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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61H
管理番号 1381875
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-04-04 
確定日 2022-02-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第5356625号「美容器」の特許無効審判事件についてされた令和2年8月17日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(令和2年(行ケ)第10115号、令和3年6月24日判決言渡)があったので、更に審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件審判の請求までの経緯
特許第5356625号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成23年11月16日に出願された特願2011−250916号の一部を平成25年6月20日に新たな特許出願としたものであって、同年9月6日に、特許権の設定の登録がされたものである。
請求人は、平成28年7月21日、本件特許の請求項1に係る発明についての特許無効審判(無効2016−800086号)を請求した。被請求人は、その手続において、平成29年6月9日、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正(以下「本件訂正」という。)する訂正請求をした。
平成29年10月24日、上記訂正請求を認めた上で、上記審判の請求は成り立たない旨の審決がなされた。請求人は、上記審決の取消しを求める訴訟(平成29年(行ケ)第10201号)を提起したが、請求棄却の判決がなされ、その後、上記審決は確定した。
請求人は、平成31年4月4日、本件訂正後の本件特許の請求項1に係る発明についての特許無効審判(無効2019−800028号、以下「本件審判」という。)を請求した。

2 本件審判の請求後の経緯
(1)第1次審決までの経緯
令和2年8月17日付け審決(以下「第1次審決」という。)までの手続の経緯は、以下のとおりである。

平成31年 4月 4日 本件審判請求
令和 元年 7月 8日 被請求人による審判事件答弁書提出
同年 8月16日付け 審理事項通知書
同年 9月27日 請求人による口頭審理陳述要領書提出
同年 9月27日 被請求人による口頭審理陳述要領書提出
同年10月 3日付け 審理事項通知書(2)
同年11月 1日 被請求人による口頭審理陳述要領書
(2)提出
同年11月15日 第1回口頭審理
令和 2年 4月 6日付け 審決の予告
同年 6月15日 被請求人による上申書提出
同年 8月17日付け 第1次審決
同年 9月 2日 第1次審決の謄本の送達

(2)第1次審決後の経緯
第1次審決では、「特許第5356625号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決がなされた。
被請求人は、令和2年9月26日、第1次審決の取消しを求める訴訟(令和2年(行ケ)第10115号)を提起した。知的財産高等裁判所は、令和3年6月24日、第1次審決を取り消す旨の判決(以下「本件取消判決」という。)をし、その後同判決は確定した。

第2 本件発明
本件訂正後の本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、本件訂正により訂正された特許請求の範囲及び明細書並びに願書に添付した図面(以下「本件明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、
一対のボール支持軸の開き角度を65〜80度、一対のボールの外周面間の間隔を10〜13mmとし、
前記ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており、
ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにしたことを特徴とする美容器。」

第3 無効理由
1 請求人主張の無効理由の概要
請求人の主張する請求の趣旨は、「特許第5356625号発明の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」であり、請求の理由は、次のとおりである(第1回口頭審理調書「請求人」欄1及び4参照)。

(1)無効理由1
本件発明は、甲第1号証の1に記載された発明、甲第2号証の1に記載された事項、甲第3号証に記載された事項、及び、甲第4号証ないし甲第6号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、本件特許は無効とすべきである。

(2)無効理由2
本件発明は、甲第4号証に記載された発明、甲第2号証の1に記載された事項、甲第3号証又は甲第7号証に記載された事項、並びに、甲第1号証の1、甲第8号証、及び、甲第9号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、本件特許は無効とすべきである。

2 請求人提出の証拠方法
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証の1 仏国特許出願公開第2891137号明細書の写し
(以下「写し」である旨の表記は省略する。)
甲第1号証の2 仏国特許出願公開第2891137号明細書の翻訳

甲第2号証の1 米国特許第2641256号明細書
甲第2号証の2 米国特許第2641256号明細書の翻訳文
甲第2号証の3 補足説明
甲第3号証 クロワッサン、(株)マガジンハウス、第35巻第
17号、2011年8月25日発行、26〜27ペ
ージ
甲第4号証 登録実用新案第3159255号公報
甲第5号証 登録実用新案第3166202号公報
甲第6号証 特開2010−131090号公報
甲第7号証 特開2000−24065号公報
甲第8号証 特開平4−231957号公報
甲第9号証 特開2004−321814号公報
甲第10号証の1 米国特許第2011471号明細書
甲第10号証の2 米国特許第2011471号明細書の翻訳文
甲第11号証 登録実用新案第3154738号公報
甲第12号証 特開2009−142509号公報
甲第13号証 意匠登録第1374522号公報
甲第14号証 特開2018−149442号公報
甲第15号証 特願2018−130473号の平成30年9月5
日付け手続補正書
甲第16号証 特願2018−130473号の平成30年9月
13日付け拒絶査定
甲第17号証 特願2018−130473号の平成30年12月
25日付け手続補正書
甲第18号証 特願2018−130473号の平成31年2月
14日付け前置報告書
甲第19号証 無効2016−800086号の特許審決公報(訂
正明細書、特許請求の範囲を含む。)

3 無効理由に対する被請求人の主張
被請求人の主張する答弁の趣旨は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」である。

4 被請求人提出の証拠方法
被請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。

乙第1号証 平成29年(行ケ)第10201号判決文
乙第2号証 平成31年(ネ)第10003号の控訴人(一審被
告)準備書面(1)
乙第3号証 本件無効審判(無効2019−800028号)の
証拠(甲号証)と平成31年(ネ)第10003号
の無効主張における証拠(乙号証)の関係を整理し
た書面

第4 第1次審決の理由の要旨及び本件取消判決について
1 第1次審決の理由の要旨
(1)第1次審決の理由の要旨は、本件発明は、甲第1号証の1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)、甲第2号証の1に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明についての特許は、無効理由1によって無効とすべきものである、というものである。

(2)第1次審決が認定した甲1発明、本件発明と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
ア 甲1発明
「回転可能な球を各々が受容する2つの軸が周囲に固定された、任意の形状の中央ハンドルを含むマッサージ用の器具において、
球の2つの軸が70〜100°に及ぶ角度をなし、
球の直径は、直径2〜8cmであり、
球を貫通状態で受容する軸を有し、
ユーザが2個の球を皮膚に当て、引張り力を及ぼすと、球が、進行方向に対して非垂直な軸で回転し、球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿って動くマッサージ用の器具。」

イ 本件発明と甲1発明の一致点及び相違点
【一致点】
ハンドルに一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、一対のボール支持軸の開き角度を70〜80度とし、ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにした美容器。
【相違点】
1 一対のボールを回転可能に支持しているのは、本件発明では、ハンドルの先端部であるのに対して、甲1発明では、先端部であるか不明である点。
2 一対のボール支持軸の開き角度が、本件発明では、65〜80度であるのに対して、甲1発明では、70〜100度である点。
3 本件発明では、往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心軸に対して前傾させて構成しているのに対して、甲1発明では、そのような構成を有するか明らかでない点。
4 本件発明では、一対のボールの外周面間の間隔が10〜13mmであるのに対し、甲1発明では、一対の球の直径が2〜8cmとしているものの、一対の球の外周面間の間隔は不明である点。
5 本件発明では、ボールが非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されているのに対し、甲1発明では、ボールを貫通状態で軸受部材を介さず支持している点。

(3)相違点についての判断の要旨
ア 相違点1について
相違点1に係る本件発明の構成は、甲1発明に基いて、又は、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。

イ 相違点2ないし5について
(ア)相違点2ないし5は、それぞれ別個独立に捉えるべきではなく、一対のボール支持軸の開き角度と共に相互に関連性を有するものとして理解・把握し、その容易想到性を検討すべきであるが、次のとおり、相違点2ないし5に係る本件発明の構成は、甲1発明、甲第2号証の1に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易になし得たものである。
(イ)相違点2について
相違点2に係る本件発明の構成は、甲1発明に基いて、当業者が容易になし得たことである。
(ウ)相違点3について
相違点3は、実質的な相違点とはならない。
(エ)相違点4について
相違点4に係る本件発明の構成は、甲1発明に基いて、又は、甲1発明及び甲第2号証の1に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。
(オ)相違点5について
相違点5に係る本件発明の構成は、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易になし得たことである。

