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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C11D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C11D
管理番号 1381908
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-20 
確定日 2022-01-26 
事件の表示 特願2018−526800「プロテアーゼを含む液体洗剤組成物及び封入リパーゼ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年6月1日国際公開、WO2017/091674、平成31年1月31日国内公表、特表2019−502779〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)11月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年11月26日(以下「本件優先日」という。) 欧州)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和1年 5月27日付け:拒絶理由通知書
令和1年 8月27日 :意見書、手続補正書の提出
令和1年12月25日付け:拒絶査定
令和2年 4月20日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和2年4月20日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年4月20日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「プロテアーゼ酵素と、リパーゼ酵素と、5〜60重量%の非石鹸界面活性剤系と、を含む液体洗剤組成物であって、
前記界面活性剤系が、(i)アニオン性界面活性剤及び(ii)非イオン性界面活性剤を含み、(i)の(ii)に対する重量比が51:49〜99:1であり、
前記リパーゼ酵素の少なくとも65重量%が封入体中に存在し、
前記封入体がシェルを含み、
前記シェルが、前記液体洗剤組成物には不溶性であるが、前記液体洗剤組成物を洗浄液で希釈すると溶解し、
前記アニオン性界面活性剤が、アルキルベンゼンスルホネート界面活性剤と、1〜7個のエトキシレートで部分的又は完全にエトキシル化されたアルキルサルフェート界面活性剤と、を含むことを特徴とする、液体洗剤組成物。」
本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和1年8月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次の通りである。
「プロテアーゼ酵素と、リパーゼ酵素と、5〜60重量%の非石鹸界面活性剤系と、を含む液体洗剤組成物であって、
前記界面活性剤系が、(i)アニオン性界面活性剤及び(ii)非イオン性界面活性剤を含み、(i)の(ii)に対する重量比が1:1〜99:1であり、
前記リパーゼ酵素の少なくとも65重量%が封入体中に存在し、
前記封入体がシェルを含み、
前記シェルが、前記液体洗剤組成物には不溶性であるが、前記液体洗剤組成物を洗浄液で希釈すると溶解し、
前記アニオン性界面活性剤が、アルキルベンゼンスルホネート界面活性剤と、1〜7個のエトキシレートで部分的又は完全にエトキシル化されたアルキルサルフェート界面活性剤と、を含む、液体洗剤組成物。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「(i)アニオン性界面活性剤」の「(ii)非イオン性界面活性剤」に対する重量比について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本件優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表平7−506137号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。
a 第2頁左上欄第1行−右下欄第2行
「請求の範囲
1.洗剤組成物中に用いるのに適したポリマーカプセルであって、
(a)洗剤感受性の活性成分、及び
(b)(i)エチレン性不飽和基を有する乳化重合性モノマーによって形成された疎水性のポリマーコアと、
(ii)ノニオン性でかつ水溶性の合成ポリマー、多糖、改質多糖;タンパク質、改質タンパク質、ヒドロキシル基を有するポリマー、カルボキシル基を有するポリマー、及びこれらのコポリマーの中から選択された親水性のポリマーと
を含み、前記疎水性のコア粒子対親水性の水溶性ポリマーの比は約2:8から約7:3である複合ポリマーを含むカプセル。
2.ノニオン性でかつ水溶性の合成ポリマーがポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールとビニルエステル塩とのコポリマー、ポリビニルピロリドン、ピロリドンとスチレンとのコポリマー、及びピロリドンとビニルエステル塩とのコポリマーの中から選択され、改質多糖は酢酸セルロース、アルキルセルロース及びヒドロキシアルキルセルロースの中から選択され、アクリルポリマーはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、及びこれらの酸のエステルまたは塩の中から選択されることを特徴とする請求項1に記載のカプセル。
