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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P |
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管理番号 | 1381933 |
総通号数 | 3 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-03-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-06-08 |
確定日 | 2022-02-16 |
事件の表示 | 特願2017−527222「トルク信号および電力信号の明確なステアリングによって駆動されるメカトロニックユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月26日国際公開、WO2016/079315、平成29年11月30日国内公表、特表2017−536077〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2015年(平成27年)11月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年11月20日 (FR)フランス国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 令和 元年 7月18日付け 拒絶理由通知書 令和 元年 9月11日 意見書の提出 令和 2年 2月 6日付け 拒絶査定 令和 2年 6月 8日 審判請求書、手続補正書の提出 平成 3年 1月20日付け 拒絶理由通知書 平成 3年 4月26日 意見書、手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。) 第2 本願発明 本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項14に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「【請求項14】 一方が自動車の直流電源(4)に接続され、ならびに他方が、ステアリング情報およびトルク情報(6)を送信するサーボアルゴリズムを行うためのコンピュータを備えているECU制御ユニット(1)に接続されるメカトロニックユニット(2)であって、 N相の多相ブラシレス電気モータ(8)によって形成されるアクチュエータと、 上記モータ(8)の回転子の位置を検出するためのバイナリセンサ(11)と、 上記モータ(8)のN相の電流を供給するためのパワーブリッジ(13)を含んでいる電子回路と、 入力が、上記ECU制御ユニット(1)からの上記ステアリング情報および上記トルク情報(6)であり、出力が、上記モータ(8)の各相に印加される、上記直流電源(4)の電流を直接変更する上記パワーブリッジ(13)を制御し、マイクロコントローラ、コンピュータ、およびメモリのいずれも持たない他方のオンボード電子駆動回路(10)とを備え、 上記ECU制御ユニット(1)によって供給される上記ステアリング情報および上記トルク情報(6)は、上記直流電源(4)によってのみ送信される出力電力信号とは異なることを特徴とする、メカトロニックユニット。」 第3 拒絶の理由 令和3年1月20日付けの当審が通知した拒絶理由のうちの理由2において、本願発明に対応する本件補正前の請求項16に係る発明に対するものは、次のとおりのものである。 請求項16に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:国際公開第2014/091152号 (翻訳として、特表2015−537503号公報) 引用文献2:米国特許出願公開第2012/0068642号明細書 引用文献3:特開2010−45941号公報 引用文献4:特開平5−91708号公報 引用文献5:特開2005−295679号公報 第4 引用文献の記載及び引用発明 1.引用文献1 (1)引用文献1には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。) ア (当審仮訳) 本発明は、多相ブラシレスDC(BLDC)モータの分野に関する。より具体的には、本発明は、マイクロプロセッサを使用しない、モータへの電力供給に2本の電線のみを必要とする、上記のようなモータを制御する方法に関する。 イ (当審仮訳) 既存の「スマート」システムには、モータの制御やアクチュエータ位置のサーボ制御に必要なマイクロコントローラ、複雑な電子機器、またはマイクロコントローラおよび/または複雑な電子機器が組み込まれており、耐えられる周囲温度が限られている。