• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1381644
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-02-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-06 
確定日 2021-10-26 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6650040号発明「近赤外線カットフィルタ、固体撮像素子、カメラモジュールおよび画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6650040号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜15〕について訂正することを認める。 特許第6650040号の請求項1ないし4、6ないし15に係る特許を維持する。 特許第6650040号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6650040号の請求項1〜請求項15に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」から「本件特許15」といい、総称して「本件特許」という。)についての出願は、2017年(平成29年)8月3日(先の出願に基づく優先権主張 平成28年8月10日、平成29年1月18日)を国際出願日とし、令和2年1月21日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について令和2年2月19日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である令和2年8月6日に、特許異議申立人 石井良夫(以下「特許異議申立人」という。)から、全請求項に対して特許異議の申立てがされた(異議2020−700561号、以下「本件事件」という。)。
本件事件についての、その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和2年10月23日付け:取消理由通知書
令和2年12月21日付け:訂正請求書
令和2年12月21日付け:意見書(特許権者)
令和3年 2月10日付け:意見書(特許異議申立人)
令和3年 3月31日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和3年 6月 2日付け:訂正請求書
令和3年 6月 2日付け:意見書(特許権者)

なお、令和2年12月21日付け訂正請求書による訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
また、特許異議申立人に対して、令和3年6月21日付け通知書により訂正請求があった旨の通知(特許法120条の5第5項)をしたが、特許異議申立人から意見書は提出されなかった。


第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
令和3年6月2日付け訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は、「特許第6650040号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜15について訂正することを求める。」というものである。

2 訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正された箇所を示す。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「銅と銅に対する配位部位を有する化合物との錯体であって、波長700〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する銅錯体を含有する層と、紫外線吸収剤を含有する層と、を有する近赤外線カットフィルタであって、」
と記載されているのを、
「銅と銅に対する配位部位を有する化合物との錯体であって、波長700〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する銅錯体を含有する層と、紫外線吸収剤を含有する層と、を有する近赤外線カットフィルタであって、
前記銅錯体は、銅と、銅に対する配位部位を有する化合物によって、5員環および/または6員環が形成されており、」
に訂正する。
請求項1の記載を引用して記載された請求項5〜請求項15についても、同様に訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「銅と銅に対する配位部位を有する化合物との錯体であって、波長700〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する銅錯体と、紫外線吸収剤とを含有する層を有する近赤外線カットフィルタであって、」
と記載されているのを、
「銅と銅に対する配位部位を有する化合物との錯体であって、波長700〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する銅錯体と、紫外線吸収剤とを含有する層を有する近赤外線カットフィルタであって、
前記銅錯体は、銅と、銅に対する配位部位を有する化合物によって、5員環および/または6員環が形成されており、」
に訂正する。
請求項2の記載を引用して記載された請求項3〜請求項15についても、同様に訂正する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に、
「請求項1〜5のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」
と記載されているのを、
「請求項1〜4のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」
に訂正する。
請求項6の記載を引用して記載された請求項7〜請求項15についても、同様に訂正する。

(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に、
「請求項1〜6のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」
と記載されているのを、
「請求項1、2、3、4または6に記載の近赤外線カットフィルタ。」
に訂正する。
請求項7の記載を引用して記載された請求項8〜請求項15についても、同様に訂正する。

(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に、
「請求項1〜7のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」
と記載されているのを、
「請求項1、2、3、4、6または7に記載の近赤外線カットフィルタ。」
に訂正する。
請求項8の記載を引用して記載された請求項9〜請求項15についても、同様に訂正する。

(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に、
「請求項1〜8のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」
と記載されているのを、
「請求項1、2、3、4、6、7または8に記載の近赤外線カットフィルタ。」
に訂正する。
請求項9の記載を引用して記載された請求項10〜請求項15についても、同様に訂正する。

(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10に、
「請求項1〜9のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」
と記載されているのを、
「請求項1、2、3、4、6、7、8または9に記載の近赤外線カットフィルタ。」
に訂正する。
請求項10の記載を引用して記載された請求項11〜請求項15についても、同様に訂正する。

(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項11に、
「請求項1〜10のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」
と記載されているのを、
「請求項1、2、3、4、6、7、8、9または10に記載の近赤外線カットフィルタ。」
に訂正する。
請求項11の記載を引用して記載された請求項12〜請求項15についても、同様に訂正する。

(10) 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項12に、
「請求項1〜11のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」
と記載されているのを、
「請求項1、2、3、4、6、7、8、9、10または11に記載の近赤外線カットフィルタ。」
に訂正する。
請求項12の記載を引用して記載された請求項13〜請求項15についても、同様に訂正する。

(11) 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項13に、
「請求項1〜12のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ」
と記載されているのを、
「請求項1、2、3、4、6、7、8、9、10、11または12に記載の近赤外線カットフィルタ」
に訂正する。

(12) 訂正事項12
特許請求の範囲の請求項14に、
「請求項1〜12のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ」
と記載されているのを、
「請求項1、2、3、4、6、7、8、9、10、11または12に記載の近赤外線カットフィルタ」
に訂正する。

(13) 訂正事項13
特許請求の範囲の請求項15に、
「請求項1〜12のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ」
と記載されているのを、
「請求項1、2、3、4、6、7、8、9、10、11または12に記載の近赤外線カットフィルタ」
に訂正する。

(14) 一群の請求項について
本件訂正請求は、一群の請求項である請求項1〜請求項15に対して請求されたものである。

3 訂正の適否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、請求項1に記載された「銅錯体」を、「銅と、銅に対する配位部位を有する化合物によって、5員環および/または6員環が形成されており」という要件を満たすものに限定する訂正である。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された、請求項5〜請求項15についてみても、同じである。
そうしてみると、訂正事項1による訂正は、120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項1による訂正は、本件特許の明細書の【0056】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
そうしてみると、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
加えて、訂正事項1による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
そうしてみると、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、請求項2に記載された「銅錯体」を、「銅と、銅に対する配位部位を有する化合物によって、5員環および/または6員環が形成されており」という要件を満たすものに限定する訂正である。そして、この点は、請求項2の記載を引用して記載された、請求項3〜請求項15についてみても、同じである。
そうしてみると、訂正事項2による訂正は、120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項2による訂正は、本件特許の明細書の【0056】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
そうしてみると、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
加えて、訂正事項2による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
そうしてみると、訂正事項2による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

(3) 訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲の請求項5を削除する訂正である。
そうしてみると、訂正事項3による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

(4) 訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、訂正事項3による訂正で特許請求の範囲の請求項5を削除することに伴って、これと整合するように請求項6の記載を改める訂正である。
そうしてみると、訂正事項4による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

(5) 訂正事項5について
訂正事項5による訂正は、訂正事項3による訂正で特許請求の範囲の請求項5を削除することに伴って、これと整合するように請求項7の記載を改める訂正である。
そうしてみると、訂正事項5による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項5による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

(6) 訂正事項6について
訂正事項6による訂正は、訂正事項3による訂正で特許請求の範囲の請求項5を削除することに伴って、これと整合するように請求項8の記載を改める訂正である。
そうしてみると、訂正事項6による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項6による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

(7) 訂正事項7について
訂正事項7による訂正は、訂正事項3による訂正で特許請求の範囲の請求項5を削除することに伴って、これと整合するように請求項9の記載を改める訂正である。
そうしてみると、訂正事項7による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項7による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

(8) 訂正事項8について
訂正事項8による訂正は、訂正事項3による訂正で特許請求の範囲の請求項5を削除することに伴って、これと整合するように請求項10の記載を改める訂正である。
そうしてみると、訂正事項8による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項8による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

(9) 訂正事項9について
訂正事項9による訂正は、訂正事項3による訂正で特許請求の範囲の請求項5を削除することに伴って、これと整合するように請求項11の記載を改める訂正である。
そうしてみると、訂正事項9による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項9による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

