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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
管理番号 1381657
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-02-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-26 
確定日 2021-12-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第6698953号発明「窒化ホウ素粉末、その製造方法及びそれを用いた放熱部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6698953号の請求項1〜4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6698953号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜4に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)8月17日(優先権主張 平成29年10月13日)を国際出願日として出願され、令和2年5月1日にその特許権の設定登録がされ、同年5月27日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許の請求項1〜4に係る特許について、特許異議の申立てがあり、次のとおりに手続きが行われた。

令和 2年11月26日 :特許異議申立人 安藤宏(以下、「申立人」
という。)による請求項1〜4に係る特許に
対する特許異議の申立て
令和 3年 3月23日付け:取消理由通知
同年 6月10日 :特許権者との面接
同年 6月29日 :特許権者による意見書の提出


第2 本件発明
本件特許の請求項1〜4の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
以下の(A)〜(C)の特徴を有する、一次粒子が鱗片状の六方晶窒化ホウ素が凝集して塊状粒子になった塊状窒化ホウ素を含む窒化ホウ素粉末。
(A)前記塊状粒子における累積破壊率63.2%時の粒子強度が5.0MPa以上であること。
(B)前記窒化ホウ素粉末の平均粒径が2μm以上20μm以下であること。
(C)前記窒化ホウ素粉末のX線回折から求められる配向性指数が20以下であること。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化ホウ素粉末を含み、膜厚が100μm以下である放熱部材。
【請求項3】
請求項1に記載の窒化ホウ素粉末の製造方法であって、
炭素量18%以上21%以下かつ平均粒径5μm以上15μm以下である炭化ホウ素を、1800℃以上かつ0.6MPa以上の窒素加圧雰囲気にて焼成する、加圧窒化焼成工程と、
前記加圧窒化焼成工程により得られた焼成物をホウ素源と混合し、脱炭開始可能な温度に上昇させた後に昇温速度5℃/min以下で1800℃以上である保持温度になるまで昇温を行い、前記保持温度の窒素雰囲気にて保持することで塊状窒化ホウ素を得る、脱炭結晶化工程と、
前記脱炭結晶化工程により得られた塊状窒化ホウ素を粉砕し、平均粒径が2μm以上20μm以下である窒化ホウ素粉末を得る粉砕工程と
を含む、製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の窒化ホウ素粉末の製造方法であって、
ホウ酸アルコキシドガスおよびアンモニアガスを、750℃以上で気相反応させる気相反応工程と、
前記気相反応工程により得られた中間体を、1000℃までは20体積%以下のアンモニア雰囲気で、1000℃以上では50体積%以上の割合のアンモニア雰囲気の条件にて1500℃以上である焼成温度に至るまで昇温し、前記焼成温度にて焼成を行い、塊状窒化ホウ素を得る結晶化工程と、
前記結晶化工程により得られた塊状窒化ホウ素を粉砕し、平均粒径が2μm以上20μm以下である窒化ホウ素粉末を得る粉砕工程と
を含む、製造方法。」


第3 特許異議の申立ての理由及び証拠方法について
申立人は、以下のとおり、証拠方法として甲第1号証〜甲第7号証(以
下、それぞれ「甲1」〜「甲7」という。)を提出し、本件特許は、申立理由1〜4により取り消すべきものである旨主張している。

1 申立ての理由
(1)申立理由1(新規性欠如)、申立理由2(進歩性欠如)
ア(甲1〜甲4を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)
本件発明1、2は、甲1、甲2、甲3又は甲4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するか、または、甲1、甲2、甲3又は甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

イ(甲5を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件発明1〜3は、甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

ウ(甲6を主たる証拠、甲7を従たる証拠とした進歩性欠如)
本件発明1、2、4は、甲6に記載された発明及び甲7に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)申立理由3(サポート要件違反)
本件発明1〜4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(3)申立理由4(実施可能要件違反)
本件発明1〜4に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 証拠方法
甲1:国際公開第2016/092952号
甲2:国際公開第2013/145961号
甲3:国際公開第2014/003193号
甲4:国際公開第2014/199650号
甲5:特開2011−98882号公報
甲6:国際公開第2015/122378号
甲7:国際公開第2015/122379号


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
当審において通知した令和3年3月23日付けの取消理由通知における取消理由の概要は、以下のとおりである

1 取消理由
(1)取消理由1(新規性欠如)について
本件発明1、2は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)取消理由2(進歩性欠如)について
本件発明2は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)取消理由3(実施可能要件違反)
本件発明1において、「(B)前記窒化ホウ素粉末の平均粒径が2μm以上20μm以下であること。」と特定されているが、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0076】には「(1)平均粒径 平均粒径は、ベックマンコールター社製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(LS−13 320)を用いて、測定処理の前に試料にホモジナイザーをかけずに測定した。また、得られた平均粒径は体積統計値による平均粒径である。」と記載されているのみであって、具体的な測定条件等は不明であるから、当業者が本件発明1に係る窒化ホウ素粉末の平均粒径について測定可能であるとはいえない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、粉末の平均粒径が特定された本件発明1について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。本件発明1を引用する本件発明2〜4についても同様である。
よって、本件発明1〜4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 証拠方法
甲1:国際公開第2016/092952号