2 本件取消判決における取消事由と結論
本件取消判決における取消事由は、相違点1、3ないし5の容易想到性の判断の誤りであり(取消事由1ないし4)、その結論は、第1次審決の相違点1及び3の容易想到性の判断に誤りがあるから、その余の相違点について判断するまでもまく、第1次審決の判断は誤りであって取り消されるべきというものである。

3 本件取消判決の拘束力について
審決を取り消す旨の判決の拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる(最三小平成4年4月28日判決、民集46巻4号245ページ)。
したがって、当審の審理は、本件取消判決の判決主文が導き出されるのに必要な認定判断に係る判示事項、特に以下の判示事項に拘束される。

(1)「甲1には、請求項1に『任意の形状の中央ハンドル』との記載があり、発明の詳細な説明中に、ユーザが握る中央ハンドルは『球、あるいは他のあらゆる任意の形状とすることが可能である。』と記載があることから、長尺状のハンドルを排除するものではないと理解することはできる。しかし、『球、あるいは他のあらゆる任意の形状とすることが可能である。』との記載ぶりからすれば、まずは『球』が念頭に置かれていると理解するのが自然であり、しかも甲1の添付図(FIG.1、FIG.2)は、いずれも器具の正面図であり、実施例を表すとされているが、そこに描かれたハンドルの形状や全体のバランスに照らして、球状のハンドルが開示されているとしか理解できないものである。」(本件取消判決25ページ16〜25行)

(2)「ハンドルが球状のものであれば、後述するハンドルの周囲に軸で4個の球を固定した場合を含めて、把持したハンドル(1)の角度を適宜調整して進行方向に向かって倒す方向に傾けることが可能である。しかし、ハンドルを長尺状のものとし、その先端部に2つの球を支持する構成とすると、球状のハンドルと比較して傾けられる角度に制約があるために進行方向に傾けて引っ張る際にハンドルの把持部と肌が干渉して操作性に支障が生じかねず、こうした操作性を解消するために長尺状の形状を改良する(例えば、本件発明のように、ボールの軸線をハンドルの中心軸に対して前傾させて構成させる(相違点3の構成)。)必要が更に生じることになる。そうすると、甲1の中央ハンドルを球に限らず『任意の形状』とすることが可能であるとの開示があるといっても、甲1発明の中央ハンドルをあえて長尺状のものとする動機付けがあるとはいえない。」(本件取消判決26ページ11〜22行)

(3)「また、甲1においては、『マッサージする面に適合させるために、より大きな直径を持つ1つまたは2つの追加球をハンドルが受容可能である』形態も開示されており、FIG.2には、小さい直径の球(2)を2つ、大きな直径球(3)を2つそれぞれハンドル(1)に軸によって固定された図が開示されている。このような実施例において、ハンドル(1)を球状から長尺状とすると、前記のとおり、甲1発明のマッサージ器具は、ユーザがハンドル(1)を握り、これを傾けて、ハンドルに2つの軸で固定された2つの回転可能な球を皮膚に当てて回転させると、球が進行方向に対して非垂直な軸で回転することにより、球の対称な滑りが生じ、球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿って動き、引っ張る代わりに押圧すると、球の滑りと皮膚に沿った動きによって皮膚が引き伸ばされるとの作用効果を生じるところ、例えば、大きい球(3)を皮膚に当てることを想定し、長尺状のハンドルを中心軸に前傾させて構成させると、小さい球(2)を皮膚に当てるときには、ハンドルを進行方向に対して傾けて小さい球(2)の球を引っ張ることができなくなる。したがって、こうした点からすると、甲1のハンドル(1)を長尺状のものとすることには、むしろ阻害要因があるといえる。」(本件取消判決26ページ23行〜27ページ12行)

(4)「そうすると、甲1発明のハンドルが長尺状のハンドルを排除するものではないとして、当業者が長尺状のハンドルを容易に想起し得るものとはいえないし、ましてや、長尺状のハンドルが甲1に記載されたに等しい事項であるとは認めることはできないから、甲1発明のハンドルには長尺状のものが含まれ、長尺状のハンドルが甲1の1に記載されたに等しい事項であることを前提として、相違点1については、ハンドルを長尺状のものとした場合には、一対の回転可能な球を先端部に配置することは甲1発明、又は甲1発明及び周知技術1に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものであり、また、相違点3については実質的な相違点にならないとした本件審決の判断は誤りというほかない。」(本件取消判決28ページ22行〜29ページ5行)

第5 当審の判断
1 甲各号証の記載事項
(1)甲第1号証の1の記載事項及び記載された発明
甲第1号証の1の表紙、発明の詳細な説明、特許請求の範囲及び図1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与。以下、同様。)。
なお、訳は、甲第1号証の2に基いて、当審が作成したものである。

ア 表紙

(訳:丸57(丸の中に数字57と記載された文字を「丸57」という。)1回のパスだけで身体をマッサージし、ドレナージュ(老廃物の排出を促進)し、揉むための器具である。
本発明は、引張方向に対して偏心した2個、3個、又は4個の球(2)(3)を受容する軸が周囲に固定された、ハンドル(1)に関する。
ユーザが2個の球を皮膚に当て、器具を傾けながら引っ張ると、球が筋肉に沿って動きながら筋肉を吸入し、これによりドレナージュ作用を伴いながら長手方向の転がりたたきが実施される。押圧すると反対作用が生じ、皮膚を外側に引き伸ばす。
この器具は、家庭でリラックスするために、あるいはプロの治療用に効果的である。)

イ 1ページ

(訳:本発明は、揉み、長手方向のたたき、及びドレナージュ作用を同じ動作で一緒に結合したマッサージ器具に関する。マッサージ師は、片手だけではこれを実施することはできない。
このマッサージ器具は、回転自在な球を各々が受容する2つの軸が周囲に固定された、任意の形状の中央ハンドルを含むことを特徴とする。
この器具は、マッサージする面に適合させるために、より大きな直径を持つ1つ又は2つの追加球をハンドルが受容可能であることを特徴とする。
この器具は、小さい直径を持つ球の2つの軸が70〜100°に及ぶ角度をなし、大きい球の場合は90〜140°をなすことを特徴とする。
ユーザがハンドル(1)を握り、これを傾けて2個の球(2)を皮膚(4)に当て、引張り力を及ぼすと、球が、進行方向に対して非垂直な軸で回転する。
その結果、球の対称な滑りが生じ、これらの球は、球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿って動く。
引っ張る代わりに押圧すると、球の滑りと皮膚に沿った動きとによって、皮膚が引き伸ばされる。
限定的ではなく例として、球の直径は、直径2〜8cmに変えることが可能である。
同様に、ハンドルは、球、あるいは他のあらゆる任意の形状とすることが可能である。
添付図は、器具の正面図である。図1は、器具の基本図であり、図2は、大型直径の2個の追加球(3)と皮膚4でのその作用とを示す変形実施形態である。3個の球を有する別の変形実施形態も同じ原理で動作可能である。)

ウ 2ページ

(訳:特許請求の範囲
1)回転自在な球(2)を各々が受容する2つの軸が周囲に固定された、任意の形状の中央ハンドル(1)を含むことを特徴とするマッサージ用の器具。
2)前記ハンドル(1)が、マッサージする面に適合させるために、より大きな直径を持つ1つ又は2つの追加球(3)を受容可能であることを特徴とする請求項1に記載の器具。
3)小さい直径を持つ球の2つの軸が、70〜100°に及ぶ角度をなし、大きい球の場合は90〜140°をなすことを特徴とする請求項2に記載の器具。)

エ 図1

上記図1からは、球を貫通状態で軸受部材を介さずに支持する軸を看取できる。

オ 図2

上記ア〜ウの特に下線部の記載事項及びエの図1の記載から看取できる事項によれば、甲第1号証の1には次の発明(以下「甲1発明A」という。)が記載されているものと認められる。
なお、上記イ並びにウの2)及び3)の記載からすれば、図1に記載された「球2」は、小さい直径を持つ球であるものと認められる。

