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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1382017
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-14 
確定日 2022-02-02 
事件の表示 特願2017−219675「スライド管理システム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月26日出願公開、特開2018−116259〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年11月15日(パリ条約による優先権主張2016年11月22日、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の概要は、以下のとおりである。

平成31年 1月11日付け:拒絶理由の通知
平成31年 4月 9日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年 8月22日付け:拒絶理由の通知
令和 2年 1月31日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 4月28日付け:拒絶査定
令和 2年 9月14日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 3年 3月12日付け:拒絶理由の通知
令和 3年 6月14日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし17に係る発明は、令和3年6月14日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「1又は複数の撮像装置を含む第1の撮像モジュールと、
前記第1の撮像モジュールとは別の場所にあり、1又は複数の顕微鏡を含む第2の撮像モジュールと、
複数のスライドステーションを備える格納モジュールと、
前記第1の撮像モジュール、前記格納モジュール及び前記第2の撮像モジュールの少なくとも1つの間で少なくとも1つのスライドを搬送する働きをする自動搬送モジュールと、
複数のスライドを、前記搬送モジュールによって、個別に前記第1の撮像モジュールに直接搬送すること(1)、
複数のスライドに関連するプロトコルによって指示されるか、またはスライドの分析を担当する診断担当者によって選択され、単一平面内で前記複数のスライド上の検体の1つの画像を取得するよう前記第1の撮像モジュールの1又は複数の撮像装置の1つに指示すること(2)、
複数のスライドのそれぞれにおける検体の1つの画像の取得に続いて、画像が取得された複数のスライドを前記格納モジュール内の複数のスライドステーションのそれぞれに直接搬送すること(3)、
前記格納モジュール内の複数のスライドの1つを探し出して取り出すための割り出し方式に基づいて、複数のスライドのうちの1つのスライドを含む保管モジュール内の複数のスライドステーションの1つの場所を決定すること。(4)、
前記第1の撮像モジュールによって取得された画像に加えて、診断担当者または判読モジュールによるさらに画像を取得する要求にのみ、第2の撮像モジュールの1つ又は複数の顕微鏡の1つが利用可能かどうかを決定すること。(5)、
前記顕微鏡が利用可能であった場合、複数のスライドのうちの1つのスライドを前記格納モジュールから前記第2の撮像モジュールに直接搬送すること。(6)、
複数のスライドのうちの1つのスライドの試料の一部の複数の画像を取得するように第2の撮像モジュールに指示すること(7)、
前記(1)〜(7)の順番で動作可能なコントローラとを含む装置。」

第3 拒絶の理由
令和3年3月12日付けで当審が通知した請求項1に関する拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

[理由](進歩性)本件出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:特開2012−141287号公報

第4 引用文献について
(1)引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同様。)。
「【要約】
【課題】追加の試験や処理の繰り返しの後に病理学者は検査手順を繰り返し、それから更に最終結果が出るまで作業を繰り返すことになる。これらの処理に自動化装置を使用したとしても、多くの運搬作業や人手の介入が必要である。
【解決手段】少なくとも染色モジュール210とカバースリップ付着モジュール220のどちらか一方と、画像化モジュール230と、保存モジュール202と、少なくとも一個のスライド424を染色モジュール210とカバースリップ付着モジュール220のどちらか一方、画像化モジュール230及び保存モジュール202の間で搬送するための自動搬送モジュール302と、コントローラ400とを備えている。」

「【請求項1】
少なくとも、染色モジュールとカバースリップ付着モジュールのいずれか一方と、
画像化モジュールと、
保存モジュールと、
少なくとも一個のスライドを、少なくとも前記染色モジュールとカバースリップ付着モジュールのいずれか一方と、前記画像化モジュールと前記保存モジュールとの間で搬送するための自動搬送モジュールと、
前記搬送モジュールを介して少なくとも一個のスライドの搬送を管理するコントローラとを具備することを特徴とする装置。」

