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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12M
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12M
管理番号 1382372
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-03-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-04 
確定日 2021-10-18 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6732722号発明「胚選抜システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6732722号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕、6について訂正することを認める。 特許第6732722号の請求項2〜5に係る特許を維持する。 特許第6732722号の請求項1、6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6732722号の請求項1〜6に係る特許(以下、「本件特許」ということがある。)についての出願は、平成29年12月11日に出願したものであって、令和2年7月10日にその特許権の設定登録がなされ、同年8月5日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、令和3年2月4日に特許異議申立人 亀崎泰子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。
そして、当審において、同年4月21日付けで取消理由を通知したところ、その指定期間内である同年6月25日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がなされ、同年7月1日付けで申立人に訂正請求があった旨を通知したところ、同年7月30日付けで申立人から意見書の提出がなされた。



第2 訂正の可否についての判断

1.訂正の内容
令和3年6月25日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、特許第6732722号の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜6について訂正をすることを求めるものであり、その訂正事項は以下のとおりである。 なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2について、
「請求項1に記載の胚選抜システムであって、
前記判定部は、教師あり学習によって前記画像に写った前記胚の特徴について学習し、前記学習に基づいて前記胚が良好胚であるか判定する、胚選抜システム。」
と記載されているのを、請求項1を引用する請求項2について、独立請求項の形式に改めると共に、
「胚選抜システムであって、
培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する画像格納部と、
教師あり学習によって前記画像に写った前記胚の特徴について学習し、前記学習に基づいて前記胚が良好胚であるか判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、
培養開始から72時間経過したときに、前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて、前記胚の割球数の経時的な変化を解析し、
受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚であると判定し、
受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態を経ることなく前記胚の割球数が3個以上の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚ではないと判定する、
胚選抜システム。」
に訂正する。
請求項2の記載を引用する請求項4および請求項5も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3について、
「請求項1に記載の胚選抜システムであって、
前記判定部は、多層のニューラルネットワークを用いたディープラーニングによって前記画像に写った前記胚の特徴について学習し、前記学習に基づいて前記胚が良好胚であるか判定する、胚選抜システム。」
と記載されているのを、請求項1を引用する請求項3について、独立請求項の形式に改めると共に、
「胚選抜システムであって、
培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する画像格納部と、
多層のニューラルネットワークを用いたディープラーニングによって前記画像に写った前記胚の特徴について学習し、前記学習に基づいて前記胚が良好胚であるか判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、
培養開始から72時間経過したときに、前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて、前記胚の割球数の経時的な変化を解析し、
受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚であると判定し、
受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態を経ることなく前記胚の割球数が3個以上の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚ではないと判定する、
胚選抜システム。」
に訂正する。
請求項3の記載を引用する請求項4および請求項5も同様に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の胚選抜システムであって、」と記載されているのを、請求項1を訂正事項1により削除したことに伴って、「請求項2または請求項3に記載の胚選抜システムであって、」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(6)訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0005】について、
「本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。」
と記載されているのを、
「本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様として実現することが可能である。本発明の第1の態様は、胚選抜システムとしての態様である。この杯選抜システムは、培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する画像格納部と、教師あり学習によって前記画像に写った前記胚の特徴について学習し、前記学習に基づいて前記胚が良好胚であるか判定する判定部と、を備え、前記判定部は、培養開始から72時間経過したときに、前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて、前記胚の割球数の経時的な変化を解析し、受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚であると判定し、受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態を経ることなく前記胚の割球数が3個以上の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚ではないと判定する。
また、本発明の第2の態様は、胚選抜システムとしての態様である。この杯選抜システムは、培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する画像格納部と、多層のニューラルネットワークを用いたディープラーニングによって前記画像に写った前記胚の特徴について学習し、前記学習に基づいて前記胚が良好胚であるか判定する判定部と、を備え、前記判定部は、培養開始から72時間経過したときに、前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて、前記胚の割球数の経時的な変化を解析し、受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚であると判定し、受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態を経ることなく前記胚の割球数が3個以上の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚ではないと判定する。
また、本発明は以下の形態として実施することも可能である。」
に訂正する。


2.本件訂正の適否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合する。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったところ、独立形式の請求項へ改めるための訂正(以下、「訂正事項2a」という。)、及び、訂正前の請求項2が引用する訂正前の請求項1の「前記画像における前記胚の割球数の経時的な変化を解析」という記載を、「培養開始から72時間経過したときに、前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて、前記胚の割球数の経時的な変化を解析」という記載に変更する訂正(以下、「訂正事項2b」という。)を行うものである。
訂正事項2aは、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。そして、新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合する。
訂正事項2bについては、画像を用いた胚の割球数の経時的な変化の解析について、「培養開始から72時間経過したときに、前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて」行うことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書に、胚の培養が開始されてから72時間を経過したとき、良好胚判定処理を実行すること(【0041】)、画像を、画像格納部から抽出すること(【0042】)、及び、判定部は、異なる時間に取得された複数の画像のうち、卵割中の胚の割球数を認定できる画像を用いて判定を行うこと(【0027】)が記載されており、【0027】の「複数の画像」という記載が「少なくとも2枚の画像」を意味することは明らかであることから、訂正事項2bは、新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないので、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合する。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったところ、独立形式の請求項へ改めるための訂正(以下、「訂正事項3a」という。)、及び、訂正前の請求項3が引用する訂正前の請求項1の「前記画像における前記胚の割球数の経時的な変化を解析」という記載を、「培養開始から72時間経過したときに、前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて、前記胚の割球数の経時的な変化を解析」という記載に変更する訂正(以下、「訂正事項3b」という。)を行うものである。
訂正事項3aは、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。そして、新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合する。
訂正事項3bについては、画像を用いた胚の割球数の経時的な変化の解析について、「培養開始から72時間経過したときに、前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて」行うことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書に、胚の培養が開始されてから72時間を経過したとき、良好胚判定処理を実行すること(【0041】)、画像を、画像格納部から抽出すること(【0042】)、及び、判定部は、異なる時間に取得された複数の画像のうち、卵割中の胚の割球数を認定できる画像を用いて判定を行うこと(【0027】)が記載されており、【0027】の「複数の画像」という記載が「少なくとも2枚の画像」を意味することは明らかであることから、訂正事項3bは、新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないので、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合する。

エ 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1〜3の記載を引用する記載であるところ、訂正事項1により請求項1を削除したことに伴って、請求項1との引用関係を解消し、訂正された請求項2または3を引用するように訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合する。

オ 訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項6を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合する。

カ 訂正事項6について
訂正事項6は、訂正事項1による訂正前の請求項1を削除する訂正、訂正事項2による訂正前の請求項2を訂正後に新たな請求項2とする訂正、及び、訂正事項3による訂正前の請求項3を訂正後に新たな請求項3とする訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るために行う訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合する。


3.小括
以上のとおり、訂正事項1〜6は訂正要件に適合するものであるから、訂正事項1〜6を認める。



第3 訂正後の 請求項1〜6に係る発明

本件訂正後の請求項1〜6に係る発明(以下、「本件訂正発明1〜6」という。また、まとめて「本件訂正発明」ということもある。)は、令和3年6月25日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
胚選抜システムであって、
培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する画像格納部と、
教師あり学習によって前記画像に写った前記胚の特徴について学習し、前記学習に基づいて前記胚が良好胚であるか判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、
培養開始から72時間経過したときに、前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて、前記胚の割球数の経時的な変化を解析し、
受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚であると判定し、
受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態を経ることなく前記胚の割球数が3個以上の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚ではないと判定する、
胚選抜システム。
【請求項3】
胚選抜システムであって、
培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する画像格納部と、
多層のニューラルネットワークを用いたディープラーニングによって前記画像に写った前記胚の特徴について学習し、前記学習に基づいて前記胚が良好胚であるか判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、
培養開始から72時間経過したときに、前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて、前記胚の割球数の経時的な変化を解析し、
受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚であると判定し、
受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態を経ることなく前記胚の割球数が3個以上の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚ではないと判定する、
胚選抜システム。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の胚選抜システムであって、さらに、前記画像のうち判定に用いられた判定画像を報知する報知部を備える、胚選抜システム。
【請求項5】
請求項4に記載の胚選抜システムであって、
前記報知部は、前記判定画像を報知するとともに前記判定画像において前記判定部が判定の根拠とした情報を報知する、胚選抜システム。
【請求項6】
(削除)」



第4 取消理由通知書に記載した取消理由について

1.取消理由通知書に記載した取消理由の概要
当審が令和3年4月21日付けで特許権者に通知した取消理由通知書に記載した、訂正前の本件特許に対する取消理由の概要は、次のとおりである(以下、「訂正前の請求項●に係る発明」を、「本件発明●」という。)。

(1)本件発明6は、甲第8号証(以下、「甲8」という。同様に、以下、「甲●号証」を「甲●」という。)(参考文献として、引用文献1)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、甲8(参考文献として、引用文献1)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができない(以下、「取消理由1」という。)。
(2)本件発明1、2は、甲8及び甲2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、また、本件発明3〜5は、甲8、甲2及び引用文献2(参考文献として、引用文献3)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない(以下、「取消理由2」という。)。

よって、本件発明1〜6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

甲2: 特表2009−512037号公報
甲8:ZHAN, Q. et al., Direct Unequal Cleavages: Embryo Developmental Competence, Genetic Constitution and Clinical Outcome, 2016.12.1, PLOS ONE, 11(12):e0166398, p.1/19-19/19
引用文献1:LIU, Y. et al., Prevalence, consequence, and significance of reverse cleavage by human embryos viewed with the use of the Embryoscope time-lapse video system, [on line] 2014.11, Fertility and Sterility, Vol.102, No. 5, p.1295-1300, [令和3年4月15日検索], インターネット<URL: https://www.fertstert.org/article/S0015-0282(14)01862-7/pdf>(参考文献として引用する文献)
引用文献2:特開2015−032308号公報
引用文献3:特開2016−110232号公報(参考文献として引用する文献)


