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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1381866
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-25 
確定日 2022-02-02 
事件の表示 特願2016−245200「人工知能に基づく指向翻訳方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月31日出願公開、特開2017−151959〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年12月19日(パリ条約に基づく優先権主張:2016年2月24日、中華人民共和国)の出願であって、平成30年2月16日付けで拒絶理由が通知され、同年5月23日に意見書と手続補正書が提出され、同年10月29日付けで拒絶理由が通知され、平成31年2月5日に意見書が提出され、令和元年7月16日付けで拒絶査定(原査定)がされて、その謄本が送達された。
これに対して、同年11月25日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、その後、当審より、令和3年3月25日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)を通知し、これに対し、同年6月29日に意見書と手続補正書が提出された。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和3年6月29日提出の手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおり、以下の発明である。なお、本願発明は、令和3年6月29日提出の手続補正書による補正前の請求項3に係る発明に対応するものである。

ユーザーにより設定された翻訳書類における第1単語を第2単語に翻訳する指向翻訳情報を受信するステップと、
前記翻訳書類に含まれる翻訳ミスがある複数の前記第1単語に対して、複数の前記第1単語を逐一に修正することを避け、翻訳区域選択機能を前記ユーザーに提供し、ユーザーにより前記翻訳書類にて設定された翻訳区域を受信するステップと、
前記翻訳書類における前記第1単語を前記第2単語に翻訳するステップであって、前記翻訳書類における前記第1単語を前記第2単語に翻訳するステップは、前記翻訳区域における前記第1単語を前記第2単語に翻訳することを含むステップと、
を含み、
前記ユーザーにより設定された翻訳書類における第1単語を第2単語に翻訳する指向翻訳情報を受信するステップの前に、
前記翻訳書類に対応する初期翻訳結果を、ユーザーに提供するステップと、
前記初期翻訳結果にミスがあると前記ユーザーにより確定された場合、指向翻訳設定機能を前記ユーザーに提供するステップと、を更に含み、
前記指向翻訳設定機能を前記ユーザーに提供するステップは、
入力欄の翻訳標識を前記ユーザーがクリックしたことが取得された場合、翻訳ミスがある単語に対して、ユーザーが指向翻訳設定するように、指定翻訳結果名称がマークされているウィンドウを提供するステップ、を含む、
ことを特徴とする指向翻訳方法。

第3 当審拒絶理由の概要
本願の請求項3(令和3年6月29日提出の手続補正書による補正前の請求項3)に係る発明は、下記引用文献1に記載された発明並びに引用文献2及び引用文献3記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等
1.特開平5−28186号公報
2.特開平8−272801号公報(周知技術を示す文献)
3.特開昭63−10265号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献及び周知技術を示す文献の記載、引用発明
1 引用文献の記載と引用発明
(1)当審拒絶理由において引用した引用文献(引用文献1、特開平5−28186号公報)は、本願の優先日前である平成5年2月5日の出願公開に係る特許公開公報であり、図面とともに次の事項が記載されている。下線は当審が付した。


