• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1381647
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-02-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-11 
確定日 2021-11-01 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6664881号発明「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末とその製造方法、燃料電池空気電極並びに燃料電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6664881号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜8〕について訂正することを認める。 特許第6664881号の請求項1〜5、7、8に係る特許を取り消す。 特許第6664881号の請求項6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6664881号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜8に係る特許についての出願は、平成27年3月30日(優先権主張 平成26年3月31日)に出願され、令和2年2月21日にその特許権の設定登録がされ、同年3月13日に特許掲載公報が発行された。
その後、同年9月11日に特許異議申立人である村山玉恵(以下、「申立人」という。)により、本件特許の請求項1〜8(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、以降の本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 2年11月30日付け : 取消理由通知書
令和 3年 1月21日 : 特許権者による訂正請求書及び意見書
の提出
(以下、本訂正請求書を「本件訂正請求
書」といい、本訂正請求書による訂正
の請求を「本件訂正請求」という。)
同年 3月 4日 : 申立人による意見書の提出
同年 5月17日付け : 取消理由通知書(決定の予告)
なお、取消理由通知書(決定の予告)において、特許権者に意見があれば指定期間内に意見書を提出するように通知したが、特許権者は意見書を提出していない。

第2 本件訂正請求について
1 本件訂正請求の趣旨、及び訂正の内容
本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜8について訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。なお、本件訂正請求による訂正を以下、「本件訂正」という。また、下線は訂正箇所を表す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「真円度が1.0以上1.5以下であり、
BETの値が、0.5m2/g以下であることを特徴とする燃料電池空気電極用複合酸化物粉末。」と記載されているのを、
「真円度が1.0以上1.5以下であり、
円形度が1.0以上1.23以下であり、
BETの値が、0.5m2/g以下であることを特徴とする燃料電池空気電極用複合酸化物粉末。」
に訂正する。
また、請求項1を直接または間接的に引用する請求項3、6〜8も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「円形度が1.0以上1.5以下であり、」と記載されているのを、
円形度が1.0以上1.23以下であり、」
に訂正する。
また、請求項2を直接または間接的に引用する請求項3、6〜8も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、
「真円度が1.0以上1.5以下、且つ、累積粒径D50が20μm以上30μm以下であり、」と記載されているのを、
「真円度が1.0以上1.5以下、且つ、円形度が1.0以上1.23以下、且つ、累積粒径D50が20μm以上30μm以下であり、」
に訂正する。
また、請求項4を直接または間接的に引用する請求項6〜8も同様に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に、
「円形度が1.0以上1.5以下、且つ、累積粒径D50が20μm以上30μm以下であり、」と記載されているのを、
「円形度が1.0以上1.23以下、且つ、累積粒径D50が20μm以上30μm以下であり、」
に訂正する。
また、請求項5を直接または間接的に引用する請求項6〜8も同様に訂正する。

(5)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1〜8について、請求項3、6〜8は、上記訂正事項1、2に係る請求項1、2を直接または間接的に引用するものであり、また、請求項6〜8は、上記訂正事項3、4に係る請求項4、5を直接または間接的に引用するものである。
そうすると、請求項1、3、6〜8が「一群の請求項」を構成するとともに、請求項2、3、6〜8、請求項4、6〜8、及び請求項5〜8もそれぞれ「一群の請求項」を構成する。
そして、共通する請求項6〜8を有するこれらの「一群の請求項」は組み合わされて、請求項1〜8が1つの「一群の請求項」となる。
したがって、本件訂正は、その一群の請求項ごとに請求がされたものである。

2 訂正の適否
(1)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
ア 訂正事項1、3について
(ア) 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1、3による訂正は、それぞれ本件訂正前の請求項1、4の「真円度が1.0以上1.5以下」である「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」について、さらに「円形度が1.0以上1.23以下」という発明特定事項を直列的に付加するものである。
よって、訂正事項1、3による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものに該当しない。

(イ)新規事項の有無
本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件明細書等」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付与し、「・・・」は記載の省略を表す(以下同様)。

「【0013】
・・・
本発明に係る燃料電池空気電極用複合酸化物粉末は、一般式ABO3で表わされる複合酸化物である(但し、A元素は、La、Sr、Caから選択される一種以上の元素、B元素は、Mn、Co、Fe、Niから選択される一種以上の元素である)。
当該粉末を構成する粒子は、累積粒径D50が20μm以上30μm以下の球形粒子である。当該球形粒子における球形の度合は、真円度で表記したとき1.0以上1.5以下、円形度で表記したとき1.0以上1.5以下である。」
「【0038】
(まとめ)
実施例1〜6においては、粉末を構成する粒子のD50が20.6〜29.0μm、真円度1.19〜1.35、円形度1.12〜1.23、BET値が0.078〜0.304m2/gという、本発明の要件を満たす燃料電池空気電極用複合酸化物粉末を得ることが出来た。」
「【0041】
・・・
【表2】




上記のとおり、本件明細書等には、「真円度」が「1.0以上1.5以下」である「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」において、「円形度」が「1.0以上1.5以下」である構成、及び、「真円度」が「1.0以上1.5以下」の範囲に含まれ、且つ「円形度」が「1.23」である実施例1が記載されているから、訂正事項1、3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

イ 訂正事項2、4について
(ア)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2、4による訂正は、本件訂正前の請求項2、5の「円形度が1.0以上1.5以下」について、「円形度」の上限を「1.23」として数値範囲を狭くするものである。
よって、訂正事項2、4による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものに該当しない。

(イ)新規事項の有無
上記ア(イ)で示したように、本件明細書等には、「円形度」が「1.23」である実施例1が記載されているから、訂正事項2、4は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

(2)独立特許要件について
申立人による特許異議の申立ては、訂正前の請求項1〜8の全てに対してなされているので、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法126条7項の独立特許要件は課されない。

3 訂正の適否についての結論
以上のとおり、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜8〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明8」といい、総称して「本件発明」ということがある。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
一般式ABO3で表記される複合酸化物(但し、A元素は、La、Sr、Caから選択される一種以上の元素、B元素は、Mn、Co、Fe、Niから選択される一種以上の元素である。)であって、
真円度が1.0以上1.5以下であり、
円形度が1.0以上1.23以下であり、
BETの値が、0.5m2/g以下であることを特徴とする燃料電池空気電極用複合酸化物粉末。
【請求項2】
一般式ABO3で表記される複合酸化物(但し、A元素は、La、Sr、Caから選択される一種以上の元素、B元素は、Mn、Co、Fe、Niから選択される一種以上の元素である。)であって、
円形度が1.0以上1.23以下であり、
BETの値が、0.5m2/g以下であることを特徴とする燃料電池空気電極用複合酸化物粉末。
【請求項3】
累積粒径D50が20μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池空気電極用複合酸化物粉末。
【請求項4】
一般式ABO3で表記される複合酸化物(但し、A元素は、La、Sr、Caから選択される一種以上の元素、B元素は、Mn、Co、Feから選択される一種以上の元素である。)であって、
真円度が1.0以上1.5以下、且つ、円形度が1.0以上1.23以下、且つ、累積粒径D50が20μm以上30μm以下であり、
BETの値が、0.5m2/g以下であることを特徴とする燃料電池空気電極用複合酸化物粉末。
【請求項5】
一般式ABO3で表記される複合酸化物(但し、A元素は、La、Sr、Caから選択される一種以上の元素、B元素は、Mn、Co、Feから選択される一種以上の元素である。)であって、
円形度が1.0以上1.23以下、且つ、累積粒径D50が20μm以上30μm以下であり、
BETの値が、0.5m2/g以下であることを特徴とする燃料電池空気電極用複合酸化物粉末。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の燃料電池空気電極用複合酸化物粉末であって、
当該粉末に含まれる粒子内部の充填率が80%以上あることを特徴とする燃料電池空気電極用複合酸化物粉末。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の燃料電池空気電極用複合酸化物粉末を含むことを特徴とする燃料電池空気電極。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の燃料電池空気電極用複合酸化物粉末を含むことを特徴とする燃料電池。」

第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本件優先日前に日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記(3)の甲第1号証〜甲第5号証(以下、それぞれ「甲1」〜「甲5」という。)を提出し、下記(1)及び(2)を概要とする申立理由1及び2を主張し、本件特許の請求項1〜8に係る特許は取り消されるべき旨申立てた。

(1)申立理由1(進歩性
ア 申立理由1−1
本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、甲1に記載された発明と、甲2〜甲5に記載された発明とから、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

イ 申立理由1−2
本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、甲2に記載された発明と、甲1及び甲3〜甲5に記載された発明とから、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(サポート要件)
訂正前の請求項1〜8に係る発明は、「真円度が1.0以上1.5以下」または「円形度が1.0以上1.5以下」であると規定されているが、球形からほど遠い図形も含まれるため、また、「真円度」及び「円形度」と導電率との相関を導き出すことができる程度の十分な実験データが提示されているわけではないため、発明が解決しようとする課題を解決するものとして発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えている。
したがって、本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許に対してされたものであり、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

(3)証拠方法
甲第1号証(甲1):特開2004−55194号公報
甲第2号証(甲2):特開2012−48893号公報
甲第3号証(甲3):丹羽栄貴、熱分析によるB−site混合系ペロブスカイト酸化物の合成プロセスの最適化、熱測定、2013年、第40巻、第4号、p.150〜157、
甲第4号証(甲4):松島敏雄(外2名)、La1−xSrxMnO3の諸物性に対するSrの置換効果、電気学会論文誌B、1998年3月1日発行、第118巻、第3号、p.308〜314
甲第5号証(甲5):特開2011−89878号公報

2 取消理由(決定の予告)の概要
本件特許の請求項1〜5、7、8に係る特許に対して、当審が令和3年5月17日付けの取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件発明1〜5、7、8について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、請求項1〜5、7、8に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1 取消理由1(サポート要件)
(1)特許法第36条第6項第1号に規定されるサポート要件適合性については、「特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。」(知的財産高等裁判所 平成17年(行ケ)第10042号)と解される。
そこで、以下検討する。

