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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1382348
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-03-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-28 
確定日 2021-12-03 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6650176号発明「熱伝導性シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6650176号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−14〕について訂正することを認める。 特許第6650176号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6650176号の請求項1ないし14に係る発明についての出願は、2019年6月18日(優先権主張 平成30年6月22日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、令和2年1月22日にその特許権が設定登録され、令和2年2月19日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 2年 7月27日 :特許異議申立人中水麻衣による請求項1ないし14に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 2年10月30日付け:取消理由通知書
令和 2年12月25日 :特許権者による意見書の提出
令和 3年 3月10日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 3年 5月14日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 3年 8月 6日 :特許異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和3年5月14日の訂正請求の趣旨は、特許第6650176号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
特許請求の範囲の請求項1に「表面に、」とあるのを、「両表面に、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2ないし14も同様に訂正する)。

2 本件訂正について
(1)一群の請求項
本件訂正前の請求項1ないし14について、請求項2ないし14は直接又は間接的に請求項1を引用しているものであって、本件訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1ないし14に対応する訂正後の請求項1ないし14は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正の目的
本件訂正は、訂正前の請求項1に記載された、「光学顕微鏡により観察」され「異方性充填材が、1〜45%の割合で倒れるように配置」される「熱伝導性シート」の「表面」について、「両表面」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(3)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件特許の願書に添付した明細書の段落【0008】に「熱伝導性シート10の各表面10A,10Bの表面近傍には、異方性充填材13の一部が、倒れるように配置される。なお、表面近傍とは、後述する光学顕微鏡により観察される表面のことを意味する。」、同【0010】に「各表面10A,10Bの表面近傍の異方性充填材13は、1〜45%の割合で倒れるように配置される。」とそれぞれ記載され、同図1には、熱伝導性シート10の上面である「表面10A」及び下面である「表面10B」の近傍に異方性充填材13の一部(図1の「13X」「13Y」を参照)が倒れるように配置されていることが示されているから、「光学顕微鏡により観察」された「熱伝導性シート10」の「各表面10A,10B」、即ち、「両表面」に「異方性充填材13」が「1〜45%の割合で倒れるように配置」されることは明細書に記載されている事項である。
したがって、本件訂正は、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
そして、本件訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

なお、訂正前の請求項1ないし14について特許異議の申立がされているので、訂正前の請求項1ないし14に係る本件訂正に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されていない。

3 小活
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−14〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし14に係る発明(以下「本件発明1ないし14」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
高分子マトリクスと異方性充填材とを含み、前記異方性充填材が厚さ方向に配向している熱伝導性シートであって、
前記熱伝導性シートの光学顕微鏡により観察した両表面に、前記異方性充填材が、1〜45%の割合で倒れるように配置される、熱伝導性シート。
【請求項2】
前記熱伝導性シートの表面に、前記異方性充填材が露出していない、請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
前記異方性充填材が、繊維材料である請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
前記繊維材料が、炭素繊維である請求項3に記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
前記繊維材料の平均繊維長が、50〜500μmである請求項3又は4に記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
さらに非異方性充填材を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項7】
前記非異方性充填材が、アルミナ、アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、及び窒化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種である請求項6に記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
前記異方性充填材の体積充填率に対する、前記非異方性充填材の体積充填率の比が、2〜5である請求項6又は7に記載の熱伝導性シート。
【請求項9】
前記表面において倒れるように配置される異方性充填材の少なくとも一部が、前記表面に対して傾斜するように配置される請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項10】
前記高分子マトリクスが、付加反応硬化型シリコーンである請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項11】
前記熱伝導性シートの厚さが0.1〜5mmである請求項1〜10のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項12】
前記熱伝導性シートの厚さ方向における熱伝導率が6w/m・K以上である請求項1〜11のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項13】
前記炭素繊維が、絶縁層で被覆されている請求項4に記載の熱伝導性シート。
【請求項14】
前記絶縁層が、二酸化ケイ素を含む請求項13に記載の熱伝導性シート。」

第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし14に係る特許に対して、当審が令和3年3月10日に特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

新規性)請求項1ないし13に係る発明は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1ないし13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
進歩性)請求項2に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
また、請求項14に係る発明は、引用文献1に記載された発明、及び引用文献2ないし4に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

引用文献1:特許第4657816号公報(甲第1号証)
引用文献2:特許第4791146号公報(甲第4号証)
引用文献3:特開2016−092407号公報
引用文献4:特開2007−107151号公報

2 引用文献の記載事項、引用発明
(1)引用文献1
ア 取消理由通知において引用した引用文献1には、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付与したものである。
「【0001】
本発明は、発熱体と放熱体との間に介在して用いられ、発熱体から放熱体への熱伝導を促進する熱伝導性成形体、及びその製造方法に関するものである。
(省略)
【0008】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、優れた熱伝導性能を発揮する熱伝導性成形体を容易に製造することができる熱伝導性成形体の製造方法、及びその製造方法によって製造される熱伝導性成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、高分子マトリックスと、熱伝導性充填材とを含有する熱伝導性高分子組成物から成形される熱伝導性成形体の製造方法であって、前記熱伝導性充填材の少なくとも一部が繊維状に形成され、前記熱伝導性高分子組成物を調製する調製工程と、前記繊維状の熱伝導性充填材に磁場及び振動を印加して、繊維状の熱伝導性充填材を一定方向に配向させる配向工程と、前記熱伝導性充填材の配向を維持した状態で熱伝導性成形体を成形する成形工程とを備え、前記振動の周波数が0.1〜4500Hzに設定されているとともに、振動の加速度が1G以上に設定されている熱伝導性成形体の製造方法を提供する。
(省略)
【0015】
以下、本発明を熱伝導性成形体に具体化した一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態の熱伝導性成形体(以下、単に成形体という。)は、高分子マトリックスと、熱伝導性充填材とを含有する熱伝導性高分子組成物(以下、単に組成物という。)から成形される。この成形体は発熱体と放熱体との間に介在するようにして用いられ、発熱体から放熱体への熱伝導を促進する。
(省略)
【0020】
熱硬化性の高分子材料の具体例としては、架橋ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及びジアリルフタレート樹脂が挙げられる。架橋ゴムの具体例としては、天然ゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン共重合ゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、及びシリコーンゴムが挙げられる。
【0021】
これらの中でも、成形体の耐熱性、発熱体及び放熱体への密着性、発熱体及び放熱体の表面形状への追従性、及び温度変化に対する耐久性が高いことから、シリコーン系の高分子材料が好ましく、低分子量の揮発成分の成形体からの浸み出しが防止されることから、アクリル系、エポキシ系、及びポリイソブチレン系の高分子材料が好ましい。更に、高分子マトリックスは、前記各高分子材料から選択される複数の高分子材料からなるポリマーアロイでもよい。高分子マトリックスの常温での粘度は、1,000mPa・s以下が好ましく、500mPa・s以下がより好ましい。高分子マトリックスの粘度が1,000mPa・sを超えると、高分子マトリックスの粘度が過剰に高いことから、組成物の調製が困難になるおそれがある。高分子マトリックスの常温での粘度の下限は特に限定されない。常温とは、組成物が通常調製されるときの温度のことであり、例えば25℃である。
【0022】
熱伝導性充填材は、成形体の熱伝導率を高めることにより、成形体の熱伝導性能を高める。熱伝導性充填材の形状としては、繊維状、粒子状、板状等が挙げられるが、熱伝導性充填材の少なくとも一部は繊維状に形成されている。繊維状に形成された熱伝導性充填材、即ち繊維状充填材の材質は、反磁性体でもよいし、常磁性体でもよい。繊維状充填材としては、熱伝導率が高いことから炭素繊維が好ましい。
(省略)
【0026】
繊維状充填材が炭素繊維によって構成されている場合、炭素繊維の配向方向における成形体の熱伝導率が高いことから、炭素繊維の平均繊維長は130μm以上が好ましく、炭素繊維の繊維軸方向の熱伝導率は100W/m・k以上が好ましい。
【0027】
繊維状以外の形状の熱伝導性充填材、即ち非繊維状充填材の材質は、成形体の熱伝導率が高いことから、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、及び二酸化ケイ素から選ばれる少なくとも一種が好ましい。非繊維状充填材のうち、粒子状充填材の平均粒径は、0.1〜100μmが好ましく、1〜50μmがより好ましい。粒子状充填材の平均粒径が0.1μm未満の場合、組成物中に含有される熱伝導性充填材の比表面積が過剰に大きくなることから、組成物の粘度が高くなって組成物の調製及び成形体の成形が困難になるおそれがある。粒子状充填材の平均粒径が100μmを超えると、成形体が薄いシート状に形成される場合、粒子状充填材に起因する凹凸が成形体の外面に形成されて成形体の外面の平坦性が悪化するおそれがある。粒子状充填材の形状は球状が好ましい。それは、組成物中での粒子状充填材の二次凝集が抑制されるとともに、組成物の粘度の上昇が抑制され、更に、粒子状充填材の形状に起因する凹凸が成形体の外面に形成されることが抑制されるからである。
(省略)
【0029】
図1に示すように、成形体11は、高分子マトリックス12と、熱伝導性充填材13とを備えている。図1に示す成形体11はシート状に形成され、熱伝導性充填材13は、繊維状充填材14と、粒子状充填材15とを有している。この成形体11の形状については特に限定されず、立方体状、球状、円柱状、板状、フィルム状、チューブ状等の形状が挙げられる。繊維状充填材14は成形体11中で一定方向に配向されている。例えば、図1に示す成形体11においては、繊維状充填材14は成形体11の厚さ方向に沿って配向されている。
【0030】
成形体11は、組成物を調製する調製工程と、繊維状充填材14を一定方向に配向させる配向工程と、成形体11を成形する成形工程とを経て製造される。
調製工程では、前記各成分が適宜に混合されて組成物が調製される。配向工程では、図2に示すように、例えば組成物が型16内に充填された後、繊維状充填材14が一定方向に配向される。繊維状充填材14の配向は、磁場発生装置を用いた組成物への磁場の印加、及び振動装置(図示略)を用いた組成物への振動の印加によって行われる。このとき、磁場及び振動は、組成物を介して繊維状充填材14に印加される。磁場発生装置及び振動装置は通常、型16の外方に配置されている。そのため、型16の材質は、組成物に磁場及び振動が容易に印加されることから、磁性体と異なるものが好ましく、例えば合成樹脂、及びアルミニウムが好ましい。
(省略)
【0032】
組成物に印加される磁場の方向は、組成物中の繊維状充填材14に応じて適宜設定される。例えば、図2においては、磁場発生装置の一対の磁極17が型16の下方及び上方に配設されている。このとき、一対の磁極17の間には、成形体11の厚さ方向の沿うように直線状の磁力線18が発生する。繊維状充填材14が反磁性体である場合、組成物に磁場が印加されることにより、繊維状充填材14は、磁場の方向と反対方向に磁化されて磁力線18に沿って配向される。また、繊維状充填材14の結晶構造の結晶方位に依存して繊維状充填材14の磁化率が異方性を持つ場合、繊維状充填材14は、磁化率の異方性に従って配向される。
(省略)
【0045】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記熱伝導性充填材13は、高分子マトリックス12と熱伝導性充填材13との密着性を高めるために、例えばシランカップリング剤、又はチタネートカップリング剤を用いた表面処理が施されてもよいし、熱伝導性充填材13に絶縁性を付与するために、絶縁材料を用いた表面処理が施されてもよい。
(省略)
【0048】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜7、及び比較例1〜3)
実施例1においては、調製工程として、高分子マトリックス12としての付加型の液状シリコーンゲルに、繊維状充填材14としての炭素繊維と、粒子状充填材15としての球状アルミナとを混合して、成形体11用の組成物を調製した。各成分の配合量を表1に示す。表1において、各成分の配合量の数値は重量部を示す。液状シリコーンゲルの25℃における粘度は400mPa・sであり、液状シリコーンゲルの比重は1.0であった。炭素繊維の平均繊維径は10μmであり、炭素繊維の平均繊維長は3000μmであった。球状アルミナの平均粒径は3.2μmであった。次に、炭素繊維及び球状アルミナが均一に分散されるまで組成物を攪拌した後、組成物の脱泡を行った。
【0049】
続いて、配向工程として、回転粘度計を用いて組成物の25℃における粘度を測定した後、型16内に組成物を充填した。粘度の測定結果を表1に示す。次に、超伝導磁石を用いて、100,000ガウスの磁束密度を有する磁場を組成物に印加するとともに、圧縮空気を用いて、0.1Hzの周波数、4.5Gの加速度、及び20mmの振幅を有する振動を型16を介して組成物に印加して、炭素繊維を成形体11の厚さ方向に沿って配向させた。次いで、成形工程として、組成物を120℃で30分加熱することにより、液状シリコーンゲルを硬化させてシート状の成形体11を得た。
【0050】
次に、実施例2では、球状アルミナの配合量を表1に示すように変更した。更に実施例2では、振動の周波数を3.0Hz、及び振動の振幅を10mmに変更した以外は、実施例1と同様にして成形体11を得た。実施例3では、炭素繊維の平均繊維長を130μmに変更した以外は、実施例2と同様にして成形体11を得た。実施例4では、炭素繊維の平均繊維長を6000μmに変更し、球状アルミナの配合量を表1に示すように変更した以外は、実施例2と同様にして成形体11を得た。
(省略)
【0054】
比較例1では、配向工程での振動の印加を省略した以外は、実施例1と同様にして成形体11を得た。比較例2では、炭素繊維の平均繊維長を50μmに変更し、配向工程での振動の印加を省略した以外は、実施例2と同様にして成形体11を得た。比較例3では、超音波を用いて組成物に振動を印加した以外は、実施例1と同様にして成形体11を得た。比較例1〜3において、各成分の配合量を表2に示す。表2において、各成分の配合量の数値は重量部を示す。超音波の周波数は20,000Hzであり、加速度は4800Gであり、振幅は3〜4μmであった。そして、各例の成形体11について、下記の各項目に関して測定を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0055】
<熱伝導率>
各例の成形体11から円板状の試験片(直径:10mm、厚さ:0.5mm)を得た後、レーザーフラッシュ法により試験片の熱伝導率を測定した。」

