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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 G01N 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G01N 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G01N 審判 全部申し立て 2項進歩性 G01N |
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管理番号 | 1381650 |
総通号数 | 2 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-02-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-10-09 |
確定日 | 2021-11-08 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6690699号発明「金属化合物粒子の抽出方法、その金属化合物粒子の分析方法、およびそれらに用いられる電解液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6690699号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−11〕、〔12−21〕について訂正することを認める。 特許第6690699号の請求項1、7、9ないし12、18、20、21に係る特許を維持する。 特許第6690699号の請求項2ないし6、8、13ないし17、19に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6690699号の請求項1〜21に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)2月17日(優先権主張 平成28年2月18日)を国際出願日とする出願であって、令和2年4月13日にその特許権の設定登録がされ、同月28日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和2年10月 9日 :特許異議申立人井上潤(以下「申立人」という。)による請求項1〜21に係る特許に対する特許異議の申立て 同年12月14日付け:取消理由通知書 令和3年 2月16日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年 4月 5日 :申立人による意見書の提出 同月28日付け:取消理由通知書(決定の予告) 同年 7月12日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年 9月22日 :申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和3年7月12日に提出された訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。なお、令和3年2月16日に提出された訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたとみなす。)による請求の趣旨は、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである。 (1)一群の請求項1〜11に係る訂正について ア 訂正事項1について 特許請求の範囲の請求項1に 「金属材料を電解液中でエッチングし、金属材料中の金属化合物粒子を抽出する方法において、 金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、 前記金属材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると、 下記式で定義されるΔが10以上となる金属M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなる電解液を用いること、および、 前記薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が10以上であることを特徴とする、金属化合物粒子の抽出方法。 Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy]) ここで、MとM’は異なる金属元素であり、AはMまたはM’と化合物を形成する単原子または原子団であり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表し、前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である。」と記載されているところを 「鉄鋼材料を電解液中でエッチングし、鉄鋼材料中の金属化合物粒子を抽出する方法において、 金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、 前記鉄鋼材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると、 下記式で定義されるΔが10以上となる金属M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなる電解液を用いること、 前記薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり、 前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなること、および、 前記電解液の溶媒はメタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれかであることを特徴とする、金属化合物粒子の抽出方法。 Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy]) ここで、MとM’は異なる金属元素であり、MはMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、AはSであり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表し、前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である。」に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7、9〜11も同様に訂正する。) なお、下線は訂正に係る部分である(以下同様)。 イ 訂正事項2について 特許請求の範囲の請求項2〜6及び8を削除する。 ウ 訂正事項3について 特許請求の範囲の請求項7の「請求項6に記載」を「請求項1に記載」に訂正する。 エ 訂正事項4について 特許請求の範囲の請求項9の「請求項1〜8のいずれか1項に記載」を「請求項1、7のいずれか1項に記載」に訂正する。 オ 訂正事項5について 特許請求の範囲の請求項10の「請求項1〜9のいずれか1項に記載」を「請求項1、7、9のいずれか1項に記載」に訂正する。 カ 訂正事項6について 特許請求の範囲の請求項11の「請求項1〜10のいずれか1項に記載」を「請求項1、7、9〜10のいずれか1項に記載」に訂正する。 キ 一群の請求項について 訂正前の請求項2〜11は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項1〜11は一群の請求項である。そして、上記訂正事項1〜6はいずれも、その一群の請求項においてなされたものであるから、特許法第120条の5第4項で規定する当該一群の請求項ごとに請求されているものである。 (2)一群の請求項12〜21に係る訂正について ア 訂正事項7について 特許請求の範囲の請求項12に 「金属材料をエッチングし、金属材料中の金属化合物粒子を抽出する際に用いる電解液であって、 金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、 前記金属材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると、 下記式で定義されるΔが10以上となる金属M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなること、および、 前記薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が10以上であることを特徴とする、電解液。 Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy]) ここで、MとM’は異なる金属元素であり、AはMまたはM’と化合物を形成する単原子または原子団であり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表し、前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である」と記載されているところを、 「鉄鋼材料をエッチングし、鉄鋼材料中の金属化合物粒子を抽出する際に用いる電解液で あって、 金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、 前記鉄鋼材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると、 下記式で定義されるΔが10以上となる金属M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなること、 前記薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり、 前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなること、および、 メタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれかを溶媒とすることを特徴とする、電解液。 Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy]) ここで、MとM’は異なる金属元素であり、MはMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、AはSであり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表し、前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である」に訂正する。 イ 訂正事項8について 特許請求の範囲の請求項13〜17及び19を削除する。 ウ 訂正事項9について 特許請求の範囲の請求項18の「請求項17に記載」を「請求項12に記載」に訂正する。 エ 訂正事項10について 特許請求の範囲の請求項20の「請求項12〜19のいずれか1項に記載」を「請求項12、18のいずれか1項に記載」に訂正する。 オ 訂正事項11について 特許請求の範囲の請求項21の「請求項12〜20のいずれか1項に記載」を「請求項12、18、20のいずれか1項に記載」に訂正する。 コ 一群の請求項について 訂正前の請求項13〜21は請求項12を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項12〜21は一群の請求項である。そして、上記訂正事項7〜11はいずれも、その一群の請求項においてなされたものであるから、特許法第120条の5第4項で規定する当該一群の請求項ごとに請求されているものである。 (3)明細書の訂正について ア 訂正事項12について 本件明細書の【0020】において、 「本願発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。 (1)金属材料を電解液中でエッチングし、金属材料中の金属化合物粒子を抽出する方法において、 金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、 前記金属材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると、 下記式で定義されるΔが10以上となる金属M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなる電解液を用いること、および、 前記薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が10以上であることを特徴とする、金属化合物粒子の抽出方法。 Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy]) ここで、MとM’は異なる金属元素であり、AはMまたはM’と化合物を形成する単原子または原子団であり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表し、前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である。」と記載されているところを 「本願発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。 (1)鉄鋼材料を電解液中でエッチングし、鉄鋼材料中の金属化合物粒子を抽出する方法において、 金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、 前記鉄鋼材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると、 下記式で定義されるΔが10以上となる金属M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなる電解液を用いること、 前記薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり、 前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなること、および、 前記電解液の溶媒はメタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれかであることを特徴とする、金属化合物粒子の抽出方法。 Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy]) ここで、MとM’は異なる金属元素であり、MはMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、AはSであり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表し、前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である。」に訂正する。 イ 訂正事項13について 本件明細書の【0021】において、 「(2)電解液が非水溶媒系電解液であることを特徴とする上記(1)に記載の金属化合物粒子の抽出方法。」を「(2)(削除)」に訂正する。 ウ 訂正事項14について 本件明細書の【0022】において、 「(3)前記抽出対象金属化合物MxAyがMnSまたはFeSの1種または2種であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の金属化合物粒子の抽出方法。」を「(3)(削除)」に訂正する。 エ 訂正事項15について 本件明細書の【0023】において、 「(4)前記金属化合物M’x’Ay’の金属M’が、Hg、Ag、Cu、Pb、Cd、Co、Zn、およびNiの少なくとも一つであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属化合物粒子の抽出方法。」を「(4)(削除)」に訂正する。 オ 訂正事項16について 本件明細書の【0024】において、 「(5)前記薬剤が、クラウンエーテルを含んでなることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の金属化合物粒子の抽出方法。」を「(5)(削除)」に訂正する。 カ 訂正事項17について 本件明細書の【0025】において、 「(6)前記薬剤が、ポリエチレンアミン類、エチレンジアミン4酢酸、シクロヘキサンジアミン4酢酸のうちのいずれか1種または2種以上を含んでなることを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の金属化合物粒子の抽出方法。」を「(6)(削除)」に訂正する。 キ 訂正事項18について 本件明細書の【0026】において、 「(7)前記薬剤がトリエチレンテトラミンを含んでなることを特徴とする、上記(6)に記載の金属化合物粒子の抽出方法。」を「(7)前記薬剤がトリエチレンテトラミンを含んでなることを特徴とする、上記(1)に記載の金属化合物粒子の抽出方法。」に訂正する。 ク 訂正事項19について 本件明細書の【0027】において、 「(8)前記金属材料が鉄鋼材料であることを特徴とする、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の金属化合物粒子の抽出方法。」を「(8)(削除)」に訂正する。 ケ 訂正事項20について 本件明細書の【0028】において、 「(9)前記エッチング後の電解液をフィルターに通し、捕集した残渣として金属化合物粒子を抽出する際に、前記フィルターが4フッ化エチレン樹脂製フィルターであることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載の金属化合物粒子の抽出方法。」を 「(9)前記エッチング後の電解液をフィルターに通し、捕集した残渣として金属化合物粒子を抽出する際に、前記フィルターが4フッ化エチレン樹脂製フィルターであることを特徴とする上記(1)、(7)のいずれかに記載の金属化合物粒子の抽出方法。 (10)前記薬剤はアセチルアセトンを含まない、ことを特徴とする請求項(1)、(7)、(9)のいずれかに記載の金属化合物粒子の抽出方法。」に訂正する。 コ 訂正事項21について 本件明細書の【0029】において、 「(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の金属化合物粒子の抽出方法で抽出した金属化合物粒子を分析することを特徴とする金属化合物粒子の分析方法。」を「(11)上記(1)、(7)、(9)〜(10)のいずれかに記載の金属化合物粒子の抽出方法で抽出した金属化合物粒子を分析することを特徴とする金属化合物粒子の分析方法。」に訂正する。 サ 訂正事項22について 本件明細書の【0030】において、 「(11)金属材料をエッチングし、金属材料中の金属化合物粒子を抽出する際に用いる電解液であって、 金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、 前記金属材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると、 下記式で定義されるΔが10以上となる金属M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなること、および、 前記薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が10以上であることを特徴とする、電解液。 Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy]) ここで、MとM’は異なる金属元素であり、AはMまたはM’と化合物を形成する単原子または原子団であり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表し、前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である」と記載されているところを、 「(12)鉄鋼材料をエッチングし、鉄鋼材料中の金属化合物粒子を抽出する際に用いる電解液であって、 金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、 前記鉄鋼材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると、 下記式で定義されるΔが10以上となる金属M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなること、 前記薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり、 前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなること、および、 メタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれかを溶媒とすることを特徴とする、電解液。 Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy]) ここで、MとM’は異なる金属元素であり、MはMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、AはSであり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表し、前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である」に訂正する。 シ 訂正事項23について 本件明細書の【0031】において、 「(12)非水溶媒系であることを特徴とする上記(11)に記載の電解液。」を「(13)(削除)」に訂正する。 ス 訂正事項24について 本件明細書の【0032】において、 「(13)前記抽出対象金属化合物MxAyがMnSまたはFeSの1種または2種であることを特徴とする、上記(11)または(12)に記載の電解液。」を「(14)(削除)」に訂正する。 セ 訂正事項25について 本件明細書の【0033】において、 「(14)前記金属化合物M’x’Ay’の金属M’が、Hg、Ag、Cu、Pb、Cd、Co、Zn、およびNiの少なくとも一つであることを特徴とする、上記(11)〜(13)のいずれかに記載の電解液。」を「(15)(削除)」に訂正する。 ソ 訂正事項26について 本件明細書の【0034】において、 「(15)前記薬剤が、クラウンエーテルを含んでなることを特徴とする、上記(11)〜(14)のいずれかに記載の電解液。」を「(16)(削除)」に訂正する。 タ 訂正事項27について 本件明細書の【0035】において、 「(16)前記薬剤が、ポリエチレンアミン類、エチレンジアミン4酢酸、シクロヘキサンジアミン4酢酸のうちのいずれか1種または2種以上を含んでなることを特徴とする、上記(11)〜(15)のいずれかに記載の電解液。」を「(17)(削除)」に訂正する。 チ 訂正事項28について 本件明細書の【0036】において、 「(17)前記薬剤がトリエチレンテトラミンを含んでなることを特徴とする、上記(16)に記載の電解液。」を「(18)前記薬剤がトリエチレンテトラミンを含んでなることを特徴とする、上記(12)に記載の電解液。」に訂正する。 ツ 訂正事項29について 本件明細書の【0037】において、 「(18)前記金属材料が鉄鋼材料であることを特徴とする、上記(11)〜(17)のいずれか1項に記載の電解液。 (19)前記非水溶媒は、メタノール、エタノールの少なくとも一つを含んでなることを特徴とする(11)〜(18)のいずれか1項に記載の電解液。」を 「(19)(削除) (20)前記非水溶媒は、メタノール、エタノールの少なくとも一つを含んでなることを特徴とする(12)、(18)のいずれか1項に記載の電解液。 (21)前記薬剤はアセチルアセトンを含まない、ことを特徴とする請求項(12)、(18)、(20)のいずれかに記載の電解液。」に訂正する。 テ 訂正事項30について 本件明細書の【0043】及び【0048】において、「電解溶液」を「電解液」に訂正する。 ト 一群の請求項との関係 訂正事項12〜21及び30は、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項1〜11の全てについて行うものであり、訂正事項22〜29及び30は、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項12〜21の全てについて行うものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)一群の請求項1〜11に係る訂正について ア 目的の適否 (ア)訂正事項1について a 訂正事項1の「金属材料」を「鉄鋼材料」に訂正すること(以下「訂正事項1−1」という。)は、「金属」を「鉄鋼」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 b 訂正事項1の「安定度定数(Log10Kd)が10以上」を「安定度定数(Log10Kd)が14以上」に訂正すること(以下「訂正事項1−2」という。)は、「10以上」を「14以上」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 c 訂正事項1の「薬剤」を「前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなること」に限定すること(以下「訂正事項1−3」という。)は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 d 訂正事項1の「および、前記電解液の溶媒はメタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれかであること」を追加する訂正(以下「訂正事項1−4」という。)は、「電解液」を「電解液の溶媒はメタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれかであること」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 e 訂正事項1の「AはMまたはM’と化合物を形成する単原子または原子団であり」を「MはMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、AはSであり」にする訂正(以下「訂正事項1−5」という。)は、「化合物を形成する単原子または原子団」である「A」、「M」及び「M’」について「MはMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、AはS」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (ウ)訂正事項3〜6について 訂正事項3〜6は、請求項の削除に伴い、引用する請求項から削除された請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無 (ア)訂正事項1−1について 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)には、【実施例1】として【0075】に「本願発明に係る電解液及び電解方法によって、鉄鋼試料における介在物或いは析出相の観察を行った。」、【実施例2】として【0081】に「本願発明に係る電解液を使用した電解によって、鉄鋼試料における介在物或いは析出相の定量分析を行った。」(下線は当審において付与した。以下同様。)と記載されていることから、訂正事項1−1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (イ)訂正事項1−2について 本件特許明細書等の【0060】に「表3は、アタック金属M’としてのCuまたはNiを各種キレート剤で捕捉したときの、錯体の安定度定数(Log10Kd)を示したものである。安定度定数が高いほど、アタック金属を捕捉し、再び遊離させにくいと考えられるため、好ましい。化合物M’x’Ay、特にCuSの生成を抑制する場合、アタック金属M’を含む錯体を形成する薬剤として、安定度定数が10以上のもの、好ましくは12以上のもの、さらに好ましくは14以上のもの、より好ましくは16以上のもの、さらに好ましくは18以上のもの、より好ましくは20以上のものを、選択してもよい。」と記載されていることから、訂正事項1−2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (ウ)訂正事項1−3について 本件特許明細書等の【0060】に「アタック金属M’を含む錯体を形成する薬剤が、ポリエチレンアミン類、エチレンジアミン4酢酸、シクロヘキサンジアミン4酢酸のうちのいずれか1種または2種以上を含んでいてもよい。これらは、キレート剤として作用し、アタック金属M’を捕捉する。ポリエチレンアミン類として、トリエチレンテトラミン(TETA)、ペニシラミン、ペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。」と記載されていることから、訂正事項1−3は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (エ)訂正事項1−4について 本件特許明細書等の【0047】に「非水溶媒としては、電解を円滑に進め、しかも、錯体化可能な有機化合物と支持電解質とを溶解する化合物が適しており、例えば、低級アルコール、例えば、メタノール、エタノール、又はイソプロピルアルコールを用いることができる。メタノール、又はエタノール、あるいはこれらの混合物を選択することができる。また、これらのアルコールと同程度かそれ以上の極性(双極子モーメント等)を有す溶媒であれば使用できる。」と記載されていることから、訂正事項1−4は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (オ)訂正事項1−5について 本件特許明細書等の【0057】に「なお、溶解度積Kspは水溶液中の値であるが、表2で示すとおり、非水溶媒(低級アルコール)を用いた場合でもKspより求められるpKsp(−log10Ksp)の差Δが10以上で、反応が認められることが確認されている。具体的には、以下の確認試験を行った。 ・抽出対象物を含む試料として、MnSを含有する鋼材2種(MnSの粒径が1μm以上のもの、及び粒径100〜150nmのもの)を用意し、それらの表面に鏡面研磨仕上げを行った。 ・アタック金属M’+イオンとして、Ag、Cu、Pb、Co、Zn、Niの金属イオン濃度が、それぞれ1000μg/mlの6種類の原子吸光分析用標準溶液(M’+溶液)を用意した。M’溶液0.1mlを非水溶媒であるメタノール0.3mlと混合した。 ・鋼材表面に混合液を塗布して、鋼材表面の変化を確認した。 AgおよびCuを含む混合液を塗布したものは、塗布から5分以内に鋼材の表面が黒色に変化した。Pbを含む混合液を塗布したものは、塗布から10分程度で鋼材の表面が黒色に変化した。Co、Zn、Niを含む混合液を塗布したものは、塗布から20分程度で鋼材の表面が黒色に変化した。 ・さらに、変色のあった鋼材についてSEMおよびEDS観察を行ったところ、いずれもMnS粒子の表面でMnとアタック金属M’との置換(すなわち、Artifact(擬制))が生じていることが確認された。」と記載され、ここで「MnS」は「MxAy」のことであるから、「MはMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、AはS」であることが記載されているから、訂正事項1−5は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (カ)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (キ)訂正事項3〜6について 訂正事項3〜6は、請求項の削除に伴い、引用する請求項から削除された請求項を削除するものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1−1〜1−5すなわち訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、訂正事項2〜6も、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 エ 小括 上記のとおり、訂正事項1〜6に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (2)一群の請求項12〜21に係る訂正について ア 目的の適否 (ア)訂正事項7について 訂正事項7の内容と訂正事項1の内容は、「鉄鋼」材料、安定度定数(Log10Kd)が「14以上」、薬剤が「ポリエチレンアミン類を含んでなる」、電解液の溶媒が「メタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれかである」、「MはMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、AはS」であるという点で同じであることから、上記(1)ア(ア)a〜eで述べたとおり、訂正事項7も、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)訂正事項8について 訂正事項8は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (ウ)訂正事項9〜11について 訂正事項9〜11は、請求項の削除に伴い、引用する請求項から削除された請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無 (ア)訂正事項7について 上記ア(ア)で述べたように、訂正事項7の内容と訂正事項1の内容は実質的に同じであることから、上記(1)イ(ア)〜(オ)で述べたように、訂正事項7についても本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (イ)訂正事項8について 訂正事項8は、請求項を削除するものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (ウ)訂正事項9〜11について 訂正事項9〜11は、請求項の削除に伴い、引用する請求項から削除された請求項を削除するものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項7〜11は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 エ 小括 上記のとおり、訂正事項7〜11に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (3)明細書の訂正について ア 目的の適否 訂正事項12〜29は、特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲と整合させるために行う明細書の訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項30は、「電解溶液」との記載を「電解液」に用語を統一、整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無 訂正事項12〜29は、特許請求の範囲と整合させるために行う明細書の訂正であり、訂正事項30は、用語を統一、整合させるものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項12〜29は、特許請求の範囲と整合させるために行う明細書の訂正であり、訂正事項30は、用語を統一、整合させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 エ 小括 上記のとおり、訂正事項12〜30に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 3 まとめ よって、明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−11〕、〔12−21〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1〜21に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」〜「本件発明21」と記載し、これらをまとめて述べる場合には「本件発明」という。ただし、削除された請求項2〜6、8、13〜17及び19は除く。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜21に記載されたとおりのものであり、そのうち、本件発明1及び12を記載すると、以下のとおりである。 「【請求項1】 「鉄鋼材料を電解液中でエッチングし、鉄鋼材料中の金属化合物粒子を抽出する方法において、 金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、 前記鉄鋼材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると、 下記式で定義されるΔが10以上となる金属M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなる電解液を用いること、 前記薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり、 前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなること、および、 前記電解液の溶媒はメタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれかであることを特徴とする、金属化合物粒子の抽出方法。 Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy]) ここで、MとM’は異なる金属元素であり、MはMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、AはSであり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表し、前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である。」 「【請求項12】 鉄鋼材料をエッチングし、鉄鋼材料中の金属化合物粒子を抽出する際に用いる電解液で あって、 金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、 前記鉄鋼材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると、 下記式で定義されるΔが10以上となる金属M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなること、 前記薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり、 前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなること、および、 メタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれかを溶媒とすることを特徴とする、電解液。 Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy]) ここで、MとM’は異なる金属元素であり、MはMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、AはSであり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表し、前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である」 第4 取消理由(決定の予告)について 1 取消理由の概要 令和3年4月28日付け取消理由通知書(決定の予告)の取消理由は、既に見なし取下げされた令和3年2月16日に提出された訂正請求書によって訂正された特許請求の範囲に対して通知されたものであり、その概要は、次のとおりである。 取消理由(サポート要件) 本件特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 具体的には、おおむね以下のことを指摘している。 (1)A、M、M’について 請求項1及び12に係る発明において、「溶媒」は「メタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれか」(非水溶媒)であるところ、「非水溶媒」に対して「水溶液におけるデータ」をもとに計算される値を用いてA、M、M’を特定しているが、非水溶媒であるメタノールを用いて実験した結果が示されている本件特許明細書等の表2を参照すると、AがS以外のSe、MがMn以外の金属元素、M’がAg、Cu、Pb又はCo(Zn及びNiについては△であることから除外した)以外の金属元素において、MxAy表面においてM原子とM’原子とが置換されるという課題を認識することができるとはいえないことから、AがS以外のSe、MがMn以外の金属元素、M’がAg、Cu、Pb又はCo以外の金属元素までサポートされているとはいえない。 (2)薬剤について 請求項1及び12に係る発明において、「溶媒」は「メタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれか」(非水溶媒)であるところ、「薬剤」について「金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が12以上」と特定されているが、これは本件特許明細書等の表3に記載されている水溶液における錯体の安定度定数の値に基づくものであるから、「非水溶媒」に対して「水溶液におけるデータ」を用いて金属M’を捕捉する薬剤を特定していることになる。そして、本件特許明細書等において、非水溶媒(メタノール)を用いて実験した電解液の薬剤の結果が示されているのはTETAのみであり、TETA以外の薬剤については、水溶液におけるデータである「金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が12以上」であるからといって、非水溶媒(メタノール)において金属M’を捕捉し再び遊離させることはないということを認識できるものではないことから、非水溶媒においてTETA以外の薬剤までサポートされているとはいえない。 2 訂正について 上記1の取消理由を受けて、特許権者は、上記第2で記載したように本件訂正によって、本件発明1及び12において、Aを「S」に、Mを「Mn」に限定したが、M’については「Cu、Zn、およびNiの少なくとも一つ」と、上記1(1)で「(Zn及びNiについては△であることから除外した)」と指摘したZnとNiを含む訂正をしている。 また、薬剤については、「前記薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり、前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなること」に限定はされたものの、それが「TETA」であることに限定していない。 そこで、以下、M’がZn及びNiを含む点、薬剤が「薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり、前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなること」がサポートされているかどうかについて検討する。 3 本件特許明細書等の記載 (1)本件発明の課題について、本件特許明細書等には 「【0017】 そこで、本願発明が解決しようとする課題は以下である。 ・溶媒系電解液での電解腐食法等による金属材料中の金属微粒子(介在物、析出物)の抽出や分析において、従来の抽出・分析方法を大きく変更することなく、Cuイオン等による金属微粒子の表面置換を抑制し、Artifact(擬制)CuS等の生成を防止することを課題とする。 ・特に金属硫化物(MnS、FeS等)に着目し、Artifact(擬制)CuS等の生成を防止することを課題とする。」と記載されている。 (2)上記第2の2(1)イ(オ)で一部摘記したが、溶媒が「メタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれか」の非水溶媒の場合について、本件特許明細書等には、 「【0057】・・・。なお、溶解度積Kspは水溶液中の値であるが、表2で示すとおり、非水溶媒(低級アルコール)を用いた場合でもKspより求められるpKsp(−log10Ksp)の差Δが10以上で、反応が認められることが確認されている。具体的には、以下の確認試験を行った。 ・抽出対象物を含む試料として、MnSを含有する鋼材2種(MnSの粒径が1μm以上のもの、及び粒径100〜150nmのもの)を用意し、それらの表面に鏡面研磨仕上げを行った。 ・アタック金属M’+イオンとして、Ag、Cu、Pb、Co、Zn、Niの金属イオン濃度が、それぞれ1000μg/mlの6種類の原子吸光分析用標準溶液(M’+溶液)を用意した。M’溶液0.1mlを非水溶媒であるメタノール0.3mlと混合した。 ・鋼材表面に混合液を塗布して、鋼材表面の変化を確認した。 AgおよびCuを含む混合液を塗布したものは、塗布から5分以内に鋼材の表面が黒色に変化した。Pbを含む混合液を塗布したものは、塗布から10分程度で鋼材の表面が黒色に変化した。Co、Zn、Niを含む混合液を塗布したものは、塗布から20分程度で鋼材の表面が黒色に変化した。 ・さらに、変色のあった鋼材についてSEMおよびEDS観察を行ったところ、いずれもMnS粒子の表面でMnとアタック金属M’との置換(すなわち、Artifact(擬制))が生じていることが確認された。 このことから、本発明の範囲では、溶解度積Kspは水溶液中の指標であるが、非水溶液に適用することが可能であり、そこでの溶解度積Kspは水溶液中と同様の傾向を示すことが推定される。 また、pKspの差Δが大きいほど、置換(Artifact(擬制))反応が速いことも確認された。一方で、pKspの差Δが小さくとも、相対的に反応速度は遅くなるものの、着実に置換(Artifact(擬制))反応が進行することも確認された。鋼材の電解抽出分析は、数時間のオーダーで行われることが多い。例えば、試料を電解液に漬けておく時間として、2時間程度で計画していても、さらに1時間程度延長されることもある。pKspの差Δが10となるNi含有液とMnSを用いた場合、20分程度で変色が見られた。つまり、pKspの差Δが10以上では、置換(Artifact(擬制))反応が、問題となり得ることが確認された。 これに関連して、上記の確認試験に加えて、アタック金属M’+溶液とメタノールの混合液にさらに錯化剤としてトリエチレンテトラミン(TETA)0.1mlを加えたもの(錯化剤添加液)を用意し、それを鏡面仕上げ鋼材に塗布した場合の観察も行った。錯化剤添加溶液を加えた場合、数時間経過後も鋼材表面の変色は見られず、良好な鏡面研磨状態が保持された。SEMおよびEDS観察でも、Artifact(擬制)は確認されなかった。 【0058】 【表2】 ![]() 」 と記載されている。 (3)そして、上記第2の2(1)イ(イ)及び(ウ)で一部摘記したが、薬剤について、本件特許明細書等には、 「【0060】 アタック金属M’を含む錯体を形成する薬剤が、ポリエチレンアミン類、エチレンジアミン4酢酸、シクロヘキサンジアミン4酢酸のうちのいずれか1種または2種以上を含んでいてもよい。これらは、キレート剤として作用し、アタック金属M’を捕捉する。ポリエチレンアミン類として、トリエチレンテトラミン(TETA)、ペニシラミン、ペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。特に、トリエチレンテトラミン等のキレート剤は、CuイオンおよびNiイオン等に対する選択性が高く、アタック金属M’がCuやNi等である場合に、特に高い捕捉効果が発揮される。 表3は、アタック金属M’としてのCuまたはNiを各種キレート剤で捕捉したときの、錯体の安定度定数(Log10Kd)を示したものである。安定度定数が高いほど、アタック金属を捕捉し、再び遊離させにくいと考えられるため、好ましい。化合物M’x’Ay、特にCuSの生成を抑制する場合、アタック金属M’を含む錯体を形成する薬剤として、安定度定数が10以上のもの、好ましくは12以上のもの、さらに好ましくは14以上のもの、より好ましくは16以上のもの、さらに好ましくは18以上のもの、より好ましくは20以上のものを、選択してもよい。一般に、生成を抑制すべき化合物M’x’Ayの溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とすると、pKsp[M’x’Ay’](=−Log10Ksp[M’x’Ay’])とLogKdとの差、pKsp[M’x’Ay’]−LogKdが、26未満のもの、好ましくは24未満のもの、さらに好ましくは22未満のもの、より好ましくは20未満のもの、さらに好ましくは18未満のもの、より好ましくは16未満のものを、選択してもよい。 【0061】 【表3】 ![]() 」 と記載されている。 4 特許権者提示の乙2について 特許権者は、令和3年7月12日に提出された意見書に、乙第2号証(以下「乙2」という。)を添付しており、それには、Table I.及びTable IIとして以下の表が記載されている。 乙2:D.B.Rorabacher et.al.,“Stability Constants of Some Plyamine and Polyaminocarboxylate Complexes in Methanol-Water Mixtures by Differential pH*-Potential Titrimetry”Analytical Chemistry, Vol.44, No.14 December 1972 pp.2339-2346 ![]() ここで、Table I(表I)の「Trien」とは、乙2の2339頁左欄2行目に「triethylenetetramine(trien)」と記載されているとおり、トリエチレテトラミン(TETA)のことであり、Table II(表II)の「Tetren」とは、乙2の2339頁左欄3行目に「tetraethylenepentamine(tetren)」と記載されているとおり、テトラエチレンペンタミン(TEPA)のことであり、両者とも、ポリエチレンアミン類である。 そして、表I及び表IIともに、CH3OHのWt%が、0%の時は溶媒が水であり、99%の時は溶媒が(ほぼ)メタノールである。 そうすると、上記表I及び表IIには、以下のことが記載されている。 表I:TETAと、各々Ni、Cu、Znとの錯体の安定度定数の値が、溶媒が(水、メタノール)のとき、Niは(14.1、13.84b)、Cuは(20.1、23.26)、Znは(11.9、14.61)である。 表II:TEPAと、各々Cu、Znとの錯体の安定度定数の値が、溶媒が(水、メタノール)のとき、Cuは(22.9、26.05)、Znは(15.4、19.00)である。 ただし、表Iの脚注bには「Values for Ni(II)-trien are questionable because of relatively slow formation kinetics(ref.4).」(当審訳:TETAとNiについての値は、比較的ゆっくりした形成反応速度のために、疑わしい。)と記載されている。 5 当審の判断 (1)Zn及びNiについて 上記3で摘記した本件特許明細書等の表2の記載に基づいて、上記1(1)で「M’がAg、Cu、Pb又はCo(Zn及びNiについては△であることから除外した)以外の金属元素において、MxAy表面においてM原子とM’原子とが置換されるという課題を認識することができるとはいえない」と指摘したが、表2においてZnとNiに「△」の印が付いているのは、表2の下に「△長時間で反応認める」と記載され、本件特許明細書等の【0057】に「AgおよびCuを含む混合液を塗布したものは、塗布から5分以内に鋼材の表面が黒色に変化した。」、「Co、Zn、Niを含む混合液を塗布したものは、塗布から20分程度で鋼材の表面が黒色に変化した。」及び「変色のあった鋼材についてSEMおよびEDS観察を行ったところ、いずれもMnS粒子の表面でMnとアタック金属M’との置換(すなわち、Artifact(擬制))が生じていることが確認された。」と記載されていることから、Zn及びNiの場合にも、Cuの場合と同様に、MnS粒子の表面でMnとの置換が生じており、ただ、Cuに比べてZn及びNiの場合は、MnS粒子の表面でMnとの置換が生じる(表面が黒色に変化する)までの時間が長いだけということであるから、MnS粒子の表面でMnとの置換が生じるまでの時間が長いということで、上記「MxAy表面においてM原子とM’原子とが置換されるという課題」が認識できないとはいえない。 よって、M’がCuの場合のみならず「Zn」及び「Ni」の場合においても、上記課題が認識されるものであるから、訂正された「MはMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、AはS」であることは、サポートされており、発明の詳細な説明に記載したものといえる。 (2)薬剤について ア 上記3で摘記した本件特許明細書等の【0057】で「アタック金属M’+溶液とメタノールの混合液にさらに錯化剤としてトリエチレンテトラミン(TETA)0.1mlを加えたもの(錯化剤添加液)を用意し、それを鏡面仕上げ鋼材に塗布した場合の観察も行った。錯化剤添加溶液を加えた場合、数時間経過後も鋼材表面の変色は見られず、良好な鏡面研磨状態が保持された。SEMおよびEDS観察でも、Artifact(擬制)は確認されなかった。」と記載され、ここでアタック金属M’は上記(1)で述べたとおり「Cu、Zn、およびNiの少なくとも一つ」であるから、薬剤としてTETAを用いることより、本件発明のArtifact(擬制)の生成を防止するという課題を解決しており、TETAについては確実にサポートされている。 そこで、薬剤として、「薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり、前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなること」が、本件発明の課題を解決できると認識できるどうか検討する。 イ(ア)上記4で記載した乙2の表I及び表IIを参照すると、薬剤がTETAとTEPAの場合について、各々Ni、Cu、Znとの錯体の安定度定数の値が、溶媒が水の時よりメタノールの時の方が大きくなる傾向があることから(TETAとNi場合だけ14.1と13.84と少しだけ減少しているが、これは上記4のとおり疑わしい値である)、溶媒がメタノールの時の方が錯体がより安定している、すなわち、Ni、Cu、Znをよりよく捕捉し再び遊離させることはなく、Artifact(擬制)の生成をより防止していることになる。 (イ)また、上記3で摘記した本件特許明細書等の表3を参照すると、溶媒が水の時に、TETAによってCuを捕捉した錯体の安定度定数(Log10Kd)の値は20.4であり、TETAによってNiを捕捉した錯体の安定度定数の値は14.0であり、さらに、上記4で記載した表Iを参照すると、前者の値が20.1、後者の値が14.1であり、ほぼ同じであることからも、表IのZnについての11.9の値は、TETAによってZnを捕捉した錯体の安定度定数の値である。 そうすると、溶媒が水の時にTETAによってZnを捕捉した錯体の安定度定数の値である11.9の場合でも、上記【0057】によればArtifact(擬制)は確認されず、本件発明の課題を解決していることになるのであるから、錯体の安定度定数の値が11.9より大きい「薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上」である場合にも、本件発明の課題を解決していることになる。 (ウ)そして、それは溶媒が水の時の錯体の安定度定数の場合であるが、上記(ア)を参照すると、溶媒が水の時よりメタノールの時の方が錯体が安定している、すなわち、Artifact(擬制)の生成をより防止していることになるのであるから、水溶液におけるデータである「金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上」であることで、「溶媒」が「メタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれか」(非水溶媒)においても、金属M’を捕捉し再び遊離させることはなく、Artifact(擬制)の生成を防止するという本件発明の課題を解決できると認識できるものである。 さらに、上記表3を参照すると、ポリエチレンアミン類として、TETA以外にも、Cu又はNiとの錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上を満たすDETA、TEPA、PEHAが記載されているおり、TETAに限定されるものでもない。 (エ)以上のことから、「薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり、前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなる」「薬剤」は、本件発明の課題を解決できる認識できるものであるから、発明の詳細な説明に記載したものといえる。 (3)まとめ したがって、本件発明1並びにそれを引用する本件発明7及び9〜11に係る特許、かつ、本件発明12並びにそれを引用する本件発明18、20及び21に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないことから、取消理由通知書(決定の予告)の取消理由によって、取り消すことはできない。 第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について 1 申立理由1(新規性・進歩性) (1)申立人は、特許異議申立書において、証拠方法として以下の甲第1号証〜甲第7号証を提示し、本件発明1〜21は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第7号証に記載された技術事項に基いて、もしくは、甲第6号証に記載された発明並びに甲第1号証〜甲第5号証及び甲第7号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜21に係る特許は、特許法第29条第1項あるいは第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものであると主張している。 甲第1号証:若松茂雄、「新電解抽出法による鋼中の析出物,介在物の抽出分離」、鉄と鋼 第55年(1969)第14号、65〜75頁 甲第2号証:特表2009−509050号公報 甲第3号証:NATURE vol.182、1958年9月13日発行、741〜742頁 甲第4号証:「改訂5版 化学便覧 基礎編II」日本化学会編、平成16年2月20日発行、352〜354頁 甲第5号証:「化学便覧(応用編)」日本化学会編、昭和40年10月25日発行、1259頁 甲第6号証:黒澤文夫他、「非水溶媒系電解液定電位電解エッチング法による鉄鋼中の硫化物の観察と分析」、日本金属学会誌(1980)、第44巻、677〜686頁 甲第7号証:「岩波 理化学辞典 第5版」岩波書店、1998年2月20日発行、58〜59頁 以下、甲第1号証〜甲第7号証を「甲1」〜「甲7」という。 なお、当審においては、令和2年12月14日付け取消理由通知書において、上記新規性・進歩性を判断するに当たり、以下の文献も参照している。 当審追加文献1:古嶋一敬他、「沈殿試薬を用いる焦点クロマトグラフ法;第2, 3族金属硫化物及び水酸化物の溶解度積と泳動距離との関係」、分析化学 Vol.31(1982)、125〜129頁 当審追加文献2:阿部重喜、「金属硫化物の溶解度積と電気陰性度」、化学教育、1978年26巻 (2)甲号証の記載について ア 甲1について (ア)甲1には、以下の事項が記載されている。なお、摘記にあたり、引用を示す添え数字、記号は省略した。 (甲1ア)「2.電解液としてのNaCl−EDTA溶液について 著者の企図している組織分析では前述のように1試料から,各構成相を系統的に抽出分離する方針をとつている.したがつて,電解抽出法を用いた場合でも電解終了後の電解液中から,地鉄とともに溶解した固溶体としての目的元素を回収し,定量する必要がある.このため本電解抽出法では従来の方法と異なり,各構成相を定量的に抽出分離することのほか,電解液として,つぎの条件を備えていることが要求される. (1) のちの目的元素の定量操作の支障とならない程度の少量の電解液で,必要量の試料が分解可能なこと. (2) 電解液中に目的元素の定量に妨害となる塩類その他の試薬を含まないか,あるいは容易に除去しうる手段のあること. これらの条件を満足させる電解液について,各種の試薬を用いて検討を行なつた結果,NaClとEDTAを含む中性付近の溶液が最も適当であることを見いだした.」(66頁左欄下から5行〜右欄13行) (甲1イ)「3.実験方法 3.1 供試料 Table1に示す4種の鋼を5mm×5mm×70mmの棒状に切断加工し電解用の試料とした.」(66頁右欄下から3行〜67頁1行) (甲1ウ)Table1として以下の表が記載されている。 ![]() (甲1エ)「3.3 電解液 「1%のNaClおよび5%のEDTA*を含む水溶液を調製し,これにNH4OHを加えpHを6〜7に調節する.」(67頁15〜17行) (甲1オ)「4.実験結果および考察 ・・・.しかし,電流密度が5〜50mA/cm2の範囲ならば平均約99.8%のセメンタイトおよび硫化物が回収され,いずれも定量的に抽出分離しうることがわかつた.この抽出率は従来の電解抽出法のそれよりもはるかにすぐれており,電流密度依存性も少ないといえると思う.なお,この場合の硫化物は主としてMnSと思われるが,最近の報告によればFeSもかなりの比率で共存することが推測される.」(68頁右欄8〜15行) (甲1カ)「6. 結言 従来試みられたことのなかつた.1試料から固溶体,炭化物,窒化物,酸化物など種々な形態で存在する,鋼中の微量添加成分を形態別に分離定量する,著者独自の系統的組織分析に適用しうる電解抽出法について検討し,1%NaCl−5%EDTAの中性溶液を電解液として用いる新しい電解抽出法を開発した. 本電解抽出法によれば,低炭素鋼,高炭素鋼,低合金鋼はもちろん,従来中性塩 電解液では電解不可能と考えられていた,オーステナイト系ステンレス鋼のような高合金鋼でも,なんら不働態化することなく炭素鋼などとほぼ同じ電解条件で,容易に電解可能であることを見いだした. 不安定な析出物の代表として低炭素鋼,および高炭素鋼中のセメンタイト,さらに低炭素鋼中のFeおよびMnの硫化物をえらび,本電解抽出法によるこれらの抽出率を測定したところ,いずれも定量的に抽出しうることが認められた.また,ステンレス鋼では従来のHCl系の酸性電解液を用いる電解抽出法に比し,残査の抽出率がいちじるしく向上するのが認められた.したがつて,本電解抽出法によれば,炭素鋼,合金鋼を問わず,あらゆる種類の鋼中のすべての析出物,介在物が定量的に抽出分離しうるものと推察される. 従来の電解抽出法では,電解後の電解液中にFeその他とともに溶存している微量の固溶成分を,回収分離し定量することは,ほとんど不可能であつたが,本電解抽出法では電解液の使用量を少なくすることに成功し,かつ,隔壁としてろ紙(当審注:原文では「ろ紙」は漢字である)を使用することにより,抽出残査と電解液の分離を容易にすることにより,それを可能とすることができた.」 (イ)甲1発明について 甲1(特に下線部参照)には、以下の発明が記載されているといえる。 「電解抽出法に用いる電解液であって、 Table1に示す4種の鋼を電解用の試料とし、電解抽出法によりMnSを抽出しうる、 NaClとEDTAを含む中性付近の水溶液である電解液。」(以下「甲1発明」という。) イ 甲2について 甲2には、以下の事項が記載されている。 「【0036】・・・例えば,サリチル酸の銅イオンとの安定化係数(stability constant)(log K あるいはpK)は約11で,コバルトイオンより高く(pK約6),一方コバルト及び銅のサリチル酸のような,主要なキレート剤に対するpKはおおよそ4から6である。過剰な量のこれらの安定化剤はコバルトとさらにキレート化し及び合金堆積の開始及び成長速度に影響する。強いキレート効果により,メッキは濃度が3000ppmを越えると完全に抑制される。」 ウ 甲3について 甲3のTable1は「STABILITY CONSTANTS OF SOME METAL COMPLEXES, IN AQUEOUS SOLUTION AT 20℃」(当審訳:20℃の水溶液中における金属錯体の安定度定数)についての表であり、サリチル酸に対する銅イオンの錯体の安定度定数(LogK1)が10.6であることが記載されている。 エ 甲4について 甲4の表11.14は「その他の有機酸・塩基金属錯体の生成定数」の表であり、25℃における生成定数の対数が記載されている。アセチルアセトンに対して Cu2+:8.0(β1)、Ni2+:5.71(β1)、Zn2+:4.70(β1)サリチル酸に対して Cu2+:10.63(β1) オ 甲5について 甲5の表22.17は「錯塩の安定度(logKの値)EDTAは0.1N-KCl中」の表であり、EDTAに対するCu2+の安定度が18.38であることが記載されている。 カ 甲6について (ア)甲6には、以下の事項が記載されている。なお、摘記にあたり、引用を示す添え数字、記号は省略した。 (甲6ア)「先に報告した非水溶媒系電解液による定電位電解エッチング法(Selective Potentiostatic Etching by Electrolytic Dissolution Method:SPEED法と略記する)により検討を行なうこととした.本SPEED法は以下のような特徴を持っている.」(678頁左欄1〜5行) (甲6イ)「II. 実験方法 1.SPEED法 SPEED法についての詳細は前報で報告したとおりである.本実験において使用した装置および試薬などは以下のものである. ・・・ (4)電解液:10%アセチルアセトンー1%テトラメチルアンモニウムクロライドーメチルアルコール(以下10%AA系電解液」と略記する) ・・・ 2.供試材と化学組成 実験に使用した供試材の化学組成をTable1に示した.Table1における化学組成から析出が予想される硫化物としてはMnS,TiS,(La,Ce)S,CaSやZrSなどであり,それぞれの硫化物の析出形態観察や分析などについてSPEED法で検討を行なった. III. 実験結果 1.Mn−S系硫化物 鉄鋼中に存在する代表的な硫化物はMnSであり,高含硫鋼中での析出形態については種々報告されているが,本報では低硫鋼中の硫化物の析出形態や分析結果について報告する.」(678頁左欄21行〜右欄14行) (甲6ウ)Table1として以下の表が記載されている。 ![]() 上記steel(H)として、Mn、S及びNiを含む鉄鋼材料が記載されている。 (イ)甲6発明について 甲6(特に下線部参照)には、以下の発明が記載されているといえる。 「硫化物の析出形態観察や分析を行う定電位電解エッチング法に用いる電解液であって、 Mn、S及びNiを含む鉄鋼材料を供試材とし、前記硫化物はMnsであり、 10%アセチルアセトンー1%テトラメチルアンモニウムクロライドーメチルアルコールである、電解液。」(以下「甲6発明」という。) キ 甲7について 甲7の58頁右欄の「安定度定数」の説明として「錯体の安定度を示す尺度.水和金属イオンと配位子とから錯体が生成するときの平衡定数として示し,生成定数(formation constant)とのいう.」 (3)当審の判断 ア 本件発明12について 事案に鑑み、本件発明12から検討する。 (ア)甲1を主とした場合について a 対比 (a)電解抽出法とは、金属材料をエッチングし、金属材料中の金属化合物粒子等を抽出する方法のことであるから、甲1発明の「鋼を電解用の試料と」する「電解抽出法に用いる電解液」は、本件発明12の「鉄鋼材料をエッチングし、鉄鋼材料中の金属化合物粒子を抽出する際に用いる電解液」に相当する。 (b)金属化合物について 甲1発明の「電解抽出法により」「抽出しうる」「MnS」は、本件発明12の「MはMnであり」「AはSであ」る「抽出対象金属化合物MxAy」に相当する。 また、甲1発明の「電解用の試料」である「Table1に示す4種の鋼」には「Cu」と「S」が含有されており、CuはSとCuSの金属化合物を形成するものであるから、甲1発明の「Table1に示す4種の鋼」に含有されている「Cu」と「S」から形成される「CuS」は、本件発明12の「金属化合物M’x’Ay’」に相当する。 そして、甲1発明の「MnS」、「Cu」と「S」から形成される「CuS」は、本件発明12の「MとM’は異なる金属元素であり、MはMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、AはSであり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表」すことを満たす。 (c)薬剤について EDTAは、Cu2+と錯体を形成するものであるから、EDTAによってCu2+を捕捉するものともいえる。そして、Cu2+とEDTAとの錯体の安定度定数は、甲4の表11.14に18.83、甲5の表22.17に18.38の値が記載されているように「14以上」である。 してみれば、甲1発明の「EDTA」は、本件発明12の「金属M’を含む錯体を形成する薬剤」であって「捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上である」「薬剤」に相当する。 (d)Δについて 金属化合物の溶解度積の値は、温度に依存するものの、固定された温度で一定であることが化学常識であり、当審追加文献1のTable1又は当審追加文献2の図2に記載されているCuSの溶解度積(Ksp[Cu’S])の値、MnSの溶解度積(Ksp[Mn’S])の値から(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy])を計算すると10以上となる。 そうすると、「Cu」と「S」が含有されている「Table1に示す4種の鋼」から「MnSを抽出」する甲1発明において、「CuS」と「MnS」について、本件発明12の「金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、前記鉄鋼材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると」「前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である」 「Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy])」「で定義されるΔが10以上となる」ことを満たすといえる。 (e)一致点・相違点について そうすると、本件発明12と甲1発明とは、 (一致点) 「鉄鋼材料をエッチングし、鉄鋼材料中の金属化合物粒子を抽出する際に用いる電解液であって、 金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、 前記鉄鋼材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると、 下記式で定義されるΔが10以上となる金属M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなること、 前記薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上である、電解液。 Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy]) ここで、MとM’は異なる金属元素であり、MはMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、AはSであり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表し、前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である」 の点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 電解液が、本件発明12では「メタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれかを溶媒とする」ものであるのに対し、甲1発明では「水溶液」である点。 (相違点2) 薬剤が、本件発明12では「ポリエチレンアミン類を含んでなる」ものであるのに対し、甲1発明では「EDTA」である点。 b 判断 (a)相違点1について検討する。 上記甲6には、メチルアルコールを溶媒とする電解液について記載されているものの、甲1発明は、「水溶液」を前提とした電解液であり、「水溶液」を「メチルアルコールを溶媒とする」ものに替える動機は存在しない。 加えて、「水溶液」とメチルアルコールを溶媒とするような「非水溶媒」とは、化学的挙動が異なるものであり、一般に「水溶液」と「非水溶媒」とが代替可能であるとの技術常識もない。 そうすると、甲6、さらに他の甲2〜5及び7の記載を参照しても、相違点1は当業者が容易になし得たこととはいえない。 (b)小括 よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明12は、甲1発明ではなく、そして、甲1発明及び甲2〜7に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (イ)甲6を主とした場合について a 対比 (a)硫化物の析出形態観察や分析を行う定電位電解エッチング法とは、金属材料をエッチングし、金属材料中の硫化物粒子等を抽出することを含む方法のことであるから、甲6発明の「鉄鋼材料を供試材と」する「硫化物の析出形態観察や分析を行う定電位電解エッチング法に用いる電解液」は、本件発明12の「鉄鋼材料をエッチングし、鉄鋼材料中の金属化合物粒子を抽出する際に用いる電解液」に相当する。 (b)金属化合物について 甲6発明の「MnS」は、本件発明12の「MはMnであり」「AはSであ」る「抽出対象金属化合物MxAy」に相当する。 また、甲6発明の「Mn、S及びNiを含む鉄鋼材料」には「Ni」と「S」が含有されており、NiはSとNiSの金属化合物を形成するものであるから、甲6発明の「Mn、S及びNiを含む鉄鋼材料」に含有されている「Ni」と「S」から形成される「NiS」は、本件発明12の「金属化合物M’x’Ay’」に相当する。 そして、甲6発明の「MnS」、「Ni」と「S」から形成される「NiS」は、本件発明12の「MとM’は異なる金属元素であり、MはMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、AはSであり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表」すことを満たす。 (c)薬剤について アセチルアセトンはNiと錯体を形成し得るものであるから、甲6発明の「アセチルアセトン」と、本件発明12の「金属M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなること、前記薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり、前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなる」「薬剤」とは、「金属M’を含む錯体を形成する薬剤」という限りにおいて共通する。 (d)Δについて 金属化合物の溶解度積の値は、温度に依存するものの、固定された温度で一定であることが化学常識であり、甲6発明と本件発明12とは、MxAyがMnS、M’x’Ay’がNiSの点で一致するから、甲6発明においても、(−log10Ksp[NiS])−(−log10Ksp[MnS])「前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である」を計算すると10以上となるといえる。 そうすると、甲6発明において形成される「NiS」と「MnS」について、本件発明12の「金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、前記鉄鋼材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると」「前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である」 「Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy])」「で定義されるΔが10以上となる」ことを満たすといえる。 (e)溶媒について 甲6発明の「メチルアルコールである、電解液」は、本件発明12の「メタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれかを溶媒とする」「電解液」に相当する。 (f)一致点・相違点について そうすると、本件発明12と甲6発明とは、 (一致点) 「鉄鋼材料をエッチングし、鉄鋼材料中の金属化合物粒子を抽出する際に用いる電解液であって、 金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、 前記鉄鋼材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると、 下記式で定義されるΔが10以上となる金属M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなること、 、および、 メタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれかを溶媒とする、電解液。 Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy]) ここで、MとM’は異なる金属元素であり、MはMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、AはSであり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表し、前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である」 の点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点3) 薬剤が、本件発明12では、「薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり、前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなる」「薬剤」であるのに対し、甲6発明では「アセチルアセトン」である点。 b 判断 (a)相違点について検討する。 甲2〜7には、定電位電解エッチング法に用いる電解液における薬剤として、ポリエチレンアミン類を含んでいるものが開示されていないのであるから、甲2〜7を参照して、相違点3が当業者が容易になし得たこととすることはできない。 加えて、本件発明12は、上記第4の5(2)で述べたとおり、Cuイオン等による金属微粒子の表面置換を抑制し、Artifact(擬制)CuS等の生成を防止することを課題とし、その課題を解決すべく、Artifact(擬制)金属硫化物を形成する金属(アタック金属)を選択的に捕捉する薬剤であるポリエチレンアミン類を添加することにより、電解液中の自由なアタック金属を減少させ、Artifact(擬制)金属硫化物が生成されないようにしたものであるところ、甲6においては、そのような課題は記載されておらず、そのために「薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり、前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなる」「薬剤」を添加するという動機はない。 (b)小括 よって、本件発明12は、甲6発明並びに甲2〜5及び7に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件発明1について 本件発明1は、「金属材料を電解液中でエッチングし、金属材料中の金属化合物粒子を抽出する方法において、・・・電解液を用いること、・・・、金属化合物粒子の抽出方法。」の発明で、本件発明12の電解液を用いる方法の発明であるところ、上記アで述べたとおり、本件発明12の電解液が、甲1発明ではなく、そして、甲1発明及び甲2〜7に記載された技術事項に基いて、あるいは、甲6発明並びに甲2〜5及び7に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明1の金属化合物粒子の抽出方法についても、甲1発明ではなく、そして、甲1発明及び甲2〜7に記載された技術事項に基いて、あるいは、甲6発明並びに甲2〜5及び7に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明7、9〜11、18、20及び21について 本件発明7及び9〜11は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、本件発明18、20及び21は、本件発明12を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件発明1及び12と同様に、甲1発明ではなく、そして、甲1発明及び甲2〜7の記載事項に基づいて、あるいは、甲6発明並びに甲2〜5及び7に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものでもない。 (4)まとめ よって、本件発明1並びにそれを引用する本件発明7及び9〜11に係る特許、かつ、本件発明12並びにそれを引用する本件発明18、20及び21に係る特許は、特許法第29条第1項あるいは第2項の規定に違反してされたものではないため、申立理由1によって取り消すことはできない。 する。 2 申立理由2(36条関連) (1)申立人は、特許異議申立書において、本件特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件(サポート要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第36条第6項第2号に規定にする要件(明確性要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであり、あるいは、その発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1〜21に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものであると主張している。 以下、各論ア〜キごとに、申立人の主張の概略を(申立人)で記載し、その後、その主張に対する当審の判断を(当審)で述べる形式で記載することとする。 ア 金属材料、金属化合物について (申立人) a 金属材料、M’、M、Aについて 発明の詳細な説明において、実施例1及び2に具体的に記載されているのは、金属材料は「鉄鋼材料」、M’は「Cu」、Mは「Mn」、Aは「S」であるところ、請求項1及び12に係る発明においては、それらに限定されていないことから、サポート要件と実施可能要件を満たしていない。 b 金属化合物について 発明の詳細な説明の記載を確認しても、硫化物以外の金属化合物に関し、Δが10以上となるM’について記載も示唆もなく、表1に金属の硫化物のデータが開示されているものの、硫化物以外の金属化合物の溶解度は全く開示されていない上に、測定方法に関する記載もないことから、サポート要件を満たしていない。 c 合金の発明について 申立人は、二つの判例(平成29年(行ケ)第10121号、平成24年(行ケ)第10151号)を提示して、「特に合金の技術分野においては、所定の含有量を有する合金元素の組み合わせが一体のものとして技術的意義を有するものであって、所与の特性が得られる組み合わせについては、実施例に示された実際に作製された具体的な合金組成を考慮して初めて理解され、合金を構成する元素が同じであっても配合量や製造方法に差異があれば、合金組織が異なり性質が異なることになり、それらは予測が困難である、という技術常識がある。」と述べ、実施例に開示されたわずかな化合物をもとに拡張できるものではないことを主張している。 (当審) aについて 本件訂正により、金属材料は「鉄鋼材料」、M’は「Cu、Zn、およびNiの少なくとも一つ」、Mは「Mn」、Aは「S」に限定されたことから、M’以外については、上記aの主張は該当しない。 M’については、上記第4の5(1)で述べたように、M’がCuの場合のみならず「Zn」及び「Ni」の場合においても、本件発明の課題が認識され、かつ、その課題を解決できると認識できるものであるから、M’が「Cu、Zn、およびNiの少なくとも一つ」であることは、サポート要件を満たしており、そして、本件特許明細書等の【0057】でM’がCuの場合のみならず「Zn」及び「Ni」の場合においても実施されていることから、実施可能要件も満たすものである。 bについて 本件訂正により、Aは「S」に限定され、本件発明1及び12における金属化合物は「硫化物」に限定されたことから、上記bの主張は該当しない。 cについて 二つの判例はいずれも、いわゆる「合金の発明」について判示しており、これらに基づいて申立人が主張している上記内容は、「合金」の発明の場合に該当することである。それに対し、本件発明1及び12が、「金属化合物の抽出方法」の発明、「電解液」の発明であり、「合金の発明」ではないから、合金の発明における判例の判示事項を即座に本件発明1及び12に対して当てはめてサポート要件を判断することはできない。 イ 安定度定数について (申立人) a 錯体の安定度定数の定義について 本件発明1及び12における「錯体の安定度定数」とは、例えば、甲4の表11.14には、種々の金属イオンの錯体の生成定数がβ1、β2・・βnとn段階の生成定数(甲7の「安定度定数」の記載を参照するに、「生成定数」は本件発明の「安定度定数」のことといえる)として記載されており、「安定度定数」とは、逐次安定度定数(逐次生成定数)のことを指しているのか、全安定度定数(全生成定数:n段階の生成定数の積)のことを指しているのか、明確とはいえない。 b 表3について 発明の詳細な説明の表3には、CuとNi以外の金属に関して安定度定数は開示されていないことから、金属M’としてCu及びNi以外はサポートされていない。また、表3において、キレート剤(薬剤)がIDA、NH3、PEHAについて、Niの安定度定数が空欄であり、その値が不明確である。 c 安定度常数が10以上について 発明の詳細な説明に「対照例として、従来の電解液を用いて電解した比較例を用意した。」(【0082】)、「(1)4%MS:従来から知られている硫化物系介在物を残渣として回収できる4質量%サリチル酸メチル+1質量%サリチル酸+1質量%塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)を対照例としたもの。」(【0082】)、そして「図4の(1)に示した従来の電解液(4%MS)での電解においては、鉄鋼試料中の硫化物が主成分とみられる電解残渣中から、143ppmであるMn濃度を上回る濃度のCu濃度(334ppm)が測定された。」(【0086】)と記載されており、薬剤としてサリチル酸を用いてサリチル酸銅を錯体として形成する例は本件発明の実施例とはしていない。 一方、甲2には「サリチル酸の銅イオンとの安定化係数(stability constant)(log KあるいはpK)は約11」(【0036】)、甲3には「Cation:Cu2+ Ligand:Salicylic acid LogK1:10.60」(Table1)、甲4には「サリチル酸(H2L) 金属イオン:Cu2+ 生成定数の対数:10.63(β1)、18.99(β2)」(表11.14)と記載されており、これらより、サリチル酸銅の錯体の安定度定数(Log10Kd)は10以上であるといる。 してみれば、請求項1及び12において「薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が10以上である」と特定されているが、「10以上」には、効果のない比較例に相当するものも含まれていることになり、「10以上」という数値範囲に技術上の意義があるとはいえない。 なお、申立人は、当該指摘に関して明確性要件を満たしていないこととして主張しているが、当審では、令和2年12月14日付け取消理由通知書において委任省令要件を満たしていないという点で指摘をしている。 (当審) aについて 令和3年2月16日に提出された意見書において、本件発明1及び12における「錯体の安定度定数」は、逐次安定度定数(逐次生成定数)のことであると説明している。 bについて 本件訂正により、M’が「Cu、Zn、およびNiの少なくとも一つ」に限定され、Znの錯体の安定度定数については、特許権者提示の乙2において開示されており、これを参照して判断することが否定されるものではない。また、表3において、薬剤によってはNiの安定度定数が空欄であるものもあるが、その薬剤についてのNiとの錯体の安定度定数が不明というだけであり、M’がNiの場合の全ての薬剤を否定するものではない。 cについて 本件訂正により、薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が「14以上」に限定されたことから、上記cの主張は該当しない。 ウ 薬剤について (申立人) a 含有量について 実施例1では「本願発明に係る電解液としては、トリエチレンテトラミン(TETA)5体積%+1質量%塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)の電解液(5%TETA)を用いた。なお、溶媒はいずれでもメタノールとした。」、実施例2では、「電解液は、以下の3種類を用意した。(1)4%MS:従来から知られている硫化物系介在物を残渣として回収できる4質量%サリチル酸メチル+1質量%サリチル酸+1質量%塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)を対照例としたもの。(2)4%MS+5%TETA:(1)の4%MSに、Cuイオンと錯体を形成するトリエチレンテトラミン(TETA)5体積%を添加したもの。(3)5%TETA:トリエチレンテトラミン(TETA)5体積%(TETA)5体積%+1質量%塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)の電解液。なお、溶媒は(1)〜(3)のいずれでもメタノールとした。」と記載されており、薬剤として、5体積%TETAを用いている。 また、甲1の70頁右欄3〜10行には「EDTAの濃度を小とすれば,当然電解液の使用量を増加させねばならず,のちの操作を困難にするおそれがある.それ以外に濃度の小の場合は,陰極への金属鉄の析出状況が悪くなる傾向が認められた.たとえば,3%EDTA溶液のときは,金属鉄が陰極板の下端部に樹枝状に突起して析出したり,表面が泥状を呈したりすることが多かつた.これに反して,5%溶液のときは,陰極全面に金属光沢をもつた金属鉄が平滑かつ緻密に付着した.」と記載されている。 そうすると、薬剤量が特定されていない請求項1及び12は、サポート要件を満たすものとはいえず、特に、上記甲1の記載から、薬剤の含有量の下限を特定する必要がある。 b 複数の薬剤について 請求項1及び12を引用する請求項6及び17で「前記薬剤が、ポリエチレンアミン類、エチレンジアミン4酢酸、シクロヘキサンジアミン4酢酸のうちのいずれか1種または2種以上を含んでなること」と記載されていることから、請求項1及び12に係る発明には薬剤を2種以上含むことも包含しているといえるところ、実施例には、薬剤を2種以上含むものが記載されていないことから、サポート要件を満たしていない。 c クラウンエーテルについて 請求項5及び16で、薬剤として「前記薬剤が、クラウンエーテルを含んでなること」と特定されているが、実施例にはクラウンエーテルは記載されておらず、さらに表3でも薬剤としてクラウンエーテルは記載されていないことから、サポート要件を満たしていない。 d アセチルアセトンについて 請求項10及び21において「前記薬剤はアセチルアセトンを含まない」と特定しているが、請求項10及び21以外の請求項に係る発明では、薬剤としてアセチルアセトンを除外していない。 一方、本件特許明細書では、アセチルアセトンについて、 「【0048】 従来の定電位電解法では、電解溶液として、例えば、10質量%アセチルアセトン(以降“AA”と称す)−1質量%テトラメチルアンモニウムクロライド(以降“TMAC”と称す)−メタノール溶液、又は10質量%無水マレイン酸−2質量%TMAC−メタノール溶液が用いられている。これらの電解溶液では、電解溶出されたFeが錯体を生成し、生成したFe錯体が電解液中に溶解する観点で好ましいため、多用されている。」 と記載されており、アセチルアセトンを含む電解溶液については「従来」技術として記載されている。また、表3には、アセチルアセトンが記載されていないことから、本件特許明細書を踏まえるとアセチルアセトンについては積極的に添加する薬剤ではないともいえる。 してみれば、請求項10及び21以外の請求項に係る発明において、薬剤としてアセチルアセトンを含んでいるのか、含んでいないのか明確とはいえない。 (当審) aについて 薬剤の好ましい濃度が、その具体的な薬剤の種類(ポリエチレンアミン類に属する薬剤も多数ある)、溶媒の種類(メタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコール)、電解液に添加する副成分の種類及び濃度、アタック金属(Cu、Zn、およびNiの少なくとも一つ)の種類などによらず常に一定であるとの化学常識はなく、むしろ、それらの種類によって変化するのが通常である。してみれば、薬剤の濃度を「5体積%」に限定しなければならないことはなく、そして、本件発明1及び12とは異なる薬剤であるEDTAについて述べた甲1の記載を参照して、下限を設定しなければならないものではない。 よって、本件発明1及び12で、薬剤量が特定されていないからといって、サポート要件を満たしていないとはいえない。 bについて 本件訂正により、本件発明1及び12の薬剤は「ポリエチレンアミン類を含んでなること」に限定され、上記「前記薬剤が、ポリエチレンアミン類、エチレンジアミン4酢酸、シクロヘキサンジアミン4酢酸のうちのいずれか1種または2種以上を含んでなること」に限定されたものといえることから、上記bの主張は該当しない。 cについて 本件訂正により、請求項5及び16は削除されたので、上記cの主張は該当しない。 dについて 本件訂正により、本件発明1及び12の薬剤は、「前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなる」ものに限定された。 さらに、本件訂正により、本件発明1及び12の薬剤は、「前記薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり」「M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つ」である「薬剤」に限定されたところ、アセチルアセトンとCu、Zn、又はNiとの錯体の安定度定数は、いずれも14未満である(甲4参照)ことから、上記限定により、薬剤として「アセチルアセトン」は除外されたことになる。 よって、上記dの主張は該当しない。 エ 溶解度積Kspが水溶液中25℃での値であることについて (申立人) a 電解液の温度について 請求項1及び12で「前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である」と特定されているが、電解液の温度について特定されておらず、不明確である。 b 非水溶媒系について 請求項1及び12を引用する請求項1及び13は「電解液が非水溶媒系電解液である」ことが特定されているが、非水溶媒において「前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値」を用いているのは技術的に不明確である。 (当審) aについて 溶解度積Ksp値は、溶けた陽イオン濃度と陰イオン濃度の積によって決まる物質に特有の値であり、それは温度によって変わることから、一般に「水溶液中25℃での値」が基礎データとして使われている。したがって、本件発明1及び12において「前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である」ということは、「電解液」の温度によらず、溶解度積Kspの値としては、一般に用いられている「水溶液中25℃での値」を用いるということであり、電解液の温度について特定されていないからといって、不明確とはいえない。 bについて 本件発明は、非水溶媒系(メタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコール)電解液において、「水溶液中」での溶解度積Kspの値を用いることを特徴の一つとする発明であるから、当該事項をもってして発明が不明確とすることはできない。 オ その余の記載不備について (申立人) a 本件特許明細書に「電解液」と「電解溶液」との記載があり、両者の用語の意味の違いが明確でない。 b 本件特許明細書の【0048】に「10質量%アセチルアセトン(以降“AA”と称す)」と記載されているが、それ以降に「AA」が記載されておらず、不明確である。 c 請求項4に「前記pKspが大きい金属化合物M’x’Ay’」、請求項15に「前記小さい溶解度積Kspを有する金属化合物M’x’Ay’」と記載されているが、「pKspが大きい金属化合物M’x’Ay’」、「小さい溶解度積Kspを有する金属化合物M’x’Ay’」は「前記」されておらず、不明確である。 d 本件特許明細書に「本発明」との記載がある一方で「本願発明」との記載もあり、特許発明を「本願発明」と記載することは不明確である。 (当審) aについて 本件訂正により、「電解溶液」は「電解液」に訂正されたことにより、上記aの主張は該当しない。 bについて 略称に相当するものが、それ以降に記載されていないからといって、発明が不明確であるとはいえない。 cについて 本件訂正により、請求項4及び15は削除されたことから、上記bの主張は該当しない。 dについて 本件特許明細書に「本願発明」との記載があるからといって、発明が不明確であるとはいえない。 (2)まとめ 上記(1)ア〜オにおける(当審)で述べたように、本件特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものでもなく、特許法第36条第6項第2号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものでもなく、その発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでもないことから、本件発明1並びにそれを引用する本件発明7及び9〜11に係る特許、かつ、本件発明12並びにそれを引用する本件発明18、20及び21に係る特許を、申立理由2によって取り消すことはできない。 第6 申立人の意見書における主張について (1)趣旨 申立人が、令和3年9月22日に提出した意見書は、以下の項目となっている。なお、下線は当審において付与した。 「3 意見の内容 3−1.はじめに (1)本件の異議申立案件に関し、特許異議申立人宛に特許庁審判長殿より通知書<<訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)>>(発送日:令和3年8月5日)が送られ、参考として、以下の書面等が送付された。・・・ (2)異議申立人は、特許の取消の理由を記載した書面(取消理由通知(決定の予告)の写し)、訂正の請求書及びこれに添付された訂正した明細書及び特許請求の範囲の副本、取消理由通知に対応する特許権者の意見書副本を精査した結果、訂正は願書に最初に添付した(当審注:「願書に最初に添付した」は「願書に添付した」の誤り)明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず、また、審判官殿の特許請求の範囲の記載に関する不備のご指摘を解消しておらず、特許法第120条の5第9項で引用する特許法第126条第5項違反であるとの結論に至った。 以下、その理由を説明する。 3−2.訂正事項の概要 ・・・ 3−14.まとめ 以上詳述したように、今回の訂正は、特許法第120条の5第3項第9号(当審注:「第3項第9号」は「第9項」の誤り)で引用する特許法第126条第5項違反であり、到底認められる訂正ではない。 よって、再度のご審理により、異議申立理由有りとの審決を賜りたい。」 と記載されていることから、申立人が意見書で主張している趣旨は、本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものではなく、本件訂正は認められないということである。 しかしながら、上記第2の2「訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否」の各「新規事項の有無」の項目で記載したように、訂正事項はいずれも特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとの判断に誤りはないことから、上記申立人の主張は受け入れられるものではない。 以下(2)において、意見書で縷々述べられている事項について一応検討する。 (2)各論 (申立人)で申立人の指摘事項を記載し、その後、その指摘に対する当審の判断を(当審)で述べる形式で記載することとする。 ア(申立人)「安定度定数14以上」と訂正しているが、明細書にはその訂正の根拠となる具体的な記載がない。 (当審)本件特許明細書等の【0060】に記載があり、具体的に表3にも記載されている。 イ(申立人)「ポリエチレンアミン類」まで拡張することは、サポート要件違反である。 (当審)上記第4の5(2)で記載したとおりであり、サポート要件違反ではない。 ウ(申立人)ポリエチレンアミン類の定義が示されていないが、ポリエチレンと記載があるため-(CH2CH2NH)-繰り返し構造を有する化合物であると考えられる。