(10) 訂正事項10について
訂正事項10による訂正は、訂正事項3による訂正で特許請求の範囲の請求項5を削除することに伴って、これと整合するように請求項12の記載を改める訂正である。
そうしてみると、訂正事項10による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項10による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

(11) 訂正事項11について
訂正事項11による訂正は、訂正事項3による訂正で特許請求の範囲の請求項5を削除することに伴って、これと整合するように請求項13の記載を改める訂正である。
そうしてみると、訂正事項11による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項11による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

(12) 訂正事項12について
訂正事項12による訂正は、訂正事項3による訂正で特許請求の範囲の請求項5を削除することに伴って、これと整合するように請求項14の記載を改める訂正である。
そうしてみると、訂正事項12による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項12による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

(13) 訂正事項13について
訂正事項13による訂正は、訂正事項3による訂正で特許請求の範囲の請求項5を削除することに伴って、これと整合するように請求項15の記載を改める訂正である。
そうしてみると、訂正事項13による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項13による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

4 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同条9項に置いて準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、結論に記載のとおり、特許第6650040号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜15〕について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
前記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められることとなったから、本件特許の請求項1〜請求項4及び請求項6〜請求項15に係る発明(以下、請求項の番号とともに「本件特許発明1」などといい、総称して「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1〜請求項4及び請求項6〜請求項15に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
銅と銅に対する配位部位を有する化合物との錯体であって、波長700〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する銅錯体を含有する層と、紫外線吸収剤を含有する層と、を有する近赤外線カットフィルタであって、
前記銅錯体は、銅と、銅に対する配位部位を有する化合物によって、5員環および/または6員環が形成されており、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長390nmにおける透過率T390が10%以下であり、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長450nmにおける透過率T450が85%以上であり、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長350nmにおける透過率T350と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長450nmにおける透過率T450との比であるT350/T450が0〜0.3であり、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長390nmにおける透過率T390と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長450nmにおける透過率T450との比であるT390/T450が0〜0.3であり、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長700nmにおける透過率T700と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長550nmにおける透過率T550との比であるT700/T550が0〜0.2であり、
波長800〜1000nmの範囲において、前記近赤外線カットフィルタの反射率の平均値が80%以下である、近赤外線カットフィルタ。

【請求項2】
銅と銅に対する配位部位を有する化合物との錯体であって、波長700〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する銅錯体と、紫外線吸収剤とを含有する層を有する近赤外線カットフィルタであって、
前記銅錯体は、銅と、銅に対する配位部位を有する化合物によって、5員環および/または6員環が形成されており、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長390nmにおける透過率T390が10%以下であり、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長450nmにおける透過率T450が85%以上であり、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長350nmにおける透過率T350と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長450nmにおける透過率T450との比であるT350/T450が0〜0.3であり、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長390nmにおける透過率T390と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長450nmにおける透過率T450との比であるT390/T450が0〜0.3であり、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長700nmにおける透過率T700と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長550nmにおける透過率T550との比であるT700/T550が0〜0.2であり、
波長800〜1000nmの範囲において、前記近赤外線カットフィルタの反射率の平均値が80%以下である、近赤外線カットフィルタ。

【請求項3】
前記銅と銅に対する配位部位を有する化合物との錯体であって、波長700〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する銅錯体と、紫外線吸収剤とを含有する層は、前記銅錯体の100質量部に対して前記紫外線吸収剤を0.1〜20質量部含む、請求項2に記載の近赤外線カットフィルタ。

【請求項4】
前記銅と銅に対する配位部位を有する化合物との錯体であって、波長700〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する銅錯体と、紫外線吸収剤とを含有する層中における前記紫外線吸収剤の含有量は0.1〜50質量%である、請求項2に記載の近赤外線カットフィルタ。

【請求項6】
前記紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール化合物およびヒドロキシフェニルトリアジン化合物から選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。

【請求項7】
波長430〜580nmの範囲において、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が85%以上である、請求項1、2、3、4または6に記載の近赤外線カットフィルタ。

【請求項8】
波長350〜450nmの範囲において、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる最も長波長側の波長と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短波長側の波長との差の絶対値が25nm以下である、請求項1、2、3、4、6または7に記載の近赤外線カットフィルタ。

【請求項9】
波長800〜1000nmの範囲において、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が20%以下である、請求項1、2、3、4、6、7または8に記載の近赤外線カットフィルタ。

【請求項10】
前記紫外線吸収剤は、波長280〜425nmの範囲に極大吸収波長を有する化合物である、請求項1、2、3、4、6、7、8または9に記載の近赤外線カットフィルタ。

【請求項11】
更に誘電体多層膜を有する、請求項1、2、3、4、6、7、8、9または10に記載の近赤外線カットフィルタ。

【請求項12】
前記銅錯体が、銅に対して4個または5個の配位部位を有する化合物を配位子として有する銅錯体である、請求項1、2、3、4、6、7、8、9、10または11に記載の近赤外線カットフィルタ。

【請求項13】
請求項1、2、3、4、6、7、8、9、10、11または12に記載の近赤外線カットフィルタを有する固体撮像素子。

【請求項14】
請求項1、2、3、4、6、7、8、9、10、11または12に記載の近赤外線カットフィルタを有するカメラモジュール。

【請求項15】
請求項1、2、3、4、6、7、8、9、10、11または12に記載の近赤外線カットフィルタを有する画像表示装置。」


第4 当合議体が通知した取消しの理由
令和3年3月31日付け取消理由通知書において当合議体が通知した取消しの理由は、概略、(進歩性)本件特許の請求項1〜請求項4、請求項6〜請求項11及び請求項13〜請求項15に係る発明は、先の出願(当合議体注:最先のものをいう、以下同じ。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
甲1:特開2002−69305号公報
甲2:特開2015−28621号公報
(当合議体注:主引用例は甲1及び甲2である。)


第5 当合議体の判断
1 甲1を主引用例とした場合について
(1) 甲1の記載
先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲1(特開2002−69305号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【請求項1】 下記式(1)で表されるホスホン酸モノエステル化合物、下記式(2)で表されるホスフィン酸化合物、下記式(3)で表されるリン酸ジエステル化合物、及び、下記式(4)で表されるリン酸モノエステル化合物のうち少なくともいずれか一種の化合物と、
下記式(5)で表されるホスホン酸化合物と、
金属イオンと、を含有して成ることを特徴とする光学材料。
【化1】



イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光学材料及びその製造方法に関し、詳しくは、金属イオンに特有な特定波長の光(特定波長光)に対する吸収特性又は発光特性を有する光学材料、及び、その製造方法に関する。
…省略…
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、近赤外性吸収性を有する光学材料は、近年、その用途がますます広がりつつあり、用途によっては、近赤外光吸収性のみならず、可視領域における透過波長領域の拡大及び透光性の更なる向上が切望されている。
…省略…
【0006】そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、金属イオンに特有な分光特性の発現性を向上でき、且つ、樹脂との相溶性に優れ、これらにより、十分な光学特性を有する樹脂製光学部材を得ることが可能な光学材料を提供することを目的とする。また、そのような光学材料を有効に製造できる光学材料の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明者らは、金属イオンの配位子として機能する化合物に関して多角的に研究を重ねた結果、異種のリン含有化合物を特定の組み合わせで用いることにより、銅イオンの近赤外光吸収性及び他の金属イオンの分光特性がこれまで以上に有効に発現されることを更に見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】すなわち、本発明による光学材料は、(A)式(1)で表されるホスホン酸モノエステル化合物、式(2)で表されるホスフィン酸化合物、式(3)で表されるリン酸ジエステル化合物、及び、式(4)で表されるリン酸モノエステル化合物のうち少なくともいずれか一種の化合物と、(B)式(5)で表されるホスホン酸化合物と、(C)金属イオンと、を含有して成ることを特徴とする。
…省略…
【0013】そして、式(1)で表されるホスホン酸モノエステル化合物、式(2)で表されるホスフィン酸化合物、式(3)で表されるリン酸ジエステル化合物、及び、式(4)で表されるリン酸モノエステル化合物のうち少なくともいずれか一種の化合物及び銅イオンの他に、単独ではモノマーへの溶解性ひいては樹脂との相溶性が十分ではない式(5)で表されるホスホン酸化合物を混合したところ、予想に反してモノマーへの十分な溶解性及び樹脂との相溶性が奏されることが確認された。また、この光学材料の分光スペクトルを測定した結果、従来の銅イオンを含む光学材料に比して、近赤外領域の吸収極大波長が長波長側へシフトし、且つ、可視光の透過波長領域(幅)が拡大叉は増大されることが判明した。
【0014】さらに、本発明の光学材料は、溶剤叉は樹脂に含有されたものであっても好ましい。この場合、用いる溶媒や樹脂に応じた特性及び性質が光学材料及び/又はその材料を用いて製造される光学部材に付与される。したがって、これらの溶媒や樹脂を適宜選択することによって、各種の用途に好適な光学材料が得られる。」

