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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E02F |
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管理番号 | 1382077 |
総通号数 | 3 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-03-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-11-04 |
確定日 | 2022-02-03 |
事件の表示 | 特願2015−217106「ショベル」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月25日出願公開、特開2017− 89139〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年11月4日に出願された特願2015−217106号であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 平成31年 3月13日:拒絶理由通知 令和1年 5月20日:意見書、手続補正書の提出 令和1年 10月28日:拒絶理由通知 令和2年 1月 6日:意見書、手続補正書の提出 令和2年 7月22日:拒絶査定 令和2年 11月 4日:審判請求書、手続補正書の提出 令和3年 7月30日:拒絶理由通知 令和3年 10月 4日:意見書、手続補正書の提出(以下、この手続補 正書による手続補正を「本件補正」という。) 第2 本願発明 本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)は、以下のとおりである。 「【請求項1】 走行用油圧モータが配置される下部走行体と、 前記下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体と、 前記上部旋回体に取り付けられるアタッチメントと、 前記上部旋回体に設けられるキャビンと、 前記キャビン内に設けられ、前記上部旋回体を前記下部走行体に対して旋回させる操作装置と、 前記キャビン内で運転席に向かって取り付けられる表示装置と、 前記上部旋回体において、前記上部旋回体の旋回運動と共に旋回する画像取得装置と、 三次元空間における前記画像取得装置の運動を検出する運動検出装置と、を備えるショベルであって、 前記運動検出装置は、前記画像取得装置と同じ軌跡で動く位置に取り付けられるとともに、 前記画像取得装置の出力と前記運動検出装置の出力とは1本の共通の伝送媒体を用いる、 ショベル。 【請求項2】 前記画像取得装置と前記運動検出装置は共通の電源回路に接続される、 請求項1に記載のショベル。 【請求項3】 前記運動検出装置は、前記画像取得装置のカバー内に取り付けられる、 請求項1又は2に記載のショベル。 【請求項4】 前記画像取得装置と前記運動検出装置との複数の組み合わせを備える、 請求項1乃至3の何れか一項に記載のショベル。 【請求項5】 複数の前記運動検出装置が出力する情報に基づいて当該ショベルの運動を推定する、 請求項4に記載のショベル。 【請求項6】 エンドアタッチメントの先端位置を導き出す演算処理装置を備える、 請求項1乃至5の何れか一項に記載のショベル。 【請求項7】 ブーム角度センサと、 アーム角度センサと、 測位装置と、を備える、 請求項1乃至6の何れか一項に記載のショベル。」 第3 拒絶の理由 令和3年7月30日付けで当審が通知した拒絶理由(理由1)は、令和2年11月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし7に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2012−225111号公報 引用文献2:特開2007−85091号公報 引用文献3:特開2012−112108号公報 引用文献4:特開2008−130035号公報 引用文献5:特開2000−120490号公報 引用文献6:国際公開第2013/099491号 引用文献7:特開2013−113044号公報 第4 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献1 (1)引用文献1の記載事項 引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。 