「回転可能な小さい直径を持つ球を各々が受容する2つの軸が周囲に固定された、球、あるいは他のあらゆる任意の形状の中央ハンドルを含むマッサージ用の器具において、
前記小さい直径を持つ球の2つの軸が70〜100°に及ぶ角度をなし、
前記小さい直径を持つ球は、貫通状態で前記軸に軸受部材を介さずに支持されており、
ユーザが2個の前記小さい直径を持つ球を皮膚に当て、引張り力を及ぼすと、前記小さい直径を持つ球が、進行方向に対して非垂直な軸で回転し、前記小さい直径を持つ球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿って動くマッサージ用の器具。」

(2)甲第2号証の1の記載事項
甲第2号証の1には、以下の事項が記載されている。
なお、訳は、甲第2号証の2による。

ア 1欄14〜25行

(訳:手での適切な押圧及びハンドルによるロールの押し引きの困難さのため、所望の組織深部の触診は、これまで用いられてきたマッサージローラの種々の配置では達成できなかった。
本発明によれば、前述及び他の難題や異論が克服され、かつ組織への所望の深いマッサージを行うローラ装置であって、熟練したマッサージ師が必要でない点においてこれまで用いられてきたローラ装置の全ての利点を有するローラ装置が提供される。)

イ 1欄26〜38行

(訳:これら及び他の目的を達成するために、本発明によるローラは、互いにほぼ接触して設置されるのではなく、ほぼ半インチの空間だけ隔てられるように設置され、その結果、ローラが皮膚を挟むことはできないが、ローラは、適切に調整されていれば、回転時に皮膚と一緒にかなりの量の下層組織をまくり上げる。
これまでマッサージに用いられてきたような大きく隔てられたローラの使用者は、ローラを回転させるのにハンドルによりそれらローラを満足に操作できず、所望のマッサージを行うことができないことが判明している。)

ウ 1欄39〜52行

(訳:本発明によれば、ローラの1つを適切な動力で回転させるだけでその難題が克服され、それゆえ、適切に力が加えられた場合に満足できる装置がもたらされることが判明している。実際に、使用者が自身の腕又は体をマッサージするときでさえ、所望のマッサージを達成するには動力により1つのローラを回転させるだけで十分であることが意外にも判明している。
その上、手で押されるローラでは不可能な仕方でかつ一緒に回転するように連動させた1対のローラとは異なるようにマッサージ師の手がある部分を他の部分に対して押し付けるように、動力駆動ローラによる能動的な引っ張りにより患者の肉がある程度揉まれ引っ張られる。)

エ 2欄14〜44行

(訳:図1は、本発明の一形態を示す正面図である。
図2は、ギヤを示すためにカバーが取り外された部分切欠端面図である。
図3は、図2の線3−3に沿った断面図である。
ここに示す本発明の形態では、丸みのあるハンドル10が、回転可能な駆動シャフト12を支えるモータ(図示せず)を支える、モータ筐体11をハンドル10の端部で支持する。
図示の形態では、カウンタシャフト14を介して1つのマッサージボール13を能動的に回転させるようにシャフト12を連動させる。
図示の装置はまた、ハンドル10とは反対側の筐体11端部に支えられたギヤボックス17の本体内に装着された固定シャフト16上で自由に回転するように構成された第2のマッサージボール15を含む。
滑らかな表面のボール13及び15は、滑らかな表面の固めのスポンジゴムと同程度に軟質の、直径が約2と4分の1インチである軟質ゴムとして示されており、並びにそれらボールのシャフトが鋭角に(例えば、互いに対して約45°で)かつそれらボールの面が最も近接する箇所ではおよそ4分の1インチ離間するような距離をおいて設置される場合に最も良好に機能することが判明している。
この距離だけ間隔をおいて配置され、ローラは、使用時に皮膚を挟むことは決してないが、熟練したマッサージ師が患者の下層組織を揉む仕方で、但し、これまで平均的に行われてきたよりも更に徹底的に、患者の肉を持ち上げて、揉んで、引っ張る。)

オ 3欄27行〜4欄23行

(訳:1.マッサージ装置であって、モータ筐体と、前記モータ筐体内のモータと、前記モータ筐体により支えられたギヤボックスと、前記ギヤボックスから突出する固定シャフトと、前記シャフト上で回転可能なローラと、前記固定シャフトに対して鋭角に前記ギヤボックスから突出する回転可能なシャフトと、前記回転可能なシャフトに締結されるとともに前記回転可能なローラから約2分の1インチの間隔をおいて配置されたローラと、前記モータが前記回転可能なシャフトを回転させるギヤ装置と、前記マッサージ装置を持ち上げるためのハンドルであって、前記モータ筐体から突出する前記ハンドルとを含む、マッサージ装置。
2.マッサージ装置であって、モータ筐体と、前記モータ筐体内のモータと、前記モータ筐体により支えられたギヤボックスと、前記ギヤボックスから突出する固定シャフトと、前記シャフト上で回転可能なローラと、前記固定シャフトに対して鋭角に前記ギヤボックスから突出する回転可能なシャフトと、前記回転可能なシャフトに締結されるとともに前記回転可能なローラから約2分の1インチの間隔をおいて配置されたローラと、前記モータが前記回転可能なシャフトを回転させる、ウォームとウォームホイールとを含むギヤ装置と、前記マッサージ装置を持ち上げるためのハンドルであって、前記モータ筐体から突出する前記ハンドルとを含む、マッサージ装置。
3.マッサージ装置であって、モータ筐体と、前記モータ筐体内のモータと、前記モータ筐体により支えられたギヤボックスと、前記ギヤボックスから突出する固定シャフトと、前記シャフト上で回転可能なローラと、前記固定シャフトに対して鋭角に前記ギヤボックスから突出する回転可能なシャフトと、前記回転可能なシャフトに締結されるとともに前記回転可能なローラから約2分の1インチの間隔をおいて配置されたローラと、前記モータが前記回転可能なシャフトを回転させるギヤ装置と、前記マッサージ装置を持ち上げるためのハンドルであって、前記モータ筐体から突出する前記ハンドルと、前記モータを制御するために接続された、前記ハンドルにおける電気接続部とを含む、マッサージ装置。)

カ 図1〜3

上記ア〜オの特に下線部の記載事項及びカの図1〜3の記載からすれば、甲第2号証の1には次の事項(以下「甲2記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

「ハンドルの端部に設けられ、片方が動力で駆動される一対のローラからなるマッサージ器において、皮膚を巻き上げるために、ローラの直径を約2と4分の1インチ(=57.15mm)、一対のローラの間隔を1/2インチ(=12.7mm)とするマッサージ器。」

(3)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、写真とともに、以下の事項が記載されている。

ア 「プロのエステティシャンのハンド技術を取り入れたもので、先っぽの2つのボールが肌の上を転がり、ギュッとつまみながら引きあげる。」(26ページ)

イ 「このマッサージ効果を引き出すのが180ガウスという強力な磁力を持つ先端の2つの球。力を入れなくても、ぐいぐい引っ張られるから気持ちいい。」(27ページ)

ウ 写真

上記左の写真から、球状のボールがハンドルの先端に取り付けられていることが看取できる。

上記ア〜イの記載事項及びウの写真から看取できる事項からすれば、甲第3号証には次の事項(以下「甲3記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

「ハンドルの先端に取り付けられて肌の上を転がる球状の一対のボールで、肌をつまみながら引きあげるマッサージ器具。」

(4)甲第4号証の記載事項及び記載された発明
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
柄本体部と、柄本体部に回転自在に保持されるローラ部とによって構成され、
前記柄本体部が、使用者によって保持される所定の長さの把持部と、該把持部から該把持部の長さ方向に対して第1の角度で傾斜し且つお互いが第2の角度で開くように前記把持部の一端から延出する一対のローラ保持部とによって構成され、且つ
前記ローラ部が、磁石によって形成されると共に前記ローラ保持部のそれぞれに回転自在に保持されることを特徴とするマグネット美容ローラ。
【請求項2】
前記ローラ部の側面には、軸方向に所定の間隔で、樹脂リングが配設されることを特徴とする請求項1記載のマグネット美容ローラ。
【請求項3】
前記ローラ部の先端部が、球面突出状に形成されることを特徴とする請求項1又は2記載のマグネット美容ローラ。」(【請求項1】〜【請求項3】)

