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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1382245
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-04-09 
確定日 2022-02-03 
事件の表示 特願2016−201641「画像形成装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月19日出願公開、特開2018− 63357〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年10月13日の出願であって、令和2年7月10日付けで拒絶理由が通知され、同年9月10日に意見書及び手続補正書が提出され、令和3年1月12日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して同年4月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 令和3年4月9日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和3年4月9日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和2年9月10日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1へと補正することを含むものである。(下線は当審決で付した。以下同じ。)
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
搬送経路上において記録媒体と接するように配置される導電部材と、
前記導電部材に転写バイアスを印加することにより、前記記録媒体にトナー像を転写するための電源装置と、
前記導電部材の電気的特性値を取得するためのセンサと、
前記センサによって取得された前記電気的特性値と、前記記録媒体の連続印字枚数とに基づいて、前記導電部材に印加する前記転写バイアスの大きさを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
第1の連続印字ジョブの実行中に前記電気的特性値を取得し、
前記第1の連続印字ジョブの実行中に取得した前記電気的特性値に基づいて、前記転写バイアスの大きさをさらに補正するように構成される、画像形成装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
搬送経路上において記録媒体と接するように配置される導電部材と、
前記導電部材に転写バイアスを印加することにより、前記記録媒体にトナー像を転写するための電源装置と、
前記導電部材の電気的特性値を取得するためのセンサと、
第1の連続印字ジョブに基づく連続印字の実行前に前記センサによって取得された前記導電部材の電気的特性値と、前記記録媒体の連続印字枚数とに基づいて、前記導電部材に印加する前記転写バイアスの大きさを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記第1の連続印字ジョブの実行中に前記導電部材の電気的特性値を取得し、
前記第1の連続印字ジョブの実行中に取得した前記導電部材の電気的特性値と、当該電気的特性値を取得したときに印字が完了している枚数を基に算出される前記導電部材の電気的特性値との差分に基づいて、前記転写バイアスの大きさをさらに補正するように構成される、画像形成装置。」

2 本件補正の適否について
本件補正は、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「画像形成装置」の「前記センサによって取得された前記電気的特性値と、前記記録媒体の連続印字枚数とに基づいて、前記導電部材に印加する前記転写バイアスの大きさを制御する制御部」について、「第1の連続印字ジョブに基づく連続印字の実行前に前記センサによって取得された前記導電部材の電気的特性値と、前記記録媒体の連続印字枚数とに基づいて、前記導電部材に印加する前記転写バイアスの大きさを制御する制御部」との限定を付加するものである。
また、本件補正は、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「画像形成装置」の「第1の連続印字ジョブの実行中に」について、「前記第1の連続印字ジョブの実行中に」と補正し、「前記第1の連続印字ジョブの実行中に」との記載における「第1の連続印字ジョブ」が「前記」されているものであるという限定を付加するものである。
そして、本件補正は、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「画像形成装置」の「電気的特性値」について、「導電部材の電気的特性値」との限定を付加するものである。
