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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1382190
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-02-19 
確定日 2022-02-03 
事件の表示 特願2016−219252「静電荷像現像用トナー」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月17日出願公開、特開2018− 77359〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2016−219252号(以下「本件出願」という。)は、平成28年11月9日を出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和2年 7月29日付け:拒絶理由通知書
令和2年10月 2日提出:手続補正書
令和2年10月 2日提出:意見書
令和2年11月19日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和3年 2月19日提出:審判請求書
令和3年 7月30日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由」という。)
令和3年 9月29日提出:意見書

2 本願発明
本件出願の請求項1〜請求項10に係る発明は、令和2年10月2日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1〜請求項10に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のものである(以下「本願発明」という。)。

「 結着樹脂および平均粒子径130〜600nmの酸化チタンを含有する白色トナー母体粒子と、
平均粒子径500〜2000nmのチタン酸ストロンチウムを含む外添剤と、
を含有する、静電荷像現像用トナー。」

3 当合議体の拒絶の理由の概要
令和3年7月30日付け拒絶理由通知書において通知した、当合議体の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
進歩性)本件出願の請求項1〜10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて利用可能となった発明が記載された以下の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2005−99295号公報
引用文献4:特開2007−33719号公報
引用文献5:特開2012−154957号公報
引用文献6:特開2007−248913号公報
引用文献7:特開2016−38589号公報
引用文献8:特許第4273392号公報
引用文献9:特開2014−153649号公報
(当合議体注:主引用例は、引用文献1である。)


第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
当審拒絶理由で引用された、引用文献1(特開2005−99295号公報)は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す(以下、同様である。)。

ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触加熱定着装置を用いトナーを記録媒体に定着させる画像形成装置に使用する非接触定着用白トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やプリンター等の画像形成装置において、記録媒体上に供給されたトナーを記録媒体に定着させる場合、従来より様々な定着装置が用いられており、その1種として、オーブン定着装置やフラッシュ定着装置等の非接触加熱定着装置が用いられていた。非接触加熱定着装置は、記録媒体上に供給されたトナーに熱や赤外線を照射し、これによりトナーを加熱して記録媒体に定着させている。
【0003】
ここで、黒トナーの場合、トナー粒子中には熱や赤外線の吸収性が高いカーボンブラック等が含有されており、上記のような非接触加熱装置によりトナーを記録媒体に十分定着させることができる。また、黒トナー以外のカラートナーの場合、熱や赤外線の吸収性が十分でないため、赤外線吸収剤を添加して、記録媒体に対する定着性を高めている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−156779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、白トナーは、有彩色の下地に白トナーを用いて白色の画像形成をしたり、記録媒体の白色度を高めるために白トナーを用いて白色の画像形成をするために使用されている。しかしながら、非接触加熱定着をするため、白トナーに赤外線吸収剤を添加すると、赤外線吸収剤の色により白トナーが彩色を帯びてしまい、無彩色化できないという問題があった。特に赤外線吸収剤は緑色系ものが多く、緑色は目の分光感度がもっとも高い波長域である。そのため、わずかに彩色を帯びても著しく不快なものとなる。
【0005】
そこで、本発明は、赤外線吸収剤を添加しても彩色を帯びることのない非接触加熱定着用白トナーを提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明人らは、赤外線吸収剤の反射スペクトルと補色関係にある反射スペクトルを有する色材を白トナーに添加することにより白トナーを無彩色化することができることを見出して本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明の非接触加熱定着用白トナーは、非接触加熱装置によりトナーを記録媒体上に定着させる画像形成装置に使用される非接触定着用白トナーであって、該白トナーは、少なくとも、白色系着色剤と、該着色剤を保持する結着樹脂と、上記非接触加熱装置からの赤外線を吸収する赤外線吸収剤と、該赤外線吸収剤と補色関係にある無彩色化剤とを含み、L*a*b*表色系におけるL*値が85以上、かつ(a2+b2)1/2で規定されるc*値が10以下であることを特徴とする。
・・・中略・・・
【0009】
また、本発明の白トナーは、マーク生地に好適に用いることができる。衣類のゼッケンやロゴに用いられるマーク生地は、光沢を得るため、表面に平面性のよい部分を有している。この平面性は、電子写真などで生地上に印字する場合、現像・転写での画像の乱れがなく好ましいものである。しかし、定着性に関しては生地の表面が平滑であるため、熱ロール定着装置ではトナーがくっつきやすく、定着不良が生じやすい。また、熱ロール間にマーク生地を通すと熱溶着接着層を過度に加熱してしまい保護シートが剥がれる場合がある。そのため、生産性向上のためには、非接触加熱定着装置を用いる必要があるからである。」