「【請求項6】
前記画像化モジュールは、複数の画像化モジュールから成ることを特徴とする請求項1記載の装置。」

「【請求項29】
前記画像化モジュールは、複数の画像化装置から成ることを特徴とする請求項24記載のシステム。」

「【0026】
実施例によっては、その遅延の基準はカバースリップ付着技術や標本の種類(組織学的、細胞学的、単層スライド、汚れの有無他)に基づき研究所が選択する。例えば、研究所はカバースリップ付着技術とスライド上の標本の種類により、スライドを画像化前に所定時間保存するかどうかの判断を行う。この判断のための情報は、スライドに付いている識別子に含まれている。例えば識別子には、無線周波数識別(RFID)タグや、自動システムへ情報を提供するシステムに備え付けられているリーダにより読み取り可能なバーコードがある。自動システムは識別子を読み取り、指定された処理手順を実行する。この点、カバースリップ付着工程の後、スライドは保存モジュール202へ搬送され、所定の時間保存される。その後、システムは搬送モジュールに警報を発し、保存モジュール202からスライドを取り出し、スライドを画像化するために画像化装置230へ搬送させる。」

「【0028】
更に、試料が画像化装置230によって画像化された後、試料スライドを試料経路205を経由して保存モジュール202へ搬送してもよい。スライドは、後の試験、検査のために保存モジュール202で保存される。
【0029】
試料の画像化の準備ができたら、試料の少なくとも1個の画像を画像化装置230から得ることができる。画像化装置が実行する各スライドの画像化手順は、変更可能であり、いつでも例えば診断者(例:病理学者)によって決めることができる。この点、診断者は遠隔地からリアルタイムで画像処理を制御するようにしてもよい。例えば、病理学者は画像を検査し、追加のスライド画像が必要かどうか判断できる。一般的に、病理学者は違った倍率の画像が必要か、組織部分にもっと深いフォーカスが必要かどうかを判断する。実施例の自動システムでは、病理学者は更なる画像を得るよう指示できる。指示された場合、システムは自動的に試料を保存モジュール202から取り出し、要求された更なる画像を得るために試料を画像化装置230へ搬送する。病理学者は結果を同日中に受け取ることができる。従来の画像化システムでは高解像度画像やZスタッキング画像を処理するのに一晩はかかった。
【0030】
画像化装置230は、複数の画像化装置を含んでいてもよい。画像化装置は、人手により解析または解析モジュール290により自動的に解析される画像を生成するシステムであればよい。図示の実施例では、画像化装置230は顕微鏡と、顕微鏡視野をデジタル画像として記録可能なカメラを含んでいる。例えば、光学CCDカメラをデジタル画像データ生成のために使用できる。そのデジタル画像データは、解析モジュール290、診断者のワークステーション240、専門家のワークステーション250などを通じて必要とする者、例えば診断者や研究所の要員が当該データにアクセスできるようにするため、種々の記録方法を採用できる。好適なデータ記憶装置の例としては、画像化装置230に設けられているローカル記憶装置(例えばハードディスクドライブ、リムーバブルメモリ、フラッシュメモリ、CDやDVDなどの光学メモリ)やデータ記憶装置260として図示されるネットワークメモリがある。」

「【0051】
画像化装置308、310、312の画像化方法(クイックスキャン、20倍、40倍、Zスタックなど)は、研究所の規定、病理学者などからの特定の指示に基づき事前に指定されている。バスケットに一群として収容されているスライドの場合、一実施例では、各スライドに同じスキャン方法が指定される。個々のスライドまたはバスケット内のスライドには、画像化装置の利用性または特定のスキャン方法(例、クイックスキャン、20倍、40倍、Zスタック)により特定の画像化装置を決めるなど研究所の定めた規定に基づき画像化装置308、310、312のうち1個が指定される。」

