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審決分類 |
審判 全部申し立て 特29条の2 E04C |
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管理番号 | 1381660 |
総通号数 | 2 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-02-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-12-14 |
確定日 | 2021-11-16 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6713606号発明「梁貫通孔補強金具及び梁貫通孔補強構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6713606号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−7〕、〔8−10〕について訂正することを認める。 特許第6713606号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6713606号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る発明についての出願は、平成31年2月22日にされたものであって、令和2年6月8日にその特許権の設定登録がされ、同年6月24日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、本件特許の請求項1ないし10に係る発明の特許について、令和2年12月14日に特許異議申立人 センクシア株式会社(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、当審より令和3年4月5日付けで取消理由を通知したところ、その指定期間内に特許権者から同年6月2日付けで意見書の提出、及び訂正の請求がされ、これに対して同年7月21日付けで申立人より意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否 1 本件訂正の内容 本件訂正の内容は、以下のとおりである。下線部は、訂正箇所を示す。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記第1円筒部の突出長さ及び前記第2円筒部の突出長さの少なくとも一方が前記本体部の幅より小さい」と記載されているのを、「前記第1円筒部の突出長さ及び前記第2円筒部の突出長さが前記本体部の幅より小さい」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2〜4、7も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項5に「前記本体部の断面積が前記第1円筒部の断面積と前記第2円筒部の断面積との和より大きい、請求項1〜4のいずれか一つに記載の梁貫通孔補強金具。」と記載されているのを、「ウェブに円形の梁貫通孔が形成された梁に取り付けられる梁貫通孔補強金具であって、両側面が平行なリング状の本体部と、前記本体部の一方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第1円筒部と、前記本体部の他方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第2円筒部と、を有し、前記本体部の内側空間、前記第1円筒部の内側空間及び前記第2円筒部の内側空間によって前記梁貫通孔補強金具を幅方向に貫通する金具貫通孔が形成され、前記第1円筒部又は前記第2円筒部が前記梁貫通孔に挿入された状態で前記本体部が前記ウェブの片面に溶接固定されるように構成されており、前記第1円筒部の突出長さ及び前記第2円筒部の突出長さの少なくとも一方が前記本体部の幅より小さく、且つ前記本体部の断面積が前記第1円筒部の断面積と前記第2円筒部の断面積との和より大きい、梁貫通孔補強金具。」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項7も同様に訂正する)。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項6に「前記第1部位の幅及び前記第2部位の幅の少なくとも一方が前記環状突出部の幅より小さい」と記載されているのを、「前記第1部位の幅及び前記第2部位の幅が前記環状突出部の幅より小さい」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する)。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項8に「前記第1円筒部の突出長さ及び前記第2円筒部の突出長さの少なくとも一方が前記本体部の幅より小さく」と記載されているのを、「前記第1円筒部の突出長さ及び前記第2円筒部の突出長さが前記本体部の幅より小さく」に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9、10も同様に訂正する)。 2 訂正の適否についての判断 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的について 訂正事項1は、訂正前の請求項1において「前記第1円筒部の突出長さ及び前記第2円筒部の突出長さの少なくとも一方が前記本体部の幅より小さい」と特定されており、第1円筒部の突出長さ又は第2円筒部の突出長さのいずれか一方のみが本体部の幅より小さいものを含んでいたのを、訂正後に「前記第1円筒部の突出長さ及び前記第2円筒部の突出長さが前記本体部の幅より小さい」と特定することで、第1円筒部の突出長さ又は第2円筒部の突出長さのいずれか一方のみが本体部の幅より小さいものは含まれないようにし、第1円筒部の突出長さと第2円筒部の突出長さの両方が本体部の幅より小さいものに限定するものである。 したがって、訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと 訂正事項1は、訂正前の請求項1における「第1円筒部の突出長さ及び第2円筒部の突出長さの少なくとも一方が本体部の幅より小さい」という発明特定事項を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。 したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の段落【0038】に「第1円筒部11の突出長さL1及び第2円筒部12の突出長さL2が本体部10の幅Wより小さくなっている。」と記載されている。 したがって、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (2)訂正事項2 ア 訂正の目的について 訂正事項2は、訂正前の請求項5において、請求項1〜4のいずれか一つに記載の梁貫通孔補強金具を引用していたのを、訂正後に請求項2〜4に記載のものは引用しないものとした上で、請求項1に記載の梁貫通孔補強金具を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項とするものである。 したがって、訂正事項2は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと、及び、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 上記アで述べたとおり、訂正事項2は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (3)訂正事項3 ア 訂正の目的について 訂正事項3は、訂正前の請求項6において「前記第1部位の幅及び前記第2部位の幅の少なくとも一方が前記環状突出部の幅より小さい」と特定しており、第1部位の幅又は第2部位の幅のいずれか一方のみが環状突出部の幅よりも小さいものを含んでいたのを、訂正後に「前記第1部位の幅及び前記第2部位の幅が前記環状突出部の幅より小さい」と特定することで、第1部位の幅又は第2部位の幅のいずれか一方のみが環状突出部の幅よりも小さいものは含まれないようにし、第1部位の幅と第2部位の幅の両方が環状突出部の幅よりも小さいものに限定するものである。 したがって、訂正事項3は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと 訂正事項3は、訂正前の請求項6における「前記第1部位の幅及び前記第2部位の幅の少なくとも一方が前記環状突出部の幅より小さい」という発明特定事項を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。 したがって、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 本件明細書等の段落【0018】に「前記環状突出部の幅が上述の本体部10の幅Wに相当し、・・・また、前記環状突出部の一方の側方に位置すると共に前記環状突出部より小径の第1部位が第1円筒部11に相当し、前記第1部位の幅が第1円筒部11の突出長さL1に相当する。さらに、前記環状突出部の他方の側方に位置すると共に前記環状突出部より小径の第2部位が第2円筒部12に相当し、前記第2部位の幅が第2円筒部12の突出長さL2に相当する。」と記載されている。 したがって、訂正事項3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (4)訂正事項4 ア 訂正の目的について 訂正事項4は、訂正事項1で述べたのと同様の理由により、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと 訂正事項4は、訂正事項1で述べたのと同様の理由により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 本件明細書等の段落【0038】には、訂正事項1で述べた記載があるから、訂正事項4は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (5)一群の請求項について ア 訂正前の請求項1〜5、7について、請求項2〜5、7は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、訂正前の請求項6、7について、請求項7は、請求項6を引用しているものであって、訂正事項3によって記載が訂正される請求項6に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1〜5、7に対応する訂正後の請求項〔1〜5、7〕、訂正前の請求項6、7に対応する訂正後の請求項〔6、7〕は、それぞれ、特許法120条の5第4項に規定する「一の請求項の記載を他の請求項が引用する関係」を有する「一群の請求項」である。 そうすると、請求項1〜7は、一の請求項(請求項1)の記載を他の請求項2〜5、7が引用する関係が,当該関係に含まれる請求項7を介して他の一の請求項(請求項6)の記載を他の請求項7が引用する関係と一体として特許請求の範囲の一部を形成するように連関しており、訂正後の請求項〔1〜7〕は、特許法120条の5第4項に規定する「省令(特許法施行規則45条の4)で定める関係」を有する「一群の請求項」である。 イ 訂正前の請求項8〜10について、請求項9、10は、請求項8を引用しているものであって、訂正事項4によって記載が訂正される請求項8に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項8〜10に対応する訂正後の請求項〔8〜10〕は、特許法120条の5第4項に規定する「一の請求項の記載を他の請求項が引用する関係」を有する「一群の請求項」である。 (6)別の訂正単位とすることの求めについて 特許権者は、訂正後の請求項5については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。 しかし、請求項5について訂正する訂正事項2は、請求項5の記載を引用する請求項7も訂正するものであり、請求項7を訂正する訂正事項1又は訂正事項3に係る訂正が訂正要件を満たさない場合には、請求項5について訂正する訂正事項2に係る訂正も認められない関係にある。 したがって、訂正後の請求項5について別の訂正単位とすることはできない。 3 小括 以上検討したとおり、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号及び4号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1−7〕、〔8−10〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 本件訂正後の請求項1ないし10に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、併せて「本件発明」という。)