物の合成」に従って合成されたものであって、【請求項1】に記載された「高分子ポリオールと、ジイソシアネートとを反応させてなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、有機ジアミンと反応させてなるポリウレタンウレア樹脂」に該当する。また、当該実施例1の「銅フタロシアニン藍」及び「混合溶剤」は、【0027】に記載された「顔料」、及び、「有機溶剤」に該当する。また、当該実施例1の「塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニス」は、【0055】に記載された「塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニスの調製」に従って製造されたものであって、「塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニス(日信化学工業株式会社製ソルバインTA5R)30重量部、酢酸エチル70重量部に混合溶解させて、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニスを調製」したものであり、また、当該「塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体」について、【0026】に、「本発明におけるウレタンウレア樹脂組成物を用いたグラビア印刷インキには、用途や基材に応じて、様々な樹脂を併用することができる。用いられる樹脂の例としては、上記記載以外のポリウレタン樹脂およびポリウレタンウレア樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂」と記載されている。
また、甲1の実施例1においては、【0061】、【0065】に、上記「藍色印刷インキ(C1)」をPETフィルムにグラビア印刷して印刷物とし、これにCPPフィルムをドライラミネートしてラミネート物を得て、当該CPP面を内面としてヒートシールして作製された袋体のレトルト適性が確認されており、このような袋体に使用されたラミネートの構成は、レトルト食品の包装などにみられる軟包装用ラミネートの一般的な構成と解されるから、甲1に記載された印刷インキ組成物は、軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物を想定したものであることは明らかである。
そうすると、甲1には
「高分子ポリオールと、ジイソシアネートとを反応させてなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、有機ジアミンと反応させてなるポリウレタンウレア樹脂(B1)30.0部、顔料、有機溶剤、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニス10.0部、を含有する軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物であって、
前記高分子ポリオールは、ポリエステルポリオールを前記高分子ポリオールに対して50重量%以上含有するものであり、かつ、グリコールと二塩基酸との反応からなるものであり、かつ、前記ポリエステルポリオールの全グリコールは、2−メチル−1,3−プロパンジオールと、3−メチル−1,5−ペンタンジオールとを前記ポリエステルポリオールの全グリコールに対してそれぞれ20重量%以上含有するものであり、
前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニスは、日信化学工業株式会社製ソルバインTA5R(30重量部)を酢酸エチル70重量部に混合溶解させたものである、印刷インキ組成物」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

4 当審の判断
(1) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明におけるポリウレタンウレア樹脂は、「高分子ポリオールと、ジイソシアネートとを反応させてなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、有機ジアミンと反応させてなるポリウレタンウレア樹脂」であることから、甲1発明における「ポリウレタンウレア樹脂」は、本件特許発明1における「バインダー樹脂」及び「末端に第1級アミノ基または第2級アミノ基の少なくともいずれか一方を含」む「ポリウレタン樹脂」に相当するものである。
また、甲1発明におけるポリウレタンウレア樹脂は、上記のとおり、高分子ポリオールと、ジイソシアネートとを反応させてなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、有機ジアミンと反応させてなるものであるところ、当該高分子ポリオールは、グリコールと二塩基酸との反応からなるポリエステルポリオールを含有するものであり、当該グリコールと二塩基酸は、それぞれ、「ジオール成分」と「カルボン酸成分」に対応するといえるものであるから、本件特許発明1の「バイオマスポリウレタン樹脂」とは、ジオール成分とカルボン酸成分とを反応させたポリエステルポリオールを用いて合成されたものである点で共通するものといえる。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、「顔料と、バインダー樹脂と、有機溶剤とを含み、前記バインダー樹脂は、ポリウレタン樹脂を含み、
前記ポリウレタン樹脂は、末端に第1級アミノ基または第2級アミノ基の少なくともいずれか一方を含み、
前記ポリウレタン樹脂は、ポリオール成分と、イソシアネート成分とを反応させたポリウレタン樹脂であり、
前記ポリオール成分は、ジオール成分と、カルボン酸成分とを反応させたポリエステルポリオールである、軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1は、前記ポリウレタン樹脂は、バイオマスポリウレタン樹脂を含み、前記バイオマスポリウレタン樹脂の含有量は、前記ポリウレタン樹脂中、10質量%以上であり、前記ポリウレタン樹脂は、バイオマス由来のポリウレタン樹脂およびバイオマス由来でないポリウレタン樹脂を含むのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。