経済的に「実行可能な」タイプの構成部品では、125℃の制限を超えることができず、高価な冷却手段が必要となることが多い。 ウ (当審仮訳) 既存のダムシステムは、アクチュエータが複雑で繊細な電子部品を備えていないため、所望の周囲温度に適合可能である。しかしながら、当該アクチュエータは、従来のブラシ付きDCモータよりもはるかに長寿命という大きな利点を有するブラシレスDCモータと比較すると、工業的に性能が低く、小型化されていないブラシ付きDCモータを使用している。ブラシ付きDCモータが電磁妨害源であり、電子システムやコンピュータがますます多くを占める環境において、微妙な問題となっていることは、当業者に認められている。 エ (当審仮訳) 高温(125℃超)に耐える基礎電子回路は、モータのロータ位置を示すN個のプローブ(N probes)により、N相モータ(the N probes of the motor)の自己整流を管理する。以下に記載する解決策の目的は、上記問題を解決できる技術的な妥協点または交換条件を提案することである。そのために、可逆多相モータの使用や可逆多相モータ(a reversible polyphase motor)の双方向における制御の可能性を維持しながら、いかなるマイクロプロセッサも必要としない、ブラシ付きDCモータの代わりにブラシレスDCモータを使用できる経済的な解決策を提案する。そのため、本発明は、N相を有する任意の多相モータに適用される。 オ (当審仮訳) 本発明は、以下の基準を満たしつつ、ブラシ付きDCモータの代わりにブラシレスDCモータを使用するための経済的な解決策を提供する。 1− ハードウェアまたはソフトウェアを全く変更することなく、既存の別体のオフセット制御(ECU)を維持する。 2− 既存の製品と即座に交換可能である。 3− アクチュエータの長寿命化を実現する。 4− モータを双方向に制御可能とする。 5− アクチュエータに組み込む必要のある(簡素かつ堅牢な)電子部品はごくわずかである。 6− 使用する構成部品が125℃を超える周囲温度に対して適合性および耐性を有する。 7− ブラシレスDCモータおよび少数の構成部品により、非常にコンパクトに一体化できる。 8− アクチュエータの軽量化を実現できる。 9− 電磁妨害を減少させる。 より具体的には、本発明は、部材位置決め用メカトロニックアセンブリであって、制御ユニット(1)およびアクチュエータ(2)を備え、上記制御ユニット(1)は、サーボ制御アルゴリズムおよびパワーブリッジを備え、上記アルゴリズムは上記パワーブリッジを制御し、上記パワーブリッジは、トルク信号および方向信号で構成される二線電気信号(6)を伝達し、上記アクチュエータ(2)は、N相を有する多相ブラシレス電動モータ(8)と、上記モータ(8)のロータの位置を検出するバイナリ検出プローブ(11)と、上記二線電気信号(6)からN相モータ(8)に電力供給を行うのに適した電源スイッチ(25)とを備え、上記メカトロニックアセンブリは、電源スイッチ(25)の状態は検出プローブ(11)から供給される信号により直接制御されることを特徴とするメカトロニックアセンブリを提供する。 カ (当審仮訳) 図1は、既存システムにおいて一般的に使用される、最新のメカトロニック位置決めアセンブリを示す。当該アセンブリは、アクチュエータ(2)を制御する制御ユニット(1)に電力供給を行うエネルギー源(4)によって構成され、アクチュエータ(2)は、機械的運動変換アセンブリ(9)に付属するブラシ付きDCモータ(20)によって構成される。センサ(7)が上記アクチュエータの機械的出口(12)に連結されており、位置情報(5)を制御システム(1)にフィードバックする。制御システム(1)は、リンクコネクタ(3)でまとめられた、トルク・方向信号(6)の組み合わせに作用する。機械的出口(12)は、自動車での適用において、移動する外部部材(例:弁部材またはニードル等)に連結される。 キ (当審仮訳) 図2は、本発明のメカトロニック位置決めアセンブリを示す。当該アセンブリは、アクチュエータ(2)を制御する制御ユニット(1)に電力供給を行うエネルギー源(4)によって構成され、アクチュエータ(2)は機械的運動変換アセンブリ(9)に付属するブラシレスDCモータ(8)によって構成される。センサ(7)がアクチュエータ(2)の機械的出口(12)に連結されており、位置情報(5)を制御システム(1)にフィードバックする。制御システム(1)は、リンクコネクタ(3)でまとめられた、トルク・方向信号(6)の組み合わせに作用する。モータ(8)のロータ位置は、基礎電子回路(10)を介して、N相モータ(8)の自己整流を行うN個のプローブ(11)により読み取られる。 