3.親水性のポリマーが95%未満の加水分解率と50,000未満の分子量とを有するポリビニルアルコールから成ることを特徴とする請求項2に記載のカプセル。
4.エチレン性不飽和基を有する乳化重合性モノマーがスチレン、メチルスチレン、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸及びアクリル酸のエステル、メタクリル酸及びメタクリル酸のエステル、並びにこれらのモノマーのうちの任意のもの同士の混合物の中から選択されたモノマーから成ることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のカプセル。
5.疎水性のコア対親水性の水溶性ポリマーの比が約4:6から約6:4であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のカプセル。
6.約5〜約85重量%の界面活性剤とポリマーカプセルとを含有する重質液体洗剤組成物であって、ポリマーカプセルが
(a)洗剤感受性の活性成分、及び
(b)(i)エチレン性不飽和基を有する乳化重合性モノマーによって形成された疎水性のポリマーコア粒子と、
(ii)この洗剤組成物には不溶性であるが、該組成物が水で稀釈されると溶解または分散する親水性のポリマーと
を含み、前記疎水性のコア粒子対親水性の水溶性ポリマーの比は約2:8から約7:3である複合ポリマーを含む組成物。
7.0.1〜10重量%のポリマーカプセルを含有することを特徴とする請求項6に記載の組成物。
8.重質洗剤組成物中にカプセルがそのまま残ることを保証する十分量の電解質及び/または架橋剤を含有することを特徴とする請求項6または7に記載の組成物。
9.電解質が1価、2価、3価または4価の水溶性電解質の中から選択されることを特徴とする請求項8に記載の組成物。
10.架橋剤がIA族金属ホウ酸塩であることを特徴とする請求項8に記載の組成物。
11.酵素安定剤が添加されることを特徴とする請求項6から10のいずれか1項に記載の組成物。
12.カプセル内部に酸素安定剤を収容することを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載のポリマーカプセル。」
b 第3頁左上欄第4−8行
「発明の分野
本発明は、重質液体洗剤組成物中に用いるのに適したポリマーカプセルに係わり、このカプセルは洗剤感受性の活性成分、及び疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを含む新規な複合ポリマーを含む。」
c 第5頁右上欄第7行−第6頁右上欄第19行
「アニオン性界面活性剤洗剤
用い得るアニオン性界面活性剤は、その分子構造中に長鎖炭化水素の疎水基を有し、かつスルホン酸基や硫酸基といった親水基、即ち水に溶解する基を有する界面活性化合物である。アニオン性界面活性剤には、水溶性の高級アルキルベンゼンスルホン酸、高級アルキルスルホン酸、高級アルキル硫酸及び高級アルキルポリエーテル硫酸のアルカリ金属(例えばナトリウム及びカリウム)塩が含まれる。脂肪酸や脂肪酸石鹸もアニオン性界面活性剤に含まれ得る。好ましいアニオン性界面活性剤は、高級アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属、アンモニウムまたはアルカノールアミド塩、及び高級アルキルスルホン酸のアルカリ金属、アンモニウムまたはアルカノールアミド塩である。好ましい高級アルキルスルホン酸は、そのアルキル基が8〜26個、好ましくは12〜22個、更に好ましくは14〜18個の炭素原子を有するものである。アルキルベンゼンスルホン酸のアルキル基は好ましくは8〜16個、更に好ましくは10〜15個の炭素原子を有する。特に好ましいアルキルベンゼンスルホン酸塩はドデシルベンゼンスルホン酸のナトリウムまたはカリウム塩で、例えば直鎖ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムである。第一級及び第二級アルキルスルホン酸塩は、長鎖α−オレフィンを亜硫酸塩または重亜硫酸塩、例えば重亜硫酸ナトリウムと反応させることによって製造し得る。アルキルスルホン酸塩は、界面活性剤洗剤としての使用に適したノルマルまたは第二級高級アルキルスルホン酸塩を得るべく、米国特許第2,503,280号、同第2,507,088号、同第3,372,188号及び同第3,260,741号に述べであるように長鎖のノルマルパラフィン系炭化水素を二酸化硫黄及び酸素と反応させることによっても製造可能である。アルキル置換基は好ましくは直鎖アルキル即ちノルマルアルキルであるが、分枝鎖アルキルスルホン酸塩も用い得る。
アルカン即ちアルキル置換基は末端においてスルホン化し得、または、例えば鎖の2位の炭素原子に結合させ得、即ち第二級スルホン酸とし得る。置換基をアルキル鎮上の任意の炭素に結合させ得ることは、当業者には理解される。高級アルキルスルホン酸はナトリウム及びカリウムなどのアルカリ金属の塩として用い得る。好ましい塩はナトリウム塩である。好ましいアルキルスルホン酸塩はC10〜C18第一級ノルマルアルキルスルホン酸ナトリウム及びカリウムであり、C10〜C15第一級ノルマルアルキルスルホン酸塩であれば更に好ましい。
高級アルキルベンゼンスルホン酸塩と高級アルキルスルホン酸塩との混合物も、高級アルキルベンゼンスルホン酸塩と高級アルキルポリエーテル硫酸塩との混合物も用い得る。アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩は0〜70重量%、好ましくは10〜50重量%、更に好ましくは10〜20重量%の量で用い得る。スルホン酸のアルカリ金属塩は、アルキルベンゼンスルホン酸塩との混合物の形態で0〜70重量%、好ましくは10〜50重量%の量で用い得る。