イ 「【0010】
以上のことから、本考案に係るマグネット美容ローラは、柄本体部と、柄本体部に回転自在に保持されるローラ部とによって構成され、前記柄本体部が、使用者によって保持される所定の長さの把持部と、該把持部から該把持部の長さ方向に対して第1の角度で傾斜し且つお互いが第2の角度で開くように前記把持部の一端から延出する一対のローラ保持部とによって構成され、且つ前記ローラ部が、磁石によって形成されると共に前記ローラ保持部のそれぞれに回転自在に保持されることを特徴とするものである。
【0011】
これによって、円筒状のローラ部が、使用者の手によって保持される把持部に対して第1の角度で傾斜し且つ第2の角度が開くことになるため、ローラ部の側面が顔面等の良好に接触することが可能となるものである。尚、第1の角度としては、20°〜60°の範囲内であることが望ましく、特に40°であることが望ましい。また、第2の角度としては、100°〜140°の範囲内であることが望ましく、特に120°であることが望ましい。」(段落【0010】〜【0011】)

ウ 「【0012】
また、前記ローラ部は、磁石、特にフェライトインジェクション磁石からなる円筒状のもので、その先端部は、球面突出状に形成されることを特徴とする。さらに、前記ローラ部の側面には、軸方向に所定の間隔で、樹脂リングが配設されるものである。尚、樹脂リングとしては、フッ素樹脂リング、テフロン(登録商標)(PTFE)リング等があるが、シリコンリングが望ましい。また、天然ゴム等の天然由来の樹脂からなるリングであっても良いものである。
【0013】
これによって、ローラ部の先端が球面突出状に形成されることから、ローラ部端部で顔面等の皮膚を刺激することも可能となるものである。また、ローラ部がフェライトインジェクション磁石によって形成されているので、磁気による血行促進効果を得ることができるものである。さらにまた、ローラ部側面に樹脂リングを配設したことによって、ローラ部と皮膚との摩擦抵抗を向上させることができるため、ローラ部を確実に回転させることが可能となるものである。また、ローラ部の側面と樹脂リングによって、皮膚との接触面に凹凸が形成されることから、皮膚への刺激を向上させることもできるものである。
【0014】
さらに、前記ローラ部には、前記ローラ保持部が挿着される挿着孔が形成され、前記ローラ保持部との間にベアリングが設けられて、前記ローラ部が回転自在となるものである。このベアリングとしては、玉軸受、コロ軸受等の転がり軸受、又は、プラスチック軸受、球面滑り軸受、焼結含油軸受等の滑り軸受が望ましい。」(段落【0012】〜【0014】)

エ 「【0016】
本考案によれば、使用者によって保持される柄本体部に対して、ローラ部が第1の角度で手前側に傾斜し且つ第2の角度が開いていることから、顔面の皮膚に効率的に接触すると共に、樹脂リングが肌に密着するため、ローラ部を皮膚に沿って円滑に移動させることができると共にローラ部表面が凹凸となるため、効率的に皮膚に刺激を与えることができ、美容効果を向上させることができるものである。さらに、ローラ部が磁石によって形成されていることから、磁力による血流の改善も期待できるものである。」(段落【0016】)

オ 「【0018】
本考案に係るマグネット美容ローラは、柄本体部と、柄本体部に回転自在に保持されるローラ部とによって構成され、前記柄本体部が、使用者によって保持される所定の長さの把持部と、該把持部から該把持部の長さ方向に対して第1の角度で傾斜し且つお互いが第2の角度で開くように前記把持部の一端から延出する一対のローラ保持部とによって構成され、且つ前記ローラ部が、磁石によって形成されると共に前記ローラ保持部のそれぞれにベアリング等の回転保持手段によって回転自在に保持されるものであり、前記ローラ部の側面に、軸方向に所定の間隔で、樹脂リングが配設されるものであり、且つ前記ローラ部の先端部が、球面突出状に形成されるものである。」(段落【0018】)

カ 「【0019】
以下、本考案の実施例について、具体的に説明する。本考案に係るマグネット美容ローラ1は、図1に示すように、柄本体部2と、ローラ部5とによって構成される。
【0020】
前記柄本体部2は、本実施例では亜鉛合金によって成形され、図2及び図3に示されるように、使用者によって保持される把持部3と、この把持部3から一方の側に角度αで、例えば手前側に傾斜すると共に、角度βで両側に広がるように延出するローラ保持部4とによって構成され、さらにローラ保持部4は、前記把持部3から分かれて延出する大径部4aと、その先端に一体に形成された小径部4bとによって構成される。この小径部4bには、下記するベアリング8が固着される。また、前記把持部3は、一端側の前記ローラ保持部4の分岐部分から他端側に向けて漸次大きくなるように形成され、持ちやすさを向上させるものである。さらに、把持部3の断面は、この実施例では長円形状に形成されるものであるが、円形であっても良いものである。
【0021】
また、前記角度αは、20°〜60°の範囲内であることが望ましく、特に本実施例では40°である。さらにまた、前記角度βは、100°〜140°の範囲内であることが望ましく、特に本実施例では120°である。尚、前記把持部3の他方側の端部近傍に、ひも等を通すための孔7を形成しても良いものである。
【0022】
前記ローラ部5は、図4に示すように、フェライトインジェクション磁石から円筒状に形成され、一端に球面状に突出する先端部51を一体に具備するローラ本体部50と、このローラ本体部50の側面52に装着された複数の樹脂リング6とによって構成される。この樹脂リング6は、シリコンリングであり、前記側面52の軸方向に所定の間隔で形成された環状溝55に装着されるものである。
【0023】
また、前記ローラ部5のローラ本体部50には、軸方向に形成された小径孔53と大径孔54とが連設され、小径孔53には前記ローラ保持部4の小径部4bが挿通され、大径孔54には前記小径部4bに固着されたベアリング8が挿入され、前記大径孔54の内周面に固定される。これによって、前記ローラ部5は、前記ローラ保持部4に対して回転自在に保持されるものである。
【0024】
以上に説明した構造によって、本考案に係るマグネット美容ローラ1は、把持部3を持ち、ローラ部5を顔などの皮膚に当てて移動させることによって、ローラ部5の凹凸及び磁気によって使用者の皮膚を刺激することができるものである。」(段落【0019】〜【0024】)

キ 図1〜4


上記図1及び4からは、ローラ保持部が挿通されるローラ本体部の孔は貫通しないことが看取できる。

上記ア、ウ及びカの特に下線部の記載事項並びにキの図1〜4の記載及び図3、4から看取できる上記事項からすれば、甲第4号証には次の事項(以下「甲4記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

「ローラ部を顔などの皮膚に当てて移動させることによって、ローラ部の凹凸及び磁気によって使用者の皮膚を刺激することができるマグネット美容ローラであって、ローラ部のローラ本体部には、貫通しない軸方向に形成された小径孔と大径孔とが連設され、小径孔には前記ローラ保持部の小径部が挿通され、大径孔には前記小径部に固着されたベアリングが挿入され、前記大径孔の内周面に固定されるマグネット美容ローラ。」

