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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C11D 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C11D 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C11D |
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管理番号 | 1382360 |
総通号数 | 3 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-03-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-01-08 |
確定日 | 2021-11-05 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6718777号発明「衣料用洗浄剤組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6718777号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕について訂正することを認める。 特許第6718777号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6718777号の請求項1〜6の発明に係る特許についての出願は、平成28年9月5日になされたものであって、令和2年6月17日にその特許権の設定登録がなされ、同年7月8日にその特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その特許についての異議申立ての経緯は、以下のとおりである。 令和3年1月8日 特許異議申立人である森田弘潤による特許異議の 申立て 同年4月20日付け 取消理由通知 同年6月18日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者) 同年同月29日付け 訂正請求があった旨の通知 同年8月2日付け 意見書の提出(特許異議申立人) 第2 訂正の適否についての判断 1 請求の趣旨及び内容について 令和3年6月18日になされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、「特許第6718777号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜6について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、特許請求の範囲の訂正に係る以下の訂正事項からなるものである。 訂正事項1−1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に 「(A)成分:炭素数10〜20の脂肪酸塩を除くアニオン界面活性剤」 と記載されているのを、 「(A)成分:アニオン界面活性剤(但し、炭素数10〜20の脂肪酸塩を除く)」 に訂正する。 また、請求項1の記載を引用する請求項2〜6も同様に訂正する。 訂正事項1−2 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に 「(B)成分:4,4−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル」 と記載されているのを、 「(B)成分:4,4’−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル」 に訂正する。 また、請求項1の記載を引用する請求項2〜6も同様に訂正する。 訂正事項1−3 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に 「衣料用洗浄剤組成物」 と記載されているのを、 「衣料用洗浄剤組成物(但し、クエン酸二水素銀を含有する組成物を除く)」 に訂正する。 また、請求項1の記載を引用する請求項2〜6も同様に訂正する。 訂正事項2 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に 「(B)成分/(C)成分で表される質量比が0.01〜100である」 と記載されているのを、 「(B)成分/(C)成分で表される質量比が0.02〜1である」 に訂正する。 また、請求項4の記載を引用する請求項5〜6も同様に訂正する。 訂正事項3 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に 「前記(B)成分の含有量が、衣料用洗浄剤組成物の総質量に対し、0.2〜3質量%である」 と記載されているのを、 「前記(B)成分の含有量が、衣料用洗浄剤組成物の総質量に対し、0.2〜1質量%である」 に訂正する。 また、請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。 2 訂正の適否 (1) 一群の請求項について 訂正事項1−1〜訂正事項1−3(以下、まとめて「訂正事項1」ともいう。)は、本件訂正前の請求項1の記載を訂正するものであるところ、請求項2〜6はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。また、訂正事項2、3は、それぞれ、本件訂正前の請求項4、5の記載を訂正するものであるところ、これらの訂正に連動して訂正される請求項は、請求項5及び6である。 したがって、本件訂正前の請求項1〜6に対応する本件訂正後の請求項1〜6は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1−1 (ア)訂正事項1−1は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1における、「炭素数10〜20の脂肪酸塩を除くアニオン界面活性剤」について、「炭素数10〜20の」という事項が、「脂肪酸塩」を限定しているという解釈と、「アニオン界面活性剤」を限定しているという解釈の2とおりが可能であったため、その意味が明確ではなかったものを、「アニオン界面活性剤(但し、炭素数10〜20の脂肪酸塩を除く)」と表現を改めることによって、その意味を明確にすることを目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (イ)また、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)には、アニオン界面活性剤について、「<(A)成分:炭素数10〜20の脂肪酸塩を除くアニオン界面活性剤> (A)成分は、炭素数10〜20の脂肪酸塩を除く少なくとも一種のアニオン界面活性剤であるが、界面活性剤の種類によらず防臭効果と酵素安定性を発揮できる。 (A)成分としては、例えば、以下の化合物(A1)〜(A12)が挙げられる。 (A1)炭素数8〜20の飽和又は不飽和α-スルホ脂肪酸のメチルエステル塩、エチルエステル塩もしくはプロピルエステル塩。 (A2)炭素数8〜18のアルキル基を有する直鎖状又は分岐鎖状のアルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS又はABS)。なかでも、直鎖アルキル基を有するものが好ましい。該直鎖アルキル基の炭素数は、8〜16が好ましく、10〜14がより好ましい。 (A3)炭素数10〜20のアルカンスルホン酸塩。 (A4)炭素数10〜20のα-オレフィンスルホン酸塩(AOS)。 (A5)炭素数10〜20のアルキル硫酸塩又はアルケニル硫酸塩(AS)。 (A6)炭素数2〜4のアルキレンオキシドのいずれか、又はエチレンオキシド(EO)とプロピレンオキシド(PO)(モル比EO/PO=0.1/9.9〜9.9/0.1)を平均0.5〜10モル付加した炭素数10〜20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基(又はアルケニル基)を有する、ポリオキシアルキレンアルキル(又はアルケニル)エーテル硫酸塩(AES)。アルキレンオキシド、又はエチレンオキシドとプロピレンオキシドの平均付加モル数は、1〜5が好ましい。 (A7)炭素数2〜4のアルキレンオキシドのいずれか、又はエチレンオキシドとプロピレンオキシド(モル比EO/PO=0.1/9.9〜9.9/0.1)を平均3〜30モル付加した炭素数10〜20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基(又はアルケニル基)を有する、ポリオキシアルキレンアルキル(又はアルケニル)フェニルエーテル硫酸塩。 (A8)炭素数2〜4のアルキレンオキシドのいずれか、又はエチレンオキシドとプロピレンオキシド(モル比EO/PO=0.1/9.9〜9.9/0.1)を、平均0.5〜10モル付加した炭素数10〜20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基(又はアルケニル基)を有する、ポリオキシアルキレンアルキル(又はアルケニル)エーテルカルボン酸塩。 (A9)炭素数10〜20のアルキルグリセリルエーテルスルホン酸等のアルキル多価アルコールエーテル硫酸塩。 (A10)長鎖モノアルキルリン酸塩、長鎖ジアルキルリン酸塩、又は長鎖セスキアルキルリン酸塩。 (A11)ポリオキシエチレンモノアルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンジアルキルリン酸塩、又はポリオキシエチレンセスキアルキルリン酸塩。 (A)成分としては、化合物(A1)〜(A11)以外のアニオン界面活性剤を用いてもよい。例えば、アルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシアルキレンエーテルカルボン酸塩、アルキルアミドエーテルカルボン酸塩又はアルケニルアミドエーテルカルボン酸塩、アシルアミノカルボン酸塩等のカルボン酸型アニオン界面活性剤;アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルリン酸エステル塩、グリセリン脂肪酸エステルモノリン酸エステル塩等のリン酸エステル型アニオン界面活性剤等が挙げられる。 アニオン界面活性剤の塩の形態としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;アンモニウム塩等が挙げられる。なかでも、アルカリ金属塩が好ましい。」(段落【0009】、【0010】)、 「<他の成分> 本発明の衣料用洗浄剤組成物は、(A)〜(C)成分の他に、酵素(以下、(D)成分ともいう)、金属化合物(以下、(E)成分ともいう)、(A)成分以外の界面活性剤(以下、(G)成分ともいう)、エタノール等の水混和性有機溶剤、モノエタノールアミン等のアルカリ剤、ジブチルヒドロキシトルエン等の酸化防止剤、安息香酸ナトリウム等の防腐剤、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム等の酵素安定化剤、色素等の着色剤、ゼオライト、洗浄性ビルダー、香料(または香料前駆体)、水等を含んでいてもよい。 (A)〜(C)成分と、他の成分との合計は、100質量%を超えない。 ・・・ (G)成分としては、炭素数10〜20の脂肪酸塩、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。 炭素数10〜20の脂肪酸塩としては、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、ステアリン酸塩等の炭素数10〜20の飽和又は不飽和脂肪酸塩、又は、これらの混合物であるヤシ油脂肪酸塩、硬化ヤシ油脂肪酸塩、パーム油脂肪酸塩、硬化パーム油脂肪酸塩、牛脂脂肪酸塩、硬化牛脂脂肪酸塩等が挙げられる。これらの塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩などのアルカノールアミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。 炭素数10〜20の脂肪酸塩は、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。」(段落【0026】〜【0030】)と記載されている。 以上によれば、本件明細書中では、(A)成分のアニオン界面活性剤について、様々な種類の物質が例示されているところ(段落【0009】、【0010】)、それらの中には炭素数10〜20の脂肪酸塩が含まれていないこと、及び、(A)〜(C)成分の他に含まれていてもよい他の成分として、(A)成分以外の界面活性剤(以下、(G)成分ともいう)があり、当該(G)成分の具体例として例示されている複数の物質の中に炭素数10〜20の脂肪酸塩が含まれていること(段落【0026】〜【0030】)、が理解できる。 そうすると、炭素数10〜20の脂肪酸塩は、(A)成分とは別の成分である(G)成分に分類されている物質であって、(A)成分には、炭素数10〜20の脂肪酸塩が含まれないことは明らかであるから、これを踏まえれば本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1における、「(A)成分:炭素数10〜20の脂肪酸塩を除くアニオン界面活性剤」が「アニオン界面活性剤(但し、炭素数10〜20の脂肪酸塩を除く)」を意味していたことは明らかである。 (ウ)したがって、訂正事項1−1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。 イ 訂正事項1−2 訂正事項1−2は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1における、「(B)成分:4,4−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル」について、「4,4−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル」という化学構造を備える物質は存在し得ないため、その記載に誤記があることが明らかであったので、これを、「(B)成分:4,4‘−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル」に変更することを目的とするものである。そして、特許権者は、訂正事項1−2が、誤記の訂正を目的とするものであると主張しているから、当該主張に基づき、訂正事項1−2が誤記の訂正を目的とするものであるかどうかについて検討する。 特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する「誤記」であるというためには、訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいことが、当該明細書、特許請求の範囲、若しくは図面の記載又は当業者の技術常識から明らかで、当業者であればそのことに気づいて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければならないと解される(知財高裁、平成28年(行ケ)第10154号判決、平成29年5月30日言渡参照。)。 そこで、以下、この観点に基づいて検討する。 本件訂正前の「4,4−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル」という記載には、このような化学構造を備える物質が存在し得えないことから、何らかの誤った記載があることは明らかであるが、どの文字にどのような誤りがあるのかは不明であるから、正しい記載(化学構造)の候補として様々な場合を想定することができる。例えば、最初の「4,」が「3,」の誤りであったとすれば正しい記載は「3,4−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル」であり、「4,4−ジクロロ」が「4−クロロ」の誤りであったとすれば正しい記載は「4−クロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル」であり、他にも様々な場合を想定することができる。したがって、この記載のみに基づいてこの記載の本来の意味を理解することはできない。 次に、「4,4−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル」という誤った記載について、当該記載に対応する記載が本件特許の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)中に存在すれば、当該記載には誤りがない蓋然性が高い(特許請求の範囲及び当初明細書において一貫して誤っている蓋然性は低い)と認められるところ、当初明細書中には、(B)成分について、以下の記載がある。 「<(B)成分:フェノール型抗菌剤> (B)成分は、フェノール型抗菌剤である。なお、フェノール型とは、芳香族炭化水素核の水素原子の1以上がヒドロキシ基で置換された構造を意味する。 (B)成分は、洗濯後の衣類等の繊維製品に抗菌性を付与する成分である。フェノール型抗菌剤は、衣料用洗浄剤組成物中においてアニオン界面活性剤と共存させても、アニオン界面活性剤による洗浄性を損なわずに抗菌性を発揮できる。 (B)成分としては、抗菌剤として公知のフェノール誘導体又はジフェニル化合物が挙げられる。具体的には、5-クロロ-2-(2,4-ジクロロフェノキシ)フェノール(慣用名:トリクロサン)、4,4’-ジクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテル(慣用名:ダイクロサン)、o-ベンジル-p-クロロフェノール(慣用名:クロロフェン)、イソプロピルメチルフェノール、パラクロロメタキシレノール等が挙げられる。なかでも、ジフェニル化合物が好ましく、具体的には、5-クロロ-2-(2,4-ジクロロフェノキシ)フェノール(慣用名:トリクロサン)、4,4’-ジクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテル(慣用名:ダイクロサン)、o-ベンジル-p-クロロフェノール(慣用名:クロロフェン)が好ましい。 (B)成分としては、繊維への吸着量が高いことから本発明を適用することによる効果が大きい点から、下記式(b1)で表される2-ヒドロキシジフェニル化合物(以下、化合物(b1)という。)が好ましい。 ・・・ 特に好適な化合物(b1)は、5-クロロ-2-(2,4-ジクロロフェノキシ)フェノール(慣用名:トリクロサン)、4,4’-ジクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテル(慣用名:ダイクロサン)、o-ベンジル-p-クロロフェノール(慣用名:クロロフェン)であり、4,4’-ジクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテル(慣用名:ダイクロサン)が最も好ましい。 (B)成分は、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。」(段落【0013】〜【0016】)、 「<(B)成分> ・B-1:4,4’-ジクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテル、商品名「TinosanHP100」、BASF社製。 ・B-2:5-クロロ-2-(2,4-ジクロロフェノキシ)フェノール、商品名「トリクロサン」、和光純薬工業株式会社製。 ・B-3:o-ベンジル-p-クロロフェノール、商品名「クロロフェン」、クラリアントジャパン株式会社製。」(段落【0048】)と記載されている。 以上によれば、当初明細書中には、「4,4−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル」という記載に類似する記載として、「4,4‘−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル」という記載があるが、この記載は、「4,4−」が「4,4‘−」の誤り(1文字抜け)であった場合に相当するものであり、かつ、その他には「4,4−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル」という記載と1文字違い程度で一致する記載が皆無である。 そうすると、当業者は、当初明細書の「4,4‘−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル」という記載以外には、「4,4−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル」に対応する記載はないと理解するから、当初明細書、特許請求の範囲、若しくは図面の記載又は当業者の技術常識から、訂正前の記載(4,4−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル)が誤りで訂正後の記載(4,4‘−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル)が正しい記載であることが明らかで、当業者であればそのことに気づいて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるといえる。 なお、上記理解は、当該記載(4,4−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル)が、本件特許に係る審査の過程における令和2年1月10日付けの手続補正で請求項1に加入されたものであるところ、当該手続補正について同日付けの意見書(2頁3〜7行)において、「請求項1に「(B)成分:4,4‘−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル・・の構成を加入しました。」と説明していることと整合する。 したがって、訂正事項1−2は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する、誤記の訂正を目的とするものであり、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。 ウ 訂正事項1−3 訂正事項1−3は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1における、「衣料用洗浄剤組成物」を、「衣料用洗浄剤組成物(但し、クエン酸二水素銀を含有する組成物を除く)」に変更することによって、さらに限定することを目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項1−3は、いわゆる除くクレームとすることよって単に特許請求の範囲の一部を除外することのみを目的とするものであり、当該除外をしたことによって新たな技術的事項を導入するものでもない。 なお、特許異議申立人は、令和3年8月2日提出の意見書(5頁6行〜6頁4行)において、要するに、本件発明の技術的思想は甲第1号証のクエン酸二水素銀の配合目的と軌を一にするものであり、それゆえ、クエン酸二水素銀の有無に関して新たに規定を加えることは、新たな技術的事項を導入するものに他なりません、と主張するが、配合目的が一致していると何故新たな技術的事項を導入するものであるといえるのか、理論が飛躍し過ぎているし、具体的にどのような技術的事項が導入されることになるのかも明らかにしていないのでそれについて検討することもできない。したがって主張は、採用できない。 したがって、訂正事項1−3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。 エ 訂正事項2 訂正事項2は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4における、「(B)成分/(C)成分で表される質量比」の範囲を、「0.01〜100」から「0.02〜1」に変更することによって、さらに限定することを目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項2について、本件明細書の段落【0025】には、「(B)成分/(C)成分で表される質量比(以下、B/C比ともいう)は、0.01〜100が好ましく、0.02〜80がより好ましく、0.1〜1がさらに好ましい。」と記載されている。 そうすると、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。 オ 訂正事項3 訂正事項3は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5における、「前記(B)成分の含有量」の範囲を、「衣料用洗浄剤組成物の総質量に対し、0.2〜3質量%」から「衣料用洗浄剤組成物の総質量に対し、0.2〜1質量%」に変更することによって、さらに限定することを目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項3について、本件明細書の段落【0018】には、「(B)成分の含有量は、衣料用洗浄剤組成物の総質量に対し、0.003〜3質量%が好ましく、0.006〜2質量%がより好ましく、0.02〜1質量%がさらに好ましく、0.02〜0.5質量%が特に好ましい。」と記載されている。 そうすると、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。 (3) 独立特許要件について 本件特許異議申立てについては、全ての請求項が特許異議申立ての対象とされているので、訂正事項1−1〜訂正事項3のいずれについても、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項(独立特許要件)は適用されない。 (4) 小括 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1、2、3号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するものである。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜6について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜6に係る発明(以下、項番にしたがって「本件発明1」などといい、まとめて、「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 (A)成分:アニオン界面活性剤(但し、炭素数10〜20の脂肪酸塩を除く)と、(B)成分:4,4’−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテルを含むフェノール型抗菌剤と、(C)成分:下記式(c1)で表される化合物を含むアミノカルボン酸型キレート剤とを含む衣料用洗浄剤組成物(但し、クエン酸二水素銀を含有する組成物を除く)。 【化1】 式(c1)中、Aは、それぞれ独立してH、OHまたはCOOMであり、Mは、それぞれ独立してH、Na、K、NH4またはアルカノールアミンであり、nは0〜5の整数である。 【請求項2】 さらに(G)成分としてノニオン界面活性剤を含み、 前記(G)成分の含有量が、衣料用洗剤組成物の総質量に対し、20〜40質量%である、請求項1に記載の衣料用洗浄剤組成物。 【請求項3】 さらに(D)成分:酵素を含む、請求項1又は2に記載の衣料用洗浄剤組成物。 【請求項4】 (B)成分/(C)成分で表される質量比が0.02〜1である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の衣料用洗浄剤組成物。 【請求項5】 前記(B)成分の含有量が、衣料用洗浄剤組成物の総質量に対し、0.2〜1質量%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の衣料用洗浄剤組成物。 