ク (当審仮訳) 回転または直線の位置決めシステム(図2)は、別体の電子制御ユニット(1)または「ECU」と、アクチュエータ(2)とで構成される。アクチュエータ(2)には、ブラシレスDCモータ(8)のロータの位置を示すプローブ(11)から供給される信号を使用して上記モータの自己整流を行う基礎回路が組み込まれている。図3に示す三相トポロジ(AおよびB)および二相トポロジ(C)の例に示すように、本発明はいかなるタイプの多相ブラシレスDCモータにも適用される。読みやすさの便宜上、以下の記載は、2〜3の範囲のN個(NはブラシレスDCモータの相の数とする)のサブセットのみに基づくものとする。アクチュエータ(2)の機械的出口(12)の位置は、ECU(1)が、機械的出口(12)に連結されたセンサ(7)が伝達する位置信号(5)により読み取る。ECU(1)は、車両(4)のバッテリにより電力供給を受け、位置サーボ制御アルゴリズムを実行し、変速装置または運動変換機構(9)を介して、アクチュエータの機械的出口(12)に作用するモータのためのトルク・方向信号(6)を生成する。自己整流電子回路(10)は、アクチュエータ(2)がブラシレスDCモータ(図2)またはブラシ付きDCモータ(図1)のいずれによって駆動される場合であっても、アクチュエータ(2)が機能および接続部(3)の両方において適合するよう設計されている。 ケ (当審仮訳) まずモータの相の各コイルの接続部を交差させ、次に各プローブ(11)の出口で信号を逆転させることにより、モータの回転方向を逆転させることができることは、当業者にとって既知である。この二つ目の方法が、選択された解決策であり、図15に示すように、二方向制御(13)を形成するようプローブの出口に「排他的論理和」機能(U4a、U4b、U4c)を挿入することにより実行される。各「排他的論理和」ゲート(U4a、U4b、U4c)に共通する方向信号により、プローブ(11)から伝達される信号が逆転する、または逆転しない。このようにして、モータ(8)の回転方向が規定される。この実施形態(13)は、120°モードまたは180°モードでの二方向制御に適合している。 図16に示す他の実施形態(13の2)により、同じ「排他的論理和」機能の実現、そして個別の構成部品(ダイオード、抵抗器、およびトランジスタ)のみによって上記機能を実現することできる。これにより、高温環境に対する適合性がより容易かつ非常に良好な形で得られる。真理表は、ゲート≠(方向+HN)に対応している。本実施形態は、高温(125℃超)の周囲温度に適合する必要がある適用に好ましいことがある。 コ (当審仮訳) ダイオード整流ブリッジ(27)による整流の後、コネクタ(3)に含まれるトルク・方向信号(6)の組み合わせにより、モータ(8)に電力供給を行う。N個のプローブ(11)は、N相モータ(8)の電流を整流するN個のパワートランジスタ(25)を整流論理回路(26)に通知する。整流ブリッジ(27)の上流で得られる信号(29)は、整流論理回路(26)に回転方向を示す。電圧レギュレータ(28)は、必要な電源をプローブ(11)および整流論理回路(26)に供給する。 サ (当審仮訳) 信号(29)は、整流ブリッジ(27)の上流で得られ、そこから「排他的論理和」ゲート(U4a、U4b、U4c)に印加される方向信号が抽出される。 シ (当審仮訳) モータ(8)に電力が供給されていない場合、機械的戻し機構(mechanical return mechanism)がアクチュエータ(2)の機械的出口(12)に休止位置に戻るように促す。コネクタ(3)に含まれるトルク信号(6)によりモータ(8)に対して電力供給が行われる。 (2)図17からは、整流論理回路(26)と多相ブラシレスDCモータ(8)の各相(相A、相B、相C)との間に、上記各相と電源(PWR+と0V)とのスイッチングを行うパワートランジスタ(25)に対応するQ1、Q1’、Q2、Q2’、Q3、Q3’が設けられ、整流論理回路(26)は上記パワートランジスタ(25)の各ゲートに接続されていることが看取される。 (3)上記イ〜エ、ケの記載から、引用文献1に記載されている発明の目的は、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、複雑な電子機器等を使用せずに、可逆多相ブラシレスDCモータを制御することであり、引用文献1に記載されている発明において、アクチュエータ(2)に備えられている整流論理回路(26)等の各回路はマイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、複雑な電子機器等を使用していないと理解できる。 また、上記オの記載からECU(1)は既存のECUである。