2.取消理由1についての当審の判断
本件訂正により、請求項6が削除され、上記取消理由1の対象となる請求項が存在しなくなったから、上記取消理由1は解消した。


3.取消理由2についての当審の判断(1)甲8、甲2、引用文献2及び引用文献3の記載事項
ア 甲8の記載事項
「直接不均等分割:胚の発達能力、遺伝的構成及び臨床結果」と題する学術文献である甲8には、以下の記載がある。英語で記載されているため、当審による翻訳文で示す。下線は当審による。

甲8ア 「我々は、この現象を直接不均等分割(DUC)と名付けた。タイムラプスモニタリングシステムを用いて、1つの割球が3つの娘割球に突然分割されること、または5時間未満の細胞周期の間隔で分割されることをDUCと定義した。」(第2頁第22〜25行目)

甲8イ 「胚はエンブリオスコープ(登録商標)(・・・)において、37℃、5.8%CO2、5%O2で、培養された。」(第3頁第23〜24行目)

甲8ウ 「画像は、赤色LEDライト(635nm)で照らされた7つの焦点面で10分毎に自動的に記録された。」(第3頁第34〜35行目)

甲8エ 「DUCは、単一の割球が直接3つ以上の娘割球に分割した場合、または母細胞と娘細胞の分裂の間隔が5時間以下である場合に、アノテーションされた。サイズに関係なく、目に見える核を含む細胞のみを割球とみなし、そうではない場合はフラグメントとしてアノテーションした。全てのDUCのアノテーションは、最も経験豊富な胚学者1名によって確定された。DUC胚は、DUCが発生した際の分裂の段階に応じて、さらにDUC−1、DUC−2、DUC−3のように分類された:。DUC−1:異常分裂は交配後(1細胞)に発生し、3〜4個の割球を生じる。DUC−2:異常分裂は2細胞期に発生し、5〜6個の割球を生じる。DUC−3:異常分裂は4細胞期に発生し、9個以上の割球を生じる(S1−S3ビデオ)。もしDUCが1回より多く発生したなら、胚は、最初の発現時点で、DUC−Plusと分類された。」(第4頁第2〜12行目)

甲8オ 「3日目の「良好」胚は、8個以上の細胞と20%未満のフラグメンテーションとして分類された。」(第4頁第17〜18行目)

甲8カ 「D3移植では、DUC胚は、既知着床率(KID−FH)が有意に低下した:非DUC胚(n=3172)では、12.4%であったのに対し、DUC−3では6.3%(n=127)、DUC−2では2.7%(n=260)、DUC−1(n=225)とDUC−Plus(n=100)ではゼロへ低下した。」(第8頁第23〜26行目)

甲8キ 「我々の研究では、初期のDUCは、胚盤胞形成障害、着床障害、臨床結果と強い相関があることが確認された。一方、後期のDUCの影響は穏やかであった。S2表によると、1細胞期のDUC−1、DUC−Plus、MNBは胚盤胞形成に最も有害であった。」(第12頁第24〜27行目)

甲8ク 「DUC胚における染色体異数性異常の発生率が高いことから、移植のためにはそれらが(特にDUC−1が)除かれるべきであることが示された。」(第13頁第1〜2行目)

甲8ケ 「胚の発生、染色体の構成及び臨床転帰に対するDUCの有病率及び有害な影響は、IVF胚の中断の無いライムラプスモニタリングの重要性を浮き彫りにする。全体的なDUC有病率が高い(26.1%)ため、DUC胚を移植する可能性は、TLMなしではD3移植において約4分の1だった。D3着床率は、DUC胚の選択を解除するだけで改善できる。我々の結果に基づくとDUC胚、特にDUC−1とDUC−2は移植すべきではない。」(第14頁第4〜9行目)

イ 甲2の記載事項
甲2には以下の事項が記載されている。下線は当審による。

甲2ア 「少なくとも1つの細胞を含む細胞集団の品質を決定するためのシステムであって、前記システムは、
a.細胞集団の少なくとも2つの画像を連続的に取得するための手段と、
b.少なくとも1つの差画像を得るために少なくとも2つの画像の少なくとも一部を比較するための手段と、
c.少なくとも1つの差画像から変数を計算するためのコンピュータと、
d.前記計算された変数に基づき、変化が生じたかどうかを決定するための手段と、を有するシステム。」(請求項102)

甲2イ 「本発明は、細胞集団における変化の決定のための方法およびシステムに関し、更に、前記方法を用いるための方法と、胚の品質測定値を推定し、体外受精のための胚を選択するためのシステムに関する。」(【0001】)

甲2ウ 「好ましい実施形態において、前記差画像は、一連の連続画像において2つの次の画像から得られ、前記差画像から計算された変数の集合は、時系列を形成する。・・・好ましい実施形態において、前記時系列は、PCA解析、SVD、GPCA、サポートベクターマシン、n個組分類モデル、ニューラルネットワーク、フィードフォワード型ニューラルネットワークなどの機械学習ツールによって導出されるモデルを用いて解析される。」(【0057】、【0058】)

ウ 引用文献2の記載事項
引用文献2には以下の事項が記載されている。下線は当審による。

引2ア 「少なくとも1つの特徴図の層の少なくとも1つの特徴図が複数の領域に区分された複数の特徴図の層と、前記複数の領域にそれぞれ対応し、対応する領域におけるニューロンの応答値を取得する複数の畳み込みテンプレートと、を含む、畳み込みニューラルネットワークの分類器。」(請求項1)

引2イ 「前記畳み込みニューラルネットワークの分類器は、画像を分類するために用いられ、前記画像は、固定的な方式により複数の画像領域に区分され、前記複数の画像領域は前記複数の領域にそれぞれ対応する、請求項1に記載の畳み込みニューラルネットワークの分類器。」(請求項2)

引2ウ 「対象となる画像は手書きの文字に限定されず、任意の画像、例えば細胞分裂画像、地図画像であってもよい。」(【0063】)

エ 引用文献3の記載事項
引用文献3には以下の事項が記載されている。下線は当審による。

引3ア 「近年、ニューラルネットワークを多層化したディープラーニング技術を利用して高い精度で対象を認識することが行われている。このディープラーニング技術は、一般的にはニューラルネットワークの入力層と出力層との間の中間層において複数段階に亘って層を重ねるごとにより高い精度で対象を認識する。このディープラーニング技術において、特に、畳み込みニューラルネットワーク(Convoltional Neural Network; CNN)が、従来の画像特徴量に基づいて対象を認識するよりも高い性能を有することで注目されている。」(【0002】)

(2)甲8発明の認定
甲8には、培養されている胚を10分毎に自動的に画像として記録するタイムラプスモニタリングシステムが記載されている(上記甲8ア〜ウ)。

したがって、甲8には、以下の発明が記載されていると認める。
「タイムラプスモニタリングシステムであって、培養されている胚を10分毎に自動的に画像として記録する、タイムラプスモニタリングシステム。」(以下、「甲8発明」という。)

(3)本件発明1について
本件訂正により、請求項1が削除され、上記取消理由2の対象となる請求項1〜5のうちの請求項1は存在しなくなったから、本件発明1に対する上記取消理由2は解消した。

(4)本件訂正発明2〜5と甲8発明の対比・判断
ア 本件訂正発明2について
本件訂正発明2と甲8発明を対比する。
甲8発明の「タイムラプスモニタリングシステム」は、「培養されている胚を10分毎に自動的に画像として記録」するものであるから、培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する画像格納部を備えるものである。
したがって、本件訂正発明2と甲8発明の一致点、及び、相違点は、以下のようになる。

<一致点>
「システムであって、
培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する画像格納部
を備える、システム。」
<相違点>
本件訂正発明2は、「教師あり学習によって前記画像に写った前記胚の特徴について学習し、前記学習に基づいて前記胚が良好胚であるか判定する判定部」であって、「培養開始から72時間経過したときに、前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて、前記胚の割球数の経時的な変化を解析し、受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚であると判定し、受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態を経ることなく前記胚の割球数が3個以上の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚ではないと判定する」「判定部」を備える「胚選抜システム」であるのに対し、甲8発明は、そのような「判定部」を備えておらず、また、「胚選抜」を行わない、システムである点(以下、「相違点1」という。)。

上記相違点1について、検討する。
甲8には、タイムラプスシステムを用いて、D3着床率、すなわち、3日目に移植する際の着床率を改善するために、DUC胚を移植すべきではなく、移植するための胚の選択から解除することが記載されている(上記甲8エ、オ、ケ)。
また、たしかに、甲2には、教師あり学習によって、良好胚を選択するシステムが記載されていると認める(上記甲2ア〜ウ)。
しかしながら、甲8に記載されている事項は、3日目の良好胚が8個以上の細胞で、その3日間に、DUC−1(交配後(1細胞)に発生し、3〜4個の割球を生じる異常分裂)、DUC−2(2細胞期に発生し、5〜6個の割球を生じる異常分裂)、DUC−3(4細胞期に発生し、9個の割球を生じる異常分裂)と複数の不良胚が存在し、それらのDUC胚は移植すべきではないことにとどまるから(上記甲8エ〜ケ)、甲8発明において、72時間経過したときに、画像格納部に格納された画像のうちから適切な複数の画像を抽出して、特に最初の卵割において割球数が2個の状態に直接移行した場合、良好胚であると判定し、最初の卵割において割球数が2個の状態を経ることなく割球数が3個以上の状態に直接移行した場合、良好胚ではないと判定する判定部を設けた胚選抜システムとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

ここで、申立人は、令和3年7月30日付け意見書において、新たに甲9〜11を提出し、甲9には、ICSIから72時間後に胚の形態を評価し、形態的に問題のない胚が、タイムラプス画像解析用に開発されたソフトウェアを用いて、外部コンピュータで各胚のタイムラプス画像が解析されること、解析される形態的特徴に、接合体から3胚葉の胚への直接切断(DC)が含まれることが記載されており(第278頁左欄下から第7行目〜右欄第26行目)、甲10には、最初の卵割はICSIから約24時間後に起こることが記載されており(図2)、甲11には、胚の評価が3日目の時点で行われることが一般的であることが記載されているから(第377頁左欄第4〜6行目)、培養開始から72時間後に胚の評価を行うように設定することは、当業者にとって特段に困難な事項ではないと主張している。
しかしながら、本件訂正発明2の「培養開始から72時間経過したときに」解析し、「受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚であると判定し、受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態を経ることなく前記胚の割球数が3個以上の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚ではないと判定する」点は、甲9〜11のいずれにも記載されていないから、申立人の上記主張を採用することはできない。

