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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A24F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A24F
管理番号 1382073
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-29 
確定日 2022-01-26 
事件の表示 特願2018−546893「電子エアロゾル供給システム及び電子エアロゾル供給システムのための気化器」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月 2日国際公開、WO2017/187148、令和 1年 7月25日国内公表、特表2019−520787〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年4月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年4月27日、(GB)英国)を国際出願日とする出願であって、令和1年12月2日付けで拒絶の理由が通知され、令和2年3月5日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年6月25日付け(発送日:令和2年6月30日)で拒絶査定がなされ、それに対して、令和2年10月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 令和2年10月29日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年10月29日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年3月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
気化するための液体の液体源と、
使用者による吸引のために前記液体の一部分を気化させる気化器と
を具備する、電子蒸気供給システム用のサブアセンブリであって、
前記気化器が、
ウィック構成要素と、
前記ウィック構成要素に埋設された電気加熱要素と
を備え、
前記ウィック構成要素が、多孔質電気絶縁材料のシートであり、前記ウィック構成要素が、前記液体源から前記埋設された電気加熱要素に隣り合う前記ウィック構成要素の表面に、気化のために液体を吸い上げるように配置されている、サブアセンブリ。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
気化するための液体の液体源と、
使用者による吸引のために前記液体の一部分を気化させる気化器と
を具備する、電子蒸気供給システム用のサブアセンブリであって、
前記気化器が、
ウィック構成要素と、
前記ウィック構成要素に金属ワイヤの形態で埋設された電気加熱要素であって、前記ワイヤに沿って各横断面位置で、前記ウィック構成要素の材料が前記ワイヤの外周全体で前記ワイヤに接触している、電気加熱要素と
を備え、
前記ウィック構成要素が、多孔質電気絶縁材料のシートであり、前記ウィック構成要素が、前記液体源から前記埋設された電気加熱要素に隣り合う前記ウィック構成要素の表面に、気化のために液体を吸い上げるように配置されている、サブアセンブリ。」

2 補正の適否について
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「電気加熱要素」に関して、「金属ワイヤの形態で埋設された」こと、及び「前記ワイヤに沿って各横断面位置で、前記ウィック構成要素の材料が前記ワイヤの外周全体で前記ワイヤに接触している」ことを限定するものであって、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する(下線は当審にて付した。以下同様。)。

(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された国際公開第2015/165812号には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審にて付したものである。当審による訳文を()内に示す。)。

(1−a)「The present invention relates to containers for aerosol-generating systems that comprise a heater assembly that is suitable for vapourising a liquid. In particular, the invention relates to handheld aerosol-generating systems, such as electrically operated smoking systems.」(第1頁第4〜6行)
(本発明は、液体を蒸発するのに適したヒータアセンブリを含むエアロゾル発生システムのための容器に関するものである。特に、本発明は、電気作動式喫煙システムのような、手持ち式エアロゾル発生システムに関するものである。)

(1−b)「According to an aspect of the present invention, there is provided a container for a liquid aerosol-generating substrate for use in an electrically heated aerosol-generating device. The container comprises: a casing having at least one air inlet and at least one air outlet; a tubular liquid retention element, for sorbing a liquid aerosol-generating substrate; and an air permeable capillary wick membrane comprising at least one electrical heater. The membrane is provided on an end face of the tubular liquid retention element, such that an airflow pathway is provided from the at least one air inlet through a portion of the membrane to the at least one air outlet.」(第1頁第27〜33行)
(本発明の一態様によれば、電気加熱式エアロゾル発生装置で使用するための液体エーロゾル発生基材用の容器が提供される。容器は、少なくとも1つの空気入口を有するケーシングと、少なくとも1つの空気出口管状液体保持要素、液体エアロゾル発生基材を吸着/吸収するための、少なくとも1つの電気ヒータを含む空気透過性毛細管ウイック膜を含む。膜は、液体保持部材の端面に設けられ、空気流経路は、膜の一部を介して少なくとも1つの空気出口を少なくとも1つの空気入口から供給されるようになっている。)

(1−c)「Advantageously, providing the electrical heater on a capillary wick membrane enables the aerosol-generating substrate to be vapourised more efficiently, because the configuration enables a large contact area between the heater and the liquid aerosol-generating substrate. In addition, the heater may be substantially flat allowing for simple manufacture. As used herein, "substantially flat" means formed in a single plane and not wrapped around or otherwise conformed to fit a curved or other non-planar shape. A substantially flat heater can more be easily handled during manufacture and provides for a robust construction.」(第1頁第34行〜第2頁第4行)
(有利には、毛細管ウイック膜上に電気ヒータを設けることで、エーロゾル発生基材を、より効率的に気化することを可能にする、なぜなら、その配置によりヒータとエアロゾル発生基材の接触面積を大きくすることができるからである。また、このヒータは、簡単に製造することを可能にするため、実質的に平坦であってもよい。本明細書で使用されるように、「実質的に平坦」とは、単一平面内に形成されており、包装されていないもの、また、そうでなければ曲線又はほかの非平面形状に適合するようにされたものを意味する。実質的に平坦なヒーターは、製造中により容易に取り扱うことができ、かつ、頑丈な構造を提供する。)

(1−d)「In addition, the container may comprise a further air permeable capillary wick membrane provided adjacent the at least one electrical heater, such that a laminate is formed with the at least one heater encapsulated within the membrane and the further membrane. Providing a laminate in this way may also improve the reliability of the container when used in an aerosol- generating device, because the capillary wick encapsulates the heater providing a more robust wick and heater combination. The further membrane may comprise a further electrical heater. As such, a laminate comprising a layer of membrane, a layer of heater, a layer of membrane and a layer of heater is provided.」(第2頁第32行〜第3頁第3行)
(さらに、容器は、少なくとも1つの電気ヒータに隣接して設けられた、別の空気透過性毛細管ウイック膜から構成することができ、それにより、膜と、もう一つの膜との間に封入された少なくとも1つのヒータからなる積層体が形成されている。このようにして、積層体を提供することにより、エーロゾル発生装置に使用される場合に、容器の信頼性を向上させることができる。その理由は、毛細管ウィックは、より強力なウイックとヒータとの組合わせを提供するように、ヒータをカプセル化しているからである。さらに、膜は、更に、電気ヒータを含むことができる。このように、膜の層、ヒータ層、膜層とヒータ層とを含む積層体が提供される。)

(1−e)「The capillary wick membrane is preferably a high retention and release material. The material of the membrane is preferably a fibrous material, the fibres preferably being of alumina. In addition, or alternatively, the membrane material may comprise a cellulose fibrous mat.」(第4頁第4〜6行)
(毛細管ウイック膜は高い保持力および放出力の材料であることが好ましい。膜の材料は、繊維材料、好ましくはアルミナ繊維であることが好ましい。さらに加えて、あるいは代わりに、この膜材料は、セルロース繊維マットを含むことができる。)

(1−f)「Figure 1 shows an exploded view of the internal components of a container. The components of the container comprise a high retention release material in the form of a tubular element 100, a capillary wick membrane 102, and an electrical heating element 104 having electrical contacts 106 and 108. The tubular element 100 is configured to receive a liquid aerosol-generating substrate.」(第7頁第30〜34行)
(図1は、容器の内部構成要素の分解図を示す。容器の構成要素は、管状要素100の形をした高い保持力と放出力の材料、毛細管ウイック膜102、及び電気接点106及び108を有する電気加熱要素104からなる。管状要素100は、液体エアロゾル発生基材を収容するように構成される。)

(1−g)「The membrane 102 may be of a fibrous mat, such as a woven mat. The fibres may be of alumina, or cellulose.
The electrical heating element is of stainless steel to enable the heating element to be formed by a stamping process.」(第8頁第16〜19行)
(膜102は、繊維質マット、織布マットであってもよい。繊維は、アルミナ、又はセルロースなどであっても良い。
電気加熱要素は、該加熱要素が、スタンピングプロセスによって形成されることを可能にするために、ステンレス鋼製である。)

(1−h)「Figure 3 shows an exploded view of the internal components of an alternative container. Throughout the description, like reference numerals refer to like components. The example in Figure 3 comprises the internal components as shown in Figure 1 , however as can be seen a further tubular element 300 for receiving a liquid aerosol-generating substrate is provided adjacent the membrane 102. The internal components shown in Figure 3 may be incorporated into a similar housing to that shown in Figure 2. The longitudinal length of the tubular elements 100 and 300 may be the same as shown in this example. Alternatively, for example when the tubular element 100 comprises a different liquid to the tubular element 300, the longitudinal length of each element 100, 300 may be different. For example, when the tubular element 300 comprises a flavourant, the longitudinal length of the tubular element 300 may be less than the longitudinal length of the tubular element 100.」(第8頁第31行〜第9頁第5行)
(図3は、他の容器の内部構成要素の分解図を示す。説明全体を通じて、同様の参照番号は同様の構成要素を指す。図3の例では、図1に示すような内部構成要素を備えているが、理解できるように、液体エアロゾル発生基材を収容するための管状要素300は膜102に隣接して設けられている。図3に示される内部構成要素は、図2に示したものと同様のハウジングに組み込むことを可能としてもよい。筒状エレメント100及び300の長手方向の長さは、この例のように同じであってもよい。また、例えば管状要素100は、管状要素300に異なる液体を含む場合に、各要素100、300の長手方向の長さは、異なっていてもよい。例えば、管状要素300は、香味料を含む場合に、管状部材300の長手方向長さは、管状要素100の長手方向の長さより短くてもよい。)

(1−i)「Figure 4 shows an exploded view of the internal components of a further alternative container. The example shown in Figure 4 is similar to that shown in Figure 3, except a further capillary wick membrane 400 is provided. The further membrane 400 is arranged to form a laminate with the heater 104 and the membrane 102.」(第9頁第6〜9行)
(図4は、さらに別の容器の内部構成要素の分解図を示す。図4に示す例は、図3に示されたものと毛細管ウイック膜400が設けてあることを除いて似ている。さらなる膜400は、ヒータ104及び膜102とともに積層体を形成するように配置されている。)

(1−j)「As the user puffs on the device air is drawn into the device through the air inlet 1012, the air then proceeds along the airflow pathway as described above. As the air passes through the air permeable membrane 102, 400, 502, the vapourised aerosol-generating substrate is entrained. As can be seen, in this example, the container 202, 600 is further provided with a mouthpiece 1014, in fluid communication with the air outlet of the tubular element 300, and thus through which the aerosol is inhaled by the user.」(第10頁第34行〜第11頁第2行)
(ユーザーが空気を吸うことで空気が空気入口1012を通って装置に吸引されると、上述したように、空気は、空気流経路に沿って進む。空気は、空気透過膜102、400、502を通過する時に、蒸気となったエアロゾル発生基材が同伴される。図から分かるように、この例では、容器202、600には、さらに、マウスピース1014が設けられ、管状エレメント300の空気出口と流体連通して、そこを通してエアロゾルが使用者によって吸入される)

(1−k)「




(1−l)上記(1−i)には、毛細管ウイック膜400は、ヒータ104及び膜102とともに積層体を形成することが記載され、上記(1−j)には、空気は、空気透過膜102、400、502を通過する時に、蒸気となったエアロゾル発生基材が同伴され、エアロゾルが使用者によって吸入されることが記載されている。
よって、引用例1には、使用者による吸引のためにエアロゾル発生基材を気化させる積層体が記載されているといえる。
また、上記(1−b)及びfigure6から、容器600は、管状要素100,300と、積層体とを具備するものといえる。

(1−m)上記(1−d)には、膜と、もう一つの膜との間に封入された少なくとも1つのヒータと、もう一つの膜からなる積層体が形成されていることが記載され、figure4には、毛細管ウィック膜400と毛細管ウイック膜102との間に細長いヒータ104があることが示されている。また、上記(1−g)には、電気加熱要素(ヒータ104)が、ステンレス鋼製であることが記載されている。
よって、引用例1には、積層体は、毛細管ウイック膜400及び毛細管ウイック膜102と、前記毛細管ウィック膜400と前記毛細管ウイック膜102との間に封入された細長いステンレス鋼製のヒータ104とで形成されることが記載されているといえる。
(1−n)上記(1−e)には、膜の材料は。アルミナ繊維、セルロース繊維マットなどの繊維材料で構成されることが記載され、上記(1−d)には、毛細管ウイックがヒータに隣接して設けられる点が記載されている。
よって、引用例1には、毛細管ウイック膜400及び毛細管ウイック膜102が、アルミナ繊維、セルロース繊維マットなどの繊維材料で構成され、ヒータ104に隣接して設けられた点が記載されているといえる。

上記(1−a)〜(1−n)の事項を総合すると、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。
「液体エアロゾル発生基材を収容するための管状要素100,300と、
使用者による吸引のためにエアロゾル発生基材を気化させる積層体とを具備する、エアロゾル発生システムのための容器であって、
前記積層体は、
毛細管ウイック膜400及び毛細管ウイック膜102と、
前記毛細管ウィック膜400と前記毛細管ウイック膜102との間に封入された細長いステンレス鋼製のヒータ104とで形成され、
毛細管ウイック膜400及び毛細管ウイック膜102が、アルミナ繊維、セルロース繊維マットなどの繊維材料で構成され、細長いヒータ104に隣接して設けられた、容器。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「液体エアロゾル発生基材」、「管状要素100,300」、「積層体」、「エアロゾル発生システム」、「容器」は、それぞれ、本願補正発明の「気化するための液体」、「液体源」、「気化器」、「電子蒸気供給システム」、「サブアセンブリ」に相当する。
よって、引用発明の「液体エアロゾル発生基材を収容するための管状要素100,300と、使用者による吸引のためにエアロゾル発生基材を気化させる積層体とを具備する、エアロゾル発生システムのための容器」は、本願補正発明の「気化するための液体の液体源と、使用者による吸引のために前記液体の一部分を気化させる気化器とを具備する、電子蒸気供給システム用のサブアセンブリ」に相当する。

イ 引用発明の「毛細管ウイック膜400及び毛細管ウイック膜102」、「ヒータ104」は、それぞれ、本願補正発明の「ウィック構成要素」、「電気加熱要素」に相当する。
また、一般に、ワイヤーとは細長い金属片を指すものであるから、引用発明の「細長いステンレス鋼製のヒータ104」は、本願補正発明の「金属ワイヤの形態」の「電気加熱要素」に相当する。なお、ヒータ104は、Figure4にも示すとおり細長いステンレス鋼製のものであり、このような形状の金属材料は、上記(1−g)に記載されたスタンピングプロセスによって作成されたもの(プレスで打ち抜いた板状のもの)であってもワイヤーに含まれるものといえる。
そして、引用発明の「ヒータ104」が「毛細管ウィック膜400と毛細管ウイック膜102との間に封入され」る点は、本願補正発明の「電気加熱要素」が「ウイックの構成要素に」「埋設され」る点に相当する。
よって、引用発明の「前記積層体は、毛細管ウイック膜400及び毛細管ウイック膜102と、前記毛細管ウィック膜400と前記毛細管ウイック膜102との間に封入されたステンレス鋼製のヒータ104とで形成され」る点は、本願補正発明の「前記気化器が、ウィック構成要素と、前記ウィック構成要素に金属ワイヤの形態で埋設された電気加熱要素であ」る点に相当する。

ウ 引用発明は、「液体エアロゾル発生基材を収容するための管状要素100,300と、使用者による吸引のためにエアロゾル発生基材を気化させる積層体とを具備する」ものであるから、毛細管ウイック膜400及び毛細管ウイック膜102(ウイック構成要素)が、管状要素100,300(液体源)から、ヒータ104に隣接して設けられた毛細管ウイック膜400及び毛細管ウイック膜102の表面に気化のために液体を吸い上げるように配置されることは、自明な事項である。
よって、引用発明の「毛細管ウイック膜400及び毛細管ウイック膜102が」「ヒータ104に隣接して設けられた」点は、本願補正発明の「ウィック構成要素が、液体源から埋設された電気加熱要素に隣り合う前記ウィック構成要素の表面に、気化のために液体を吸い上げるように配置されている」点に相当する。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、
「気化するための液体の液体源と、
使用者による吸引のために前記液体の一部分を気化させる気化器と
を具備する、電子蒸気供給システム用のサブアセンブリであって、
前記気化器が、
ウィック構成要素と、
前記ウィック構成要素に金属ワイヤの形態で埋設された電気加熱要素と
を備え、
前記ウィック構成要素が、前記液体源から前記埋設された電気加熱要素に隣り合う前記ウィック構成要素の表面に、気化のために液体を吸い上げるように配置されている、サブアセンブリ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
電気加熱要素に関して、本願補正発明では、「ワイヤに沿って各横断面位置で、ウィック構成要素の材料が前記ワイヤの外周全体で前記ワイヤに接触している」のに対し、引用発明では、そのように構成されているか不明である点。

[相違点2]
ウイック構成要素に関して、本願補正発明では、「多孔質電気絶縁材料のシート」であるのに対し、引用発明は、アルミナ繊維、セルロース繊維マットなどの繊維材料で構成された毛細管ウイック膜である点。

(3)判断
ア 上記[相違点1]について検討する。
引用発明において、「ヒータ104」(電気加熱要素)は、「毛細管ウィック膜400と前記毛細管ウイック膜102との間に封入され」たものであるとともに、「毛細管ウイック膜400及び毛細管ウイック膜102」と「隣接して設けられた」ものである。
そして、引用例1には、毛細管ウイック膜と電気ヒータとの配置により、ヒータとエアロゾル発生基材の接触面積を大きくすることができる旨の記載があり(上記(1−c)参照)、当該記載は、(エアロゾル発生基材が含まれる)毛細管ウイック膜と電気ヒータとの接触面積を大きくするように配置することを示唆している。
そうすると、引用発明において、ヒータ104と毛細管ウィック膜400及び前記毛細管ウイック膜102との接触面積を大きくするために、ヒータ104の各横断面位置で、毛細管ウィック膜400及び毛細管ウイック膜102がヒータ104の外周全体で接触するように構成し、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

なお、仮に、引用発明の「細長いステンレス鋼製のヒータ104」が、本願補正発明の「金属ワイヤの形態」の「電気加熱要素」に相当しないとしても(上記(2)イ参照)、引用発明の「細長いステンレス鋼製のヒータ104」を金属ワイヤの形態とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

イ 上記[相違点2]について検討する。
引用発明は、ウイック構成要素が、アルミナ繊維、セルロース繊維マットなどの繊維材料で構成された毛細管ウイック膜であるが、更に、引用例1には、毛細管ウイック膜が、繊維質マット、織布マットで構成されることも記載されている(上記(1−g)参照)。
そして、これらのセルロース繊維マット、繊維質マット、織布マットなどは、多孔質電気絶縁性材料で構成されるものを含むものであるから、上記相違点2は実質的な相違点ではない。
仮に、相違点であったとしても、電子加熱式のエアロゾル発生システムにおいて、ウイック(芯)を多孔質材料で構成することは、周知の技術である(例えば、特開2015−521847号公報の段落【0117】には、芯の材料として、天然繊維、合成繊維以外に、セラミックなどの多孔性のものを用いる点が記載され、さらに段落【0130】には、加熱部ワイヤーを多孔性吸液構造内に埋め込む点も記載されている。特開2013−545474号公報の段落【0041】には、毛細管ウイックを繊維質又は多孔性構造とすることができると記載され、適切な材料としてセラミックベース又はグラファイト材料が挙げられている。)。
そして、セラミックなどの多孔質材料が電気絶縁性材料であることは明らかである。
よって、引用発明に周知の技術を適用し、ウイック構成要素を多孔質電気絶縁材料のシートで構成し、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

ウ 本願補正発明が奏する効果について
本願補正発明が奏する効果は、当業者が引用発明及び周知の技術から予測し得る程度のものであって、格別のものではない。

エ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において「引用文献1の積層配置は、ヒータとウィック材料との間の、この空間的関係および接触のタイプを生じていません。引用文献1に開示されているように、ヒータおよび膜は、図4および図5に示され、第9ページ第8行〜第14行で説明されているように、単に互いに積み重ねられた層です。・・・(途中省略)・・・また、引用文献1は、加熱器の周囲全体を完全に接触させるべきであるか、又は有用であることを示唆していません。また、引用文献1の製造技術は、このレベルの接触を排除しています。ヒータと膜を積層して積層体を作成する場合、ヒータの外周または外周全体を接触させることはできません。したがって、当業者は、本願発明1に到達するために、第1引用発明を修正するよう促されることはありません。また、本願発明1は、第1引用発明からは自明ではなく、第1引用発明に比べて蒸気発生のレベルが向上することは明らかです。」と主張する(「5)本願発明1と引用発明との対比」参照)。
しかしながら、引用例1(引用文献1)のヒータと膜を積み重ねられた層(積層体)は、加熱器の周囲全体を完全に接触させることを排除するものではなく、上記(3)アで検討したとおり、引用例1には毛細管ウイック膜と電気ヒータとの接触面積を大きくするように配置することを示唆する記載がある。
したがって、当該示唆を踏まえれば、毛細管ウイック膜が、加熱器の外周全体で接触するように構成することは当業者であれば容易になし得たことであるといえる。
よって、請求人の主張は採用できない。

(4)まとめ
以上のように、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1〜17に係る発明は、令和2年3月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜17に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2[理由]1(1)」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、次の理由を含むものである。
(1)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(2)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:国際公開第2015/165812号

3 引用例
引用例1及びその記載事項は、前記「第2[理由]3(1)」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、本願補正発明の「電気加熱要素」に関して、「金属ワイヤの形態で埋設された」こと、及び「前記ワイヤに沿って各横断面位置で、前記ウィック構成要素の材料が前記ワイヤの外周全体で前記ワイヤに接触している」ことの限定を削除するものである。
本願発明と引用発明とを対比すると、前記「第2[理由]3(2)」で検討した相違点2において相違するから、前記「第2[理由]3(3)」で検討したとおり、実質的な相違点ではないから、本願発明は、引用発明である。また、仮に相違点であったとしても、本願発明は、引用発明及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 松下 聡
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-08-20 
結審通知日 2021-08-24 
審決日 2021-09-10 
出願番号 P2018-546893
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A24F)
P 1 8・ 113- Z (A24F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 平城 俊雅
山崎 勝司
発明の名称 電子エアロゾル供給システム及び電子エアロゾル供給システムのための気化器  
代理人 野田 雅一  
代理人 酒巻 順一郎  
代理人 山田 行一  
代理人 池田 成人  

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