既存のECUがコンピュータを備えていることは技術常識であるから、引用文献1におけるECU(1)がコンピュータを備えていることは明らかであり、上記クの記載から、当該コンピュータは、自動車のバッテリにより電力供給を受け、トルク・方向信号(6)を生成する位置サーボ制御アルゴリズムを実行するためのコンピュータであると理解できる。 (4)上記コ〜シの記載及び上記(2)から、アクチュエータ(2)は、入力が、上記ECU(1)からの上記トルク・方向信号(6)であり、出力が、上記多相ブラシレスDCモータ(8)の各相と電源(PWR+と0V)とのスイッチングを行う上記パワートランジスタ(25)を制御し、マイコンを使用していない整流論理回路26を備えているといえる。 (5)引用発明 以上のことから、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「自動車のバッテリにより電力供給を受け、トルク・方向信号(6)を生成する位置サーボ制御アルゴリズムを実行するためのコンピュータを備えているECU(1)に接続されるアクチュエータ(2)であって、 多相ブラシレスDCモータ(8)と、 上記多相ブラシレスモータ(8)のロータの位置を示す信号を供給するプローブ(11)と、 上記多相ブラシレスモータ(8)の多相の電流を整流するパワートランジスタ(25)と、 入力が、上記ECU(1)からの上記トルク・方向信号(6)であり、出力が、上記多相ブラシレスDCモータ(8)の各相と電源(PWR+と0V)とのスイッチングを行う上記パワートランジスタ(25)を制御し、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、複雑な電子機器等を使用していない整流論理回路(26)とを備え、 上記ECU(1)から二線電気信号によって上記トルク・方向信号(6)の伝達と上記多相ブラシレスモータ(8)への電力供給がされる、アクチュエータ(2)。」 2.引用文献2 (1)引用文献2には、以下の事項が記載されている 「[0021]FIG. 2 is a schematic diagram of the single phase DC brushless motor controller according to one embodiment of the present invention. The single phase DC brushless motor controller 200 of the present invention includes a Hall sensor 210, a magnetic field control unit 220 and a micro control unit 230. In addition to changing the speed of the single phase DC brushless motor, the single phase DC brushless motor controller 200 of the present invention can further change the rotation direction of the single phase DC brushless motor.」 (当審仮訳) [0021]図2は、本発明の一実施形態に係る単相DCブラシレスモータコントローラの概略図である。本発明の単相DCブラシレスモータ制御装置200は、ホールセンサ210、制御部220及び制御部230を備えている。単相DCブラシレスモータの速度を変化させることに加えて、本発明の単相DCブラシレスモータ制御装置200は、単相DCブラシレスモータの回転方向を変えることができる。 「[0023]The magnetic field control unit 220 of the present invention is used to change the magnetic field of the stator 120 of the single phase DC brushless motor 100 for driving the rotator 110 of the single phase DC brushless motor 100.」 (当審仮訳) [0023]本発明の磁界制御部220は、単相DCブラシレスモータ100の回転子110を駆動するための単相DCブラシレスモータ100の固定子120の磁界を変化させるために使用される。 