ウ 「【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明による光学材料の好適な実施形態、この光学材料を用いた光学部材、及び、それらの製造方法等について説明する。
【0018】〈金属イオン〉本発明の光学材料を構成する金属イオンとしては、金属の種類に特に制限はないが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、若しくは、希土類金属のイオンが好ましく用いられる。
…省略…
【0022】特に、銅は、近赤外領域の光(近赤外光)に対する良好な吸収特性と可視光透過特性とを有しており、より具体的には、銅イオンのd軌道の電子遷移によって近赤外光が選択的に吸収され、優れた近赤外光吸収特性が発現される。これにより、視感度補正、測光、近赤外光及び赤外光カット、熱線吸収、輝度調整等の各種用途に好適な光学材料を得ることができる。
…省略…
【0029】式(1)で表されるホスホン酸モノエステル化合物の例としては、下記式(6)−a,b、下記式(7)−a〜cで表される化合物等が挙げられる。
【0030】
【化3】

…省略…
【0053】また、式(5)で表されるホスホン酸化合物としては、下記式(27)〜式(39)で表される化合物等が挙げられ、さらに、式(5)中における基R8が上記式(14)〜式(21)で表されるものであってもよい。
【0054】
【化21】

…省略…
【0071】〈第3実施形態〉本実施形態の光学材料は、特定のリン含有化合物と金属イオン、叉は、特定のリン含有金属化合物が樹脂中に含有されて成る組成物である。この樹脂としては、特定のリンリン含有化合物及び/又は特定のリン含有金属化合物との相溶性又は分散性に優れる樹脂であれば特に限定されない。このような樹脂として、例えば、以下に示すアクリル系樹脂等の樹脂を好ましく用いることができる。
…省略…
【0076】この樹脂組成物を調製するための具体的な方法は、特に限定されるものではないが、以下の2つの方法等によると好適である。
【0077】〔第1の調製方法〕:この方法は、モノマー中に、特定のリン含有化合物及び金属イオン源、或いは、特定のリン含有金属化合物を含有させることにより単量体組成物を調製する方法である。このとき、先に言及したように、式(1)〜式(4)で表される化合物のうち少なくともいずれか一種の化合物と金属イオン源との反応生成物をモノマー中に溶解させ、これに式(5)のホスホン酸化合物を混合して溶解せしめると有効である。この単量体組成物は、重合せずにそのまま光学材料として用いることができ、或いは、この単量体組成物をラジカル重合処理して光学材料としてもよい。
【0078】この方法において、単量体組成物のラジカル重合処理の具体的な方法としては、通常のラジカル重合開始剤を用いるラジカル重合法、例えば、塊状(キャスト)重合法、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法等の公知の方法を利用することができる。ただし、重合処理方法は、これらに限定されるものではない。また、単量体組成物の重合によって得られる光学材料の成形体における耐候性や耐熱性を向上させる観点からは、この単量体組成物に、紫外線吸収剤や光安定剤等の各種の高分子用添加剤を添加すると好適である。また、光学材料の色調を整えるために、各種着色剤を添加しても構わない。
【0079】このような紫外線吸収剤としては、例えば、p−tert−ブチルフェニルサリシレート等のサリシレート系、2、4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系、エチル−2−シアノ−3、3−ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート系等の紫外線吸収剤が挙げられる。
…省略…
【0087】ここで、本実施形態の光学材料、つまり樹脂組成物における特定のリン含有金属化合物の含有割合は、光学材料の用途、その使用目的等によって異なるものの、成形性の観点から、通常、樹脂100質量部に対して、0.1〜400質量部、好ましくは0.3〜200質量部、特に好ましくは1〜100質量部となる範囲で調整される。また、樹脂組成物における金属イオンの含有割合は、樹脂組成物全体に対して、前述したように好ましくは0.01〜60質量%となるように調整される。
…省略…
【0098】〈光学部材〉本発明による光学材料を用いると、種々の用途に適応した光学部材を形成できる。光学部材の形態としては、例えば、光学材料自体、透光性材料等と組み合わせたもの、成形加工したもの等が挙げられ、具体的には、粉体状、液状、粘着状、塗料状、フィルム状、板状、筒状、レンズ状等の種々の形態とすることができる。
【0099】このような光学部材は、その優れた耐久性、耐候性、光学特性、汎用性、経済性、成形加工性等により、例えば、CCD用、CMOS用又は他の受光素子用の視感度補正部材、測光用部材、熱線吸収用部材、複合光学フィルタ、レンズ部材(眼鏡、サングラス、ゴーグル、光学系、光導波系)、ファイバ部材(光ファイバ)、ノイズカット用部材、プラズマディスプレイ前面板等のディスプレイカバー又はディスプレイフィルタ、プロジェクタ前面板、光源熱線カット部材、色調補正部材、照明輝度調節部材、光学素子(光増幅素子、波長変換素子等)、ファラデー素子、アイソレータ等の光通信機能デバイス、光ディスク用素子等を構成するものとして好適である。
【0100】
【実施例】以下、本発明に係る具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0101】〈比較例1〉メチルメタクリレート(以下、「MMA」という)98.0gに、上述の式(8)で表されるジ(2−エチルヘキシル)ホスフィン酸0.92gを溶解させた。これに、酢酸銅一水和物0.314gを加え、内温を80℃に上昇し、2時間攪拌した。均一に溶解させた後、溶媒及び副生する酢酸を留去して固形物を得た。この固形物を40℃で一晩真空乾燥して銅錯体を作成した。
…省略…
【0103】〈比較例3〉MMAを96.0g、酢酸銅一水和物を1.00g、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフィン酸の代りに上述の式(6)−bで表される2−エチルヘキシルホスホン酸2−エチルヘキシル(大八化学社製;PC−88A)を2.97g使用したこと以外は、比較例1と同様にして銅錯体を得た。
【0104】〈比較例4〉2−エチルヘキシルホスホン酸2−エチルヘキシルの代りに上述の式(6)−aで表される3−メトキシブチルホスホン酸モノエチルを1.98g使用したこと以外は、比較例3と同様にして銅錯体を得た。
…省略…
【0111】〈実施例6〜12〉比較例4で得た銅錯体をMMAに溶解した。この溶液に式(27)で表される3−メトキシブチルホスホン酸を添加し、3−メトキシブチルホスホン酸モノエチルと3−メトキシブチルホスホン酸との混合比が異なる種々のモノマー溶液を調製した。実施例6〜12について、銅錯体、MMA及び3−メトキシブチルホスホン酸の混合処方、並びに、3−メトキシブチルホスホン酸モノエチルと3−メトキシブチルホスホン酸との混合比を表1に示す。なお、参考として、表1には、後述する〈分光特性評価試験1〉で用いた比較例4の銅錯体のモノマー溶液についても併せて示した。また、各モノマー溶液中の銅イオン濃度は全て0.1wt%とした。
【0112】
【表1】