第5 当審の判断
1 取消理由についての判断
(1)取消理由1、2(新規性進歩性欠如)について
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の記載事項a〜lを認めることができる。
a「[0001] 本発明は、六方晶窒化ホウ素(以下、「hBN」ともいう。)粉末及びそのhBN粉末を用いた樹脂シートに関し、特に緻密なhBNの一次粒子で構成された凝集体を含有し、その凝集体の強度が高く、高純度で微細なhBN粉末、当該hBN粉末の製造方法、当該hBN粉末を用いた樹脂組成物及び樹脂シートに関する。」

b「[0007] 本発明は、緻密なhBNの一次粒子で構成された凝集体(以下、「凝集体」ともいう。)を含有し、その凝集体の強度が高く、高純度で微細なhBN粉末、当該hBN粉末の製造方法、並びに当該hBN粉末を用いて従来よりも高い熱伝導性を発現できる樹脂組成物及び樹脂シートを提供することを課題とする。」

c「[0008] 発明者らは、十分な強度を有する凝集体を含有し、純度も高く微細なhBN粉末について検討を重ねた。
その結果、hBNの一次粒子の凝集体を含むhBN粉末であって、目開き45μm篩下の粉末含有率が80質量%以上であり、一次粒子径が5μm以下、BET比表面積が15〜25m2/g、50%体積累積粒径D50が10〜15μmである、hBNを得ることで前記課題を解決することを見出した。
これは、上記hBN粉末が、緻密なhBNの一次粒子で構成された、強度の高い凝集体を含有するため、微細な粉末であっても、当該凝集体が壊れずに顆粒形状を維持することによるものと考えられる。また、凝集体の強度が高く、凝集体が壊れないため、熱伝導性シートに異方性が生じることがなく、高い熱伝導性を発現することができると考えられる。
ここで、凝集体の強度は、実施例に記載の強度試験により評価され、凝集体が圧縮により破壊されたときの強度(以下、「圧縮破壊強度」ともいう。)で表される。・・・」

d「[0013] <一次粒子>
本発明のhBN粉末の一次粒子径は、一次粒子の凝集体の圧縮破壊強度の向上の観点から、平均で、5μm以下であり、好ましくは0.5〜5μm、より好ましくは1〜4.5μm、更に好ましくは1.4〜4μm、より更に好ましくは1.8〜3.5μm、より更に好ましくは2〜3μmである。
なお、一次粒子径は、実施例に記載の方法により測定した、一次粒子の長径の数平均値である。
本発明のhBN粉末に含まれる一次粒子は、鱗片状であってもよい。ここで、「鱗片状」とは、一次粒子の厚みに対する一次粒子の長径の比(長径/厚み)が5〜20である形状を意味する。このように一次粒子が鱗片状である場合であっても、凝集体にすることにより、樹脂組成物及び樹脂シート内におけるhBN粉末の充填率を上げても一次粒子が一定の方向に配向することが防止又は抑制される。」