「[0029]The single phase DC brushless motor controller 200 of the present invention which can make the single phase DC brushless motor rotate in two directions is fully described in the preceding paragraphs. In addition, the present invention further provides a mechanism to start the rotation of the motors. Refer to FIG. 2, in an embodiment, the micro controller 200 further includes a pulse width modulation (PWM) pin 240, which is used to receive a PWM signal from a system (not shown) so that the commutation logic unit 232 of the present invention can control the rotation speed and direction of the single phase DC brushless motor 100 according to the PWM signal.」 (当審仮訳) [0029]単相DCブラシレスモータを2方向に回転させることができる本発明の単相DCブラシレスモータコントローラ200は、前のパラグラフで説明される。さらに、本発明は、モータの回転を開始させる機構を提供する。図2を参照すると、一実施形態では、マイクロコントローラ200はさらにパルス幅変調(PWM)ピン240を備えている。そのピン240はシステム(図示しない)からのPWM信号を受信するために使用されている。本発明の転流論理装置232は、PWM信号に応じて単相DCブラシレスモータ100の回転速度及び回転方向を制御することができる。 (2)上記(1)の記載と図2から、単相DCブラシレスモータ制御装置200において、システムから制御用の信号を受けるパルス幅変調(PWM)ピン240と、単相DCブラシレスモータ100の回転子110を駆動するための磁界制御部220の電源VCCとを、別系統としていることが理解できる。 3.引用文献3 (1)図1からは、3相ブラシレスDCモータ7を駆動するファン駆動装置1において、ECU等上位コントローラ2からPWM信号を受ける線と、車両のバッテリ12からインバータ回路19への電源線とを別系統としていることが看取される。 4.引用文献4 (1)引用文献4には、以下の事項が記載されている 「【0009】図1は本発明の実施例のブラシレスモータのシステムブロック図である。図1において、1は整流平滑回路でブリッヂダイオードD1と平滑コンデンサC1とからなる。2はスイッチングパワー素子部で6個のスイッチングパワー素子とそれぞれに逆並列接続された6個のダイオードからなる。3は3相結線された固定子巻線、4は永久磁石回転子、5は回転子位置センサである。6は駆動回路で駆動信号発生手段7と、転流信号発生手段8と、速度誤差信号発生手段9と、PWM(パルス幅変調)制御手段10からなる。この駆動回路6はプリドライバICとして1チップIC化されている。」 (2)上記(1)の記載及び図1から、ブラシレスモータにおいて、指令信号を受ける線と、直流電源である整流平滑回路1からスイッチングパワー素子2への電源線とを別系統としていることが理解できる 5.引用文献5 (1)引用文献5には、以下の事項が記載されている 「【0005】 信号をモータ駆動回路へ送信するためには、電源線とは別に、前記信号をモータ駆動回路へ送信するための信号線が必要となるが、電源線に加えて信号線をモータとモータ駆動回路との間に設けた場合は、ハーネスが増加し車両の軽量化が図れない。そこで、信号を、信号線を使用せず前記電源線を介して送信している(特許文献1参照)。」 「【0006】 しかしながら、特許文献1の構成にあっては、モータに備えられたセンサが正常に動作をするか否かを診断する診断テストを行なう場合、又は仮にセンサの異常が検出された場合において、バックアップ用のセンサに切り換えるときに、センサを制御するための信号を、モータ駆動回路からセンサを有するセンサ部へ送信するためには、電源線とは、別に信号線が必要であった。また、電源線を介してモータを駆動する駆動電圧は、立上がり及び立下がりが急峻な矩形波形であるため、前記駆動電圧の立上がり時及び立下がり時に、前記電源線を介して送信される信号の電圧レベルよりも大きなノイズが発生する場合がある。このため、前記信号を前記電源線を介して送信する場合に、前記信号にノイズが重畳し、前記受信回路は、送信された信号をノイズと分離して受信することができない虞があった。」 第5 対比 1.