ア 「【0007】 非特許文献6には、アクティブ型ICタグを利用した無線式重機接近警報装置であり、非特許文献7は2台のカメラの映像を合成して、オペレータに死角部の広角映像を提供する「死角領域監視システム」と、特定の色標をつけた作業員などの存在と距離を検出し、オペレータに段階的に警報を発する「バケット周辺検知システム」と、上部旋回体の旋回作業時に周囲の作業員などが接触した場合に、タッチセンサを用いて作業機を停止させてしまう「セフティバー」とからなるシステムが記載されている。「バケット周辺検知システム」の距離の検出は予め設定された距離のところで、所定の色が検出されるか否かを要素とするものであり、カメラと目標物の距離設定による。非特許文献8は、CCTVを用いるものである。」 イ 「【0019】 本発明の建設車両周辺の作業者検出装置は、図1に示すように、建設機械の周辺の広域画像を得るため複数台並べて配置した、工事車両周辺の画像を撮影しパソコン4に送るカメラ1、工事車周辺のものまでの距離を測定し、パソコンに送るレーザー距離計2、カメラ1とレーザー距離計2の3次元姿勢を測定し、パソコンに送る3次元姿勢センサー3、データの処理、危険の判断、警告の発令、モニターへの表示を行うパソコン4とからなる。 【0020】 さらに、カメラ、レーザー距離計、3次元姿勢センサーの情報をモニターに表示する表示機5と、危険であることを光や音で周囲に通知する警報機6とを備える。表示機5は3次元空間における認識結果のモニタリングを行うもので、これにはパソコン4のモニターを利用することが可能である。 【0021】 図2に示すように、カメラ1は建設機械の周辺の広域画像(例えば撮影範囲180度もしくはそれ以上の画像)を得るものとして、複数台(図示では3台を映写向きを異ならせて、横向き台形ボックスのケーシング7に収めた。カメラ1には作業者が装着している安全ベストの色も撮影認識できる程度の画像解析精度を有するものを使用する。 【0022】 3次元姿勢センサー3としては、三軸の加速度計、三軸のジャイロ、三軸の磁力計、温度センサーとオンボード・プロセッサーを結合した機器、例えば、マイクロストレイン社(Micro Strain Inc.)の商品3DM−GX2(登録商標)などを利用することができる。 【0023】 レーザー距離計2と3次元姿勢センサー3はケーシング7の上に設置する。 【0024】 本発明の作業者検出装置はブルドーザ・油圧ショベル(バックホウ)・移動式クレーン等の建設機械である工事車両8に搭載するものであり、その設置高さ(H)を確定しておく。図4に示すように設置高さ(H)はレーザー距離計2の測定高さとなるものである。図4、図5において、αはカメラ1の撮影範囲、γは危険区域を示す。」 ウ 図2及び3 図2 「 」 図3 「 」 (2)引用文献1記載の発明 上記(1)イの段落【0024】の記載に照らして、上記(1)イにおける「建設車両」、「建設機械」及び「工事車両」は、いずれも「油圧ショベル」を意味するものといえる。 よって、上記(1)の記載を踏まえると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 引用発明1 「油圧ショベルの周辺の画像を撮影しパソコン4に送るカメラ1と、 カメラ1の3次元姿勢を測定し、パソコン4に送る3次元姿勢センサー3と、 カメラ、3次元姿勢センサーの情報をモニターに表示する表示機5とを備え、 カメラ1はケーシング7に収め、3次元姿勢センサー3はケーシング7の上に設置し、 3次元姿勢センサー3として、三軸の加速度計を利用する、 油圧ショベル。」 2 引用文献2 (1)引用文献2の記載事項 引用文献2には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0024】 本例の作業現場の安全管理装置は、図1に示すように、カメラ12、自己位置計測手段であるGPS受信機14、他の作業機械に備えられたGPS受信機及び作業員等が携帯するGPS受信機にて計測された位置情報を受信する無線送受信機15、他の作業機械又は作業員等が監視範囲内に入ったことを運転者に報知する警報音発生装置40、カメラ12にて取得された画像(カメラ画像)を表示する表示装置50及び監視コントローラ20を備えた作業機械1と、例えば管理事務所などの作業機械外に設けられ、作業機械1にて収集された監視範囲内への他の作業機械又は作業員等の侵入情報を蓄積する侵入情報管理用コンピュータ70と、作業機械1にて収集された侵入情報を当該コンピュータ70に転送する情報端末60と、作業員等90が携帯するGPS受信機91及び無線送受信機92とから構成される。無線送受信機92からは、GPS受信機91にて計測された位置情報(作業員等位置情報)と各作業員等毎に割り当てられた固有の情報(作業員等固有情報)が送信される。 【0025】 図2は油圧ショベルの外観図であり、実施形態例に係る作業機械1の一例を示している。作業機械である油圧ショベル1は、この図から明らかなように、それぞれ垂直方向に回動するブーム1a、アーム1b及びバケット1cからなる多関節型のフロント作業機1Aと、上部旋回体1d及び下部走行体1eからなる車体1Bとを有する。上部旋回体1dには、運転室1fが備えられると共に、その前部にはフロント作業機1Aを構成するブーム1aの基端が垂直方向に回動可能に支持される。ブーム1a、アーム1b、バケット1c及び下部走行体1eは、それぞれブームシリンダ3a、アームシリンダ3b、バケットシリンダ3c及び走行モータ3eの各油圧アクチュエータにより駆動される。なお、上部旋回体1dも、旋回モータと呼ばれる図示しない油圧アクチュエータにより駆動される。さらに、ブーム1a、アーム1b、バケット1c及び上部旋回体1dには、それぞれ角度検出器8a,8b,8c,8dが備えられ、各部材の回動角を検出できるようになっている。そして、前記カメラ12及びGPS受信機14は上部旋回体1dの後部に備えられ、無線送受信機15は運転室1fのルーフ上に備えられている。さらに、監視コントローラ20、警報音発生装置40及び表示装置50は運転室1f内に設置されている。図3の符号13はカメラ12の視野範囲を示しており、作業員等90が視野内にはいるように設定されている。」 イ 図2及び3 図2 「 」 図3 「 」 ウ 上記アの記載に照らして、上記イの図2及び3から、下記事項が看取される。 (ア)上部旋回体1dは、下部走行体1eに搭載されること。 (イ)下部走行体1eに、走行モータ3eが設けられること。 (ウ)カメラ12の視野範囲は、作業員等90が居る油圧ショベル周辺であること。 (2)引用文献2記載の技術事項 上記(1)の記載を踏まえると、引用文献2には、以下の技術事項(以下「引用技術事項2」という。)が記載されていると認められる。 引用技術事項2 「油圧ショベルにおいて、 カメラ12と、カメラ12にて取得された画像を表示する表示装置50とを備え、 ブーム1a、アーム1bを含む多関節型のフロント作業機1Aと、上部旋回体1d及び下部走行体1eからなる車体1Bとを有し、 上部旋回体1dには、運転室1fが備えられると共に、その前部にはフロント作業機1Aを構成するブーム1aの基端が垂直方向に回動可能に支持され、 下部走行体1eは、走行モータ3eの油圧アクチュエータにより駆動され、 上部旋回体1dは、旋回モータと呼ばれる油圧アクチュエータにより駆動され、 カメラ12は上部旋回体1dの後部に備えられ、 表示装置50は運転室1f内に設置され、 上部旋回体1dは、下部走行体1eに搭載され、 下部走行体1eに、走行モータ3eが設けられ、 カメラ12の視野範囲は、作業員等90が居る油圧ショベル周辺である点。」 3 引用文献3 (1)引用文献3の記載事項 引用文献3には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0020】 以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。まず、図1に作業機械の一例としての油圧ショベルPSの構成を示す。図中において、1はクローラ式走行体からなる下部走行体であって、下部走行体1には旋回装置2を介して上部旋回体3が設けられている。 【0021】 上部旋回体3には、オペレータが搭乗して機械を操作するための運転室4が設置されており、また土砂の掘削等の作業を行う作業手段5が設けられている。作業手段5は運転室4の右手において、ほぼ並ぶような位置に設けられている。さらに、上部旋回体3には、運転室4及び作業手段5の後方位置に建屋6等が設けられており、最後端部にはカウンタウエイト7が設置されている。 【0022】 作業手段5は、ブーム10,アーム11及びフロントアタッチメントとしてのバケット12から構成される土砂の掘削作業手段である。ブーム10は、その基端部が上部旋回体3のフレーム3aに連結ピンにより軸支されて俯仰動作可能となっている。ブーム10の先端にはアーム11が上下方向に回動可能に連結されており、さらにアーム11の先端にはバケット12が回動可能に連結されている。ブーム10の俯仰動作はブームシリンダ10aを駆動することにより行われる。アーム11はアームシリンダ11aにより、さらにバケット12はバケットシリンダ12aにより駆動される。 【0023】 以上の構成を有する油圧ショベルにおいて、この油圧ショベルの操作者であるオペレータは運転室4内で、前方を向いた状態で操作を行うものであって、上部旋回体3の前方には十分広い視野が確保されている。また、運転室4の左側における斜め前方の視野も確保されている。ただし、左側であっても、斜め後方については、オペレータは振り返るようにしなければ直接視認をすることができない。また、運転室4の右側においては、作業手段5が設置されており、視野のかなりの部分がブーム10により妨げられることになり、実質的に肉眼による確認を行うことができない。さらに、上部旋回体3の後方については、建屋6及びカウンタウエイト7が位置しており、オペレータは運転室4の内部で振り返るようにしなければ視野が得られず、しかも建屋6及びカウンタウエイト7の上面は高い位置となっており、従ってオペレータは運転室4内で振り返る姿勢を取ったとしても、視野が得られるのは遠い位置であり、上部旋回体3に近い位置を視認することはできない。 【0024】 以上のことから、上部旋回体3の後方及び左右の側方の監視を可能にするために、カメラ13B,13R,13Lをそれぞれ設置して補助的に視野を確保するようにしている。即ち、カウンタウエイト7の上面において、その左右のほぼ中間位置に後方カメラ13Bが設置されている。また、建屋6の左方向の上面には左側カメラ13Lが、さらに上部旋回体3の右側の位置には、建屋6またはタンクの上面には右側カメラ13Rが設けられている。ここで、後方カメラ13Bは上部旋回体3の後方の広い範囲の画像を取得するようになっており、この後方カメラ13Bと、左右の両側カメラ13R,13Lとによって、上部旋回体3の運転室4内で、オペレータが無理のない姿勢で得られる前方視野を除くほぼ全周にわたって視野が得られることになる。これら各カメラ13B,13R,13Lのレンズの視野角と、それらの配設位置とによって、少なくとも各レンズの水平視野角はその一部がオーバーラップするように設定している。その結果、上部旋回体3の周囲において、ブラインドとなる箇所がなくなる。 【0025】 運転室4内には、図3に示したように、画像表示手段としてのモニタ20が設置されており、前述した各カメラ13B,13R,13Lから取得した画像がこのモニタ20に動画状態にして表示されるようになっている。ここで、これらのカメラ画像はそのまま表示されるのではなく、上方視点となるように視点変換される。」 イ 「【0033】 画像処理装置30には車体コントローラ40が接続されている。油圧ショベルの運転室4内には、操作手段として、操作レバーや操作ペダル、さらにはスイッチ等が設けられており、走行,旋回及び作業手段5の駆動は操作レバーにより動作制御がなされ、走行は操作レバーにより、また操作ペダルにより動作制御がなされる。図4には、これら操作レバー(及び操作ペダル)を総称して、操作手段41とする。そして、運転席の左右に設けられる操作手段41により駆動制御がなされるのは、旋回装置2による上部旋回体3の旋回、ブーム10,アーム11及びバケット12の作動であり、旋回駆動は旋回モータによるものであり、ブーム10,アーム11及びバケット12はそれぞれ油圧シリンダからなるブームシリンダ10a,アームシリンダ11a及びバケットシリンダ12aにより駆動されるものである。また、左右の走行駆動は運転席の前方に設けた操作レバーにより制御されるものであり、駆動は油圧モータで行われるが、走行用の油圧モータは操作ペダルでも制御されるようになっている。従って、油圧モータ及び油圧シリンダは油圧アクチュエータであって、油圧アクチュエータは図4の符号42で総称する。」 ウ 図1 図1 「 」 (2)引用文献3記載の技術事項 上記(1)の記載を踏まえると、引用文献3には、以下の技術事項(以下「引用技術事項3」という。)が記載されていると認められる。 引用技術事項3 「油圧ショベルにおいて、 下部走行体1に旋回装置2を介して上部旋回体3が設けられ、 上部旋回体3には、運転室4が設置されるとともに作業手段5が設けられ、 上部旋回体3には、建屋6等が設けられており、最後端部にはカウンタウエイト7が設置され、 上部旋回体3の後方及び左右の側方の監視を可能にするために、後方カメラ13B、左側カメラ13L、右側カメラ13Rをそれぞれ設置して補助的に視野を確保し、 カウンタウエイト7の上面において、後方カメラ13Bが設置され、建屋6の左方向の上面には左側カメラ13Lが、さらに上部旋回体3の右側の位置には、建屋6の上面に右側カメラ13Rが設けられ、 運転室4内には、画像表示手段としてのモニタ20が設置されており、 後方カメラ13B、左側カメラ13L及び右側カメラ13Rから取得した画像がモニタ20に動画状態にして表示されるようになっており、 油圧ショベルの運転室4内には、操作手段41が設けられており、 操作手段41により、旋回装置2による上部旋回体3の旋回の駆動制御がなされ、 左右の走行駆動は走行用の油圧モータで行われる点。」 4 引用文献4 (1)引用文献4の記載事項 引用文献4には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0042】 図4は、本発明の第2実施形態に係る制御系の構成を示す図である。本実施形態の制御系10bでは、インターポレータ100からの速度V及び位置Pは、マルチプレクサー44によって一つの回線を介して制御部31に送出され、デマルチプレクサー46によって再び速度情報及び位置情報に分けられる。 【0043】 本実施形態においては、モータ20の位置情報と速度情報とを単一の回線を介して制御部31に出力するため、回線の数を少なくすることができる。」 (2)引用文献4記載の技術事項 上記(1)アの制御系においては、位置情報や速度情報を回線を介して出力していると認められるので、引用文献4には、通信制御に係る技術が記載されているといえる。 よって、上記(1)の記載を踏まえると、引用文献4には、以下の技術事項(以下「引用技術事項4」という。)が記載されていると認められる。 引用技術事項4 「通信制御において、 モータ20の位置情報と速度情報とをマルチプレクサー44によって単一の回線を介して制御部31に出力するため、回線の数を少なくすることができる点。」 第5 対比・判断 1 請求項1について (1)対比 本願発明1と引用発明1を対比する。 ア 引用発明1の「表示機5」、「カメラ1」、「油圧ショベル」は、それぞれ本願発明1の「表示装置」、「画像取得装置」、「ショベル」に相当する。 また、引用発明1の「カメラ1の3次元姿勢を測定し、パソコン4に送る3次元姿勢センサー3」は、「三軸の加速度計を利用する」ものであって、カメラ1の三軸方向における加速度を経時的に測定するものであることは明らかであるから、本願発明1の「三次元空間における前記画像取得装置の運動を検出する運動検出装置」に相当する。 イ 技術常識に照らして、引用発明1の「油圧ショベル」が走行等の動作を行うことは明らかである。そして、引用発明1において「カメラ1はケーシング7に収め、3次元姿勢センサー3はケーシング7の上に設置し」ていることから、「カメラ1」と「3次元姿勢センサー3」とはともに「ケーシング7」に固定されるものであって、油圧ショベルの当該動作に伴い同じ軌跡で動くものといえる。 よって、引用発明1の「油圧ショベル」において「カメラ1はケーシング7に収め、3次元姿勢センサー3はケーシング7の上に設置し」ていることは、本願発明1の「前記運動検出装置は、前記画像取得装置と同じ軌跡で動く位置に取り付けられる」ことに相当する。 ウ 引用発明1の「カメラ1」が「油圧ショベルの周辺の画像を撮影しパソコン4に送る」こと及び「3次元姿勢センサー3」が「カメラ1の3次元姿勢を測定し」「パソコン4に送る」ことについて、「パソコン4に送る」ことは本願発明1の「出力」に相当し、また、当該パソコン4に送る(出力)にあたり、何らかの伝送媒体を用いていることは明らかである。 この点を踏まえると、引用発明1の「カメラ1」が「油圧ショベルの周辺の画像を撮影しパソコン4に送る」こと及び「3次元姿勢センサー3」が「カメラ1の3次元姿勢を測定し」「パソコン4に送る」ことと、本願発明1の「前記画像取得装置の出力と前記運動検出装置の出力とは1本の共通の伝送媒体を用いる」こととは、「画像取得装置の出力と運動検出装置の出力とは伝送媒体を用いる」点で共通する。 エ 以上のことから、本願発明1と引用発明1は、次の一致点で一致し、相違点1ないし4で相違する。 (一致点) 「表示装置と、 画像取得装置と、 三次元空間における前記画像取得装置の運動を検出する運動検出装置と、を備えるショベルであって、 前記運動検出装置は、前記画像取得装置と同じ軌跡で動く位置に取り付けられるとともに、 前記画像取得装置の出力と前記運動検出装置の出力とは伝送媒体を用いる、 ショベル。」 (相違点1) ショベルについて、本願発明1では「走行用油圧モータが配置される下部走行体と、前記下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体と、前記上部旋回体に取り付けられるアタッチメントと、前記上部旋回体に設けられるキャビンと、前記キャビン内に設けられ、前記上部旋回体を前記下部走行体に対して旋回させる操作装置」を備えることが特定されているのに対し、引用発明1では、そのように特定されていない点。 (相違点2) 表示装置について、本願発明1では「前記キャビン内で運転席に向かって取り付けられる」ことが特定されているのに対し、引用発明1では、そのように特定されていない点。 (相違点3) 画像取得装置について、本願発明1では「前記上部旋回体において、前記上部旋回体の旋回運動と共に旋回する」ことが特定されているのに対し、引用発明1では、そのように特定されていない点。 (相違点4) 画像取得装置の出力と運動検出装置の出力とに用いる伝送媒体について、本願発明1では、伝送媒体が「1本の共通の」ものであることが特定されているのに対し、引用発明1では、そのように特定されていない点。 (2)判断 ア 相違点1について検討する。 (ア)引用技術事項2の「油圧アクチュエータによ」る「走行モータ3eが設けられ」る「下部走行体1e」、「下部走行体1eに搭載され」て「旋回モータと呼ばれる油圧アクチュエータにより駆動され」る「上部旋回体1d」、「上部旋回体1d」「の前部にはフロント作業機1Aを構成するブーム1aの基端が垂直方向に回動可能に支持され」る「フロント作業機1A」、「上部旋回体1dに」「備えられる」「運転室1f」は、それぞれ本願発明1の「走行用油圧モータが配置される下部走行体」、「前記下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体」、「前記上部旋回体に取り付けられるアタッチメント」、「前記上部旋回体に設けられるキャビン」に相当する。 (イ)引用技術事項3の「下部走行体1」、「下部走行体1に旋回装置2を介して」「設けられ」る「上部旋回体3」、「上部旋回体3に」「設けられ」る「作業手段5」、「上部旋回体3に」「設置される」「運転室4」、「油圧ショベルの運転室4内に」「設けられており」「旋回装置2による上部旋回体3の旋回の駆動制御がなされ」る「操作手段41」は、それぞれ本願発明1の「下部走行体」、「前記下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体」、「前記上部旋回体に取り付けられるアタッチメント」、「前記上部旋回体に設けられるキャビン」、「前記キャビン内に設けられ前記上部旋回体を前記下部走行体に対して旋回させる操作装置」に相当する。 また、引用技術事項3の「下部走行体1」について、技術常識に照らして、引用技術事項3の「走行用の油圧モータ」は、「左右の走行駆動」を行う以上、走行体である「下部走行体1」に配置されることは明らかであって、このことは本願発明1の「下部走行体」に「走行用油圧モータが配置される」ことに相当する。 (ウ)そして、例えば上記(ア)及び(イ)にも示されるように、技術常識に照らして、油圧ショベルにおいては、走行用油圧モータが配置される下部走行体、下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体、上部旋回体に取り付けられるアタッチメント、上部旋回体に設けられるキャビン、及び、キャビン内に設けられ上部旋回体を下部走行体に対して旋回させる操作装置が配置されるものがごく一般的であって、引用発明1の油圧ショベルがこれと異なる構成を有すると解すべき事情もないから、引用発明1の油圧ショベルも、上記の構成を有すると解するのが自然である。 そうすると、相違点1は、実質的な相違点ではない。 イ 相違点2について検討する。 (ア)引用技術事項2の「カメラ12にて取得された画像を表示する表示装置50」が「運転室1f内に設置され」ること、及び、引用技術事項3の「後方カメラ13B、左側カメラ13L及び右側カメラ13Rから取得した画像が」「動画状態にして表示される」「モニタ20」が「運転室4内に」「設置され」ることに照らして、油圧ショベルの技術分野において、カメラにて取得した画像を表示する表示装置をキャビン内に取り付けることは、本願出願前に周知の技術である(以下「周知技術1」という。)。 (イ)引用発明1と周知技術1とは、いずれも油圧ショベルに設ける表示装置に関するものであり、属する技術分野が共通する。また、引用発明1の表示機5と、周知技術1の表示装置は、カメラにて取得した情報を表示する点で、機能及び効果も共通するものである。 したがって、引用発明1の表示機5について、周知技術1を適用して、表示機5をキャビン内に取り付ける構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 また、技術常識に照らして、キャビン内に取り付ける表示装置は、キャビン内に居る運転者によって通常視認されるものであって、運転席から視認可能な向きに配されることは明らかであるから、表示機5をキャビン内に取り付ける際には、当然、表示機5は運転席に向かって取り付けられるものといえる。 (ウ)したがって、引用発明1に周知技術1を適用して、本願発明1の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 ウ 相違点3について検討する。 (ア)引用技術事項2の「視野範囲は、作業員等90が居る油圧ショベル周辺である」「カメラ12」が「上部旋回体1dの後部に備えられ」ること、及び、引用技術事項3の「上部旋回体3の後方及び左右の側方の監視を可能にするため」の「後方カメラ13B、左側カメラ13L、右側カメラ13R」が「上部旋回体3」に設けられる「建屋6」及び「カウンタウエイト7」の上面に設置されることに照らして、油圧ショベルの技術分野において、油圧ショベル周辺を撮影するカメラを配設する位置を上部旋回体とすることは、本願出願前に周知の技術である(以下「周知技術2」という。)。 (イ)引用発明1と周知技術2とは、いずれも油圧ショベルに設けるカメラに関するものであり、属する技術分野が共通する。また、引用発明1のカメラ1と、周知技術2のカメラは、油圧ショベルの周辺を撮影する点で、機能及び効果も共通するものである。 そして、上記アに示すとおりごく一般的な構成である下部走行体及び上部旋回体を有した油圧ショベルにおいて、引用文献1には従来技術について上部旋回体への作業員の接触に関して示唆されていること(上記第4の1(1)アを参照。)、及び、当該油圧ショベルの構造上、あるいはカメラによる機体周辺の俯瞰監視という自明の目的に照らすと、当該カメラが、地面に近い下部走行体や作業時の動きが激しいアタッチメントは除かれて上部旋回体に設けられることは明らかであることから、引用発明1のカメラ1について周知技術2を適用して、上部旋回体に配設する態様とすることは、当業者が容易になし得たことである。 また、上記のように適用すると、引用発明1のカメラ1が上部旋回体の旋回運動と共に旋回することは明らかである。 (ウ)したがって、引用発明1に周知技術2を適用して、本願発明1の相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 エ 相違点4について検討する。 (ア)引用技術事項4に照らして、通信制御の技術分野において、装置による2つの出力情報をマルチプレクサーによって単一の回線を介して出力し、回線の数を少なくすることは、本願出願前に周知の技術である(以下「周知技術3」という。)。 (イ)周知技術3は、マルチプレクサーによって電気信号の単一回線化を図るものであって、通信制御において一般的な技術である。 また、上記(1)イのとおり、引用発明1のカメラ1と3次元姿勢センサー3とはともにケーシング7に固定されるものであって、上記(1)ウのとおり、同じパソコン4に対して伝送媒体を用いて出力するものであるから、同じ位置にある出力元から同じ出力先へ2つの出力を行う当該伝送媒体について好適化を図る通信一般の課題が内在しているといえる。 