は、以下のとおりである。 【請求項1】 ウェブに円形の梁貫通孔が形成された梁に取り付けられる梁貫通孔補強金具であって、 両側面が平行なリング状の本体部と、 前記本体部の一方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第1円筒部と、 前記本体部の他方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第2円筒部と、 を有し、 前記本体部の内側空間、前記第1円筒部の内側空間及び前記第2円筒部の内側空間によって前記梁貫通孔補強金具を幅方向に貫通する金具貫通孔が形成され、前記第1円筒部又は前記第2円筒部が前記梁貫通孔に挿入された状態で前記本体部が前記ウェブの片面に溶接固定されるように構成されており、 前記第1円筒部の突出長さ及び前記第2円筒部の突出長さが前記本体部の幅より小さい、梁貫通孔補強金具。 【請求項2】 前記第1円筒部の外径と前記第2円筒部の外径とが等しく且つ前記第1円筒部の突出長さと前記第2円筒部の突出長さとが異なる、請求項1に記載の梁貫通孔補強金具。 【請求項3】 前記第1円筒部の外径と前記第2円筒部の外径とが異なる、請求項1に記載の梁貫通孔補強金具。 【請求項4】 前記本体部の内径、前記第1円筒部の内径及び前記第2円筒部の内径が等しい、請求項1〜3のいずれか一つに記載の梁貫通孔補強金具。 【請求項5】 ウェブに円形の梁貫通孔が形成された梁に取り付けられる梁貫通孔補強金具であって、 両側面が平行なリング状の本体部と、 前記本体部の一方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第1円筒部と、 前記本体部の他方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第2円筒部と、 を有し、 前記本体部の内側空間、前記第1円筒部の内側空間及び前記第2円筒部の内側空間によって前記梁貫通孔補強金具を幅方向に貫通する金具貫通孔が形成され、前記第1円筒部又は前記第2円筒部が前記梁貫通孔に挿入された状態で前記本体部が前記ウェブの片面に溶接固定されるように構成されており、 前記第1円筒部の突出長さ及び前記第2円筒部の突出長さの少なくとも一方が前記本体部の幅より小さく、且つ前記本体部の断面積が前記第1円筒部の断面積と前記第2円筒部の断面積との和より大きい、梁貫通孔補強金具。 【請求項6】 ウェブに円形の梁貫通孔が形成された梁に取り付けられる梁貫通孔補強金具であって、 凸字状の断面を有するリング体として形成され、 幅方向の中間部にて径方向外側に突出する環状突出部の両側面が平行であり、 前記環状突出部の一方の側方に位置する第1部位又は前記環状突出部の他方の側方に位置する第2部位が前記梁貫通孔に挿入された状態で前記環状突出部が前記ウェブの片面に溶接固定されるように構成されており、 前記第1部位の幅及び前記第2部位の幅が前記環状突出部の幅より小さい、梁貫通孔補強金具。 【請求項7】 梁のウェブに形成された梁貫通孔の両端のそれぞれに請求項1〜6のいずれか一つの記載の梁貫通孔補強金具が取り付けられている、梁貫通孔補強構造。 【請求項8】 ウェブに円形の梁貫通孔が形成された梁の梁貫通孔補強構造であって、 前記梁貫通孔に取り付けられる梁貫通孔補強金具を含み、 前記梁貫通孔補強金具は、 両側面が平行なリング状の本体部と、 前記本体部の一方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第1円筒部と、 前記本体部の他方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第2円筒部と、 を有し、 前記本体部の内側空間、前記第1円筒部の内側空間及び前記第2円筒部の内側空間によって前記梁貫通孔補強金具を幅方向に貫通する金具貫通孔が形成されており、前記第1円筒部の突出長さ及び前記第2円筒部の突出長さが前記本体部の幅より小さく、 前記第1円筒部又は前記第2円筒部が前記梁貫通孔に挿入された状態で前記本体部の外周面が全周に亘って前記ウェブの前記片面に隅肉溶接される、梁貫通孔補強構造。 【請求項9】 前記第1円筒部及び前記第2円筒部は前記ウェブに溶接されない、請求項8に記載の梁貫通孔補強構造。 【請求項10】 前記ウェブの厚みが前記本体部の幅よりも小さい、請求項8又は9に記載の梁貫通孔補強構造。 第4 令和3年4月5日付けで通知した取消理由についての当審の判断 1 理由1(拡大先願) 本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、下記の請求項に係る特許は、特許法29条の2の規定に違反してされたものである。 ・請求項1ないし4,6,8ないし10 ・特願2019−27472号(特開2020−133745号)(甲第 1号証。以下「甲1」という。) 2 先願明細書等の記載並びに先願発明 本件特許に係る出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特願2019−27472号(甲1。以下「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「先願明細書等」という。)には、以下の記載がある。 (1)先願明細書等の記載 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、建築構造物を構成し、貫通孔を有する梁を補強するための梁補強金具及び梁の梁補強方法に関するものである。」 イ 「【0016】 (第1の実施形態) 以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、第1の実施形態にかかる梁補強金具1を示す斜視図である。梁補強金具1は、本体部3、フランジ部5、凸部7等から構成される。梁補強金具1は、ウェブに貫通孔が形成された梁を補強するための部材である。 【0017】 梁補強金具1は、例えば鋼材やステンレス鋼などの金属製の部材である。梁補強金具1は、全体としてリング状の部材であり、配管等が貫通する配管孔を有している。フランジ部5は、本体部3及び凸部7に対して外径が大きい部位である。フランジ部5の一方の側には筒状の本体部3が配置される。本体部3は、フランジ部5の一方の側に突出し、後述する梁の貫通孔に挿入される部位である。 