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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1382010 |
総通号数 | 3 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-03-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-09-08 |
確定日 | 2022-02-17 |
事件の表示 | 特願2015−220475「皮膚のツヤの評価方法、皮膚のツヤ向上剤の探索方法及び皮膚のツヤ向上剤」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月26日出願公開、特開2016− 94413〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年11月10日(優先権主張 平成26年11月10日)を出願日とする特許出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和1年10月3日付け:拒絶理由通知書 令和2年2月6日 :意見書、手続補正書の提出 令和2年5月29日付け:拒絶査定 令和2年9月8日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1〜9に係る発明は、令和2年9月8日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩及びトリメチルグリシンを含む、皮膚のツヤ向上剤。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「本願優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、という理由を含むものであり、その対象とされた請求項1に係る発明は、上記第2で認定した本願発明と同じである。 引用文献3: 特開2005−320263号公報 第4 当審の判断 1 引用文献の記載事項等 当審の判断においては、以下の文献を引用する。なお、文献の摘記に付した下線は当審によるものである。 引用文献3: 特開2005−320263号公報 周知例A : フレグランスジャーナル, 1982, No.56, pp.46-51, 54 周知例B : FRAGRANCE JOURNAL, 2009, 7月号,pp.27-32 周知例C : 特開2004−166801号公報 周知例D : FRAGRANCE JOURNAL 臨時増刊, 1984, No.5,pp.372-375 周知例E : 特開2006−213697号公報 周知例F : 特開平10−236918号公報 周知例G : 周知・慣用技術集(香料) 第III部香粧品用香料、 日本国特許庁、発行日2001年6月15日 (1)引用文献3の記載事項及び引用発明 ア 原査定の拒絶の理由において「引用文献3」として引用された「特開2005−320263号公報」には、次の事項が記載されている。 (摘記3−1) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、使用性及び安定性に優れた水中油型乳化皮膚化粧料に関する。さらに詳しくは、肌へののびが軽く、べたつかず、さっぱりとし、有効成分が肌に浸透していく感じ(浸透感)に優れ、かつ経時安定性に優れた水中水型乳化皮膚化粧料に関する。」 (摘記3−2) 「【発明が解決しようとする課題】 【0010】 本発明は、HLBの高い界面活性剤を乳化剤として用いた場合には、経時安定性には優れるものの、のびや肌へのなじみが悪く、べたついて、有効成分が肌に浸透していく感じ(浸透感)に劣るという課題に鑑みて、鋭意研究がなされた発明である。 その結果、本発明者は、HLBの高い(A)HLB9〜18の非イオン界面活性剤に、あえて、HLBの低い(B)HLB2〜5の非イオン界面活性剤とを組み合わせるという、驚くべき着想に至り、さらに(C)2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸のホモポリマーまたはコポリマーと、(D)IOB値が0.2〜0.6のエステル油とを含有させると、経時安定性に優れながら、肌へののびが良く、べたつかず、さっぱりさに優れ、なじませるときに肌に吸い付くような指ざわり(フィット感)で、有効成分が肌に浸透していく感じ(浸透感)に優れた水中油型乳化皮膚化粧料が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。 