したがって、本件訂正発明2は、甲8及び甲2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

イ 本件訂正発明3について
本件訂正発明3と甲8発明を対比すると、本件訂正発明3と甲8発明の一致点、及び、相違点は、以下のようになる。

<一致点>
「システムであって、
培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する画像格納部
を備える、システム。」
<相違点>
本件訂正発明3は、「多層のニューラルネットワークを用いたディープラーニングによって前記画像に写った前記胚の特徴について学習し、前記学習に基づいて前記胚が良好胚であるか判定する判定部」であって、「培養開始から72時間経過したときに、前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて、前記胚の割球数の経時的な変化を解析し、受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚であると判定し、受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態を経ることなく前記胚の割球数が3個以上の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚ではないと判定する」「判定部」を備える「胚選抜システム」であるのに対し、甲8発明は、そのような「判定部」を備えておらず、また、「胚選抜」を行わない、システムである点(以下、「相違点2」という。)。

上記相違点2について、検討する。
上記相違点1についての検討で述べたとおり、甲8及び甲2の記載から、甲8発明において、72時間経過したときに、画像格納部に格納された画像のうちから適切な複数の画像を抽出して、特に最初の卵割において割球数が2個の状態に直接移行した場合、良好胚であると判定し、最初の卵割において割球数が2個の状態を経ることなく割球数が3個以上の状態に直接移行した場合、良好胚ではないと判定する判定部を設けた胚選抜システムとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。そして、引用文献2、及び、引用文献2についての参考文献として挙げた引用文献3にも、このような判定部を設けた胚選抜システムとすることは記載されていないから、引用文献2、3の記載も考慮したとしても、甲8発明において、このような判定部を設けた胚選抜システムとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

また、令和3年7月30日付け意見書における申立人の主張に関しては、上記相違点1についての検討で述べた理由と同様の理由により、採用することができない。

したがって、本件訂正発明3は、甲8、甲2及び引用文献2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

ウ 本件訂正発明4、5について
本件訂正発明4、5は、いずれも本件訂正発明2または3を直接的または間接的に引用している。
そうすると、本件訂正発明4、5と甲8発明の相違点は、上記相違点1、2を包含する。
したがって、本件訂正発明4、5は、甲8、甲2及び引用文献2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。


4.小括
よって、本件訂正により、請求項6が削除され、上記取消理由1の対象となる請求項が存在しなくなったから、上記取消理由1は解消した。
また、本件訂正により、請求項1が削除されたため、本件発明1に対する上記取消理由2は解消した。
そして、本件訂正発明2〜5は、上記取消理由2によって取り消すべきものではない。



第5 取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由について

1.特許異議申立理由の概要
申立人は、甲1〜8を提出し、本件特許は、以下の申立理由1、2により、取り消されるべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(甲1に基づく新規性進歩性欠如)
本件発明1、4〜6は、甲1に記載された発明であり特許法第29条第1項第3号に該当し、また、甲1の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)申立理由2(甲1、甲2及び周知技術に基づく進歩性欠如)
本件発明1〜6は、甲1、甲2の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。


2.甲8、甲2以外の特許異議申立書に記載されている証拠及びその記載事項
(1)甲8、甲2以外の特許異議申立書に記載されている証拠
甲1:特開2016−168059号公報
甲3:特開2010−181402号公報
甲4:特開2011−017620号公報
甲5:特開2014−089193号公報
甲6:Fertility and Sterility, Vol.106, No.2, 2016.8, pp.349-353.e2
甲7:Fertility and Sterility, Vol.101, No.6, 2014.6, pp.1637-1648.e5

(2)甲1、3〜7の記載事項
甲1、3〜7には、以下の事項が記載されている。下線は当審による。
甲6、7は英語で記載されているため、当審による翻訳で示す。

ア 甲1の記載事項
甲1ア 「受精卵から体外培養された哺乳動物の候補胚を選別するための胚選別装置であって、
判別部と、解析部とを含み、
前記判別部が、
候補胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間に関する第1指標情報が、受精から第一卵割が完了するまでの時間に関する第1指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第1指標判別部、
候補胚の、第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態に関する第2指標情報が、第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態に関する第2指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第2指標判別部、
候補胚の、第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態に関する第3指標情報が、第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態に関する第3指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第3指標判別部、及び
候補胚の、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量に関する第4指標情報が、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量に関する第4指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第4指標判別部
のうちM個(Mは2、3、又は4の数である)を含み、
前記解析部が、前記判別部において判別された条件のうちN個(Nは2以上M以下の数である)以上を満足する候補胚を、選別すべき胚であると解析する
ことを特徴とする前記胚選別装置。」(請求項8)

甲1イ 「画像抽出部を更に備える請求項8の胚選別装置であって、
前記判別部が前記第1指標判別部を含む場合には、前記画像抽出部は、候補胚の画像から、第1指標選別基準条件における、受精から第一卵割が完了するまでの時間の閾値の時点における画像、又は、第一卵割の完了時点を確認可能な画像を抽出する、第1画像抽出部を含み、前記第1指標判別部は、前記第1画像抽出部により抽出された画像に基づいて生成された情報を前記第1指標情報として判別を行い、
前記判別部が前記第2指標判別部を含む場合には、前記画像抽出部は、候補胚の画像から、第一卵割後かつ第二卵割前の段階の画像を抽出する、第2画像抽出部を含み、前記第2指標判別部は、前記第2画像抽出部により抽出された画像に基づいて生成された情報を前記第2指標情報として判別を行い、
前記判別部が前記第3指標判別部を含む場合には、前記画像抽出部は、候補胚の画像から、第三卵割後かつ第四卵割前の段階での画像を抽出する、第3画像抽出部を含み、前記第3指標判別部は、前記第3画像抽出部により抽出された画像に基づいて生成された情報を前記第3指標情報として判別を行う
前記胚選別装置。」

甲1ウ 「<Time-lapse cinematography TLCを用いた胚の形態の評価>
卵割状態および胚の形態をSomfai Tらの文献(Somfai T, Inaba Y, Aikawa Y, Ohtake M, Kobayashi S, Konishi K, Imai K (2009) Relationship Between the Length of Cell Cycles, Cleavage Pattern and Developmental Competence in Bovine Embryos Generated by In Vitro Fertilization or Parthenogenesis. J Reprod Dev 56: 200-207)の記載に沿って評価した。胚を、飽和湿度の5% CO2 / 5% O2/90% N2の下、38.5℃にて培養した。発生を、リアルタイムCulture Cell Monitoring System (CCM-M1.4Z; 株式会社アステック)を用いてモニタリングした。168時間の培養期間中に、胚の写真を、倍率4倍のplain objectiveを用いて15分間隔で673枚撮影した。蓄積された画像をCCM-M1.4 software (株式会社アステック)を用いて解析した。
<性周期の同期と胚の移植>
レシピエントとなる黒毛和種/ホルスタイン交配種の性周期を3mlプロスタグランジンF2αにより同期化した。後述する指標に基づき選別された受精後7日目の胚を1つ、同期化されたレシピエントの黄体側子宮角に発情後7〜8日目に移植した。レシピエントはいずれも同様に給餌し管理して、少なくとも1日に2回、朝と夜に発情行動を観察した。
<受胎診断>
胚移植後30日目及び60日目に超音波検査法(HS101V; 本多電子株式会社) を用いて受胎診断を行った。受胎していることは、子宮内の胎仔を観察することと、胎仔の心臓の拍動を認めることで確認した。
<指標>
以下の指標を用いた。なお、下記指標1及び2は従来から胚の選別に用いられている。
指標1: 受精168時間後の形態的品質がCode 1であること。
指標2: 受精168時間後に拡張胚盤胞に達していること。
指標3: 受精31時間後(初期卵割終了時)において2細胞であり、且つ、フラグメンテーションが観察されないこと。
指標4: 受精55時間後(第三卵割終了時)において5細胞、6細胞、7細胞、8細胞のいずれかであり、且つ、フラグメンテーションが観察されないこと。
指標5: 受精168時間後(初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期)の、単一胚あたりの酸素消費量が0.91×10-14 mol s-1以上であること。
指標1において形態的品質の「Code 1」とは、Robertson I, Nelson RE (1998) Certification and identification of the embryo. In: D.A. Stringfellow and S.M. Seidel, Editors, Manual of the international embryo transfer society, IETS, Savoy, Illinois 103-116.での定義に従う。具体的には、受精168時間後の時点において、発育が正常で、形態異常(例えば卵細胞の不均整、変性)がない胚を形態的品質がCode 1であると評価する。
<結果>
上記各指標を満足する移植胚の数と、受胎率の関係を次表に示す。なお、受胎の有無は胚移植後60日目の観察結果である。
【表1】

指標1及び2は移植胚の選別指標として定着しているが、それらを単独または組み合わせて満足する移植胚を用いても受胎率は50%以下であった。受精168時間後の胚の形態のみに基づく従来の判断指標は、受胎率の高い移植胚を選別するうえでは必ずしも十分ではないことがわかる。
指標3、4、5の1つを満足する移植胚の受胎率は高くても63.6%であった。
指標1及び2の一方又は両方と、指標3、4、5の1つとを組み合わせて満足する移植胚であっても、受胎率はいずれも70%未満であった。
ところが驚くべきことに、指標3、4、5のうち少なくとも2つを組み合わせて満足する移植胚の受胎率は70%または80%であることが確認された。
以上の結果から指標3、4、5のうち少なくとも2つを組み合わせて移植胚の選別指標として用いることにより、特異的に高い受胎率を実現することができると結論付けられた。」(【0124】〜【0135】)

イ 甲3の記載事項
甲3ア 「受精卵を撮像する撮像部を有する受精卵観察装置と、前記受精卵観察装置とデータの送受信を行うコンピュータとから構成され、受精卵の品質評価を支援する受精卵品質評価支援システムであって、
前記コンピュータは、
前記受精卵観察装置によって撮像される時系列画像を記憶する時系列画像記憶手段と、
時系列画像から受精卵画像を抽出する受精卵画像抽出手段と、
第1時系列画像に係る受精卵画像と、第1時系列画像の撮像時刻から所定時間前または所定時間後の第2時系列画像に係る受精卵画像とを比較し、対応する画素の画素値の差が所定の閾値より大きい画素の集合を活性部位として抽出する活性部位抽出手段と、
を備えることを特徴とする受精卵品質評価支援システム。」(請求項1)

甲3イ 「前記コンピュータは、
受精卵の特徴量として、前記受精卵画像抽出手段によって抽出された受精卵画像から受精卵の大きさを算出し、前記活性部位抽出手段によって抽出された活性部位の面積を算出する特徴量算出手段、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の受精卵品質評価支援システム。」(請求項4)

甲3ウ 「前記コンピュータは、
前記特徴量算出手段によって算出された活性部位の面積の変化量に基づいて各発育ステージまでの到達時間を特定し、前記特徴量算出手段によって算出された受精卵の大きさの変化量に基づいてラプチャーの発生時刻、回数、または回復時間のうち少なくとも一つを特定する特徴量解析手段、
を更に備えることを特徴とする請求項4に記載の受精卵品質評価支援システム。」(請求項5)

甲3エ 「前記特徴量解析手段は、前記特徴量算出手段によって算出された前記受精卵の特徴量に基づいて受精卵の品質を判定することを特徴とする請求項5に記載の受精卵品質評価支援システム。」(請求項9)

甲3オ 「受精卵が拡張収縮するラプチャー」(【0004】)

甲3カ 「本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、受精卵を保持することなく撮像された画像のみを用いて、受精卵内の細胞を識別することなく受精卵の品質評価に有益な情報を提示する受精卵品質評価支援システム等を提供することである。特に、有益な情報とは、発育ステージへの到達時間やラプチャーの発生回数や回復時間といった発育途中の情報である。」(【0012】)

甲3キ 「時系列画像記憶手段31は、受精卵観察装置2によって撮像される画像を記憶する。受精卵観察装置2は、一定間隔(例えば、15分間隔)に受精卵4を含む画像を撮像する。これらの画像は、撮影時刻とともに時系列画像記憶手段31に時系列画像(タイムラプス画像)として記憶される。」(【0039】)

ウ 甲4の記載事項
甲4ア 「生体試料を保持する試料台と、
前記生体試料を一方側から撮像する第1撮像装置及び前記一方側に対向する他方側から撮像する第2撮像装置と、
前記試料台を前記生体試料の像を第1撮像装置の撮像面に結像させる第1観察光学系に対して相対移動させるとともに、前記第2撮像装置の撮像面に結像させる第2観察光学系に対して相対移動させる移動制御部と、
前記相対移動部により前記試料台を前記第1及び第2観察光学系に対して相対移動させながら前記第1及び第2撮像装置により撮像して得られた、前記生体試料の複数の第1画像及び第2画像に対して画像処理を行う画像処理装置とを備え、
前記画像処置装置が、前記複数の第1画像及び第2画像に基づいて合焦測度を画素単位で算出し、前記生体試料の前記一方側の領域については前記第1画像より得られた合焦測度情報を優先適用し、前記生体試料の前記他方側の領域については前記第2画像より得られた合焦測度情報を優先適用して各画素の合焦点を求め、前記合焦点位置に基づいて前記生体試料の三次元形状を構築する画像解析部を備えていることを特徴とする観察装置。」(請求項7)

甲4イ 「本発明は、例えば受精卵等の生体試料の三次元形状を構築することが可能な構成の形状測定方法、画像処理プログラム、及び観察装置に関する。」(【0001】)

エ 甲5の記載事項
甲5ア 「生きた試料を発光タンパクに基づく発光により長期にモニタリングする方法において、生物学的活性を損なわない処理条件で、モニタリングすべき項目に応じた発光タンパクを導入した前記試料を、基質成分によって化学的に誘起し、所望のモニタリング期間中、前記発光の誘起及び撮像を継続的に実行し、前記処理条件に応じて設定された撮像条件の下で複数の異なる時間に対応する光学イメージを得、前記複数の光学イメージを前記撮像条件に応じた出力条件によりモニター表示する、ことを特徴とする発光タンパクによる長期モニタリング方法。」(請求項1)

甲5イ 「請求項1に記載の方法において、発光タンパクを導入した細胞を含む試料により単一細胞レベルのモニタリングを行なう際に適用され、細胞内で微弱な発光を発生させるための基質成分及び前記発光タンパクの発光に影響をもたらす可能性のある薬剤成分との反応性を損なわない充分な厚みであって、且つ発光に基づく光学イメージが個々の細胞を識別し得る程度に肉薄の厚みであるような撮像ボリュームに対応する光学イメージを取得することを特徴とするモニタリング方法。」(請求項5)

甲5ウ 「請求項5に記載の方法において、被検試料が肉厚の生体組織(例えば、視交差上核等の脳、胚、ゼブラフィッシュ等の微小な魚類、マウスやカエル(特にアフリカツメガエル)等の小動物ないし植物(例えばシロイヌナズナ)の一部の器官(例えば、手、足、毛根、葉、花茎、根毛)であることを特徴とするモニタリング方法。」(請求項11)

甲5エ 「本発明は、細胞や組織等の試料中における生物学的活性をその活性を極力損なわないようにして長期間ないし連続的に検出するモニタリング方法および解析方法に関する。本発明は、その方法を実行する装置や、該装置による方法を機能させるソフトウェアも包含する。」(【0001】)

オ 甲6の記載事項
甲6ア 「胚盤胞に発達した胚および内部細胞塊グレードと栄養外胚葉グレードの両方がB以上のスコアである胚盤胞(良質の胚盤胞)の割合は、断片化の有無に関係なく、最初の分裂中に2つの細胞を形成し、2番目の分裂中に4つの細胞を形成したグループで高かった。」(要約 第9〜11行目)

甲6イ 「早期の分裂は、発達能力のマーカーとして確立されている(7,8)。タイムラプスインキュベーター観察の出現により、分裂時間に注目することが可能になった(9,10)。これらの要因を知ることで、胚発生の詳細な分析や発生可能性の予測が可能なエンブリオスコープを用いて、質の良い胚を選択することができる。胚盤胞期への培養を行わない新鮮胚移植は、通常、2から4細胞期の培養2又は3日目に行われる。したがって、少なくとも培養2日目までに胚の発生能力を予知する指標が必要である。
本研究では、移植前の着床可能性の高いヒト胚の非侵襲的選択システムを確立するために、胚の第1パターンおよび第2分割パターンとその後の発生可能性との関係をin vitro及びin vivoで評価した。」(第349頁左欄第15〜30行目)

甲6ウ 「本研究では、791個の胚を受精、確認、記録した。胚を、第一分裂と第二分裂の間に含まれる細胞の数と断片化の程度によって9つのグループに分けた(図1)。まず、第一分裂時に2個の細胞を含む胚を10%未満の断片化を持つ胚(A群)と10〜50%の断片化を持つ胚(B群)に分け、残りの2個より多く又は2個未満の細胞を持つ胚を非2細胞胚(C群)と分類した。」(第349頁右欄第20〜30行目)

甲6エ 「図1 分割の分類

」(図1)

甲6オ 「A群(84.6%)、B群(80.5%)の胚盤胞形成率は、C群(27.9%)に比べて有意(P<.01)に高かった。また、A群(49.5%)とB群(46.9%)の良性胚盤胞形成率は、C群(3.8%)に比べて有意(P<.01)に高かった。」(第350頁右欄第3〜8行目)

甲6カ 「最初の分裂の結果として2つ以上の細胞が形成された胚、または2番目の分裂中に2つ以上の細胞に分裂した娘細胞の胚盤胞形成率は、正常な切断胚よりも有意に低かった(14、15)。さらに、細胞の空間配置(16、17)または細胞間接触点の数(18、19)の評価は、高い発生能力を持つ4細胞胚の選択に役立つようである。この研究の結果はまた、断片化の有無にかかわらず、最初の分裂後の2つの細胞を持つ胚の胚盤胞および良質の胚盤胞形成率が高いことを示した。また、その中でも、2回目の分裂で4個の細胞を形成した胚は、断片化の有無にかかわらず、胚盤胞や高品質の胚盤胞へのin vitroでの発育能力が高かった。これらの結果は、分裂中の断片化の発生は有用な指標ではないが、最初の分裂中の2つの細胞と2番目の分裂中の4つの細胞の形成が高い発達能力を持つ胚を選択するための指標になることを示している。」(第351頁右欄第20行目〜第352頁左欄第1行目)

カ 甲7の記載事項
甲7ア 「主な測定結果:非定型胚表現型の4つのグループの識別:異常な共生(AS)、異常な最初の細胞質分裂(A1cyt)、異常な卵割(AC)、および無秩序な卵割(CC)。有病率、及び、胚の形態と発生の可能性との関連を評価した。
結果:非定型表現型の高い有病率が胚の間で観察された:AS 25.1%(163/649)、A1cyt 31.0%(195/639)、AC 18%(115/639)およびCC 15%(96/639)。非定型表現型の胚の高い割合は、3日目に良好な品質(全体的なグレードは良好または中程度)を示した:AS 78.6%(70/89); A1cyt 79.7%(94/119)、AC 86.4%(70/81)、およびCC 35.2%(19/54)、しかし、これらの胚の胚盤胞形成率は、それぞれの対照群と比較して有意に低かった。AS 21.5%対44.9%、A1cyt 21.7%対44.6%、AC 11.7%対43.1%、およびCC 14.0%対42.3%。
結論:非定型の表現型を示す胚は、ヒト胚で非常に一般的であり、対照胚よりも有意に低い発生能を示す。」(要約第7〜16行目)

甲7イ 「非定型胚表現型の同定と特性化
合計651個のEeva胚のビデオを、発達行動、タイミング、およびパターンについて遡及的に分析した。この包括的な分析により、異常な胚の行動または非定型表現型の4つのグループが特定された。この研究の目的のために、我々はこれらのグループを異常なシンガミー(AS)、異常な最初の細胞質分裂(A1cyt)、異常な卵割(AC)、および無秩序な卵割(CC)として定義した。」(第1639頁左欄第1〜9行目)

甲7ウ 「AC表現型は2個を超える数の細胞が単一の細胞分裂事象に由来する場合と定義された(新たに作成されたブラストメアは、分裂の終わりにコンフェルトな細胞膜によって完全に分離されている)。非定型分裂の2つの独立した型を定義し、評価した。AC1表現型は、最初の卵割の結果として2つを超える数のブラストメアが形成されることを特徴とし(図1、2、補足ビデオ6)、AC2表現型は、二回目の卵割における当該娘細胞の2つを超える数のブラストメアへの分裂を特徴としている(図1、2、補足ビデオ7)。」(第1639頁右欄第7〜17行目)

甲7エ 「重要なことは、対照群と比較して、AC胚は、良好または中程度の品質のブラストサイトの割合には違いが見られなかったが(62.5% vs. 55%; P=.7)、胚盤胞形成率が低く(11.7% vs. 43.1%; P<.0001)、着床率が低い傾向を示した(3.7% vs. 18.0%; P=.05)。」(第1644頁左欄第22〜28行目)

甲7オ 「この研究は、600を超える胚のタイムラプスビデオの独自の調査であり、そこから、発生の可能性が低い胚に関連する4つの非定型表現型を包括的に特徴付けた。」(第1647頁左欄第10〜13行目)

甲7カ 「現在の研究は、着床がわかっている胚のサンプルサイズが小さいことによって制限されていたが(この研究集団では複数の胚の移植率が高いため)、主な目的は、発生の可能性が低いことに関連する非定型胚の表現型を包括的に特徴付けて説明することだった。進行中の研究は、より大きなデータセットでこれらの非定型表現型の着床の可能性と出生の結果を評価し続け、培養で非定型表現型を示す胚を特定することの臨床的関連性を強化するだろう。その間、特に3日目の移植プログラムは、非定型表現型を示す胚を特定することで恩恵を受ける可能性がある。なぜなら、これらの胚の多くは3日目に有望に見えるが、さらなる発達には限界を示すためである。
将来の計画には、すべての表現型の組み合わせた予測値を定量化および重み付けするモデルの開発、および独立したデータを使用した前向き研究でのモデルの検証も含まれる。最後に、他の検証済みタイムラプスマーカーで以前に実証されたように(11、13)、非定型表現型の検出に適用される自動画像分析の進歩により、これらのマーカーを実用化してIVFクリニックでの胚評価を改善できる可能性がある。」(第1647頁右欄第20〜41行目)


3.申立理由1についての当審の判断
申立理由1は、本件発明1、4〜6が、甲1に基づき新規性進歩性を有さないというものである。
ここで、本件発明1及び6は、本件訂正により削除された。また、本件発明4、5は、本件訂正により、本件発明1を引用しないものとなった。
したがって、申立理由1は、本件訂正によってその対象となる請求項が存在しないものとなった。


4.申立理由2についての当審の判断
申立理由2は、本件発明1〜6が、甲1、甲2及び周知技術に基づき、進歩性を有さないというものである。
ここで、本件発明1及び6は、本件訂正により削除された。
そこで、本件訂正発明2〜5に対する申立理由2の存否について検討する。

(1)甲1発明の認定
甲1には、受精卵から体外培養された哺乳動物の候補胚を選別するための胚選別装置であって、画像抽出部と判別部と解析部とを含み、前記画像抽出部と判別部と解析部が、候補胚の画像から所定の画像を抽出し、抽出した画像に基づいて第1〜4指標情報のうち2個以上を生成し、当該生成された第1〜4指標情報が第1〜4指標選別基準条件を満足するか否かを判別し、判別された条件のうち2個以上を満足する候補胚を、選別すべき胚であると解析する胚選別装置が記載されている(上記甲1ア、イ)。
また、甲1には、培養期間中に、胚の写真を15分間隔で撮影し、蓄積された画像を用いて解析したことが記載されている(上記甲1ウ)。
したがって、甲1には、以下の発明が記載されていると認める。
「胚選別装置であって、
培養されている胚の状態を、15分間隔で撮影した画像を蓄積し、
前記胚が選別すべき胚であるか判別し解析する画像抽出部と判別部及び解析部と、
を備え、
前記画像抽出部と判別部及び解析部は、候補胚の画像から所定の画像を抽出し、抽出した画像に基づいて第1〜4指標情報のうち2個以上を生成し、当該生成された第1〜4指標情報が第1〜4指標選別基準条件を満足するか否かを判別し、判別された条件のうち2個以上を満足する候補胚を、選別すべき胚であると解析する
胚選別装置。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)本件訂正発明2と甲1発明の対比、判断
本件訂正発明2と甲1発明を対比する。
甲1発明の「胚選別装置」、「画像抽出部と判別部及び解析部」、「選別すべき胚」は、それぞれ、本件訂正発明2の「胚選抜システム」、「判定部」、「良好胚」に相当する。
また、甲1発明は、「培養されている胚の状態を、15分間隔で撮影した画像を蓄積」するものなので、「培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する画像格納部」を備えている。
そして、甲1発明は、「抽出した画像に基づいて第1〜4指標情報のうち2個以上を生成し、当該生成された第1〜4指標情報が第1〜4指標選別基準条件を満足するか否かを判別」するので、「前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて、」「解析」すると認める。
よって、本件訂正発明2と甲1発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「胚選抜システムであって、
培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する画像格納部と、
前記胚が良好胚であるか判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、
前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて、解析する、胚選抜システム。」
<相違点>
判定部について、本件訂正発明2は、「教師あり学習によって前記画像に写った前記胚の特徴について学習し、前記学習に基づいて」前記胚が良好胚であるか判定するのに対し、甲1発明は、教師あり学習について特定されていない点(以下、「相違点3−1」という。)。
判定部について、本件訂正発明2は、「培養開始から72時間経過したときに」「前記胚の割球数の経時的な変化を解析し」、「受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚であると判定し、受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態を経ることなく前記胚の割球数が3個以上の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚ではないと判定する」と特定されているのに対し、甲1発明は、「抽出した画像に基づいて第1〜4指標情報のうち2個以上を生成し、当該生成された第1〜4指標情報が第1〜4指標選別基準条件を満足するか否かを判別し、判別された条件のうち2個以上を満足する候補胚を、選別すべき胚であると解析する」点(以下、「相違点3−2」という。)。

先に、上記相違点3−2について検討する。
甲1には、指標情報の一つとして、受精31時間後(初期卵割終了時)において2細胞であり、且つ、フラグメンテーションが観察されないという指標情報が記載されているが(上記甲1ウ)、当該指標情報は、31時間後の時点で観察するものであって、「最初の卵割における胚の割球数の経時的な変化」を観察するものではない。また、甲1には、上記甲1ウ以外の記載箇所にも、「最初の卵割における胚の割球数の経時的な変化」を解析することは記載されていない。
この一方、甲1には、第1〜4指標情報のうち2個以上が第1〜4指標選別基準条件を満足するか否かを判別し、判別された条件のうち2個以上を満足する候補胚を、選別すべき胚であると解析することが記載されており(上記甲1ア、ウ)、指標情報選別条件を満足する指標情報が一つだけの場合は、選別すべき胚であると解析してはならないことが記載されていると認める(上記甲1ウ)。
以上をふまえると、甲1には、72時間経過したときに、画像格納部に格納された画像のうちから適切な複数の画像を抽出して、胚の割球数の経時的な変化を解析し、特に最初の卵割において割球数が2個の状態に直接移行した場合、良好胚であると判定し、最初の卵割において割球数が2個の状態を経ることなく割球数が3個以上の状態に直接移行した場合、良好胚ではないと判定する点は、記載されていないと認める。
また、他の各甲号証にも、この点は記載されておらず、そして、この点が当業者にとって周知技術であるともいえない。

したがって、上記相違点3−1について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲1、甲2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。


(3)本件訂正発明3と甲1発明の対比、判断
本件訂正発明3と甲1発明を対比すると、本件訂正発明3と甲1発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「胚選抜システムであって、
培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する画像格納部と、
前記胚が良好胚であるか判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、
前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて、解析する、胚選抜システム。」
<相違点>
判定部について、本件訂正発明3は、「多層のニューラルネットワークを用いたディープラーニングによって前記画像に写った前記胚の特徴について学習し、前記学習に基づいて」前記胚が良好胚であるか判定するのに対し、甲1発明は、ディープラーニングについて特定されていない点(以下、「相違点4−1」という。)。
判定部について、本件訂正発明3は、「培養開始から72時間経過したときに」「前記胚の割球数の経時的な変化を解析し」、「受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚であると判定し、受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態を経ることなく前記胚の割球数が3個以上の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚ではないと判定する」と特定されているのに対し、甲1発明は、「抽出した画像に基づいて第1〜4指標情報のうち2個以上を生成し、当該生成された第1〜4指標情報が第1〜4指標選別基準条件を満足するか否かを判別し、判別された条件のうち2個以上を満足する候補胚を、選別すべき胚であると解析する」点(以下、「相違点4−2」という。)。

先に、上記相違点4−2について検討する。
上記相違点4−2は上記相違点3−2と同一である。
そうすると、上記相違点3−2についての検討で述べたとおり、甲1、及び、他の各甲号証には、72時間経過したときに、画像格納部に格納された画像のうちから適切な複数の画像を抽出して、胚の割球数の経時的な変化を解析し、特に最初の卵割において割球数が2個の状態に直接移行した場合、良好胚であると判定し、最初の卵割において割球数が2個の状態を経ることなく割球数が3個以上の状態に直接移行した場合、良好胚ではないと判定する点が記載されておらず、また、この点が当業者にとって周知技術であるともいえない。