本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「バッテリ」は本願発明の「直流電源(4)」に相当し、以下同様に、「トルク・方向信号(6)を生成する位置サーボ制御アルゴリズムを実行する」という事項は「ステアリング情報およびトルク情報(6)を送信するサーボアルゴリズムを行う」という事項に、「ECU(1)」は「ECU制御ユニット(1)」に、「アクチュエータ(2)」は「メカトロニックユニット(2)」に、それぞれ相当するから、引用発明の「自動車のバッテリにより電力供給を受け、トルク・方向信号(6)を生成する位置サーボ制御アルゴリズムを実行するためのコンピュータを備えているECU(1)に接続されるアクチュエータ(2)」と本願発明の「一方が自動車の直流電源(4)に接続され、ならびに他方が、ステアリング情報およびトルク情報(6)を送信するサーボアルゴリズムを行うためのコンピュータを備えているECU制御ユニット(1)に接続されるメカトロニックユニット(2)」とは、「電力が供給され、ステアリング情報およびトルク情報を送信するサーボアルゴリズムを行うためのコンピュータを備えているECU制御ユニットに接続されるメカトロニックユニット」である点で共通する。 また、引用発明の「多相ブラシレスDCモータ(8)」は本願発明の「N相の多相ブラシレス電気モータ(8)」及び「N相の多相ブラシレス電気モータ(8)によって形成されるアクチュエータ」に相当し、以下同様に、「ロータの位置を示す信号を供給するプローブ(11)」は「回転子の位置を検出するためのバイナリセンサ(11)」に、「多相の電流を整流するパワートランジスタ(25)」は「N相の電流を供給するためのパワーブリッジ(13)」、あるいは、「パワーブリッジ(13)を含んでいる電子回路」に、それぞれ相当する。 引用発明の「多相ブラシレスDCモータ(8)の各相と電源(PWR+と0V)とのスイッチングを行う」という事項と本願発明の「モータ(8)の各相に印加される、直流電源(4)の電流を直接変更する」という事項は「モータの各相に印加される、電源の電流を変更する」点で共通する。 そして、引用発明の「マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、複雑な電子機器等を使用していない整流論理回路26」は本願発明の「マイクロコントローラ、コンピュータ、およびメモリのいずれも持たない他方のオンボード電子駆動回路(10)」に相当する。 2.一致点及び相違点 以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「電力が供給され、ステアリング情報およびトルク情報を送信するサーボアルゴリズムを行うためのコンピュータを備えているECU制御ユニットに接続されるメカトロニックユニットであって、 N相の多相ブラシレス電気モータによって形成されるアクチュエータと、 上記モータの回転子の位置を検出するためのバイナリセンサと、 上記モータのN相の電流を供給するためのパワーブリッジを含んでいる電子回路と、 入力が、上記ECU制御ユニットからの上記ステアリング情報および上記トルク情報であり、出力が、上記モータの各相に印加される、電源の電流を変更する上記パワーブリッジを制御し、マイクロコントローラ、コンピュータ、およびメモリのいずれも持たない他方のオンボード電子駆動回路とを備える、 メカトロニックユニット」 <相違点1> 本願発明では、メカトロユニット(2)の「一方が自動車の直流電源(4)に接続され、ならびに他方が」ECU制御ユニット(1)に接続されているため、パワーブリッジ(13)は「上記直流電源(4)」の電流を「直接」変更し、「上記ECU制御ユニット(1)によって供給される上記ステアリング情報および上記トルク情報(6)は、上記直流電源(4)によってのみ送信される出力電力信号とは異なる」ものであるのに対し、引用発明では、アクチュエータ(2)は自動車のバッテリにより電力供給を受けるECU(1)に接続され、上記ECU(1)から二線電気信号によってトルク・方向信号(6)の伝達と多相ブラシレスDCモータ(8)への電力供給がされるものであり、パワートランジスタ(25)は上記多相ブラシレスDCモータ(8)の各相と電源(PWR+と0V)とのスイッチングを行っているものの自動車のバッテリの電流を直接は変更していない点。 第6 判断 以下、相違点について検討する。 1.相違点1について 制御のための信号を電源線を介して送信すると、信号にノイズが重畳する虞があったり、電源線で制御信号を送信するための回路が必要になったりするため、電源線と制御のための信号線とを分けることは、例えば、引用文献2〜4に記載されるように周知の技術である(上記第4 2(2)、3(1)、4(2)等参照。以下、「周知技術」という。)。 また、制御信号を電源線を介して送信すると制御信号にノイズが重畳する虞がある一方で、制御信号を送信するための信号線を電源線とは別に設けると配線が増加して軽量化が図れなくなることは、例えば、引用文献5に記載されるように、モータ制御の技術分野において周知の課題である(上記第4 5(1)等参照)。 