「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ある言語(原文)から他の言語(訳文)に変換する機械翻訳機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、機械翻訳機はある言語を他の言語に翻訳するための装置として広く用いられている。
【0003】以下、従来の英日機械翻訳機において原文「I like spring.」を翻訳する場合を説明する。
【0004】「spring」に対する訳語は代表例として「春・初期・跳躍・バネ・元気」がある。通常「春」が多く使われるであろうから、「spring」に対する訳語は「春」が優先的に採用される。つまり、翻訳結果は「私は春が好きだ。」のようになる。
【0005】次に、バネに関する文章を翻訳させる場合を考える。「Remove the spring on the shaft.」を入力すると、「シャフトから春をはずしなさい。」と翻訳される。ここで、ユーザは「spring」の訳語を変更することを機械翻訳機に指示し、訳語の中から「バネ」を選択すると、「シャフトからバネをはずしなさい。」と変わる。このように、訳語を選択した情報は学習され、以降の翻訳においては「spring」という単語の訳語には「バネ」が採用される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、以上説明した従来の機械翻訳機では、ある単語の訳語の指定を行った場合、該単語が文章中に複数あれば、ユーザは該単語を含む文を文章中からすべて捜し出し、それぞれの文を再度翻訳するか、文章全てを再度翻訳しなければならない。
【0007】(略)
【0008】文章中の該単語をすべて捜し出すのはユーザの大きな負担になる。また文章全体を翻訳し直すのは訳文が変化しない文の翻訳時間が無駄になる。
【0009】(略)
【0010】本発明の課題は、従来のこれ等の問題点を解消し、操作負担を少なく且つ最翻訳漏れのない効率的な翻訳作業が行える機械翻訳機を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の課題を解決するため、従来の機械翻訳機に加え、単語の訳語の変更を指示できる入力手段と、特定の単語を文中から検索する指定単語検索手段と、ある一つの単語の訳語が変更されたときに該単語を含む文を前記指定単語検索手段により検索して該文を再翻訳する再翻訳制御手段とを有するようにしたものである。
【0012】
【作用】上記構成により、ある単語の訳語を変更した場合、指定単語検索手段が原文中から変更された単語を検索し、次に再翻訳制御手段が検索された単語に対して自動的に変更した訳語への再翻訳を行ない、該単語を含む他の原文も自動的に翻訳する。」


「【0014】図1は本発明の一実施例における機械翻訳機の機能ブロック図であり、1は原文の入力・操作指示入力及び単語の訳語の変更指示を行う入力手段、2は入力手段1より入力された原文と翻訳結果を対応づけて記憶する原文・訳文記憶手段、3は原文・訳文記憶手段2に記憶された原文と訳文を対応づけた表示およびある一つの単語に対する複数の訳語の表示を行う表示手段、4は翻訳の実行を行う翻訳実行手段、5は入力手段1によりある一つの単語の訳語の変更指示が発生した際に原文・訳文記憶手段2に記憶されている原文から該単語を含む文を検索する指定単語検索手段、6は指定単語検索手段5により検索された文を翻訳実行手段4を使い再度翻訳する再翻訳制御手段である。」


「【0017】図3は本発明の一実施例における処理の流れを表わすフローチャートである。以下、このフローチャートに従い、本発明の一実施例における処理の流れを説明する。
【0018】まずステップAで、入力手段1により原文が入力される。入力された原文は原文・訳文記憶手段2に記憶される。表示手段3には図4のように表示される。次にステップBで、入力された原文が翻訳実行手段4により翻訳される。表示手段3には図5のように表示される。
【0019】次にステップCで、訳語選択があるかどうかをユーザが判定する。訳語選択がある場合は入力手段1により第1文の「spring」を変更したいことを知らせ、ステップDに進む。
【0020】ステップDでは、表示手段3に「spring」の訳語が図6のように表示される。ステップEで入力手段1により「バネ」を選択する。次にステップFに進み、原文・訳文記憶手段2に記憶された原文から、「spring」を含む文を検索する。この結果まず第1文が検索される。
【0021】次にステップGに進む。第1文が検索されたから、ステップHに進む。ステップHでは再翻訳制御手段6が翻訳実行手段4により第1文を翻訳する。結果の訳文は原文・訳文記憶手段2に記憶される。その後ステップFに進み、原文・訳文記憶手段2に記憶された原文から、「spring」を含む文を検索する。その結果第5文が検索される。
【0022】次にステップGに進む。第5文が検索されたから、ステップHに進む。ステップHでは再翻訳制御手段6が翻訳実行手段4により第5文を翻訳する。結果の訳文は原文・訳文記憶手段2に記憶される。次にステップFに進み、原文・訳文記憶手段2に記憶された原文から、「spring」を含む文を検索する。その結果第6文が検索される。
【0023】次にステップGに進む。第6文が検索されたから、ステップHに進む。ステップHでは再翻訳制御手段6が翻訳実行手段4により第6文を翻訳する。結果の訳文は原文・訳文記憶手段2に記憶される。次にステップFに進む。「spring」を含む原文は他にはないから、検索は失敗する。
【0024】再びステップGに進み、翻訳すべき原文が検索されなかったのでステップCに進む。この時の表示手段3の状態を図7に示す。訳語を変更したい単語がないので翻訳を終わる。
【0025】本発明の一実施例における上記の機械翻訳機の説明の例では文が少数であったので人手によって再翻訳しても可能な量であるが、文章が長くなるにつれ人手による再翻訳は大きな負担になり、また手作業によるミスにより再翻訳もれが発生する可能性も高くなる。本発明では長文になる程有効に機能するものである。」


