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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C
管理番号 1381886
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-27 
確定日 2022-02-09 
事件の表示 特願2015−23742「連続白金層の無電解堆積」拒絶査定不服審判事件〔平成27年8月24日出願公開、特開2015−151628〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成27年2月10日(パリ条約による優先権主張 2014年2月18日 米国)の出願であって、平成30年12月7日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、令和1年6月5日に意見書が提出されるとともに誤訳訂正がなされたものの、同年10月24日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、これを不服として、令和2年2月27日に請求された拒絶査定不服審判であって、請求と同時に手続補正がなされ、令和3年3月1日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、同年6月1日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1〜21に係る発明は、令和3年6月1日になされた手続補正により補正された、特許請求の範囲の請求項1〜21に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
白金を無電解堆積するための溶液であって、
Ti3+イオンと、
白金イオンと、
NH4+イオン、およびクエン酸、グルコン酸または酒石酸のイオンと、
を含み、
ホウ素、リン、ヒドラジン、およびホルムアルデヒドを含まない、溶液。」

3 当審において通知した拒絶の理由
当審において通知した拒絶の理由のうちの理由2は、次のとおりのものである。

この出願の請求項1〜21に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1、2に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(刊行物)
1 特開2000−355774号公報(以下、「引用文献1」という。)
2 特開2013−510953号公報

4 引用刊行物の記載事項及び引用発明
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、次の記載がある。なお、引用文献1記載の発明の認定に関する箇所に、当審で下線を付した。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規なめっき方法と、それに用いるめっき液前駆体とに関するものである。」

「【0008】
【発明が解決しようとする課題】上記のようにレドックス系無電解めっき法は、従来の、通常の無電解めっき法と同様に、
・ 基本的に被めっき物の材質に限定がない、
・ 被めっき物の形状に関係なく、めっき層の厚みを均一にできる、といった利点を有する上、
・ 従来の無電解めっき法によってめっきが可能であった種々の金属はいうまでもなく、前述したように、従来は自己触媒的な無電解めっきができなかったスズ、鉛、アンチモンなどの、いわゆる触媒毒性を有する金属についても無電解めっきが可能であること、
・ レドックス系における酸化還元反応の速度は、従来の無電解めっき法における、還元剤による金属のイオンの還元反応の速度よりも速いために、めっき層を、これまでよりも速やかに、効率よく形成できる可能性があること、
・ 従来の無電解めっき法では、還元剤中に含まれるリンやホウ素などの元素がめっき層中に共析して、めっき層の電気的、機械的あるいは化学的な特性に影響を及ぼすおそれがあったが、レドックス系無電解めっき法においてはこれら元素を含む還元剤を使用しないので、共析物を含まない純金属製で、上記の各特性に優れためっき層を形成できること、
・ そしてそれゆえに、これまでは上記共析物が原因となって、めっき層の形成に無電解めっき法を採用できなかった種々の分野に、レドックス系無電解めっき法を利用できる可能性があること、といった利点を有している。」

「【0016】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、発明者らは、レドックス系無電解めっき法に使用するめっき液を再生する方法について種々検討した。その結果、めっき液に電流を流して、レドックス系を構成する金属のイオンを酸化状態の高いイオンから低いイオンに還元してやると液が再生して、めっきが可能な状態に活性化されるという知見を得た。
【0017】そしてこの活性化の工程をめっき工程と組み合わせると、めっき液を、調製後の任意の時点で、めっき層を形成する金属のイオンが液中に存在する限り何回でも繰り返して使用できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明のめっき方法は、めっき液中でレドックス系を構成する第1の金属のイオンが、酸化状態の低いイオンから高いイオンに酸化する際に生じる還元力により、同じ液中に存在する第2の金属のイオンを還元して、被めっき物の表面に析出させる方法であって、上記第1の金属のイオンを、液に電流を流すことによって、酸化状態の高いイオンから低いイオンに還元して液を活性化する工程を有することを特徴としている。
【0018】また発明者らは、めっき液の保存方法についても検討を行った。その結果、めっき液を、それ自体はめっき液として機能しない、つまり第2の金属のイオンの還元、析出を生じない安定な、いわばめっき液の前駆体といった状態としておけばよいことを見出した。つまりこのめっき液前駆体を長期間、保管しておいても、その間に、液中に含まれる第2の金属のイオンが勝手に還元、析出することがないため、いつでも任意のときに、電流を流して第1の金属のイオンを酸化状態の高いイオンから低いイオンに還元してやるだけで液が再生して、めっきが可能な状態に活性化し、めっき液として使用できるようになるのである。」