…省略…
【0118】〈比較例6〉比較例4で得た銅錯体8.21gを、MMA91.79g、及び、α−メチルスチレン0.20gと混合し、更にラジカル開始剤としてt−ブチルペルオキシデカネートを1.00g添加し、45℃で16時間、60℃で8時間、100℃で3時間と順次異なる温度に昇温して重合し、厚さ3mmの樹脂成形体を得た。
【0119】〈実施例13〉比較例6で得た(調製した)モノマー溶液に3−メトキシブチルホスホン酸を0.70g添加し、比較例6と同様に昇温して重合し、厚さ3mmの樹脂成形体を得た。
〈実施例14〉比較例6で得た(調製した)モノマー溶液に3−メトキシブチルホスホン酸を1.41g添加し、比較例6と同様に昇温して重合し、厚さ3mmの樹脂成形体を得た。これらの実施例13及び14の樹脂成形体は、本発明による光学材料であって、光学部材としてもそのまま使用できるものである。
【0120】〈分光特性評価試験2〉比較例6並びに実施例13及び14で得た樹脂成形体について、分光光度計「U−4000」((株)日立製作所製)を用い、波長250〜1200nmにおける分光透過度を測定した。図7は、比較例6並びに実施例13及び14の樹脂成形体に対する分光透過スペクトルを示すグラフである。図中の曲線L51〜L53は、それぞれ比較例6並びに実施例13及び14の樹脂成形体に対する結果を示す。これらの結果より、本発明による実施例の樹脂成形体は、比較例に比して可視領域の透光性が格段に向上され、且つ、可視光の透過波長領域(幅)が極めて増大されることが確認された。
【0121】
【発明の効果】以上説明した通り、本発明の光学材料によれば、銅イオン等の金属イオンに特有な分光特性の発現性を向上でき、且つ、樹脂との相溶性に優れ、これらにより、十分な光学特性を有する樹脂製光学部材を得ることが可能となる。また、本発明による光学材料の製造方法を用いると、上記の如く優れた光学特性を奏する本発明の光学材料を有効に且つ確実に製造することができる。」

エ 図7




(2) 甲1発明
甲1の【0101】、【0103】、【0104】、【0118】、【0119】及び【0120】並びに【図7】の記載からみて、甲1には、実施例14として、次の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。)。
「 銅錯体8.21gを、メチルメタクリレート91.79g及びα−メチルスチレン0.20gと混合し、さらに3−メトキシブチルホスホン酸を1.41g、ラジカル開始剤としてt−ブチルペルオキシデカネートを1.00g添加し、45℃で16時間、60℃で8時間、100℃で3時間と順次異なる温度に昇温して重合して得た、厚さ3mmの樹脂成形体であって、
次のグラフにおいて曲線L53に示す分光透過スペクトルを示し、

銅錯体の製造方法は次のとおりである、樹脂成形体。
(銅錯体の製造方法)
メチルメタクリレート96.0gに、3−メトキシブチルホスホン酸モノエチル1.98gを溶解させ、これに、酢酸銅一水和物1.00gを加え、内温を80℃に上昇し、2時間攪拌し、均一に溶解させた後、溶媒及び副生する酢酸を留去して固形物を得、固形物を40℃で一晩真空乾燥して銅錯体を作成した。」

(3) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「銅錯体」及び「樹脂成形体」の製造工程並びに「樹脂成形体」の「分光透過スペクトル」は、前記(2)で述べたとおりである。
上記の製造工程からみて、甲1発明の「銅錯体」は、銅と、銅に対する配位部位を有する化合物(「3−メトキシブチルホスホン酸モノエチル」及び「3−メトキシブチルホスホン酸」)との錯体である。また、上記の「分光透過スペクトル」からみて、甲1発明の「銅錯体」は、波長800nmの近傍に極大吸収波長を有する。さらに、上記の「分光透過スペクトル」からみて、甲1発明の「樹脂成形体」は、近赤外線カットフィルタとして機能する。
そうしてみると、甲1発明の「銅錯体」は、本件特許発明1の「銅と銅に対する配位部位を有する化合物との錯体であって、波長700〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する」とされる「銅錯体」に相当する。また、甲1発明の「樹脂成形体」と本件特許発明1の「近赤外線カットフィルタ」とは、「銅と銅に対する配位部位を有する化合物との錯体であって、波長700〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する銅錯体を含有する」「近赤外線カットフィルタ」である点で共通する。

イ 一致点及び相違点
(ア)一致点
本件特許発明1と甲1発明は、次の構成で一致する。
「 銅と銅に対する配位部位を有する化合物との錯体であって、波長700〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する銅錯体を含有する、
近赤外線カットフィルタ。」

(イ)相違点
本件特許発明1と甲1発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
「近赤外線カットフィルタ」が、本件特許発明1は、「銅錯体を含有する層と、紫外線吸収剤を含有する層と、を有する」ものであるのに対して、甲1発明は、このような層を有さない樹脂成形体である点。

(相違点2)
「銅錯体」が、本件特許発明1は、「銅と、銅に対する配位部位を有する化合物によって、5員環および/または6員環が形成されて」いるものであるのに対して、甲1発明は、銅と、銅に対する配位部位を有する化合物(「3−メトキシブチルホスホン酸モノエチル」及び「3−メトキシブチルホスホン酸」)との錯体である点。

(相違点3)
「近赤外線カットフィルタ」が、本件特許発明1は、[A]「前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長390nmにおける透過率T390が10%以下であり」、[B]「前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長450nmにおける透過率T450が85%以上であり」、[C]「前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長350nmにおける透過率T350と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長450nmにおける透過率T450との比であるT350/T450が0〜0.3であり」、[D]「前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長390nmにおける透過率T390と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長450nmにおける透過率T450との比であるT390/T450が0〜0.3であり」、[E]「前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長700nmにおける透過率T700と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長550nmにおける透過率T550との比であるT700/T550が0〜0.2であり」、[F]「波長800〜1000nmの範囲において、前記近赤外線カットフィルタの反射率の平均値が80%以下である」のに対して、甲1発明は、これら[A]〜[F]の要件を全て満たすものではない点。

ウ 判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
近赤外線カットフィルタの層に含有される銅錯体として、「銅と、銅に対する配位部位を有する化合物によって、5員環および/または6員環が形成されて」いるものを用いることは、特許異議申立人が提出した甲第1号証〜甲第10号証(以下「甲1〜甲10」という。)に記載されていないし、当該技術的事項が公知又は周知であることを示す他の証拠を発見しない。また、仮に「銅と、銅に対する配位部位を有する化合物によって、5員環および/または6員環が形成されて」いる銅錯体が周知であったとしても、数ある銅錯体の中から当該「銅錯体」を選択する動機は見いだせない。
そして、本件特許発明1は、このような「形状が安定であり、錯体安定性に優れる」(本件特許の明細書【0056】)銅錯体を含むことで、「可視透明性および赤外線遮蔽性が良好で、かつ、固体撮像素子などに組み込んだ際に、パープルフリンジが抑制された画像などを得ることが可能」(本件特許の明細書【0010】)であるという効果を奏するものである。
あるいは、次のように考えることもできる。
甲1の【請求項1】及び【0006】〜【0008】の記載によれば、甲1発明の「銅錯体」は、式(1)で表されるホスホン酸モノエステル化合物、式(2)で表されるホフフィン酸化合物、式(3)で表されるリン酸ジエステル化合物、及び、式(4)で表されるリン酸モノエステル化合物のうちの少なくともいずれか一種の化合物と、式(5)で表されるホスホン化合物を配位子とする錯体であることを前提としたものと理解される。(当合議体注:上記式(1)〜式(5)は、上記「(1) ア」に摘記したものであるため、ここでは再度の摘記を省略する。)そうしてみると、甲1発明の「銅錯体」として、「銅と、銅に対する配位部位を有する化合物によって、5員環および/または6員環が形成されて」いるものを用いることには阻害要因があるといえる。