【0018】 フランジ部5の他方の側(本体部3とは逆側)には、凸部7が配置される。凸部7は、フランジ部5の他方の側に突出する。なお、凸部7は、周方向に連続して全周に亘って形成される。すなわち、本実施形態では、凸部7は全体として筒状である。 【0019】 なお、本体部3、フランジ部5及び凸部7の内径は略同一であり、内周面には凹凸は形成されない。また、本体部3と凸部7の外径は、略同一であってもよく、異なっていてもよい。例えば、凸部7の外径は、本体部3よりも大きくてもよく、または小さくてもよい。 【0020】 次に、梁補強金具1を用いた梁補強構造10について説明する。図2(a)は、梁補強構造10の裏面側(本体部3側)から見た斜視図であり、図2(b)は、梁補強構造10の表面側(凸部7側)から見た斜視図である。また、図3(a)は、梁補強構造10の正面図であり、図3(b)は、図3(a)のA−A線断面図である。 【0021】 梁11は、ウェブ15の上下にフランジ13を有するH鋼である。ウェブ15には、配管等を通すための貫通孔17が形成される。梁補強金具1は、貫通孔17に配置される。前述したように、貫通孔17には、梁補強金具1の本体部3が挿入される。フランジ部5は、貫通孔17の縁部近傍のウェブ15に面接触する。 【0022】 梁補強金具1は、ウェブ15に対して溶接によって接合される。本実施形態では、フランジ部5の外周部が、ウェブ15に対して全周にわたって溶接される。すなわち、溶接部19は、フランジ部5の外周部とウェブ15の表面との間に形成される。 【0023】 次に、梁補強金具1を用いた梁補強方法(梁補強構造10の施工方法)について説明する。まず、梁補強金具1の本体部3を、梁11の一方の側から挿入する。この際、梁補強金具1のフランジ部5は、梁11に設けられた貫通孔17よりも大きな外径を有している。また、本体部3は、梁11に設けられた貫通孔17の径よりも小さい外径を有している。このため、本体部3を貫通孔17に挿入すると、フランジ部5はウェブ15に接触させることができる。すなわち、フランジ部5は梁補強金具1を貫通孔17に挿入する際、軸方向の位置決めに使われる。 【0024】 また、梁補強金具1を貫通孔17の径方向に対して位置合わせをする際、作業者は、凸部7を使用して、容易に梁補強金具1の位置を合わせることができる。例えば、貫通孔17は、完全に円形ではなく、縁部にはバリ等があるが、凸部7を工具や作業者の掴み部として利用することができ、フランジ部5がウェブ15に確実に面接触する位置に梁補強金具1の位置を合わせることができる。 【0025】 梁補強金具1の位置が決まった後、クランプ等によって梁補強金具1をウェブ15に仮固定し、この状態で、梁補強金具1を、貫通孔17の周囲または縁部に溶接する。溶接は例えば被覆アーク溶接で行われる。」 ウ 「【0029】 次に、梁補強金具1の部位に、筒状部材21を設置する。図5は、筒状部材21を設置した状態の正面図であり、図6は断面図である。筒状部材21は、梁11の両側にそれぞれ配置される。また、梁11の周囲には、複数の鉄筋23が配置される。 ・・・ 【0031】 ここで、梁11の凸部7側に筒状部材21を設置する際、筒状部材21の端部を梁補強金具1の凸部7に挿入するように配置する。このようにすることで、筒状部材21の位置決めが容易であるとともに、筒状部材21のずれを抑制することができる。すなわち、凸部7を、筒状部材21を設置する際の位置決め及びずれ止めのガイドとして機能させることができる。なお、梁11の本体部3側に筒状部材21を設置する際には、筒状部材21の端部を梁補強金具1の本体部3に挿入するように配置すればよい。 ・・・ 【0033】 なお、図7に示すように、筒状部材21を梁補強金具1に挿通するように配置してもよい。この場合には、凸部7は、筒状部材21の設置の際のガイドとして機能しないが、凸部7を形成することにより、筒状部材21の支持長さを確保することができる。このため、筒状部材21の傾きなどを抑制することができる。 【0034】 以上、本実施の形態によれば、貫通孔17を有する梁11を、効率よく補強することができる。また、梁補強金具1を固定した後、筒状部材21を梁11に設置する際に、凸部7を筒状部材21の位置決めのガイドとして機能させることができる。このため、筒状部材21の設置作業が容易となる。 【0035】 また、凸部7が周方向に連続して形成されるため、筒状部材21や配管を梁補強金具1に挿入した際に、筒状部材21等を支持する長さを長くすることができる。」 エ 図1及び図3 「【図1】 【図3】 」 オ 上記エの図1及び図3から、以下の事項が看て取れる。 (ア)「ウェブ15」に形成されている貫通孔が「円形」であること、 (イ)「梁補強金具1」は、幅方向の中間部において「フランジ部5」が径 方向外側に突出しており、「凸字状の断面」を有していること、 (ウ)「フランジ部5」の両側面が「平行」であること、 (エ)「フランジ部5」の幅よりも「凸部7」の突出長さが小さいこと、 (オ)「フランジ部5」の幅よりも「本体部3」の突出長さが大きいこと、 (カ)「ウェブ15」の厚みが「フランジ部5」の幅より小さいこと。 (2)先願発明 上記(1)によれば、先願明細書等には、次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されているといえる。 【先願発明】 ウェブに円形の貫通孔が形成された梁を補強するための部材である梁補強金具1であって、本体部3、フランジ部5、凸部7等から構成され、全体としてリング状であり、配管等が貫通する配管孔を有しており、 幅方向の中間部にてフランジ部5が径方向外側に突出し、凸字状の断面を有しており、 フランジ部5は、両側面が平行であり、本体部3及び凸部7に対して外径が大きく、 フランジ部5の一方の側には筒状の本体部3が配置され、フランジ部5の一方の側に突出し、梁の貫通孔に挿入され、 フランジ部5の他方の側(本体部3とは逆側)には、凸部7が配置され、フランジ部5の他方の側に突出し、周方向に連続して全周に亘って形成され、全体として筒状であり、 本体部3、フランジ部5及び凸部7の内径は略同一であり、内周面には凹凸は形成されておらず、本体部3と凸部7の外径は、略同一であっても異なっていてもよく、 フランジ部5の幅よりも本体部3の突出長さが大きく、フランジ部5の幅よりも凸部7の突出長さが小さく、 ウェブ15には、配管等を通すための貫通孔17が形成され、ウェブ15の厚みはフランジ部5の幅より小さく、梁補強金具1は、貫通孔17に配置され、貫通孔17には、梁補強金具1の本体部3が挿入され、フランジ部5は、貫通孔17の縁部近傍のウェブ15に面接触し、 梁補強金具1は、ウェブ15に対して溶接によって接合され、フランジ部5の外周部が、ウェブ15に対して全周にわたって溶接され、溶接部19は、フランジ部5の外周部とウェブ15の表面との間に形成される梁補強金具1。 