「【0053】
また、スライドと特定の画像化装置の画像化スケジュールは予め決めておいてもよい。一般的に、スライドを十分に乾燥させる時間に関する情報はスライドに指定され、画像化装置308、310、312は画像化スケジュールに基づいて使用される。システムは、乾燥時間経過後にどの画像化装置が使用可能か判断する。利用可能な画像化装置が決まったら、スライドは搬送モジュール302によって使用用可能な画像化装置へ搬送される。図3では3個の画像化装置を示しているが、システム300には3未満または4以上の画像化装置を含んでもよい。」

「【0059】
カバースリップ付着モジュール306のローディングコンテナを自動的にカバースリップ付着モジュール306と染色モジュール304との間で移動させるために、ソフトウエアの指示と、カバースリップ付着モジュール306と染色モジュール304との間のデータリンクが使用される。当該指示とデータリンクは、単にカバースリップ付着モジュール306と染色モジュール304との間だけのものである。また、コントロールシステムは、染色モジュール304と、カバースリップ付着モジュール306と、画像化装置308、310、312と、保存モジュール314と、スライドを画像化装置と各モジュールとの間で搬送する搬送モジュール302と個々に接続されている。図4〜9に画像化装置と各モジュールへ接続されたコントローラ400を示す。この場合、搬送に関する指示とデータリンクは、前記モジュール、画像化装置、コントロールシステムに関連するものである。コントローラ400は、染色モジュール304とカバースリップ付着モジュール306の間の搬送作業を制御する。コントローラ400は、前記モジュールや画像化装置に対するスライドの制御と同様に、他のモジュールや画像化装置を制御(例、直接操作)も行う。」

「【0066】
図4に示す実施例において、コンベア402はカバースリップ付着モジュール306からのスライドを受け取り、画像化装置308、310、312のうち1個の装置へ搬送する。TISSUE−TEK FILM(登録商標)カバースリップ付着装置の場合、カバースリップ付着モジュール306は、スライド上に個々にフィルム片を載せる。図4に示すシステムでは、それからスライドはカバースリップ付着モジュール306の排出位置へ移動され、カバースリップ付着モジュール306からコンベア402上へ載置される。カバースリップ付着モジュールの排出位置は、カバースリップ付着動作の下流側に設ければよい。」

「【0090】
一実施例では、図8に示すようにステーションを格子状に形成してもよい。スライドステーション602に収容されたスライドは、例えば格子パターンに対応した座標インデックスシステムを用いてスライドステーション602へ配置され、または取り出される。一般的に、各列は識別子により指定され、各行はその識別子とは別の識別子により指定される。例えば、保存モジュール314の左から第1番目の列は識別子に「1」と指定され、保存モジュール314の上から第1番目の行は識別子に「A」と指定される。この場合、スライドステーション602AはA1となる。スライドステーション602A内のスライドの場所はA1となる。スライドを取り出そうとする場合、システムは場所A1にあるスライドを取り出すよう指示する。他の実施例では、スライドステーション602は、保存モジュール314内で垂直方向へ積上げたコンポーネントでもよい。」

「【0099】
保存モジュール314内におけるスライドの識別、配置および取り出しは、搬送モジュール302と通信可能なコントローラ400によって制御される。各実施例において、搬送モジュール302の動作、作業は、コントローラと搬送モジュール302との間で交換される信号に基づいて行われる。例えば、一実施例では、そのようなコントローラはスライドが画像化可能であるという信号をカバースリップ付着モジュール306から受信する。一方、コントローラは、スライドをカバースリップ付着モジュール306から取り出し、保存モジュール314へ送るために信号を搬送モジュール302へ送信する。リーダ(例、RFIDリーダ、バーコードリーダ)は、スライドに付されている識別子を読み取るために保存モジュールの入口に配置されている。この情報は、コントローラ400へ送信される。コントローラは、保存モジュール314の空いているスライドステーションを識別し、信号を搬送モジュール302へ送りスライドを空いているスライドステーションへ挿入させる。スライドの位置情報は、システムに記憶されている。一実施例では、スライドの位置は、患者の状況、医師または病院、保存期間ほかの基準で選択される。スライドを取り出そうとするとき、例えば病理学者がシステムに更なるスライドの画像化を指示したときにはコントローラ400が所望のスライドの位置情報を判断し、スライドを保存モジュール314内の所定のスライドステーションから取り出すよう信号を搬送モジュール302へ送る。」