【請求項6】 前記(C)成分の含有量が、衣料用洗浄剤組成物の総質量に対し、0.1〜2質量%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の衣料用洗浄剤組成物。」 第4 取消理由通知書に記載した取消理由について 当審が令和3年4月20日付けで通知した取消理由1、2は、いずれも解消したと判断する。その理由は、以下のとおりである。 1 取消理由1について (1) 取消理由1の概要 取消理由1は、要するに、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の「炭素数10〜20の」、及び、「4,4−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル」という記載が明確ではないというものである。 (2) 判断 上記第2のとおり、本件訂正が認められたので、取消理由1の対象となった明確ではない記載自体が存在しなくなった。また、本件訂正により当該不明確な点も解消された。 したがって、取消理由1によって、本件請求項1、及び、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜6に係る特許を取消理由1によって、取り消すべきものとすることはできない。 2 取消理由2について (1) 取消理由2の概要 取消理由2は、要するに、主たる証拠を甲1(特開2012−197318号公報(特許異議申立人森田弘潤が提出した甲第1号証))とし、本件発明1〜6は、いずれも、甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1〜6に係る特許は、いずれも、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである、というものである。 (2) 甲1に記載されている事項 特開2012−197318号公報(以下、「甲1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審による。 「【技術分野】 【0001】 (発明の分野) 本発明は、抗微生物組成物を含有しているパーソナルケア製品及びホームケア製品、より具体的には、クエン酸二水素銀を含有している抗微生物組成物に関する。 【背景技術】 【0002】 (発明の背景) 消費者は、健康及び容姿の増強又は維持のため、多様なパーソナルケア製品を使用している。そのような製品には、例えば、スキンケアにおける;制汗剤及び脱臭剤としての;パーソナルクレンザーとしての;ヘアケアにおける;オーラルケア製品としての;そして装飾用化粧品としての用途がある。そのような製品は、しばしば、細菌、真菌、及びウイルスのような望ましくない微生物を死滅させるか又はそれらの増殖を抑制するよう機能する抗微生物剤を含む。抗微生物剤は、ほんの数例を挙げると、脱臭スプレー、フットトリートメント、及び練り歯磨きのような、多岐にわたる製品においてしばしば利用されている。抗微生物剤は、例えば、皮膚と接触した際の、脱臭剤又は化粧品を汚染しているかもしれない細菌の増殖を防止するための防腐剤として、使用され得る。又は、そのような組成物の抗微生物効果は、それらの最終用途における利益を提供するかもしれない。例えば、フットケア製品における抗微生物剤は、皮膚糸状菌感染を処置するためにしばしば使用される。ツースケア製品において、抗微生物薬は、抗う食剤、抗歯肉炎剤、及び抗歯周炎剤として使用されている。 【0003】 ホームケア製品は、家庭、病院、ホテル、モーテル、及びオフィス、並びにヒトが生活しているか、仕事をしているか、又はその他の生活を営んでいるその他の場所において、洗浄又は消毒するために使用される。一般に、ホームケア製品は、家庭であれ、仕事場であれ、又は公衆便所の場所であれ、消費者の環境に対して作用することにより、消費者に何らかの利益を付与する。抗微生物薬は、微生物を死滅させるか又はそれらの増殖を抑制するため、洗浄剤、セッケン、漂白剤、防腐剤、脱臭剤、及びその他のクレンジング剤のようなホームケア製品において利用されている。微生物には、細菌、真菌、及びウイルスが含まれる。いくつかの場合において、抗微生物剤は、ホームケア製品のための防腐剤として機能し得る。さらに、製造業者は、しばしば、製品の意図された使用を通して抗微生物利益を付与するために、製品に抗微生物薬を含める。例えば、製造業者は、衣類から有害な微生物、例えば、細菌、ウイルス、及び真菌を除去するため、洗濯用洗浄剤に抗微生物剤を含めることがある。製造業者は、使用者の環境中の多様な表面における微生物の生存率又は数を低下させるため、表面を洗浄する洗浄剤に抗微生物剤を含めることがある。実際、製造業者は、抗微生物薬が、極めて多様なホームケア製品において有用であることを見出している。」 「【0012】 (発明の要旨) 本発明は、生理学的に許容される媒体中にクエン酸二水素銀を含有しているパーソナルケア組成物を提供する。そのようなクエン酸二水素銀含有組成物は、他の抗微生物薬のような、可溶性又は非可溶性いずれかの付加的な成分を含んでいてもよく、また、洗浄剤又はアルコールを含んでいてもよい。クエン酸二水素銀を含有しているパーソナルケア組成物は、多様な方式で製剤化され得、水相、及び場合により乳化剤を含んでいてもよい非水相又は油相の両方を含み得る。さらに、組成物はゲル化剤又は濃化剤を含むことができる。」 「【0023】 本発明のいくつかの適切なパーソナルケア組成物には、脱臭剤、制汗剤、顔、足、手、及び全身に使用するためのスキンケア製品、サンプロテクション製品、パーソナルクリーニング製品、ヘアケア製品、婦人衛生用品、オーラルケア製品、並びにリップスティック、マスカラ、フェイシャルメーキャップクリーム、及びルージュのような装飾用化粧品が含まれる。従って、製品は、本明細書に記載されるような、保湿剤湿潤剤、軟化剤、油、脂質型材料、安定剤、研磨剤、抗ざ瘡剤、抗酸化剤、着色剤、収斂剤、フィルム形成剤、芳香成分、不透明化剤、推進剤、還元剤、皮膚漂白剤、日焼け止め剤、オーラルケア剤のようなその他の適切な薬剤を含み得る。アルコール及び洗浄剤が、さらに、添加され得る。」 「【0053】 「抗微生物剤」とは、抗微生物効果を誘発することができる薬剤である。本発明は、静菌的、殺菌的、殺ウイルス的、静ウイルス的、殺真菌的、又は静真菌的な活性を有する抗微生物剤を提供する。「アルコール以外の抗微生物剤」とは、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、及びフェノールのようなアルコールとして従来既知のモノヒドロキシ化合物のうちの1つ以外の抗微生物剤である。 【0054】 本発明のいくつかの実施形態において利用される「付加的な抗微生物剤」の例には、以下のものが含まれる:ピリチオン、特に、亜鉛錯体(ZPT);・・・2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシ−ジフェニルエーテル(トリクロサン(Triclosan)(登録商標)又はTCS);2,2’−ジヒドロキシ−5,5’−ジブロモ−ジフェニルエーテル;フェノール化合物;」 「【0055】 化粧用の、薬学的な、家庭用の、及び技術的な製品の保存の目的のため、本発明のクエン酸二水素銀含有クエン酸二水素銀の、(以下に挙げられる)ヨーロピアンコスメティックディレクティブ(EuropeanCosmeticDirective)の付録(Annex)VIのもののような「他の抗微生物防腐剤」との組み合わせは、増加した保存効力を示す:ホルムアルデヒド;・・・2,4,4’−トリクロロ2−ヒドロキシジフェニルエーテル(トリクロサン);4,4’−ジクロロ2−ヒドロキシジフェニルエーテル;」 「【0063】 本発明は、さらに、1つ以上のキレート剤を含む組成物を提供する。例示的なキレート剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ベータ−アラニン二酢酸(EDETA))、ホスホノメチルキトサン、カルボキシメチルキトサン、ヒドロキシエチレンジアミノ四酢酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、及びエチレンジアミン二コハク酸(S,S−EDDS、R,R−EDDS、又はS,R−EDDS)である。いくつかの実施形態において、そのようなキレート剤は、本発明のクエン酸二水素銀クエン酸二水素銀と組み合わせられて、付加的な効果を提供するか、又は相乗的な効果すら提供する。」 「【0066】 本発明は、腋の下用脱臭剤、腋の下用制汗/脱臭組成物、エアロゾルルームデオドライザー、固体ルームデオドライザー等のような、脱臭のためのパーソナルケア組成物及びホームケア組成物を提供する。特に、本発明は、以下の群の1つ以上のメンバーを含むパーソナルケア及びホームケアの脱臭組成物を提供する:ファルネソール、香料、フェノキシエタノール、第四級化合物、トリクロサン、トリクロカルバン、安息香酸もしくはソルビン酸のような有機酸、ポリ−(ヘキサメチレンビグアニド)ヒドロクロリドのようなビグアニド、又はその他の上に挙げられたクエン酸二水素銀。本発明は、さらに、脱臭剤及び1つ以上の制汗剤(例えば、クロルヒドロキシアルミニウム(aluminumchlorhydrate)、クロルヒドロキシジルコニウム、並びにアルミニウム、亜鉛、及びジルコニウムのその他の塩)、アルコール、キレート剤、又は抗酸化剤を含むパーソナルケア組成物を提供する。いくつかの実施形態において、そのような成分も、本発明のクエン酸二水素銀の増強された又は定性的に異なる抗微生物活性をもたらす。」 「【0140】 本発明は、さらに、洗濯用洗浄剤及び/又はファブリックケア組成物におけるクエン酸二水素銀を含むホームケア組成物を提供する。本発明のそのような実施形態において、本発明の洗濯用洗浄剤及び/又はファブリックケア組成物は、好ましくは、陽イオン性、陰イオン性、及び/もしくは非イオン性の界面活性剤より選択される界面活性成分、並びに/又は漂白剤をさらに含む。 【0141】 いくつかの実施形態において、本発明に係る抗微生物洗濯用洗浄剤及び/又はファブリックケア組成物は、液体、ペースト、ゲル、棒状物、錠剤、スプレー、フォーム、粉末、顆粒の形態であり得る。顆粒状の組成物は、「圧縮された」形態であってもよく、液体の組成物は「濃縮された」形態であってもよい。 【0142】 いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、例えば、洗濯用添加剤組成物、並びに汚れのあるファブリックの浸け置き及び/又は前処理において使用するのに適した組成物、リンスが添加されたファブリック柔軟剤組成物を含む、手動式及び機械式の洗濯用洗浄剤組成物として製剤化され得る。ファブリックの前処理剤又は後処理剤には、ゲル、スプレー、及び液体のファブリックケア組成物が含まれる。柔軟剤の存在下又は非存在下での濯ぎサイクルも企図される。 【0143】 洗濯機での洗浄法において使用するのに適した組成物として製剤化される場合、本発明の組成物の実施形態は、好ましくは、界面活性剤及びビルダー化合物の両方を含有しており;さらに、以下のもののような1つ以上の界面活性成分を含有している:有機ポリマー性化合物;漂白剤;付加的な酵素;消泡剤;分散剤;石灰セッケン分散剤;汚れ浮遊剤(soilsuspension)及び抗再沈着剤;並びに腐食阻害剤。本発明の洗濯用組成物のいくつかの実施形態は、付加的な界面活性成分として柔軟剤も含有している。 【0144】 洗濯用洗浄剤及び/又はファブリックケア組成物である、本発明のいくつかの実施形態は、以下のものを含む陽イオン性ファブリック柔軟成分を、場合によりさらに含有している:非水溶性第四級アンモニウムファブリック柔軟活性物質(又は対応するアミン前駆物質)(最も一般的に使用されているのは、ジ長アルキル鎖アンモニウムクロリド又はメチルスルフェートである)。 【0145】 例示的な実施形態において、好ましい陽イオン性柔軟剤は、ジタロー(ditallow)ジメチルアンモニウムクロリド(DTDMAC);二水素化タロー(tallow)ジメチルアンモニウムクロリド;二水素化タロージメチルアンモニウムメチルスルフェート;ジステアリルジメチルアンモニウムクロリド;ジオレイルジメチルアンモニウムクロリド;ジパルミチルヒドロキシエチルメチルアンモニウムクロリド;ステアリルベンジルジメチルアンモニウムクロリド;タロートリメチルアンモニウムクロリド;水素化タロートリメチルアンモニウムクロリド;C12−14アルキルヒドロキシエチルジメチルアンモニウムクロリド;C12−18アルキルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムクロリド;ジ−(ステアロイルオキシエチル)ジメチルアンモニウムクロリド(DSOEDMAC);ジ−(タロー−オキシ−エチル)ジメチルアンモニウムクロリド;ジタローイミダゾリニウムメチルスルフェート;1−(2−タロイル(tallowyl)アミドエチル)−2−タロイルイミダゾリニウムメチルスルフェート;及び/又はそれらの混合物もしくは組み合わせである。 【0146】 本発明のいくつかの洗濯用洗浄剤及び/又はファブリックケア実施形態は、両性電解質性(ampholytic)(即ち、両性)、双性、及び半極性の界面活性剤を含有していてもよい。 【0147】 いくつかの実施形態において、本発明の洗濯用洗浄剤及び/又はファブリックケア組成物は、清掃力、ファブリックケア、及び/又は衛生化利益を提供する1つ以上の酵素を含有しているであろう。そのような酵素の例には、以下のものが含まれる:セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、グルコ−アミラーゼ、アミラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、ケラタナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、タンナーゼ、ペントサナーゼ、マラナーゼ(malanases)、−グルカナーゼ、アラビノシダーゼ、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ラッカーゼ、及び/又はそれらの2つ以上の組み合わせもしくは混合物。 【0148】 本発明は、さらに、ビルダー系を含むクエン酸二水素銀洗濯用洗浄剤組成物を提供する。従来のビルダー系が、本発明の組成物において使用するのに適している。適当なビルダー系には、以下のものが含まれる:アルミノケイ酸塩材料シリケート;ポリカルボキシレート;アルキル−又はアルケニル−コハク酸、及び脂肪酸;(エチレンジアミン四酢酸塩及びジエチレントリアミンペンタメチレン酢酸塩のような)キレート化材料;(アミノポリホスホネート、特に、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸及びジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸のような)金属イオン封鎖剤;並びにそれらの2つ以上の混合物及び組み合わせ。いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、単独で、又はその他のビルダーと組み合わせて、1つ以上のリン酸ビルダーを含む。 【0149】 いくつかの実施形態において、本発明の抗微生物洗濯用洗浄剤及び/又はファブリックケア組成物は、場合により、1つ以上の鉄及び/又はマンガンのキレート剤を含有していてもよい。そのようなキレート剤は、以下のものから一般に選択されるであろう:アミノカルボキシレート、アミノホスホネート、多官能基置換芳香族キレート剤、及び/又はそれらの2つ以上の混合物。 【0150】 いくつかの実施形態において、組成物は、例えば、ゼオライト、多層シリケート等のような不溶性ビルダーと共に有用なキレート剤又はコビルダーとして水溶性のメチルグリシン二酢酸(MGDA)塩(又は酸型)を含有している。 【0151】 本発明のいくつかの実施形態におけるもう1つの任意成分は、シリコン及びシリカ−シリコン混合物により例示される消泡剤である。 【0152】 本発明のいくつかの実施形態は、以下のもののような、その他の成分を含む:汚れ浮遊剤、汚れ放出剤、蛍光増白剤、研磨剤、殺菌薬、変色阻害剤、着色剤、及び/又はカプセル化もしくは非カプセル化香料が利用され得る。」 「【0282】 (B.ホームケア製剤及びファブリックケア製剤) 表31には、本発明に係る製剤のいくつかの実施形態が示される。 【0283】 【0284】 【0285】 表32には、本発明の実施形態に係るいくつかのホームケア製剤及びファブリックケア製剤が示される。 【0286】 【0287】 【0288】 」 (3) 甲1に記載された発明 甲1には、「本発明は、さらに、洗濯用洗浄剤及び/又はファブリックケア組成物におけるクエン酸二水素銀を含むホームケア組成物を提供する。本発明のそのような実施形態において、本発明の洗濯用洗浄剤及び/又はファブリックケア組成物は、好ましくは、陽イオン性、陰イオン性、及び/もしくは非イオン性の界面活性剤より選択される界面活性成分、並びに/又は漂白剤をさらに含む。」(段落【0140】)と記載されていることから、「洗濯用洗浄剤組成物であって、クエン酸二水素銀を含むとともに、陰イオン性界面活性成分をさらに含む洗濯用洗浄剤組成物」が記載されている。 また、甲1には、上記洗濯用洗浄剤組成物の具体的な実施形態についてさらに、「洗濯機での洗浄法において使用するのに適した組成物として製剤化される場合、本発明の組成物の実施形態は、好ましくは、界面活性剤及びビルダー化合物の両方を含有しており」(段落【0143】)、「いくつかの実施形態において、組成物は、例えば、ゼオライト、多層シリケート等のような不溶性ビルダーと共に有用なキレート剤又はコビルダーとして水溶性のメチルグリシン二酢酸(MGDA)塩(又は酸型)を含有している。」(段落【0150】)、「その他の成分」として「汚れ浮遊剤、汚れ放出剤、蛍光増白剤、研磨剤、殺菌薬、変色阻害剤、着色剤、及び/又はカプセル化もしくは非カプセル化香料」などを含むものであること(段落【0152】)が説明されている。 したがって、甲1には、洗濯用洗浄剤組成物の具体的な実施形態として、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 <甲1発明> 「洗濯用洗浄剤組成物であって、クエン酸二水素銀を含むとともに、陰イオン性界面活性成分をさらに含み、 ビルダー化合物として、例えば、ゼオライト、多層シリケート等のような不溶性ビルダーと共に有用なキレート剤又はコビルダーとして水溶性のメチルグリシン二酢酸(MGDA)塩(又は酸型)を含有し、 その他の成分として汚れ浮遊剤、汚れ放出剤、蛍光増白剤、研磨剤、殺菌薬、変色阻害剤、着色剤、及び/又はカプセル化もしくは非カプセル化香料を含む、 洗濯用洗浄剤組成物。」 (4) 本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明の対比 甲1発明の「陰イオン性界面活性成分」、「洗濯用洗浄剤組成物」は、本件発明1の「アニオン界面活性剤」、「衣料用洗浄剤組成物」に相当する。 甲1発明の「メチルグリシン二酢酸(MGDA)塩(又は酸型)」は、本件発明1の「下記式(c1)で表される化合物(化学式とその説明の記載は省略)」に相当する。また、本件発明1の「下記式(c1)で表される化合物(化学式とその説明の記載は省略)」に相当するのであるから、本件発明1の「アミノカルボン酸型キレート剤」を充足する。 甲1発明の「殺菌薬」は、本件発明1の「抗菌剤」に相当する。 以上によれば、本件発明1と甲1発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 「(A)成分:アニオン界面活性剤と、(B)成分:抗菌剤と、(C)成分:下記式(c1)で表される化合物を含むアミノカルボン酸型キレート剤とを含む衣料用洗浄剤組成物。 【化1】 式(c1)中、Aは、それぞれ独立してH、OHまたはCOOMであり、Mは、それぞれ独立してH、Na、K、NH4またはアルカノールアミンであり、nは0〜5の整数である。」 <相違点1> 「アニオン界面活性剤」について、本件発明1は、「但し、炭素数10〜20の脂肪酸塩を除く」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えていない点 <相違点2> 「抗菌剤」について、本件発明1は、「4,4’−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテルを含むフェノール型抗菌剤」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えていない点 <相違点3> 「衣料用洗浄剤組成物」について、本件発明1は、「但し、クエン酸二水素銀を含有する組成物を除く」と特定されているのに対し、甲1発明は、「クエン酸二水素銀を含む」と特定されている点 イ 相違点について 事案に鑑み、相違点3についてまず検討する。 甲1には、「本発明は、抗微生物組成物を含有しているパーソナルケア製品及びホームケア製品、より具体的には、クエン酸二水素銀を含有している抗微生物組成物に関する。」(段落【0001】)、「ホームケア製品は、家庭、病院、ホテル、モーテル、及びオフィス、並びにヒトが生活しているか、仕事をしているか、又はその他の生活を営んでいるその他の場所において、洗浄又は消毒するために使用される。・・・抗微生物薬は、微生物を死滅させるか又はそれらの増殖を抑制するため、洗浄剤、セッケン、漂白剤、防腐剤、脱臭剤、及びその他のクレンジング剤のようなホームケア製品において利用されている。・・・例えば、製造業者は、衣類から有害な微生物、例えば、細菌、ウイルス、及び真菌を除去するため、洗濯用洗浄剤に抗微生物剤を含めることがある。」(段落【0003】)、と記載されている。 そうすると、甲1発明の「衣料用洗浄剤組成物」は、クエン酸二水素銀を含有していることを前提とする発明であり、甲1発明の「クエン酸二水素銀を含む」という事項はこれに対応するものであると理解できる。 そうすると、甲1に接して上記の点を理解した当業者が甲1発明において「クエン酸二水素銀を含む」という事項を備えないものとすることを着想することはありえない(強く阻害される)といえる。 したがって、当業者が、甲1発明において、相違点3に係る構成を備えるものとすることを動機づけられることはないと認められる。 ウ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、令和3年8月2日提出の意見書(7頁5行〜8頁4行)において、要するに、甲1発明の実施例は明らかに水溶液であり、「銀イオン」に関する記載もあることから、水溶液中ではクエン酸二水素銀の銀が完全に電離して全て銀イオンとなっており、かつ、水溶液中にはナトリウム源が多く存在するので、銀イオンがクエン酸二水素銀に由来するか区別できないから、甲1発明は本件発明1の「但し、クエン酸二水素銀を含有する組成物を除く」を充足すると主張する。 この主張は、水溶液中ではクエン酸二水素銀における銀の電離平衡が100%完全に電離側に傾いており、全て銀をイオンとして放出することを前提とするものであるが、水溶液中でクエン酸二水素銀が100%完全に電離して銀イオンを放出しているとはいえないし、クエン酸二水素銀が100%完全に電離する点について、技術常識を示す文献などの証拠が何も提出されていない。そして、電離が不完全(100%未満)である場合には、水溶液中には必ずクエン酸二水素銀が存在する。したがって、特許異議申立人の主張は、その前提に誤りがあり採用できない。 また、仮に100%完全に電離するので水溶液中では銀イオンがクエン酸二水素銀に由来するか否かを区別できないとしても、本件発明1の「但し、クエン酸二水素銀を含有する組成物を除く」を充足する否かを判断できないというべきであって、充足するとまではいえない。 したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。 エ 効果について 本件発明1は、相違点1〜3に係る事項を備えることにより、防臭効果に優れた衣料用洗浄剤組成物を提供することができるという効果を奏するものである(本件明細書の段落【0060】参照。)。 また、当該効果は、甲1発明から予測し得ない顕著なものである。 オ 本件発明1についての小括 以上のとおりであるから、相違点1、2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。 (5) 本件発明2〜6について 本件発明2〜6は、いずれも本件発明1を直接または間接的に引用し、さらに限定した発明に該当するが、上記のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められないものであるから、同様の理由により、本件発明2〜6も、甲1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。 第5 特許異議申立ての理由について 1 特許異議申立ての理由 特許異議申立人が申立てた取消理由は、以下のとおりである。 理由1 本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を充足しない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 理由2 本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜6に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか、あるいは、当該発明に基いて本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 理由1について (1) 理由1の概要(特許異議申立書20〜27頁、「(4−2)申立理由2(サポート要件違反)」の項) 理由1は、要するに、本件発明が解決しようとする課題は、防臭効果に優れる衣料用洗浄剤組成物を提供することである(本件明細書の段落【0004】)が、(A)成分乃至(C)成分のみではせいぜい異臭がやや強く感じられるという程度の作用効果しか得られず課題を解決できるとは到底認められない。また、(C)成分としての式(c1)で表される化合物の記載は、実施例で示されている範囲と比較して広範である、というものである。 (2) 当審の判断 本件発明が解決しようとする課題は、特許異議申立人も正しく認定しているとおり、防臭効果に優れる衣料用洗浄剤組成物を提供することである。また、上記第4 2(4)エで説示したとおり、本件発明は、防臭効果に優れた衣料用洗浄剤組成物を提供することができるものであると認められる。 したがって、本件発明に係る特許は、理由1によって取り消すべきものとすることはできない。 3 理由2について (1) 理由2の概要 理由2は、要するに、主たる証拠を甲1(特開2012−197318号公報(特許異議申立人森田弘潤が提出した甲第1号証))、甲2(特開2016−124985号公報(特許異議申立人森田弘潤が提出した甲第2号証))、及び、甲3(特表2015−515447号公報(特許異議申立人森田弘潤が提出した甲第3号証))のいずれかとし、本件発明1〜6は、いずれも、甲1〜3のいずれかに記載された発明であるか、当該発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、いずれも、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである、というものである。 (2) 当審の判断 ア 理由2のうち、主たる証拠を甲1とする新規性・進歩性について 理由2のうち、主たる証拠を甲1とする進歩性にかかるものについては、上記第4 2に説示したとおりであり、採用できない。また、上記第4 2(4)に説示したとおり本件発明と甲1に記載された発明を対比すると相違点があるから、新規性にかかる理由についても、さらに検討するまでもなく採用できない。 