3 本件発明との対比・判断 (1)本件発明1について 本件発明1は、『梁貫通孔補強金具』を構成する『両側面が平行なリング状の本体部』、『前記本体部の一方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第1円筒部』及び『前記本体部の他方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第2円筒部』という3つの部位が、『前記第1円筒部の突出長さ及び前記第2円筒部の突出長さ』が、両円筒部の間である軸方向中央に位置する『前記本体部の幅より小さい』という関係(以下、この軸方向中央に位置する部位の幅よりもその一方及び他方に位置する部位の幅が小さい関係を「両側部位幅狭構成」という。)を有している。 この関係について、先願発明をみると、先願発明の「梁補強金具1」を構成し、「全体としてリング状」をしている、「本体部3」、「フランジ部5」、「凸部7」の3つの部位において、軸方向中央に位置する「フランジ部5」の一方及び他方の側から「本体部3」、「凸部7」がそれぞれ「突出し」ていることを踏まえると、先願発明においては、「フランジ部5(軸方向中央に位置)の幅よりも本体部3(一方の側に位置)の突出長さが大き」いから、「両側部位幅狭構成」を有していない。 したがって、本件発明1と先願発明とを対比すると、前者は、「両側部位幅狭構成」を有しているのに対し、先願発明は、「フランジ部5(軸方向中央に位置)の幅よりも本体部3(一方の側に位置)の突出長さが大き」く、「両側部位幅狭構成」を有していない点で少なくとも相違する。 そこで、この相違点について検討すると、先願発明の「本体部3」(一方の側に位置)は、「貫通孔17に配置され」る「梁補強金具1」の本体として位置づけられ、「フランジ部5」(軸方向中央に位置)は、その「外周部が、ウェブ15に対して全周にわたって溶接され」ればよいものであることからみて、「フランジ部5」(軸方向中央に位置)の幅よりも本体部3(一方の側に位置)の突出長さを小さくすることは自然でなく、上記相違点は、課題解決のための具体化手段における微差といえる根拠はない。 したがって、本件発明1は、先願発明と実質同一であるということはできない。 (2)本件発明2ないし4について 本件発明2ないし4は、本件発明1を引用しており、本件発明1の構成をすべて含んでいる。 したがって、上記(1)のとおり、本件発明1が「両側部位幅狭構成」を有し、「両側部位幅狭構成」を有しない先願発明と実質同一であるといえない以上、本件発明2ないし4は、先願発明と実質同一であるということはできない。 (3)本件発明6について 本件発明6は、『梁貫通孔補強金具』を構成する『幅方向の中間部にて径方向外側に突出する環状突出部』、『前記環状突出部の一方の側方に位置する第1部位』及び『前記環状突出部の他方の側方に位置する第2部位』という3つの部位が、『前記第1部位(一方の側に位置)の幅及び前記第2部位(他方の側に位置)の幅が前記環状突出部(軸方向中央に位置)の幅より小さい』という関係(この関係も上記(1)で示した「両側部位幅狭構成」ということができる。)を有している。 この関係について、先願発明をみると、上記(1)で検討したとおり、先願発明においては、「フランジ部5(軸方向中央に位置)の幅よりも本体部3(一方の側に位置)の突出長さが大き」いから、「両側部位幅狭構成」を有しておらず、本件発明6と先願発明とは、前者は、「両側部位幅狭構成」を有しているのに対し、先願発明は、「両側部位幅狭構成」を有していない点で少なくとも相違する。 そして、この相違点について検討すると、先願発明の「本体部3」(一方の側に位置)は、「貫通孔17に配置され」る「梁補強金具1」の本体として位置づけられ、「フランジ部5」(軸方向中央に位置)は、その「外周部が、ウェブ15に対して全周にわたって溶接され」ればよいものであることからみて、「フランジ部5」(軸方向中央に位置)の幅よりも本体部3(一方の側に位置)の突出長さを小さくすることは自然でなく、上記相違点は、課題解決のための具体化手段における微差といえる根拠はない。 したがって、本件発明6は、先願発明と実質同一であるということはできない。 (4)本件発明8について 本件発明8も、本件発明1及び本件発明6と同様、『両側面が平行なリング状の本体部』、『前記本体部の一方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第1円筒部』及び『前記本体部の他方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第2円筒部』という3つの部位が、『前記第1円筒部の突出長さ及び前記第2円筒部の突出長さが前記本体部の幅より小さ』いという「両側部位幅狭構成」を有している。 したがって、本件発明1及び本件発明6について述べたのと同様の理由により、本件発明8は、先願発明と実質同一であるということはできない。 (5)本件発明9及び10について 本件発明9及び10は、本件発明8を引用しており、本件発明8の構成をすべて含んでいる。 したがって、上記のとおり、本件発明8が「両側部位幅狭構成」を有し、「両側部位幅狭構成」を有しない先願発明と実質同一であるといえない以上、本件発明9及び10は、先願発明と実質同一であるということはできない。 (6)申立人の主張について ア 申立人は、令和3年7月21日付け意見書において、本件発明1の「両側部位幅狭構成」(上記(1))について、本件明細書には、その技術的意義や、課題及び効果については一切記載がないし、明細書に記載された「発明が解決しようとする課題」や「発明の効果」との関連も不明であるから、少なくとも本件明細書のみからは、「両側部位幅狭構成」の技術的意義を理解できず、先願発明の発明特定事項に対して周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等を施したものに相当し、かつ、新たな効果を奏するものではないという旨主張する(1枚目下から2行〜3枚目9行)。 