ノルマルアルキル及び分枝鎖アルキル硫酸塩(例えば第一級アルキル硫酸塩)もアニオン性成分として用い得る。
用いる高級アルキルポリエーテル硫酸塩はノルマルまたは分枝鎖アルキルを含み得、かつ2個または3個の炭素原子を有し得る低級アルコキシル基を含み得る。ノルマルアルキルを含む高級アルキルポリエーテル硫酸塩は、分枝鎖アルキルを含むものより高度に生物分解性である点で好ましく、また低級ポリアルコキシル基は好ましくはエトキシル基である。
本発明により用いる好ましい高級アルキルポリエトキシ硫酸塩は、式
R1−O(CH2CH2O)p−SO3M
〔式中R1はC8〜C20アルキルで、好ましくはC10〜C18、更に好ましくはC12〜C15アルキルであり、pは2〜8、好ましくは2〜6、更に好ましくは2〜4であり、Mはナトリウム及びカリウムなどのアルカリ金属またはアンモニウムカチオンである〕によって表わされる。ナトリウム及びカリウム塩が好ましい。
好ましい高級アルキルポリエトキシル化硫酸塩は式
C12〜15−O−(CH2CH2O)3−SO3Na
を有する、C12〜C16アルキルトリエトキシ硫酸のナトリウム塩である。
用い得る適当なアルキルエトキシ硫酸塩の例には、C12〜C15ノルマルまたは第一級アルキルトリエトキシ硫酸のナトリウム塩;n−デシルエトキシ硫酸のナトリウム塩;C12第一級アルキルジエトキシ硫酸のアンモニウム塩;C12第一級アルキルトリエトキシ硫酸のナトリウム塩;C16第一級アルキルテトラエトキシ硫酸のナトリウム塩;C14〜C15混合ノルマル第一級アルキルトリエトキシ及びテトラエトキン混合硫酸のナトリウム塩;ステアリルペンタエトキン硫酸のナトリウム塩;及びC16−C18混合ノルマル第一級アルキルトリエトキシ硫酸のカリウム塩が有る。
ノルマルアルキルエトキシ硫酸塩は容易に生物分解可能であり、好ましい。ポリ−低級アルコキシル基を有するアルキル硫酸塩は、当該塩以外のそのようなアルキル硫酸塩と混合し、及び/または先に述べた高級アルキルベンゼン、高級アルキルスルホン酸塩もしくは高級アルキル硫酸塩と混合して用い得る。
高級アルキルポリエトキシ硫酸のアルカリ金属塩をアルキルベンゼンスルホン酸塩及び/またはアルキルスルホン酸塩もしくは硫酸塩と共に、組成物全体の0〜70重量%、好ましくは10〜50重量%、更に好ましくは10〜20重量%の量で用い得る。」
d 第13頁左上欄11〜14行
「適当な市販プロテアーゼの例には、いずれもNovo Indutry a/Sの・・・Savinase・・・が有る。」
e 第17頁左下欄第20行−右下欄第7行
「実施例4:酵素マイクロカプセルの製造
表Iの複合エマルションポリマーを用いて、濃縮液体洗剤組成物に含有させるリパーゼ酵素を封入した。69gのエマルションポリマー(pH6〜8)と37.5gのLipolase 100L(Nova社)とを混合して製造した溶液を、Yamato Pulvis Mini Sprayを用いて次の条件下に噴霧乾燥して、粒径l〜30μmのさらさらした(free flowing)酵素マイクロカプセルを得た。」
f 第17頁右下欄第19行−第18頁左下欄第2行
「実施例5: 濃縮液体洗剤中での酵素安定性
実施例4の酵素マイクロカプセルを含有する濃縮液体洗剤を、次表に示した組成に従って製造した。

比較例として同じ組成を有する濃縮液体洗剤も、非封入のLipolase 100Lを用いて製造した。このように調製した濃縮液体洗剤を37℃で貯蔵した。37℃における酵素の安定性を酵素活性の測定によって調べた。次表に酵素の半減期を示す。

この実施例は明らかに、本発明のポリマーがリパーゼに高い安定性を付与することを示している。そのうえ、カプセル1及びカプセル2をMW2,000、加水分解率75%のポリビニルアルコール及びMW13,000〜23,000、加水分解率78%のポリビニルアルコールから合成することが興味深く指摘される。従来技術(ヨーロッパ特許出願公開第0,266、796号)は、上記のような部分加水分解物質は酵素のためのコーティングとして不適当であり、加水分解率90%以上の物質のみを用いるべきであるとしている。しかし、本発明で開示したように上記ポリマーを疎水性コア粒子にグラフトさせることによって、得られる物質は酵素の封入に完全に適したものとなる。」
g 第18頁左下欄第3―8行
「実施例6:洗浄条件下での酵素の放出
封入酵素の洗浄条件下での放出を25℃及び40℃において調べた。1gの実施例4の試料Aを1lの水に添加し、様々な時点での酵素活性を測定した。結果を次表に示す。表から知見されるように、酵素は40℃では1分以内、25℃では3分以内に完全に放出された。」
上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献1の第17頁右下欄第19行−第18頁左下欄第2行(上記(ア)f)に記載された「実施例5」のA列に注目すると、「Savinase 16 OL」0.6質量%と、「酵素カプセル1」0.6質量%と、アルキルベンゼンスルホン酸を27.3質量%と、エトキシル化アルコールC12−149EOを12.0質量%含有する「酵素含有濃縮液体洗剤」Aが記載されている。
b ここで、上記「酵素カプセル1」は、第17頁左下欄第19行−右下欄第7行(上記(ア)e)の記載より、エマルションポリマーによってリパーゼ酵素が封入された酵素マイクロカプセルであると認められる。
c また、第18頁左下欄第3−8行(上記(ア)g)の記載より、洗浄条件下において、1gの上記「酵素カプセル1」が1lの水に添加されると、酵素は40℃では1分以内、25℃では3分以内に完全に放出される、と認められる。