さらに、本件補正は、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「画像形成装置」の「前記第1の連続印字ジョブの実行中に取得した前記電気的特性値に基づいて、前記転写バイアスの大きさをさらに補正するように構成される」について、「前記第1の連続印字ジョブの実行中に取得した前記導電部材の電気的特性値と、当該電気的特性値を取得したときに印字が完了している枚数を基に算出される前記導電部材の電気的特性値との差分に基づいて、前記転写バイアスの大きさをさらに補正するように構成される」との限定を付加するものである。
また、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、本願の願書に最初に添付した明細書の
「【0050】
ある実施形態において、制御部70は、印字ジョブを入力されると、印字を実行する前に電源装置80から2次転写ローラー9に定電流を流して、電圧計85によって測定される初期電圧V0を取得する。なお、図2において、2次転写ローラー9に定電流を流す電源装置と、2次転写ローラー9に転写バイアス電圧を印加する電源装置とが共通する構成であるが、他の局面において、これらの電源装置は別体であってもよい。」
「【0053】
Vp=V0+Vc+Voff ・・・(3)
式(3)において、差分電圧値Voffは、ある連続印字枚数Nにおいて実際に電圧計85によって測定されたATVC電圧値から、この連続印字枚数において予測されるATVC電圧値を差し引いた値である。」
「【0054】
分図(B)を参照して予測電圧Vpの具体的な補正方法の一例について説明する。ある実施形態に従う制御部70は、第1連続印字ジョブにおける連続印字枚数Nが所定枚数N2(例えば、100枚、200枚、300枚、・・・)に到達すると、電源装置80から2次転写ローラー9に定電流を流して、電圧計85が測定するATVC電圧値(V2)を取得する。制御部70は、当該測定されたATVC電圧値から、所定枚数N2において予測されるATVC電圧値(V2p)を差し引いた差分電圧値Voffを算出する。制御部70は、連続印字枚数NがN1枚(N1>N2)の時点において、初期電圧V0に補正電圧Vcと差分電圧値Voffとを加算して予測電圧Vp(V1)を算出する。」
の記載に基づいており、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

3 独立特許要件について
本件補正の目的が、特許請求の範囲の減縮を目的としているので、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】に記載したとおりのものと認める。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由において引用された特開2008−152168号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が示されている。
ア 「【0015】
画像形成装置2は、複写機、プリンタ、ファクシミリ、又はそれらの機能を複合的に備えた複合機等の電子写真式画像形成装置である。現在、電子写真方式の画像形成装置として種々の形態のものが提案されているが、図示する画像形成装置は、所謂4サイクル方式のカラー画像形成装置である。ただし、本発明は、この種の画像形成装置にのみ適用されるものではなく、他の形態の画像形成装置、例えば、所謂タンデム方式のカラー画像形成装置、または一つの現像装置しか備えていないモノクロ画像形成装置にも等しく適用できる。」
イ 「【0024】
中間転写ベルト30の外側には二次転写ローラ40および中間転写ベルト用クリーニングブレード42が配置されている。」
ウ 「【0026】
二次転写ローラ40と中間転写ベルト30とのニップ部は二次転写領域41を形成しており、二次転写領域41を通る用紙等の記録媒体46は、中間転写ベルト30と二次転写ローラ40とに挟圧される。」
エ 「【0027】
二次転写ローラ40には、制御回路26を介して電源24(特許請求の範囲における転写電圧印加装置に対応。)が接続され、この電源24により二次転写ローラ40に転写電圧が印加される。」
オ 「【0030】
搬送路50は、給紙カセット44から、タイミングローラ対52のニップ部、二次転写領域41、定着ローラ対56のニップ部、および排紙ローラ対60のニップ部を通って、画像形成装置2の上部に設けられた排紙部64まで延びている。」
カ 「【0031】
画像形成装置2の上部には、二次転写ローラ40に印加される転写電圧Vtの大きさを決定するATVC制御を行う制御部66が設けられている。ただし、画像形成装置2において制御部66が配置される位置は特に限定されるものではない。ATVC制御については後述する。」
キ 「【0042】
続いて、二次転写領域41において、上記4色のトナー像が中間転写ベルト30から記録媒体46に転写される。トナー像が転写された記録媒体46は、搬送路50のさらに下流側へ搬送され、定着ローラ56によってトナー像が記録媒体46に定着された後、排紙ローラ60によって排紙部64に送り出される。」
ク 「【0052】
ステップ7では、後述の検出動作を実行する必要があるか否かについて判断される。検出動作は、所定の検出間隔で行われる。実施形態において、検出動作は、連続プリント開始からの経過枚数が所定の枚数であるとき、具体的には、連続プリントが開始されてから例えば、1枚目のプリントが行われる前、並びに50枚、200枚、400枚および800枚プリントされたときに実行される。ステップ6において、ステップ5で読み込まれた経過枚数が上記所定枚数(具体的には、0枚、50枚、200枚、400枚または800枚)であり、検出動作を実行する必要があると判断されると、ステップ8に進み、ステップ5で読み込まれた経過枚数が上記所定枚数以外であり、検出動作を実行する必要がないと判断されると、ステップ11に進む。」
ケ 「【0053】
ステップ8では、検出動作が行われる。具体的に、二次転写領域41に記録媒体46が無い状態において、電源24により二次転写ローラ40に電圧が印加される。このとき、二次転写ローラ40に供給される電流が所定の大きさの定電流となるように、制御回路26により制御される。こうして二次転写ローラ40に定電流を印加したときの電圧が、図示しない電圧計等により二次転写ローラ40の電気抵抗値の代用値として検出される。」
コ 「【0056】
続くステップ12では、推定値Ve(検出動作を行うと仮定した場合に検出されるべき電圧の推定値)を算出するために予め設定された複数の関数f(x)の中から、該当するf(x)が選択された後、ステップ13に進む。関数f(x)における変数xは、連続プリント開始からの経過枚数を表す。関数f(x)は、記録媒体46の種類、画像形成モード(モノクロ/カラー、片面/両面)、絶対湿度ステップ、および、連続プリント開始前の画像形成装置2の休止時間に応じて複数設定されている。関数f(x)の選択の際は、先ず、記録媒体46ごとに設定された複数のテーブルの中から、記録媒体46の情報に基づき該当するテーブルが選択される(図3参照)。続いて、選択されたテーブルに用意された複数の関数f(x)の中から、画像形成モード(モノクロ/カラー、片面/両面)、絶対湿度ステップ、および、連続プリント開始前の画像形成装置2の休止時間の情報に基づき該当する関数f(x)が選択される。」
サ 「【0058】
ステップ13では、経過枚数に応じて関数f(x)を補正してなる補正式が選択される。連続プリント開始からの経過枚数がx枚であるときの補正式は、直前の検出動作が行われたときの経過枚数をa枚としたとき、下記の式(1)で表される。
Ve=f(x)−f(a)+Vd(a)・・・(1)
補正式は、図4に示すように、直算の検出動作が行われたときの経過枚数に応じて複数用意されている。すなわち、検出動作が実行されるごとに修正してなる複数の補正式が用意されている。補正式を選択する際は、複数の補正式の中から経過枚数に応じた該当する補正式が選択される。例えば、経過枚数が51〜199枚のときは、下記の式(2)が選択される。
Ve=f(x)−f(50)+Vd(50)・・・(2)」
シ 「【0060】
ステップ10では、検出電圧Vdの情報または推定値Veの情報と、予め設定されたテーブル(図6参照)および下記の式(3)または(4)とから導かれる電圧が、転写電圧Vtとして決定される。具体的に、検出動作が行われるときは、検出電圧Vdの情報と、テーブルおよび式(3)とから転写電圧Vtが決定され、検出動作が行われないときは、推定値Veの情報と、テーブルおよび式(4)とから転写電圧Vtが決定される。
(転写電圧Vt)=(傾きA)×(検出電圧Vd)+(オフセットB)・・・(3)
(転写電圧Vt)=(傾きA)×(推定値Ve)+(オフセットB)・・・(4)」
ス 「【0062】
各テーブルでは、例えば図6に示すように、絶対湿度ステップごとに、カラーモードでプリントする場合の傾きAおよびオフセットBの値と、モノクロモードでプリントする場合の傾きAおよびオフセットBの値が用意されている。したがって、テーブルが選択されると、絶対湿度ステップの情報と、画像形成モード(カラーモードまたはモノクロモード)の情報とに基づき、該当する傾きAの値とオフセットBの値が決定される。こうして決定された傾きAの値とオフセットBの値は、検出電圧Vdまたは推定値Veの値とともに、上記の式(3)または(4)に代入され、これにより、転写電圧Vtが算出されて、ATVC制御が終了する。」

そうすると、上記事項ア〜スより、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が示されているものと認められる。
「中間転写ベルト30の外側に二次転写ローラ40が配置され、記録媒体46は、中間転写ベルト30と二次転写ローラ40とに挟圧され、二次転写ローラ40には、制御回路26を介して電源24が接続され、この電源24により二次転写ローラ40に転写電圧が印加され、搬送路50は、給紙カセット44から、タイミングローラ対52のニップ部、二次転写領域41、定着ローラ対56のニップ部、および排紙ローラ対60のニップ部を通って、画像形成装置2の上部に設けられた排紙部64まで延びており、画像形成装置2の上部には、二次転写ローラ40に印加される転写電圧Vtの大きさを決定するATVC制御を行う制御部66が設けられ、二次転写領域41において、4色のトナー像が中間転写ベルト30から記録媒体46に転写され、二次転写領域41に記録媒体46が無い状態において、電源24により二次転写ローラ40に電圧が印加され、このとき、二次転写ローラ40に供給される電流が所定の大きさの定電流となるように、制御回路26により制御され、二次転写ローラ40に定電流を印加したときの電圧が、電圧計等により二次転写ローラ40の電気抵抗値の代用値として検出され、検出動作は、連続プリント開始からの経過枚数が所定の枚数であるとき、具体的には、連続プリントが開始されてから例えば、1枚目のプリントが行われる前、並びに50枚、200枚、400枚および800枚プリントされたときに実行され、連続プリント開始からの経過枚数が51〜199枚のときは、推定値Ve(検出動作を行うと仮定した場合に検出されるべき電圧の推定値)を、
Ve=f(x)−f(50)+Vd(50)
(関数f(x)における変数xは、連続プリント開始からの経過枚数を表す)
として推定し、
(転写電圧Vt)=(傾きA)×(推定値Ve)+(オフセットB)
により転写電圧Vtを算出する画像形成装置2。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明1とを対比すると、後者の「搬送路50」、「記録媒体46」、「二次転写ローラ40」、「転写電圧」、「電源24」、「電圧計等」及び「制御部66」は、それぞれ、前者の「搬送経路」、「記録媒体」、「導電部材」、「転写バイアス」、「電源装置」、「センサ」及び「制御部」に相当する。
また、後者の「二次転写ローラ40に定電流を印加したときの電圧」 は、二次転写ローラ40の電気抵抗値の代用値として検出されるものであるから、前者の「導電部材の電気的特性値」に相当する。
そして、後者の「画像形成装置2」は「中間転写ベルト30の外側に二次転写ローラ40が配置され、記録媒体46は、中間転写ベルト30と二次転写ローラ40とに挟圧され、二次転写ローラ40には、制御回路26を介して電源24が接続され、この電源24により二次転写ローラ40に転写電圧が印加され、搬送路50は、給紙カセット44から、タイミングローラ対52のニップ部、二次転写領域41、定着ローラ対56のニップ部、および排紙ローラ対60のニップ部を通って、画像形成装置2の上部に設けられた排紙部64まで延びており、画像形成装置2の上部には、二次転写ローラ40に印加される転写電圧Vtの大きさを決定するATVC制御を行う制御部66が設けられ、二次転写領域41において、4色のトナー像が中間転写ベルト30から記録媒体46に転写され、二次転写領域41に記録媒体46が無い状態において、電源24により二次転写ローラ40に電圧が印加され、このとき、二次転写ローラ40に供給される電流が所定の大きさの定電流となるように、制御回路26により制御され、二次転写ローラ40に定電流を印加したときの電圧が、電圧計等により二次転写ローラ40の電気抵抗値の代用値として検出され」るものであるから、前者の「画像形成装置」と後者の「画像形成装置2」は「搬送経路上において記録媒体と接するように配置される導電部材と、前記導電部材に転写バイアスを印加することにより、前記記録媒体にトナー像を転写するための電源装置と、前記導電部材の電気的特性値を取得するためのセンサと」を備える点で共通する。
また、後者の「画像形成装置2」は、「検出動作は、連続プリント開始からの経過枚数が所定の枚数であるとき、具体的には、連続プリントが開始されてから例えば、1枚目のプリントが行われる前、並びに50枚、200枚、400枚および800枚プリントされたときに実行され、連続プリント開始からの経過枚数が51〜199枚のときは、推定値Ve(検出動作を行うと仮定した場合に検出されるべき電圧の推定値)を、
Ve=f(x)−f(50)+Vd(50)
(関数f(x)における変数xは、連続プリント開始からの経過枚数を表す)
として推定し、
(転写電圧Vt)=(傾きA)×(推定値Ve)+(オフセットB)
により転写電圧Vtを算出する」のもであり、「Vd(50)」は、引用例1の段落[0052]、[0054]、[0055]、図4等の記載から、「50枚目の検出動作で検出された検出電圧」であると言えことを踏まえると、前者の「画像形成装置」と後者の「画像形成装置2」は「前記センサによって取得された前記導電部材の電気的特性値と、前記記録媒体の連続印字枚数とに基づいて、前記導電部材に印加する前記転写バイアスの大きさを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記第1の連続印字ジョブの実行中に前記導電部材の電気的特性値を取得」する点で共通する。
したがって、両者は、
「搬送経路上において記録媒体と接するように配置される導電部材と、
前記導電部材に転写バイアスを印加することにより、前記記録媒体にトナー像を転写するための電源装置と、
前記導電部材の電気的特性値を取得するためのセンサと、」
