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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01J
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01J
管理番号 1382280
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-05-24 
確定日 2022-02-03 
事件の表示 特願2016−180021「光学機器のキャリブレーション法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年3月22日出願公開、特開2018−44865〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成28年9月14日を出願日とする出願であって、令和2年7月15日付けで拒絶理由通知がなされ、令和2年10月30日に意見書及び手続補正書が提出され、令和3年2月10日付けで拒絶査定がなされ、令和3年5月24日に審判請求書及び手続補正書が同時に提出されたものである。

第2 本願発明

1 本願発明
本願の請求項1〜3に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲に記載された請求項1及び3、並びに令和2年10月30日提出の手続補正書により補正された請求項2に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。ここで、各構成単位冒頭の「A」等は当審にて付した分説記号であり、以下当該各構成単位について「構成A」などという。

「【請求項1】
A 配向された方位の光を通過させる偏光部分が互いに異なる方位に配向されて複数配列された偏光子を備えた光学機器のキャリブレーション法であって、
B 前記偏光部分がそれぞれ配向された方位にそれぞれ応じた直線偏光を前記偏光子に照射し、前記偏光子を通過した後の前記直線偏光の光強度を前記偏光部分毎に測定する工程と、
C 前記偏光子を通過した後の前記直線偏光の光強度に基づいて、前記偏光部分毎の直線二色性を算出する工程と、を備える
D 光学機器のキャリブレーション法。」

2 本願特許請求の範囲・明細書の記載
本願発明に関し、本願特許請求の範囲・明細書には次の記載がある。


【請求項2】
前記互いに異なる方位は、0°,45°,90°,135°の4つの方位で構成され、
前記偏光子を通過した後の前記直線偏光の光強度と前記直線二色性との間には、次に示す(1)式から(3)式の関係が成り立つ、
請求項1に記載の光学機器のキャリブレーション法。
【数1】












【数2】


上述の(1)式から(3)式において、I’(ψ)は方位ψの前記直線偏光が前記偏光子を通過した後の前記直線偏光の光強度を示し、pψ,qψは方位ψの前記直線偏光の軸透過率を示し、Dψは前記偏光部分の直線二色性を示し、s0はストークス・パラメータを示し、a2(ψ),b2(ψ)は方位ψの前記直線偏光をフーリエ変換したときのフーリエ振幅の係数を示し、LDOPは前記偏光部分の直線偏光度を示し、αは入射光の任意の偏光状態の方位を示す。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の偏光イメージング装置や偏光子アレイカメラでは、偏光子の消光比が低いために測定対象物の複屈折及び偏光特性の計測精度の向上を図ることが難しいという問題があった。」

「【0009】
以下、本明細書では、偏光イメージング装置や偏光子アレイカメラ等(光学機器)の計測面において、方位が配向されている最小単位を「偏光部分」と称する。複数の「偏光部分」は、個々に分離されているものや、互いに隣接し、外周にフレーム等が設けられているもの、例えば特許文献1に開示されている偏光イメージング装置における偏光子ユニットの「領域」等を全て含んでいる。本発明者は、計測面における偏光子の消光比が低いことの主な要因として、各偏光部分のエッジで測定対象物を透過した透過光が散乱し、クロストークが発生することに着眼した。そして、各偏光部分のエッジでの透過光の散乱が近隣の偏光部分同士の透過光の消光成分の散乱に影響し合うため、偏光部分毎の消光比が不規則に異なることを見出した。また、本発明者は、消光比が低い、すなわち各偏光部分の直線二色性が低いと計測精度も低下すること、及び、従来提案されているように偏光部分の消光比を一括してキャリブレーションすると偏光部分毎の消光比のばらつきとは異なる度合いで計測値が算出される虞があることを見出した。そこで、本発明者は、偏光部分毎の消光比のばらつきを補正するために、直線二色性を算出し、キャリブレーションを行うことが重要であることをふまえ、本発明を完成させるに至った。」

「【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る光学機器のキャリブレーション法は、配光された方位の光を通過させる偏光部分が互いに異なる方位に配向されて複数配列された偏光子を備えた光学機器のキャリブレーション法であって、前記偏光部分がそれぞれ配向された方位にそれぞれ応じた直線偏光を前記偏光子に照射し、前記偏光子を通過した後の前記直線偏光の光強度を前記偏光部分毎に測定する工程と、前記偏光子を通過した後の前記直線偏光の光強度に基づいて、前記偏光部分毎の直線二色性を算出する工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る光学機器のキャリブレーション法では、前記互いに異なる方位は、0°,45°,90°,135°の4つの方位で構成され、前記偏光子を通過した後の前記直線偏光の光強度と前記直線二色性との間には、次に示す(1)式から(3)式の関係が成り立っていてもよい。
【0013】
【数1】



【0014】
【数2】





【0015】

【数3】







「【0027】 ここで、pψ,qψはそれぞれ偏光子4の軸透過率を示す。方位ψは、0°,45°,90°,135°の何れか1つの角度を示す。つまり、方位ψが取り得る4つの方位をψ1=0°,ψ2=45°,ψ3=90°,ψ4=135°とすると、偏光部分R1,R2,…,Rnのそれぞれの方位φ1,φ2,…,φnは、それぞれψ1,ψ2,ψ3,ψ4のうちの何れかであるということになる。・・・ 【0030】
偏光部分R1,R2,…,Rnのそれぞれの直線二色性、直線偏光度をDψ,LDOPとし、入射光L0の任意の偏光状態の方位をαとすると、
【0031】
【数6】















・・・
【0034】
(6)式から(8)式を(5)式に代入すると、上述の(1)式が得られる。
偏光カメラの消光比は、pψ,qψに依存するパラメータである。」

「 【0068】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。」

第3 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の出願日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるか、または該引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条1項3号に該当し、又は同条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.HUBBS, J.E. 外6名,“Measurement of the radiometric and polarization characteristics of a micro-grid polarizer infrared focal plane array”, PROCEEDINGS OF SPIE, Volume 6295, 2006年9月7日, Article 62950C, 13 Pages, < DOI:10.1117/12.685468 >

第4 引用文献の記載事項

1 引用文献1の記載事項
引用文献1には以下の記載がある。

(記載事項1)
「 1 INTRODUCTION
Infrared polarimeters typically utilize polarizing arrays located in front of an infrared (IR) focal plane array (FPA) as a means of extracting polarization information from the optical scene. Over the last few years, technology development efforts have resulted in polarizing FPAs that integrate the polarizer with the FPA. This advanced FPA technology allows simultaneous collection of four separate polarization bands, which can then be processed to calculate three (S0, S1, S2) of the four Stokes parameters.」(1頁21〜26行)
(当審訳:「1 はじめに
赤外偏光計は、典型的には、赤外フォーカルプレーンアレイ(FPA)の前に配置された偏光アレイを用いて、光学シーンから偏光情報を抽出する手段として用いられるものである。ここ数年、偏光板とFPAを一体化した偏光子FPAの技術開発が進められてきた。この最新のFPA技術は、4つの異なる偏光バンドを同時に収集することを可能にし、その偏光バンドを処理することで4つのストークパラメータのうち3つ(S0、S1、S2)を計算することができる。」)

(記載事項2.1)
「2.1 Micro-Grid Polarization Array
The micro-grid polarizer array was fabricated and mated to the FPA by DRS Sensors & Targeting Systems (DRS) in Cypress, CA. The polarizing array consist of four different wire-grid orientations: horizontal, vertical, 45°, and 135°.
These polarizers are arranged in a quadrant to form a “super” pixel, which allows calculation of the linear polarized states of infrared radiation. Within any 2x2 group of pixels is the necessary information to compute the polarized state of infrared radiation. A cross sectional schematic of the array and polarizer filter is shown in Figure 1. The wire grid polarizer filter is an integral part of the FPA as shown in Figure 2, which is a photograph of the fully integrated and packaged LWIR Micro-Grid Polarizer FPA.」(1頁下から6行目〜2頁2行)
(当審訳:「2.1 マイクログリッド偏光子アレイ
マイクログリッド偏光子アレイは、カリフォルニア州サイプレスにあるDRS Sensors & Targeting Systems社(DRS)によって製作され、FPAに装着された。この偏光子アレイは、水平、垂直、45°、135°の4つの異なるワイヤーグリッドの方向で構成されている。
これらの偏光子を4象限に配置することで「スーパー」ピクセルが形成され、赤外線の直線偏光状態を算出することができる。何れの2×2の画素群の中にも、赤外線の偏光状態を計算するために必要な情報が含まれている。図1に、アレイと偏光フィルターの断面図を示す。ワイヤーグリッド偏光フィルターは、図2に示すように、FPAと一体化しており、完全に統合されパッケージ化されたLWIRマイクログリッド偏光FPAの写真である。」

(記載事項4.1)
「 4.1 Experimental Setup
All polarization characterization measurements were made with the FPAs mounted in liquid helium pour-filled cryogenic dewars as shown in Figure 10. A field-of-view limiting aperture and a Thor Laboratory polarizer, both mounted on a liquid helium cold shield, set the background photon irradiance on each FPA. The polarizer was designed to rotate its position about the optical axis in 22.5° increments. In addition, a cold spectral filter that was mounted on the liquid nitrogen cold shield limits the spectral content of the photon irradiance. An external blackbody was used as the source of signal irradiance. For the geometry used, the field-of-view of all pixels was filled by the blackbody.」(9頁1〜8行)
(当審訳:「4.1 実験セットアップ
偏光特性の測定は、図10に示すように、液体ヘリウムを注入した極低温デュワーにFPAを取り付けて行った。液体ヘリウムのコールドシールド上に設置された視野制限アパーチャとソー・ラボラトリー社製の偏光子により、各FPAのバックグラウンド光子放射量を設定した。偏光子は光軸を中心に22.5°ずつ回転するように設計されている。また、液体窒素コールドシールドに取り付けられたコールドスペクトルフィルターは、光子放射のスペクトル内容を制限する。信号の放射源としては、外部の黒体を使用した。使用した配置では、すべてのピクセルの視野が黒体で満たされていた。」

(記載事項4.1.1)
「 4.1.1 Thor Laboratory Polarizer Characteristics
The Thor Laboratory polarizer was used during the polarization characterization of the Micro-Grid Polarizer FPA to polarize radiation from the blackbody radiator. This polarizer is a holographic wire grid design that is fabricated on a BaF2 substrate. … These wire grid polarizers provide high extinction ratio (estimated to be > 200:1 by the manufacturer) and high transmission in the infrared (estimated to be > 80% at 10 μm). The extinction ratio of a polarizer is a measure of its ability to attenuate plane-polarized light and can be calculated from the ratio of the maximum transmission (Tmax) when the polarizer is aligned to the polarization axis, to the minimum transmission (Tmin) when the polarizer is rotated 90°.… For these extinction ratio measurements, the transmitted signal through the two Thor Laboratory polarizers was measured as a function of the angle of rotation of the second polarizer. The extinction ratio was calculated as the ratio of the maximum signal, when the polarizer is aligned to the polarization axis, to the minimum signal when the polarizer is rotated 90°. Measured data provide a measured extinction ratio of the 146:1. This is an important result since it validates the assumption that the dewar polarizer will not limit the fidelity of the measurement of the Micro-Grid Polarizer FPA extinction ratio.」(9頁9行〜同頁下から4行目)
(当審訳:「 4.1.1 トール研究所の偏光板の特性
マイクログリッド偏光子FPAの偏光特性評価では、黒体放射体からの放射を偏光させるために、ソー・ラボラトリーの偏光子を使用した。この偏光子は、BaF2基板上にホログラフィック・ワイヤ・グリッド・デザインで製作されている。・・・このワイヤーグリッド偏光子は、高い消光比(メーカー推定で200:1以上)と赤外域での高い透過率(10μmで80%以上)を実現している。偏光子の消光比とは、平面偏光の減衰能力を示す指標で、偏光子を偏光軸に合わせたときの最大透過率(Tmax)と、偏光子を90°回転させたときの最小透過率(Tmin)の比から算出される。・・・消光比の測定では、2枚のソー・ラボラトリー製偏光子を通過する透過信号を、2枚目の偏光子の回転角の関数として測定した。消光比は,偏光子を偏光軸に合わせたときの最大信号と、偏光子を90°回転させたときの最小信号の比として算出した。実測データによると、消光比の測定値は146:1であった。これは、デュワー偏光板がマイクログリッド偏光板FPAの消光比の測定精度を制限しないという仮定を検証する上で重要な結果である。」)

(記載事項4.2a)
「 4.2 Extinction Ratio Measurement of the Micro-Grid Polarizer FPA
To characterize the extinction ratio of the Micro-Grid Polarizer FPA, the responsivity was measured as a function of the rotation angle of the Thor Lab polarizer. The Thor Lab polarizer was mounted on the liquid helium cold shield and could be rotated through 360° in increments of 22.5°.」(10頁1〜4行)
(当審訳:「4.2 マイクログリッド偏光子FPAの消光比測定
マイクログリッド偏光子FPAの消光比を測定するために,ソー・ラボ社製の偏光子の回転角度に対する応答性を測定した。ソー・ラボ社製の偏光子は、液体ヘリウムのコールドシールドに取り付けられており、22.5°刻みで360°回転させることができた。」

(記載事項4.2b)
「 This measurement technique requires a more thorough knowledge of the FPA characteristics in order to accurately determine the responsivity; however, it also provides a convenient methodology when the polarizers are crossed and the effective FPA responsivity is reduced. The results of measuring the FPA responsivity as a function of the polarizer rotation angle are shown in Figure 11 that plots the measured median responsivity for pixels with a Micro- Grid polarizer orientation of 135° versus the polarizer rotation angle. In addition, a fit to the data using Malus’ law is provided, which demonstrates that the Micro-Grid polarizer FPA is operating properly with an extinction ratio of 9.2. These data, presented in Figure 11, also show that when the Thor Lab polarizer and the Micro-Grid polarizer, which is orientated at 135°, are crossed, which occurs at rotation angles of 0° and 180° (recall that angular measurements are relative to the initial position of the dewar polarizer), the FPA responsivity is approximately 2.3 nV/photon. As described by the extinction ratio, this responsivity is approximately a factor of ten lower than for the case when the polarizers are aligned. 」(10頁下から16行目〜同頁下から6行目)
(当審訳:「この測定方法では、応答性を正確に求めるためにはFPAの特性をより深く知る必要があるが、偏光子がクロスしていて有効なFPAの応答性が低下している場合には便利な方法となる。図11は、マイクログリッドの偏光子の向きが135°の画素の応答性の中央値を、偏光子の回転角に対してプロットしたものである。また、マリュスの法則を用いてデータをフィットさせた結果、マイクログリッド偏光子FPAは消光比9.2で正常に動作していることが示されている。これらのデータは図11に示されているが、ソー・ラボの偏光子と135°に配置されたマイクログリッド偏光子が交差しているとき、つまり回転角度が0°と180°のとき(角度の測定はデュワー偏光子の初期位置を基準にしていることを思い出してほしい)、FPAの応答性は約2.3nV/photonであることも示されている。消光比で表されるように、この応答性は、偏光子を平行にした場合に比べて約10分の1になる。」)

(記載事項4.2c)
「 Responsivity measurements for each Micro-Grid polarizer orientation as a function of the Thor Labs polarizer rotation angle are shown in Figure 12. The extinction ratio(s) determined from these data are summarized in Table 1 that describes the responsivity when the polarizers are crossed, the responsivity when the polarizers are aligned, and the calculated extinction ratio for the median pixel for each Micro-Grid polarizer orientation. These measurements demonstrate that the lowest measured FPA responsivity, with the polarizers crossed, is approximately 2 nV/photon.」(11頁3〜7行)
(当審訳:「マイクログリッドの各偏光子の向きに対する応答性の測定結果を、ソー・ラポ社の偏光子の回転角度の関数として図12に示す。これらのデータから求めた消光比を表1にまとめた。表1には、偏光子を交差させたときの応答性、偏光子を平行にしたときの応答性、及びマイクログリッド偏光子の向きごとに計算した中央画素の消光比を示している。これらの測定結果から、偏光板を交差させた場合のFPAの反応性の最低測定値は約2nV/photonであることが示された。」)

(記載事項5a)
「 The polarization characteristics of the Micro-Grid polarizer FPA were evaluated by measuring its extinction ratio.
This characterization was performed by measuring the responsivity of the FPA as a function of the rotation angle of a polarizer that was mounted on the liquid helium cold shield and could be rotated through 360° in increments of 22.5°. At each polarizer position, the FPA responsivity was measured and the measured responsivity values varied as a function of the rotation angle of the dewar polarizer according to Malus’ Law. From these responsivity values the extinction ratio, on a per pixel basis, was determined.」(12頁下から6行目〜同頁最下行)
(当審訳:「 マイクログリッド偏光子FPAの偏光特性を、消光比の測定により評価した。
この評価は、液体ヘリウムのコールドシールドに取り付けられた、22.5°刻みで360°回転可能な偏光子の回転角に対するFPAの応答性を測定することで行われた。各偏光子の位置でFPAの応答性を測定し、測定された応答性の値はマリュスの法則に従ってデュワー偏光板の回転角の関数として変化した。この応答性の値から、画素ごとの消光比を決定した。」)

(記載事項5b)
「The results from the extinction ratio characterization were applied to measured polarimetric image data. The raw polarimetric image data was corrected by the application of a data reduction matrix that attempts to account for the variables in the Mueller matrix that describes the optical system. This data reduction matrix was populated using data from the polarization characterization of the Micro-Grid polarizer FPA.」(13頁1〜4行)
(当審訳:「消光比の測定結果は、測定された偏光画像データに適用された。生の偏光測定画像データは、光学系を記述するミューラー行列の変数を考慮したデータリダクションマトリクスを適用することで補正された。このデータリダクションマトリクスは、マイクログリッド偏光子FPAの偏光特性評価のデータを用いて作成された。」)

(図1)




」(2頁図1)
(図の説明についての当審訳:「図1.チェッカーボードワイヤーグリッド偏光子フィルターを密着させたHgCdTeアレイを示す、LWIRマイクログリッドFPAの断面図。」)

(図10)




」(9頁図10)
(図の説明についての当審訳:「図10.偏光評価のための放射測定機構」)

(図12)













」(12頁図12)
(図の説明の当審訳:「図12.各偏光子の偏光角(0°、45°、90°、135°)ごとの、偏光子の回転角に対するFPAの応答。」)

(表1)



」(12頁表1)
(表の説明の当審訳:「表1.消光比測定値のまとめ。」)


2 引用文献1の記載事項から看取・認定される事項

(認定事項1)
ア 表1には、各行にマイクログリッドの各偏光子の向きとして第1列に0°、45°、90°135°が設定され、該各向きそれぞれについて、偏光子を交差させたとき、平行にしたときの応答性(Responsivity)が「nV/photon」の単位で第2列・第3列に記載されるとともに、第4列に消光比の値が記載されていることが看取される。
イ ここで、各行の消光比の値は、第2列の値で第3列の値を除算した値にほぼ等しい。
ウ また、記載事項4.1.1には消光比の算出について「偏光子の消光比とは、平面偏光の減衰能力を示す指標で、偏光子を偏光軸に合わせたときの最大透過率(Tmax)と、偏光子を90°回転させたときの最小透過率(Tmin)の比から算出される。」及び「消光比は,偏光子を偏光軸に合わせたときの最大信号と、偏光子を90°回転させたときの最小信号の比として算出した。」と説明されている。
エ また、ここでの「応答性(Responsivity)」は「nV/photon」なる単位からみて、黒体放射体からの単位放射あたりのFPAの画素の受光強度出力(電圧)値であることが明らかである。
オ 上記ウから、ア・イにおいて「偏光子を交差させたとき」が黒体放射照射側のワイヤーグリッド偏光子(ソー・ラボラトリーの偏光子)をFPA側のマイクログリッド偏光子と直交させたとき、を意味し、表1の第4列の消光比が、各行すなわち各向きを成すマイクログリッド偏光子について、該各偏光子の向きに直交する偏光、平行な偏光をワイヤーグリッド偏光子によって照射し、それぞれの場合のFPAの応答(受光強度出力値)の比から各マイクログリッド偏光子の消光比を算出したものにあたることが明らかであるといえる。

(認定事項2)
ア 記載事項2.1には、
「偏光子アレイは、水平、垂直、45°、135°の4つの異なるワイヤーグリッドの方向で構成されている。
これらの偏光子を4象限に配置することで「スーパー」ピクセルが形成され、赤外線の直線偏光状態を算出することができる。何れの2×2の画素群の中にも、赤外線の偏光状態を計算するために必要な情報が含まれている。図1に、アレイと偏光フィルターの断面図を示す。」
との記載がある。
イ(ア)アで参照される図1からは、左下側の断面図で「polarization Checkerboard Filter」(当審訳「碁盤目状偏光フィルター」)とされる偏光フィルターの断面が「polarization color1」(当審訳:「偏光色1」)、「polarization color2」(当審訳:「偏光色2」)なる青色と赤色の領域が交互に配列されていることが看取できる。
(イ)また、図1において、上記(ア)で看取された碁盤目状偏光フィルターを指した同図右上の吹き出し図内には、赤、青、緑、黄緑の4色が4象限にそれぞれ配置された単位格子が縦横に反復配列されることが看取できる。
ウ 上記イ(ア)の図1看取事項における「碁盤目状偏光フィルター」は上記記載事項2.1にいう「偏光子アレイ」に対応し、上記イ(イ)で看取された図1の4色に塗り分けられた領域はそれぞれ、偏光アレイにおけるワイヤーグリッドの方向(主軸方向)が異なる各偏光子に対応していることが明らかである。
エ 記載事項4.2cに「マイクログリッドの各偏光子の向きに対する応答性の測定結果を・・・」なる記載があることから、引用文献1において、「マイクログリッド」は「碁盤目状偏光フィルター」と同義またはその具体的記載と位置づけられるといえる。
オ 上記イ〜エの看取・認定事項を参酌すると、上記アの記載事項における「偏光子アレイ」は、「水平、垂直、45°、135°の4つの異なるワイヤーグリッドの方向を持つマイクログリッドの各偏光子が4象限に配置された2×2の単位格子が水平2軸方向(縦横)に反復配列された偏光子アレイ」を意味するといえる。

3 引用発明
上記1、2から、引用文献1には次の発明が記載されていると認められる。ここで、各構成単位冒頭の「a」などは分説記号であり、以下該各構成単位について「構成a」などという。また、各構成単位末尾の括弧内は引用文献1の上記1に摘記した記載個所を示す。

「a 水平、垂直、45°、135°の4つの異なるワイヤーグリッドの方向を持つマイクログリッドの各偏光子が4象限に配置された2×2の単位格子が水平2軸方向(縦横)に反復配列された偏光子アレイを4象限に配置したものを赤外フォーカルプレーンアレイ(FPA)の前に配置し、何れの2×2の単位格子画素群の中にも、赤外線の偏光状態を計算するために必要な情報が含まれるようにした赤外偏光計の偏光特性の測定を行い、そのデータを用いてFPAの偏光測定画像を補正する方法であって、(記載事項1;2.1;4.1、認定事項2)
b ソー・ラボラトリー製偏光子を22.5°刻みで360°回転させて黒体放射体からの放射を偏光させ、該偏光子の回転角度に対するマイクログリッド偏光子を配置したFPAの応答性として、ソー・ラボラトリー製偏光子をマイクログリッドの各偏光子の向きと直交させたとき、平行にさせたときの応答(受光強度出力値)をそれぞれ測定し、(記載事項4.1;4.1.1;4.2a;4.2c、表1、図12,認定事項1)
c 前記応答の比から、マイクログリッド偏光子の各々について消光比を算出する、(認定事項1)
d 赤外偏光計の偏光特性の測定を行い、そのデータを用いてFPAの偏光測定画像を補正する方法。」

第5 当審の判断

1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)ア 構成aの「水平、垂直、45°、135°の4つの異なるワイヤーグリッドの方向を持つマイクログリッドの各偏光子が4象限に配置された2×2の単位格子が水平2軸方向(縦横)に反復配列された偏光子アレイを4象限に配置したもの」は、構成Aの「配向された方位の光を通過させる偏光部分が互いに異なる方位に配向されて複数配列された偏光子」に相当する。
イ 構成aの「赤外偏光計」、「赤外偏光計の偏光特性の測定を行い、そのデータを用いてFPAの偏光測定画像を補正する方法」は、それぞれ構成Aの「光学機器」、「光学機器のキャリブレーション法」に相当する。

(2)ア 構成bの「マイクログリッドの各偏光子」は、構成aの「水平、垂直、45°、135°の4つの異なるワイヤーグリッドの方向を持つ偏光子」に対応するものであるから、構成Bの「前記偏光子」に相当する。
イ 構成bの「ソー・ラボラトリー製偏光子を22.5°刻みで360°回転させて黒体放射体からの放射を偏光させ・・・ソー・ラボラトリー製偏光子をマイクログリッドの各偏光子の向きと直交させたとき、平行にさせたときの応答(受光強度出力値)をそれぞれ測定」することは、「ソー・ラボラトリー製偏光子」の向きを、上記アのとおり4種類何れかの向きを持つ各マイクログリッド偏光子の向きに直交する向き、または平行な向きに合わせて、それによって「黒体放射体からの放射を偏光させ」て各マイクログリッド偏光子に照射することによってなされるといえる。
ウ そして、上記イの、「ソー・ラボラトリー製偏光子の向きを、上記アのとおり4種類何れかの向きを持つ各マイクログリッド偏光子の向きに直交する向き、または平行な向きに合わせて、それによって黒体放射体からの放射を偏光させて各マイクログリッド偏光子に照射すること」は構成Bの「前記偏光部分がそれぞれ配向された方位にそれぞれ応じた直線偏光を前記偏光子に照射」することに相当するといえる。
エ また、構成bの「応答(受光強度出力値)」は、「ソー・ラボラトリー製偏光子を22.5°刻みで360°回転させて黒体放射体からの放射を偏光させ」たものが各マイクログリッド偏光子を透過したことによって「FPAの応答性として・・・それぞれ測定」されるものであるから、構成Bの「前記偏光子を通過した後の前記直線偏光の光強度」に相当し、構成bで前記応答を「測定」していることは、構成Bの「光強度を・・・測定する」ことに相当するといえる。

(3)ア 構成cの「前記応答」は、上記(2)の説示に照らせば、構成Cの「前記偏光子を通過した後の前記直線偏光の光強度」に相当する。
イ 構成cの「消光比」と構成Cの「直線二色性」とは、少なくとも偏光特性である点で共通する。

(4)構成dの「FPAの偏光測定画像を補正する方法」は、上記(1)の説示に照らし、構成Dの「光学機器のキャリブレーション法」に相当する。

2 一致点・相違点
本願発明と引用発明とは、次の(1)の点で一致し、(2)の点で一応相違する。

(1)一致点
「A 配向された方位の光を通過させる偏光部分が互いに異なる方位に配向されて複数配列された偏光子を備えた光学機器のキャリブレーション法であって、
B 前記偏光部分がそれぞれ配向された方位にそれぞれ応じた直線偏光を前記偏光子に照射し、前記偏光子を通過した後の前記直線偏光の光強度を前記偏光部分毎に測定する工程と、
C’ 前記偏光子を通過した後の前記直線偏光の光強度に基づいて、前記偏光部分毎の偏光特性を算出する工程と、を備える
D 光学機器のキャリブレーション法。」

(2)一応の相違点1(構成C)
本願発明が偏光部分毎に算出するのは、「直線二色性」であるのに対し、引用発明では「消光比」である点。

3 一応の相違点1についての検討

(1)「直線二色性」について

ア 「直線二色性」又は「二色性」、及び「消光比」の字義や技術常識を裏付けるものとして、本願出願日前に公知となった以下の(ア)〜(エ)に示す文献の記載が挙げられる。
(ア)特開2006−221166号公報
「【0003】
偏光ガラスは、延伸された金属粒子が一定の方向に配向した状態で分散している。延伸された金属粒子は、長径方向と短径方向とで分光吸収係数が大きく異なる性質(二色性)を有する。偏光ガラスの消光比は、この延伸金属粒子の二色性によって実現される。」
(イ)特表2013−513133号公報
「【0003】
偏光子の性能の1つの尺度はそれらの消光比である。消光比は、優先的に透過させる偏光状態にある偏光子による透過光の、直交偏光状態における透過光に対する比である。これら2つの直交状態は、多くの場合、光の2つの直線偏光に関係付けられる。二色性偏光子の消光比は、それらの特定の構造及び目的の用途によって広範囲に変化する。例えば、二色性偏光子は、5:1と3000:1の間の消光比を有することができる。ディスプレイシステムに用いられる二色性偏光子は、100:1、さらには500:1より大きいことが好ましい消光比を通常有する。二色性偏光子は他の光学装置、例えば他の型の反射偏光子又はミラーと共に用いることもできる・・・。」
(ウ)特開号公報2014−142367号公報
「【0032】
偏光膜12としては、波長400〜470nmの範囲に吸収ピークを有する二色性色素からなるもの、ポリビニルアルコール(PVA)に二色性色素やヨウ素を含浸した後、そのポリビニルアルコールを延伸してなる偏光膜などが用いられる。
二色性色素としては、青色光において二色比(消光比)を有する材料が用いられる。」
(エ)化学辞典第2版(2010年発行;URL(https://kotobank.jp/word/%E4%BA%8C%E8%89%B2%E6%80%A7-2125261)) 「二色性」の項
「物質の色または吸収曲線あるいは発光曲線が、物質の状態または入射光の偏光方向により変化する現象。
・・・
(3)異方性分子の吸収は分極している。このような分子の結晶は、偏光の電気ベクトルの方向により吸収強度が変化する。この現象も二色性とよばれる。これは紫外、可視、赤外領域に見られるが、後者のものは赤外二色性とよばれる。
・・・
(9)以上の二色性は、直線偏光に対するものであるが、円偏光についても二色性の用語が用いられ、左右の円偏光に対する吸収係数の異なる現象を円二色性という。また、吸収物質を磁場内に置くときに左右の円偏光に対する吸収が異なるようになり、この現象は磁気円二色性とよばれる。」

イ 本願明細書中における、「直線二色性」・「二色性」・「消光比」についての主な言及は、上記第2の2で摘記したとおりのものである。

ウ(ア)上記ア(ア・(エ)から、「二色性」とは、「物質の色または吸収曲線あるいは発光曲線が、物質の状態または入射光の偏光方向により変化する現象。」であり、そのうち「直線二色性」は「直線偏光に対するもの」であり(ア(エ))、また延伸された金属粒子が一定の方向に配向した状態で分散している」「偏光ガラス」での、「延伸された金属粒子は、長径方向と短径方向とで分光吸収係数が大きく異なる性質」である(ア(イ))と理解できる。つまり、「二色性」や「直線二色性」とは一般には物質の光学的な現象や性質を意味する用語である。
(イ)上記ア(ア)・(イ)から、偏光ガラスや偏光子など(直線)偏光媒体の消光比は該媒体の(直線)二色性によってもたらされるものであること、上記ア(ウ)から、逆に、消光比を有する材料が二色性をもたらすこと、を読み取ることができる。
(ウ)以上(ア)・(イ)から、消光比は少なくとも物質の(直線)二色性についての指標の一つであるという技術常識を導き出すことができる。

エ(ア)一方、上記摘記のとおり、本願明細書中において「直線二色性」については、「本発明者は、消光比が低い、すなわち各偏光部分の直線二色性が低いと計測精度も低下する」(【0009】)と、「直線二色性」及び「消光比」を同一のパラメータ、又は同様の変化傾向を呈するパラメータとして位置づけている。
(イ)本願明細書中では更に、「偏光子を通過した後の前記直線偏光の光強度と前記直線二色性との間には、次に示す(1)式から(3)式の関係が成り立っていてもよい。」(【0012】)として選択的・任意的な一実施例として例示的に【0013】〜【0015】に(本願請求項2で特定される)式(1)〜(3)を挙げ、その中で「直線二色性」Dψを偏光子の各軸透過率pψ,qψを用いて【0031】の式(6)のように定義している。
(ウ)また、【0068】には「本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく」と記載され、【0012】の記載と共に、「直線二色性」の定義が実施例中の式(6)に限定されないことを意味しているといえる。
(エ)また、特許請求の範囲においても、請求項1においては構成Cに「直線二色性を算出」と言及するのみであり、「直線二色性」Dψを要素として含む上記式(1)〜(3)は請求項2において特定している。

オ 請求人は審判請求書において甲第1・2号証(下記(エ)・(オ)参照)を添付し、甲第1号証から下記(ア)・(イ)の事項を、甲第2号証から下記(ウ)の事項を読み取ることができる旨主張している。
(ア)(最大透過強度(Imax)、最小透過強度(Imin)として)「消光比は『Imin/Imax』(Iはtransmitted intensity:透過強度を表す。)で定義されることが理解される」こと
(イ)diattenuation(D)は「D=(Tmax−Tmin)/(Tmax+Tmin)」(Tはintensity transmittance:強度透過率を表す。)で定義されること
(ウ)diattenuationが「偏光の吸収(減衰変化)を表す複吸収」を表す偏光特性であり、「直線複吸収(二色性)と円複吸収(円二色性)という偏光特性で表すことができる」こと
(エ)甲第1号証:「Polarized Light,Second Edition Revised and Expanded」、Marcel Dekker AG、 2003、p175〜184・p511〜518
(オ)甲第2号証:大谷幸利「分光ミュラー行列偏光計」、表面科学Vol.35、No9、2014、p510〜515

カ(ア)「diattenuation」なる光学特性について、上記オ(イ)・(ウ)は相互に異なる文献における言及である。
(イ)また、同(イ)は物質の透過率強度から、同(ウ)は物質の吸収特性から定義したものであり、同(ウ)については甲第2号証において、4×4のミュラー行列を用いた説明は見出せるものの、同(イ)と同様の計算式は見出せない。
(ウ)仮に、上記オ(イ)・(ウ)の「diattenuation」が共通の光学特性について述べたものであり、同(ウ)のものが「直線複吸収」に限られるとしても、同(イ)の定義式は上記エ(ウ)で挙げた本願明細書に式(6)として示されたものと一致しない。

キ 以上から、構成Cの「直線二色性」なる用語については、下記(ア)〜(カ)の事情が認められる。
(ア)本願発明(請求項1)において計算式等が定義されるものではなく、
(イ)請求項1を引用する請求項2においても、そこで特定される関係式(式(1)〜(3))中に含まれる変数(Dψ)として特定されるにとどまり、計算式の特定はなく、
(ウ)本願明細書においては、式(1)〜(3)からなる関係式の成立は選択的・例示的に示されるにとどまり、本願明細書中における直線二色性」Dψの定義式(6)は当該関係式の中で定義されるものであり、
(エ)請求人が提出した甲第1・2号証から「直線二色性」の計算式が導かれうるとしても、本願明細書に式(6)として開示されたものとは異なる計算式で定義されるものであり、
(オ)本願明細書においては、前提として「直線二色性」及び「消光比」を同一のパラメータ、または同様の変化傾向を呈するパラメータとして位置づけており、
(カ)消光比は少なくとも物質の(直線)二色性についての指標の一つであることが技術常識であるといえる。

ク 上記キの各事情から、「直線二色性」なる用語、は光学的な現象や性質といった定性的な光学的性質を表す用語であり、上記技術常識に照らせば、その程度を示す指標の一つとして消光比が含まれるところ、仮に該用語が何らかの定量的な指標自体を指すとしても、本願明細書に開示された式(6)で計算される指標、さらに、請求人が示した甲第1・2号証から導かれうる「D=(Tmax−Tmin)/(Tmax+Tmin)」で計算される指標を含む、複数の異なる指標が定義し得るといえ、そのひとつとして、上記技術常識に照らし前記「消光比」が含まれるといえる。

(2)一応の相違点1について
上記(1)に説示したとおり、本願発明の「直線二色性」を表す指標は、技術常識や証拠に照らし、請求項2に係るDψに限られるものではないことはもちろん、消光比もその指標に含まれるといえるから、一応の相違点1は実質的なものではない。

(3)審判請求書における請求人の主張について
ア 審判請求書において請求人は一応の相違点1に関しおおむね次のように主張している。

「[5]特許されるべき理由
令和3年2月24日送達の拒絶査定では、「出願人は、以下の根拠1−3に基づいて、本願発明1の新規性を主張している。しかしながら、(中略)根拠1−3は妥当でなく、本願発明1の新規性を裏付けない。」と認定されている。当該根拠1−3のうち、特に根拠2について、以下のように示されている。
(根拠2)『本願発明1の「直線二色性」が(2)式、(3)式に基づいて算出されることは、特許請求の範囲の記載に基づかない。むしろ、本願の「方位が配向されている最小単位を『偏光部分』と称する。…そこで、本発明者は、偏光部分毎の消光比、すなわち直線二色性を算出し」([0009])との記載からすれば、本願発明1の「直線二色性」とは「方位が配向されている最小単位」「毎の消光比」そのものであるから、引用発明1の「ピクセル単位で」の「消光比」は、本願発明1の「直線二色性」に相当する。』
しかしながら、後に詳しく説明するように、偏光光学において直線二色性と消光比が異なるものであることは学術的な定義から自明であり、本願発明1においても「直線二色性が消光比そのものである」ということではない。
・・・
したがって、甲第1号証の176頁の(9-96)式においてcircular diattenuation(DC)が存在しない場合は、D=DLとなるため、本願請求項1の偏光子の直線二色性は「D=(Tmax−Tmin)/(Tmax+Tmin)」で定義されるものであるといえる。前述のように同式のTは強度透過率を表すため、消光比で用いたI(透過強度)を用いて書き換えると、直線二色性は「D=(Imax−Imin)/(Imax+Imin)」と表すことができる。
甲第1号証及び甲第2号証の記載内容からも明らかであるように、消光比は「Imin/Imax」で定義される物理量であるのに対して、直線二色性は「( Imax−Imin)/(Imax+Imin)」で定義される物理量であり、消光比と直線二色性とは互いに異なる物理量である。
上述のように、本願請求項1における「直線二色性」の定義は引用文献1における「消光比」の定義とは異なるため、各々の物理量に基づく「キャリブレーション法」を行うにあたり、本願発明1と引用発明1とでは大きな差がある。一般に、偏光子の透過強度(I)、最大透過強度(Imax)、最小透過強度(Imin)は、入射強度(I0)に対して以下の(i)式〜(iii)式で表される。なお、(i)式〜(iii)式において、βは透過強度の振幅を表し、偏光子毎の固有値であり、φは偏光子毎に配向された方位(すなわち、偏光子毎に透過させる偏光の向き)と入射する光の方位との角度差を表す。
【数2】











上述の(i)式〜(iii)式に基づいて直線二色性(D)を求めると、(iv)式が得られる。
【数3】











一方、消光比は(v)式で表される。
【数4】











上述のように、消光比はβの関数で表されるのに対して、直線二色性はβそのもので表されるため、「キャリブレーション法」において直線二色性を算出することは、消光比を算出する場合に比べて、極めて精度がよい「キャリブレーション法」を実施できるという優れた効果を奏する。
したがって、「消光比」と「直線二色性」とは互いに定義が異なる物理量であることに加えて、「直線二色性」を算出した場合は、「消光比」を算出した場合に比べて格別の効果がある。これらのことから、本願発明1の「直線二色性」は、引用発明1の「ピクセル単位で」の「消光比」に相当するものではないといえる。」

イ しかし、上記アで「直線二色性」とされているβも、本願明細書の式(6)の定義とは相違するから、「直線二色性」はβであることにはならず、計算式の特定を伴わない本願発明の「直線二色性」に、上記(1)で挙げた各指標と共に含まれる一つの指標にすぎないといえる。
よって、直線二色性という周知慣用の光学的性質の指標として消光比が含まれ得ることを否定するものとはいえない。

ウ しかも、上記アでは、消光比が該βのみの関数から算出できることも示されている。
そうすると、仮に請求人が主張するとおり、本願発明の直線二色性が上記βで定義されるべきであるとしても、消光比は該βというパラメータの表現形式を変えたものにすぎないといえるから、一応の相違点1は、パラメータ表現における設計上の相違にとどまる。

(3)小括
以上(1)(2)のとおりであるから、審判請求書における請求人の主張を考慮しても、一応の相違点1は実質的なものではなく、本願発明は引用発明である。
また、仮に本願発明の直線二色性と消光比とに相違があるとしても、それはパラメータの表現上の設計事項にとどまるといえるから、一応の相違点1は設計上の微差にあたり、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条1項3号に該当するか、又は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-11-26 
結審通知日 2021-11-30 
審決日 2021-12-13 
出願番号 P2016-180021
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01J)
P 1 8・ 113- Z (G01J)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 渡戸 正義
樋口 宗彦
発明の名称 光学機器のキャリブレーション法  
代理人 小林 淳一  
代理人 川越 雄一郎  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 春田 洋孝  

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