d さらに、上記「酵素含有濃縮液体洗剤」Aは、アルキルベンゼンスルホン酸を27.3質量%と、エトキシル化アルコールC12−149EOを12.0質量%含有し、これらは、いずれも石鹸すなわちアルキルカルボン酸でないから「非石鹸界面活性剤」であり、また、これら以外に界面活性剤を含まないから、上記「酵素含有濃縮液体洗剤」Aにおける非石鹸界面活性剤の含有量は、27.3+12.0=39.3質量%であると認められる。
e 上記「酵素含有濃縮液体洗剤」Aは、アニオン性界面活性剤であるアルキルベンゼンスルホン酸の、非イオン性界面活性剤であるエトキシル化アルコールC12−149EOに対する重量比が、27.3:12.0=2.28:1であると認められる。
(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「『Savinase 16 OL』と、エマルションポリマーによってリパーゼ酵素が封入された酵素カプセル1と、アルキルベンゼンスルホン酸を27.3質量%と、エトキシル化アルコールC12−149EOを12.0質量%含有する酵素含有濃縮液体洗剤であって、
非石鹸界面活性剤の含有量が39.3質量%であり、
アニオン性界面活性剤の非イオン性界面活性剤に対する重量比が、2.28:1であり、
上記酵素カプセル1は、1gの水に添加されると、40℃では1分以内、25℃では3分以内に酵素が完全に放出される酵素マイクロカプセルである、酵素含有濃縮液体洗剤。」
イ 引用文献2
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本件優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2012−532247号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄組成物であって、
a.有益剤と、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、セルロースアセテートフタレート、及びこれらの混合物からなる群から選択されるセルロース系ポリマーと、を含む有益剤送達粒子と、
b.移染阻害剤、増白剤、漂白剤、光退色剤、粘土汚れ除去/再付着防止剤、汚れ放出ポリマー、汚れ懸濁ポリマー、増白剤、泡抑制剤、香料、柔軟仕上げ剤、色調剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の補助剤成分と、を含み、
前記洗浄組成物が液体である、洗浄組成物。
【請求項2】
前記有益剤が、酵素、色調染料、金属触媒、漂白剤触媒、過酸、香料、バイオポリマー、及びこれらの混合物からなる群から選択される材料を含む、請求項1に記載の洗浄組成物。
【請求項3】
前記酵素が、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、セロビオヒドロラーゼ、セルビオースデヒドロゲナーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、ペクチン酸リアーゼ、ケラチナーゼ、還元酵素、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、タンナーゼ、ペントサナーゼ、グルカナーゼ、アラビノシダーゼ、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ラッカーゼ、アミラーゼ、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項2に記載の洗浄組成物。
【請求項4】
前記組成物が、
a.カルシウム塩、マグネシウム塩、及びこれらの混合物からなる群から選択される無機塩と、
b.オリゴ糖、多糖類、及びこれらの混合物からなる群から選択される炭水化物と、
c.フェニルボロン酸及びその誘導体からなる群から選択される質量効率的可逆性プロテアーゼ阻害剤と、
d.これらの混合物と、からなる群から選択される、酵素安定剤成分を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の洗浄組成物。
【請求項5】
前記有益剤が、予め形成された過酸、漂白活性化剤、触媒性金属錯体、非金属漂白剤触媒、及びこれらの混合物からなる群から選択される漂白剤又は漂白剤触媒を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の洗浄組成物。
【請求項6】
前記有益剤が、漂白促進剤、色調染料、布地柔軟剤、付着剤、カチオン性ポリマー、カチオンデンプン、又はこれらの混合物を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の洗浄組成物。
【請求項7】
前記有益剤が、メラミンホルムアルデヒドポリマーと少なくとも1つの香料成分とを含み、前記メラミンホルムアルデヒドポリマーが前記香料成分を封入する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の洗浄組成物。
【請求項8】
前記有益剤送達粒子が、0.1マイクロメートル〜1000マイクロメートルの粒径を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の洗浄組成物。
【請求項9】
前記有益剤送達粒子によって供給される有益剤が、組成物の0.0001重量%〜10重量%である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の洗浄組成物。
【請求項10】