したがって、上記相違点4−1について検討するまでもなく、本件訂正発明3も、甲1、甲2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(4)本件訂正発明4、5についての対比・判断
本件訂正発明4、5は、いずれも本件訂正発明2または3を直接的または間接的に引用するものである。
そうすると、本件訂正発明4、5と甲1発明の相違点は、上記相違点3−2、4−2を包含する。
したがって、本件訂正発明4、5も、甲1、甲2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。


5.小括
よって、申立人の主張する、上記申立理由1、及び、本件発明1、6に対する上記申立理由2は、本件訂正によってその対象となる請求項が存在しないものとなった。また、申立人の主張する、本件訂正発明2〜5に対する上記申立理由2は、理由がない。



第6 むすび

以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項2〜5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項2〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見できない。
さらに、本件特許の請求項1、6に係る特許に対する特許異議の申立てについては、本件特許の請求項1、6が本件訂正により削除されたことにより、申立ての対象が存在しないものとなったため、不適法な特許異議の申立てであって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】胚選抜システム
【技術分野】
【0001】
本発明は、胚選抜システムに関する。
【背景技術】
【0002】
不妊治療分野において、受胎率の向上および患者のQOLの観点から、培養中の胚を評価することによって、移植に適した良好胚を選別することが行われている。胚を非侵襲的に評価する方法として、顕微鏡による形態観察から胚の発育状況を評価する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 特開2012−29686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の胚選別システムでは、特定の卵割の段階に対応する胚の割球数を1つの指標として、胚を選別している。しかし、特許文献1の胚選別システムでは、予め記憶されている卵割の段階に対応する時間帯情報を用いて胚の選別に用いられる画像を抽出しているため、その時間帯情報から外れたタイミングで卵割が進行した胚は、良好胚として選別されない虞がある。また、記憶された時間帯情報に基づいて特定の卵割の段階を示す画像であるとして抽出された画像から、特定の卵割の段階における胚の割球数が選別基準を満たしているように見えたとしても、その卵割の段階より前の段階において胚の割球のうち少なくとも一部が融合(リバース)したことによって選別基準を満たすようになった胚が良好胚として選別される虞がある。このような課題を解決するために、良好胚を選抜するシステムの選抜精度をより高めることができる技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様として実現することが可能である。本発明の第1の態様は、胚選抜システムとしての態様である。この杯選抜システムは、培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する画像格納部と、教師あり学習によって前記画像に写った前記胚の特徴について学習し、前記学習に基づいて前記胚が良好胚であるか判定する判定部と、を備え、前記判定部は、培養開始から72時間経過したときに、前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて、前記胚の割 球数の経時的な変化を解析し、受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚であると判定し、受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態を経ることなく前記胚の割球数が3個以上の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚ではないと判定する。
また、本発明の第2の態様は、胚選抜システムとしての態様である。この杯選抜システムは、培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する画像格納部と、多層のニューラルネットワークを用いたディープラーニングによって前記画像に写った前記胚の特徴について学習し、前記学習に基づいて前記胚が良好胚であるか判定する判定部と、を備え、前記判定部は、培養開始から72時間経過したときに、前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて、前記胚の割球数の経時的な変化を解析し、受精処理されてから開始される最初の卵割 において、前記胚の割球数が2個の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚であると判定し、受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態を経ることなく前記胚の割球数が3個以上の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚ではないと判定する。
また、本発明は以下の形態として実施することも可能である。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、胚選抜システムが提供される。この胚選抜システムは、培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する画像格納部と、前記画像における前記胚の割球数の経時的な変化を解析することによって前記胚が良好胚であるか判定する判定部と、を備える。このような態様とすれば、胚の状態が撮影された画像を用いて、胚の割球数の経時的な変化を解析することによって、胚が良好胚であるか判定部が判定できる。このため、良好胚を選抜できるシステムについて、良好胚の選抜精度をより高めることができる。
【0007】
(2)上記形態における胚選抜システムにおいて、前記判定部は、教師あり学習によって前記画像に写った前記胚の特徴について学習し、前記学習に基づいて前記胚が良好胚であるか判定してもよい。このような態様とすれば、判定部が教師あり学習によって学習した基準に基づいて、胚が良好胚であるか判定できる。
【0008】
(3)上記形態における胚選抜システムにおいて、前記判定部は、多層のニューラルネットワークを用いたディープラーニングによって前記画像に写った前記胚の特徴について学習し、前記学習に基づいて前記胚が良好胚であるか判定してもよい。このような態様とすれば、判定部がディープラーニングによって学習した基準に基づいて、胚が良好胚であるか判定できる。
【0009】
(4)上記形態における胚選抜システムにおいて、さらに、前記画像のうち判定に用いられた判定画像を報知する報知部を備えてもよい。このような態様とすれば、胚選抜システムを使用するユーザーが、判定部がどの画像を用いて良好胚の判定を行ったかを知ることができる。
【0010】
(5)上記形態における胚選抜システムにおいて、前記報知部は、前記判定画像を報知するとともに前記判定画像において前記判定部が判定の根拠とした情報を報知してもよい。このような態様とすれば、胚選抜システムを使用するユーザーが、判定部がどの画像を用いて良好胚の判定を行ったかを知ることができるとともに、判定部が判定の根拠とした情報を知ることができる。
【0011】
(6)本発明の一形態によれば、良好胚でない胚を選抜する方法が提供される。この良好胚でない胚を選抜する方法は、培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する画像格納工程と、前記画像における前記胚の割球数の経時的な変化を解析することによって前記良好胚でない胚を選抜する選抜工程と、を備える。このような態様とすれば、胚の状態が撮影された画像を用いて、胚の割球数の経時的な変化を解析することによって、良好胚でない胚を選抜できる。
【0012】
本発明は、胚選抜システム以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、本発明は、胚選抜装置の形態で実現することができる。また、本発明は、前述の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において様々な形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態における胚選抜システムの構成を示す説明図である。
【図2】判定部が教師あり学習において使用される画像の例である。
【図3】判定部が教師あり学習において使用される画像の例である。
【図4】判定部が教師あり学習において使用される画像の例である。
【図5】判定部が教師あり学習において使用される画像の例である。
【図6】制御部が実行する画像取得処理を示すフローである。
【図7】制御部が実行する良好胚判定処理を示すフローである。
【図8】ディープラーニングによる画像の学習について説明した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における胚選抜システム10の構成を示す説明図である。胚選抜システム10は、培養されている胚の中から移植に適した良好胚を選抜するシステムである。ここでいう胚とは、精子と卵子とを共培養したコンベンショナル法もしくは顕微授精法等の受精のための処理がなされた卵のことである。胚選抜システム10は、培養部110と、画像取得部130と、制御部140と、ユーザインタフェース150と、報知部160とを備える。
【0015】
培養部110は、胚を培養するいわゆるインキュベータである。培養部110内における温度、湿度、酸素濃度、二酸化炭素濃度および培養時間等の培養条件は、予めユーザインタフェース150を介してユーザーより入力された内容に基づいて、制御部140によって制御されている。培養部110は、胚を培養するための容器である培養容器200が培養部110内に固定された状態で、胚を培養する。
【0016】
培養容器200は、3行4列の12個のウェルを備えたウェルプレートである。培養容器200の各ウェルの底にはウェル番号である1から12の番号が付されている。培養容器200は、各ウェルに1つの胚を入れて培養するための容器である。
【0017】
培養部110は、容器搬送部115を有する。容器搬送部115は、水平方向に伸びた形状を有するとともに、培養部110における底面部分を構成している。容器搬送部115は、重力方向上側を向いた面上に、培養容器200を固定するための固定部(図示しない)を有する。培養部110は、培養容器200が固定部に固定された状態で、胚を培養する。
【0018】
容器搬送部115は、固定部に固定された培養容器200を、培養部110の内側に一部が突出した画像取得部130の重力方向下側の位置に、固定部を移動させることによって搬送する。容器搬送部115は、画像取得部130による画像の取得が終了すると、培養容器200を初期位置に搬送する。図1において、培養容器200が図示されている位置が初期位置である。
【0019】
容器搬送部115が培養容器200を搬送する頻度(時間間隔)は、予めユーザインタフェース150を介してユーザーより設定された内容に基づいて、制御部140によって制御されている。ここでいう時間間隔とは、経験的に求められる胚の割球数の経時的な変化を捉えることのできる時間間隔のことである。本実施形態では、容器搬送部115は、画像取得部130の重力方向下側の位置へ培養容器200を15分毎に搬送するよう制御されている。搬送の頻度は、15分毎ではない別の時間間隔に設定されてもよい。容器搬送部115は、画像取得部130の重力方向下側の位置へ培養容器200が搬送されてか ら、画像取得部130から見て培養容器200の位置を縦横の2次元的に調整することによって、画像取得部130が画像を取得できる位置に各ウェルを配置できる。容器搬送部115は、画像取得部130による画像の取得が終了すると、培養容器200を初期位置に搬送する。画像取得部130が培養容器200における各ウェルの画像を取得する工程については、後述する。
【0020】