以下、甲第4号証に記載された発明について検討する。
まず、上記アの「柄本体部と、柄本体部に回転自在に保持されるローラ部とによって構成され、前記柄本体部が、使用者によって保持される所定の長さの把持部と、…前記把持部の一端から延出する一対のローラ保持部とによって構成され、…前記ローラ部が、…前記ローラ保持部のそれぞれに回転自在に保持されることを特徴とするマグネット美容ローラ。」の記載、及び、図1〜4の図示内容によれば、マグネット美容ローラは、「把持部の一端から延出する一対のローラ保持部を含み、ローラ部がローラ保持部のそれぞれに回転自在に保持される」ものであると認められる。
また、上記ローラ部については、上記アの「前記ローラ部の先端部が、球面突出状に形成されること」、上記イの「円筒状のローラ部」及び上記ウの「前記ローラ部は、…円筒状のもので、その先端部は、球面突出状に形成されることを特徴とする」によれば、「先端部が球面突出状に形成された円筒状の」ものであると認められる。
また、上記一対のローラ保持部については、上記ア及びイの「該把持部から該把持部の長さ方向に対して第1の角度で傾斜し…前記把持部の一端から延出する一対のローラ保持部」、上記イの「円筒状のローラ部が、使用者の手によって保持される把持部に対して第1の角度で傾斜し…第1の角度としては、20°〜60°の範囲内であることが望ましく、特に40°であることが望ましい」、上記カの「図3に示されるように…この把持部3から一方の側に角度αで、例えば手前側に傾斜する」、並びに、図3の図示内容(ローラ保持部4の軸線につき、把持部3の先端側を向くように傾斜する、すなわち前傾する態様が看取される。)によれば、「把持部から把持部の長さ方向に対して20〜60°で前傾するように把持部の一端から延出する」ものであると認められる。
上記一対のローラ保持部については、更に、上記ア及びイの「該把持部から該把持部の…お互いが第2の角度で開くように前記把持部の一端から延出する一対のローラ保持部」、並びに、上記イの「第2の角度としては、100°〜140°の範囲内であることが望ましく、特に120°であることが望ましい」によれば、「互いが100〜140°で開くように構成され」るものであると認められる。
また、上記ローラ部の保持態様については、上記ウの「前記ローラ部には、前記ローラ保持部が挿着される挿着孔が形成され、前記ローラ保持部との間にベアリングが設けられて、前記ローラ部が回転自在となるものである」、並びに、図1及び4の図示内容(上記キのとおり、ローラ保持部4が挿着されるローラ部5の挿着孔は非貫通であることが看取される。)によれば、「ローラ部は非貫通状態でローラ保持部に対してベアリングを介して回転自在に保持され」るものと認められる。
さらに、上記ローラ部の機能については、第1及び第2の角度の上記認定に加えて、上記イの「円筒状のローラ部が、使用者の手によって保持される把持部に対して第1の角度で傾斜し且つ第2の角度が開くことになるため、ローラ部の側面が顔面等の良好に接触することが可能となるものである」、及び、上記ウの「ローラ部の先端が球面突出状に形成されることから、ローラ部端部で顔面等の皮膚を刺激することも可能となる」によれば、「ローラ部が、使用者の手によって保持される把持部に対して20〜60°で傾斜し且つ100〜140°で開くことになるため、ローラ部の側面が顔面等に良好に接触することが可能となり、これにより、球面突出状の先端部及びローラ部の側面で顔面等の皮膚を刺激する」ものと認められる。

上記ア〜キの記載事項(特に下線部参照)及び上記認定事項によれば、甲第4号証には次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。

「把持部(3)の一端から延出する一対のローラ保持部(4)を含み、先端部が球面突出状に形成された円筒状のローラ部(5)がローラ保持部(4)のそれぞれに回転自在に保持されるマグネット美容ローラにおいて、
把持部(3)から把持部(3)の長さ方向に対して20〜60°で前傾するように把持部(3)の一端から延出する一対のローラ保持部(4)を有し、
一対のローラ保持部(4)は、互いが100〜140°で開くように構成され、
ローラ部(5)は非貫通状態でローラ保持部(4)に対してベアリング(8)を介して回転自在に保持され、
ローラ部(5)が、使用者の手によって保持される把持部(3)に対して20〜60°で傾斜し且つ100〜140°で開くことになるため、ローラ部(5)の側面が顔面等に良好に接触することが可能となり、これにより、球面突出状の先端部及びローラ部(5)の側面で顔面等の皮膚を刺激するようにしたマグネット美容ローラ。」

(5)甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。

ア 「本考案は、マッサージローラーの構造に関し、特にY字形のマッサージローラーの構造に関する。
中国医学では既に人体に分布し、各器官を反映するツボの存在を証明している。手や道具を使って人体にあるツボを押す、或いは人体の器官が痛みを感じる部分に対応するツボを押すことで、強く健康的な体を作り、美容や保健の目的に達するため、頻繁にツボマッサージをするのは、血液循環を促進し、新陳代謝を速め、元気を回復し、疲れを取り、ストレスを軽くする、ダイエットできるなど、素晴らしい効果をもたらす。」(段落【0001】〜【0002】)

イ 「最良実施例として、各ローラーは接続部品、内柱、二つのベアリング、軸受及び、外カバーを具有し、各ローラー3の接続部品31は球状ヘッド22を通じて互いに嵌合して固定する。また、接続部品31はハンドル2の軸を中心とするある角度に開いて、該二つのベアリング33をそれぞれ軸受34の両端に設置し、且つ二つのベアリング33と軸受34を同時に接続部品31の外側に套設する。該内柱32をしっかりと二つのベアリング33及び軸受34の外側に套設し、外カバー35の中に、しっかりと内柱32を嵌合することで、二つのベアリング33、外カバー35及び内柱32が回転可能の構造となる。該ローラーの外カバーの表面に若干の磁石を嵌め込む。」(段落【0007】)

ウ 図4

上記図4からは、内柱が外カバーを貫通しないことが看取できる。

上記ア〜イの特に下線部の記載事項及びウの図4から看取できる事項からすれば、甲第5号証には次の事項(以下「甲5記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

「美容や保健目的のマッサージローラーの構造に関し、外カバーの中に、しっかりと貫通しない内柱を嵌合することで、二つのベアリング、外カバー及び内柱32が回転可能の構造となるマッサージローラー。」

(6)甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。

ア 「本発明は、ゲルマニウムの半導体を、肌アレルギーを起こし難いチタニウム製ローラーに突設し、このローラーを顔面に接触させ回転させて美顔にする美顔用マッサージ器に関するものである。」(段落【0001】)

イ 「把手5の中空部10(審決注:図番10は中空部を表すものではなく、誤記と思われる。以下、同じ。)には把手5の先端中央から突出させた連結軸部3の連結軸11を突出させ、連結軸11の先端部にベアリング12を圧入し、連結軸11の基端にはL型ベアリング13を回転自在に嵌着し、円周溝14に座金15を嵌めてL型ベアリング13を連結軸11に固着し、この連結軸部3をローラー4の中空部10に、ベアリング12を回転自在で、L型ベアリング13を圧入して挿入する。ローラー部1と連結軸部3の構成は至極単純であるが、連結するという目的が達成できる。」(段落【0016】)

ウ 図6

上記図6からは、連結軸部がローラーを貫通しないことが看取できる。

上記ア〜イの特に下線部の記載事項及びウの図6から看取できる事項からすれば、甲第6号証には次の事項(以下「甲6記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

「美顔用マッサージ器のローラーであって、連結軸の先端部にベアリングを圧入し、連結軸の基端にはL型ベアリングを回転自在に嵌着し、円周溝に座金を嵌めてL型ベアリングを連結軸に固着し、連結軸部をローラーの中空部に、貫通せずに圧入して挿入するローラー。」

(7)甲第7号証の記載事項
甲第7号証には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、把持部と、該把持部の一端に設けた回転軸体の両端に嵌着した弾性体を有するマッサージ具を提供するものである。
【0006】
【発明の実施の形態】図1のマッサージ具1は、回転軸体8と、その回転軸体8の両端に嵌着した弾性体であるマッサージ部2とその回転軸体8を支持する把持部4とから成る。上記の弾性体であるマッサージ部2は、左右2つの円柱体3、3から成るが、球体、或いは回転楕円体等を用いてもよい。2つの内側側面部3aが顎の輪郭を中心にして両側から顎の皮膚表面に当接するため、マッサージ効果のある部位、即ち顎の表情筋にマッサージを行える道具となる。
【0007】把持部4は、手で把持し円柱体3、3を操作するための柄部7を備え、柄部7は手に把持しやすい長さがよく、柄部7の先端部分Bを基端側直線部分Aから傾斜させるとより好ましい。先端部分Bから柄部7の全長の略1/3〜1/4の部分で、基端側直線部分Aよりも略20〜40度傾斜させた柄を用いると、手首の傾け角を大きくとる必要がなく、自然な動きで作用できる。本実施例では柄部7の全長の略1/3の部分で略30度傾斜させた。回転軸体8と把持部4の材質はポリエチレン(P.E.)、ポリプロピレン(P.P.)、ポリスチレン(P.S.)等の熱可塑性樹脂で作成する。」(段落【0005】〜【0007】)

