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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08L |
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管理番号 | 1382346 |
総通号数 | 3 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-03-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-06-10 |
確定日 | 2021-12-03 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6617853号発明「含フッ素エーテル組成物、コーティング液および物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6617853号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−14〕について訂正することを認める。 特許第6617853号の請求項6ないし7に係る特許に対する本件の各異議申立てをいずれも却下する。 特許第6617853号の請求項1ないし5、8ないし14に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6617853号(請求項の数14。以下、「本件特許」という。)は、平成30年3月1日(優先権主張:平成29年3月15日)を国際出願日とする特許出願(特願2019−505865号)であって、令和元年11月22日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和元年12月11日である。)。 その後、令和2年6月10日に、本件特許の請求項1〜14に係る特許に対して、特許異議申立人である萩原真紀(以下、「申立人A」という。)から、同じく令和2年6月10日に、本件特許の請求項1〜14に係る特許に対して、特許異議申立人である豊田奈津子(以下、「申立人B」という。)から、特許異議の申立てがなされた それ以降の手続の経緯は以下のとおりである。 令和2年 9月28日付け 取消理由通知書 同年11月27日提出 意見書(特許権者) 令和3年 3月25日付け 審尋(申立人A及びB宛て) 同年 4月28日提出 回答書(申立人A) 同年 4月30日提出 回答書(申立人B) 同年 5月27日付け 取消理由通知書<決定の予告> 同年 7月30日提出 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年 8月19日付け 通知書(申立人A及びB宛て) 同年 9月22日提出 意見書(申立人A) 同年 9月24日提出 意見書(申立人B) よって、本件特許異議の申立て(以下、「申立て」という。)に係る審理においては、請求項1〜14、すなわち、全請求項を審理対象とし、審理対象でない請求項は存しない。 第2 訂正の適否についての判断 令和3年7月30日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。 1.訂正の内容 (1)訂正事項1 訂正前の特許請求の範囲の請求項1の 「前記式(I)で表される基を有する化合物であることを特徴とする」を 「前記式 (I) で表される基を有する化合物であり、前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)の両方が、前記式(I)で表される基を3個以上有する、ことを特徴とする」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜5、8〜10、13及び14も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 訂正前の特許請求の範囲の請求項2の 「sは2以上の整数であり、r+sは3〜8である」を 「sは3以上の整数であり、r+sは4〜8である」に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3〜5、8〜10、13、14も同様に訂正する。)。 (3)訂正事項3 訂正前の特許請求の範囲の請求項6を削除する。 (4)訂正事項4 訂正前の特許請求の範囲の請求項7を削除する。 (5)訂正事項5 訂正前の特許請求の範囲の請求項8の 「請求項1〜7のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物」を 「請求項1〜5のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物」に訂正する。 (6)訂正事項6 訂正前の特許請求の範囲の請求項9の 「請求項1〜8のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物」を 「請求項1〜5及び8のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物」に訂正する。 (7)訂正事項7 訂正前の特許請求の範囲の請求項10の 「請求項1〜9のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物」を 「請求項1〜5、8及び9のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物」に訂正する。 (8)訂正事項8 訂正前の特許請求の範囲の請求項11の 「saおよびsbは、2以上の整数であり、」を 「saおよびsbは、3以上の整数であり、」に訂正する(請求項11の記載を直接的又は間接的に引用する請求項12〜14も同様に訂正する。)。 (9)訂正事項9 訂正前の特許請求の範囲の請求項13の 「請求項1〜12のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物」を 「請求項1〜5及び8〜12のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物」に訂正する。 (10)訂正事項10 訂正前の特許請求の範囲の請求項14の 「請求項1〜12のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物」を 「請求項1〜5及び8〜12のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物」に訂正する。 2.一群の請求項について 訂正前の請求項2〜10、13〜14は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1〜10、13〜14は、一群の請求項に該当するものである。 訂正前の請求項12〜14は、訂正前の請求項11を引用するものであり、訂正事項8によって訂正される請求項11に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項11〜14は、一群の請求項に該当するものである。 そして、一群の請求項である訂正前の請求項1〜10、13〜14と同じく一群の請求項である訂正前の請求項11〜14とは、請求項13〜14で共通するから、訂正前の請求項1〜14は、一つの一群の請求項といえ、訂正事項1〜10に係る訂正は、請求項〔1−14〕の一群の請求項についてなされたものといえる。 以上からすると、本件訂正は、請求項〔1−14〕の一群の請求項ごとに請求がなされたものというべきである。 3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・ 変更の存否 (1)訂正事項1 訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1に記載されていた「前記式(I)で表される基を有する化合物」について、訂正前の請求項7に記載されていた「前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)の両方が、前記式(I)で表される基を3個以上有する」との限定を加えるものであるから、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。 (2)訂正事項2、8 訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項2に記載されていた「sは2以上の整数であり、r+sは3〜8である」を、本件特許の設定登録時の明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0044】の「化合物(A)および化合物(B)の両方が、基(I)を2個以上、より好ましくは3個以上、さらに好ましくは3〜5個有する。」、同【0047】の「ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖の数および基(I)の数より、r+sは、2〜13が好ましく、3〜8がより好ましく、4〜7が特に好ましい。」との記載に基づき、「s」は「3以上の整数」、「r+s」について「4〜8」のより狭い範囲に限定するものである。 同じく、訂正事項8に係る訂正は、訂正前の請求項11に記載されていた「saおよびsbは、2以上の整数であり、」を、本件明細書の【0050】の「saおよびsbの好ましい値は、化合物(A)、化合物(B)それぞれが有する基(I)の好ましい数と同様である。すなわち、saおよびsbはそれぞれ、1〜10の整数が好ましく、2〜5の整数がより好ましく、3〜4の整数が特に好ましい。」との記載に基づき、「saおよびsb」について「3以上の整数」のより狭い範囲に限定するものである。 したがって、訂正事項2、8に係る訂正は、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。 (3)訂正事項3、4 訂正事項3、4に係る訂正は、訂正前の請求項6、7を単に削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。 (4)訂正事項5〜7、9〜10 訂正事項5〜7、9〜10に係る訂正は、訂正事項3、4に係る訂正により、訂正前の請求項6、7が削除されたことに伴い、訂正前の請求項8〜10、13〜14が引用している請求項6、7を単に削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。 4.独立特許要件 本件特許異議の申立てがされている訂正前の請求項1〜14(全請求項)については、独立特許要件の検討を要しない。 5.小括 以上のとおり、本件訂正請求による訂正事項1〜10に係る訂正は、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものであり、いずれも同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合している。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正により訂正された請求項1〜14に係る発明(以下、項番に従い、「本件発明1」などといい、これらを総称して、「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜14に記載された、以下の事項によって特定されるとおりのものである。なお、下線は、訂正箇所を示す。 「【請求項1】 含フッ素エーテル化合物(A)と含フッ素エーテル化合物(B)とを含み、 前記含フッ素エーテル化合物(A)が、(CF2O)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖および2個以上の下式(I)で表される基を有する化合物であり、 前記含フッ素エーテル化合物(B)が、(CF2O)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖および2個以上の前記式 (I) で表される基を有する化合物であり、 前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)の両方が、前記式(I)で表される基を3個以上有する、ことを特徴とする含フッ素エーテル組成物。 −SiRnL3−n ・・・(I) ただし、Lは水酸基または加水分解性基であり、 Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、 nは0〜2の整数であり、 nが0または1のとき(3−n)個のLは、同一であっても異なっていてもよく、 nが2のときn個のRは、同一であっても異なっていてもよく、 前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)それぞれが有する前記式(I)で表される基は同一であっても異なっていてもよい。 【請求項2】 前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)とが、いずれも、下式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物であって、 前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfが、(CF2O)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、 前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfが、(CF2O)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖である、請求項1に記載の含フッ素エーテル組成物。 [Rf1−O−Q−Rf−]rZ[−SiRnL3−n]s ・・・(A/B) ただし、Rf1は、ペルフルオロアルキル基であり、 Qは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2〜5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該ポリオキシフルオロアルキレン基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、 Rfは、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、 Zは、(r+s)価の連結基であり、 −SiRnL3−nは、前記式(I)で表される基であり、 rが2以上の場合は、r個の[Rf1−O−Q−Rf−]は同一の基であり、 s個の式(I)で表される基は同一の基であり、 rは1以上の整数であり、sは3以上の整数であり、r+sは4〜8である。 【請求項3】 前記(CF2O)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖が、(CF2O)単位と(CF2CF2O)単位とを含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖である、請求項1または2に記載の含フッ素エーテル組成物。 【請求項4】 前記(CF2O)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖が、(CF2CF2O)単位、(CF2CF2CF2O)単位および(CF2CF2CF2CF2O)単位から選ばれる少なくとも1種を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。 【請求項5】 前記(CF2O)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖が、(CF2CF2OCF2CF2CF2CF2O)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。 【請求項6】 (削除) 【請求項7】 (削除) 【請求項8】 前記含フッ素エーテル化合物(A)の数平均分子量が2,000〜20,000である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。 【請求項9】 前記含フッ素エーテル化合物(B)の数平均分子量が2,000〜20,000である、請求項1〜5及び8のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。 【請求項10】 前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)の合計に対し、前記含フッ素エーテル化合物(A)を10〜80質量%含む、請求項1〜5、8及び9のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。 【請求項11】 下式(A1)で表される含フッ素エーテル化合物(A1)と下式(B1)で表される含フッ素エーテル化合物(B1)とを含むことを特徴とする含フッ素エーテル組成物。 [Rf1a−O−Qa−Rfa−]raZa[−SiRanaLa3−na]sa ・・・(A1) [Rf1b−O−Qb−Rfb−]rbZb[−SiRbnbLb3−nb]sb ・・・(B1) ただし、Rf1aおよびRf1bは、ペルフルオロアルキル基であり、 QaおよびQbは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2〜5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該ポリオキシフルオロアルキレン基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、 Rfaは、(CF2O)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、 Rfbは、(CF2O)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、 Zaは、(ra+sa)価の連結基であり、 Zbは、(rb+sb)価の連結基であり、 LaおよびLbは、水酸基または加水分解性基であり、 RaおよびRbは、水素原子または1価の炭化水素基であり、 naおよびnbは、0〜2の整数であり、 naが0または1のときの(3−na)個のLa、nbが0または1のときの(3−nb)個のLbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、 naが2のときna個のRa、nbが2のときnb個のRbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、 raおよびrbは、1以上の整数であり、raが2以上のときra個の[Rf1a−O−Qa−Rfa−]は、同一であっても異なっていてもよく、rbが2以上のときrb個の[Rf1b−O−Qb−Rfb−]は、同一であっても異なっていてもよく、 saおよびsbは、3以上の整数であり、sa個の[−SiRanaLa3−na]は、同一であっても異なっていてもよく、sb個の[−SiRbnbLb3−nb]は、同一であっても異なっていてもよい。 