e「[0060][実施例1]
(1)粗製hBN粉末の作製
ホウ酸4g、メラミン2g及び水1gを加えたものを撹拌混合し、金型内に入れて加圧し、密度0.7g/cm3の成形体を得た。この成形体を乾燥機中にて300℃で100分間乾燥させたものをNH3ガス雰囲気下1100℃で120分間仮焼きした。この得られた仮焼物(粗製hBN)を粉砕して粗製hBN粉末(酸化ホウ素の含有量35質量%)を得た。
[0061](2)hBN粉末の作製
上記粗製hBN粉末100質量部に対して、炭素源として昭和電工(株)製の人造黒鉛微粉「UF−G30」を炭素換算で12質量部及びPVA水溶液(濃度2.5質量%)を10質量部加えることにより、hBN粉末100質量部に対する炭素源の炭素換算含有量が12質量部である混合物を得、この混合物をミキサーで撹拌混合した後、金型内に入れて、加圧し、密度1.2g/cm3の成形体を得た。この成形体を乾燥機中にて300℃で6時間乾燥させて乾燥物を得た。この乾燥物を、高周波炉において、窒素ガス雰囲気下、1750℃〜2200℃で合計6時間焼成することでhBN焼成物を得た。得られたhBN焼成物をジョークラッシャー及びピンミルを用いて粉砕後、乾式振動篩装置[晃栄産業(株)製、商品名「佐藤式振動ふるい機」]を用いて、篩分時間60分の条件にて目開き45μm篩を用いて分級した。当該分級後における篩下のhBN粉末を実施例1に係るhBN粉末とした。
なお、上記のように分級して得られた実施例1に係るhBN粉末を、さらに後述する減圧吸引型篩分け機(エアージェットシーブ[アルパイン社製、機種名「A200LS」])を用いて、目開き45μm篩上下に分級したところ、hBN粉末の目開き45μm篩上の粉末含有率は11質量%であり、目開き45μ篩下の粉末含有率は89質量%であった。
このhBN粉末をSEMで観察したところ、図2に示されるように一次粒子がランダムな方向を向いた緻密なhBN凝集体を含むことが確認された。なお、図1は、図2中に存在するhBN凝集体の模式図である。
[0062](3)樹脂組成物の調製
有機マトリックスとして、液状硬化性エポキシ樹脂[ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名「jER828」、ビスフェノールA型、エポキシ当量184−194g/eq]100質量部と、硬化剤としてのイミダゾール[四国化成工業(株)製、商品名「2E4MZ−CN」]5質量部との併用物を用いた。
まず、前記の有機マトリックス100質量部に対して、前記のhBN粉末を当該hBN粉末及び当該有機マトリックスの総量中における含有量が60体積%となるように加え、倉敷紡績(株)製、マゼルスターを用いて撹拌混合し樹脂組成物を調製した。
なお、前記hBN粉末の体積基準の含有量(体積%)は、hBN粉末の比重(2.27)及び有機マトリックスとして用いられる液状硬化性エポキシ樹脂の比重(1.17)から求めた。
[0063](4)樹脂シートの作製
横10.5cm、縦13cmに切り取った離型フィルム上に、硬化膜厚が500μm以下となるように金型を用いて成形したのち、金型ごと離型フィルムに挟み、離型フィルムを介して、120℃、18MPaの条件で10分間圧着することにより、樹脂組成物を硬化させ、樹脂シートを作製した。」

f「[0073] (hBN粉末の50%体積累積粒径及び90%体積累積粒径(D50及びD90))
粒度分布計[日機装(株)製、機種名「マイクロトラックMT3300EXII」]を用いてhBN粉末の体積規準のレーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(50%体積累積粒径、D50)と累積90%粒子径(90%体積累積粒径、D90)を測定した。粒度分布測定は実施例及び比較例で得られたhBN粉末0.06gを純水50gに3分間超音波処理することで調製した分散液を用いて行った。超音波処理は出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で超音波処理装置[(株)日本精機製作所製、機種名「超音波ホモジナイザーUS−150V」]を用いて行った。」

g「[0076] (圧縮破壊強度)
実施例1〜3及び比較例1〜3のhBN焼成物を粉砕後、目開き106μm及び目開き45μmの篩を2段重ねで用いて前記乾式振動篩装置(篩分時間60分)にて分級した45〜106μmの粒径を有するhBN凝集体を任意に5〜100個程度抽出し、微小圧縮試験機[(株)島津製作所製、機種名「MCT−510」]を用いて強度試験を行った。
試験条件として、試験荷重を10〜1000mN、負荷速度を0.446mN/secとし、平面圧子を用いて、hBN凝集体に対して圧縮を行い、hBN凝集体が圧縮により破壊されたときの強度を測定した。これら測定値の平均値を圧縮破壊強度とした。」

h「[表2]


i「[0085] 表2に示すとおり、実施例1〜3のhBN粉末は、比較例で得られたhBN粉末と比べて、目開き45μm篩下の粉末を88〜89質量%含有し、緻密な一次粒子からなり、圧縮破壊強度は高いことが分かる。
また、実施例1〜3及び比較例1〜3の気孔率は他の特性と関係なく、ほぼ一定の値を示した。一方、平均細孔直径が小さくなるにつれ、BET比表面積及び圧縮破壊強度は高い値となり、平均細孔直径はBET比表面積及び圧縮破壊強度と相関関係があることが分かる。これはhBN凝集体の内部構造の違いが寄与しているものと考えられる。
つまり、平均細孔直径が小さい場合には、hBN凝集体内に小さな空隙が多数点在しており、微小なhBN一次粒子同士が相互干渉し、崩壊しにくい構造を形成していると考えられる。一方で平均細孔直径が大きい場合は、少数の大きな空隙が点在しており、hBN一次粒子同士の干渉が不十分であるために崩壊しやすい構造となっているもの考えられる。
図3に示す断面SEM観察により、平均細孔直径の小さい実施例1の粒子は粒子間の細孔直径が小さく、微小なhBN一次粒子でhBN凝集体が構成されていることが確認できる。一方、図4に示す断面SEM観察により、平均細孔直径の大きい比較例1の粒子は粒子間の細孔直径が大きく、大きなhBN一次粒子でhBN凝集体を構成していることが確認できる。
また、実施例1〜3の樹脂シートはいずれも熱伝導率が10W/m・K以上であり、比較例1〜3の樹脂シートよりも熱伝導性が優れていることが分かる。これは撹拌混合時に凝集体が壊れず、図5に示す模式図のように顆粒形状を維持することができたためであると考えられる。
なお、このようにして得られたhBN粉末を用い、熱伝導率及び成形性に優れる膜厚100μmの樹脂シートが得られる。本発明のhBN粉末を用いて、得られる樹脂シートの膜厚を薄くすることにより、優れた熱伝導率を有する、電子部品の軽薄化に有用な熱伝導性シートを提供することができる。」