図8、9の記載から、複数のスライドステーション602を備えた保存モジュール314が、見て取れる。



(2)引用発明
したがって、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(なお、引用文献1は、「画像化モジュール230」、「画像化装置230」と同じものに2つの用語を用いていることから、「画像化モジュール」と「画像化装置」は、「画像化装置」に用語を統一して認定する。)。

「少なくとも、染色モジュールとカバースリップ付着モジュールのいずれか一方と、
画像化装置と、
複数のスライドステーションを備えた保存モジュールと、
少なくとも一個のスライドを、少なくとも前記染色モジュールとカバースリップ付着モジュールのいずれか一方と、前記画像化装置と前記保存モジュールとの間で搬送するための自動搬送モジュールと、
前記搬送モジュールを介して少なくとも一個のスライドの搬送を管理し、画像化装置を制御(例、直接操作)も行い、保存モジュール内におけるスライドの識別、配置および取り出しを制御するコントローラとを具備する装置であって、
前記画像化装置は、複数の画像化装置から成り、
保存モジュールからスライドを取り出し、スライドを画像化するために画像化装置へ搬送させ、
画像化装置が実行する各スライドの画像化手順は、変更可能であり、いつでも例えば診断者(例:病理学者)によって決めることができ、
試料が画像化装置によって画像化された後、試料スライドを試料経路を経由して複数のスライドステーションを備えた保存モジュールへ搬送し、
病理学者は画像を検査し、追加のスライド画像が必要かどうか判断でき、病理学者は違った倍率の画像が必要か、組織部分にもっと深いフォーカスが必要かどうかを判断し、病理学者は更なる画像を得るよう指示でき、指示された場合、システムは自動的に試料を複数のスライドステーションを備えた保存モジュールから取り出し、要求された更なる画像を得るために試料を画像化装置へ搬送し、
画像化装置は、複数の画像化装置を含んで、画像を生成し、
スライドステーションに収容されたスライドは、格子パターンに対応した座標インデックスシステムを用いてスライドステーションへ配置され、または取り出される、装置。」

第5 対比
1 本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明は「前記画像化装置は、複数の画像化装置から成り、保存モジュールからスライドを取り出し、スライドを画像化するために画像化装置へ搬送させ、試料が画像化装置によって画像化された後、試料スライドを試料経路を経由して保存モジュールへ搬送し、病理学者は画像を検査し、」と特定されていることから、引用発明の「『複数の画像化装置から成』る『画像化装置』」は、「1又は複数の撮像装置を含む第1の撮像モジュール」に対応する構成を有するものといえる。
ここで、引用発明は「病理学者は画像を検査し、追加のスライド画像が必要かどうか判断でき、病理学者は違った倍率の画像が必要か、組織部分にもっと深いフォーカスが必要かどうかを判断し、病理学者は更なる画像を得るよう指示でき、指示された場合、システムは自動的に試料を保存モジュールから取り出し、要求された更なる画像を得るために試料を画像化装置へ搬送し、画像化装置は、複数の画像化装置を含んで、画像を生成し、」と特定されていることから、本願発明の「『診断担当者または判読モジュールによるさらに画像を取得する要求にのみ、』『複数のスライドのうちの1つのスライドを前記格納モジュールから』『撮像モジュールに直接搬送すること。(6)、』『複数のスライドのうちの1つのスライドの試料の一部の複数の画像を取得するように』『撮像モジュールに指示すること(7)』」に対応する構成を有するものといえる。
そうすると、引用発明の「『複数の画像化装置から成』る『画像化装置』」は、本願発明の「前記第1の撮像モジュールとは別の場所にあり、1又は複数の顕微鏡を含む第2の撮像モジュール」に相当していないものの、本願発明の「第2の撮像モジュール」に対応する機能は有しているといえる。
したがって、引用発明の「『複数の画像化装置から成』る『画像化装置』」と、本願発明の「1又は複数の撮像装置を含む第1の撮像モジュールと、前記第1の撮像モジュールとは別の場所にあり、1又は複数の顕微鏡を含む第2の撮像モジュール」とは、「複数の撮像装置を含む撮像モジュール」の点で一致する。

(2)引用発明の「複数のスライドステーションを備えた保存モジュール」は、本願発明の「複数のスライドステーションを備える格納モジュール」に、
引用発明の「コントローラ」は、本願発明の「コントローラ」に、
引用発明の「装置」は、本願発明の「装置」に、
それぞれ相当する。

(3)引用発明の「『少なくとも一個のスライドを、』『前記画像化装置と前記保存モジュールとの間で搬送するための自動搬送モジュール』」と、本願発明の「前記第1の撮像モジュール、前記格納モジュール及び前記第2の撮像モジュールの少なくとも1つの間で少なくとも1つのスライドを搬送する働きをする自動搬送モジュール」とは、「前記格納モジュール及び前記撮像モジュールの間で少なくとも1つのスライドを搬送する働きをする自動搬送モジュール」の点で一致する。

(4)本願発明の「複数のスライドを、前記搬送モジュールによって、個別に前記第1の撮像モジュールに直接搬送すること(1)、複数のスライドに関連するプロトコルによって指示されるか、またはスライドの分析を担当する診断担当者によって選択され、単一平面内で前記複数のスライド上の検体の1つの画像を取得するよう前記第1の撮像モジュールの1又は複数の撮像装置の1つに指示すること(2)、複数のスライドのそれぞれにおける検体の1つの画像の取得に続いて、画像が取得された複数のスライドを前記格納モジュール内の複数のスライドステーションのそれぞれに直接搬送すること(3)、前記格納モジュール内の複数のスライドの1つを探し出して取り出すための割り出し方式に基づいて、複数のスライドのうちの1つのスライドを含む保管モジュール内の複数のスライドステーションの1つの場所を決定すること。(4)、前記第1の撮像モジュールによって取得された画像に加えて、診断担当者または判読モジュールによるさらに画像を取得する要求にのみ、第2の撮像モジュールの1つ又は複数の顕微鏡の1つが利用可能かどうかを決定すること。(5)、前記顕微鏡が利用可能であった場合、複数のスライドのうちの1つのスライドを前記格納モジュールから前記第2の撮像モジュールに直接搬送すること。(6)、複数のスライドのうちの1つのスライドの試料の一部の複数の画像を取得するように第2の撮像モジュールに指示すること(7)、前記(1)〜(7)の順番で動作可能なコントローラ」の構成について

ア 引用発明の「保存モジュール」は、「複数のスライドステーションを備え」ていることから、「スライド」は、複数であると考えるのが自然である。

イ 引用発明の「保存モジュールからスライドを取り出し、スライドを画像化するために画像化装置へ搬送させ」(以下「動作A」という。)と、本願発明の「複数のスライドを、前記搬送モジュールによって、個別に前記第1の撮像モジュールに直接搬送すること(1)」とは、「複数のスライドを、前記搬送モジュールによって、個別に前記撮像モジュールに直接搬送すること(1)」の点で一致し、
引用発明の「画像化装置が実行する各スライドの画像化手順は、変更可能であり、いつでも例えば診断者(例:病理学者)によって決めることができ、試料が画像化装置によって画像化された」(以下「動作B」という。)と、本願発明の「複数のスライドに関連するプロトコルによって指示されるか、またはスライドの分析を担当する診断担当者によって選択され、単一平面内で前記複数のスライド上の検体の1つの画像を取得するよう前記第1の撮像モジュールの1又は複数の撮像装置の1つに指示すること(2)」とは、「複数のスライドに関連するプロトコルによって指示されるか、またはスライドの分析を担当する診断担当者によって選択され、単一平面内で前記複数のスライド上の検体の1つの画像を取得するよう前記撮像モジュールの複数の撮像装置の1つに指示すること(2)」の点で一致し、
引用発明の「試料が画像化装置によって画像化された後、試料スライドを試料経路を経由して複数のスライドステーションを備えた保存モジュールへ搬送し」(以下「動作C」という。)は、本願発明の「複数のスライドのそれぞれにおける検体の1つの画像の取得に続いて、画像が取得された複数のスライドを前記格納モジュール内の複数のスライドステーションのそれぞれに直接搬送すること(3)」に相当し、
引用発明の「スライドステーションに収容されたスライドは、格子パターンに対応した座標インデックスシステムを用いてスライドステーションへ配置され」(以下「動作D」という。)は、本願発明の「前記格納モジュール内の複数のスライドの1つを探し出して取り出すための割り出し方式に基づいて、複数のスライドのうちの1つのスライドを含む保管モジュール内の複数のスライドステーションの1つの場所を決定すること。(4)」に相当し、
引用発明の「『要求された更なる画像を得るために』『画像化装置は、』『画像を生成し』」(以下「動作G」という。)と、本願発明の「複数のスライドのうちの1つのスライドの試料の一部の複数の画像を取得するように第2の撮像モジュールに指示すること(7)」とは、「複数のスライドのうちの1つのスライドの試料の一部の複数の画像を取得するように撮像モジュールに指示すること(7)」の点で一致する。

ウ また、引用発明の「病理学者は画像を検査し、追加のスライド画像が必要かどうか判断でき、病理学者は違った倍率の画像が必要か、組織部分にもっと深いフォーカスが必要かどうかを判断し、病理学者は更なる画像を得るよう指示でき、指示された場合、システムは自動的に試料を複数のスライドステーションを備えた保存モジュールから取り出し、要求された更なる画像を得るために試料を画像化装置へ搬送し」(以下「動作E、動作F」という。)と、本願発明の「前記第1の撮像モジュールによって取得された画像に加えて、診断担当者または判読モジュールによるさらに画像を取得する要求にのみ、第2の撮像モジュールの1つ又は複数の顕微鏡の1つが利用可能かどうかを決定すること。(5)、前記顕微鏡が利用可能であった場合、複数のスライドのうちの1つのスライドを前記格納モジュールから前記第2の撮像モジュールに直接搬送すること。(6)」は、「前記撮像モジュールによって取得された画像に加えて、診断担当者または判読モジュールによるさらに画像を取得する要求にのみ(5)、複数のスライドのうちの1つのスライドを前記格納モジュールから前記撮像モジュールに直接搬送すること。(6)」の点で一致する。

エ そして、引用発明の「コントローラ」は、「前記搬送モジュールを介して少なくとも一個のスライドの搬送を管理し、画像化装置を制御(例、直接操作)も行い、保存モジュール内におけるスライドの識別、配置および取り出しを制御する」ものであり、上記動作A〜Fの順番で動作可能であるものといえる。