「【0026】【発明の効果】本発明の構成により、訳語が変更された単語を含む文が自動的に翻訳されるため、再翻訳の必要な文をユーザが探す手間がなくなり、再翻訳漏れもなく、効率的な翻訳作業が行える。」

オ 図3


カ 図4


キ 図5


ク 図6


ケ 図7


コ ウの【0018】【0019】【0024】、およびイの【0005】、【0011】、【0014】の記載によれば、翻訳実行手段による訳文が原文と対応させて表示された状態で、ユーザがある原文の単語の訳語を変更したい場合、ある一つの原文の単語についての訳語の変更指示が入力される。
また、クの図6には、単語「spring」に対する訳語「春」「初期」「跳躍」「バネ」「元気」のリストが図示されている。

サ ア〜コによれば、引用文献には、原文を自動的に翻訳する、機械翻訳機が行う機械翻訳方法である以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
原文を自動的に翻訳する、機械翻訳機が行う機械翻訳方法であって、
機械翻訳機は、入力手段、入力された原文とその翻訳結果である訳文とを対応づけて記憶する原文・訳文記憶手段、原文・訳文記憶手段に記憶された原文と訳文とを対応づけた表示およびある一つの原文の単語に対する複数の訳語の表示を行う表示手段、翻訳の実行を行う翻訳実行手段、入力手段によりある一つの原文の単語の訳語の変更指示が発生した際に原文・訳文記憶手段から該単語を含む原文の文を検索する指定単語検索手段、指定単語検索手段により検索された原文の文を翻訳実行手段を使い再度翻訳する再翻訳制御手段等からなり、
入力された原文を原文・訳文記憶手段に記憶し、表示手段に表示し、
入力された原文を翻訳実行手段により翻訳し、翻訳された訳文を原文と対応させて表示手段に表示し、
次に、翻訳実行手段による訳文が原文と対応させて表示された状態で、ユーザがある原文の単語の訳語を変更したい場合、ある一つの原文の単語の訳語について変更指示が入力され、例えば、「spring」について「春」という訳語から他の訳語を選択したい場合、入力手段により第1文の「spring」を変更したいことが知らされ、
単語「spring」に対する訳語「春」「初期」「跳躍」「バネ」「元気」のリストを表示手段に表示し、
入力手段により「バネ」が選択され、
次に、原文・訳文記憶手段に記憶された原文から「spring」を含む文を検索し、検索された文を再度翻訳し、その結果の訳文を原文・訳文記憶手段に記憶することを、「spring」を含む原文の文が他に検索されなくなるまで繰り返す、
機械翻訳方法。

2 周知技術を示す文献の記載
(1)引用文献2(特開平8−272801号公報、平成8年10月18日出願公開)
当審拒絶理由において周知技術を示す文献として引用した引用文献2には、次のとおりの記載がある。
「【0006】本発明の他の目的は、利用者に提示した訳語群の中から機械翻訳に用いる訳語を利用者の意思で選択できる翻訳支援方法及び装置を提供することにある。本発明の更に他の目的は、利用者に提示した訳語群の中から機械翻訳に用いる訳語を利用者の意思で選択できだけでなく、その訳語の適用範囲を指定できる翻訳支援方法及び装置を提供することにある。」

「【0009】本発明は更に、利用者が指定した訳語の受け付け時には、その指定訳語の適用範囲を指示するための、利用者の入力操作に従う入力手段からの適用範囲指定入力をも受け付け、この適用範囲指定入力の受け付け時には、該当する指定語句と指定訳語と受け付けた適用範囲を組にした情報を生成して、その範囲内で機械翻訳に優先的に用いられるようにしたことをも特徴とする。」