ペニシラミンは、-(CH2CH2NH)-を一つしか有していないことから、ポリエチレンアミン類ではない。 (当審)「ポリエチレンアミン類」の定義が本件特許明細書等に記載されていないことから、化学常識に鑑みて、-(CH2CH2NH)-繰り返し構造を有する化合物と想定される。そして、表3には、ポリエチレンアミン類として、DETA、TETA、TEPA、PEHAが記載されているが、ペニシラミンは記載されていない。 エ(申立人)2種の薬剤が含まれている場合は、サポート要件違反である。 (当審)上記第4の5(2)で記載したとおり、金属M’との錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上である薬剤は、本件発明の課題を解決できると認識できるものであり、薬剤が2種含まれることによって、各々の安定度定数(Log10Kd)が14未満となるという化学常識はない。 オ(申立人)ペンタエチレンヘキサミンのCu以外の安定度定数がどのような値であるのか、さらには、ペンタエチレンヘキサミンがどのような効果を奏するのか発明の詳細な説明には記載も示唆もない。 (当審)ペンタエチレンヘキサミンのCu以外の安定度定数が不明というだけであり、ペンタエチレンヘキサミンは、少なくともCuに対する錯体の安定度定数(Log10Kd)が26.2あり、Cuをよく捕捉し再び遊離させることはなく、Artifact(擬制)の生成を防止している。 カ(申立人)「薬剤がポリエチレンアミン類を含んでいる」との記載では、例えば、薬剤の成分が「1%TETA、99%EDA」の場合も含まれることになる。 (当審)「薬剤がポリエチレンアミン類を含んでいる」の文言からは、ポリエチレンアミン類が1%、それ以外のものが99%ということも可能であろうが、本件特許明細書等の記載からは、薬剤としてポリエチレンアミン類を主要成分として含んでいると解するのが相当であり、申立人が主張するポリエチレンアミン類が1%しか含まない薬剤は想定されない。 キ(申立人)特許権者は、表DにZnの安定度定数を追加しているが、明細書に記載されているものではなく、明細書の記載に基づく主張とはいえない。 (当審)意見書に記載されている表Dに基づいて、上記第2の2の「新規事項の有無」の判断、上記第5の5の「当審の判断」、上記第6の2の判断をしていない。また、明細書に記載されていない事項を意見書に記載して説明することが否定されるものではなく、そして、その意見書の主張を参照して審理することも否定されるものではない。 ク(申立人)特許権者が意見書の表Dに「シクロヘキサンジアミン」を記載した理由は明確ではなく、サポート要件を充足しているとは言えない。 (当審)意見書に本件発明以外のことを記載する際に、必ずその理由を明確にしなければならないということはない。そして、ポリエチレンアミン類ではないシクロヘキサンジアミンによって、本件発明のサポート要件を判断していない。 ケ(申立人)今回の訂正請求書では、薬剤としてアセチルアセトンを含んでいるのか、含んでいないのか明確でないとした審判官の指摘に対して、請求項1及び12において何ら対応していない。 (当)「M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり」「薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり、前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなる」との訂正によって、薬剤としてアセチルアセトンは実質的に含まないことになる。 コ(申立人)訂正請求書の記載と意見書の記載に異なる部分がある。 (当審)訂正請求書の記載に基づいて、本件訂正を判断している。 サ(申立人)特許権者が提示した乙第3号証は、本件特許出願後に公開された文献であるから、本件の特許出願時の技術常識等を示す証拠とはなりえない。 (当審)乙第3号証は、特許権者が、本件発明者らが、本件出願後にも本件発明に関する検証を継続していることを示すために提示したものであり、これに基づいて本件の特許出願時の技術常識を判断していない。 シ(申立人)申立人は、特許権者の令和3年7月12に提出の意見書の15頁下から7〜6行目の記載、16頁上から2〜9行目の記載、18頁下から8〜1行目の記載が理解できないとしている。 (当審)当審では、上記指摘箇所に基づいて、上記第2の2の「新規事項の有無」の判断、上記第5の5の「当審の判断」、上記第6の2の判断をしていないことから、上記指摘箇所の真偽が上記当審の判断を左右するものではない。 第7 むすび 以上のとおり、本件発明1、7、9〜12、18、20及び21に係る特許、すなわち、請求項1、7、9〜12、18、20及び21に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。さらに、他に請求項1、7、9〜12、18、20及び21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、請求項2〜6、8、13〜17及び19に係る特許は、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項2〜6、8、13〜17及び19に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】金属化合物粒子の抽出方法、その金属化合物粒子の分析方法、およびそれらに用いられる電解液 【技術分野】 【0001】 本願発明は、金属材料を電解液中でエッチングし金属材料中の金属化合物粒子を抽出する際に、特定の金属を捕捉する薬剤を含んでなる電解液を用いる金属化合物粒子の抽出方法、その金属化合物粒子の分析方法、およびその電解液に関係する。 【背景技術】 【0002】 金属材料、特に、鉄鋼材料は、微量添加元素や様々な熱処理によって、材料マトリックス中に存在する介在物や析出相の種類、アスペクト比などの形状、寸法等を制御して、鉄鋼材料に求められる強度や特性をコントロールすることが広く実施されている。 従って、介在物及び/又は析出相の観察や、その成分、分量を測定することは鉄鋼材料の品質管理や製造プロセスの解析を行う上で、重要な意味を持つ。 【0003】 介在物や析出相の観察をSEM等で行うためには、マトリックス中に埋没した状態の介在物や析出相を観察表面に露出させる必要があり、従来から、各種電解質溶液中で電解することで、介在物や析出相を試料表面に露出させて、観察可能な状態としている。 【0004】 近年、鉄鋼材料の製造技術の進歩により、介在物や析出相の種類が多様化すると共に、微細分散化も進んでおり、観察に際しては、マトリックス(Fe)のみを選択的に溶解すると共に、介在物や析出相に関しては、それらが微細粒であっても、確実に観察表面に保持して、溶解しないような電解液が求められる。 【0005】 また、これらの介在物や析出相を同定・定量分析する場合には、同様に、電解質溶液中で鉄鋼試料のマトリックスを溶解させ、介在物や析出相を電解残渣として回収し、これを同定・定量分析することが行われている。 【0006】 この定量分析の場合には、鉄鋼材料のマトリックス部分のみを効率良く電解すると共に、Fe分を確実に電解液中に溶解して保持すると共に、その他の介在物や析出相に相当する部分を電解残渣として確実に回収できることが要求される。 【0007】 特許文献1には、鉄鋼試料のための電解液組成物と、それを用いた介在物や、析出物の分析方法が記載されている。 この電解液組成物は、従来の電解液が酸性のものが多かったのに対して、アルカリ性のトリエタノールアミンが添加されていることにより、微細な介在物や析出相であっても、溶解され難くなり、これらの介在物や析出物の粒子が鋼材試料表面に残留し易く、鉄鋼試料を電解液から取り出し乾燥後、そのままの状態でSEM等による観察や分析を可能としている。 【0008】 また、特許文献2には、鉄鋼試料中の介在物や析出物の抽出用非水溶媒系電解液と、それを用いた鉄鋼試料の電解抽出方法に関する発明が開示されている。 この電解液は、無水マレイン酸と、塩化テトラメチルアンモニウムと、メタノールを所定の割合で含むものであり、一度に大量の鉄鋼試料を電解する能力に優れた電解液であり、液中に含まれる無水マレイン酸が、鉄錯体を生成し、Fe水酸化物等の沈殿生成を阻止する特徴を有する。 【0009】 一方、特許文献3には、鉄鋼試料を対象とする技術ではないが、含銅鉱物中における不純物元素の砒素を銅イオンと沈降分離するために、砒素鉱物の浮遊抑制剤として、トリエチレンテトラミン(TETA)や、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を使用する技術が開示されている。 【0010】 鉄鋼試料における介在物や析出相をSEM等でその場で観察するためには、試料を電解して、マトリックスを構成するFe成分を、Feイオンキレート剤で電解液中に保持し、介在物や析出相が試料表面に残留するように電解する。 一方、介在物や析出相の定量分析であれば、マトリックスのFe分をキレート剤によって電解液中に保持し、電解によって試料から離脱した介在物や析出相を溶解しないような電解液を用いて、これらを電解残渣として回収し、該残渣を同定・定量分析する。 したがって、介在物や析出相の同定・定量分析のための残渣回収を目的とする電解液については、Fe分を電解液中にキレート錯体として溶解状態を維持できることに主眼が置かれており、電解液中での介在物や析出相に対するコンタミネーションなどについては、特段の配慮がなされていなかった。 【先行技術文献】 【0011】 【特許文献1】特開2002−303620号公報 【特許文献2】特開2000−137015号公報 【特許文献3】特開2011−156521号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0012】 従来の非水溶媒系電解液中での電解腐食等による鋼材中の金属化合物分析の際に、介在物や析出相の微粒子、特に、各種金属化合物、中でもMnSの表層には、電解操作以外の手段で測定した含有量よりも高濃度のCuSが観察されるという原因不明の現象が観察されることがあった。このため、MnS粒子をあたかもCuS(Artifact CuS)として検知することがあった。 【0013】 本願発明者らは、その原因について、詳細に検討した結果、電解操作によって、電解液中に溶解度積Kspの小さい金属イオン(Cu2+)が生成すると、金属硫化物(MnS)の表面で、溶解度積Kspの大きい金属イオン(Mn2+)が、溶解度積Kspの小さい金属イオン(Cu2+)に置換(exchange)されることを発見した。また、このような硫化物表面での金属イオンの置換は、常温常圧で、しかも水溶液や非水溶媒中でも容易に進行することを突き止めた。 【0014】 その結果、鉄鋼試料中に、本来MnSとして存在していた介在物や析出相は、表面を観察する限り、CuSとして観察されることになり、また、MnSの表面に、電解液中のCuイオンに起因するCuSが、厚さ数十nm程度(1〜100nm)MnSと交換することで、残渣から質量分析を行っても、微細粒子の場合には、体積の相当部分をCuSが占めることとなるので、正確な定量が不可能となっていた。 【0015】 上記では、CuによるMnS表面へのアタック(MnS表面のMn原子とCu原子の置換現象)の事例で説明したが、Cu以外の金属においても同様な現象が発現することが推定できる。即ち、金属化合物表面での金属イオンの置換は、溶解度積Kspに相当の大小差(10ケタ(1010)程度以上の大小差)があるときに、容易に進行することが推定できる(以下、本明細書において、この現象を「Artifact」と呼ぶ)。より詳しくは、溶解度槓Kspの異なる2つの化合物のpKspの差(以下Δと称する場合がある)が約10以上であるとき、pKspの大きい(溶解度積Kspの小さい)化合物とpKspの小さい(溶解度積の大きい)化合物との置換が、容易に進行することが推定できる。 上記の条件は、以下の式で表すことができる。 Δ=pKsp[化合物(Kspの小さいもの)]−pKsp[化合物(Kspの大きいもの)] =(−log10Ksp[化合物(Kspの小さいもの)])−(−log10Ksp[化合物(Kspの大きいもの)]) ≧10 ここで、或る化合物の溶解度積KspはKsp[化合物]と表し、pKsp[化合物]=−log10Ksp[化合物]と表す。 【0016】 実際に、本発明者がMnSにAgを作用させる模擬実験を行ったところ、Agは、MnSにアタックして、Mnをイオン化して電解液中に追い出すと共に、自身は、MnS表面にAg2Sとして残留することが、確認された。ここで、Ag2SとMnSの溶解度積(またはpKsp)を比較すると、Ag2Sの溶解度積Kspが小さく(pKspが大きく)、MnSの溶解度積Kspが大きい(pKspが小さい)。Ag2SとMnSとの溶解度積KsPの差は37桁であり、pKspの差Δは36.6である。式で表すと、以下である。 Δ=pKsp[Ag2S]−pKsp[MnS] =50.1−13.5 =36.6≧10 【0017】 そこで、本願発明が解決しようとする課題は以下である。 ・溶媒系電解液での電解腐食法等による金属材料中の金属微粒子(介在物、析出物)の抽出や分析において、従来の抽出・分析方法を大きく変更することなく、Cuイオン等による金属微粒子の表面置換を抑制し、Artifact(擬制)CuS等の生成を防止することを課題とする。 ・特に金属硫化物(MnS、FeS等)に着目し、Artifact(擬制)CuS等の生成を防止することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0018】 本願発明者らは、上記課題を解決するための手法について、鋭意検討した。 その結果、溶媒系電解液中に、Artifact(擬制)金属硫化物を形成する金属(アタック金属)を存在させなければ、置換現象は発現しないという知見から、そのようなアタック金属を補足することに想い至った。すなわち、溶媒系電解液中に、Artifact(擬制)金属硫化物を形成する金属(アタック金属)を選択的に捕捉する薬剤(キレート剤等)を添加することにより、電解液中の自由なアタック金属が減少し、Artifact(擬制)金属硫化物が生成されないことに想到した。 【0019】 例えば、鉄鋼試料等から溶け出すCuイオンを、Cuイオンキレート剤により、電解液中に保持して、表面観察用鉄鋼試料表面のMnSを攻撃させないこと、或いは、介在物や析出相の同定・定量分析のための電解操作においても、同様に電解液中にCuキレート剤により、Cuイオンをキレート錯体として、電解液中に保持することで、介在物や析出相から作成された定量分析用残渣中に、CuSが混入しないようにすることで、表面観察用の鉄鋼試料中の介在物や析出相を本来の姿のままで観察可能とすることができ、また、解析対象である電解残渣中に、試料のマトリックス等から溶け出したCuイオンに由来するCuS等を含まず、本来、鉄鋼試料が含有していた介在物や析出相に起因する元素のみを、正しく同定・定量できることが判明した。 【0020】 本願発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。 (1)鉄鋼材料を電解液中でエッチングし、鉄鋼材料中の金属化合物粒子を抽出する方法において、 金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、 前記鉄鋼材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると、 下記式で定義されるΔが10以上となる金属M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなる電解液を用いること、 前記薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり、 前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなること、および、 前記電解液の溶媒はメタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれかであることを特徴とする、金属化合物粒子の抽出方法。 Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy]) ここで、MとM’は異なる金属元素であり、MがMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、AはSであり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表し、前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である。 【0021】 (2)(削除) 【0022】 (3)(削除) 【0023】 (4)(削除) 【0024】 (5)(削除) 【0025】 (6)(削除) 【0026】 (7)前記薬剤がトリエチレンテトラミンを含んでなることを特徴とする、上記(1)に記載の金属化合物粒子の抽出方法。 【0027】 (8)(削除) 【0028】 (9)前記エッチング後の電解液をフィルターに通し、捕集した残渣として金属化合物粒子を抽出する際に、前記フィルターが4フッ化エチレン樹脂製フィルターであることを特徴とする上記(1)、(7)のいずれかに記載の金属化合物粒子の抽出方法。 (10)前記薬剤はアセチルアセトンを含まない、ことを特徴とする(1)、(7)、(9)のいずれかに記載の金属化合物粒子の抽出方法。 【0029】 (11)上記(1)、(7)、(9)〜(10)のいずれかに記載の金属化合物粒子の抽出方法で抽出した金属化合物粒子を分析することを特徴とする金属化合物粒子の分析方法。 【0030】 (12)鉄鋼材料をエッチングし、鉄鋼材料中の金属化合物粒子を抽出する際に用いる電解液であって、 金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、 前記鉄鋼材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると、 下記式で定義されるΔが10以上となる金属M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなること、 前記薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり、 前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなること、および、 メタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれかを溶媒とすることを特徴とする、電解液。 Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy]) ここで、MとM’は異なる金属元素であり、MがMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、Aは、Sであり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表し、前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である 【0031】 (13)(削除) 【0032】 (14)(削除)。 【0033】 (15)(削除) 【0034】 (16)(削除) 【0035】 (17)(削除) 【0036】 (18)前記薬剤がトリエチレンテトラミンを含んでなることを特徴とする、上記(12)に記載の電解液。 【0037】 (19)(削除) (20)前記非水溶媒は、メタノール、エタノールの少なくとも一つを含んでなることを特徴とする(12)、(18)のいずれか1項に記載の電解液。 (21)前記薬剤はアセチルアセトンを含まない、ことを特徴とする(12)、(18)、(20)のいずれかに記載の電解液。 【発明の効果】 【0038】 ・本願発明によれば、抽出した金属微粒子の表面分析により、実態はMnSやFeSである微粒子をCuSと誤認することがなくなり、金属硫化物の真の姿(サイズ、成分)を知ることができ、さらには鉄鋼材料中の金属硫化物の含有量も正確に把握することができる。 ・本願発明によれば、電解操作によって鋼板試料表面に露出させた介在物或いは析出相等を鉄鋼試料中に本来存在していた成分及び形態で観察することが可能となる他、電解残渣の分析から介在物や析出相成分を定量分析する場合に、電解液から混入するCu等の影響を受けずに、正しく定量分析することができるので、鉄鋼試料の組織観察や、鉄鋼試料中の介在物或いは析出相の同定・定量分析の精度向上におおいに寄与するものである。 