前記洗浄組成物が2つ以上の有益剤送達粒子を含み、前記2つ以上の有益剤送達粒子のそれぞれが異なる放出特性を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の洗浄組成物。
【請求項11】
前記有益剤送達粒子の比重と、前記有益剤送達粒子を除く前記洗浄組成物の比重との差が0〜0.5g/cm3である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の洗浄組成物。
【請求項12】
前記組成物が、ジグリセリド及びトリグリセリド、エチレングリコールジステアレート、微結晶セルロース、セルロース系材料、マイクロファイバーセルロース、バイオポリマー、キサンタンガム、ジェランガム、並びにこれらの混合物からなる群から選択される構造剤を含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の洗浄組成物。
【請求項13】
前記組成物が約70%未満の水を含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の洗浄組成物。
【請求項14】
前記有益剤送達粒子が、有益剤送達粒子の乾燥総重量に基づき0.5%〜90%の有益剤を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の洗浄組成物。
【請求項15】
a)部位を任意にすすぐ及び/又は洗浄することと、
b)前記部位を請求項1に記載の洗浄組成物と接触させることと、
c)前記部位を任意に洗浄する及び/又はすすぐことと、を含む、部位を洗浄及び/又は処理する方法。」
b 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有益剤送達粒子、このような有益剤送達粒子を含む組成物、並びにこのような有益剤送達粒子及び組成物の製造及び使用方法に関する。」
c 「【0023】
一態様では、1つ以上の有益剤は酵素である。有益剤は、ヘミセルラーゼ、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、ペクテートリアーゼ、ケラチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、タンナーゼ、ペントサナーゼ、マラナーゼ、β?グルカナーゼ、アラビノシダーゼ、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ラッカーゼ、オキシドレダクターゼ、デヒドロゲナーゼ、キシログルカナーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ、及びこれらの混合物を含んでよい。」
d 「【0041】
一態様では、有益剤送達粒子は、約0.1マイクロメートル〜約2000マイクロメートル、約0.2マイクロメートル〜約1000マイクロメートル、約0.3マイクロメートル〜約200マイクロメートル、又は約0.5マイクロメートル〜約50マイクロメートル、又は約0.5〜約30マイクロメートルの粒径を有してよい。有益剤送達粒子は、マイクロカプセル形態であってよい。一態様では、粒子又はマイクロカプセルの寸法は、このようなマイクロカプセルを洗浄組成物の中に組み込むとき、典型的には、消費者に視認されないようなものとされる。理論に束縛されるものでないが、小さい粒径によって、粒子を懸濁させる液相の能力が促進され、液相が可能な限り均質に保たれると考えられる。」
e 「【0043】
一態様では、組成物は有益剤送達粒子を含有し、有益剤送達粒子は、試験方法1に示されるように、水に希釈後約1秒〜約10分、又は約1秒〜約5分、又は約1秒〜約2分、又は約1秒〜約1分の時間内に有益剤の約50%〜約100%、又は約60%〜約100%、又は約70%〜約100%、又は約80%〜約100%、又は約90%〜約100%を放出する。一態様では、有益剤送達粒子は、試験方法1に示されるように、水に希釈後約5分以内に、有益剤の約50%〜約100%、又は約60%〜約100%、又は約70%〜約100%、又は約80%〜約100%、又は約90%〜約100%を放出する。
【0044】
一態様では、組成物は有益剤送達粒子を含有し、有益剤送達粒子は、3週間温暖保管条件(試験方法2に示す)で保管された後、有益剤の約60%〜約100%、又は約70%〜約100%、又は約80%〜約100%、又は約90%〜約100%を含有する。」
f 「【0074】
・・・(中略)・・・
【表2】

【表3−1】(摘記省略)
【表3−2】(摘記省略)
【表4】(摘記省略)
*有益剤が、Lipex(登録商標)、Celluclean(登録商標)、Purafect Prime(登録商標)、PCT国際公開特許WO07/044993(A2)に記載されるメタロプロテアーゼ、Stainzyme(登録商標)、Stainzyme Plus(登録商標)、Liquanase(登録商標)、Savinase(登録商標)、Natalase(登録商標)、Mannaway(登録商標)及びPectaway(登録商標)又はこれらの混合物からなる群から選択される、本明細書の実施例2又は3に従って製造された有益剤送達粒子を指す。・・・(後略)・・・」
上記記載から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献2には、【表2】(上記(ア)f)に記載された「組成物13」として、プロテアーゼを0.5質量%と、有益剤送達粒子を0.8質量%と、アルキルベンゼンスルホン酸を5.2質量%と、C12〜14アルキルエトキシ3−硫酸ナトリウムを1.8質量%と、C14〜15アルキル7−エトキシレートを3.7質量%含有する液体洗濯洗剤組成物が記載されている。