しかし、「両側部位幅狭構成」は、本件発明1において軸方向中央に位置する「本体部」が本体として機能する根拠について、「本体部」とその一方及び他方の側に位置する「第1円筒部」及び「第2円筒部」との相対的な寸法関係を特定することで裏付けた点に技術的意義があることが本件明細書に明記されていなくとも容易に理解できるから、申立人の上記主張には理由がない。 イ 次に、申立人は、上記意見書において、本件発明1の「両側部位幅狭構成」に関する出願当初における技術常識について、本技術分野において、梁補強金具の各部の厚みや幅、材質等は、使用される梁のサイズ、貫通孔のサイズ、必要とされる強度、製造コスト、作業性等を総合して設定されることは技術常識であり(例えば、甲第3号証(特許第3909365号)、甲第4号証(特許第4766624号)、甲第5号証(日本建築学会九州支部研究報告第54号(2015年3月)p.413〜416「鉄骨梁開口部の合理的補強方法に関する研究(その5)開口補強材の合理的選定方法について」、甲第6号証(日本ファブテック株式会社「EGリング」カタログ)参照)、必要な強度等に応じて、各部の厚みや幅を適宜設計するのは、単なる設計的事項であり、新たな技術的意義を有する発明特定事項とはいえないという旨主張する(3枚目10行〜4枚目11行)。 しかし、上記アで述べたとおり、「両側部位幅狭構成」は、本件発明1における「本体部」が本体として機能することの根拠を特定した点に技術的意義があると理解できる一方、申立人が技術常識と主張する点がそのとおりであるとしても、先願発明において、軸方向中央に位置する「フランジ部5」の幅よりも、本体とされる「本体部3」(一方の側に位置)の突出長さ(幅)を小さくする根拠とはならないから、申立人の上記主張には理由がない。 ウ 申立人は、被申立人の主張によれば、「両側部位部幅狭構成」により、「施工性の向上」、「補強強度の確保」、「製造コストの削減」の全ての効果が得られることとなるが、いずれの効果も「両側部位幅狭構成」による特有の効果ではないから、「両側部位幅狭構成」は単なる形態の特徴にすぎないという旨主張する(4枚目12行〜6枚目7行)。 しかし、「施工性の向上」について、「両側部位幅狭構成」においては、両側に位置する「第1円筒部」及び「第2円筒部」は本体ではなく、いずれの幅も「本体部」(軸方向中央に位置)の幅よりも小さことから、「両側部位幅狭構成」を採用しない場合に比べて、施工時に「梁貫通孔補強金具」の軸方向の向きを意識しなければならない度合いが減るという意味で「施工性」が向上することは明らかである。 そうすると、「両側部位幅狭構成」は、少なくとも上記した意味で「施工性の向上」に繋がるから、申立人の上記主張には理由がない。 エ 申立人は、本件発明6、8についても、本件発明1と同様の理由で先願発明と実質的に同一であるという旨主張する(6枚目8行〜下から2行)。 しかし、上記アないしウで述べたとおり、「両側部位幅狭構成」についての申立人の主張には理由がないから、当該申立人の主張にも理由がない。 4 まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1ないし4、6、8ないし10は、申立人が提出した甲第3号証ないし甲10号証を参酌しても、先願(甲1)に記載された発明(先願発明)と実質同一ということはできず、特許法第29条の2に該当しない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由等について 1 甲1(先願明細書等)を証拠とする特許法29条の2違反について (1)申立人は、特許異議申立書において、本件発明5及び7についても、先願明細書等に記載された発明と実質同一であるから、特許法29条の2に該当し、取り消されるべきという旨申し立てている。 (2)本件発明5は、『梁貫通孔補強金具』を構成する『両側面が平行なリング状の本体部』、『前記本体部の一方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第1円筒部』及び『前記本体部の他方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第2円筒部』という3つの部位が、『前記本体部の断面積が前記第1円筒部の断面積と前記第2円筒部の断面積との和より大きい』という関係(以下、この軸方向中央に位置する部位の断面積がその一方及び他方に位置する部位の断面積の和よりも大きい関係を「本体部断面積大構成」という。)を有している。 この関係について、先願発明をみると、上記「第4」「3(1)」での検討も踏まえると、先願発明においては、「フランジ部5(軸方向中央に位置)の断面積が「本体部3」(一方の側に位置)の断面積と「凸部7」(他方の側に位置)の断面積との和よりも大きいという関係を有しているか少なくとも不明であり、本件発明5と先願発明は、少なくとも前者が「本体部断面積大構成」を有しているのに対し、後者がかかる構成を有しているか不明である点で相違する。 そして、上記「第4」「3(1)」での検討も踏まえると、先願発明の「本体部3」(一方の側に位置)は、「貫通孔17に配置され」る「梁補強金具1」の本体として位置づけられ、「フランジ部5」(軸方向中央に位置)は、その「外周部が、ウェブ15に対して全周にわたって溶接され」ればよいものであることからみて、「フランジ部5」(軸方向中央に位置)の断面積は、本体と位置づけられる「本体部3」(一方の側に位置)の断面積と「凸部7」(他方の側に位置)の断面積との和よりも小さいと理解するのが自然であり、上記相違点が課題解決のための具体化手段における微差といえる根拠はない。 したがって、本件発明5は、先願発明と実質同一であるということはできない。 (3)本件発明7は、先願発明と実質同一であるとはいえない本件発明1ないし6のいずれかの「梁貫通孔補強金具」を引用するものであるから、先願発明と実質同一であるとはいえない。 この点、申立人は、特許異議申立書において、本件発明7について、個々の梁補強金具を大型化しなくても、梁の両側に同様の梁補強金具を設置することで、同様の効果を奏するものと考えられるところ、本技術分野において、梁の両側に梁補強金具を設置することは周知の技術である(例えば、甲第7号証(特開2010−37757号公報)、甲第8号証(特開2006−183444号公報)、甲第9号証(国際公開WO92/09767号公報、甲第10号証(岡部株式会社「OSリング」カタログ Vol.8−7)参照)という旨主張する(26頁下から13行〜29頁13行)。 しかし、上記のとおり、本件発明7は、先願発明と実質同一であるとはいえない本件発明1ないし6のいずれかを引用するものであるから、本技術分野において、梁の両側に梁補強金具を設置することが周知技術であるとしても、このことによって上記判断は左右されない。 (4)以上のとおりであるから、本件発明5及び7は、甲1(先願明細書)に記載された発明と実質同一ということはできず、特許法第29条の2に該当しない。 2 甲第2号証を証拠とする特許法29条の2違反について (1)申立人は、特許異議申立書において、本件発明1及び7は、特願2018−187005号(特開2020−56205号)(甲第2号証。以下「甲2」という。)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「甲2当初明細書等」という。)に記載された次の発明(以下「甲2発明」という。)と実質同一であるから、特許法29条の2に該当し、取り消されるべきという旨申し立てている。 (2)甲2当初明細書等について 甲2当初明細書等には、以下の記載がある。 ア「【0038】 鉄骨梁補強金具24は、図1に示すように、鉄骨梁6の貫通孔6bと略同一の中心軸を有する円環状に形成された本体部26と、この本体部26の軸線方向の一方の端面(図1(b)中左端面)から突出するように形成された突出部28を備えている。 ・・・ 【0040】 そして、図2に示すように、鉄骨梁補強金具24の本体部26の軸線方向(図中左右方向)の一方の端面(図中左側の端面)には、鉄骨梁6のウェブ部6aの側面と略並行な接触端面26cが形成されている。 ・・・ 【0042】 鉄骨梁補強金具24の突出部28は、図2に示すように、本体部26の接触端面26cの最も中心軸寄りの部分、すなわち本体部26の中心孔26bの周縁部から、軸線方向(図中左側)に突出するように形成されている。 【0043】 突出部28の外周面は、図2に示すように、接触端面26cの近傍においては、その外径が鉄骨梁6の貫通孔6bの内径と略同一に形成されている。そして、突出部28の外周面には、その軸線方向(図中左方向)の途中の位置から軸線方向の接触端面26cと反対側の端部(図中左端部)に向かうにつれて、その外径が徐々に縮径するような、テーパ状に傾斜した断面形状の傾斜部28aが形成されている。 ・・・ 【0047】 このような鉄骨梁補強金具24が、図1(b)及び図2に示すように、その接触端面26cが鉄骨梁6のウェブ部6aの側面に接触すると共に、その突出部28の外周面が鉄骨梁6の貫通孔6bの内周面に対向するように嵌合するように、鉄骨梁6の貫通孔6bの周部に配置されている。 【0048】 そして、鉄骨梁補強金具24は、図1(b)に示すように、鉄骨梁補強金具24の外周面26aと鉄骨梁6のウェブ部6aの一方の側面(図中右側面)を、外周面26aの周部に沿って設けられた溶接部Wにおいて、全周に亘って溶接することにより、鉄骨梁6と一体的に固定されている。 ・・・ 【0053】 このとき、鉄骨梁補強金具24の突出部28が鉄骨梁6の貫通孔6bに嵌合することにより、鉄骨梁補強金具24の中心軸と貫通孔6bの中心軸が正確に一致するようになっており、鉄骨梁補強金具24の位置決めを容易に行うことができるようになっている。 ・・・ 【0087】 また、前記第1の実施の形態に係る鉄骨梁補強構造22おいては、鉄骨梁補強金具24の軸線方向の接触端面26cと反対側の端面は平坦に形成されていたが、接触端面26cと反対側の端面は平坦に形成されていなくてもよい。」 イ 図2 「 」 上記甲2当初明細書の記載によれば、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 【甲2発明】 円環状に形成された本体部26と、この本体部26の軸線方向の一方の端面から突出するように形成された突出部28を備えている鉄骨梁補強金具24であって、 本体部26の軸線方向の一方の端面には、鉄骨梁6のウェブ部6aの側面と略並行な接触端面26cが形成され、 突出部28は、本体部26の中心孔26bの周縁部から、軸線方向に突出するように形成され、 このような鉄骨梁補強金具24の接触端面26cが鉄骨梁6のウェブ部6aの側面に接触すると共に、その突出部28の外周面が鉄骨梁6の貫通孔6bの内周面に対向するように嵌合するように、鉄骨梁6の貫通孔6bの周部に配置され、 鉄骨梁補強金具24の外周面26aと鉄骨梁6のウェブ部6aの一方の側面を、外周面26aの周部に沿って設けられた溶接部Wにおいて、全周に亘って溶接することにより、鉄骨梁6と一体的に固定され、突出部28が鉄骨梁6の貫通孔6bに嵌合することにより、鉄骨梁補強金具24の中心軸と貫通孔6bの中心軸が正確に一致するようになっており、鉄骨梁補強金具24の位置決めを容易に行うことができ、 鉄骨梁補強金具24の軸線方向の接触端面26cと反対側の端面は平坦に形成されていなくてもよい、 鉄骨梁補強金具24。 (3)対比・判断 本件発明1は、『第1円筒部』と『第2円筒部』を備えているところ、甲2発明は、「突出部28」を一つしか備えないから、仮に「突出部28」を円筒部として形成するとしても、その数からみて、本件発明に1における『第1円筒部』と『第2円筒部』を備えることにはならない。 この点、甲2発明は、「鉄骨梁補強金具24の軸線方向の接触端面26cと反対側の端面は平坦に形成されていなくてもよい」ものではあるが、これをもって、本件発明1にいう「第1円筒部」と「第2円筒部」を設けることまで示唆しているということはできない。 本件発明1を引用する本件発明7についても同様である。 したがって、本件発明1及び7は、甲2発明と実質同一であるとはいえず、特許法29条の2に該当しない。 3 令和3年7月21日付け意見書で主張する理由について 申立人は、上記意見書において、訂正後の本件発明1の「両側部位幅狭構成」について、その技術的意義を理解することができるように明細書に記載されていないため、特許法36条4項1号に違反(特許法施行規則24条の2違反)するという旨、甲1発明(先願発明)と相違する点の技術的意味が明確でないから、特許法36条6項2号に違反するという旨、その他の発明についても同様であるという旨主張する(6枚目最終行〜8枚目17行)。 しかし、前記「第4の3(6)」で述べたとおり、本件発明1における「両側部位幅狭構成」は、梁貫通孔補強金具の軸方向中央に位置する「本体部」が本体として機能する根拠について、「本体部」の両側に位置する「第1円筒部」及び「第2円筒部」との相対的な大小関係を特定することで裏付けた点に技術的意義があることが本件明細書に明記されていなくとも容易に理解できるから、「両側部位幅狭構成」について、その技術的意義が明確でないということはなく、申立人の上記主張には理由がない。