j「[請求項1] 六方晶窒化ホウ素の一次粒子の凝集体を含む六方晶窒化ホウ素粉末であって、
目開き45μm篩下の粉末含有率が80質量%以上であり、一次粒子径が5μm以下、BET比表面積が15〜25m2/g、50%体積累積粒径D50が10〜15μmである、六方晶窒化ホウ素粉末。
・・・
[請求項5] 一次粒子の凝集体の圧縮破壊強度が3MPa以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末。」

k「[図1]


l「[図2]


イ 甲1に記載された発明
記載事項aのとおり、甲1には、六方晶窒化ホウ素(hBN)の一次粒子の凝集体を含む六方晶窒化ホウ素粉末に関する発明が記載されている。
上記d、k、lによると、上記凝集体の一次粒子は、鱗片状であるといえる。
記載事項e、hのとおり、実施例1には、50%体積平均粒径D50が14.1μmのhBN(六方晶窒化ホウ素)粉末であり、hBN凝集体の圧縮破壊強度が7.8MPaであり、hBN粉末の一次粒子がランダムな方向を向いた緻密なhBN凝集体を含む、hBN粉末が得られたことが記載されている。
そうすると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「一次粒子が鱗片状の六方晶窒化ホウ素の凝集体を含む六方晶窒化ホウ素粉末であって、前記凝集体の圧縮破壊強度が7.8MPaであり、前記六方晶窒化ホウ素粉末の50%体積平均粒径D50が14.1μmであり、六方晶窒化ホウ素粉末の一次粒子がランダムな方向を向いた窒化ホウ素凝集体を含む、六方晶窒化ホウ素粉末。」

ウ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「一次粒子が鱗片状の六方晶窒化ホウ素の凝集体」は、一次粒子が凝集した二次粒子であり、塊状であるといえるから、本件発明1の「一次粒子が鱗片状の六方晶窒化ホウ素が凝集して塊状粒子になった塊状窒化ホウ素」に相当する。また、甲1発明の「六方晶窒化ホウ素粉末」は、本件発明1の「窒化ホウ素粉末」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、一次粒子が鱗片状の六方晶窒化ホウ素が凝集して塊状粒子になった塊状窒化ホウ素を含む窒化ホウ素粉末である点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

相違点1:本件発明1は「(A)前記塊状粒子における累積破壊率63.2%時の粒子強度が5.0MPa以上であること。」を発明特定事項としているのに対して、甲1発明は「前記凝集体の圧縮破壊強度が7.8MPa」であると規定している点。

相違点2:本件発明1は「(B)前記窒化ホウ素粉末の平均粒径が2μm以上20μm以下であること。」を発明特定事項としているのに対して、甲1発明は「前記六方晶窒化ホウ素粉末の50%体積平均粒径D50が14.1μm」であると規定している点。

相違点3:本件発明1は「(C)前記窒化ホウ素粉末のX線回折から求められる配向性指数が20以下であること。」を発明特定事項としているのに対して、甲1発明は「六方晶窒化ホウ素粉末の一次粒子がランダムな方向を向いた窒化ホウ素凝集体を含む」と規定している点。

(イ)相違点についての検討
事案にかんがみ、まず、相違点2について検討すると、甲1発明の六方晶窒化ホウ素粉末の50%体積平均粒径D50は、記載事項fによると、「粒度分布測定は実施例及び比較例で得られたhBN粉末0.06gを純水50gに3分間超音波処理することで調製した分散液を用いて行った。超音波処理は出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で超音波処理装置[(株)日本精機製作所製、機種名「超音波ホモジナイザーUS−150V」]を用いて行った。」というものである。
ここで、令和3年6月29日付け特許権者の意見書に添付された乙第1号証(特開2016−60661号公報)を参照すると、六方晶窒化硼素粉末の懸濁液に超音波分散処理をすると、平均粒子径が減少することが記載されている(特に、段落【0060】〜【0063】、【0067】、表2)。
そうすると、甲1発明の六方晶窒化ホウ素粉末の体積平均粒径は、超音波処理の影響を受けて、減少している可能性があり、超音波処理前の粒径は明らかであるとはいえない。