イ 「【発明の効果】
【0011】
本発明の非接触加熱定着用白トナーは、赤外線吸収剤と補色関係にある無彩色化剤とを含んでいるので、無彩色で、定着性に優れ、そして高画質の白トナーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
本実施の形態に係る白トナーは、少なくとも、白色系着色剤と、その着色剤を保持する結着樹脂と、非接触加熱装置からの赤外線を吸収する赤外線吸収剤と、その赤外線吸収剤と補色関係にある無彩色化剤とから構成される。
【0014】
本実施の形態の白トナーに使用する白色系着色剤としては、二酸化チタン、亜鉛華、鉛白、硫酸鉛、リトポン、硫化亜鉛、酸化アンチモン、鉛亜鉛華、塩基性硫酸塩、ケイ酸鉛、酸化ジルコン、メタ硼酸バリウム、パッチンソン白、マンガン白、酸化錫、タングステン白、鉛酸カルシウム、あるいはそれらの混合物から成る白色顔料を用いることができるが、特に二酸化チタンが好ましい。
【0015】
ここで、二酸化チタンとしては、硫酸法、塩酸法、気相法等いずれの方法により製造されたものでも良く、結晶形はアナターゼ型、ルチル型、あるいはブルカイト型いずれの結晶形のものでも使用可能である。白色顔料としては、粒径が0.05μm〜0.5μm、好ましくは0.1μm〜0.4μmのものを使用する。粒径が0.05μmより小さいと十分な隠蔽力が得られない。また0.5μmより大きいと、結着樹脂との結着性に劣るため、トナー飛散およびそれに伴うトナーかぶりが発生するからである。
【0016】
また、本実施の形態の白トナーには、従来公知の結着樹脂、例えば、スチレンーアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂を用いることができる。」

ウ 「【0027】
本実施の形態の白トナーの製造には、従来の混練−粉砕法や湿式造粒法を用いることができる。
混練−粉砕法の場合、例えば以下の方法により白トナーを製造することができる。
A:白色顔料と結着樹脂とからトナーを造粒する際に、赤外線吸収剤と無彩色化剤とを内添する。
B:白色顔料と結着樹脂とからトナーを造粒した後、表面改質装置を用いて赤外線吸収剤や無彩色化剤をトナー粒子表面に固着させるようにして外添する。
なお、必ずしも赤外線吸収剤と無彩色化剤を一緒に添加する必要はなく、一方を内添し、他方を外添するというように別々に添加することも可能である。」

エ 「【実施例】
【0040】
実施例1
《白トナーの調製》
(結着樹脂の調製)
結着剤には、下記のようにして得たポリエステル系樹脂を用いた。
ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと、ポリオキシエチレン(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと、テレフタル酸とを、モル比が3:7:9の割合になるようにして、これらを重合開始剤のジブチル錫オキシドと一緒に、湿度計とステンレス製の攪拌棒と流下式コンデンサーと窒素導入管とを取り付けたガラス製の4つ口フラスコ内に入れた。
次いで、この4つ口フラスコをマントルヒーター中にセットし、上記の窒素導入管からこのフラスコ内に窒素を導入しながら、加熱撹拌させて反応させ、この反応中において酸価を測定しながら反応状態を追跡し、所定の酸価に達した時点でそれぞれ反応を終了し、これを冷却してポリエステル系樹脂を得た。
【0041】
このようにして得たポリエステル系樹脂の物性は、数平均分子量(Mn)が3300、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が4.2、ガラス転移温度(Tg)が68.5℃、軟化点(Tm)が110.3℃、酸価が3.3KOHmg/g及び水酸価28.1KOHmg/gであった。
【0042】
ここで、ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(セイコー電子社製:DSC−200)を用い、リファレンスにアルミナを使用し、10mgの試料を昇温速度10℃/minの条件で20〜120℃の間で測定し、メインの吸熱ピークのショルダー値をガラス転移点とした。
【0043】
また、軟化点(Tm)については、フローテスター(島津製作所社製:CFT−500)を用い、細孔の直径が1mm,長さが1mmのダイスを使用し、圧力20kg/cm2、昇温速度6℃/minの条件下で1cm2の試料を溶融流出させたときの流出開始点から流出終了点の高さの1/2に相当する温度を軟化点とした。
【0044】
また、酸価については、10mgの試料をトルエン50mlに溶解し、0.1%のプロムチモールブルーとフェノールレッドの混合指示薬を用いて、予め評定されたN/10水酸化カリウム/アルコール溶液の消費量から算出した。また、水酸価については、秤量された試料を無水酢酸で処理し、得られたアセチル化合物を加水分解し、遊離する酢酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのmgで示した。
【0045】
(トナーの造粒)
合成したポリエステル系樹脂を粒径が1mm以下になるように粗粉砕した。次いで、このポリエステル系樹脂と、二酸化チタンを7:3の重量比になるようにして加圧ニーダーに仕込み、120℃で1時間混練した後、これを冷却し、その後、ハンマーミルで粗粉砕して、白色着色剤の含有率が30wt%になった顔料マスターバッチを得た。
【0046】
次いで、上記のポリエステル系樹脂100重量部に対して二酸化チタンが7重量部の割合になるようにして、上記のポリエステル系樹脂と顔料マスターバッチとをヘンシェルミキサーに入れ、これらをヘンシェルミキサーにより周速40m/secで180秒間かけて十分に混合した。
【0047】
次いで、この混合物を2軸押し出し混練機(池貝鉄工社製:PCM−30)により溶融混練し、この混練物をプレスローラで2mmの厚みに圧延し、冷却ベルトにより冷却した後、これをフェザーミルにより粗粉砕した。その後、これを機械式粉砕機(川崎重工業社製:KTM)によって粉砕し、さらにジェット粉砕機(日本ニューマチック工業社製:IDS)で粉砕した後、ロータ型分級機(ホソカワミクロン社製:ティープレックス型分級機100ATP)を使用して分級し、白トナー粒子W0を得た。
【0048】
(表面改質)
次いで、この白トナー粒子W0100重量部に対して、赤外線吸収剤としてアミニウム系化合物を0.25重量部とシアニン系化合物を0.25重量部、疎水性シリカ(ワッカー社製:H2000)を0.5重量部の割合にして、これらをヘンシェルミキサーにより周速40m/secで60秒間混合した後、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所社製:NHS−0型)により16400rpmで3分間処理し、上記のトナー粒子の表面に赤外線吸収剤を固定化処理した。
【0049】
(外添剤の添加)
次いで、このように赤外線吸収剤を固定化処理したトナー粒子W0100重量部に対して、疎水性シリカ(ワッカー社製:H2000)を0.2重量部、酸化チタン(チタン工業社製:STT30A)を0.5重量部、平均粒径が0.2μmのチタン酸ストロンチウムを1.0重量部の割合で添加し、これらをヘンシェルミキサーにより周速40m/secで60秒間混合処理した後、目開き90μmの篩でふるい、白トナーW1を得た。
【0050】
次いで、赤外線吸収剤の添加量を変化させた白トナーを調製した。具体的には、トナー粒子の表面に赤外線吸収剤をハイブリダイゼーションシステムによって固定化処理するにあたり、トナー粒子100重量部に対して添加させる赤外線吸収剤の量だけを変更し、以下の表1に示す白トナーを調製した。なお、いずれの白トナーにおいても、赤外線吸収剤としてアミニウム系化合物とシアニン系化合物を等量混合したものを用いた。
【0051】
【表1】



(2)引用発明1
引用文献1の【0040】には、白トナーの結着樹脂として、ポリエステル系樹脂を用いることが記載されている。また、同文献の【0049】には、「チタン酸ストロンチウム」等を白トナーの外添剤として用いることが記載されている。
また、引用文献1の【0009】等の記載から、引用文献1に記載される実施例1で調整される「白トナー」は、電子写真の用途で用いられることが想定されていることは明らかである。
そうすると、引用文献1には、実施例1で調整されるトナーとして、次の「白トナーW1」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「 電子写真に用いられる白トナーであって、
結着樹脂として、ポリエステル系樹脂を用い、
合成したポリエステル系樹脂を粒径が1mm以下になるように粗粉砕し、次いで、このポリエステル系樹脂と、二酸化チタンを7:3の重量比になるようにして加圧ニーダーに仕込み、120℃で1時間混練した後、これを冷却し、その後、ハンマーミルで粗粉砕して、白色着色剤の含有率が30wt%になった顔料マスターバッチを得、 次いで、上記のポリエステル系樹脂100重量部に対して二酸化チタンが7重量部の割合になるようにして、上記のポリエステル系樹脂と顔料マスターバッチとをヘンシェルミキサーに入れ、これらをヘンシェルミキサーにより周速40m/secで180秒間かけて十分に混合し、
次いで、この混合物を2軸押し出し混練機(池貝鉄工社製:PCM−30)により溶融混練し、この混練物をプレスローラで2mmの厚みに圧延し、冷却ベルトにより冷却した後、これをフェザーミルにより粗粉砕し、その後、これを機械式粉砕機(川崎重工業社製:KTM)によって粉砕し、さらにジェット粉砕機(日本ニューマチック工業社製:IDS)で粉砕した後、ロータ型分級機(ホソカワミクロン社製:ティープレックス型分級機100ATP)を使用して分級し、白トナー粒子W0を得て、
次いで、この白トナー粒子W0100重量部に対して、赤外線吸収剤としてアミニウム系化合物を0.25重量部とシアニン系化合物を0.25重量部、疎水性シリカ(ワッカー社製:H2000)を0.5重量部の割合にして、これらをヘンシェルミキサーにより周速40m/secで60秒間混合した後、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所社製:NHS−0型)により16400rpmで3分間処理し、上記のトナー粒子の表面に赤外線吸収剤を固定化処理し、
次いで、このように赤外線吸収剤を固定化処理したトナー粒子W0100重量部に対して、外添剤として、疎水性シリカ(ワッカー社製:H2000)を0.2重量部、酸化チタン(チタン工業社製:STT30A)を0.5重量部、平均粒径が0.2μmのチタン酸ストロンチウムを1.0重量部の割合で添加し、これらをヘンシェルミキサーにより周速40m/secで60秒間混合処理した後、目開き90μmの篩でふるい、得られた白トナーW1。」

(3)引用文献7の記載
当審拒絶理由で引用された、引用文献7(特開2016−38589号公報)は、本件出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された引用文献であるところ、そこには以下の記載がある。

「【0035】
加えて本発明においては複合微粒子に加え、チタン酸ストロンチウムを併用することが、トナー粒子間の付着力を増大させ、充填性を向上する点で好ましい。
【0036】
特に、トナー母粒子が負帯電性である場合、トナー母粒子に対して逆極性に帯電して、トナー粒子間の付着力を静電気的に高める働きをするためである。
【0037】
チタン酸ストロンチウムの代わりに酸化チタンやメラミン樹脂など正帯電を有する外添剤用いることも可能であるが、粒径の制御が容易であり、よりトナー粒子間の付着力への寄与が大きく充填性に効果のあるチタン酸ストロンチウムが好ましい。チタン酸ストロンチウム一次粒子の個数平均粒径(D1)は500nm以上2μm以下が好ましい。」

(4)引用文献8の記載
当審拒絶理由で引用された、引用文献8(特許第4273392号公報)は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載がある。

ア 「【0002】
【先行技術及び課題】
良く知られているように、二酸化チタンは隠蔽力が大きく、化学的に安定で、堅牢性が高い白色顔料として、塗料、印刷インク、プラスチック、紙、ゴムなどに大量に使用されている。顔料グレードの二酸化チタンの平均粒子径は一般に0.2〜0.4μmの範囲にあるが、微粒子二酸化チタンとして知られている平均粒子径0.1μm以下(100nm以下)の二酸化チタンは可視光域の光線は透過させるが、散乱により紫外線の透過を選択的に阻止する性質を持っている。これを利用して微粒子二酸化チタンは、日焼け止め用化粧品や、紫外線による物質の劣化を防止する目的で塗料、プラスチック、印刷インクなどに配合される。
【0003】
紫外線の散乱を原理とする紫外線遮蔽剤に対し、紫外線を吸収し、熱エネルギーに転換して分散することを原理とする紫外線吸収剤が知られている。紫外線吸収剤も同様に日焼け止め、あるいは物質の光劣化の防止を目的として紫外線遮蔽剤と同じ用途に使用されている。典型的な紫外線吸収剤はベンゾフェノン系、ケイ皮酸系、p−アミノ安息香酸系、サリチル酸系などの光に対して安定な有機化合物であるが、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどのようなペロブスカイト構造を取る複酸化物も紫外線吸収剤として有用であると報告されている。特開平8−43477参照。
【0004】
前記のように、微粒子二酸化チタンは、紫外線の選択的散乱を原理とする紫外線遮蔽剤であるが、紫外線に対する遮蔽率(散乱率)は十分に高いものの、可視光に対する透過率が十分に高くない欠点が見られる。また二酸化チタンは光触媒作用が強く、特に比表面積の大きい微粒子二酸化チタンは酸素と水の存在下光照射によって周囲のマトリックス分子を分解・劣化させる作用がある。このような高い光触媒活性は、紫外線の選択的透過阻止を目的とする用途においては微粒子二酸化チタンの欠点の一つでもある。
【0005】
本発明の課題は、微粒子二酸化チタンが持つ、紫外線に対する高い選択的遮蔽能を実質的に保持しながら、その可視光に対する透過率を一層高め、かつその光触媒活性を緩和した二酸化チタン系複合微粒子の提供にある。
【0006】
【課題の解決手段】
本発明によれば、上記課題は微粒子二酸化チタンの粒子表面の少なくとも一部を覆う、コア部分の二酸化チタンと一体のチタン酸ストロンチウムよりなるシエル層を持っている、紫外線遮蔽能を有する二酸化チタン/チタン酸ストロンチウム複合微粒子を提供することによって解決される。」

イ 「【0011】
本発明の二酸化チタン/チタン酸ストロンチウム複合微粒子は紫外線遮蔽率において微粒子二酸化チタンに匹敵する一方で、可視光線の透過率において微粒子二酸化チタンより有意に向上している。また、チタン酸ストロンチウムは二酸化チタンのように強い光触媒作用を持たないので、チタン酸ストロンチウムのシエル層で二酸化チタンのコア部を覆うことによって微粒子二酸化チタンの光触媒活性を緩和することができる。」

2 対比
(1)本願発明と引用発明1を対比する
ア 結着樹脂
引用発明1における「ポリエステル系樹脂」は、「結着樹脂」として用いられるものであり、本願発明の「結着樹脂」に相当する。

イ 酸化チタン
引用発明1の「二酸化チタン」は、文言の意味するとおり、本願発明の「酸化チタン」に相当する。

ウ 白色トナー母体粒子
引用発明1の「白トナー粒子W0」は、「結着樹脂」と「二酸化チタン」を含有するものであって、「外添剤」を「添加」する前の「白色トナー」であるから、本願発明の「白色トナー母体粒子」に相当する。また、引用発明1の「白トナー粒子W0」は、本願発明の「酸化チタンを含有する」という要件を満たす。

エ チタン酸ストロンチウムを含む外添剤
引用発明1の「チタン酸ストロンチウム」は、その文言の意味するとおり、本願発明の「チタン酸ストロンチウム」に相当する。
また、引用発明1の「疎水性シリカ(ワッカー社製:H2000)」、「酸化チタン(チタン工業社製:STT30A)」及び「チタン酸ストロンチウム」は、「外添剤として」用いられるものであるから、本願発明の外添剤に相当し、「チタン酸ストロンチウムを含む」という要件を満たす。

オ 静電荷像現像用トナー
引用発明1の「白トナーW1」は、「電子写真に用いられる」こと及び上記ア〜ウに記載した構成を備えることに鑑みて、本願発明の「静電荷像現像用トナー」に相当し、「結着樹脂および」「酸化チタンを含有する白色トナー母体粒子と」、「チタン酸ストロンチウムを含む外添剤とを含有する」という要件を満たす。

(2)一致点及び相違点
上記(1)によれば、本願発明と引用発明1は、次の点で一致ないし相違する。
ア 一致点
「結着樹脂および酸化チタンを含有する白色トナー母体粒子と、
チタン酸ストロンチウムを含む外添剤と、
を含有する、静電荷像現像用トナー。」

イ 相違点
(相違点1)
「酸化チタン」が、本願発明では「平均粒子径130〜600nm」であるのに対し、引用発明1では、「二酸化チタン」の「平均粒子径」は明らかでない点。
(相違点2)
「チタン酸ストロンチウム」が、本願発明では「平均粒子径500〜2000nm」であるのに対し、引用発明1では、「チタン酸ストロンチウム」の「平均粒径」は「0.2μm」である点。

3 判断
(1)相違点1について
引用文献1の【0014】には、「本実施の形態の白トナーに使用する白色系着色剤としては、二酸化チタン、亜鉛華、鉛白、硫酸鉛、リトポン、硫化亜鉛、酸化アンチモン、鉛亜鉛華、塩基性硫酸塩、ケイ酸鉛、酸化ジルコン、メタ硼酸バリウム、パッチンソン白、マンガン白、酸化錫、タングステン白、鉛酸カルシウム、あるいはそれらの混合物から成る白色顔料を用いることができるが、特に二酸化チタンが好ましい。」と記載されており、また、同文献の【0015】には、「ここで、二酸化チタンとしては、硫酸法、塩酸法、気相法等いずれの方法により製造されたものでも良く、結晶形はアナターゼ型、ルチル型、あるいはブルカイト型いずれの結晶形のものでも使用可能である。白色顔料としては、粒径が0.05μm〜0.5μm、好ましくは0.1μm〜0.4μmのものを使用する。粒径が0.05μmより小さいと十分な隠蔽力が得られない。また0.5μmより大きいと、結着樹脂との結着性に劣るため、トナー飛散およびそれに伴うトナーかぶりが発生するからである。」との記載がある。当該記載に接した当業者であれば、白トナーに使用する顔料である二酸化チタンを選定するに際して、その粒子径として好ましい「0.1μm〜0.4μm」の範囲の粒子径を有するものの採用を試みることが自然であるといえる。
また、引用文献8に記載されるように、「顔料グレードの二酸化チタンの平均粒子径は一般に0.2〜0.4μmの範囲にある」ことは周知である。
そうしてみると、引用発明1において、上記記載及び周知の事項に基づいて、二酸化チタンの平均粒子径を上記相違点1に係る本願発明の範囲とすることは当業者が容易に想到し得たものである。