b ここで、上記「有益剤送達粒子」は、【0041】(上記(ア)d)の記載より、マイクロカプセルであり、【請求項1】(上記(ア)a)の記載より、有益剤及びセルロース系ポリマーを含むものであると認められる。
c また、上記「有益剤送達粒子」は、【0043】(上記(ア)e)の記載より、水に希釈後約5分以内に、有益剤の約50%〜約100%を放出する、と認められる。
d さらに、上記「有益剤送達粒子」は、【0044】(上記(ア)e)の記載より、3週間温暖保管条件で保管された後、有益剤の約70%〜約100%を含有するものも開示されていると認められる。
e 次に、上記「液体洗濯洗剤組成物」は、アルキルベンゼンスルホン酸を5.2質量%と、C12〜14アルキルエトキシ3−硫酸ナトリウムを1.8質量%と、C14〜15アルキル7−エトキシレートを3.7質量%を含有し、これらはいずれも石鹸すなわちアルキルカルボン酸でなく、他に界面活性剤は含まないから、非石鹸界面活性剤の含有量は、5.2+1.8+3.7=10.7質量%であると認められる。
f そして、上記「液体洗濯洗剤組成物」は、アニオン性界面活性剤であるアルキルベンゼンスルホン酸とC12〜14アルキルエトキシ3−硫酸ナトリウムの、非イオン性界面活性剤であるC14〜15アルキル7−エトキシレートに対する重量比が、7.0:3.7=1.9:1であると認められる。
(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「プロテアーゼと、有益剤と、アルキルベンゼンスルホン酸及びC12〜14アルキルエトキシ3−硫酸ナトリウムを合計7.0質量%と、C14〜15アルキル7−エトキシレートを3.7質量%含有する液体洗濯洗剤組成物であって、
非石鹸界面活性剤の含有量が10.7質量%であり、
アニオン性界面活性剤の非イオン性界面活性剤に対する重量比が、1.9:1であり、
上記有益剤は、上記有益剤とセルロース系ポリマーを含有する有益剤送達粒子として配合されており、上記有益剤送達粒子はマイクロカプセルであり、水に希釈後約5分以内に有益剤の約50%〜約100%を放出し、3週間温暖保管条件で保管された後、有益剤の約70%〜約100%を含有する、液体洗濯洗剤組成物。」
対比・判断
ア 本件補正発明と引用発明1との対比・判断
(ア)本件補正発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「『Savinase 16 OL』」は、前記(2)ア(ア)dの記載から本件補正発明の「プロテアーゼ酵素」に相当する。
引用発明1の「エマルションポリマーによってリパーゼ酵素が封入された酵素カプセル1」「上記酵素カプセル1は、1gの水に添加されると、40℃では1分以内、25℃では3分以内に酵素が完全に放出される酵素マイクロカプセル」は、本件補正発明の「前記リパーゼ酵素の少なくとも65重量%が封入体中に存在し、前記封入体がシェルを含み、前記シェルが、前記液体洗剤組成物には不溶性であるが、前記液体洗剤組成物を洗浄液で希釈すると溶解」する封入体に相当する。
引用発明1の「アルキルベンゼンスルホン酸」は、本件補正発明の「アルキルベンゼンスルホネート界面活性剤」に相当する。
引用発明1の「エトキシル化アルコールC12−149EO」は、本件補正発明の「非イオン性界面活性剤」に相当する。
引用発明1のアルキルベンゼンスルホン酸のエトキシル化アルコールC12−149EOに対する重量比は、27.3:12.0=69.5:30.5であるから、引用発明1は、本件補正発明の「前記界面活性剤系が、(i)アニオン性界面活性剤及び(ii)非イオン性界面活性剤を含み、(i)の(ii)に対する重量比が51:49〜99:1であり」を充足する。
引用発明1の「非石鹸界面活性剤の含有量が39.3質量%であり」は、本件補正発明の「5〜60重量%の非石鹸界面活性剤系と、を含む」に相当する。
以上より、本件補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
本件補正発明と引用発明1とは、
「プロテアーゼ酵素と、リパーゼ酵素と、5〜60重量%の非石鹸界面活性剤系と、を含む液体洗剤組成物であって、前記界面活性剤系が、(i)アニオン性界面活性剤及び(ii)非イオン性界面活性剤を含み、(i)の(ii)に対する重量比が51:49〜99:1であり、前記リパーゼ酵素の少なくとも65重量%が封入体中に存在し、前記封入体がシェルを含み、前記シェルが、前記液体洗剤組成物には不溶性であるが、前記液体洗剤組成物を洗浄液で希釈すると溶解し、前記アニオン性界面活性剤が、アルキルベンゼンスルホネート界面活性剤を含む液体洗剤組成物。」
の点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
アニオン性界面活性剤として、本件補正発明は、「1〜7個のエトキシレートで部分的又は完全にエトキシル化されたアルキルサルフェート界面活性剤」を含むのに対し、引用発明1は、当該アルキルサルフェート界面活性剤を含まない点。
(ウ)判断
以下、相違点1について、検討する。
a 引用文献1には、第5頁右上欄第7行−第6頁右上欄第19行(上記(2)ア(ア)のc)において、用い得るアニオン性界面活性剤として、高級アルキルポリエトキシ硫酸塩(好ましくは、エトキシ基が2〜6個)が記載されている。そうすると、エトキシ基が2〜6個の高級アルキルポリエトキシ硫酸のアルカリ金属塩を用いること及びアルキルベンゼンスルホン酸等と共に、組成物0〜70重量%の量で用い得ることも記載されていることになる(上記(2)のア(ア)のc)。