「前記センサによって取得された前記導電部材の電気的特性値と、前記記録媒体の連続印字枚数とに基づいて、前記導電部材に印加する前記転写バイアスの大きさを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記第1の連続印字ジョブの実行中に前記導電部材の電気的特性値を取得」する「画像形成装置。」
の点で一致し、以下の点で一応相違する。

[一応の相違点]
本願補正発明は、制御部が、第1の連続印字ジョブに基づく連続印字の実行前にセンサによって取得された導電部材の電気的特性値に基づいて、転写バイアスの大きさを制御し、前記第1の連続印字ジョブの実行中に取得した前記導電部材の電気的特性値と、当該電気的特性値を取得したときに印字が完了している枚数を基に算出される前記導電部材の電気的特性値との差分に基づいて、前記転写バイアスの大きさをさらに補正するのに対し、引用発明1は、「連続プリント開始からの経過枚数が51〜199枚のときは、推定値Ve(検出動作を行うと仮定した場合に検出されるべき電圧の推定値)を、
Ve=f(x)−f(50)+Vd(50)
(関数f(x)における変数xは、連続プリント開始からの経過枚数を表す)
として推定し、
(転写電圧Vt)=(傾きA)×(推定値Ve)+(オフセットB)
により転写電圧Vtを算出する」点。

(4)判断
上記[一応の相違点]について、以下検討する。
まず、引用発明1の
Ve=f(x)−f(50)+Vd(50)
という式は、
Ve=f(x)+Vd(0)+Vd(50)−(f(50)+Vd(0))
と変形できる。
ここで、「Vd(0)」は、引用例1の段落[0052]、[0054]、[0055]、図4等の記載から、「0枚目の検出動作で検出された検出電圧」であると言え、本願補正発明の「第1の連続印字ジョブに基づく連続印字の実行前に前記センサによって取得された前記導電部材の電気的特性値」に相当する。
また、上述したように、「Vd(50)」は、引用例1の段落[0052]、[0054]、[0055]、図4等の記載から、「50枚目の検出動作で検出された検出電圧」であると言える。
そして、「f(50)+Vd(0)」は、引用例1の段落[0058]、図4等の記載から、「1〜49枚目の式で50枚目の推定をした場合の検出される電圧の推定値」に他ならないことを考慮すると、「Vd(50)−(f(50)+Vd(0))」は、本願補正発明の「前記第1の連続印字ジョブの実行中に取得した前記導電部材の電気的特性値と、当該電気的特性値を取得したときに印字が完了している枚数を基に算出される前記導電部材の電気的特性値との差分」に相当する。
してみると、後者の「画像形成装置2」と前者の「画像形成装置」は実質的に、
「制御部が、第1の連続印字ジョブに基づく連続印字の実行前にセンサによって取得された導電部材の電気的特性値に基づいて、転写バイアスの大きさを制御し、前記第1の連続印字ジョブの実行中に取得した前記導電部材の電気的特性値と、当該電気的特性値を取得したときに印字が完了している枚数を基に算出される前記導電部材の電気的特性値との差分に基づいて、前記転写バイアスの大きさをさらに補正する」点で共通する。
してみると、上記[一応の相違点]は、実質的な相違点とは認められない。
そうすると、本願補正発明の発明特定事項は、実質的に、すべて引用発明1が備えているから、本願補正発明と、引用発明1とに差異はない。

(5)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、
「補正後の請求項1に係る発明は、「前記第1の連続印字ジョブの実行中に取得した前記導電部材の電気的特性値と、当該電気的特性値を取得したときに印字が完了している枚数を基に算出される前記導電部材の電気的特性値との差分に基づいて、前記転写バイアスの大きさをさらに補正する」という構成Eを備えます。
これに対して引用文献1,2のいずれにも当該構成に相当する技術的特徴は開示も示唆もありません。また、当該構成は周知慣用技術でもありません。そのため、当業者といえども、引用文献1,2に基づいて個別的にも又は組み合わせによっても、さらには周知慣用技術を付加しても、補正後の請求項1に係る発明を容易になし得ることはできないものと思料致します。
より具体的には、ある実施の形態によれば、第1の連続印字ジョブの実行中に取得した導電部材の電気的特性値(たとえば、本願の当初明細書の段落[0054]の「電圧計85が測定するATVC電圧値(V2)」。以下、「実測値」とも称する。)と、当該電気的特性値を取得したときに印字が完了している枚数を基に算出される導電部材の電気的特性値(たとえば、同段落の「予測されるATVC電圧値(V2p)」。以下、「予測値」とも称する。)との差分に基づいて、転写バイアスの大きさをさらに補正することができます。
これにより、転写バイアスの大きさを制御するに際し、それ以前のある時点における導電部材の電気的特性値の実測値と予測値との乖離の程度が考慮されることから、連続印字枚数が多い場合であっても、実測値に近い予測電圧に基づいて転写バイアス電圧を設定することができるという特有の効果を奏します。