【請求項12】 前記含フッ素エーテル化合物(A1)と前記含フッ素エーテル化合物(B1)の合計に対し、前記含フッ素エーテル化合物(A1)を10〜80質量%含む、請求項11に記載の含フッ素エーテル組成物。 【請求項13】 請求項1〜5及び8〜12のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物と、液状媒体とを含むことを特徴とするコーティング液。 【請求項14】 請求項1〜5及び8〜12のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を有することを特徴とする物品。」 (以下では、式(A/B)、式(A1)、式(B1)の化学構造式は略すことがある。) 第4 取消理由通知で示した取消理由及び特許異議申立理由の概要 1.令和2年9月28日付け取消理由通知書で示した取消理由の概要 (1)取消理由1(進歩性) 訂正前の本件発明1〜6、8〜14は、引用文献1(申立人Aの甲第1号証、申立人Bの甲第1号証)に記載された発明及び引用文献2(申立人Aの甲第2号証)、引用文献3(申立人Bの甲第2号証)に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)取消理由2(サポート要件) 本件発明1が解決しようとする課題は、潤滑性および耐久性に優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル組成物およびコーティング液、ならびに潤滑性および耐久性に優れる表面層を有する物品の提供であると解される。 本件発明の実施例には、特定の含フッ素エーテル化合物(A)であるA−2〜A−5と、特定の含フッ素エーテル化合物(B)であるB−2〜B−5とを特定の質量比(A−3とB−3,A−4とB−4の組み合わせ以外は50:50)で混合した組成物の試験結果しか示されていないばかりか、その特定の組成物でさえも潤滑性および耐久性に優れる表面層を形成できるとは認められず、たとえ当業者であっても、(CF2O)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖および2個以上の式(I)で表される基を有する化合物である任意のフッ素エーテル化合物(A)と、(CF2O)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖および2個以上の式(I)で表される基を有する化合物である任意のフッ素エーテル化合物(B)とを含む本件発明1が、上記課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえないし、そのことが本願出願時の技術常識でもない。 したがって、訂正前の本件発明1は、本件発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。 訂正前の本件発明11についても、訂正前の本件発明1で述べたのと同様の理由により、訂正前の本件発明11が、上記課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえず、したがって、訂正前の本件発明11は、本件発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。 したがって、訂正前の本件発明1、11及び、訂正前の本件発明1、11を直接又は間接的に引用する訂正前の本件発明2〜10、12〜14は、発明の詳細な説明に記載されているとは認められず、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 2.令和3年5月27日付け取消理由通知書<決定の予告>で示した 取消理由の概要 (1)取消理由(進歩性) 請求項1〜6、8〜14に係る発明は、甲A1(申立人Aの甲第1号証)に記載された発明及び本件特許の優先日の技術常識(甲A2(申立人Aの甲第2号証)、甲B2(申立人Bの甲第2号証)、特開2000−327772号公報、特開2012−233157号公報に記載された事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 <特許権者が提出した証拠方法> 以上の取消理由に対し、特許権者が、令和3年1月27日提出の意見書に添付した証拠は、以下のとおりである。 乙第1号証:国際公開第2018/216404号 乙第2号証:国際公開第2016/152644号 乙第3号証:特開2016−117263号公報 乙第4号証:特開2012−031347号公報 乙第5号証:特開2000−003631号公報 乙第6号証:特開2006−182904号公報 乙第7号証:特開2006−045159号公報 乙第8号証:国際公開第2005/068534号 (以下、「乙第1号証」〜「乙第8号証」を「乙1」〜「乙8」という。) 3.特許異議申立理由の概要 申立人A、Bが、特許異議申立書でした申立の理由(以下、「申立理由」という。)は、それぞれ以下のとおりである。 (1)申立人Aの申立理由 申立人Aは、下記の甲第1〜3号証を提示して、本件特許異議申立書(以下、「申立書A」という。)において、本件特許には、以下の特許異議申立理由(以下、「申立理由A1」〜「申立理由A3」 という。)が存すると主張している。 ア.申立理由A1(新規性) 訂正前の本件発明1〜4、6、10〜14は、甲第1号証に記載されたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 イ.申立理由A2(進歩性) 訂正前の本件発明1〜14は、甲第1号証の記載に基づいて、または、甲第1号証ないし甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 ウ.申立理由A3(サポート要件) 本件発明は、「潤滑性および耐久性に優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル組成物およびコーティング液、ならびに潤滑性および耐久性に優れる表面層を有する物品の提供」を課題としている(段落【0007】)。 実施例では、化合物(A)と化合物(B)とを組み合わせた実施例1〜5、7〜11、13〜17、19〜23、25〜29と、化合物(B)を単独で用いた例31〜35、化合物(A)を単独で用いた例6、12、18、24、30等が検討されている(段落【0165】〜【0169】)。 しかしながら、化合物(A)を単独で用いた例30と、化合物(A)と化合物(B)とを組み合わせて用いた例26、28とを比較すると、例26、28のほうが例30よりも、摩擦耐久性および潤滑性の双方において劣っており、本件発明の課題が解決されていない。 よって、訂正前の本件発明には、本件発明の課題を解決できない点が含まれていることが明らかであり、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、特許法第36条第6項第1号を満たしていない。 したがって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 <申立人Aが提出した証拠方法> 申立人Aが、申立書Aに添付した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証:特開2016−017176号公報 甲第2号証:特開2014−218639号公報 甲第3号証:国際公開第2017/038830号 (以下、申立人Aが提出した「甲第1号証」〜「甲第3号証」を「甲A1」〜「甲A3」という。) (2)申立人Bの申立理由 申立人Bは、下記の甲第1〜3号証を提示して、本件特許異議申立書(以下、「申立書B」という。)において、本件特許には、以下の特許異議申立理由(以下、「申立理由B1」〜「申立理由B2」 という。)が存すると主張している。 ア.申立理由B1(進歩性) 訂正前の本件発明1〜14は、甲第1号証及び甲第2号証の記載から容易に想到し得るものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 イ.申立理由B2(サポート要件) 本件発明は、化合物(A)と化合物(B)を組み合わせることによって、得られる表面層の潤滑性および耐久性の両特性を高いレベルで両立できるようにするものと解され、このとき、本件特許発明で得られる潤滑性は、組み合わせとして使用される化合物(B)単体よりも優れ、組み合わせとして使用される化合物(A)単体と少なくとも同等のものとなり、また本件特許発明で得られる耐久性は、組み合わせとして使用される化合物(A)単体よりも優れ、組み合わせとして使用される化合物(B)単体と少なくとも同等のものとなっていると解される。 本件明細書の実施例において、優れた潤滑性および耐久性を両立するという、本件特許発明の作用効果が全体として認められるものは、例58、59のみであり、含フッ素エーテル組成物としての本件発明の作用効果が具体的に実証されているのは、含フッ素ポリエーテル化合物(A−4)と、含フッ素ポリエーテル化合物(B−4)の組み合わせの組成物であって、かつ両者の含有量比が(A−4):(B−4)=70:30〜80:20である場合、数平均分子量5,390の化合物(A−4)と数平均分子量5,890の化合物(B−4)のみである。 これに対して、訂正前の本件発明1〜14は、本件発明の作用効果が具体的に立証されている範囲に比して広すぎ、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり、訂正前の本件発明1〜14は、サポート要件(特許法第36条第6項第1号)に違反しているから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 ウ.申立理由B3(実施可能要件) 本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識を考慮すると、訂正前の本件発明1における含フッ素エーテル化合物(A)及び含フッ素エーテル化合物(B)について具体的にどのようなものであるかを理解することができないから、訂正前の本件発明1の実施に当たり、無数の化合物を製造、スクリーニングして認確するという当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要があると認められる。 したがって、発明の詳細な説明は、訂正前の本件発明1〜14を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本件明細書は、実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)に違反しているから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 <申立人Bが提出した証拠方法> 申立人Bが、申立書Bに添付した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証:特開2016−017176号公報 甲第2号証:特開2016−204656号公報 (以下、申立人Bが提出した「甲第1号証」〜「甲第2号証」を「甲B1」〜「甲B2」という。なお、「甲B1」と「甲A1」は、同じ文献であるため、以下では、「甲A1」と表記する。) 第5 当審の判断 訂正前の請求項6、7は、本件訂正により、各請求項の記載事項の全てが削除されており、請求項6、7に対する各申立ては、その対象を欠き、不適法なものであり、その治癒ができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。 また、以下で述べるように、当審は、本件発明1〜5、8〜14に係る特許は、令和2年9月28日付け取消理由通知書に記載した取消理由1及び2及び令和3年5月27日付け取消理由通知書<決定の予告>(以下、両方の取消理由通知書を総称して、「取消理由通知書」という。)に記載した取消理由、申立人Aによる申立理由A1〜A3、並びに申立人Bによる申立理由B1〜B3によっては取り消すことができないと判断する。 1.取消理由通知書の取消理由(進歩性)の判断 取消理由通知書で採用した取消理由(進歩性)は、申立人Aによる申立理由A2及び申立人Bによる申立理由B1と同じである。 (1)甲号証の記載事項及び甲A1に記載された発明 異議申立人A、Bが挙げる甲A1(甲B1)、甲A2には、以下の事項が記載されている。 また、甲A1には、以下の発明(甲A1−1発明、甲A1−2発明)が記載されている。 ア.甲A1(特開2016−017176号公報) 甲A1a 「【請求項1】 (i) 下記式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)、(D1)および(D2)で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物: 【化1】 [式中: Rfは、それぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し; PFPEは、それぞれ独立して、−(OC4F8)a−(OC3F6)b−(OC2F4)c−(OCF2)d−を表し、ここに、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり; R11は、各出現において、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基を表し; R12は、各出現において、それぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し; R13は、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し; R14は、各出現において、それぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し; R15は、それぞれ独立して、フッ素原子または低級フルオロアルキル基を表し; Xは、それぞれ独立して、2〜7価の有機基を表し; Yは、各出現において、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、加水分解可能な基、または炭化水素基を表し; Qは、各出現において、それぞれ独立して、−Z−SiR3fR43−fを表し; Zは、各出現において、それぞれ独立して、2価の有機基を表し; R3は、各出現において、それぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し; R4は、各出現において、それぞれ独立して、炭素数1〜22のアルキル基、またはQ’を表し; Q’は、Qと同意義であり; fは、各QおよびQ’において、それぞれ独立して、0〜3の整数であって、fの総和は1以上であり; Q中、Z基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり; xは、それぞれ独立して、1〜10の整数であり; yは、それぞれ独立して、0または1であり; zは、それぞれ独立して、0〜2の整数であり; mは、αを付して括弧でくくられた単位毎に独立して、0〜2の整数であり; nは、αを付して括弧でくくられた単位毎に独立して、1〜3の整数であり; αは、それぞれ独立して、1〜6の整数であり; SILは、各出現においてそれぞれ独立して、下記式: 【化2】 (式中、X”は、各出現において、それぞれ独立して、2〜7価の有機基を表し; R16は、各出現において、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基を表し; gは、1〜10の整数であり; hは、1〜10の整数であり; gまたはhを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。)で表される基であり; n”は、βを付して括弧でくくられた単位毎に独立して、0〜3の整数であり; α’は、それぞれ独立して、1〜6の整数であり; βは、各出現においてそれぞれ独立して、(SILの価数−1)に対応する整数である。] および (ii) 下記式(1)で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有アミドシラン化合物: 【化3】 [式中: Rfは、それぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し; PFPEは、それぞれ独立して、−(OC4F8)a−(OC3F6)b−(OC2F4)c−(OCF2)d−を表し、ここに、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり; X1は、単結合または2価の有機基を表し; R1は、水素原子、低級アルキル基またはフェニル基を表し; R2は、−X2−SiQ1kY13−kを表し; X2は、2価の有機基を表し; Y1は、加水分解可能な基を表し; Q1は、水素原子、低級アルキル基またはフェニル基を表し; pは、0または1であり; kは、0〜2の整数である。] を含んでなる、表面処理剤。 … 【請求項28】 さらに溶媒を含む、請求項1〜27のいずれかに記載の表面処理剤。 … 【請求項32】 基材と、該基材の表面に、請求項1〜29のいずれかに記載の表面処理剤より形成された層とを含む物品。」 甲A1b 「【0007】 本発明は、より高い摩擦耐久性を有する層を形成することのできる、新規な表面処理剤を提供することを目的とする。」 「【0063】 上記式(C1)および(C2)中、nは、1〜3から選択される整数であり、好ましくは2以上、より好ましくは3である。nを3とすることにより、基材との結合が強固となり、高い摩擦耐久性を得ることができる。」 「【0098】 上記式(1)中、pは、0または1であり、好ましくは1である。pを1とすることにより、分子間での縮合が起こりにくくなり、保存安定性がより向上する。」 「【0160】 上記のようにして、基材の表面に、本発明の表面処理剤の膜に由来する表面処理層が形成され、本発明の物品が製造される。これにより得られる表面処理層は、高い表面滑り性と高い摩擦耐久性の双方を有する。また、この表面処理層は、高い摩擦耐久性に加えて、使用する表面処理剤の組成にもよるが、撥水性、撥油性、防汚性(例えば指紋等の汚れの付着を防止する)、表面滑り性(または潤滑性、例えば指紋等の汚れの拭き取り性や、指に対する優れた触感)などを有し得、機能性薄膜として好適に利用され得る。」 甲A1c 「【実施例】 【0167】 本発明の表面処理剤について、以下の実施例を通じてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、パーフルオロポリエーテルを構成する繰り返し単位(CF2O)、(CF2CF2O)、(CF(CF3)CF2O)、(CF2CF2CF2O)、(CF(CF3)CF2O)および(CF2CF2CF2CF2O)の存在順序は任意である。また、以下に示される化学式はすべて平均組成を示す。 【0168】 ・アミノ基含有パーフルオロポリエーテル変性シラン化合物の合成 ・合成例1 還流冷却器、滴下ロート、温度計および撹拌機を取り付けた2Lの4つ口フラスコに、含水量が330ppmのエタノール240g、トリエチルアミン19.6gを仕込み、窒素気流下、5℃で平均組成CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2COFで表されるパーフルオロポリエーテル変性カルボン酸フルオライド化合物500gを滴下し、その後、室温まで昇温させて、3時間撹拌した。続いて、パーフルオロヘキサン300gを加えて10分撹拌した後、分液ロートに移送し整置後、下層のパーフルオロヘキサン層を分取した。続いて、3規定塩酸水溶液による洗浄操作(より詳細には、パーフルオロヘキサン層(フルオラス層)にフルオロ系化合物を維持し、塩酸水溶液層に非フルオロ系化合物を分離除去する操作)を2回行った。次に、パーフルオロヘキサン層に無水硫酸マグネシウム30gを加えて、30分撹拌した後、不溶物を炉別した。続いて、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にエチルエステル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有アリル体(A)475gを得た。 ・パーフルオロポリエーテル基含有エチルエステル化合物(A): CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2CO2CH2CH3 【0169】 ・合成例2 還流冷却器、滴下ロート、温度計および撹拌機を取り付けた2Lの4つ口フラスコに、合成例1にて合成した末端にエチルエステルを有するパーフルオロポリエーテル基含有エチルエステル化合物(A)450gを仕込み、窒素気流下、室温でアミノプロピルトリエトキシシランNH2CH2CH2CH2Si(OC2H5)325.84gを滴下した後、65℃まで昇温させ1時間撹拌した。続いて、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にトリエチルシリル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)472gを得た。 ・パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B): CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3 【0170】 ・合成例3 還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた100mLの4つ口フラスコに、平均組成CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OH(ただし、混合物中には(CF2CF2CF2CF2O)および/または(CF2CF2CF2O)の繰り返し単位を微量含む化合物も微量含まれる)で表されるパーフルオロポリエーテル変性アルコール体30g、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン20g、NaOH0.8gを仕込み、65℃で4時間撹拌した。続いて、アリルブロマイド2.4gを加えた後、65℃で 6時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、パーフルオロヘキサン20g加えて不溶物をろ過し、分液ロートで3N塩酸による洗浄操作(より詳細には、パーフルオロヘキサン相(フルオラス相)にフルオロ系化合物を維持し、塩酸層(水相)に非フルオロ系化合物を分離除去する操作)を3回行った。続いて、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にアリル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有アリルオキシ体(C)24gを得た。 ・パーフルオロポリエーテル基含有アリルオキシ体(C): CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH=CH2 【0171】 ・合成例4 還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた100mLの4つ口フラスコに、合成例3にて合成した末端にアリルオキシ基を有するパーフルオロポリエーテル基含有アリルオキシ化合物(C)20g、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン20g、トリアセトキシメチルシラン0.06g、トリクロロシラン1.80gを仕込み、窒素気流下、5℃で30分間撹拌した。続いて、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンのPt錯体を2%含むキシレン溶液を0.10ml加えた後、60℃まで昇温させ、この温度にて5時間撹拌した。その後、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にトリクロロシランを有する下記式のパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(D)20gを得た。 ・パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(D): CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH2CH2SiCl3 【0172】 ・合成例5 還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた100mLの4つ口フラスコに、合成例4にて合成した末端にトリクロロシランを有するパーフルオロポリエーテル基含有トリクロロシラン化合物(D)20g、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン20gを仕込み、窒素気流下、5℃で30分間撹拌した。続いて、アリルマグネシウムブロマイドを0.7mol/L含むジエチルエーテル溶液を35.2ml加えた後、室温まで昇温させ、この温度にて10時間撹拌した。その後、5℃まで冷却し、メタノールを5ml加えた後、室温まで昇温させて不溶物をろ過した。続いて、減圧下で揮発分を留去した後、不揮発分をパーフルオロヘキサンで希釈し、分液ロートでメタノールによる洗浄操作(より詳細には、パーフルオロヘキサン相(フルオラス相)にフルオロ系化合物を維持し、メタノール相(有機相)に非フルオロ系化合物を分離除去する操作)を3回行った。続いて、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にアリル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有アリル体(E)18gを得た。 ・パーフルオロポリエーテル基含有アリル体(E): CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH2CH2Si(CH2CH=CH2)3 【0173】 ・合成例6 還流冷却器、温度計、撹拌機を取り付けた100mLの4つ口フラスコに、合成例5にて合成した末端にアリル基を有するパーフルオロポリエーテル基含有アリル体(E)15g、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン15g、トリアセトキシメチルシラン0.05g、トリクロロシラン4.2g仕込み、窒素気流下、5℃で30分間撹拌した。続いて、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンのPt錯体を2%含むキシレン溶液を0.15ml加えた後、60℃まで昇温させ、この温度にて5時間撹拌した。その後、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にトリクロロシランを有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有トリクロロシラン化合物(F)16gを得た。 ・パーフルオロポリエーテル基含有トリクロロシラン化合物(F): CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH2CH2Si(CH2CH2CH2SiCl3)3 【0174】 ・合成例7 還流冷却器、温度計、撹拌機を取り付けた100mLの4つ口フラスコに、合成例6にて合成した末端にトリクロロシランを有するパーフルオロポリエーテル基含有トリクロロシラン化合物(F)16g、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン15gを加え、窒素気流下、50℃で30分間撹拌した。続いて、メタノール1.04gとオルソギ酸トリメチル48gの混合溶液を加えた後、65℃まで昇温させ、この温度にて3時間撹拌した。その後、室温まで冷却させて不溶物をろ過し、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にトリメチルシリル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)16gを得た。 ・パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G): CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH2CH2Si[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]3 (なお、平均組成としては、(CF2CF2CF2CF2O)の繰り返し単位が0.12個および(CF2CF2CF2O)の繰り返し単位が0.16個含まれていたが、微量のため省略した。) 【0175】 実施例1 上記合成例2で得たパーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)および合成例7で得たパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)を、質量比1:1で、ノベック7200(スリーエム社製)に溶解させて、濃度20wt%になるように、表面処理剤1を調製した。 【0176】 上記で調製した表面処理剤1を化学強化ガラス(コーニング社製、「ゴリラ」ガラス、厚さ0.7mm)上に真空蒸着した。真空蒸着の処理条件は、圧力3.0×10−3Paとし、まず、前処理として、電子線蒸着方式により二酸化ケイ素を7nmの厚さで、この化学強化ガラスの表面に蒸着させて二酸化ケイ素膜を形成し、続いて、化学強化ガラス1枚(55mm×100mm)あたり、表面処理剤2mg(即ち、化合物(B)を0.2mgおよび化合物(G)を0.2mg含有)を蒸着させた。その後、蒸着膜付き化学強化ガラスを、温度20℃および湿度65%の雰囲気下で24時間静置した。これにより、蒸着膜が硬化して、表面処理層が形成された。 【0177】 実施例2〜4 下記表に示すように、化合物(i)として、合成例7で得たパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)、下記の構造を有するパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(H)を用い、化合物(ii)として、合成例2で得た化合物(B)を用い、下記表に示す配合比としたこと以外は、実施例1に記載のように、実施例2〜4の表面処理層を形成した。なお、表面処理剤の濃度は、実施例1と同じ20wt%とした。 【0178】 ・パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(H) CF3O(CF2CF2O)17(CF2O)18CF2CH2OCH2CH2CH2Si(OCH3)3 【0179】 【表1】 【0180】 比較例1〜2 パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)を用いずに、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)を単独で用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例1の表面処理層を形成した。また、パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)を用いずに、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(H)を単独で用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例2の表面処理層を形成した。なお、表面処理剤の濃度は、実施例1と同じ20wt%とした。 【0181】 比較例3 パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)を用いずに、パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)を単独で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理剤を調製し、表面処理層を形成した。なお、表面処理剤の濃度は、実施例1と同じ20wt%とした。 【0182】 上記の実施例1〜4および比較例1〜3にて基材表面に形成された表面処理層について、消しゴム摩擦耐久試験により、摩擦耐久性を評価した。具体的には、表面処理層を形成したサンプル物品を水平配置し、消しゴム(コクヨ株式会社製、KESHI−70、平面寸法1cm×1.6cm)を表面処理層の表面に接触させ、その上に500gfの荷重を付与し、その後、荷重を加えた状態で消しゴムを20mm/秒の速度で往復させた。往復回数500回毎に水の静的接触角(度)を測定した。接触角の測定値が100度未満となった時点で評価を中止した。最後に接触角が100度を超えた時の往復回数を、下記表に示す。 【0183】 【表2】 【0184】 上記の結果から、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)または(H)とパーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)を組み合わせた実施例1〜4では、それぞれ化合物(G)(H)または(B)を単独で用いた比較例1〜3よりも、高い消しゴム耐久を示した。即ち、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物およびパーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物の組み合わせによる相乗効果が確認された。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、これは、パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物のアミド基が、水素結合の相互作用によって、パーフルオロポリエーテル基を基材表面に効率よく配向させ、その結果、優れた消しゴム耐久性が得られたと考えられる。」 <甲A1に記載された発明(甲A1−1発明、甲A1−2発明)> 甲A1の甲A1a〜甲A1cには、高い表面滑り性と高い摩擦耐久性の双方を有することに加え、撥水性等も有する表面処理剤として、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物およびパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有アミドシラン化合物を含んでなる表面処理剤が記載されており、特に甲A1cには、具体例として、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G): CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH2CH2Si[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]3 および パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化(B): CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3を含んでなる表面処理剤が記載されている。 よって、甲A1の実施例1に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。 「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G): CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH2CH2Si[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]3 および パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B): CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3を、質量比1:1で、ノベック7200(スリーエム社製)に溶解させて、濃度20wt%になるようにした表面処理剤」 (以下、「甲A1−1発明」という。) また、甲A1の実施例2に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。 「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G): CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH2CH2Si[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]3 および パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B): CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3を、質量比2:1で、ノベック7200(スリーエム社製)に溶解させて、濃度20wt%になるようにした表面処理剤」 (以下、「甲A1−2発明」という。) イ.甲A2(特開2014−218639号公報) 「【0020】 本発明は、式(1a)または式(1b)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基(以下、「PFPE」ともいう)含有シラン化合物を提供する(以下、「本発明のPFPE含有シラン化合物」ともいう)。 【化7】 【0021】 上記式(1a)および式(1b)中、Aは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1−16アルキル基を表す。 … 【0025】 上記式(1a)および式(1b)中、Rfは、−(OC4F8)a−(OC3F6)b−(OC2F4)c−(OCF2)d−を表し、パーフルオロ(ポリ)エーテル基に該当する。 … 【0028】 上記式(1a)および式(1b)中、Xは、2価の有機基を表す。当該X基は、式(1a)および式(1b)で表される化合物において、主に撥水性および表面滑り性を提供するパーフルオロポリエーテル部(A−Rf−部または−Rf−部)と、加水分解して基材との結合能を提供するシラン部(−SiQkY3−k部)とを連結するリンカーと解される。 … 【0040】 上記式(1a)および式(1b)中、Yは、水酸基、加水分解可能な基、または炭化水素基を表す。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってよい。 … 【0043】 上記式(1a)および式(1b)中、Qは、−Z−SiR1nR23−nを表す。 【0044】 上記Zは、各出現において、それぞれ独立して、2価の有機基を表す。 … 【0047】 上記R1は、各出現において、それぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表す。好ましくは、R1は、−OR6(式中、R6は、置換または非置換のC1−3アルキル基、より好ましくはメチル基を表す)である。 【0048】 上記R2は、各出現において、それぞれ独立して、C1−22アルキル基、またはQ’を表す。 【0049】 上記Q’は、Qと同意義である。 【0050】 上記nは、各QおよびQ’において、それぞれ独立して、0〜3から選択される整数であり、nの総和は1以上である。各QまたはQ’において、上記nが0である場合、そのQまたはQ’中のSiは、水酸基および加水分解可能な基を有さないことになる。したがって、上記nの総和は、少なくとも1以上でなければならない。 … 【0057】 上記式(1a)および式(1b)中、kは、1〜3から選択される整数であり、好ましくは2以上、より好ましくは3である。kを3とすることにより、基材との結合が強固となり、高い摩擦耐久性を得ることができる。」 ウ.甲B2(特開2016−204656号公報) 甲B2a 「【0012】本発明のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランは、下記一般式(1)で表されるものである。 【化9】 (式中、Rfは1価のフルオロオキシアルキル基又は2価のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基であり、Yは2〜6価の炭化水素基であって、ケイ素原子及び/又はシロキサン結合を有してもよく、Wは2〜6価の炭化水素基であって、ケイ素原子及び/又はシロキサン結合を有してもよく、Rは独立に炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、Xは独立に水酸基又は加水分解性基であり、nは1〜3の整数であり、aは1〜5の整数であり、mは1〜5の整数であり、αは1又は2である。) 【0013】 本発明のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランは、1価のフルオロオキシアルキル基又は2価のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基(Rf)と、アルコキシシリル基等の加水分解性シリル基あるいは水酸基含有シリル基(−Si(R)3-n(X)n)が、炭化水素鎖(Y)及び(W)を介して結合した構造であり、ポリマー内に反応性官能基を3個以上有することで基材密着性が向上し、耐摩耗性に優れることを特徴としている。」 甲B2b 「【実施例】… 【0146】 [耐摩耗性の評価] 上記にて作製した硬化被膜を形成したガラスについて、ラビングテスター(新東科学社製)を用いて、下記条件で3,000回擦った後の硬化被膜の水に対する接触角(撥水性)を上記と同様にして測定し、耐摩耗性の評価とした。試験環境条件は25℃、湿度40%である。結果(摩耗後水接触角)を表1に示す。 耐スチールウール摩耗性 スチールウール:BONSTAR#0000(日本スチールウール株式会社製) 接触面積:10mmφ 移動距離(片道)30mm 移動速度1,800mm/分 荷重:1kg/cm2 実施例1〜6の化合物は、分…実施例1〜6の化合物は、分子内の反応性官能基数が3個又は6個と、比較例1〜3の化合物に比べて多いため、実施例1〜6の化合物を用いた表面処理剤の硬化被膜は、接触角100°以上と耐摩耗性を発揮した。」 (2)取消理由通知書で引用した参考文献の記載事項 当審が取消理由通知書で引用した参考文献1には、以下の事項が記載されている。 参考文献1(特開2000−327772号公報) 「【0008】また、特開昭58−122979号公報には、ガラス表面の撥水撥油剤として、下記式(4)で示される化合物が提示されている。 【0009】 【化4】 (式中、Rfは炭素数1〜20個のポリフルオロアルキル基であって、エーテル結合を1個以上含んでもよい。R1は水素原子又は低級アルキル基、Aはアルキレン基、xは−CON(R2)−Q−又は−SO2N(R2)−Q−(ただし、R2は低級アルキル基、Qは2価の有機基を示す)、zは低級アルキル基、Yはハロゲン、アルコキシ基又はR3COO−(ただし、R3は水素原子又は低級アルキル基を示す)、nは0又は1の整数、aは1〜3の整数、bは0,1又は2の整数である。) … 【0015】 【化6】 (式中、X1,X2は加水分解性基、R1,R2は炭素数1〜6の1価炭化水素基、Q1,Q2は2価の有機基、mは6〜50の整数、nは2又は3、x及びyはそれぞれ1〜3の整数である。) 【0016】この表面処理剤の主成分である式(1)のパーフルオロポリエーテル変性アミノシランにはアミド結合が含まれているが、基材表面にフッ素変性基を効率よく配向させるにはアミド結合が有効であることが知られており、この点からも本発明に示す表面処理剤はこれまでのものよりも優れているといえる。 【0017】また、分子中に加水分解性シリル基を2個有しており、従来の上記式(4)のアミノシランよりも反応性が向上したため、硬化性、被膜形成性に優れているといえる。」 「【0039】〔合成例1〕… 【0041】 以上の結果から、得られた化合物の構造式は下記式(7)であることがわかった。 【0042】 【化10】 【0043】 〔合成例2〕…合成例1と同様の方法で下記式(8)に示す化合物を得た。 【0044】 【化11】 【0045】 〔合成例3〕…合成例1と同様の方法で下記式(10)に示す化合物を得た。 【0046】 【化12】 【0047】〔合成例4〕(比較例) …合成例1と同様の方法で下記式(12)に示す化合物を得た。 【0048】 【化13】 【0049】〔実施例1−1〜1−3〕合成例1〜3で合成されたパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン3.0gをパーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)97.0gに溶解させ、ガラス板(2.5×10×0.5cm)に刷毛塗りで塗布した。25℃,湿度70%の雰囲気下で1時間放置し、硬化被膜を形成させた。この試料片を用いて、以下のような評価を行った。 【0050】(1)撥水撥油性の評価 接触角計(協和界面科学社製A3型)を用いて、硬化被膜の水及びn−ヘキサデカンに対する接触角を測定し、撥水撥油性の評価とした。 (2)離型性の評価 硬化被膜表面にセロハン粘着テープ(幅25mm)を貼り、その剥離力を測定して離型性の評価とした。測定は引張試験機を用いて180°の角度で剥離速度300mm/分で行った。 (3)被膜の耐久性の評価 セルロース製不織布によって硬化被膜表面を一定の荷重で30往復拭いた後、評価(1)で示した方法で水に対する接触角を測定して耐久性の評価とした。 (4)加水分解性(被膜形成性)の評価 合成例1〜3で合成されたパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン3.0gをパーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)97.0gに溶解させ、ガラス板(2.5×10×0.5cm)に刷毛塗りで塗布した。25℃,湿度70%の雰囲気下で10分間放置した後、表面の未硬化分をセルロース製不織布で拭き取ってから、ガラス表面の水に対する接触角を測定して加水分解性(被膜形成性)の評価とした。これら(1)〜(4)の評価結果を表1に示す。 【0051】〔比較例1−1〕実施例1−1〜1−3で用いたフルオロアミノシランの代わりに合成例4で合成されたフルオロアミノシランを用いた他は、実施例と同様の方法で評価した。評価結果を表1に示す。 【0052】〔比較例1−2〕実施例1−1〜1−3で用いたフルオロアミノシランの代わりに下記式(13)に示す化合物を用いた他は、実施例と同様の方法で評価した。評価結果を表1に示す。 【0053】 【化14】 【0054】 【表1】 【0055】実施例は、いずれも従来品(比較例1−2)と同等もしくはそれ以上の撥水撥油性、離型性を示し、且つ耐久性、加水分解性(被膜形成性)に優れている。また、比較例1−1は実施例と比べて撥水撥油性、離型性に劣っており、実用に供し得ない。」 (3)本件発明1 ア.本件発明1と甲A1−1発明、甲A1−2発明との対比 甲A1−1発明、甲A1−2発明の「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G):CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH2CH2Si[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]3」は、CF2O単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖および3個のSi(OCH3)3基を有する化合物であるから、本件発明1の「(CF2O)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖および3個以上の式(I)で表される基を有する化合物」である「含フッ素エーテル化合物(A)」に相当する。 甲A1−1発明、甲A1−2発明の「パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B):CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3」は、CF2O単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖および1個のSi(OC2H5)3基を有する化合物であるから、本件発明1の「(CF2O)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖および2個以上の式(I)で表される基を有する化合物」である「含フッ素エーテル化合物(B)」とは、「(CF2O)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖および式(I)で表される基を有する化合物」である限りにおいて共通する。 甲A1−1発明、甲A1−2発明の「表面処理剤」は、含フッ素エーテル化合物を含む組成物であるから、本件発明1の「含フッ素エーテル組成物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲A1−1発明、甲A1−2発明は、 「含フッ素エーテル化合物(A)と含フッ素エーテル化合物(B)とを含み、 前記含フッ素エーテル化合物(A)が、(CF2O)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖および3個以上の下式(I)で表される基を有する化合物であり、 前記含フッ素エーテル化合物(B)が、(CF2O)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖および前記式(I)で表される基を有する化合物であることを特徴とする含フッ素エーテル組成物。 −SiRnL3−n ・・・(I) ただし、Lは水酸基または加水分解性基であり、 Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、 nは0〜2の整数であり、 nが0または1のとき(3−n)個のLは、同一であっても異なっていてもよく、 nが2のときn個のRは、同一であっても異なっていてもよく、 前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)それぞれが有する前記式(I)で表される基は同一であっても異なっていてもよい。」で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1では、 含フッ素エーテル化合物(B)について、式(I)で表される基を「3個以上」有するのに対し、 甲A1−1発明、甲A1−2発明では、 -Si(OC2H5)3で表される基が「1個」である点 イ.相違点1の判断 甲A2(【0020】【0043】、【0057】)、甲B2(【0012】、【0013】、【0146】)、参考文献1(【0008】、【0009】、【0015】、【0017】)の記載によると、パーフルオロ(ポリ)エーテル基を含有するシラン化合物においては、加水分解性シリル基あるいは水酸基含有シリル基を2つ以上にすると、1つの場合よりも、基材との密着性、硬化性、皮膜形成性が優れたものとなり、当該基を2つ以上有する化合物が、当該基を1つ有する化合物と同等もしくはそれ以上の撥水撥油性を示すこと、更に、当該基を2つ以上有する化合物が、当該基を1つ有する化合物と比べて、優れた耐久性(耐摩耗性)を示すことは、本件特許の優先日における技術常識であったと認められる。 しかし、甲A1には、パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)が下記式(1)で表されることが記載されており(甲1aの請求項1)、式(1)におけるpは、0または1が採用できること、すなわち、−X2−SiQ1kY13−kで示されるR2基は、最大でも2個しか含有できないことが記載されている。 よって、甲A1−1発明、甲A1−2発明が、高い表面滑り性と高い摩擦耐久性の双方を改良するものであること(甲A1bの【0160】)、また、本件特許の優先日に上記の技術常識が存することを勘案しても、甲A1−1発明、甲A1−2発明における「パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B):CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3」を、甲A1で想定されていない、分子中に3個の「Si(OC2H5)3」を有する新たなシラン化合物に構造改変したり、この新たなシラン化合物に置き換えたりすることを当業者が容易に想到し得たとは認められない。 しかも、本件発明1は、本件明細書の【0116】によると、「化合物(A)は、A鎖に(CF2O)単位を含むため、潤滑性に優れる。その一方で、(CF2O)単位を含まない場合に比べて、耐久性に劣る」のに対し、「化合物(B)は、B鎖に(CF2O)単位を含まないため、耐久性に優れる。その一方で、(CF2O)単位を含む場合に比べて、潤滑性に劣る」ため、「これらを組み合わせたときに、それぞれの優れた特性が充分に維持され、優れた潤滑性および耐久性を両立でき」るものであり(下記の2(1)本b)、特に、分子中に3個以上の「Si(OC2H5)3」を有する含フッ素エーテル化合物(A)、(B)の効果は、実施例の【表2】〜【表9】のA−3〜A−5の化合物とB−3〜B−5の化合物の併用例で裏付けられている(下記の2(1)本c)。 しかし、甲A1、甲A2、甲B2、参考文献1のいずれにも、(CF2O)単位の有無で異なる2種の含フッ素エーテル化合物において、分子中に3個以上の「Si(OC2H5)3」を設けることが記載も示唆もされていないから、甲A1、甲A2、甲B2、参考文献1の記載を参照しても、甲A1−1発明、甲A1−2発明における「パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B):CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3」について、分子中に3個以上の「Si(OC2H5)3」を設けるような化学構造の改変を当業者が容易に動機付けられたとはいえない。 ウ.申立人Aによる令和3年9月22日提出の意見書の主張について 申立人Aは、令和3年9月22日提出の意見書において、摩擦耐久性を向上させるために、甲1発明の組成物に含まれるパーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)に代えて、同じパーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物であって、加水分解性シラン基の数がより多い甲A3(国際公開第2017/038830号)に記載の化合物(1l−1)または(1l−2)を用いて、本件発明1とすることは、当業者が容易に想到し得たことであると主張する。 甲A3には、以下の化学構造を有する、パーフルオロ(ポリ) エーテル基含有アミドシラン化合物が記載されている([0213]及び[0217])。 しかし、甲A1−1発明、甲A1−2発明のパーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)と甲A3に記載された上記2つの化合物は、「C(O)NH」の窒素原子に結合する基が、前者が「CH2CH2CH2Si(OC2H5)3」であるのに対し、後者が「C[CH2CH2CH2-Si(OCH3)3]3」で大きく異なるし、甲A3には、上記の(1l−1)、(1l−2)の化合物が、甲A1−1発明、甲A1−2発明のパーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)の代替物となり得ることを示唆する記載は見当たらない。 よって、甲A3の上記化合物の記載が、甲A1−1発明、甲A1−2発明のパーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)の構造改変や上記2つの化合物への置き換えを当業者に動機付けるものとは認められない。 したがって、申立人Aによる上記主張は、採用できない。 エ.小括 以上からすると、本件発明1は、甲A1−1発明、甲A1−2発明及び本件特許の優先日の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件発明2について ア.甲A1−1発明、甲A1−2発明との対比 本件発明2は、本件発明1の「含フッ素エーテル化合物(A)」、「前記含フッ素エーテル化合物(B)」について、いずれも、「式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物である」と特定した発明である。 本件発明2と甲A1−1発明、甲A1−2発明のそれぞれを対比すると、以下の点で相違している。 <相違点2> 本件発明2では、式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物(B)について、式(I)で表される基を「3個以上」有する(sは3以上の整数)のに対し、 甲A1−1発明、甲A1−2発明では、 -Si(OC2H5)3で表される基が「1個」(sは1)である点 イ.相違点2の判断 相違点2は、相違点1と同じ内容であるから、相違点2として挙げた本件発明2の発明特定事項は、(3)イで示した相違点1と同様の理由により、甲A1の記載及び本件特許の優先日の技術常識に基づき当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 ウ.小括 以上のとおり、本件発明2は、甲A1−1発明、甲A1−2発明及び本件特許の優先日の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)本件発明11について ア.甲A1−1発明、甲A1−2発明との対比 甲A1−1発明、甲A1−2発明の「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G):CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH2CH2Si[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]3」は、CF3基、CF2O単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖、3個のSi(OCH3)3基を有する化合物であり、該「CF3基」、「CF2O単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖」、「3個のSi(OCH3)3基」と「それら以外の残基」は、本件発明11の式(A1)における「Rf1a」、「Rfa」、「2個以上のSiRanaLa3−na」と「Za」にそれぞれ該当するものであるから、甲A1−1発明、甲A1−2発明の「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)は、本件発明11の「含フッ素エーテル化合物(A1)」に相当する。 甲A1−1発明、甲A1−2発明の「パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B):CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3」は、CF3基、CF2O単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖、1個のSi(OC2H5)3基を有する化合物であり、該「CF3基」、「CF2O単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖」、「Si(OC2H5)3基」と「それら以外の残基」は、本件発明11の式(B1)における「Rf1b」、「Rfb」、「SiRbnbLb3−nb」と「Zb」にそれぞれ該当するから、これらを含む限りにおいて、甲A1−1発明、甲A1−2発明の「パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)は、本件発明11の「含フッ素エーテル化合物(B1)」と共通する。 甲A1−1発明、甲A1−2発明の「表面処理剤」は、含フッ素エーテル化合物を含む組成物であるから、本件発明11の「含フッ素エーテル組成物」に相当する。 そうすると、本件発明11と甲A1−1発明、甲A1−2発明は、 「下式(A1)で表される含フッ素エーテル化合物(A1)と下式(B1)で表される含フッ素エーテル化合物(B1)とを含むことを特徴とする含フッ素エーテル組成物。 [Rf1a−O−Qa−Rfa−]raZa[−SiRanaLa3−na]sa ・・・(A1) [Rf1b−O−Qb−Rfb−]rbZb[−SiRbnbLb3−nb]sb ・・・(B1) ただし、Rf1aおよびRf1bは、ペルフルオロアルキル基であり、 QaおよびQbは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2〜5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該ポリオキシフルオロアルキレン基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、 Rfaは、(CF2O)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、 Rfbは、(CF2O)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、 Zaは、(ra+sa)価の連結基であり、 Zbは、(rb+sb)価の連結基であり、 LaおよびLbは、水酸基または加水分解性基であり、 RaおよびRbは、水素原子または1価の炭化水素基であり、 naおよびnbは、0〜2の整数であり、 naが0または1のときの(3−na)個のLa、nbが0または1のときの(3−nb)個のLbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、 naが2のときna個のRa、nbが2のときnb個のRbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、 raおよびrbは、1以上の整数であり、raが2以上のときra個の[Rf1a−O−Qa−Rfa−]は、同一であっても異なっていてもよく、rbが2以上のときrb個の[Rf1b−O−Qb−Rfb−]は、同一であっても異なっていてもよく、 saは、3以上の整数であり、sa個の[−SiRanaLa3−na]は、同一であっても異なっていてもよい。」で一致し、以下の点で相違する。 <相違点3> 本件発明11では、 式(B1)で表される含フッ素エーテル化合物(B1)について、−SiRbnbLb3−nb基を「3個以上」有する(sbは3以上の整数)のに対し、 甲A1−1発明、甲A1−2発明では、 -Si(OC2H5)3で表される基が「1個」(sbは1)である点 イ.判断 相違点3は、相違点1と同じ内容であるから、相違点3として挙げた本件発明11の発明特定事項は、(3)イで示した相違点1と同様の理由により、甲A1の記載及び本件特許の優先日の技術常識に基づき当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 ウ.小括 以上のとおり、本件発明11は、甲A1−1発明、甲A1−2発明及び本件特許の優先日の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (6)本件発明3〜5、8〜10、12〜14について 本件発明3〜5、8〜10、12〜14は、本件発明1、本件発明2又は本件発明11を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明3〜5、8〜10、12〜14と甲A1−1発明、甲A1−2発明は、少なくとも相違点1〜3で相違し、かかる相違点として挙げた本件発明1、本件発明2又は本件発明11の発明特定事項は、甲A1の記載及び本件特許の優先日の技術常識に基づき当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 なお、申立人Aは、訂正前の本件発明5、14に対して甲A3を提示しているが、甲A3の記載を考慮しても、本件発明5、14が、当業者が容易に想到し得たものとはいえないことは上記のとおりである。 (7)まとめ 以上のとおり、本件発明1〜5、8〜14は、甲A1−1発明、甲A1−2発明、すなわち、甲A1に記載された発明と甲A1の記載及び本件特許の優先日の技術常識に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1〜11に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由2(進歩性)又は申立人Aによる申立理由A2より取り消すことができない。 2.取消理由通知書の取消理由2(サポート要件)の判断 取消理由通知書で採用した取消理由2(サポート要件)は、申立人Aによる申立理由A3、申立人Bによる申立理由B2と同じである。 (1)本件明細書の発明の詳細な説明に記載された事項 本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 本a 「【0006】 しかし、本発明者によれば、上記のような含フッ素エーテル組成物によって形成される表面層は、指等による摩擦が繰り返されたときに潤滑性、撥水撥油性等の性能が低下しやすい(耐久性が低い)ことが分かった。そのため、潤滑性および耐久性の両特性を高いレベルで両立することが難しい。 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は、潤滑性および耐久性に優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル組成物およびコーティング液、ならびに潤滑性および耐久性に優れる表面層を有する物品の提供を目的とする。」 本b 「【0100】 (本組成物の組成) 本組成物において、化合物(A)と化合物(B)の合計に対する化合物(A)の含有量(化合物(A)/[化合物(A)+化合物(B)]の質量割合)は、10〜80質量%が好ましく、20〜50質量%が特に好ましい。化合物(A)の含有量が前記範囲内で高いほど、表面層の潤滑性がより優れる。化合物(A)の含有量が前記範囲内で低いほど(すなわち、化合物(A)と化合物(B)の合計に対する化合物(B)の含有量が高いほど)、表面層の耐久性がより優れる。」 「【0116】 〔作用効果〕 本組成物および本コーティング液にあっては、化合物(A)および化合物(B)を含むため、潤滑性および耐久性に優れる表面層を形成できる。すなわち、本組成物または本コーティング液を用いて基材の表面に表面層が形成されることによって、優れた初期の潤滑性、撥水撥油性等の特性が付与されるとともに、該表面が繰り返し摩擦されてもそれらの特性が低下しにくい優れた耐久性が得られる。また、表面が繰り返し摩擦されても撥水撥油性が低下しにくいことから、基材の表面の指紋汚れを容易に除去できる性能(指紋汚れ除去性)が得られる。 化合物(A)は、A鎖に(CF2O)単位を含むため、潤滑性に優れる。その一方で、(CF2O)単位を含まない場合に比べて、耐久性に劣る。化合物(B)は、B鎖に(CF2O)単位を含まないため、耐久性に優れる。その一方で、(CF2O)単位を含む場合に比べて、潤滑性に劣る。これらを組み合わせたときに、それぞれの優れた特性が充分に維持され、優れた潤滑性および耐久性を両立できる。この理由としては、潤滑性が高い成分(化合物(A))により摩耗にかかる力を分散させ、耐久性の高い成分(化合物(B))の耐久性をさらに高めていることが考えられる。」 本c 「【実施例】 【0118】 以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下、「%」は特に断りのない限り「質量%」である。 例8〜11、14〜17、20〜23、26〜29、42〜49、52〜59、61〜65は実施例であり、例1〜5、7、13、19、25は参考例であり、例6、12、18、24、30〜41、50〜51、60、66〜67は比較例である。 【0119】 〔物性および評価〕 (数平均分子量) 含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、1H−NMRおよび19F−NMRによって、末端基を基準にしてオキシペルフルオロアルキレン基の数(平均値)を求めることによって算出した。末端基は、たとえば基(I)または基(II)である。 【0120】 (水接触角) 表面層の表面に置いた約2μLの蒸留水の接触角(水接触角)を、接触角測定装置(協和界面科学社製、DM−701)を用いて20℃で測定した。表面層の表面における異なる5箇所で測定を行い、その平均値を算出した。接触角の算出には2θ法を用いた。水接触角が大きいほど、撥水性に優れる。 【0121】 (潤滑性) 人工皮膚(出光テクノファイン社製、PBZ13001)に対する表面層の動摩擦係数を、荷重変動型摩擦摩耗試験システム(新東科学社製、HHS2000)を用い、接触面積:3cm×3cm、荷重:0.98Nの条件で測定した。動摩擦係数が小さいほど潤滑性に優れる。 【0122】 (耐久性1(接触角100°以上の維持回数)) 表面層について、JIS L0849:2013(ISO 105−X12:2001)に準拠して往復式トラバース試験機(ケイエヌテー社製)を用い、スチールウールボンテスター(♯0000)を圧力:98.07kPa、速度:320cm/分で往復させた。千回往復させる毎に水接触角を測定して、水接触角100°以上が維持される上限の回数(接触角100°以上の維持回数)を求めた。この回数が多いほど、表面層が摩擦によって損なわれにくく、耐久性に優れる。 【0123】 (耐久性2(動摩擦係数の低下しにくさ)) 前記<耐久性1>の条件で3千回スチールウールボンテスターを往復させた後、前記<潤滑性>と同条件で動摩擦係数を測定した。動摩擦係数の変化が小さいほど、最表面が摩擦によって損なわれにくく、耐久性に優れる。 【0124】 〔原料〕 (A−1):後述する製造例A−1で得た組成物(A−1)。 (A−2):後述する製造例A−2で得た組成物(A−2)。 (A−3):後述する製造例A−3で得た化合物(A−3)。 (A−4):後述する製造例A−4で得た化合物(A−4)。 (A−5):後述する製造例A−5で得た化合物(A−5)。 【0125】 (B−1):後述する製造例B−1で得た化合物(B−1)。 (B−2):後述する製造例B−2で得た組成物(B−2)。 (B−3):後述する製造例B−3で得た化合物(B−3)。 (B−4):後述する製造例B−4で得た化合物(B−4)。 (B−5):後述する製造例B−5で得た化合物(B−5)。 (B−6):東レ・ダウコーニング社製「2634コーティング」の溶媒を留去して使用した。CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)21CF2CF2CH2OCH2CH2CH2Si(OCH3)3。 【0126】 (C−1):CF3O{(CF2O)r1(CF2CF2O)r2}CF3で表される含フッ素エーテル化合物(r1/r2=20/21)(ソルベイソレクシス社製「FOMBLIN M03」)。 【0127】 前記(A−1)〜(A−5)、(B−1)〜(B−5)、(C−1)が有するポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖の繰り返し単位、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖の数(以下、PEPE数とも記す。)、基(I)の数および数平均分子量(Mn)を表1に示す。 なお、(A−1)〜(A−5)および(C−1)における繰り返し単位「(CF2O)(CF2CF2O)」は、(CF2O)単位と(CF2CF2O)単位とがランダムに配置されたポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であることを表す。 【0128】 【表1】 【0129】 〔製造例A−1〕 300mLの3つ口フラスコに、24%KOH水溶液の24.4g、tert−ブチルアルコールの33g、化合物(1)(ソルベイソレクシス社製、FLUOROLINK(登録商標)D4000)の220gを入れ、CF3CF2CF2−O−CF=CF2(東京化成工業社製)の19.4gを加えた。窒素雰囲気下、60℃で8時間撹拌した。希塩酸水溶液で1回洗浄し、有機相を回収し、エバポレータで濃縮することによって、粗生成物の233gを得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィに展開して分取した。展開溶媒としては、C6F13CH2CH3(旭硝子社製、AC−6000)、AC−6000/CF3CH2OCF2CF2H(旭硝子社製、AE−3000)=1/2(質量比)、AE−3000/酢酸エチル=9/1(質量比)を順に用いた。各フラクションについて、末端基の構造および構成単位の単位数(x1、x2)の平均値を1H−NMRおよび19F−NMRの積分値から求めた。粗生成物中には化合物(2)、化合物(3)および化合物(1)がそれぞれ、42モル%、49モル%および9モル%含まれていたことがわかった。化合物(2)の98.6g(収率:44.8%)および化合物(3)の51.9g(収率:23.6%)が得られた。 HO−CH2−(CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}−CF2−CH2−OH ・・・(1) CF3CF2CF2−O−CHFCF2OCH2−(CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}−CF2−CH2−OH ・・・(2) CF3CF2CF2−O−CHFCF2OCH2−(CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}−CF2−CH2OCF2CHF−O−CF2CF2CF3 ・・・(3) 化合物(2):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,150。 化合物(3):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,420。 【0130】 100mLのナスフラスコに、化合物(2)の30.0g、フッ化ナトリウム粉末の0.9g、ジクロロペンタフルオロプロパン(旭硝子社製、AK−225)の30gを入れ、CF3CF2CF2OCF(CF3)COFの3.5gを加えた。窒素雰囲気下、50℃で24時間撹拌した。加圧ろ過器でフッ化ナトリウム粉末を除去した後、過剰のCF3CF2CF2OCF(CF3)COFおよびAK−225を減圧留去した。得られた粗生成物をC6F13H(旭硝子社製、AC−2000)で希釈し、シリカゲルカラムに通し、回収した溶液をエバポレータで濃縮し、化合物(4)の31.8g(収率98.8%)を得た。 CF3CF2CF2−O−CHFCF2OCH2−(CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}−CF2−CH2−OCOCF(CF3)OCF2CF2CF3 ・・・(4) 化合物(4):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,460。 【0131】 1Lのニッケル製オートクレーブのガス出口に、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層および0℃に保持した冷却器を直列に設置した。0℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻す液体返送ラインを設置した。 オートクレーブにClCF2CFClCF2OCF2CF2Cl(以下、CFE−419とも記す。)の750gを入れ、25℃に保持しながら撹拌した。オートクレーブに窒素ガスを25℃で1時間吹き込んだ後、20%フッ素ガスを、25℃、流速2.0L/時間で1時間吹き込んだ。20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、オートクレーブに、化合物(4)の31.0gをCFE−419の124gに溶解した溶液を、4.3時間かけて注入した。20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、オートクレーブの内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで加圧した。オートクレーブ内に、CFE−419中に0.05g/mLのベンゼンを含むベンゼン溶液の4mLを、25℃から40℃にまで加熱しながら注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉めた。15分間撹拌した後、再びベンゼン溶液の4mLを、40℃を保持しながら注入し、注入口を閉めた。同様の操作をさらに3回繰り返した。ベンゼンの注入総量は0.17gであった。20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、1時間撹拌を続けた。オートクレーブ内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間吹き込んだ。オートクレーブの内容物をエバポレータで濃縮し、化合物(5)の31.1g(収率98.5%)を得た。 CF3CF2CF2−O−(CF2CF2O)(CF2CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}(CF2CF2O)−COCF(CF3)OCF2CF2CF3 ・・・(5) 化合物(5):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,550。 【0132】 テトラフルオロエチレン−ペルフルオロ(アルコキシビニルエーテル)共重合体(以下、PFAとも記す。)製丸底フラスコに、化合物(5)の30.0gおよびAK−225の60gを入れた。氷浴で冷却しながら撹拌し、窒素雰囲気下、メタノールの2.0gを滴下漏斗からゆっくり滴下した。窒素でバブリングしながら12時間撹拌した。反応混合物をエバポレータで濃縮し、化合物(6)の27.6g(収率98.8%)を得た。 CF3CF2CF2−O−(CF2CF2O)(CF2CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}−CF2−COOCH3 ・・・(6) 化合物(6):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,230。 【0133】 100mLの3つ口ナスフラスコ内にて、塩化リチウムの0.18gをエタノールの18.3gに溶解させた。これに化合物(6)の25.0gを加えて氷浴で冷却しながら、水素化ホウ素ナトリウムの0.75gをエタノールの22.5gに溶解した溶液をゆっくり滴下した。氷浴を取り外し、室温までゆっくり昇温しながら撹拌を続けた。室温で12時間撹拌後、液性が酸性になるまで塩酸水溶液を滴下した。AC−2000の20mLを添加し、水で1回、飽和食塩水で1回洗浄し、有機相を回収した。回収した有機相をエバポレータで濃縮し、化合物(7)の24.6g(収率99.0%)を得た。 CF3CF2CF2−O−(CF2CF2O)(CF2CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}−CF2−CH2OH ・・・(7) 化合物(7):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,200。 【0134】 100mLの2つ口ナスフラスコに、化合物(7)の20.0g、硫酸水素テトラブチルアンモニウムの0.21g、BrCH2CH=CH2の1.76gおよび30%水酸化ナトリウム水溶液の2.6gを加え、60℃で8時間撹拌した。反応終了後、AC−2000の20gを加え、希塩酸水溶液で1回洗浄し、有機相を回収した。回収した有機相をシリカゲルカラムに通し、回収した溶液をエバポレータで濃縮し、化合物(8)の19.8g(収率98.2%)を得た。 CF3CF2CF2−O−(CF2CF2O)(CF2CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}−CF2−CH2OCH2CH=CH2 ・・・(8) 化合物(8):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,250。 【0135】 100mLのPFA製ナスフラスコに、化合物(8)の5.0g、白金/1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金含有量:2%)の0.005g、HSi(OCH3)3の0.25g、ジメチルスルホキシドの0.005gおよび1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(東京化成工業社製)の0.20gを入れ、40℃で4時間撹拌した。反応終了後、溶媒等を減圧留去し、孔径0.2μmのメンブランフィルタでろ過し、化合物(8)の1個のアリル基がヒドロシリル化された化合物(9)および化合物(8)の1個のアリル基がインナーオレフィン(−CH=CHCH3)に異性化した副生物からなる組成物(A−1)の4.9g(収率95%)を得た。ヒドロシリル化の転化率は100%であり、化合物(8)は残存していなかった。ヒドロシリル化の選択率は95%であった。 CF3CF2CF2−O−(CF2CF2O)(CF2CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}−CF2−CH2OCH2CH2CH2−Si(OCH3)3 ・・・(9) 【0136】 化合物(9)のNMRスペクトル; 1H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.7(6H)、1.7(6H)、3.6(11H)、3.8(2H)。 19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:C6F6) δ(ppm):−52.4〜−55.8(42F)、−78.2(1F)、−80.2(1F)、−82.2(3F)、−89.4〜−91.1(90F)、−130.5(2F)。 単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物(9)の数平均分子量:4,370。 【0137】 〔製造例A−2〕 100mLの2つ口ナスフラスコに、製造例A−1で得た化合物(7)の20.0g、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(東京化成工業社製)の20.0g、CF3SO2Cl(和光純薬工業社製)の1.01gおよびトリエチルアミンの1.00gを入れ、窒素雰囲気下、室温で4時間撹拌した。反応終了後、AK−225の15gを加え、水および飽和食塩水で各1回洗浄し、有機相を回収した。回収した有機相をエバポレータで濃縮し、化合物(10)の20.3g(収率99%)を得た。 CF3CF2CF2−O−(CF2CF2O)(CF2CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}−CF2−CH2OSO2CF3 ・・・(10) 化合物(10):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,340。 【0138】 50mLのナスフラスコ内に、化合物(10)の15.0g、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(東京化成工業社製)の15.0g、HN(CH2CH=CH2)2(東京化成工業社製)の2.27g、およびトリエチルアミンの0.68gを入れ、窒素雰囲気下、90℃で24時間撹拌した。反応終了後、AK−225の15gを加え、水および飽和食塩水で各1回洗浄し、有機相を回収した後、シリカゲル1.5gと混合し、フィルタろ過で有機相を回収した。 回収した有機相をエバポレータで濃縮し、化合物(11)の14.4g(収率98%)を得た。 CF3CF2CF2−O−(CF2CF2O)(CF2CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}−CF2−CH2−N(CH2CH=CH2)2 ・・・(11) 化合物(11):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,280。 【0139】 100mLのPFA製ナスフラスコに、化合物(11)の12.0g、白金/1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金含有量:2%)の0.03g、HSi(OCH3)3の1.3g、ジメチルスルホキシドの0.01gおよび1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(東京化成工業社製)の0.5gを入れ、40℃で10時間撹拌した。反応終了後、溶媒等を減圧留去し、孔径0.2μmのメンブランフィルタでろ過し、化合物(11)の2個のアリル基がヒドロシリル化された化合物(12)および化合物(11)の2個のアリル基が分子内で環化して生成した副生物からなる組成物(A−2)の11.9g(収率92%)を得た。ヒドロシリル化の転化率は100%であり、化合物(11)は残存していなかった。ヒドロシリル化の選択率は81%であった。 CF3CF2CF2−O−(CF2CF2O)(CF2CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}−CF2−CH2−N[CH2CH2CH2−Si(OCH3)3]2 ・・・(12) 【0140】 化合物(12)のNMRスペクトル; 1H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.7(4H)、1.6(4H)、2.6(4H)、3.1(2H)、3.6(18H)。 19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):−52.4〜−55.7(42F)、−74.4(1F)、−76.6(1F)、−82.2(3F)、−89.4〜−91.1(90F)、−130.5(2F)。 単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物(12)の数平均分子量:4,530。 【0141】 〔製造例A−3〕 50mLのナスフラスコに、製造例A−1で得た化合物(6)の5.0gおよびH2N−CH2−C(CH2CH=CH2)3の0.2gを入れ、12時間撹拌した。NMRから、化合物(6)がすべて化合物(13)に変換していることを確認した。また、副生物であるメタノールが生成していた。得られた溶液をAE−3000の9.0gで希釈し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:AE−3000)で精製し、化合物(13)の4.4g(収率85%)を得た。 CF3CF2CF2−O−(CF2CF2O)(CF2CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}−CF2−C(O)NH−CH2−C(CH2CH=CH2)3 ・・・(13) 化合物(13):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,360。 【0142】 10mLのPFA製サンプル管に、化合物(13)の4g、白金/1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金含有量:2%)の0.4mg、HSi(OCH3)3の0.33g、ジメチルスルホキシドの0.01g、1,3―ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(東京化成工業社製)の0.2gを入れ、40℃で10時間撹拌した。反応終了後、溶媒等を減圧留去し、1.0μm孔径のメンブランフィルタでろ過し、化合物(A−3)の4.3g(収率100%)を得た。 CF3CF2CF2−O−(CF2CF2O)(CF2CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}−CF2−C(O)NH−CH2−C[CH2CH2CH2−Si(OCH3)3]3 ・・・(A−3) 【0143】 化合物(A−3)のNMRスペクトル; 1H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.75(6H)、1.3〜1.6(12H)、3.4(2H)、3.7(27H)。 19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):−52.4〜−55.8(42F)、−82.2(3F)、−89.4〜−91.1(92F)、−130.8(2F)。 単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物(A−3)の数平均分子量:4,720。 【0144】 〔製造例A−4〕 300mLの3つ口フラスコ内に、ジペンタエリスリトール(ACROS社製)の15.0g、48%NaOH水溶液の29.5g、ジメチルスルホキシドの150gを入れた。40℃に加熱し、5−ブロモ−1−ペンテン(東京化成工業社製)の39.5gを加え、4時間撹拌した。希塩酸水溶液で1回洗浄し、シクロペンチルメチルエーテルの200gを加え、有機相を回収した。回収した溶液をエバポレータで濃縮し、粗生成物の29.4gを得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィに展開して化合物(14)の5.3gおよび化合物(15)の6.0gを分取した。 【0145】 【化5】 【0146】 50mLの2つ口ナスフラスコ内に、化合物(14)の1.0g、2,6−ルチジンの0.4g、AE−3000の5gを入れた。氷浴で冷却しながら撹拌し、窒素雰囲気下で、無水トリフルオロメタンスルホン酸の0.5gをゆっくり滴下した。さらに1時間撹拌し、希塩酸水溶液で1回洗浄し、有機相を回収した。回収した溶液をエバポレータで濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィに展開して、化合物(14)のHO−がCF3SO3−に変換された化合物(16)の1.2gを分取した。 