イ 図1〜2

上記ア〜イによれば、甲第7号証には次の事項(以下「甲7記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

「先端部分Bが基端側直線部分Aよりも略20〜40度傾斜した把持部(4)と、把持部(4)の一端に設けられた回転軸体(8)に回転可能に支持された一対の非貫通状態の弾性体とを備えるマッサージ具(1)において、弾性体として、円柱体(3)の代わりに、球体を用いたこと。」

(8)甲第8号証の記載事項
甲第8号証には、以下の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】 それぞれ関連する軸線のまわりに自由に回転するように取付けた、少なくとも2個の回転部材を、両面のうちの一方の面に設けられ、皮膚に当てるのに適する、マッサージ装置であって、前記各回転部材が、大体においてそれぞれ支持体に連結した関連する軸線のまわりの回転により生成される個体の形状を持ち、前記2つの軸線の方向が、その間に斜角βをなしている、マッサージ装置において、前記斜角βを60°ないし170°とし、前記各回転部材を、たわみ性材料、とくにエラストマー又は熱可塑性エラストマーで作り、前記各回転部材に、隆起した部分を設け、この隆起した部分に、皮膚に当てるのに適する接触端部を設け、これ等の接触端部を、前記回転部材の軸線方向に、又その周辺方向に互いに間隔を置いて配置したことを特徴とする、マッサージ装置。」(【請求項1】)

イ 図1

上記ア〜イによれば、甲第8号証には次の事項(以下「甲8記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

「2個の回転部材を皮膚に当てるマッサージ装置において、当該回転部材の2つの軸線の方向が、その間に60°ないし170°の斜角βをなしていること。」

(9)甲第9号証の記載事項
甲第9号証には、以下の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
製品を保持可能な、縦方向の軸Xを持つ容器(10)を備えた、製品のパッケージ及びアプリケータユニットであって、該容器は、蓋(20)によって開閉可能な製品分配孔(17)を第一端に備え、自由に回転できる少なくとも2つの皮膚マッサージ要素(41、42)を、第一端の反対側の第二端に備えたユニット。
【請求項2】
マッサージ要素(41、42)が、傾斜又は垂直方向を向く回転軸(A1、A2)の周りを回転可能であることを特徴とする請求項1に記載のユニット。
【請求項3】
2つの回転軸(A1、A2)の方向が、第一断面P1上で80度から140度、好ましくは100度から120度の角度αをなすことを特徴とする請求項2に記載のユニット。」(【請求項1】〜【請求項3】)

イ 図1

上記ア〜イによれば、甲第9号証には次の事項(以下「甲9記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

「2つの皮膚マッサージ要素を備えたアプリケータユニットにおいて、当該マッサージ要素の2つの回転軸の方向が80度から140度の角度αをなすこと。」

2 無効理由1について
(1)対比
甲1発明Aの「小さい直径を持つ球」及び「球、あるいは他のあらゆる任意の形状の中央ハンドル」は、機能・構成上、それぞれ本件発明の「ボール」及び「ハンドル」に相当する。そして、甲1発明Aの「マッサージ用の器具」は、ドレナージュ(老廃物の排出の促進)を行うものであり、美容作用があるものと認められることから、本件発明の「美容器」に相当する。
また、甲1発明Aの「球、あるいは他のあらゆる任意の形状の中央ハンドル」の「回転可能な小さい直径を持つ球を各々が受容する2つの軸が周囲に固定された」態様は、本件発明の「ハンドル」の「一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した」態様に相当する。
また、甲1発明Aの「小さい直径を持つ球を各々が受容する2つの軸」は、機能・構成上、本件発明の「一対のボール支持軸」に相当する。そして、本件発明と甲1発明Aは、これらの開き角度が70〜80°の範囲において重複する。
また、甲1発明Aの「前記小さい直径を持つ球は、貫通状態で前記軸に軸受部材を介さずに支持されており」と本件発明の「前記ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており」とは、「前記ボールは、ボール支持軸に支持されており」という点で共通する。
さらに、皮膚を集められれば肌が摘み上げられる作用が生じることは自明のことであり、大きい直径を持つ球に関するものであるが、このような作用は上記1(1)オの図2からも窺い知れる。してみれば、甲1発明Aの小さい直径を持つ球も、球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿って動くことにより、肌が摘み上げられるようにしているといえるから、甲1発明Aの「ユーザが2個の前記小さい直径を持つ球を皮膚に当て、引張り力を及ぼすと、前記小さい直径を持つ球が、進行方向に対して非垂直な軸で回転し、前記小さい直径を持つ球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿って動く」態様は、本件発明の「ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにした」態様に相当する。
してみれば、本件発明と甲1発明Aは、次の一致点及び相違点を有する。

【一致点】
ハンドルに一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、一対のボール支持軸の開き角度を70〜80度とし、前記ボールは、ボール支持軸に支持されており、ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにした美容器。

【相違点】
1 一対のボールを回転可能に支持しているのは、本件発明では、ハンドルの先端部であるのに対して、甲1発明Aでは、先端部であるか不明である点。
2 一対のボール支持軸の開き角度が、本件発明では、65〜80度であるのに対して、甲1発明Aでは、70〜100度である点。
3 本件発明では、往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心軸に対して前傾させて構成しているのに対して、甲1発明Aでは、そのような構成を有するか明らかでない点。
4 本件発明では、一対のボールの外周面間の間隔が10〜13mmであるのに対し、甲1発明Aでは、一対の球は小さい直径を持つものの、一対の球の外周面間の間隔は不明である点。
5 ボールのボール支持軸への支持について、本件発明では、非貫通状態で軸受部材を介して支持されているのに対し、甲1発明Aでは、貫通状態で軸受部材を介さず支持されている点。

(2)判断
ア 相違点1について
事案に鑑み、相違点1について判断する。
(ア)甲1発明Aの中央ハンドルの形状について
甲1発明Aは、上記1(1)で認定したとおり、「球、あるいは他のあらゆる任意の形状の中央ハンドル」を含むところ、その具体的形状は、「球、あるいは他のあらゆる任意の形状」との記載ぶりからすれば、まずは「球」が念頭に置かれていると理解するのが自然である。また、甲第1号証の1の添付図(図1及び図2)は、いずれも器具の正面図であり、同図に描かれたハンドルの形状や全体のバランスに照らせば、同図には、球状のハンドルが開示されていると認められる。(上記第4・3(1))
次に、甲1発明Aの中央ハンドルは、「任意の形状」を含むものであるから、仮にこれを長尺のハンドルとしようと試みた場合について、以下検討する。
甲1発明Aは、ユーザがハンドルを握り、2個の球を皮膚に当てて、器具を傾けながら引っ張り、球が進行方向に対して非垂直な軸で回転することで、マッサージを行うものであるところ(上記1(1)ア及びイ)、球状のハンドルであれば、把持したハンドルを適宜調整して器具を傾けることが可能である。しかしながら、長尺状のハンドルの場合、その先端部に2つの球を支持する構成(相違点1に係る本件発明の構成)とすると、2個の球の回転軸を進行方向に傾けて引っ張る際に、ハンドルの把持部と肌が干渉して操作性に支障が生じるおそれがあり、こうした操作性を解消するために、長尺状の形状を改良する必要が更に生じる。そうすると、甲1発明Aの中央ハンドルを長尺状のものとする動機付けがあるとはいえない。(上記第4・3(2))
また、より大きな直径を持つ2つの追加球(3)を備えるハンドル(図2)の場合、例えば、大きい球(3)を皮膚に当てることを想定し、長尺状のハンドルを中心軸に前傾させて構成(相違点3に係る本件発明の構成)すると、小さい球(2)を皮膚に当てるときには、ハンドルを進行方向に対して傾けて小さい球(2)の球を引っ張ることができなくなる。したがって、かかる点からすると、甲1発明Aのハンドル(1)を長尺状のものとすることには、むしろ阻害要因があるといえる。(上記第4・3(3))
以上を踏まえると、甲1発明Aの中央ハンドルの形状は「球状」であると認められ、長尺状のハンドルに変更する動機付けもなく、むしろ阻害要因があるといえる。
(イ)相違点1の動機付けについて
上記(ア)を踏まえて、甲第1号証について更に検討するに、甲第1号証には、「球状」である中央ハンドルについて、小さい直径を持つ球を回転可能に支持する箇所を「先端部」とする旨の記載も示唆もない。
また、甲第2〜6号証にも、球状であるハンドルにおいて、一対のボールを回転可能に支持する箇所を「先端部」とする旨の記載も示唆もない。
そうすると、甲1発明Aについて、相違点1に係る本件発明の構成のように変更することの動機付けを見いだすことはできない。
(ウ)小括
以上のとおり、甲1発明Aについては、相違点1に係る本件発明のように変更することの動機付けを見いだすことはできないから、相違点1に係る本件発明の構成については、甲1発明A及び甲2ないし6記載事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。(上記第4・3(4))