一方、引用文献1に記載の発明は、検出動作が行われる場合には、検出した電圧(検出電圧Vd)を基に転写電圧Vtを算出し(引用文献1に記載の式(3)参照)、検出動作が行われない場合には、直前の検出動作で検出された検出電圧Vdと、連続プリント開始からの経過枚数xとに応じて推定される推定値Veを基に転写電圧Vtを算出するにすぎず(引用文献1に記載の式(4)参照)、いずれの場合においても、転写電圧Vtを算出するにあたり、それ以前のある時点における導電部材の電気的特性値の実測値と予測値との乖離の程度は考慮されません。ゆえに、引用文献1に記載の発明からは上記に述べた特有の効果は奏し得ません。」
と主張する。
そこで、上記主張について以下、検討する。
上述したように、引用発明1は、実質的に「前記第1の連続印字ジョブの実行中に取得した前記導電部材の電気的特性値と、当該電気的特性値を取得したときに印字が完了している枚数を基に算出される前記導電部材の電気的特性値との差分に基づいて、前記転写バイアスの大きさをさらに補正するように構成され」るという構成を有していると言え、引用発明1が当該構成を有していないことを前提とした上記主張は採用できない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

したがって、本願補正発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない発明であって、特許出願の際、独立して特許を受けることが出来ないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してされたものである。

(6)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和2年9月10日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
搬送経路上において記録媒体と接するように配置される導電部材と、
前記導電部材に転写バイアスを印加することにより、前記記録媒体にトナー像を転写するための電源装置と、
前記導電部材の電気的特性値を取得するためのセンサと、
前記センサによって取得された前記電気的特性値と、前記記録媒体の連続印字枚数とに基づいて、前記導電部材に印加する前記転写バイアスの大きさを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
第1の連続印字ジョブの実行中に前記電気的特性値を取得し、
前記第1の連続印字ジョブの実行中に取得した前記電気的特性値に基づいて、前記転写バイアスの大きさをさらに補正するように構成される、画像形成装置。」
(以下「本願発明」という。)

2 原査定の拒絶の理由
原査定の理由は、この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用例1.特開2008−152168号公報

3 引用例
令和2年7月10日付けの拒絶理由通知に引用された引用例1、及び、その記載内容は上記「第2 3 (2)引用例」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、実質的に、本願補正発明の「第1の連続印字ジョブに基づく連続印字の実行前に前記センサによって取得された前記導電部材の電気的特性値と、前記記録媒体の連続印字枚数とに基づいて、前記導電部材に印加する前記転写バイアスの大きさを制御する制御部」から、「第1の連続印字ジョブに基づく連続印字の実行前に」及び「導電部材の」との限定を省き、「前記第1の連続印字ジョブの実行中に」から、「前記」との限定を省き、「導電部材の電気的特性値」との記載から、「導電部材の」との限定を省き、「前記第1の連続印字ジョブの実行中に取得した前記導電部材の電気的特性値と、当該電気的特性値を取得したときに印字が完了している枚数を基に算出される前記導電部材の電気的特性値との差分に基づいて、前記転写バイアスの大きさをさらに補正するように構成される」から「と、当該電気的特性値を取得したときに印字が完了している枚数を基に算出される前記導電部材の電気的特性値との差分」との限定を省くものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]3に記載したとおり、引用例1に記載された発明であるから、本願発明も、引用例1に記載された発明である。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-11-17 
結審通知日 2021-11-24 
審決日 2021-12-07 
出願番号 P2016-201641
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G03G)
P 1 8・ 575- Z (G03G)
P 1 8・ 56- Z (G03G)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 藤田 年彦
佐々木 創太郎
発明の名称 画像形成装置および方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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