(2)本件明細書等には、以下の記載がある。

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料電池の空気電極が満たすべき特性として、化学的安定性、通気性、導電性、高触媒作用、機械的特性、原料コスト等が考えられる。本発明者らは、研究および検討の結果、通気性および導電性のさらなる向上が肝要であることに想到した。
【0006】
本発明者らが知見した課題について具体的に説明する。
第1の課題は、金属塩の溶融溶液の噴霧乾燥法など従来の技術で製造された粒子径が20μm程度の空気電極粉末は、サブミクロンから数ミクロンの細かな一次粒子の集合体であって粒子形状が不揃いである。この為、空気電極たる焼結体となった段階において、通気に必要な気孔の分布が不均一となってしまうことである。気孔の分布が不均一となる結果、空気電極内における粒子間のガスの流れが不均一となる。さらに、当該粒子と電解質層との間の均一な空孔である3層界面(空気電極、電解質、気相の3相が接する場所である。)が効率的に形成されない為、発電効率が低下してしまうことである。
【0007】
第2の課題は、従来技術で製造された空気電極の原料である粗粒粉は、粒子内部に過剰な空孔が多数の存在することを知見したことである。当該過剰な空孔が多数存在する為、空気電極たる焼結体となった段階でも、当該空孔が存在したままとなり、電流パスが妨げられ、空気電極の導電率が低下してしまうことである。
【0008】
本発明は、上述した状況の下に為されたものであり、その解決しようとする課題は、燃料電池の空気電極たる焼結体となった段階において、通気性が良くガスの流れが均一となり、多数の3層界面が効率的に形成されることで発電効率に優れ、且つ、高い導電率を発揮する燃料電池空気電極用複合酸化物粉末とその製造方法、当該燃料電池空気電極用複合酸化物粉末を用いた燃料電池空気電極並びに燃料電池とを、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決する為、本発明者らは鋭意研究を行った。
そして、上述した第1の課題である空気電極内におけるガスの流れの均一化を実現するには、燃料電池空気電極用複合酸化物粉末を構成する粒子の真円度を高めれば良いことに想到した。即ち、燃料電池空気電極用複合酸化物粉末を構成する粒子の真円度を高めることにより、これらの粒子が最密充填されたときに、当該粒子間、および、当該粒子と電解質層との間の均一な空孔である3層界面が、効率的に多数形成されることに想到したものである。
また、上述した第2の課題である空気電極の原料粗粒粉における粒子内部の過剰な空孔の存在を回避するには、当該粒子内部の充填率を80%以上とすれば良いことにも想到したものである。」
「【0013】
本発明に係る燃料電池空気電極用複合酸化物粉末は、一般式ABO3で表わされる複合酸化物である(但し、A元素は、La、Sr、Caから選択される一種以上の元素、B元素は、Mn、Co、Fe、Niから選択される一種以上の元素である)。
・・・
そして、当該粒子のBET値は、0.5m2/g以下、粒子内部の空隙率は20質量%以下(即ち、粒子内部の充填率は80%以上)である。
【0014】
燃料電池の空気電極においては、酸素が空気電極内の空孔を移動して電解質と接し、電子を受け取って酸素イオンになることで反応が進行する。ここで当該反応は、空気電極、電解質、気相の3つの相が接している、所謂3相界面にて進行する。ここで本発明者らは、当該3層界面の存在個数を増やすことで、燃料電池の発電効率を上げることを考え研究を行った。そして、当該空気電極を構成する粒子が高い真円度(円形度)を有していれば良いことに想到したものである。
【0015】
当該構成を、図面を参照しながら説明する。
図1は、空気電極において、空気電極を構成する粒子と電解質とが接している部分を、上から見た場合と断面を見た場合とで、模式的に記載した図である。
即ち、空気電極を構成する粒子が高い真円度(円形度)を有する球形の場合、(A)に示すように当該粒子が細密充填の形をとって均一存在することとなる。そして(B)に示すように当該粒子間に均一に空孔が空き、酸素の流れが均一化すると伴に、多数の3層界面が効率的に形成されて、発電効率が上がることに依る。
一方、空気電極を構成する粒子の形状が、球形以外の例えば直方体の場合であると、(C)に示すように当該粒子間の接触の仕方により、空孔が存在しない部分と、大きな空孔が過剰に存在する部分とが形成される。この結果、(D)に示すように酸素の流れが不均一化すると伴に、3相界面が少なくなり発電効率が下がることに想到したものである。
【0016】
本発明者らの検討によると、真円度や円形度が1.5よりも小さい場合、発電効率が保持された。これは、粒子の形状が球形から大きく形が崩れなかった為であると考えられる。
粒子が球形でありBETの値が0.5m2/gより小さい場合、発電効率が保持された。これは、粒子表面の形状が凸凹にならず、平滑である為、空気電極の空孔が均一に生成した為であると考えられる。
一方、粒子内部の充填率が80%以上あると導電率が保持された。これは、粒子内部に空孔が無く、電流パスが良好であった為と考えられる。」(当審注:【0015】の「細密充填」は、「最密充填」の誤記と認められる。)
「【0022】
以下、本発明に係る燃料電池空気電極用複合酸化物粉末の評価方法について詳細に説明する。
(5)粒子の真円度・円形度
本発明に係る燃料電池空気電極用複合酸化物粉末を構成する粒子の真円度・円形度は、当該粒子のSEM画像を、画像解析ソフト(例えば、米国 ローパーインダストリーズ社製 Image−Pro Plus 7.0J)を用いて測定、評価することが出来る。
ここで、
真円度=L^2/(S*4π)
円形度=(R^2/S)*(π/4)
(但し、L:周囲長、S:画像解析による対象粒子の面積、R:最大フェレ径である。)で定義される。
そして、真円度、円形度ともに、値が1に近いほど球形であることを表しており、値が大きくなるほどに不定形であることを表している。
尚、SEM画像には倍率1000倍のものを用い、50個程度の粒子を選択して、L、S、Rの値の平均値を求め、さらに、真円度および円形度の値を求めれば良い。
【0023】
(6)粒子内部の充填率
本発明に係る燃料電池空気電極用複合酸化物粉末を構成する粒子内部における、充填率の測定にはSEM画像解析を用いた。
〈1〉前記実施例1〜3に係る粉末を熱硬化性の樹脂に分散させ、当該樹脂を熱硬化させる。当該熱硬化した樹脂を、クロスセクションポリッシャを用いて切断し、粉末を構成する粒子の断面を露出させた。
〈2〉露出した粒子断面のSEM画像を撮影する。撮影されたSEM画像を、画像解析ソフト(例えば、株式会社 日本ローパー Image−Pro Plus 7.0J)を使用して解析し、粒子内部の充填率を測定した。そして、粒子部分と空孔部分とのコントラストの差から、粒子内部の充填率=(粒子部分面積−空孔部分面積)/(粒子部分面積)を規定した。
尚、SEM画像には倍率1000倍のものを用い、50個程度の粒子を解析して平均値を求めれば良い。
【0024】
(7)導電率
本発明に係る燃料電池空気電極用複合酸化物粉末の導電率測定には、当該粉末をペレット化し、抵抗率計(株式会社 三菱アナリテック社製 MCP−T610)を用いて導電率を測定することが出来る。
具体的には、ペレット作成用プレス装置を用いて、本発明に係る粉末を加圧してペレットを成形する。成形されたペレットを、25℃から1150℃まで5℃/minで昇温し、1150℃で4時間保持後に自然降温させて、導電率測定用ペレットを得る。
抵抗率計を使用し、前記導電率測定用ペレット円柱の中心部分に端子を当てて、導電率(S/cm)を測定した。当該測定を10回程度行って平均値を得、当該平均値を測定値とした。」
「【0038】
(まとめ)
実施例1〜6においては、粉末を構成する粒子のD50が20.6〜29.0μm、真円度1.19〜1.35、円形度1.12〜1.23、BET値が0.078〜0.304m2/gという、本発明の要件を満たす燃料電池空気電極用複合酸化物粉末を得ることが出来た。従って、これらの粉末を用いてSOFCの空気電極を製造すれば、当該空気電極内におけるガスの流れの均一化を実現できると伴に、当該粉末を構成する粒子間、および、当該粒子と電解質層との間の均一な空孔である3層界面が、効率的に多数形成されると考えられる。
【0039】
また、実施例1〜6においては粒子内部の充填率81.2〜99.3%という、本発明の要件を満たす燃料電池空気電極用複合酸化物粉末を得ることが出来た。これらの粉末は、いずれも47.6〜171.0S/cmといった高い導電率を発揮した。
【0040】
以上より、本発明によれば、燃料電池空気電極用複合酸化物粉末と電解質層との間において、均一な空孔である3相界面を多数生成出来、且つ、当該粉末の導電性が高いので、発電効率の高い空気電極を製造することが出来ると考えられる。」
【0041】
【表1】

【表2】


「【図1】




(3)上記(2)の【0006】〜【0008】から、本件発明が解決しようとする課題は、「燃料電池の空気電極たる焼結体となった段階において、通気性が良くガスの流れが均一となり、多数の3層界面が効率的に形成されることで発電効率に優れ、且つ、高い導電率を発揮する燃料電池空気電極用複合酸化物粉末と、当該燃料電池空気電極用複合酸化物粉末を用いた燃料電池空気電極並びに燃料電池とを、提供すること」であると認められ、以下、そのうち、「燃料電池の空気電極たる焼結体となった段階において、通気性が良くガスの流れを均一とし、多数の3層界面を効率的に形成して発電効率を優れたものにすること」を「第1の課題」と称し、「高い導電率を発揮する」ことを「第2の課題」と称する。
そして、本件発明は、【0008】に記載されているように、「第1の課題」及び「第2の課題」の両者を同時に解決することを課題としていると認められる。

(4)まず、「第1の課題」について検討する。

(5)上記(2)の【0009】、【0014】、【0015】、【0022】、【図1】から、燃料電池空気電極用複合酸化物粉末を構成する粒子の真円度または円形度を高めること、すなわち、上記(2)の【0022】の真円度または円形度の式によって求まる値を1に近づけることにより、図1(A)、(B)のように粒子が最密充填されたときに、当該粒子間、および、当該粒子と電解質層との間の均一な空孔である3層界面が、効率的に多数形成され、「第1の課題」を解決していることが理解できる。

(6)また、上記(2)の【0038】から、円形度が1.12〜1.23である実施例1〜6においては、「第1の課題」を解決できると考えられるといえる。

(7)なお、円形度が1.23以下であれば、立方体の粒子(真円度は約1.273、円形度は約1.571)よりも円形に近いといえ、粒子の形状が、上記(2)の【図1】の(C)、(D)に示された直方体(立方体よりも断面が円形より遠いことは明らかである。)の構成は含まれないと認められる。

(8)また、上記(2)の【0013】、【0016】から、BETの値が0.5m2/g以下とすることにより、粒子表面の形状が凸凹にならず、平滑となり、空気電極の空孔が均一に生成することでも「第1の課題」を解決していることが理解できる。

(9)そうすると、「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」、当該「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」を含む「燃料電池空気電極」、及び当該「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」を含む「燃料電池」の発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明により当業者が「第1の課題」を解決できると認識し得る範囲であるためには、円形度が1.23以下であり、BETの値が0.5m2/g以下であることが必要であると認められる。

(10)次に、「第2の課題」について検討する。

(11)上記(2)の【0009】、【0016】、【0039】、【表2】から、粉末に含まれる粒子内部の充填率が80%以上であると、粒子内部に空孔がなく、導電率が保持されることが理解できる。

(12)また、上記(2)の【0013】、【0039】、【表1】、【表2】から、高い導電率を発揮する複合酸化物としては、一般式ABO3で表わされる複合酸化物(但し、A元素は、La、Sr、Caから選択される一種以上の元素、B元素は、Mn、Co、Fe、Niから選択される一種以上の元素である)が開示されているのみである。

(13)そうすると、「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」、当該「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」を含む「燃料電池空気電極」、及び当該「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」を含む「燃料電池」の発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明により当業者が「第2の課題」を解決できると認識し得る範囲であるためには、一般式ABO3で表わされる複合酸化物(但し、A元素は、La、Sr、Caから選択される一種以上の元素、B元素は、Mn、Co、Fe、Niから選択される一種以上の元素である)であって、粉末に含まれる粒子内部の充填率が80%以上であることが必要であると認められる。