【図面の簡単な説明】 【0039】 【図1】本願発明に係る電解液を使用した電解装置の見取り図の一例を示すものである。 【図2】電解研磨した鉄鋼試料の介在物近傍のSEM写真と元素濃度を示すグラフである。 【図3】鏡面研磨した鉄鋼試料の介在物近傍のSEM写真と元素濃度を示すグラフである。 【図4】鉄鋼試料の電解残渣の分析結果を示すグラフである。 【図5】鏡面研磨した鉄鋼試料の介在物近傍のSEM写真と元素濃度を示すグラフである。 【発明を実施するための形態】 【0040】 本願発明により、金属材料を電解液中でエッチングし、金属材料中の金属化合物粒子を抽出する方法において、 金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、 前記金属材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると、 下記式で定義されるΔが10以上となる金属M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなる電解液を用いること、を特徴とする、金属化合物粒子の抽出方法、が提供される。 Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy]) ここで、MとM’は異なる金属元素であり、AはMまたはM’と化合物を形成する単原子または原子団であり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表し、前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である。 【0041】 本発明では、金属材料中の金属化合物粒子の抽出を行う。すなわち、金属材料を電解質溶液中でエッチングすることで、マトリックス(Fe等)を選択的に溶解し、金属材料に含まれる介在物や析出相等の金属化合物粒子を試料表面に露出させる。これにより、金属化合物粒子を観察可能な状態にできる。 金属試料中の微粒子の抽出方法としては、例えば、酸溶液中で鉄鋼試料の鉄マトリックスを溶解する酸分解法、ヨウ素メタノール混合溶液あるいは臭素メタノール混合溶液中で鉄鋼試料の鉄マトリックスを溶解するハロゲン溶解法、非水溶媒系定電流電解法、又は、非水溶媒系定電位電解(SPEED:Selective Potentiostatic Etching by Electrolytic Dissolution Method)法等を用いることができる。これらの内、非水溶媒を用いるSPEED法は、溶媒中に微粒子が分散された際に、組成やサイズの変化が起こり難く、不安定な微粒子でも安定的に抽出できるため好適である。本実施形態に関して、図1を参照しながら、非水溶媒系定電位電解法(SPEED法)による鉄鋼材料中の微粒子の評価方法を例に取り、説明を行うが、本発明における抽出の方法はSPEED法に限定されるものではなく、また、金属材料は鉄鋼材料に限定されるものではない。 【0042】 初めに、金属試料4を、例えば、20mm×40mm×2mmの大きさに加工して、表層のスケール等の酸化皮膜等を化学的研磨又は機械的研磨等により除去し、金属層を出しておく。逆に、酸化皮膜層に含まれる微粒子を解析する場合は、そのままの形態で残しておく。 【0043】 次に、この金属試料を、SPEED法を用いて電解する。具体的には、電解槽10に電解液9を満たし、その中に金属試料4を浸漬させて、参照電極7を金属試料4に接触させる。白金電極6と金属試料4を電解装置8に接続する。一般的に上記電解法を用いると、金属試料4のマトリックスとなる金属部分の電解電位に比べて、析出物等の鋼中微粒子の電解電位は、高い電解電位を持つ。そこで、電解装置8を用いて金属試料4のマトリックスを溶解し、かつ析出物等の微粒子を溶解しない電解電位の間に、電圧を設定することにより、マトリックスのみを選択的に溶解することが可能となる。表面マトリックス部分のFeが電解溶出された試料表面には、介在物或いは析出相5が浮き出し、SEM等による観察に適した状態となる。さらに、電解を続けて、介在物や析出相を試料表面から離脱させて、電解残渣11として回収し、電解液から濾過分離して、同定・定量分析に供することもできる。 【0044】 本願発明に係る金属材料用の電解液、即ち、介在物や析出相を観察するために表面のFeマトリックスを電解したり、介在物や析出相を定量分析するために、Feマトリックスを電解し、残渣を回収するための電解に用いる電解液は、好ましくは、 (1)Feイオンに対する錯体形成剤、 (2)電解液に導電性を担保させる為の電解質、 (3)形成されたFe等の錯体を液中に保持するための溶媒、 を含む。 【0045】 Feイオンに対する錯体形成剤としては、アセチルアセトン、無水マレイン酸、マレイン酸、トリエタノールアミン、サリチル酸、サリチル酸メチルの中から1種類以上を選択してもよい。 【0046】 電解質には、テトラメチルアンモニウムクロライド(TMAC)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化リチウム(LiCl)の中から1種類以上を選択することができる。 【0047】 溶媒は、各種錯体形成剤や、これらとFeの錯体を溶解状態で保持できるものである必要があり、非水溶媒であってもよい。水溶液系電解液では相対的に低い電解電圧(例えば−300mV以下)でも各種の析出物が分解するのに対し、非水溶媒系電解液は安定した電解領域が広く、超合金、高合金、ステンレスから炭素鋼までほとんどすべての鉄鋼材料に適用することができる。非水溶媒系電解液を用いた場合、主として、マトリックスの溶解と、溶解したFeイオンとキレート剤との(錯体化)反応が起こるだけであり、介在物或いは析出相5は溶解することなく、母材上で”insitu”な状態での三次元観察と分析を行う事ができる。非水溶媒としては、電解を円滑に進め、しかも、錯体化可能な有機化合物と支持電解質とを溶解する化合物が適しており、例えば、低級アルコール、例えば、メタノール、エタノール、又はイソプロピルアルコールを用いることができる。メタノール、又はエタノール、あるいはこれらの混合物を選択することができる。また、これらのアルコールと同程度かそれ以上の極性(双極子モーメント等)を有す溶媒であれば使用できる。 【0048】 従来の定電位電解法では、電解液として、例えば、10質量%アセチルアセトン(以降“AA”と称す)−1質量%テトラメチルアンモニウムクロライド(以降“TMAC”と称す)−メタノール溶液、又は10質量%無水マレイン酸−2質量%TMAC−メタノール溶液が用いられている。これらの電解液では、電解溶出されたFeが錯体を生成し、生成したFe錯体が電解液中に溶解する観点で好ましいため、多用されている。 【0049】 電解液にはマトリックス(Fe)以外の金属が、マトリックス(Fe)に比すれば相対的には僅かであるが、溶出することがある。その溶出金属の溶解度積Kspが小さく(言い換えると、pKsp(=−log10Ksp)が大きく)、介在物或いは析出相5や電解残渣11が溶解度積Kspの大きい(pKspが小さい)金属の金属化合物を含む場合、その金属化合物の表面で、溶解度積Kspの大きい(pKspが小さい)金属イオン(例えばMn2+)が、溶解度積Kspの小さい(pKspが大きい)金属イオン(例えばCu2+)に置換(exchange)されることを、本発明者が発見した。この置換は、溶解度積Kspの差が10ケタ(1010)程度以上の大小差があるときに、より詳しくは、溶解度積Kspの異なる2つの化合物のpKspの差Δが約10以上であるときに、容易に進行すると考えられる。溶解度積Kspの差が20ケタ(1020)程度以上の大小差があるとき、より詳しくは、pKspの差Δが約20以上であるときには、置換はさらに容易に進行すると考えられる。 【0050】 表1に、水溶液中25℃での硫化物の溶解度積Kspと、硫化物間のpKsp(=−log10Ksp)の差Δを示す。表中で、二重線の枠(または濃いグレーの枠)はpKspの差Δが22以上である硫化物の組み合わせであり、それらの組み合わせでは交換反応が容易にまたは秒単位で進行すると予想される。簡易的に記号で表せば、交換反応の期待度(予測)が◎と表現される。太線の枠(または薄いグレーの枠)はpKspの差Δが10以上22未満である硫化物の組み合わせであり、数分から数時間単位でかかったりすることがあるが、交換反応は進行すると予想される。簡易的に記号で表せば、交換反応の期待度(予測)が○〜△と表現される。細い線の枠(または白い枠)はpKspの差Δが10未満である硫化物の組み合わせであり、それらの組み合わせでは交換反応は進行しにくいと予想される。簡易的に記号で表せば、交換反応の期待度(予測)が△〜×と表現される。 なお、硫化物の溶解度積に関して、同じ元素の硫化物であっても結晶形態等によって、異なる溶解度積を示すものがある。表1では、pKspの差Δが小さくなる結晶形態等を有する硫化物を列記している。これは、pKspの差Δが大きくなる形態であっても、対象となる硫化物とのpKspの差Δが10以上となり、交換反応が進行すると考えられるからである。 【0051】 【表1】 【0052】 上記の溶解度積Kspは水溶液中の値であるが,同じ極性溶媒のメタノール等の非水溶媒中でも同じ傾向があることが推定される。 【0053】 例えば、鉄鋼試料表面或いは電解液残渣中にMnSが存在している場合、電解液中に溶出したCuイオンの硫化物は、MnSとのpKspの差Δが22.6であるため、MnSにアタックして、Mnをイオン化して電解液中に追い出すと共に、自身は、MnS表面にCuSとして残留する。つまり、Cu含有鉄鋼試料中に、本来MnSとして存在していた介在物や析出相は、その表面を観察する限り、CuSとして観察されることになる。また、MnSの表面に、電解液中のCuイオンに起因するCuSが、厚さ数十nm程度(1〜100nm)MnSを置換することで、残渣から質量分析を行っても、微細粒子の場合には、体積の相当部分をCuSが占めることとなるので、正確な定量が不可能となる。このような表面近傍の金属が置換される現象を、本明細書中では、Artifact(擬制)と呼ぶことがある。 【0054】 また、Agイオンの硫化物は、MnSとのpKspの差Δが36.6であるため、MnSにアタックして、Mnをイオン化して電解液中に追い出すと共に、白身は、MnS表面にAg2Sとして残留する。このことは、以下の手順により得られた図5で確認される。 ・MnSを介在物として含んでいることを確認済の鉄鋼試料を用意し、表面不純物を除くために、予め鏡面研磨を施す。 ・従来から知られている硫化物系介在物を残渣として回収できる4質量%サリチル酸メチル+1質量%サリチル酸+1質量%塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)を含み、溶媒がメタノールである電解液(4%MS)を用意する。 ・前記鉄鋼試料を前記電解液中で電解を行う。 ・電解終了後に、Agイオン溶液を前記電解液中に滴下し混合する。 ・Agイオン溶液滴下する前と後で、表面を電解した鉄鋼試料について、走査電子顕微鏡(SEM)による観察および、EDSによる表面元素濃度の計測を行う。 ・図5は、Agイオン滴下後のものであり、左上画像はSEM観察像であり、右上画像がSEM観察像に、EDSにより計測したAg濃度のチャートを重ねて示したものであり、左下画像がMn濃度のチャートを重ねて示したものであり、右下画像がS濃度のチャートを重ねて示したものである。 ・なお、当然のことながら、Agイオン滴下前では、Agの存在は認められなかった。 【0055】 図5の各元素濃度のチャートから、MnS粒子の表面部のみがAg2Sで置換されていることが確認される。チャートにおける各元素の高さ(濃度)は相対的なものであるが、以下のことが読み取れる。具体的には、介在物粒子の部分において、MnとSのグラフの値が山型に上昇しており、介在物粒子が、MnとSを含む、即ち具体的には、MnSを主成分とする粒子であることが確認される。Agは、介在物粒子の端部で濃度が高まっており、介在物粒子の表面でAgが濃化していることが確認される。また、介在物粒子の中央部では、Agの濃度は高まらず、MnおよびSの濃度が高いことから、MnSの表面だけがAgで置換されていることが確認される。 【0056】 本発明者らは、金属材料中の金属化合物粒子を抽出する方法において、特定の電解液を用いることにより、電解液中の自由なアタック金属が減少し、Artifact(擬制)を防ぐことができることを新しく見出した。特定の電解液は、金属化合物M’x’Ay’の金属(アタック金属)M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなり、ここで、金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、 金属材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると、 Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−lOg10Ksp[MxAy])≧10 である。 なお、ここでMとM’は異なる金属元素であり、AはMまたはM’と化合物を形成する単原子または原子団であり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表し、前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である。 【0057】 Artifact(擬制)を生じやすいアタック金属M’としては、その含有量や溶解度積Kspの低さ、言い換えるとpKspの高さからCuが顕著である。Cuは、Cu化合物に対してpKsp差Δがおよそ20であるMnSやFeSの表面を容易にアタックし、Artifact(擬制)を生じ得る。ただし、Artifact(擬制)あるいはアタック金属M’によるアタックは、pKspの差Δが大きいほど、生じやすいと考えられ、本発明の対象は、CuとMnSやFeSの組み合わせに限られるものではない。具体的には、大きいpKspを有する金属化合物M’x’Ay’の金属M’が、Hg、Ag、Cu、Pb、Cd、Co、Zn、およびNiの少なくとも一つであってもよく、これらはアタック金属M’になり得る。アタック金属M’は、主として、鋼材試料中に含まれる金属M’またはその化合物が電解液中に溶出したものであると考えられる。ただし、電解液や電解装置は再利用されることがあり、再利用された電解液や電解装置中に金属M’またはその化合物が存在することがあり、これがアタック金属M’となることもある。また、電解抽出操作の際に、金属M’またはその化合物がコンタミネーション物質として電解液中に混入し、アタック金属M’となることもある。 M’は、Hg、Ag、Cu、Pb、Cd、Co、Zn、およびNiの少なくとも一つであってもよいが、Mとは異なる金属元素である。Aは、MまたはM’と化合物を形成する単原子または原子団であり、C、N、H、S、O、PならびにFの原子からなる群より独立して選ばれる1つ以上の原子を含んでもよい。Hg、Ag、Cu、Pb、Cd、Co、Zn、およびNiの硫化物と、MnSとのpKspの差Δは、10以上である。特に、Hg、Ag、Cuの硫化物と、MnSとのpKspの差Δは、20以上である。 抽出対象金属化合物MxAyとアタック金属化合物M’x’Ay’のpKspの差Δが10程度の場合、数時間でArtifact(擬制)が生じ得る。実際の電解抽出分析は数時間のオーダーで行われることが多い。そのため、pKspの差Δが10程度の組み合わせは、分析に影響を与える可能性がある。本発明では、pKspの差Δが10以上と規定しており、その場合に生じ得るArtifact(擬制)を抑制することができる。 抽出対象金属化合物MxAyとアタック金属化合物M’x’Ay’のpKspの差Δが大きいほど、Artifact(擬制)が容易または迅速に生じ得る。本発明では、pKspの差Δが大きいMxAyとM’x’Ay’の組み合わせを選択することができ、それにより、容易または迅速に生じ得るArtifact(擬制)を抑制することができ、好ましい。この点で、M’x’Ay’のpKsp[M’x’Ay’]は、抽出対象金属化合物MxAyのpKsp[MxAy]に比べて、11以上大きいことが好ましく、12以上大きいことがさらに好ましくは、13以上大きいことがさらに好ましく、14以上大きいことがさらに好ましく、15以上大きいことがより好ましく、16以上大きいことがさらに好ましく、17以上大きいことがさらに好ましく、18以上大きいことがさらに好ましく、19以上大きいことがさらに好ましく、20以上大きいことがさらに好ましく、21以上大きいことが好ましく、22以上大きいことがさらに好ましく、23以上大きいことがさらに好ましく、24以上大きいことがさらに好ましく、25以上大きいことがより好ましく、26以上大きいことがさらに好ましく、27以上大きいことがさらに好ましく、28以上大きいことがさらに好ましく、29以上大きいことがさらに好ましく、30以上大きいことがさらに好ましく、31以上大きいことが好ましく、32以上大きいことがさらに好ましくは、33以上大きいことがさらに好ましく、34以上大きいことがさらに好ましく、35以上大きいことがより好ましく、36以上大きいことがさらに好ましく、37以上大きいことがさらに好ましく、38以上大きいことがさらに好ましく、39以上大きいことがさらに好ましく、40以上大きいことがさらに好ましい。 なお、溶解度積Kspは水溶液中の値であるが、表2で示すとおり、非水溶媒(低級アルコール)を用いた場合でもKspより求められるpKsp(−log10Ksp)の差Δが10以上で、反応が認められることが確認されている。具体的には、以下の確認試験を行った。 ・抽出対象物を含む試料として、MnSを含有する鋼材2種(MnSの粒径が1μm以上のもの、及び粒径100〜150nmのもの)を用意し、それらの表面に鏡面研磨仕上げを行った。 ・アタック金属M’+イオンとして、Ag、Cu、Pb、Co、Zn、Niの金属イオン濃度が、それぞれ1000μg/mlの6種類の原子吸光分析用標準溶液(M’+溶液)を用意した。M’溶液0.1mlを非水溶媒であるメタノール0.3mlと混合した。 ・鋼材表面に混合液を塗布して、鋼材表面の変化を確認した。 AgおよびCuを含む混合液を塗布したものは、塗布から5分以内に鋼材の表面が黒色に変化した。Pbを含む混合液を塗布したものは、塗布から10分程度で鋼材の表面が黒色に変化した。Co、Zn、Niを含む混合液を塗布したものは、塗布から20分程度で鋼材の表面が黒色に変化した。 ・さらに、変色のあった鋼材についてSEMおよびEDS観察を行ったところ、いずれもMnS粒子の表面でMnとアタック金属M’との置換(すなわち、Artifact(擬制))が生じていることが確認された。 このことから、本発明の範囲では、溶解度積Kspは水溶液中の指標であるが、非水溶液に適用することが可能であり、そこでの溶解度積Kspは水溶液中と同様の傾向を示すことが推定される。 また、pKspの差Δが大きいほど、置換(Artifact(擬制))反応が速いことも確認された。一方で、pKspの差Δが小さくとも、相対的に反応速度は遅くなるものの、着実に置換(Artifact(擬制))反応が進行することも確認された。鋼材の電解抽出分析は、数時間のオーダーで行われることが多い。例えば、試料を電解液に漬けておく時間として、2時間程度で計画していても、さらに1時間程度延長されることもある。pKspの差Δが10となるNi含有液とMnSを用いた場合、20分程度で変色が見られた。つまり、pKspの差Δが10以上では、置換(Artifact(擬制))反応が、問題となり得ることが確認された。 これに関連して、上記の確認試験に加えて、アタック金属M’+溶液とメタノールの混合液にさらに錯化剤としてトリエチレンテトラミン(TETA)0.1mlを加えたもの(錯化剤添加液)を用意し、それを鏡面仕上げ鋼材に塗布した場合の観察も行った。錯化剤添加溶液を加えた場合、数時間経過後も鋼材表面の変色は見られず、良好な鏡面研磨状態が保持された。SEMおよびEDS観察でも、Artifact(擬制)は確認されなかった。 【0058】 【表2】 【0059】 このようなアタック金属M’を含む錯体を形成する薬剤として、クラウンエーテルを利用可能である。クラウン(王冠)エーテルは、環状のポリエーテル(エーテル単位がいくつかつながったもの)であり、環状の穴部のサイズを変更することができる。そのため、アタック金属種M’に応じて、適当な穴を有するクラウンエーテルを用意でき、それによりアタック金属種M’のみを選択的に捕捉できる。 【0060】 アタック金属M’を含む錯体を形成する薬剤が、ポリエチレンアミン類、エチレンジアミン4酢酸、シクロヘキサンジアミン4酢酸のうちのいずれか1種または2種以上を含んでいてもよい。これらは、キレート剤として作用し、アタック金属M’を捕捉する。