「【0022】また実際にも、前記の系で実験を試みたものの、あまりはかばかしい結果が得られなかったことが、この発表の中で報告されている。しかもこの発表においては、還元剤に代えて液に電流を流すことについては一切、示唆されていない。これに対し本発明によれば、後述する実施例の結果などからも明らかなように、上記のような種々の問題を生じることなく、良好なめっきを行うことが可能である。すなわち後述するように、めっき液に電流を流す際の、陰極の電流密度などを調整すれば、第1および第2の金属のあらゆる組み合わせにおいて第1の金属のイオンを良好に還元できる上、還元剤を使用しないために、前述したように共析や液寿命の問題を生じることなしに、良好なめっき層を形成することができるのである。」

「【0031】しかし、活性化の工程の第1の目的は、これまで記載してきたようにあくまでも第1の金属のイオンの還元にあるので、第2の金属のイオンの析出を極力低く抑えるのが肝要であり、そのためには、めっき液に電流を流す際の陰極の電流密度を、第2の金属のイオンの、めっき液における電析の限界電流密度以上とするのが好ましいのである。かくして陰極室内で活性化されためっき液と、陽極室内で第2の金属のイオンが補給されためっき液とを混合すると共に、必要に応じてその濃度を調整し、さらに前記のように活性化に先立って液のpHを調整した場合には、それを、アルカリを添加することでレドックス反応によるめっき工程、つまり第1の金属のイオンの酸化と、それに伴なう第2の金属のイオンの還元、析出とがスムーズに進行する範囲、すなわちpH6以上、好ましくは8〜9の範囲に再調整してやると、上記めっき工程に使用できる活性化されためっき液が得られる。」

「【0044】このうち本発明のめっき液前駆体は、上記の各成分を含有するとともに、前述したように第2の金属のイオンの還元、析出を生じない安定な状態とされたものである。かかる本発明のめっき液前駆体は長期間、保管しておいても、その間に、液中に含まれる第2の金属のイオンが勝手に還元、析出することがないため、いつでも任意のときに、電流を流して第1の金属のイオンを酸化状態の高いイオンから低いイオンに還元してやるだけで液が再生して、めっきが可能な状態に活性化し、めっき液として使用できるものであり、保存性に優れるという利点がある。
【0045】上記めっき液前駆体、およびそれを活性化させためっき液中においてレドックス系を構成する第1の金属のイオンとしては、これに限定されないが例えばチタン、コバルト、スズ、バナジウム、鉄、およびクロムから選ばれた少なくとも1種の金属のイオンが挙げられる。この中から、めっきの対象である第2の金属のイオンを還元、析出可能なレドックス系を構成するイオンが選択して使用される。
【0046】例えば第2の金属のイオンがニッケルイオン(Ni2+)である場合には、第1の金属のイオンとしてチタンイオンを使用して、液中で
Ti3+→Ti4++e-
のレドックス系を構成するのが好ましい。また第2の金属のイオンが銅イオン(Cu2+またはCu+)や銀イオン(Ag+)である場合には、第1の金属のイオンとしてコバルトイオンを使用して、液中で
Co2+→Co3++e-
のレドックス系を構成するのが好ましい。」