加えて、引用発明1のカメラ1の出力と3次元姿勢センサー3の出力とは電気信号であることは明らかであって、ともに電気信号である両者の出力に際して上記周知技術3を適用することを阻害する要因は認められない。 よって、引用発明1のカメラ1及び3次元姿勢センサー3がそれぞれ撮影及び測定しパソコン4に送ることについて、回線数を減らすことを目的として周知技術3を適用して、2つの出力情報をマルチプレクサーによって単一の回線を介して出力する構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 そして、上記のように引用発明1に周知技術3を適用すると、引用発明1のカメラ1及び3次元姿勢センサー3による2つの出力情報を単一の回線にてパソコン4に送ることとなるから、相違点4に係る本願発明1の伝送媒体が「1本の共通の」ものである構成を具備することとなる。 (ウ)したがって、引用発明1に周知技術3を適用して、本願発明1の相違点4に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 (3)小括 以上検討したように、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び周知技術1ないし3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2 請求人の主張について (1)請求人は、令和3年10月4日付け意見書の[3](3−1)において、特定の米国公報(米国特許出願公開第2008/0133128号、米国特許第7516563号)を挙げて、旋回機構や上部旋回体が存在しないショベルもあることを考慮すると、相違点1を実質的な相違点ではないとする論理付けは明らかな誤りである旨、主張している。 しかしながら、上記1(2)アにおいて検討したとおり、上記1(1)エの相違点1に係る本願発明1の構成は、引用技術事項2及び3にも示されるような技術常識に照らして、当業者にとって、引用発明1の「油圧ショベル」に対して自然に想起される構成であって、旋回機構や上部旋回体が存在せずショベル機能を有する特定の作業機の事例があるからといって、引用発明1の油圧ショベルもそうであると解すべき事情はない。 また、仮に、上記主張する旋回機構や上部旋回体について実質的な相違点ではないとまではいえないとしても、ショベルに旋回機構や上部旋回体を設けることは、引用技術事項2及び3に照らしてごく一般的な慣用技術であって、当該慣用技術を、引用発明1の油圧ショベルに、上記1(2)イ及びウの周知技術1及び2と合わせて適用することは、当業者が容易になし得たことである。 (2)請求人は、同意見書の[3](3−2)において、引用文献4には、画像データと検出値とを共通の伝送媒体を用いて送信することは記載されておらず、本願発明1の「前記画像取得装置の出力と前記運動検出装置の出力とは1本の共通の伝送媒体を用いる」ことまでをも周知技術であると認定することはできない旨、主張している。 しかしながら、上記1(1)ウで検討したとおり、本願発明1と引用発明1とは、画像取得装置の出力と運動検出装置の出力とは伝送媒体を用いる点で共通する。そして、上記1(2)エ(ア)の周知技術3は、マルチプレクサーによる電気信号の単一回線化に係る技術であって、ともに電気信号である画像取得装置の出力と運動検出装置の出力とに用いる伝送媒体に適用することは、当業者にとって容易になし得たことである。 (3)よって、請求人の上記主張はいずれも採用できない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2021-11-22 |
結審通知日 | 2021-11-24 |
審決日 | 2021-12-09 |
出願番号 | P2015-217106 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(E02F)
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最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
森次 顕 |
特許庁審判官 |
住田 秀弘 田中 洋行 |
発明の名称 | ショベル |
代理人 | 伊東 忠彦 |
代理人 | 伊東 忠重 |