「【0012】また、上記の構成においては、利用者の意思で予め指定した訳語の適用範囲(例えば、文書中の指定位置の語句のみ、文書中の指定位置の語句を含む1文のみ、文書中の指定位置の語句を含む段落のみ、指定文書全文など)も、利用者により指定できるため、実質的な機械翻訳の精度と翻訳作業の効率の一層の向上が可能となる。」

「【0040】このようにして、翻訳情報記憶部4に登録された翻訳情報中の訳語、即ち利用者の意図が反映された訳語を、その訳語の適用範囲に応じて、辞書記憶部3から得られる訳語よりも優先させて機械翻訳を行うならば、利用者が希望する訳語を用いた翻訳結果を得ることができる。」

「【0043】更に、訳語の適用範囲についても、実施例で挙げたものに限るものではなく、例えば他の文書にも適用させるようにしてもよいし、マウスなどを用いて、任意の範囲を指定できるようにしてもよい。その他、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施することができる。
【0044】
【発明の効果】以上詳述したように本発明によれば、利用者が知りたいと思う文書中の語句の訳語を自動的に得ることができるため、翻訳作業の効率を高めることができる。また、本発明によれば、任意の文書の機械翻訳をさせる際に、利用者が特に訳語を指定したい語句に対して、利用者自ら所望の訳語を予め指定することができるため、機械翻訳の実質的精度を高め翻訳作業の効率を向上することができる。また、本発明によれば、利用者自ら指定した訳語の適用範囲を指定できるため、機械翻訳の実質的精度と翻訳作業効率を一層向上することができる。」

(2)引用文献3(特開昭63−10265号公報、昭和63年1月16日出願公開)
当審拒絶理由において周知技術を示す文献として引用した引用文献3には、次のとおりの記載がある。下線は、当審が付した。

「本発明はかかる従来の問題点に鑑みて成されたもので、所望の翻訳結果を短時間で得るために、たとえば第6図に示すように、/ They consider him a good teacher/という入力文(翻訳原文)が翻訳されたのち、”good”の部分にカーソルを合わせると該”good”及びその訳”よい”が共に反転表示され、かつこの状態で単語訳表示キーを操作すると訳語のウィンドウが表示され、このウィンドウ中の類義語すなわち現在システムが選択している訳語「よい」の類義語(第0番目のa、b、c、d)は勿論、第1番目以降の辞書内容の中から任意の一つと訳語「よい」とを容易に入れ換えできるようにした翻訳装置を提供せんとするものである。(第2頁左上欄11行〜同頁右上欄4行)


「第6図は本発明翻訳装置の表示例、及び第7図は同装置の動作フローチャートであり、これらの図にもとづいて動作を説明する。
まず、ソース言語から成る一つの英文/They consider him a good teacher/が入力されると(n1)、辞書引きおよび形態素解析が行なわれ、各単語に対応して適宜選択された各多品詞語の最初の品詞の組合せが設定される(n2)。このように設定された品詞列がステップn3で構文解析される(n3)。そして、構文解析が成功すれば、ステップn4の言語変換、ステップn5のターゲット言語生成と進み、ステップn6において構文解析で使用された品詞の訳語による翻訳結果「彼らは彼をよい先生であるとみなす。」を生成し、CRT表示装置にて表示する(第6図参照)。そして、ユーザによって訳語(入力文中の所望単語の訳語)すべての表示が指示されているか否かすなわち、単語訳表示キーが操作されているか否か判断し(n7)、否であればステップn21に進み、次の文があるか否か判断し所定の処理を行なう。
一方、ユーザによって単語訳表示キーが操作されている場合は、入力文中の指示された一つの単語(たとえば、“good”)の訳語群を第6図の如くウィンドウ表示(n8,9)、さらに指示された入力文中の単語“good”に対応する訳語「よい」を反転表示する(n10)。そしてステップn11において、ステップn9で表示されたウィンドウ内の内容とステップn10で反転表示している訳語「よい」とを入れ換えるか否か判断する。
ここで否であればステップn18へ進み、辞書の修正(訳語の修正、削除、訳語順の入れ換え等)を行なう場合はエダィタ機能等の使用による画面上での修正を行なったのち、内部表現も修正する(n19、20)。
又訳語の入れ換えを行なう場合は、ステップn11からステップn14に進み上記同様に修正したのち、ステップn15でどの訳語(類義語及び辞書訳語)と入れ換えるかを指示し、ステップn16で入れ換えを実行したのちステップn7へ戻る。
このようにして、上記実施例の翻訳装置では類義語だけでなく、対応の辞書内容まで対象としてある訳語と容易に入れ換えることができるので、所望の翻訳結果を得るまでの時間を著しく短縮することができる。また、訳語の入れ換え表示画面(ウィンドウ)で辞書の修正まで同時に行なえるので、実用に即した辞書内容を作成していくことができ、したがって同じような入力文の翻訳正解率を上げることができる。」(第3頁右上欄10行〜右下欄20行)