このことは、本件発明6、本件発明8の「両側部位幅狭構成」について、実質的に訂正がなされていない本件発明5の「本体部断面積大構成」についても同様である。 本件発明1、5,6,8を引用する本件発明2ないし4,7,9,10についてもその技術的意義が理解できることは明らかである。 よって、本件発明1ないし10が、特許法36条4項1号又は同法36条6項2号に違反するということはできない。 第6 むすび よって、請求項1ないし10に係る特許は、取消理由通知に記載した理由及び特許異議申立書に記載した理由及び証拠によっては取り消すことはできない。 さらに、他に請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ウェブに円形の梁貫通孔が形成された梁に取り付けられる梁貫通孔補強金具であって、両側面が平行なリング状の本体部と、 前記本体部の一方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第1円筒部と、 前記本体部の他方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第2円筒部と、 を有し、 前記本体部の内側空間、前記第1円筒部の内側空間及び前記第2円筒部の内側空間によって前記梁貫通孔補強金具を幅方向に貫通する金具貫通孔が形成され、前記第1円筒部又は前記第2円筒部が前記梁貫通孔に挿入された状態で前記本体部が前記ウェブの片面に溶接固定されるように構成されており、 前記第1円筒部の突出長さ及び前記第2円筒部の突出長さが前記本体部の幅より小さい、梁貫通孔補強金具。 【請求項2】 前記第1円筒部の外径と前記第2円筒部の外径とが等しく且つ前記第1円筒部の突出長さと前記第2円筒部の突出長さとが異なる、請求項1に記載の梁貫通孔補強金具。 【請求項3】 前記第1円筒部の外径と前記第2円筒部の外径とが異なる、請求項1に記載の梁貫通孔補強金具。 【請求項4】 前記本体部の内径、前記第1円筒部の内径及び前記第2円筒部の内径が等しい、請求項1〜3のいずれか一つに記載の梁貫通孔補強金具。 【請求項5】 ウェブに円形の梁貫通孔が形成された梁に取り付けられる梁貫通孔補強金具であって、両側面が平行なリング状の本体部と、 前記本体部の一方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第1円筒部と、 前記本体部の他方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第2円筒部と、 を有し、 前記本体部の内側空間、前記第1円筒部の内側空間及び前記第2円筒部の内側空間によって前記梁貫通孔補強金具を幅方向に貫通する金具貫通孔が形成され、前記第1円筒部又は前記第2円筒部が前記梁貫通孔に挿入された状態で前記本体部が前記ウェブの片面に溶接固定されるように構成されており、 前記第1円筒部の突出長さ及び前記第2円筒部の突出長さの少なくとも一方が前記本体部の幅より小さく、且つ前記本体部の断面積が前記第1円筒部の断面積と前記第2円筒部の断面積との和より大きい、梁貫通孔補強金具。 【請求項6】 ウェブに円形の梁貫通孔が形成された梁に取り付けられる梁貫通孔補強金具であって、 凸字状の断面を有するリング体として形成され、 幅方向の中間部にて径方向外側に突出する環状突出部の両側面が平行であり、 前記環状突出部の一方の側方に位置する第1部位又は前記環状突出部の他方の側方に位置する第2部位が前記梁貫通孔に挿入された状態で前記環状突出部が前記ウェブの片面に溶接固定されるように構成されており、 前記第1部位の幅及び前記第2部位の幅が前記環状突出部の幅より小さい、梁貫通孔補強金具。 【請求項7】 梁のウェブに形成された梁貫通孔の両端のそれぞれに請求項1〜6のいずれか一つの記載の梁貫通孔補強金具が取り付けられている、梁貫通孔補強構造。 【請求項8】 ウェブに円形の梁貫通孔が形成された梁の梁貫通孔補強構造であって、 前記梁貫通孔に取り付けられる梁貫通孔補強金具を含み、 前記梁貫通孔補強金具は、 両側面が平行なリング状の本体部と、 前記本体部の一方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第1円筒部と、 前記本体部の他方の側面から円筒状に突出すると共に前記本体部の外径より小さい外径を有する第2円筒部と、 を有し、 前記本体部の内側空間、前記第1円筒部の内側空間及び前記第2円筒部の内側空間によって前記梁貫通孔補強金具を幅方向に貫通する金具貫通孔が形成されており、前記第1円筒部の突出長さ及び前記第2円筒部の突出長さが前記本体部の幅より小さく、 前記第1円筒部又は前記第2円筒部が前記梁貫通孔に挿入された状態で前記本体部の外周面が全周に亘って前記ウェブの前記片面に隅肉溶接される、梁貫通孔補強構造。 【請求項9】 前記第1円筒部及び前記第2円筒部は前記ウェブに溶接されない、請求項8に記載の梁貫通孔補強構造。 【請求項10】 前記ウェブの厚みが前記本体部の幅よりも小さい、請求項8又は9に記載の梁貫通孔補強構造。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-11-04 |
出願番号 | P2019-030365 |
審決分類 |
P
1
651・
16-
YAA
(E04C)
|
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
住田 秀弘 |
特許庁審判官 |
長井 真一 有家 秀郎 |
登録日 | 2020-06-08 |
登録番号 | 6713606 |
権利者 | コーリョー建販株式会社 |
発明の名称 | 梁貫通孔補強金具及び梁貫通孔補強構造 |
代理人 | 中村 綾子 |
代理人 | 関谷 充司 |
代理人 | 田中 祐 |
代理人 | 小川 護晃 |
代理人 | 井上 誠一 |
代理人 | 奥山 尚一 |
代理人 | 徳本 浩一 |
代理人 | 森本 聡二 |
代理人 | 松島 鉄男 |
代理人 | 有原 幸一 |
代理人 | 西山 春之 |
代理人 | 小川 護晃 |
代理人 | 奥山 尚一 |
代理人 | 西山 春之 |
代理人 | 中村 綾子 |
代理人 | 水島 亜希子 |
代理人 | 森本 聡二 |
代理人 | 関谷 充司 |
代理人 | 有原 幸一 |
代理人 | 松島 鉄男 |
代理人 | 田中 祐 |
代理人 | 徳本 浩一 |
代理人 | 水島 亜希子 |
代理人 | 高橋 菜穂恵 |
代理人 | 高橋 菜穂恵 |