【課題を解決するための手段】 【0011】 すなわち、本発明は、(A)HLB9〜18の非イオン界面活性剤と、(B)HLB2〜5の非イオン界面活性剤と、(C)2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸のホモポリマーまたはコポリマーと、(D)IOB値が0.2〜0.6のエステル油とを含有することを特徴とする水中油型乳化皮膚化粧料を提供するものである。」 (摘記3−3) 「【0054】 (E)塩型薬剤 本発明ではさらに(E)塩型薬剤を配合してもよい。(E)成分は、塩を形成可能な水溶性の薬剤を意味する。水溶性薬剤であれば特に制限がなく希望する薬剤を配合することができる。例えば、L−アスコルビン酸およびその誘導体の塩、トラネキサム酸およびその誘導体の塩、アルコキシサリチル酸およびその誘導体の塩、グルタチオンおよびその誘導体の塩などが好ましいものとして挙げられる。これら例示に限定されるものでない。 ・・・ 【0057】 アルコキシサリチル酸は、サリチル酸の3位、4位または5位のいずれかの水素原子がアルコキシ基にて置換されたものであり、置換基であるアルコキシ基は、好ましくはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基のいずれかであり、さらに好ましくはメトキシ基またはエトキシ基である。具体的に化合物名を例示すれば、3−メトキシサリチル酸、3−エトキシサリチル酸、4−メトキシサリチル酸、4−エトキシサリチル酸、4−プロポキシサリチル酸、4−イソプロポキシサリチル酸、4−ブトキシサリチル酸、5−メトキシサリチル酸、5−エトキシサリチル酸、5−プロポキシサリチル酸などが挙げられる。本発明ではアルコキシサリチル酸およびその誘導体(エステルなど)の各塩の形で好適に用いられる。」 (摘記3−4) 「【0093】 実施例20 スキンクリーム (配合成分) 質量% (1)流動パラフィン 2.0 (2)デカメチルシクロペンタシロキサン 6.0 (3)イソデシルベンゾエート(IOB=0.23) 6.0 (4)モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(HLB14.9) 3.0 (商品名:NIKKOL TS−10,日光ケミカルズ(株)社製) (5)トリオレイン酸ソルビタン(HLB4.0) 0.3 (商品名:NIKKOL SO−30R,日光ケミカルズ(株)社製) (6)セチルアルコール 2.5 (7)バチルアルコール 2.5 (8)香料 0.1 (9)1,3−ブチレングリコール 3.0 (10)イオン交換水 残 余 (11)トリメチルグリシン 1.0 (12)4−メトキシサリチル酸カリウム 2.0 (13)フェノキシエタノール 0.15 (14)水酸化ナトリウム 0.4 (15)AMPSホモポリマー 0.5 (商品名:Hostacerin AMPS,CLARIANT社製) (16)クエン酸 0.09 (17)クエン酸ナトリウム 0.01 <製法> (1)〜(8)を70℃にて均一に混合溶解した(油相)。一方、(9)〜(17)を70℃にて均一に混合溶解した(水相)。70℃に保持した水相に油相を徐添しながら、ホモミキサーで乳化した。乳化が終了したら、40℃以下に急冷し、目的のスキンクリームを得た。 <製品の性状> 得られたスキンクリームについて、実施例1〜14と同様の評価を行ったところ、使用性に優れ(使用性評価:べたつき、のびおよびさっぱりさ、浸透感とも◎)、皮膚に塗布した場合、うるおいを与え、のびが軽く、さっぱりしていながらもしっとりした感触を有しており、しかも、べたつかず、安定性も良好(安定性評価:○)なものであった。」 イ 引用発明 上記アの摘記事項(摘記3−4)より、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「(1)流動パラフィン 2.0質量% (2)デカメチルシクロペンタシロキサン 6.0質量% (3)イソデシルベンゾエート(IOB=0.23) 6.0質量% (4)モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(HLB14.9) 3.0質量% (5)トリオレイン酸ソルビタン(HLB4.0) 0.3質量% (6)セチルアルコール 2.5質量% (7)バチルアルコール 2.5質量% (8)香料 0.1質量% (9)1,3−ブチレングリコール 3.0質量% (10)イオン交換水 残余 (11)トリメチルグリシン 1.0質量% (12)4−メトキシサリチル酸カリウム 2.0質量% (13)フェノキシエタノール 0.15質量% (14)水酸化ナトリウム 0.4質量% (15)AMPSホモポリマー 0.5質量% (16)クエン酸 0.09質量% (17)クエン酸ナトリウム 0.01質量% を含有するスキンクリーム。」 (2)周知例Aの記載事項 当審が「周知例A」として引用する「フレグランスジャーナル, 1982, No.56, pp.46-51, 54」には、次の事項が記載されている。 (摘記A−1) 「1. はじめに 近年,化粧品に対するニーズが「美しく装う」ことから「自然の美しさを求める」方向に変わりつつあり,健康な皮膚というものを科学的に知り,これに基づいて化粧品を開発する必要性が論じられている1〜4)。 皮膚の健康度は,つや,はり,しっとり感などの言葉で表現され,心身の健康状態と切り離せないものであるが,直接的には角質に含まれる水分がこのような皮膚の状態を決定づけていることが明らかにされている5〜10)。 この角質の水分をコントロールしているのはNMF(天然保湿因子)8)と呼ばれる水溶性物質および皮表脂質である11,12)。化粧品成分としての湿潤剤は,元来皮膚が持つNMFの働きを補助することによって皮膚の健康状態,すなわち,つや,はりのある美しい肌を保つことを目的としている。」(p.46 左欄1-17行) (3)周知例Bの記載事項 当審が「周知例B」として引用する「FRAGRANCE JOURNAL, 2009, 7月号,pp.27-32」には、次の事項が記載されている。 (摘記B−1) 「・スキンケア製品 ・・・ スキンケア化粧品の目的は,健康的でツヤやハリのある美しい素肌に導くことにあります。基本機能は保湿ですが,美白や小ジワなど肌の悩みに有効な成分を安定に配合する技術や,成分の有効性を最大限発揮させるナノテクノロジー等を導入し,確かな効能,効果を実感できる製品を作っています。」 (p.30 右欄23-30行) (4)周知例Cの記載事項 当審が「周知例C」として引用する「特開2004−166801号公報」には、次の事項が記載されている。 (摘記C−1) 「【0002】 【従来の技術】 肌表面のつやは、肌の健康状態、美しさ、もしくは化粧後の仕上がりを表現する上で非常に重要な要素である。そのため肌に適切なつやを与えることは、基礎化粧品、もしくはメーキャップ化粧品の重要な目的のひとつである。」 (5)周知例Dの記載事項 当審が「周知例D」として引用する「FRAGRANCE JOURNAL 臨時増刊, 1984, No.5,pp.372-375」には、次の事項が記載されている。 (摘記D−1) 「 香粧品の機能・効果を,最終利用者が評価する場合、自分自身の肌を鏡に写して自分の目で確かめることが最も多いに違いない。基礎化粧品の使用後は肌の色,つや,きめなどを,そして,メークアップ化粧料の使用後は当然色、つやなどが評価の対象となるだろう。」 (p.372 左欄2-6行) (6)周知例Eの記載事項 当審が「周知例E」として引用する「特開2006−213697号公報」には、次の事項が記載されている。 (摘記E−1) 「【背景技術】 【0002】 皮膚外用剤は皮膚の新陳代謝の改善、保湿、保水といった作用により肌荒れの防止、改善をする。肌荒れはおもに皮膚の水分低下によりひき起こされることが知られている。例えば、冬季の空気の乾燥、皮膚洗浄、加齢、皮膚分泌物の減少などにより皮膚が乾燥する。皮膚を乾燥状態のまま放置すると、皮膚のはりやつやが低下し、いわゆる肌荒れ状態になりやすい。肌荒れの防止のためにはには角層水分含有量の低下を防止し、正常な皮膚機能を維持することが重要である。角質水分量を保持するため、従来皮膚に適度な水分と油分を与える親水性の皮膚保湿剤と油性の皮膚柔軟剤を皮膚外用剤に配合することが行われていた。・・・」 (7)周知例Fの記載事項 当審が「周知例F」として引用する「特開平10−236918号公報」には、次の事項が記載されている。 (摘記F−1) 「【0002】 【従来の技術】健全な皮膚は十分な水分を含み、潤いと張りのある外観を持っている。何らかの原因によって皮膚の保湿性が低下すると、その潤いと張りが失われ、肌質(つや、きめ等)の劣化、小じわなどの皮膚老化を生じることになる。従来、皮膚の保湿性を高め、肌に潤いを与えるための化粧水、クリーム、乳液などの皮膚外用組成物が種々提案されている。」 (8)周知例Gの記載事項 当審が「周知例G」として引用する「周知・慣用技術集(香料) 第III部香粧品用香料、日本国特許庁、発行日2001年6月15日」には、次の事項が記載されている。 (摘記G−1) 「4・2・2 基礎化粧品(スキンケア化粧品)1)〜5)、17)〜19)、23)〜25) 基礎化粧品(スキンケア化粧品)とは、『人の身体を清潔すること、及び皮膚を健やかに保持すること』、即ち、“潤いのある美しく、若々しい肌を保つ”ことが主な目的である。肌の健康は若さのバロメーターともいわれ、同じ年齢でも肌が若々しく見えれば、社会参加も積極的になり、心身ともに健康となる。さらに心地良い香りが加わることにより、なお一層の満足感が得られる。従って、皮膚を若々しく健康に保つためのスキンケアが、ますます重要なものとなっている。 基礎化粧品は、その目的によって、クリーム、乳液、化粧水、パック、洗浄用化粧品、ひげ剃り用化粧品などに分類することができる。」 (p.541、1-9行) 2 対比・判断 (1)対比 本願発明と引用発明を対比する。 引用発明における「4−メトキシサリチル酸カリウム」は、本願発明における「アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩」に相当する。 引用発明における「トリメチルグリシン」は、本願発明における「トリメチルグリシン」に相当する。 また、本願明細書には、「皮膚のツヤ向上剤としては、特に限定されないが、化粧水、乳液、美容液、クリーム等が挙げられるし、これらの化粧料に配合されてもよい。また、医薬品、医薬部外品などに配合することもでき、特に皮膚外用剤に配合することができる。これらの化粧料に一般に添加できる薬剤、例えば保湿剤、美白剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、着色剤、香料、水、溶媒、防腐剤、保存剤、pH調整剤、ゲル化剤、その他活性成分を含むことができる。」(【0053】)と記載されるように、本願発明は、4−メトキシサリチル酸カリウム及びトリメチルグリシン以外の成分を含むことを排除したものではないと認められるから、引用発明のスキンクリームが、4−メトキシサリチル酸カリウム及びトリメチルグリシン以外の成分を含む点において、両者は相違するものではなく、組成物である点でも共通している。 したがって、両者は、 「アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩及びトリメチルグリシンを含む、組成物。」 である点において一致し、以下の点で一応相違する。 一応の相違点 組成物について、本願発明は「皮膚のツヤ向上剤」と特定しているのに対し、引用発明は「スキンクリーム」と特定している点。 (2)判断 上記一応の相違点について検討する。 まず、本願明細書には、「皮膚のツヤ向上剤としては、特に限定されないが、化粧水、乳液、美容液、クリーム等が挙げられるし、これらの化粧料に配合されてもよい。」(【0053】)と記載されており、皮膚のツヤ向上効果があることが具体的に確認されているのは、実施例6の皮膚への適用試験において用いられた乳液状美容液であることからみて、本願発明の皮膚のツヤ向上剤は、化粧水、乳液、美容液、クリームの剤形のもの(化粧料自体)を包含すると認められる。 一方、周知例Gの記載事項「基礎化粧品(スキンケア化粧品)とは、『人の身体を清潔すること、及び皮膚を健やかに保持すること』、即ち、“潤いのある美しく、若々しい肌を保つ”ことが主な目的である。・・・基礎化粧品は、その目的によって、クリーム、乳液、化粧水、パック、洗浄用化粧品、ひげ剃り用化粧品などに分類することができる。」(摘記G−1)に照らすと、引用発明のスキンクリームは、皮膚に塗布してうるおいを与えるものであるとされているから(摘記3−4)、基礎化粧品(スキンケア化粧品)に属する化粧品であることは、当業者にとって明らかである。 そして、周知例Aの記載事項「皮膚の健康度は,つや,はり,しっとり感などの言葉で表現され」(摘記A−1)、周知例Bの記載事項「スキンケア化粧品の目的は,健康的でツヤやハリのある美しい素肌に導くことにあります。」(摘記B−1)、及び、周知例Cの記載事項「・・・肌表面のつやは、肌の健康状態・・・を表現する上で非常に重要な要素である。」(摘記C−1)によれば、健やかな皮膚にはツヤがあると理解されるところ、特に周知例Bの記載事項「スキンケア化粧品の目的は,健康的でツヤやハリのある美しい素肌に導くことにあります。」(摘記B−1)、周知例Cの記載事項「そのため肌に適切なつやを与えることは、基礎化粧品・・・の重要な目的のひとつである。」(摘記C−1)、及び、周知例Dの記載事項「基礎化粧品の使用後は肌の色,つや,きめなど・・・が評価の対象となるだろう。」(摘記D−1)に示されるように、スキンケア化粧品を使用する目的に健やかでツヤ等のある皮膚に導くことがあるのは、本願優先日当時の技術常識であったと認められる。 