(14)上記(9)、(13)より、「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」、当該「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」を含む「燃料電池空気電極」、及び当該「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」を含む「燃料電池」の発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明により上記ウで示した「第1の課題」及び「第2の課題」の両者を同時に解決できると当業者が認識し得る範囲であるためには、一般式ABO3で表わされる複合酸化物(但し、A元素は、La、Sr、Caから選択される一種以上の元素、B元素は、Mn、Co、Fe、Niから選択される一種以上の元素である)であって、円形度が1.23以下であり、BETの値が0.5m2/g以下であり、当該粉末に含まれる粒子内部の充填率が80%以上であることが必要であると認められる。

(15)しかし、本件発明1〜5、7、8は、「粉末に含まれる粒子内部の充填率が80%以上であること」が必須の構成として特定されていないため、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明により上記(3)で示した発明が解決しようとする課題を解決できると当業者が認識し得る範囲のものであるとはいえない。

(16)したがって、本件発明1〜5、7、8は、サポート要件を満たしていない。

2 令和2年11月30日付け取消理由通知及び令和3年5月17日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(進歩性
ア 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
(ア)甲1の記載及び甲1に記載された発明
a 甲1の記載
甲1には、「固体酸化物形燃料電池の電極」(発明の名称)について、以下の記載がある。

「【請求項1】
電極材料粉末より造粒された複合粒子粉体を固体電解質層の両面に積層・成形して成る固体酸化物形燃料電池の電極において、
粒径の異なる前記複合粒子粉体を層状に積層した多層構造として、気孔率の分布を制御したことを特徴とする固体酸化物形燃料電池の電極。
【請求項2】
前記固体電解質層に接する側の前記複合粒子粉体の粒径を小さくし、積層方向に大きくすることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池の電極。
【請求項3】
前記複合粒子粉体がスプレードライ法により造粒されていることを特徴とする請求項1または請求項2の何れかに記載の固体酸化物形燃料電池の電極。」
「【0007】
一方、電極である空気極(カソード)層と燃料極(アノード)層はいずれも電子伝導性の高い材料から構成する必要がある。空気極材料は、700℃前後の高温の酸化性雰囲気中で化学的に安定でなければならないため、金属は不適当であり、電子伝導性を持つペロブスカイト型酸化物材料、具体的にはLaMnO3 もしくはLaCoO3 、または、これらのLaの一部をSr、Ca等に置換した固溶体が一般に使用されている。・・・各電極層はガスを透過させることができるように多孔質の層とする必要がある。相界面における電極層のガス透過性(拡散性)、電子伝導性が良ければ電極反応が活性化され、発電性能が向上する。」
「【0014】
ここで、請求項1および請求項2に記載の構成では、固体電解質層に接する側の電極の気孔率(気孔孔)を小さくすることにより、十分な反応場を確保することができ、よって、電極反応時の分極を減らすことができるとともに、固体電解質層から離れるに伴って気孔率を大きくすることにより、同時にガスの透過性(拡散性)も保つことができる。これにより、電極反応が活性化され、発電性能が向上する。
また、請求項3に記載の構成では、電極材料粉末を液中に溶解・分散し、このスプレードライ法により乾燥すると、電極材料粉末が均一に分散した微細で高活性な粒子粉体を得ることができる。造粒される粒子径は、スプレードライ時の気化温度、ガス流速、液の供給量等の条件を変えることで制御できる。
従って、スプレードライ法で粒径の異なる電極材料粉体を調製し、それを積層し、プレス成形・焼結すれば、孔径分布が異なる多層構造の電極を形成できる。」
「【0017】
本実施形態では、スプレードライ法で造粒した電極粉体を用いた燃料極層4の形成について説明する。
【0018】
先ず、燃料極材料の硝酸塩であるCe(NO3 )3 ・6H2 O、Sm(NO3 )3 ・6H2 O、Ni(NO3 )2 ・6H2 Oを所定量蒸留水に加えて溶解させる。
次に、この溶解液にNaOHをpH13になるよう少しづづ滴下し、電極構成材料となる水酸化物Ce(OH)3 、Sm(OH)3 、Ni(OH)2 を沈殿させる。
次に、この沈殿物を遠心分離によって溶液の上澄み液と濃縮された沈殿物を分離した後、蒸留水を加えて攪拌、再度遠心分離を5〜6回繰り返して洗浄する。
最後に、蒸留水中に均一に分散した水酸化物の複合体を上記スプレードライ法を用いて加熱、分解、および乾燥させることにより、CeO2 、Sm2 O3 、NiOが均一に分散した微細で高活性な球状の複合粒子粉体、即ち、電極粉体が得られる。
【0019】
ここで、造粒される粒子径は、スプレードライの気化温度、ガス流速、液の供給量等の条件を変えることで制御できるため、上記諸条件を適宜設定して粒径の異なる電極粉体を調製する。例えば、本実施形態では、大粒径、中粒径、小粒径の3種類の電極粉体を調製した。
・・・
【0021】
次いで、この電極粉体を用いて電極を形成する場合、先ず、上記電極粉体に有機物結着剤を配合し、攪拌してペースト状とし、公知のブレード法やスクリーン印刷等により固体電解質層の表面に塗布・積層する。
この際、図1に示すように、固体電解質層3に接する側に小粒径のペースト状粉体を塗布して第1層4aを形成し、次に、その上に中粒径のペースト状粉体を塗布して第2層4bを形成し、最後に、その上に大粒径のペースト状粉体を塗布して第3層4cを形成し、その後、乾燥、プレス成形、焼成して図示する3層構造の燃料極層4を形成する。
尚、スプレードライ法で造粒される粉体粒子は真球状となるので、これを用いて形成した各層の気孔率(気孔孔)は各々安定したものになる。
【0022】
また、空気極層2についても、上記と同様の要領でそれぞれ粒径の異なる空気極用の電極粉体を造粒し、各々を積層・成形して多層構造とすれば良い。」
「【図1】



b 甲1に記載された発明
上記aで摘示した事項を総合的に勘案し、特に、請求項1(電極が固体酸化物形燃料電池のものであること)、及び【0017】〜【0022】に記載された「空気極層2」用の「電極粉体」に着目すると、以下の甲1発明が記載されていると認められる。

<甲1発明>
蒸留水中に均一に分散した水酸化物Ce(OH)3 、Sm(OH)3 、Ni(OH)2の複合体をスプレードライ法を用いて加熱、分解、および乾燥させることにより、CeO2 、Sm2 O3 、NiOが均一に分散した微細で高活性な真球状の複合粒子粉体である燃料極層用の電極粉体を得る方法と同様の要領で得た固体酸化物形燃料電池の空気極用の電極粉体。

(イ)甲2の記載及び甲2に記載された発明
a 甲2の記載
甲2には、「固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末及びその製造方法」(発明の名称)について、以下の記載がある。