イ 理由2のうち、主たる証拠を甲2とする新規性・進歩性について 理由2のうち、主たる証拠を甲2とする新規性・進歩性にかかるものの概要(審判請求書48〜61頁、「(4−4)申立理由3−1,2(甲第2号証を主引例とする新規債・進歩性違反)」の項)は、甲2の【請求項1】、段落【0001】、【0004】、【0006】、【0007】、【0025】〜【0028】、【0035】〜【0036】、【0039】、【0040】、【0048】、【0051】、【0062】の記載を摘記し、これらの記載によれば以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえることを前提とするものである。 「半極性界面活性剤と、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルベンゼンスルホン酸又はその塩と、直鎖アルキル(炭素数10〜14)ベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン界面活性剤と、ノニオン界面活性剤と、メチルグリシンジ酢酸又はその塩などのキレート剤0.1〜10質量%と、ダイクロサンなどの抗菌剤0.001〜1質量%を含有し、25℃におけるpHが2〜6であることを特徴とする繊維製品用の液体洗浄剤」 特許異議申立書には、これらの摘記した記載からどのようにして甲2発明を導き出したのか、一切説明が記載されていないが、甲2発明の「半極性界面活性剤」、「アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルベンゼンスルホン酸又はその塩」、及び、「25℃におけるpHが2〜6であることを特徴とする繊維製品用の液体洗浄剤」は、甲2の【請求項1】の記載に基づくものであると認められる。 一方、甲2発明の「直鎖アルキル(炭素数10〜14)ベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン界面活性剤」という記載は甲2には見いだせない。また、当該記載は、甲2の【請求項1】の「(C)成分:アニオン界面活性剤(ただし(B)成分は含まれない)」と段落【0025】〜【0026】の「<C成分>(C)成分としては、特に限定されず・・・上記のうち、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸又はその塩としては、直鎖アルキル基の炭素数が8〜16のものが好ましく、炭素数10〜14のものが特に好ましい。α−オレフィンスルホン酸塩としては・・」との記載に基づくものであると推察されるが、甲2の当該箇所には、まず、「(C)成分としては、特に限定されず」と記載され、加えて、「直鎖アルキル(炭素数10〜14)ベンゼンスルホン酸ナトリウム」以外にも「α−オレフィンスルホン酸塩」などの複数の選択肢が例示されている。また、「直鎖アルキル(炭素数10〜14)ベンゼンスルホン酸ナトリウム」が好ましい旨の説明などもない。そうすると、アニオン界面活性剤に関する記載の中から特に直鎖アルキル(炭素数10〜14)ベンゼンスルホン酸ナトリウムなどについてだけ着目して「直鎖アルキル(炭素数10〜14)ベンゼンスルホン酸ナトリウムなど」表記すべき事情は何も見いだせない。 また、「ノニオン界面活性剤」、「メチルグリシンジ酢酸又はその塩などのキレート剤」、及び、「ダイクロサンなどの抗菌剤」は、甲2の段落【0035】の「<その他の成分> 本発明の液体洗浄剤は、上記(A)〜(C)成分以外に、液体洗浄剤に通常用いられるその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、(A)成分及び(C)成分以外の界面活性剤、過酸化水素、漂白活性化剤、キレート剤、ラジカルトラップ剤、溶剤、無機塩類、ホウ酸化合物、ポリオール化合物、香料、抗菌剤、pH調整剤などが挙げられる。」、段落【0036】の「上記(A)成分及び(C)成分以外の界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤・・・」、段落【0039】の「キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、グリコールエチレンジアミン六酢酸、β−アラニンジ酢酸、アスパラギン酸ジ酢酸、メチルグリシンジ酢酸、イミノジコハク酸等のアミノカルボン酸類又はその塩・・・」、及び、段落【0040】の「抗菌剤としては、抗菌剤としては、ダイクロサン、トリクロサン、ビス-(2-ピリジルチオ-1-オキシド)亜鉛・・・」との記載に含まれているものであるが、 甲2の当該箇所には、ノニオン界面活性剤とキレート剤と抗菌剤以外にも、その他の成分として過酸化水素や漂白活性化剤などの複数の選択肢が記載されており、かつ、ノニオン界面活性剤とキレート剤と抗菌剤を含むことが好ましい旨の説明などはないから、特にこれらの化合物についてだけ着目して「ノニオン界面活性剤」、「メチルグリシンジ酢酸又はその塩などのキレート剤」、及び、「ダイクロサンなどの抗菌剤」と表記すべき事情は何も見いだせない。 また、ノニオン界面活性剤は、(A)成分及び(C)成分以外の界面活性剤として例示されている物質の1つであるが、ノニオン界面活性剤以外にもカチオン界面活性剤などが同列に例示されていて、特にノニオン界面活性剤が好ましいとされているわけではないし、キレート剤と抗菌剤についても、それぞれ、複数の選択肢が記載されているのであって、特にメチルグリシンジ酢酸又はその塩が好ましいとか、ダイクロサンが好ましいとされているわけではない。また、実施例(段落【0062】)で用いているキレート剤aは1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸であり、キレート剤bはクエン酸であり、抗菌剤はポリ(ヘキサメチレンビグアニド)塩酸塩であるから、キレート剤や抗菌剤についてこれらの物質が好ましいと理解することはあっても、メチルグリシンジ酢酸又はその塩やダイクロサン(本件発明の式(c)で表される化合物に該当する。)が好ましいとは理解しない。 そうすると、特許異議申立人が主張する甲2発明は、その認定の根拠が不明であって、要するに、本件発明を見ながら本件発明に近づけるように認定したもの(いわゆる後知恵によるもの)であると言わざるを得ないものであり、甲2に記載された発明であるとはいえないものである。 したがって、甲2発明が甲2に記載されているといえることを前提とする理由2(主たる証拠を甲2とする新規性・進歩性)は、さらに検討するまでもなく採用できない。 ウ 理由2のうち、主たる証拠を甲3とする新規性・進歩性について 理由2のうち、主たる証拠を甲3とする新規性・進歩性にかかるものの概要(審判請求書61〜73頁、「(4−5)申立理由4−1,2(甲第3号証を主引例とする新規債・進歩性違反)」の項)は、甲3の【請求項1】、【請求項5】、【請求項7】、【請求項10】、【請求項14】、【請求項15】、【0006】、【0037】、【0079】、【0081】、【0083】〜【0087】、【0096】、【表5】の記載を摘記し、これらの記載によれば以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえることを前提とするものである。 「4,4−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテルなどのフェノール部分を含有する殺生物剤、ポリアミン、アニオン界面活性剤(アルキル基中に10個から20個の炭素原子を有するアルキルベンゼンスルホネート、アルキル基中に8個から18個の炭素原子を有するアルキルサルフェートなど)及び非イオン界面活性剤、並びにアミノ酸アセテート(メチルグリシン二酢酸ナトリウム、グルタミン酸二酢酸ナトリウムなど)等のキレート剤を含有し、洗濯洗剤、織物コンディショナー、多目的清浄剤(all purpose cleaner)として用いられる洗浄剤組成物」 特許異議申立書には、これらの摘記した記載からどのようにして甲3発明を導き出したのか、一切説明が記載されていないが、甲3発明の「フェノール部分を含有する殺生物剤」、「ポリアミン」、及び、「組成物」は、甲3の【請求項1】の記載に基づくものであると認められる。 一方、甲3発明の「4,4−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテルなど」という記載は甲3には見いだせない。また、甲3の【請求項5】には「ハロゲン原子を含有する及び/若しくはフェノール部分を含有する殺生物剤、ギ酸、二酸化塩素若しくは二酸化塩素発生化合物、又はジアルデヒドから選択され、特にはフェノキシエタノール、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、4,4'-ジクロロ-2'-ヒドロキシ-ジフェニルエーテル、2,4,4'-トリクロロ-2'-ヒドロキシ-ジフェニルエーテル、グルタルアルデヒド、ギ酸、1,2-エタンジアール、2,4-ジクロロベンジルアルコール、3,5-ジメチル-1,3-5-チアジアジナン-2-チオン、1,3,5-トリス-(2-ヒドロキシエチル)-ヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、2-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノシクロプロピルアミノ-6-(1,3,5-トリアジン)、銀-ガラス、銀ゼオライト」と記載されており、列記されている多数の殺生物剤の中に「4,4’−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル」が含まれてはいるが、特にこの化合物が好ましいと記載されているわけではないから、この化合物についてだけ特に着目して「4,4−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテルなど」とまとめて表記すべき事情は何も見いだせない。 また、甲3発明の「アニオン界面活性剤・・・非イオン界面活性剤・・・含有・・・洗浄剤組成物」は、という記載は甲3には見いだせない。また、この記載に含まれている「アニオン界面活性剤」、及び、「非イオン界面活性剤」は、甲3の【請求項10】の「表面活性剤、屈水剤、抗微生物効果を改善し得るさらなる添加剤、並びに処方物中の抗微生物剤(a)及び/又はポリアミン(b)を安定化する薬剤からなる群から選択される;特にはアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤からなる群などの界面活性剤から選択される、少なくとも1種のさらなる構成成分」との記載に含まれているものの、これらの選択肢の中では「アニオン界面活性剤」、及び、「非イオン界面活性剤」が好ましいなどと記載されているわけではないから、これらの剤についてだけ特に着目し、その他の選択肢を無視する事情は何も見いだせない。 また、甲3発明の「洗濯洗剤、織物コンディショナー、多目的清浄剤(all purpose cleaner)として用いられる洗浄剤組成物」という記載は甲3には見いだせない。また、この記載に含まれている「洗濯洗剤」、及び、「織物コンディショナー」は、甲3の【請求項14】の「消毒剤、多目的清浄剤、洗濯洗剤、皿洗い液体、脱臭剤、織物コンディショナー、硬質表面の消毒及び衛生化のための製品、床清浄剤、ガラス清浄剤、キッチン清浄剤、浴室清浄剤、サニタリー清浄剤、織物のための衛生リンス製品、カーペット清浄剤、家具清浄剤、又は硬質及び軟質の表面をコンディショニング、シール、ケア若しくは処理するための製品などのホームケア処方物の製造のため;又はパーソナルケア処方物、特には脱臭剤、皮膚ケア製剤、浴用製剤、化粧用ケア製剤、フットケア製剤、光保護製剤、皮膚タンニング製剤、脱色製剤、昆虫忌避剤、制汗剤、傷のある皮膚を清浄及びケアするための製剤、毛髪除去製剤、シェービング製剤、芳香製剤、化粧用毛髪処理製剤、抗フケ製剤、口腔ケア組成物」との記載に含まれている選択肢であり、「多目的清浄剤」は、甲3の【請求項15】の「消毒剤、多目的清浄剤、洗濯洗剤、皿洗い液体、脱臭剤、織物コンディショナー、硬質表面の消毒及び衛生化のための製品、床清浄剤、ガラス清浄剤、キッチン清浄剤、浴室清浄剤、サニタリー清浄剤、織物のための衛生リンス製品、カーペット清浄剤、家具清浄剤、又は硬質及び軟質の表面をコンディショニング、シール、ケア若しくは処理するための製品などのホームケア処方物として;又はパーソナルケア処方物、特には脱臭剤、皮膚ケア製剤、浴用製剤、化粧用ケア製剤、フットケア製剤、光保護製剤、皮膚タンニング製剤、脱色製剤、昆虫忌避剤、制汗剤、傷のある皮膚を清浄及びケアするための製剤、毛髪除去製剤、シェービング製剤、芳香製剤、化粧用毛髪処理製剤、抗フケ製剤、口腔ケア組成物」との記載に含まれている選択肢であるが、「洗濯洗剤」、「織物コンディショナー」、及び、「多目的清浄剤」が他の選択肢に比べて好ましいなどと記載されているわけではないから、これらの選択肢についてだけ特に着目し、その他の選択肢を無視する事情は何も見いだせないし、これらの選択肢をまとめて、「洗濯洗剤、織物コンディショナー、多目的清浄剤(all purpose cleaner)として用いられる洗浄剤組成物」などとする事情も何も見いだせない。 さらに、甲3発明の「アミノ酸アセテート(メチルグリシン二酢酸ナトリウム、グルタミン酸二酢酸ナトリウムなど)等のキレート剤」という記載も甲3には見いだせない。また、この記載に含まれている「アミノ酸アセテート」という記載は、甲3の段落【0096】の「他の添加剤(e)は、金属のキレート化剤及び錯化剤、例えばEDTA、NTA、アラニン二酢酸又はホスホン酸、エチレンジ-アミン四酢酸(EDTA)、β-アラニン二酢酸(EDETA)、ホスホノメチルキトサン、カルボキシメチルキトサン、ヒドロキシエチレンジ-アミノ四酢酸、ニトリロ三酢酸(NTA)及びエチレンジアミン二コハク酸(S,S-EDDS、R,R-EDDS又はS,R-EDDS)、トリポリホスフェートのようなアルカリ金属ホスフェート、ポリカルボキシレート、ポリカルボン酸、有機ホスホネート、アミノアルキレンポリ(アルキレンホスホネート)、MGDA (Trilon M、BASF)及びDissolvine GL (AKZO)のようなアミノ酸アセテート、並びにBaypure CX (Lanxess)などのアスパラギン酸誘導体を含む。」との記載に含まれている「金属のキレート化剤及び錯化剤」の選択肢の1つであるが、「アミノ酸アセテート」が他の選択肢に比べて好ましいなどと記載されているわけではないから、これらの選択肢についてだけ特に着目し、その他の選択肢を無視する事情は何も見いだせないし、「キレート剤」については、「金属のキレート化剤」という類似した記載があるにとどまり、両者が同じ剤を意味しているのか否かも不明である。 なお、甲3発明は、カッコ付きの記載「(アルキル基中に10個から20個の炭素原子を有するアルキルベンゼンスルホネート、アルキル基中に8個から18個の炭素原子を有するアルキルサルフェートなど)」、及び、「(メチルグリシン二酢酸ナトリウム、グルタミン酸二酢酸ナトリウムなど)」を含むものであるが、カッコ付きであることから、甲3発明を特定するための事項ではないと判断した。 以上のとおりであるから、特許異議申立人が主張する甲3発明は、その認定の根拠が不明であって、要するに、本件発明を見ながら本件発明に近づけるように認定したもの(いわゆる後知恵によるもの)であると言わざるを得ないものであり、甲3に記載された発明であるとはいえないものである。 したがって、甲3発明が甲3に記載されているといえることを前提とする理由2(主たる証拠を甲3とする新規性・進歩性)は、さらに検討するまでもなく採用できない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本件請求項1〜6に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、取り消すべきものとすることはできない。 また、他に本件請求項1〜6に係る特許を取り消すべきものとすべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 A)成分:アニオン界面活性剤(但し、炭素数10〜20の脂肪酸塩を除く)と、 (B)成分:4,4’−ジクロロー2−ヒドロキシジフェニルエーテルを含むフェノール型抗菌剤と、(C)成分:下記式(c1)で表される化合物を含むアミノカルボン酸型キレート剤とを含む衣料用洗浄剤組成物(但し、クエン酸二水素銀を含有する組成物を除く)。 【化1】 式(c1)中、Aは、それぞれ独立してH、OHまたはCOOMであり、Mは、それぞれ独立してH、Na、K、NH4またはアルカノールアミンであり、nは0〜5の整数である。 【請求項2】 さらに(G)成分としてノニオン界面活性剤を含み、 前記(G)成分の含有量が、衣料用洗剤組成物の総質量に対し、20〜40質量%である、請求項1に記載の衣料用洗浄剤組成物。 【請求項3】 さらに(D)成分:酵素を含む、請求項1又は2に記載の衣料用洗浄剤組成物。 【請求項4】 (B)成分/(C)成分で表される質量比が0.02〜1である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の衣料用洗浄剤組成物。 【請求項5】 前記(B)成分の含有量が、衣料用洗浄剤組成物の総質量に対し、0.2〜1質量%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の衣料用洗浄剤組成物。 【請求項6】 前記(C)成分の含有量が、衣料用洗浄剤組成物の総質量に対し、0.1〜2質量%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の衣料用洗浄剤組成物。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-10-27 |
出願番号 | P2016-172763 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C11D)
P 1 651・ 537- YAA (C11D) P 1 651・ 113- YAA (C11D) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
門前 浩一 |
特許庁審判官 |
木村 敏康 蔵野 雅昭 |
登録日 | 2020-06-17 |
登録番号 | 6718777 |
権利者 | ライオン株式会社 |
発明の名称 | 衣料用洗浄剤組成物 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 川越 雄一郎 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 鈴木 三義 |
代理人 | 田▲崎▼ 聡 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 加藤 広之 |
代理人 | 川越 雄一郎 |
代理人 | 鈴木 三義 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 加藤 広之 |
代理人 | 田▲崎▼ 聡 |