ウ 図6


第5 対比・判断
1 対比
(1)引用発明の「原文」は、ユーザーにより入力されて記憶されるものであり、本願発明の「ユーザーにより設定された翻訳書類」に相当する。
引用発明の「spring」等の「単語」は、ユーザーにより設定された翻訳書類における単語であり、本願発明の「第1単語」に相当し、引用発明の「バネ」等の「訳語」は、第1単語を翻訳したものであり、本願発明の「第2単語」に相当する。
引用発明の「ある一つの原文の単語の訳語の変更指示」による訳語の選択は、ユーザーにより設定された翻訳書類における第1単語を第2単語に翻訳する情報として入力手段により入力、選択されるものであり、本願発明の「指向翻訳情報」に相当する。
そして、引用発明において、入力手段により入力、選択されることは、機械翻訳機が受信することであるともいえる。
よって、引用発明の「入力され」、「原文・訳文記憶手段」に記憶された「原文」における「spring」の「単語」を「バネ」の「訳語」とする「ある一つの原文の単語の訳語の変更指示」が「入力手段」により入力されることは、本願発明の「ユーザーにより設定された翻訳書類における第1単語を第2単語に翻訳する指向翻訳情報を受信するステップ」に相当する。

(2)引用発明は、ある一つの原文の単語の訳語の変更指示に応じて、記憶された原文からその単語(「spring」)を含む文を検索し、検索された文を再度翻訳し、その結果の訳文を記憶することを、その単語を含む原文の文が他に検索されなくなるまで繰り返すものであるから、「翻訳書類における第1単語を第2単語に翻訳する際、翻訳書類に含まれる翻訳ミスがある複数の第1単語に対して、所定の範囲に含まれる複数の第1単語を逐一に修正することを避け」るものであるといえ、この点において、本願発明と共通しているといえる。
もっとも、第1単語を第2単語に翻訳する翻訳書類中の範囲について、本願発明では、「前記翻訳区域」、つまり、ユーザーにより翻訳書類にて設定された翻訳区域を範囲とするのに対し、引用発明では、原文の全範囲であり、そのため、本願発明では、「翻訳区間選択機能を前記ユーザーに提供し、ユーザーにより前記翻訳書類にて設定された翻訳区域を受信するステップ」を有するのに対し、引用発明では、そのようなステップを有しない点で、両者は相違する。(下記相違点1)

(3)引用発明は、ある一つの単語の変更指示の入力に先だって、入力された原文を翻訳し、翻訳された訳文を原文と対応させて表示手段に表示するものであるところ、この「翻訳された訳文」は、本願発明の「翻訳書類に対応する初期翻訳結果」に相当するものであり、引用発明は、本願発明と同様に、「指向翻訳情報を受信」する前に「翻訳書類に対応する初期翻訳結果」をユーザーに提供するものといえる。
よって、引用発明の「ユーザがある原文の単語の訳語を変更したい場合、ある一つの原文の単語の訳語について変更指示が入力され」るのに先だって、「翻訳実行手段による訳文が原文と対応させて表示され」る状態にすることは、本願発明の「前記ユーザーにより設定された翻訳書類における第1単語を第2単語に翻訳する指向翻訳情報を受信するステップの前に、前記翻訳書類に対応する初期翻訳結果を、ユーザーに提供するステップ」に相当する。