引用発明は、ECU(1)から二線電気信号によって制御信号であるトルク・方向信号(6)の伝達と多相ブラシレスモータ(8)への電力供給がされるため、制御信号にノイズが重畳する虞があることは当業者であれば予測し得る事項であるから、引用発明におけるアクチュエータ(2)と、バッテリ及びECU(1)との接続について、軽量化より制御信号へのノイズ重畳防止を優先して周知技術を適用し、アクチュエータ(2)の一方をバッテリに接続し、他方をECU(1)に接続することで、ECU(1)によって伝達されるトルク・方向信号(6)を、バッテリによる電力供給と異なるものとするとともに、バッテリから供給される電流をパワートランジスタ(25)で直接スイッチング(変更)するようにすることで、相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。 2.そして、引用発明におけるアクチュエータ(2)の一方をバッテリに接続して、多相ブラシレスモータ(8)への電力供給はECU(1)を介さずに行うことで、ECU(1)を経由する電力は減ることになるから、ECU(1)における電力損失が減少することは当業者にとって明らかであり、相違点1を勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3.請求人は、令和3年4月26日に提出された意見書において、主に次の主張をしている。 <主張1>引用文献1の図4及び図5に示すように、モータの各相の電源は、二線電気信号(6)からのものでありますが、独立した直流電源からのものではありません。 <主張2>本願の図12と似た場合を示す引用文献1の図17に示すように、引用文献1の制御方式は、本願の制御方式と全体的に異なっています。 <主張3>引用文献1における二線電気信号からの電源から、引用文献2、3または4における独立した直流電源からのものへの単なる置き換えでは、モータの回転及びトルクを制御することはできません。 <主張4>引用文献1の開示が低電力のモータに特に効果的であるため、当業者において、引用文献1に記載の発明の改良を考えることの証拠にはならないと考えます。 主張1について検討すると、引用文献1において、モータの各相の電源が、独立した直流電源に直接接続したものでないことは、上記「第5 2」で相違点1として挙げており、その相違点1については、上記1.及び上記2.で検討したとおりである。 主張2及び主張3について検討すると、本願発明において、多相ブラシレスモータ(8)の制御方式は具体的に特定されていないから、主張2及び主張3は本願発明に基づく主張とは認められない。また、制御用の信号線と電源供給の配線とを分けても適切な制御が可能であることは技術常識であり(必要であれば、引用文献2〜5参照)、引用発明において、アクチュエータの一方をバッテリに、他方をECU(1)に接続して、制御用の信号線と電源供給の配線とを分けた際に、バッテリから供給される電流をパワートランジスタ(25)で適切にスイッチングできるように制御信号を調整することは当業者であれば当然に考慮することであるといえる。 主張4について検討すると、本願発明において、多相ブラシレスモータ(8)が低電力のモータであることは特定されていなため、主張4は本願発明に基づく主張とは認められない。また、上記1.で検討したとおり、引用発明のモータが低電力であるか否かに関わらず、引用発明に周知技術を適用する動機は存在するものである。 したがって、請求人の主張1〜主張4を採用することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 審判長 柿崎 拓 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |
審理終結日 | 2021-09-01 |
結審通知日 | 2021-09-07 |
審決日 | 2021-09-29 |
出願番号 | P2017-527222 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H02P)
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最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
柿崎 拓 |
特許庁審判官 |
神山 貴行 小川 恭司 |
発明の名称 | トルク信号および電力信号の明確なステアリングによって駆動されるメカトロニックユニット |
代理人 | 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK |