• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1382293
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-14 
確定日 2022-03-03 
事件の表示 特願2017− 71029「絶縁電線」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月28日出願公開,特開2017−228524,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2017年(平成29年) 3月31日(優先権主張 2016年(平成28年) 6月17日)の出願であってその手続の経緯は以下のとおりである。

令和 2年 8月20日付け:拒絶理由通知
令和 2年10月22日 :意見書,手続補正書の提出
令和 3年 3月10日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 3年 6月14日 :審判請求書,手続補正書の提出
令和 3年10月 4日付け:拒絶理由通知(最後)(以下「当審拒絶理由」という。)
令和 3年12月 2日 :意見書,手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
理由1 本願請求項1−6に係る発明は,以下の引用文献1−3に記載された発明に基いて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1 特開2006−310093号公報
引用文献2 特開平06−044820号公報
引用文献3 実願昭51−021960号(実開昭52−113389号)のマイクロフィルム

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。
理由1 この出願は,特許請求の範囲の請求項5の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願発明
本願請求項1−4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」−「本願発明4」という。)は,令和 3年12月 2日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1−4に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
導体と,
前記導体の外周に配置され,難燃剤を含む樹脂組成物から形成される難燃絶縁層と,
前記難燃絶縁層の外周に配置され,樹脂を含み,難燃剤を含まない樹脂組成物を架橋させた架橋体から形成され,飽和吸水率が0.5%以下である遮水層と,
前記遮水層の外周に配置され,難燃剤を含む樹脂組成物から形成される難燃層とを備えた絶縁電線であって,
前記遮水層の厚さが25μm以上100μm以下であり,
前記難燃絶縁層の厚さが0.28mm以上0.5mm以下であり,
前記遮水層と前記難燃絶縁層との合計の厚さに占める前記遮水層の厚さの比率が18%以下である,
絶縁電線。」

なお,本願発明2−4は,本願発明1を減縮した発明である。

第5 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2006−310093号公報)には,次の事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。以下同様である。)

「【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下,発明の実施の形態について詳細に説明する。なお,以下では,本実施形態に係るノンハロゲン系絶縁電線を「本電線」と,本実施形態に係るワイヤーハーネスを「本ワイヤーハーネス」ということがある。
【0029】
1.本電線
本電線は,導体の外周に内層が被覆され,内層の外周に最外層が被覆された多層構造を有している。
【0030】
1.1 導体
上記導体としては,単線の金属線,複数本の金属素線が撚り合わされたもの,複数本の金属素線が撚り合わされ,さらに圧縮されたものなどが挙げられる。また,その導体径や導体の材質などは,特に限定されるものではなく,用途に応じて適宜選択することができる。
【0031】
1.2 最外層
本電線において,最外層は,その厚さが10〜100μmの範囲内にある。好ましくは,15〜60μm,より好ましくは,20〜50μmの範囲内にあると良い。
【0032】
最外層の厚さが10μmよりも薄くなると,十分な耐摩耗性が得られ難くなる傾向が見られ,一方,100μmより厚くなると,十分な難燃性が得られ難くなる傾向が見られる。したがって,最外層の厚さは,これらに留意して決定すると良い。
【0033】
ここで,この最外層は,平均した密度が0.910g/cm3以上となる1種以上のポリエチレンを含む外側樹脂組成物よりなっている。
【0034】
この外側樹脂組成物中に含まれるポリエチレンの種類としては,具体的には,例えば,高密度ポリエチレン(HDPE),中密度ポリエチレン(MDPE),低密度ポリエチレン(LDPE),直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE),超低密度ポリエチレン(VLDPE)などが挙げられる。
【0035】
これらは,全体として,平均した密度が0.910g/cm3以上あれば,単独で用いても良いし,複数組み合わせて用いても良い。つまり,2種以上ブレンドする場合,ブレンド比率に対する密度平均が0.910g/cm3以上あれば,その密度が0.910g/cm3未満のポリエチレンを含んでいても良い。
【0036】
また,外側樹脂組成物中には,難燃性,耐摩耗性などの機械的特性,柔軟性,加工性,ハロゲン含有樹脂材料との協調性などを損なわない範囲内で,エチレン−酢酸ビニル共重合体,エチレン−アクリレート共重合体などの樹脂が1種または2種以上含まれていても良い。
【0037】
また,架橋剤,架橋助剤,酸化防止剤,紫外線防止剤,滑剤,亜鉛系化合物などの各種の添加剤が1種または2種以上含まれていても良い。
【0038】
1.3 内層
本電線において,内層は,1層のみからなっていても良いし,2層以上積層されていても良い。内層が,2層以上からなる場合,それら各層は,その材質,厚さなどがすべて同一であっても良いし,それぞれ異なっていても良い。
【0039】
但し,上記内層のうち,少なくとも1層は,特定の内側樹脂組成物よりなっている必要がある。なお,この内側樹脂組成物よりなる内層は,何れの層に位置していても良い。
【0040】
ここで,上記内側樹脂組成物は,
(A)メルトフローレイト(MFR)が5g/10min以下,密度が0.90g/cm3以上のポリエチレン,
(B)下記(B1)〜(B4)から選択される少なくとも1種の重合体
(B1)α−オレフィン(共)重合体,(B2)エチレン−ビニルエステル共重合体,(B3)エチレン−α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体,(B4)スチレン系熱可塑性エラストマー,
を含む樹脂成分100重量部に対して,(C)金属水和物30〜250重量部と,(D)亜鉛系化合物1〜20重量部とを含む樹脂組成物であって,樹脂成分中の(A)ポリエチレンの含有率が30〜90重量%,(B)重合体の含有率が70〜10重量%であり,かつ,(B)重合体のうち少なくとも1種が酸により変性されている,および/または,(E)有機官能性カップリング剤0.3〜10重量部をさらに含んでいる。以下,内側樹脂組成物の各成分について説明する。」

「【0052】
上記(C)金属水和物は,難燃剤として用いるもので,具体的には,水酸化マグネシウム,水酸化アルミニウム,水酸化ジルコニウム,水和珪酸マグネシウム,水和珪酸アルミニウム,塩基性炭酸マグネシウム,ハイドロタルサイトなどの水酸基または結晶水を有する化合物などが挙げられる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。これらのうち,好ましくは,水酸化マグネシウム,水酸化アルミニウムなどである。難燃効果,耐熱効果が高く,経済的にも有利だからである。」

「【0067】
以上,本電線の基本的構成について説明した。本電線は,導体径や被覆材全体の厚さなど,特に限定されるものではないが,通常,電線外径は,φ5mm以下,好ましくは,φ4mm以下,内層および最外層を合わせた被覆材の厚さは,0.8mm以下,好ましくは,0.7mm以下とし,細径,薄肉化電線として好適に用いることができる。
【0068】
また,上記最外層および/または内層は,耐熱性をより向上させるなどの観点から,放射線,過酸化物,シラン系架橋剤などにより架橋されていても良い。」

「【0099】
次いで,得られた各ペレットを乾燥させた後,押出成形機により,サイズ0.50fmm2(19/0.19)の導体の外周に内側樹脂組成物を1層被覆して内層を形成し,さらにこの内層の外周に外側樹脂組成物を被覆して最外層を形成した。この際,内層および最外層を合わせた被覆厚さは0.28mmとした。また,最外層の厚さは,後述する表に記載の通りである。また,各電線の外径はφ1.53mmである。」

「【0109】
【表1】

【0110】
【表2】



(2)引用文献1に記載されている事項を検討する。
ア 引用文献1の段落0028−0029には,導体の外周に内層が被覆され,内層の外周に最外層が被覆された多層構造を有しているノンハロゲン系絶縁電線が記載されている。

イ 引用文献1の段落0039,0040,0052には,内層は,難燃剤として用いる金属水和物を含む内側樹脂組成物からなることが記載されている。

ウ 引用文献1の段落0031−0033には,最外層が外側樹脂組成物よりなり,その厚さが10〜100μmの範囲内であることが,また,段落0068には,最外層が架橋されても良いことが記載されている。

エ 引用文献1の段落0067には,内層および最外層を合わせた被覆材の厚さは,0.7mm以下が好ましいことが記載されているから,上記ウの最外層の厚さが10〜100μmの範囲内であることを参酌すると,内層の厚さとして,0.60mm以下のものが記載されているといえる。

(3)上記(1),(2)から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「 導体の外周に内層が被覆され,内層の外周に最外層が被覆された多層構造を有しているノンハロゲン系絶縁電線であって,
内層は,難燃剤として用いる金属水和物を含む内側樹脂組成物からなり,厚さとして,0.60mm以下であり,
最外層が外側樹脂組成物よりなり,その厚さが10〜100μmの範囲内であり,架橋されても良い,
ノンハロゲン系絶縁電線。」

3 その他の文献
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開平06−044820号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0007】このようなマトリックス樹脂として非結晶性あるいは低結晶性樹脂を使用し,導電性を付与するためのカーボンブラックを添加することにより,半導電層は吸水性が増す(飽和吸水量が多くなり)という問題点を有している。この半導電層が吸水性を増すと,半導電層が吸水することによって半導電層の水分と電界の存在によって生じる水トリー劣化がある。このように半導電層の吸水性が増すと,架橋ポリエチレン等のプラスチック絶縁電力ケーブルの課電劣化の重大な要因である水トリー劣化が生じたり,水トリー劣化の伸展を助長するという問題点を有している。」

「【0025】表 1



(2)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(実願昭51−021960号(実開昭52−113389号)のマイクロフィルム)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「・・・なお,遮水層(5)は架橋性シリコーングラフとかポリエチレンを押しだし被覆後5日間程度経過すれば空気中の水分と反応してゲル分率60%程度まで自然架橋する。」(4頁5−8行)

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明の「導体」が本願発明1の「導体」に相当し,引用発明の「ノンハロゲン系絶縁電線」が本願発明1の「絶縁電線」に対応する。

イ 引用発明の「内層」は,導体の外周に被覆され,難燃剤として用いる金属水和物を含む内側樹脂組成物からなり,ここで,樹脂組成物が絶縁体であることは明らかであるから,本願発明1の「前記導体の外周に配置され,難燃剤を含む樹脂組成物から形成される難燃絶縁層」に対応する。

ウ 引用発明の「最外層」は,内層の外周に被覆され,外側樹脂組成物よりなり,架橋されても良いことから,本願発明1の「遮水層」と,「前記難燃絶縁層の外周に配置され,樹脂を含み,」「樹脂組成物を架橋させた架橋体から形成される」「層」である点で共通するといえる。
また,引用発明の「最外層」は,「その厚さが10〜100μmの範囲内であ」るから,本願発明1の「遮水層」と,「前記」「層の厚さが」「100μm以下であ」る点で共通する。

(2)一致点・相違点
したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点と,相違点があるといえる。
<一致点>
「導体と,
前記導体の外周に配置され,難燃剤を含む樹脂組成物から形成される難燃絶縁層と,
前記難燃絶縁層の外周に配置され,樹脂を含み,樹脂組成物を架橋させた架橋体から形成される層とを備えた絶縁電線であって,
前記層の厚さが100μm以下である,
絶縁電線。」

<相違点>
(相違点1)
難燃絶縁層の外周に配置される「層」に関して,本願発明1は「樹脂組成物」が「難燃剤を含まない樹脂組成物」であり,「飽和吸水率が0.5%以下である遮水層」であり,その厚さの下限が「25μm以上」と特定されているのに対し,引用発明はそのように特定されていない点。

(相違点2)
本願発明1は「前記遮水層の外周に配置され,難燃剤を含む樹脂組成物から形成される難燃層とを備え」るのに対し,引用発明は「難燃層」について特定されていない点。

(相違点3)
「難燃絶縁層」に関して,本願発明1は「前記難燃絶縁層の厚さが0.28mm以上0.5mm以下であ」ると特定されているのに対し,引用発明はそのように特定されていない点。

(相違点4)
本願発明1は「前記遮水層と前記難燃絶縁層との合計の厚さに占める前記遮水層の厚さの比率が18%以下である」と特定されているのに対し,引用発明はそのような比率について特定されていない点。

(3)相違点についての判断
ア 相違点1,2について
事案に鑑みて上記相違点1,2についてまとめて検討する。
引用文献1には,「最外層」の外周に何らかの層を配置することは記載されておらず,引用発明において「最外層」の外側に何らかの層,すなわち,本願発明1の「難燃層」を設ける動機があるともいえない。
また,引用発明の「最外層」の「外側樹脂組成物」は,引用文献1の段落0031−0037に記載されているように,「最外層」であることを前提として,耐摩耗性や難燃性を考慮し樹脂組成物や厚さ等を決定しており,引用発明において「最外層」の外側に「難燃層」があることを前提に,樹脂組成物や厚さを特定し,「遮水層」とする動機があるともいえない。

イ したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明及び引用文献2−3に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2−4について
本願発明2−4は,本願発明1の全ての構成要素を備える従属請求項であり,上記相違点1,2に係る本願発明1と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2−3に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 原査定について
本願発明1−4は,上記「第6 対比・判断」における相違点1,2に係る構成を有するものである。
そして,上記「第6 対比・判断」で検討したように,本願発明1−4は,当業者であっても,原査定における引用文献1−3に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。
したがって,原査定の理由1を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由について
当審拒絶理由の理由1は,令和 3年12月 2日付けの手続補正により,補正前の請求項5が削除されたことにより解消した。

第9 むすび
以上のとおり,原査定の理由及び当審が通知した拒絶の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-02-16 
出願番号 P2017-071029
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
P 1 8・ 537- WY (H01B)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 ▲吉▼澤 雅博
小田 浩
発明の名称 絶縁電線  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