一方、本件発明1の平均粒径は、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0076】によると、「平均粒径は、ベックマンコールター社製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(LS−13 320)を用いて、測定処理の前に試料にホモジナイザーをかけずに測定した。また、得られた平均粒径は体積統計値による平均粒径である。」というものであって、超音波処理を行わずに粒径を測定したものであると解される。
そうすると、甲1発明の「六方晶窒化ホウ素粉末の50%体積平均粒径D50」が、本件発明1で特定されている「窒化ホウ素粉末の平均粒径」に相当するとはいえないから、相違点2は、実質的な相違点である。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

ここで、上記第3の1(1)に記載した申立理由2(甲1を主たる証拠とした進歩性欠如)についても併せて検討をしておくと、上記で検討したとおり、相違点2は、本件発明1と甲1発明との実質的な相違点であるところ、甲1の記載をみても、甲1発明に係る六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒径を、本件発明1が特定する範囲内とすることについて、これを示唆する記載は認められず、また、これを容易想到の事項というに足りる周知技術なども見当たらないから、本件発明1は、甲1発明に対して進歩性を欠如するものということはできない。
したがって、申立人が主張する申立理由2(甲1を主たる証拠とした進歩性欠如)は理由がない。

エ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記ウの本件発明1の判断と同様に、本件発明2は、甲1に記載された発明とはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

オ 小括
以上のとおりであるから、取消理由1、2は理由がない。

(2)取消理由3(実施可能要件違反)について
上記第4の1(3)に摘記した本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0076】には、「ホモジナイザーをかけずに測定した」とあるから、本件発明においては、単に窒化ホウ素粉末を溶媒に投入して測定装置に供したことが理解できる。そして、その際、「平均粒径は、ベックマンコールター社製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(LS−13 320)を用いて・・・測定した。」とされているのであるから、これらの記載により、当業者であれば、本件発明に係る窒化ホウ素粉末の平均粒径は、この特定の測定装置を使用し、その取扱説明書に従って測定したものであることを諒解するとみるのが合理的である。加えて、上記の記載のみでは当該平均粒径を測定することができないとする根拠も見出せない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載には、当該平均粒径についての実施可能要件違反に係る不備は見当たらないから、取消理由3は理由がない。

2 取消理由において採用しなかった申立理由についての判断
(1) 申立理由1、2(新規性進歩性欠如)について
ア 甲2を主たる証拠とした新規性及び進歩性欠如
(ア)甲2に記載された発明
甲2には、
「[請求項1] 異なる圧縮破壊強度をもつ2種のフィラー(ただし、前記2種のフィラーは同一物質である場合は除く。)と熱硬化性樹脂(C)を含み、前記2種のフィラーの圧縮破壊強度比[圧縮破壊強度が大きいフィラー(A)の圧縮破壊強度/圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)の圧縮破壊強度]が5〜1500であることを特徴とする硬化性放熱組成物。
[請求項2] 圧縮破壊強度が大きいフィラー(A)の圧縮破壊強度が100〜1500MPaであり、圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)の圧縮破壊強度が1.0〜20MPaである請求項1記載の硬化性放熱組成物。
・・・
[請求項4] 前記フィラー(B)が六方晶窒化ホウ素凝集粒である請求項2記載の硬化性放熱組成物。」
及び
「[0016] 圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)の好ましい平均粒子径の範囲は10〜120μm、好ましくは30〜80μmである。10μm未満では圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)の変形、破壊を効率よく行えず、120μmを超えると基材に塗布したときに平滑性が失われる。」
との記載がある。
ここで、六方晶窒化ホウ素凝集粒であるフィラー(B)に着目すると、甲2には、
「圧縮破壊強度が1.0〜20MPaであり、平均粒子径が10〜120μmである六方晶窒化ホウ素凝集粒」
の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