エ 小括
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲2〜甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(4) 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1発明を対比すると、本件特許発明2と甲1発明は、少なくとも前記相違点2と同様の点で相違する。
そして、相違点2についての判断は、前述したとおりである。
したがって、本件特許発明2は、甲1に記載された発明及び甲2〜甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(5) 本件特許発明3、4について
本件特許の特許請求の範囲の請求項3及び請求項4は、いずれも、請求項2を引用するものであって、本件特許発明3及び本件特許発明4は、いずれも、本件特許発明2の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、前記(4)のとおり、本件特許発明2が、甲1に記載された発明及び甲2〜甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない以上、本件特許発明3及び本件特許発明4は、いずれも、甲1に記載された発明及び甲2〜甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(6) 本件特許発明6〜15について
本件特許の特許請求の範囲の請求項6〜請求項15は、いずれも、請求項1又は請求項2を引用するものであって、本件特許発明6〜本件特許発明15は、いずれも、本件特許発明1又は本件特許発明2の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、前記(3)及び(4)のとおり、本件特許発明1又は本件特許発明2が、甲1に記載された発明及び甲2〜甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない以上、本件特許発明6〜本件特許発明15は、いずれも、甲1に記載された発明及び甲2〜甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

2 甲2を主引用例とした場合について
(1) 甲2の記載
先の出願前に日本国内又は外国にいて頒布された刊行物である甲2(特開2015−28621号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。また、【0206】及び【0226】は、体裁を整えて記載した。
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線遮光組成物、赤外線遮光層、赤外線カットフィルタ、及び、カメラモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ等に使用される固体撮像素子(CCD、CMOS等)の感度は、光の波長の可視領域(可視波長領域)から赤外領域(赤外波長領域)にわたっている。一方、人間の視感度は光の波長の可視領域のみである。そのため、例えば、デジタルスチルカメラにおいては、撮像レンズと固体撮像素子との間に、可視領域の光を透過し、かつ、赤外領域の光を吸収又は反射する赤外線カットフィルタを設けることで、人間の視感度に近づくように固体撮像素子の感度を補正している(特許文献1)。」

イ 「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、近年、固体撮像素子を使用したカメラモジュールのより一層の性能向上が求められており、あわせて赤外線カットフィルタに使用される赤外線遮光層のより一層の性能向上が求められている。具体的には、可視領域での透過率がより高く、赤外領域での遮光性がより高い赤外線遮光層が求められている。
本発明者らが、特許文献1に記載の赤外線カットフィルタに関して検討を行ったところ、その特性は昨今要求されるレベルを満たしておらず更なる改良が必要であった。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みて、可視領域での透過性に優れ、かつ、赤外領域での遮光性に優れる赤外線遮光層を形成できる赤外線遮光組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、可視領域での透過性に優れ、かつ、赤外領域での遮光性に優れる赤外線カットフィルタを提供することも目的とする。
…省略…
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の赤外線遮光組成物(赤外線遮光層形成用組成物)及び赤外線カットフィルタの好適実施態様について説明する。
…省略…
【0010】
(無機微粒子)
無機微粒子は、主に、赤外線を遮光(吸収)する役割を果たす粒子である。
無機微粒子としては、赤外線遮光性がより優れる点で、金属酸化物粒子及び金属粒子からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0011】
無機微粒子としては、…省略…赤外線遮光性とフォトリソ性とを両立するためには、露光波長(365−405nm)の透過率が高い方が望ましく、酸化インジウムスズ(ITO)粒子又は酸化アンチモンスズ(ATO)粒子が好ましい。
…省略…
【0016】
<分散剤>
分散剤は、組成物中の無機微粒子の分散性を担保するための化合物である。
…省略…
【0099】
(銅化合物)
本発明の組成物には、さらに、赤外線遮蔽剤として銅化合物が含まれていてもよい。銅化合物が含まれることにより、赤外線遮光性(特に、近赤外線遮光性)がより優れる。
銅化合物は、赤外線吸収性を有する物質である。具体的には、波長700nm〜1000nmの範囲内(近赤外線領域)に極大吸収波長を有する銅化合物が好ましい。
…省略…
【0100】
銅化合物は、銅錯体であることが好ましい。銅化合物としては、銅または銅を含む化合物を用いることができる。銅を含む化合物としては、例えば、酸化銅や銅塩を用いることができる。銅塩としては、酢酸銅、塩化銅、ギ酸銅、水酸化銅、ステアリン酸銅、安息香酸銅、エチルアセト酢酸銅、ピロリン酸銅、ナフテン酸銅、クエン酸銅、硝酸銅、硫酸銅、炭酸銅、塩素酸銅、(メタ)アクリル酸銅、過塩素酸銅がより好ましく、酢酸銅、塩化銅、硫酸銅、水酸化銅、安息香酸銅、(メタ)アクリル酸銅がさらに好ましい。銅塩は、1価または2価の銅塩が好ましく、2価の銅塩がより好ましい。
本発明では特に、酸基を有する化合物と銅成分とを反応させてなる銅化合物が好ましく、スルホン酸基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、ホフスィン酸及びリン酸基の少なくとも1種を含む化合物と銅成分とを反応させてなる銅化合物がより好ましく(以下、これらの化合物をそれぞれ、スルホン酸銅化合物、カルボン酸銅化合物、ホスフィン酸銅化合物、リン酸銅化合物ということがある)、スルホン酸銅化合物(好ましくは、スルホン酸銅錯体)、カルボン酸銅化合物(好ましくは、カルボン酸銅錯体)及びリン酸銅化合物(好ましくは、リン含有銅錯体)がさらに好ましく、スルホン酸銅化合物及びカルボン酸銅化合物がさらに好ましい。
また、銅化合物は低分子であってもよいし、高分子であってもよい。以下、具体的に説明する。
【0101】
(低分子タイプ)
本発明で用いる銅化合物は、下記式(iA)で表されるものが好ましい。
Cu(L)n1・(X)n2 式(iA)
…省略…
【0107】
(スルホン酸銅錯体)
本発明で用いられるスルホン酸銅錯体は、銅を中心金属としスルホン酸化合物を配位子とするものである。
上記スルホン酸化合物としては、下記一般式(iii)で表される化合物がより好ましい。
【0108】
一般式(iii)
【化27】

【0109】
一般式(iii)中、R2は1価の有機基を表す。
…省略…
【0122】
(リン含有銅錯体)
本発明で用いられる銅化合物としては、リン酸エステルを配位子とする銅化合物(リン酸エステル銅化合物)を用いることもできる。
…省略…
【0123】
(高分子タイプ)
本発明で用いられる銅化合物としては、ポリマー銅錯体を用いてもよい。銅化合物がポリマー銅錯体を含有することにより、耐熱性を向上させることができる。
ポリマー銅錯体は、酸基イオン部位を含む重合体(酸基またはその塩を含む重合体)及び銅イオンを含むポリマータイプの銅化合物であり、好ましい態様は、重合体中の酸基イオン部位を配位子とするポリマータイプの銅化合物である。このポリマータイプの銅化合物は、通常、重合体の側鎖に酸基イオン部位を有し、酸基イオン部位が銅に結合(例えば、配位結合)し、銅を起点として、側鎖間に架橋構造を形成している。ポリマータイプの銅錯体としては、主鎖に炭素−炭素結合を有する重合体の銅錯体、主鎖に炭素−炭素結合を有する重合体の銅錯体であってフッ素原子を含む銅錯体、主鎖に芳香族炭化水素基及び/又は芳香族ヘテロ環基を有する重合体(以下、芳香族基含有重合体という。)の銅錯体等が挙げられる。
銅成分としては、2価の銅を含む化合物が好ましい。銅成分中の銅含有量は、好ましくは2〜40質量%であり、より好ましくは5〜40質量%である。銅成分は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。銅を含む化合物としては、例えば、酸化銅や銅塩を用いることができる。銅塩は、2価の銅がより好ましい。銅塩としては、水酸化銅、酢酸銅及び硫酸銅が特に好ましい。
酸基またはその塩を含む重合体が有する酸基としては、上述した銅成分と反応可能なものであれば特に限定されないが、銅成分と配位結合するものが好ましい。具体的には、酸解離定数(pKa)が12以下の酸基が挙げられ、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、イミド酸基等が好ましい。酸基は、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。
本発明で用いられる酸基の塩を構成する原子または原子団としては、ナトリウム等の金属原子( 特にアルカリ金属原子) 、テトラブチルアンモニウム等のような原子団が挙げられる。尚、酸基またはその塩を含む重合体において、酸基またはその塩は、その主鎖及び側鎖の少なくとも一方に含まれていればよく、少なくとも側鎖に含まれていることが好ましい。
酸基またはその塩を含む重合体は、カルボン酸基またはその塩、及び/または、スルホン酸基またはその塩を含む重合体が好ましく、スルホン酸基またはその塩を含む重合体がより好ましい。
【0124】
<<<第1の酸基またはその塩を含む重合体>>>
酸基またはその塩を含む重合体の好ましい一例は、主鎖が炭素−炭素結合を有する構造であり、下記式(A1−1)で表される構成単位(繰り返し単位)を含むことが好ましい。
式(A1−1)
【化33】