「【請求項1】
ペロブスカイト構造を有し、一般式(I)
A1-xCaxMnO3 (I)
(ただし、AはLa及びSrからなる群から選択される1種類以上の元素であり、0<x≦0.6である。)
を有する固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末において、当該粉末はさらにCr2O3を含有し、当該Cr2O3含有量が140ppm以上、15000ppm以下であることを特徴とする固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末。
【請求項2】
請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末を焼成してなる、その相対密度が80%以上で97%以下であり、理論密度に換算した800℃での導電率が400S/cm以上であることを特徴とするその焼結体。
【請求項3】
請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法であって、固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末を構成する金属元素含有する原料化合物を準備し、これを有機酸または無機酸の溶液に加えて、当該原料化合物と当該有機酸または無幾酸とを反応させ、中間生成物である複合有機酸塩または複合無機酸塩を製造し、当該中間生成物を乾燥し、焼成することにより得られた固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末にCr2O3粉末を混合した後、熱処理することを特徴とする固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。」(当審注:【請求項3】の「金属元素含有する」は、「金属元素を含有する」の誤記と認められる。)
「【0025】
(原料粉末の混合)
上記の原料粉末をA元素とCa元素とMn元素とが一般式(I)で表される目的の組成になるように秤量する。
次に、秤量した各原料粉末を均一に混合する。混合は、乾式混合によってもよいが比較的短時間で均質な原料粉末が得られることから湿式混合法により混合を実施することが好ましい。この混合時に併せて同時に粉砕処理を行ってもよい。
・・・
【0028】
(有機酸、無機酸の使用)
本発明における湿式混合法においては、分散媒中に原料中のA元素、Ca元素またはMn元素を含有する原料化合物と錯体を形成する有機酸を加えることが好ましい。有機酸が金属元素と錯体を形成することにより、A元素、Ca元素及びMn元素がより一層均質に混合できるという有利な効果があるからである。上記の有機酸としてはクエン酸、リンゴ酸、ギ酸、酢酸及びシュウ酸からなる群より選択される1種以上の酸が挙げられる。特に、クエン酸、リンゴ酸またはシュウ酸は原料の分散性が良好であるので好ましい。
【0029】
原料化合物の分散媒に有機酸に代えて無機酸を使用することもできる。無機酸を使用すると、無機酸が原料粉末を溶解することにより元素レベルでの均質な混合が可能となる。なお、無機酸を用いる場合には、系は均一液相系の操作になるので、反応終了後、アンモニアなどの弱塩基で溶液を中和した後、シュウ酸、クエン酸などの酸を沈殿剤としてその溶液に添加し、原料混合粉末を沈殿させることが好ましい。上記の無機酸としては塩酸、硝酸、硫酸、リン酸及びフッ化水素酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸が挙げられる。特に、硝酸、塩酸及びフッ化水素酸は原料粉末を溶解するのに十分な酸性度を有しているので好ましい。
【0030】
(中間生成物)
以上のごとく、湿式混合法によると、比較的短時間で均質な原料粉末を得られることから、乾式による混合よりも好ましい。そして、上述した有機酸を使用した場合には、原料混合粉末を構成する金属元素の複合有機酸塩が、中間生成物として得られる。また、無機酸を使用した場合には、原料混合粉末を構成する金属元素の複合無機酸塩が、中間生成物として得られる。
【0031】
(乾燥、焼成)
湿式法による混合後には、分散媒を除去するために、乾燥処理を行う。この乾燥処理は、箱型(棚段)乾燥機、バンド乾燥機、またはスプレードライヤーなどを用いて行うことができる。
【0032】
次に、乾燥させた中間生成物を焼成容器に移し、焼成炉にて焼成する。焼成は基本的には粗焼成、仮焼成、本焼成の焼成条件(温度や時間)の異なる3工程からなるのが好ましいが、粗焼成と本焼成の2工程でも良く、仮焼成と本焼成の2工程でも良く、また本焼成のみからなる工程でも良い。焼成容器の材質は特に限定されず、例えばアルミナ、ムライト、コージュライトなどが挙げられる。
【0033】
焼成炉は、熱源として、電気式またはガス式のシャトルキルンでも、場合によってはローラーハースキルンでもロータリーキルンでも良く、特に限定されない。
【0034】
(粗焼成)
粗焼成工程においては、焼成炉の温度を20〜800℃/時の昇温速度で目的の焼成温度(300〜500℃)まで上げる操作を行う。昇温速度が、20℃/時未満であると、目的の焼成温度まで達成するのに時間を要し、生産性が低下するので好ましくない。また、800℃/時を超えると、各温度での反応物質の化学変化が十分に進行しないので好ましくない。
・・・
【0038】
粗焼成を所定時間行った後、室温まで降温する。降温速度は、100〜800℃/時が好ましく、100〜400℃/時がより好ましい。降温速度が100℃/時未満であると生産性が落ちるので好ましくない。また、これが800℃/時を超えると用いる焼成容器が熱衝撃のために破損してしまう虞があるので好ましくない。
【0039】
次いで、粗焼成工程で得られた酸化物を解砕する。解砕にはカッターミル、ジェットミル、アトマイザーなどの粉砕機を用い、一般に乾式で行う。解砕後の体積平均粒径としては10〜50μmが好ましい。より好ましくは10〜20μmである。
【0040】
(仮焼成)
引き続き、解砕した粗焼成粉を仮焼成温度(500〜800℃)で仮焼成する。
仮焼成工程においては、焼成炉の温度を100〜800℃/時、好ましくは100〜400℃/時の昇温速度で目的の焼成温度まで上げる。昇温速度が100℃/時未満であると、目的の焼成温度まで達成するのに時間を要し、生産性が低下するので好ましくない。また、昇温速度が800℃/時を超えると、各温度での反応物質の化学変化が十分に進行しない可能性があるので好ましくない。
・・・
【0044】
次いで、仮焼成で得られた酸化物を粗焼成の後に行ったのと同様に解砕する。解砕にはカッターミル、ジェットミル、アトマイザーなどの粉砕機を用い、一般に乾式で行う。解砕後の体積平均粒径としては10〜40μmが好ましい。より好ましくは10〜20μmである。
【0045】
(本焼成)
さらに、この仮焼成粉を本焼成温度(800〜1400℃)で本焼成する。
本焼成工程においては、焼成炉の温度を50〜800℃/時、好ましくは100〜400℃/時の昇温速度で目的の焼成温度まで上げる。昇温速度が50℃/時未満であると、目的の焼成温度まで達成するのに時間を要し、生産性が低下するので好ましくない。また、昇温速度が800℃/時を超えると、各温度での反応物質の化学変化が十分に進行せずに、反応物質が不均一な状態で目的の焼成温度に到達するため、焼成物中に副生成物を生じる場合があるので好ましくない。
・・・
【0047】
・・・
本焼成を所定時間行った後、室温まで降温する。降温速度は、50〜800℃/時が好ましい。降温速度が50℃/時未満であると生産性が低下するので好ましくない。また、これが800℃/時を超えると目的とする物質が生成しないので好ましくない。
【0048】
次いで、本焼成で得られた酸化物を粗焼成や仮焼成の後に行ったのと同様に解砕する。解砕にはカッターミル、ジェットミル、アトマイザーなどの粉砕機を用い、一般に乾式で行う。解砕後の粉体の体積平均粒径は10〜50μmが好ましい。より好ましくは10〜20μmである。その後、必要に応じて粒度調整のために湿式で粉砕しても良い。
【0049】
(Cr2O3 添加)
次に、解砕または粉砕により得られたA1-xCaxMnO3からなる粉体に、本発明で規定する140から15000ppmのCr2O3粉末を混合する。Cr2O3粉末の混合量が140ppm未満であると成型体の機械的強度が小さく、成型体が脆弱となるので好ましくなく、15000ppmを超えると導電率の大きな低下をもたらすので好ましくない。
・・・
【0052】
一般式(I)A1-xCaxMnO3の粉末とCr2O3粉末との混合には、遊星ミル、ジェットミル、ボールミル、カッターミルなどの粉砕混合機を用い、乾式混合法により行うのが好ましい。この工程は、A1-xCaxMnO3粉末の粉砕も兼ねることもできる。
・・・
【0053】
(成型体、焼結体)
その後に、Cr2O3粒混合粉末の成型体を作成する。すなわち、Cr2O3と混合した、一般式(I)A1-xCaxMnO3の粉末をバインダーと混合し、一定の体積を有する金型に充填し、上から圧力をかけることにより、Cr2O3と混合した一般式(I)A1-xCaxMnO3の粉末の成型体を作成する。
圧力をかける方法は、機械的一軸プレス法、冷間等方圧(CIP)プレス法など、特に限定されない。
【0054】
次に、上述の成型体を熱処理し焼結体を得る。熱処理温度は、1100〜1450℃が好ましく、1200〜1400℃がより好ましい。熱処理温度が1100℃未満では成型体の機械的強度が不足し、また1450℃を超えると生成した一般式(I)A1-xCaxMnO3の成分が分解し、分解して生成した不純物の影響により、導電率が低下してしまうので好ましくない。熱処理時間は、2〜24時間が好ましく、2〜6時間がより好ましい。
【0055】
本発明に係るCr2O3を含有した一般式(I)A1-xCaxMnO3の焼結体の相対密度は80〜97%であることが好ましい。特に好ましくは、89〜96%である。相対密度が80%未満であるとその酸化物を成型して燃料電池の空気極として用いた場合に、強度が小さくなるので好ましくない。また、97%を超えると、空気極の導電率が低下するので好ましくない。
相対密度は、次式(1)を用いて計算することができる。
【0056】
【数1】


ここで、測定密度とは焼結体の重量と体積から求めた密度であり、理論密度とはペロブスカイト型の結晶構造より計算される結晶密度(6.00g/cm3)である。」

b 甲2に記載された発明
上記aで摘示した事項を総合的に勘案し、特に、請求項1、3、【0031】、【0048】、【0049】の記載から、「Cr2O3」を混合する前の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末に着目すると、以下の甲2発明が記載されていると認められる。

<甲2発明>
ペロブスカイト構造を有し、一般式(I)
A1-xCaxMnO3 (I)
(ただし、AはLa及びSrからなる群から選択される1種類以上の元素であり、0<x≦0.6である。)
を有する固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末であって、
当該固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末を構成する金属元素を含有する原料化合物を準備し、これを有機酸または無機酸の溶液に加えて、当該原料化合物と当該有機酸または無幾酸とを反応させ、中間生成物である複合有機酸塩または複合無機酸塩を製造し、当該中間生成物を箱型(棚段)乾燥機、バンド乾燥機、またはスプレードライヤーなどを用いて乾燥し、焼成して解砕し、解砕後の粉体の体積平均粒径は10〜50μmが好ましい固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末。

(ウ)甲3の記載
甲3には、「熱分析によるB−site混合系ペロブスカイト酸化物の合成プロセスの最適化」について、以下の記載がある。

「1.はじめに
現在,地球温暖化がより深刻化する中,CO2やNOxなど温室効果ガスを排出しないクリーンな発電方法への注目が集まっている。特に,日本では2011 年の東日本大震災による福島原子力発電所の事故により,新たな発電技術の確立は急務である。その中の一つとして,電解質に酸化物イオン伝導体を用いた酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell, SOFC)がある。」(第151頁左欄)
「 課題の一つとして,電極材料,特にカソード(空気極)材料の性能向上が望まれている。」(第151頁左欄第16〜17行)
「3.SOFC カソード材料の電気伝導性と焼結性
先ほど箇条書きしたように,SOFCカソード材料では,高い導電率だけでなく,高温下での多孔質維持も大事な因子となる。通常の場合,材料の焼結密度が高い方が,導電パスが増加するため,導電率が向上する。しかしながら,カソード材料の場合,気相の酸素を酸化物イオンとして固体内に取り込み,電解質へと輸送する働きが必要であり,比表面積を稼ぐために,ある程度の物理的空隙が必要となる。例えば,カソードの導電率を高くするために,材料の密度を高くすると,比表面積は減少し,酸素との反応場が減少することとなり,SOFCカソード性能としては下がってしまう可能性がある。本研究では,このトレード・オフの関係にあるカソード材料の電気伝導性と焼結性の関係について調査し,新たなSOFC カソード評価方法の確立を試みた。LaNi0.6Fe0.4O3-δ の焼結温度を変えて,様々な密度の焼結体を作製,これらの試料の焼結性の評価と導電率測定を行った。またLaNi0.6Fe0.4O3-δ は様々な液相法で作製されている。16,17) 本研究で採用したペチーニ法( Pechini method)21) と,先行研究で行われたグリシン硝酸塩法(Glycine-nitrade (GN) method),クエン酸ゲル化法(Gel-citrate(GC) complexation route),共沈法(Co-precipitation (CP)route),クエン酸ゲル燃焼法(Citric-gel (CG) combustion synthesis route),及び,尿素燃焼法(Urea combustion synthesis route)との比較も行い,作製方法による違いやどの作製方法が焼結性や電気導電性において優れたサンプルが作製できるのか評価も行った。
焼結性の評価方法として最もシンプルな方法は,アルキメデス法や乾式密度計などの密度測定である。しかし,焼結密度は細孔の形状や分散具合を測定できておらず,正確に焼結性を評価できていない(後述で詳しく解説する)。また,電子顕微鏡やプローブ顕微鏡などにより観察するという方法もあるが,これらの方法は観察した部分の局所的な情報しか得られないだけでなく,二次元の投影的形状しか観察できず,三次元的な形状は特殊な方法を使用しないと測定することができないという問題点がある。本研究ではSOFC電極材料の焼結性の評価方法として,密度測定の他にガス吸着法による比表面積測定を行い,どちらが電極材料の焼結性評価法として適切かについても評価した。」(第151頁右欄〜第152頁左欄)
「4.1 試料作製方法
本研究では,LaNi0.6Fe0.4O3-δ をペチーニ法にて作製を行い,原料はLa2O3を希硝酸に溶解した溶液とFe(NO3)3・9H2O,Ni(NO3)2・6H2Oの水溶液を用いた。13-15) これらを混合し,クエン酸およびエチレングリコールを加えて加熱した。溶媒を蒸発させた後,発火して得た前駆体を750 ℃で仮焼きした。この仮焼粉を静水圧プレスで200 MPa加圧し,直径と高さが各々5 mmと11-12 mmの円柱状に成型した。プレス成型後,900 ℃から1300 ℃まで100 ℃おきに焼結温度を変えた5種類の焼結体を作製した。」(第152頁左欄)
「4.2 キャラクタリゼーション
得られた焼結体を用いてSOFC カソード材料の物性評価を行った。試料を乳鉢で粉砕し,粉末化したもののX 線回折測定により,第2相の生成の有無を確認した。さらに,焼結体の重さとサイズから焼結密度及び気孔率を算出した。計算に必要なLaNi0.6Fe0.4O3-δ 理想密度は,式量とX線回折パターンにより求めたモル体積から7.020 g cm-3 と求められた。15) 焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡(SEM)により,焼結状態を観察した。得られたSEM 画像から平均粒径を求めた。また,比表面積をBET 吸着等温式解析(BELSORP-nimiII,日本ベル製)により求めた。吸着ガスはN2,測定温度は77.4 Kである。吸着平衡時間は300秒,N2分子1個当たりの吸着断面積は0.162nm2とした。導電率測定は直流4端子を用いて測定した。電極には白金ペースト及び白金線を用いた。これら測定から得られた結果から,LaNi0.6Fe0.4O3-δの焼結密度,気孔率,導電率の焼成温度依存性を評価し,作製方法による違い等を検討した。」(第152頁左欄〜同頁右欄)
「5.2 SEM 観察と密度測定による焼結性の評価
Fig.3 に焼結体の破断面のSEM画像の焼成温度依存性を示す。焼成温度が上がるにつれて,焼結が進行することで粒径が大きくなっており,細孔容積が減少していることが観察された。ペチーニ法で作製したLaNi0.6Fe0.4O3-δ は,細孔が均一に分布していることから,カソード材料として利用する際に要求される高い導電率と広い表面積を持った焼結体が作製できていることが期待される。」(第152頁右欄)