(イ)判断
申立人は、本件発明1と甲2発明とを対比し、甲2発明の六方晶窒化ホウ素凝集粒の圧縮破壊強度は、本件発明1の(A)の粒子強度に相当し、甲2発明の平均粒子径は、本件発明1の(B)の窒化ホウ素粉末の平均粒径を包含するものであり、さらに甲2発明の配向指数が20以下である蓋然性が高く、相違点はないから、本件発明1は、甲2に記載された発明であるか、または甲2に記載された発明から容易になし得たものである旨主張している。
しかし、甲2の[0060]、[0061]に、甲2発明として認定したフィラー(B)に該当する六方晶窒化ホウ素凝集粒の具体例が記載されているところ、これらの具体例は、本件発明1の平均粒径及び累積破壊率63.2%時の粒子強度を同時に充足するものであるとはいえず、配向指数も明らかでないから、本件発明1は、甲2に記載されたものであるとはいえない。また、甲2には、甲2発明において、本件発明1で特定する平均粒径の範囲かつ本件発明1で特定する粒子強度の範囲とすること、及び、本件発明1で特定する配向性指数の範囲に調節することが示唆されているともいえない。
そうすると、甲2発明は、本件発明1が特定する(A)〜(C)の特徴をすべて有するものではない点において、少なくとも本件発明1とは実質的に相違し、この相違点に係る本件発明1の構成が容易想到の事項というに足りる証拠も見当たらないというほかないから、申立人の主張は採用できず、結局、本件発明1及びこれを引用する本件発明2は、甲2に記載された発明とはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 甲3を主たる証拠とした新規性及び進歩性欠如
(ア)甲3に記載された発明
甲3には、
「[請求項1]BNの一次粒子が凝集した二次粒子からなるBN球状粒子であって、該BN球状粒子の表面に凹みを有する粒子の個数割合が50%以上で、かつ圧縮強さが0.1〜100MPaであることを特徴とする凹部付きBN球状焼結粒子。
[請求項2]平均粒径が1〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載の凹部付きBN球状焼結粒子。」
との記載がある。
そうすると、甲3には、
「BNの一次粒子が凝集した二次粒子からなるBN球状粒子であって、圧縮強さが0.1〜100MPaであり、平均粒径が1〜100μmであるBN球状焼結粒子」
の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

(イ)判断
申立人は、本件発明1と甲3発明とを対比し、甲3発明のBN球状焼結粒子の圧縮強さ及び平均粒径は、それぞれ本件発明1の粒子強度及び平均粒径の値と重複し、甲3発明のBN球状焼結粒子の配向性指数も本件発明1の範囲である蓋然性が高いから、本件発明1は、甲3に記載された発明であるか、または甲3に記載された発明から容易になし得たものである旨主張している。
しかし、甲3には、平均粒径57〜62μm、圧縮強さ8.2〜18.8MPaのBN球状焼結粒子の実施例が記載されているのみであるから([0054]、表1)、本件発明1の窒化ホウ素粉末の平均粒径の範囲内のものであって、かつ、本件発明1の粒子強度を充足する粒子が実質的に記載されているとはいえないし、甲3発明における配向性指数も明らかではない。また、甲3には、甲3発明において、本件発明1で特定する平均粒径の範囲かつ本件発明1で特定する粒子強度の範囲とすること、及び、本件発明1で特定する配向性指数の範囲に調節することが示唆されているともいえない。
そうすると、甲2を主たる証拠とした上記アの場合と事情は同じであるから、結局、本件発明1及びこれを引用する本件発明2は、甲3に記載された発明とはいえず、また、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 甲4を主たる証拠とした新規性及び進歩性欠如
(ア)甲4に記載された発明
甲4には、
「[請求項1] 熱硬化性樹脂及び無機充填材を含む熱硬化性樹脂組成物であって、前記無機充填材が、10以上20以下のアスペクト比を有する窒化ホウ素の一次粒子から形成される二次粒子(A)と、2以上9以下のアスペクト比を有する窒化ホウ素の一次粒子から形成される二次粒子(B)とを含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
・・・
[請求項3] 前記二次粒子(A)の圧縮強度が6MPa以上であり、前記二次粒子(B)の圧縮強度が3MPa以上5MPa以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
・・・
[請求項5] 前記二次粒子(A)の平均粒径が20μm以上110μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物」
及び
「[0016] ・・・
二次粒子(A)1の平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは20μm以上110μm以下、より好ましくは40μm以上80μm以下である。 ・・・
[0019] ・・・
二次粒子(B)3の平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは1μm以上150μm以下、より好ましくは3μm以上120μm以下、最も好ましくは5μm以上100μm以下である。 ・・・ 」
との記載がある。
そうすると、甲4には、
「平均粒径20μm以上110μm以下であり、圧縮強度が6MPa以上である窒化ホウ素二次粒子(A)」
の発明
及び
「平均粒径1μm以上150μm以下であり、圧縮強度が3MPa以上5MPaである窒化ホウ素二次粒子(B)」
の発明が記載されていると認められる(以下、まとめて「甲4発明」という。)。

(イ)判断
申立人は、本件発明1と甲4発明を対比し、甲4発明の窒化ホウ素二次粒子の圧縮強度及び平均粒径は、それぞれ本件発明1の粒子強度及び平均粒径の値と重複し、甲4発明の窒化ホウ素二次粒子の配向性指数も本件発明1の範囲である蓋然性が高いから、本件発明1は、甲4に記載された発明であるか、または甲4に記載された発明から容易になし得たものである旨主張している。
しかし、甲4には、平均粒径72〜110μm、圧縮強度6.1〜8.3MPaの二次粒子(A)、及び平均粒径8〜55μm、圧縮強度3.5〜4.6MPaの二次粒子(B)の実施例が記載されているのみであり([0050]、表1)、それ以上の示唆は見当たらないから、甲4を主たる証拠とした場合も、上記ア、イにおいて検討した場合と事情は同じであるため、結局、本件発明1及びこれを引用する本件発明2は、甲4に記載された発明とはいえず、また、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