式(A1−1)中、R1は水素原子またはメチル基を表し、L1は単結合または2価の連結基を表し、M1は水素原子、または、スルホン酸基と塩を構成する原子もしくは原子団を表す。
上記式(A1−1)中、R1は水素原子であることが好ましい。
上記式(A1−1)中、L1が2価の連結基を表す場合、2価の連結基としては、特に限定されないが、例えば、2価の炭化水素基、ヘテロアリーレン基、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO2−、−NX−(Xは水素原子あるいはアルキル基を表し、水素原子が好ましい)、または、これらの組み合わせからなる基が挙げられる。
2価の炭化水素基としては、直鎖状、分岐状または環状のアルキレン基や、アリーレン基が挙げられる。炭化水素基は、置換基を有していてもよいが、無置換であることが好ましい。
直鎖状のアルキレン基の炭素数としては、1〜30が好ましく、1〜15がより好ましく、1〜6がさらに好ましい。また、分岐状のアルキレン基の炭素数としては、3〜30が好ましく、3〜15がより好ましく、3〜6がさらに好ましい。
環状のアルキレン基は、単環、多環のいずれであってもよい。環状のアルキレン基の炭素数としては、3〜20が好ましく、4〜10がより好ましく、6〜10がさらに好ましい。
アリーレン基の炭素数としては、6〜18が好ましく、6〜14がより好ましく、6〜10がさらに好ましく、フェニレン基が特に好ましい。
ヘテロアリーレン基としては、特に限定されないが、5員環または6員環が好ましい。また、ヘテロアリーレン基は、単環でも縮合環であってもよく、単環または縮合数が2〜8の縮合環が好ましく、単環または縮合数が2〜4の縮合環がより好ましい。
上記式(A1−1)中、M1で表されるスルホン酸基と塩を構成する原子または原子団は、上述した酸基の塩を構成する原子または原子団と同義であり、水素原子またはアルカリ金属原子であることが好ましい。
…省略…
【0132】
なお、上記では銅化合物が本発明の組成物に含まれる態様について詳述したが、後述するように本発明の組成物より形成される赤外線遮光層と、上記銅化合物を含有する層とを組み合わせて使用してもよい。より具体的には、本発明の組成物より形成される赤外線遮光層と、銅化合物を含有する層とを含む複層赤外線遮光層を形成してもよい。
【0133】
<その他の成分>
本発明の組成物には、無機微粒子、分散剤及び銅化合物以外の成分が含まれていてもよい。例えば、バインダーポリマー、重合性モノマー、重合開始剤、界面活性剤、密着促進剤、紫外線吸収剤、溶媒、重合禁止剤、連鎖移動剤、増感剤などが挙げられる。
以下に、それらの成分について詳述する。
【0134】
(バインダーポリマー)
本発明の組成物は、形成される赤外線遮光層の皮膜特性の向上などの観点から、更にバインダーポリマーを含有することが好ましい。
…省略…
【0163】
(重合性モノマー(重合性化合物))
組成物中には、重合性モノマーが含まれていてもよい。重合性モノマーが含まれることにより、形成される赤外線遮光層の機械的強度が向上すると共に、パターン形成が可能となる。
…省略…
【0170】
(重合開始剤)
組成物には、重合開始剤が含まれていてもよい。重合開始剤が含まれることにより、硬化性が向上される。
…省略…
【0175】
(界面活性剤)
本発明の組成物には、塗布性をより向上させる観点から、各種の界面活性剤が含まれていてもよい。
…省略…
【0181】
(紫外線吸収剤)
本発明の組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、紫外線吸収剤が含有されていてもよい。
紫外線吸収剤としては、サリシレート系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、置換アクリロニトリル系、トリアジン系の紫外線吸収剤を使用することができる。
本発明においては、各種の紫外線吸収剤は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
組成物に紫外線吸収剤が含まれる場合、紫外線吸収剤の含有量は、組成物全固形分に対して、0.001〜5質量%が好ましく、0.01〜3質量%がより好ましい。
紫外線吸収剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0182】
(溶媒)
本発明の組成物には、溶媒が含まれていてもよい。該溶媒は、種々の有機溶媒を用いて構成することができる。
…省略…
【0184】
<赤外線遮光層>
上述した成分を含有する赤外線遮光組成物を用いることにより、赤外線遮光層が形成される。言い換えると、赤外線遮光層は、上記組成物の硬化物に相当する。
…省略…
【0190】
上記赤外線遮光層を青ガラス基板上に配置することにより、赤外線カットフィルタとして適用できる。青ガラス基板と上記赤外線遮光層とを組み合わせることにより、本発明の効果がより優れる。
使用される青ガラス基板としては、例えば、フツリン酸ガラスなどが挙げられる。
青ガラス基板の厚みは特に制限されないが、ガラスの強度と赤外領域における吸収の点から50〜2000μmが好ましく、100〜1000μmがより好ましい。
…省略…
【0194】
上述したように、赤外線遮光層と、上記銅化合物を含有する層(以後、単に「銅含有層」とも称する)とを組み合わせて使用してもよい。つまり、赤外線遮光層と、銅化合物を含有する層とを含む複層赤外線遮光層が本発明の態様の一つとして挙げられる。
…省略…
銅含有層中における銅化合物の含有量は特に制限されないが、銅含有層全質量に対して、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上が特に好ましい。また、85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。
銅含有層には、銅化合物以外の他の成分(例えば、赤外線遮光層で説明したバインダーポリマーなど)が含まれていてもよい。
複層赤外線遮光層において、無機微粒子を含有する赤外線遮光層の厚みは10μm以下が好ましく、7μm以下がより好ましい。下限は特に制限されないが、通常、0.1μm以上の場合が多く、1μm以上が好ましい。また、複層赤外線遮光層において、銅含有層の厚みは250μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。下限は特に制限されないが、通常、1μm以上の場合が多く、10μm以上が好ましい。
…省略…
【0197】
また、本発明は、固体撮像素子と、赤外線カットフィルタとを有するカメラモジュールにも関する。このカメラモジュールは、赤外線カットフィルタが、上述した本発明の赤外線カットフィルタである。
…省略…
【実施例】
【0202】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、以下の実施例に示される材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0203】
<実施例1>
(ITO分散液の調製)
錫ドープ酸化インジウム粉末(酸化インジウムスズ粒子)(三菱マテリアル(株)製、P4−ITO)28.1質量部と、下記分散剤a(固形分30%、溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテル)18.8質量部、溶媒(シクロヘキサノン)28.1質量部を予め混合した後、循環型分散装置(ビーズミル)として、寿工業株式会社製ウルトラアペックスミルを用いて、以下のようにして分散処理を行い、ITO分散液を得た。また分散装置は以下の条件で運転した。
・ビーズ径:φ0.05mm
・ビーズ充填率:75体積%
・周速:10m/秒
・ポンプ供給量:10kg/時間
・冷却水:水道水
・ビーズミル環状通路内容積:0.15L
・分散処理する混合液量:0.7kg
15分間分散処理を行い、得られたITO粒子の90%粒子径(D90)及び50%粒子径(D50)を測定した所、それぞれ0.10μm及び0.08μmであった。なお、90%粒子径(D90)及び50%粒子径(D50)は、レーザー回折散乱粒度分布装置(日機装株式会社製マイクロトラックUPA−EX150)を用いて、測定した。
【0204】
【化41】