表1


図1

図2


イ 引用文献1の上記記載事項、表1、及び図面により、次のことがいえる。
(ア)段落【0015】、【0029】によれば、熱伝導性成形体は、高分子マトリックスと繊維状充填材と粒子状充填材とを備え、該熱伝導性成形体はシート状に形成され、繊維状充填材は熱伝導性成形体の厚さ方向に沿って配向される。
また、段落【0045】によれば、熱伝導性充填剤に絶縁性を付与するために、絶縁材料を用いた表面処理が施されてもよいことから、上記繊維状充填剤に絶縁材料を用いた表面処理を施すことは当然想定されていることである。

(イ)段落【0048】ないし【0050】、及び、表1によれば、熱伝導性成形体の実施例3として、付加型の液状シリコーンゲルからなる高分子マトリックス100重量部と、平均繊維径10μm、平均繊維長130μmの炭素繊維からなる繊維状充填材120重量部と、平均粒径3.2μmの球状アルミナからなる粒子状充填材475重量部とが混合され、回転粘度計により25℃における粘度が170,000mPa・sと測定された組成物を型16内に充填し、100,000ガウスの磁束密度を有する磁場と3.0Hzの周波数、4.5Gの加速度、及び10mmの振幅を有する振動とを加えて、炭素繊維を成形体の厚さ方向に沿って配向させ、120℃で30分加熱し得られたシート状の成形体が記載されているといえる。

(ウ)段落【0055】によれば、熱伝導率を測定する際の実施例3の熱伝導性成形体の厚みは、0.5mm、表1によれば、実施例3の熱伝導性成形体の熱伝導率は、25W/m・K、熱抵抗率は、0.33℃/wである。

ウ よって、上記(ア)ないし(ウ)によれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「高分子マトリックスと絶縁材料を用いた表面処理が施された繊維状充填材と粒子状充填材とを備え、繊維状充填材が熱伝導性成形体の厚さ方向に沿って配向されている、シート状の熱伝導性成形体において、
付加型の液状シリコーンゲルからなる高分子マトリックス100重量部と、平均繊維径10μm、平均繊維長130μmの炭素繊維からなる繊維状充填材120重量部と、平均粒径3.2μmの球状アルミナからなる粒子状充填材475重量部とが混合され、回転粘度計により25℃における粘度が170,000mPa・sと測定された組成物を型16内に充填し、100,000ガウスの磁束密度を有する磁場と3.0Hzの周波数、4.5Gの加速度、及び10mmの振幅を有する振動とを加えて、炭素繊維を成形体の厚さ方向に沿って配向させ、120℃で30分加熱し得られた、厚み0.5mm、熱伝導率25W/m・K、熱抵抗率0.33℃/wの熱伝導性成形体。」

(2)引用文献2
ア 取消理由通知において引用した引用文献2には、図面とともに、次の事項が記載されている。下線は、当審で付与した。
「【請求項1】
熱伝導性高分子組成物から成形される熱伝導性部材であって、
前記熱伝導性高分子組成物は、高分子マトリックスと、熱伝導性充填材とを含有し、前記熱伝導性充填材の少なくとも一部が、繊維状に形成され、
前記繊維状をなす熱伝導性充填材の表面には、酸化ケイ素を含む電気絶縁性皮膜が設けられ、
前記電気絶縁性皮膜を有する繊維状の熱伝導性充填材の全体は、前記高分子マトリックスで覆われることで熱伝導性部材の表面から露出することなく一定方向に配向され、
前記電気絶縁性皮膜の平均厚さが100〜400nmであることを特徴とする熱伝導性部材。
(省略)
【請求項7】
前記繊維状の熱伝導性充填材がピッチ系炭素繊維である請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の熱伝導性部材。
(省略)
【0001】
本発明は、電子機器における半導体素子、電源、光源、部品などの発熱体から発生する熱を放散させるための熱伝導性部材およびその製造方法に関する。
(省略)
【0007】
本発明の目的は、発熱体から発生する熱を放散させる用途においてより好適に使用可能な熱伝導性部材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、熱伝導性高分子組成物から成形される熱伝導性部材であって、前記熱伝導性高分子組成物は、高分子マトリックスと、熱伝導性充填材とを含有し、前記熱伝導性充填材の少なくとも一部が、繊維状に形成され、前記繊維状をなす熱伝導性充填材の表面には、酸化ケイ素を含む電気絶縁性皮膜が設けられ、前記電気絶縁性皮膜を有する繊維状の熱伝導性充填材の全体は、前記高分子マトリックスで覆われることで熱伝導性部材の表面から露出することなく一定方向に配向され、前記電気絶縁性皮膜の平均厚さが100?400nmである熱伝導性部材を提供する。
(省略)
【0013】
以下、本発明を熱伝導性部材に具体化した一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1(a)及び(b)に示すように、本実施形態に係る熱伝導性部材はシート状に形成され、該シート状の熱伝導性部材11(以下、シート11という)の一方の表面上には補強層12が形成されている。シート11は、高分子マトリックスと、熱伝導性充填材とを含有する熱伝導性高分子組成物(以下、単に組成物という。)から成形される。このシート11は発熱体と放熱体との間に介在するようにして用いられ、発熱体から放熱体への熱伝導を促進する。
(省略)
【0027】
繊維状充填材は通常、その材質に起因して導電性を有している。そのため、繊維状充填材を含有するシート11が導電性を発揮してしまうことから、繊維状充填材の表面には電気絶縁性皮膜が形成されている。電気絶縁性皮膜は、酸化ケイ素を含有する電気絶縁性組成物の繊維状充填材へのコーティングによって形成されている。電気絶縁性組成物は、電気絶縁性を発揮する物質として酸化ケイ素のみを含有してもよいし、酸化ケイ素以外の物質を更に含有してもよい。酸化ケイ素以外の電気絶縁性を発揮する物質としては、金属酸化物および金属窒化物が挙げられる。金属酸化物の具体例としては酸化アルミニウムが挙げられる。金属窒化物の具体例としては、窒化ホウ素および窒化ケイ素が挙げられる。
(省略)
【0031】
組成物は、前記各成分以外にも、例えば補強剤、着色剤、難燃剤などの耐熱性向上剤、粘着剤、可塑剤、オイル、硬化遅延剤を含有してもよい。図1(b)及び(c)に示すように、シート11は、高分子マトリックス13と、熱伝導性充填材14とを備えている。図1(b)に示す熱伝導性充填材14は、繊維状充填材15と、粒子状の熱伝導性充填材16とを有している。繊維状充填材15はその表面に電気絶縁性皮膜15aが形成された状態でシート11中を一定方向に配向されており、発熱体からの熱は、繊維状充填材15の配向方向に沿ってシート11中を伝導される。例えば、図1(b)に示すシート11において、繊維状充填材15はシート11の厚さ方向に沿って配向されている。
(省略)
【0044】
・ シート11の製造において、組成物17が型18内に充填された後、繊維状充填材15の配向および高分子マトリックス13の硬化又は固化が行われる。そのため、静電植毛によって繊維状充填材15が配向される場合に比べて、繊維状充填材15がシート11を貫通してその表面から露出することを抑制することができる。よって、貫通した繊維状充填材15に起因するシート11の柔軟性および電気絶縁性の低下を抑制することができるうえ、シート11からの繊維状充填材15の脱落も抑制することができる。
(省略)
【0051】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1及び2並びに比較例1?3)
実施例1においては、調製工程として、高分子マトリックス13としての付加型の液状シリコーンゲルに、繊維状充填材15としての炭素繊維を混合して組成物を調製した。各成分の配合量を下記表1に示す。表1において、各成分の配合量の数値は重量部を示す。液状シリコーンゲルにおいて、比重は1.0であり、25℃における粘度は400mPa・sであった。一方、炭素繊維のアスペクト比は4.5であり、該炭素繊維の表面には、酸化ケイ素からなるとともに平均厚さが200nmである電気絶縁性皮膜15aを形成した。電気絶縁性皮膜15aの形成はゾルゲル法によって行った。次に、炭素繊維が均一に分散されるまで組成物17を撹拌した後、組成物17の脱泡を行った。
【0052】
続いて、配向工程として、回転粘度計を用いて組成物の25℃における粘度を測定した後、型18内に組成物を充填した。次に、超電磁石を用いて、10テスラの磁束密度を有する磁場を組成物17に印加して、炭素繊維をシート11の厚さ方向に沿って配向させた。次いで、成形工程として、組成物17を120℃で90分加熱することにより、液状シリコーンゲルを硬化させて円板状のシート11を得た。シート11の厚さは0.5mmであり、シート11の直径は50mmであった。」