エ 甲5を主たる証拠とした進歩性欠如
(ア)甲5に記載された発明
甲5には、
「【請求項1】
一次粒子の長径と厚みの比が平均で5〜10で、一次粒子の凝集体の大きさが平均粒径(D50)で2μm以上 200μm以下で、嵩密度が0.5〜1.0 g/cm3であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末。
・・・
【請求項4】
六方晶窒化ホウ素粉末を、0.3MPaおよび0.01MPaの圧力で噴射し、噴射後の凝集体の粒径をそれぞれ乾式法により測定し、0.01MPaの圧力で噴射したときの凝集体の平均粒径に対する0.3MPaの圧力で噴射したときの平均粒径の比で定義する粉末強度が、0.4 以上を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
・・・
【請求項6】
炭化ホウ素を、窒素分圧:5kPa以上の窒素雰囲気中、温度:1800〜2200℃の条件で窒化処理し、ついで得られた生成物に三酸化二ホウ素および/またはその前躯体を加えたのち、非酸化性雰囲気中にて、温度:1500〜2200℃の条件で脱炭処理し、その後破砕、分級することによって六方晶窒化ホウ素粉末を製造するに際し、上記窒化処理中または上記脱炭処理後に、炉内圧を100kPa未満に保持する減圧処理を施すことを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。」
及び
「【0026】
本発明において「一次粒子」とは、鱗片状を形成する単一粒子と定義する。
また、「一次粒子の凝集体」とは、一次粒子が2個以上化学結合した状態で存在する粒子と定義する。
・・・ 」
との記載がある。
そうすると、甲5には、
「一次粒子の凝集体の大きさが平均粒径(D50)で2μm以上 200μm以下であり、粉末強度が0.4以上である六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法であって、
炭化ホウ素を、窒素分圧:5kPa以上の窒素雰囲気中、温度:1800〜2200℃の条件で窒化処理し、
ついで得られた生成物に三酸化二ホウ素および/またはその前躯体を加えたのち、非酸化性雰囲気中にて、温度:1500〜2200℃の条件で脱炭処理し、その後破砕、分級することによって六方晶窒化ホウ素粉末を製造するに際し、上記窒化処理中または上記脱炭処理後に、炉内圧を100kPa未満に保持する減圧処理を施す六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。」
の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。

(イ)判断
申立人は、本件発明3と甲5発明とを対比し、甲5発明は、脱炭処理の昇温速度は明記されていないが、均一な粒度成長の点から昇温速度を制御するのは技術常識であり、本件発明1のように5℃/min以下とすることに臨界的意義は存在せず、当業者にとって設計事項にすぎない等の理由から、本件発明3の製造方法は、甲5発明から容易想到であり、さらに、本件発明3の製造方法により本件発明1の窒化ホウ素粉末が得られるから、本件発明1及びこれを引用する本件発明2も、甲5発明から容易想到である旨主張している。
しかし、本件発明3は、そもそも本件発明1に係る窒化ホウ素粉末の製造方法であるところ、甲5に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の具体例は、平均粒径D50は、44.4〜69.2μmであって、本件発明1で特定する平均粒径の範囲外であり、また、甲5発明で特定する強度は、本件発明1で特定する粒子強度とは定義が異なるものであって、甲5を俯瞰してみても、本件発明1で特定する窒化ホウ素粉末の平均粒径の範囲において、本件発明1で特定する粒子強度を有する窒化ホウ素粉末を導出できるのかは明らかでない。加えて、本件明細書には、脱炭結晶化工程において、昇温速度を10℃/minにして窒化ホウ素粉末を製造した場合、本件発明1で特定する粒子強度を有する窒化ホウ素粉末は得られないことが記載されていることから(【0103】、比較例4、【表2】)、昇温速度を設定することは単なる設計事項であるともいえない。
そうすると、甲5発明に係る製造方法により製造される六方晶窒化ホウ素粉末は、本件発明1が特定する(A)〜(C)の特徴をすべて有するものではない点において、少なくとも本件発明1とは実質的に相違し、この相違点に係る本件発明1の構成が容易想到の事項というに足りる証拠も見当たらないのであるから、申立人の主張は採用できず、本件発明1及びこれを引用する本件発明2、及び本件発明1に係る窒化ホウ素粉末の製造方法である本件発明3は、甲5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