(2)相違点2について
引用文献7の【0035】〜【0037】には、トナー粒子間の付着力を静電気的に高めるための外添剤として、チタン酸ストロンチウムを用いること及びチタン酸ストロンチウム一次粒子の個数平均粒径(D1)として500nm以上2μm以下が好ましいことが記載されている。また、トナーの技術分野において、トナー粒子間の付着力を高めることは、文献を挙げるまでもなく本件出願前において周知の課題である。
そうしてみると、引用発明1において、上記周知の課題を解決するために、上記引用文献7の記載に基づいて、チタン酸ストロンチウムの平均粒子径を上記相違点2に係る本願発明の範囲とすることは当業者が容易に想到し得たものである。

4 発明の効果について
本願発明の効果として、本件出願の明細書の【0013】には、「本発明によれば、白色度の高い画像を得ながら、結着樹脂の黄変の抑制と、高温高湿下での印刷における画像不良発生の抑制を両立することができる。」と記載されている。
しかしながら、当該効果は、酸化チタンを含んだトナー母体粒子と、チタン酸ストロンチウムを含む外添剤とを組み合わせた構成により得られる効果であって(本件明細書の【0008】等参照。)、前記構成を有する引用発明1も奏する効果である。
なお、チタン酸ストロンチウムが紫外線吸収剤であること、周囲のマトリックス分子を分解・劣化させる二酸化チタンの光触媒活性を緩和する作用があることについては、例えば、引用文献8の【0002】〜【0006】、【0011】に記載されているように公知の事実であり、外添剤としてチタン酸ストロンチウムを含む引用発明1が、当該公知の作用を奏することは当業者にとって明らかである。

5 審判請求人の令和3年9月29日提出の意見書の主張について
審判請求人は、令和3年9月29日提出の意見書の「2.本願が特許性を有する理由」において、
「(1)本願と引用文献とは課題、技術的思想が違う
引用文献1の課題は、「白トナーに赤外線吸収剤を添加すると、赤外線吸収剤の色により白トナーが彩色を帯びてしまい、無彩色化できないという問題があったため、赤外線吸収剤の反射スペクトルと補色関係にある反射スペクトルを有する色材を白トナーに添加することにより白トナーを無彩色化する」というものです(引用文献1 段落「0004」〜「0006」)。一方、本願は、段落「0010」に「白色度の高い画像を得ながら、結着樹脂の黄変の抑制と、高温高湿下での印刷における画像不良発生の抑制を両立することを課題とする。」と記載のように、黄変の抑制と、帯電性低下による画像不良の抑制とを課題とします。また引用文献1の特徴部の「赤外線吸収剤の反射スペクトルと補色関係にある反射スペクトルを有する色材」とは、具体的には、イエロー色材、マゼンタ色材、シアン色材、グリーン色材、ブルー色材のことであり、外添剤を指すものではありません(引用文献1 「0020」〜「0025」)。このように、引用文献1は本願と全く別の課題、技術的思想を有する別発明であります。
・・・このように、引用文献7も本願の課題はなく、全くの別発明であり、引用文献1、7を組み合わせたとしても、本願発明を想起しえません。
(2)相違点2に至るのが容易との認定は後知恵である
引用文献1の実施例において、外添剤として、疎水性シリカ、酸化チタンとともに、「チタン酸ストロンチウム」が使用されておりますが、「チタン酸ストロンチウム」は本文献の一実施例の外添剤としてたまたま用いられている類の構成要素です(「チタン酸ストロンチウム」との用語が登場するのはこの実施例のみであり、勿論、「チタン酸ストロンチウム」を用いた目的等は記載されていません)。そして上述のとおり、引用文献1の課題、技術的思想は本願と全く異なるものです。その状況下では、引用文献1に触れた当業者が、「チタン酸ストロンチウム」にピンポイントで着目する理由はありませんので、無論、更にその「チタン酸ストロンチウム」の構成を変更しようとする動機づけはありません。
ここで、今般の拒絶理由におきまして認定されておりますとおり、「チタン酸ストロンチウム」は「引用発明では、平均粒径が0.2μm」であることしか開示がされておりません。この点につきまして、引用文献7が挙げられ、「周知の課題を解決するために、上記引用文献7の記載に基づいて、チタン酸ストロンチウムの粒径を上記相違点2に係る範囲とすることは当業者が容易に想到し得たもの」とのご認定がなされておりますが、上記のとおり引用文献1には「平均粒径が0.2μm」であることしか開示がされておりませんので相違点2に至る阻害要因がありますし、上述のとおり少なくとも、引用発明1の「0.2μm」に着目してそれを変更しようとする積極的な動機付けはなく、それが「本願出願前周知の課題を解決するのは容易」との論理は、本願構成を知っている後知恵によりなされたものであると考えます。・・・
(3)相違点1にも有利な効果がある
本願の段落「0052」には、「本発明の白色トナー母体粒子に含まれる酸化チタンは、平均粒子径130〜600nmであるが、130nm未満であると結着樹脂と接する表面積が大きくなり結着樹脂の劣化を抑制できない虞がある。」との開示があります。確かに白色トナー粒子19(比較例)の黄変の結果は「×」となっております。これに対して、酸化チタンの平均粒子径の下限を130nmと規定する技術的意義の記載は引用文献1にはありません。本願は、相違点1の構成を含めて本願の課題を解決しておりますが、このような示唆は引用文献1には一切ありません。
(4)相違点2にも有利な効果がある
・・・確かに、この「チタン酸ストロンチウム」の構成が、平均粒径500〜2000nmであることによって、黄変の抑制と高温高湿下での画像不良の抑制の両立との技術的効果が得られることは、例えば、白色トナー粒子2(800nm)と白色トナー粒子4(480nm)との比較で高温高湿下での画像不良発生の抑制に差があり、また、白色トナー粒子2(800nm)や白色トナー粒子16(1700nm)と、白色トナー粒子5(2100nm)との比較で黄変抑制に差があることからも支持されます。このように本願は、相違点2の構成を含めて本願の課題を解決しておりますが、このような示唆は引用文献1には一切ありません。」と主張している。