Fig.3 SEM image of fracture cross-section of LaNi0.6Fe0.4O3-δwith Pechini method sintered at (a) 900 ℃, (b) 1000 ℃, (c) 1100 ℃ and (d) 1200 ℃.」
(第153頁左欄)
「5.3 BET吸着等温式解析による比表面積の算出
比表面積の算出にはBET 法を用いて行った。22)BET 法とは,マクロポアと呼ばれる50nm 以上の細孔が存在する粉体や焼結体などの吸着媒に,吸着質となる不活性ガスをFig.6 のように物理吸着させ,吸着ガス1 個の占有面積と固体表面に直接吸着しているガス(単分子層)の全分子数を掛け算することで表面積を算出する方法である。吸着質として一般的には,窒素,アルゴン,クリプトンなどが使用される。・・・

Fig.6 Schematic of physical adsorption of inert gases to adsorbent.」(第153頁右欄)
「単分子層吸着量からLaNi0.6Fe0.4O3-δ の比表面積を求めた結果をFig.9 に示す。比較のため,他の方法で作製した焼結体の比表面積もプロットした。密度だけでなく,比表面積の結果からも焼結性の高い作製方法はペチーニ法と共沈法であることが分かる。特にペチーニ法で作製したサンプルは,焼成温度と比表面積の関係が線形であるため,焼成温度により比表面積の制御が容易であることが示唆された。」(第153〜154頁の「5.3 BET吸着等温式解析による非表面積の算出」の最後7行)
「5.4 電気伝導性と焼結性によるSOFC カソード材料評価
Fig.10 に様々な液相法で作製したLaNi0.6Fe0.4O3-δ の700 ℃,空気中での導電率と焼結温度との関係を示した。どの作製方法のサンプルでも焼結温度が増加するにしたがって密度が向上することで導電率が増加する傾向が確認され,特にペチーニ法と共沈法で作製したサンプルが高い導電率を示した。
Fig.11 にLaNi0.6Fe0.4O3-δ の比表面積と700 ℃空気中の導電率の関係を示した。SOFCのカソード材として有用な材料は,広い表面積を確保しながら,高い導電率を持つサンプルということになり,この図では右上の方向にプロットがあるほど優れたカソード材としてのポテンシャルを持っているということに相当する。グラフより,ペチーニ法で作製したLaNi0.6Fe0.4O3-δ 焼結体が高いSOFCカソード性能を持つことが確認された。」(第154頁左欄)


Fig.9 Sintering temperature dependence of specific surface area of LaNi0.6Fe0.4O3-δ with various solution mixing method.

Fig.10 Sintering temperature dependence of electrical conductivity at 700 ℃ in air of LaNi0.6Fe0.4O3-δ with various solution mixing method.

Fig.11 Relationship between specific surface area and electrical conductivity at 700 ℃ in air of LaNi0.6Fe0.4O3-δ prepared at various sintering temperatures with various solution mixing method.
Fig.12 にFig.5 とFig.10 から算出した気孔率と導電率の関係を示した。このグラフもFig.11 と同様に焼結性と導電率の関係をプロットしたグラフである。しかしながら,Fig.12 では作製方法による違いはほとんど見られなかった。気孔率は,空隙の量のみを示す値である。それに対し,比表面積は,細孔のサイズ分布も含めた状態を示す値である。よって,比表面積測定は密度測定よりもカソード材として要求される気相酸素と電極との反応面積を正確に測定できていることを示唆しており,比表面積と導電率の関係は,SOFCカソード特性評価として有用な方法であることが確認された。

Fig.12 Relationship between porosity and electrical conductivity at 700 ℃ in air of LaNi0.6Fe0.4O3-δ prepared at various sintering temperatures with various solution mixing method.」(第154頁右欄〜第155頁左欄)

(エ)甲4の記載
甲4には、「La1-xSrxMnO3の諸物性に対するSrの置換効果」について、以下の記載がある。

「1.はじめに
・・・本論文で採り上げたLa1-xSrxMnO3は、この燃料電池の空気極として一般的に使用されている材料である(2)。一般的に、燃料電池の電極には、多孔性に富んでいることと電子伝導性が良好であることが要求される。これは、空気極における酸素の還元反応が気相と電極と電解質の三相界面において進行する(3)と考えられており、この界面への酸素の供給のため、まず、すぐれたガス拡散性が望まれる。また、発電反応に使用される酸素イオンの生成のためには、外部からの電子の供給が必要であり、このため電子伝導性が高いことも要求される。電子伝導性は電極の緻密性が高い程向上するが、緻密性が高いとガスの拡散性が低下するため、このような特性を勘案した上での多孔度の選定が必要である。なお、SOFCで発電を行った際の出力電圧はセルの抵抗によって影響されるが、空気極に由来するものとしては、電極材料そのものの抵抗と電極反応による抵抗の2つがあり、これらは、焼結体の内部構造や電解質近傍での三相界面の微細な構造にも依存している。従って、空気極としては多孔性、導電性とともに十分な長さの三相界面を有することも必要である。」(第308頁左欄〜同頁右欄)
「2.実験
<2・1>試料作製
試料として用いた空気極粉末は、炭酸塩を出発物質として共沈法で作製したLa1-xSrxMnO3(x=0〜0.5)である(セイミケミカル製)。各組成の粉末の平均粒径は1μmであり、これらはX線回折の測定によっていずれの組成ともペロブスカイト型の結晶構造であることを確認した。各種の物性測定に用いた試料は、ドクターブレード法でシート状に成形したものを積層・熱圧着し、所定の温度で焼結したものである。焼結時間は2時間であり、各物性灘定に必要とされる形状の試料は、未焼結のシート積層体を適宜目的とする大きさに切断し焼結することで得た。」(第309頁左欄)
「 なお、このような導電率にはSr置換量のほかに焼結体の相対密度の影響も考えられる。そこで、1050〜1500℃ の範囲内の温度で焼結した、種々の相対密度を有する焼結体について導電率を求めた。その結果、図4に示すように、導電率はいずれの試料とも相対密度の向上とともに増加した。しかし、x=0では相対密度が増加しても導電率の向上は少なく、相対密度に対する依存性はSr置換量xが増すほど大きくなった。なお、電極に適用可能と考えられる、相対密度; 70%での導電率を比較した結果、x≦0.2ではほぼ同一の値を示したのに対し、x≧0.3ではx=0の試料の2倍近い約120S/cm以上の導電率を示した。従って、x≧0.3の組成のものが、多孔質体においてもSrの置換による導電性の向上効果が大きいことが分かる。」(第309左欄〜310頁右欄の「<3・1>導電率」の最後13行)


図4 La1-xSrxMnO3焼結体の導電率と相対密度の関係
Fig. 4 Relationship between Conductivity and Relative Density of La1-xSrxMn03.」(第310頁右欄)

(オ)甲5の記載
甲5には、「セラミック焼結体の焼結密度の管理方法」(発明の名称)について、以下の記載がある。

「【請求項1】
焼成工程を経て作製されるセラミック焼結体の焼結密度の管理方法であって、
(a)開気孔を有する第1セラミックのみからなり、焼結密度が所定の範囲で異なる複数の第1セラミック焼結体を作製し、アルキメデス法によりそれぞれの焼結密度を測定する工程と、
(b)開気孔を有する第2セラミックと、該第2セラミックの内部に配設されたセラミック以外の材料からなる非セラミック部材とを含む第2セラミック焼結体であって、前記第2セラミックは、前記第1セラミックと組成が同じであり、かつ、焼結密度が所定の範囲で異なる前記第1セラミックのそれぞれと同じ焼結密度となるように、前記第1セラミック焼結体の場合と同じ条件で、焼結密度が所定の範囲で異なる複数の第2セラミック焼結体を作製し、BET法によりそれぞれの比表面積を測定する工程と、
(c)前記(a)の工程で測定した第1セラミック焼結体の焼結密度と、前記(b)の工程で測定した第2セラミック焼結体の比表面積の関係を表す関係線を作成する工程と、
(d)管理すべき所定の焼成条件下で実施される焼成工程を経て作製される、焼結密度を管理すべき対象である管理対象セラミック焼結体であって、前記第2セラミック焼結体を構成する前記第2セラミックと同じ組成のセラミックと、前記第2セラミック焼結体を構成する前記非セラミック部材と同じ材料からなる非セラミック部材とを、前記第2セラミック焼結体と同じ態様で備えた管理対象セラミック焼結体について、その比表面積をBET法により測定する工程と、
(e)前記(d)の工程で測定した、管理対象セラミック焼結体の比表面積の値を前記(c)の工程で作成した関係線に当てはめて、該比表面積の値に対応する前記第1セラミック焼結体の焼結密度の値を求め、該焼結密度の値が所定の範囲に保たれるように、前記管理対象セラミック焼結体の焼結密度に影響を与える条件を調整すること
を特徴とするセラミック焼結体の焼結密度の管理方法。」
「【0006】
このアルキメデス法は、セラミック焼結体の焼結密度を求めることが可能で、セラミック焼結体の焼結性を精度よく判定することができる方法であるが、セラミック焼結体が内部電極などの、セラミック以外の材料からなる部材を含有していると、セラミック自体の焼結密度を測定することができず、焼結性を計測、管理する方法として適用できないという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、セラミック焼結体がセラミック以外の材料からなる非セラミック部材を含むものである場合にも、セラミック焼結体の焼結密度を効率よく管理することが可能な焼結密度の管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者等は、上記課題を解決するため、種々の検討を行い、セラミック焼結体を構成するセラミックの焼結密度は、セラミックが開気孔を含むものである場合において、セラミックの比表面積と相関関係があることを知り、さらに実験、検討を行って本発明を完成した。」
「【0017】
本発明によりセラミックの焼結密度を求めることができるメカニズムは以下の通りである。すなわち、セラミック焼結体を構成するセラミックに存在する開気孔(オープンポア)は、同一組成のセラミックの場合、焼結密度と比例関係にある(焼結密度が高くなれば開気孔は少なくなる)。そして、セラミックに含まれる開気孔の割合と「セラミックの比表面積」には相関関係がある。
【0018】
そこで、非セラミック部材を含まないセラミックのみからなる、焼結密度を異ならせた複数の第1セラミック焼結体について、アルキメデス法によりそれぞれの焼結密度を測定し、非セラミック部材を含む第2セラミック焼結体についてはBET法により比表面積を測定し、第1セラミック焼結体の焼結密度と、比表面積の関係を表す関係線を作成するとともに、第2セラミック焼結体を構成する第2セラミックと同じ組成のセラミックと、第2セラミック焼結体を構成する非セラミック部材と同じ材料からなる非セラミック部材とを同様の態様で備えた管理対象セラミック焼結体の比表面積をBET法により測定して、求めた比表面積の値を上記の関係線に当てはめ、該比表面積の値に対応する第1セラミック焼結体の焼結密度の値を求める。そして、その値に基づいて、該焼結密度の値が所定の範囲に保持されるように、管理対象セラミック焼結体の焼結密度に影響を与える条件を調整することにより、セラミック以外の材料からなる非セラミック部材を含むセラミック焼結体を構成するセラミックの焼結性を効率よく管理することができる。その結果、適切な焼成を行って、所望の特性を備えたセラミック焼結体を効率よく作製することが可能になる。
なお、BET法により測定される比表面積(SSA)にはセラミック焼結体の表面積と開気孔の表面積が含まれている。このうちセラミック焼結体の表面積は、焼結密度が変化しても変わらないため、比表面積(SSA)の変化が開気孔の量の変化となる。したがって、セラミック以外の物質を含むセラミック焼結体であっても比表面積(SSA)から焼結密度に関する情報を得ることができるため、本発明のように焼結密度の管理を行うことが可能になる。
【0019】
すなわち、本発明においては、管理対象セラミック焼結体を構成するセラミックの焼結密度を直接に測定することはしないが、上述の関係線から、管理対象セラミック焼結体の比表面積の値に対応する第1セラミック焼結体の焼結密度の値を求め、この値が所定の範囲になるように管理することにより、間接的に管理対象セラミック焼結体を構成するセラミックの焼結密度を管理して、特性の安定したセラミック焼結体を効率よく作製することができる。」
「【図4】