(4)引用発明において、表示された「前記初期翻訳結果」に、「ユーザがある原文の単語の訳語を変更したい」と判断した場合、「ある一つの原文の単語の訳語について変更指示」が行われることは、ユーザーに対して「ミス」がある訳語について上記指向翻訳情報の設定を可能とするものであるから、引用発明は、翻訳ミスがある単語に対してユーザーが指向翻訳設定するように指定翻訳結果名称がマークされているウィンドウを提供するものではないものの(下記相違点2)、「前記初期翻訳結果にミスがあると前記ユーザーにより確定された場合」に「指向翻訳設定機能」をユーザーに提供する点で、本願発明と共通しているといえる。

(5)引用発明の「機械翻訳機が行う機械翻訳方法」は、下記の相違点を除いて、本願発明の「指向翻訳方法」に対応するものといえる。

(6)以上(1)〜(5)によれば、本願発明と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
ユーザーにより設定された翻訳書類における第1単語を第2単語に翻訳する指向翻訳情報を受信するステップと、
前記翻訳書類に含まれる翻訳ミスがある複数の前記第1単語に対して、複数の前記第1単語を逐一に修正することを避け、
前記翻訳書類における前記第1単語を前記第2単語に翻訳するステップと、
を含み、
前記ユーザーにより設定された翻訳書類における第1単語を第2単語に翻訳する指向翻訳情報を受信するステップの前に、
前記翻訳書類に対応する初期翻訳結果を、ユーザーに提供するステップと、
前記初期翻訳結果にミスがあると前記ユーザーにより確定された場合、指向翻訳設定機能を前記ユーザーに提供するステップと、を更に含む、
指向翻訳方法。

(相違点)
(相違点1)
前記翻訳書類における前記第1単語を前記第2単語に翻訳するステップにおける第1単語を第2単語に翻訳する翻訳書類中の範囲について、本願発明では、「前記翻訳区域」、つまり、ユーザーにより翻訳書類にて設定された翻訳区域を範囲とするのに対し、引用発明では、原文の全範囲であり、そのため、本願発明では、「翻訳区間選択機能を前記ユーザーに提供し、ユーザーにより前記翻訳書類にて設定された翻訳区域を受信するステップ」を有するのに対し、引用発明では、そのようなステップを有しない点

(相違点2)
本願発明の指向翻訳設定機能をユーザーに提供するステップは、「入力欄の翻訳標識を前記ユーザーがクリックしたことが取得された場合、翻訳ミスがある単語に対して、ユーザーが指向翻訳設定するように、指定翻訳結果名称がマークされているウィンドウを提供するステップ」を含むのに対し、引用発明では、そのようなステップを有しない点。