オ 甲6を主たる証拠とした進歩性欠如
(ア)甲6に記載された発明
甲6には、
「[請求項1] 平均粒子径が0.05〜2.0μm、黒鉛化指数が3以下、全酸素量が0.20質量%以下、及び鱗片形状粒子の長径/厚さ比の平均値が6.0以下であることを特徴とする窒化ホウ素微粒子。
[請求項2] 不活性ガス雰囲気下、アンモニア/ホウ酸アルコキシドのモル比が1〜5のアンモニアとホウ酸アルコキシドを反応容器に導入し、800〜1,350℃、30秒以内で加熱し、窒化ホウ素前駆体を得た後、この窒化ホウ素前駆体を不活性ガス雰囲気下、1,650〜2,200℃、0.5時間以上で加熱することを特徴とする窒化ホウ素微粒子の製造方法。」
との記載がある。
そうすると、甲6には、
「平均粒子径が0.05〜2.0μmの鱗片形状の窒化ホウ素微粒子の製造方法であって、
不活性ガス雰囲気下、アンモニア/ホウ酸アルコキシドのモル比が1〜5のアンモニアとホウ酸アルコキシドを反応容器に導入し、800〜1,350℃、30秒以内で加熱し、窒化ホウ素前駆体を得た後、この窒化ホウ素前駆体を不活性ガス雰囲気下、1,650〜2,200℃、0.5時間以上で加熱する窒化ホウ素微粒子の製造方法。」
の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。

(イ)判断
申立人は、本件発明4と甲6発明とを対比し、甲7には、昇温の開始時にアンモニアを積極的に存在させると球状の窒化BN凝集粒子が得られることが記載されているから、甲6発明の窒化ホウ素前駆体を加熱する工程において、アンモニアを積極的に存在させることは容易であること等を理由に、本件発明4の製造方法は、甲6発明から容易想到であり、さらに、本件発明4の製造方法により本件発明1の窒化ホウ素粉末が得られるから、本件発明1及びこれを引用する本件発明2も、甲4発明から容易想到である旨主張している。
しかし、甲7は、球状窒化ホウ素粒子を得るために、アンモニアガスを導入しているのに対して、甲6発明は、鱗片形状の窒化ホウ素粒子を得るために、甲6発明の窒化ホウ素前駆体を加熱する工程を不活性雰囲気とするものであるから、甲6発明に対して、甲7の加熱工程の雰囲気を組み合わせることはできない。また、本件発明4は、本件発明1に係る窒化ホウ素粉末の製造方法であるところ、甲6発明により得られる窒化ホウ素微粒子の粒子強度は明らかでない。
そうすると、上記エにおける検討と同様、申立人の主張は採用できず、本件発明1及びこれを引用する本件発明2、及び本件発明1に係る窒化ホウ素粉末の製造方法である本件発明4は、甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

カ 小括
以上のとおりであるから、申立理由1、2は、理由がない。

(2)申立理由3、4(サポート要件違反・実施可能要件違反)
申立人は、本件発明1は「以下の(A)〜(C)の特徴を有する、一次粒子が鱗片状の六方晶窒化ホウ素が凝集して塊状粒子になった塊状窒化ホウ素を含む窒化ホウ素粉末。」と特定されており、塊状窒化ホウ素がわずかにしか含まれない場合も包含するため、そのような場合、塊状粒子が(A)の粒子強度を満たしても、窒化ホウ素粉末全体の粒子強度は弱くなって、そのような窒化ホウ素粉末は、「熱伝導率に優れ粒子強度が高い」という本件発明の効果を奏しないから、本件発明1及びこれを引用する本件発明2〜4について、サポート要件及び実施可能要件を満たさない旨主張している。
この点について検討するに、本件明細書の実施例には、本件発明1の「(A)〜(C)」の特定事項を充足する窒化ホウ素塊状粒子からなる窒化ホウ素粉末が記載され、当該窒化ホウ素粉末は、熱伝導率及び強度に優れているといえる。
そうすると、上記窒化ホウ素塊状粒子を含む窒化ホウ素粉末は、当該窒化ホウ素塊状粒子を全く含まない窒化ホウ素粉末よりも全体の熱伝導率が向上し、さらに、強度も向上することは、当業者であれば十分予期できるものであるというべきである。その上、そのような粉末を調製することにも特段の困難性は見当たらないから当業者が実施可能なものであるといえる。
したがって、申立人の主張は採用できないから、当該申立理由3、4は、理由がない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-12-07 
出願番号 P2019-543871
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C01B)
P 1 651・ 537- Y (C01B)
P 1 651・ 121- Y (C01B)
P 1 651・ 536- Y (C01B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 関根 崇
後藤 政博
登録日 2020-05-01 
登録番号 6698953
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 窒化ホウ素粉末、その製造方法及びそれを用いた放熱部材  
代理人 アクシス国際特許業務法人  
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