<相違点2>
本件特許発明1は、前記バイオマスポリウレタン樹脂は、バイオポリオール成分と、イソシアネート成分とを反応させたバイオマスポリウレタン樹脂であり、
前記バイオポリオール成分は、植物由来の炭素数が2〜4の短鎖ジオール成分と、植物由来のカルボン酸成分とを反応させたバイオポリエステルポリオール(B)であり、
前記カルボン酸成分は、セバシン酸、コハク酸およびダイマー酸からなる群から選択される少なくともいずれか1種であるのに対し、甲1発明の高分子ポリオールは「ポリエステルポリオールを前記高分子ポリオールに対して50重量%以上含有するものであり、かつ、グリコールと二塩基酸との反応からなるものであり、かつ、前記ポリエステルポリオールの全グリコールは、2−メチル−1,3−プロパンジオールと、3−メチル−1,5−ペンタンジオールとを前記ポリエステルポリオールの全グリコールに対してそれぞれ20重量%以上含有するものである」のに対し、甲1発明はそのような特定がない点。

<相違点3>
本件特許発明1は、水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体を含むのに対し、甲1発明は塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニスを含み、その塩化ビニル−酢酸ビニルが水酸基を有するものであるか不明である点

<相違点4>
本件特許発明1は、ポリウレタン樹脂と水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体との合計の含有量は、軟包装用ラミネート印刷インキ組成物中に5〜20質量%であるのに対し、甲1発明は塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体とポリウレタン樹脂との合計含有量が特定されていない点。

(イ)相違点についての検討
<相違点1>について
印刷インキの分野においては、本件優先日当時、既に二酸化炭素排出量の低減などの地球温暖化防止という観点から環境対応型インキが所望されており(甲2の【0027】、甲3の【0002】〜【0011】など参照。)、当該環境対応型インキというにふさわしい商品には、バイオマスマークやインキグリーンマークをはじめとする環境ラベルを表示しているところ、当該環境ラベルの表示が可能となるバイオマス度の下限値は、例えば、バイオマスマークにおいては10質量%とされている(環境省ホームページの「環境ラベル等データベース」に掲載されたバイオマスマークの紹介ページを参照した。URLは、https://www.env.go.jp/policy/hozen/green/ecolabel/a04_28.html。なお、バイオマスマークにおけるバイオマス度の下限値10質量%の設定は、少なくとも平成24年には開始されていることが周知である。)。
そうすると、本願優先日当時において、当業者に課された自明な課題として、環境対応型のものを認識し、そのバイオマス度としては10質量%程度以上とすることを目途としていると解するのが相当であるから、上記の自明な課題は、印刷インキを製造する際に広く認知されているものであって、甲1発明においても当然に内在する課題であると解するのが合理的である。
そうである以上、甲1発明のポリウレタンウレア樹脂組成物の原料としてバイオマス由来成分を使用して、当該組成物を、バイオマスポリウレタンウレア樹脂を含む組成物とすること、すなわち、前記ポリウレタン樹脂を、バイオマス由来のポリウレタン樹脂およびバイオマス由来でないポリウレタン樹脂を含むものとすることは、技術的にみて当然の流れであって、強い動機付けがあるといえる。
そして、甲2には、印刷インキ組成物にも用いられるポリエステル樹脂の原料として、植物由来の原料と石油原料を用いて得られた原料とを併用して用いることが記載されているから(摘記2c参照)、甲1発明において、バイオマス由来の樹脂とバイオマス由来でない樹脂を併用することは当業者が容易に想到し得るし、ポリウレタン樹脂(ポリウレタンウレア樹脂)中のバイオマスポリウレタン樹脂(バイオマスポリウレタンウレア樹脂)の含有量は、インキ特性等を勘案のうえ、当業者が適宜決定すべき事項というべきであって、本件特許発明1が規定する「バイオマスポリウレタン樹脂の含有量」の数値範囲自体に格別の創意は認められない。