「【0049】その他の金属についても同様である。上記第1の金属の、酸化状態の高い安定なイオンの、めっき液前駆体1リットルあたりの濃度は、これに限定されないがおよそ0.0005モル/リットル以上であるのが好ましく、0.001モル/リットル以上であるのがさらに好ましい。発明者らの検討によると、酸化状態の高い安定なイオンの濃度がこの範囲未満では、通電しても、酸化状態の低い活性なイオンを、第2の金属のイオンの還元、析出に必要な濃度まで、十分な速度でもって発生させることができないために、液を活性化できないおそれがある。
【0050】第1の金属の、酸化状態の高い安定なイオンの濃度の上限についても特に限定はされないが、めっき工程において、第2の金属のイオンだけでなく第1の金属のイオンまでもが多量に析出して、めっき層の純度を低下させるのを防止することなどを考慮すると、当該第1の金属の、酸化状態の高い安定なイオンの濃度はおよそ0.5モル/リットル以下であるのが好ましく、0.2モル/リットル以下であるのがさらに好ましい。
【0051】なお、上記第1の金属として前述したチタンを使用する場合には、当該チタンの、めっき液前駆体中における酸化状態の高い安定なイオン、つまり4価のイオン(Ti4+)の濃度は、上記の範囲内でも特に0.001〜0.1モル/リットル程度であるのが好ましく、0.005〜0.05モル/リットル程度であるのがさらに好ましい。一方、上記第1の金属としてコバルトを使用する場合には、当該コバルトの、めっき液前駆体中における酸化状態の高い安定なイオン、つまり3価のイオン(Co3+)の濃度は、上記の範囲内でも特に0.01〜0.3モル/リットル程度であるのが好ましく、0.05〜0.2モル/リットル程度であるのがさらに好ましい。
【0052】第2の金属のイオンとしては、めっきの対象となる種々の金属のイオンが、いずれも使用可能であるが、特にニッケル、コバルト、金、銀、銅、パラジウム、白金、インジウム、スズ、鉛、アンチモン、カドミウム、亜鉛、および鉄から選ばれた少なくとも1種の金属のイオンが好適に使用される。上記第1および第2の金属のイオンを液中に安定に存在させるための錯化剤、安定化剤としては、例えばエチレンジアミン、クエン酸、酒石酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのカルボン酸や、そのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などの誘導体が挙げられる。」

「【0056】【実施例】以下に本発明を、実施例、および参考例に基づいて説明する。なおこれらの例で使用しためっき液およびめっき液前駆体は、それぞれ下記の組成1〜4を有するものである。
・・・(略)・・・
【0057】
<組成2:ニッケルめっき液>
(成分) (濃度)
Ti3+〔三塩化チタンの塩酸酸性溶液として添加〕
0.01モル/リットル
Ni2+〔硫酸ニッケルの水溶液として添加〕
0.02モル/リットル
クエン酸ナトリウム 0.03モル/リットル
酒石酸ナトリウム 0.04モル/リットル
ニトリロ三酢酸ナトリウム 0.02モル/リットル
めっき液の残量は水、液のpHは、アンモニア水を添加して8に調整した。」

「【0060】実施例1
(活性化工程)前記組成1のニッケルめっき液前駆体に塩酸を加えて液のpHを1に調整したのち、活性化のための予備槽の、隔膜によって分離された陰極室と陽極室とにそれぞれ1リットルずつ入れて、下記の条件で電流を流して活性化処理した。
陰極:白金被覆チタン板
陽極:白金被覆チタン板
陰極の電流密度:15A/dm2
処理時間:2時間
液温:25℃
(めっき工程)上記活性化工程で処理された、陰極室および陽極室中のめっき液、合計2リットルをめっき槽に入れて混合し、アンモニア水を加えて液のpHを8に調整した。
【0061】ついで浴温を40℃に維持しつつ、あらかじめ常法にしたがってパラジウム触媒処理をしたABS樹脂板を被めっき物として、めっき液中に10分間、浸漬してニッケルめっきを施した。得られたニッケルめっき層の膜厚は、約0.6μmであった。また、前記組成1のニッケルめっき液前駆体をビーカーに入れて1週間、放置したのち、上記実施例1と同じ条件で活性化処理し、めっきした場合(実施例2とする)にも、パラジウム触媒処理をしたABS樹脂板の表面に、膜厚約0.5μmのニッケルめっき層が形成されているのが確認された。
【0062】実施例3
前記組成2のニッケルめっき液を調製後、ビーカーに入れて一昼夜、放置したのち、その2リットルをめっき槽に入れて浴温を40℃に維持しつつ、パラジウム触媒処理をしたABS樹脂板を10分間、浸漬したが、その表面にニッケルめっき層は形成されず、めっき液は活性を失っていることが確認された。そこでこのめっき液に塩酸を加えて液のpHを1に調整したのち、活性化のための予備槽の、隔膜によって分離された陰極室と陽極室とにそれぞれ1リットルずつ入れて、前記実施例1と同じ条件で活性化処理した。
【0063】そして処理された陰極室および陽極室中のめっき液、合計2リットルをめっき槽に入れて混合し、アンモニア水を加えて液のpHを8に調整したのち、浴温を40℃に維持しつつ、パラジウム触媒処理をしたABS樹脂板を10分間、浸漬したところ、膜厚約0.7μmのニッケルめっき層が形成されているのが確認された。
実施例4
前記実施例1でニッケルめっき処理をした後のめっき液を回収し、塩酸を加えて液のpHを1に調整したのち、再び活性化のための予備槽の、隔膜によって分離された陰極室と陽極室とにそれぞれ1リットルずつ入れて、前記実施例1と同じ条件で活性化した。ただし今回は、陽極としてニッケル極板を使用した。
【0064】そして処理後の、陰極室および陽極室中のめっき液、合計2リットルをめっき槽に入れて混合し、アンモニア水を加えて液のpHを8に調整したのち、浴温を40℃に維持しつつ、パラジウム触媒処理をしたABS樹脂板を10分間、浸漬したところ、膜厚約0.6μmのニッケルめっき層が形成されているのが確認された。また、前記実施例3でニッケルめっき処理をした後のめっき液を回収して、上記実施例4と同じ条件で活性化処理し、めっきした場合(実施例5とする)にも、パラジウム触媒処理をしたABS樹脂板の表面に、膜厚約0.6μmのニッケルめっき層が形成されているのが確認された。」