「【図6】



イ 甲1に記載された発明を主引例とした場合(申立理由1−1)
(ア)請求項1を引用する本件発明6について
a 甲1発明との対比
(a)請求項1を引用する本件発明6(以下、「本件発明6−1」という。)と甲1発明とを対比すると、甲1の【0007】に記載されているように、空気極材料としては、金属は不適当であり、ペロブスカイト型酸化物材料が一般的に使用されていること、及び甲1発明において、「空気極用の電極粉体」は、「CeO2 、Sm2 O3 、NiO」という複数の酸化物が「均一に分散」した「複合粒子粉体」である「燃料極層用の電極粉体」を得る方法と同様の要領で得ていることを考慮すると、甲1発明の「空気極用の電極粉体」は複合酸化物であるといえるから、甲1発明の「固体酸化物形燃料電池の空気極用の電極粉体」は、本件発明6−1の「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」に相当する。

(b)また、甲1発明は、「燃料極層用の電極粉体」が「真球状の複合粒子粉体」であって、「空気極用の電極粉体」も同様の要領で得たものであるから、「空気極用の電極粉体」も「真球状の複合粒子粉体」である蓋然性が高い。

(c)しかし、甲1発明の「真球状の複合粒子粉体」が、実際に完全な真球、すなわち、寸分の狂いもない、完全な球体として得られたとは考えられないから、真円度及び円形度が1であるとはいえない。

(d)また、甲1発明における「真球状の複合粒子粉体」が、完全な球体に対してどのような形状の違いがあるのかは不明であるから、甲1発明の「空気極用の電極粉体」が、真円度が1.0以上1.5以下、円形度が1.0以上1.23以下の範囲内の値となっているかは不明である。

(e)そうすると、本件発明6−1と甲1発明とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点>
「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末。」

<相違点1>
本件発明6−1では、「一般式ABO3で表記される複合酸化物(但し、A元素は、La、Sr、Caから選択される一種以上の元素、B元素は、Mn、Co、Fe、Niから選択される一種以上の元素である。)」と特定しているのに対し、甲1発明では、成分組成が不明である点。

<相違点2>
本件発明6−1では、「真円度が1.0以上1.5以下」と特定しているのに対し、甲1発明では、「真球状」ではあるが、真円度が1.0以上1.5以下の範囲に含まれるかは不明である点。

<相違点3>
本件発明6−1では、「円形度が1.0以上1.23以下であり」と特定しているのに対し、甲1発明では、「真球状」ではあるが、円形度が1.0以上1.23以下の範囲に含まれるかは不明である点。

<相違点4>
本件発明6−1では、「BETの値が、0.5m2/g以下である」と特定しているのに対し、甲1発明では、BETの値が不明である点。

<相違点5>
本件発明6−1では、「当該粉末に含まれる粒子内部の充填率が80%以上ある」と特定しているのに対し、甲1発明では、「電極粉体」に含まれる粒子内部の充填率が不明である点。

b 相違点4についての検討
(a)事情に鑑み、相違点4から検討する。

(b)甲1発明の「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」は、「乾燥、プレス成形、焼成」(【0021】)する前の粉末であり、また、甲1には、BETの値については記載されていない。

(c)また、甲3には、空気極の材料であるLaNi0.6Fe0.4O3-δを直径と高さが各々5mmと11-12mmの円柱状に成型した焼結体(第152頁左欄の「4.1試料作製方法」参照。)のBET法を用いて算出した比表面積(第153頁右欄の「5.3 BET吸着等温式解析による比表面積の算出」参照。)について、焼結温度、導電率との関係がそれぞれFig.9、11に記載されているものの、甲1発明のように「粉末」におけるものではなく、甲2〜甲5には、「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」のBETの値について記載されていない。
そして、甲3のFig.9から理解できるように焼成温度と比表面積とは相関関係があるから、未焼成の「粉末」についての発明である甲1発明において、焼結体の発明である甲2〜甲5に記載された事項を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(d)よって、甲1〜甲5の記載からは、甲1発明において、相違点4に係る構成を備えるようにすることが当業者にとって容易であるとはいえない。

c 申立人の主張についての検討
(a)申立人は、特許異議申立書の第35頁第4〜18行にて、上記相違点4(特許異議申立書では「相違点2」)について、甲3に記載の技術事項2(特許異議申立書第29頁)並びに甲4に記載の技術事項3及び技術事項4(特許異議申立書第31頁)から、緻密性の向上に伴って比表面積が低下するに従い、空気極の導電率が増加することは、当業者にとって周知の事項であり、甲3に記載の技術事項1(特許異議申立書第29頁)から、空気極の焼結性を評価する手法として密度を直接測定する方法以外にも、BET法により比表面積を測定する方法も知られており、甲5に記載の技術事項5(特許異議申立書第33頁)から、セラミック焼結体の密度の増加に伴い比表面積が減少することが、当業者にとって周知の事項であったから、甲1発明において、高い導電率を実現するために比表面積の数値範囲を「0.5m2/g以下」に設定することは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない旨主張するので、当該主張について検討する。

(b)まず、申立人が主張する技術事項1〜5について検討する。技術事項1〜5については以下のとおりである。

[技術事項1]
焼結性を評価する手法として、アルキメデス法又は乾式密度計による密度測定や、電子顕微鏡又はプローブ顕微鏡などによる二次元の投影的形状の観察や、ガス吸着法による比表面積測定がある。

[技術事項2]
SOFCカソード材料(LaNi0.6Fe0.4O3-δ)は、高密度になるに従い、導電パスの増加に伴い導電率が向上する反面、比表面積の現象に伴い酸素との反応場が減少してSOFCカソード性能が低下し、導電率と比表面積とはトレード・オフの関係であり、0.5m2/g以下の比表面積の場合に約250S/cm以上の導電率となる。

[技術事項3]
燃料電池の空気極は、優れたガス放散性と高い電気伝導性が望まれるところ、電極の緻密性が高いほど、電気伝導性が向上する反面、ガス放散性が低下するというトレード・オフの関係がある。

[技術事項4]
La1-xSrxMnO3は、相対密度の向上とともに導電率が増加する

[技術事項5]
セラミックの焼結密度と、BET法により測定される比表面積との間に強い相関があり、焼結密度の増加に伴い比表面積が減少する。

(c)甲3の「3.SOFC カソード材料の電気伝導性と焼結性」から、焼結性を評価する方法として最もシンプルな方法がアルキメデス法や乾式密度計による密度測定であり、また、電子顕微鏡やプローブ顕微鏡などによる二次元の投影的形状の観察があること、さらに、密度測定の他にガス吸着法による比表面積測定があることが理解できるから、甲3には、技術事項1が記載されているといえる。

(d)また、甲3の「1.はじめに」、「3.SOFC カソード材料の電気伝導性と焼結性」、Fig.11から、SOFCカソード材料(LaNi0.6Fe0.4O3-δ)は、材料の焼結密度が高い方が、導電パスが増加するため、導電率が向上するが、比表面積は減少し、酸素との反応場が減少してSOFCカソード性能も低下するから、比表面積と導電率とはトレード・オフの関係であることが理解でき、さらに、甲3のFig.9から、LaNi0.6Fe0.4O3-δを1200℃以上で焼結すると、比表面積が0.5m2/g以下となり、Fig.11から、比表面積を0.5m2/g以下とすると、導電率は約250S/cm以上となることが見て取れるから、甲3には、技術事項2も記載されているといえる。

(e)さらに、甲4の「1.はじめに」からは、燃料電池の電極は、すぐれたガス拡散性と高い電子電導性が望まれ、電子電導性は電極の緻密性が高い程向上するが、緻密性が高いとガスの拡散性が低下するトレード・オフの関係にあることが理解できるから、甲4には、技術事項3が記載されているといえる。

(f)さらに、甲4の「<3・1>導電率」、図4から、La1-xSrxMnO3焼結体は、相対密度の向上とともに導電率が増加することが理解できるから、甲4には、技術事項4も記載されているといえる。

(g)また、甲5の【0017】から、セラミック焼結体を構成するセラミックに存在する開気孔は、同一組成のセラミックの場合、焼結密度と比例関係にあり、上記開気孔の割合と「セラミックの比表面積」には相関関係があることが理解でき、【0018】、【0019】、図4、6も考慮すると、セラミックの焼結密度と、BET法により測定される比表面積との間に相関があり、焼結密度の増加に伴い比表面積が減少することが理解できるから、甲5には、技術事項5が記載されているといえる。

(h)よって、申立人が主張するように、甲3〜甲5には、技術事項1〜5が記載されている。

(i)次に、甲1発明に甲3〜甲5に記載された技術事項1〜5を適用することについて検討する。

(j)甲1の【0007】には、電子伝導性が良ければ電極反応が活性化され、発電性能が向上することが記載されている。

(k)そして、技術事項2〜4から、焼結によって電極材料を緻密にして密度を高めることで導電率を上げることができ、技術事項1、5から、焼結密度を知るために、BET法による測定値を用いることができることが理解できる。

(l)しかし、甲1の【0017】〜【0022】を参照しても、甲1発明において、焼結して電極粉体を得ていることは記載されておらず、焼結(焼成)については、【0021】に記載されているように、電極を形成するために電極粉体に有機物結着剤を配合し、攪拌してペースト状として固体電解質の表面に塗布・積層した後に乾燥、プレス成形、焼成している構成が記載されているのみである。