<相違点2>について
甲1の【0015】には1,4−ブタンジオール、及び1,3−プロパンジオールなどの炭素数2〜4の短鎖ジオール成分が、【0016】にはコハク酸、セバシン酸などが記載されている。
そして、甲2の実施例17及び比較例8,9には、バイオマス由来(植物由来)の原料より得られたコハク酸、セバシン酸とジオールなどを用いることが記載され、甲3の【請求項1】、【請求項4】、【請求項5】などには、植物由来の短鎖ジオール成分として、植物由来の、エチレングリコール、1,3−プロバンジオール、及び1,4−ブタンジオールを用いることや、植物由来のカルボン酸成分として、植物由来の、ひまし油誘導体からなるセバシン酸、及び植物由来のコハク酸を用いることが記載されており、このようなバイオマス由来成分を印刷インキ組成物に用いるバイオマスポリウレタン樹脂(バイオマスポリウレタンウレア樹脂)を調製する際の原料とすることは、常套の手法と解することができる。
また、甲1発明において、甲1発明の「高分子ポリオール」は、2−メチル−1,3−プロパンジオール、及び、3−メチル−1,5−ペンタンジオール以外のジオールを、全グリコールに対して60重量%(=100−20−20)まで含有しうるものである。
そうすると、甲1発明において、ポリウレタンウレア樹脂組成物を準備するにあたり、<相違点1>で検討したとおりのバイオマスポリウレタンウレア樹脂を含むものとするのに際し、その原料として、 植物由来の炭素数2〜4の短鎖ジオール成分と、植物由来のセバシン酸及びコハク酸などを含む植物由来のカルボン酸成分との反応からなるポリエステルポリオール(バイオポリエステルポリオール)を用いて、これとイソシアネート成分とを反応させたバイオマスポリウレタン樹脂を含む組成物とすることは、当業者にとって容易なことと認められる。

<相違点3>について
甲1発明の塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニスは、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(日信化学工業株式会社製ソルバインTA5R)30重量部を酢酸エチル70重量部に混合溶解させたものであり(摘記1g参照)、本件特許明細書【0055】の記載からみて、日信化学工業株式会社製ソルバインTA5Rは、水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体である。
したがって、相違点3は実質的な相違点とはならない。

<相違点4>について
甲1発明の塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニスは、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(日信化学工業株式会社製ソルバインTA5R)30部を、酢酸エチル70部に混合溶解させたものであるから(摘記1g参照)、固形分が30質量%である。
また、甲1発明のポリウレタン樹脂組成物(B1)の固形分は30質量%である(摘記1f参照)。
ここで、甲1発明の印刷インキは、銅フタロシアニン藍(トーヨーカラー株式会社製LIONOL BLUE FG−7330)12.0部、ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)10.0部、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニス10.0部、混合溶剤(ノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール=75/25(重量比))10.0部を撹拌混合しサンドミルで練肉した後、ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)20.0部、混合溶剤(ノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール=75/25(重量比))38.0部を攪拌混合して得たものである(摘記1g参照)。
そうすると、甲1発明の印刷のインキ組成物中、ポリウレタンウレア樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体との合計の含有量は固形分換算で、〔ポリウレタンウレア樹脂ワニス30.0重量部×その固形分30重量%+塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニス10.0重量部×その固形分30重量%〕/100.0重量部×100=12重量%であるから、相違点4は実質的な相違点とはならない。

(ウ)本件特許発明1の効果について
令和3年5月11日提出の意見書において、本件特許権者は、「本件特許権者は、上記構成要件F(前記ポリウレタン樹脂と前記水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体との合計の含有量は、軟包装用ラミネート印刷インキ組成物中に5〜20質量%であり)を具備している場合と、甲第1号証に記載の発明のように構成要件Fを具備していない場合とでは、耐ブロッキング性に関する効果が顕著に変わることを証明する追加データを以下のとおり取得いたしました。
・・・
その結果、追加例の評価結果に示されておりますように、本件訂正発明において構成要件Fを具備しておらず、甲第1号証に記載の発明のように、ポリウレタン樹脂と水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体との合計の含有量が20質量%を超える場合には、耐ブロッキング性の結果が著しく劣り、「印刷適正(カスレ)」、「レトルト耐性」および「耐ブロッキング性」という効果を同時に達成することができないことが証明されました。」と主張する(令和3年5月11日提出の意見書第7ページ第1行〜第8ページ第6行)。
しかし、構成要件Fは相違点4に係る構成に対応するものであり、上記(イ)のとおり、相違点4は本件特許発明1との実質的な相違点ではないから、上記効果に基づいて、本件特許発明1が、甲1〜甲3から当業者が予測し得ない効果を奏するものであるとはいえない。