b ここで、前記aの「エトキシ基が2〜6個の高級アルキルポリエトキシ硫酸のアルカリ金属塩」は、本件補正発明の「1〜7個のエトキシレートで部分的又は完全にエトキシル化されたアルキルサルフェート」を充足するものである。
c そうしてみると、引用発明1において、アニオン性界面活性剤として、高級アルキルポリエトキシ硫酸塩(好ましくは、エトキシ基が2〜6個)を、アルキルベンゼンスルホン酸と合わせて0〜70重量%の範囲で添加することにより、前記相違点1に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
d そして、本件補正発明の効果について検討すると、本願明細書には、実施例として液体洗濯洗剤組成物が開示されているものの、酵素の保存安定性や洗浄効果等については何ら開示されていないため、本件補正発明において、アニオン性界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホネート界面活性剤と、1〜7個のエトキシレートで部分的又は完全にエトキシル化されたアルキルサルフェート界面活性剤を併用することによる効果を認めることはできない。
イ 本件補正発明と引用発明2との対比・判断
(ア)本件補正発明と引用発明2とを対比する。
a 引用発明2の「プロテアーゼ」は、本件補正発明の「プロテアーゼ酵素」に相当する。
b 引用発明2の「セルロース系ポリマー」は、本件補正発明の「シェル」に相当する。
c 引用発明2の「マイクロカプセルであり、水に希釈後約5分以内に有益剤の約50%〜約100%を放出する」有益剤送達粒子は、本件補正発明の「前記封入体がシェルを含み、前記シェルが、前記液体洗剤組成物には不溶性であるが、前記液体洗剤組成物を洗浄液で希釈すると溶解」する封入体、に相当する。
d 引用発明2の「3週間温暖保管条件で保管された後、有益剤の約70%〜約100%を含有」する有益剤送達粒子は、本件補正発明の「少なくとも65重量%が封入体中に存在」する封入体、に相当する。
e 引用発明2の「アルキルベンゼンスルホン酸」は、本件補正発明の「アルキルベンゼンスルホネート界面活性剤」に相当する。
f 引用発明2の「C12〜14アルキルエトキシ3−硫酸ナトリウム」は、本件補正発明の「1〜7個のエトキシレートで部分的又は完全にエトキシル化されたアルキルサルフェート界面活性剤」に相当する。
h 引用発明2の「C14〜15アルキル7−エトキシレート」は、本件補正発明の「非イオン性界面活性剤」に相当する。
(イ)以上より、本件補正発明と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。
本件補正発明と引用発明2とは、
「プロテアーゼ酵素と、有益剤と、5〜60重量%の非石鹸界面活性剤系と、を含む液体洗剤組成物であって、前記界面活性剤系が、(i)アニオン性界面活性剤及び(ii)非イオン性界面活性剤を含み、(i)の(ii)に対する重量比が51:49〜99:1であり、前記有益剤の少なくとも65重量%が封入体中に存在し、前記封入体がシェルを含み、前記シェルが、前記液体洗剤組成物には不溶性であるが、前記液体洗剤組成物を洗浄液で希釈すると溶解し、前記アニオン性界面活性剤が、アルキルベンゼンスルホネート界面活性剤を含む液体洗剤組成物。」
の点で一致し、次の点で相違する。
(相違点2)
本件補正発明は、封入体が「リパーゼ酵素」を含むのに対し、引用発明2は、封入体中の「有益剤」として「リパーゼ酵素」が明示されていない点。
(ウ)判断
以下、相違点2について、検討する。
引用文献2には、請求項3(上記(2)イ(ア)a)及び表2の備考(上記イ(ア)f)において、上記有益剤は、「Lipex(登録商標)」等のリパーゼ等からなる群から選択されることが記載されているから、引用発明2において、封入体中の有益剤として、リパーゼを用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、それにより格別顕著な効果を奏するとも認められない。
ウ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求人は、審判請求書において、下記の比較実験を示した上で、次のように主張している。
「比較実験報告
以下に示す保存安定性試験を行った。
I.試験組成物の調製
下記表1に示す洗剤組成物1と洗剤組成物2の2種類の組成物を調製した。洗剤組成物1は比較的高レベルのLAS(アルキルベンゼンスルホネート界面活性剤)のみを含有する組成物であり、一方、洗剤組成物2はLASとAE3S(3個のエトキシレートでエトキシル化されたアルキルサルフェート界面活性剤)とを併用して含有する組成物である。

上記組成の洗剤組成物をそれぞれ1000mlの容量とした。しかしながら、調製された上記組成物は粘度が高いため、カプセル化酵素を添加するときのハンドリングを容易にするために、洗剤組成物1と洗剤組成物2のそれぞれに更に50mlの水を加えた(5%まで)。
カプセル化リパーゼの調製:
重炭酸ナトリウム2.4gを190mlの脱イオン水に溶解させた。この溶液を45℃に昇温し、10gの酢酸フタル酸セルロースを添加し、5時間混合した。言った溶解したこの溶液を室温に保持し、10mlのLipexTMを添加して更に20分間混合した。得られた酵素含有溶液を次いで乾燥することによって小さな粒子が形成された。
カプセル化リパーゼを含有する洗剤組成物の調製:
洗剤組成物1および洗剤組成物2のそれぞれについて10gの計量を繰り返して、それぞれ洗剤組成物について6つの試料を得た。各試料を50ml容量のプラスチック製スクリューキャップ容器に入れた。0.1g上記カプセル化酵素をそれぞれの容器に加えて、撹拌した後スクリューキャップで再び封止した。
II.保存安定性の測定