画像取得部130は、培養部110によって培養されている胚の状態を設定された時間間隔て撮影して画像を取得する。本実施形態では、画像取得部130は、容器搬送部115が培養容器200を搬送してくる度に胚の状態を撮影することによって、培養容器200における各ウェル毎の複数の画像を時系列的に取得する。他の実施形態では、画像取得部130は、制御部140から直接指示された時間間隔で撮影して画像を取得してもよい。培養容器200が有する12個のウェルのうち画像取得部130が画像を取得するウェルの位置は、予めユーザインタフェース150を介してユーザーより指定される。以下の説明では、ユーザーより指定されたウェルの位置を「指定位置」と呼ぶ。本実施形態では、画像取得部130は、CCDカメラである。
【0021】
本実施形態では、画像取得部130は、搬送されてくる培養容器200を重力方向下側から照明した状態で、重力方向上側から撮影を行う。他の実施形態では、画像取得部130は、搬送されてくる培養容器200から見て重力方向下側に配置され、重力方向上側から照明した状態で撮影を行ってもよい。
【0022】
制御部140は、中央処理装置と主記憶装置とを備えるマイクロコンピュータによって構成されている。制御部140は、胚選抜システム10の各部を制御する。また、制御部140は、予めユーザインタフェース150を介してユーザーより入力された内容に基づいて、培養部110、容器搬送部115、画像取得部130を制御する。
【0023】
制御部140は、画像格納部142と、判定部144とを備える。
【0024】
画像格納部142は、画像取得部130によって取得された画像を格納する。換言すれば、画像格納部142は、培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する。画像格納部142は、取得された各ウェルの画像を判定部144に送る。
【0025】
判定部144は、画像格納部142より送られてきた画像に写った胚の状態を解析することによって胚が良好胚であるか判定する。本実施形態では、判定部144は、培養部110が胚の培養を開始してから72時間の間に15分の時間間隔で画像取得部130によって取得された各ウェルの画像を用いて、胚が良好胚であるか判定する。
【0026】
判定部144は、胚の割球数の経時的な変化を解析することによって、胚が良好胚であるか判定する。判定部144は、受精処理されてから開始される卵割が、2細胞期を経て進行していくか解析することによって、胚が良好胚であるか判定する。
【0027】
判定部144は、異なる時間に取得された複数の画像のうち、卵割中の胚の割球数を認識できる画像を用いて判定を行う。判定部144は、受精処理されてから開始される最初の卵割において、胚の割球数が2個の状態に直接移行したことを確認した場合、その胚は良好胚であると判定する。換言すれば、判定部144は、胚(受精処理された卵)を1細胞としたとき、最初の卵割において、2細胞の状態に直接移行した場合、その胚は良好胚であると判定する。ここでいう「2個の状態に直接移行」もしくは「2細胞の状態に直接移行」とは、胚の割球数もしくは細胞数が2個より大きい状態を経ることなく1個から2個の状態に移行することをいう。
【0028】
判定部144は、最初の卵割において、胚の割球数が2個の状態を経ることなく胚の割球数が3個以上の状態に直接移行したことを確認した場合、その胚は良好胚ではないと判定する。換言すれば、判定部144は、最初の卵割において、胚(受精処理された卵)が1細胞から2細胞の状態を経ることなく3つ以上の細胞の状態へと直接移行した場合には、その胚は良好胚ではないと判定する。また、判定部144は、最初の卵割において、胚
(受精処理された卵)が1細胞から無秩序(chaotic)な状態に移行した場合には、その胚は良好胚ではないと判定する。
【0029】
細胞が分裂する際、通常、1つの母細胞から2つの娘細胞が分裂して生じる。このとき、1つの母細胞から3つ以上の娘細胞が分裂して生じる場合には、これらの娘細胞には染色体数に異常がある蓋然性が高い。このため、判定部144は、上述したように、胚(受精処理された卵)を1細胞としたとき、最初の卵割において、2細胞の状態に移行した場合に、その胚は良好胚であると判定する。
【0030】
判定部144は、教師あり学習によって画像に写った胚の特徴について学習し、その学習に基づいて胚が良好胚であるか判定する。本実施形態では、判定部144は、画像に写った胚における割球の数の判定について学習し、その学習に基づいて胚が良好胚であるか判定する。このため、判定部144は、教師あり学習によって学習した割球の数の判定基準に基づいて、胚が良好胚であるか判定できる。
【0031】
図2、図3、図4および図5は、判定部144が教師あり学習において使用される画像の例を示した説明図である。図2は、受精処理されてから卵割が開始されていない状態の胚であるとラベルされた画像の例である。図3は、受精処理されてから最初の卵割において、割球数が2個の状態に直接移行した胚であるとラベルされた画像の例である。図4は、受精処理されてから最初の卵割において、割球数が2個の状態を経ることなく割球数が3個の状態に直接移行した胚であるとラベルされた画像の例である。図5は、受精処理されてから最初の卵割において、無秩序(chaotic)な状態に移行した胚であるとラベルされた画像の例である。
【0032】
ユーザインタフェース150は、胚選抜システム10のユーザーとの間で情報をやり取りする。本実施形態では、ユーザインタフェース150は、画像を表示するとともに、その画像上で利用者から指示の入力を受け付けるタッチパネルである。他の実施形態では、ユーザインタフェース150は、利用者から指示の入力を受け付ける押しボタンを備えてもよい。
【0033】
報知部160は、画像のうち判定に用いられた判定画像を報知する。報知部160は、ユーザインタフェース150であるタッチパネルの画面上において、ユーザーが判定部144による判定結果を閲覧している際に、判定画像を報知する。ここで判定画像として報知される画像は、卵割中の胚の割球数を認識できる画像であるとして、判定部144が判定に用いた画像である。画像の例としては、受精処理されてから最初の卵割において、割球数が2個の状態に直接移行した胚の画像が挙げられる。報知の形式のー例としては、判定画像とされた画像に対するタグ付けが挙げられる。このため、胚選抜システム10を使用するユーザーが、判定部144がどの画像を用いて良好胚を判定したか知ることができる。本実施形態では、取得された各画像について取得された時間が画像に付されていることから、ユーザーは判定画像に付された時間を確認することによって、受精処理されてからの経過時間と割球数との対応関係を知ることができる。
【0034】
また、報知部160は、判定画像において判定部144が判定の根拠とした情報を報知する。報知部160は、ユーザインタフェース150であるタッチパネルの画面上において、報知された判定画像をユーザーが閲覧している際に、判定部144が判定の根拠とした情報を報知する。本実施形態では、報知部160は、判定画像において判定部144が割球数のカウントに用いた画像内の領域部分についての位置情報を報知する。換言すれば、報知部160は、画像のうちどの部分を1個の割球としてカウントしたかの情報を報知する。
【0035】
図6は、制御部140が実行する画像取得処理を示すフローである。制御部140は、画像取得部130の重力方向下側の位置に培養容器200が搬送された際に、画像取得処理を実行する。
【0036】
画像取得処理が開始されると、制御部140は、ユーザーより指定されたウェルの数を表す変数Aを算出する(ステップS100)。指定されたウェルの数を表す変数Aを算出したのち(ステップS100)、制御部140は、指定されたウェルであって撮影を終えていないウェルのうち、最も番号が小さいウェルの画像を、画像取得部130に撮影させる(ステップS110)。番号とは、各ウェルの底に付された1から12のウェル番号のことである。このとき撮影された画像は、画像格納部142に格納される。画像格納部142には、同じ番号のウェルを異なる時間に撮影した画像が時系列的に格納される。
【0037】
ステップS110において、画像取得部130は、以下の(1)(2)の工程で、ウェルの画像を取得する。(1)制御部140は、容器搬送部115に培養容器200の位置を2次元的に調整させて、ウェルの位置を画像取得部130が撮影を行うことができる位置に移動させる。(2)制御部140は、画像取得部130が撮影を行うことができる位置にウェルを移動させてから、画像取得部130に撮影を行わせる。
【0038】
指定されたウェルであって撮影を終えていないウェルのうち、最も番号が小さいウェルの画像が撮影されたのち(ステップS110)、制御部140は、撮影を終えたウェルの番号を記憶する(ステップS120)。撮影を終えたウェルの番号を記憶したのち(ステップS120)、制御部140は、変数Aをデクリメントする。(ステップS130)。
【0039】
変数Aがデクリメントされたあと(ステップS130)、制御部140は、変数Aが0になったか判定する(ステップS140)。変数Aが0になった場合(ステップS140:YES)、制御部140は、図6の画像取得処理を終了する。
【0040】
変数Aが0でない場合(ステップS140:NO)、制御部140は、ステップS110に戻って、ステップS110〜ステップS140の処理を変数Aが0になるまで繰り返す。変数Aが0になった場合(ステップS140:YES)、制御部140は、図6の画像取得処理を終了する。
【0041】
図7は、制御部140が実行する良好胚判定処理を示すフローである。制御部140は、胚の培養が開始されてから72時間を経過したとき、良好胚判定処理を実行する。
【0042】
良好胚判定処理が開始されると、制御部140は、ユーザーより指定されたウェルの数を表す変数Aを算出する(ステップS200)。指定されたウェルの数を表す変数Aを算出したのち(ステップS200)、制御部140は、指定されたウェルであって判定を終えていないウェルのうち、最も番号が小さいウェルの画像を抽出する(ステップS210)。本実施形態では、例えば、胚の培養が開始されてから72時間を経過したときに実行される良好胚判定処理では、指定されたウェルの画像は、培養部110が胚の培養を開始してから72時間の間に、15分の時間間隔で画像取得部130によって取得されていることから、指定されたウェルごとに288枚ある。すなわち、胚の培養が開始されてから72時間を経過したときに実行される良好胚判定処理においては、ステップS21Oにおいて、制御部140は、指定されたウェルのうちの1つのウェルについて、288枚の画像を抽出する。換言すれば、制御部140は、画像格納部142に時系列的に格納された、同じ番号のウェルを異なる時間に撮影した画像を、画像格納部142から抽出する。
【0043】
指定されたウェルであって判定を終えていないウェルのうち、最も番号が小さいウェルの画像を抽出したのち(ステップS210)、制御部140は、抽出された画像の中で、
卵割中の胚の割球数を認識できる画像を選択する(ステップS220)。
【0044】
受精処理された卵割中の胚の割球数を認識できる画像を選択したのち(ステップS220)、制御部140における判定部144は、胚の割球数の経時的な変化を解析することによって、胚が受精処理されてから最初の卵割において、割球数が2個である状態に直接移行したか否かに基づいて、胚が良好胚であるか否か判定する。(ステップS230)。
【0045】
胚が良好胚であるか判定したのち(ステップS230)、制御部140は、判定を終えたウェルの番号を記憶する(ステップS240)。判定を終えたウェルを記憶したのち(ステップS240)、制御部140は、変数Aをデクリメントする。(ステップS250)。
【0046】
変数Aがデクリメントされたあと(ステップS250)、制御部140は、変数Aが0になったか判定する(ステップS260)。変数Aが0になった場合(ステップS260:YES)、制御部140は、図7の良好胚判定処理を終了する。
【0047】
変数Aが0でない場合(ステップS260:NO)、制御部140は、ステップS210に戻って、ステップS210〜ステップS260の処理を変数Aが0になるまで繰り返す。変数Aが0になった場合(ステップS260:YES)、制御部140は、図7の良好胚判定処理を終了する。
【0048】
以上説明した実施形態によれば、胚の状態が撮影された画像を用いて、胚の割球数の経時的な変化を解析することによって、胚が良好胚であるか判定部144が判定できる。このため、良好胚を選抜できるシステムについて、良好胚の選抜精度をより高めることができる。