(エ)特許権者の主張について
令和3年5月11日付の意見書において、「甲第1号証には、ウレタン樹脂と塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体との合計含有量に関する開示はありません。甲第1号証の実施例を確認しましても、固形分換算で、ウレタン樹脂と塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体との合計含有量は33.0質量%となり、構成要件Fの範囲から外れております。」と主張し、上記(ウ)のとおり、構成要件Fに基づく効果を主張しているが、当該主張において「固形分換算で、ウレタン樹脂と塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体との合計含有量は33.0質量%」であるといえる根拠が不明であって、上記(イ)において<相違点4>について検討したとおり、甲1発明において、固形分換算で、ウレタン樹脂と塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体との合計含有量は12.0質量%となり、構成要件Fの範囲から外れておらず、上記構成要件Fに基づく効果についての主張については、上記(ウ)のとおり、採用できないものである。

(オ)小括
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1において「前記イソシアネート成分は、植物由来のバイオイソシアネートである」と特定するものであるが、甲3の【請求項7】には植物由来のバイオイソシアネートが記載されていることから、甲1発明のイソシアネート成分を植物由来のバイオイソシアネートとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1において「前記バイオマスポリウレタン樹脂およびバイオマスポリウレタン樹脂以外のポリウレタン樹脂は、末端に第1級アミノ基または第2級アミノ基の少なくともいずれか一方を含む」と特定するものであるが、甲1発明におけるバイオマスポリウレタン樹脂以外のポリウレタン樹脂は、末端に第1級アミノ基または第2級アミノ基の少なくともいずれか一方を含むものであるから、この点は、甲1発明との対比において新たな相違点とはならない。

エ 本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1において「硝化綿およびセルロースアセテートプロピオネート樹脂からなる群から選択される少なくとも1以上の化合物をさらに含む」と特定するものであるが、甲1には、甲1発明においてニトロセルロース樹脂を併用できることが記載されており(摘記1d参照)、ニトロセルロース樹脂は硝化綿であるから、甲1発明において硝化綿を併用するものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

第5 むすび
以上の検討のとおり、本件特許発明1〜4は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明にあたる甲1〜甲3に記載されている発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者である当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件請求項1〜4係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法第113条第2号に該当するため、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、バインダー樹脂と、有機溶剤と、水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体とを含み、
前記バインダー樹脂は、ポリウレタン樹脂を含み、
前記ポリウレタン樹脂は、バイオマスポリウレタン樹脂を含み、かつ、末端に第1級アミノ基または第2級アミノ基の少なくともいずれか一方を含み、
前記バイオマスポリウレタン樹脂の含有量は、前記ポリウレタン樹脂中、10質量%以上であり、
前記ポリウレタン樹脂は、バイオマス由来のポリウレタン樹脂およびバイオマス由来でないポリウレタン樹脂を含み、
前記ポリウレタン樹脂と、前記水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体との合計の含有量は、軟包装用ラミネート印刷インキ組成物中に、5〜20質量%であり、
前記バイオマスポリウレタン樹脂は、バイオポリオール成分と、イソシアネート成分とを反応させたバイオマスポリウレタン樹脂であり、
前記バイオポリオール成分は、植物由来の炭素数が2〜4の短鎖ジオール成分と、植物由来のカルボン酸成分とを反応させたバイオポリエステルポリオール(B)であり、
前記カルボン酸成分は、セバシン酸、コハク酸およびダイマー酸からなる群から選択される少なくともいずれか1種である、軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物。
【請求項2】
前記イソシアネート成分は、植物由来のバイオイソシアネートである、請求項1記載の軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物。
【請求項3】
前記バイオマスポリウレタン樹脂およびバイオマスポリウレタン樹脂以外のポリウレタン樹脂は、末端に第1級アミノ基または第2級アミノ基の少なくともいずれか一方を含む、請求項1または2記載の軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物。
【請求項4】
硝化綿およびセルロースアセテートプロピオネート樹脂からなる群から選択される少なくとも1以上の化合物をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-08-25 
出願番号 P2017-146813
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (C09D)
最終処分 06   取消
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 蔵野 雅昭
瀬下 浩一
登録日 2019-12-27 
登録番号 6636483
権利者 サカタインクス株式会社
発明の名称 軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物  
代理人 特許業務法人朝日奈特許事務所  
代理人 特許業務法人朝日奈特許事務所  

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