【0205】
上記式中、nは14であり、分散剤aのポリスチレン換算の重量平均分子量は6400であり、酸価は80mgKOH/gであった。分散剤aは、特開2007−277514号公報の段落0114〜0140及び0266〜0348に記載の合成方法に準じて合成した。
【0206】
得られたITO分散液を用い、下記組成を混合し、赤外線遮光組成物を調製した。
ITO分散液71.0質量部
バインダーポリマー(ACA230AA、
ダイセル・サイテック(株)、固形分55%、
溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテル) 16.8質量部
光重合開始剤:Irgacure907
(BASFジャパン社製) 2.8質量部
重合性化合物:アロニックスM−510(TO−756)
(商品名:東亞合成(株)製:4官能重合性化合物) 9.4質量部
シランカップリング剤 KBM−602
(信越シリコーン製) 0.11質量部
界面活性剤:メガファックF−780
(DIC株式会社製) 0.11質量部
…省略…
【0216】
<実施例5>
(銅化合物1の合成例)
下記スルホフタル酸53.1%水溶液(13.49g、29.1mmol)をメタノール50mLに溶かし、この溶液を50℃に昇温した後、水酸化銅(2.84g、29.1mmol)を加え50℃で2時間反応させた。反応終了後、エバポレータにて溶剤及び発生した水を留去することで銅化合物1(8.57g)を得た。
【0217】
【化42】

【0218】
(スルホン酸ポリマー銅化合物1の合成例)
ポリエーテルスルホン(BASF社製、Ultrason E6020P)5.0gを硫酸46gに溶解し、窒素気流下、室温にてクロロスルホン酸16.83gを滴下した。室温にて48時間反応した後、氷水で冷却したヘキサン/酢酸エチル(1/1)混合液1L中に反応液を滴下した。上澄みを除き、得られた沈殿物をメタノールに溶解した。得られた溶液を、酢酸エチル0.5L中に滴下し、得られた沈殿物をろ過により回収した。得られた固体を減圧乾燥することで、下記重合体A−1を4.9g得た。中和滴定により算出したポリマー中のスルホン酸基含有量は3.0(meq/g)、重量平均分子量(Mw)は53、000であった。
重合体A−1の20%水溶液20gに対し、水酸化銅556mgを加え、室温で3時間撹拌し、水酸化銅を溶解させた。以上により、スルホン酸ポリマー銅化合物1の水溶液が得られた。
【0219】
【化43】

…省略…
【0226】
<実施例6>
下記の化合物を混合して、銅含有層形成用組成物を調製した。
上記銅化合物125.2質量部
上記スルホン酸ポリマー銅化合物16.8質量部
下記バインダーA62.4質量部
溶剤(水) 組成物中の全固形分濃度が20質量%となる量
【0227】
バインダーA:下記化合物(Mw:24、000)
【化45】

【0228】
実施例1で作製した赤外線遮光組成物を、青ガラス基板上にスピンコート法で塗布し、その後ホットプレート上にて100℃で2分間加熱することで塗布層を得た。
得られた塗布層を、i線ステッパー又はアライナーを用い、1000mJ/cm2の露光量にて露光し、露光後の塗布層に対し、さらにホットプレート上にて200℃で10分間硬化処理を行い、膜厚5.0μmの赤外線遮光層を得た。
次に、銅含有層形成用組成物をドロップキャスト(滴下法)により、上記赤外線遮光層上に塗布形成し、ホットプレート上にて60℃で10分、80℃で10分、100℃で10分、120℃で10分、140℃で10分と段階的に加熱して、膜厚150μmの銅含有層を得た。得られた赤外線カットフィルタでは、赤外線遮光層と銅含有層が積層した複層赤外線遮光層が含まれる。なお、得られた複層赤外線遮光層の透過スペクトル図を図7に示す。
【0229】
得られた赤外線カットフィルタにおいては、700〜1100nmの範囲において遮光性をより高めることができた。
【0230】
なお、銅含有層の厚みを100μm、または、200μmに変更した場合は、上記実施例6と同様の効果が得られた。
さらに、赤外線遮光層の厚みを3μm、4μm、7μm、または、8μmに変更した場合は、上記実施例6と同様の効果が得られた。」

ウ 「【図7】



(2) 甲2発明
甲2の【0203】〜【0206】、【0216】〜【0219】及び【0226】〜【0229】並びに【図7】の記載からみて、甲2には、実施例6として、次の発明が記載されている(以下「甲2発明」という。)。なお、事案に鑑みて、製造工程の一部の記載を省略した。
「 ITO分散液を71.0質量部、バインダーポリマーを16.8質量部、光重合開始剤を2.8質量部、重合性化合物を9.4質量部、シランカップリング剤を0.11質量部及び界面活性剤を0.11質量部を混合し、赤外線遮光組成物を調製し、
銅化合物1を25.2質量部、スルホン酸ポリマー銅化合物1を6.8質量部、バインダーAを62.4質量部及び組成物中の全固形分濃度が20質量%となる量の水を混合し、銅含有層形成用組成物を調製し、
赤外線遮光組成物を青ガラス基板上に塗布し、その後加熱することで塗布層を得、得られた塗布層を露光し、さらにホットプレート上にて硬化処理を行い膜厚5.0μmの赤外線遮光層を得、
次に、銅含有層形成用組成物を赤外線遮光層上に塗布形成し、段階的に加熱して、膜厚150μmの銅含有層を得た、赤外線遮光層と銅含有層が積層した複層赤外線遮光層が含まれる赤外線カットフィルタであって、
透過スペクトル図は次のとおりであり、

銅化合物1及びスルホン酸ポリマー銅化合物1の製造方法は以下のとおりである、赤外線カットフィルタ。
(銅化合物1の製造方法)
4−スルホフタル酸53.1%水溶液(13.49g、29.1mmol)をメタノール50mLに溶かし、この溶液を50℃に昇温した後、水酸化銅(2.84g、29.1mmol)を加え50℃で2時間反応させ反応終了後、エバポレータにて溶剤及び発生した水を留去することで銅化合物1(8.57g)を得た。
(スルホン酸ポリマー銅化合物1の製造方法)
下記重合体A−1の20%水溶液20gに対し、水酸化銅556mgを加え、室温で3時間撹拌し、水酸化銅を溶解させ、スルホン酸ポリマー銅化合物1の水溶液を得た。



(3) 本件特許発明1について
ア 一致点及び相違点
(ア)一致点
本件特許発明1と甲2発明を対比すると、両者は次の構成で一致する。
「 銅と銅に対する配位部位を有する化合物との錯体であって、波長700〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する銅錯体を含有する層を有する近赤外線カットフィルタであって、
近赤外線カットフィルタ。」

(イ)相違点
本件特許発明1と甲2発明は、以下の点で相違する。
(相違点4)
「近赤外線カットフィルタ」が、本件特許発明1は、「銅錯体を含有する層と、紫外線吸収剤を含有する層と、を有する」のに対して、甲2発明は、「紫外線吸収剤を含有する層」を有さない点。