オ そうすると、引用発明は、上記一致又は相当する構成を備え、上記動作A〜Fの順番で動作可能である「コントローラ」を備えているといえる。

(5)以上から、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「複数の撮像装置を含む撮像モジュールと、
複数のスライドステーションを備える格納モジュールと、
前記格納モジュール及び前記撮像モジュールの間で少なくとも1つのスライドを搬送する働きをする自動搬送モジュールと、
複数のスライドを、前記搬送モジュールによって、個別に前記撮像モジュールに直接搬送すること(1)、
複数のスライドに関連するプロトコルによって指示されるか、またはスライドの分析を担当する診断担当者によって選択され、単一平面内で前記複数のスライド上の検体の1つの画像を取得するよう前記撮像モジュールの複数の撮像装置の1つに指示すること(2)、
複数のスライドのそれぞれにおける検体の1つの画像の取得に続いて、画像が取得された複数のスライドを前記格納モジュール内の複数のスライドステーションのそれぞれに直接搬送すること(3)、
前記格納モジュール内の複数のスライドの1つを探し出して取り出すための割り出し方式に基づいて、複数のスライドのうちの1つのスライドを含む保管モジュール内の複数のスライドステーションの1つの場所を決定すること。(4)、
前記撮像モジュールによって取得された画像に加えて、診断担当者または判読モジュールによるさらに画像を取得する要求にのみ(5)、
複数のスライドのうちの1つのスライドを前記格納モジュールから前記撮像モジュールに直接搬送すること。(6)、
複数のスライドのうちの1つのスライドの試料の一部の複数の画像を取得するように撮像モジュールに指示すること(7)、
前記(1)〜(7)の順番で動作可能なコントローラとを含む装置。」

【相違点1】
撮像モジュールにつき、本願発明が、第1の撮像モジュールと第2の撮像モジュールとを含み、第2の撮像モジュールは第1の撮像モジュールとは別の場所にあるのに対し、引用発明はそのような構成としていない点。
【相違点2】
複数のスライドを、前記搬送モジュールによって、個別に撮像モジュールに直接搬送することにつき、撮像モジュールを、本願発明が、「第1の」としたのに対し、引用発明では、そのように特定していない点。
【相違点3】
単一平面内で複数のスライド上の検体の1つの画像を取得するよう撮像装置の1つに指示することにつき、本願発明が、第1の撮像モジュールの撮像装置としたのに対し、引用発明では、「第1の」撮像モジュールと特定していない点。
【相違点4】
本願発明が、さらに画像を取得する要求にのみ、第2の撮像モジュールの1つ又は複数の顕微鏡の1つが利用可能かどうかを決定するようにしたのに対し、引用発明では、そのようにしているか明らかでない点。
【相違点5】
本願発明が、顕微鏡が利用可能であった場合、複数のうちの1つのスライドを前記格納モジュールから前記第2の撮像モジュールに直接搬送するのに対し、引用発明では、そのようにしているか明らかでない点。
【相違点6】
試料の一部の複数の画像を取得するように指示することにつき、本願発明が、第2の撮像モジュールに対して行うようにしたのに対し、引用発明では、「第2の」撮像モジュールと特定していない点。

第6 判断
1 相違点1−3、6に対する判断
(1)引用文献1の【0051】には「画像化装置308、310、312の画像化方法(クイックスキャン、20倍、40倍、Zスタックなど)は、研究所の規定、病理学者などからの特定の指示に基づき事前に指定されている。」と記載されている(以下「記載A」という。)。

(2)ところで、複数の画像化装置が存在する場合に、それらの画像化装置をどのように使い分けるかは、当業者が通常考慮する事項にすぎない。
そして、引用発明は「病理学者は画像を検査し、追加のスライド画像が必要かどうか判断でき、病理学者は違った倍率の画像が必要か、組織部分にもっと深いフォーカスが必要かどうかを判断」するための画像(以下「画像A」という。)と、「要求された更なる画像」(以下「画像B」という。)とを得ているといえる。

(3)そうすると、画像Aと画像Bの画像化を所定の画像化装置で兼用するか(例えば、プログラムで処理し兼用するか)、画像Aの画像化を特定の画像化装置で行い、画像Bの画像化を前記特定された画像化装置以外の画像化装置で行って、画像Aの画像化と画像Bの画像化を行う画像化装置をそれぞれ専用とし固定するか(例えば、画像化装置を固定し構造的に対応するか)は、画像Bの割合や、画像Aを得ることにかかる時間、及画像Bを得ることにかかる時間に応じて、当業者が適宜決定する事項にすぎないところ、
引用発明において、上記記載Aを考慮して、画像Aを得るために用いる「画像化装置」と画像Bを得るために用いる「画像化装置」とを、それぞれ別の場所にある専用の画像化装置とすることは、研究所の規定、病理学者などからの特定の指示に基づき事前に指定される事項にすぎないといえる。
そして、その場合に、引用発明において、保存モジュールからスライドを取り出し、スライドを画像化するために上記専用の「画像化装置」へ搬送させることになり、また、上記それぞれ別の場所にある専用の「画像化装置」に画像を取得するための指示することになる。
したがって、相違点1−3、6に係る本願発明の構成とすることは、引用発明に基づいて、当業者が容易になし得た事項である。