(m)そうすると、甲1発明において、電子伝導性を良くするため、すなわち、導電率を高めるために、技術事項2〜4を適用して焼結条件を変更するとしても、得られるのはプレス成形後に焼結された空気極であって粉末ではなく、技術事項1、5を適用して得られるBETの値も、プレス成形後に焼結された空気極の値であって、粉末における値とはならない。

(n)なお、上記(l)のように、甲1には電極粉体を焼結して粉末を得ることは記載されておらず、電極粉体を焼結して粉末を得る動機付けとなる記載はないものの、仮に甲1発明の「空気極用の電極粉体」に対して焼結をして粉末を得ようとすると、技術常識から、焼結後に解粒(解砕)する必要があるといえる(本件明細書の【0021】、甲2の【0048】参照。)。

(o)そして、本件明細書の【0020】には、開放系で焼成すると球形形状を崩すことがないことが記載され、【0021】には、解粒の際に粒子の球形形状を損なわないように留意することが記載されていることから、焼結(焼成)、解粒(解砕)によって粒子の形状は変化し得るものであると認められる。

(p)また、甲1(請求項1、【0014】、【0021】)には、粒径の異なる複合粒子粉体を層状に積層した多層構造とし、固体電解質層から離れるに伴って気孔率を大きくすることで、十分な反応場の確保と同時にガスの透過性を保つことができるようにした固体酸化物形燃料電池の電極を形成する際に、スプレードライ法で粉体粒子を真球状とすることで、各層の気孔率が各々安定したものになることが記載されている。

(q)そうすると、甲1発明においては、焼結(焼成)、解粒(解砕)をした場合に得られる粉末においても各層の気孔率が各々安定するように真球状を維持している必要があるが、焼結(焼成)、解粒(解砕)によっても真球状が崩れないようにすることは、技術事項1〜5からは容易であるとはいえない。

(r)よって、申立人の主張は採用できない。

d 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6−1は、甲1に記載された発明と、甲2〜甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)請求項2〜5を引用する本件発明6について
a 請求項2〜5を引用する本件発明6(以下、それぞれ「本件発明6−2」〜「本件発明6−5」という。)も、本件発明6−1と同様に、「BETの値が、0.5m2/g以下である」構成を備えた「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」の発明である。

b そうすると、本件発明6−2〜本件発明6−5と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記相違点4で相違し、相違点4についての判断は上記(ア)bで示したとおりである。

c よって、本件発明6−2〜本件発明6−5は、相違点4に係る構成を備えている点で、仮に他の相違点があったとしても、当該他の相違点について検討するまでもなく、甲1に記載された発明と甲2〜甲5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 甲2に記載された発明を主引例とした場合(申立理由1−2)
(ア)本件発明6−1について
a 甲2発明との対比
(a)本件発明6−1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「A1-xCaxMnO3」「(ただし、AはLa及びSrからなる群から選択される1種類以上の元素であり、0<x≦0.6である。)」は、本件発明6−1の「一般式ABO3で表記される複合酸化物(但し、A元素は、La、Sr、Caから選択される一種以上の元素、B元素は、Mn、Co、Fe、Niから選択される一種以上の元素である。)」に相当する。

(b)また、甲2発明の「固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末」は、上記(a)から、複合酸化物といえるから、本件発明6−1の「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」に相当する。

(c)そうすると、本件発明6−1と甲2発明とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点>
「一般式ABO3で表記される複合酸化物(但し、A元素は、La、Sr、Caから選択される一種以上の元素、B元素は、Mn、Co、Fe、Niから選択される一種以上の元素である。)である燃料電池空気電極用複合酸化物粉末。」

<相違点6>
本件発明6−1では、「真円度が1.0以上1.5以下であり」と特定しているのに対し、甲2発明では、真円度が不明である点。

<相違点7>
本件発明6−1では、「円形度が1.0以上1.23以下であり」と特定しているのに対し、甲2発明では、円形度が不明である点。

<相違点8>
本件発明6−1では、「BETの値が、0.5m2/g以下である」と特定しているのに対し、甲2発明では、BETの値が不明である点。

<相違点9>
本件発明6−1では、「当該粉末に含まれる粒子内部の充填率が80%以上ある」と特定しているのに対し、甲1発明では、「電極粉体」に含まれる粒子内部の充填率は不明である点。

b 相違点7についての検討
(a)事情に鑑み、相違点7から検討する。

(b)甲2には、円形度についての記載はなく、粉末の形状についての記載もない。

(c)ここで、甲1(請求項1、【0014】、【0021】)には、粒径の異なる複合粒子粉体を層状に積層した多層構造とし、固体電解質層から離れるに伴って気孔率を大きくすることで、十分な反応場の確保と同時にガスの透過性を保つことができるようにした固体酸化物形燃料電池の電極を形成する際に、スプレードライ法で粉体粒子を真球状とすることで、各層の気孔率が各々安定したものになることが記載されている。

(d)しかし、甲2発明は、甲2(請求項1、【0049】、【0052】〜【0054】)に記載されているように、さらに、固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末に140から15000ppmのCr2O3粉末を混合し、金型に充填して成型して圧力をかけて成形体を作成し、熱処理して焼結体とするものであって、粒径の異なる層状に積層した多層構造として電極を形成するものではないから、乾燥方法としてスプレードライヤーが選択肢としてあるものの、固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末を真球状とする理由はなく、乾燥方法の中からスプレードライヤーを積極的に選択する動機付けがない。

(e)また、上記イ(ア)b(o)で示したように、焼結(焼成)、解粒(解砕)によって粒子の形状は変化し得るものであると認められるから、甲2発明において、仮に乾燥方法としてスプレードライヤーを選択し、真球状の乾燥した中間生成物が得られたとしても、その後の焼成、解砕によっても真球状が崩れないようにすることは、甲1の記載事項を考慮したとしても容易に想到し得ることとはいえないし、焼成、解砕によって得られた粉末の円形度が1.0以上1.23以下の値となっているのかは不明である。

(f)さらに、甲3〜甲5にも、固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の円形度についての記載はない。

(g)よって、甲1〜甲5の記載からは、甲2発明において、相違点7に係る構成を備えるようにすることが当業者にとって容易であるとはいえない。

c 申立人の主張についての検討
(a)ここで、申立人は、特許異議申立書の第42頁第13〜24行にて、上記相違点7に関する相違点(特許異議申立書では「相違点3’」。甲2発明では、「円形度が1.0以上1.5以下」であることが不明。)について、甲2発明の「A1-xCaxMnO3」は、一般式(I)で表される目的組成となるように秤量された原料粉末のスラリーを、箱型(棚段)乾燥機、バンド乾燥機、またはスプレードライヤーなどを用いて乾燥した後、焼成し、解砕して得られるところ、スプレードライ法は「造粒される粉体粒子は真球状となる」(甲1の【0021】)特性を有するから、スプレードライヤーを用いてスラリーの乾燥を行うことで、真球状の粉体粒子からなる「A1-xCaxMnO3粉末」を得ることは当業者にとって容易であり、この場合において、「真円度」(当審注:「円形度」の誤記と認められる)を計測すれば1に近い値となる蓋然性が高い旨主張するので、当該主張について検討する。

(b)甲2発明は、乾燥方法としてスプレードライヤーが選択肢としてあるものの、上記b(d)で示したように、甲2発明において固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末を真球状とする理由はなく、乾燥方法の中からスプレードライヤーを積極的に選択する動機付けがない。

(c)また、申立人も認めているとおり、甲2発明の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末は、乾燥後に焼成し、解砕して得られるものであるから、上記b(e)で示したとおり、甲2発明において、仮に乾燥方法としてスプレードライヤーを選択し、真球状の乾燥した中間生成物が得られたとしても、その後の焼成、解砕によっても真球状が崩れないようにすることは、甲1の記載事項を考慮したとしても容易に想到し得ることとはいえないし、焼成、解砕によって得られた粉末の円形度が1.0以上1.23以下の値となっているのかは不明である。

(d)よって、申立人の主張は採用できない。

d 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6−1は、甲2に記載された発明と、甲1及び甲3〜甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)本件発明6−2〜本件発明6−5について
a 本件発明6−2〜本件発明6−5も、本件発明6−1と同様に、「円形度が1.0以上1.23以下」である構成を備えた「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」の発明である。

b そうすると、本件発明6−2〜本件発明6−5と甲2発明とを対比すると、少なくとも上記相違点7で相違し、相違点7についての判断は上記(ア)bで示したとおりである。

c よって、本件発明6−2〜本件発明6−5は、相違点7係る構成を備えている点で、仮に他の相違点があったとしても、当該他の相違点について検討するまでもなく、甲2に記載された発明と甲1及び甲3〜甲5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)申立理由2(サポート要件)
ア 本件発明6が上記1の取消理由1によっては取り消せない理由について
(ア)上記1(14)で示したように、「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」の発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明により上記1(3)で示した「第1の課題」及び「第2の課題」の両者を同時に解決できると認識し得る範囲であるためには、一般式ABO3で表わされる複合酸化物(但し、A元素は、La、Sr、Caから選択される一種以上の元素、B元素は、Mn、Co、Fe、Niから選択される一種以上の元素である)であって、円形度が1.23以下であり、BETの値が0.5m2/g以下であり、当該粉末に含まれる粒子内部の充填率が80%以上である構成が必要であると認められる。

(イ)そして、本件発明6は、上記(ア)で示した構成を全て備えているから、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明により上記1(3)で示した「第1の課題」及び「第2の課題」の両者を同時に解決できると当業者が認識し得る範囲のものであり、上記1の取消理由1は該当しない。

イ 本件発明6が、令和2年11月30日付け取消理由通知における取消理由1によっては取り消せない理由について
(ア)令和2年11月30日付け取消理由通知における取消理由1では、粒子の形状として、立方体(断面は正方形)の粒子、及び、特許異議申立書の第56〜58頁に記載された対象図形1〜3(以下、それぞれ「申立図形1〜3」という。)の断面の粒子を想定してサポート要件を検討した。

(イ)上記(ア)の粒子のそれぞれについて、上記1(2)の【0022】の式により求めた真円度、円形度を以下(ウ)の表1に示す。なお、周囲長(L)を1とし、Sは面積、Rは最大フェレ径、rは四隅の円弧の半径、xは円弧の部分を除いた横方向の直線部分の長さ、yは円弧の部分を除いた縦方向の直線部分の長さを表し、小数点以下4桁以上の値は四捨五入して小数点以下3桁までを記載した。

(ウ)表1 粒子の真円度、円形度


(エ)上記(ウ)の表1の4つの断面形状の粒子について検討する。

(オ)本件発明6が記載を引用する請求項1、2、4、5のいずれにも、「円形度が1.0以上1.23以下」であることが記載されている。

(カ)そして、上記4つの断面形状の円形度は、1.23より大きいから、当該4つの断面形状の粒子からなる燃料電池空気電極用複合酸化物粉末は本件発明6には含まれていない。

(キ)また、円形度1.23以下の断面形状は、立方体の断面形状(円形度は約1.571)よりも円形度が1に近い値であるから、上記1(2)の【図1】の(C)、(D)に示された直方体よりも、「・・・当該粒子が細密充填の形を取って均一存在することとなる。そして・・・当該粒子間に均一に空孔が空き、酸素の流れが均一化すると供に、多数の3相界面が効率的に形成されて、発電効率が上がる・・・」という効果を奏するものであり、「第1の課題」を解決できると考えられる。