ポリエチレンアミン類として、トリエチレンテトラミン(TETA)、ペニシラミン、ペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。特に、トリエチレンテトラミン等のキレート剤は、CuイオンおよびNiイオン等に対する選択性が高く、アタック金属M’がCuやNi等である場合に、特に高い捕捉効果が発揮される。 表3は、アタック金属M’としてのCuまたはNiを各種キレート剤で捕捉したときの、錯体の安定度定数(Log10Kd)を示したものである。安定度定数が高いほど、アタック金属を捕捉し、再び遊離させにくいと考えられるため、好ましい。化合物M’x’Ay、特にCuSの生成を抑制する場合、アタック金属M’を含む錯体を形成する薬剤として、安定度定数が10以上のもの、好ましくは12以上のもの、さらに好ましくは14以上のもの、より好ましくは16以上のもの、さらに好ましくは18以上のもの、より好ましくは20以上のものを、選択してもよい。一般に、生成を抑制すべき化合物M’x’Ayの溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とすると、pKsp[M’x’Ay’](=−Log10Ksp[M’x’Ay’])とLogKdとの差、pKsp[M’x’Ay’]−LogKdが、26未満のもの、好ましくは24未満のもの、さらに好ましくは22未満のもの、より好ましくは20未満のもの、さらに好ましくは18未満のもの、より好ましくは16未満のものを、選択してもよい。 【0061】 【表3】 【0062】 アタック金属M’が捕捉され、アタック金属M’の錯体が形成される。アタック金属M’の錯体は上述の溶媒に溶解状態で保持される。そのため、pKspの差Δが大きい金属化合物MxAyが存在していても、アタック金属M’は金属化合物MxAyの表面での金属Mとの置換(すなわち、Artifact(擬制))を自由に行うことができない。言い換えると、M’x’Ay’の生成が抑制される。 【0063】 錯体を形成する薬剤、またはこれを含む電解液は、電解槽中で攪拌されてもよい。これにより、未反応の薬剤がアタック金属M’に接触しやすくなり、アタック金属M’が捕捉されやすくなる。攪拌の手段は、特に限定されないが、気泡発生器によるバブリング、マグネチックスターラーによる渦流等を用いてもよい。または、未反応の薬剤の液滴をアタック金属M’の近傍に滴下してもよい。未反応の薬剤がアタック金属M’に接触しやすいように、バブリングであれば100cc/分、好ましくは200cc/分、スターラーであれば100rpm、好ましくは200rpmを、下限としてもよい。バブリング量やスターラー回転数が高すぎると、電解対象物表面の剥離等の問題を生じる。そのため、バブリングであれば600cc/分、好ましくは500cc/分、スターラーであれば600rpm、好ましくは500rpmを上限としてもよい。 なお、一般的な電解操作において電解液の攪拌を行う場合、攪拌によって生じる電解液の流れが電解対象物に接触しないように、攪拌操作が行われる。これは、攪拌によって生じた電解液の流れが電解対象物に影響を与えないようにするという考えに基づく。本発明では、錯体を形成する薬剤がアタック金属M’またはその発生源に接触しやすいという観点から、攪拌等によって生じる電解液の流れが電解対象物に接触するように、当該薬剤を攪拌または供給してもよい。 また、バブリングのための気体としては窒素ガスやヘリウム、アルゴン等の不活性ガスが挙げられる。酸素や水素等の活性ガスは、電解液中の溶存酸素濃度に影響を与えるおそれがあり、電解対象物に影響を与えるおそれがあるため、好ましくない。 【0064】 本発明における金属材料が鉄鋼材料であってもよい。鉄鋼材料とは、鉄を主成分とする材料を指し、微量の炭素を含んでもよい。 【0065】 エッチング後の電解液をフィルターに通し、捕集した残渣として金属化合物粒子を抽出する際に、前記フィルターが4フッ化エチレン樹脂製フィルターであってもよい。介在物や析出相5や残渣11の同定・定量分析するために、電解液から介在物或いは析出相5や残渣11を濾し採るフィルターについては、従来使用されているニュークリポアフィルター(GE社製)では、溶解損傷して残渣を濾し採ることが難しい。特に、キレート剤がトリエチレンテトラミンを含むときに、フィルターの損傷が顕著である。4フッ化エチレン樹脂製フィルターであれば、キレート剤がトリエチレンテトラミンを含むときであっても、溶解損傷が少ないので、好ましい。 【0066】 本発明により、上記の方法により抽出した金属化合物粒子を分析することも提供される。金属化合物物粒子について、XRFにより概略組成分析を行い、またはICPにより精緻な組成分析を行ってもよい。また、表面分析手法として、SEMによる観察、EDSによる元素解析等を用いてもよい。エッチングの途中で、金属化合物が抽出される試料の表面を分析することにより、時系列で金属化合物の抽出される状況を観測することもできる。 【0067】 本発明により、電解液中に、介在物や析出相の構成成分元素を攻撃して置換するようなアタック金属(Cuイオン等)を選択的に錯体として保持し、電解液中で安定的に溶解維持する成分を添加すれば、試料の表面観察においては、介在物や析出相が鉄鋼試料中で本来存在する形態で観察することができ、また、介在物や析出相の同定・定量分析においては、解析対象である電解残渣中に上記Cuイオン等が混入して、介在物や析出相の同定・定量分析精度を低下させない。例えば、本発明による、抽出した金属微粒子の表面分析により、実態はMnSやFeSである微粒子をCuSと誤認することがなくなり、金属硫化物の真の姿(サイズ、成分)を知ることができ、さらには鉄鋼材料中の金属硫化物の含有量も正確に把握することができる。 【0068】 なお、鋼材中で、析出物MnSのMnがSeで容易に置換され、MnSeとして析出し得ることが報告されており、その理由として、MnSとMnSeが同じNaCl型構造であり、格子定数が極めて近いためであると言われている。元素周期律からすると、S、Seと同族であるTeや隣接する族のSbについても、MnSのSと容易に置換され、MnTeやMnSbとして析出することも予想される。そして、MnSが、MnSe、MnTeおよび、またはMnSbに容易に置換されるのであれば、MnSの正しい定量分析は、MnSe、MnTeおよびMnSbの定量分析の精度向上にも役立つものと考えられる。 【0069】 また、MnSの置換等によって生じるMnSeが、さらに他のセレン化物との置換(Artifact(擬制)反応を生じ得る。表4に、水溶液中25℃でのセレン化物間のpKsp(=−log10Ksp)の差Δを示す。表中で、二重線の枠(または濃いグレーの枠)はpKspの差Δが22以上であるセレン化物の組み合わせであり、それらの組み合わせでは交換反応が容易にまたは秒単位で進行すると予想される。簡易的に記号で表せば、交換反応の期待度(予測)が◎と表現される。太線の枠(または薄いグレーの枠)はpKspの差Δが10以上22未満であるセレン化物の組み合わせであり、数分から数時間単位でかかったりすることがあるが、交換反応は進行すると予想される。簡易的に記号で表せば、交換反応の期待度(予測)が○〜△と表現される。細い線の枠(または白い枠)はpKspの差Δが10未満であるセレン化物の組み合わせであり、それらの組み合わせでは交換反応は進行しにくいと予想される。簡易的に記号で表せば、交換反応の期待度(予測)が△〜×と表現される。 【0070】 【表4】 【0071】 本発明によれば、セレン化物についても、Artifact(擬制)を防ぐことができる。 【0072】 さらに本願発明により、上記の金属化合物粒子の抽出方法に用いる電解液も提供される。 【0073】 本願発明に係る電解液は、上記したアタック金属(Cuイオン等)を選択的に補足する薬剤(Cuイオンキレート剤等)以外の成分として、必要に応じて、SDSなどの粒子分散剤を含んでもよい。 【実施例1】 【0074】 以下、実施例を通じて、本願発明について説明する。ただし、本願発明は、以下の実施例に限定して解釈されるべきではない。 【0075】 本願発明に係る電解液及び電解方法によって、鉄鋼試料における介在物或いは析出相の観察を行った。対照例として、従来から知られている硫化物系介在物を残渣として回収できる4質量%サリチル酸メチル+1質量%サリチル酸+1質量%塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)を含む従来の電解液(4%MS)を用いて、電解した比較例を用いて、同じ鉄鋼試料の介在物或いは析出相の観察を行った。本願発明に係る電解液としては、トリエチレンテトラミン(TETA)5体積%+1質量%塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)の電解液(5%TETA)を用いた。なお、溶媒はいずれでもメタノールとした。 【0076】 結果を図2に示す。 図2aは本願発明に係る電解液によって表面を電解した鉄鋼試料、図2bは、従来の電解液を用いて表面を電解した鉄鋼試料の走査電子顕微鏡による観察写真に、EDSにより計測したCu濃度のグラフを重ねて示したものである。電解前に、鉄鋼試料には、表面不純物を除くために、予め鏡面研磨を施した。 それぞれの走査電子顕微鏡写真の下に、上記Cu濃度グラフのみを抽出して記載したものを同掲した。 【0077】 グラフにおける値の高さ(Cu濃度)は、相対的なものであるので、本願発明に係る電解液で電解した場合、Cu濃度は、析出粒子とFeマトリックス部分とで、差のないことが見て取れるのに対し、図2bに示した従来の電解液で電解してCu濃度を測定した場合には、析出粒子部分において、Cu濃度が上昇していることが判る。 【0078】 上記実施例及び対照例に使用した鉄鋼試料について、発明者らは、鏡面研磨のみを行い、元素分析に供してみた。 結果を図3に示す。同図において、SEMは、介在物粒子存在部分の走査電子顕微鏡写真である。この粒子と、その近傍について、元素解析を実施した。 その結果、介在物粒子の部分において、MnとSのグラフの値が上昇しており、介在物粒子が、MnとSを含む、即ち具体的には、MnSであることが確認できた。 一方、Cu成分は、ピークが見られず、介在物には含まれないことも確認できた。 【0079】 上述した結果から、従来の電解液を用いて、鉄鋼試料を電解し、SEM等による観察とEDSによるミクロ分析を行うと、本来、鉄鋼材料中で観察されるMnSが、電解液に浸漬したことにより、少なくともMnSの表面がCuSに汚染されて、CuSとして観察される不具合が生じることが判った。 【0080】 これに対して、本願発明に係る電解液を用いれば、上述した不具合が発生することなく、MnSは、MnSのまま保持されるので、SEM等による観察やEDSによるミクロ分析も、鉄鋼試料中に本来存在する状態で観察できるので、鉄鋼試料の分析精度の向上に大いに寄与することができる。 【実施例2】 【0081】 本願発明に係る電解液を使用した電解によって、鉄鋼試料における介在物或いは析出相の定量分析を行った。対照例として、従来の電解液を用いて電解した比較例を用意した。 【0082】 本実施例においては、鉄鋼試料として、0.4質量%Cu含有する鋼材を、1350℃×30minの加熱処理で溶体化した後、水中で急冷した試料を用いた。 電解液は、以下の3種類を用意した。 (1)4%MS:従来から知られている硫化物系介在物を残渣として回収できる4質量%サリチル酸メチル+1質量%サリチル酸+1質量%塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)を対照例としたもの。 (2)4%MS+5%TETA:(1)の4%MSに、Cuイオンと錯体を形成するトリエチレンテトラミン(TETA)5体積%を添加したもの。 (3)5%TETA:トリエチレンテトラミン(TETA)5体積%(TETA)5体積%+1質量%塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)の電解液。 なお、溶媒は(1)〜(3)のいずれでもメタノールとした。 【0083】 夫々の電解液について、試料を約1g相当電解して、得られた電解残渣に含まれるMnとCuの含有量を湿式化学分析で定量し、1g鋼材試料中に含まれる含有量を計算した。 【0084】 結果を図4に示す。 同図において、3本の帯グラフは、それぞれ電解残渣中から検出されたMnとCuを重ねて%単位で示したものであり、左から、(1)従来の電解液(4%MS)で電解した場合、(2)従来電解液に、TETA5体積%を添加した本願発明に係る電解液(4%MS+5%TETA)で電解した場合、(3)TETA5体積%(5%TETA)を添加した本願発明に係る電解液で電解した場合、を示す。いずれの場合もPt電極を陰極として、電解を行った。 【0085】 なお、実施例で採用した鉄鋼試料を鏡面研磨して、EDS等により成分元素の分布を解析したところ、試料中に含まれるCuは試料のマトリックス部分にそのほとんどが固溶しており、CuSやCu2S等の硫化物形態では存在していないことが確認されている。 【0086】 それにもかかわらず、図4の(1)に示した従来の電解液(4%MS)での電解においては、鉄鋼試料中の硫化物が主成分とみられる電解残渣中から、143ppmであるMn濃度を上回る濃度のCu濃度(334ppm)が測定された。 【0087】 (2)に示すグラフは、トリエチレンテトラミン5体積%を添加した本願発明に係る電解液(4%MS+5%TETA)で電解した際の電解残渣中から測定されたMnとCuの濃度を示す。 この場合、電解残渣中のCu成分は、62ppmにまで減少している。 【0088】 また、(3)は、本願発明に係るトリエチレンテトラミン5体積%電解液(5%TETA)の場合の測定値を示す。 電解残渣から計測されるCu濃度は、12ppmまで減少した。 【0089】 なお、トリエチレンテトラミンを電解液に添加した本願発明に係る電解液中では、従来のニュークルポアフィルターは溶解してしまうため、当該電解液に不溶性のフィルターを使用する必要がある。 本願発明者らは、ポリフルオロエチレン製フィルターを採用することで、フィルターの溶解現象を防ぐことができることを発見した。 【0090】 即ち、本願発明に係る電解液を用いて、鉄鋼試料を電解すれば、残渣の化学分析精度が向上し、試料中に存在する介在物や析出相を正確に同定・定量することが可能となる。 【産業上の利用可能性】 【0091】 本願発明に係る電解液を用いて鉄鋼試料を電解することで、試料中の介在物や析出相を試料中に本来存在するままの形態で観察することが可能となると共に、これら介在物や析出相の化学分析においても、Cu等によるコンタミに起因する汚染を排除することができ、化学分析の精度向上を図ることができる。 【符号の説明】 【0092】 4 金属試料 5 介在物・析出相粒 6 電極(陰極側) 7 参照電極 8 電源(ポテンショスタット) 9 電解液 10 電解槽 11 電解残渣 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 鉄鋼材料を電解液中でエッチングし、鉄鋼材料中の金属化合物粒子を抽出する方法において、 金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、 前記鉄鋼材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると、 下記式で定義される△が10以上となる金属M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなる電解液を用いること、 前記薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり、 前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなること、および、 前記電解液の溶媒はメタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれかであることを特徴とする、金属化合物粒子の抽出方法。 Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy]) ここで、MとM’は異なる金属元素であり、MがMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、AはSであり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表し、前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である。 【請求項2】(削除) 【請求項3】(削除) 【請求項4】(削除) 【請求項5】(削除) 【請求項6】(削除) 【請求項7】 前記薬剤がトリエチレンテトラミンを含んでなることを特徴とする、請求項1に記載の金属化合物粒子の抽出方法。 【請求項8】(削除) 【請求項9】 前記エッチング後の電解液をフィルターに通し、捕集した残渣として金属化合物粒子を抽出する際に、前記フィルターが4フッ化エチレン樹脂製フィルターであることを特徴とする請求項1、7のいずれか1項に記載の金属化合物粒子の抽出方法。 【請求項10】 前記薬剤はアセチルアセトンを含まない、ことを特徴とする請求項1、7、9のいずれか1項に記載の金属化合物粒子の抽出方法。 【請求項11】 請求項1、7、9〜10のいずれか1項に記載の金属化合物粒子の抽出方法で抽出した金属化合物粒子を分析することを特徴とする金属化合物粒子の分析方法。 【請求項12】 鉄鋼材料をエッチングし、鉄鋼材料中の金属化合物粒子を抽出する際に用いる電解液であって、 金属化合物M’x’Ay’の溶解度積をKsp[M’x’Ay’]とし、 前記鉄鋼材料中に含まれる抽出対象金属化合物MxAyの溶解度積をKsp[MxAy]とすると、 下記式で定義されるΔが10以上となる金属M’を含む錯体を形成する薬剤を含んでなること、 前記薬剤によって捕捉された金属M’の錯体の安定度定数(Log10Kd)が14以上であり、 前記薬剤がポリエチレンアミン類を含んでなること、および、 メタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコールのいずれかを溶媒とすることを特徴とする、電解液。 Δ=pKsp[M’x’Ay’]−pKsp[MxAy] =(−log10Ksp[M’x’Ay’])−(−log10Ksp[MxAy]) ここで、MとM’は異なる金属元素であり、MがMnであり、M’がCu、Zn、およびNiの少なくとも一つであり、Aは、Sであり、x、x’、y、y’はM、M’、Aの価数に応じて決まる前記化合物の組成比を表し、前記溶解度積Kspは水溶液中25℃での値である 【請求項13】(削除) 【請求項14】(削除) 【請求項15】(削除) 【請求項16】(削除) 【請求項17】(削除) 【請求項18】 前記薬剤がトリエチレンテトラミンを含んでなることを特徴とする、請求項12に記載の電解液。 【請求項19】(削除) 【請求項20】 前記非水溶媒は、メタノール、エタノールの少なくとも一つを含んでなることを特徴とする請求項12、18のいずれか1項に記載の電解液。 【請求項21】 前記薬剤はアセチルアセトンを含まない、ことを特徴とする請求項12、18、20のいずれか1項に記載の電解液。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-10-27 |
出願番号 | P2018-500237 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(G01N)
P 1 651・ 121- YAA (G01N) P 1 651・ 113- YAA (G01N) P 1 651・ 536- YAA (G01N) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
井上 博之 |
特許庁審判官 |
三崎 仁 蔵田 真彦 |
登録日 | 2020-04-13 |
登録番号 | 6690699 |
権利者 | 日本製鉄株式会社 |
発明の名称 | 金属化合物粒子の抽出方法、その金属化合物粒子の分析方法、およびそれらに用いられる電解液 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 堂垣 泰雄 |
代理人 | 福地 律生 |
代理人 | 木村 健治 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 福地 律生 |
代理人 | 齋藤 学 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 堂垣 泰雄 |
代理人 | 木村 健治 |
代理人 | 齋藤 学 |