(相違点5)
「銅錯体」が、本件特許発明1は、「銅と、銅に対する配位部位を有する化合物によって、5員環および/または6員環が形成されて」いるものであるのに対して、甲2発明は、銅化合物1及びスルホン酸ポリマー銅化合物1である点。

(相違点6)
「近赤外線カットフィルタ」が、本件特許発明1は、[A]「前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長390nmにおける透過率T390が10%以下であり」、[B]「前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長450nmにおける透過率T450が85%以上であり」、[C]「前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長350nmにおける透過率T350と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長450nmにおける透過率T450との比であるT350/T450が0〜0.3であり」、[D]「前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長390nmにおける透過率T390と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長450nmにおける透過率T450との比であるT390/T450が0〜0.3であり」、[E]「前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長700nmにおける透過率T700と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長550nmにおける透過率T550との比であるT700/T550が0〜0.2であり」、[F]「波長800〜1000nmの範囲において、前記近赤外線カットフィルタの反射率の平均値が80%以下である」のに対して、甲2発明は、これら[A]〜[F]の要件を全て満たすものではない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点5について検討する。
甲2の【0099】〜【0124】には、赤外線遮断剤としての銅化合物に関する記載がある。しかしながら、これらの記載を参酌しても、近赤外線カットフィルタの層に含有される銅錯体として、「銅と、銅に対する配位部位を有する化合物によって、5員環および/または6員環が形成されて」いるものを用いることを示唆する記載は見いだせない。また、特許異議申立人が提出した甲第1号証、甲第3号証〜甲第10号証にも記載されていないし、当該技術的事項が公知又は周知であることを示す他の証拠を発見しない。
そして、本件特許発明1は、このような「形状が安定であり、錯体安定性に優れる」(本件特許の明細書【0056】)銅錯体を含むことで、「可視透明性および赤外線遮蔽性が良好で、かつ、固体撮像素子などに組み込んだ際に、パープルフリンジが抑制された画像などを得ることが可能」(本件特許の明細書【0010】)であるという効果を奏するものである。

ウ 小括
したがって、本件特許発明1は、甲2に記載された発明及び甲1〜甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(4) 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲2発明を対比すると、本件特許発明2と甲2発明は、少なくとも前記相違点5と同様の点で相違する。
そして、相違点5についての判断は、前述したとおりである。
したがって、本件特許発明2は、甲2に記載された発明及び甲1〜甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(5) 本件特許発明3、4について
本件特許の特許請求の範囲の請求項3及び請求項4は、いずれも、請求項2を引用するものであって、本件特許発明3及び本件特許発明4は、いずれも、本件特許発明2の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、前記(4)のとおり、本件特許発明2が、甲2に記載された発明及び甲1〜甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない以上、本件特許発明3及び本件特許発明4は、いずれも、甲2に記載された発明及び甲1〜甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(6) 本件特許発明6〜15について
本件特許の特許請求の範囲の請求項6〜請求項15は、いずれも、請求項1又は請求項2を引用するものであって、本件特許発明6〜本件特許発明15は、いずれも、本件特許発明1又は本件特許発明2の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、前記(3)及び(4)のとおり、本件特許発明1又は本件特許発明2が、甲2に記載された発明及び甲1〜甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない以上、本件特許発明6〜本件特許発明15は、いずれも、甲2に記載された発明及び甲1〜甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。


第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知(決定の予告)において、請求項5及び請求項12に係る発明に対しては、進歩性(特許法29条2項)の取消しの理由が通知されていないが、請求項5及び請求項12に係る発明に対して進歩性(特許法29条2項)の取消しの理由がないことは、上記「第5 当合議体の判断」で述べたとおりである。


第7 むすび
1 請求項1〜4、6〜15に係る特許は、いずれも、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由及び当合議体が通知した取消しの理由によっては取り消すことはできない。また、他に請求項1〜4、6〜15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

2 請求項5に係る特許は、本件訂正請求による訂正で削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てのうち、本件特許の請求項5に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。

3 よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅と銅に対する配位部位を有する化合物との錯体であって、波長700〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する銅錯体を含有する層と、紫外線吸収剤を含有する層と、を有する近赤外線カットフィルタであって、
前記銅錯体は、銅と、銅に対する配位部位を有する化合物によって、5員環および/または6員環が形成されており、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長390nmにおける透過率T390が10%以下であり、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長450nmにおける透過率T450が85%以上であり、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長350nmにおける透過率T350と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長450nmにおける透過率T450との比であるT350/T450が0〜0.3であり、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長390nmにおける透過率T390と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長450nmにおける透過率T450との比であるT390/T450が0〜0.3であり、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長700nmにおける透過率T700と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長550nmにおける透過率T550との比であるT700/T550が0〜0.2であり、
波長800〜1000nmの範囲において、前記近赤外線カットフィルタの反射率の平均値が80%以下である、近赤外線カットフィルタ。
【請求項2】
銅と銅に対する配位部位を有する化合物との錯体であって、波長700〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する銅錯体と、紫外線吸収剤とを含有する層を有する近赤外線カットフィルタであって、
前記銅錯体は、銅と、銅に対する配位部位を有する化合物によって、5員環および/または6員環が形成されており、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長390nmにおける透過率T390が10%以下であり、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長450nmにおける透過率T450が85%以上であり、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長350nmにおける透過率T350と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長450nmにおける透過率T450との比であるT350/T450が0〜0.3であり、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長390nmにおける透過率T390と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長450nmにおける透過率T450との比であるT390/T450が0〜0.3であり、
前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長700nmにおける透過率T700と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の波長550nmにおける透過率T550との比であるT700/T550が0〜0.2であり、
波長800〜1000nmの範囲において、前記近赤外線カットフィルタの反射率の平均値が80%以下である、近赤外線カットフィルタ。
【請求項3】
前記銅と銅に対する配位部位を有する化合物との錯体であって、波長700〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する銅錯体と、紫外線吸収剤とを含有する層は、前記銅錯体の100質量部に対して前記紫外線吸収剤を0.1〜20質量部含む、請求項2に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項4】
前記銅と銅に対する配位部位を有する化合物との錯体であって、波長700〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する銅錯体と、紫外線吸収剤とを含有する層中における前記紫外線吸収剤の含有量は0.1〜50質量%である、請求項2に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
前記紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール化合物およびヒドロキシフェニルトリアジン化合物から選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項7】
波長430〜580nmの範囲において、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が85%以上である、請求項1、2、3、4または6に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項8】
波長350〜450nmの範囲において、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる最も長波長側の波長と、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短波長側の波長との差の絶対値が25nm以下である、請求項1、2、3、4、6または7に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項9】
波長800〜1000nmの範囲において、前記近赤外線カットフィルタの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が20%以下である、請求項1、2、3、4、6、7または8に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項10】
前記紫外線吸収剤は、波長280〜425nmの範囲に極大吸収波長を有する化合物である、請求項1、2、3、4、6、7、8または9に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項11】
更に誘電体多層膜を有する、請求項1、2、3、4、6、7、8、9または10に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項12】
前記銅錯体が、銅に対して4個または5個の配位部位を有する化合物を配位子として有する銅錯体である、請求項1、2、3、4、6、7、8、9、10または11に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項13】
請求項1、2、3、4、6、7、8、9、10、11または12に記載の近赤外線カットフィルタを有する固体撮像素子。
【請求項14】
請求項1、2、3、4、6、7、8、9、10、11または12に記載の近赤外線カットフィルタを有するカメラモジュール。
【請求項15】
請求項1、2、3、4、6、7、8、9、10、11または12に記載の近赤外線カットフィルタを有する画像表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-10-11 
出願番号 P2018-532974
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G02B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 関根 洋之
榎本 吉孝
登録日 2020-01-21 
登録番号 6650040
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 近赤外線カットフィルタ、固体撮像素子、カメラモジュールおよび画像表示装置  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