しかしながら、「トナー粒子間の付着力の増大」が当該技術分野における一般的な課題であり、当該課題を解決することを動機として当業者が、引用発明1で用いられるチタン酸ストロンチウムの平均粒子径について引用文献7に記載された数値範囲とする構成に到達し得たことは、既に述べたとおりである。このように、一般的な課題を契機として本願発明に一致した構成に到達し得ることから、審判請求人が主張する「黄変の抑制」や「画像不良発生の抑制」については、当該構成が奏する作用・効果として把握・検討することとなる。まず、「黄変の抑制」については、上記「4 発明の効果について」で説示したとおりであり、チタン酸ストロンチウムを外添剤として含む引用発明1が当該作用を奏していることは、公知の事実から当業者が予測可能である。続いて、「画像不良発生の抑制」については、例えば、本願明細書の【0062】には、高温高湿下での画像不良はトナーの帯電性が低下することに起因することが記載されているところ、引用文献7に記載される技術は、トナー粒子間の付着力を静電気的に高めるためにチタン酸ストロンチウムの平均粒子径を制御するものであり、静電的な付着力が高まることで画像不良発生が抑制できることは、当業者であれば予測可能なものである。
また、酸化チタンの平均粒子径については、上記「3 判断」に記載したように、当該技術分野において「顔料グレードの二酸化チタンの平均粒子径は一般に0.2〜0.4μmの範囲にある」とされているところ、審判請求人が主張する「130nm未満」における問題点、すなわち「下限を130nmと規定する技術的意義」を参酌して本願発明の進歩性を肯定することはできない。
したがって、審判請求人の上記主張は、採用することができない。


第3 むすび
本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術等に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-11-26 
結審通知日 2021-11-30 
審決日 2021-12-13 
出願番号 P2016-219252
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03G)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 下村 一石
関根 洋之
発明の名称 静電荷像現像用トナー  
代理人 八田国際特許業務法人  
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