(2)引用文献1に記載された発明について
上記(1)の記載より、「組成2」の「ニッケルめっき液」に注目すると、引用文献1(特に、【0016】、【0057】)には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「三塩化チタンの塩酸酸性溶液として添加されたTi3+:0.01モル/リットルと、
硫酸ニッケルの水溶液として添加されたNi2+:0.02モル/リットルと、
クエン酸ナトリウム:0.03モル/リットルと、
酒石酸ナトリウム:0.04モル/リットルと、
ニトリロ三酢酸ナトリウム:0.02モル/リットルとを含み、
めっき液の残量は水であり、
液のpHは、アンモニア水を添加して8に調整した、レドックス系無電解めっき法に使用するニッケルめっき液。」

5 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「レドックス系無電解めっき法に使用するニッケルめっき液」と、本願発明の「白金を無電解堆積するための溶液」とは、「金属を無電解堆積するための溶液」で共通する。

イ 引用発明の「三塩化チタンの塩酸酸性溶液として添加されたTi3+」は、本願発明の「Ti3+イオン」に相当する。

ウ 引用発明は、「水」、「クエン酸ナトリウム」及び「酒石酸ナトリウム」を含むものであって、「クエン酸ナトリウム」及び「酒石酸ナトリウム」は、いずれもイオン化していると考えられるから、本願発明の「クエン酸、グルコン酸または酒石酸のイオン」を含むものである。

エ 引用発明は、「液のpHは、アンモニア水を添加して8に調整した」ものであるから、本願発明の「NH4+イオン」を含むものである。

オ 引用発明の「硫酸ニッケルの水溶液として添加されたNi2+」と本願発明の「白金イオン」とは、「金属イオン」で共通する。

カ 以下の(ア)〜(ウ)の理由により、引用発明は、本願発明の「ホウ素、リン、ヒドラジン、およびホルムアルデヒドを含まない」という特定事項を有するものであると考えられる。
(ア)引用発明は、「組成2」の「ニッケルめっき液」の成分として、「三塩化チタンの塩酸酸性溶液として添加されたTi3+」、「硫酸ニッケルの水溶液として添加されたNi2+」、「クエン酸ナトリウム」、「酒石酸ナトリウム」、「ニトリロ三酢酸ナトリウム」が含まれるものであって、「めっき液の残量は水であ」るとされていること。

(イ)引用文献1には、「従来の無電解めっき法では、還元剤中に含まれるリンやホウ素などの元素がめっき層中に共析して、めっき層の電気的、機械的あるいは化学的な特性に影響を及ぼすおそれがあったが、レドックス系無電解めっき法においてはこれら元素を含む還元剤を使用しないので、共析物を含まない純金属製で、上記の各特性に優れためっき層を形成できる」(【0008】、下線は強調のため当審が付した。)と記載されていること。

(ウ)引用文献1には、「還元剤を使用しないために、前述したように共析や液寿命の問題を生じることなしに、良好なめっき層を形成することができる」(【0022】、下線は強調のため当審が付した。)と記載されており、「ヒドラジン」、「ホルムアルデヒド」は還元剤としてよく知られていること。