【0049】
B.第2実施形態:
第2実施形態における胚選抜システムの構成は、第1実施形態における判定部144とは異なる学習を行う判定部を備える点を除き、第1実施形態における胚選抜システム10の構成と同様である。
【0050】
第2実施形態における判定部は、多層のニューラルネットワークであるディープニューラルネットワーク400を用いたディープラーニングによって画像に写った胚の特徴(割球の数)について学習し、その学習に基づいて胚が良好胚であるか判定する。このため、判定部がディープラーニングによって学習した基準に基づいて、胚が良好胚であるか判定できる。ディープラーニングにより抽出された胚の割球数の特徴量が、人間が認識できていない特徴量であった場合には、胚が良好胚であるか否かの判定を、人間が行うよりも高い精度で行うことができる。
【0051】
図8は、ディープラーニングによる画像の学習について説明した説明図である。ディープニューラルネットワーク400は、人間の脳神経系における学習機構をモデルにしたネットワークである。ディープニューラルネットワーク400は、入力層410と、複数の中間層420と、出力層430とを備える。第2実施形態におけるディープニューラルネットワーク400は、4つの中間層420を備える。
【0052】
入力層410は、情報を入力される層である。中間層420は、入力層410から伝達される情報に基づいて特徴量の算出を行う層である。出力層430は、中間層420から伝達される情報に基づいて結果を出力する層である。
【0053】
図8における画像300は、胚が写った画像である。画像300の中には、受精処理さ
れてから卵割が開始されていない状態の胚であるとラベルされた画像、受精処理されてから最初の卵割において割球数が2個である状態に直接移行した胚であるとラベルされた画像、胚が受精処理されてから最初の卵割において割球数が2個である状態を経ることなく割球数がN個(Nは3以上の整数)である状態に直接移行した胚であるとラベルされた画像、胚が受精処理されてから最初の卵割において無秩序(chaotic)な状態に移行した胚であるとラベルされた画像等が含まれる。
【0054】
ディープニューラルネットワーク400による学習法について、説明する。入力層410は、胚の状態についてラベルされた画像300が入力されると、その情報を中間層420に伝達する。中間層420は、入力層410から伝達された情報に基づいて、胚の割球数の特徴量の算出を行う。出力層430は、中間層から伝達される情報に基づいて算出された胚の割球数の特徴量を出力する。第2実施形態における判定部は、出力された特徴量を基準として、胚が良好胚であるか判定する。
【0055】
C.第3実施形態:
第3実施形態では、良好胚でない胚を選抜する方法について説明する。この良好胚でない胚を選抜する方法は、培養工程と、画像取得工程と、選抜工程とを備える。
【0056】
培養工程は、受精処理された胚を培養する工程である。画像取得工程は、培養工程において培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影して複数の画像を取得する工程である。選抜工程は、異なる時間に取得された画像における胚の割球数の経時的な変化を解析することによって良好胚でない胚を選抜する工程である。
【0057】
以上説明した第3実施形態によれば、胚の状態が撮影された画像を用いて、胚の割球数の経時的な変化を解析することによって、良好胚でない胚を選抜できる。
【0058】
D.他の実施形態:
第1実施形態では、胚選抜システム10は、容器搬送部115を備えていたが、本発明はこれに限られない。例えば、他の実施形態における胚選抜システムは、容器搬送部115を備えていない形態であってもよい。この場合、画像取得部130は、固定部に固定された培養容器200の重力方向上側に備えられていてもよいし、画像取得部130が培養容器200の重力方向上側に移動可能に構成されていればよい。
【0059】
第1実施形態では、画像取得部130によって取得された画像は、画像格納部142に格納されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、画像取得部130によって取得された画像は、いわゆるクラウド上に格納されていてもよい。この場合、判定部144は、クラウドより画像を取得して判定を行う。
【0060】
第1実施形態では、判定部144は、最初の卵割において、割球数が2個である状態を経ることなく割球数が3個以上の状態に直接移行したことを確認した場合、胚が良好胚ではない判定していたが、本発明はこれに限られない。例えば、判定部144は、胚が卵割を開始してから予め設定された時間を経過するまでに、ある1個の割球が2個である状態を経ることなく3個以上に分裂したことを確認した場合、その胚は良好胚ではないと判定してもよい。この場合に分裂して生じた細胞についても、染色体数に異常がある蓋然性が高いと考えられるからである。また、判定部144は、胚が卵割を開始してから予め設定 された時間を経過するまでに、胚の割球のうち少なくとも一部が融合(リバース)したことを確認した場合、その胚は良好胚ではないと判定してもよい。
【0061】
第3実施形態では、入力される画像300は、胚の状態についてラベルされた画像であったが、本発明はこれに限られない。例えば、入力される画像は、移植後に着床が確認さ
れた胚の卵割中の状態を示した画像および移植後に着床が確認されなかった胚の卵割中の状態を示した画像であってもよい。
【0062】
第1実施形態では、胚選抜システム10は、胚の培養が開始されてから72時間を経過したとき、良好胚判定処理を実行していたが、本発明はこれに限られない。例えば、胚選抜システムは、胚の培養が開始されてから72時間より短い時間もしくは長い時間を経過したとき、良好胚判定処理を実行してもよい。また、胚選抜システムは、胚の培養が開始されてから予め設定された時間間隔、例えば1時間毎に、良好胚判定処理を繰り返し実行してもよい。このとき判定に用いられる画像は、それまでの間に画像取得部130により取得された画像である。このような形態の胚選抜システムにおいて、胚が良好胚であると判定された場合、それ以降の良好胚判定処理の実行を繰り返さないようにしてもよい。
【0063】
第1実施形態では、胚選抜システム10は、培養部110および画像取得部130を備えていたが、本発明はこれに限られない。例えば、他の実施形態では、胚選抜システムは、第1実施形態の胚選抜システム10と比べて、培養部110を備えていない形態であってもよい。このような形態の胚選抜システムでは、胚選抜システムの外部の培養装置内において培養されている胚が入った培養容器を、設定された時間間隔毎に、この胚選抜システムに持ち込んで画像取得部130に画像を取得させることにより、判定部144が良好胚の判定を行うことができる。また、他の実施形態では、胚選抜システムは、第1実施形 態の胚選抜システム10と比べて、培養部110および画像取得部130を備えていない形態であってもよい。このような形態の胚選抜システムでは、培養されている胚の状態を設定された時間間隔で撮影した画像を、胚選抜システムの外部から記録媒体やインターネットを介してこの胚選抜システムに持ち込むことにより、判定部144が良好胚の判定を行うことができる。
【0064】
第1実施形態では、判定部144は、教師あり学習によって画像に写った胚の特徴について学習し、第2実施形態では、判定部は、ディープニューラルネットワーク400を用いたディープラーニングによって画像に写った胚の特徴について学習し、その学習に基づいて胚が良好胚であるか判定していたが、本発明はこれに限られない。例えば、判定部は、移植後に着床が確認された胚の卵割中の状態を示した画像を用いたパターンマッチングによって胚が良好胚であるか判定してもよい。
【0065】
第1実施形態では、培養容器200は、3行4列の12個のウェルを備えたウェルプレートであったが、本発明はこれに限られない。例えば、培養容器200は、5行5列の25個のウェルを備えたウェルプレートであってもよいし、任意の行と列で構成されたウェルプレートであってもよい。
【0066】
第1実施形態では、画像取得部130は、搬送されてくる培養容器200を重力方向下側から照明した状態で、重力方向上側から撮影を行っていたが、本発明はこれに限られない。例えば、画像取得部130は、重力方向に限らず、任意の方向から照明した状態で、任意の方向から撮影を行ってもよい。
【0067】
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
10…胚選抜システム
110…培養部
115…容器搬送部
130…画像取得部
140…制御部
142…画像格納部
144…判定部
150…ユーザインタフェース
160…報知部
200…培養容器
300…画像
400…ディープニューラルネットワーク
410…入力層
420…中間層
430…出力層
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
胚選抜システムであって、
培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する画像格納部と、
教師あり学習によって前記画像に写った前記胚の特徴について学習し、前記学習に基づいて前記胚が良好胚であるか判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、
培養開始から72時間経過したときに、前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて、前記胚の割球数の経時的な変化を解析し、
受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚であると判定し、
受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態を経ることなく前記胚の割球数が3個以上の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚ではないと判定する、
胚選抜システム。
【請求項3】
胚選抜システムであって、
培養されている胚の状態を、設定された時間間隔で撮影した画像を格納する画像格納部と、
多層のニューラルネットワークを用いたディープラーニングによって前記画像に写った前記胚の特徴について学習し、前記学習に基づいて前記胚が良好胚であるか判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、
培養開始から72時間経過したときに、前記画像格納部に格納された前記画像から少なくとも2枚の画像を抽出し、前記抽出した画像を用いて、前記胚の割球数の経時的な変化を解析し、
受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態に直接移行したことを確認した場合、前記胚を良好胚であると判定し、
受精処理されてから開始される最初の卵割において、前記胚の割球数が2個の状態を経ることなく前記胚の割球数が3個以上の状態に直接移行したこと芬確認した場合、前記胚を良好胚ではないと判定する、
胚選抜システム。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の胚選抜システムであって、さらに、
前記画像のうち判定に用いられた判定画像を報知する報知部を備える、胚選抜システム。
【請求項5】
請求項4に記載の胚選抜システムであって、
前記報知部は、前記判定画像を報知するとともに前記判定画像において前記判定部が判定の根拠とした情報を報知する、胚選抜システム。
【請求項6】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2021-10-07 
出願番号 P2017-236640
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C12M)
P 1 651・ 121- YAA (C12M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 森井 隆信
特許庁審判官 一宮 里枝
田村 聖子
登録日 2020-07-10 
登録番号 6732722
権利者 福永 憲隆
発明の名称 胚選抜システム  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  

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