2 相違点についての判断
(1)相違点1について
機械翻訳において、訳語を指定するだけでなく、指定した訳語の適用範囲入力手段を設け、原文の設定された適用範囲において原文の単語を指定された訳語で翻訳することにより、機械翻訳の実質的精度と翻訳作業効率を一層向上させることは、引用文献2(「第4」の「2(1)」)にあるように、周知技術である。
そして、引用発明は、原文の全範囲を翻訳するものであるが、さらなる翻訳作業効率の向上のために、訳語を指定するだけでなく、指定した訳語の原文における適用範囲を設定する上記周知技術を採用し、「翻訳区間選択機能を前記ユーザーに提供し、ユーザーにより前記翻訳書類にて設定された翻訳区域を受信するステップ」を設け、前記翻訳書類における前記第1単語を前記第2単語に翻訳するステップにおける第1単語を第2単語に翻訳する翻訳書類中の範囲を「前記翻訳区域」とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
機械翻訳において、原文の単語に対応する訳語の入れ換えや修正等を可能とする機能を当該ユーザーに提供するにあたって、当該機能に係るウィンドウを用いることは、引用文献3(「第4」の「2(2)」)にあるように、周知技術である。
さらに、引用文献3において、「単語訳表示キー」へのキー操作に応じてウィンドウ表示がなされること、ウィンドウに「単語訳 選択」との名称が表示されていることが記載されている。
そして、引用文献3が、昭和61年に出願された出願公開公報であることを考えると、昭和61年にマウスやタッチパネルのようなものが一般的でなかったとしても、本願優先日において、入力手段としてマウスやタッチ入力は一般的なのであるから、引用文献3に記載されたキー操作をマウスやタッチ入力による標識のクリック操作のようなユーザーの操作に変更することは、引用文献3に記載された技術を採用するにあたって、当業者が適宜選択すべき事項である。
また、ウィンドウに表示される名称は、ユーザーが翻訳設定するためのものであることを理解できればよいものであり、引用文献3に記載されたウィンドウの「単語訳 選択」との名称を訳語の入れ換えや修正による指向翻訳設定をユーザーに促す他の名称に変更することは、当業者が適宜選択すべき事項である。
したがって、引用発明は、翻訳ミスがある単語に対するユーザーによる指向翻訳設定を可能とするものであるから、そのために上記周知技術を採用し、引用発明において、翻訳ミスがある単語に対してユーザーが指向翻訳設定するようにウィンドウを提供するように構成することは、当業者が容易に想到し得たことであり、その際、ウィンドウ表示をユーザーによる入力欄の翻訳標識のアイコンのクリック操作に応じたものとし、ウィンドウに表示される名称を指定翻訳結果名称がマークされたものとすることは、当業者が適宜選択すべきことである。

(3)本願発明の効果、審判請求人の主張について
ア 本願発明の効果について
本願発明の効果(翻訳の正確度及び効率の向上(段落【0006】、【0064】)、翻訳の柔軟性の向上(同【0064】)等)は、いずれも、引用発明及び周知技術から当業者が予測できるものであって、格別なものでない。

イ 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和3年6月29日提出の意見書において、引用文献3に開示されたことは、カーソルが単語上に置いている場合に訳語が表示されることであるのに対して、本願発明は、ユーザーが入力欄の翻訳標識をクリックすると、指定翻訳結果名称がマークされているウィンドウが現れて、ユーザーに誤って翻訳された単語の指向翻訳設定ができるようにし、その内容は、「私は____を____に翻訳したい」であり、引用文献3にはこの点について開示がない旨を主張している。
本願発明についてみると、請求項1の記載によれば、「ウィンドウ」は、(a)「入力欄の翻訳標識を前記ユーザーがクリックしたことが取得された場合」に提供されるものであり、(b)「翻訳ミスがある単語に対して、ユーザーが指向翻訳設定するように」提供されるものであり、さらに(c)「指定翻訳結果名称がマークされている」ものであって、上記(a)(c)については、上記(2)で判断したとおりである。
そして、引用文献3には、機械翻訳において、原文の単語に対応する訳語の入れ換えや修正等を可能とする機能を当該ユーザーに提供するにあたって、当該機能に係るウィンドウを用いること、いうなれば、上記(b)の「翻訳ミスがある単語に対して、ユーザーが指向翻訳設定するように」「ウィンドウを提供する」ことが開示されており、ウィンドウの内容が「私は____を____に翻訳したい」である旨は請求項1の記載において特定されていない事項であるから、審判請求人の主張は採用できない。

(4)小括
してみると、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者であれば容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

3 結論
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 高瀬 勤
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-08-19 
結審通知日 2021-08-24 
審決日 2021-09-14 
出願番号 P2016-245200
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 高瀬 勤
特許庁審判官 古川 哲也
相崎 裕恒
発明の名称 人工知能に基づく指向翻訳方法及び装置  
代理人 丸山 重輝  
代理人 丸山 英一  
代理人 丸山 智貴  

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