上記封止されたそれぞれの容器を、残存する酵素活性を分析する前に、保存オーブン中に3日間載置した。それぞれの洗剤組成物について2つの試料を、35℃のオーブン、40℃のオーブンならびに45℃のオーブン中に置いた。
得られた残存酵素活性の測定結果を以下に示すが、下記の「%」は、測定対象のリパーゼレベル(洗剤100g当たり12mg以下の活性酵素プロテイン)である。

上記比較試験からも明らかなように、本願発明に係る洗剤組成物2(すなわち、LASとAE3S(3個のエトキシレートでエトキシル化されたアルキルサルフェート界面活性剤)とを併用して含有する組成物)は、洗剤組成物1(すなわち、LAS(アルキルベンゼンスルホネート界面活性剤)のみを含有する組成物)と比較して、3つの保存温度のいずれにおきましても顕著かつすぐれた残存酵素活性を示しております。」
(イ)当審の判断
a たしかに、上記比較実験では、アニオン性界面活性剤として、「Na Las(Na アルキルベンゼンスルホネート)」(「アルキルベンゼンスルホネート界面活性剤」に相当)に加えて、「AE3S(アルキルエトキシサルフェート、3EO)」(「1〜7個のエトキシレートで部分的又は完全にエトキシル化されたアルキルサルフェート界面活性剤」に相当)を含有する洗剤組成物2は、アニオン性界面活性剤として、「Na Las(Na アルキルベンゼンスルホネート)」のみを含有し、「AE3S(アルキルエトキシサルフェート、3EO)」を含有しない洗剤組成物1と比べて、35℃、40℃、45℃の3つの保存温度のいずれにおいても、優れた残存酵素活性を示すことは確認できる。
b しかしながら、本願明細書には、アニオン性界面活性剤について、「【0038】好ましくは、組成物は、アルキルベンゼンスルホネート界面活性剤を含み得、任意追加的に、任意で1〜7個のエトキシレートで部分的に又は完全にエトキシル化されたアルキルサルフェート界面活性剤を更に含み得る。好ましくは、アルキルベンゼンスルホネートアニオン性界面活性剤の非イオン性界面活性剤に対する重量比は、1:1〜99:1、又は55:45〜99:1、又は3:2〜9:1である。」との記載はあるものの、アニオン性界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホネート界面活性剤と、1〜7個のエトキシレートで部分的又は完全にエトキシル化されたアルキルサルフェート界面活性剤を併用することにより、アニオン性界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホネート界面活性剤を単独で用いた液体洗剤組成物と比べて、残存酵素活性が向上することについては、何ら記載されていない。そうすると、上記比較実験は、新たな技術的事項を追加するものであるから、本願発明の効果の検討において参酌すべきものではない。
c よって、審判請求人の主張は、採用することができない。
まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明1又は引用発明2に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年4月20日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和1年8月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本件優先権日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明又は引用文献2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献1:特表平7−506137号公報
引用文献2:特表2012−532247号公報
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明において、「(i)アニオン性界面活性剤」の「(ii)非イオン性界面活性剤」に対する重量比について、「51:49〜99:1」を「1:1〜99:1」としたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに「(i)アニオン性界面活性剤」の「(ii)非イオン性界面活性剤」に対する重量比を減縮したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(4)に記載した理由と同じ理由により、引用発明1又は引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明1又は引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 蔵野 雅昭
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-08-25 
結審通知日 2021-08-27 
審決日 2021-09-08 
出願番号 P2018-526800
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C11D)
P 1 8・ 575- Z (C11D)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 門前 浩一
瀬下 浩一
発明の名称 プロテアーゼを含む液体洗剤組成物及び封入リパーゼ  
代理人 村田 卓久  
代理人 朝倉 悟  
代理人 中村 行孝  
代理人 出口 智也  
代理人 末盛 崇明  
代理人 小島 一真  

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