図2


イ 引用文献2の図2によれば、「型18」は、上側の型と下側の型から構成されることが示されている。
よって、引用文献2の段落【0013】、【0031】、【0044】及び図2によれば、引用文献2には次の技術(以下、「引用文献2に記載された技術1」という。)が記載されている。
「高分子マトリックス13と、繊維状充填材15を有する熱伝導性充填材14とを含む組成物17から成形されるシート状の熱伝導性部材11の製造において、組成物17が上側の型と下側の型から構成される型18内に充填された後、繊維状充填材15の配向および高分子マトリックス13の硬化又は固化を行い、繊維状充填材15がシート11を貫通してその表面から露出することを抑制することができること。」

ウ また、引用文献2の【請求項7】、段落【0013】、【0027】、【0031】、【0051】によれば、引用文献2には次の技術(以下、「引用文献2に記載された技術2」という。)が記載されている。
「高分子マトリックス13と、繊維状充填材15を有する熱伝導性充填材14とを含む組成物17から成形されるシート状の熱伝導性部材11において、炭素繊維である繊維状充填材の表面に酸化ケイ素からなる電気絶縁性皮膜を形成すること。」

(3)引用文献3
取消理由通知において引用した引用文献3には、図面とともに、次の事項が記載されている。下線は、当審で付与した。
「【請求項1】
バインダ樹脂と、絶縁皮膜により被覆された炭素繊維とを含有する熱伝導性樹脂組成物が硬化されたシート本体を有し、
前記シート本体の表面に露出した前記炭素繊維は、前記絶縁皮膜により被覆されておらず、且つ前記バインダ樹脂の成分によって被覆されている熱伝導シート。
(省略)
【請求項3】
前記炭素繊維を被覆する前記絶縁皮膜は、酸化ケイ素であり、
断面TEM観察により観察される前記絶縁皮膜の平均厚さが50nm以上、100nm未満である請求項1又は2記載の熱伝導シート。
(省略)
【0072】
[製造例1:炭素繊維の絶縁皮膜処理]
各実施例に用いた炭素繊維への絶縁被膜の形成は、以下の方法により行った。
樹脂容器(PE)に、第一配合物〔平均繊維長100μm、平均繊維径9μmのピッチ系炭素繊維(熱伝導性繊維:日本グラファイトファイバー株式会社製)300g、テトラエトキシシラン600g、及びエタノール2700g〕を投入し撹拌翼にて混合した。これに、第二配合物(10質量%アンモニア水1050g)を5分間かけて投入した。第二配合物の投入が完了した時点を0分として3時間攪拌を行った。攪拌終了後、真空ポンプを用いて吸引濾過を行い、回収したサンプルをビーカーに移し、水やエタノールで洗浄後、再度濾過を行い、サンプルを回収した。回収したサンプルを100℃で2時間乾燥し、200℃で8時間焼成を行い、被覆炭素繊維を得た。
【0073】
TEMにて断面測長することにより、平均厚み77nmのSiO2を主とする皮膜が観察された。

(4)引用文献4
取消理由通知において引用した引用文献4には、図面とともに、次の事項が記載されている。下線は、当審で付与した。
「【請求項1】
炭素繊維、及び
その炭素繊維を被覆する実質的に均一な膜厚を持つシリカ膜
を含んでなるシリカ被覆炭素繊維。
(省略)
【0003】
電子機器の熱対策のために、高い熱伝導性を有するフィラーを配合した複合材が用いられている。熱伝導性フィラーとしては、例えば、アルミナ、窒化アルミナなどの無機系微粒子が用いられている。
ところが、アルミナや窒化アルミナなどの無機フィラーは、電気絶縁性を必要とする場合には熱伝導性に若干不満がある。フィラーによる熱伝導はフィラー微粒子同士の接触点において主に行われる。この接触点が熱伝導を律速している。アルミナや窒化アルミナなどの無機フィラーを用いた複合材では、無機フィラーが微粒子であるために、接触点における伝熱面積が小さく、且つ経由すべき接触点が多いので、無機フィラー自身が持っている高熱伝導性を大きく減殺して、複合材としては放熱性が不十分となってしまうのである。従って、放熱性の改良には、この接触点数を減らすために、例えば細い繊維状の放熱フィラーを用いることが望ましいことになる。
【0004】
このような繊維状のフィラーとして炭素繊維が挙げられる。
炭素繊維は、その高強度、高弾性率、高導電性、高熱伝導性等の優れた特性から各種の複合材料に使用されている。従来から応用されてきた優れた機械的特性ばかりでなく、炭素繊維あるいは炭素材料に備わった熱伝導性を生かし、近年のエレクトロニクス技術の発展やパソコン、携帯電話、携帯端末の小型化等により、電子デバイスや部品等からの放熱用のフィラー、電磁波シールド材、静電防止材用の導電性フィラーとして、あるいは自動車の軽量化に伴い樹脂への静電塗装のためのフィラーとしての用途が期待されてきている。また、炭素材料としての化学的安定性、熱的安定性と微細構造との特徴を生かし、フラットディスプレー等の電界電子放出素材としての用途が期待されている。」

3 当審の判断
(1)新規性(特許法第29条第1項)の判断について
ア 本件発明1について
(ア)対比
a 本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「高分子マトリックス」及び「シート状の熱伝導性成形体」は、本件発明1の「高分子マトリクス」及び「熱伝導性シート」に相当する。
また、本件特許明細書段落【0027】の「異方性充填材13の具体例としては、炭素繊維、・・・等が挙げられる。」との記載によれば、本件発明1の「異方性充填材」は「炭素繊維」を含み、引用発明の「繊維状充填材」は「炭素繊維」からなるから、引用発明の「繊維状充填材」は、本件発明1の「異方性充填材」に相当する。
よって、引用発明の「高分子マトリックスと繊維状充填材と粒子状充填材とを備え、繊維状充填材が熱伝導性成形体の厚さ方向に沿って配向されている、シート状の熱伝導性成形体」は、本件発明1の「高分子マトリクスと異方性充填材とを含み、前記異方性充填材が厚さ方向に配向している熱伝導性シート」に相当する。
ただし、熱伝導性シートに関し、本件発明1は、「前記熱伝導性シートの光学顕微鏡により観察した両表面に、前記異方性充填材が、1〜45%の割合で倒れるように配置される」のに対し、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。

b 上記aによれば、本件発明1と引用発明とは、以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「高分子マトリクスと異方性充填材とを含み、前記異方性充填材が厚さ方向に配向している熱伝導性シート。」

(相違点1)
本件発明1は、「前記熱伝導性シートの光学顕微鏡により観察した両表面に、前記異方性充填材が、1〜45%の割合で倒れるように配置される」のに対し、引用発明にはその旨特定されていない点。

(イ)相違点1に対する判断
本件発明1と引用発明とは相違点1で一応相違するところ、該相違点1が実質的な相違点であるか否か判断する。
a 本件特許明細書には、以下の事項が記載されている。
(a)「高分子マトリクス」について
「【0019】
(省略)
上記した中では、例えば硬化後の高分子マトリクスが特に柔軟であり、熱伝導性充填材の充填性が良い点から、シリコーンゴム、特に付加反応硬化型シリコーンを用いることが好ましい。」

(b)「異方性充填材」について
「【0023】
・・・。異方性充填材13は、アスペクト比が高いものであり、具体的にはアスペクト比が2を越えるものであり、アスペクト比は5以上であることが好ましい。
(省略)
なお、アスペクト比とは、異方性充填材13の短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比であり、繊維材料においては、繊維長/繊維の直径を意味する。
(省略)
【0024】
熱伝導性シートにおける異方性充填材13の含有量は、高分子マトリクス100質量部に対して30〜300質量部であることが好ましく、50〜270質量部であることがより好ましい。
(省略)
【0025】
異方性充填材13は、繊維材料である場合、その平均繊維長が、好ましくは50〜500μm、より好ましくは70〜350μmである。
(省略)
【0026】
また、繊維材料の平均繊維長は、熱伝導性シート10の厚さよりも短いことが好ましい。
(省略)
【0027】
(省略)
異方性充填材13の具体例としては、炭素繊維、・・・(省略)・・・が挙げられる。これらの中では、炭素系材料は、比重が小さく、高分子マトリクス12中への分散性が良好なため好ましく・・・。」

(c)「非異方性充填材」について
「【0037】
非異方性充填材14は、そのアスペクト比が2以下であり、1.5以下であることが好ましい。
(省略)
【0038】
(省略)
非異方性充填材14は、アルミナ、・・・から選択されることが好ましく、特に充填性や熱伝導率の観点からアルミナが好ましい。
(省略)
【0039】
非異方性充填材14の平均粒径は0.1〜50μmであることが好ましく、0.5〜35μmであることがより好ましい。
(省略)
【0040】
非異方性充填材14の含有量は、高分子マトリクス100質量部に対して、200〜800質量部の範囲であることが好ましく、300〜700質量部の範囲であることがより好ましい。」

(d)「熱伝導性シート」について
「【0042】
<熱伝道性シート>
熱伝導性シート10の厚さ方向の熱伝導率は、6W/m・K以上とすることが好ましく、8W/m・K以上がより好ましく、13W/m・K以上がさらに好ましい。
(省略)
【0043】
熱伝導性シート10のシートの厚み方向の熱抵抗値は、好ましくは3.0℃/W未満、より好ましくは2.5℃/W以下、更に好ましくは2.0℃/W以下である。
(省略)
【0044】
熱伝導性シートの厚さは、0.1〜5mmの範囲で使用されることが考えられるが、その厚み範囲に限定される必要はない。」

(e)「熱伝導性シートの製造方法」について
「【0047】
[工程(A)]
工程(A)は、混合組成物を二枚の剥離材により狭持し積層体を得る工程である。混合組成物は、異方性充填材と、非異方性充填材と、高分子マトリクスの原料となる硬化性高分子組成物とを含み、これら各成分を混合することにより得ることができる。
(省略)
【0048】
次いで、得られた混合組成物を剥離材に塗布する。・・・。塗布した後に、別の剥離材を混合組成物の上から載置する。続いて、加圧プレス等を用いて、混合組成物が二枚の剥離材に挟まれた状態で所望の厚さになるまで圧縮し、積層体を得る。
(省略)
【0049】
[工程(B)]
工程(B)は、熱伝導性シートにおいて厚さ方向となる一方向に沿って、異方性充填材を配向させる工程である。配向させる手法としては、磁場配向製法を適用することが好ましい。磁場配向製法では、工程(A)で得た積層体を磁場に置き、異方性充填材を磁場に沿って配向させた後、硬化性高分子組成物を硬化させる。
・・・。これらの磁力線発生源から発生する磁場の磁束密度は、好ましくは1〜30テスラである。
(省略)
【0050】
・・・混合組成物の粘度は、450Pa・s以下とすることが好ましく、300Pa・s以下とすることが好ましい。混合組成物の粘度は、10Pa・s以上とすることが好ましい。・・・。なお、粘度とは、回転粘度計(ブルックフィールド粘度計DV−E、スピンドルSC4−14)を用いて25℃において、回転速度10rpmで測定された粘度である。
(省略)
【0051】
・・・。したがって、倒れるように配置される異方性充填材の割合を所望の範囲とし、得られる熱伝導性シートの熱伝導率を向上させる観点から、積層体に外部から振動を与えることが好ましい。・・・。
本願では、振動を与える時間、周波数、加速度、振幅などを調節することで、振動の強度を変更し、倒れるように配置される異方性充填材の割合を調整することが出来る。・・・。
振動は、磁場配向製法の適用と同時に与えてもよいし、磁場配向製法の前後で与えてもよいが、倒れるように配置される異方性充填材の割合を所望の範囲とする観点から、磁場配向製法の適用と同時に与えることが好ましい。
(省略)
【0053】
硬化性高分子組成物の硬化は、加熱により行うとよいが、例えば、50〜150℃程度の温度で行うとよい。また、加熱時間は、例えば10分〜3時間程度である。」

b 上記(a)ないし(e)によれば、本件発明1は、
・「高分子マトリクス」は「付加反応硬化型シリコーン」を用いることが好ましく、「異方性充填材」として、「炭素繊維」が挙げられ、その「アスペクト比は5以上であること」が好ましく、その「含有量は、高分子マトリクス100質量部に対して30〜300質量部であること」が好ましく、その「平均繊維長が、好ましくは50〜500μmであ」り、「非異方性充填材」として「アルミナ」が好ましく、「そのアスペクト比が2以下であり」、その「平均粒径は0.1〜50μmであること」が好ましく、その「含有量は、高分子マトリクス100質量部に対して、200〜800質量部の範囲であること」が好ましく、「厚さ方向の熱伝導率は、6W/m・K以上とすること」が好ましく、「シートの厚み方向の熱抵抗値は、好ましくは3.0℃/W未満」である「熱伝導性シート」を含み、
・「異方性充填材と、非異方性充填材と、高分子マトリクスの原料となる硬化性高分子組成物」とを「混合する」ことにより「得られた混合組成物を剥離材に塗布」した後、「別の剥離材を混合組成物の上から載置」し、「続いて、加圧プレス等を用いて、混合組成物が二枚の剥離材に挟まれた状態で所望の厚さになるまで圧縮し、積層体を得」る「工程(A)」と、
・「工程(A)で得た積層体を磁場に置き」、「異方性充填材を磁場に沿って配向させ」ると「同時」に「振動」を与えた後、「硬化性高分子組成物を硬化させ」、「磁力線発生源から発生する磁場の磁束密度は、好ましくは1〜30テスラ」であり、「混合組成物の粘度」は、「450Pa・s以下」「10Pa・s以上」とすることが好ましく「硬化」は「50〜150℃程度の温度で行」うとよく、「加熱時間」は「10分〜3時間程度」である「工程(B)」
によって成し得たものと認められる。

c 一方、引用発明は、「付加型の液状シリコーンゲルからなる高分子マトリックス100重量部と、平均繊維径10μm、平均繊維長130μmの炭素繊維からなる繊維状充填材120重量部と、平均粒径3.2μmの球状アルミナからなる粒子状充填材475重量部とが混合され」るのであるから、本件発明1に含まれる各構成要素の好ましいとされる上記材料、その材料の量・サイズに含まれることは明らかである。
また、引用発明は「厚み0.5mm、熱伝導率25W/m・K、熱抵抗率0.33℃/wの熱伝導性成形体」であるから、本件発明1に係る熱伝導性シートの好ましいとされる性能、サイズに含まれることも明らかである。

d しかし、引用発明では、「回転粘度計により25℃における粘度が170,000mPa・sと測定された組成物を型16内に充填し、100,000ガウスの磁束密度を有する磁場と3.0Hzの周波数、4.5Gの加速度、及び10mmの振幅を有する振動とを加えて、炭素繊維を成形体の厚さ方向に沿って配向させ、120℃で30分加熱」するところ、本件発明1に係る熱伝導シートを製造するための、「混合組成物を剥離材に塗布」し、「別の剥離材を混合組成物の上から載置」して「所望の厚さになるまで圧縮」する「工程(A)」に係る記載は見当たらない。
また、本件発明1に係る熱伝導シートを製造するための「工程(B)」では、「工程(A)で得た積層体を磁場に置」くことから、該「工程(B)」では「混合組成物」の「両面」に「剥離材」が配置された状態で磁場と振動が印加される。一方、引用発明における「組成物」が充填される「型16」に関し、引用文献1にはその形状について明確に記載されておらず、引用文献1の図2を参照すると、型16内に充填された組成物の上側には何も配置されていない状態で、磁場と振動とを印加させていることが見て取れる。してみると、上記「工程(B)」では、「組成物」の「両面」に「剥離紙」が存在する状態で磁場と振動が印可されるのに対し、引用発明では、「組成物」の「片面」のみに「型16」の「底面」が存在する状態で磁場と振動が印可される。

e してみると、本件発明1に係る熱伝導性シートの製造過程と、引用発明に記載された製造過程とは一致しているとはいえないから、引用発明の「シート状の熱伝導性成形体」の「両表面」において、異方性充填材が倒れるように配置される割合が「1〜45%」の範囲内であるとは必ずしもいえない。
よって、上記相違点1は、実質的な相違点といえ、本件発明1は、引用文献1に記載された発明ではない。

イ 本件発明2ないし13について
本件発明2ないし13は、本件発明1の全ての構成を含み、さらに他の構成を付加した発明であるから、上記アと同様の理由により、引用文献1に記載された発明ではない。

ウ 令和3年8月6日付け意見書について
(ア)特許異議申立人は、令和3年8月6日付け意見書において、「しかし、繊維状充填剤を一定方向に配向させるにあたり、引用文献2(甲第4号証、特許第4791146号公報)の図2又は図3や、甲第2号証(特開2001−322139号公報)の図2には、本件特許と同じく異方性充填材を用いた熱伝導性シートの製法に於いて、組成物の両表面が開放されていない状態で異方性充填材を配向させる状態が図示されている。よって、熱伝導性シートの両表面に異方性充填材が倒れるように配置すること自体は、当業者にとっては想到容易であるともいえる。」と主張する。

(イ)上記主張について検討する。
引用文献2の段落【0044】によれば、引用文献2には、シート上の熱伝導性部材の製造において、組成物を型内に充填した後、繊維状充填材の配向および高分子マトリックスの硬化又は固化を行うため、繊維状充填材がシートを貫通してその表面から露出することを抑制できることが記載されており、引用文献2の図2を参照すると、上側の型と下側の型で組成物を挟み込んだ状態で磁場を印加することが図示されている。
しかし、引用文献1には、熱伝導充填剤を含む組成物を上側の型と下側の型とで挟み込んだ状態で、磁場及び振動を印加する記載や示唆は見当たらない。また、引用文献1には、炭素繊維が成形体を貫通しその表面から露出する記載や示唆も見当たらなし、引用文献1に記載されたように、型内に組成物を充填して組成物の片側の表面が開放された状態で炭素繊維に磁場と振動を印加して炭素繊維を配向させると、炭素繊維が成形体の表面から露出することが技術常識であることを示す根拠も見当たらない。
してみると、引用発明における「型16」として、引用文献2に記載されたような上側の型と下側の型から構成される型を採用し、組成物を挟み込む状態で磁場と振動を印加して、炭素繊維を配向させることは当業者に動機付けられない。

(ウ)また、甲第2号証は、段落【0049】ないし【0051】によれば、フィルム上に磁性を有する繊維状フィラーを含有するシート状組成物を塗布し、その上面をフィルムで被覆した後、磁場を印可し繊維状フィラーを配向させながら、均一に圧力をかけてシートをプレスしつつ、光あるいは熱などにより組成物を硬化または半硬化するのに対し、引用発明では、型内に組成物を充填し、組成物に磁場と振動を印加し炭素繊維を配向させた後、加熱して硬化させるものである。
よって、引用発明における製造過程と甲2号証に記載された製造過程とは全く異なり、引用発明に甲第2号証に記載されたフィルム上に組成物を塗布し、その上面をフィルムで被覆する技術を採用する動機はない。

(エ)以上から、特許異議申立人の「よって、熱伝導性シートの両表面に異方性充填材が倒れるように配置すること自体は、当業者にとっては想到容易であるともいえる。」との主張は採用できない。

エ 小活
請求項1ないし13に係る発明は、引用文献1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、したがって、請求項1ないし13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものでない。

(2)進歩性(特許法第29条第2項)の判断について
ア 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の全ての構成を含み、さらに「熱伝導性シートの表面に、前記異方性充填材が露出していない」との構成を付加した発明である。
そこで、本件発明2と引用発明とを対比すると、上記「(1)ア(ア)b」で検討した点も踏まえれば、以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「高分子マトリクスと異方性充填材とを含み、前記異方性充填材が厚さ方向に配向している熱伝導性シート。」

(相違点2)
本件発明2は、「前記熱伝導性シートの光学顕微鏡により観察した両表面に、前記異方性充填材が、1〜45%の割合で倒れるように配置される」のに対し、引用発明にはその旨特定されていない点。
(相違点3)
本件発明2は、「熱伝導性シートの表面に、前記異方性充填材が露出していない」のに対し、引用発明はその旨特定されていない点。

そこで、相違点2について検討する。
上記「2(2)イ」で述べたように、引用文献2には、「高分子マトリックス13と、繊維状充填材15を有する熱伝導性充填材14とを含む組成物17から成形されるシート状の熱伝導性部材11の製造において、組成物17が下側の型と下側の型から構成される型18内に充填された後、繊維状充填材15の配向および高分子マトリックス13の硬化又は固化を行い、繊維状充填材15がシート11を貫通してその表面から露出することを抑制することができること」の技術(「引用文献2に記載された技術1」)が記載されている。
しかし、上記「3(1)ウ(イ)」で述べたように、引用発明における「型16」として、引用文献2に記載されたような上側の型と下側の型から構成される型を採用し、組成物を挟み込む状態で磁場と振動を印加して、炭素繊維を配向させることは当業者に動機付けられない。
また、引用発明に引用文献2に記載された技術1を組み合わせたとしても、上記「3(1)ア(イ)e」で述べたように、本件発明1に係る熱伝導性シートの製造過程と、引用発明に記載された製造過程とは一致しているとはいえないから、相違点2の構成になるとはいえない。
よって、相違点2に係る構成は、引用発明及び引用文献2に記載された技術1に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。

したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明2は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

イ 本件発明14について
本件発明14は、本件発明1の全ての構成を含み、さらに「前記異方性充填材が、繊維材料であ」り、「前記繊維材料が、炭素繊維であ」り、「前記炭素繊維が、絶縁層で被覆されて」おり、「前記絶縁層が、二酸化ケイ素を含む」ことを付加した発明である。
ここで、上記「(1)ア(ア)b」で検討した点も踏まえ、本件発明14と引用発明を対比すると、引用発明において「繊維状充填材」は「絶縁材料を用いた表面処理が施され」、「繊維状充填材」は「炭素繊維」からなることは、本件発明14の「前記異方性充填材が、繊維材料であ」り、「前記繊維材料が、炭素繊維であ」り、「前記炭素繊維が、絶縁層で被覆されて」いることに相当する。
ただし、絶縁層に関し、本件発明14は「二酸化ケイ素を含む」のに対し、引用発明はその旨特定されていない点で異なる。
してみると、本件発明14と引用発明とは、以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「高分子マトリクスと異方性充填材とを含み、前記異方性充填材が厚さ方向に配向している熱伝導性シートであって、
前記異方性充填材が、繊維材料であり、
前記繊維材料が、炭素繊維であり、
前記炭素繊維が、絶縁層で被覆されている、熱伝導性シート。」

(相違点4)
本件発明14は、「前記熱伝導性シートの光学顕微鏡により観察した両表面に、前記異方性充填材が、1〜45%の割合で倒れるように配置される」のに対し、引用発明にはその旨特定されていない点。
(相違点5)
絶縁層に関し、本件発明14は、「二酸化ケイ素」を含むのに対し、引用発明にはその旨特定されていない点。

そこで、相違点4について検討する。
上記「2(2)ウ」で述べたように、引用文献2には、「高分子マトリックス13と、繊維状充填材15を有する熱伝導性充填材14とを含む組成物17から成形されるシート状の熱伝導性部材11において、炭素繊維である繊維状充填材の表面に酸化ケイ素からなる電気絶縁性皮膜を形成すること」の技術(「引用文献2に記載された技術2」)が記載されており、また、上記「2(3)(4)」で述べたように、引用文献3、引用文献4には、炭素繊維の被覆材料として二酸化ケイ素を用いることが記載されている。
しかし、引用発明に、引用文献2に記載された技術2、引用文献3及び引用文献4に記載された技術を組み合わせたとしても、上記「3(1)ア(イ)e」で述べたように、本件発明1に係る熱伝導性シートの製造過程と、引用発明に記載された製造過程とは一致しているとはいえないから、相違点4の構成になるとはいえない。
してみると、相違点4に係る構成は、引用発明、引用文献2に記載された技術2、引用文献3に記載された技術及び引用文献4に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。

したがって、相違点5について検討するまでもなく、本件発明14は、引用発明、引用文献2に記載された技術、引用文献3に記載された技術及び引用文献4に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

ウ 小括
請求項2に係る発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明できたものではなく、したがって、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
また、請求項14に係る発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術、引用文献3に記載された技術及び引用文献4に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明できたものではなく、したがって、請求項14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
訂正前の請求項1ないし14に係る特許に対して、特許異議申立人が令和2年7月27日付け異議申立書において主張する申立理由の概要は、次のとおりである。

(1)特許法第29条第1項第3号について
請求項1ないし12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1ないし12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
請求項1ないし5及び9ないし12に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1ないし5及び9ないし12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
ここで、上記「第4 3(1)」において、請求項1ないし13に係る発明に対して、甲第1号証(引用文献1)に基づく新規性(特許法第29条第1項第3号)の判断を行ったため、下記「2」以降は、請求項1ないし5及び9ないし12に係る発明が、甲第2号証に記載された発明であるか否か判断する。

(2)特許法第29条第2項について
請求項1ないし14に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項1ないし5及び9ないし12に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし5及び9ないし12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項13、14に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項13、14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
ここで、上記「第4 3(2)」において、請求項14に係る発明に対して、甲第1号証(引用文献1)及び甲第4号証(引用文献2)に基づく進歩性(特許法第29条第2項)の判断を行ったため、下記「2」以降は、請求項1ないし14に係る発明が、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか否か、請求項1ないし5及び9ないし12に係る発明が、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか否か、請求項2に係る発明が、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか、請求項13に係る発明が、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか否か、それぞれ判断する。

甲第1号証:特許第4657816号公報
甲第2号証:特開2001−322139号公報
甲第3号証:特許第6178389号公報
甲第4号証:特許第4791146号公報

(3)特許法第36条第6項第2号について
請求項2に係る発明、及び、請求項2を引用する請求項3ないし14に係る発明は明確ではないため、請求項2ないし14に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

2 甲第1号証ないし第4号証の記載事項
(1)甲第1号証について
甲第1号証は、上記「第4 2(1)」で述べた引用文献1であるから、その記載事項及び甲第1号証に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)は、上記「第4 2(1)」で述べたとおり引用文献1の記載事項及び引用発明である。

(2)甲第2号証について
ア 甲第2号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付与したものである。
「【請求項1】 磁性を有する繊維状フィラー(A)と、熱および/または光で硬化するバインダー(B)とからなるシート用組成物をシート状に圧延しながら、そのシートの厚み方向に磁場を作用させて、前記磁性を有する繊維状フィラーをシートの厚み方向に配向させつつ、該シートを熱および/または光により硬化させることを特徴とする複合シートの製造方法。
(省略)
【0002】
【発明の技術的背景】電気機器あるいは電子機器のさらなる高性能化に伴い、半導体素子の電極数が増加し、半導体素子が高消費電力化する傾向にあり、電子部品から発熱する熱をさらに効率よく放熱することが重要となっている。従来より、半導体パッケージあるいは半導体からの放熱を効率よく行うため、半導体パッケージなどに放熱機構を設けて放熱するか、あるいは半導体素子を搭載する配線基板から放熱を行う試みがなされていた。たとえば、半導体パッケージの放熱は、一般に、発熱体の本体表面から自然対流やユニット内に設けたファンによる強制対流によって行われていたが、この方式では半導体パッケージの機能が向上するに伴って発熱量が増加すると放熱作用が不十分となり、半導体パッケージの性能低下などを確実に防止することはできないという問題があった。また、半導体パッケージの表面に放熱体を圧接し、対流による放熱性を向上させる方式も提供されているが、この方式では半導体パッケージと放熱体との圧接面における接触面積が隙間の発生によって小さくなり、放熱作用を設計通りに発揮するには問題があった。このため、たとえば、半導体パッケージに放熱体を接合する場合では、半導体パッケージと放熱体との間に熱伝導性を有する樹脂シートなどを挟み込み、半導体パッケージと放熱体とを密着させながら、放熱を有効に行うことが行われている。また、たとえば半導体素子とこれに接触するヒートスプレッダとの接合においては、高熱伝導性の接着剤を間に介在させて、半導体素子とヒートスプレッダとの接着を維持しながら、半導体素子からの放熱を図ることが行われている。
【0003】このような、半導体素子または半導体パッケージと放熱体との間に介在させる高熱伝導化のための樹脂組成物等として、たとえば、特開平5−326916号公報では、粘土状熱硬化接着型のシリコーンゴムシートが用いられているが、このシリコーンゴムシートは半導体素子の高消費電力化に対応するには熱伝導率の点で充分ではないという問題点があった。また、高熱伝導率化のため、シリコーンゴムなどの樹脂シート中に熱伝導率の高い金属粒子をランダムに分散させることも行われ、さらに高熱伝導率を向上させるため、金属粒子を樹脂シート中に高分散・高充填化する試みもなされている。しかしながら、金属粒子を高分散化・高充填化しても、熱がランダム方向に拡散するため、半導体素子と放熱体との間の熱伝導率は充分に向上しないという問題点があるほか、金属粒子を高充填化するため樹脂シートの引張強さ、弾力性が低下したり、成形加工性も低下してしまうなどの問題があった。
(省略)
【0007】
【発明の目的】本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、シート中に高い充填量あるいは高いアスペクト比の繊維状フィラーが含有されていても、繊維状フィラーのシートの厚み方向へ優れた配向性を有するとともに、シートの厚み方向の異方熱伝導性あるいは異方導電性が高く、耐熱性、耐久性、機械的強度および発熱体との密着性に優れた複合シートの製造方法を提供することを目的としている。
(省略)
【0012】
【発明の具体的説明】<複合シート>本発明に係る複合シートは、バインダー中に磁性を有する繊維状フィラーが、厚み方向に配向しているシートで、たとえば、異方熱伝導性あるいは異方導電性を有するようなシートである。
(省略)
【0015】このような磁性を有する繊維状フィラー(A)としては、金属繊維、または繊維軸方向と繊維円周方向に異なる磁化率を有する繊維が挙げられる。このような金属繊維としては、繊維状に加工されることにより、形状に由来した磁気異方性を示すFe、Co、Niなどの金属、その合金またはそれらの酸化物などのような磁性を有する繊維が挙げられる。
【0016】繊維軸方向と繊維円周方向に異なる磁化率を有する繊維としては、たとえば、炭素繊維、アラミド繊維、ポリパラベンズアゾール類の繊維など芳香環が繊維方向に平行に並んだ構造を取りやすく、本質的に磁気異方性を示す繊維が挙げられる。このような繊維のうち、炭素繊維としては、たとえば、原料の種類によって、セルロース系、PAN系、ピッチ系などの炭素繊維のうちから選択することができ、良好な熱伝導性を付加する観点からは、ピッチ系の炭素繊維を用いることが好ましい。ピッチ系の炭素繊維のうち、高い熱伝導性を示すものであれば異方性炭素繊維または等方性炭素繊維のいずれも使用することができる。
(省略)
【0027】バインダー(B)本発明の複合シートを形成するシート用組成物には、バインダーとしては、ゴム状重合体あるいは樹脂状重合体のいずれでも使用可能で、硬化または半硬化前の状態で液状であるバインダーを好ましく用いることができる。また、バインダーには、光硬化性成分および/または熱硬化性成分を添加することもでき、さらに、バインダー成分であるゴム状重合体あるいは樹脂状重合体が光硬化性成分および/または熱硬化性成分を兼ねることもできる。
【0028】以下に、本発明に用いられるゴム状重合体、樹脂状重合体、光硬化性成分および熱硬化性成分について説明する。
(ゴム状重合体)本発明で用いられるゴム状重合体としては、具体的には、ポリブタジエン、天然ゴム、ポリイソプレン、SBR,NBRなどの共役ジエン系ゴムおよびこれらの水素添加物、スチレンブタジエンブロック共重合体、スチレンイソプレンブロック共重合体などのブロック共重合体およびこれらの水素添加物、クロロプレン、ウレタンゴム、ポリエステル系ゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレン共重合体、エチレンプロピレンジエン共重合体などが挙げられる。これらのうち、成形加工性、耐候性、耐熱性などの点から、特にシリコーンゴムが好ましい。
【0029】ここでシリコーンゴムについてさらに詳細に説明する。シリコーンゴムとしては、液状シリコーンゴムを用いることが好ましい。液状シリコーンゴムは、縮合型、付加型などのいずれであってもよい。具体的にはジメチルシリコーン生ゴム、メチルフェニルビニルシリコーン生ゴムあるいはそれらがビニル基、ヒドロキシル基、ヒドロシリル基、フェニル基、フルオロ基などの官能基を含有したものなどを挙げることができる。
(樹脂状重合体)本発明に係る樹脂状重合体としては、具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが使用可能である。このうち、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
(省略)
【0038】なお、ゴム状重合体成分も兼ねることのできるシリコーン系化合物の市販品としては、硬化剤であるヒドロシリル化合物を含有した、室温硬化型の二液タイプの付加型熱硬化性液状シリコーンゴムを挙げることができる。これらの樹脂は単独で、あるいは混合して用いられる。
(省略)
【0049】このような本発明のシート用組成物の粘度は、温度25℃において10,000〜1,000,000cpの範囲内であることが好ましく、また、このようなシート用組成物は、ペースト状であることが好ましい。本発明に係るシート用組成物をシート状に成形するには、従来公知の方法が採用できるが、塗布法、ロール圧延法、流延法などを採用しうる。
<複合シートの製造方法>図1に示すように、本発明に係る複合シート1は、熱および/または光で硬化するバインダー3中に磁性を有する繊維状のフィラー2が、シートの厚み方向に配向したシートであり、前記磁性を有する繊維状フィラーと、前記バインダーとからなるシート用組成物をシート状に圧延しながら、そのシートの厚み方向に磁場を作用させて、前記磁性を有する繊維状のフィラーをシートの厚み方向に配向させつつ、該シートを硬化または半硬化させることにより得られる。そして、前記磁性を有する繊維状フィラー(A)の繊維方向の熱伝導率が、100(Wm-1・K-1)以上であると、シートの厚み方向の異方熱伝導性あるいは異方導電性に優れた複合シートを得ることができる。このような前記シート用組成物の圧延においては、前記磁性を有する繊維状フィラーの配向開始時のシートの厚さ(D1)が、前記磁性を有する繊維状フィラーの配向終了時のシートの厚み(D2)の好ましくは1.3倍以上、さらに好ましくは2〜4倍、特に好ましくは2〜3倍であることが望ましい。
(省略)
【0051】このような圧延の方法は特に限定されないが、たとえば、図2に示すように、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのフィルム4上に、前記したような所望するシートの厚みの1.3倍以上の厚さになるよう、バインダー3中に磁性を有する繊維状フィラー2を含有するシート状組成物5を塗布して、その上面をPETフィルム6で被覆した後、後述するような強度等の条件で磁場7を印可しながら、PETフィルムを所望の厚みに達する程度にまで均一に圧力8をかけてシートをプレスしつつ、光あるいは熱などにより組成物を硬化または半硬化することにより行うことが可能で、これにより本発明に係るシート1を得ることができる。
(省略)
【0059】
【実施例1】[熱伝導性複合シートの製造]2液タイプの付加型熱硬化性液状シリコーンゴム(ビニル基含有ジメチルシリコーンゴム、ヒドロシリル基含有ジメチルポリシリコーンおよび触媒として白金を含有。粘度10P)に対し、平均膜厚0.7μmとなるように表面にニッケル金属を無電解メッキした、平均直径10μm、平均長さ120μmのピッチ系炭素繊維(繊維軸方向の熱伝導率1400W/m・K)を25体積分率(%)加え、真空中で30分間混合し、熱伝導性シート用組成物を得た。この組成物をPETフィルム(50μm厚)上に、シート状となった組成物の厚みが約0.3mm程度になるように垂らした後、上面からもう一枚のPETフィルムを軽く置いて重ね、成形品の厚さ方向に磁力線が通る電磁石の上(約4000ガウスの磁場強度)に設置したプレスの下板の上に置き、ゆっくりと上板を押し込んでいき、上板、下板間のギャップ0.25mm(シート厚0.15mm)となるまでペーストを圧延し、厚さ0.15mmのシート状の成型品を得た。次いで、プレスの上板、下板をそれぞれ100℃に加熱し、両面がPETフィルムで保護された硬化状態のシートを得た。両面のPETフィルムを剥離することにより、厚み0.15mmの熱伝導性複合シートを得た。得られた熱伝導性複合シートについて、下記方法により、熱伝導率を評価した。
(省略)
【0069】実施例1、2、比較例1〜3のシートの熱伝導率を、比較例3で得られたシートの熱伝導率に対して、5倍未満の熱伝導率のものを×、5倍以上20倍未満のものを△、20倍以上のものを○として評価した。結果を表1に示す。
【0070】



図1


図2


イ 引用文献2の上記記載事項、及び図面により、次のことがいえる。
(ア)段落【0012】によれば、引用文献2には、バインダー中に磁性を有する繊維状フィラーが、厚み方向に配向している熱伝導性シートが記載されており、段落【0015】、【0016】によれば、繊維状フィラーとして異方性炭素繊維を用いることが、段落【0027】、【0038】から、バインダーとして付加型熱硬化性液状シリコーンゴムが用いられることがそれぞれ記載されている。
よって、引用文献2には、付加型熱硬化性液状シリコーンゴムが用いられるバインダ中に異方性炭素繊維が、厚み方向に配向している熱伝導性シートが記載されているといえる。

(イ)段落【0059】によれば、熱伝導性シートの実施例1として2液タイプの付加型熱硬化性液状シリコーンゴム(ビニル基含有ジメチルシリコーンゴム、ヒドロシリル基含有ジメチルポリシリコーンおよび触媒として白金を含有。粘度10P)に対し、平均膜厚0.7μmとなるように表面にニッケル金属を無電解メッキした、平均直径10μm、平均長さ120μmのピッチ系炭素繊維を25体積分率(%)加えて混合されて得られた組成物をPETフィルム上に、組成物の厚みが約0.3mm程度になるように垂らした後、上面からもう一枚のPETフィルムを軽く置いて重ね、成形品の厚さ方向に磁力線が通る電磁石の上(約4000ガウスの磁場強度)に設置したプレスの下板の上に置き、ゆっくりと上板を押し込んで圧延した後、100℃に加熱して硬化状態とし、両面のPETフィルムを剥離することにより得られた、厚み0.15mmの熱伝導性シートが記載されているといえる。

ウ よって、上記(ア)、(イ)によれば、引用文献2には次の発明が(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「付加型熱硬化性液状シリコーンゴムが用いられるバインダ中に異方性炭素繊維が、厚み方向に配向している熱伝導性シートにおいて、
2液タイプの付加型熱硬化性液状シリコーンゴム(ビニル基含有ジメチルシリコーンゴム、ヒドロシリル基含有ジメチルポリシリコーンおよび触媒として白金を含有。粘度10P)に対し、平均膜厚0.7μmとなるように表面にニッケル金属を無電解メッキした、平均直径10μm、平均長さ120μmのピッチ系炭素繊維を25体積分率(%)加えて混合されて得られた組成物をPETフィルム上に、組成物の厚みが約0.3mm程度になるように垂らした後、上面からもう一枚のPETフィルムを軽く置いて重ね、成形品の厚さ方向に磁力線が通る電磁石の上(約4000ガウスの磁場強度)に設置したプレスの下板の上に置き、ゆっくりと上板を押し込んで圧延した後、100℃に加熱して硬化状態とし、両面のPETフィルムを剥離することにより得られた、厚み0.15mmの熱伝導性シート。」

(3)甲第3号証について
ア 甲第3号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付与した。
「【請求項1】
バインダ樹脂及び熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性樹脂組成物を所定の形状に成型して硬化することにより、前記熱伝導性樹脂組成物の成型体を得る成型体作製工程と、
前記成型体をシート状に切断して、表面において前記熱伝導性フィラーが突出した成型体シートを得る成型体シート作製工程と、
前記成型体シートをプレスして、前記成型体シートの表面を、突出した前記熱伝導性フィラーによる凸形状を追従するように、前記成型体シートから滲み出した滲出成分により覆う、プレス工程とを含み、
前記バインダ樹脂が、液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤とを含有し、
前記主剤と前記硬化剤との配合割合が、質量比で主剤:硬化剤=60:40〜65:35であり、
前記熱伝導性フィラーが、炭素繊維、及び無機物フィラーを含有し、
前記無機物フィラーが、アルミナ、及び窒化アルミを含有する、
ことを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
(省略)
【0001】
本発明は、半導体素子等の熱源とヒートシンク等の放熱部材との間に配置される熱伝導シートの製造方法、熱伝導シート、及び熱伝導シートを備えた半導体装置に関する。
(省略)
【0010】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、熱源や放熱部材に対する密着性を向上させ、熱伝導性に優れ、また、粘着剤等を用いることなく仮固定を行うことができ、実装性に優れた熱伝導シートの製造方法、熱伝導シート、及びこれを用いた半導体装置を提供することを目的とする。
【0011】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> バインダ樹脂及び熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性樹脂組成物を所定の形状に成型して硬化することにより、前記熱伝導性樹脂組成物の成型体を得る成型体作製工程と、
前記成型体をシート状に切断して、表面において前記熱伝導性フィラーが突出した成型体シートを得る成型体シート作製工程と、
前記成型体シートをプレスして、前記成型体シートの表面を、突出した前記熱伝導性フィラーによる凸形状を追従するように、前記成型体シートから滲み出した滲出成分により覆う、プレス工程とを含むことを特徴とする熱伝導シートの製造方法である。
<2> 前記バインダ樹脂が、液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤とを含有し、
前記主剤と前記硬化剤との配合割合が、質量比で主剤:硬化剤=35:65〜65:35である前記<1>に記載の熱伝導シートの製造方法である。
<3> 前記成型体作製工程が、中空状の型内に、前記熱伝導性樹脂組成物を充填し、前記熱伝導性樹脂組成物を熱硬化することにより行われ、
前記熱伝導性フィラーが、炭素繊維、及び無機物フィラーを含有し、
前記熱伝導シートにおいて、前記炭素繊維が、ランダムに配向している、前記<1>から<2>のいずれかに記載の熱伝導シートの製造方法である。
<4> 前記プレス工程が、前記成型体シートを所定の厚みに圧縮するためのスペーサを用いて行われる前記<1>から<3>のいずれかに記載の熱伝導シートの製造方法である。
<5> 前記プレス工程が、複数の前記成型体シートを隣接し、一括してプレスすることにより行われ、前記複数の成型体シートが一体化された熱伝導シートを得る前記<1>から<4>のいずれかに記載の熱伝導シートの製造方法である。
<6> バインダ樹脂及び熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性樹脂組成物を硬化してなるシート本体を有する熱伝導シートであって、
前記シート本体の表面が、突出した前記熱伝導性フィラーによる凸形状を追従するように、前記シート本体から滲み出した滲出成分で覆われていることを特徴とする熱伝導シートである。
<7> 前記熱伝導性フィラーが、炭素繊維、及び無機物フィラーを含有する前記<6>に記載の熱伝導シートである。
<8> 突出した前記熱伝導性フィラーによる凸形状において、前記炭素繊維の表面に前記無機物フィラーが付着している前記<7>に記載の熱伝導シートである。
<9> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の熱伝導シートの製造方法により製造されたことを特徴とする熱伝導シートである。
<10> 熱源と、放熱部材と、前記熱源と前記放熱部材との間に挟持される熱伝導シートとを有し、
前記熱伝導シートが、前記<6>から<9>のいずれかに記載の熱伝導シートであることを特徴とする半導体装置である。
(省略)
【0080】
(実施例1)
実施例1では、2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂に、シランカップリング剤でカップリング処理した平均粒径4μmのアルミナ粒子(熱伝導性粒子:電気化学工業株式会社製)と、平均繊維長150μm、平均繊維径9μmのピッチ系炭素繊維(熱伝導性繊維:日本グラファイトファイバー株式会社製)と、シランカップリング剤でカップリング処理した平均粒径1μmの窒化アルミ(熱伝導性粒子:株式会社トクヤマ製)とを、体積比で、2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂:アルミナ粒子:ピッチ系炭素繊維:窒化アルミ=34vol%:20vol%:22vol%:24vol%となるように分散させて、シリコーン樹脂組成物(熱伝導性樹脂組成物)を調製した。2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂は、シリコーンA液(主剤)35質量%、シリコーンB液(硬化剤)65質量%の比率で混合したものである。得られたシリコーン樹脂組成物を、内壁に剥離処理したPETフィルムを貼った直方体状の金型(50mm×50mm)の中に押し出してシリコーン成型体を成型した。得られたシリコーン成型体をオーブンにて100℃で6時間硬化してシリコーン硬化物とした。
【0081】
得られたシリコーン硬化物を、オーブンにて100℃、1時間加熱した後、超音波カッターで切断し、厚み3.05mmの成型体シートを得た。超音波カッターのスライス速度は、毎秒50mmとした。また、超音波カッターに付与する超音波振動は、発振周波数を20.5kHzとし、振幅を60μmとした。
【0082】
得られた成型体シートを剥離処理をしたPETフィルムで挟んだ後、厚み2.98mmのスペーサを入れてプレスすることにより、厚み3.00mmの熱伝導シートサンプルを得た。プレス条件は、50℃、0.5MPa設定で、3minとした。スライス直後の表面に見えるフィラーはバインダで被覆されていないが、プレスによってフィラーがシートに押し付けられ、シート内に没入することでバインダ成分が表面に出てくるのでシート表面のフィラー形状を反映してバインダで被覆されている。プレス後にシートと接触していた剥離PET面にはバインダ成分が確認できる。」