(ク)そして、本件発明6は、上記ア(ア)で示した構成を全て備えているから、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明により上記1(3)で示した「第1の課題」及び「第2の課題」の両者を同時に解決できると当業者が認識し得る範囲のものであるからサポート要件を満足し、令和2年11月30日付け取消理由通知における取消理由1は該当しない。

ウ 令和3年3月4日提出の意見書における申立人の主張について
(ア)申立人は、令和3年3月4日提出の意見書において以下の主張をしている。

a 本件発明の作用効果を奏し得ない円形度1.23以下の粒子形状
申立人は、円形度が1.23以下である正方形の四隅を円弧にした形状である申立図形4〜申立図形6を挙げ、「・・・当該粒子が細密充填の形を取って均一存在することとなる。そして・・・当該粒子間に均一に空孔が空き、酸素の流れが均一化すると供に、多数の3相界面が効率的に形成されて、発電効率が上がる・・・」との作用を奏しない球形以外の粒子をも含有しているから、本件発明6は、発明が解決しようとする課題を解決するものとして発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えており、サポート要件に違反している。

b 本件明細書の実施例はサポート要件違反解消の根拠になり得ないこと
(a)極めて少ない実験データについて
申立人は、本件明細書には、実施例1〜6および比較例1〜3の9種類の条件でしか実験が行われておらず、組成が互いに異なるものもあり、導電率を比較できるのは実施例1、2、4と比較例1の4種類しか存在しない。
このような限られた実験データから、本件発明の「・・・当該粒子が細密充填の形をとって均一存在することとなる。そして・・・当該粒子間に均一に空孔が空き酸素の流れが均一化すると伴に、多数の3相界面が効率的に形成されて、発電効率が上がる・・・」(【0015】)との作用効果が、「1.0以上1.23以下」の円形度の数値範囲全体に亘って奏されるとの結論を導くことができない。

(b)円形度と導電率との相関が認められないこと
実施例に示された実験結果から導き出せるのは、少なくとも、実施例1、2、4及び比較例1のように円形度が1.15〜1.23の数値範囲に含まれる粒子形状の場合、円形度が1に近づいたからといって導電率が向上するということはないが、充填率が高くなれば導電率が高くなる傾向が認められるという事実である。
そうすると、「・・・当該粒子が細密充填の形をとって均一存在することとなる。そして・・・当該粒子間に均一に空孔が空き酸素の流れが均一化すると伴に、多数の3相界面が効率的に形成されて、発電効率が上がる・・・」(【0015】)との作用効果が成立する円形度の数値範囲が、円形度1.15以上の領域には存在し得ない。

(c)実施例2の異様な導電率の低さ
仮に、【0015】記載の本発明の作用が、訂正後の請求項1、2、4及び5で特定される「1.0以上1.23以下」の円形度の数値全体に亘って奏されると考えるならば、実施例1〜6の中でも円形度が2番目に小さい実施例2については、他の実施例に比べて相対的に高い導電率になっているはずである。
ところが、実施例2の導電率は他の実施例1、3〜6の導電率と比べて有意に小さく、本件明細書【0015】を前提にすれば実施例2の異様な導電率の低さは説明がつかない。
また、本件明細書において、実施例2を「比較例」ではなく「実施例」として説明しているのは、特許権者による恣意的な評価であると言わざるを得ない。

(d)小括
上記(a)〜(c)から、特許権者の恣意的な評価基準における「高い」導電率(47.6[S/cm]以上)が実現された実施例1〜6において円形度を算出したところ、たまたま円形度が1.23以下であったという事実のみをもって、円形度が1.23以下であれば、本件明細書【0015】で述べた作用を享受することを裏付けたことにはならない。

c 円形度の算出方法の曖昧さ
本件明細書では、真円度及び円形度の定義について、「尚、SEM画像には倍率1000倍のものを用い、50個程度の粒子を選択して、L、S、Rの値の平均値を求め、さらに、真円度および円形度の値を求めれば良い。」(【0022】)と説明されている。
しかしながら、50個程度の粒子をどのような基準で選択するのか不明であり、選択する粒子によって円形度の算出値が変わることは容易に想像できる。即ち、特許権者の恣意的な評価基準における「高い」導電率が実現された実施例1〜6について算出された円形度の数値全体が、「燃料電池空気電極用複合酸化物粉末」を特定するために一義的に定まる値ではない。

(イ)主張についての検討
a 上記(ア)aについて
円形度1.23は、特許異議申立書(第56〜58頁)で示した図形1〜3の円形度よりも1に近い値であり、また、立方体の断面図(円形度は約1.571)よりも円形度が1に近い値であるから、上記図形1〜3や、上記1(2)の【図1】の(C)、(D)に示された直方体よりも、「・・・当該粒子が細密充填の形を取って均一存在することとなる。そして・・・当該粒子間に均一に空孔が空き、酸素の流れが均一化すると供に、多数の3相界面が効率的に形成されて、発電効率が上がる・・・」という効果を奏するものであるといえる。
そして、上記1(6)で示したように、本件明細書等の記載によれば、円形度が1.12〜1.23であれば「第1の課題」を解決できると考えられるから、上記図形1〜3や、上記1(2)の【図1】の(C)、(D)に示された直方体よりも、上記効果を奏する図形4〜6が本件発明6に含まれるからといって、「第1の課題」を解決できないとはいえない。
よって、本件発明6が「第1の課題」を解決できない結果、「第1の課題」及び「第2の課題」の両者を同時に解決するという本件発明が解決しようとする課題を解決できないという上記(ア)aの主張は採用できない。

b 上記(ア)bについて
(a)上記(ア)b(a)について
【0015】の作用効果(「第1の課題」に対する作用効果)については、【表2】において示されているものではなく、上記1(5)にて示したように、真円度または円形度の式によって求まる値を1に近づけることにより奏するものであることが理解できるから、実験データが少ないとしても、上記作用効果は、「1.0以上1.23以下」の円形度の数値範囲全体に亘って奏される効果であるといえる。

(b)上記(ア)b(b)について
本件発明6は、導電率との相関が認められる粒子内部の充填率について80%以上あることが特定されている。
また、【0015】の作用効果が成立する円形度の数値範囲について、円形度1.15以上かつ1.23以下の領域にも存在することは、上記1(4)〜(9)で示したとおりであるから、本件発明6が「第1の課題」を解決できないとはいえない。

(c)上記(ア)b(c)について
【0009】、【0016】、【0039】、【表1】、【表2】から、高い導電率は、主に組成と粉末に含まれる粒子内部の充填率と関係しているといえるから、実施例2が低い導電率を示すことの説明がつかないとはいえないし、実施例2は比較例1よりも高い導電率を有しているから、「第2の課題」を解決している構成であると認められる。

(d)上記(ア)b(d)について
上記(c)で示したように、実施例2は比較例1よりも高い導電率を有しており、実施例2の47.6[S/cm]が評価基準として適切でないとする理由はないし、上記(b)で示したように、本件発明6は導電率との相関が認められる粒子内部の充填率について80%以上であることが特定されているから、本件発明6が実施例2を含んでいるとしても、本件発明6は「第2の課題」を解決しているといえる。
また、上記(a)で示したように、【0015】の作用効果については、【表2】において示されているものではなく、円形度の式によって求まる値を1に近づけることにより奏するものであり、上記(b)で示したように、円形度が1.23以下であれば、当該作用効果を奏することが理解でき、本券発明6は「第1の課題」を解決しているといえる。
よって、上記(a)〜(c)から、本件発明6が「第1の課題」または「第2の課題」を解決できない結果、「第1の課題」及び「第2の課題」の両者を同時に解決するという本件発明が解決しようとする課題を解決できないという上記(ア)b(d)の主張は採用できない。

c 上記(ア)cについて
円形度の算出方法が曖昧であることは、特許異議申立書に申立理由として記載されていないから、実質的に新たな理由を提示するものである。
そして、本件訂正請求によって円形度を「1.0以上1.23以下」と訂正したことに付随して生じる理由である場合とはいえないし、適切な取消理由を構成することが一見して明らかな場合であるともいえないから、上記(ア)cの主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1〜5、7、8に係る特許は、請求項1〜5、7、8の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
また、本件特許の請求項6に係る特許は、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件特許の請求項6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABO3で表記される複合酸化物(但し、A元素は、La、Sr、Caから選択される一種以上の元素、B元素は、Mn、Co、Fe、Niから選択される一種以上の元素である。)であって、
真円度が1.0以上1.5以下であり、
円形度が1.0以上1.23以下であり、
BETの値が、0.5m2/g以下であることを特徴とする燃料電池空気電極用複合酸化物粉末。
【請求項2】
一般式ABO3で表記される複合酸化物(但し、A元素は、La、Sr、Caから選択される一種以上の元素、B元素は、Mn、Co、Fe、Niから選択される一種以上の元素である。)であって、
円形度が1.0以上1.23以下であり、
BETの値が、0.5m2/g以下であることを特徴とする燃料電池空気電極用複合酸化物粉末。
【請求項3】
累積粒径D50が20μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池空気電極用複合酸化物粉末。
【請求項4】
一般式ABO3で表記される複合酸化物(但し、A元素は、La、Sr、Caから選択される一種以上の元素、B元素は、Mn、Co、Feから選択される一種以上の元素である。)であって、
真円度が1.0以上1.5以下、且つ、円形度が1.0以上1.23以下、且つ、累積粒径D50が20μm以上30μm以下であり、
BETの値が、0.5m2/g以下であることを特徴とする燃料電池空気電極用複合酸化物粉末。
【請求項5】
一般式ABO3で表記される複合酸化物(但し、A元素は、La、Sr、Caから選択される一種以上の元素、B元素は、Mn、Co、Feから選択される一種以上の元素である。)であって、
円形度が1.0以上1.23以下、且つ、累積粒径D50が20μm以上30μm以下であり、
BETの値が、0.5m2/g以下であることを特徴とする燃料電池空気電極用複合酸化物粉末。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の燃料電池空気電極用複合酸化物粉末であって、
当該粉末に含まれる粒子内部の充填率が80%以上あることを特徴とする燃料電池空気電極用複合酸化物粉末。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の燃料電池空気電極用複合酸化物粉末を含むことを特徴とする燃料電池空気電極。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の燃料電池空気電極用複合酸化物粉末を含むことを特徴とする燃料電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2021-09-27 
出願番号 P2015-068081
審決分類 P 1 651・ 121- ZDA (H01M)
P 1 651・ 537- ZDA (H01M)
最終処分 08   一部取消
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 増山 慎也
土屋 知久
登録日 2020-02-21 
登録番号 6664881
権利者 DOWAエレクトロニクス株式会社
発明の名称 燃料電池空気電極用複合酸化物粉末とその製造方法、燃料電池空気電極並びに燃料電池  
代理人 奥山 知洋  
代理人 阿仁屋 節雄  
代理人 奥山 知洋  
代理人 阿仁屋 節雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