イ 無効理由1についてのまとめ
以上のとおり、相違点1に係る本件発明の構成について、容易想到とすることはできないから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明は、甲1発明A及び甲2ないし6記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3 無効理由2について
(1)対比
ア ハンドル、ボール、ボール支持軸、軸受部材及び美容器について
甲4発明の「把持部(3)」、「マグネット美容ローラ」及び「ベアリング(8)」は、機能・構成上、それぞれ本件発明の「ハンドル」、「美容器」及び「軸受部材」に相当する。甲4発明の「ローラ保持部(4)」は、「把持部(3)の一端から延出する」ものであり、把持部(3)の先端に位置することは明らかであるから、本件発明の「ハンドルの先端部」に相当する。
また、甲4発明の「ローラ部(5)」と本件発明の「ボール」とは、「回転部材」という点で共通し、甲4発明の「ローラ保持部(4)」と本件発明の「ボール支持軸」とは、その機能及び構成に照らして、「回転部材支持軸」という点で共通する。

イ ボールの支持態様について
まず、甲4発明の「把持部(3)の一端から延出する一対のローラ保持部(4)」、「回転自在」及び「保持」は、それぞれ、本件発明の「ハンドルの先端部」、「回転可能」及び「支持」に相当する。
次に、甲4発明は、把持部(3)の一端から延出する一対のローラ保持部(4)のそれぞれに、ローラ部(5)が保持されるものである。ローラ部(5)が保持される状態にあっては、2つのローラ部(5)は、「相互間隔」をおいた位置関係にあることは明らかである。
また、甲4発明のローラ部(5)は、一対のローラ保持部(4)のそれぞれにベアリング(8)を介して回転自在に保持されるものである。ローラ部(5)の回転は、ベアリング(8)によって規定される「一軸線を中心」とする態様となることは明らかである。
そこで、上記アの相当関係も踏まえると、甲4発明の「把持部(3)の一端から延出する一対のローラ保持部(4)を含み、…ローラ部(5)がローラ保持部(4)のそれぞれに回転自在に保持される」態様と、本件発明の「ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した」態様とは、「ハンドルの先端部に一対の回転部材を、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した」という点において共通する。
また、甲4発明の「ローラ部(5)は非貫通状態でローラ保持部(4)に対してベアリング(8)を介して回転自在に保持され」と本件発明の「前記ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており」とは、「前記回転部材は、非貫通状態で回転部材支持軸に軸受部材を介して支持されている」という点において共通する。

ウ ハンドルの形態について
まず、甲4発明の「把持部(3)の長さ方向」は、把持部(3)の長手方向の軸線(すなわち、把持部(3)の「中心線」)の向く方向を指すことは明らかであるから、本件発明の「ハンドルの中心線」の向く方向に相当する。甲4発明の「20〜60°」及び「前傾」は、それぞれ、本件発明の「一定角度」及び「前傾」に相当する。
次に、甲4発明のローラ保持部(4)は、把持部(3)の長さ方向に対して20〜60°で前傾するように把持部(3)の一端から延出するものであるところ、ローラ部(5)が保持される状態にあっては、ローラ部(5)の軸線とローラ保持部(4)の軸線の向く方向が同じとなり、かつ、ローラ部(5)の軸線が把持部(3)の長手方向の軸線(把持部(3)の「中心線」)に対して前傾する態様となることは、その構成及び機能上、明らかである。そうすると、甲4発明のローラ保持部(4)は、「ローラ部(5)の軸線を把持部(3)の中心線に対して前傾させて構成」され、また、このように構成すると、ローラ保持部(4)は、「往復動作中にローラ部(5)の軸線が肌面に対して一定角度を維持できる」ことも明らかである。
そこで、上記アの相当関係も踏まえると、甲4発明の「把持部(3)から把持部(3)の長さ方向に対して20〜60°で前傾するように把持部(3)の一端から延出する一対のローラ保持部(4)を有」する態様と、本件発明の「往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成」する態様とは、「往復動作中に回転部材の軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、回転部材の軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成」するという点において共通する。
さらに、甲4発明の「一対のローラ保持部(4)は、互いが100〜140°で開くように構成され」る態様と、本件発明の「一対のボール支持軸の開き角度を65〜80度」とする態様とは、「一対の回転部材支持軸の開き角度を一定の角度範囲」とするという点において共通する。

エ 一致点と相違点について
そうすると、本件発明と甲4発明は、次の点で一致し、相違する。

【一致点】
ハンドルの先端部に一対の回転部材を、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
往復動作中に回転部材の軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、回転部材の軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、
一対の回転部材支持軸の開き角度を一定の角度範囲とし、
前記回転部材は、非貫通状態で回転部材支持軸に軸受部材を介して支持されている美容器。

【相違点】
1 ハンドルに支持される回転部材が、本件発明ではボールであるのに対して、甲4発明では、先端部が球面突出状に形成された円筒状のローラ部である点。
2 回転部材支持軸の開き角度について、本件発明は、一対のボール支持軸の開き角度が65〜80度とされているのに対して、甲4発明は、100〜140度である点。
3 一対の回転部材の間隔について、本件発明は、一対のボールの外周面間の間隔が10〜13mmであるのに対して、甲4発明は、一対のローラ部(5)の間隔につき何ら特定がない点。
4 一対の回転部材の作用について、本件発明は、ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘まみ上げられるようにしているのに対して、甲4発明は、球面突出状の先端部及びローラ保持部の側面で顔面等の皮膚を刺激するようにしたものであるものの、一対のローラ部(5)がそのような作用を奏するか不明である点。

(2)相違点の判断
ア 相違点の検討にあたっての考え方
(ア)本件発明の技術的意義
本件明細書等によれば、本件発明は、ハンドルに設けられたマッサージ用のボールにて、顔、腕等の肌をマッサージすることにより、血流を促したりして美しい肌を実現することができる美容器を技術分野とするものであり、肌に対して優れたマッサージ効果を奏することができるとともに、肌に対する押圧効果と摘み上げ効果とを顕著に連続して発揮することができ、かつ、操作性が良好な美容器を提供するという課題を解決するために、請求項1に係る構成を採るものであると認められる(【0001】【0002】【0004】〜【0007】)。
そして、本件発明は、かかる構成を採ることにより、ハンドルを把持して一対のボールを肌に当てるときに手首を曲げる必要がなく、手首を真っ直ぐにした状態で、美容器を往動させたときには肌を押圧することができるとともに、美容器を復動させたときには肌を摘み上げることができ、また、ボールは肌の局部に集中して押圧力や摘み上げ力を作用することができるとともに、肌に対するボールの動きをスムーズにでき、移動方向の自由度も高いという効果を奏するものであると認められる(【0008】〜【0010】)。

(イ)相違点1〜4の関係について
a 相違点1と相違点4との関係
本件発明によれば、肌に接触する部分が筒状のローラではなく、真円状のボールで構成されていることから、ボールが肌に対してローラより狭い面積で接触するため、ボールは肌の局部に集中して押圧力や摘み上げ力を作用することができるとともに、肌に対してボールの動きがスムーズにでき、移動方向の自由度も高いと認められる(【0009】【0025】)。
ここで、相違点1に係る本件発明の構成は、「ハンドルに支持される回転部材が、本件発明ではボールである」というものである。また、相違点4に係る本件発明の構成は、「一対の回転部材の作用について、本件発明は、ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにしている」というものである。
そうすると、肌に接触する部分におけるボールの構成と当該構成を採ることによる作用という点において、当該構成を特定した相違点1に係る構成と、当該構成による作用を特定した相違点4に係る構成は、相互に関連したものということができる。

b 相違点2及び相違点3との関係
本件発明によれば、ハンドルの先端部に一対のボールが相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持され、ボールの軸線がハンドルの中心線に対して、前傾して構成されており、その上で、本件発明では、一対のボール支持軸の開き角度を65〜80度、一対のボールの外周面間の間隔を10〜13mmとされている(【0007】【0008】)。
ここで、一対のボール支持軸の開き角度βについては、ボールの往復動作により肌に対する押圧効果と摘み上げ効果を良好に発現させるために、特に好ましく設定されるものであり、その値が小さすぎることで、肌に対する摘み上げ効果が強く作用し過ぎることのないように、かつ、その値が大きすぎることで、ボール間に位置する肌を摘み上げることが難しくなることのないように設定されるものである(【0019】)。
また、一対のボールの外周面間の間隔Dについては、特に肌の摘み上げを適切に行うために、特に好ましく設定されるものであり、その値が小さすぎることで、ボール間に位置する肌に対して摘み上げ効果が強く作用し過ぎることのないように、かつ、その値が大きすぎることで、ボール間に位置する肌を摘み上げることが難しくなることのないように設定されるものである(【0021】)。
そして、一対のボールの外周面間の間隔Dは、当該「外周面」が「肌に接触する部分」であること(【0021】)に照らすと、「ハンドルを把持して一対のボールを肌に当てるとき」の「一対のボール」の「相互間隔」(【0008】)を直接的に示す指標であることは明らかである。また、一対のボール支持軸の開き角度βは、(a)ボールの直径L、及び、(b)ハンドルの二股部11aの長さ(あるいは二股部11におけるボールの位置)が一定である条件の下では、開き角度βが大きくなるほど、当該「相互間隔」が大きくなることも、技術常識に照らせば、当業者にとっては明らかである。
そうすると、開き角度βと間隔Dについては、肌に対する摘み上げ効果を良好に発現させるために、各々の値が個々に好適な値に設定されるのはもちろんのこと、一定の条件下においては、両者が開き角度βが大きく(小さく)なれば間隔Dが大きく(小さく)なるという関係にあることを踏まえて好適に設定されるものであると認めることができる。
そして、【0026】の「一対のボール17の開き角度βが50〜110度に設定されるとともに、ボール17の外周面間の間隔Dが8〜25mmに設定されていることから、所望とする肌20部位に適切な押圧力を作用させることができると同時に、肌20の摘み上げを強過ぎず、弱過ぎることなく心地よく行うことができる。」の記載は、開き角度βと間隔Dとの間に上記の関係があることを前提として、所望の摘み上げ力を実現するために、開き角度β(相違点2に係る構成)と間隔D(相違点3に係る構成)の個々の値を設定することを記載したものであると認めることができる。
そうすると、相違点2及び3に係る各構成は、完全に独立したものではなく、相互に密接に関係したものであるから、相違点2及び3に係る各数値範囲の構成がそれぞれ異なる文献に記載されていることをもって、相違点2及び3に係る各構成を当業者が容易に想到し得たものということはできない。

c 小活
上記aのとおり、相違点1に係る構成は、「肌に接触する部分」におけるボールの構成を特定したものであるところ、相違点2及び3に係る構成についても、上記bのとおり、「肌に接触する部分」に関するものである。また、相違点1〜3に係る各構成については、肌の摘み上げ力の作用に関するものであることは、上記a及びbから明らかであるから、相違点4に係る構成とも密接に関連したものである。
そうすると、相違点1〜4に係る構成は、それぞれ別個独立に捉えるべきではなく、相互に関連性を有するものとして理解・把握し、その容易想到性を検討すべきである(乙第1号証の33ページ22行〜36ページ5行も参照)。

イ 相違点1〜4の容易想到性について
上記アによれば、相違点1〜4に係る各構成は、相互に関連したものであるから、相違点1〜4に係る各構成がそれぞれ異なる文献に記載されていることをもって、各構成を当業者が容易に想到し得たものということはできない。以下、各文献について検討する。

(ア)甲第4号証の記載について
そもそも、甲4発明については、甲4発明の構成を相違点2に係る本件発明の構成のように変更することの動機付けが存在するとはいえない。すなわち、甲4発明の「一対のローラ保持部(4)は、互いが100〜140°で開くように構成され」る点について、甲第4号証には、「円筒状のローラ部が、使用者の手によって保持される把持部に対して第1の角度で傾斜し且つ第2の角度が開くことになるため、ローラ部の側面が顔面等の良好に接触することが可能となるものである。尚、第1の角度としては、20°〜60°の範囲内であることが望ましく、特に40°であることが望ましい。また、第2の角度としては、100°〜140°の範囲内であることが望ましく、特に120°であることが望ましい。」(【0011】)と記載されている。
そうすると、ローラ部の側面が顔面等と良好に接触する観点から望ましい角度の数値範囲である「100°〜140°」について、あえて、相違点2に係る本件発明の構成の「65〜80度」に変更するような動機付けがあるとはいえない。

(イ)甲第2号証の記載について
次に、甲第2号証には、相違点3に関して、甲2記載事項のとおり、「一対のローラの間隔を1/2インチ(=12.7mm)とするマッサージ器」は記載されているが、相違点2に関しては、一対のローラ(マッサージボール13及び15)のシャフト(カウンタシャフト14と固定シャフト16)の「開き角度」を「65〜80度」とする点は開示されていない。この点、甲第2号証には、シャフトの「開き角度」については、「鋭角」(例えば、「約45°」)の記載があるにすぎない(上記1(2)エ)。
また、甲第2号証の図1及び2から、ローラの形状に関して、相違点1に係る本件発明の構成が看取でき、当該ローラが肌の摘み上げの作用を生じるとしても(上記1(2)イ〜エ)、甲第2号証のマッサージ器は、ローラの片方が動力で駆動されるものであるから(甲2記載事項)、相違点4に係る本件発明の構成の「ハンドルの先端から基端方向に移動させることにより(肌が摘み上げられる)」の点が開示されているとはいえない。
そうすると、甲第2号証には、せいぜい、相違点1及び3に係る各構成、並びに、相違点4係る構成の一部が開示されているにすぎず、相違点1〜4に係る構成を併せ持つ構成が開示されているとはいえない。

(ウ)その他の甲号証の記載について
さらに、甲第1号証については、少なくとも、相違点3に係る構成は開示されてはおらず(上記2(1)【相違点】参照)、甲第3号証については、少なくとも、相違点2及び3に係る構成は開示されていない(甲3記載事項)。甲第1〜4号証以外の甲号証についても、甲7〜9記載事項のとおり、相違点1〜4に係る本件発明の構成を併せ持つ構成については、開示されていない。

(エ)小活
上記(ア)〜(ウ)のとおり、いずれの甲号証にも、相違点1〜4に係る本件発明の構成を併せ持つ構成の開示はなく、また、そもそも、甲4発明については、その構成を相違点2に係る本件発明の構成のように変更することの動機付けがあるとはいえない。

(3)無効理由2についてのまとめ
以上のとおり、相違点1〜4に係る本件発明の構成について、容易想到とすることはできないから、本件発明は、甲4発明及び甲1〜3、7〜9記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4 まとめ
したがって、請求人の主張する無効理由1及び2並びに提出した証拠方法によっては、本件発明に係る特許を無効にすることはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人主張の無効理由及び証拠方法によっては、本件発明に係る特許を無効にすることはできない。
審判請求に関する費用については、特許法第169条第2項の規定によって準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-12-02 
結審通知日 2021-12-06 
審決日 2021-12-21 
出願番号 P2013-129765
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A61H)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 佐々木 一浩
特許庁審判官 津田 真吾
平瀬 知明
登録日 2013-09-06 
登録番号 5356625
発明の名称 美容器  
代理人 冨宅 恵  
代理人 小林 徳夫  
代理人 ▲高▼山 嘉成  

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