2 相違点4、5に対する判断
引用文献1の【0053】には「利用可能な画像化装置が決まったら、スライドは搬送モジュール302によって使用用可能な画像化装置へ搬送される。」と記載されている(以下「記載B」という。)。
そうすると、引用発明において、上記記載Bを考慮し、画像Bを得るために用いる、上記1で判断した専用の「画像化装置」においても、利用可能な画像化装置が決まったら、使用用可能な画像化装置へ搬送されるようになすことは、当業者が容易になし得た事項である。

3 効果について
そして、相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

4 したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 審判請求人の主張について
1 審判請求人は、令和3年6月14日付けの意見書において、
(1)「引用文献1では同一のバスケット内のスライドに対しては同一の画像化方法となるように予め設定しており、また引用文献1の複数の画像化装置は、上記のようにクイックスキャン、20倍、40倍、Zスタックなど予め所定の画像化方法を指定されているが、空いている画像化装置を探して標本が搬送される目的で使用されており、本願発明でいう1又は複数の撮像装置を含む第1の撮像モジュールにすぎません。」
(2)「引用文献1では、病理学者は違った倍率の画像が必要か、組織部分にはもっと深いフォーカスが必要かどうかを判断し、要求されたさらなる画像を得るために試料を画像化装置へ搬送する場合、また画像化装置へ戻すことになるため、画像化装置が使用中であったり準備中の場合には、さらなる画像を得る必要があるスライドは長時間待機しなくてはなりません。この点、本願発明では、第2の撮像モジュールの1つ又は複数の顕微鏡の1つが利用可能かどうかを決定し、顕微鏡が利用可能であった場合、複数のスライドのうちの1つのスライドを格納モジュールから第2の撮像モジュールに直接搬送する構成を採用しておりますので、さらに画像が必要なスライドを長時間待機させることがなくスムーズな画像化処理が行えるという、引用文献1と比較して有利な効果を奏します。」
旨主張している。

2 上記主張について検討する。
(1)上記1(1)について
上記第6の1で検討したとおりである。
(2)上記1(2)について
審判請求人のいう、さらに画像が必要なスライドを長時間待機させることがなくスムーズな画像化処理が行えるという効果は、顕微鏡の台数により得られるものであり、第1、第2と撮像モジュールを2つに分けたことだけにより得られるものではない。
また、審判請求人のいう、上記効果は、第1及び第2の撮像モジュールを用い画像を取得するスライドの割合や第1及び第2の撮像モジュールを用いた画像の取得にかかる時間にも影響をされるといえ、例えば、第1の撮像モジュールに搬送しなければならないスライドがなく、第2の撮像モジュールに搬送しなければならないスライドが2つであり、顕微鏡が2つの場合には、1つの顕微鏡を含む第1の撮像モジュール及び第1の撮像モジュールとは別の場所にあり、1つの顕微鏡を含む第2の撮像モジュールよりも、第1の撮像モジュール及び第2の撮像モジュールを兼用できる2つの顕微鏡を用いた方が、長時間待機しなくてもよいことも自明である。
そう考えると、本願発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
以上のとおりであるから、審判請求人の主張を採用することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 瀬川 勝久
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-08-30 
結審通知日 2021-08-31 
審決日 2021-09-17 
出願番号 P2017-219675
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 吉野 三寛
野村 伸雄
発明の名称 スライド管理システム  
代理人 特許業務法人綿貫国際特許・商標事務所  

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