【0147】 50mLのナスフラスコに、化合物(16)の1.0g、国際公開第2015/087902号の製造例6に記載の方法によって得た化合物(17)の6.6g、炭酸セシウムの2.7g、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンの6.6gを入れ、80℃還流条件下で4時間撹拌した。AE−3000を10g加え、希塩酸水溶液で1回洗浄し、有機相を回収した。回収した溶液をエバポレータで濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィに展開して、化合物(16)のCF3SO3−がCF3CF2CF2O{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}CF2−CH2−O−に変換された化合物(18)の6.6gを分取した。 CF3CF2CF2O{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}CF2−CH2−OH ・・・(17) 【0148】 100mLのPFA製ナスフラスコに、化合物(18)の6.0g、白金/1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金含有量:2%)の0.03g、トリメトキシシラン(東京化成工業社製)の1.2g、ジメチルスルホキシドの0.01gおよび1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンの0.9gを入れ、40℃で4時間撹拌した。溶媒等を減圧留去し、孔径0.2μmのメンブランフィルタでろ過し、化合物(18)の5つのアリル基がヒドロシリル化された化合物(A−4)の6.4gを得た。ヒドロシリル化の転化率は100%であり、化合物(18)は残存していなかった。ヒドロシリル化の選択率は100%であった。 ここで、化合物(A−4)は、前記化合物(A13−3)のW−R51a−が式(Rf−1)で表される基である化合物である。 【0149】 〔製造例A−5〕 化合物(14)の代わりに、製造例A−4で得た化合物(15)を用いた以外は製造例A−4と同様にして、化合物(15)の2個のHO−が全てCF3SO3−に変換された化合物(19)を得た。次に、化合物(16)の代わりに化合物(19)を用いた以外は製造例A−4(3)と同様にして、化合物(19)の2個のCF3SO3−が全てCF3CF2CF2O{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}CF2−CH2−O−に変換された化合物(20)を得た。次に、化合物(18)の代わりに化合物(20)を用いた以外は製造例A−4と同様にして、化合物(20)の4つのアリル基がヒドロシリル化された化合物(A−5)の6.4gを得た。 ここで、化合物(A−5)は、前記化合物(A13−4)のW−R51a−が式(Rf−1)で表される基である化合物である。 【0150】 〔製造例B−1〕 国際公開第2013/121984号の実施例6に記載の方法にしたがい、化合物(B−1)を得た。 CF3−O−(CF2CF2O−CF2CF2CF2CF2O)x3(CF2CF2O)−CF2CF2CF2−CONHCH2CH2CH2−Si(OCH3)3 ・・・(B−1) 化合物(B−1):単位数x3の平均値13、数平均分子量4,870。 【0151】 〔製造例B−2〕 国際公開第2013/121984号の実施例7に記載の方法にしたがい、化合物(21)を得た。 CF3−O−(CF2CF2O−CF2CF2CF2CF2O)x3(CF2CF2O)−CF2CF2CF2−CH2OH ・・・(21) 化合物(21):単位数x3の平均値13、数平均分子量4,700。 【0152】 化合物(7)を化合物(21)に、CF3SO2Cl(和光純薬工業社製)の量を0.86gに、トリエチルアミンの量を1.02gに変更した以外は製造例A−2と同様にして、化合物(22)の30.6g(収率99%)を得た。 CF3−O−(CF2CF2O−CF2CF2CF2CF2O)x3(CF2CF2O)−CF2CF2CF2−CH2OSO2CF3 ・・・(22) 化合物(22):単位数x3の平均値13、数平均分子量4,830。 【0153】 化合物(10)を化合物(22)に、HN(CH2CH=CH2)2の量を2.08gに、トリエチルアミンの量を0.63gに変更した以外は製造例A−2と同様にして、化合物(23)の14.6g(収率98%)を得た。 CF3−O−(CF2CF2O−CF2CF2CF2CF2O)x3(CF2CF2O)−CF2CF2CF2−CH2−N(CH2CH=CH2)2 ・・・(23) 化合物(23):単位数x3の平均値13、数平均分子量4,780。 【0154】 化合物(11)を化合物(23)に、白金錯体溶液の量を0.029gに、HSi(OCH3)3の量を1.2gに変更した以外は製造例A−2と同様にして、化合物(23)の2個のアリル基がヒドロシリル化された化合物(24)および化合物(23)の2個のアリル基が分子内で環化して生成した副生物からなる組成物(B−2)の11.8g(収率94%)を得た。ヒドロシリル化の転化率は100%であり、化合物(23)は残存していなかった。ヒドロシリル化の選 択率は80%であった。 CF3−O−(CF2CF2O−CF2CF2CF2CF2O)x3(CF2CF2O)−CF2CF2CF2−CH2−N[CH2CH2CH2−Si(OCH3)3]2 ・・・(24) 【0155】 化合物(24)のNMRスペクトル; 1H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.7(4H)、1.6(4H)、2.6(4H)、3.2(2H)、3.6(18H)。 19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:C6F6) δ(ppm):−56.3(3F)、−84.0(54F)、−89.2(54F)、−91.4(2F)−120.9(2F)、−126.6(54F)。 単位数x3の平均値:13、化合物(24)の数平均分子量:5,020。 【0156】 〔製造例B−3〕 国際公開第2013/121984号の実施例6に記載の方法にしたがい、化合物(25)を得た。 CF3−O−(CF2CF2O−CF2CF2CF2CF2O)x3(CF2CF2O)−CF2CF2CF2−C(O)OCH3 ・・・(25) 化合物(25):単位数x3の平均値13、数平均分子量4,700。 【0157】 化合物(6)を化合物(25)の9.0gに、H2N−CH2−C(CH2CH=CH2)3の量を0.45gに変更した以外は製造例A−3と同様にして、化合物(26)の7.6g(収率84%)を得た。 CF3−O−(CF2CF2O−CF2CF2CF2CF2O)x3(CF2CF2O)−CF2CF2CF2−C(O)NH−CH2−C(CH2CH=CH2)3 ・・・(25) 化合物(26):単位数x3の平均値13、数平均分子量4,800。 【0158】 化合物(13)を化合物(26)の6.0gに、白金錯体溶液の量を0.07gに、HSi(OCH3)3の量を0.78gに、ジメチルスルホキシドの量を0.02gに、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(東京化成工業社製)の量を0.49gに変更した以外は製造例A−3と同様にして、化合物(B−3)の6.7g(収率100%)を得た。 CF3−O−(CF2CF2O−CF2CF2CF2CF2O)x3(CF2CF2O)−CF2CF2CF2−C(O)NH−CH2−C[CH2CH2CH2−Si(OCH3)3]3 ・・・(B−3) 【0159】 化合物(B−3)のNMRスペクトル; 1H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.75(6H)、1.3〜1.6(12H)、3.4(2H)、3.7(27H)。 19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):−55.2(3F)、−82.1(54F)、−88.1(54F)、−902(2F)、−119.6(2F)、−125.4(52F)、−126.2(2F)。 単位数x3の平均値:13、化合物(B−3)の数平均分子量:5,400。 【0160】 〔製造例B−4〕 化合物(17)の代わりに、国際公開第2013/121984号の実施例7に記載の方法によって得られた化合物(27)(m25の平均値:13、数平均分子量:4,700)を用いた以外は製造例A−4と同様にして、化合物(16)のCF3SO3−がCF3O(CF2CF2OCF2CF2CF2CF2O)m25CF2CF2OCF2CF2CF2−CH2−O−に変換された化合物(28)を得た。次に、化合物(18)の代わりに化合物(28)を用いた以外は製造例A−4と同様にして、化合物(28)の5つのアリル基がヒドロシリル化された化合物(B−4)の6.3gを得た。 CF3O(CF2CF2OCF2CF2CF2CF2O)m25CF2CF2OCF2CF2CF2−CH2−OH ・・・(27) ここで、化合物(B−4)は、前記化合物(A13−3)のW−R51a−が式(Rf−3)で表される基である化合物である。 【0161】 〔製造例B−5〕 化合物(17)の代わりに化合物(27)を用いた以外は製造例A−5と同様にして、化合物(19)の2個のCF3SO3−が全てCF3CF2CF2O{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}CF2−CH2−O−に変換された化合物(29)を得た。次に、化合物(18)の代わりに化合物(29)を用いた以外は製造例A−4と同様にして、化合物(29)の4つのアリル基がヒドロシリル化された化合物(B−5)の6.1gを得た。 ここで、化合物(B−5)は、前記化合物(A13−4)のW−R51a−が式(Rf−3)で表される基である化合物である。 【0162】 〔例1〕 (A−1)の50質量部と(B−1)の50質量部とを混合して組成物を調製した。この組成物を用いて、下記のドライコーティング法により、基材の表面処理を行い、例1の物品を得た。基材としては化学強化ガラスを用いた。得られた物品について、耐久性1(接触角100°以上の維持回数)、潤滑性および耐久性2(動摩擦係数の低下しにくさ)を評価した。結果を表3〜5に示す。 【0163】 (ドライコーティング法) ドライコーティングは、真空蒸着装置(昭和真空社製、SGC−22WA)を用いて行った(真空蒸着法)。組成物の35mgを真空蒸着装置内のモリブデン製ボートに充填し、真空蒸着装置内を5×10−3Pa以下に排気した。組成物を配置したボートを加熱し、組成物を基材の表面に堆積することによって、基材の表面に蒸着膜を形成した。蒸着膜が形成された基材を、温度:25℃、湿度:40%の条件で一晩放置し、基材の表面に表面層を有する物品を得た。 【0164】 〔例2〜40〕 使用する化合物の種類と組み合わせを表2に示すように変更した以外は例1と同様にして、組成物を調製し、表面層を形成して物品を得て、得られた物品の評価を行った。2種の化合物を組合わせた例において、各化合物の質量比は全て50:50である。結果を表3〜5に示す。 【0165】 【表2】 【0166】 耐久性1(接触角100°以上の維持回数) 【表3】 【0167】 潤滑性(動摩擦係数) 【表4】 【0168】 耐久性2(動摩擦係数の低下しにくさ) 【表5】 【0169】 化合物(A)と化合物(B)とを組み合わせた例1〜5、7〜11、13〜17、19〜23、25〜29の組成物は、化合物(B)と基(I)を有しない化合物(C−1)とを組み合わせた例36〜40の組成物に比べて、耐久性および潤滑性に優れていた。また、化合物(B)を単独で用いた例31〜35に比べて、潤滑性に優れていた。また、化合物(A)および化合物(B)それぞれが有する基(I)の数が多くなるにつれて、耐久性が向上する傾向が見られた。 【0170】 (例41〜50) (A−3)と(B−3)との混合比(質量比)を表6に示すようにした以外は例15と同様にして、組成物を調製し、前記ドライコーティング法により、基材の表面層を形成して物品を得て、得られた物品の評価を行った。結果を表6に示す。 また、各組成物を用いて、下記のウェットコーティング法により、基材の表面処理を行い物品を得た。基材としては化学強化ガラスを用いた。得られた物品について、耐久性1および潤滑性を評価した。結果を表7に示す。 【0171】 (ウェットコーティング法) 例41〜50で得た各組成物と、液状媒体としてのC4F9OC2H5(3M社製、ノベック(登録商標)7200)とを混合して、固形分濃度0.05%のコーティング液を調製した。コーティング液に基材をディッピングし、30分間放置後、基材を引き上げた(ディップコート法)。塗膜を120℃で30分間乾燥させ、AK−225にて洗浄することによって、基材の表面に表面処理層を有する物品を得た。 【0172】 【表6】 【0173】 【表7】 【0174】 (例51〜60) (A−4)と(B−4)との混合比(質量比)を表8に示すようにした以外は例22と同様にして、組成物を調製し、前記ドライコーティング法により、基材の表面層を形成して物品を得て、得られた物品の評価を行った。結果を表8に示す。 【0175】 【表8】 【0176】 化合物(A)と化合物(B)とを併用することで、各化合物を単独で用いた場合に比べて、潤滑性および耐久性の両特性をより高いレベルで両立できた。化合物(A)/化合物(B)の質量比が20/80〜50/50の範囲内のときに、耐久性および潤滑性が特に優れていた。」 (2)特許法第36条第6項第1号の考え方 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。そこで、この点について、以下に検討する。 (3)本件発明の課題について 本件明細書の【0006】には、従来、「含フッ素エーテル組成物によって形成される表面層は、指等による摩擦が繰り返されたときに潤滑性、撥水撥油性等の性能が低下しやすい(耐久性が低い)」ため、「潤滑性および耐久性の両特性を高いレベルで両立することが難しい。」との技術課題が記載され、同【0007】に、「本発明は、潤滑性および耐久性に優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル組成物およびコーティング液、ならびに潤滑性および耐久性に優れる表面層を有する物品の提供を目的とする。」と記載されるので、本件発明が解決しようとする課題は、潤滑性および耐久性を高いレベルで両立した表面層を形成できる含フッ素エーテル組成物およびコーティング液、ならびに潤滑性および耐久性を高いレベルで両立した表面層を有する物品を提供することにあると解される(本a)。 (4)本件発明1のサポート要件について 本件明細書の【0116】には、「化合物(A)は、A鎖に(CF2O)単位を含むため、潤滑性に優れる。その一方で、(CF2O)単位を含まない場合に比べて、耐久性に劣る」のに対し、「化合物(B)は、B鎖に(CF2O)単位を含まないため、耐久性に優れる。その一方で、(CF2O)単位を含む場合に比べて、潤滑性に劣る」ため、「これらを組み合わせたときに、それぞれの優れた特性が充分に維持され、優れた潤滑性および耐久性を両立でき」ることが記載され(本b)、特に、分子中に3個の「Si(OC2H5)3」を有する含フッ素エーテル化合物(A)、(B)の効果は、以下で示すとおり、実施例の【表2】〜【表9】のA−3〜A−5の化合物とB−3〜B−5の化合物の併用例において裏付けられているといえる(本c)。 【表6】、【表8】に着目すると、【表6】には、A−3とB−3を特定の質量比で混合した組成物を、ドライコーティング法により基材の表面層を形成した物品の耐久性1および潤滑性の試験結果が記載され、【表8】には、A−3とB−3を特定の質量比で混合した組成物を、ドライコーティング法により基材の表面層を形成した物品の耐久性1および潤滑性の試験結果が記載されている。 【表6】より、A−3単独の耐久性I、潤滑性が「11,000」、「0.20」、B−3単独の耐久性I、潤滑性が「13,000」、「0.38」であるところ、例42をみると、潤滑性に優れるとされるA−3を10質量%含有させるだけで、潤滑性が「0.38」から「0.29」に大きく低減し、耐久性IはA−3、B−3の単独では得られない「14,000」まで上昇することが示され、例46をみると、A−3を50質量%含有させるだけで、潤滑性がA−3単独の「0.20」に近い「0.23」のレベルまで大きく低減し、耐久性に優れるとされるB−3が半減しても、B−3単独の耐久性Iの「13,000」よりも高い「14,000」となることが記載されている。 【表8】より、A−4単独の耐久性I、潤滑性が「10,000」、「0.23」、B−4単独の耐久性I、潤滑性が「11,000」、「0.39」であるところ、例52をみると、潤滑性に優れるとされるA−4を10質量%含有させるだけで、潤滑性が「0.39」から「0.31」に大きく低減し、耐久性IはA−4、B−4の単独では得られない「12,000」まで上昇することが示され、例56をみると、A−4を50質量%含有させるだけで、潤滑性がA−4単独の「0.23」に近い「0.26」のレベルまで大きく低減し、耐久性に優れるとされるB−4が半減しても、B−4単独の耐久性Iの「11,000」よりも高い「12,000」となることが記載されている。 同様の傾向は、A−3〜A−5とB−3〜B−5を質量比50:50で混合した各組成物を、ドライコーティング法により基材の表面層を形成した物品の耐久性1を示す【表3】、潤滑性を示す【表4】からも理解できる。 以上からすると、本件発明1の(CF2O)単位を含む含フッ素エーテル化合物(A)と(CF2O)単位を含まない含フッ素エーテル化合物(B)を併用した含フッ素エーテル組成物が、それぞれの優れた特性を充分に維持し、潤滑性および耐久性について高いレベルで両立できることは、上記の【表3】、【表4】、【表6】、【表8】の実験結果において裏付けられているといえるので、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載より、本件発明1の発明特定事項を備えることで、上記(3)の課題を解決できることを当業者は理解し得るといえる。 したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載より、当業者が上記の課題を解決できると認識し得る範囲のものと認められる。 (5)申立人Aによる申立理由A3に係る主張、申立人Bによる 申立理由B2に係る主張について 申立人Aは、「化合物(A)を単独で用いた例30と、化合物(A)と化合物(B)とを組み合わせて用いた例26、28とを比較すると、例26、28のほうが例30よりも、摩擦耐久性および潤滑性の双方において劣っており、本件特許発明の課題が解決されていない」、「わずか4種の連結部分の構造を有する化合物を用いた実施例の記載から当業者が認識できるとは言えない」旨を述べ、「本件特許発明には、本願の課題を解決できない点が含まれていることが明らか」であると主張する。 申立人Bは、「本件特許発明は、化合物(A)と化合物(B)を組み合わせることによって、得られる表面層の潤滑性および耐久性の両特性を高いレベルで両立できるようにするものと解される。このとき、本件特許発明で得られる潤滑性は、組み合わせとして使用される化合物(B)単体よりも優れ、組み合わせとして使用される化合物(A)単体と少なくとも同等のものとなり、また本件特許発明で得られる耐久性は、組み合わせとして使用される化合物(A)単体よりも優れ、組み合わせとして使用される化合物(B)単体と少なくとも同等のものとなっていると解される。」旨を述べ、「本件特許明細書の実施例において、優れた潤滑性および耐久性を両立するという、本件特許発明の作用効果が全体として認められるものは、例58、59のみである」、「本件特許発明1では…両者の含有量比が規定されておらず、本件発明の作用効果が具体的に立証されている範囲に比して広すぎる」と主張する。 しかし、本件明細書を参照しても、本件発明が解決しようとする課題が、化合物(A)を単独で用いた例よりも、耐久性および潤滑性がともに優れる含フッ素エーテル組成物を提供するものであること、又は、化合物(B)単独よりも優れ、化合物(A)単独と少なくとも同等の潤滑性を備え、化合物(A)単独よりも優れ、化合物(B)単独と少なくとも同等の耐久性を備える表面層を形成できる含フッ素エーテル組成物を提供するものであることを明示する記載は見当たらないから、申立人A、Bの主張は、いずれも、本件発明の課題を正解しないものであり、その前提において誤りがあるというべきである。 また、上記(4)で示したとおり、本件明細書の【表3】、【表4】、【表6】、【表8】の実験結果によると、本件発明1の(CF2O)単位を含む含フッ素エーテル化合物(A)と(CF2O)単位を含まない含フッ素エーテル化合物(B)を併用した含フッ素エーテル組成物は、例58、59の組成や含有量比に限らず、潤滑性および耐久性について高いレベルで両立できることが裏付けられており、本件明細書の【0007】に示される上記(3)の課題を解決できることを当業者は理解できる。 なお、申立人Aは、令和3年9月22日提出の意見書で、「非常に嵩高い構造では、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖が有する潤滑能や式(I)で表される基の結合能が発揮できない」、「過酸化物(−O−O−)のような非常に分解性の高い構造は、耐久性が低いと考えられることから、このような化合物を用いた場合にまで課題を解決できることを、当業者は認識できない」旨を述べる。 しかし、申立人Aは、本件明細書の実施例の組み合わせ以外では、優れた潤滑性および耐久性の両立が当業者に期待できないことを窺わせる客観的証拠を何ら提示していないし、そもそも「非常に嵩高い構造」、「過酸化物(−O−O−)のような非常に分解性の高い構造」を有する含フッ素エーテル化合物が、具体的に如何なる構造を想定したものであるのか、製造や入手が可能であるかについても明らかにされていない。 したがって、申立人A、Bの上記主張は、いずれも当を得ないものである。 (6)本件発明2、11について 本件発明2は、本件発明1の「含フッ素エーテル化合物(A)」、「前記含フッ素エーテル化合物(B)」について、いずれも、「式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物である」と特定した発明であり、本件発明11は、「含フッ素エーテル化合物(A)」を、(CF2O)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有する含フッ素エーテル化合物(A1)、「前記含フッ素エーテル化合物(B)」を(CF2O)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有する含フッ素エーテル化合物(B1)に書き換えたものである。 よって、本件発明2、11は、いずれも、本件発明1と同様の発明特定事項を備えるものであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載より、本件発明2、11の発明特定事項を備えることで、上記(3)の課題を解決できることを当業者は理解できる。 したがって、本件発明2、11、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載より、当業者が上記の課題を解決できると認識し得る範囲のものと認められる。 (7)本件発明3〜5、8〜10、12〜14について 本件発明3〜5、8〜10、12〜14は、本件発明1、本件発明2又は本件発明11を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(4)、(6)で本件発明1、2、11について述べたものと同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載より、当業者が上記の課題を解決できると認識し得る範囲のものと認められる。 (8)まとめ 以上のとおり、本件発明1〜5、8〜14は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしており、取消理由通知書に記載した取消理由2(サポート要件)又は申立人Bによる申立理由B1より取り消すことができない。 3.取消理由通知において採用しなかった申立人A、Bによる申立理由 について 申立人Aによる申立理由A2、申立人Bによる申立理由B1は、取消理由通知書で採用した取消理由1(進歩性)と同じであり、申立人Aによる申立理由A3、申立人Bによる申立理由B2は、取消理由通知書で採用した取消理由2(サポート要件)と同じであるから、以下では、申立人Aによる申立理由A1、申立人Bによる申立理由B3について、検討する。 (1)申立人Aによる申立理由A1について 申立理由A1は、訂正前の本件発明1〜4、6、10〜14は、甲1に記載されたものであるというものであるが、1(3)アで示したように、本件発明と甲A1に記載された甲A1−1発明、甲A1−2発明は、相違点1で相違し、1(3)イで示したように、相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえない。 また、1(4)〜(6)で示したように、本件発明1と同様に、本件発明2〜4、10〜14(なお、訂正前の本件発明6は削除されている。)も、甲A1に記載された発明とはいえないので、申立理由A1は理由がない。 (2)申立人Bによる申立理由B3について 申立理由B3は、訂正前の本件発明1における含フッ素エーテル化合物(A)及び含フッ素エーテル化合物(B)について具体的にどのようなものであるかを理解することができず、訂正前の本件発明1の実施に当たり、無数の化合物を製造、スクリーニングして認確するという当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要があるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、訂正前の本件発明1〜14を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないというものである。 しかるところ、本件明細書には、本件発明1の下位概念に当たるA−3〜A−5の化合物、B−3〜B−5の化合物の合成方法及び使用方法が明確に記載されているし、A−3〜A−5の化合物、B−3〜B−5の化合物以外の化合物の製造及び入手やその化合物をコーティング液に使用することが、当業者に困難であることを首肯するに足りる客観的証拠も提示されていない。 そうすると、申立理由B3は理由がなく、本件発明1〜5、8〜14が、実施可能要件に違反しているとは認められない。 (3)まとめ 以上のとおり、本件発明1〜5、8〜14に係る特許は、申立人Aによる申立理由A1、申立人Bによる申立理由B3により取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおり、本件訂正については、適法であるから、これを認める。 本件特許の請求項6〜7に対する各特許異議の申立ては、不適法なものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。 本件特許の請求項1〜5、8〜14に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1〜5、8〜14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 含フッ素エーテル化合物(A)と含フッ素エーテル化合物(B)とを含み、 前記含フッ素エーテル化合物(A)が、(CF2O)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖および2個以上の下式(I)で表される基を有する化合物であり、 前記含フッ素エーテル化合物(B)が、(CF2O)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖および2個以上の前記式(I)で表される基を有する化合物であり、 前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)の両方が、前記式(I)で表される基を3個以上有する、ことを特徴とする含フッ素エーテル組成物。 −SiRnL3−n・・・(I) ただし、Lは水酸基または加水分解性基であり、 Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、 nは0〜2の整数であり、 nが0または1のとき(3−n)個のLは、同一であっても異なっていてもよく、 nが2のときn個のRは、同一であっても異なっていてもよく、 前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)それぞれが有する前記式(I)で表される基は同一であっても異なっていてもよい。 【請求項2】 前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)とが、いずれも、下式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物であって、 前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfが、(CF2O)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、 前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfが、(CF2O)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖である、請求項1に記載の含フッ素エーテル組成物。 [Rf1−O−Q−Rf−]rZ[−SiRnL3−n]s・・・(A/B) ただし、Rf1は、ペルフルオロアルキル基であり、 Qは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2〜5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該ポリオキシフルオロアルキレン基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、 Rfは、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、 Zは、(r+s)価の連結基であり、 −SiRnL3−nは、前記式(I)で表される基であり、 rが2以上の場合は、r個の[Rf1−O−Q−Rf−]は同一の基であり、 s個の式(I)で表される基は同一の基であり、 rは1以上の整数であり、sは3以上の整数であり、r+sは4〜8である。 【請求項3】 前記(CF2O)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖が、(CF2O)単位と(CF2CF2O)単位とを含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖である、請求項1または2に記載の含フッ素エーテル組成物。 【請求項4】 前記(CF2O)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖が、(CF2CF2O)単位、(CF2CF2CF2O)単位および(CF2CF2CF2CF2O)単位から選ばれる少なくとも1種を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。 【請求項5】 前記(CF2O)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖が、(CF2CF2OCF2CF2CF2CF2O)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。 【請求項6】 (削除) 【請求項7】 (削除) 【請求項8】 前記含フッ素エーテル化合物(A)の数平均分子量が2,000〜20,000である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。 【請求項9】 前記含フッ素エーテル化合物(B)の数平均分子量が2,000〜20,000である、請求項1〜5及び8のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。 【請求項10】 前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)の合計に対し、前記含フッ素エーテル化合物(A)を10〜80質量%含む、請求項1〜5、8及び9のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。 【請求項11】 下式(A1)で表される含フッ素エーテル化合物(A1)と下式(B1)で表される含フッ素エーテル化合物(B1)とを含むことを特徴とする含フッ素エーテル組成物。 [Rf1a−O−Qa−Rfa−]raZa[−SiRanaLa3−na]sa・・・(A1) [Rf1b−O−Qb−Rfb−]rbZb[−SiRbnbLb3−nb]sb・・・(B1) ただし、Rf1aおよびRf1bは、ペルフルオロアルキル基であり、 QaおよびQbは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2〜5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該ポリオキシフルオロアルキレン基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、 Rfaは、(CF2O)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、 Rfbは、(CF2O)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、 Zaは、(ra+sa)価の連結基であり、 Zbは、(rb+sb)価の連結基であり、 LaおよびLbは、水酸基または加水分解性基であり、 RaおよびRbは、水素原子または1価の炭化水素基であり、 naおよびnbは、0〜2の整数であり、 naが0または1のときの(3−na)個のLa、nbが0または1のときの(3−nb)個のLbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、 naが2のときna個のRa、nbが2のときnb個のRbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、 raおよびrbは、1以上の整数であり、raが2以上のときra個の[Rf1a−O−Qa−Rfa−]は、同一であっても異なっていてもよく、rbが2以上のときrb個の[Rf1b−O−Qb−Rfb−]は、同一であっても異なっていてもよく、 saおよびsbは、3以上の整数であり、sa個の[−SiRanaLa3−na]は、同一であっても異なっていてもよく、sb個の[−SiRbnbLb3−nb]は、同一であっても異なっていてもよい。 【請求項12】 前記含フッ素エーテル化合物(A1)と前記含フッ素エーテル化合物(B1)の合計に対し、前記含フッ素エーテル化合物(A1)を10〜80質量%含む、請求項11に記載の含フッ素エーテル組成物。 【請求項13】 請求項1〜5及び8〜12のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物と、液状媒体とを含むことを特徴とするコーティング液。 【請求項14】 請求項1〜5及び8〜12のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を有することを特徴とする物品。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-11-25 |
出願番号 | P2019-505865 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L) P 1 651・ 113- YAA (C08L) P 1 651・ 536- YAA (C08L) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
近野 光知 |
特許庁審判官 |
福井 悟 橋本 栄和 |
登録日 | 2019-11-22 |
登録番号 | 6617853 |
権利者 | AGC株式会社 |
発明の名称 | 含フッ素エーテル組成物、コーティング液および物品 |
代理人 | 特許業務法人大谷特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人大谷特許事務所 |