イ よって、上記アによれば、甲第3号証には、次の技術が記載されている。(以下、「甲第3号証に記載された技術」という。)
「バインダ樹脂及び熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性樹脂組成物を硬化してなるシート本体を有する熱伝導シートにおいて、
付加反応型液状シリコーン樹脂に、アルミナ粒子と、ピッチ系炭素繊維と、窒化アルミとを分散させたシリコーン樹脂組成物を硬化し切断して得られた成型体シートをプレスすることにより、スライス直後の表面に見えるフィラーは、シートに押し付けられ、シート内に没入することでバインダ成分が表面に出てバインダで被覆されること。」

(4)甲第4号証について
甲第4号証は、上記「第4 2(2)」で述べた引用文献2であり、その記載事項は上記「第4 2(2)」で述べたとおり引用文献2の記載事項であって、甲第4号証に記載された技術は、上記「第4 2(2)」で述べた引用文献2に記載された技術2である。

3 当審の判断
(1)新規性(特許法第29条第1項)の判断について
ア 本件発明1について
(ア)対比
a 本件発明1と甲2発明とを対比する。
本件発明1の「高分子マトリクス」に関し、本件特許明細書の段落【0018】の「硬化性高分子組成物から形成される高分子マトリクスは、シリコーンゴムが例示される。シリコーンゴムの場合、高分子マトリクス(硬化性高分子組成物)としては、好ましくは、付加反応硬化型シリコーンを使用する。」との記載によれば、本件発明1の「高分子マトリクス」は「付加反応硬化型シリコーン」を含むものである。してみれば、甲2発明の「バインダ」は、「付加型熱硬化性液状シリコーンゴム」が用いられるから、本件発明1の「高分子マトリクス」に相当する。
また、本件発明1の「異方性充填剤」に関し、本件発明1を引用する本件発明3に「異方性充填剤が、繊維材料である」と、本件発明3を引用する本件発明4に「繊維材料が、炭素繊維である」とそれぞれ記載されていることから、本件発明1の「異方性充填剤」は「炭素繊維」を含むものである。そうすると、甲2発明の「異方性炭素繊維」は本件発明1の「異方性充填剤」に相当する。
よって、甲2発明の「付加型熱硬化性液状シリコーンゴムが用いられるバインダ中に異方性炭素繊維が、厚み方向に配向している熱伝導性シート」は、本件発明1の「高分子マトリクスと異方性充填材とを含み、前記異方性充填材が厚さ方向に配向している熱伝導性シート」に相当する。
ただし、「熱伝導性シート」に関し、本件発明1は、「前記熱伝導性シートの光学顕微鏡により観察した両表面に、前記異方性充填材が、1〜45%の割合で倒れるように配置される」のに対し、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。

b 上記aによれば、本件発明1と甲2発明は、以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「高分子マトリクスと異方性充填材とを含み、前記異方性充填材が厚さ方向に配向している熱伝導性シート。」

(相違点6)
本件発明1は、「前記熱伝導性シートの光学顕微鏡により観察した両表面に、前記異方性充填材が、1〜45%の割合で倒れるように配置される」のに対し、甲2発明にはその旨の特定はされていない点。

(イ)相違点6に対する判断
本件発明1と甲2発明とは相違点6で一応相違するところ、該相違点6が実質的な相違点であるか否か判断する。

a 上記「第4 3(1)ア(イ)b」で述べたように、本件発明1は、
・「高分子マトリクス」は「付加反応硬化型シリコーン」を用いることが好ましく、「異方性充填材」として、「炭素繊維」が挙げられ、その「アスペクト比は5以上であること」が好ましく、その「含有量は、高分子マトリクス100質量部に対して30〜300質量部であること」が好ましく、その「平均繊維長が、好ましくは50〜500μmであ」り、「非異方性充填材」として「アルミナ」が好ましく、「そのアスペクト比が2以下であり」、その「平均粒径は0.1〜50μmであること」が好ましく、その「含有量は、高分子マトリクス100質量部に対して、200〜800質量部の範囲であること」が好ましく、「熱伝導シート」の「厚さ方向の熱伝導率は、6W/m・K以上とすること」が好ましく、「シートの厚み方向の熱抵抗値は、好ましくは3.0℃/W未満」である「熱伝導性シート」を含み、
・「異方性充填材と、非異方性充填材と、高分子マトリクスの原料となる硬化性高分子組成物」とを「混合する」ことにより「得られた混合組成物を剥離材に塗布」した後、「別の剥離材を混合組成物の上から載置」し、「続いて、加圧プレス等を用いて、混合組成物が二枚の剥離材に挟まれた状態で所望の厚さになるまで圧縮し、積層体を得」る「工程(A)」と、
・「工程(A)で得た積層体を磁場に置き」、「異方性充填材を磁場に沿って配向させ」ると「同時」に「振動」を与えた後、「硬化性高分子組成物を硬化させ」、「磁力線発生源から発生する磁場の磁束密度は、好ましくは1〜30テスラ」であり、「混合組成物の粘度」は、「450Pa・s以下」「10Pa・s以上」とすることが好ましく「硬化」は「50〜150℃程度の温度で行」うとよく、「加熱時間」は「10分〜3時間程度」である「工程(B)」
によって成し得たものと認められる。

b 一方、甲2発明では、「2液タイプの付加型熱硬化性液状シリコーンゴム(ビニル基含有ジメチルシリコーンゴム、ヒドロシリル基含有ジメチルポリシリコーンおよび触媒として白金を含有。粘度10P)に対し、平均膜厚0.7μmとなるように表面にニッケル金属を無電解メッキした、平均直径10μm、平均長さ120μmのピッチ系炭素繊維を25体積分率(%)加えて混合され」るのであるから、甲2発明の「付加型熱硬化性液状シリコーンゴム」及び「ピッチ系炭素繊維」は、本件発明1の「高分子マトリクス」、「異方性充填材」の各構成に好ましいとされる材料やサイズに含まれるといえる。
しかし、甲2発明の「2液タイプの付加型熱硬化性液状シリコーンゴム」を構成する「ビニル基含有ジメチルシリコーンゴム」、「ヒドロシリル基含有ジメチルポリシリコーン」および「白金」が含有される割合が不明であるため、「2液タイプの付加型熱硬化性液状シリコーンゴム」100質量部に対して、「ピッチ系炭素繊維」の質量部がどの程度であるのか不明である。さらに、甲2発明の「熱伝導性シート」の熱伝導率、熱抵抗率は不明であることから、本件発明1に係る熱伝導性シートの好ましいとされる性能に含まれるとはいえない。

c また、甲2発明は、「組成物をPETフィルム上に、組成物の厚みが約0.3mm程度になるように垂らした後、上面からもう一枚のPETフィルムを軽く置いて重ね、成形品の厚さ方向に磁力線が通る電磁石の上(約4000ガウスの磁場強度)に設置したプレスの下板の上に置き、ゆっくりと上板を押し込んで圧延した後、100℃に加熱して硬化状態とし、両面のPETフィルムを剥離する」ところ、「組成物」の「粘度」、及び、「加熱時間」は不明であり、磁場強度(4000ガウス)は「1テスラ」以下であり、「組成物が二枚の剥離材に挟まれた状態で所望の厚さになるまで圧縮し」た後(本件発明1に係る熱伝導性シートを製造するための「工程(A)」を参照)、「磁場と振動を印加」する(本件発明1に係る熱伝導性シートを製造するための「工程(B)」を参照)ものでもない。

d してみると、本件発明1に係る熱伝導性シートの異方性充填剤の含有量と、甲2発明に記載されたピッチ系炭素繊維の含有量は一致しているとはいえず、また、本件発明1に係る熱伝導性シートの性能と、甲2発明に記載された熱伝導性シートの性能が一致しているとはいえず、さらに、本件発明1に係る熱伝導性シートの製造過程と、甲2発明に記載された製造過程とは一致しているとはいえないから、甲2発明の「熱伝導性シート」の「両表面」において、異方性充填材が倒れるように配置される割合が「1〜45%」の範囲内であるとは必ずしもいえない。
よって、上記相違点6は、実質的な相違点といえ、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではない。

(イ)本件発明2ないし5及び9ないし12について
本件発明2ないし5及び9ないし12は、本件発明1の全ての構成を含み、さらに他の構成を付加した発明であるから、上記アと同様の理由により、甲第2号証に記載された発明でない。

ウ 小活
請求項1ないし5及び9ないし12に係る発明は、甲第2号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、したがって、請求項1ないし5及び9ないし12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものでない。
以上から、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(2)進歩性(特許法第29条第2項)の判断について
ア 甲第1号証に記載された発明(甲1発明)を主たる発明とする場合
(ア)本件発明1について
a 対比
上記「第4 3(1)ア(ア)」で述べた点を踏まえ、本件発明1と甲1発明とを対比すると、一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「高分子マトリクスと異方性充填材とを含み、前記異方性充填材が厚さ方向に配向している熱伝導性シート。」

(相違点7)
本件発明1は、「前記熱伝導性シートの光学顕微鏡により観察した両表面に、前記異方性充填材が、1〜45%の割合で倒れるように配置される」のに対し、甲1発明にはその旨特定されていない点。

b 相違点7に対する判断
上記「第4 3(1)ア(イ)」で述べた点を踏まえれば、本件発明1に係る熱伝導性シートの製造過程と、甲1発明に記載された製造過程とは一致しているとはいえず、甲1発明の「シート状の熱伝導性成形体」の「両表面」において、異方性充填材が倒れるように配置される割合が「1〜45%」の範囲内であるとは必ずしもいえない。
そして、甲第1号証には、熱伝導性シートの両表面を、光学顕微鏡で観察し、倒れるように配置されている繊維状充填剤の数の割合を求める記載や示唆は見当たらず、さらに、熱伝導性シートにおいて、その両表面を光学顕微鏡で観察し、倒れるように配置されている繊維状充填剤の数の割合を求めることが技術常識であることを示す証拠も見当たらない。
してみれば、相違点7に係る構成は、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

(イ)本件発明2について
a 本件発明2は、本件発明1の全ての構成を含み、さらに「熱伝導性シートの表面に、前記異方性充填材が露出していない」との構成を付加したものであるから、上記「(ア)」と同様な理由により、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

b そこで、本件発明2と甲1発明とを対比すると、上記「(ア)a」で検討した点も踏まえれば、以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「高分子マトリクスと異方性充填材とを含み、前記異方性充填材が厚さ方向に配向している熱伝導性シート。」

(相違点8)
本件発明2は、「前記熱伝導性シートの光学顕微鏡により観察した両表面に、前記異方性充填材が、1〜45%の割合で倒れるように配置される」のに対し、甲1発明にはその旨特定されていない点。
(相違点9)
本件発明2は、「熱伝導性シートの表面に、前記異方性充填材が露出していない」のに対し、甲1発明はその旨特定されていない点。

そこで、相違点8について検討する。
上記「2(3)」で述べたように、甲第3号証には、「バインダ樹脂及び熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性樹脂組成物を硬化してなるシート本体を有する熱伝導シートにおいて、付加反応型液状シリコーン樹脂に、アルミナ粒子と、ピッチ系炭素繊維と、窒化アルミとを分散させたシリコーン樹脂組成物を硬化し切断して得られた成型体シートをプレスすることにより、スライス直後の表面に見えるフィラーは、シートに押し付けられ、シート内に没入することでバインダ成分が表面に出てバインダで被覆されること」の技術(「甲第3号証に記載された技術」)が記載されている。
しかし、上記「(ア)」で述べたように、甲1発明の「シート状の熱伝導性成形体」の「両表面」において、異方性充填材が倒れるように配置される割合が「1〜45%」の範囲内であるとは必ずしもいえず、甲第1号証には、熱伝導性シートの両表面を、光学顕微鏡で観察し、倒れるように配置されている繊維状充填剤の数の割合を求める記載や示唆も見当たらないことから、仮に、甲1発明に甲第3号証に記載された技術を採用したとしても、相違点8に係る構成とはならない。
よって、相違点8に係る構成は、甲1発明及び甲第3号証に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、相違点9について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明及び甲第3号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

(ウ)本件発明3ないし本件発明12について
本件発明3ないし本件発明12は、本件発明1の全ての構成を含み、さらに他の構成を付加したものであるから、上記「(ア)」と同様な理由により、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

(エ)本件発明13について
a 本件発明13は、本件発明1の全ての構成を含み、さらに「前記異方性充填材が、繊維材料であ」り、「前記繊維材料が、炭素繊維であ」り、「前記炭素繊維が、絶縁層で被覆されている」ことを付加したものであるから、上記「(ア)」と同様な理由により、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

b ここで、本件発明13と甲1発明とを対比すると、甲1発明において「繊維状充填材」は「絶縁材料を用いた表面処理が施され」、「繊維状充填材」は「炭素繊維」からなることは、本件発明13の「前記異方性充填材が、繊維材料であ」り、「前記繊維材料が、炭素繊維であ」り、「前記炭素繊維が、絶縁層で被覆されて」いることに相当する。
してみると、本件発明13と甲1発明とは、上記「(ア)a」で検討した点も踏まえれば、以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「高分子マトリクスと異方性充填材とを含み、前記異方性充填材が厚さ方向に配向している熱伝導性シートであって、
異方性充填材が、繊維材料であり、
繊維材料が、炭素繊維であり、
炭素繊維が、絶縁層で被覆されている、熱伝導性シート。」

(相違点10)
本件発明2は、「前記熱伝導性シートの光学顕微鏡により観察した両表面に、前記異方性充填材が、1〜45%の割合で倒れるように配置される」のに対し、甲1発明にはその旨特定されていない点。

そこで、相違点10について検討する。
上記「第4 2(2)ウ」で述べた点を踏まえると、甲第4号証には、「高分子マトリックス13と、繊維状充填材15を有する熱伝導性充填材14とを含む組成物17から成形されるシート状の熱伝導性部材11において、炭素繊維である繊維状充填材の表面に酸化ケイ素からなる電気絶縁性皮膜を形成すること」の技術(以下、「甲第4号証に記載された技術」という。)が記載されている。
しかし、上記「(ア)b」で述べたように、甲1発明の「シート状の熱伝導性成形体」の「両表面」において、異方性充填材が倒れるように配置される割合が「1〜45%」の範囲内であるとは必ずしもいえず、甲第1号証には、熱伝導性シートの両表面を、光学顕微鏡で観察し、倒れるように配置されている繊維状充填剤の数の割合を求める記載や示唆も見当たらないことから、仮に、甲1発明に甲第4号証に記載された技術を採用したとしても、相違点5に係る構成とはならない。
よって、相違点10に係る構成は、甲1発明及び甲第4号証に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明13は、甲1発明及び甲第4号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

イ 甲第2号証に記載された発明(甲2発明)を主たる発明とする場合
(ア)本件発明1について
a 対比
上記「(1)ア(ア)a」で述べたとおり、本件発明1と甲2発明とを対比すると、以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「高分子マトリクスと異方性充填材とを含み、前記異方性充填材が厚さ方向に配向している熱伝導性シート。」

(相違点6)
本件発明1は、「前記熱伝導性シートの光学顕微鏡により観察した両表面に、前記異方性充填材が、1〜45%の割合で倒れるように配置される」のに対し、甲2発明にはその旨の特定はされていない点。

b 相違点6に対する判断
上記「(1)ア(イ)d」で述べたとおり、本件発明1に係る熱伝導性シートの異方性充填剤の含有量と、甲2発明に記載されたピッチ系炭素繊維の含有量は一致しているとはいえず、また、本件発明1に係る熱伝導性シートの性能と、甲2発明に記載された熱伝導性シートの性能が一致しているとはいえず、さらに、本件発明1に係る熱伝導性シートの製造過程と、甲2発明に記載された製造過程とは一致しているとはいえないから、甲2発明の「熱伝導性シート」の「両表面」において、異方性充填材が倒れるように配置される割合が「1〜45%」の範囲内であるとは必ずしもいえない。
そして、甲第2号証には、熱伝導性シートの両表面を、光学顕微鏡で観察し、倒れるように配置されている繊維状充填剤の数の割合を求める記載や示唆は見当たらず、さらに、熱伝導性シートにおいて、その両表面を光学顕微鏡で観察し、倒れるように配置されている繊維状充填剤の数の割合を求めることが技術常識であることを示す証拠も見当たらない。
してみれば、相違点6に係る構成は、甲2発明に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

(イ)本件発明2ないし5及び9ないし12について
本件発明2ないし5及び9ないし12は、本件発明1の全ての構成を含み、さらに他の構成を付加したものであるから、上記「(ア)」と同様な理由により、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

ウ 小括
請求項1ないし14に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1ないし14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
また、請求項1ないし5及び9ないし12は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1ないし5及び9ないし12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
そして、請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
さらに、請求項13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
以上から、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(3)明確性(特許法第36条第6項第2号)の判断について
特許異議申立人は、異議申立書において、本件発明2において、「前記熱伝送性シートの表面に、前記異方性充填剤が露出していない、」の「露出していない」の文言は、段落【0009】、【0054】、【0062】実施例1ないし【0068】比較例1において記載されているものの、その定義乃至測定方法については何ら記載されていないことから、いかなる程度のいかなる状態をもって前記「露出していない」とするのかを当業者であったとしても理解することはできない旨主張する。
しかし、本件特許明細書の段落【0009】には「なお、露出していないとは、熱伝導性シート表面に存在する異方性充填材が高分子マトリクス12に実質的に覆われている状態を意味する。」と記載され、同段落【0054】には「なお、以上の説明では、熱伝導性シート10の両表面10A、10Bに異方性充填材13が露出していない態様を示した。ただし、本発明では、上記した両表面10A、10Bのうち一方又は両方の表面において、異方性充填材13が露出した熱伝導性シート10でもよい。」と記載されていることからすれば、「露出していない」とは、熱伝導性シートの表面に意図的に露出したものを想定したものではないことは明らかであり、その意味は明確である。
よって、本件発明2に係る構成は明確であるから、本件発明2ないし14は、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たす。
したがって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子マトリクスと異方性充填材とを含み、前記異方性充填材が厚 さ方向に配向している熱伝導性シートであって、
前記熱伝導性シートの光学顕微鏡により観察した両表面に、前記異 方性充填材が、1〜45%の割合で倒れるように配置される、熱伝導 性シート。
【請求項2】
前記熱伝導性シートの表面に、前記異方性充填材が露出していない 、請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
前記異方性充填材が、繊維材料である請求項1又は2に記載の熱伝 導性シート。
【請求項4】
前記繊維材料が、炭素繊維である請求項3に記載の熱伝導性シート 。
【請求項5】
前記繊維材料の平均繊維長が、50〜500μmである請求項3又 は4に記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
さらに非異方性充填材を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の 熱伝導性シート。
【請求項7】
前記非異方性充填材が、アルミナ、アルミニウム、酸化亜鉛、窒化 ホウ素、及び窒化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも 1種である請求項6に記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
前記異方性充填材の体積充填率に対する、前記非異方性充填材の体 積充填率の比が、2〜5である請求項6又は7に記載の熱伝導性シー ト。
【請求項9】
前記表面において倒れるように配置される異方性充填材の少なくと も一部が、前記表面に対して傾斜するように配置される請求項1〜8 のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項10】
前記高分子マトリクスが、付加反応硬化型シリコーンである請求項 1〜9のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項11】
前記熱伝導性シートの厚さが0.1〜5mmである請求項1〜10のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項12】
前記熱伝導性シートの厚さ方向における熱伝導率が6w/m・K以 上である請求項1〜11のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項13】
前記炭素繊維が、絶縁層で被覆されている請求項4に記載の熱伝導性シート。
【請求項14】
前記絶縁層が、二酸化ケイ素を含む請求項13に記載の熱伝導性シ ート。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-11-18 
出願番号 P2019-562669
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 537- YAA (H01L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 畑中 博幸
山本 章裕
登録日 2020-01-22 
登録番号 6650176
権利者 積水ポリマテック株式会社
発明の名称 熱伝導性シート  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 田口 昌浩  
代理人 田口 昌浩  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 千々松 宏  
代理人 千々松 宏  

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