キ 上記ア〜カより、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「金属を無電解堆積するための溶液であって、
Ti3+イオンと、
金属イオンと、
NH4+イオン、およびクエン酸、グルコン酸または酒石酸のイオンと、
を含み、
ホウ素、リン、ヒドラジン、およびホルムアルデヒドを含まない、溶液。」で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
無電解堆積する金属、及び、溶液に含まれる金属イオンが、本願発明は、それぞれ「白金」、及び、「白金イオン」であるのに対し、引用発明は、それぞれ「ニッケル」、及び、「硫酸ニッケルの水溶液として添加されたNi2+」である点。

(2)当審の判断
上記相違点について、検討する。
ア 引用文献1には、「第2の金属のイオンとしては、めっきの対象となる種々の金属のイオンが、いずれも使用可能であるが、特にニッケル・・・(略)・・・、白金・・・(略)・・・から選ばれた少なくとも1種の金属のイオンが好適に使用される」(【0052】)と記載されているから、引用発明において、第2の金属イオンである「Ni2+」に代えて、白金イオンを採用して、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

イ よって、本願発明は、引用発明及び引用文献1記載の事項に基いて当業者が容易に想到し得たものである。

6 審判請求人の主張について
(1)上記5(1)カ(引用発明は、本願発明の「ホウ素、リン、ヒドラジン、およびホルムアルデヒドを含まない」という特定事項を有するものであること)に関し、審判請求人は、令和3年6月1日付の意見書において、次の主張をしている。
「一般に技術文献において「残量はXである」と記述する場合・・・(略)・・・、Xは、当該技術文献の技術において積極的な役割を果たす物質ではありません。そして、「残量はXである」という記載は、当該技術文献の技術において積極的な役割を果たすと認識されている物資(当審注:「物質」の誤記であると認める。)は、ほかには含まれていない、という程度の意味を表すに過ぎません。すなわち、当該技術文献の技術において積極的な役割を果たさない物質の排除を意味しているものではありません。
また、引用文献1におけるリンやホウ素を含む「還元剤を使用しない」という記述・・・(略)・・・は、めっき層を形成するために意図的に還元剤を使用することはないという意味です。めっき層を形成するために意図的に特定の還元剤を使用することはないという記述が、引用発明の溶液の残量において特定の物質が排除されている、ということを表しているわけではありません。」(【意見の内容】の4.の(1)の(v))

(2)しかしながら、引用発明である「組成2」の「ニッケルめっき液」は、引用文献1に具体的な実施例として記載されているものであって、「めっき液の残量は水であ」ると記載されていることから、残量が水以外のものを含まないと解するのが相当である。
また、仮に、審判請求人が主張するように、この記載が「積極的な役割を果たさない物質の排除を意味しているものでは」なかったとしても、次の理由により、引用発明の「ニッケルめっき液」は、「ホウ素、リン、ヒドラジン、およびホルムアルデヒドを含まない」ものである。
すなわち、引用文献1には、「従来の無電解めっき法では、還元剤中に含まれるリンやホウ素などの元素がめっき層中に共析して、めっき層の電気的、機械的あるいは化学的な特性に影響を及ぼすおそれがあったが、レドックス系無電解めっき法においてはこれら元素を含む還元剤を使用しないので、共析物を含まない純金属製で、上記の各特性に優れためっき層を形成できる」(【0008】、下線は強調のために当審で付した。)と記載されているから、引用文献1において、実施例である「組成2」の「ニッケルめっき液」にリンやホウ素が含まれていることは考え難い。
また、「ヒドラジン」、「ホルムアルデヒド」は還元剤として広く知られているところ、引用文献1には、「還元剤を使用しないために、前述したように共析や液寿命の問題を生じることなしに、良好なめっき層を形成することができる」(【0022】)と記載されているし、また、無電解めっき液において、還元剤はイオン化した金属を還元して堆積させるという積極的な役割を果たす物質であるから、実施例である「組成2」の「ニッケルめっき液」に、「ヒドラジン」、「ホルムアルデヒド」の記載がないことは、実施例である「組成2」の「ニッケルめっき液」に、「ヒドラジン」、「ホルムアルデヒド」が含まれていないと考えることが相当である。
よって、審判請求人の意見は採用できない。

7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 平塚 政宏
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-09-13 
結審通知日 2021-09-14 
審決日 2021-09-27 
出願番号 P2015-023742
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C23C)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 土屋 知久
市川 篤
発明の名称 連続白金層の無電解堆積  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  

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