そうすると、引用発明のスキンクリームについても、スキンケア化粧品であることから、その使用目的に着目すれば、健やかでツヤ等のある皮膚に導くための用途に供するものであるといえる。 加えて、周知例Aの記載事項「皮膚の健康度は,つや,はり,しっとり感などの言葉で表現され,・・・直接的には角質に含まれる水分がこのような皮膚の状態を決定づけていることが明らかにされている・・・化粧品成分としての湿潤剤は,元来皮膚が持つNMFの働きを補助することによって皮膚の健康状態,すなわち,つや,はりのある美しい肌を保つことを目的としている。」(摘記A−1)、周知例Eの記載事項「皮膚外用剤は皮膚の新陳代謝の改善、保湿、保水といった作用により肌荒れの防止、改善をする。・・皮膚を乾燥状態のまま放置すると、皮膚のはりやつやが低下し、いわゆる肌荒れ状態になりやすい。肌荒れの防止のためにはには角層水分含有量の低下を防止し、正常な皮膚機能を維持することが重要である。角質水分量を保持するため、従来皮膚に適度な水分と油分を与える親水性の皮膚保湿剤と油性の皮膚柔軟剤を皮膚外用剤に配合することが行われていた。・・・」(摘記E−1)、及び、周知例Fの記載事項「・・・健全な皮膚は十分な水分を含み、潤いと張りのある外観を持っている。何らかの原因によって皮膚の保湿性が低下すると、その潤いと張りが失われ、肌質(つや、きめ等)の劣化、小じわなどの皮膚老化を生じることになる。従来、皮膚の保湿性を高め、肌に潤いを与えるための化粧水、クリーム、乳液などの皮膚外用組成物が種々提案されている。」(摘記F−1)によれば、肌を保湿し潤いを与えることにより、乾燥による肌荒れが改善し、肌のツヤが良くなることもまた本願優先権主張時の技術常識であるといえるところ、肌にうるおいを与える引用発明のスキンクリームにおいても、皮膚のツヤ向上という効果は、既に自ずと発揮されていたというべきである。 そうしてみると、本願発明の皮膚のツヤ向上剤と、引用発明のスキンクリームとは、その用途を、使用目的や作用効果で表したか、或いは、製品形態で表したかの表現上の違いがあるだけで、両者は実質的に相違するものではない。 したがって、上記一応の相違点は、実質的な相違点とはいえない。 (3)請求人の主張について 請求人は、4−メトキシサリチル酸カリウムとトリメチルグリシンについて、従来用途(保湿や美白)とは異なる利用価値(ツヤ向上)を有することを見出しており、それにより従来認識されていない新しい使い道(ツヤ向上剤)を提供しているので、ツヤ向上用途を新たな用途発明として、美白や保湿といった従来の化粧用途とは区別可能であり、新規性を否定されるべきでない旨を主張している。 しかし、皮膚のツヤを得ることは、スキンケア化粧品の本来の使用目的に含まれており、しかも引用発明のスキンクリームが皮膚のツヤ向上という効果を自ずと発揮するものであることから、本願発明の皮膚のツヤ向上剤と引用発明のスキンクリームの用途が実質的に区別されないことは、上記(2)で説示したとおりである。 また、引用発明のスキンクリームに配合された成分である4−メトキシサリチル酸カリウムとトリメチルグリシンが、皮膚に対して美白、保湿といった生理学的作用を示すものとして当業者に認識されていたということが、前記判断を覆す理由になるものとも認められない。 (4)小括 以上によれば、本願発明と引用発明との間には、実質的な相違点は見いだせず、本願発明は、引用文献3に記載された発明である。 第5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2021-12-13 |
結審通知日 | 2021-12-14 |
審決日 | 2021-12-27 |
出願番号 | P2015-220475 |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(A61K)
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最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
井上 典之 |
特許庁審判官 |
齋藤 恵 進士 千尋 |
発明の名称 | 皮膚のツヤの評価方法、皮膚のツヤ向上剤の探索方法及び皮膚のツヤ向上剤 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 津田 英直 |
代理人 | 武居 良太郎 |
代理人 | 渡辺 陽一 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 中島 勝 |